【文献】
Tartaglia, G.G.,Prediction of local structural stabilities of proteins from their amino acid sequences,Structure,2007年 2月,Vol.15, No.2,p.139-143
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
折り畳まれたタンパク質中で、凝集を促進すると予測されるタンパク質のアミノ酸配列中の1つまたは複数の領域を同定する方法であって、前記タンパク質は構造化されたタンパク質または部分的に構造化されたタンパク質であり、
前記配列に沿ったアミノ酸位置(i)に対して、前記アミノ酸位置における凝集の局所性向(Ai)を決定するステップであって、前記凝集の局所性向が、前記アミノ酸位置の疎水性値、αヘリックス性向値、βシート性向値、電荷値、およびパターン値の組合せによって決定されるステップと、
前記アミノ酸位置の局所構造安定性値を決定するステップであって、前記局所構造安定性値が、折り畳まれた状態のままである前記アミノ酸位置における前記折り畳まれたタンパク質の性向の測定値を含むステップと、
前記アミノ酸位置における前記決定した凝集の局所性向と前記アミノ酸位置における前記局所構造安定性値を組み合わせて、前記構造化されたタンパク質または部分的に構造化されたタンパク質中で、凝集を促進すると予測される前記アミノ酸配列中の1つまたは複数の領域を同定するステップ
とを含む方法。
前記組み合わせるステップが、前記アミノ酸位置における前記局所構造安定性値を用いて前記アミノ酸位置における前記決定した凝集の局所性向を変更して、前記構造化されたタンパク質または部分的に構造化されたタンパク質の凝集性向プロフィールを規定する凝集の変更された局所性向を決定するステップであって、前記凝集性向プロフィールが、前記配列に沿ったアミノ酸位置で前記変更された凝集の局所性向における変動を規定するデータを含み、前記方法が、前記構造化されたタンパク質または部分的に構造化されたタンパク質タンパク質中で、前記凝集性向プロフィールから凝集を促進すると予測される前記アミノ酸配列中の前記1つまたは複数の領域を同定するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
前記アミノ酸位置における前記局所構造安定性値が、前記アミノ酸位置のどちらかの側に対する窓内の全局所電荷によって決まる電荷門番値を含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2004/066168号
【特許文献2】国際公開第2005/045442号
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Protein Science、Vol 15、2006、JA Marshら、「Sensitivity of secondary structure propensities to sequence differences between alpha-and gamma-synuclein: Implications for fibrillation」、2795-2804
【非特許文献2】in silico Biology、Vol 7、2007、S Inicula-Thomasら、「Correlation between the structural stability and aggregation propensity of proteins」、225-237
【非特許文献3】Tartaglia, G. G.、Cavalli, A.、およびVendruscolo, M.、(2007)、Structure 15、139-143
【非特許文献4】Pawar, A. P.、DuBay, K. F.、Zurdo, J.、Chiti, F.、Vendruscolo, M.、およびDobson, C. M.、(2005)、J. Mol. Biol. 350、379-392
【非特許文献5】de Groot, N. S.、Pallares, I.、Aviles, F. X.、Vendrell, J.、およびVentura, S.、(2005)、BMC Struct. Biol. 5
【非特許文献6】Fernandez-Escamilla, A. M.、Rousseau, F.、Schymkowitz, J.、およびSerrano, L.、(2004)、Nat Biotech 22、1302-1306
【非特許文献7】Chiti, F,、Taddei, N.、Baroni, F.、Capanni, C.、Stefani, M.、Ramponi, G.、およびDobson, C. M.、(2002)、Nat. Struct, Biol. 9、137-143
【非特許文献8】Ventura, S.、およびVillaverde, A.、(2006)、Trends Biotech. 24、179-185
【非特許文献9】Tatarek-Nossol, M.、Yan, L. M.、Schmauder, A.、Tenidis, K.、Westermark, G.、およびKapurniotu, A.、(2005)、Chemistry & Biology 12、797-809
【非特許文献10】Chiti, F.、Stefani, M.、Taddei, N.、Ramponi, G.、およびDobson, C. M.、(2003)、Nature、424、805-808
【非特許文献11】Dubay, K. F.、Pawar, A. P.、Chiti, F., Zurdo, J.、Dobson, C. M.、およびVendruscolo, M.、(2004)、J. Mol. Biol. 341、1317-1326
【非特許文献12】Rousseau, F.、Schymkowitz, J.、およびSerrano, L.、(2006)、Curr. Op. Struct. Biol. 16、118-126
【非特許文献13】Tartaglia, G. G.、Cavalli, A.、Pellarin, R.、およびCaflisch, A.、(2004)、Protein Sci. 13、1939-1941
【非特許文献14】Thompson, M. J.、Sievers, S. A.、Karanicolas, J.、Ivanova, M. I.、Baker, D.、およびEisenberg, D.、(2006)、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 103、4074-4078
【非特許文献15】Trovato, A.、Chiti, F.、Maritan, A.、およびSeno, F.、(2006)、PLoS Comp. Biol. 2、1608-1618
【非特許文献16】Conchillo-Sole, O.、de Groot, N. S.、Aviles, F. X.、Vendrell, J.、Daura, X.、およびVentura, S.、(2007)、BMC Bioinformatics 8
【非特許文献17】Boeckmann, B.、Bairoch, A.、Apweiler, R.、Blatter, M. C.、Estreicher, A.、Gasteiger, E., Martin, M. J.、Michoud, K.、O'Donovan, C.、Phan, I.、Pilbout, S.、およびSchneider, M.、(2003)、Nucleic Acids Res. 31、365-370
【非特許文献18】Systematic In Vivo Analysis of the Intrinsic Determinants of Amyloidβ Pathogenicity」、Leila M. Luheshi、Gian Gaetano Tartaglia、Ann-Christin Brorrsson、Amol P. Pawar、Ian E. Watson、Fabrizio Chiti、Michele Vendruscolo、David A. Lomas、Christopher M. Dobson、Damian C. Crowther、PloS Biology (www.plosbiology.org)、2007年11月、第5巻、第11号、e290
【非特許文献19】http://www.embl-heidelberg.de/Services/serrano/agadir/agadir-start.html
【非特許文献20】http://npsa-pbil.ibcp.fr/cgi-bin/npsa_automat.pl?page=npsa_gor4.html
【非特許文献21】Roseman, M.A.、Hydrophilicity of polar amino acid side-chains is markedly reduced by flanking peptide bonds.、J Mol Biol、1988、200(3): p. 513-22
【非特許文献22】http://www-almost.ch.cam.ac.uk/camp.php.
【非特許文献23】http://www.expaasy.org/uniprot/PRIO_HUMAN
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、本発明の第1の態様によれば、折り畳まれたタンパク質中で、凝集を促進すると予測されるタンパク質のアミノ酸配列中の1つまたは複数の領域を同定する方法であって、前記配列に沿ったアミノ酸位置(i)に対して、前記アミノ酸位置における凝集の局所性向(A
i)を決定するステップであって、前記凝集の局所性向が、前記アミノ酸位置の疎水性値、αヘリックス性向値、βシート性向値、電荷値、およびパターン値の組合せによって決定されるステップと、前記アミノ酸位置の局所構造安定性値を決定するステップであって、前記局所構造安定性値が、前記アミノ酸位置における局所構造安定性の測定値を含むステップと、前記アミノ酸位置における前記決定した凝集の局所性向と前記アミノ酸位置における前記局所構造安定性値を組み合わて、前記折り畳まれたタンパク質中で、凝集を促進すると予測される前記アミノ酸配列中の1つまたは複数の領域を同定するステップとを含む方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
局所構造安定性値は、タンパク質が折り畳まれた状態にあることを考慮している。一部の好適な実施形態では、この情報は、純粋にタンパク質のアミノ酸配列から予測される。好適な実施形態では、局所構造安定性値は、構造の熱変動の振幅を有効に測定する。一部の特定の好適な実施形態では、配列(P
i)の位置iにおける局所構造安定性値は、アミノ酸配列(一般に、実質的に全アミノ酸配列)の性質である。折り畳まれてその折り畳まれた状態で安定のままであるタンパク質の性向によって決定される対数P
iの値は、参照によりその開示内容が本明細書に組み入れられるTartaglia, G. G.、Cavalli, A.、およびVendruscolo, M.、(2007)、Structure 15、139-143に記載されているCamP法によって決定される。この方法の実施形態では、局所構造安定性値は、タンパク質の天然の折り畳まれた構造の知識を用いずに決定される。
【0007】
決定された凝集の局所性向と局所構造安定性値の組合せは、一部の実施形態では、局所構造安定性値で凝集の局所性向を調節することによって行われるが、潜在的に、この組合せは、例えば、2つのセットの値をデータのグラフ表示の異なる軸に表示することによって、他の方法で行うことができる。当業者であれば、凝集の局所性向の決定は、疎水性値、αヘリックスおよびβシート性向値、電荷値、およびパターン値の線形の組合せを含む必要がないことを理解できよう。一部の好適な実施形態では、局所構造安定性データによって調節される凝集の局所性向を用いて、配列に沿った位置で組合せデータの変動を表す折り畳まれたタンパク質の凝集性向プロフィールを決定する。次いで、凝集性であると予測される1つまたは複数の領域を、局所または絶対最大値、例えば、プロフィールの局所ピークまたはプロフィールが閾値レベルよりも大きい値を有するプロフィールの領域を同定することによって容易に同定することができる。
【0008】
この方法の好適な実施形態では、門番の概念も考慮し、特に、アミノ酸パターンの影響に対する局所電荷の影響を考慮する。したがって、一部のアミノ酸パターン、例えば、特に少なくとも5つのアミノ酸の長さを有する、親水性と疎水性のアミノ酸が交互するパターンは、凝集を促進するが、この影響は、パターンの隣接部または内部のいずれかの局所電荷によって抑制される。したがって、この方法の好適な実施形態は、アミノ酸パターンのどちらかの側に対する窓内の全局所電荷を決定し、この値を用いて、アミノ酸位置における決定された凝集の局所性向を変更する。
【0009】
したがって、さらなる態様では、本発明は、折り畳まれたタンパク質中で、凝集を促進すると予測されるタンパク質のアミノ酸配列中の1つまたは複数の領域を同定する方法であって、
前記配列に沿った複数の位置iに対して、
【0010】
【数1】
【0011】
の値を決定するステップであって、
【0012】
【数2】
【0013】
が、位置iにおけるアミノ酸の固有の凝集性向を表し、p
h、p
s、p
hyd、およびp
cの関数を含み、p
h、p
s、p
hyd、およびp
cが、それぞれ、前記配列に沿った前記位置iにおけるアミノ酸のαヘリックス性向値、βシート性向値、疎水性値、および電荷値であるステップと、
前記配列に沿った複数の位置iに対して、
【0014】
【数3】
【0015】
の値を決定するステップであって、
【0016】
【数4】
【0017】
が、
【0018】
【数5】
【0019】
から決定され、
【0020】
【数6】
【0021】
が、位置iのどちらかの側に対する第1の窓内のアミノ酸位置にわたる第1の合計を意味し、
【0022】
【数7】
【0023】
が、位置iにおける親水性および疎水性のアミノ酸の一方または両方のパターンを表すパターン値であり、
【0024】
【数8】
【0025】
が、前記パターンの隣接部または内部の電荷を表す電荷値であり、α
1、α
pat、およびα
gkがスケール因子であるステップと、前記配列に沿った前記複数の位置iの
【0026】
【数9】
【0027】
の値から前記タンパク質の凝集性向プロフィールを決定するステップであって、前記凝集性向プロフィールが、前記配列に沿った位置で相対凝集性向の変動を特定するデータを含むステップとを含む方法を提供する。
【0028】
上記したように、当業者であれば、p
h、p
s、p
hyd、およびp
cの様々な関数を利用することができ、技術の実施形態が、これらの値の線形の組合せに限定されないことを理解できよう。したがって、この方法の実施形態は、後述の式(1)で示す
【0029】
【数10】
【0030】
の計算の特定の形態に制限されない。
【0031】
上述したように、好ましくは、アミノ酸の局所パターンの隣接部または内部の電荷を表す電荷値は、アミノ酸位置iにおける窓に対する(アミノ酸)電荷の合計を含み、好ましくは、この(第2の)窓は、
【0032】
【数11】
【0033】
を決定するために用いられる(第1の)窓よりも大きい。一部の実施形態では、第1の窓は、β鎖の持続長、例えば、7つのアミノ酸に実質的に等しい長さを有し、一部の実施形態では、第2の窓の縁は、β鎖における電荷の「記憶」効果が、第1の窓の境界外の、例えば、4つ以上、5つ以上または7つ以上のアミノ酸で効果的に喪失する点である。
【0034】
好適な実施形態では、凝集性向プロフィールの決定は、特に、
【0035】
【数12】
【0036】
を乗じることによって、残基特異的レベルで構造保護および凝集性向を考慮する。式中、α
2およびα
3は、スケール因子であり、対数は、例えば、底を10またはe(対数は、母集団/確率の測定、および安定性を表す自由エネルギーの表現への転換を効果的に考慮する)とすることができ、一部の実施形態では、保護因子P
iは、水素交換からの保護を表し、自由エネルギーは、ファンデルワールス接触または水素結合の形成における自由エネルギーの寄与に関連する。対数P
iの項が大きければ大きいほど、天然構造はより不安定であり、一部の実施形態では、実験的に、これよりも大きい値の対数P
iは不安定な局所構造に一致することが分かったため、α
3は約15の値を有する。この方法の実施形態では、正規化された固有の凝集性向プロフィール
【0037】
【数13】
【0038】
を決定することができるが、当業者であれば、正規化が必ずしも必要ではないことを理解できよう。同様に、局所構造安定性値によって調節する前に、このような正規化された固有の凝集性向プロフィールを明確に決定する必要はない。
【0039】
上記した技術の実施形態では、全凝集性向は、好ましくは局所構造安定性値を考慮して、凝集性向データを合計し、凝集を促進すると予測される同定された領域のみを合計して決定することができる。
【0040】
したがって、さらなる態様では、本発明は、折り畳まれたタンパク質の全凝集性向を決定する方法であって、局所水素交換および局所電荷による凝集誘発アミノ酸パターンの抑制の一方または両方を考慮して、折り畳まれたタンパク質中で、凝集を促進すると予測されるタンパク質のアミノ酸配列中の1つまたは複数の領域を同定するステップと、次いで、前記配列に沿った複数のアミノ酸位置(i)における凝集の局所性向(A
i)の値から決定した凝集性向データを合計するステップとを含み、前記合計するステップが、実質的に前記同定された領域のみを合計するステップを含む方法を提供する。
【0041】
そのアミノ酸配列から予測された、決定されたタンパク質の全凝集性向は、不溶性の凝集体を形成する可能性が低い(高い)ため、特に製造に適した(または適していない)ポリペプチド配列を同定するために用いることができる。製造に適したポリペプチドを同定してから、この方法の実施形態を用いて、このように同定されたポリペプチド(タンパク質)を作製することができる。一部の好適な技術では、このような同定されたポリペプチドは、例えば、上記した方法を実施するコンピュータプログラムコードの制御下で、ロボットポリペプチド合成装置を用いて製造される。加えて、自動(ロボット)実験設備は、折り畳まれたタンパク質中で、凝集を促進すると予測されるタンパク質のアミノ酸配列中の1つまたは複数の領域を同定する上記した方法を実施するように構成されたコンピュータプログラムコードによって制御することができる。このような設備を用いて、例えば、タンパク質における薬物標的を自動的に同定し、かつ/または特に1つまたは複数の同定された標的領域でタンパク質と相互作用する薬物を自動的に同定することができる。
【0042】
したがって、別の態様では、本発明は、特に、凝集を促進すると予測されるアミノ酸配列の1つまたは複数の標的部分を同定する上記した方法を用いて、タンパク質中の薬物標的を同定する方法を提供する。このような予測をしてから、任意選択で、例えば、配列を変異させることによってこれを試験することができる。さらに、タンパク質の1つまたは複数の薬物標的を同定してから、この方法は、例えば、標的部位で結合することによって、タンパク質と相互作用すると予測された1つまたは複数の薬物の同定を続けることができる。これは、標的部位で結合することが知られている分子が存在するか否かを決定するためにデータベースを探索するのと同様に直接的でありえ、また、標的部位が同定されてから、標的部位で結合する分子を同定する合理的な方法を用いることができ、または、in-vivo/in-vitroスクリーニング法を用いることもできる。同様に、このような方法は、例えば、上記した方法を実施するコンピュータプログラムコードの制御下で、自動(ロボット)実験設備によって行うことができる。
【0043】
したがって、本発明は、上記した方法またはシステムを実施するために、コンピュータまたはコンピュータ制御された装置を制御するコンピュータプログラムコードをさらに提供する。このコンピュータプログラムコードは、ディスク、例えば、CD-ROMやDVD-ROMなどの担体、または、例えば、ファームウエアとしてプログラムされたメモリに記憶させることができる。本発明の実施形態を実施するコード(および/またはデータ)は、Cなどの従来のプログラミング言語(インタープリタ型またはコンパイラ型)におけるソース、オブジェクト、もしくは実行可能なコード、またはアセンブリコード、ASIC(特定用途向けIC)もしくはFPGA(書替え可能ゲートアレイ)を設定または制御するコード、またはVerilog(商標)もしくはVHDL(超高速集積回路ハードウエア記述言語)などのハードウエア記述言語用のコードを含むことができる。当業者であれば、このようなコードおよび/またはデータは、互いに通信する複数の接続された構成要素間で分散させることができることを理解できよう。
【0044】
当業者であれば、本発明の上記した態様および実施形態の特徴をあらゆる順序で組み合わせることができることを理解できよう。
【0045】
本発明のこれらの態様および他の態様を、添付の図面を参照しながら、ほんの一例としてさらに説明する。
【発明を実施するための形態】
【0047】
凝集およびアミロイド形成の促進に最も重要なペプチドおよびタンパク質の配列の領域を予測する方法を説明する。この方法では、関与する分子が相当な程度の持続的な構造を含むことができる条件で、このような予測を行うことができる。この結果を得るために、この方法の実施形態は、折り畳みおよび凝集の両方の性向、ならびにこの2種類の性向の競合の仕方を同時に推測するためにアミノ酸配列の知識のみを使用する。疾患に関連したおよび疾患に関連していないペプチドおよびタンパク質のセットにこの方法を適用する方法を例示する。この結果は、固有の凝集性向が高いタンパク質の領域を確実に同定できるだけではなく、単量体(可溶性)形態のこのような領域の構造的な文脈が、凝集プロセスにおけるこれらの役割の決定に非常に重要であることを示している。
【0048】
「凝集性」領域(Pawar, A. P.、DuBay, K. F.、Zurdo, J.、Chiti, F.、Vendruscolo, M.、およびDobson, C. M.、(2005)、J. Mol. Biol. 350、379-392)としても知られているポリペプチド鎖のアミノ酸配列の特定の領域は、凝集して最終的にアミロイド原線維などの組織化構造を形成するこれらの傾向の決定に重要な役割を果たす(Pawar, A, P.、DuBay, K. F.、Zurdo, J.、Chiti, F.、Vendruscolo, M.、およびDobson, C, M.、(2005)、J. Mol. Biol. 350、379-392;de Groot, N. S.、Pallares, I.、Aviles, F. X.、Vendrell, J.、およびVentura, S.、(2005)、BMC Struct. Biol. 5;Fernandez-Escamilla, A. M.、Rousseau, F.、Schymkowitz, J.、およびSerrano, L.、(2004)、Nat Biotech 22、1302-1306)。この考えは、特定のペプチドおよびタンパク質の凝集性向に対する突然変異の影響の分析(Chiti, F,、Taddei, N.、Baroni, F.、Capanni, C.、Stefani, M.、Ramponi, G.、およびDobson, C. M.、(2002)、Nat. Struct, Biol. 9、137-143)および原線維の非常に規則的なコアを構成するポリペプチド鎖のこの特定部分を例示する高解像度構造モデルの決定によって強く裏付けられている。凝集性領域の存在は、合理的な突然変異形成がバイオテクノロジーにおける凝集の問題を軽減できることを示唆している(Ventura, S.、およびVillaverde, A.、(2006)、Trends Biotech. 24、179-185)。加えて、規則的な分子間集合体の形成を促進するこれらの性向を軽減するために、特にこれらの領域を標的とする治療法を提案している(Tatarek-Nossol, M.、Yan, L. M.、Schmauder, A.、Tenidis, K.、Westermark, G.、およびKapurniotu, A.、(2005)、Chemistry & Biology 12、797-809)。
【0049】
折り畳まれていないポリペプチド鎖の凝集を促進する主要な物理化学的因子が、近年特徴付けられており(Chiti, F.、Stefani, M.、Taddei, N.、Ramponi, G.、およびDobson, C. M.、(2003)、Nature、424、805-808;Dubay, K. F.、Pawar, A. P.、Chiti, F., Zurdo, J.、Dobson, C. M.、およびVendruscolo, M.、(2004)、J. Mol. Biol. 341、1317-1326)、これに基づいて、固有の凝集性向が高い領域の同定を可能にする「凝集性向プロフィール」を予測するためのいくつかのアルゴリズムが提案された(Rousseau, F.、Schymkowitz, J.、およびSerrano, L.、(2006)、Curr. Op. Struct. Biol. 16、118-126;Tartaglia, G. G.、Cavalli, A.、Pellarin, R.、およびCaflisch, A.、(2004)、Protein Sci. 13、1939-1941;Thompson, M. J.、Sievers, S. A.、Karanicolas, J.、Ivanova, M. I.、Baker, D.、およびEisenberg, D.、(2006)、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 103、4074-4078;Trovato, A.、Chiti, F.、Maritan, A.、およびSeno, F.、(2006)、PLoS Comp. Biol. 2、1608-1618;Conchillo-Sole, O.、de Groot, N. S.、Aviles, F. X.、Vendrell, J.、Daura, X.、およびVentura, S.、(2007)、BMC Bioinformatics 8)。アルツハイマー病およびα-シヌクレインに関連したAβペプチド、凝集がパーキンソン病に関連した天然の状態で折り畳まれていないタンパク質を含め、生理学的な条件下で構造化されていないポリペプチド鎖の凝集性領域を予測するためのこの方法の強みを既に示した。
【0050】
構造化された球状タンパク質および部分的に構造化された球状タンパク質の凝集を促進する領域を予測するためのこの方法を拡大する。このような計画では、固有の凝集性向が高い領域を、高度に協働的な場合が多い安定した構造要素内に埋め込んだ状態にして、凝集につながる特定の細胞間相互作用を形成することができないようにする可能性を考える。このように隠蔽されると、このような領域は、凝集プロセスで主要な役割を果たすことができないが、天然の構造を不安定にする突然変異の後、このような領域はこの能力を獲得することがある。折り畳まれた高次構造をとるタンパク質配列の所定の領域の傾向を考慮できるようにするために、タンパク質の配列の知識からそのタンパク質の様々な領域の局所安定性を予測するという可能性を探る(Tartaglia, G. G.、Cavalli, A.、およびVendruscolo, M.、(2007)、Structure 15、139-143)。要するに、タンパク質のアミノ酸配列が分かれば、規則的な凝集の形成および安定構造への折り畳みの性向プロフィールの予測を組み合わせることがなぜ可能であるかをここに示す。特に詳細に凝集性向が実験的に特徴付けられた一連のペプチドおよびタンパク質の凝集プロフィールの予測にこの方法を適用することによってこの方法を例示する。本発明者らが開発したアルゴリズムは、アミロイド形成の動態論に対する突然変異データに基づいているため、本発明者らが提示する結果により、凝集プロセスを促進する性向が高い領域を、アミロイド高次構造の構造的なコアを安定させるのに重要な役割を果たす領域とどのように区別できるかについて議論することができる。
【0051】
方法
ポリペプチド配列の凝集についての固有の性向プロフィール
本明細書で説明する方法では、個々のアミノ酸の固有の凝集性向を(1)と定義する。
【0053】
式中、p
hおよびp
sは、それぞれαへリックスおよびβシート形成の性向であり、p
hydは、疎水性であり、p
cは電荷である。これらの性向を、以下に説明するように決定した係数αで線形に組み合わせる。当業者であれば、線形モデル以外も利用できることを理解できよう。p
iagg値を組み合わせて、完全なアミノ酸配列の機能としての凝集の固有の性向(1)を説明するプロフィールA
pを得る。実施形態では、p
iaggを、係数αを用いて、例えば±1の範囲に調整することができる。配列に沿った各位置iで、7つの残基の窓に対する平均としてプロフィールApを定義する。
【0055】
式中、I
patは、疎水性残基と親水性残基が交互する特定のパターン(1)の存在を考慮する項であり、I
gkは、個々の電荷のc
iの門番効果を考慮する項である。
【0057】
パラメータαは、DuBayら(16. Dubay, K. F.、Pawar, A. P.、Chiti, F.、Zurdo, J.、Dobson, C. M.、およびVendruscolo, M.、(2004)、J. Mol. Biol. 341、1317-1326)が記載した一般的な方法に従ってフィットさせることができる。固有の性向プロフィールを比較するために、ランダム配列の各位置kにおける
【0059】
の平均(μ
A)および標準偏差(σ
A)を考慮することによってA
pを正規化する。したがって、正規化固有凝集性向プロフィールを得る。
【0062】
が、平均0および標準偏差1を有することが目的であり、ランダム配列に対して平均μおよび標準偏差σを計算した。
【0064】
これらの式では、長さNのN
sランダム配列を考慮し、50〜1000のNの値に対してμおよびσが実質的に一定であることを確認した。μおよびσの値は、長さNによって決まり;例えば、N=100、μ=6.9、およびσ=7.3である。SWISS-PROTデータベースのアミノ酸頻度を用いてランダム配列を作製した(Boeckmann, B.、Bairoch, A.、Apweiler, R.、Blatter, M. C.、Estreicher, A.、Gasteiger, E., Martin, M. J.、Michoud, K.、O'Donovan, C.、Phan, I.、Pilbout, S.、およびSchneider, M.、(2003)、Nucleic Acids Res. 31、365-370)。
【0065】
配列からの折り畳み性向の予測
タンパク質の柔軟性および溶媒露出度が高精度で予測されるCamP法を用いた。この方法では、精度が80%を超えるアミノ酸配列の埋め込まれた領域および精度が平均60%の水素交換の保護因子の情報から予測が可能である(Tartaglia, G. G.、Cavalli, A.、およびVendruscolo, M.、(2007)、Structure 15、139-143)。
【0066】
部分的に構造化されたポリペプチド鎖の凝集性向プロフィールの予測
凝集を促進するためには、ポリペプチド配列のある領域が、2つの条件:高い固有の凝集性向(Z
p>0)を有するべきであること、細胞間相互作用を形成する著しい性向を有するために十分に不安定であるべきであることを満たすべきである。後者を説明するために、水素交換に対する保護因子、lnPのためにCamP法を用いる。Z
p>0を有するこれらの値に対して、lnPで調節することによって凝集性向プロフィールZ
pを変更した。
【0068】
構造化ポリペプチド配列の凝集の絶対性向
局所安定性が低い残基のみが、以下の式で表される全凝集性向、
【0072】
式中、関数θ(x)は、x>0が1、x<0が0である。構造的相関性のない絶対凝集性向を算出するために同様の式を用いる(「Systematic In Vivo Analysis of the Intrinsic Determinants of Amyloidβ Pathogenicity」、Leila M. Luheshi、Gian Gaetano Tartaglia、Ann-Christin Brorrsson、Amol P. Pawar、Ian E. Watson、Fabrizio Chiti、Michele Vendruscolo、David A. Lomas、Christopher M. Dobson、Damian C. Crowther、PloS Biology (
www.plosbiology.org)、2007年11月、第5巻、第11号、e290)。
【0074】
上記の方法を実施するコンピュータシステムの例
ここで
図1aを参照すると、この図は、上記の方法を実施するためのコンピュータシステムのブロック図を示している。汎用コンピュータシステム100は、この方法を実施するためにコンピュータプログラムコードを記憶するプログラムメモリ100b、ワーキングメモリ100d、従来のコンピュータスクリーン、キーボード、マウス、およびプリンタなどのインターフェイス100c、ネットワークインターフェイスなどの他のインターフェイス、ならびにデータベースインターフェイスなどのソフトウエアインターフェイスに接続されたプロセッサ100aを備えている。
【0075】
コンピュータシステム100は、キーボード、入力データファイル、またはネットワークインターフェイスなどのデータ入力装置104からのユーザーの入力を受け取り、プリンタ、ディスプレイ、ネットワークインターフェイス、またはデータ記憶装置などの出力装置108に出力する。入力装置104、例えば、ネットワークインターフェイスは、タンパク質のアミノ酸配列、ならびにポリペプチドの環境に適した任意選択のpH値および温度値を含む入力を受け取る。出力装置108は、1つまたは複数の
【0077】
およびZ
aggを含む出力を行う。例えば、凝集性向プロフィールまたは凝集性向グラフを示すことができる(例えば、後の図で示す)。
【0078】
コンピュータシステム100は、疎水性データ、βシート性向データ(性向データ自体として、または自由エネルギーに関して)、任意選択のαへリックス性向データ(以下を参照)、および電荷データを記憶するデータ記憶装置102に接続されている。このデータは、各アミノ酸(残基)について記憶されており;任意選択で、これらの各データタイプの複数のセットを、様々な値のpHおよび/または温度にしたがって記憶されている。コンピュータシステムは、例示する例では、αへリックス性向決定システム106および局所構造;安定性決定システム107とインターフェイスすることが示されている。これらの一方または両方は、例えば、ネットワークを介してコンピュータシステム100に接続された別個の装置として実施するか、またはコンピュータシステム100上で動作する別個または一体化されたプログラムを有することができる。どちらの方法を採用する場合も、これらのシステムは、配列データを受け取り、これに対してαへリックス性向データおよび局所構造安定性データ(ln P
i)を供給する。
【0079】
例示するように、コンピュータシステム100は、データ出力110、例えば、Z
aggSまたはZ
aggを自動ペプチド合成装置112に供給することもできる。このように、コンピュータシステム100は、多数のポリペプチドの特性を自動的に比較し、自動合成に好ましい特性を有すると予測される1つまたは複数のポリペプチドを選択するようにプログラムすることができる。適当な自動ペプチド合成装置の例として、ABI 433Aペプチド合成装置(Applied Biosystems)が挙げられる。
【0080】
αへリックス性向
αへリックス性向は、各アミノ酸の性向値の表にある各アミノ酸配列の性向値を単に調べることによって決定することができる。別法では、αへリックス性向計算プログラム、例えば、
http://www.embl-heidelberg.de/Services/serrano/agadir/agadir-start.htmlから入手可能なAGADIRコード、または
http://npsa-pbil.ibcp.fr/cgi-bin/npsa_automat.pl?page=npsa_gor4.htmlから入手可能なGOR4コードを用いることができる。任意選択で、pHおよび温度を考慮することもできる。
【0081】
βシート性向、疎水性、および電荷
以下の表は、20の天然アミノ酸の疎水性、βシート性向、および電荷のスケールを示す。
【0083】
プロリンでは、βシート性向値が利用できないため、上記の式(1)で値を求めずに、任意の値(例えば、1、βシート性向が自由エネルギーに関して表されている場合)、または別のアミノ酸に一致する値を用いることができる。
【0084】
パターン値
各アミノ酸配列のパターン値は、例えば、極性/非極性交互部位が5以上に達するまでカウントし、次いで、例えば、+1のパターン値(I
pat)を交互配列の各アミノ酸に割り当てることによって決定することができる(これらの値は、例えば、長さ5の交互配列の各アミノ酸が+0.2の値を有するように正規化することができる)。交互する親水性(「P」)/疎水性(「NP」)パターンは、凝集性向を亢進させる。5以上の残基の使用は、βシート促進(
o△
o△
o)パターンとαへリックス促進(・△・△△)パターンとを区別できる最少数の交互残基と思われるため好ましい。より長い交互配列は、より大きな値、例えば、長さ9の一連の交互アミノ酸に対して+2とすることができる。任意選択で、I
patは、凝集抑制パターン(例えば、一連の親水性アミノ酸、またはプロリンなどの一部の特定の一連のアミノ酸)に対して負の値、例えば、-1とするか、または負の値によって調整することができる。
【0085】
疎水性値が≦-0.5(Roseman単位)(Roseman, M.A.、Hydrophilicity of polar amino acid side-chains is markedly reduced by flanking peptide bonds.、J Mol Biol、1988、200(3): p. 513-22)の残基は、疎水性と見なすことができ、値が≧0.5の残基は、親水性と見なすことができる。別法では、次の分類を用いることができる:疎水性:ala、val、phe、ile、leu、met、tyr、trp;親水性:asp、glu、lys、arg、his、ser、thr、cys、gln、asn;グリシンは疎水性または中性と見なすことができる。
【0086】
局所構造安定性(保護因子)
残基iの保護因子は、非構造化ペプチドで観察される固有の率
【0088】
の観察されたアミド水素交換率k
iに対する比、
【0090】
と定義することができる。局所構造安定性データ(ln P
i)は、lnPプロフィールのフーリエ変換の係数を、構造データを平衡水素交換測定値にフィットさせるように訓練した訓練後のニューラルネットワークから決定することによって決定することができる。
【0094】
は、埋没からの水素交換の保護を表し、
【0096】
は、残基iのアミド水素の水素結合の数であり、パラメータb
cおよびb
hは、それぞれファンデルワールス接触および水素結合の形成における自由エネルギーの寄与である。この詳細は、
CamP;http://www-almost.ch.cam.ac.uk/camp.php.で見ることができる。
【0097】
結果
実験的に、凝集性領域を、アミロイド原線維のコアのアミロイド原線維高解像度構造解析の安定性または凝集プロセスの動態論の突然変異解析、蛍光技術、ならびに野生型タンパク質から抽出したペプチド断片の凝集の研究を含め、様々な異なる技術によって同定した。これらの調査は、凝集プロセスの動力学およびアミロイド状態の熱力学の様々な態様について報告している。本発明者らが行った予測は、凝集の動態論に対する突然変異の影響の解析に基づいているため、凝集プロセスを促進するのに最も重要である領域の予測の質の評価と、このような態様とアミロイド原線維の形成および安定性に影響を与えうる他の因子との間の関係の研究の両方に関心がある。
【0098】
ペプチドの凝集性向の予測
まず、アミロイド疾患、Aβ1-42、カルシトニン、グルカゴン、およびCA150の第2のWWドメインに関与する50残基未満の4つのペプチドの凝集性向プロフィールの予測を示す(
図1b)。上記した方法で算出する固有の凝集性向プロフィール、Z
Pに加えて、安定な折り畳まれた構造(上記を参照)を形成するポリペプチド鎖の異なる領域の性向を考慮する第2のタイプのプロフィール、Z
PSを示す。
【0099】
Aβ
1-42。中心(残基17〜22)およびC末端(残基32〜42)領域で、凝集性向の高い(Z
PS=1閾値(上側の線)の2つの位置を同定した。これら両方の領域は、これらのアミロイド型におけるAβ
1-40(26)およびAβ1-42ペプチドの構造の現行モデルで重要な構造的役割を果たしている。溶液中で永続的に高次構造をとるAβ
1-42の単量体型の傾向を考慮する凝集性向プロフィールZ
PSは、残基33〜38の領域が、固有の凝集性向プロフィールZ
Pから予測されるよりも著しく低い凝集性向を有することを明らかにしている。この結果は、NM残基34〜37が単量体型の2つの短いβ鎖間のβターンを形成する近年の研究で示された結論に十分に一致している。
【0100】
カルシトニン。ヒトカルシトニンは、甲状腺の髄様癌の患者のアミロイド原線維として存在することが示されている、骨力学およびカルシウム調節に関与する32残基のポリペプチドホルモンである。加えて、原線維は、治療上の使用のために設計されたin vitroで調製された試料でも形成することができ、患者への投与に対して相当な制限がある。凝集プロフィールZ
PSの計算により、本発明者らは、12残基のN末端領域ならびに残基18〜19および残基27〜28に対して高い凝集の可能性を予測する。実験的に、K18およびF19は、生物活性および自己集合の両方において重要な残基として同定され、領域15〜19(DFNKF)は、in vitroでのオリゴマー化および原線維形成において積極的な役割を担うことが示された。本発明者らは、利用できる実験的な証拠に一致する、永続的な構造を形成するこの短いペプチドの単量体型の固有の傾向を予測しなかった。したがって、固有の凝集性向プロフィールZ
Pは、Z
PSプロフィールに近い。
【0101】
グルカゴン。グルカゴンは、炭水化物の代謝に寄与し、血中のグルコースの濃度の調節を助けるため、低血糖症の治療に用いられている29残基のホルモンである。グルカゴンは、酸性条件下で容易にアミロイド原線維を形成することが示されており、そのN末端およびC末端領域は、原線維形成に重要であると思われ、中心領域(残基13〜18および22)は、原線維自体の形態を決定するのに重要な役割を果たしている。Aβ
1-42およびカルシトニンの場合と同様に、グルカゴンは、その単量体型で高度に構造化されているのではなく、これらの結果に一致して、固有の凝集性向プロフィールZ
PがZ
PSプロフィールに近い。実験結果に従って、N末端領域(特に、残基T7およびS8)およびC末端領域(特に、残基Q24およびW25)が凝集性が高いと予測する。
【0102】
CA150.WW2。ヒトCA150の第2のWWドメイン、ハンチントン病のhuntingtinと同時に寄託されたタンパク質は、生理学的な条件下でin vitroでアミロイド原線維を形成することが示されている40残基のタンパク質である。アミロイドプロトフィラメントにおけるこのWWドメインの構造は、最近、固体状態NMR分光法によって特徴付けられ、残基2〜14および16〜29が原線維のコアを構成していることが示された。これらの実験結果は、Z
PS=1閾値よりも高い領域が残基5〜6および18〜22の領域として同定されたように、ここで計算した結果に一致している。
【0103】
球状タンパク質の凝集プロフィールの予測
本明細書に示す方法は、特に、球状の状態から始まる規則的な凝集を促進するタンパク質のアミノ酸配列の領域の予測を含むように設計されている。このような場合、通常は、凝集プロセスが起こるようにするために、構造を不安定にしてポリペプチド主鎖および疎水性側鎖の到達性を促進する必要がある。このセクションでは、このような条件下で凝集することが示された2つのタンパク質について論じる。
【0104】
リゾチーム。配列から予測した(図の下側の線)天然の状態の構造保護を考慮して計算した凝集性向プロフィールZ
PSは、Z
PS=1閾値よりも上の領域を一切示していない。この結果は、凝集するためにはリゾチームがin vitroで不安定にならなければならず、かつアミロイド疾患が一般的な突然変異の不安定化の結果としてのみ見られるという観察に一致している。野生型ヒトリゾチームに対する固有の凝集性向プロフィールZ
Pを算出することにより、Z
P=1閾値よりも上の5つの凝集性向領域(残基42〜49、71〜76、79〜85、92〜98、および109〜111)を同定した。これらの予測は、残基32〜108を含む配列の領域が、アミロイド状態に変換されるとタンパク質分解に対して非常に耐性が高いという最近の実験的観察の観点から特に興味深い。
【0105】
折り畳まれたままである傾向と凝集する傾向との間の関係を明確にするために、残基特異的レベルで構造保護と凝集性向を比較した。凝集性向をZ
Pスコアによって測定し、logPスコアによる構造保護により、特定の残基を含む領域の局所安定性を予測する(
図3a)。このタイプのプロットでは、凝集プロセスの初めの段階で重要な役割を果たす可能性が最も高い、凝集性向が高く折り畳まれた状態での構造安定性が低い領域は、プロットの右下の角に存在する。残基Leu25(へリックス)およびHis78(ターン)が、最も高い凝集性向および最も低い構造保護を有すると予測する。興味深いことに、それぞれアミロイドVIII型の患者でThr56およびHis67に変異する残基Ile56およびAsp67(鎖)は、高い凝集性向と低い構造安定性を示す。
【0106】
ミオグロビン。天然の状態での構造保護を考慮して算出した凝集性向プロフィールZ
PSは、凝集するためにはミオグロビンが実質的に不安定にされるべきであるという事実に一致して、Z
PS=1閾値よりも上の領域を一切示していない。このような状況は、天然タンパク質にありがちである。リゾチームと同様に、固有の凝集性向が高い4つの領域、すなわち
図2の上側の線のZ
P=1閾値よりも上の4つの領域(残基9〜12、31〜33、65〜70、および108〜114)を同定し、その1つの領域は、凝集する傾向が高いとしてin vitroで見出されたペプチド断片(残基100〜114)と部分的に重複している。
【0107】
図3bでは、個々の残基レベルで凝集性向(Z
Pスコア)および構造保護(logPスコア)を比較している。残基Asp5、Gly6(へリックス4〜19)、A1a23(へリックス21〜35)、G1y125、A1a126、およびAsp127(へリックス125〜149)は、特に高い凝集性および低い構造保護を有すると予測する。
【0108】
プリオンタンパク質の凝集性領域の予測
ヒトプリオンタンパク質。様々なヒトおよび動物神経変性疾患、伝達性海綿状脳症(TSE)は、哺乳動物プリオンタンパク質の誤った折り畳みおよび凝集に関連している。ヒトプリオンタンパク質(hPrP)は、散発性、遺伝性、または感染型のクロイツフェルトヤコブ病(CJD)、ゲルストマン・ストロイスラー・シャインカー病(GSS)、および致死性家族性不眠症(FFI)に関与している。これらのヒト疾患に関連した病因における重要な事象は、正常なαヘリックスの多いプロテアーゼ感受性細胞イソ型のプリオンタンパク質(hPrP
C)の、プロテアーゼ耐性、不溶性、および潜在毒性などの異なる物理化学的な特性を有する高βシート凝集型(hPrP
Sc)への変換である。さらに、hPrP
Sc自体は、hPrP
Cの変更された病原性凝集状態への変換を促進することによってTSEの伝達を仲介すると思われる。
【0109】
hPrP
CのhPrP
Scへの変換の機序は、詳細には分かっていないが、hPrP
C配列の特定の領域が、hPrP
Scとの相互作用の調節およびアミロイド形成プロセスの促進に特に重要であると思われる。
図3aでは、hPrP
(23〜231)の配列の固有の凝集性向プロフィールZ
Pを示している。構造化される様々な残基の固有の性向の影響、したがって凝集からの保護を考慮した(上記を参照)。後者の場合、固有の配列に基づいた性向および特定の構造因子の両方を考慮し、残基118〜128(
図4aの暗い四角い囲み)に跨る領域は、全配列の最も高いピークに一致し、Z
PS>1を1つだけ有しており、この領域がポリペプチド鎖の最もアミロイド形成性の高いセグメントである可能性が高いことを示唆している。凝集の固有の性向が構造の存在によって変更される程度を説明する語を含めることは、構造化されていないポリペプチド(本発明者らの以前の特許出願、前出、参照により本明細書に組み入れられる)に対して既に説明した予測方法の範囲の極めて重要な拡大である。固有の物理化学的な因子のみを考慮して予測した凝集プロフィール(
図4a)は、αヘリックスIIに一致する領域180〜186を最も顕著なアミロイド形成性領域として同定している。しかし、この領域は、hPrPC型で高度に構造化されており、実験データからは凝集が残基113〜127の領域ほど重要であるとは思われない。残基1〜125に対するZ
PおよびZ
PSプロフィールの類似性は、この領域が構造化されていないという実験的観察に一致している。加えて、ジスルフィド結合C179〜C214の存在は、この凝集性の高い領域の安定化に重要な役割を果たすと思われ、細胞間相互作用の形成を抑制する。また、オクタペプチド配列PHGGGWGQの4つのタンデムリピートを含む銅結合領域がこのタンパク質のオリゴマー化プロセスにおいて重要な役割を果たしうるという観察に一致した、この領域の近傍における凝集の著しい性向も算出した。
【0110】
予測した凝集性向プロフィールZ
PおよびZ
PSは、hPrP断片のin vitroでの凝集挙動に対する実験データに十分に相関している。組み換えhPrPのペプチドhPrP
106〜114、hPrP
106〜126、hPrP
113〜126、およびhPrP
127〜147のすべてが、アミロイド原線維を形成する高い性向を有する。hPrP
106〜126は、直線状で分岐鎖のない原線維に重合する特に高い固有の能力を有し、初代ラット海馬培養物(25)にアポトーシスを誘発する。hPrP
113〜126もまた、容易に凝集することができるが、これらの調製物の原線維は、同等の初期ペプチド濃度で比較的少なく、hPrP
106〜126に対して長さおよび直径の両方が減少している。hPrP
106〜114およびhPrP
127〜147は、hPrP
106〜126によって形成される原線維に形態学的に類似した原線維に変換され、hPrP
106〜126は、ねじれた原線維構造を形成するが、hPrP
106〜114およびhPrP
127〜147は、hPrP
106〜126よりも凝集する傾向が低い。最近の報告は、アミロイド様原線維を容易に形成することができ、星状細胞に対して細胞毒となりうる2つの他のペプチド断片hPrP
119〜126およびhPrP
121〜127を同定した。これらの断片は、配列の領域118〜128を少なくとも部分的に含む(
図4a)。
【0111】
ヒトプリオンタンパク質に対する本明細書に記載する計算は、構造因子が、凝集性の部分的に折り畳まれた状態によって自己集合するタンパク質の凝集率の決定に重要であるという考えを裏付けている。D178NおよびV180Iを除き、CJD(http://www.expasy.org/uniprot/PRIO_HUMAN)で起こるすべての突然変異は、野生型(Table 1(表2))よりも高い凝集性向
【0115】
突然変異D178NおよびV180Iがヘリックス172〜189の保護を強め、結果としてタンパク質の全凝集性向が低下すると予測する。個々の残基レベルでの凝集性向(Z
Pスコア)および構造安定性(logPスコア)の比較を
図5に示す。残基120〜123の領域が、最も高い凝集性向および最も低い構造保護を有し、反復84〜91の領域がこれに続くことが分かる。また、上のTable 1(表2)に示すCJD突然変異に関連した位置を標識する。
【0116】
HET-s。酵母菌ポドスポラ・アンセリン(Podospora anserine)のHET-sは、異核共存体不適合に関与し、かつ疾患に関連していないプリオンタンパク質である。HET-sは、構造が、部位特異的な蛍光標識および水素交換プロトコルとともに、固体状態のNMRによって特徴付けられたアミロイド原線維を形成することを示した。HET-sのC末端断片(残基218〜289)から得られる原線維の構造モデルでは、各分子は、4つのβ鎖に寄与し、鎖1および3(残基226〜234および262〜270)は平行βシートを形成し、鎖2および4(残基237〜245および273〜282)は、約10Å離れている別の平行βシートを形成している。これらのβ鎖は、それぞれ、β1とβ2との間およびβ3とβ4との間の2つの短いループならびにβ2とβ3との間の非構造化15残基セグメントによって連結されている。
【0117】
固有の凝集性向プロフィールZ
P(
図4b)の計算は、残基5〜22および245〜289の領域における高い凝集性向を明らかにしている。HET-sの単量体型は、残基1〜227の領域で構造化され、残基228〜289(9)の領域でむしろ構造化されていないようである。これらの結果に一致して、CamP法(前出)によって予測されたこの領域の非常に高い構造保護から部分的に生じるC末端領域の格段に低い凝集性向をZ
PSプロフィール(
図4b)によって決定した。したがって、残基228〜289を含むこの領域は、主要な凝集性領域と予測される。この断片は、断片1〜227とは対照的に、in vitroで原線維を形成する能力を保持し、完全長HET-sの凝集を効率的に触媒し、かつin vivoでプリオン伝播を誘発することができる。加えて、限られたタンパク質分解実験は、残基218〜289の領域が原線維コアであることを示唆している。交差β構造のコアを形成するβ鎖として実験により同定された4つのβ鎖(残基226〜234、237〜244、262〜271、および273〜282)のうちの3つは、HET-sの凝集性向プロフィールZ
PS(
図4b)における主要な3つのピーク(残基242〜245、260〜267、および278〜289)に一致する。したがって、β鎖1は、アミロイド原線維の構造の安定化において重要な熱力学的役割を果たし、凝集プロセスに直接関与している可能性が低いと考えられる。
【0118】
タンパク質の凝集の促進に最も重要である、構造化されたタンパク質および部分的に構造化されたタンパク質の両方の配列の領域を予測する方法を本明細書で説明した。本発明者らの分析は、たとえ球状の状態でも凝集を促進する領域を、アミノ酸配列の情報に基づいて同定できることを明らかにしている。本発明者らが示した方法は、一般的であり、タンパク質の配列が、折り畳まれた状態および誤って折り畳まれている状態の両方においてその挙動を決定するという考えに基づいている。球状タンパク質ならびに折り畳まれたドメインおよび折り畳まれていないドメインの両方を含む系に対して、天然で折り畳まれていないポリペプチド鎖の凝集促進領域を予測する本明細書で説明した方法などの方法によってもたらされる実現性は、バイオテクノロジーにおける凝集の回避および凝集疾患の治療に対する合理的な方法の開発において、このような合理的な方法が凝集を決定する主要な因子およびこれらの因子が多い領域を同定するため極めて有用であろう。
【0119】
当業者であれば、多くの他の有効な別法に間違いなく想到するであろう。本発明は、説明した実施形態に限定されるものではなく、添付の特許請求の範囲の趣旨および範囲内にある、当分野の技術者に明らかな変更形態を含むことを理解されたい。