特許第5685124号(P5685124)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5685124
(24)【登録日】2015年1月23日
(45)【発行日】2015年3月18日
(54)【発明の名称】ステアリング装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 1/18 20060101AFI20150226BHJP
【FI】
   B62D1/18
【請求項の数】2
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2011-69043(P2011-69043)
(22)【出願日】2011年3月26日
(65)【公開番号】特開2012-201274(P2012-201274A)
(43)【公開日】2012年10月22日
【審査請求日】2014年1月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000144810
【氏名又は名称】株式会社山田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100080090
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 邦男
(72)【発明者】
【氏名】広岡 幸治
(72)【発明者】
【氏名】杉下 傑
【審査官】 杉▲崎▼ 覚
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−256585(JP,A)
【文献】 特開2002−079943(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 1/00− 1/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
幅方向両側に固定側部を有し、ステアリングコラムを支持する固定ブラケットと、前記固定側部を貫通するロックボルトを有する締付具と、該締付具の回動操作と共に回動する主動カムと、前記固定側部に回動不能に装着されると共に前記主動カムと当接する従動カムとからなり、前記主動カムと前記従動カムのベース平坦面上には斜面部,高位面及び当接突起部とからなるカム作動部が周方向に沿って等間隔に形成され、且つ前記斜面部はベース平坦面から高位面に向かって低部緩傾斜面,中間急傾斜面,高部緩傾斜面の順番で構成されてなり、前記中間急傾斜面の両端に設けられた前記低部緩傾斜面と前記高部緩傾斜面とは異なる傾斜角度に形成され、前記高部緩傾斜面は、相対的に前記低部緩傾斜面より傾斜角度が大きく形成されてなることを特徴とするステアリング装置。
【請求項2】
請求項において、前記斜面部は、最低位置と最高位置とを結ぶ直線状の仮想傾斜線の勾配に対して前記低部緩傾斜面の傾斜角度が小さく形成され、前記中間急傾斜面は前記仮想傾斜線と交差してなることを特徴とするステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロック時及びロック解除時における操作レバーの操作性を向上させることができるステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、チルト・テレスコ機能を有するステアリング装置が種々開発されている。特に、カム機構を具備したものが特許文献1に開示されている。特許文献1の内容は、カム22のカムフォロワ21に対する対向面22aに、ロック解除時にカムフォロワ21を位置決めするための第1位置決め部26と、ロック時にカムフォロワ21を位置決めするための第2位置決め部27が、カム22の中心軸線(支軸15の中心軸線C)を挟んで相対向するように各一対が設けられている〔特許文献1の図(3)の(a)参照〕。
【0003】
第1および第2位置決め部26,27の間に、チルトロックの解除時にカムフォロワ21が係合する平坦面と、チルトロック時にカムフォロワ21が係合する平坦面と、これらの平坦面の間を接続するカム面28が形成されている。一方、カムフォロワ21のカム22に対する対向面21aには、カム22の各位置決め部26,27およびカム面28に摺接する台状の一対の突起31が形成されている〔特許文献1の図(3)の(b)参照〕。
【0004】
カム面28は、相対的に傾斜のきつい第1勾配部29と、相対的に傾斜の緩い第2勾配部30とを含んでおり、第2勾配部30は、締め付け時における操作レバーのストロークの後部に位置している〔特許文献1の図(4)の(a)参照〕。このように、カム面28に複数の勾配部29,30を設けることによって、操作レバー16の操作角度の範囲をそれほど大きくすることなく、操作レバー16の操作力を軽減することができる。
【0005】
特に、操作トルクが大きくなりがちな、操作レバー16の締め付け方向におけるストロークの後部に対応して、カム面28に相対的に勾配の緩い第2勾配部30を設けてある。これにより、締め付けストローク後部の操作レバー16の操作トルクを軽減し、操作レバー16の操作性を向上させている。
【0006】
ここで、従来より広く使用されている、始端から終端を単一傾斜としたカム面の形状を、カム面28の始端から終端をつなぐ単一直線からなる仮想傾斜線Lとして定義する。この仮想傾斜線Lに対して特許文献1では、カム面28に形成された第1勾配部29及び第2勾配部30は、対応する位置で、前記仮想傾斜線Lよりも高い位置(領域)に形成されている(図4参照)。仮想傾斜線Lと特許文献1のカム面28におけるカムフォロワ21の回動量は同一であり、操作レバー16の操作角度も同一である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−59851号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1では、従来より広く使用されている始端から終端が単一傾斜の仮想傾斜線Lに対して、勾配部29,30を形成している。操作レバー16のストロークの後部である第2勾配部30は、ストロークの前部である第1勾配部29と比べての操作レバー16の操作力が高い領域である。そして、ストローク後部に、前記仮想傾斜線Lよりも勾配の緩い第2勾配部30を設けることで、仮想傾斜線Lに対して操作レバー16の操作角度を大きくすることなく締め付けストローク後部の操作レバー16の操作力を軽減している〔図4(B)参照〕。
【0009】
しかし、カム面28に形成された勾配は、仮想傾斜線Lよりも全領域で高い位置(領域)に形成されている。カムフォロワ21の回動量が同一の地点で比較した場合、カム面28は仮想傾斜線Lよりもリフト量(カムフォロワ21の軸方向移動量)が大きく、軸力も大きくなっている。カム面28の始端から終端までの全領域において、仮想傾斜線Lに対して、操作レバー16の操作力が初期から後期まで全体的に大きくなってしまう〔図4(B)参照〕。
【0010】
また、チルトロック時、カムフォロワ21は、操作初期段階では平坦面から前記仮想傾斜線Lよりも傾斜のきつい第1勾配部29上を移動することとなり、チルトロック初期の操作レバー16の操作力が大きくなってしまう。
【0011】
チルトロック解除時では、カムフォロワ21は操作レバー16の操作力の高いストロークの後部から、操作レバー16の操作力が低い前部へ移動しようとする力が働く。また、カムフォロワ21は、傾斜の緩い第2勾配部30から、傾斜のきつい第1勾配部29、平坦面を移動するので、チルトロック解除時に操作レバー16が勢いよく戻りすぎる恐れがある。
【0012】
本発明の目的(解決しようとする技術的課題)は、カム機構を具備したチルト・テレスコ調整機能を有するステアリング装置においてレバー操作角度を大きくすることなく、レバー操作荷重を抑え、操作性を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
そこで、発明者は、上記課題を解決すべく、鋭意,研究を重ねた結果、請求項1の発明を、幅方向両側に固定側部を有し、ステアリングコラムを支持する固定ブラケットと、前記固定側部を貫通するロックボルトを有する締付具と、該締付具の回動操作と共に回動する主動カムと、前記固定側部に回動不能に装着されると共に前記主動カムと当接する従動カムとからなり、前記主動カムと前記従動カムのベース平坦面上には斜面部,高位面及び当接突起部とからなるカム作動部が周方向に沿って等間隔に形成され、且つ前記斜面部はベース平坦面から高位面に向かって低部緩傾斜面,中間急傾斜面,高部緩傾斜面の順番で構成されてなり、前記中間急傾斜面の両端に設けられた前記低部緩傾斜面と前記高部緩傾斜面とは異なる傾斜角度に形成され、前記高部緩傾斜面は、相対的に前記低部緩傾斜面より傾斜角度が大きく形成されてなるステアリング装置としたことにより、上記課題を解決した。
【0014】
請求項2の発明を、請求項1において、前記斜面部は、最低位置と最高位置とを結ぶ直線状の仮想傾斜線の勾配に対して前記低部緩傾斜面の傾斜角度が小さく形成され、前記中間急傾斜面は前記仮想傾斜線と交差してなるステアリング装置としたことにより、上記課題を解決した。
【発明の効果】
【0015】
請求項1の発明では、主動カム及び従動カムの斜面部は、ベース平坦面から高位面に向かって低部緩傾斜面,中間急傾斜面,高部緩傾斜面の順番で形成されている。ロック解除状態からロック状態とする過程において、主動カム又は従動カムの当接突起部は、相手側のカムに当接し、相対的な回動により、当接突起部が相手側カムのベース平坦面から高位面に亘って斜面部を通過して移動するものである。
【0016】
このとき当接突起部が斜面部を登り移動するときには、傾斜角度が緩やかな低部緩傾斜面から傾斜角度が急な中間急傾斜面に移動する。当接突起部は、ベース平坦面からいきなり、傾斜角度が急な中間急傾斜面を登り移動するのではなく、低部緩傾斜面を経て中間急傾斜面を登り移動するものである。
【0017】
これにより、低部緩傾斜面での勢いが付いた状態で、当接突起部が中間急傾斜面を移動するので、当接突起部の低部緩傾斜面から中間急傾斜面への移動が円滑に行われ、操作レバーの操作感触を良好なものにできる。また、ロック状態からロック解除状態に至る過程においては、低部緩傾斜面が当接突起部の降り移動における勢い及び衝撃を減少させる役目をなす。
【0018】
すなわち、当接突起部は、斜面部を降り移動するときに傾斜角度の急な中間急傾斜面から、いきなりベース平坦面に移動するのではなく、傾斜角度の緩やかな低部緩傾斜面を経てベース平坦面に到達するものである。したがって、当接突起部の勢いが低部緩傾斜面にて徐々に減少してベース平坦面に到達することとなり、操作レバーが勢いよく戻りすぎることを防止できる。
【0019】
このように、斜面部は、低部緩傾斜面,中間急傾斜面,高部緩傾斜面から構成されるものとしているので、従来のような斜面が単一傾斜面の場合、又は登り傾斜方向において急激な傾斜面が先行する斜面に対して、チルトテレスコ調整における操作レバーの操作感触が良好となる。
【0020】
さらに、請求項1の発明では、低部緩傾斜面は中間急傾斜面、高部緩傾斜面と比較して最も傾斜角度が小さいので、ロック時及びロック解除時において、当接突起部はベース平坦面と中間急傾斜面との間を滑らかに移動することができ、操作感触が良好となる。また、高部緩傾斜面は相対的に低部緩傾斜面より傾斜角度が大きく形成されているので、ロック時、操作者に締上げ途中であることを認識させることができ、操作レバーの回動操作を最後まで確実に行うことができる。
【0021】
請求項2の発明では、低部緩傾斜面の全範囲及び中間急傾斜面の一部範囲が仮想傾斜線よりも低い位置に形成されることで、仮想傾斜線に対して操作レバーの操作力が大きくなる範囲を少なくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】(A)は本発明の縦断正面図、(B)は(A)の(ア)部拡大略示図、(C)は主動カム(又は従動カム)の平面斜視図である。
図2】(A)は主動カム(又は従動カム)の平面図、(B)は(A)の(イ)部の拡大斜視図、(C)は(A)のX1−X1矢視図、(D)は(C)の(ウ)部拡大図である。
図3】(A)はロック動作過程の初動の操作レバーの動作を示すステアリング装置の略示図、(B)は(A)の状態における主動カムと従動カムの動作の状態図、(C)はロック動作過程の中間の操作レバーの動作を示すステアリング装置の略示図、(D)は(C)の状態における主動カムと従動カムの動作の状態図、(E)はロック動作過程の終了直前の操作レバーの動作を示すステアリング装置の略示図、(F)は(E)の状態における主動カムと従動カムの動作の状態図である。
図4】仮想傾斜線に対して本発明の主動カム及び従動カムの斜面部と従来技術のカム面とを比較した図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。本発明は、チルト調整(テレスコ調整が併設されることもある)機能を具備したステアリング装置であって、主に固定ブラケット1,可動ブラケット2,締付具3と,主動カムAと,従動カムBとから構成される〔図1(A)参照〕。
【0024】
そして、ステアリングコラム81と一体的に構成された可動ブラケット2が固定ブラケット1にチルト調整可能に支持される。そのチルト調整において、固定ブラケット1に対する可動ブラケット2のロック(締付)及びロック解除(締付解除)は、締付具3の操作に伴う主動カムAと従動カムBの近接及び離間によって行なわれるものである〔図1(A),(B)参照〕。
【0025】
固定ブラケット1は、固定側部11,連結部12及び取付部13,13により形成されている。固定側部11は、略平板状の部位で、平行に配置され、その上部箇所で連結部12に溶接手段等により連結されている。両固定側部11には、チルト調整用長孔11a,11aが略上下方向に沿って形成されている。また、両固定側部11の上端箇所より外方に向かって水平状の取付部13,13が形成され、固定ブラケット1は、両取付部13,13に衝突時における衝撃吸収のためのカプセルを介して自動車の所定位置に固着されている。
【0026】
可動ブラケット2は、可動側部21,21及び底部22から形成され、両可動側部21,21は平行に配置され底部22にて連結される。両可動側部21,21は、ステアリングコラムを支持する部位であり、両可動側部21,21の上方にステアリングコラムが溶接等の固着手段にて固着されている。両可動側部21,21には、チルト調整用貫通孔21a,21aが形成されている。
【0027】
そして、前記可動ブラケット2の両可動側部21,21は、前記固定ブラケット1の両固定側部11間に挟持されるようにして配置され、チルト調整用長孔11a,11aとチルト調整用貫通孔21a,21aに締付具3のロックボルト31が貫通し、固定ブラケット1と可動ブラケット2とが締付又は締付解除が自在となるように連結される〔図1(A)参照〕。ステアリングコラム81には、テアリングシャフト82が回動自在に装着され、該ステアリングシャフト82の先端にはステアリングホイール83が装着される(図3参照)。
【0028】
締付具3は、主にロックボルト31と操作レバー32とから構成される〔図1(A)参照〕。ロックボルト31は、ボルト軸部31a,ボルト螺子部31b及びボルト頭部31cから構成され、ボルト軸部31aの軸方向一端にボルト螺子部31bが形成され、軸方向他端にボルト頭部31cが形成されている。ボルト軸部31aには、ボルト頭部31c側寄りの位置に圧入領域31dが形成され、後述する主動カムAが圧入固定され、ロックボルト31の軸周方向の回転に伴って主動カムAも共に回動するようになっている。
【0029】
次に、主動カムAと従動カムBの構成について説明する。主動カムAと従動カムBとは、図1(B)に示すように、同一形状且つ同一構成として形成されたものである。そこで、主動カムAと従動カムBとの細部については、異なる符合を付しておく〔図1(B),(C),図2(A),(B)参照〕。主動カムAは、カムベース部4と複数のカム作動部5,5,…とから構成される。同様に、従動カムBについても、カムベース部6と複数のカム作動部7 ,7,…とから構成される。
【0030】
主動カムAのカムベース部4と、従動カムBのカムベース部6とは同一形状であり、また主動カムAのカム作動部5 ,5,…と、従動カムBのカム作動部7,7,…とは同一形状である。また、従動カムBは主動カムAよりも直径が大きく形成されることもある。以下、主動カムAの説明を中心に行うものであるが、従動カムBについては、主動カムAと対応する部位が全てにおいて略同一であるため、主動カムAの説明は、従動カムBにもそのまま当てはまるものである。
【0031】
カムベース部4は、略円板状に形成され、その中心位置には、装着孔42が形成されている。該装着孔42は、前記ロックボルト31の圧入領域31dに圧入され、主動カムAがロックボルト31の軸周方向と共に回動する。カムベース部4の一方側の円形面は、ベース平坦面41と称する。該ベース平坦面41は、平坦に形成された面である。該ベース平坦面41の面上で且つ外周側寄りの位置に周方向に沿って複数のカム作動部5,5,…が等間隔に形成される。
【0032】
具体的には、前記ベース平坦面41の外周寄りの部分が周方向に沿って4等分され、その4等分したそれぞれの領域にカム作動部5が配置される〔図1(C),図2(A)参照〕。つまりカムベース部4には4個のカム作動部5 ,5 ,…が形成されることになる。カム作動部5の数は、組付け状態の安定性或はチルト調整における操作性を考慮して決定されるものであって、必ずしも4個に限定されるものではなく、4個以下又は4個以上であっても構わない。
【0033】
それぞれのカム作動部5は、ベース平坦面41の面上に対して直交する方向に突出形成される。カム作動部5は、斜面部51,高位面52及び当接突起部53から構成され、ベース平坦面41の円周方向に沿って斜面部51,高位面52,当接突起部53の順番で形成される〔図1(C),図2(A),(B)参照〕。この並び方の順番は、ベース平坦面41に形成された全てのカム作動部5,5,…において同一である〔図1(C),図2(A)参照〕。
【0034】
斜面部51は、ベース平坦面41に対して勾配を有する面であり、その傾斜最高部は高位面52に連続する。当接突起部53は、前記高位面52から突出形成された略直方体状のものであって、その頂面部53aは、従動カムB側と当接する〔図1(B)参照〕。
【0035】
前記斜面部51は、ロック又はロック解除における操作レバー32の操作ストロークの範囲を決定する部位である。斜面部51は、低部緩傾斜面51a,中間急傾斜面51b,高部緩傾斜面51cの3つの異なる傾斜を有する面から構成されており、中間急傾斜面51bの両端に低部緩傾斜面51a,高部緩傾斜面51cが形成されている。すなわち、ベース平坦面41からカム作動部5の高位面52に向かって低部緩傾斜面51a,中間急傾斜面51b,高部緩傾斜面51cの順番で並ぶ構成となっている〔図1(C),図2(A),(B)参照〕。
【0036】
中間急傾斜面51bのベース平坦面41側に形成された低部緩傾斜面51aの傾斜角度θaは、中間急傾斜面51bの傾斜角度θb及び高部緩傾斜面51cの傾斜角度θcと比較して最も小さい角度である〔図2(D)参照〕。つまり、低部緩傾斜面51aは、最も傾斜の緩い斜面である。ここで、低部緩傾斜面51aの傾斜角度θaの基準面は、ベース平坦面41であり、傾斜角度θa,θb,θcは ベース平坦面41に対する角度である。特に、低部緩傾斜面51aの傾斜角度θaは、極めて小さく設定される。
【0037】
低部緩傾斜面51a,中間急傾斜面51b,高部緩傾斜面51cの傾斜角度θの設定については、以下に説明するとおりである。まず、斜面部51を、斜面部51の始端(ベース平坦面41との境目)から終端(高位面52との境目)に亘って単一傾斜面と仮想した場合の傾斜面を仮想傾斜線Lとして設定する〔図2(D),図4参照〕。仮想傾斜線Lと斜面部51における主動カムA及び従動カムBの回動量は同一であり、操作レバー32の操作角度も同一である。
【0038】
低部緩傾斜面51aは、仮想傾斜線Lよりも緩やかな傾斜に形成され、仮想傾斜線Lの傾斜角度θLよりも小さい角度とする。すなわち、θa<θLとなる。つまり、低部緩傾斜面51aは、その全範囲に亘って仮想傾斜線Lの対応する範囲よりも低い位置に設定される。
【0039】
前記中間急傾斜面51bは、前記仮想傾斜線Lよりも大きな傾斜に形成され、傾斜角度θbは、傾斜角度θLよりも大きい角度とする。すなわち、θb>θLとなる。前記中間急傾斜面51bは、その全範囲の中間箇所で前記仮想傾斜線Lと交差する。そして、中間急傾斜面51bは、交差位置よりもベース平坦面41側寄りの前方領域は仮想傾斜線Lよりも低く、高位面52側寄りの後方領域は仮想傾斜線Lよりも高くなっている〔図2(D)参照〕。
【0040】
中間急傾斜面51bの高位面52側に形成された高部緩傾斜面51cの傾斜角度θcは、仮想傾斜線Lよりも緩やかな傾斜に形成され、仮想傾斜線Lの傾斜角度θLよりも小さい角度とする。さらに、低部緩傾斜面51aの傾斜角度θaよりも大きく、中間急傾斜面51bの傾斜角度θbよりも小さく形成される。すなわち、θa<θc<θbとなる。高部緩傾斜面51cは、その全範囲に亘って、前記仮想傾斜線Lの対応する範囲よりも高くなっている。
【0041】
カムベース部4のカム作動部5,5,…が形成されている側面に対して、反対側の側面には、カムベース部4の中心と同一中心とする非円形状の固定用膨出部43が形成されている〔図2(B)参照〕。該固定用膨出部43は、長円形状,長方形状又は楕円形或いは一部が平坦状とした円形状等に形成されている。前記固定用膨出部43は、操作レバー32に形成された固定孔32aに挿入するようにして装着され、操作レバー32と主動カムAとが一体的に回動するようになっている〔図1(B)参照〕。前記操作レバー32の固定孔32aは、前記固定用膨出部43と略同一形状に形成されている。従動カムBは、カムベース部6の中心に、装着孔62が形成されている。
【0042】
該装着孔62は、前記ロックボルト31のボルト軸部31aが貫通するが、ボルト軸部31aと装着孔62とは圧入されるものではなく、相互に空転可能な構成である。カムベース部6の一方側の円形面は、ベース平坦面61と称する。該ベース平坦面61の面上で且つ外周側寄りの箇所に周方向に沿って複数のカム作動部7 ,7,…が等間隔に形成される。また、カムベース部6のカム作動部7 ,7,…が形成されている側面に対して反対側の側面には、カムベース部6の中心と同一中心とする非円形状の固定用膨出部63が形成されている。
【0043】
それぞれのカム作動部7は、斜面部71,高位面72及び当接突起部73から構成される。カム作動部7の数は、前記主動カムAのカム作動部5の数と同一で、その配列も同一である。すなわち、主動カムAのカム作動部5 ,5,…の数が4個であれば、従動カムBのカム作動部7 ,7,…の数も4個となる。さらに、前記斜面部71においても低部緩傾斜面71a,中間急傾斜面71b,高部緩傾斜面71cを有しており、これらは、主動カムAの低部緩傾斜面51a,中間急傾斜面51b及び高部緩傾斜面51cと傾斜角度等が同一の条件で構成されている。
【0044】
次に、装置全体の構成について説明する。前記固定ブラケット1の両固定側部11間に可動ブラケット2の両可動側部21,21が配置され、前記固定側部11に形成されたチルト調整用長孔11a,11aと、可動側部21,21に形成されたチルト調整用貫通孔21a,21aとの位置が一致するように合わせる。両固定側部11及び可動側部21,21のチルト調整用長孔11a,11a及びチルト調整用貫通孔21a,21aに締付具3のロックボルト31のボルト軸部31aが貫通するようにセットされる〔図1(A)参照〕。
【0045】
固定ブラケット1の一方の固定側部11のチルト調整用長孔11aには、前記従動カムBが回動不能な状態で装着される。このとき該従動カムBの固定用膨出部63が、前記チルト調整用長孔11aに挿入されることで、従動カムBが固定ブラケット1に対して非回動状態に設置することができる〔図1(B)参照〕。
【0046】
さらに、前記ロックボルト31のボルト軸部31aは、前記従動カムBの装着孔62に遊挿状態で貫通される。そのロックボルト31の圧入領域30dには、前記主動カムAが圧入固定される。さらに該主動カムAには、操作レバー32が装着され、該操作レバー32の回動操作により、前記主動カムAがロックボルト31を軸周方向に回動操作することができる。
【0047】
そのロックボルト31を固定ブラケット1及び可動ブラケット2に適正に装着することによって、前記主動カムAのカム作動部5 ,5,…が形成された面と、従動カムBのカム作動部7,7,…が形成された面とが対向するように設置される。すなわち、各カム作動部5とカム作動部7とが重なり合うように当接される〔図1(B)参照〕。
【0048】
また、前記ロックボルト31のボルト頭部31c形成側とは反対側では、固定ブラケット1の固定側部11の外側からワッシャー,スラストベアリング,スラストワッシャー及びロックナット等の固着具が装着され、ロックボルト31を固定ブラケット1及び可動ブラケット2に対して回動自在に固定されている〔図1(A)参照〕。締付具3の操作レバー32の回動操作によってロックボルト31及び主動カムAが共に回動する。
【0049】
前記操作レバー32を、下方から上方,すなわち反時計方向へ、前記ロックボルト31の軸周方向に回動させることにより、前記主動カムAが回動し、主動カムAと従動カムBとが相対的に回動する状態となり、カム作動部5,5,…及びカム作動部7,7,…が相互に移動しあうことになる。
【0050】
主動カムAと従動カムBとの相対的な回動動作において、ロック解除状態からロック状態に到る過程を説明する。操作レバー32はロック解除状態では下方に位置しており、操作レバー32を上方に向かって回動させるとロック状態となる。
【0051】
主動カムAが操作レバー32の操作によってロック方向に回動すると、カム作動部5の当接突起部53の頂面部53aは、従動カムBのベース平坦面61に当接しつつ、カム作動部7の斜面部71を通過して高位面72の位置に到達する。また、主動カムAの回動により、カム作動部7の当接突起部73の頂面部73aは主動カムAのベース平坦面41に当接しつつカム作動部5の斜面部51を通過して高位面52の位置に到達する。これによって、主動カムAと従動カムBとが離間する。
【0052】
このように、前記主動カムAと従動カムBとがロックボルト31の軸方向に沿って離間することにより、前記固定ブラケット1の固定側部11と、前記可動ブラケット2の可動側部21,21とが相互に押圧することになりロック状態とすることができる。
【0053】
次に、ロック状態からロック解除状態に到る過程を説明する。操作レバー32を上方から下方,すなわち時計方向へ、回動されることにより、前記主動カムAが前回とは反対方向に回動し、この主動カムAと従動カムBとの相互に回動動作において、カム作動部5とカム作動部7間で、カム作動部5の当接突起部53の頂面部53aがカム作動部7の高位面72の位置から斜面部71を通過してベース平坦面61の位置に到達することで、主動カムAと従動カムBとが近接する。
【0054】
また主動カムAの回動により、カム作動部7の当接突起部73の頂面部73aがカム作動部5の高位面52の位置から斜面部51を通過して低位面52の位置に到達することになる。このように、前記主動カムAと従動カムBとがロックボルト31の軸方向に沿って近接することにより、前記固定ブラケット1の固定側部11と、前記可動ブラケット2の可動側部21,21とが相互に緩みロック解除状態とすることができ、前記固定ブラケット1に対し、可動ブラケット2をチルト・テレスコ可能にすることができる。
【0055】
主動カムAと従動カムBによるロック及び解除における相互の回動動作において、カム作動部5の当接突起部53と、カム作動部7の当接突起部73とは、いずれの回動動作においても、当接突起部53と当接突起部73とが当接することになり、相互にストッパとしての役目を果たし、ロック位置、解除位置を的確に規制することができる。これによって、安価な構成で安定した性能を確保することができる。
【0056】
次に、主動カムAのカム作動部5の斜面部51及び従動カムBのカム作動部7の斜面部71のそれぞれの作用について、図3及び図4に基づいて説明する。この作用の説明は、ロック解除状態からロック状態とする過程である。また、以下の説明では、主動カムAのベース平坦面41及びカム作動部5に対する従動カムBの当接突起部53の動作を説明しているが、その反対の場合、つまり従動カムBのベース平坦面61とカム作動部7に対する主動カムAの当接突起部53の動作についても同様の動作が行われる。
【0057】
主動カムAは、操作レバー32の回動操作によって回動する。ロック及びロック解除を行うときの従動カムBの当接突起部73(当接突起部53)が主動カムA(従動カムB)のベース平坦面41(ベース平坦面61)と斜面部51(斜面部71)と高位面52(高位面72)を相対的に移動する(図3参照)。
【0058】
まず、ロック及びロック解除を行うときの主動カムA及び従動カムBと、操作レバー32との位置関係を図3に基づいて説明する。従動カムBの当接突起部73(当接突起部53)が主動カムA(従動カムB)の斜面部51(斜面部71)を相対的に移動するときの操作レバー32の操作角度をαとする(図3参照)。
【0059】
操作レバー32の初動における回動角度はα1であり、このときの当接突起部73の斜面部51における位置は低部緩傾斜面51aの上端である〔図3(A),(B)参照〕。また中間急傾斜面51bにおける操作レバー32の回動角度はα2であり、このときの当接突起部73の斜面部51における位置は中間急傾斜面51bの上端である〔図3(C),(D)参照〕。さらに、高部緩傾斜面51cにおける操作レバー32の回動角度はα3であり、このときの当接突起部73の斜面部51における位置は高部緩傾斜面51cの上端である〔図3(E),(F)参照〕。
【0060】
斜面部51において、低部緩傾斜面51aは、仮想傾斜線Lよりも低い位置(領域)に形成されており、主動カムAの回動量が同一の地点で仮想傾斜線Lの場合と比較して従動カムBの当接突起部73をリフトする量が少ない〔図2(D)参照〕。ここでリフト量とは、主動カムAの軸方向移動量であり、つまり、主動カムAと従動カムBとが離間する距離のことである。
【0061】
そして、リフト量が少ないということは、主動カムAと従動カムBとの離間する距離が少ないということである。また、中間急傾斜面51bは、その全範囲の中間箇所で前記仮想傾斜線Lと交差しており、交差位置よりも低部緩傾斜面51a側寄りの範囲は仮想傾斜線Lよりも低い位置に形成されている。
【0062】
したがって、ロック時の操作レバー32の初動において低部緩傾斜面51a及び中間急傾斜面51bの前方領域の範囲では、主動カムAの回動量が同一である仮想傾斜線Lの場合と比較して主動カムAの回動しようとする力を小さくすることができ、操作レバー32の操作力を小さくすることができる。これにより、操作レバー32の操作力を、仮想傾斜線Lの場合と比較して小さいままの状態で低部緩傾斜面51aから中間急傾斜面51bの前方領域まで回動させることができる〔図2(D)、図4参照〕。
【0063】
ロック時の初動動作から中間動作に亘る過程では、従動カムBの当接突起部73が、主動カムAのベース平坦面41から、低部緩傾斜面51aを経て、最も傾斜角度のきつい中間急傾斜面51bに入るものである〔図3(D)参照〕。よって、当接突起部73がベース平坦面41からいきなりきつい中間急傾斜面51bへ入る場合よりも、操作抵抗が少なく円滑な操作ができる。
【0064】
つまり、低部緩傾斜面51aは、従動カムBの当接突起部73が急傾斜の中間急傾斜面51bに至るまでの導入部となる。低部緩傾斜面51aから中間急傾斜面51bの前方領域までは、仮想傾斜線Lよりも低い位置(領域)に形成されており、回動量が同一の地点で仮想傾斜線Lと比較した場合、仮想傾斜線Lよりもリフト量が少ない〔図2(D)、図4参照〕。
【0065】
すなわち、低部緩傾斜面51aから中間急傾斜面51bの前方領域においては、仮想傾斜線Lと比較して軸力が小さくなり、操作レバー32の操作力が小さくなる。これにより、操作レバー32の操作力を、仮想傾斜線Lと比較して小さいまま低部緩傾斜面51aから中間急傾斜面51bの前方領域まで移動することができる。
【0066】
中間急傾斜面51bの後方領域及び高部緩傾斜面51cは、仮想傾斜線Lよりも高い位置(領域)に形成されており、回動量が同一の地点で仮想傾斜線Lと比較した場合、仮想傾斜線Lよりもリフト量が多い。すなわち、中間急傾斜面51bの後方領域から高部緩傾斜面51cにおいては、仮想傾斜線Lと比較して軸力が大きくなり、操作レバー32の操作力が大きくなる。
【0067】
しかし、従動カムBの当接突起部73は、仮想傾斜線Lと比較して操作レバー32の操作力が小さいうちに、低部緩傾斜面51a及び中間急傾斜面51bの前方領域まで、移動しているので、中間急傾斜面51bの後方領域及び高部緩傾斜面51cへは、操作レバー32を回動する勢いがついた状態で移動することができる。
【0068】
そして、中間急傾斜面51bを登りきった当接突起部73は、高部緩傾斜面51cを容易に移動することができる〔図3(F)参照〕。これにより、斜面部51における操作レバー32の操作性が全体的に向上する。さらに、高部緩傾斜面51cの傾斜角度は、低部緩傾斜面51aの傾斜角度よりも大きく形成されているので、当接突起部73を高位面52まで確実に移動させることができる。
【0069】
高部緩傾斜面51cの傾斜角度が低部緩傾斜面51aの傾斜角度と同一若しくは小さく形成されると、高部緩傾斜面51cは平坦面である高位面52との傾斜角度の差が少なくなる。すると、当接突起部73が高部緩傾斜面51cを移動する作動途中で、締上げが完了した感覚になり、操作者が操作レバー32の回動操作を途中で止めてしまう恐れがある。高部緩傾斜面51cの傾斜角度を、低部緩傾斜面51aの傾斜角度よりも大きく形成し、高位面52との傾斜角度の差を大きくすることにより、操作者は締上げ途中であることを認識することができ、操作レバー32の回動操作を最後まで確実に行うことができる。
【0070】
本発明では、斜面部51において、中間急傾斜面51bの両端に低部緩傾斜面51aと高部緩傾斜面51cを形成し、低部緩傾斜面51aの傾斜角度を最も小さく形成したことにより、低部緩傾斜面51a及び中間急傾斜面51bの前方領域が、同一の回動量及び同一の操作レバー角度の仮想傾斜線Lに対して低い位置(領域〉に形成されている。仮想傾斜線Lに対して操作レバー32の操作力が大きくなる範囲を中間急傾斜面51bの後方領域から高部緩傾斜面51cとすることで、締付が重く感じる領域を狭くして少なくし、操作レバー32の操作力を全体的に小さくすることができる。
【0071】
このように、斜面部51に対する当接突起部73の移動において、本発明では仮想傾斜線Lに対して締付が重く感じる領域を少なくすることができるので、操作レバー32の操作角度を大きくすること無く、操作レバー32の操作性が向上する。これに対して、特許文献1では、同一の回動量及び同一の操作レバー角度の仮想傾斜線Lに対して、全領域が高い位置(領域)に形成されており、チルト・テレスコ稠整における操作感覚が重くなっている(図4参照)。
【0072】
次に、ロック状態からロック解除状態に至る過程において説明する。従動カムBの当接突起部73は、高位面52より主動カムAの最も傾斜角度のきつい中間急傾斜面51bから、最も傾斜角度の緩い低部緩傾斜面51aを経て、ベース平坦面41に到達する。
【0073】
すなわち、中間急傾斜面51bからベース平坦面41の間に低部緩傾斜面51aが存在しており、従動カムBの当接突起部73がベース平坦面41に到達するときに低部緩傾斜面51aが緩衝面としての役目をなすことになり、操作レバー32の操作において急激な勢いで戻りすぎることを防止できる。
【0074】
以上、固定ブラケット1の両固定側部11,11及び可動ブラケット2の可動側部21,21にロックボルト3が貫通するステアリング装置を例に挙げて説明したが、本発明はアルミ合金製のアウターコラムと両固定側部11,11にロックボルト3が貫通するステアリング装置にも適用することができる。
【0075】
また、操作レバー32を下方から上方、すなわち反時計方向へ回動することでロック状態となるステアリング装置を例に挙げて説明したが、主動カムA及び従動カムBの配置を変更することで、操作レバー32を上方から下方、すなわち時計方向へ回勘することでロック状態となるステアリング装置にも適用することができる。
【0076】
また、低部緩傾斜面51a、中間急傾斜面51b、高部緩傾斜面51cの傾斜面を凸状に膨らむ扁平凸状面として形成しても良い。扁平凸状面とは、曲率半径が極めて大きな弧状面のことである。本発明は、前述した実施の形態のみに限定して解釈されるべきではなく、実施の形態に対して適宜変更、改良を行うことが可能である。
【符号の説明】
【0077】
1…固定ブラケット、11…固定側部、2…可動ブラケット、21…可動側部、
3…締付具、A…主動カム、B…従動カム、31…ロックボルト、
41,61…ベース平坦面、5,7…カム作動部、51,71…斜面部、
51a,71a…低部緩傾斜面、51b,71b…中間急傾斜面、51c,71c…高部緩傾斜面、52,72…高位面。
図1
図2
図3
図4