特許第5684190号(P5684190)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5684190
(24)【登録日】2015年1月23日
(45)【発行日】2015年3月11日
(54)【発明の名称】フィルム製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 47/14 20060101AFI20150219BHJP
   B29C 47/06 20060101ALI20150219BHJP
   B29C 47/92 20060101ALI20150219BHJP
【FI】
   B29C47/14
   B29C47/06
   B29C47/92
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-94640(P2012-94640)
(22)【出願日】2012年4月18日
(65)【公開番号】特開2013-220616(P2013-220616A)
(43)【公開日】2013年10月28日
【審査請求日】2013年3月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004215
【氏名又は名称】株式会社日本製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】富山 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】川上 孝之
【審査官】 中山 基志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−240126(JP,A)
【文献】 特開2002−327011(JP,A)
【文献】 特開2006−130744(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C47/00−47/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の樹脂材からなるフィルムを製造するフィルム製造方法において、
Tダイからの樹脂吐出方向に交差する、前記第1の樹脂材の幅方向の両端部に、前記第1の樹脂材よりも歪み硬化度が高い第2の樹脂材が積層されるように、前記Tダイから溶融された前記第1の樹脂材及び前記第2の樹脂材を吐出する第1のステップと、
前記Tダイから吐出された前記第1の樹脂材及び前記第2の樹脂材を冷却、固化し、前記フィルムを成形する第2のステップと、
成形された前記フィルムの幅方向の両端部から、前記第1の樹脂材に前記第2の樹脂材が積層された部分を除去する第3のステップと、
を有し、
前記第2の樹脂材は、前記第1の樹脂材の歪み硬化度よりも20%以上大きい歪み硬化度を有し、
前記第2のステップでは、前記Tダイから吐出された前記第1の樹脂材及び前記第2の樹脂材が接触する成形ローラを回転させて、前記フィルムを200[m/min]以上の成形速度で成形することを特徴とするフィルム製造方法。
【請求項2】
第1の樹脂材からなるフィルムを製造するフィルム製造方法において、
Tダイからの樹脂吐出方向に交差する、前記第1の樹脂材の幅方向の両端部に、前記第1の樹脂材よりも歪み硬化度が高い第2の樹脂材が積層されるように、前記Tダイから溶融された前記第1の樹脂材及び前記第2の樹脂材を吐出する第1のステップと、
前記Tダイから吐出された前記第1の樹脂材及び前記第2の樹脂材を冷却、固化し、前記フィルムを成形する第2のステップと、
成形された前記フィルムの幅方向の両端部から、前記第1の樹脂材に前記第2の樹脂材が積層された部分を除去する第3のステップと、
を有し、
前記第1の樹脂材は、0.10よりも大きく0.15以下の範囲の歪み硬化度を有し、
前記第2の樹脂材は、0.15よりも大きい歪み硬化度を有し、
前記第2のステップでは、前記Tダイから吐出された前記第1の樹脂材及び前記第2の樹脂材が接触する成形ローラを回転させて、前記フィルムを250[m/min]以上の成形速度で成形することを特徴とするフィルム製造方法。
【請求項3】
第1の樹脂材からなるフィルムを製造するフィルム製造方法において、
Tダイからの樹脂吐出方向に交差する、前記第1の樹脂材の幅方向の両端部に、前記第1の樹脂材よりも歪み硬化度が高い第2の樹脂材が積層されるように、前記Tダイから溶融された前記第1の樹脂材及び前記第2の樹脂材を吐出する第1のステップと、
前記Tダイから吐出された前記第1の樹脂材及び前記第2の樹脂材を冷却、固化し、前記フィルムを成形する第2のステップと、
成形された前記フィルムの幅方向の両端部から、前記第1の樹脂材に前記第2の樹脂材が積層された部分を除去する第3のステップと、
を有し、
前記第1の樹脂材は、0.10以下の歪み硬化度を有し、
前記第2の樹脂材は、0.15よりも大きい歪み硬化度を有し、
前記第2のステップでは、前記Tダイから吐出された前記第1の樹脂材及び前記第2の樹脂材が接触する成形ローラを回転させて、前記フィルムを200[m/min]以上の成形速度で成形することを特徴とするフィルム製造方法。
【請求項4】
前記第1のステップでは、前記Tダイから吐出される前記第1の樹脂材の前記幅方向の一端から10mm以上、300mm以下の範囲に、前記第2の樹脂材を積層する、請求項1ないしのいずれか1項に記載のフィルム製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
Tダイから吐出された、溶融した樹脂材を冷却、固化してフィルムを形成するフィルム製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
CPP(Casting Polypropylene film)の呼称で代表される高速無延伸フィルムの製造方法では、押出機において、固体樹脂材を溶融、可塑化した後、Tダイから溶融した樹脂材を押出し、成形ロールに接触させて冷却、固化し、成形されたフィルムの巻き取りを行う方法が一般的である。このフィルムの製造方法において、Tダイは、樹脂材が押し出される吐出幅が2000mm以上であり、出口ギャップが、0.5mmから2mm程度であることが多く、成形ロールによって冷却、固化した後に、成形された最終フィルム厚みが50μm以下であることが一般的である。
【0003】
このTダイの出口ギャップtdieと最終フィルム厚みtfilmとの比(tdie/tfilm)はドラフト比と呼ばれている。このドラフト比が大きくなるほど、Tダイから吐出された樹脂材が成形ロールの周面に接するまでの区間(「エアギャップ」という)において、引き取り方向へ大きく加速されることになる。出口ギャップtdieと最終フィルム厚みtfilm、及びエアギャップLが定められた条件で、成形速度を高めるためには、樹脂材の押出量、つまりTダイ出口からの押出速度v0と成形ロールの周速度v1を高めることが必要である。図7に示すエアギャップLの区間において、溶融した樹脂材が受ける引き取り方向への伸長速度Veは、下記(1)式によって求めることができる。成形速度を高速化した場合には、伸長速度Veも成形速度に比例して高くなることになる。
樹脂材そのものの特性に関して、樹脂材は、高分子材料であるので、非常に長い鎖状を形成する。樹脂材は、種類により、直鎖状であったり、側鎖を有するものであったり様々であるが、分子量の大小も影響して、流動状態において鎖状高分子が引き延ばされる際に分子同士の絡み合いに大きな影響を与える。この絡み合いの強さは、溶融した樹脂材の一軸伸長粘度の歪み硬化性として現れる。この歪み硬化性とは、一軸伸長粘度の測定装置を用いて測定した、歪み速度が一定のもとでの一軸伸長粘度の経時応答に関して、始めは線形的に増加していた伸長粘度が、あるときを境に線形領域よりも増加して非線形領域を有する特性を指している。その歪み硬化性の程度(粘度の上昇の大きさ)を数値化する方法として歪み硬化度λがある。
【0004】
この歪み硬化度λの定義方法としては、レオメータを用いて測定したポリプロピレン(PP)の粘度の測定結果に基づいて歪み硬化度λを定義した。樹脂材の温度が190℃のときに、歪み速度15.0[s-1]での伸長粘度をη1、歪み速度1.0[s-1]での伸長粘度をη2とした。
【0005】
樹脂材の伸張粘度η1が非線形領域を示した後に、それぞれの粘度比(η1/η2)を各時間で計算することで、その値が歪み速度15.0[s-1]における歪み硬化性の指標となる。また、各時間における歪み量は、時間×歪み速度によって計算することができるので、粘度比(η1/η2)を求めた各時間に、歪み速度15.0[s-1]を積算することで一軸伸長歪み量が求められる。このようにして求めた粘度比の対数である[ln(η1/η2)]を縦軸に示し、一軸伸長歪み量を横軸に示して、グラフ上に点を示すことで直線状の関係が得られる。このグラフ上の点について最小二乗法による直線近似を行うことで、その直線の傾きが、樹脂材の歪み硬化度λとして定義できる。この伸長粘度の測定による歪み硬化度λの定義方法は、例えば特許文献1や非特許文献1に記載された公知の技術である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−327011号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】小山清人;日本レオロジー学会誌,19,174(1991)
【非特許文献2】H.Ishihara, M. Shibaya and K. Ikeda, Nihon Reoroji Gakkaishi, Vol.34, No.1, 3(2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した無延伸フィルムの製造方法では、フィルムの成形速度の高速化が求められている。無延伸フィルムの製造方法における高速化の課題は、Tダイから吐出された樹脂材の幅が、エアギャップ領域において周期的に変化するドローレゾナンス現象と呼ばれる不安定現象が生じることにある。この現象が発生した場合、成形されたフィルムの中央部の厚みは安定しているものの、フィルムの幅方向の末端位置が幅方向に変動するので、端部領域の厚みが不安定になる。この現象は、伸長粘度が低い樹脂材が、所定のドラフト比以上になったときに発生することが知られており、例えば非特許文献2に記載されている。さらに、伸長粘度の歪み硬化度λが低い樹脂材ほど、上述のドローレゾナンス現象が生じ易いことも知られている。
【0009】
図7に、フィルム製造工程において、Tダイから成形ロールまで移動する樹脂材の挙動の概略と各成形因子を説明するための模式図を示す。例えば図7に示すように、Tダイの出口ギャップtdie、成形されたフィルムの最終フィルム厚みtfilm及びエアギャップLが定められた条件、つまりドラフト比(tdie/tfilm)が一定の条件において、成形ロールRの周速度v1が低いときには安定している。しかしながら、成形ロールRの周速度v1を高めたときにドローレゾナンス現象が発生し、成形されたフィルムの搬送中に、フィルムの幅方向の端部に破断が生じ、安定した成形が行えなくなるケースが多く生じる。このような不安定な成形を避けるために、フィルムの製造工程では、エアナイフやエアノズル、静電ピンニングなどの設備が併用されている。しかし、このような設備を用いた方法においても、ドローレゾナンス現象そのものを解消する方法ではないので、フィルムの成形速度の高速化の限界値を飛躍的に高めることが困難である。
【0010】
そこで、本発明の目的は、歪み硬化度が低い樹脂材を用いてフィルムを成形する場合であっても、フィルムの成形速度を高めることができるフィルム製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した目的を達成するため、本発明に係るフィルム製造方法は、第1の樹脂材からなるフィルムを製造するフィルム製造方法において、Tダイからの樹脂吐出方向に交差する、第1の樹脂材の幅方向の両端部に、第1の樹脂材よりも歪み硬化度が高い第2の樹脂材が積層されるように、Tダイから溶融された第1の樹脂材及び第2の樹脂材を吐出する第1のステップと、Tダイから吐出された第1の樹脂材及び第2の樹脂材を冷却、固化し、フィルムを成形する第2のステップと、成形されたフィルムの幅方向の両端部から、第1の樹脂材に第2の樹脂材が積層された部分を除去する第3のステップと、を有する。第2の樹脂材は、第1の樹脂材の歪み硬化度よりも20%以上大きい歪み硬化度を有する。第2のステップでは、Tダイから吐出された第1の樹脂材及び第2の樹脂材が接触する成形ローラを回転させて、フィルムを200[m/min]以上の成形速度で成形することを特徴とする。
また、本発明に係るフィルム製造方法は、第1の樹脂材からなるフィルムを製造するフィルム製造方法において、Tダイからの樹脂吐出方向に交差する、第1の樹脂材の幅方向の両端部に、第1の樹脂材よりも歪み硬化度が高い第2の樹脂材が積層されるように、Tダイから溶融された第1の樹脂材及び第2の樹脂材を吐出する第1のステップと、Tダイから吐出された第1の樹脂材及び第2の樹脂材を冷却、固化し、フィルムを成形する第2のステップと、成形されたフィルムの幅方向の両端部から、第1の樹脂材に第2の樹脂材が積層された部分を除去する第3のステップと、を有する。第1の樹脂材は、0.10よりも大きく0.15以下の範囲の歪み硬化度を有する。第2の樹脂材は、0.15よりも大きい歪み硬化度を有する。第2のステップでは、Tダイから吐出された第1の樹脂材及び第2の樹脂材が接触する成形ローラを回転させて、フィルムを250[m/min]以上の成形速度で成形することを特徴とする。
また、本発明に係るフィルム製造方法は、第1の樹脂材からなるフィルムを製造するフィルム製造方法において、Tダイからの樹脂吐出方向に交差する、第1の樹脂材の幅方向の両端部に、第1の樹脂材よりも歪み硬化度が高い第2の樹脂材が積層されるように、Tダイから溶融された第1の樹脂材及び第2の樹脂材を吐出する第1のステップと、Tダイから吐出された第1の樹脂材及び第2の樹脂材を冷却、固化し、フィルムを成形する第2のステップと、成形されたフィルムの幅方向の両端部から、第1の樹脂材に第2の樹脂材が積層された部分を除去する第3のステップと、を有する。第1の樹脂材は、0.10以下の歪み硬化度を有する。第2の樹脂材は、0.15よりも大きい歪み硬化度を有する。第2のステップでは、Tダイから吐出された第1の樹脂材及び第2の樹脂材が接触する成形ローラを回転させて、フィルムを200[m/min]以上の成形速度で成形することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、歪み硬化性が低い樹脂材を用いてフィルムを成形する場合であっても、成形速度を高めることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】PP−A樹脂材における一軸伸長粘度の測定データを示す図である。
図2】PP−A樹脂材における歪み硬化度を求めるための一軸伸長粘度の演算データを示す図である。
図3】PP−B樹脂材における一軸伸長粘度の測定データを示す図である。
図4】PP−B樹脂材における歪み硬化度を求めるための一軸伸長粘度の演算データを示す図である。
図5】PP−B樹脂材(PP−C樹脂材)を用いた無延伸フィルムの成形実験において、PP−B樹脂材(PP−C樹脂材)の幅方向の両端部にPP−A樹脂材を積層したときのフィルムの歪み硬化度と成形限界速度との関係を示す図である。
図6】PP−C樹脂材の歪み硬化度を求めるための一軸伸長粘度の演算データを示す図である。
図7】フィルム製造工程において、Tダイから成形ロールまで移動する樹脂材の挙動の概略と各成形因子を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る実施形態について図面を参照して説明する。
【0015】
実施形態の無延伸フィルムの製造方法は、第1の樹脂材からなるフィルムを製造するフィルム製造方法において、Tダイからの樹脂吐出方向に直交する、第1の樹脂材の幅方向の両端部に、第1の樹脂材よりも歪み硬化度が高い第2の樹脂材が積層されるように、Tダイから溶融された第1の樹脂材及び第2の樹脂材を吐出する第1のステップと、Tダイから吐出された第1の樹脂材及び第2の樹脂材を冷却、固化し、フィルムを成形する第2のステップと、成形されたフィルムの幅方向の両端部から、第1の樹脂材に第2の樹脂材が積層された部分を除去する第3のステップと、を有する。第2のステップでは、Tダイから吐出された第1の樹脂材及び第2の樹脂材が接触する成形ローラを回転させて、フィルムを所定の成形速度で形成する。
【0016】
言い換えれば、本実施形態の無延伸フィルムの製造方法は、最終的にフィルム製品となる第1の樹脂材をTダイから吐出するときに、最終的にトリミングを行うことでフィルム製品とはならない、第1の樹脂材の幅方向の両端部に、フィルム製品を形成する第1の樹脂材よりも高い歪み硬化度λを有する第2の樹脂材を吐出して積層することを特徴とする。
【0017】
具体的には、例えばポリプロピレン樹脂材(PP樹脂材)を用いてフィルムを成形する場合、PP樹脂材は高分子の絡み合いが生じ難いために歪み硬化度が低い。特に無延伸フィルムの成形に用いられるPP樹脂材は、分子量が比較的低いので、一軸伸長粘度が歪み硬化性を示さず、線形領域を逸しない傾向にある。このようなPP樹脂材の歪み硬化度λは0.2以下を示し、特にフィルムの成形速度の高速化が困難なPP樹脂材は0.15以下を示す。
【0018】
歪み硬化度λが0.15以下であるPP樹脂材では、成形速度を200[m/min]以上で成形することが困難であるが、歪み硬化度λが0.15よりも高いPP樹脂材を、歪み硬化度λが0.15以下である樹脂材の幅方向の端部に積層することによって、200[m/min]以上の成形速度で高速に成形することが可能となる。
【0019】
本実施形態では、レオメータ(Anton Paar社製:製品名:MCR−301)を用いて、後述する図1及び図3に示すように、PP樹脂材の粘度の測定結果に基づいて歪み硬化度λを定義した。PP樹脂材の温度が190℃のときに、歪み速度15.0[s-1]での伸長粘度をη1、歪み速度1.0[s-1]での伸長粘度をη2とした。
【0020】
PP樹脂材の伸張粘度η1が非線形領域を示した後に、それぞれ伸長粘度η1、η2の粘度比(η1/η2)を各時間で計算することで、その値が歪み速度15.0[s-1]における歪み硬化性の指標となる。また、各時間における歪み量は、時間×歪み速度によって計算することができるので、粘度比を求めた各時間に、歪み速度15.0[s-1]を積算することで一軸伸長歪み量が求められる。このようにして求めた粘度比の対数[ln(η1/η2)]を縦軸とし、一軸伸長歪み量を横軸として、グラフ上に点として示すことで、後述する図2図4図6に示すような直線状の関係が得られる。このグラフに示した各点について最小二乗法による直線近似を行い、その直線の傾きを、PP樹脂材の歪み硬化度λとして定義する。
【0021】
図1に、比較的高速で無延伸フィルムを製造することが可能な第2の樹脂材としてのポリプロピレン樹脂材A(以下「PP−A樹脂材」)に関する一軸伸長粘度の測定データを示す。図1において、測定条件として、PP−A樹脂材の温度が190℃のときに歪み伸張速度が1.0[s-1]と15.0[s-1]について一軸伸長粘度をそれぞれ測定した。
【0022】
図2に、PP−A樹脂材について、粘度比(η1/η2)の対数と、一軸伸長歪み量との関係を示す。図2において、歪み伸張速度が15.0[s-1]での伸長粘度をη1、歪み伸張速度が1.0[s-1]での伸長粘度をη2とする。図2において、縦軸が、伸張粘度η1が非線形領域を示した後の粘度比(η1/η2)を各時間で計算した値の対数、すなわち粘度比の対数を示し、横軸が、一軸伸長歪み量を示す。
【0023】
また、図2中に示す直線は、図2中の各点を最小二乗法によって近似した直線である。この直線の傾き「0.1605」が、PP−A樹脂材の歪み硬化度λAであり、0.15よりも大きい。
【0024】
図3に、第1の樹脂材としてのポリプロピレン樹脂材B(以下「PP−B樹脂材」)単体での無延伸フィルム製造において、150[m/min]以上の成形速度を達成できなかったPP−B樹脂材の一軸伸長粘度の測定データを示す。図3において、一軸伸長粘度の測定条件は、図1に示したPP−A樹脂材における測定条件と同様である。
【0025】
図4に、PP−B樹脂材について、図2と同様に、粘度比(η1/η2)の対数と、一軸伸長歪み量との関係、各点の近似線を示す。図4に示す直線から得られた、PP−B樹脂材の歪み硬化度λBは、「0.0953」であり、0.10以下である。
【0026】
図5において白丸で示す点PA、PBは、PP−A樹脂材及びPP−B樹脂材それぞれの単一樹脂材を用いて無延伸フィルムを成形する成形実験における成形限界速度を示している。
【0027】
成形条件は、Tダイの出口幅が1200mm、出口ギャップが1.5mm、エアギャップが110mm、吐出される樹脂材の温度が210℃であり、樹脂材の成形ロールへの密着性を高めるために、バキュームチャンバーと、フィルムの幅方向の両端部のみに配置されたエアノズルとを併用して、厚み20μmのフィルムの製造を行った。
【0028】
図5における横軸は、PP−A樹脂材、PP−B樹脂材それぞれの歪み硬化度λA、λBを示す。図5に示すように、歪み硬化度λAが比較的高いPP−A樹脂材の成形限界速度は275[m/min]であったが、歪み硬化度λBが低いPP−B樹脂材では133[m/min]しか達成できなかった。このことは、歪み硬化度λが低くなるほど、エアギャップにおけるフィルムの不安定現象が顕著になり、高速成形が困難になることを示すものである。
【0029】
PP−B樹脂材からなる無延伸フィルムの製造を200[m/min]以上の成形速度で行うために、Tダイから吐出するときに、PP−B樹脂材の幅方向の両端部に、両端からそれぞれ100mmの範囲にわたってPP−A樹脂材を積層した。
【0030】
PP−A樹脂材に着色剤を混ぜて用いた成形条件にて、PP−B樹脂材の幅方向の両端部にPP−A樹脂材を重ねた状態で、TダイからPP−B樹脂材及びPP−A樹脂材をフローダウン(垂れ流し)させる。そして、成形実験では、成形ロールによってPP−B樹脂材及びPP−A樹脂材が冷却された後、成形されたフィルムを巻き取るまでの区間において、フィルムの幅方向の両端部側をそれぞれ幅150mmでトリミングした。これによって、PP−B樹脂材にPP−A樹脂材が重ねられた部分が除去され、最終的に、PP−B樹脂材のみからなるフィルム製品を形成した。この成形実験によれば、成形限界速度が、図5において黒丸の点PDで示したように、225[m/min]まで上昇した。
【0031】
上述のように、0.10以下の歪み硬化度λBを有するPP−B樹脂材の幅方向の両端部に、0.15よりも大きい歪み硬化度λAを有するPP−A樹脂材を積層することで、200[m/min]以上の成形速度でフィルムを成形することができた。
【0032】
また、第2の樹脂材としてのPP−A樹脂材は、第1の樹脂材としてのPP−B樹脂材の歪み硬化度λBよりも20%以上大きい歪み硬化度λAを有する第2の樹脂材を用いることで、200[m/min]以上の成形速度を達成する効果が得られる。第2の樹脂材の歪み硬化度λAが20%未満の場合には、成形速度を高める効果が不十分であった。
【0033】
また、この成形実験において、PP−B樹脂材にPP−A樹脂材を積層する幅を増した場合について評価も行った。PP−A樹脂材を積層する幅が増えるのに従って成形限界速度が上昇する傾向にあったが、幅が300mmを超えたときに成形限界速度が安定化し、得られる効果が頭打ちとなった。
【0034】
PP−A樹脂材を積層する幅が10mm未満の場合には、PP−B樹脂材を補強する作用が十分に得られず、成形速度を高める効果が十分に得られない。PP−A樹脂材を積層する幅が300mmを超えた場合には、十分な成形速度が得られるものの、積層するPP−A樹脂材の積層量が増え、成形後に切断して廃棄される部分も増えるので、製造コストの観点からも好ましくない。
【0035】
また、上記と同様に、PP−B樹脂材の代わりの別の第1の樹脂材として、歪み硬化度λCが「0.1271」のポリプロピレン樹脂材(以下「PP−C樹脂材」)を用いて、PP―C樹脂材の幅方向の両端部にPP−A樹脂材を積層してフィルムの製造を行った結果を、図5及び図6に示す。このときの成形条件は、上述の成形条件と同様である。
【0036】
図6に、PP−C樹脂材における一軸伸長粘度の測定データに基づいて歪み硬化度を算出した図を示す。PP−C樹脂材単体でフィルムを成形した場合、図5において白丸の点PCで示すように、成形限界速度が195[m/min]であった。これに対し、PP−C樹脂材の幅方向の両端部にPP−A樹脂材を積層してフィルムの製造を行った場合、図5において黒丸の点PEで示したように、成形限界速度を255[m/min]まで上昇させることができた。
【0037】
PP−B樹脂材及びPP−C樹脂材の幅方向の両端部に、PP−A樹脂材を積層した場合、いずれの場合においても成形限界速度が上昇し、250[m/min]以上の成形速度を達成できた。PP−A樹脂材とPP−B樹脂材との歪み硬化度の差(λAB)は1.68で、PP−C樹脂材とPP−A樹脂材との差(λAC)は1.26であり、幅方向の端部における歪み硬化度の差が高いほど成形限界速度の上昇率が高くなった。
【0038】
上述のように、0.10よりも大きく0.15以下の範囲の歪み硬化度λCを有するPP−C樹脂材の幅方向の両端部に、0.15よりも大きい歪み硬化度λAを有するPP−A樹脂材を積層することで、250[m/min]以上の成形速度でフィルムを成形することができた。また、図6に示したように、フィルムをなす第1の樹脂材の歪み硬化度が大きくなるのに比例して、成形限界速度が高くなった。
【0039】
以上のように、歪み硬化度λBが低いPP−B樹脂材を用いて無延伸フィルムの製造を行う場合、その物性値である歪み硬化度λAが高いPP−A樹脂材を、PP−B樹脂材の幅方向の両端部に積層させる。これによって、PP―B樹脂材を用いてフィルムを成形する場合であっても、PP−A樹脂材単体を用いた成形時と同程度まで成形速度を到達させることが困難であるものの、PP−B樹脂材単体を用いる成形時に比べて成形速度の大幅な向上を達成することができた。
【0040】
上述したように、本実施形態の無延伸フィルムの製造方法によれば、成形限界速度を高めることが困難であった、歪み硬化度λが低い樹脂材を用いたフィルムの製造工程において、Tダイから溶融したPP−B樹脂材(PP−C樹脂材)を吐出するときに、PP−B樹脂材(PP−C樹脂材)の幅方向の両端部に、歪み硬化度λが高いPP−A樹脂材を積層させることで、ドローレゾナンス現象の発生を抑制し、フィルムの成形速度の高速化を図ることができる。
【0041】
本発明は、歪み硬化度λが0.15以下の第1の樹脂材を用いる場合を対象としたフィルムの製造方法だけに限定されるものではなく、一般的に歪み硬化度λが0.5以上を示すポリエチレンなどの第1の樹脂材を用いる場合であっても、フィルムの幅方向の両端部に、第1の樹脂材の歪み硬化度以上の歪み硬化度λを有する第2の樹脂材を積層することで、更なる高速成形を達成することが可能になる。また、第1の樹脂材と第2の樹脂材は、異なる種類の樹脂材であってもよいことは勿論である。
【符号の説明】
【0042】
A PP−A樹脂材の成形限界速度
B PP−B樹脂材の成形限界速度
C PP−C樹脂材の成形限界速度
D PP−B樹脂材にPP−A樹脂材を積層した場合の成形限界速度
E PP−C樹脂材にPP−A樹脂材を積層した場合の成形限界速度
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7