(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
硫黄分含有量が10質量ppm以下で、ベンゾアントラセン類の含有量が1.5〜15.0質量ppmであり、沸点範囲が170〜380℃である脱硫軽油留分10〜90容量%と、
硫黄分含有量が10質量ppm以下で、沸点範囲が140〜290℃である脱硫灯油留分5〜40容量%と、
パラフィン分の含有割合が90容量%以上であるパラフィン系基材5〜50容量%と
を混合してなる請求項1に記載の軽油組成物。
【発明を実施するための形態】
【0017】
先ず、本発明の軽油組成物について説明する。
本発明の軽油組成物は、パラフィン系基材を混合してなり、硫黄分含有量が10質量ppm以下で、3環芳香族化合物、4環芳香族化合物および5環芳香族化合物の総含有量が600〜3000質量ppm、ベンゾアントラセン類の含有量が1.0〜10.0質量ppm、芳香族分の含有量が12〜20容量%であり、パラフィン分の含有量が35〜75容量%であることを特徴とするものである。
【0018】
本発明の軽油組成物は、パラフィン系基材を混合してなるものであり、パラフィン系基材の詳細については、後述するものとする。
【0019】
本発明の軽油組成物において、硫黄化合物の含有量は10質量ppm以下であり、9質量ppm以下であることが好ましく、5〜9質量ppmであることがより好ましい。
本発明の軽油組成物において、硫黄化合物の含有量が10質量ppm以下であることにより、排ガス後処理装置の触媒の被毒を抑制し、ディーゼルエンジンから排出されるサルフェート等の粒子状物質の量を低減することができる。
なお、本出願書類において、硫黄化合物の含有量は、JIS K 2541「原油及び石油製品−硫黄分試験方法」に準じて測定した値を意味する。
【0020】
本発明の軽油組成物は、3環芳香族分と4環芳香族分と5環芳香族分の総含有量が600〜3000質量ppmであり、800〜2800質量ppmであることが好ましく、1000〜2500質量ppmであることがさらに好ましい。
本発明の軽油組成物において、3環芳香族分と4環芳香族分と5環芳香族分の総含有量が上記範囲内にあることにより、排ガス性状の低下を抑制しつつ、過酷な条件下においても酸化安定性の低下を抑制することができる。
【0021】
なお、本出願書類において、3環芳香族化合物とは、アントラセン、フェナンスレン、ナフテンフェナンスレン等の3つの芳香環が縮合してなる化合物またはこれらいずれかの化合物のアルキル置換誘導体を意味するものとし、4環芳香族化合物とは、ピレン、クリセン、ベンゾアントラセン類等の4つの芳香環が縮合してなる化合物またはこれらいずれかの化合物のアルキル置換誘導体を意味するものとし、5環芳香族化合物とは、ペリレン、ジベンゾアントラセン等の5つの芳香環が縮合してなる化合物またはこれらいずれかの化合物のアルキル置換誘導体を意味するものとする。
【0022】
本発明の軽油組成物において、3環芳香族化合物、4環芳香族化合物および5環芳香族化合物の総含有量に対する4環芳香族化合物の全含有量の比(4環芳香族化合物の全含有量/(3環芳香族化合物、4環芳香族化合物および5環芳香族化合物の総含有量))は、質量比で、0.30〜0.40であることが好ましく、0.32〜0.39であることがより好ましく、0.34〜0.38であることがさらに好ましい。
本発明者等の知見によれば、酸化安定性の向上効果は、同一含有量で比較すると、3環芳香族化合物よりも4環芳香族化合物の方が高く、4環芳香族化合物よりも5環芳香族化合物の方が高い。しかしながら、軽油組成物中の5環芳香族化合物の全含有量はごく僅かであるため、酸化安定性の向上効果に対する寄与度は4環芳香族化合物が支配的である。すなわち、3環芳香族化合物、4環芳香族化合物および5環芳香族化合物の総含有量に対する4環芳香族化合物の全含有量の比を上記範囲内に制御することにより、過酷な条件下においても酸化安定性の低下をより効果的に抑制することができる。
【0023】
本発明の軽油組成物において、3環芳香族化合物、4環芳香族化合物および5環芳香族化合物の総含有量に対する5環芳香族化合物の全含有量の比(5環芳香族化合物の全含有量/(3環芳香族化合物、4環芳香族化合物および5環芳香族化合物の総含有量))は、質量比で、0.004〜0.009であることが好ましく、0.005〜0.008であることがより好ましく、0.006〜0.008であることがさらに好ましい。
【0024】
本発明の軽油組成物において、3環芳香族化合物、4環芳香族化合物および5環芳香族化合物の総含有量や、3環芳香族化合物、4環芳香族化合物および5環芳香族化合物の総含有量に対する4環芳香族化合物の全含有量もしくは5環芳香族化合物の全含有量の比は、軽油組成物中における、3環芳香族化合物の全含有量、4環芳香族化合物の全含有量および5環芳香族化合物の全含有量から算出することができる。
【0025】
本出願書類において、3環芳香族化合物の全含有量、4環芳香族化合物の全含有量、5環芳香族化合物の全含有量は、以下の方法により算出した値を意味する。
【0026】
先ず、下記(1)〜(6)を順次行う方法により活性アルミナカラムで脱硫軽油留分や軽油組成物等の測定試料を濃縮して活性アルミナ濃縮物を得る。
<活性アルミナ濃縮物の調製方法>
(1)活性アルミナ500gに対して測定試料1Lを通油して、活性アルミナに吸着成分を吸着させ、残りの成分はそのままカラムから流出させる。
(2)n−ヘプタン1Lを上記活性アルミナへ流し、上記吸着成分のうち飽和分を溶出させたn−ヘプタン溶液を得る。
(3)次いでメタノール500mLを上記活性アルミナへ流し、残存する吸着成分を全て溶出させたメタノール回収液を得る。
(4)上記メタノール回収液からメタノールを蒸発除去し、残留物をトルエンに溶解してトルエン溶液を得る。
(5)活性アルミナ50gに対し上記トルエン溶液を通油して、活性アルミナに吸着成分を吸着させ、残りの成分はそのままカラムから流出させる。
(6)トルエン500mLを上記50gの活性アルミナへ流し、吸着物を溶出、回収した後、トルエンを蒸発除去して活性アルミナ濃縮物を得る。
【0027】
次に、得られた活性アルミナ濃縮物をガスクロマトグラフ−質量分析計(GC−MS、Agilent社製6890Nおよび5975B)で分析して、ASTM D 3239に従って3環芳香族化合物、4環芳香族化合物および5環芳香族物のそれぞれの含有割合(容量%)を算出した後、全ての化合物の密度を1と仮定して各含有割合を容量%から質量%に換算し、次いで上記の操作により得られた活性アルミナ濃縮物の質量を乗じ、さらに活性アルミナへ通油した脱硫軽油留分等の軽油留分や軽油組成物等の質量で除することにより、3環芳香族化合物の全含有量、4環芳香族化合物の全含有量、5環芳香族化合物の全含有量を求めることができる。
上記方法により、3環芳香族化合物の全含有量、4環芳香族化合物の全含有量および5環芳香族化合物の全含有量を、ppmオーダーで測定することが可能になる。
【0028】
本発明の軽油組成物において、ベンゾアントラセン類の含有量は、1.0〜10.0質量ppmであり、1.5〜9.0質量ppmが好ましく、3.0〜8.0質量ppmがより好ましい。
本発明者等の検討によれば、驚くべきことに、4環芳香族化合物のうち特にベンゾアントラセン類は酸化安定性の向上効果が高く、ベンゾアントラセン類の含有量が上記範囲内にあることにより、過酷な条件下においても酸化安定性の低下を特に効果的に抑制することができることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0029】
本出願書類において、ベンゾアントラセン類とは、ベンゾ[a]アントラセンまたはそのアルキル置換誘導体を意味する。
【0030】
本出願書類において、ベンゾアントラセン類の含有割合は、以下の方法により算出した値を意味する。
【0031】
先ず、下記(i)〜(vi)の方法により、活性アルミナカラムで脱硫軽油留分や軽油組成物等の測定試料を濃縮して、活性アルミナ濃縮物を得る。
<活性アルミナ濃縮物の調製方法>
(i)活性アルミナ500gに対し、測定試料1Lを通油して、活性アルミナに吸着成分を吸着させ、残りの成分はそのままカラムから流出させる。
(ii)n−ヘプタン1Lを上記活性アルミナへ流し、上記吸着成分のうち飽和分を溶出させたn−ヘプタン溶液を得る。
(iii)メタノール500mLを上記活性アルミナへ流し、残存する吸着成分を全て溶出させたメタノール回収液を得る。
(iv)上記メタノール回収液からメタノールを蒸発除去し、残留物をトルエンに溶解してトルエン溶液を得る。
(v)活性アルミナ50gに対し、上記トルエン溶液を通油して、活性アルミナに吸着成分を吸着させ、残りの成分はそのままカラムから流出させる。
(vi)n−ヘプタン、トルエン、メタノールの混合溶媒4000mLを上記50gの活性アルミナへ流し、吸着物を溶出、回収した後、上記混合溶媒を蒸発除去して、活性アルミナ濃縮物を得る。
【0032】
次いで、得られた活性アルミナ濃縮物を、下記順序で接続したカラムを用い、GC×GC TofMSにより下記測定条件でベンゾアントラセン類の含有量を定量した後、得られた測定値に濃縮率を乗ずることにより、ベンゾアントラセン類の含有割合を求めることができる。
【0033】
<カラム接続順序>
下記(a)〜(e−2)の順序に接続したカラムを使用する。
(a)1次カラム(LTM(Low Thermal Mass)用カラム) Agilent社製DB−1ms:長さ30m、内径0.25mm、膜厚0.25μm
(b)ガードカラム:長さ30cm、内径0.25mm
(c)ガードカラム:長さ30cm、内径0.1mm
(d)2次カラム(SGE社製BPX−50):長さ1.25m、内径0.1mm、膜厚0.1μm
(e−1)ガードカラム(TofMS(Time Of Flight−Mass Spectrometry)用ガードカラム):長さ57cm、内径0.1mm(トランスファライン21cm含む)
(e−2)ガードカラム(FID(Flame Ionization Detector)用ガードカラム):長さ34cm、内径0.1mm
【0034】
<GC×GC測定条件>
昇温条件 :65℃で1分間保持→3℃/分間で昇温→150℃で保持→5℃/分間で昇温→310℃で保持(2次オーブン+10℃オフセット)
キャリアガス :ヘリウム、定圧モード、43.93psi(1.5mL/分間、65℃)
注入口温度 :310℃
注入量 :0.2μL、スプリット比 50:1
データ読み込み :200スペクトル/秒
モジュレーション時間:8秒
【0035】
従来より、低硫黄軽油組成物において多環芳香族化合物の含有量を増加させた場合には、燃焼性が低下し、粒子状物質の生成量を増加させてしまうことが知られていたが、本発明者等が鋭意検討したところ、驚くべきことに、硫黄分の含有量を10質量ppm以下と高度に抑制しつつも、これまで燃焼性を低下させ、粒子状物質を発生させる原因物質として高度に除去されてきた3環〜5環芳香族化合物を敢えて所定量含有させ、ベンゾアントラセン類を所定量含有させた軽油組成物により、燃焼性の低下を抑制して粒子状物質の生成を一定程度抑制しつつ、過酷な条件下においても酸化安定性の低下を抑制し得ることを見出して、本発明を完成するに至ったものである。
【0036】
軽油留分中の3環〜5環芳香族化合物は、通常、硫黄分を高度に除去する際に同時に還元、分解されてしまうため、軽油組成物中の硫黄分含有量を低減させることは、多くの場合、3環〜5環芳香族化合物の含有量をも低減させることを意味していた。一方、軽油組成物中の3環〜5環芳香族化合物量を単に増加させようとする場合、通常、硫黄分が十分に除去されていない軽油留分を使用することになることから、硫黄分含有量が10質量ppm以下である軽油組成物を得ることは困難になる。
【0037】
本発明においては、軽油留分の製造時において、予め3環〜5環芳香族化合物、特に酸化安定性向上に効果の高いベンゾアントラセン類の含有割合が高くなるように、反応温度や触媒、水素分圧、液空間速度、蒸留する沸点範囲等の反応条件を制御しつつ脱硫処理を施すことにより、硫黄分の含有量を低減しつつ、3環〜5環芳香族化合物、特に酸化安定性向上に効果の高いベンゾアントラセン類を所定の割合で含む軽油留分を得、該軽油留分を所望割合で混合することにより、目的とする軽油組成物を容易に得ることができる。
【0038】
また、本発明においては、上記ベンゾアントラセン類を所定の割合で含む軽油留分として、3環〜5環芳香族化合物の総含有量に対して4環芳香族化合物や5環芳香族化合物を所定の割合で含む軽油留分を得、該軽油留分を所望割合で混合することにより、目的とする軽油組成物を得ることが好ましい。
本発明の軽油組成物によれば、3環〜5環芳香族化合物の総含有量に対する4環芳香族化合物の含有量や5環芳香族化合物の含有量の比を高め、特にベンゾアントラセン類を所定量含有させることにより、軽油組成物の酸化安定性の低下をより効果的に低減することができる。
【0039】
本発明の軽油組成物において、パラフィン分の含有量は、35〜75容量%であり、40〜65容量%であることが好ましく、48〜57容量%であることがより好ましい。
本発明の軽油組成物は、パラフィン系基材を混合してなるものであるので、パラフィン分の含有割合を上記範囲内に容易に制御することができる。
【0040】
本発明の軽油組成物において、パラフィン系基材の含有量は、5〜50容量%が好ましく、10〜45容量%がより好ましく、20〜40容量%がさらに好ましい。
また、本発明の軽油組成物において、パラフィン系基材のパラフィン分の含有割合は90容量%以上が好ましく、95容量%以上がより好ましく、98容量%以上がさらに好ましい。
本発明の軽油組成物において、パラフィン系基材の含有量やパラフィン分の含有割合が上記範囲内にあることにより、軽油組成物中の硫黄含有量を容易に低減することができるとともに、抗酸化性物質の含有量を所望範囲に制御して、適正な性状を有する軽油組成物を容易に提供することができる。
【0041】
本発明の軽油組成物中のパラフィン分の含有量およびパラフィン系基材等の基材中のパラフィン分の含有割合は下記(i)〜(iii)の方法で測定した値を意味する。
<パラフィン分含有割合の測定方法>
(i)HPLCにより飽和分と芳香族分に分取し、分取した飽和分と芳香族分を下記(a)〜(f)の条件にてGC−FIDで定量する。
(ii)分取した飽和分と芳香族分を下記(g)〜(l)の条件にてGC−MSを測定して平均マススペクトルを算出し、ASTM D2786に従って解析を行い、飽和分中のパラフィン分の含有割合を算出する。
(iii)上記(i)および(ii)で得られた結果より、試料中のパラフィン分の含有割合を算出した。
【0042】
<GC−FID測定条件>
(a)カラム:長さ5m、内径0.53mm、膜厚2.65μm
(b)オーブン温度:40℃で2分間保持→10℃/分間で昇温→60℃で保持→20℃/分間で昇温→290℃で5分保持
(c)注入口温度:オーブン温度+3℃
(d)検出器:FID(320℃)
(e)キャリアガス:He 4kPa
(f)注入量:4μL
【0043】
<GC−MS測定条件>
(g)カラム:長さ30m、内径0.25mm、膜厚0.25μm
(h)オーブン温度:40℃で1分間保持→10℃/分間で昇温
→280℃で保持
(i)注入口温度:オーブン温度+3℃
(j)インターフェース温度:300℃
(k)キャリアガス:He 55kPa
(l)注入量:飽和分 0.5μL、芳香族分 1.5μL
【0044】
本発明の軽油組成物において、パラフィン系基材中の硫黄分含有量は、3質量ppm以下であることが好ましく、2質量pp以下であることがより好ましく、1質量ppm未満であることがさらに好ましい。
なお、本出願書類において、硫黄化合物の含有量は、JIS K 2541「原油及び石油製品−硫黄分試験方法」に準じて測定した値を意味する。
【0045】
本発明の軽油組成物において、パラフィン系基材のセタン指数は65以上であることが好ましく、70以上であることがより好ましく、80以上であることがさらに好ましい。パラフィン系基材のセタン指数が上記範囲内にあることにより、得られた軽油組成物をディーゼルエンジンで使用したときに着火性を良好に保ち易くなる。
なお、本出願書類において、セタン指数は、JIS K2280「石油製品−燃料油−オクタン価及びセタン価試験方法並びにセタン指数算出方法」に準じて測定した値を意味する。
【0046】
本発明の軽油組成物において、パラフィン系基材の沸点範囲は140〜380℃であることが好ましく、145〜375℃であることがより好ましく、150〜370℃であることがさらに好ましい。本発明の軽油組成物において、パラフィン系基材の沸点範囲が上記範囲内にある事により、得られる軽油組成物の蒸留性状を適切な範囲に保つことができる。なお、本出願書類において、パラフィン系基材の沸点範囲は、JIS K 2254「石油製品−蒸留試験法」に準じて測定された値を意味する。
【0047】
本発明の軽油組成物において、パラフィン系基材としては、フィッシャー・トロプシュ反応または植物油の水素化処理により得られたものであることが好ましい。
【0048】
フィッシャートロプシュ反応により得られるパラフィン系基材としては、天然ガスを原料として一酸化炭素および水素から合成されるGTL(Gas to Liquid)油や、バイオマスを原料として一酸化炭素および水素化から合成されるBTL(Biomass to Liquid)油等を挙げることができる。
【0049】
また、植物油の水素化処理により得られる水素化バイオ軽油としては、パーム油、ナタネ油、大豆油、ココナツ油、ヤトロファ油等の植物油を水素化処理して得られるものを挙げることができる。
これ等の植物油を水素化処理して得られるパラフィン系基材は、再生可能エネルギーとしてカーボンニュートラルな燃料用の基材であるとされており、二酸化炭素排出量削減の観点から好適に用いられる。
植物油を水素化処理する方法としては、特に制限されず、公知の方法を採用することができる。
【0050】
さらに、上述のフィッシャートロプシュ反応により得られるパラフィン系基材や、植物油を水素化処理して得られるパラフィン系基材を異性化処理した基材も用いることができる。異性化処理することにより、パラフィン系基材に含まれるノルマルパラフィンの割合が減少してイソパラフィンの割合が増加するため、当該基材を配合した軽油組成物の低温流動性を向上させることができる。
【0051】
また、本発明の軽油組成物は、芳香族分の含有量が12〜20容量%であることが好ましく、13〜18容量%であることがより好ましく、13〜14容量%であることがさらに好ましい。
本発明の軽油組成物において、飽和分含有量および芳香族分含有量が上記範囲内にあることにより、着火性を良好に維持し易くなるとともに、低温性能を良好に維持易くなる。
なお、本出願書類において飽和分含有量および芳香族分含有量は、JPI−5S−49−07「石油製品−炭化水素タイプ試験方法−高速液体クロマトグラフ法」に準じて測定した値を意味する。
【0052】
本発明の軽油組成物は、セーボルト色が−16〜+6であることが好ましく、−15〜0であるものがより好ましく、−14〜−6であるものがさらに好ましい。
【0053】
軽油組成物に含まれる多環芳香族化合物の多くは蛍光物質であり、一般に多環芳香族化合物の含有量が多ければ、軽油組成物が着色し、セーボルト色の値が低くなる。セーボルト色が上記範囲内にあることにより、多環芳香族化合物を所定量含み、十分な酸化安定性を発揮し得ることから、過酷な条件下においても酸化安定性の低下を容易に抑制することができる。
なお、本出願書類においてセーボルト色は、JIS K 2580「石油製品−色試験方法」に準じて測定した値を意味する。
【0054】
本発明の軽油組成物は、初留点(IBP)が140〜210℃であることが好ましく、145〜200℃であることがより好ましく、165〜170℃であることがさらに好ましい。
本発明の軽油組成物は、10容量%留出温度(T10)が170〜260℃であることが好ましく、180〜250℃であることがより好ましく、215〜225℃であることがさらに好ましい。
本発明の軽油組成物は、50容量%留出温度(T50)が260〜305℃であることが好ましく、265〜300℃であることがより好ましく、270〜289℃であることがさらに好ましい。
本発明の軽油組成物は、90容量%留出温度(T90)が295〜360℃であることが好ましく、310〜355℃であることがより好ましく、320〜350℃であることがさらに好ましい。
本発明の軽油組成物は、終点(EP)が300〜390℃であることが好ましく、325〜385℃であることがより好ましく、365〜380℃であることがさらに好ましい。
【0055】
本発明の軽油組成物において、IBP、T10、T50、T90およびEPが上記範囲内にあることにより、ディーゼルエンジンにおける噴霧状態や燃焼状態が適切に保たれ、デポジット生成や排出ガス性状の低下を抑制し易くなる。
なお、本出願書類において、IBP、T10、T50、T90およびEPは、JIS K2254「石油製品−蒸留試験方法」に準じて測定した値を意味する。
【0056】
本発明の軽油組成物は、15℃における密度が0.790〜0.855g/cm
3であることが好ましく、0.795〜0.850g/cm
3であることがより好ましく、0.800〜0.840g/cm
3であることがさらに好ましい。15℃における密度が上記範囲内にあることにより、ディーゼルエンジンでの使用時に燃費を良好に保つことができる。
なお、本出願書類において、15℃における密度は、JIS K2249「原油及び石油製品−密度試験方法及び密度・質量換算表」に準じて測定した値を意味する。
【0057】
本発明の軽油組成物は、30℃における動粘度が1.7〜5.1mm
2/sであることが好ましく、2.3〜4.6mm
2/sであることがより好ましく、3.2〜4.2mm
2/sであることがさらに好ましい。
30℃における動粘度が上記範囲内にあることにより、ディーゼルエンジンで使用したときに噴霧状態を良好に保つことができる。
なお、本出願書類において、30℃における動粘度は、JIS K2283「原油及び石油製品−動粘度試験方法及び粘度指数算出方法」に準じて測定した値を意味する。
【0058】
本発明の軽油組成物は、引火点が45〜105℃であることが好ましく、50〜105℃であることがより好ましい。引火点が上記範囲内にあることにより、軽油組成物を取り扱う際に静電気等による着火を低減することができる。
なお、本出願書類において、引火点は、JIS K2265「原油及び石油製品−引火点試験方法」に準じて測定した値を意味する。
【0059】
本発明の軽油組成物は、セタン指数が50〜75であることが好ましく、55〜75であることがより好ましく、60〜72であることがさらに好ましい。セタン指数が上記範囲内にあることにより、ディーゼルエンジンで使用したときに着火性を良好に保ち易くなる。
なお、本出願書類において、セタン指数は、JIS K2280「石油製品−燃料油−オクタン価及びセタン価試験方法並びにセタン指数算出方法」に準じて測定した値を意味する。
【0060】
本発明の軽油組成物としては、硫黄分含有量が10質量ppm以下で、ベンゾアントラセン類の含有量が1.5〜15.0質量ppmであり、沸点範囲が170〜380℃である脱硫軽油留分10〜90容量%と、硫黄分含有量が10質量ppm以下で、沸点範囲が140〜290℃である脱硫灯油留分5〜40容量%と、パラフィン分の含有割合が90容量%以上であるパラフィン系基材5〜50容量%とを混合してなるものが好適である。
また、本発明の軽油組成物としては、硫黄分含有量が10質量ppm以下で、ベンゾアントラセン類の含有量が1.5〜15.0質量ppmであり、沸点範囲が170〜380℃である脱硫軽油留分20〜80容量%と、硫黄分含有量が10質量ppm以下で、沸点範囲が140〜290℃である脱硫灯油留分10〜35容量%と、パラフィン分の含有割合が90容量%以上であるパラフィン系基材10〜45容量%とを混合してなるものがより好適である。
さらに、本発明の軽油組成物としては、硫黄分含有量が10質量ppm以下で、ベンゾアントラセン類の含有量が1.5〜15.0質量ppmであり、沸点範囲が170〜380℃である脱硫軽油留分30〜70容量%と、硫黄分含有量が10質量ppm以下で、沸点範囲が140〜290℃である脱硫灯油留分10〜30容量%と、パラフィン分の含有割合が90容量%以上であるパラフィン系基材10〜40容量%とを混合してなるものがさらに好適である。
【0061】
硫黄分含有量が10質量ppm以下で、ベンゾアントラセン類の含有量が1.5〜15.0質量ppmであり、沸点範囲が170〜380℃である脱硫軽油留分の具体例や、硫黄分含有量が10質量ppm以下で、沸点範囲が140〜290℃である脱硫灯油留分の具体例は、後述するとおりである。
また、パラフィン分の含有割合が90容量%以上であるパラフィン系基材の具体例としては、パラフィン系基材の具体例として上述したものを挙げることができる。
【0062】
本出願書類において、上記脱硫軽油留分には、複数の脱硫軽油留分を混合してなるものが含まれるものとし、また、上記脱硫灯油留分には、複数の脱硫灯油留分を混合してなるものが含まれるものとする。この場合、複数の脱硫軽油留分を混合してなる脱硫軽油留分または複数の脱硫灯油留分を混合してなる脱硫灯油留分が、それぞれ上記特性を満たすものであればよい。
【0063】
なお、本出願書類において、脱硫軽油留分または脱硫灯油留分の沸点範囲は、JIS K 2254「石油製品−蒸留試験法」に準じて測定された値を意味する。
【0064】
本発明によれば、硫黄分含有量が10質量ppm以下に抑制されるとともに、粒子状物質の発生を抑制する優れた燃焼性を示し、過酷な条件下においても酸化安定性の低下を抑制し得るパラフィン系基材を混合してなる軽油組成物を提供することができる。
【0065】
本発明の軽油組成物は、上述した特定の組成および物性を有するように、パラフィン系基材を含む二種以上の軽油基材を混合して調製することができる。
【0066】
本発明の軽油組成物の調製に用いる軽油基材としては、例えば、原油を常圧蒸留して得られる灯油留分または軽油留分や、該灯油留分または軽油留分を脱硫した脱硫灯油留分または脱硫軽油留分を挙げることができる。
また、直接脱硫装置から得られる直接脱硫軽油留分、間接脱硫装置から得られる間接脱硫軽油留分等の脱硫軽油留分や、流動接触分解装置から得られる軽質サイクルオイル留分、およびこれ等の脱硫軽油留分留分や軽質サイクルオイル留分を常圧蒸留装置から得られる軽油留分と混合して更に脱硫処理した脱硫軽油留分等、通常軽油組成物の基材として使用されるものを適宜用いることができる。
【0067】
本発明の軽油組成物は、常圧蒸留装置から留出した軽油留分を脱硫処理して得られた脱硫軽油留分と、脱硫灯油留分とを基材として用いてなるものが好適である。
【0068】
上記軽油基材としては、コバルト、リン、モリブデンおよび有機酸を含有する触媒を用いて脱硫してなるものが好ましい。
また、上記軽油基材としては、得られる基材中のベンゾアントラセン類含有量、各芳香族化合物量、硫黄分含有量を監視しながら、反応温度、水素分圧、液空間速度、沸点範囲等を制御しつつ作製してなるものが好ましい。
【0069】
本発明の軽油組成物を製造する方法としては、硫黄分含有量が10質量ppm以下で、ベンゾアントラセン類の含有量が1.5〜15.0質量ppmであり、沸点範囲が170〜380℃である脱硫軽油留分10〜90容量%と、硫黄分含有量が10質量ppm以下で、沸点範囲が140〜290℃である脱硫灯油留分5〜40容量%と、パラフィン分の含有割合が90容量%以上であるパラフィン系基材5〜50容量%とを混合する方法(以下、本法による軽油組成物の調製方法を軽油組成物の製法Aと称する)を挙げることができる。
【0070】
軽油組成物の製法Aにおいて、上記脱硫軽油留分には、複数の脱硫軽油留分を混合してなるものが含まれるものとし、また、上記脱硫灯油留分には、複数の脱硫灯油留分を混合してなるものが含まれるものとする。この場合、複数の脱硫軽油留分を混合してなる脱硫軽油留分または複数の脱硫灯油留分を混合してなる脱硫灯油留分が、それぞれ上記特性を満たすものであればよい。
【0071】
軽油組成物の製法Aにおいて、脱硫軽油留分の沸点範囲は170〜380℃であり、180〜380℃がより好ましく、185〜375℃がさらに好ましい。本発明の軽油組成物において、脱硫軽油留分の沸点範囲が上記範囲内にあることにより、得られる軽油組成物の引火点と動粘度を適切な範囲に保つことができる。
【0072】
軽油組成物の製法Aにおいて、脱硫軽油留分の硫黄化合物量は、10質量ppm以下であり、9質量ppm以下であることが好ましく、5〜9質量ppmであることがより好ましい。
脱硫軽油留分中の硫黄化合物の含有量が上記範囲内にあることにより、得られる軽油組成物中の硫黄化合物の含有量を容易に所望範囲に制御することができる。
【0073】
軽油組成物の製法Aにおいて、脱硫軽油留分の3環芳香族分と4環芳香族分と5環芳香族分の総含有量は、850〜5000質量ppmであることが好ましく、900〜4500質量ppmであることがより好ましく、1500〜4200質量ppmであることがさらに好ましい。
軽油組成物の製法Aにおいて、3環芳香族分と4環芳香族分と5環芳香族分の総含有量が上記範囲内にあることにより、排ガス性状の低下を抑制しつつ、過酷な条件下においても酸化安定性の低下を抑制した軽油組成物を提供することができる。
【0074】
軽油組成物の製法Aにおいて、脱硫軽油留分のベンゾアントラセン類の含有量は、1.5〜15.0質量ppmであり、2.5〜12.0質量ppmであることがより好ましく、4.5〜12.0質量ppmであることがさらに好ましい。
脱硫軽油留分中のベンゾアントラセン類の含有量が上記範囲内にあることにより、得られる軽油組成物中のベンゾアントラセン類の含有量を容易に所望範囲に制御することができる。
【0075】
上記脱硫軽油留分は、その製造時において、得られる留分中のベンゾアントラセン類含有量、各芳香族化合物量、硫黄分含有量を監視しながら、反応温度、水素分圧、液空間速度、蒸留する沸点範囲等の反応条件を制御しつつ脱硫処理を施すことにより、硫黄分の含有量を抑制しつつ、3環〜5環芳香族化合物、特に酸化安定性向上に効果の高いベンゾアントラセン類の割合の高いものを容易に得ることができ、同様に、上記ベンゾアントラセン類を高い割合で含む軽油留分として、3環〜5環芳香族化合物の総含有量に対して4環芳香族化合物や5環芳香族化合物を所定の割合で含む軽油留分を容易に得ることができる。
【0076】
軽油組成物の製法Aにおいて、脱硫軽油留分の15℃における密度は、0.800〜0.860g/cm
3であることが好ましく、0.810〜0.860g/cm
3であることがより好ましく、0.820〜0.860であることがさらに好ましい。15℃における密度が上記範囲内にあることにより、得られる軽油組成物をディーゼルエンジンで使用したときに燃費を良好に保つことができる。
なお、本出願書類において、15℃における密度は、JIS K2249「原油及び石油製品−密度試験方法及び密度・質量換算表」に準じて測定した値を意味する。
【0077】
軽油組成物の製法Aにおいて、脱硫軽油留分の30℃における動粘度は2.5〜6.5mm
2/sであることが好ましく、3.0〜6.0mm
2/sであることがより好ましく、3.5〜5.2mm
2/sであることがさらに好ましい。
30℃における動粘度が上記範囲内にあることにより、得られる軽油組成物をディーゼルエンジンで使用したときに噴霧状態を良好に保つことができる。
なお、本出願書類において、30℃における動粘度は、JIS K2283「原油及び石油製品−動粘度試験方法及び粘度指数算出方法」に準じて測定した値を意味する。
【0078】
軽油組成物の製法Aにおいて、脱硫軽油留分のセタン指数は45〜70であることが好ましく、50〜70であることがより好ましく、55〜70であることがさらに好ましい。セタン指数が上記範囲内にあることにより、得られた軽油組成物をディーゼルエンジンで使用したときに着火性を良好に保ち易くなる。
なお、本出願書類において、セタン指数は、JIS K2280「石油製品−燃料油−オクタン価及びセタン価試験方法並びにセタン指数算出方法」に準じて測定した値を意味する。
【0079】
軽油組成物の製法Aにおいて、脱硫軽油留分中の引火点は70〜105℃であることが好ましく、80〜105℃であることがより好ましい。引火点が上記範囲内にあることにより、得られた軽油組成物を取り扱う際に静電気等による着火を低減することができる。
なお、本出願書類において、引火点は、JIS K2265「原油及び石油製品−引火点試験方法」に準じて測定した値を意味する。
【0080】
軽油組成物の製法Aにおいて、脱硫軽油留分の飽和分含有量は72〜90容量%であることが好ましく、75〜88容量%であることがより好ましく、77〜85容量%であることがさらに好ましい。
軽油組成物の製法Aにおいて、脱硫軽油留分の芳香族分の含有量は10〜28容量%であることが好ましく、12〜25容量%であることがより好ましく、15〜23容量%であることがさらに好ましい。
軽油組成物の製法Aにおいて、脱硫軽油留分の飽和分含有量および芳香族分含有量が上記範囲内にあることにより、得られた軽油組成物の着火性を良好に維持し易くなるとともに、低温性能を良好に保ち易くなる。
なお、本出願書類において上記飽和分含有量および芳香族分含有量は、JPI−5S−49−07「石油製品−炭化水素タイプ試験方法−高速液体クロマトグラフ法」に準じて測定した値を意味する。
【0081】
軽油組成物の製法Aにおいて、脱硫灯油留分の沸点範囲は、140〜290℃であり、143〜285℃がより好ましく、145〜280℃がさらに好ましい。
脱硫灯油留分中の沸点範囲が上記範囲内にあることにより、得られる軽油組成物の引火点と動粘度を適切な範囲に維持することができる。
【0082】
軽油組成物の製法Aにおいて、脱硫灯油留分の15℃における密度は、0.780〜0.815g/cm
3であることが好ましく、0.785〜0.810g/cm
3であることがより好ましい。15℃における密度が上記範囲内にあることにより、得られる軽油組成物をディーゼルエンジンで使用したときに燃費を良好に保つことができる。
なお、本出願書類において、15℃における密度は、JIS K2249「原油及び石油製品−密度試験方法及び密度・質量換算表」に準じて測定した値を意味する。
【0083】
軽油組成物の製法Aにおいて、脱硫灯油留分の引火点は40℃以上であることが好ましく、40〜53℃であることがより好ましい。引火点が上記範囲内にあることにより、得られた軽油組成物を取り扱う際に静電気等による着火を低減することができる。
なお、本出願書類において、引火点は、JIS K2265「原油及び石油製品−引火点試験方法」に準じて測定した値を意味する。
【0084】
軽油組成物の製法Aにおいて、脱硫灯油留分の飽和分含有量は75〜90容量%であることが好ましく、77〜88容量%であることがより好ましい。
軽油組成物の製法Aにおいて、脱灯油油留分の芳香族分の含有量は10〜25容量%であることが好ましく、12〜23容量%であることがより好ましい。
軽油組成物の製法Aにおいて、脱硫灯油留分の飽和分含有量および芳香族分含有量が上記範囲内にあることにより、得られる軽油組成物の着火性を良好に維持し易くなるとともに、低温性能を良好に維持し易くなる。
なお、本出願書類において上記飽和分含有量および芳香族分含有量は、JPI−5S−49−07「石油製品−炭化水素タイプ試験方法−高速液体クロマトグラフ法」に準じて測定した値を意味する。
【0085】
軽油組成物の製法Aにおいて、脱硫灯油留分の硫黄化合物量は、10質量ppm以下であり、9質量ppm以下であることが好ましく、5〜9質量ppm以下がより好ましい。
脱硫灯油留分の硫黄化合物の含有量が上記範囲内にあることにより、得られる軽油組成物中の硫黄分の含有量を容易に所望範囲に制御することができる。
なお、硫黄化合物量が10質量ppm以下である脱硫灯油留分は、通常、3環芳香族化合物や、ベンゾアントラセン類等の4環芳香族化合物や、5環芳香族化合物を含まない。
【0086】
上記脱硫灯油留分は、その製造時において、反応温度や触媒、水素分圧、液空間速度、蒸留する沸点範囲等の反応条件を制御しつつ脱硫処理を施すことにより、硫黄分等の含有量を抑制してなるものを容易に得ることができる。
【0087】
軽油組成物の製法Aにおいて、パラフィン系基材としては、上述したものと同様のものを挙げることができる。
【0088】
軽油組成物の製法Aにおいては、上記パラフィン系基材10〜45容量%と、上記脱硫軽油留分20〜80容量%と、上記脱硫灯油留分10〜35容量%とを混合することにより、目的とする軽油組成物を調製することがより好ましく、上記パラフィン基材10〜40容量%と、上記脱硫軽油留分30〜70容量%と、上記脱硫灯油留分10〜30容量%とを混合することにより、目的とする軽油組成物を調製することがさらに好ましい。
【0089】
軽油組成物の製法Aにおいては、得られる軽油組成物の3環芳香族化合物、4環芳香族化合物および5環芳香族化合物の総含有量、ベンゾアントラセン類の含有量が所望範囲内に納まるように制御しつつパラフィン系基材と脱硫軽油留分と脱硫灯油留分とを所望の割合で混合する。
【0090】
上述した製法により、硫黄分含有量が10質量ppm以下に抑制されるとともに、パラフィン系基材を含有してなるものであるにも拘わらず、粒子状物質の発生を抑制する優れた燃焼性を示し、過酷な条件下においても酸化安定性の低下を抑制し得る本発明の軽油組成物を簡便に製造することができる。
【実施例】
【0091】
以下、本発明を実施例および比較例に基づいて更に詳細に説明するが、本発明はこれ等の例により何ら限定されるものではない。
【0092】
(実施例1〜実施例4、比較例1〜比較例3)
(1)軽油基材
軽油基材として、脱硫軽油留分ULGO−1〜ULGO−4および脱硫灯油留分UKERO−1を用意した。これ等の軽油基材は、それぞれ以下の方法で得られたものである。
【0093】
(ULGO−1)
原油を常圧蒸留装置で分留して得られた沸点範囲が219〜376℃の直留軽油留分に対して、Co、P、Moおよび有機酸を含有する触媒を用いて、反応温度350℃、水素分圧4.5MPa、液空間速度0.9h
−1で、生成物のベンゾアントラセン類の含有量および硫黄分含有量が各々所定の範囲になるように、反応条件を調整しながら脱硫反応を行うことにより、沸点範囲が193〜372℃であるULGO−1を得た。
【0094】
(ULGO−2)
原油を常圧蒸留装置で分留して得られた沸点範囲が225〜368℃の直留軽油留分に対して、Co、P、Moおよび有機酸を含有する触媒を用いて、反応温度340℃、水素分圧6.5MPa、液空間速度0.7h
−1で、生成物のベンゾアントラセン類の含有量および硫黄分含有量が各々所定の範囲になるように、反応条件を調整しながら脱硫反応を行うことにより、沸点範囲が205〜364℃であるULGO−2を得た。
【0095】
(ULGO−3)
原油を常圧蒸留装置で分留して得られた沸点範囲が234〜373℃の直留軽油留分に対して、Co、P、Moおよび有機酸を含有する触媒を用いて、反応温度340℃、水素分圧6.6MPa、液空間速度0.6h
−1で、生成物のベンゾアントラセン類の含有量および硫黄分含有量が各々所定の範囲になるように、反応条件を調整しながら脱硫反応を行うことにより、沸点範囲が204〜369℃であるULGO−3を得た。
【0096】
(ULGO−4)
原油を常圧蒸留装置で分留して得られた沸点範囲が217〜372℃の直留軽油留分に対して、直接脱硫装置から得られた直接脱硫軽油留分をその含有割合が20容量%になるように混合したものを、Co、P、Moおよび有機酸を含有した触媒を用いて、反応温度350℃、水素分圧4.5MPa、液空間速度0.6h
−1で、生成物のベンゾアントラセン類の含有量および硫黄分含有量が各々所定の範囲になるように、反応条件を調整しながら脱硫反応を行うことにより、沸点範囲が187〜369℃であるULGO−4を得た。
【0097】
(UKERO−1)
原油を常圧蒸留装置で分留して得られた沸点範囲が150〜268℃の直留灯油留分に対して、Co、P、Moおよび有機酸を含有した触媒を用いて、反応温度310℃、水素分圧4.4MPa、液空間速度8.5h
−1で、生成物の硫黄分含有量が各々所定の範囲になるように、反応条件を調製しながら脱硫反応を行うことにより、沸点範囲が152〜266℃であるUKERO−1を得た。なお、UKERO−1の性状を表1に示す。
【0098】
(2)パラフィン系基材
パラフィン系基材として、表2に示す性状を有するフィッシャー・トロプシュ反応により得られたGTL油であるパラフィンAを用意した。このパラフィン系基材の性状を表2に示す。
【0099】
(3)軽油組成物の調整
上記脱硫軽油留分ULGO−1〜ULGO−4、脱硫灯油留分UKERO−1およびパラフィンAを、表3に示す割合になるように配合することにより、それぞれ、実施例1〜実施例4に係る軽油組成物および比較例1〜比較例3に係る軽油組成物を得た。
なお、実施例1〜実施例4、比較例1〜比較例3に係る軽油組成物に含有される、脱硫軽油留分(ULGO−1〜ULGO−4のいずれか単独またはこれ等の混合物)の留分名を、ULGO−A〜ULGO−Eとし、これ等の留分の性状を表4に示す。
【0100】
実施例1〜実施例4に係るパラフィン系基材、脱硫軽油留分、脱硫灯油留分、軽油組成物および比較例1〜比較例3に係るパラフィン系基材、脱硫軽油留分、脱硫灯油留分、軽油組成物において、硫黄分含有量をJIS K 2541に準拠して測定するとともに、上述した方法により、3環芳香族化合物量、4環芳香族化合物量、5環芳香族化合物量を測定することにより、3環芳香族化合物、4環芳香族化合物および5環芳香族化合物の総含有量(表中では、3環+4環+5環で表記)、3環芳香族化合物、4環芳香族化合物および5環芳香族化合物の総含有量に対する、4環芳香族化合物の含有量の質量比(4環芳香族化合物の全質量/3環芳香族化合物、4環芳香族化合物および5環芳香族化合物の総質量;表中では「4環芳香族化合物量/3環+4環+5環」で表記)、ならびに、3環芳香族化合物、4環芳香族化合物および5環芳香族化合物の総含有量に対する、5環芳香族化合物の含有量の質量比(5環芳香族化合物の全質量/3環芳香族化合物、4環芳香族化合物および5環芳香族化合物の総質量;表中では「5環芳香族化合物量/3環+4環+5環」で表記)を求めた。結果を表1、表2、表4、表5に示す。
また、上記各脱硫軽油留分、脱硫灯油留分、軽油組成物において、上述した方法によりベンゾアントラセン類の含有量を求めた。結果を表1、表4、表5に示す。
【0101】
さらに、実施例1〜実施例4に係るパラフィン系基材、脱硫軽油留分、脱硫灯油留分、軽油組成物および比較例1〜比較例3に係るパラフィン系基材、脱硫軽油留分、脱硫灯油留分、軽油組成物の飽和分含有量および芳香族分含有量をJPI−5S−49−07「石油製品−炭化水素タイプ試験方法−高速液体クロマトグラフ法」により測定するとともに、15℃における密度をJIS K 2249に準拠して測定するとともに、30℃における動粘度をJIS K 2283に準拠して測定し、引火点をJIS K 2265に準拠して測定し、セタン指数をJIS K 2280に準拠して測定し、セタン指数をJIS K 2280に準拠して測定し、セーボルト色をJIS K 2580に準拠して測定した。
また、IBP、T10、T50、T90およびEPをJIS K2254「石油製品−蒸留試験方法」に準じて測定した。結果を表1、表2、表4、表5に示す。
また、上記パラフィン系基材、脱硫軽油留分、軽油組成物において、上述した方法によりパラフィン分の含有割合を求めた。結果を表2、表4、表5に示す。
【0102】
【表1】
【0103】
【表2】
【0104】
【表3】
【0105】
【表4】
【0106】
【表5】
【0107】
実施例1〜実施例4に係る軽油組成物および比較例1〜比較例3に係る軽油組成物の酸化安定性を評価するために、JIS K2287「ガソリン−酸化安定性試験方法−誘導期間法」に準拠しつつ、試験温度を100℃から140℃に変更して、より過酷な条件下における酸化安定性の指標として、誘導期間を求めた。なお、本試験における誘導期間は、容器内の圧力が最大値から10%降下するまでの時間とした。結果を表6に示す。
【0108】
加えて、実施例1〜実施例4に係る軽油組成物および比較例1〜比較例3に係る軽油組成物の酸化安定性を評価するために、容器内で一定期間、100℃での貯蔵を行った後の軽油組成物のパーオキサイド(過酸化物)量を測定した。上記パーオキサイド量の測定は、JPI−5S−46−96「灯油の過酸化物試験方法」に準拠して行った。試験温度を100℃および従来の試験方法よりもより高温度である140℃として、試験後のパーオキサイド量を測定した。結果を表6に示す。
試験温度:100℃または140℃
試料量 :300ml
容器材質:ほう珪酸ガラス
容器容量:500ml
雰囲気 :酸素常圧密閉
光の有無:暗所
鋼片(SPCC):1×20×50mmを1枚
試験期間:20時間
【0109】
さらに、実施例1〜実施例4に係る軽油組成物および比較例1〜比較例3に係る軽油組成物の燃焼性を評価するために、ディーゼルエンジンを用いて排出ガス試験を実施し、粒子状物質排出量の指標となる黒煙濃度を測定した。上記排出ガス試験は、TRIAS 24−5−1999「ディーゼル自動車13モード排出ガス試験方法」に準拠し、いすゞ自動車(株)製ディーゼルエンジン(型式:4HL1)および(株)司測研製スモークメータ(MODEL GSM(登録商標)−10)を用い、エンジン回転数1800rpm、負荷60%の定常条件で実施した。測定で得られた黒煙濃度について、実施例3での測定結果を1.0とした場合の相対黒煙濃度を表6に示す。
【0110】
【表6】
【0111】
表6より、実施例1〜実施例4で得られた軽油組成物は、いずれも誘導期間が95分以上と長く、100℃の貯蔵試験後においてもパーオキサイド量が1質量ppm未満であることが分かる。また、より過酷な条件である140℃の貯蔵試験後においてもパーオキサイド量は25質量ppm以下の低いレベルであることが分かる。
上記誘導期間が長いとは、酸化安定性の低下の初期に酸素と反応しやすい物質が少なく、ラジカル連鎖反応による軽油組成物の劣化が起こりにくいことを意味し、また、上記貯蔵試験後のパーオキサイド量が少ないとは、長期に亘ってパーオキサイドが発生しにくく、パーオキサイドとなった軽油組成物成分の分解による酸の生成や、パーオキサイドとなった軽油組成物成分の重合によるガムおよびスラッジの生成が起こりにくいことを意味することから、実施例1〜実施例4で得られた軽油組成物は、いずれも酸化安定性に優れ、近年のディーゼルエンジンにおける過酷な条件下においても酸化安定性の低下を抑制し得るものであることが分かる。
また、表6より、実施例1〜実施例4で得られた軽油組成物は、エンジン試験での相対黒鉛濃度が低いことから、粒子状物質の発生を抑制する優れた燃焼性を示すものであることが分かる。
【0112】
一方、表6より、比較例1〜比較例2で得られた軽油組成物は誘導期間が実施例1〜実施例4と比べて短く、100℃および140℃の貯蔵試験後におけるパーオキサイド量は実施例1〜実施例4と比べて多い。比較例1は100℃の貯蔵試験後のパーオキサイド量が1質量ppmと実施例に近い値ではあるが、140℃の貯蔵試験後のパーオキサイド量は実施例1〜実施例4と比べて多いことが分かり、上記酸化安定性の低下に伴って生じたパーオキサイドは、それ自体が酸化剤となり、軽油組成物のさらなる酸化を促進することから、比較例1〜比較例2で得られた軽油組成物は、いずれも酸化安定性が低下しやすいものであることが分かる。
また、表6より、比較例3で得られた軽油組成物は、相対黒煙濃度が大幅に増加しており、粒子状物質の発生量を増加させる燃焼性が低いものであることが分かる。