特許第5685148号(P5685148)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5685148
(24)【登録日】2015年1月23日
(45)【発行日】2015年3月18日
(54)【発明の名称】バイポーラ電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0565 20100101AFI20150226BHJP
   H01M 10/0585 20100101ALI20150226BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20150226BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20150226BHJP
【FI】
   H01M10/0565
   H01M10/0585
   H01M10/052
   H01B1/06 A
【請求項の数】4
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2011-125527(P2011-125527)
(22)【出願日】2011年6月3日
(65)【公開番号】特開2012-252916(P2012-252916A)
(43)【公開日】2012年12月20日
【審査請求日】2013年11月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【弁理士】
【氏名又は名称】三間 俊介
(72)【発明者】
【氏名】浜崎 真也
(72)【発明者】
【氏名】重森 雄介
【審査官】 竹口 泰裕
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−218404(JP,A)
【文献】 特開2006−120577(JP,A)
【文献】 特開平03−116661(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M10/05−10/0587
10/36−10/39
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体の一方の面に正極が形成され、かつ他方の面に負極が形成されたバイポーラ電極を、高分子電解質層に挟んで複数枚直列に積層することにより得られるバイポーラ電池であって
前記高分子電解質層は、固体状であり、
前記高分子電解質層は、アニオン性官能基とリチウム(Li)イオンから成るイオン性官能基を含むイオン性高分子、及び非水溶媒を含み、
前記高分子電解質層中の前記イオン性高分子以外のリチウム塩化合物の濃度が、0.1mol/kg以下であり、かつ
前記イオン性高分子は、架橋しているか、又はエチレンユニット、プロピレンユニット、イソプレンユニット、ブチレンユニット、ペンテンユニット、ヘキセンユニット、エチレン−ブチレン共重合ユニット、水添ブタジエンユニット、テトラフルオロエチレンユニット、ヘキサフルオロプロピレンユニット、パーフルオロブチレンユニット、パーフルオロペンテンユニット、パーフルオロヘキセンユニット及びこれらの組み合わせを含有することを特徴とするバイポーラ電池。
【請求項2】
前記イオン性官能基は、スルホンイミドLi基、スルホン酸Li基又はカルボン酸Li基から選ばれる、請求項1に記載のバイポーラ電池。
【請求項3】
前記イオン性官能基は、前記イオン性高分子中の側鎖に存在する、請求項1又は2に記載のバイポーラ電池。
【請求項4】
前記非水溶媒は前記バイポーラ電極の前記正極及び前記負極に接触しており、かつイオン的短絡が起こらない、請求項1〜3のいずれか1項に記載のバイポーラ電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン的短絡のおそれを大幅に低減し、かつイオン伝導性に優れた高分子電解質層を用いることにより高出力充放電を可能にしたバイポーラ電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、二酸化炭素排出量低減の観点から、自動車業界では、ハイブリッド自動車(HEV)又は電気自動車(EV)の開発が進められ、これらの電気自動車の性能の鍵を握るリチウムイオン二次電池(LIB)の大型化の開発が鋭意行われている。しかしながら、LIBの単電池を大型化しても単電池から得られる電圧は3.7V程度と低電圧であり、高出力を得るためには、大型化した単電池から大電流を取り出す必要がある。低電圧大電流で出力を得ようとすると電池接続部等の電気抵抗により出力が大幅に低下する課題がある。また、自動車用途では、複数の単電池を直列に接続し高電圧化する必要があるが、接続部を介して単電池を直列接続した場合、上記のとおり接続部の電気抵抗により出力が大幅に低下する課題が生じる。また、接続部を有する電池は空間的にも重量的にも不利益を被る。
【0003】
これらの問題を解決する電池として、バイポーラ電池が提案されている。バイポーラ電池は、集電体の両側に正極活物質と負極活物質とを配置したバイポーラ電極と電解質層とを挟んで複数枚直列に積層した構造の電池である(図1図2図3)。単電池内部で直列に積層するため、単電池においても高電圧を得ることが可能となる。従って、高出力を得る際にも高電圧低電流で出力が得られ、さらには、電池接続部の電気抵抗を大幅に低減できる。また、接続部自体を低減することも可能となる。
【0004】
しかしながら、バイポーラ電池は単電池中で正極と負極が繰り返されるため、LIBで用いられる電解液をバイポーラ電池に適用すると、電解液によりイオン的短絡(液絡)が起こるという課題がある(図4)。図4では、両矢印9は、正極層2と負極層3の間でイオン的短絡が起こることを示す。
【0005】
そこで、電解液を含まない高分子固体電解質を用いたバイポーラ電池が提案されている(特許文献1参照)。この方法によれば電池内に電解液を含まないため、イオン的短絡のおそれが少ない。しかしながら、電解液を含有しない高分子固体電解質のイオン伝導度は、電解液を含有するゲル電解質と比較して非常に低いため、電池の出力密度が非常に低く、実用化にいたっていない。
【0006】
一方、電解液を有するゲル電解質を用いたバイポーラ電池が提案されている(特許文献2参照)。ゲル電解質は、ポリエチレンオキサイド(PEO)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などの高分子に電解液を染込ませてゲル状にした電解質である。ゲル電解質は電解液を含有するためイオン伝導度が高く、電池の出力密度も十分に得られることが期待される。しかしながら、ゲル電解質を用いたバイポーラ電池においても、ゲル電解質部分から電解液が染み出し、電解液によりイオン的短絡を起こすおそれがあった(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−100471号公報
【特許文献2】特開2002−75455号公報
【特許文献3】特開2004−158307号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述の通り、電解液を含有しない高分子固体電解質を用いたバイポーラ電池ではイオン伝導性が非常に低く、電解液を含有するゲル電解質を用いたバイポーラ電池ではゲル電解質部分から電解液が染み出し、電解液によりイオン的短絡を生じるおそれがある。
【0009】
かかる事情を鑑み、本発明が解決しようとする課題は、高いイオン伝導度を有し高出力充放電が可能であるとともに、イオン的短絡を起こさないバイポーラ電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記した従来技術の高分子電解質に伴う問題を解決すべく、また前記した要求を満たすべく鋭意検討し実験を重ねた結果として、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
[1] 集電体の一方の面に正極が形成され、かつ他方の面に負極が形成されたバイポーラ電極を、高分子電解質層に挟んで複数枚直列に積層することにより得られるバイポーラ電池であって、前記高分子電解質層は、アニオン性官能基とリチウム(Li)イオンから成るイオン性官能基を含むイオン性高分子、及び非水溶媒を含むことを特徴とするバイポーラ電池。
【0011】
[2] 前記イオン性官能基は、スルホンイミドLi基、スルホン酸Li基又はカルボン酸Li基から選ばれる、[1]に記載のバイポーラ電池。
【0012】
[3] 前記イオン性官能基は、前記イオン性高分子中の側鎖に存在する、[1]又は[2]に記載のバイポーラ電池。
【0013】
[4] 前記高分子電解質層は固体状である、[1]〜[3]のいずれか1項に記載のバイポーラ電池。
【0014】
[5] 前記高分子電解質層は、前記イオン性高分子以外のリチウム塩化合物を実質的に含まない、[1]〜[4]のいずれか1項に記載のバイポーラ電池。
【0015】
[6] 前記高分子電解質層中の前記イオン性高分子以外のリチウム塩化合物の濃度が、0.1mol/kg以下である、[5]に記載のバイポーラ電池。
【0016】
[7] アニオン性官能基とLiイオンから成るイオン性官能基を含むイオン性高分子、及び非水溶媒を含み、かつ該イオン性高分子以外のリチウム塩化合物を実質的に含まないことを特徴とするバイポーラ電池用固体状電解質。
【0017】
[8] 前記バイポーラ電池用固体状電解質中の前記イオン性高分子以外のリチウム塩化合物の濃度が、0.1mol/kg以下である、[7]に記載のバイポーラ電池用固体状電解質。
【発明の効果】
【0018】
本発明のバイポーラ電池は、高分子電解質層が、少なくとも、イオン性官能基としてアニオン性官能基とLiイオンとを含有するイオン性高分子と、非水溶媒とを含有する。アニオン性官能基とLiイオンとを含有するイオン性高分子自体がイオン伝導の担い手となり、かつ非水溶媒を含有することから、高分子電解質層は優れたイオン伝導性を有する。また、非水溶媒自体はイオン伝導性を有さず、Liイオンは高分子電解質層中のイオン性高分子構造に存在することから、万が一、高分子電解質層から非水溶媒が染み出た場合にも、染み出た非水溶媒はイオン伝導性を有さず何らイオン的短絡を起こさない。このことにより、イオン的短絡を本質的に回避しつつ高いイオン伝導性を有するバイポーラ電池が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】バイポーラ電極の基本構造を模式的に表した断面概略図である。
図2】バイポーラ電池の積層構造を模式的に表した断面概略図である。
図3】バイポーラ電池の基本構造を模式的に表した概略図である。
図4】従来型のバイポーラ電池中で起こるイオン的短絡(液絡)を説明するための概略図である。
図5】本発明のバイポーラ電池を構成するバイポーラ電極の基本構造を模式的に表した断面概略図である。
図6】本発明のバイポーラ電池の基本構造を模式的に表した概略図である。
図7】本発明のバイポーラ電池中でイオン的短絡(液絡)が起こらないことを説明するための概略図である。
図8】本発明のバイポーラ電池の実施形態を模式的に表した概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明のバイポーラ電池は、集電体の一方の面に正極が形成され、かつ他方の面に負極が形成されたバイポーラ電極を、高分子電解質層に挟んで複数枚直列に積層することにより得られる。本発明のバイポーラ電池は、高分子電解質層が、アニオン性官能基及びリチウム(Li)イオンをイオン性官能基として含むイオン性高分子、並びに非水溶媒を含むことを特徴とする。
【0021】
また、本発明は、アニオン性官能基及びLiイオンをイオン性官能基として含むイオン性高分子、並びに非水溶媒を含み、かつ該イオン性高分子以外のリチウム塩化合物を実質的に含まないことを特徴とするバイポーラ電池用固体状電解質にも関する。
【0022】
本明細書において、「高分子電解質」とは、高分子、非水溶媒及びその他の必要な添加剤の複合体を示す。
【0023】
本発明の高分子電解質は、少なくとも非水溶媒とイオン性高分子を含有する。
【0024】
非水溶媒としては、非プロトン性溶媒が挙げられ、非プロトン性極性溶媒が好ましい。非水溶媒の具体例としては、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、1,2−ブチレンカーボネート、トランス−2,3−ブチレンカーボネート、シス−2,3−ブチレンカーボネート、1,2−ペンチレンカーボネート、トランス−2,3−ペンチレンカーボネート、シス−2,3−ペンチレンカーボネート、トリフルオロメチルエチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、1,2−ジフルオロエチレンカーボネート等に代表される環状カーボネート類、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン等に代表されるラクトン類、スルホラン等に代表される環状スルホン類、テトラヒドロフラン、ジオキサン等に代表される環状エーテル類、メチルエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、メチルイソプロピルカーボネート、ジプロピルカーボネート、メチルブチルカーボネート、ジブチルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、メチルトリフルオロエチルカーボネート等に代表される鎖状カーボネート類、アセトニトリル、プロピオニトリル等に代表されるニトリル類、ジメチルエーテル、ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリグライム、テトラグライム等に代表されるエーテル類、プロピオン酸メチルに代表される鎖状カルボン酸エステル類が、挙げられる。
【0025】
上記非水溶媒は単独で又は2種以上を組み合わせて用いられるが、特にイオン伝導度の向上の観点から、非水溶媒としては環状の非プロトン性極性溶媒を1種以上含むことが好ましく、特に、環状カーボネート類を1種以上含むことがより好ましい。また、非水溶媒は、イオン伝導度の向上の観点から、2種以上の溶媒の混合溶媒であることが好ましい。この混合溶媒における非水溶媒としては、上記と同様のものを例示できる。
【0026】
本発明の高分子電解質に用いられる「イオン性高分子」とは、高分子中にイオン的に解離しうるイオン構造、すなわちイオン性官能基を有する高分子をいう。なお、「イオン性官能基」とは、対イオンを含み、かつイオン的に解離し得る官能基をいう。イオン性官能基には、(i)高分子構造中にアニオン性官能基を有し、アニオン性官能基の対イオンとしてカチオンを有する構造と、(ii)高分子構造中にカチオン性官能基を有し、カチオン性官能基の対イオンとしてアニオンを有する構造、の2種類が存在するが、本発明のイオン性高分子は(i)に該当し、イオン性高分子中にアニオン性官能基を有し、対イオンとしてリチウム(Li)イオンを有するものである。
【0027】
イオン性高分子のイオン性官能基は、アニオン性官能基を有し、対イオンとしてLiイオンを有するものであればどのような構造のものでもよい。イオン性官能基としては、好ましくは、スルホンイミドLi基、スルホン酸Li基、カルボン酸Li基、4級ボロン酸Li基及びリン酸Li基が挙げられる。イオン性官能基は、構造の安定性及びイオン解離性の観点から、より好ましくは、スルホンイミドLi基、スルホン酸Li基、カルボン酸Li基又は4級ボロン酸Li基であり、最も好ましくは、スルホンイミドLi基、スルホン酸Li基又はカルボン酸Li基である。
【0028】
イオン性高分子のイオン性官能基は、イオン性高分子中の主鎖、側鎖のいずれの部位に存在しても構わないが、非水溶媒を含有し良好なイオン伝導パスを形成する観点からイオン性官能基はイオン性高分子の側鎖に存在することが好ましい。
【0029】
スルホンイミドLi基は、下記一般式(1):
−SON(Li)SO− ・・・式(1)
で表される構造であり、そしてスルホンイミドLi基は、イオン性高分子中の主鎖中、側鎖中、側鎖の末端などのいずれの部位に存在してもよい。側鎖の末端に存在させる場合には、下記一般式(2):
−SON(Li)SO ・・・式(2)
{式中、Rは、フッ素原子、又は炭素数1〜8のフルオロアルキル基若しくはアルキル基である。}
で表される構造をイオン性高分子中に有することが好ましい。
【0030】
好ましくは、上記一般式(2)で表されるスルホンイミドLi基を有する繰り返し単位の構造としては、特には限定されないが、ビニルスルホンイミドLiユニット、アリルスルホンイミドLiユニット、スチレンスルホンイミドLiユニット、フルオロカーボンスルホンイミドLiユニットが挙げられる。より好ましくは、上記一般式(2)で表されるスルホンイミド基を有する繰り返し単位の構造としては、イオン伝導性の観点から、スチレンスルホンイミドLiユニット又はフルオロカーボンスルホンイミドLiユニットが挙げられる。
【0031】
フルオロカーボンスルホンイミドLiユニットは、下記一般式(3):
−(CF−CF(−(OCFCF(CF))−O−(CF−SON(Li)SO))− ・・・式(3)
{式中、nは、0〜5の整数であり、mは、1〜12の整数であり、そしてRは、フッ素原子、又は炭素数1〜8のフルオロアルキル基又はアルキル基を示す。}で表される繰り返し単位であることが好ましく、そして下記一般式(4):
−(CF−CF(−(OCFCF(CF))−O−(CF−SON(Li)SO(CF)))− ・・・式(4)
{式中、n及びmは、上記一般式(3)と同じである。}
で表される繰り返し単位であることがより好ましい。
【0032】
スチレンスルホンイミドLiユニットは、下記一般式(5):
【化1】
{式中、R、R及びRは、水素原子、フッ素原子、又は炭素数1〜4のフルオロアルキル基若しくはアルキル基であり、Rは、フルオロメチレン基又はメチレン基であり、xは、0〜5の整数であり、そしてRは、フッ素原子、又は炭素数1〜8のフルオロアルキル基若しくはアルキル基を示す。}
で表される繰り返し単位であることが好ましく、そして下記一般式(6):
【化2】
(式中、R、x及びRは、上記一般式(5)と同じである。}
で表される繰り返し単位であることがより好ましい。
【0033】
スルホン酸Li基は、下記式(7):
−SOLi ・・・式(7)
で表される構造である。
【0034】
好ましくは、上記式(7)で表されるスルホン酸Li基を有する繰り返し単位の構造としては、特には限定されないが、ビニルスルホン酸Liユニット、アリルスルホン酸Liユニット、スチレンスルホン酸Liユニット、及びフルオロカーボンスルホン酸Liユニットが好ましく挙げられる。より好ましくは、上記式(7)で表されるスルホンイミド基を有する繰り返し単位の構造としては、イオン伝導性の観点から、スチレンスルホン酸Liユニット及びフルオロカーボンスルホン酸Liユニットが挙げられる。
【0035】
カルボン酸Li基は、下記式(8)
−COLi ・・・式(8)
で表される構造である。好ましくは、上記式(8)で表されるカルボン酸Li基を有する繰り返し単位の構造としては、特には限定されないが、アクリル酸Liユニット、メタクリル酸Liユニット、スチレンカルボン酸Liユニット及びフルオロカーボンカルボン酸Liユニットが挙げられる。
【0036】
4級ボロン酸Li基としては、好ましい一例として下記一般式(9):
【化3】
{式中、R及びRは、フッ素原子、又は炭素数1〜8のフルオロアルキル基、アルキル基、フルオロアルコキシ基若しくはアルコキシ基を示す}
で表される構造が挙げられる。
【0037】
本発明の実施形態で使用されるイオン性高分子は、上記イオン性官能基を有する繰り返し単位以外の繰り返し単位を有してもよい。特に、イオン性高分子は、非水溶媒を保持しつつ、非水溶媒に溶解し難いものが好ましいので、イオン性官能基を有する繰り返し単位以外の繰り返し単位は、エチレンユニット、プロピレンユニット、イソプレンユニット、ブチレンユニット、ペンテンユニット、ヘキセンユニット、エチレン−ブチレン共重合ユニット(水添ブタジエンユニット)、テトラフルオロエチレンユニット、ヘキサフルオロプロピレンユニット、パーフルオロブチレンユニット、パーフルオロペンテンユニット、及び/又はパーフルオロヘキセンユニットを含有することが好ましい。
【0038】
また、イオン性高分子は、例えば、非水溶媒を保持しつつ、非水溶媒に溶解し難くするために、必要に応じて架橋してもよい。
【0039】
本発明の実施形態で使用されるイオン性高分子中のイオン性官能基の割合は、そのイオン交換容量で、0.3ミリ当量/g以上4.0ミリ当量/g以下であることが好ましい。このイオン交換容量は、0.3ミリ当量/g以上であれば、十分なイオン伝導性を担保することができ、4.0ミリ当量/g以下であれば非水溶媒を含有させたときに良好な機械的強度を担保することができる。このイオン交換容量は、より好ましくは0.5ミリ当量/g以上3.0ミリ当量/g以下、さらに好ましくは、0.6ミリ当量/g以上2.0ミリ当量/g以下である。
【0040】
本発明の実施形態で使用される高分子電解質は、イオン性高分子と非水溶媒を含有するが、固体状であることが好ましい。ここで「固体状」とは、「液体のような流動性を有さない」ことを意味し、厳密に剛直性を必要とするものではない。固体状高分子電解質は、正極と負極の間の電解質層に存在できていればよく、また液体のように流動してイオン短絡を引き起こさないものであればよい。一般的に、いわゆる「ゲル状」も「固体状」に含まれる。
【0041】
本発明の実施形態で使用される高分子電解質層は、上記で説明したイオン性高分子以外のリチウム塩化合物を実質的に含有しないことが好ましい。上記の通り、この高分子電解質は、イオン性高分子及び非水溶媒を含有する。この高分子電解質では、正極と負極の間のLiイオン伝導は、イオン性高分子が担う。一方、バイポーラ電池中でもし非水溶媒が高分子電解質中から染み出したとしても、非水溶媒自体はイオン伝導性をほとんど有さないのでイオン的短絡は起こらない。また、高分子電解質にリチウム塩化合物を実質的に含有させないことにより、染み出た非水溶媒のイオン伝導性を低く抑え、イオン的短絡の危険性を低下させることが出来る。ここで「リチウム塩化合物」とは、本発明の実施形態で使用されるイオン性高分子以外のリチウム塩化合物をいい、LiPF、LiBF、LiN(SOCF等の非水溶媒に溶解し得る低分子のリチウム塩化合物である。ここで「リチウム塩化合物を実質的に含有しない」とは、不純物、電池反応副生成物などの微量のリチウム塩化合物は含有してもよいことを意味し、必ずしもリチウム塩化合物の含有量がゼロである必要は無い。具体的には、高分子電解質中のリチウム塩化合物の含有量(濃度)が非水溶媒の質量に対して0.1mol/kg以下であれば、高分子電解質は「リチウム塩化合物を実質的に含有しない」ことを意味する。
【0042】
上述の通り、高分子電解質中におけるイオン性高分子以外のLi塩の含有量(濃度)は、染み出た非水溶媒のイオン伝導性を低く抑え、イオン的短絡の危険性を低下させる観点から、非水溶媒の質量に対して、好ましくは0.1mol/kg以下であり、より好ましくは0.05mol/kg以下であり、特に好ましくは0.02mol/kg以下であり、最も好ましくは0.01mol/kg以下である。また、高分子電解質中におけるイオン性高分子以外のLi塩の濃度は、0.0001mol/kg以上0.1mol/kg以下でよい。
【0043】
本発明におけるバイポーラ電池とは、バイポーラ電極を上記高分子電解質層に挟んで複数枚直列に積層した構造の電池をいう。ここで、バイポーラ電極とは、集電体の両側に正極活物質と負極活物質とを配置した構造を有する電極をいう。
【0044】
図5にバイポーラ電極の好ましい構造を模式的に表した概略断面図を示し、図6にバイポーラ電池の好ましい全体構造を模式的に表した概略断面図を示す。図5に示したようにバイポーラ電極の好ましい構造は、1枚の集電体の片面に正極層を設け、もう一方の面に負極層を設けた構造である。
【0045】
また、バイポーラ電池の好ましい構造は、集電体の片方の面に正極層を有し、他方の面に負極層を有するバイポーラ電極を、高分子電解質層を挟んで複数枚直列に積層した構造の電極積層体から成るものである。すなわち、図6に示されるように{正極層、高分子電解質層、負極層、集電体、正極層・・・}の繰り返し単位が構成される。ここで、最上層と最下層の電極はバイポーラ電極ではなくてもよく、集電体に必要な片面のみに電極層を形成した構造としてもよい。この最上層と最下層の電極に正極、及び負極リードが接合されている構造としてもよい。
【0046】
バイポーラ電極の積層枚数は、所望する電圧に応じて調節できる。例えば、単セルで3.7Vのリチウムイオン二次電池であれば、計算上10層積層することで37V程度の電圧が期待できる。
【0047】
また、本発明のバイポーラ電池では、使用時の外部からの衝撃及び環境劣化を防止するために、電極積層体部分を電池外装材に減圧封入し、電極リードを電池外装材の外部に取り出した構造とするのが好ましい。軽量化の観点から、アルミニウム、ステンレス、ニッケル、銅などの金属(合金を含む)をポリプロピレンフィルム等の絶縁体で被覆した高分子金属複合ラミネートフィルム(例えば、アルミラミネートフィルム)など、従来から知られている電池外装材を用いて、その周辺部の一部又は全部を熱融着にて接合することにより、電極積層体を収納し減圧封入し、電極リードを電池外装材の外部に取り出した構成とすることがより好ましい。なお、本発明のバイポーラ電池は、リチウムイオンの移動により充放電が媒介されるバイポーラリチウムイオン二次電池に用いられることが好ましい。ただし、他の種類のバイポーラ電池に適用することを妨げるものではない。
【0048】
従来のゲル電解質層を用いたバイポーラ電池では、ゲル電解質中に含まれる電解液(非水溶媒に電解質塩を溶解させたもの)が染み出して、他の単電池層の電解液と接触することで、イオン的短絡(液絡)をする恐れがあった(図4)。図4では、両矢印9は、正極層2と負極層3の間でイオン的短絡が起こることを示す。また、電解液を含有しない高分子固体電解質を用いたバイポーラ電池では、高分子固体電解質のイオン伝導度は、電解液を含有するゲル電解質と比較して2桁程度低く、結果、電池の出力密度が非常に低いという課題がある。
【0049】
それに対し、本発明のバイポーラ電池では、高分子電解質層が、少なくとも、イオン性官能基としてアニオン性官能基とLiイオンとを含有するイオン性高分子、及び非水溶媒とを含有する。アニオン性官能基とLiイオンとを含有するイオン性高分子自体がイオン伝導を担い、かつ非水溶媒を含有することから、高分子電解質層は優れたイオン伝導性を有する。また、非水溶媒自体はイオン伝導性を有さず、そしてLiイオンは高分子電解質層中のイオン性高分子構造に存在し、流出しないことから、もし高分子電解質層から非水溶媒が染み出た場合にも、染み出た非水溶媒はイオン伝導性を有さず、イオン的短絡を起こさない(図7)。図7では、×印付き両矢印12は、正極層2と負極層3の間でイオン的短絡が起こらないことを示す。したがって、イオン的短絡を本質的に回避しつつ高いイオン伝導性を有するバイポーラ電池が実現されることができる。
【0050】
本発明のバイポーラ電池は本質的にイオン的短絡の恐れを回避できるものである。よって、多量の非水溶媒をバイポーラ電池中に存在させてもよい。例えば、図8のようにバイポーラ電池中に余剰の非水溶媒が存在してもよい。特に、電池製造工程において、バイポーラ電極とイオン性高分子を積層し電池外装材に入れた後、非水溶媒を注入し封止することも可能である。
【0051】
本発明の実施形態で使用される高分子電解質層の厚さは、特に限定されるものではないが、電池の高容量化及び高出力化の観点から、200μm以下が好ましく、100μm以下がより好ましい。この厚さは、正極と負極を良好に分離して接触を防ぐ観点から、好ましくは3μm以上であり、より好ましくは5μm以上である。
【0052】
本発明の高分子電解質層には、イオン性高分子及び非水溶媒以外に、必要に応じて添加剤を添加することが出来る。また、高分子電解質層を補強するなどの目的で、リチウムイオン二次電池に通常用いられる多孔性セパレータ又は不織布等のセパレータを用いることも可能である。これらセパレータは本発明の効果を何ら妨げるものではない。
【0053】
本発明の集電体は、両面に負極層と正極層を保持でき、電子を伝導するものであればよい。本発明で用いることが出来る集電体としては、特に制限されるものではなく、従来から知られているものを利用することが出来る。例えば、アルミニウム箔、ステンレス箔、ニッケルとアルミニウムのクラッド材、銅とアルミニウムのクラッド材、あるいはこれらの金属の組み合わせのめっき材などが好ましく用いることが出来る。また、金属表面に、アルミニウムを被覆させた集電体であってもよい。また、場合によっては、2つ以上の金属箔を貼り合わせた集電体を用いてもよい。耐蝕性、作り易さ、経済性などの観点から、アルミニウム箔を集電体として用いることが好ましい。また、集電体の厚さは、特には限定されないが、機械的強度の観点から1μm以上であり、電池の高容量化の観点から100μm以下であることが好ましい。
【0054】
本発明の実施形態で使用される正極層は、正極活物質を含む。この他にも、正極層は、電子伝導性を高めるため、アセチレンブラック、カーボンブラック、グラファイト等の導電助剤、正極層形状保持のため、ポリフッ化ビニリデンなどのバインダーなどを含むことが出来る。また、正極層内部のイオン伝導性を確保するため、正極層は、非水溶媒及びイオン性高分子を含有することが好ましい。正極層に用いるイオン性高分子としては、本発明の実施形態で使用される高分子電解質層に用いるイオン性高分子と同様のイオン性高分子を好ましく用いることが出来る。また、高分子電解質層に用いるイオン性高分子と正極層に用いるイオン性高分子は、同一であるか、又は異なっていてよい。
【0055】
正極層に用いられる正極活物質としては、通常のリチウムイオン二次電池で用いられる既知の正極活物質を使用することが出来る。好ましい例としては、LiCoOなどのLi・Co系複合酸化物、LiNiOなどのLi・Ni系複合酸化物、LiMnなどのLi・Mn系複合酸化物などのLi遷移金属複合酸化物;又はLiFePOなどのLiMPO(Mは遷移金属)で表されるリン酸塩系正極;又はLiMPOF(Mは遷移金属)などの構造式で表されるリン酸塩系正極誘導体;又はLiMO−LiMO(Mは遷移金属)で表される固溶体系正極;又はその他の化合物として、V、MnO、TiS、MoS、MoOなどを挙げることができる。また、正極活物質は、1種を単独で、又は2種以上を組合せて用いてもよい。
【0056】
本発明の実施形態で使用される負極層は、負極活物質を含む。この他にも、負極層は、電子伝導性を高めるための導電助剤、負極層形状保持のためのバインダーなどを含むことが出来る。また、負極層内部のイオン伝導性を確保するため、負極層は、非水溶媒及びイオン性高分子を含有することが好ましい。正極層に用いるイオン性高分子としては、本発明の高分子電解質層に用いるイオン性高分子と同様のイオン性高分子を好ましく用いることが出来る。また、高分子電解質層に用いるイオン性高分子と負極層に用いるイオン性高分子は、同一であるか、又は異なっていてよい。
【0057】
負極層に用いる負極活物質としては、通常のリチウムイオン二次電池で用いられる既知の負極活物質を使用することが出来る。具体的には、負極活物質としては、黒鉛、グラファイト、アセチレンブラック、カーボンブラックなどのカーボン系負極;又はLi−Si系、Li−SiO系、Li−Sn系などの合金系負極;又はLi−SiOなどの酸化物系負極;又はLiTi12などのLi−Ti複合酸化物系負極;又は金属Li負極などを好適に用いることが出来る。これらの負極活物質は、1種を単独で、又は2種以上を組合せて用いてもよい。
【0058】
<バイポーラ電池の製造方法>
本発明のバイポーラ電池の製造方法としては、特に制限されるべきものはなく、従来から知られている各種の方法を適宜利用することが出来る。以下に、一例として工程(1)〜(4)を簡単に説明する。
【0059】
(1)正極層の形成
ステンレス鋼(SUS)箔等の適当な集電体の一方の面に正極用スラリーを塗布し、乾燥することにより正極層を形成する。
【0060】
正極用スラリーは、正極活物質を含む分散溶液であり、必要に応じて、導電助剤、バインダー、イオン性高分子などの他の成分を任意で含んでいてもよく、好ましくは、導電助剤及び/又はバインダーを含む。正極スラリーの溶媒としては、正極活物質の種類に合わせて選択することが出来るが、一般に、水、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)などが好適に用いられる。
【0061】
正極用スラリーを所望の厚みになるように集電体の一方の面に塗布して乾燥し、含まれる溶媒を除去する。また、正極用スラリーの組成に応じて、塗布・乾燥時に架橋反応などを進行させてもよい。また、イオン性高分子を正極中に存在させる場合、イオン性高分子を上記正極用スラリーに含ませるか、又は塗布乾燥後にイオン性高分子を正極層に塗布して乾燥させるという手法も採ることができる。
【0062】
(2)負極層の形成
集電体の正極が塗布された面と反対側の面に、負極用スラリーを塗布し、乾燥することにより負極層を形成する。
【0063】
負極用スラリーは、負極活物質を含む分散溶液であり、必要に応じて、導電助剤、バインダー、イオン性高分子などの他の成分を含んでいてもよい。負極用スラリーの溶媒としては、負極活物質の種類に合わせて選択することが出来るが、一般に、水、NMPなどが好適に用いられる。
【0064】
集電体の正極が塗布された面と反対側の面に負極用スラリーを所望の厚みになるように塗布して乾燥し、含まれる溶媒を除去する。負極用スラリーに応じて、塗布・乾燥時に架橋反応などを進行させてもよい。また、イオン性高分子を負極中に存在させる場合、イオン性高分子を上記負極用スラリーに含ませるか、又は塗布乾燥後にイオン性高分子を負極層に塗布して乾燥させるという手法も採ることができる。
【0065】
(3)バイポーラ電極と高分子電解質層との積層
本発明の実施形態で使用される高分子電解質層にはイオン性高分子及び非水溶媒が含まれる。バイポーラ電極と高分子電解質層との積層方法としては、下記3つの方法:
(i)イオン性高分子に非水溶媒を含有させた後にバイポーラ電極と積層する方法;
(ii)イオン性高分子とバイポーラ電極を積層後、非水溶媒を積層体に注入する方法;及び
(iii)イオン性高分子に非水溶媒を含有させた後にバイポーラ電極と積層し更に非水溶媒を注入する方法
を挙げられるが、いずれの方法を用いてもよい。
【0066】
積層は、所定のサイズのバイポーラ電極と高分子電解質層を所定の枚数重ね合わせることにより行われる。積層数は、バイポーラ電池に求める電池特性を考慮して決定することができる。最外層の高分子電解質層上には、それぞれ電極を配置する。正極側の最外層には、集電体に正極層のみを形成した電極を配置し、負極側の最外層には、集電体に負極層のみを形成した電極を配置する。
【0067】
(4)注液及びパッキング
上記積層体の正極最外層に正極端子板及び正極リードを、負極最外層に負極端子板及び負極リードを接合し、その後、電池積層体全体を電池外装材又は電池ケースにパッキングし、バイポーラ電池を完成させる。パッキングの前に、必要に応じて、非水溶媒を電池積層体に注入することが出来る。従来のゲル電解質等を用いたバイポーラ電池では、電解液によるイオン的短絡(液絡)の恐れがあることからパッキングの直前に電解液を注入することはできなかった。しかし、本発明においては、イオン的短絡(液絡)を本質的に回避できていることから、パッキングの直前に非水溶媒をバイポーラ電池に注入することが可能となる。
【実施例】
【0068】
本実施例において、各種物性の測定方法及び評価方法は以下のとおりである。
(1)イオン性高分子のイオン交換容量
イオン性高分子のイオン交換容量を、以下の手法により測定した。
10質量%硫酸水溶液にイオン性高分子を浸漬し、イオン性高分子中のイオン交換基の対イオンをリチウムイオンからプロトンに変換した。プロトンを有するイオン性高分子を25℃の飽和NaCl水溶液30mLに浸漬し、攪拌しながら30分間放置した。次いで、飽和水溶液中のプロトンを、フェノールフタレインを指示薬として0.01N水酸化ナトリウム水溶液を用いて中和滴定した。中和後にろ過して得られたイオン交換基の対イオンがナトリウムイオンの状態となっているイオン性高分子を、純水で濯ぎ、更に真空乾燥して秤量した。中和に要した水酸化ナトリウム量をM(mmol)、そしてイオン交換基の対イオンがナトリウムイオンであるイオン性高分子の質量をW(mg)とし、下記式:
EW=(W/M)−23+7
により、対イオンがリチウムイオンであるイオン性高分子の当量質量EW(g/当量)を求めた。
【0069】
更に、得られたEW値の逆数をとって1000倍することにより、イオン交換容量(ミリ当量/g)を算出した。
【0070】
(2)高分子電解質層中のイオン性高分子の含有量(%)
イオン性高分子を120℃で15時間乾燥した後のイオン性高分子の質量と、当該イオン性高分子を用いて得られた高分子電解質層の質量との比から、高分子電解質層中のイオン性高分子の含有量を求めた。
【0071】
(3)高分子電解質層のイオン伝導度(S/cm)
アルゴングローブボックス中で、金(Au)を蒸着したステンレス鋼に高分子電解質を挟み込み、アルミラミネートフィルムで密閉することにより、Au/高分子電解質/Auの対称セルを作製した。ここで、Au電極は2cm角であり、その電極面積は4cmであった。作製した対称セルは電気化学測定装置(Solartron社製、1280B)を用い、0.1Hz〜20kHzの周波数範囲で、25℃の恒温雰囲気下、インピーダンス測定を行い、実軸の抵抗値R’(Ω)から下記式:
σ=L/(R’×A)
{式中、σは、イオン伝導度(S/cm)であり、Lは、電極間距離(cm)であり、R’は、実軸の抵抗値(Ω)であり、そしてAは、電極面積(cm)である。}
によりイオン伝導度を算出した。なお、電極間距離Lとしては高分子電解質層の厚みを用いた。
【0072】
(4)高分子電解質層から染み出た溶液のイオン伝導度測定
溶液のイオン伝導度測定は、東亜DKK社製電気伝導率計CM−21P(商品名)に東亜DKK社製電気伝導率セルCT57101B(商品名)を接続してアルゴン(Ar)雰囲気下で測定を行った。
【0073】
(5)バイポーラ電池の充放電評価
バイポーラ電池の充放電評価は、アスカ電子(株)製充放電装置ACD−01(商品名)及び二葉科学社製恒温槽PLM−63S(商品名)を用いて行った。各実施例に記載の手法で作製したバイポーラ電池を、各実施例記載の充電レートで満充電と計算される時間に亘って、定電流充電を行い、その後、各実施例記載の放電レートで定電流放電を行い、電圧低下挙動を確認した。このときの電池周辺温度を25℃に設定した。
【0074】
[実施例1]
<イオン性高分子の合成>
下記式(10):
CF=CF ・・・式(10)
で表されるテトラフルオロエチレンモノマー、及び下記式(11):
CF=CF−OCFCF(CF)−O−(CF−SOF ・・・式(11)
で表されるモノマーを共重合して、下記式(12):
−(CF−CF−(CF−CF(−OCFCF(CF)−O−(CF−SOF))− ・・・式(12)
{式中、a及びbは、本技術分野で知られる範囲の整数でよく、a:bの比は、好ましくは、1〜30:1であり、より好ましくは、2〜20:1である。}
で表される前駆体高分子を得た。
【0075】
得られた前駆体高分子を、260℃でプレス成膜を行い、厚み28μmの前駆体高分子膜を作製した。1.0mol/kgのCFSONH、及び1.5mol/kgのエチルジイソプロピルアミン((i−Pr)EtN)を溶解させたジエチレングリコールジメチルエーテル溶液500g中に、得られた前駆体高分子膜11gを浸漬し、130℃で20時間スルホンイミド化反応を行った。次いで、得られたスルホンイミド化高分子を水洗し、10質量%硫酸水溶液で洗浄し、1N水酸化リチウム水溶液に浸漬し、水洗し、対イオンがリチウムイオンであるパーフルオロスルホンイミドLi型のイオン性高分子(下記式(13))を得た。
−(CF−CF−(CF−CF(−OCFCF(CF)−O−(CF−SONLiSOCF))− ・・・式(13)
{式中、a及びbは、本技術分野で知られる範囲の整数でよく、a:bの比は、好ましくは、1〜30:1であり、より好ましくは、2〜20:1である。}
得られたイオン性高分子のイオン交換容量は、0.91ミリ当量/gであった。また、120℃で15時間真空乾燥した後の該イオン性高分子の膜厚は37μmであった。
【0076】
<高分子電解質層の作製>
上記真空乾燥したイオン性高分子を、エチレンカーボネート/エチルメチルカーボネート(質量比1:2)の混合溶媒中に浸漬し、イオン性高分子中に非水溶媒を含有させた。その後、ろ紙でイオン性高分子表面に残留した非水溶媒を除去し、高分子電解質層を得た。得られた高分子電解質層の膜厚は67μmであり、該高分子電解質層中のイオン性高分子の含有量は25質量%であり、該高分子電解質層のイオン伝導度は9.1×10−4S/cmであった。
【0077】
<正極層の形成>
正極活物質として数平均粒子径5μmのLiCoOと、導電助剤として数平均粒子径3μmのグラファイト粉末と、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVdF)とを、85:10:5の質量比で混合した。得られた混合物にNMPを固形分60質量%となるように投入して更に混合して、スラリー状の溶液を調製した。このスラリー状の溶液を厚さ20μmのSUS箔の片面に塗布し、溶剤を乾燥除去した後、式(13)のイオン性高分子の1質量%NMP分散溶液を塗布し、NMPを乾燥除去し、乾燥厚さ20μmの正極層を形成した。
【0078】
<負極層の形成及びバイポーラ電極の作製>
負極活物質として数平均粒子径12μmのグラファイト粉末と、バインダーとしてカルボキシメチルセルロース水溶液(固形分濃度1.8質量%)及びジエン系ゴム水溶液(固形分濃度40%)とを、97:1.4:1.6の固形分質量比で混合してスラリー状の溶液を作製した。このスラリー状溶液を、前記SUS箔の正極層とは反対の面に塗布し、溶剤を乾燥除去した後、式(13)のイオン性高分子の1質量%NMP分散溶液を塗布し、NMPを乾燥除去し、乾燥厚さ20μmの負極層を形成し、バイポーラ電極を作製した。
【0079】
<バイポーラ電池の作製>
上記手法により作製した高分子電解質層とバイポーラ電極とを、バイポーラ電極の正極面と負極面が高分子電解質層を挟むように積層した。最外層には、片面にのみ正極層または負極層を形成した電極を積層して電池積層体を得た。この電池積層体をアルミラミネートパックに投入後、アルミラミネートパック中にエチレンカーボネート/エチルメチルカーボネート(質量比1:2)の混合溶媒を、バイポーラ電極が混合溶媒に浸る程度まで添加した後、封止し、パッキングし、5層積層型バイポーラ電池を作製した。得られたバイポーラ電池を0.5Cで充電したところ、良好に充電が進み、充電後のバイポーラ電池の開回路電位は20.1Vであった。その後、バイポーラ電池は0.5Cで放電したところ、バイポーラ電池は良好に放電した。
【0080】
また、上記バイポーラ電池中の液体をシリンジにて取り出し、イオン伝導度を測定したが、溶液のイオン伝導度の測定限界である1×10−4S/cm以下を示した。したがって、バイポーラ電池中の液体のイオン伝導度は非常に低かった。
【0081】
[実施例2]
<イオン性高分子の合成>
37tプレス機を用いて、実施例1で得られた上記式(12)の前駆体高分子に260℃でプレス成膜を行い、厚み28μmの前駆体高分子膜を作製した。得られた前駆体高分子膜11gを、15質量%水酸化カリウム水溶液に90℃で2時間浸漬し、前駆体高分子膜中のSOF基を加水分解させた。得られた加水分解化高分子膜を水洗し、そして10質量%硫酸水溶液で洗浄した後、再び水洗し、1N水酸化リチウム水溶液に浸漬させて、対イオンがリチウムイオンであるイオン性高分子(下記式(14))を得た。
−(CF−CF−(CF−CF(−OCFCF(CF)−O−(CF−SOLi))− ・・・式(14)
{式中、a及びbは、本技術分野で知られる範囲の整数でよく、a:bの比は、好ましくは、1〜30:1であり、より好ましくは、2〜20:1である。}
得られたイオン性高分子のイオン交換容量は、1.05ミリ当量/gであった。また、固体19F−NMR解析により、イオン交換基の全量がスルホン酸Li基であることを確認した。120℃で15時間真空乾燥した後の該イオン性高分子の膜厚は35μmであった。
【0082】
<高分子電解質層の作製>
上記真空乾燥したイオン性高分子を、エチレンカーボネート/エチルメチルカーボネート(質量比1:2)の混合溶媒中に浸漬し、イオン性高分子中に非水溶媒を含有させた。その後、ろ紙でイオン性高分子表面に残留した非水溶媒を除去し、高分子電解質層を得た。得られた高分子電解質層の膜厚は41μmであり、該高分子電解質層中のイオン性高分子の含有量は71質量%であり、該高分子電解質層のイオン伝導度は3.8×10−6S/cmであった。
【0083】
<バイポーラ電池の作製>
実施例1に記載の方法でバイポーラ電極を作製し、高分子電解質層に上記イオン性高分子を用いて、実施例1と同様の5層積層型のバイポーラ電池を作製した。得られたバイポーラ電池を0.5Cで充電したところ、良好に充電が進み、充電後のバイポーラ電池の開回路電位は18.2Vであった。その後、バイポーラ電池を0.5Cで放電したところ、バイポーラ電池は良好に放電した。
【0084】
また、上記バイポーラ電池中の液体をシリンジにより取り出し、溶液のイオン伝導度を測定したが、溶液のイオン伝導度の測定限界である1×10−4S/cm以下となった。したがって、溶液のイオン伝導度は非常に低かった。
【0085】
[実施例3]
<イオン性高分子の合成>
下記式(15):
【化4】
{式中、x及びyは、本技術分野で知られる範囲の整数でよく、x:yの比は、好ましくは、1〜10:1〜4であり、より好ましくは、1〜5:1〜2である。}
で表されるポリスチレンスルホン酸−block−ポリ(エチレン−ran−ブチレン)−block−ポリスチレンスルホン酸高分子の5%溶液(アルドリッチ(aldrich)社製商品番号448885)を、高分子の含有量が9質量%になるようにエバポレーターで濃縮し、得られた濃縮溶液をシャーレに入れ、真空乾燥で溶媒を除去し、さらに80℃で1時間真空乾燥した。その後、真空乾燥した膜をシャーレから剥がすことにより、膜厚120μmの高分子膜を作製した。得られた高分子膜8gを、塩化チオニル140gを溶解させたN,N−ジメチルホルムアミド溶液400mL中に室温で20時間浸漬し、スルホン酸基をSOCl基に変換した。反応終了後、得られた高分子膜を洗浄液が中性になるまで水洗した後、さらにエタノールで洗浄し、60℃で20時間、真空乾燥し、褐色の高分子膜を得た。
【0086】
1.0mol/kgのCFSONH、及び1.5mol/kgの(i−Pr)EtNを溶解させたジエチレングリコールジメチルエーテル溶液500g中に、上記で得られた高分子膜を浸漬し、130℃で15時間スルホンイミド化反応を行った。次いで、得られたスルホンイミド化高分子膜を水洗し、そして10質量%硫酸水溶液で洗浄し、その後、15質量%水酸化カリウム水溶液に90℃で2時間浸漬し、残存SOCl基の加水分解を行った。得られた高分子膜を水洗し、そして酸で洗浄し、再び水洗した後、1N水酸化リチウム水溶液に浸漬し、さらに水洗して、乾燥処理を行い、対イオンがリチウムイオンであるイオン性高分子(下記式(16))を得た。
【化5】
{式中、x及びyは、本技術分野で知られる範囲の整数でよく、x:yの比は、好ましくは、1〜10:1〜4であり、より好ましくは、1〜5:1〜2である。}
【0087】
得られたイオン性高分子のイオン交換容量は、0.82ミリ当量/gであった。また、80℃で15時間真空乾燥した後の該イオン性高分子の膜厚は130μmであった。
【0088】
<高分子電解質層の作製>
上記真空乾燥したイオン性高分子を、エチレンカーボネート/エチルメチルカーボネート(質量比1:2)の混合溶媒中に浸漬し、イオン性高分子中に非水溶媒を含有させた。その後、ろ紙でイオン性高分子表面に残留した非水溶媒を除去し、高分子電解質層を得た。得られた高分子電解質層の膜厚は211μmであり、該高分子電解質層中のイオン性高分子の含有量は21質量%、該高分子電解質層のイオン伝導度は4.1×10−4S/cmであった。
【0089】
<バイポーラ電池の作製>
実施例1に記載の方法でバイポーラ電極を作製し、高分子電解質層に上記イオン性高分子を用いて、実施例1と同様の5層積層型のバイポーラ電池を作製した。得られたバイポーラ電池を0.5Cで充電すると、良好に充電が進み、充電後のバイポーラ電池の開回路電位は19.3Vであった。その後、バイポーラ電池を0.5Cで放電すると、バイポーラ電池は良好に放電した。
【0090】
また、上記バイポーラ電池中の液体をシリンジにより取り出し、イオン伝導度を測定すると、溶液のイオン伝導度の測定限界である1×10−4S/cm以下となった。したがって、溶液のイオン伝導度は非常に低かった。
【0091】
[比較例1]
<ゲル電解質層の作製>
ポリエチレンオキサイド10質量%と;エチレンカーボネートとエチルメチルカーボネート(質量比1:2)の混合溶媒に電解質塩としてLiN(SOCFを1mol/L溶解させた電解液90質量%とを混合し、混合物を得た。この混合物をポリプロピレン製不織布に染込ませてゲル電解質層を作製した。
【0092】
<バイポーラ電池の作製>
実施例1に記載の方法でバイポーラ電極を作製し、電解質層に上記ゲル電解質層を用いて、実施例1と同様の5層積層型のバイポーラ電池を作製した。得られたバイポーラ電池を用いて、0.5Cで充電を試みたが、充電は進まず、さらに充電レートを0.1Cに下げて充電を試みたが、充電は進まなかった。この充電作業後のバイポーラ電池の開回路電位は3.7Vと低かった。その後、この充電作業後のバイポーラ電池を用いて、0.5Cで放電を試みたが、良好に放電できなかった。ゲル電解質から染み出た電解質塩によりイオン的短絡を起こしたため、比較例1のバイポーラ電池は、典型的なバイポーラ電池として良好に駆動しなかったものと考えられる。
【0093】
また、上記バイポーラ電池中の液体をシリンジにて取り出し、イオン伝導度を測定すると、液体のイオン伝導度は1.1×10−3S/cmと非常に高かった。したがって、該液体によりバイポーラ電池中でイオン的短絡が起こったものと考えられる。
【0094】
[比較例2]ドライPEO高分子電解質
<電解液を含まない高分子固体電解質層の作製>
ポリエチレンオキサイド(PEO)(2.0g)と、LiN(SOCF(0.724g)と、アセトニトリル(37.28g)とを混合して均一な溶液を作製した。得られた溶液をポリテトラフルオロエチレン(PTFE)シャーレ上に展開し、室温下、減圧乾燥してアセトニトリル溶媒を留去した後、90℃で12時間真空乾燥を行なって膜を形成した。その後、この膜をシャーレから剥離させて、電解液を含まない高分子固体電解質層を作製した。
【0095】
<正極層の形成>
正極活物質として数平均粒子径5μmのLiCoOと、導電助剤として数平均粒子径3μmのグラファイト粉末と、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVdF)とを、85:10:5の質量比で混合した。得られた混合物にNMPを固形分60質量%となるように投入して更に混合して、スラリー状の溶液を調製した。このスラリー状の溶液を厚さ20μmのSUS箔の片面に塗布し、溶剤を乾燥除去した後、ポリエチレンオキサイドを1質量%、LiN(SOCFを0.3質量%含有するNMP溶液を塗布し、NMPを乾燥除去し、乾燥厚さ20μmの正極層を形成した。
【0096】
<負極層の形成及びバイポーラ電極の作製>
負極活物質として数平均粒子径12μmのグラファイト粉末と、バインダーとしてカルボキシメチルセルロース水溶液(固形分濃度1.8質量%)及びジエン系ゴム水溶液(固形分濃度40%)とを、97:1.4:1.6の固形分質量比で混合してスラリー状の溶液を作製した。このスラリー状溶液をSUS箔の正極層とは反対の面に塗布し、溶剤を乾燥除去した後、1質量%のポリエチレンオキサイド及び0.3質量%のLiN(SOCFを含有する、NMPを乾燥除去し、乾燥厚さ20μmの負極層を形成し、バイポーラ電極を作製した。
【0097】
<バイポーラ電池の作製>
上記手法により作製した電解液を含まない高分子電解質層とバイポーラ電極とを、バイポーラ電極の正極面と負極面が高分子電解質層を挟むように積層した。最外層には、片面にのみ正極層または負極層を形成した電極を積層し、電池積層体をアルミラミネートパックに投入後、封止し、パッキングし、5層積層型のバイポーラ電池を作製した。得られたバイポーラ電池を用いて、0.5Cで充電を試みたが、充電はほとんど進まなかったため、充電レートを0.1Cに下げて充電を試みると充電が進行した。充電後のバイポーラ電池の開回路電位は16.2Vであった。その後、このバイポーラ電池を用いて、0.5Cで放電を試みたが、放電電圧が急激に低下し、良好に放電が出来なかった。
【0098】
以上の結果から、本発明に係るバイポーラ電池は、高出力充放電が可能であるとともに、イオン的短絡を起こさず、非常に優れたバイポーラ電池であることが確認された。
【符号の説明】
【0099】
1 集電体
2 正極層
3 負極層
4 電解質層
5 負極リード
6 正極リード
7 電池外装材
8 電解液
9 両矢印
10 高分子電解質層
11 非水溶媒
12 ×印付き両矢印
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8