【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のある態様によれば、荷電粒子を検出する検出装置が提供され、この装置は、
入射荷電粒子を受け取ったことに応答して二次荷電粒子を発生させる二次粒子発生器と、
二次粒子発生器によって発生された二次荷電粒子を受け取り、検出する荷電粒子検出器と、
二次粒子発生器によって発生された二次荷電粒子を受け取ったことに応答して光子を発生させる光子発生器と、
光子発生器によって発生された光子を検出する光子検出器と、
を含む。
【0010】
本発明の他の態様によれば、荷電粒子を検出する検出装置が提供され、この装置は、
入射荷電粒子か入射荷電粒子から生成された二次荷電粒子のいずれかを受け取り、検出する荷電粒子検出器と、
荷電粒子検出器によって受け取られ、検出されたものと同じ入射荷電粒子または入射荷電粒子から生成された二次荷電粒子の少なくとも一部を受け取ったことに応答して光子を生成する光子発生器と、
光子発生器によって発生された光子を検出する光子検出器と、
を含む。
【0011】
本発明のその他の態様によれば、荷電粒子を検出する検出装置が提供され、この装置は、
入射荷電粒子か入射荷電粒子から生成された二次荷電粒子のいずれかを受け取り、検出する荷電粒子検出器であって、荷電粒子に対して透明で、使用時に、前記入射荷電粒子または入射荷電粒子から生成された二次荷電粒子がその中を通過する電極を含む荷電粒子検出器と、
透明電極を通過した入射荷電粒子または入射荷電粒子から生成された二次荷電粒子を受け取ったことに応答して光子を発生させる光子発生器と、
光子発生器によって発生された光子を検出する光子検出器と、
を含む。
【0012】
本発明の別の態様によれば、荷電粒子を検出する方法が提供され、この方法は、
入射荷電粒子を受け取るステップと、
入射荷電粒子を受け取ったことに応答して二次荷電粒子を発生させるステップと、
発生された二次荷電粒子を受け取り、検出するステップと、
発生された二次荷電粒子を受け取ったことに応答して光子を発生させるステップと、
発生された光子を検出するステップと、
を含む。
【0013】
本発明のさらに別の態様によれば、荷電粒子を検出する方法が提案され、この方法は、
入射荷電粒子か入射荷電粒子から生成された二次荷電粒子のいずれかを受け取り、検出するステップと、
受け取られ、検出されたものと同じ入射荷電粒子または入射荷電粒子から生成された二次荷電粒子の少なくとも一部を受け取ったことに応答して光子を発生させるステップと、
発生された光子を検出するステップと、
を含む。
【0014】
本発明のさらに別の態様によれば、荷電粒子を検出する方法が提供され、この方法は、
入射荷電粒子か入射荷電粒子から生成された二次荷電粒子のいずれかを、荷電粒子に対して透明な電極の中を粒子に通過させることによって受け取り、検出するステップと、
透明電極を通過した入射荷電粒子または入射荷電粒子から生成された二次荷電粒子を受け取ったことに応答して光子を発生させるステップと、
発生された光子を検出するステップと、
を含む。
【0015】
本発明のその他の態様によれば、本発明による検出装置を含む質量分析計が提供される。
【0016】
本発明のさらに他の態様によれば、質量分析計の中でイオンを検出するための本発明による検出装置の使用が提供される。
【0017】
本発明のさらにまた他の態様によれば、TOF型質量分析計の検出ダイナミックレンジを改善する方法が提提され、この方法は、
検出装置において入射荷電粒子を受け取るステップであって、検出装置は異なるゲインの少なくとも2つの検出器を含み、その検出器の少なくとも1つは光子検出器であり、その検出器の少なくとも1つは荷電粒子検出器であるステップと、
少なくとも2つの検出器を介して入射荷電粒子を検出するステップと、
を含む。
【0018】
検出装置は好ましくは、本発明の他の態様による検出装置である。
【0019】
光子検出器は好ましくは、入射荷電粒子から、または入射荷電粒子から生成された二次荷電粒子から生成された光子を検出するためものである。他の検出器は好ましくは、前述のような別の光子検出器、より好ましくは、本明細書に記載の荷電粒子検出器を含む。
【0020】
本発明は、高ダイナミックレンジで、構成部品から単純で低コストに構成したものにより提供される、荷電粒子を検出する装置と方法を提供する。高ゲインおよび低ゲインの検出チャネルが、単純な構成を使って、堅牢な構成部品を使って、また高額な構成部品はあまり使用せずに、検出装置内に提供される。この装置と方法は、単一粒子計数までという、入射荷電粒子の小さな割合に反応し、すなわち、感度が高く、これはたとえば、大地電位での光子検出による高ゲイン、低ノイズという利点を有する光子検出を利用することによって実現される。この装置はさらに、出力飽和が発生するまでは、入射粒子の大きな割合を検出でき、これはたとえば、一般に光子検出器よりノイズは大きいがゲインの低い荷電粒子検出器を使用することによる。したがって、高ダイナミックレンジを実現できる。10
4〜10
5のダイナミックレンジを得ることができる。好ましくは、荷電粒子検出器と光子検出器からの出力は、合成によって高いダイナミックレンジのマススペクトルを形成するようになされている。したがって、本発明によれば、非常に小さいピークと非常に大きいピークの両方を検出するために異なるゲインでの複数のスペクトルを取得する必要がなくなるかもしれない。荷電粒子検出器は、後述のように負の入射イオンを検出する場合、高電圧から容量的に分離してもよいが、荷電粒子検出器によって検出される信号は一般に、依然としてノイズより高い良好な検出レベルを実現できる、最も強力な信号である。本発明はしたがって、2つの検出チャネルでの少なくとも2種類の検出、すなわち光子検出と荷電粒子検出を利用するものであり、各々の種類の検出器は好ましくは、異なる飽和レベルおよびその他の異なる特性を有する。本明細書において、検出器の飽和レベルとは、検出器からの出力が飽和するときの入射荷電粒子の到着速度を意味する。別の利点は、1つの検出器が実験中に動作しなくなった場合に、少なくとも一部のデータは依然として、機能している残りの検出器から取得できる可能性がある点である。本発明の装置はまた、先行技術の装置より効率的に入射荷電粒子を検出に使用でき、また、高ゲインおよび低ゲインのチャネルの両方における検出のために、同じ粒子の少なくとも一部、好ましくは実質的に全部を使用できる可能性がある。
【0021】
ここで、本発明の利点と動作を、さらに詳しく説明する。
【0022】
荷電粒子検出器は第一の検出場所に設置され、光子検出器は第二の検出場所に設置され、第二の検出場所は第一の検出場所の下流にある。順番に、二次粒子発生器の次に荷電粒子検出器があり、荷電粒子検出器の次に光子検出器がある。順番に、好ましい実施形態において、二次粒子発生器の次に荷電粒子検出器があり、荷電粒子検出器の次に光子発生器があり、光子発生器の次に光子検出器がある。
【0023】
好ましい実施形態において、荷電粒子検出器は第一の検出場所に設置され、これは実質的に光子発生器に隣接する。より好ましくは、荷電粒子検出器の電力は、実質的に光子発生器に隣接して設置される。最も好ましくは、電極は光子発生器と接触して設置される。
【0024】
荷電粒子検出器、たとえばその電極は、好ましくは、光子検出器とインラインで設置される。それゆえ、インライン配置の中で、前記構成部品は相互の上流または下流のいずれかにあるか、一体に構成される。これは、異なる検出器が横並びに設置されて、入射粒子ビームの異なる部分を検出する先行技術の横並び配置とは異なる。上記のようなインライン配置とその例を以下により詳しく説明する。
【0025】
好ましい実施形態において、光子発生器は、使用時に、荷電粒子検出器によって受け取られ、検出されたものと同じ入射荷電粒子または入射荷電粒子から生成された二次荷電粒子の少なくとも一部、好ましくは実質的これらの粒子を受け取ったことに応答して光子を発生させる。より好ましいほうに向かって順番に、光子発生器は、使用時に、荷電粒子検出器によって受けられ、検出された入射荷電粒子または入射荷電粒子から生成された二次荷電粒子のうちの25%超、30%超、50%超、75%超、および90%超を受け取ったことに応答して、光子を発生させる。このようにして、光子検出器と荷電粒子検出器は、同じ入射荷電粒子、たとえばイオンの少なくとも一部を記録するように構成される。たとえば、入射荷電粒子が荷電粒子検出器によって受け取られ、検出されてもよく、これらの同じ入射荷電粒子の少なくとも一部、好ましくは、実質的にこれらの同じ入射荷電粒子が光子検出器によって受け取られて、光子が発生されてもよい。この好ましい構成は、二次荷電粒子が発生される場合にも同様に適用してもよい。たとえば、二次荷電粒子(入射荷電粒子から生成される)が荷電粒子検出器によって受け取られ、検出されてもよく、これらの同じ二次荷電粒子の少なくとも一部、好ましくはこれらの同じ二次荷電粒子の実質的に全部が光子発生器によって受け取られ、光子が発生されてもよい。このようにして、電荷粒子検出器において、光子検出器における入射荷電粒子の全体量の少なくとも一部、好ましくは、それと同じ全体量が信号の生成に使用される。これに対して、2つ以上の検出器が使用される先行技術の検出装置では、各検出器が入射イオンビームまたは二次電子の別の部分を利用して信号を発生させる傾向がある。
【0026】
好ましい実施形態において、入射粒子か入射荷電粒子から生成された二次荷電粒子のいずれかの大部分(より好ましくは実質的に全部)が荷電粒子検出器によって受け取られ、検出される。より好ましいほうに向かって順番に、入射粒子か入射荷電粒子から生成された二次荷電粒子のいずれかのうちの25%超、50%超、75%超、90%超が荷電粒子検出器によって受け取られ、検出される。さらに好ましくは、入射粒子または入射荷電粒子から生成された二次荷電粒子のいずれかの大部分(より好ましくは、実質的に全部)が光子発生器によって受け取られ、光子が発生される。より好ましいほうに向かって順番に、入射粒子か入射荷電粒子から生成された二次荷電粒子のいずれかのうちの25%超、50%超、75%超、90%超が光子発生器によって受け取られ、光子が発生される。荷電粒子検出器の電極は、好ましくはこの目的のために透明電極であり、すなわち、透明とは、十分なエネルギーを有する荷電粒子がそれを透過(すなわち、通過)できることを意味する。荷電粒子検出器の電極は、好ましくは、電子に対して透明である。しかしながら、電極は好ましくは、光子に対して透明でなく、むしろ光子に対して反射性を有する。しかしながら、いくつかの実施形態において、たとえば荷電粒子検出器の電極が光子発生器と光子検出器の間に設置される場合、電極は光子に対して透明であってもよい。それゆえ、電極は光子に対して透明であっても透明でなくてもよいが、好ましくは、光子に対して透明ではない。したがって、本明細書において、荷電粒子検出器の電極に関して使用される透明という用語は、特にことわりがないかぎり、荷電粒子に対して透明であることを意味する。透明電極は、そこを通過する荷電粒子をピックアップして、たとえば荷電粒子がデジタルオシロスコープまたはデジタイザ(すなわち、ADC)等の電荷計または電流計を使って検出されるようにする。したがって、荷電粒子検出器は、好ましくは、入射荷電粒子または入射荷電粒子から生成された二次荷電粒子のいずれかが通過する透明電極と、使用時に、透明電極を通過した入射荷電粒子または入射荷電粒子から生成された二次荷電粒子から光子を発生させる光子発生器を含む。さらにより好ましくは、発生された光子の大部分(より好ましくは、実質的に全部)が光子検出器によって検出される。特に好ましい実施形態において、荷電粒子検出器の1つの電極が、入射粒子か入射荷電粒子から生成された二次荷電粒子のいずれかの大部分(より好ましくは実質的に全部)を受け取り、および/または1つの光子検出器(より好ましくは、1つのPMTまたはAPD)が、発生された光子の大部分(より好ましくは実質的に全部)を検出する。有利な態様として、このような実施形態によって、2種類の検出、すなわち荷電粒子検出と光子検出を使用でき、これはダイナミックレンジの点で有利であり、その中では、各種類の検出で利用可能な粒子の大部分が利用されるため、検出感度が高くなる。4から5桁のダイナミックレンジが実証されている。これらの利点のすべてが、個別の検出器を少ない数しか使用しない(たとえば、1つの荷電粒子検出器と1つの項検出器)、単純で低コストの装置において提供される。
【0027】
本発明の装置は、荷電粒子検出するためのものである。検出対象の荷電粒子は、検出用の装置で受け取られ、したがって、本明細書においては、入射荷電粒子と呼ぶ。荷電粒子は、正荷電または負荷電のいずれであってもよく、すなわち、検出装置と方法は両極性である。入射荷電粒子は好ましくはイオンであり、より好ましくは、質量分析計によって処理されたイオン(すなわち、その質量荷電比、m/zによって分離されたイオン)である。イオンは、無機イオンでも有機イオンでもよい。しかしながら、入射荷電粒子は、他の種類の荷電粒子であってもよく、たとえば、電子顕微鏡における後方散乱電子等の電子であってもよい。
【0028】
本発明による検出装置と検出方法は、質量分析計での使用、すなわち、イオンの検出に特に適しており、したがって、それに関連して説明するが、これらは他の用途、すなわち、たとえば、粒子加速器、電子顕微鏡および電子分光法等、その他の荷電粒子測定においても有利である。
【0029】
検出対象の入射荷電粒子は、それ自体が光子発生器に直接衝突し、光子が発生され、この光子がその後、光子検出器によって検出される。あるいは、好ましい実施形態において、入射荷電粒子はまず、二次荷電粒子、より好ましくは電子を発生させるために使用される。このようなステップは、好ましくは、入射粒子の数を増倍して、より多くの二次荷電粒子を発生させる。二次荷電粒子を発生させるステップは1つまたは複数あってもよく、たとえば、二次荷電粒子は、今度は、次の二次荷電粒子を生成するために使用されてもよく、これが繰り返される。光子発生器に衝突するように入射荷電粒子から生成されたすべての荷電粒子を、本明細書においては、二次荷電粒子と呼ぶ。
【0030】
前述のように、光子発生器は、入射荷電粒子を直接受け取って、その直接衝突から光子を発生させてもよい。あるいは、好ましい実施形態において、光子発生器は、入射荷電粒子から生成された二次荷電粒子を受け取るように構成される。使用時に光子発生器によって受け取られる粒子は、好ましくは電子である。したがって、好ましくは、入射荷電粒子または二次荷電粒子のいずれかは電子である。入射荷電粒子が電子でない場合、たとえば、入射荷電粒子がイオンである好ましい実施形態の場合は、すると、入射荷電粒子からは、好ましくは、二次電子の形態の二次荷電粒子が生成される。したがって、二次荷電粒子は好ましくは、二次電子である。
【0031】
二次荷電粒子は好ましくは、入射荷電粒子から、二次粒子発生器によって生成される。本明細書において、二次粒子発生器という用語は、発生器に衝突した入射荷電粒子に応答して二次荷電粒子を発生させる、あらゆる機器を意味する。好ましい二次粒子発生器は二次電子発生器であり、これは、入射荷電粒子による衝突に応答して二次電子を発生させる。本明細書において、二次電子発生器という用語は、発生器に衝突した入射荷電粒子に応答して二次電子を発生させる、あらゆる機器を意味する。好ましくは、二次電子発生器は、変換ダイノードまたは二次電子増倍管(SEM)からなる群から選択される機器を含む。SEMは、ディスクリートダイノードSMEでも連続ダイノードSEMでもよい。連続ダイノードSEMは、チャネル電子増倍管(CEM)または、より好ましくは、マイクロチャネルプレート(MCP)を含んでいてもよい。MCPは、周知のように、2つ以上のMCPを重ねたものを含んでいてもよい。二次電子発生器は、最も好ましくは、ディスクリートダイノードSEMまたはMCPのいずれかを含む。質量分析計用の市販の二次電子発生器の数多くの例が当業界において知られている。たとえば、適当な電子増倍管は、浜松ホトニクス株式会社から入手可能であり、たとえばR5150−10、R2362、R595、R596、R515およびR474等のEMモデルおよび、F9890−13、F9890−14、F9892−13およびF9892−14等のMCPモデルのほか、Burle、Photonisその他から入手可能なものがある。当然のことながら、市販のSEM、たとえば上記のモデルは一般に、たとえば陽極がある場合はこれを除去すること等の改変を加えて、SEMから発生された電子を光子発生器で受け取ることができるようにする必要がある。改変後、たとえばダイノードまたはMCPプレートを使用できる。一部の機器は改変せずに使用でき、たとえば陽極がない状態で供給されるもの、たとえばPhotonisのチャネルトロンCEM4504SL等がある。本発明により2種類の検出器を使用することと、その結果として実現可能な感度とダイナミックレンジによって、SEM等の二次粒子発生器は、有利な点として、たとえばTOF型質量分析の用途で使用される従来の増倍管と比較して、比較的低いゲインで動作させてもよい。より低いゲインでの使用の結果、より飽和限度が低くなり、すなわち、大きなピークの後に小さなピークが隠れてしまうことが少なくなる。
【0032】
入射荷電粒子または入射荷電粒子から生成された二次荷電粒子を受け取り、検出するための1つまたは複数の荷電粒子検出器が、本発明により使用される。好ましくは、特に質量分析の用途のために、荷電粒子検出器は、入射荷電粒子(最も好ましくはイオン)から生成された二次荷電粒子(最も好ましくは電子)を検出する。単純さとコストの点で好ましい実施形態においては、1つの荷電粒子検出器が使用される。光子検出器に関連して、1つの荷電粒子検出器で十分に広い検出ダイナミックレンジの高速応答検出装置を提供できることがわかった。
【0033】
入射荷電粒子か入射荷電粒子から生成された二次荷電粒子のいずれかを受け取り、検出するステップは、好ましくは、電極を使って荷電粒子の通過をピックアップするステップを含む。荷電粒子の通過は、電極から直接ピックアップしても(すなわち、入射荷電粒子または入射荷電粒子から生成された二次荷電粒子が衝突する電極である)、または電極によって誘起される、たとえば別の電極(たとえば、検出またはコンデンサ極板)上のイメージチャージを介して、または誘導結合を介してピックアップしてもよい。正電荷を持つ入射イオンの場合、以下により詳細に説明するように、電荷は電極から直接、容量的に、または誘導的にピックアップしてもよい。イメージチャージ検出を利用する装置は、正および負電荷を持つ入射イオンの両方の通過を検出するために使用してもよいが、一般には、負電荷を持つ入射イオンの検出に使用され、これについては後で詳しく説明する。電荷はまた、電極から誘導的に検出してもよく、たとえば、コイルまたはコイルペアで検出電極をデジタイザに結合する。それゆえ、電極は、容量的または誘導的にデジタイザに結合してもよい。荷電粒子の通過のピックアップが、必要に応じて、電極から電荷の直接ピックアップ(たとえば、正電荷を持つ入射イオンのため)と、容量的または誘導的結合を通じた電荷のピックアップ(たとえば、負電荷を持つ入射イオンのため)を切り替えられるような装置を使用してもよい。これは、その装置を入射イオンのための両極性検出器として使用できる1つの方法である。好ましくは、両極性検出器として使用した場合、電荷は、容量的または誘導的結合を使用すれば最も容易にピックアップされる。荷電粒子検出器はそれゆえ、好ましくは、入射荷電粒子または入射荷電粒子から生成された二次荷電粒子を受け取るための電極、すなわち検出電極を含む。電極が入射荷電粒子を受け取るためのものであり、入射荷電粒子がイオンである場合、電極は、それぞれ負電荷を持つイオンまたは正電荷を持つイオンを受け取るための陽極または陰極のいずれかであってよい。電極は好ましくは、入射電極粒子または入射荷電粒子から生成された二次荷電粒子のいずれかとして電子を受け取るためのものであり、したがって、電極は好ましくは、電子を受け取るための陽極である。
【0034】
荷電粒子検出器の電極は、好ましくは透明電極であり、すなわち、透明とは、十分なエネルギーの荷電粒子がそれを透過(すなわち、通過)できることを意味する。荷電粒子検出器の電極は、好ましくは電子に対して透明である。しかしながら、電極は好ましくは、光子に対しては透明でなく、むしろ光子に対して反射性を有する。したがって、本明細書において荷電粒子検出器に関連して使用される透明という用語は、荷電粒子に対して透明であることを意味する。電極は、光子に対しては透明でも透明でなくてもよいが、好ましくは、光子に対して透明ではない。
【0035】
好ましいタイプの実施形態において、電極は、光子発生器に関連付けられた(すなわち、それに密接に近接した、好ましくは実質的にそれに隣接した)、より好ましくは、それと接触した導電性材料を含み、あるいは、光子検出器そのものが導電性材料を含み、この場合、光子発生器は電極を含んでいてもよい。たとえば、光子検出器は、導電性ポリマシンチレータ(すなわち、1つまたは複数の蛍光体(fluor)がその中に分散されている)を含んでいてもよく、電荷は、シンチレータの体積から検出してもよい。好ましい例において、電極は、光子検出器に隣接する導電層または被膜の形態の導電性材料を含み、本明細書においては、これを導電層と呼ぶ。好ましくは、導電層は光子発生器の上、すなわち、光子検出器の、入射電荷粒子または入射荷電粒子から生成された二次荷電粒子が最初に衝突する面(本明細書において、衝突面という)に設けられる。しかしながら、いくつかの実施形態において、導電層を、光子発生器の非衝突面に設けることも可能であるかもしれない(このような実施形態の導電層は、好ましくは、発生された光子に対して透明である)。導電層は、好ましくは、金属、たとえばアルミニウム、ニッケルまたは金の層である。適当な導電性シリコン層もまた使用してよい。光子に対して透明な導電層が必要な場合、光学的に透明な導電材料、たとえば酸化インジウムスズ(ITO)を使用してもよい。導電層、特に金属層は、好ましくは薄く、たとえば50nmである。好ましくは、導電層、特に金属層は、厚さ5nmから500nmの範囲である。実際に、導電層、特に金属層は、好ましくは少なくとも10nmの厚さである。非常に厚さが薄いと、この層は、衝突する粒子によって損傷を受け始めるかもしれない。より好ましくは、導電層、特に金属層は、厚さ10nmから200nmの範囲であり、さらにより好ましくは、厚さ30nmから100nmであり、最も好ましくは、厚さ約50nmである。層が厚いほど、それを透過するのに必要なエネルギーは大きくなる。厚さが50nm以上である場合、その金属層を効率的に透過するためには一般に、約2keV以上の運動エネルギーを有する電子が必要となる。導電層の材料と厚さは、好ましくは、(導電層が光子検出器の衝突面にあるような好ましい場合に)荷電粒子が光子発生器を透過できるように選択され、すなわち、導電層は好ましくは、受け取り、検出すべき荷電粒子(一般に、二次電子)に対して透明である。導電層を光子発生器にコーティングする方法は、当業界で知られている。たとえば、シンチレータを金属の薄い層で被覆する方法は、当業界で知られている。導電層は、好ましくは、光子発生器の、入射荷電粒子または入射荷電粒子から生成された二次荷電粒子が入射する面、すなわち衝突面に設置される。このようにして、有利な点として、導電層、特に金属層は、発生された光子を光子検出器へと向けることができ、光子検出器は一般に、光子発生器の、入射荷電粒子または入射荷電粒子から生成された二次荷電粒子が入射する面とは反対の面にある。発生された光子を方向付けるために、金属層は好ましくは、光子発生器によって発生される光子の波長に対する反射面を有する。さらに、金属被膜の使用は、光子発生器を保護し、電荷の生成を低減させるのに役立つ。あるいは、電極は、光子発生器のマトリクス材料として導電性材料(たとえば、導電性ポリマ)を含んでいてもよい。導電層または導電性材料を電極として、好ましくは光子発生器に関連付けて、またはそれと接触して使用することにより、有利な点として、好ましくは、荷電粒子検出器によって受け取られ、検出されたものと実質的に同じ入射電荷粒子または入射電化粒子から生成された二次電荷粒子もまた、光子発生器から光子を発生させるために使用することも可能となる。電極と光子発生器の、入射荷電粒子または入射荷電粒子から生成される二次荷電粒子に提供されるそれぞれの表面積は、好ましくは、実質的に相互に相応である。電極の表面積は、より好ましくは、光子発生器の表面積と少なくとも同じ大きさであり、また、いくつかの場合では、それより大きくてもよい。電極の表面積は、好ましくは、入射粒子か入射荷電粒子から生成される二次荷電粒子のいずれかの大部分(より好ましくは、実質的に全部)を受け取るのに十分な大きさである。同様に、光子発生器の表面積は、好ましくは、光子を発生させるために入射粒子か入射荷電粒子から生成される二次荷電粒子のいずれかの大部分(より好ましくは実質的に全部)を受け取るのに十分な大きさである。
【0036】
電荷検出器の電極は、単独の一体的な電極でも、たとえば相互に絶縁された複数の個別の電極でもよい。複数の個別の電極が使用される場合、それぞれの電極からの信号は、合成しても、または別々に処理してもよい。
【0037】
荷電粒子検出器の電極は、好ましくは、電荷計または電流器に接続されている。高速電荷計は周知であり、本発明にとって好ましく、例えば、増幅器を備えるオシロスコープまたはデジタイザ(すなわち、アナログデジタル変換器(ADC))がある。好ましい実施形態において、電荷計は、本明細書に記載されているように、光子発生器の上の導電層での電荷の変化を検出するためのものである。電荷または電流のいずれも、荷電粒子検出器の電極で直接検出できる。その代わりに、またはそれに加えて、容量的結合またはイメージチャージ検出を利用してもよく、その場合は、荷電粒子検出器がイメージチャージ電極(たとえば、検出プレート)をさらに含み、これは荷電粒子検出器の電極の付近に設置されるか、これと容量的に結合され、電極によってイメージチャージ電極内に誘起されたイメージチャージが検出される。電荷はまた、電極から誘導的に検出されてもよく、たとえばコイルまたはコイルペアによって検出電極がデジタイザに結合される。それゆえ、電極は、容量的または誘導的にデジタイザに結合してもよい。
【0038】
光子発生器上の導電層の形態の電極の代わりに、またはこれに加えて、電極は、二次電子発生器が使用される場合、二次電子発生器(たとえばSEM)の陽極またはダイノードを含んでいてもよい。このような実施形態において、電極は、二次電子発生器の中で発生された二次電子を検出する。このような場合、電極は、ダイノードまたは透明陽極であってもよい。このような実施形態において、二次電子発生器は、好ましくは、変換ダイノード、ディスクリートダイノードSEMおよび連続ダイノードSEM(好ましくは、マイクロチャネルプレート(MCP))からなる二次電子発生器の群の中から選択される。このような実施形態において、二次電子は、たとえば、電流または電圧を二次電子発生器(たとえばSEM、MCP等)、たとえばダイノードの1つに供給する電源からの電流によって検出してもよい。
【0039】
荷電粒子検出器の電極は、好ましくは、たとえば質量分析計、特に一般に10
-4から10
-12mbarとされてもよいTOF型質量分析計の内部に見られるような真空環境に設置される。
【0040】
本発明により、異なる種類の検出器を使用することによって、好ましくは、好ましくはシンチレータ上の金属層上の電荷の検出により、シンチレータと関連付けられた電極上での電荷または電流を検出すること(またはイメージチャージ電極上のイメージチャージを検出すること)を利用することによって、高ダイナミックレンジが実現される。
【0041】
光子発生器は、荷電粒子の衝突から光子を発生させることができる、どのような材料であってもよい。1つまたは複数の光子発生器を使用してもよい。光子発生器は、好ましくは、シンチレータであってもよい。基板上のシンチレータの被膜(たとえば、スクリーン)が好ましい構成である。適当なシンチレータは当業界で知られている。2つ以上のシンチレータを使用してもよく、これは、同じであっても異なっていてもよい。シンチレータは、結晶シンチレータでも非結晶シンチレータでもよい。シンチレータは、結晶の形態または液体または溶液の形態の有機シンチレータを含んでいてもよい。シンチレータは、無機シンチレータ、たとえば無機結晶シンチレータを含んでいてもよい。シンチレータは、プラスチックシンチレータ(すなわち、ポリマ内に溶解された有機または無機シンチレータ(蛍光体))であってもよく、これは、シンチレータの成形の点から好ましいかもしれない。適当な市販のシンチレータが利用できる。たとえば、蛍光減衰時間が約0.6ns未満のシンチレータとしては、Yb:YAPとYb:LuAGがあり、蛍光減衰時間が約0.5ns未満のシンチレータとしては、Yb:Lu
3Al
6O
12、CsF、BaLu
2F
8、BaF
2、ZnOおよび(n−C
6H
13NH
3)
2PbI
4がある。複合酸化物結晶シンチレータには、セリウム添加珪酸ガドリニウム(Gd
2SiO
5(Ce)またはGSO)、ゲルマニウム酸ビスマス(Bi
4Ge
3O
12またはBGO)、タングステン酸カドミウム(CdWO
4またはCWO)、タングステン酸鉛(PbWO
4またはPWO)、およびタングステン酸ビスマスナトリウム(NaBi(WO
4)
2またはNBWO)がある。アルカリハライドシンチレータ結晶には、タリウム添加ヨウ化ナトリウムNaI(Tl)、タリウム添加ヨウ化セシウム結晶CsI(Tl)およびナトリウム添加ヨウ化セシウムCsI(Na)がある。その他のシンチレータとしては、セレン化亜鉛ZnSe(Te)がある。プラスチックシンチレータは一般に、ポリマから(たとえば、スチレン、アクリル系および/またはビニルトエンモノマを使用して)製作され、その中にシンチレート用蛍光体が溶解されており、そのうちの最も一般的なものがp−テルフェニル、PPO、a−NPOおよびPBDである。適当な市販の高速プラスチックシンチレータ製品は、BC−422Q(Saint Gobainより入手可能)である。いくつかの実施形態において、導電性ポリマを使用してもよく、これは装置の電荷検出器の電極として機能してもよい。シンチレータは、好ましくは、基板上の蛍光物質、たとえば蛍光スクリーン等の蛍光物質被膜を含む。蛍光物質の好ましい種類は、イットリウムアルミニウムガーネットまたはセリウム活性化ペロブスカイト、より好ましくはYAP:CeまたはYAG:Ce(Y
3Al
5O
12:Ce)またはその他である。好ましい市販の例としては、El−Mul E36がある。その他の蛍光物質には、Lu
2SiO
5:Ce、YAl
3:CeおよびZnO:Gaがある。基板上のこのような蛍光物質の被膜が好ましい。好ましいシンチレータは、応答時間が速く、エネルギー変換が効率的であるように選択される。
【0042】
有利な構成は、シンチレータ被膜、好ましくは蛍光スクリーンを基板上に有するものである。基板はガラス塊、たとえば石英ガラス塊またはポリマ塊であってもよい。塊は、板状またはスラブであってもよい。基板は、たとえば発生された光子を集束させるためのレンズ、好ましくはフレスネルレンズを含んでいてもよい。レンズは、好ましくは、光子を小さな直径のPMT、またはより好ましくは、APD等のフォトダイオードに集束させることができる。APDが小さいほど、応答時間が速く、したがって、レンズを使用して光子をより小さな検出器に集束させることが好ましい。シンチレータは、有利な点として、いくつかの場合、すなわち基板が光子ガイドである場合、光子ガイドの上に直接コーティングしてもよい。
【0043】
有利な点として、実施形態において、シンチレータ被膜の基板は、好ましくは荷電粒子検出器が設置される好ましい真空環境と、好ましくは光子検出器が設置される好ましい大気圧環境の間のバリアまたは分離手段として機能してもよい。真空分離は、あるいは、他の構成部品、たとえばシンチレータそのものまたは光子ガイドによって提供してもよい。
【0044】
光子発生器は、好ましくは、その上に導電性材料(好ましくは層)を有し、これは入射荷電粒子または入射荷電粒子から生成される二次荷電粒子に面する。導電性材料は、好ましくは、電荷粒子検出器の電極として機能してもよい前述のような導電層である。導電層はさらに、光子発生器、たとえば蛍光スクリーンを保護し、また、発生された光子を光子検出器に向かう下流への一方向に反射させるのに役立ててもよい。
【0045】
入射荷電粒子または入射荷電粒子から生成された二次荷電粒子は、好ましくは、これらが光子発生器または光子発生器上の導電層に衝突するときに、約2keVより大きいかそれと同等のエネルギー、より好ましくは、約5keVより大きいかそれと同等のエネルギー、最も好ましくは、約10keVより大きいかそれと同等のエネルギーを持つ。入射荷電粒子または入射荷電粒子から生成される二次荷電粒子は、好ましくは、光子発生器に衝突する前に加速させ(いわゆる後段加速させ)て、光子発生の効率を改善する。光子発生器に衝突する荷電粒子の運動エネルギーが大きいほど、生成される光子の数が多くなる。たとえば、シンチレータの上に50nmの厚さの金属層が設けられたいくつかの実施形態において、衝突する電子の運動エネルギーを2keVから10keVより大きくなるまで増大させることによって、発生される光子の数を10倍以上にすることが可能となりうる。二次電子発生器の中で入射荷電粒子から二次電子が発生される好ましい実施形態において、二次電子は後段加速によって、シンチレータに衝突するために(より好ましいほうに向かって順番に)2,5または10keV以上にしてもよい。荷電粒子のこのような後段加速は、好ましくは、荷電粒子が荷電粒子検出器の電極上に衝突する前に行われる。一般に、少なくとも2段階の加速が行われる。1段階目の加速で、入射荷電粒子は、二次荷電粒子発生器(これが使用されている場合)に衝突する前(たとえば、変換ダイノード、SEM、MCP、チャネルトロン等に衝突する前)に加速される。この加速段階における重要な要素は、入射荷電粒子の全体の運動エネルギーである。この運動エネルギーは、入射荷電粒子の発生源(たとえば、イオン源)における加速から、または二次荷電粒子発生器に衝突する前の後段加速ステップから得ることができる。他の加速段階は、入射荷電粒子または入射荷電粒子から生成される二次粒子が光子発生器(好ましくは、いずれかの二次粒子発生器と光子発生器の間)に衝突する前にある。入射荷電粒子または入射荷電粒子から生成される二次粒子のエネルギーがより高いと、より多くの光子が生成される。さらに、小さなエネルギーで光子発生器上のいずれかの導電性金属層を透過できる。
【0046】
光子発生器の後には、好ましくは、発生された光子を光子検出器に向けて案内する光子ガイドがある。光子ガイドは、たとえば1つまたは複数の光ファイバ、1つまたは複数の導波管、1つまたは複数の反射面(たとえば、アルミニウム被覆面)を含んでいてもよく、その間に凝縮系材料(たとえば、ガラス)があってもなくてもよい。凝縮系材料が反射面の間にない場合、反射面の間には、真空または大気圧または圧縮領域があってもよい。光子ガイドは、たとえばある角度で光子を反射することによって、光子の方向を変更できてもよい。したがって、光子ガイドは、たとえば、光子をある角度で反射するためのミラーまたはプリズムの内面を含んでいてもよい。この角度は180度未満のどの角度でもよいが、一般には、90度以下の角度である。光子をある角度で方向付けることが必要なのは、たとえば、計器内の空間的制約から、構成部品の線形またはインライン式のレイアウトを収容することが難しいからである。光子ガイドの使用により、光子検出器への効率的な光子の伝達に加えて、高電圧で動作可能な二次粒子発生器を利用する、本発明の好ましい実施形態において、電圧分離が可能となりうる。2つ以上の光子ガイドを使用してもよく、これは光子を1つの光子検出器または別の光子検出器に伝達してもよく、すなわち、光子ガイドは光子を2つ以上の部分に分割し(たとえば、分割導波管)、各部分が別の光子検出器によって検出されるようにしてもよい。いくつかの実施形態において、光子発生器そのものを、光子を光子検出器に向ける案内手段となるように形成してもよい。
【0047】
光子検出器は、光子発生器によって発生された光子を検出するために使用される。1つまたは複数の光子検出器を使用してもよい。適当な光子検出器は、以下の種類の少なくとも1つであってもよい。(i)検出器が光子を受け取ったことに応答して発生される電子からの出力信号を生成する光子検出器であり、選択的に、電子に電子増倍を行っておくことができるもの。(ii)画素からなる光学イメージングデバイスを含む光子検出器。(ii)の種類の検出器はさらに、空間情報を提供してもよく、これはたとえば、組織イメージング、表面のSecondary Ion Mass Spectrometry(SIMS)分析、MULTUM等の用途において有益かもしれない。(i)の種類の光子検出器の適当なタイプには、次のものがある。例えば、フォトダイオードまたはフォトダイオードアレイ(好ましくは、アバランシェフォトダイオード(APD)またはアバランシェフォトダイオードアレイ)、光電子増倍管(PMT)、電荷結合素子またはフォトトランジスタである。ソリッドステート光子検出器が好ましく、より好ましい光子検出器はフォトダイオード(好ましくは、アバランシェフォトダイオード(APD))、フォトダイオードアレイ(好ましくはAPDアレイ)またはPMTである。より好ましくは、光子検出器は、APDまたは光電子増倍管(PMT)を含む。1つまたは複数の光子検出器を使用してもよい。単純さとコストの点で好ましい実施形態において、1つのソリッドステート光子検出器(たとえば、APDまたはPMT)が使用される。荷電粒子検出器に関連して、1つのソリッドステート光子検出器で十分に広い検出ダイナミックレンジの高速応答検出装置を提供できることがわかっている。希望に応じて、2つ以上の光子検出器を使用してもよく、好ましくは、各々が十分な飽和レベルを有するように構成される。いくつかの好ましい実施形態において、高ダイナミックレンジの検出を行うために、異なる飽和レベルを有する光子検出器のアレイを使用する。アレイは、2つ以上の光子検出器を含んでいてもよく、たとえば、フォトダイオードのアレイまたはPMTのアレイ、またはフォトダイオードとPMTの組み合わせを含むアレイであってもよい。
【0048】
異なる種類の光子検出器を組み合わせて使用してもよく、たとえばフォトダイオードをPMTともに使用してもよい。異なる飽和レベルは、たとえば、検出器の種類の違い、それぞれの検出器のゲインの違い、検出前の光子の減衰および/またはフィルタ処理の違い等を利用することによって実現してもよい。したがって、光子フィルタまたは光子減衰器を使用してもよい。
【0049】
大きな信号と飽和の後の高速回復特性を有する光子検出器、たとえばPMTを使用することが好ましい。したがって、光子検出器の出力の電圧調整のための手段を含めることが好ましい。電圧調整および/または検出器の回復時間のほか、線形性とダイナミックレンジを改善するための適当な方法は当業界で知られており、本発明において有益であり、これはたとえば、ツェナーダイオード、コンデンサおよび/またはトランジスタを有する回路(たとえば、PMT用)を使用することによる(たとえば、米国特許第3,997,779号明細書、米国特許第5,440,115号明細書、米国特許第5,367,222号明細書および米国特許出願公開第2004/0232835 A号明細書に開示されているほか、浜松ホトニクスとETPにより供給されるPMTアセンブリに含まれる)。当然のことながら、荷電粒子検出器からの信号を、光子検出器の飽和、回復またはノイズのあらゆる期間中に使用でき、それによって、入射荷電粒子の検出が中断されないようにすることができる。
【0050】
PMTとフォトダイオードは当業界で知られており、適当なPMTとフォトダイオードは、発生される光子の特性にマッチするように選択できる。これらに使用するのに適した光電陰極材料には、周知の光電陰極材料、たとえばCs−Te、Cs−I、Sb−Cs、バイアルカリ、低暗電流バイアルカリ、Ag−O−Cs、マルチアルカリ、GaAs、InGaAsがある。市販のモデルとしては、浜松ホトニクスのPMTがあり、たとえばUBAおよびSBAタイプのPMT、たとえば、浜松ホトニクスのモデルR9880U−110、BurleのPMT、および浜松ホトニクスのS8550 Siアバランシェフォトダイオード(APD)およびその他のAPDがある。光子検出器は、真空、大気圧、または高圧環境中に設置してもよい。有利な点として、光子検出器は好ましくは、大気圧環境中に設置され、これは有効な動作のために真空が必要でないからである。光子検出器、たとえばPMTが大気圧中に設置される場合、損傷を受けた時の交換がより容易である。本発明の別の利点は、検出システムのダイナミックレンジを、電荷検出器とすることができる真空内の部品(たとえば、質量分析計の真空内)と、光子検出器とすることができる真空外の部品とで分離できることであり、本発明の装置は、真空領域と大気領域の間の信頼性の高い接合手段となるからである。このような構成によって、より敏感な部品(すなわち、予想寿命が最短の部品であり、これは一般に光子検出器である)を容易に交換できる。
【0051】
荷電粒子検出器と光子検出器は最も好ましくは、異なる飽和レベルを有する。検出器が、たとえば種類の違いによって、本来的に実質的に異なる飽和レベルを有する場合、またはより大きな飽和レベルの差が求められる場合、これらを様々な手段によって異なる飽和レベルになるように構成することができる。たとえば、検出器の各々が異なるゲインを持つようにし、またそれらに異なる減衰および/またはフィルタ等を適用してもよい。
【0052】
本発明は、荷電粒子検出の高いダイナミックレンジが必要な時に、また、たとえばTOF型質量分析計のようにこのような検出が高速で必要な場合に有益である。本発明はさらに、単一荷電粒子計数が必要な場合にも有益である。本発明は、質量分析計、たとえばTOF、四重極、またはイオントラップ型質量分析計におけるイオン検出に、たとえば有機化合物の測定、医薬品有効成分の測定、タンパク質および/またはペプチドの同定、種の遺伝子型または表現型の同定等に特に適している。本発明は、TOF型質量分析計、好ましくは多重反射TOF型質量分析計、より好ましくは、長い飛行距離を有する多重反射TOF型質量分析計におけるイオン検出に特に適している。本発明は、検出対象のピーク幅(半値全幅、すなわちFWHM)が約50nsの幅までのTOF型質量分析計で使用してもよいが、いくつかの例において、ピーク幅はもっと広くてもよい。たとえば、ピークのピーク幅は、最大約40ns、最大約30ns、および最大約20ns、一般に0.5から15nsの範囲であってもよい。好ましくは、検出対象のピークのピーク幅は、0.5ns以上、たとえば1ns以上、たとえば2ns以上、たとえば3ns以上、たとえば4ns以上、たとえば5ns以上である。好ましくは、検出対象のピークのピーク幅は一般に、12ns以下、たとえば11ns以下、たとえば10ns以下である。ピーク幅は、次の範囲、たとえば1から12ns、たとえば1から10ns、たとえば2から10ns、たとえば3から10ns、たとえば4から10ns、たとえば5から10nsである。本発明は、本願と同時係属中の英国特許出願第0909232.1号明細書および第0909233.9号明細書に記載されている質量分析計で使用してもよく、同出願の内容を引用によって本願に援用する。当然のことながら、本発明は、タンデム質量分析計(MS/MS)を含む質量分析計および多段階質量処理を行う質量分析計(MS
n)の周知の構成に応用できる。このような質量分析計は、多くの異なる周知のタイプのイオン源の1つ、たとえば大気圧イオン化(API)、エレクトロスプレーイオン化(ESI)、MALDI等を含むレーザ脱離イオン化を利用してもよい。質量分析計は、他の分離および/または測定装置、たとえばクロマトグラフィ装置(GC、LC等)とともに使用してもよい。
【0053】
荷電粒子検出器と光子検出器は、好ましくは、各々、出力(すなわち、少なくとも1つの出力)を含む。荷電粒子検出器と光子検出器の出力は各々、電気信号の形態の出力信号を供給してもよく、その大きさは入射荷電粒子の強度を示す。
【0054】
荷電粒子検出と光子検出は、同時に、または一度に1つずつ行ってもよい。すなわち、両方の検出器が同時に収集用の信号を発生してもよく、また一度に1つの検出器だけが収集用の信号を発生してもよい。好ましくは、荷電粒子検出と光子検出は同時に行われる。
【0055】
荷電粒子検出器と光子検出器の出力は、好ましくは、各々、デジタイザ、たとえばアナログデジタル(A/D)変換器(ADC)またはデジタルストレージオシロスコープに、より好ましくは同じデジタイザの別の入力に接続される。荷電粒子検出器と光子検出器の各々からの出力信号は、それゆえ、好ましくは、デジタイザに送信され、デジタルデータが発生される。荷電粒子検出器と光子検出器からの出力信号は各々、それぞれのデジタイザに送信されてもよいが、好ましくは、これらの信号は、2つ以上の入力チャネルを有する1つのデジタイザに送信される。デジタイザは、好ましくは、たとえばTOF型質量分析計の業界で知られているような高速デジタイザである。しかしながら、より低速の用途には、より低速のデジタイザまたは電子計でも十分でありうる(たとえば、四重極またはセクタ型質量分析計等の場合)。デジタイザは、1つまたは複数のデータ出力信号、一般に、各検出器の入力信号に対して1つのデータ出力信号を供給する。
【0056】
好ましくはデジタイザからの出力としての荷電粒子検出器と光子検出器の出力は、好ましくは、たとえばデータ収集および/または処理機器、好ましくはコンピュータでデータとして収集され、保存される。好ましくは、これは、デジタイザの出力をコンピュータに接続することによって実現される。荷電粒子検出器と光子検出器から発生されたデータは、別々に収集および/または保存しても(すなわち、荷電粒子検出器からのデータが光子検出器からのデータから分離される場合)、または両方のデータセットを合成してもよい。荷電粒子検出器と光子検出器からの出力またはデータは、好ましくは、コンピュータによって合成され、入力電荷粒子の検出を示す1つの出力またはデータセットが提供される。好ましくは、荷電粒子検出器と光子検出器からのデータは、別のデータセットとして、たとえばコンピュータ内に保存され、これらは別のデータセットとして出力されても、されなくてもよいが、合成またはその他の方法で処理されて、保存および/または出力のための少なくとも1つの別のデータセット(本明細書においては、処理済みのデータセットいう)が提供される。好ましい実施形態において、コンピュータによるデータ処理には、荷電粒子検出器と光子検出器のデータを結合して、結合データセット(たえば、高ダイナミックレンジのマススペクトル)を生成することが含まれる。データ結合の好ましい方法をさらに詳細に以下に説明する。
【0057】
本明細書における出力とは、紙上のハードコピー出力または、コンピュータに接続されたビデオディスプレイユニット(VDU)上のソフトコピー出力等、あらゆる従来の出力を含んでいてもよい。
【0058】
データ収集機器は、動作時に、好ましくは、荷電粒子検出器と光子検出器の出力からのデータを収集し、保存する。収集されたデータは、たとえばデータ収集機器によって処理されてもよい。たとえば、データは、検出装置が質量分析計の一部である場合に、マススペクトル用のイオン存在量データを提供するように処理してもよい。このようなデータ処理は当業界で知られている。データは、好ましくは前記処理の後に、出力させることを選択できる。
【0059】
当然のことながら、検出器の出力からのデータを収集し、処理するコンピュータは、好ましくは、入射荷電粒子の発生源(たとえば、質量分析計)にも動作的に接続して、検出器の出力を入射荷電粒子の1つまたは複数のパラメータ、たとえば入射荷電粒子の質量と相関させることができるようにする。このようにして、たとえば、マススペクトルをコンピュータによって生成することができる。
【0060】
本発明の装置を質量分析計からの入射イオンの検出に応用して、マススペクトルを収集する中で、各種のデータ処理方法を利用してもよい。好ましい方法には以下のものがある。検出器から(たとえば、デジタイザを介して)収集されたデータは、好ましくは、コンピュータに転送される。
1.単独のデジタル化地点のすべてが転送されるフルプロファイルスペクトルとして。または、
2.所定のレベルを超える数値のピークに属する地点だけがデジタイザからコンピュータに転送される、限定的プロファイルスペクトル。このようにすると、データの転送と保存に必要な帯域幅を縮小できる。所定のレベルは、取得の長さ全体について設定し、または異なる取得セグメントについて規定し、または信号/ノイズレベルに応じて、または他のアルゴリズムを使用してオンザフライで決定することができる。または、
3.ピーク重心だけが強度情報とともにコンピュータに転送される。この場合、ピーク重心およびその他の演算は、デジタイザに搭載された計算手段で実行される。たとえば、オンボードコンピュータ、マイクロコンピュータ、FPGA等を使用できる。
【0061】
1回の実験で荷電粒子検出器と光子検出器の1つまたは複数から取得した出力またはデータは、1つまたは複数の動作パラメータの制御に使用してもよい。このような1つの実施形態において、1回の実験で荷電粒子検出器と光子検出器の1つまたは複数から取得した出力またはデータは、次の実験のための荷電粒子検出器と光子検出器の1つまたは複数のゲインの制御に使用してもよい。本明細書において、実験には、たとえばマススペクトル用として、入射イオンの存在量を記録することが含まれていてもよい。たとえば、検出器の1つまたは複数の出力が1回の実験において、データ収集および処理手段の測定により、1つまたは複数のピークにおいて飽和した場合、前記手段は、次の実験において、たとえば前記1つまたは複数のピークで、検出器の当該の1つまたは複数のゲインを下げるかもしれない(たとえば、以前のマススペクトルを使用して、強いピークがいつ到来するかを判断する)。ゲインは、数多くの方法で調整してもよく、たとえば、検出器への1つまたは複数の印加電圧を調整する、入射荷電粒子または二次荷電粒子の流れを調整する、光子検出器に当たる前の荷電粒子の集束を調整する、または検出器の温度またはその他のパラメータを調整することによって行う。
【0062】
入射荷電粒子または入射荷電粒子から生成される二次荷電粒子の集束を使用して、電荷検出器の上(たとえば、金属層等、その電極の上)および/または光子検出器に衝突する前記粒子の流れを変化させることが可能である。これによって最終的に、光子の発生、したがって光子検出器の照明が変化する。集束は、適当なイオン光学系、たとえば1つまたは複数のイオンレンズ、好ましくは1つまたは複数のリング電極(より好ましくは、2つ以上のリング電極)によって実現してもよい。有利な点として、二次荷電粒子発生器(たとえばMCP)の取付手段および/または光子検出器の取付手段は、1つまたは複数のイオンレンズ、または1つまたは複数のリング電極として機能してもよく、適当な電圧を取付手段に印加することによって、適当な集束を行うために使用してもよい。
【0063】
それゆえ、特にマススペクトルのためのイオン検出という意味において、最大ゲインの検出器のゲインを以下のようにして調整することができる。
以前のスペクトルを使用して、たとえば所定の閾値の上(または下)等、強い(または弱い)ピークがいつ到達するかを判断することによる。次に、以下の方法の1つまたは複数を使用できる。
a)強い(または弱い)ピークが存在している(すなわち、検出されている)間に、最大ゲインのチャネルのゲインを調整する。強いピークの時のゲインを低下させることにより、光子検出器の寿命も延長される可能性がある。ゲインを下げた高ゲインのチャネルからのデータをこの期間中に使用でき、または、選択的に、電荷検出器からのデータをこの期間中に使用でき、それによって、ゲインがどれだけ低下されたかを知る必要がない。
b)入射荷電粒子または入射荷電粒子から生成された二次荷電粒子の、光子発生器に当たった数を、好ましくは以下の方法の1つまたは複数を使用して調製する(数を減らすことにより、光子発生器と光子検出器の寿命が延長される可能性がある)。
i)強い(または弱い)ピークが存在している(すなわち、検出されている)間に、光子発生器に当たる前の荷電粒子(たとえば二次電子)の集束を調整する。
ii)強い(または弱い)ピークが存在している(すなわち、検出されている)間に、入射荷電粒子源(たとえば、イオン源)からの入射荷電粒子(たとえばイオン)の数を調整する。
iii)強い(または弱い)ピークが存在している(すなわち、検出されている)間に、二次荷電粒子発生器上のゲインを調整する。
【0064】
荷電粒子検出器と光子検出器の1つまたは複数から取得した出力またはデータは、その他の動作パラメータの制御、たとえば、PMTとAPD光子検出器の温度制御のために使用してもよい。APDは特に温度に敏感であり、すなわち、ゲインが温度と共に変動する。
【0065】
本発明の異なる態様によれば、荷電粒子検出器が選択的である(すなわち、いくつかの実施形態ではなくてもよい)、上記の態様による装置と方法が提供される。それゆえ、本発明のこれらの異なる態様のいくつかの実施形態においては、荷電粒子検出器がなく、たとえば、二次電子を検出するための荷電粒子検出器がない。本発明のこれらの異なる態様において、装置または方法は、本明細書に記載される好ましさにしたがって、2つ以上の光子検出器、たとえば光子検出器を含む。2つ以上の光子検出器は、好ましくは、本明細書に記載されるように、異なる飽和レベルを有する。2つ以上の光子検出器は、同じでも違ってもよい。
【0066】
本発明をより十分に理解するために、ここで、本発明の各種の非限定的な例を、添付の図面を参照しながら説明する。