(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照し、本発明の実施形態について説明する。
図1は従来から実施されている一般的な2:1ローピングエレベータの構造を示す図である。
図1に示すように、例えばビルに形成された昇降路1の上部には機械室2が設けられ、この機械室2には巻上機3が設置されている。この巻上機3は電動機(
図3参照)、及び電動機によって駆動されるシーブ3bを有している。シーブ3bには主ロープ4が巻き付けられ、この主ロープ4のシーブ3bを挟んだ一端側には、乗かご5が吊り下げられている。乗りかご5はシンブルロッド6及びばね7を有するロープ端部固定部30によって端部が昇降路1の上部に固定されている。
【0013】
一方、昇降路1の上部には、そらせシーブ12が機械室2のビームに設けられている。本実施形態では、主ロープ4の一端側が昇降路1内で乗かご5を吊り下げた後、巻上機3のシーブ3bに巻き掛けられ、その後、そらせシーブ12に巻き掛ける。そして、再び巻上機3のシーブ3bに巻き掛け、再びそらせシーブ12に巻き掛ける。そらせシーブ12に巻き付けられた主ロープ4は、昇降路1内に垂下され、垂下された主ロープ4につり合重り13が吊り下げられる。主ロープ4の他端部は、再び昇降路1の上部に向かい、シンブルロッド6及びばね7を有するロープ端部固定部30によって端部が昇降路1の上部に固定されている。
【0014】
このように構成されたエレベータにあっては、巻上機3の電動機が駆動されると、電動機に固定したシーブ3bが回転する。このシーブ3bの回転によって主ロープ4が移動し、乗かご5とつり合い重り13は互いに逆方向に昇降路1内を昇降する。なお、主ロープ4の端部は、ロープ端通り穴を通り、シンブルロッド6を有するロープソケット11に接続される。また、主ロープ4の抜け落ちを防止するためにシンブルロッド6上部には割りピン穴が設けられ、割りピン10を割りピン穴である貫通孔6a(
図7参照)に通している。
【0015】
図2は
図1に示すロープ端部固定部の拡大図である。
図2に示すように、ロープ端部固定部30は、主ロープ4の端部が下端に接続されるシンブルロッド6、シンブルロッド6に装着されるロックナット23、平ワッシャ8、ばね7、固定具24及び割りピン10を備えている。シンブルロッド6は下部側で固定具24を介してマシンビーム3aの下端部3a−1に突き当たり、その状態を保持し、固定具24の上側には平ワッシャ8が設けられている。固定具24と平ワッシャ8との間には両者を離間する方向に弾性力を付与するばね7が配置されている。
【0016】
平ワッシャ8の上部には2つのナット9,22からなるロックナット23が設けられている。ロックナット23はシンブルロッド6の上部に形成された雄ねじ6b部にねじ込まれ、平ワッシャ8を介してばね7の長手方向の一方(上部)を押さえている。これにより、ばね7のばね長が規制され、規制されたばね長に応じた弾性力が生じる。シンブルロッド6の雄ねじ6b部の図において上部には、前述の通り貫通孔6aが設けられ、この貫通孔6aには、シンブルロッド6の脱落を防止する割りピン10が装着されている。
【0017】
図3は2:1ローピングエレベータにおけるロープ端部の配置の一例を示す図である。シンブルロッド6はマシンビーム3aの下側の張り出し部3a−1に設置され、マシンビーム3aから下方に突出したシンブルロッド6の下端に
図1に示したようにロープソケット11を介して主ロープ4が取り付けられる。ロープテンション調整装置は、シンブルロッド6の平ワッシャ8の上側に取り付けられる。
【0018】
同図から分かるようにロープ端部4aの直上にマシンビーム3aの上側の張り出し部が突出しているため、ロープ端部4aの直上空間4bが狭くなり、油圧シリンダをロープ端部4aに設置できない場合がある。また、各ロープ端部4a間が隣接しているために、油圧シリンダをロープ端部4aに設置できない可能性もある。そこで、本実施形態では、
図4に示す油圧シリンダの構造を採っている。
図4はロープ端部に設置される油圧シリンダの構成を示す図である。
【0019】
図4に示すように本実施形態における油圧シリンダ14は、アルミニウム材により一体成形されたシリンダ14sが内部に設けられた円管状のシリンダチューブ14bと、シリンダ14s内に圧油が供給された際に上端がシリンダチューブ14bよりせり出すピストンロッド14dとを備えている。この油圧シリンダ14は油圧シリンダ接続部14aを介して圧油がシリンダチューブ14bのシリンダ14s内部に流入、あるいは内部から流出することにより、シリンダ14s内に圧油が供給され、あるいはシリンダ14s内から排出されて、ピストンロッド14dを押し上げ又は引き下げる。そのため、シリンダチューブ14bからピストンロッド14dがせり出し又は入り込むことによって油圧シリンダ14が伸縮する。また、油圧シリシダ14の中心部には、上下に連通する円筒状の空洞14vが設けられており、この空洞14vにシンブルロッド6が挿入される。そのため、空洞14vの内面がシリンダガイド14cとして機能する。
【0020】
なおシリンダチューブ14b直径方向へのシリンダ接続部14a対向部には空気抜き用のシリンダ連通穴25が設けられている。このシリンダ連通穴25はシリンダ14s内に圧油を供給する際、最初に開放しておき、内部の空気を抜きながら油で満たし、空気が抜け切ってシリンダ14sの内部が圧油で満たされたら栓26によって封止する。
【0021】
本実施形態における油圧シリンダ14は、軽量化を施すためにシリンダチューブ14b及びピストンロッド14dをアルミニウムにて構成している。アルミニウムは金属の中でも比重が軽く、これにより同じ大きさの油圧シリンダ14でありながら非常に軽量なものとすることができる。しかし、材料をアルミニウムとすることで非常に大きな荷重に耐える耐久性を確保することが困難となってしまう。従来用いられていたこのような油圧シリンダ14はシリンダ14sを形成するために2つの部材に分けて形成し、2つの部材に雄ねじと雌ねじを形成し、両者をねじ結合により嵌め込み、内部がシリンダ14sとなったチューブ14bが形成される構造となっていた。
【0022】
しかし、油圧シリンダ14をロープテンション調整に用いる際、例えばシンブルロッド6を設けた間隔よりも狭い間隔で乗りかご5やつり合い重り13のプーリに主ロープ4が巻き掛けられている場合、あるいは互いに接触しないようにしながらも、互いに平行に配置されたロープを平行状態に保ったままねじれるようなローピングをする場合などが往々にしてある。このような場合、ある点を中心とした扇形状にロープが張られることとなり、ロープにテンションを与えた際にシンブルロッド6が傾いて、油圧シリンダに横方向の力が加わることがある。従来の剛性材料で形成された油圧シリンダであると、このような横方向の荷重が加わったとしても、油圧シリンダの変形等も少なく、問題もなく使用できた。
【0023】
しかし、アルミニウムを用いて従来と同様の構成の油圧シリンダを製作し、試験を行ったところ、前述のねじによる接合部分から内部の油が漏れ出してしまうことがあった。試験後、この試験を行ったアルミニウム材料からなる従来と同様の構造の油圧シリンダについて調べたところ、塑性変形は見られなかった。しかし、このような油漏れは、使用中に横方向の力が加わるなどして、2つの部材で形成されたシリンダチューブに弾性変形が生じ、また、内部から高圧の油圧がかかることで、2つの部材の接合部分に隙間が開いて油漏れを生じているものと考えられる。
【0024】
そこで本実施形態では、このような横方向の荷重が加わっても油漏れなどの問題を生じないように、シリンダチューブ14bをアルミニウム材により一体成形した。すなわち、シリンダチューブ14bのシリンダ14sの形成部分を1つの部材で構成した。このように構成すると、シリンダチューブ14bに弾性変形が生じ、また、内部から高圧の油圧がかかっても、継ぎ目がないことから、油漏れを起こす隙間が発生せず、油漏れを起こすことがない。なお、本実施形態では、シリンダ14s部分だけでなく、シリンダチューブ14b自体をアルミニウム材料から削り出すことによって一体成形している。このようにアルミニウム材料から削り出して成形すると、シリンダチューブ14bの耐久性がより高くなり、塑性変形の発生も抑制することができる。
【0025】
さらに、ピストンロッド14dの外周側下部に、シリンダチューブ14b内部のシリンダ14sの外径D2側面に接触する
スリッパーシール14eを設けると共に、シリンダチューブ14b内部のシリンダの内径D3側面に接触する0リング14fを設けた。これによりシール性を向上させ、油圧シリンダ14に横方向の力が加わったときに多少の変形が生じ、あるいはシンブルロッドの傾きに起因してピストンロッド14d自体が傾いた状態でシンブルロッドを吊り上げる場合でも、油漏れを防止することができる。シリンダ14sは
図4(b)及び(c)の斜視図からも分かるように円環状に形成される。
【0026】
なお、
図4(b)及び(c)は
図4(a)に示した油圧シリンダ14の外形を示す図で、
図4(b)は
図4(a)を略背面側から見た斜視図、
図4(c)は略正面側から見た斜視図である。また、
図4(a)においてD1は油圧シリンダ14の直径である。
【0027】
このような油圧シリンダ14はシンブルロッド6の傾きによって偏心した場合、特に、
スリッパーシール14eが最も集中応力を受けやすく、かつ、ピストンロッド14dを上方から見たときの円形中心に対して応力が集中した部位の反対側では最も応力が弱くなるという大きな応力変化にさらされる。そこで、本実施形態では、
スリッパーシール14eを、
図5に示すような構造にした。
図5は
スリッパーシール部分の構成を示す一部を切断した斜視図である。
【0028】
同図において、
スリッパーシール14eは、0リング14e1と、断面略コの字形状のポリテトラフルオロエチレン素材からなり、0リング14e1を包みこむように0リング14e1とシリンダチューブ14bとの間に設けられたキャップシール14e2とから構成されている。このような構造とすることにより、シンブルロッド6の傾きによる偏心に起因する応力変化を受けてもシール性を確保できるだけの強い密閉力を有することができる。また、この構造により、シール性を確保しながら、0リング14e1の強い密閉力による反力及び応力が集中によりシリンダチューブ14bとの間に大きな摺動抵抗が発生しても、ピストンロッド14dはシリンダ14s内を摺動可能であり、かつ、偏心を受けた状態下でシリンダチューブ14bと摺動しても
スリッパーシール14eが損傷することも、摺動性が低下することもない。
【0029】
さらに、
スリッパーシール14eの取り付け位置は、偏心による影響が最も大きくなる位置、すなわち、ピストンロッド14dの外周部下部に設定され、内周側の0リング14fは、比較的偏心による影響が小さい位置となる
スリッパーシール14eよりもピストンロッド14d上部に位置させる。このような配置とすることによって
スリッパーシール14eのような高価な構造のものを多用することなく、コストを低く抑えながら、偏心に対する強いシール性能を確保することができる。
【0030】
すなわち、シリンダチューブ14b内部のシリンダ14sの外径側面14s1に接触するスリッパーシール14eをピストンロッド14dの外周側下部に、シリンダチューブ14b内部のシリンダ14sの内径側面14s2に接触する0リング14fをピストンロッド14dの
スリッパーシール取り付け位置より上部に、それぞれ備え、これによりシール性を確保している。
【0031】
なお、本実施形態では
図4に示したようにピストンロッド14dの内側に0リング14fを、外側にスリッパーシール14eを設ける構造を採っているが、ロープテンション調整装置を用いる対象がロープ荷重のより小さいエレベータ用に限定できる場合には、ピストンロッド14dの内側と外側に0リング14fを設ける構造とすることもできる。この構造とすると、油圧シリンダ14のシール性向上と油圧シリンダ14の偏心時の摺動性を確保した上で、よりコストを抑えることができる。逆に、ピストンロッド14dの内側と外側に
スリッパーシール14eを設ければ、油圧シリンダ14のシール性向上と油圧シリンダ偏心時の摺動を可能としながら、よりロープ荷重が大きいエレベータにも対応することが可能となる。
【0032】
本実施形態における油圧シリンダ14はアルミニウム材料から削り出して成形したシリンダチューブ14bのシリンダ14s部分上方から
スリッパーシール14e及び0リング14fを設けたピストンロッド14dを挿入し、シリンダチューブ14bのシリンダ上端にねじにより嵌め込まれるピストンストッパ27を固定することで、ピストンロッド14dのシリンダチューブ14bからの抜けを防止することができる。これにより、シリンダチューブ14bのシリンダ14s内部にピストンロッド14dが摺動可能に内蔵される。ピストンストッパ27はシリンダチューブ14bとは別部材であるが、シリンダ14s内の圧油はピストンロッド14d下面と
スリッパーシール14e及び0リング14fにより上方には行かないので、油圧シリンダ14に横方向の力が加わったときに多少の変形などが生じたりしても油漏れ等の問題が発生することはない。この構造により、圧油漏れを防止することができるとともに、ピストンストッパ27によってピストンロッド14dの抜け出しを防止することが可能となる。
【0033】
ここで、油圧シリンダ14の出力Fは、(1)式よりロープ1本にかかる最大ロープ荷重を引き上げるために必要な受圧面積とポンプ圧力から算出できる。また、受圧面積Aは、(2)式より油圧シリンダの外径と内径により算出することができる。
F=A×P/10 (kN) ・・・(1)
ただし、F:油圧シリンダ出力(kg)
A:受圧面積(mm
2)
p:ポンプ圧力(Mpa)
A=(D2/2)
2−(D3/2)
2)×π・・・(2)
ただし、D2:油圧シリンダの外径
D3:油圧シリンダの内径
ここで、隣り合う各ロープ端部4aの空間が狭い場合でも、各油圧シリンダ14が干渉しないように、本実施形態では油圧シリンダ14の直径寸法をロープ端固定部の平ワッシャ8の寸法より小さな大きさに構成している。このように構成することによって隣接するロープ端部4a同士が干渉することがなくなる。また、油圧シリンダ14の中心の円筒状空洞14vの内径をシンブルロッド6の外径よりも大きくしている。このように構成することによりシンブルロッド6に油圧シリンダ14を挿入することができる。さらに、ロープ端部4aの直上の空間4bが狭い場合でも油圧シリンダ14をシンブルロッド6に挿入できるように、油圧シリンダ14の高さを決定し、ロープ1本にかかる最大ロープ荷重から油圧シリンダ14の外径D2と内径D3を決定する。このように構成することによりロープ端部4aの直上の空間4bや各ロープ端部4a間の隙間が狭い場合でも油圧シリンダ14を取り付けることが可能となる。
【0034】
特に、ロープ端部4a直上の空間4bが狭い場合でも、油圧シリンダ14をシンブルロッド6に挿入できるようにするために、本実施形態における油圧シリンダ14は、全体の高さ寸法がピストンロッド14dのせり出し量d(
図11(b)参照)に応じて変化する構成となっている。一般的な油圧シリンダでは、圧油を供給してピストンが作動した状態であっても、油圧シリンダの全高はあらかじめ決まっており、全高範囲の中でピストンが移動するのみで高さ寸法の変化はないものが多い。しかし、本実施形態では、ピストンロッド14dのシリンダチューブ14bからのせり出し量dが最小状態(
図11(a):d=0)のとき、油圧シリンダ14の全高H1が最も低い状態(H1<H2)となるように構成されている。このように構成すると、油圧シリンダ14を設置する際にピストンロッド14dを最小位置まで下げれば、油圧シリンダ14の全高H1を最小の状態とすることができる。これにより、ロープ端部4a直上の空間4bが狭い場合でも、シンブルロッド6に装着することが可能となり、ロープテンション装置として適用できる製品の範囲を広げることができる。
【0035】
すなわち、本実施形態では、
図11(a)に示すようにピストンロッド14dのシリンダチューブ14bからのせり出し量dを最小状態としたときに、ピストンロッド14dの上端がシリンダチューブ14bの上端と同じかそれより低い位置に下がるように構成され、ピストンロッド14dを下げたとき、油圧シリンダ14全体の高さ寸法H1がシリンダチューブ14bの高さ寸法となるように両者の寸法関係が設定されている。このように設定することによって、装着時にピストンロッド14の油圧シリンダ14の全高を、ピストンロッド14dの寸法を構成上最も低い高さ寸法に抑えることができ、より適用できる製品の範囲を広げることができる。なお、
図11では、
図11(a)のピストンロッド14のせり出し量dが最小時の油圧シリンダ14の高さをH1、
図11(b)のピストンロッド14のせり出し量dが最大のときの油圧シリンダ14の高さをH2としている。
【0036】
図6は平ワッシャからのシンブルロッドのせり出し量が小さいときのロープテンション調整装置の取り付け手順を示すフローチャートである。以下、同図を参照し、ロープテンション調整装置の取り付け手順について説明する。ロープテンション調整装置の取り付け手順は、第1ないし第8の工程(S1〜S8)からなる。
【0037】
まず、第1の工程としてロープの回転を防止するためにロープを拘束する(S1)。
図12のロープテンション調整装置の調整原理を示す図に示すように、ロープソケット11には内部に主ロープ4を通した状態で一列にロッド28を通すための挿通口11aが設けられており、この挿通口11aに1本のロッド28を通すことによって各主ロープ4の回転が抑えられ、主ロープ4の回転方向の動きは拘束される。このように、主ロープ4の回転を防止するためのロープ拘束方法として、ロープソケット11にロープ拘束具であるロッド28を取り付ける構造とすることによって、寸法の精度が要求されるマシンビーム3a上の固定具24より上の部分に余分な装置を取り付ける必要がなくなる。その結果、高さ方向の寸法を大きくする必要もなくなる。
【0038】
第2の工程では、
図7に示すようにシンブルロッド6に取り付けられた割りピン10を取り外し、その後、ナット9をロックして主ロープ4のロープ端を固定しているナット22を外し、ナット9を1つにする(S2)。
図7は第2の工程の作業内容を示す図で同図(a)は
図2の右側面図、同図(b)は正面図に対応する。以下、
図8ないし
図10も同様である。
【0039】
第3の工程では、
図8に示すようにシンブルロッド6にシンブルロッド引き上げ管下部15を取り付ける(S3)。シンブルロッド引き上げ管下部15は、
図13に示すように下部にシンブルロッド6にねじ込めるように内部に雌ねじ15c1が切られており、シンブルロッド抜け防止ピン用穴15aが設けられた太径部15cと、シンブルロッド6と同径でシンブルロッド6に設けられた雄ねじ6bと同じ径の雄ねじ15d1とシンブルロッド抜け防止ピン用穴15bが設けられた細径部15dとが一体となった形状をしている。そして、第2の工程で取り外した割りピン用の貫通孔6aがシンブルロッド引き上げ管下部15に設けたシンブルロッド抜け防止ピン用穴15aと一致するまで、シンブルロッド引き上げ管下部15をシンブルロッド6にねじ込む。なお、
図8は第3及び第4の工程の作業内容を示す図、
図13はシンブルロッド引き上げ管下部15を示す図で、同図(a)はシンブルロッド引き上げ管下部15の正面図、同図(b)は斜視図である。
【0040】
第4の工程では、
図15に示す第1のシンブルロッド抜け防止ピン17aをシンブルロッド引き上げ管下部15に設けたシンブルロッド抜け防止ピン用穴15aとシンブルロッドの割りピン用の貫通孔6aに通し、ロープの抜け落ちを防止する(S4)。第1のシンブルロッド抜け防止ピン17aはシンブルロッド6に取り付けられた割りピン10と同様の機能を有するもので、別の部材を使用しても良いし、もともと用いられていた割りピン10を用いても良い。なお、
図15は第1のシンブルロッド抜け防止ピン17aの正面図である。
【0041】
第5の工程では、
図9に示すように、まずシンブルロッド6にシリンダベース18を挿入し、次に油圧シリンダ14を挿入する(S5)。シリンダベース18は
図17に示すように円管形状をしており、その周面に穴18aが開いていて、シンブルロッド6にシリンダベース18を挿入した状態で、ロックナット9にアクセスできるように構成されている。なお、
図9はシンブルロッド6にシリンダベース18と油圧シリンダ14を挿入したときの状態を示す図で、同図(a)は正面図、同図(b)は右側面図である。なお、前記正面図は
図2の右側面図に対応する。また、
図17はシリンダベース18を示す図で、同図(a)は正面図、同図(b)は右側面図である。
【0042】
第6の工程では、
図10に示すようにシンブルロッド引き上げ管下部15にシンブルロッド引き上げ管上部16及びカラー19を取り付ける(S6)。シンブルロッド引き上げ管上部16は
図14に示すような形状となっており、内部にシンブルロッド引き上げ管下部15の細径部15dの雄ねじ15d1あるいはシンブルロッド6の雄ねじ6bに螺合する雌ねじ16aが切られた円管状をしており、油圧シリング14が作動してピストンロッド14dがせり上がってきた際に、これを受け、シンブルロッド6を引き上げる役目をするものである。またカラー19は
図18に示すように単純な円管状をなしているものである。
【0043】
シンブルロッド6にシリンダベース18及び油圧シリンダ14を挿通させた際に、シンブルロッド引き上げ管下部15の太径部15cがシリンダチューブ14bの上端よりも上部に位置している場合、この状態でシンブルロッド引き上げ管上部16を取り付けると、シンブルロッド引き上げ管下部15の太径部15c上端でシンブルロッド引き上げ管上部16が止まってしまい油圧シリンダ14に接触できないため、シリンダチューブ14bの上端からシンブルロッド引き上げ管下部15の太径部15c上端までの距離分、ピストンロッド14dがシリンダチューブ14bからせり出しても、シンブルロッド6の引き上げに寄与できなくなる。これはシリンダチューブ14bの高さを低く抑えた油圧シリンダ14においては、ピストンロッド14dの最大せり上がり量も必要最低限に抑えられているため、効率的な利用の観点からは非常に大きなロスとなる。
【0044】
そこで、本実施形態では、シンブルロッド6にシリンダベース18及び油圧シリンダ14を挿通させた際に、シンブルロッド引き上げ管下部15の太径部15cがシリンダチューブ14bの上端よりも上部に位置している場合には、シンブルロッド引き上げ管下部15の太径部15c上端までの距離分より大きくなるように、カラー19を1個、あるいは1個で足りなければ複数個重ねて挿入し、その後、最上部のカラー19に接触するようにシンブルロッド引き上げ管上部16をカラー19の上部に取り付ける。カラー19は最下面がピストンロッド14dの上端面に接触し、最上面がシンブルロッド引き上げ管上部16の下面に接触する構造となっている。このようにすることによってピストンロッド14dのシリンダチューブ14bからのせり出しをシンブルロッド6の引き上げに100%寄与させることができる。
【0045】
したがって本第6の工程では最初にカラー19の取り付け要否を確認し、このときシンブルロッド引き上げ管下部15の細径部15dの雄ねじ15d1の下端の高さが油圧シリンダ14の上面高さよりも高い場合のみカラー19を挿入してシンブルロッド引き上げ管下部15の細径部15dの雄ねじ15d1部下端の高さを油圧シリンダの上面高さと一致あるいはそれより高くさせる。
【0046】
なお、
図10はシンブルロッド引き上げ管下部15にシンブルロッド引き上げ管上部16及びカラー19を取り付けたときの状態を示す図、
図14はシンブルロッド引上げ管上部16を示す図、
図18はカラー19を示す図で、それぞれ(a)は正面図、同図(b)右側面図である。なお、前記
図10の正面図は
図2の右側面図に対応する。
【0047】
第7の工程では、シンブルロッド6に取り付けられた割りピン10と同様の機能を有する第2のシンブルロッド抜け防止ピン17bを、
図10(b)に示すようにシンブルロッド引き上げ管下部15のシンブルロッド抜け防止ピン用穴15bに挿入する(S7)。第2のシンブルロッド抜け防止ピン17bは
図16に示すように、棒状の部材でL字型をした形状をしている。これにより主ロープ4の抜け落ちを防止することが可能となり、ロープテンション調整作業の安全性を向上させることができる。なお、
図16は第2のシンブルロッド抜け防止ピン17bの正面図である。
【0048】
第8の工程では、第7の工程で第2のシンブルロッド抜け防止ピン17bをシンブルロッド引き上げ管下部15のシンブルロッド抜け防止ピン用穴15bに挿入し、ロープテンション調整作業の安全性を確保した後、
図10(a)に示す油圧シリンダ14の油圧シリンダ接続部14aに
図12に示すように油圧ポンプ20に接続された油圧ホース29を接続する(S8)。これにより油圧ポンプ20を動作させてロープ端部4aに取り付けられた複数の油圧シリンダ14の内部へ圧油を供給し、または油圧シリンダ14内部から圧油を排出させることが可能になる。このように取り付けられたロープテンション調整装置は、
図11に示すような動作原理によりシンブルロッド6を引き上げ、ばね7を縮め、ロープテンションを調整する。
【0049】
すなわち、ロープテンションの調整は、
図11(a)に示すように各部が取り付けられたロープテンション調整装置において、油圧ポンプ20によって油圧シリンダ14に圧油を供給すると、シンブルロッド引き上げ管下部15及びシンブルロッド引き上げ管上部16が引き上げられる。このとき、
図11(b)に示すようにシンブルロッド引き上げ管下部15及びシンブルロッド引き上げ管上部16に連結されたシンブルロッド6も一体に引き上げられる。シンブルロッド6が引き上げられると、平ワッシャ8が押し下げられ、ばね7も追従して押し下げられる。本原理を利用し、
図12に示すように複数本のロープ端部4aに同様の油圧シリンダ14を設置し、油圧ポンプ20から同じ圧力の圧油を各ロープ端部4aに設置されたロープテンション調整装置の油圧シリンダ14に送ることによって主ロープ4のロープテンションを均一に調整することができる。
【0050】
また、同じ圧力の圧油を各ロープ端部4aのロープテンション調整装置の油圧シリンダ14に供給するために、油圧ポンプ20と油圧シリンダ14の間にストップバルブ21を設け、各主ロープ4を引き上げた状態で、ストップバルブ21を閉める。これによりストップバルブ21と油圧シリンダ14の間に油を閉じ込め、各油圧シリンダ14への圧油の配分を均一化することもできる。このように油圧により均一な圧力で圧縮されたばね7は、結果的に全ての主ロープ4に均一なテンションをかける状態となっている。また、ナット9はばね7の力から解放されているため、シリンダベース18の開口18aから指を入れ、ナット9をまわして平ワッシャ8までナット9を締めることができる。これにより均一なテンションに調整することが可能となる。
【0051】
このように本実施形態におけるロープテンション調整装置は、ロッド28、シリンダベース18、油圧シリンダ14、カラー19、シンブルロッド引き上げ管下部15、シンブルロッド引上げ管上部16、第2のシンブルロッド抜け防止ピン17b、及び割りピン10を兼用しない場合には第1のシンブルロッド抜け防止ピン17aから構成され、油圧シリンダ14の高さ方向を機構上最小限の高さとすることができることから、ロープ端部4aの直上の空間4b、あるいは各ロープ端部4a間の隙間が狭い場合でも油圧シリンダ14を装着することができ、これによりロープテンションの調整が可能となる。その結果、主ロープ4の素線の摩耗、破断、ストランド切れ等の主ロープ4の寿命に悪影響を及ぼす要因を排除することが可能となり、主ロープ4の寿命を延ばすことができる。
【0052】
また、油圧シリンダ14をアルミニウム材により一体成形したので、シリンダ強度を確保した上での軽量化が可能となり、保守の際に保守員が持ち歩いても保守員の負担になることがない。そのため、保守時の取扱い性と可搬性が向上する。なお、本実施形態で説明したロープテンション調整装置は、ロープ端部4aに常設することも可能である。このように常設した場合には、ロープテンションを調整する度に当該ロープテンション調整装置を取り付け、取り外す必要がなくなる。そのため、ロープテンション調整作業の作業時間を節減することが可能となり、作業能率の向上を図ることができる。
【0053】
また、
図6のフローチャートでは、平ワッシャ8からのシンブルロッド6のせり出し量が小さいときのロープテンション調整装置の取り付け手順を例に挙げて説明したが、平ワッシャ8からのシンブルロッド6のせり出し量が十分に大きい場合には、以下の手順とするのが良い。
【0054】
まず、第1の工程として、主ロープ4の回転を防止するためにロープを拘束し、第2の工程として
図7に示すように、シンブルロッド6に取り付けられた割りピン10を取り外し、その後、ナット9をロックしてロープ端を固定しているナット22を外し、ナット9を1つにするのは同様である。次に第3の工程と第4の工程を省略して第5の工程を実行する。第5の工程では、シンブルロッド6にシリンダベース18を挿入し、次に油圧シリンダ14を挿入する。そして、平ワッシャ8からのシンブルロッド6のせり出し量が十分に大きいので第6の工程としては、シンブルロッド引き上げ管下部15及びカラー19を用いることなく、シンブルロッド引き上げ管上部16をシンブルロッド6に直接取り付ける。シンブルロッド引き上げ管上部16は内周に設けられた雌ねじ16aがシンブルロッド6の雄ねじ6bと両者をねじ結合により嵌め合わされ、セットされた油圧シリンダ14の上端と接触するまでシンブルロッド引き上げ管上部16を下降させる。このようにすることによってピストンロッド14dのシリンダチューブ14bからのせり出しを、シンブルロッド6の引き上げに100%寄与させることができる。
【0055】
次に第7の工程として、シンブルロッド6に取り付けられた割りピン10と同様の機能を有する第2のシンブルロッド抜け防止ピン17bを貫通孔6aに挿入する。なお、このとき用いる第2のシンブルロッド抜け防止ピン17bとして、割りピン10を用いても良い。このようにセットした後、第8の工程で油圧シリンダ14の油圧シリンダ接続部14aに、油圧ポンプ20に接続された油圧ホース29を接続して、ロープ端部4aに取り付けられた複数の油圧シリンダ14内部へ圧油を流入させ、内部から圧油を流出させる。このようにして前述の場合と同様に調整作業を行うことができる。
【0056】
なお、前述の実施形態において、ピストンロッド14dの表面にロープテンション調整終了ラインを設けることによって調整の終了を目視で確認することもできるようにしても良い。
【0057】
また、実際のロープテンション調整工程において、油圧シリンダ14からピストンロッド14dを最大にせり出させた状態にしても、全てのロープテンションの調整が同一に揃わず、シンブルロッド6のさらなる引き上げが必要な場合には、油圧シリンダ14からピストンロッド14dをせり出させた状態のまま、全てロープ端部4aのナット9を締め上げ、その後、ピストンロッド14dを油圧シリンダ14のシリンダ14s内に戻す。そして、ナット9を締め上げた分だけシンブルロッド引き上げ管上部16とカラー19又は油圧シリンダ14上端との間に開いた隙間分について、シンブルロッド引き上げ管上部16をカラー19の上端又は油圧シリンダ14上端と接触するまで下降させて、同様の作業を繰り返せば良い。2度目以降の作業でも同様のロープテンション調整作業を行い、全てのロープテンションが揃うまで前記作業を繰り返す。これにより前述の場合と同様に調整作業を行うことができる。
【0058】
以上説明したように本実施形態によれば、
1)ロープ端部直上の空間や各ロープ端部間の隙間に関わらず、ロープテンション調整が可能となり、ロープテンションのアンバランスが原因で発生するロープ素線の磨耗・破断、ストランド切れ等、ロープ寿命に悪影響を及ぼす要因を排除でき、ロープ寿命を延ばすことができる。
2)さらに巻上機のシーブ溝の早期磨耗も防止することができる。
3)また、本装置を常設した場合においても、調整装置を設置しないときと同様に安価にロープの抜け落ちを防止することができる。
4)油圧シリンダ14をアルミニウム材によって一体に成形したので、強度と可搬性を確保することが可能となり、保守員の負担を大幅に軽減することができる。
5)また、保守員の負担軽減により安全性の向上にも寄与することができる。
などの効果を奏する。
【0059】
なお、特許請求の範囲における乗りかごは実施形態では符号5に、主ロープは符号4に、シンブルロッドは符号6に、ばねは符号7に、ナットは符号9に、ロープ端部固定部は符号30に、支持部材は固定具24若しくはマシンビーム3aに、シリンダは符号14sに、シリンダチューブは符号14bに、ピストンロッドは符号14dに、せり出し量は符号dに、油圧シリンダは符号14に、高さ寸法は高さH1,H2に、圧油供給手段は油圧ポンプ20、ストップバルブ21及び油圧ホース29に、結合手段はシンブルロッド引き上げ管下部15、シンブルロッド引き上げ管上部16、第1のシンブルロッド抜け防止ピン17a及び第2のシンブルロッド抜け防止ピン17bに、第1の部材はシンブルロッド引き上げ管下部15に、第2の部材はシンブルロッド引き上げ管上部16に、シリンダチューブの高さ寸法はH1に、シリンダの外形側面は符号14s1に、スリッパーシールは符号14eに、シリンダの内径側面は符号14s2に、Oリングは符号14fに、油圧ポンプは符号20に、ストップバルブは符号21に、それぞれ対応する。
【0060】
さらに、本発明は前述した実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であり、特許請求の範囲に記載された技術思想に含まれる技術的事項の全てが本発明の対象となる。前記実施形態は、好適な例を示したものであるが、当業者ならば、本明細書に開示の内容から、各種の代替例、修正例、変形例あるいは改良例を実現することができ、これらは添付の特許請求の範囲に記載された技術的範囲に含まれる。