特許第5684231号(P5684231)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ローズマウント インコーポレイテッドの特許一覧

特許5684231回線ノイズを検知・解析し、計測誤差を減少させる方法
<>
  • 特許5684231-回線ノイズを検知・解析し、計測誤差を減少させる方法 図000002
  • 特許5684231-回線ノイズを検知・解析し、計測誤差を減少させる方法 図000003
  • 特許5684231-回線ノイズを検知・解析し、計測誤差を減少させる方法 図000004
  • 特許5684231-回線ノイズを検知・解析し、計測誤差を減少させる方法 図000005
  • 特許5684231-回線ノイズを検知・解析し、計測誤差を減少させる方法 図000006
  • 特許5684231-回線ノイズを検知・解析し、計測誤差を減少させる方法 図000007
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5684231
(24)【登録日】2015年1月23日
(45)【発行日】2015年3月11日
(54)【発明の名称】回線ノイズを検知・解析し、計測誤差を減少させる方法
(51)【国際特許分類】
   H04B 15/04 20060101AFI20150219BHJP
   G08C 25/00 20060101ALI20150219BHJP
   H03M 1/08 20060101ALI20150219BHJP
【FI】
   H04B15/04
   G08C25/00 B
   H03M1/08 A
【請求項の数】13
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-504801(P2012-504801)
(86)(22)【出願日】2010年4月7日
(65)【公表番号】特表2012-523758(P2012-523758A)
(43)【公表日】2012年10月4日
(86)【国際出願番号】US2010030179
(87)【国際公開番号】WO2010118091
(87)【国際公開日】20101014
【審査請求日】2013年2月25日
(31)【優先権主張番号】12/420,461
(32)【優先日】2009年4月8日
(33)【優先権主張国】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】597115727
【氏名又は名称】ローズマウント インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100098914
【弁理士】
【氏名又は名称】岡島 伸行
(72)【発明者】
【氏名】ルド, ジェイソン, ハロルド
(72)【発明者】
【氏名】アーントソン, ダグラス, ウェイン
【審査官】 野元 久道
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭57−071097(JP,A)
【文献】 特開2007−047211(JP,A)
【文献】 特開平04−165954(JP,A)
【文献】 実開平05−041228(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 15/04
G08C 25/00
H03M 1/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノイズ振幅の閾値を設定する工程と、
プロセス信号成分と回線ノイズ成分を含むセンサ信号を生成するため、プロセス変数を検知する工程と、
所定のサンプリングレートでセンサ信号をデジタル化する工程と、
デジタル化されたセンサ信号とノイズ振幅の閾値とを比較する工程と、
センサ信号がノイズ振幅の閾値と交差する時点を示す割り込み信号を生成する工程と、
センサ信号の振幅がノイズ振幅の閾値と等しいかまたはこれを上回るときには、前記割り込み信号に基づいて、サンプリングレートを低下させる工程とを含み、
低下された前記サンプリングレートが、回線ノイズ周波数の倍数に対応し、前記回線ノイズ周波数が、前記センサ信号のゼロ交差点から求められる、回線ノイズの制御方法。
【請求項2】
電圧フォロワでセンサ信号にバッファ処理を施す工程と
バンドパスフィルタでバッファ処理されたセンサ信号にフィルタリング処理を施す工程と、
基準電圧信号を与える工程と、
基準電圧信号を調整することにより、ノイズ振幅の閾値を設定する工程とをさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
センサ信号においてゼロ交差点を検出する工程と、
前記ゼロ交差点の位置に基づいて回線ノイズ周波数を求める工程と、
前記回線ノイズ周波数に基づいて、デジタル化されたセンサ信号に対する回線ノイズの影響を減殺するよう、サンプリングレートを調整する工程とをさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記回線ノイズの周波数に基づいてサンプリングレートを選択する工程は、
センサ信号がノイズ振幅の閾値と交差する時点を知らせる割り込み信号を生成する工程と、
割り込み信号に基づいてA/Dコンバータ制御信号を生成する工程と、
A/Dコンバータ制御信号に基づいてサンプリングレートを制御する工程とをさらに含むことを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記サンプリングレートを調整する工程は、サンプリングレートを、回線ノイズ周波数の倍数となるように調整する工程を含むことを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記ゼロ交差点の位置に基づいて回線ノイズ周波数を求める工程においては、傾きが正のゼロ交差点だけを解析することを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項7】
前記回線ノイズのゼロ交差点を検出する工程は、
電圧の閾値をゼロに調整する工程と、
センサ信号と調整後の電圧の閾値とを比較する工程とを含むことを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項8】
前記ノイズ振幅の閾値は、固定した値であることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項9】
産業プロセス用のプロセストランスミッタアセンブリであって、
プロセス変数を検知し、このプロセス変数を表すセンサ信号を生成するセンサと、
前記センサ信号を受け取って、所定のサンプリングレートでデジタル化されたセンサ信号を生成するフィルタ回路を有するA/Dコンバータと、
前記デジタル化されたセンサ信号を受け取る電圧フォロワ、この電圧フォロワに接続されたバンドパスフィルタ、電圧閾値調整装置、ならびに前記バンドパスフィルタおよび電圧閾値調整装置に接続され、センサ信号に基づいて割り込み信号を生成するコンパレータを含むノイズ検知回路と、
前記A/Dコンバータおよびノイズ検知回路に接続され、A/Dコンバータを制御するとともに、前記デジタル化されたセンサ信号に基づいて出力信号をつくり出すマイクロプロセッサとを備え、
前記マイクロプロセッサは、前記センサ信号の振幅が、ノイズ振幅の閾値以上である時に、A/Dコンバータのサンプリングレートを前記割り込み信号に関連して低下させ、低下された前記サンプリングレートが、回線ノイズ周波数の倍数に対応し、前記回線ノイズ周波数が、前記センサ信号のゼロ交差点から求められる、プロセストランスミッタアセンブリ。
【請求項10】
前記ノイズ検知回路は、前記コンパレータに接続されたハイパスフィルタをさらに含むことを特徴とする請求項に記載のプロセストランスミッタアセンブリ。
【請求項11】
前記A/Dコンバータは、シグマ−デルタ・デシメーションフィルタを含むことを特徴とする請求項に記載のプロセストランスミッタアセンブリ。
【請求項12】
前記センサは、温度センサであることを特徴とする請求項に記載のプロセストランスミッタアセンブリ。
【請求項13】
前記センサ信号のプロセス信号成分は、直流信号であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回線ノイズの制御方法、より具体的には、センサ信号に混在している回線ノイズの正負の符号に基づいて、センサによる計測値を調整する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
センサは、データ信号(プロセス信号)を生成するために、産業プロセスの監視設備等、種々の設備において用いられる。また、センサによって生成されたデータ信号は、デジタル化、解析、通信の中継等の機能を営む回路へ送られる。一般に、データ(プロセス変数の計測値)を取得する際には、プロセス変数の正確な計測を頻繁に繰り返すことが求められる。産業プロセスの計測の場合、更新された計測値は、制御室その他の制御機器に対して送信される。プロセス変数の更新情報は、多数の離散型計測値やその平均値等をも含んでいる。
【0003】
産業プロセスの稼働中は、通常、センサから送られるデータ信号に回線ノイズが混入する。例えば、データ信号を運ぶ回線の近傍に位置する電源(または他のノイズ源)は、回線ノイズをデータ信号に混入させる。電源から混入する回線ノイズは、通常、米国では約60Hz、欧州では約50Hzの周波数をもつACノイズ信号となる。回線ノイズは、通常、センサ(例えば温度センサ)をプロセス回路から離して設け、回線を介してプロセス回路に接続する場合に、特に問題になる。データ信号に回線ノイズが混入するのは、好ましいことではなく、計測誤差をもたらすおそれがある。
【0004】
プロセス変数を計測する公知のシステムにおいては、センサ信号のフィルタリング(産業プロセスの稼働中に回線ノイズを減殺する)周波数を50Hzまたは60Hzとする切替えを行う50/60Hzスイッチが設けられており、このスイッチを、システムの設置または保守の時点で、手動で操作するようになっている。このようにしてフィルタリング周波数を選択するシステムは、多くの用途において有用である。
【0005】
しかし、選択しうるフィルタリング周波数が限られており、フィルタリング周波数を予測しえないノイズ源が計測誤差をもたらすおそれを排除することはできない。したがって、設計または保守時に手動スイッチを用いてフィルタリング周波数を選択するシステムを導入する場合には、オペレータがノイズ源を十分に把握できることを前提としなければならない。このため、システム設定の際に、オペレータに起因する誤差(すなわち、オペレータが誤ったフィルタリング周波数を選択することによる誤差)が生じ、システムを正しく設定するのに時間や労力を要するおそれがある。
【0006】
公知の産業プロセスにおけるプロセス変数の計測システム(フィルタリング周波数の選択を行いうるタイプのもの)は、コンスタントフィルタ回路を用いている。しかし、コンスタントフィルタ回路(デシメーションフィルタを含むもの)を使用すると、計測値更新の頻度が減少するとともに、計測システムの電力消費量も増大するが、一般に、計測値更新の頻度が減少するのは好ましくない。また、産業プロセスの計測システム、特に無線方式のものは、バッテリまたはエネルギーハーベスティングシステムによって運営することができるが、このためには電力消費量は少ない方が好ましい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、産業プロセスにおけるプロセス変数の計測システムにおいて、回線ノイズを制御することにより、センサによるプロセス変数の計測値を調整する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題は、本発明に係る、プロセス信号成分と回線ノイズ成分を含むセンサ信号を生成するためにプロセス変数を検知する工程と、前記センサ信号を所定のサンプリングレートでデジタル化する工程と、前記デジタル化されたセンサ信号における回線ノイズのゼロ交差点を検出する工程と、前記ゼロ交差点の位置に基づいて回線ノイズの周波数を求める工程と、センサ信号に対する回線ノイズの影響を減殺するために、前記回線ノイズの周波数に基づいて、サンプリングレートを調整する工程とを含むセンサによる計測値を調整する方法によって解決される。
【0009】
本発明は、センサ信号における回線ノイズを検知、解析および減殺するシステムと方法を提供する。本発明によれば、A/Dコンバータによってデジタル化された直流のプロセス信号またはデータ信号に混在する回線ノイズの好ましくない影響を減殺することができる。本発明の方法は、回線ノイズ成分に起因するセンサ信号の誤差を減殺するために、A/Dコンバータのサンプリングレートを調整する工程を含むとともに、A/Dコンバータに関連するフィルタリング時のデシメーション周期を調整する工程も含む。また、本発明の方法を実施するためのシステムは、多くの要因に関連する回線ノイズを検知、解析および減殺する機能を自動的に遂行するための回路を含む。
【0010】
本発明の一様相によれば、プロセス信号成分と回線ノイズ成分を含むセンサ信号を生成するためにプロセス変数を検知する工程と、前記センサ信号を所定のサンプリングレートでデジタル化する工程と、前記デジタル化されたセンサ信号における回線ノイズのゼロ交差点を検出する工程と、前記ゼロ交差点の位置に基づいて回線ノイズの周波数を求める工程と、センサ信号に対する回線ノイズの影響を減殺するために、前記回線ノイズの周波数に基づいて、サンプリングレートを調整する工程とを含むセンサによる計測値を調整する方法が提供される。
【0011】
また、本発明の他の様相によれば、回線ノイズの振幅の閾値を定める工程と、プロセス信号成分と回線ノイズ成分を含むセンサ信号を生成するためにプロセス変数を検知する工程と、前記センサ信号を所定のサンプリングレートでデジタル化する工程と、前記デジタル化されたセンサ信号を回線ノイズ振幅の閾値と比較する工程と、センサ信号が回線ノイズ振幅の閾値と交差する時期を知らせる割り込み信号を生成する工程と、センサ信号の振幅が回線ノイズ振幅の閾値と等しいかまたはこれよりも大きい場合には、割り込み信号に基づいて、サンプリングレートを減少させる工程とを含み、減少されたサンプリングレートが回線ノイズ周波数の倍数に対応し、この回線ノイズ周波数がセンサ信号のゼロ交差点から求められる、回線ノイズを制御する方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明に係る産業プロセス用計測システムのブロック図である。
図2図1に示す産業プロセス用計測システムに用いるノイズ検知回路のブロック図である。
図3】本発明に係る産業プロセス用計測システムにおけるセンサ信号と割り込み信号に係る第1の電圧と時間の関係を示すグラフである。
図4】同じく、第2の電圧と時間の関係を示すグラフである。
図5】本発明の一実施形態に係る回線ノイズ制御方法の流れ図である。
図6】本発明の他の実施形態に係る回線ノイズ制御方法の流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、産業プロセス24におけるプロセス変数を検知して制御室へ送信するプロセストランスミッタ22を備えた産業プロセス計測システム20を示すブロック図である。産業プロセス24は、プロセス管理が求められるようなものであれば、どのようなものでもよく、用途に応じて種々選択することができる。プロセストランスミッタ22は、センサ26、A/Dコンバータ28、シグマ−デルタ・デシメーションフィルタ30、マイクロプロセッサ32、ノイズ検知回路34、および通信回路36を備えている。プロセストランスミッタ22は、制御室38または他の外部装置と接続されている。なお、プロセストランスミッタ22、より一般的に産業プロセス計測システム20は、バッテリやエネルギーハーベスティングシステム等の図示していない構成要素も含むことができる。
【0014】
センサ26は、産業プロセス24に関連するプロセス変数を検知する。この実施形態においては、センサ26は、公知の温度センサであるが、産業プロセス24に関連する概ねあらゆるプロセス変数(圧力、振動、流量等)を検知するものとすることができる。センサ26はアナログ式のセンサ信号を生成するが、このアナログ式のセンサ信号は、A/Dコンバータへ送られてデジタル化される。この実施形態においては、センサ26の近傍にノイズ源40が存在する。ノイズ源40は、AC電源システム等であり、ノイズ成分を、センサ信号中のプロセス信号成分に重畳させる。通常、プロセス信号成分は直流であり、他方、ノイズ成分は交流である。
【0015】
A/Dコンバータ28は、センサ26に接続されており、産業プロセスの稼働中に、センサ信号を所定のサンプリングレートでデジタル化する。A/Dコンバータ28のサンプリングレートは、調整することができる。この実施形態においては、シグマ−デルタ・デシメーションフィルタ(フィルタ回路)30は、A/Dコンバータ28に内蔵されている。しかし、フィルタ回路は、このシグマ−デルタ・デシメーションフィルタのタイプであっても、A/Dコンバータ28とは別個に設けることができる。シグマ−デルタ・デシメーションフィルタ30は、センサ信号中の回線ノイズ成分のうち、調整可能なデシメーション周期に対応するものを部分的に弱めることができる。すなわち、デシメーション周期を設定すると、この周期に係る周波数のノイズ成分およびその高調波を除去することができる。
【0016】
ノイズ検知回路34は、センサ26とマイクロプロセッサ32の間に設けられており、センサ26からセンサ信号を受け取る。ノイズ検知回路34は、プロセス信号成分に重畳されたノイズ成分を含むセンサ信号を解析し、ノイズ成分が重畳されたプロセス変数を検出するとともに、受け取ったセンサ信号に基づいて割り込み信号(後述)を生成する。ノイズ検知回路の構成と動作は、後に詳述する。
【0017】
マイクロプロセッサ32は、業界で周知のものを用いることができる。このマイクロプロセッサ32は、ノイズ検知回路34、A/Dコンバータ28(デシメーションフィルタ30を含む)、および通信回路36と接続している。A/Dコンバータ28でデジタル化されたセンサ信号は、マイクロプロセッサ32へ送られ、所望の処理が施される。ここで処理されたデジタル信号(またはデジタル化されたセンサ信号に基づいて生成される他の信号)は、ついで通信回路36へ送られる。
【0018】
通常、マイクロプロセッサ32は、送られてきたセンサ信号(デジタル化されている)から、所定の時間にわたって情報を収集し、更新された最新の離散型信号を通信回路36へ送る。離散型信号の更新レートは、サンプリングレートにサンプルの数を乗じたものに等しい。ここで、サンプリングレートとは、A/Dコンバータ28のサンプリング周期である。
【0019】
マイクロプロセッサ32は、A/Dコンバータ28およびシグマ−デルタ・デシメーションフィルタ30へコマンド信号を送る。また、マイクロプロセッサ32は、ノイズ検知回路34へもコマンド信号を送るとともに、このノイズ検知回路34から割り込み信号を受け取る。後述するように、マイクロプロセッサ32は、A/Dコンバータ28およびシグマ−デルタ・デシメーションフィルタ30へ送るコマンド信号を、ノイズ検知回路34から受け取る割り込み信号に基づいて生成する。
【0020】
プロセストランスミッタ22内の通信回路36は、プロセス変数の更新値(または他の所望のデータ)を外部の制御室38へ送る。一方、制御室38には、ディスプレイ、プロセッサ、メモリ、制御用ソフトウエア(例えばEmerson Process Management社(ミネソタ州チャンハッセン)が販売しているAMS(商標) Suite and PlantWeb(登録商標))、およびプロセストランスミッタ22からデータを収集・解析し、産業プロセス24を管理・制御するための装置を備えている。通信回路36は、無線方式または有線方式で制御室38と接続されている。無線方式の場合、通信回路36と制御室38の中間には、ワイヤレス中継機等が設けられる。
【0021】
図1に示すように、プロセストランスミッタ22には、回線ノイズの周波数を2以上の選択肢の中から手動で選択するためのスイッチ40が設けられている。
【0022】
図2は、図1に示す産業プロセス用計測システム20におけるノイズ検知回路34のブロック図である。ノイズ検知回路34は、電圧フォロワ50、バンドパスフィルタ52、電圧閾値調整装置54(例えばデジタルポテンシオメータまたは分圧器)、コンパレータ56、およびハイパスフィルタ58を備えている。センサ信号60(センサ26から得られる信号)は、電圧フォロワ50へ入力されて、バッファ処理が施される。電圧フォロワ50からの出力信号は、フィルタリング処理のためにバンドパスフィルタ52へ送られ、次いで、コンパレータ56へ送られる。
【0023】
バンドパスフィルタは、センサ信号60からDC成分(プロセス信号)を除いてAC成分(ノイズ)を解析しうるようにするため、概ね0から120Hzを少し超えるくらいまでの周波数帯域を選択することができる。
【0024】
一方、電圧閾値調整装置54には、基準電圧(Vref)信号62が与えられ、このVref信号62には、所望の通り分圧処理が施される。Vref信号62は、プロセストランスミッタ22で公知の方法に従って得られる1.225V程度の比較的安定な電圧信号である。電圧閾値調整装置54からの出力は、コンパレータ56へ送られる。
【0025】
コンパレータ56は、バッファ処理とフィルタリング処理が施されたセンサ信号60と、分圧処理が施されたVref信号62とを比較する。コンパレータ56からの出力は、割り込み信号64を生成するために、ハイパスフィルタ58へ送られる。ハイパスフィルタ58は、割り込み信号64において短パルスをつくり出すのを助ける。また、コンパレータ56は、電圧閾値調整装置54による電圧の調整に基づいて、後述するように、ノイズの電圧閾値や他の閾値について、ゼロ交差点を検出する。
【0026】
図3は、センサ信号70(図の上半分)と割り込み信号72(図の下半分)における電圧と時間の関係を示すグラフである。センサ信号70は、DCオフセット74(破線で示す)で表される直流のプロセス信号成分を含んでいる。一方、センサ信号70の回線ノイズ成分は交流であり、センサ信号70を正弦波形にしている。図2に示すプロセストランスミッタ22は、入力されるセンサ信号70にフィルタリングを施し、DCオフセット74を補償することができる。
【0027】
電圧閾値調整装置54を適切に設定すると、ノイズ検知回路34は、フィルタリング処理されたセンサ信号70のゼロ交差点を検出し、このゼロ交差点の位置に基づいて割り込み信号72が生成される。割り込み信号72には、センサ信号70の傾きが正のゼロ交差点を示すパルス76Aと76Bが生成される。図3における割り込み信号72には、傾きが正のゼロ交差点のみが示してある。マイクロプロセッサ32(または他の適当な回路)は、割り込み信号72におけるパルス76A,76B間の時間を計測することにより、回線ノイズの周期Pを求める。
【0028】
図4は、センサ信号80(図の上半分)と割り込み信号82(図の下半分)における電圧と時間の関係を示すグラフである。センサ信号80は、DCオフセット84(破線で示す)で表される直流のプロセス信号成分を含んでいる。割り込み信号82は、パルス86を含んでいる。また、センサ信号80と対比しうるように、ノイズ振幅の閾値88が示されている。ノイズ振幅の閾値88は、マイクロプロセッサ32を介して、用途ごとに適当な大きさのもの(例えば、1V以下または100mV以下)が選択される。ノイズ検知回路34でフィルタリング処理を施したセンサ信号80の振幅は、最初のうちは、ノイズ振幅の閾値88よりも小さい。しかし、時間が経過するにつれて、回線ノイズ成分が大きくなり、時間90に至ると、センサ信号80の振幅はノイズ振幅の閾値88に達し、その後は閾値88を上回る。センサ信号80の振幅がノイズ振幅の閾値88に到達したことを示すパルス86は、この時間90の時点で、割り込み信号82に生成される。
【0029】
後に詳述するように、プロセストランスミッタ22は、第1の期間92におけるA/Dコンバータ28のサンプリングレートを、予め第1のサンプリングレート(例えば比較的早いサンプリングレート)に設定することができる。ついで、時間90に到達し、割り込み信号82にパルス86が生成すると、A/Dコンバータ28のサンプリングレートを第2のサンプリングレート(例えば比較的遅いサンプリングレート)に調整する第2の期間94が開始する。
【0030】
この結果、プロセストランスミッタ22は、第1の期間92の間は、比較的早期にデータの更新を行えるようになるため、データ収集が早くなり、回線ノイズによって計測の正確さを大きく損なうことなく、全体的な電力消費量を節減することができる。ノイズ振幅が小さい間は、センサ信号80における回線ノイズ成分による悪影響は無視できる程度だからである。
【0031】
第2の期間94においては、データの更新は幾分遅くなるものの、第2のサンプリングレートにより、回線ノイズのフィルタリング性能は向上する。このようなサンプリングレートの調整機構によれば、データの更新は、回線ノイズ成分がノイズ振幅の閾値に到達するという限定された状況下においては遅れるものの、比較的低電力消費の下で、迅速に行うことができる。
【0032】
図5は、本発明の一実施形態に係る回線ノイズ制御方法を示す流れ図である。この方法を実施するに当たっては、産業プロセス24におけるプロセス変数を検知するため、第一に、プロセストランスミッタ22を所望の位置に設ける(工程100)。第二に、センサ26がセンサ信号を生成する(工程102)。第三に、このセンサ信号に基づいて、ノイズ検知回路34が回線ノイズのゼロ交差点を検出する(工程104)。第四に、このゼロ交差点に基づいて、割り込み信号を生成する(工程106)。この後、所望により、割り込み信号に基づいて、本実施形態においてはスイッチ40を備えたプロセストランスミッタ22を用い、回線ノイズの周波数を、例えば制御室38またはプロセストランスミッタ22に設けたディスプレイに表示することができる(工程108)。
【0033】
第五に、サンプリングレートを割り込み信号に基づいて調整すべく、A/Dコンバータ28を再設定する(工程110)。この工程は、A/Dコンバータ28のサンプリングレート(回線ノイズ周期Pの倍数)を選択する工程を含む。この調整の結果、サンプリングレートは増減する。この工程は、A/Dコンバータ28中のシグマ−デルタ・デシメーションフィルタ30において、サンプリングレートの調整に応じて、デシメーション周期を再調整する工程も含む。A/Dコンバータ28とシグマ−デルタ・デシメーションフィルタ30に対する調整は、マイクロプロセッサ32を介して制御する。
【0034】
A/Dコンバータ28の調整が完了すると、プロセストランスミッタはデータを収集する(工程112)。これまでの工程は、プロセストランスミッタ22を設置する際(工程100)に行う起動操作または校正操作の一部として行うこともできる。工程102〜110は、必ずしも繰り返す必要はないが、工程104〜110を定期的または不定期に組返すのが望ましい場合もある。
【0035】
次の工程114では、回線ノイズをチェックするか否かの決定を行う。回線ノイズのチェックを望む場合には、回線ノイズのゼロ交差点の検知から始まる工程(工程104以下)を繰り返す。この検知は、所定の工程表に従って、または回線ノイズが問題となるか、もしくは再校正が望まれる場合に、必要に応じて行われる。
【0036】
図6は、本発明の他の実施形態に係る回線ノイズ制御方法の流れ図である。この方法は、図5に示す方法と関連づけて、またはこれとは独立に行うことができる。図6に示す方法においては、第一に、ノイズ振幅の閾値88を設定する(工程200)。この設定は、マイクロプロセッサ32を介して行う(保存されている閾値にマイクロプロセッサ32からアクセスしうるようにする)。マイクロプロセッサ32は、ノイズ振幅の閾値88に対応する所望の電圧レベルを実現するよう電圧閾値調整装置54を調整するため、ノイズ検知回路34を制御する。
【0037】
プロセストランスミッタ22の作動中、センサ26によって生成されたセンサ信号80は、ノイズ検知回路34中のコンパレータ56によって、ノイズ振幅の閾値88と比較される(工程202)。ここで、センサ信号がノイズ振幅の閾値と交差するゼロ交差点が存在するか否かが判断される(工程204)。ゼロ交差点の位置(時刻)は、割り込み信号82におけるパルスの位置に反映される。ゼロ交差点が存在する場合には、A/Dコンバータ28の再調整を行う(工程206)。
【0038】
A/Dコンバータの再調整とは、サンプリングレートの調整、およびシグマ−デルタ・デシメーションフィルタ30におけるデシメーション周期の調整である。例えば、センサ信号の傾きが正のゼロ交差点が存在する場合には、サンプリングレート(例えば、図5に示す方法によって定めたサンプリングレート)を、第1の早いサンプリングレートから第2の遅いサンプリングレートへ低下させ、これに対応してデシメーション周期も調整する。このサンプリングレートとデシメーション周期の調整は、回線ノイズの周期Pと関連づけて行う。
【0039】
一方、回線ノイズの周期Pの全部または一部に渡って、センサ信号80がノイズ振幅の閾値よりも小さい場合、すなわち、センサ信号の傾きが正であるゼロ交差点が検知されない場合には、サンプリングレートを、第2の遅いサンプリングレートから第1の早いサンプリングレートへ増加させる。このようにして、A/Dコンバータ28のサンプリングレートは、各時点における回線ノイズ条件の下で、最大限高い値とされる。サンプリングレートは、回線ノイズが比較的高い場合にのみ低下させる(これに伴って更新の頻度も低下する)。したがって、制御室38へ送る計測値の更新の頻度は、全体として比較的高く、センサ26は、所与の更新時に、比較的短い時間だけ電力を消費する。図6に示す方法は、プロセストランスミッタ22の作動中に概ね連続的に行うことができる(すなわち、工程206から工程202に帰還するようにデフォルト設定される)。
【0040】
以上、本発明を、好ましい実施形態を基に説明してきたが、当業者であれば、本発明の技術的範囲から逸脱することなく、子細な部分に変更を加えることもできるであろう。例えば、本発明に係る上記2つの方法は、互いに関連づけて、または単独で使用することができる。さらに、本発明は、産業プロセスの計測システムにおいて生成されるセンサ信号だけでなく、種々の信号に見られる回線ノイズを制御するのに用いることもできる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6