(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5684310
(24)【登録日】2015年1月23日
(45)【発行日】2015年3月11日
(54)【発明の名称】白土処理飲食品
(51)【国際特許分類】
A23L 1/015 20060101AFI20150219BHJP
A23F 5/16 20060101ALI20150219BHJP
A23L 1/238 20060101ALI20150219BHJP
C12C 7/28 20060101ALI20150219BHJP
【FI】
A23L1/015
A23F5/16
A23L1/238 104Z
C12C7/18
C12C9/08
【請求項の数】4
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2013-48372(P2013-48372)
(22)【出願日】2013年3月11日
(65)【公開番号】特開2014-171453(P2014-171453A)
(43)【公開日】2014年9月22日
【審査請求日】2014年2月25日
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】391058381
【氏名又は名称】キリンビバレッジ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117787
【弁理士】
【氏名又は名称】勝沼 宏仁
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100143971
【弁理士】
【氏名又は名称】藤井 宏行
(72)【発明者】
【氏名】若 林 英 行
(72)【発明者】
【氏名】塩 野 貴 史
【審査官】
高山 敏充
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2011/126752(WO,A1)
【文献】
特開2011−019508(JP,A)
【文献】
特開2009−159833(JP,A)
【文献】
特開平07−099899(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 1/00−1/035
A23L 1/27−1/308
PubMed
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/WPIDS/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で表されるイミダゾール誘導体を含有する飲食品と、
酸性白土とを接触させることを特徴とする、イミダゾール誘導体の低減方法:
【化1】
(上記式中、R
1は水素または−COR
3(ここで、R
3はC
1−5アルキル基を表す)であり、R
2はC
1−5アルキル基またはヒドロキシC
1−5アルキル基である)。
【請求項2】
イミダゾール誘導体が、4−メチルイミダゾール、または2−アセチル−4−(1,2,3,4−テトラヒドロキシブチル)−1H−イミダゾールである、請求項1に記載の低減方法。
【請求項3】
イミダゾール誘導体を含有する飲食品が、コーヒー、カラメル色素、カラメル色素含有飲食品、麦芽から製造されたビール類、または醤油である、請求項1または2に記載の低減方法。
【請求項4】
請求項1に記載の式(I)で表されるイミダゾール誘導体を含有する飲食品と、酸性白土とを接触させる工程を含む、該イミダゾール誘導体が低減された飲食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、白土処理飲食品に関し、さらに詳細にはイミダゾール誘導体の含有量が低減された白土処理飲食品に関する。
【背景技術】
【0002】
イミダゾール誘導体は、コーヒー、カラメル色素、麦芽、または醤油など、様々な食品に含まれている。これらのイミダゾール誘導体の中でも、4−メチルイミダゾール(4MI)、2−アセチル−4−(1,2,3,4−テトラヒドロキシブチル)−1H−イミダゾール(THI)などを、人が多量に摂取した場合の好ましくない影響が懸念されている。
【0003】
例えば、4MIは、糖に亜硫酸化合物やアンモニウム化合物を添加して製造されたカラメル色素や、コーヒー、黒ビール、醤油などの製造過程で生成されるが、欧州食品安全機関(EFSA)においては、最大250mg/kg以下に規制されている。
【0004】
これまでに4MIを含有する飲食品等を製造する際に、4MIの生成量を抑制することを目的とした様々な方法が検討されてきている(例えば、特許文献1および特許文献2参照)。しかしながら、これらの4MI生成抑制方法では、飲食品中に4MIが既に存在する場合には、低減させることが難しいとの課題を有していた。
【0005】
この課題を解決するために、4MIを含有する飲食品等から、4MIを低減する方法が提案されている(例えば、特許文献3および特許文献4参照)。しかしながら、これらの限外濾過膜や活性炭を用いた4MI低減方法では、4MIを含有する飲食品の外観を損ね、香味を損なう可能性があった。
【0006】
従って、保管後でも外観や香味を損なわず、簡便な方法で、イミダゾール誘導体を低減する方法については、今なお希求されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭62−48371号公報
【特許文献2】特開昭62−48372号公報
【特許文献3】特公平2−18054号公報
【特許文献4】国際公開第2011/126752号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、保管後でも外観や香味を損なわず、簡便な方法で、イミダゾール誘導体を低減できる方法、イミダゾール誘導体が低減された飲食品、および該飲食品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、イミダゾール誘導体を含有する飲食品と、白土とを接触させることにより、該飲食品中のイミダゾール誘導体の含有量を低減できることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の(1)〜(8)に関する。
(1)下記式(I)で表されるイミダゾール誘導体を含有する飲食品と、白土とを接触させることを特徴とする、イミダゾール誘導体の低減方法:
【化1】
(上記式中、R
1は水素または−COR
3(ここで、R
3はC
1−5アルキル基を表す)であり、R
2はC
1−5アルキル基またはヒドロキシC
1−5アルキル基である)。
(2)イミダゾール誘導体が、4−メチルイミダゾール、または2−アセチル−4−(1,2,3,4−テトラヒドロキシブチル)−1H−イミダゾールである、(1)に記載の低減方法。
(3)イミダゾール誘導体を含有する飲食品が、コーヒー、カラメル色素、カラメル色素含有飲食品、麦芽から製造されたビール類、または醤油である、(1)または(2)に記載の低減方法。
(4)白土処理してなるカラメル色素であり、かつ(1)に記載の式(I)で表されるイミダゾール誘導体が、該カラメル色素の固形物に対し、1〜200ppm含まれる、カラメル色素。
(5)イミダゾール誘導体が、4−メチルイミダゾールまたは2−アセチル−4−(1,2,3,4−テトラヒドロキシブチル)−1H−イミダゾールである、(4)に記載のカラメル色素。
(6)白土処理してなるカラメル色素を含有する、容器詰め飲料であり、かつ(1)に記載の式(I)で表されるイミダゾール誘導体が、該飲料に対して、1〜100ppb含まれる、カラメル色素含有容器詰め飲料。
(7)イミダゾール誘導体および鉄イオンを含むカラメル色素であり、かつ(1)に記載の式(I)で表されるイミダゾール誘導体が、該カラメル色素の固形物に対し、1〜200ppm含まれ、鉄イオンが、該カラメル色素の固形物に対し、10〜500ppm含まれる、カラメル色素。
(8)(1)に記載の式(I)で表されるイミダゾール誘導体を含有する飲食品と、白土とを接触させる工程を含む、該イミダゾール誘導体が低減された飲食品の製造方法。
【0011】
本発明によれば、保管後でも外観や香味を損なわず、簡便な方法で、上記式(I)で表されるイミダゾール誘導体を低減できる新規方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】4メチルイミダゾール(4MI)の紫外線吸収スペクトルの測定結果を表す。
【
図2】4メチルイミダゾール(4MI)の紫外線吸収スペクトルの測定結果に基づく検量線を表す。
【
図3】酸性白土処理による4メチルイミダゾール(4MI)の除去効果を示す。
図3中、「control」は酸性白土を加えていない群、「0.5%」は4メチルイミダゾール(4MI)含有溶液に、酸性白土を0.5質量%加えた群、および「1%」は4メチルイミダゾール(4MI)含有溶液に、酸性白土を1質量%加えた群を表す。
【0013】
飲食品中のイミダゾール誘導体の低減方法
本発明のイミダゾール誘導体の低減方法は、イミダゾール誘導体を含有する飲食品と、白土とを接触させることを特徴とする、該飲食品中に含まれるイミダゾール誘導体の含有量の低減方法である。
【0014】
本発明の低減方法により低減されるイミダゾール誘導体は、下記式(I)で表されるイミダゾール誘導体である:
【化2】
(上記式中、R
1は水素または−COR
3(ここで、R
3はC
1−5アルキル基を表す)であり、R
2はC
1−5アルキル基またはヒドロキシC
1−5アルキル基である)。
【0015】
ここで、「C
1−5アルキル基」という場合の「C
1−5」とは、該アルキル基の炭素数が1〜5個であることを意味する。また、「C
1−5アルキル基」は、例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、イソプロピル、イソブチル、tert-ブチル、イソペンチル、ネオペンチル、tert-ペンチル、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル等の直鎖状、分岐鎖状、環状、またはそれらの組み合わせのいずれであってもよいが、好ましくは直鎖状または分岐鎖状であり、より好ましくはメチルである。
【0016】
また、ヒドロキシC
1−5アルキル基は、直鎖状、分岐鎖状、環状アルキル基の水素原子の一つ又は二つ以上が水酸基で置換されたものであれば特に限定されるものではないが、好ましくは直鎖状または分岐鎖状であり、より好ましくは1,2,3,4−テトラヒドロキシブチルである。
【0017】
本発明の低減方法により低減されるイミダゾール誘導体の好ましい態様によれば、上記式(I)で表される化合物中、R
1が水素であり、かつR
2がC
1−5アルキル基であるイミダゾール誘導体が提供される。
【0018】
本発明の低減方法により低減されるイミダゾール誘導体は、より好ましくは、下記式で表されるイミダゾール誘導体(4−メチルイミダゾール(4−MI))である。
【化3】
【0019】
本発明の低減方法により低減されるイミダゾール誘導体の別の好ましい態様によれば、上記式(I)で表される化合物中、R
1が−COR
3(ここで、R
3はC
1−5アルキル基を表す)であり、かつR
2がヒドロキシC
1−5アルキル基であるイミダゾール誘導体が提供される。
【0020】
本発明の低減方法により低減されるイミダゾール誘導体は、より好ましくは、下記式で表されるイミダゾール誘導体(2−アセチル−4−(1,2,3,4−テトラヒドロキシブチル)−1H−イミダゾール(THI))である。
【化4】
【0021】
本発明の低減方法により低減されるイミダゾール誘導体は、4−メチルイミダゾールおよび2−アセチル−4−(1,2,3,4−テトラヒドロキシブチル)−1H−イミダゾールからなる群から選択される一以上を含有するものであることがより好ましく、さらに好ましくは4−メチルイミダゾール(4MI)を含有するものである。
【0022】
本発明のイミダゾール誘導体の低減方法に用いられる飲食品は、イミダゾール誘導体が僅かでも含有されている飲食品であれば特に限定されるものではないが、好ましくはコーヒー豆の抽出液(コーヒー)、麦芽から製造されたビール類、醤油、ソース、カラメル色素、またはカラメル色素含有飲食品(好ましくは、コーラ)が挙げられる。コーヒーおよびビール類にそれぞれ用いられるコーヒー豆および麦芽の種類は、特に限定されないが、L値が低いコーヒー豆および麦芽がより好ましい。L値が低いコーヒー豆および麦芽には、比較的多くの4MIが含有されているためである。L値の低い麦芽としては、例えば、黒ビールの原料に用いられる麦芽が挙げられる。
【0023】
また、カラメル色素(カラメル)は、糖類を加熱重合して得られる高分子の褐色色素が含まれる溶液であり、各種重合触媒(例えば、アンモニウム化合物や亜硫酸化合物)を使用して得られた高分子の褐色色素が含まれる溶液も本発明低減方法に用いられる飲食品に含まれるカラメル色素に含まれる。該カラメル色素は、その製造方法により以下の4種類に分類されるが、いずれの製造方法により製造されたカラメル色素であっても、上記飲食品に含まれてもよい。
カラメルI:澱粉加水分解物、糖蜜または糖類の食用炭水化物を、熱処理して得られたもの、または酸若しくはアルカリを加えて熱処理して得られたもので、亜硫酸化合物およびアンモニウム化合物を使用していないもの。
カラメルII:澱粉加水分解物、糖蜜または糖類の食用炭水化物に、亜硫酸化合物を加えて、またはこれに酸若しくはアルカリを加えて熱処理して得られたもので、アンモニウム化合物を使用していないもの。
カラメルIII:澱粉加水分解物、糖蜜または糖類の食用炭水化物に、アンモニウム化合物を加えて、またはこれに酸若しくはアルカリを加えて熱処理して得られたもので、亜硫酸化合物を使用していないもの。
カラメルIV:澱粉加水分解物、糖蜜または糖類の食用炭水化物に、亜硫酸化合物およびアンモニウム化合物を加えて、またはこれに酸若しくはアルカリを加えて熱処理して得られたもの。
【0024】
本発明の低減方法に用いられる飲食品としては、いずれのカラメル色素も用いることができるが、好ましくは上記カラメルIIIまたはIVの製造方法により製造されたカラメル色素であり、さらに好ましくはカラメルIVの製造方法により製造されたカラメル色素である。これらの製造方法は、より4−メチルイミダゾール(4MI)が生成しやすい製造方法である。
【0025】
本発明のイミダゾール誘導体の低減方法の好ましい態様によれば、4−メチルイミダゾールおよび2−アセチル−4−(1,2,3,4−テトラヒドロキシブチル)−1H−イミダゾールからなる群から選択される一以上のイミダゾール誘導体を含有する飲食品と、白土とを接触させることを特徴とし、該飲食品が、コーヒー、カラメル色素、カラメル色素含有飲食品(好ましくは、コーラ)、麦芽から製造されるビール類、または醤油である、イミダゾール誘導体の低減方法が提供される。また、カラメル色素含有飲食品としては、特に限定されるものではないが、好ましくは、コーラ、醤油、味噌、つゆ等の醤油加工食品、たれ、スープ、調味料、リキュール、またはビール類が挙げられる。
【0026】
本発明のイミダゾール誘導体の低減方法に用いられる白土は、酸性白土および活性白土のいずれであってもよいが、酸性白土であることがより好ましい。白土の一般的な化学成分として、SiO
2、Al
2O
3、Fe
2O
3、CaO、MgOなどを有するが、本発明の低減方法に使用する場合、SiO
2 /Al
2O
3 比は、特に限定されるものではないが、3〜12、好ましくは4〜9である。また、酸性白土および活性白土中に、Fe
2O
3 2〜5質量%、CaO 0〜1.5質量%、MgO 1〜7質量%などを含有する組成のものが好ましい。本発明において用いられる活性白土は、天然に産出する酸性白土(モンモリロナイト系粘土)を硫酸などの鉱酸で処理したものであり、大きい比表面積と吸着能を有する多孔質構造を有する化合物である。また、本発明において用いられる活性白土は、酸性白土をさらに、酸処理することにより得られ、その比表面積が変化し、脱色能の改良および物性が変化することが知られている。
【0027】
酸性白土または活性白土の比表面積は、酸処理の程度等により異なるが、50〜350m
2/gであるのが好ましい。例えば、酸性白土としては、ミズカエース#20、ミズカエース#200、ミズカエース#400、ミズカエース#600、ミズライト(水澤化学社製)などの市販品を用いることができる。また、例えば、活性白土としては、ガレオンアースNVZやガレオンアースV2、ガレオンアースNF2、NFX(水澤化学社製)などの市販品を用いことができる。
【0028】
本発明の好ましい態様によれば、本発明の低減方法において、イミダゾール誘導体を含有する飲食品と、白土とが接触する際の該飲食品のpHは1〜10であることが好ましく、より好ましくはpH1.5〜7である。
【0029】
本発明の好ましい別の態様によれば、本発明の低減方法において、イミダゾール誘導体を含有する飲食品と、酸性白土とが接触する際の該飲食品のpHは1〜10であることが好ましく、より好ましくはpH2〜7であり、さらに好ましくはpH2〜5である。
【0030】
本発明の好ましい別の態様によれば、本発明の低減方法において、イミダゾール誘導体を含有する飲食品と、活性白土とが接触する際の該飲食品のpHは1〜10であることが好ましく、より好ましくはpH1.5〜6.5である。
【0031】
本発明の低減方法に用いられるイミダゾール誘導体を含有する飲食品は、酸性白土および活性白土の両方を含む白土と接触させてもよく、いずれか一方と接触させてもよい。また、酸性白土および活性白土の複数の種類を混合させて用いてもよい。好ましくは、酸性白土と接触させる態様である。
【0032】
本発明の低減方法に用いられるイミダゾール誘導体を含有する飲食品と接触させる白土の量は、該飲食品に含まれるイミダゾール誘導体の量や、白土のイミダゾール誘導体の吸着能等に基づいて適宜定められるものであり、当業者であれば、該飲食品に用いられる素材の種類や、白土の種類などにより適宜定めることができる。例えば、イミダゾール誘導体を含有する飲食品としてカラメル色素を用いる場合は、接触させる白土(好ましくは酸性白土)の量は、0.1〜10質量%、より好ましくは1〜8質量%、さらに好ましくは3〜8質量%、さらにより好ましくは5〜8質量%とすることができる。
【0033】
本発明の低減方法は、飲食品中の上記式(I)で表されるイミダゾール誘導体の含有量が低減すれば特に限定されるものではないが、白土処理前の飲食品と比較して、10%以上低減することが好ましく、50%以上低減することがより好ましい。また、白土処理後の飲食品中の上記式(I)で表されるイミダゾール誘導体の含有量は、特に限定されるものではないが、飲食品がカラメル色素である場合、好ましくは、カラメル色素の固形物に対し、1〜200ppm(好ましくは、100ppm以下)である。また、白土処理してなるカラメル色素を含有する、容器詰め飲料である場合、上記式(I)で表されるイミダゾール誘導体が、容器詰め飲料中に1〜100ppb、より好ましくは1〜30ppb、さらに好ましくは30ppb未満である。
【0034】
また、上記式(I)で表されるイミダゾール誘導体が含まれるコーヒー、カラメル色素、カラメル色素含有飲食品(好ましくは、コーラ)、麦芽から製造されるビール類、または醤油などの飲食品は、活性炭と接触する場合と比較して、白土と接触させた場合の方が、飲食品の彩度が、接触させる前の飲食品の彩度と比較して、彩度差が少なく、外観上好ましい。飲食品の彩度は、例えば、色彩色差計(コニカミノルタ社製、型番:CM-3500d)により測定することができる。当該機器マニュアルに従って、L
*値、a
*値、b
*値を測定することができる。
【0035】
カラメル色素
本発明のカラメル色素の一つの態様によれば、白土処理してなるカラメル色素であり、上記式(I)で表されるイミダゾール誘導体がカラメル色素の固形物に対して、1〜200ppm含まれるカラメル色素が提供される。本発明のカラメル色素に含まれる上記式(I)で表されるイミダゾール誘導体は、カラメル色素の固形物に対して、1〜200ppm含まれるものであれば特に限定されるものではないが、好ましくはカラメル色素の固形分に対して、1〜100ppmであり、より好ましくは1〜70ppmであり、さらに好ましくは60ppm未満である。カラメル色素を白土処理することにより、本発明のカラメル色素中に含まれる上記式(I)で表されるイミダゾール誘導体の含有量を低減させることができる。該カラメル色素中のイミダゾール誘導体の含有量は、下記の実施例に記載のように、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて測定することができる。また、本発明のカラメル色素中に、鉄イオンが、カラメル色素の固形物に対して、10〜500ppm含まれていた場合には、カラメル色素が白土処理されたものであると考えることもできる。
【0036】
また、本発明の別の態様によれば、白土処理してなるカラメル色素を含有する、容器詰め飲料であり、かつ上記式(I)で表されるイミダゾール誘導体が、該飲料に対して、1〜100ppb含まれる、カラメル色素含有容器詰め飲料が提供される。本発明の容器詰め飲料中に含まれるイミダゾール誘導体は、該容器詰め飲料に対して、1〜100ppb含まれるものであれば特に限定されるものではないが、好ましくは該容器詰め飲料に対して、1〜30ppbであり、より好ましくは30ppb未満である。カラメル色素を白土処理することにより、本発明の容器詰め飲料に含まれるイミダゾール誘導体の含有量を低減させることができる。該容器詰め飲料中のイミダゾール誘導体の含有量は、下記の実施例に記載のように、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて測定することができる。ここで、容器詰め飲料とは、例えば、PETボトルや瓶などの透明容器や、缶、紙製容器等の密閉容器に詰められた飲料が挙げられる。
【0037】
また、本発明の別の態様によれば、イミダゾール誘導体および鉄イオンを含むカラメル色素であり、イミダゾール誘導体が、該カラメル色素の固形物に対して、1〜200ppm含まれ、鉄イオンが、該カラメル色素の固形物に対して、10〜500ppm含まれるカラメル色素が提供される。このカラメル色素に含まれるイミダゾール誘導体は、カラメル色素の固形物に対して、1〜200ppm含まれるものであれば特に限定されるものではないが、好ましくはカラメル色素の固形分に対して、1〜100ppmであり、より好ましくは1〜70ppmであり、さらに好ましくは60ppm未満である。また、このカラメル色素に含まれる鉄イオンは、カラメル色素の固形物に対して、10〜500ppm含まれるものであれば特に限定されるものではないが、好ましくはカラメル色素の固形分に対して、20〜300ppmであり、より好ましくは30〜200ppmである。このカラメル色素に含まれる鉄イオンは白土由来のものであってよい。該カラメル色素中のイミダゾール誘導体、および鉄イオンの含有量は、下記の実施例に記載のように、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて測定することができる。
【0038】
また、上記式(I)で表されるイミダゾール誘導体が含まれるカラメル色素およびカラメル色素を含有する容器詰め飲料は、活性炭と接触する場合と比較して、白土と接触させた場合の方が、飲食品の彩度が、接触させる前の飲食品の彩度と比較して、彩度差が少なく、外観上特に好ましい。カラメル色素およびカラメル色素を含有する容器詰め飲料の彩度は、上述と同様に測定できる。
【0039】
また、本発明のカラメル色素に含有されるミネラル類の量は特に限定されるものではないが、好ましくは、カラメル色素の固形物に対して鉄イオンが10〜500ppm、カルシウムイオンが200〜5000ppm、アルミニウムイオンが10〜1000ppm、珪素イオンが100〜1000ppm、カリウムイオンが50〜1000ppmであり、より好ましくは、鉄イオンが20〜300ppm、カルシウムイオンが500〜3000ppm、アルミニウムイオンが100〜1000ppm、珪素イオンが200〜1000ppm、カリウムイオンが80〜500ppmである。これらのミネラル類の含有量は、カラメル色素を酸性白土で処理した場合の含有量であることが好ましい。
また、本発明のカラメル色素を含有する容器詰め飲料に含有されるミネラル類の量は特に限定されるものではないが、好ましくは、該容器詰め飲料に対して鉄イオンが0.01〜1ppm、カルシウムイオンが0.2〜10ppm、アルミニウムイオンが0.01〜2ppm、珪素イオンが0.1〜2ppm、カリウムイオンが0.05〜2ppmであり、より好ましくは、鉄イオンが0.02〜0.6ppm、カルシウムイオンが0.5〜6ppm、アルミニウムイオンが0.1〜2ppm、珪素イオンが0.2〜2ppm、カリウムイオンが0.08〜1ppmである。これらのミネラル類の含有量は、カラメル色素を酸性白土で処理した場合の含有量であることが好ましい。
【0040】
本発明のカラメル色素およびカラメル色素を含有する容器詰め飲料に含まれるイミダゾール誘導体、白土、および白土処理に用いられる飲食品は、本発明の低減方法に用いられるイミダゾール誘導体、白土、および飲食品と同じであってよい。
【0041】
イミダゾール誘導体が低減された飲食品の製造方法
本発明の製造方法は、上記式(I)で表されるイミダゾール誘導体を含有する飲食品と、白土とを接触させる工程を含む、該イミダゾール誘導体の含有量が低減された飲食品の製造方法である。
【0042】
上記式(I)で表されるイミダゾール誘導体を含有する飲食品と、酸性白土とを接触させる工程は、特に限定されるものではないが、pH1〜10で行うことが好ましく、より好ましくは、pH2〜7であり、さらに好ましくはpH2〜5である。このような条件下で接触させることにより、該飲食品中の上記式(I)で表されるイミダゾール誘導体(特に、4MI)を低減させることができる。
【0043】
上記式(I)で表されるイミダゾール誘導体を含有する飲食品と、活性白土とを接触させる工程は、特に限定されるものではないが、pH1〜10で行うことが好ましく、より好ましくはpH1.5〜6.5である。このような条件下で接触させることにより、該飲食品中の上記式(I)で表されるイミダゾール誘導体(特に、4MI)を低減させることができる。
【0044】
本発明の製造方法に用いられるイミダゾール誘導体、白土、および飲食品等は、上記本発明の低減方法に用いられるイミダゾール誘導体、白土、および飲食品等と同じであってもよい。
【0045】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例】
【0046】
4−メチルイミダゾール(4MI)の検量線の作成
市販されている4−メチルイミダゾール(4MI)を使用し、紫外線吸収スペクトルの測定を行った。4MIの濃度を10ppmとなるように水に溶解し、その溶液の紫外線吸収スペクトルを、分光光度計(日立社製、U−3310)を用いて測定した。その測定結果を
図1に示す。4MIの吸収極大波長は212nmであった。
【0047】
次に、4MIを5、10、15、20mg/Lとなるように水に溶解し、分光光度計(日立社製、U−3310)を用いて検量線を作成した。その結果を
図2に示す。
【0048】
酸性白土による4−メチルイミダゾール(4MI)の低減効果
市販品の4−メチルイミダゾール(4MI)を濃度10ppmになるように水に溶解した。次に、この溶液に酸性白土(ミズカエース#20、水澤化学社製)をそれぞれ0.5%、1%となるように添加および撹拌し、0.45μmのメンブレンフィルター(ミリポア社製)でろ過して、酸性白土を除去した。分光光度計を用いて、吸収波長を測定し、上記で作成した検量線から、この溶液の4MIの含有量を算出した。その結果を
図3に示す。4MI含有水溶液を白土と接触させることにより、4MI含有量が低減されることが確認された。
【0049】
カラメル色素中の4メチルイミダゾール(4MI)の低減効果
4−メチルイミダゾール(4MI)を含有する市販のカラメル色素について、酸性白土および活性白土を用いて4MIの低減効果を検討した。
【0050】
市販品のカラメル色素(IV類)(カラメルIV)を4MI含有量が25ppmとなるように水で希釈し、40mlずつ試験管に分注した。これらのカラメル色素水溶液に、下記表1に示すように酸性白土(ミズカエース♯400、水澤化学社製)、活性白土(ガレオンアースNFX、水澤化学社製)、または活性炭(CL−K、味の素ファインテクノ社製)をそれぞれ2、4、および6質量%添加し、ボルテックスミキサーで撹拌し、室温で10分間接触させた。その後、3000rpmで10分間遠心分離を行い、上清30mlをデカンテーションして回収した。
【0051】
次に、上記の回収した試料を0.5〜1gの範囲となるように正確に採取、秤量し、0.2mol/Lのリン酸緩衝液(pH6)で50mlに定量した。このうち10mlを分取し、0.1mol/Lのジ(2−エチルヘキシル)ホスフェート‐クロロホルム溶液10mlを加えて5分間振とうした。その後、遠心分離を行い、クロロホルム層(下層)を5ml分取し、0.1mol/Lのリン酸1mlを加えてボルテックスミキサーで撹拌後、遠心分離を行い、リン酸層(上層)を分取して、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で4MIの分析を行った。HPLCの操作条件は以下の通りであった。なお、実施例7及び対照区2は、1NのNaOH(6.6%)を用いて試料と白土との接触処理前の試料溶液のpHを5.2に調整した以外は、上記と同様に調製し、分析に供した。
【0052】
機種:LC−10AS(島津製作所製)
検出器:紫外可視分光光度計SPD−10AV(島津製作所製)
カラム:CAPCELL PAK C18 AQ(3μm)、φ4.6mm×25cm(資生堂株式社製)
カラム温度:40℃
移動相:0.01mol/Lオクタンスルホン酸ナトリウム、0.05mol/Lリン酸二水素カリウム及びアセトニトリルの混液(900:60)
流量:1.0ml/min
測定波長:214nm
注入量:20μl
【0053】
【表1】
【0054】
上記表1より、酸性白土および活性白土のいずれにおいても、白土の添加量に依存して4MIを低減できることが確認できた。また、酸性白土で処理した方が活性白土で処理した場合と比較して、より高い4MI除去効果を示し、比較例の活性炭で処理した場合に比べてもより高い4MI低減効果が確認できた。さらに、実施例1と実施例7との比較により、試料と白土との接触処理前のpHが低いほうが4MIの含有量をより低減することが確認された。
【0055】
カラメル色素中の4メチルイミダゾール(4MI)の低減効果と外観および香気評価
4−メチルイミダゾール(4MI)を含有する市販のカラメル色素について、酸性白土および活性白土を用いて4MIの低減効果と外観および香気の変化を検討した。
【0056】
市販品のカラメル色素(IV類)(カラメルIV)を水で5倍に希釈し、40mlずつ試験管に分注した。これらのカラメル色素水溶液に、下記表2および3に示すように酸性白土(ミズカエース♯400、またはミズカエース♯200、いずれも水澤化学社製)、または活性炭(CL−K、味の素ファインテクノ社製、FP−1、FP−6、日本エンバイロケミカルズ製)をそれぞれ2および4質量%添加し、ボルテックスミキサーで撹拌し、室温で10分間接触させた。その後、4000rpmで10分間遠心分離を行い、上清30mlをデカンテーションして回収した。その後、上記と同様の条件下で、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて4MIの分析を行った。
【0057】
香気に関しては、複数のパネリストによって官能評価を行った。香気点は対照区3を基準とし、これと比較してカラメル独特の香気が同等のものを5点、香気が対照より著しく劣っているものを1点として、5段階評価を行った。香気の香気点基準は以下の通りである。評価結果を下記表4示す。
(香気点評価基準)
5点:カラメル独特の香気が対照と同等である
4点:カラメル独特の香気が対照よりわずかに劣っている
3点:カラメル独特の香気が対照よりやや劣っている
2点:カラメル独特の香気が対照よりかなり劣っている
1点:カラメル独特の香気が対照より著しく劣っている
【0058】
明度および彩度に関しては、以下のように測定した。測色計での分析は、分光測色計CM−3500d(ミノルタ株式会社製)を用いて、L
*値、a
*値、およびb
*値の測定を行った。分光測色計とは、特定の分光組成を持った光を物体に照射したとき、選択的に物体から透過する光を受光器で受け、物体の分光透過特性を分光測光器により求め、これらの数値から三刺激値を求めるものである。L
*値は明度を表し、a
*値(+方向:赤、−方向:緑)およびb
*値(+方向:黄色、−方向:青色)は色度を表す。また、彩度C
*は(a
*)
2+(b
*)
2の二乗根で表す。測色計でのL
*値、a
*値、b
*値、およびC
*を、下記表4に示す。
【0059】
カラメル固形分に関しては、食品衛生指針理化学編に記載の試料を常温で所定の温度と条件下で加熱乾燥して、乾燥前後の重量差を水分とする常圧加熱乾燥法(公定法)に従って、測定した。
【0060】
また、酸性白土処理後のカラメル色素水溶液中のミネラル類(鉄イオン(Fe)、カルシウムイオン(Ca)、アルミニウムイオン(Al)、珪素イオン(Si)、カリウムイオン(K))の含有量について、以下手順に従い分析した。
カラメル色素1mlに70%硝酸3.5ml、30%過酸化水素0.5mlを添加し、マイクロウェーブ分解装置で加熱分解した。冷却後、分解液を超純水で希釈して、ICP発光分析装置で鉄イオン(Fe)、カルシウムイオン(Ca)、アルミニウムイオン(Al)、珪素イオン(Si)、およびカリウムイオン(K)を定量した。使用した装置と試薬は以下の通りである。
【0061】
(装置)
ICP発光分光装置:iCAP 6500 Duo(サーモフィッシャーサイエンティフィック(株))
ICP発光分析法の測定条件
RFパワー: 1150 W
ネブライザーガス流量:0.65L/min
補助ガス流量: 0.5L/min
プラズマガス流量:12L/min
チャンバー:ガラスサイクロン
ネブライザー:水溶液用ガラス同軸型
【0062】
マイクロウェーブ分解装置:ETHOS PLUS(マイルストーンゼネラル(株))
(試薬)
硝酸:PlasmaPURE(高純度硝酸) 67-70%(SCP SCIENCE)
過酸化水素:超高純度、30%(関東化学)
標準試薬:ICP汎用混合液 XSTC-22 100ppm (SPEX Certiprep)
内部標準試薬:原子吸光用ロジウム標準液1000ppm(和光純薬(株))
【0063】
【表2】
【0064】
【表3】
【0065】
【表4】
【0066】
上記表2により、白土(酸性白土)の添加量に依存して4MIを低減できることが確認できた。また、比較例の複数種の活性炭で処理した場合に比べて、酸性白土のより高い4MI低減効果が確認できた。また、カラメル色素の固形物含有率に関して、白土処理ではほとんど低下しない一方で、活性炭処理では低下しており、歩留まりが良くないことが示唆された。さらに、酸性白土処理したカラメル色素では、各種ミネラルの含有量が比較例よりもそれぞれ増加していたことが確認された。
【0067】
上記表4により、彩度(C
*)に関しては、実施例8〜11は比較例4〜9よりも対照区と比べてその差Δが小さかった。つまり、白土処理は活性炭処理に比べて、4MIの除去率が高いだけでなく、彩度の変化率(彩度差)をより小さく抑えることができる。
【0068】
また、香気に関しては、実施例8〜11においては、対照区3と比較してほぼ同等のカラメル独特の香気を残していた一方、比較例4〜9においては、ほとんど香気が感じられなかった。活性炭処理によりカラメル独特の香気成分が吸着除去されてしまったと考えられる。
【0069】
白土処理したカラメル色素、を含有する飲料の外観および香味評価
実施例9または実施例11において白土処理したカラメル色素、または比較例5において活性炭で処理したカラメル色素をそれぞれ同量用いて、酸味料、甘味料、香料、およびカフェインを適量添加し、コーラ飲料を製造した。それぞれのサンプルを(1)9000ルクス、10℃で、7日間、または(2)45℃で、5日間の条件下で保管し、それぞれ、曝光耐性および加熱劣化耐性について評価した。外観点および香味点の基準は以下に示した通りである。
【0070】
(外観点評価基準)
5点:外観が対照と同等である
4点:外観が対照よりわずかに退色している
3点:外観が対照よりやや退色している
2点:外観が対照よりかなり退色している
1点:外観が対照より著しく退色している
【0071】
(香味点評価基準)
5点:香味が対照と同等である
4点:香味が対照よりわずかに劣っている
3点:香味が対照よりやや劣っている
2点:香味が対照よりかなり劣っている
1点:香味が対照より著しく劣っている
【0072】
(1)9000ルクス、10℃で、7日間の条件下で保管したサンプルの官能評価結果を以下に示す。
【表5】
【0073】
(2)45℃で、5日間の条件下で保管したサンプルの官能評価結果を以下に示す。
【表6】
【0074】
上記表5の結果から、白土処理したカラメル色素を用いた飲食品の方が、活性炭処理したカラメル色素を用いた飲食品と比べて、曝光に対する耐性が高く、香気の劣化も抑制されることが確認された。
【0075】
また、上記表6の結果から、白土処理したカラメル色素を用いた飲食品の方が、活性炭処理したカラメル色素を用いた飲食品と比べて、加熱(長期保存)に対する耐性が高く、甘味を含む香味の劣化も抑制されることが確認された。