(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、液晶表示装置、PDP(プラズマディスプレイパネル)、有機EL(エレクトロルミネッセンス)表示装置等の多くの種類の画像表示装置が開発されている。これらの画像表示装置については、大画面化と同時に、装置全体の薄型化も進んでいる。
画像表示装置を構成する部品として、液晶表示装置において液晶セルの両側に配置されているような、偏光膜を有する光学積層体がある。光学積層体は、基材にPVA系樹脂を塗工して形成した層に二色性物質を吸着させて染色し、一軸延伸することにより得られる偏光膜と、該偏光膜の両側に配置された保護フィルムとを有するのが通常である。PVA系フィルムを一軸延伸した偏光膜の厚みは、代表的には数十μmである。
画像表示装置全体の薄型化を達成するため、光学積層体の薄型化を図ること、中でも、偏光膜の厚みを低減して薄型偏光子とすることの検討がなされている。薄型偏光子を作製する方法としては、例えば、基材とPVA系樹脂層との積層体を高温で補助的に空中延伸した後に、ホウ酸水中で延伸する方法がある(特許文献1)。この方法によれば、基材とPVA系樹脂層との積層体を従来に比べて高倍率に延伸することができ、その結果、薄型偏光膜を作製することができる。
【0003】
しかしながら、薄型偏光膜を得ることを目的として、基材とPVA系樹脂層との積層体を高倍率に延伸しようとする場合、基材とPVA系樹脂層との密着力が低いと、延伸工程で基材からPVA系樹脂層が剥離して、ロールに巻きついてしまうことがある。また、上記のようにホウ酸水中で延伸を行う際、PVA系樹脂層中の異物や気泡が原因となって層の破断が発生し、基材からPVA系樹脂層が完全に剥離してしまうこともある。さらに、作製した薄型偏光子を搬送する際にも、基材からPVA系樹脂層が剥離する可能性がある。PVA系樹脂層の基材からの剥離は、薄型偏光膜、これを含む光学積層体、あるいはこれを用いた画像表示装置の、製造の歩留まりの低下の一因となっていた。
このため、基材とPVA系樹脂層との密着力を向上させて、搬送や延伸工程、水中延伸時に基材からPVA系樹脂層が剥離しないようにすることが望まれていた。
【0004】
基材とPVA系樹脂層との密着力を向上させる手法として、例えば、PVA系樹脂層を形成する前に、基材にコロナ処理等の表面処理を施すことが考えられる。これと併用するか、あるいはこれに代わる手法として、基材上に下塗りとも呼ばれる易接着層を形成することも考えられる(特許文献2)。
これらの手法は、従来の延伸倍率あるいは厚さの偏光膜に適用する場合には、熱可塑性樹脂基材とPVA系樹脂層との密着性をある程度向上させることができる。しかしながら、薄型偏光膜に適用する場合には、必ずしも十分な結果が得られないのが実情であった。また、基材上に易接着層を形成してからPVA系樹脂層を設ける手法では、PVA系樹脂を塗工する際に樹脂溶液のハジキによるスジといった外観の不具合が発生することも認められた。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の好ましい実施形態について説明するが、本発明はこれらの実施形態には限定されない。
イ.偏光膜
図1は、本発明の好ましい実施形態による偏光膜の概略断面図である。偏光膜10は、基材11とPVA系樹脂層12とを有し、基材11上にPVA系樹脂層12を設け、基材11とPVA系樹脂層12とを一体に延伸することにより作製される。本発明の偏光膜に使用する基材の種類や延伸の条件等については、製造方法との関係で後に詳述するが、基材上に設けられたPVA系樹脂の層を、少なくとも5倍に延伸するのが好ましい。
本発明の偏光膜に使用するPVA系樹脂は、変性PVAを含む。本発明の偏光膜では、変性PVAは、PVA系樹脂全体を基準とする変性割合が、0.04mol%〜1.4mol%となるような量で存在する。
本明細書において、「変性割合」とは、PVA系樹脂全体を基準とするアセトアセチル変性ビニルモノマーユニットの割合を意味する。アセトアセチル変性PVAのケン化度と変性度から、アセトアセチル変性PVAの平均分子量を算出し、アセトアセチル変性PVA中のアセトアセチル変性ビニルモノマーユニットの割合(mol%)を算出する。同様に、PVAのケン化度からPVAの平均分子量を算出し、混合比からPVA系樹脂全体を基準とするアセトアセチル変性ビニルモノマーユニットの割合を算出する。
変性PVAとしては、次の一般式で表されるようなアセトアセチル変性PVAを使用するのが好ましい:
【0012】
本明細書において、「変性度」とは、アセトアセチル変性PVA中のアセトアセチル変性ビニルモノマーユニットの割合(%)であって、アセトアセチル変性PVAの上記一般式のl+m+n=100%とした時のnの割合(%)である。 また、変性PVAは、PVA系樹脂全体の重量を基準として30重量%以下の量で存在するのが好ましい。
特に限定されるものではないが、アセトアセチル変性PVAとしては、ケン化度が97mol%以上のものを好適に使用することができる。また、使用するアセトアセチル変性PVAのpHは、4%水溶液として測定した場合に、3.5〜5.5の範囲内にあるのが望ましい。
本発明の偏光膜は、延伸後のPVA系樹脂層の厚さが好ましくは10μm以下、より好ましくは7μm以下、さらに好ましくは5μm以下である。偏光膜の厚さが10μm以下である場合には、「薄型偏光膜」と呼ぶことができる。一方、偏光膜の厚みは、好ましくは0.5μm以上、より好ましくは1.5μm以上である。厚みが薄すぎると得られる偏光膜の光学特性が低下するおそれがある。
【0013】
偏光膜は、好ましくは、波長380nm〜780nmのいずれかの波長で吸収二色性を示す。
偏光膜の単体透過率は、好ましくは40.0%以上、より好ましくは41.0%以上、さらに好ましくは42.0%以上である。
偏光膜の偏光度は、好ましくは99.8%以上、より好ましくは99.9%以上、さらに好ましくは99.95%以上である。
本発明の偏光膜のヨウ素含有量は、好ましくは2.3kcps以下、さらに好ましくは2.2kcps以下である。一方、偏光膜の単位厚み当たりのヨウ素含有量は、好ましくは0.30kcps/μm以上である。偏光膜のホウ酸含有量は、好ましくは1.5g/(400mm×700mm□)以下である。
【0014】
上記偏光膜の使用方法は、任意の適切な方法が採用され得る。具体的には、上記PVA系樹脂層が上記基材と一体となった状態で使用してもよいし、必要な処理を施すことにより、上記PVA系樹脂層を上記基材から剥離して、これを偏光膜として使用してもよく、剥離したPVA系樹脂層を他の部材に転写して使用してもよい。
【0015】
ロ.光学積層体
本発明の光学積層体は、上記偏光膜を有する。
図2(a)および(b)は、本発明の好ましい実施形態による光学積層体の概略断面図である。光学積層体100は、基材11’とPVA系樹脂層12’とからなる偏光膜と粘着剤層13とセパレータ14とをこの順で有する。光学積層体200は、基材11’とPVA系樹脂層12’とからなる偏光膜と接着剤層15と光学機能フィルム16と粘着剤層13とセパレータ14とをこの順で有する。本実施形態では、偏光膜を作製する際の基材11’をPVA系樹脂層12’から剥離せずに、そのまま光学部材として用いている。基材11’は、例えば、PVA系樹脂層12’の保護フィルムとして機能し得る。
【0016】
図3(a)および(b)は、本発明の別の好ましい実施形態による光学積層体の概略断面図である。光学積層体300は、セパレータ14と粘着剤層13とPVA系樹脂層12’と接着剤層15と光学機能フィルム16とをこの順で有する。光学機能フィルム積層体400では、光学積層体300の構成に加え、第2の光学機能フィルム16’がPVA系樹脂層12’とセパレータ14との間に粘着剤層13を介して設けられている。本実施形態では、上記基材は取り除かれている。
【0017】
本発明の光学積層体を構成する各層の積層には、図示した例に限定されず、任意の適切な粘着剤層または接着剤層を用いることができる。粘着剤層は、代表的にはアクリル系粘着剤で形成される。接着剤層は、代表的にはビニルアルコール系接着剤で形成される。上記光学機能フィルムは、例えば、偏光膜保護フィルム、位相差フィルム等として機能し得るものである。
【0018】
ハ.製造方法
本発明の偏光膜は、熱可塑性樹脂基材などの基材上にPVA系樹脂層を形成して積層体を作製する工程(工程A)と、PVA系樹脂層をヨウ素で染色する工程(工程B)と、積層体をホウ酸水溶液中で水中延伸する工程(工程C)とを含む製造方法により、製造することができる。以下、各々の工程について説明する。
【0019】
A−1.工程A
再び
図1を参照して、偏光膜10は、基材11上にPVA系樹脂層12を設け、基材11とPVA系樹脂層12とを一体に延伸することにより作製される。PVA系樹脂層12の形成方法は、任意の適切な方法を採用し得る。好ましくは、基材11上に、PVA系樹脂を含む塗布液を塗布し、乾燥することにより、PVA系樹脂層12を形成する。
【0020】
上記基材の構成材料は、熱可塑性樹脂等の任意の適切な材料を採用し得る。1つの実施形態においては、基材の構成材料としては、非晶質の(結晶化していない)ポリエチレンテレフタレート系樹脂が好ましく用いられる。中でも、非晶性の(結晶化しにくい)ポリエチレンテレフタレート系樹脂が特に好ましく用いられる。非晶性のポリエチレンテレフタレート系樹脂の具体例としては、ジカルボン酸としてイソフタル酸をさらに含む共重合体や、グリコールとしてシクロヘキサンジメタノールをさらに含む共重合体が挙げられる。
【0021】
上記基材は、後述する工程Cにおいて水を吸収し、水が可塑剤的な働きをして可塑化し得る。その結果、延伸応力を大幅に低下させることができ、高倍率に延伸することが可能となり、空中延伸時よりも基材の延伸性が優れ得る。その結果、優れた光学特性(例えば、偏光度)を有する偏光膜を作製することができる。基材は、好ましくは、その吸水率が0.2%以上、さらに好ましくは0.3%以上である。一方、基材の吸水率は、好ましくは3.0%以下、さらに好ましくは1.0%以下である。このような基材を用いることにより、製造時に基材の寸法安定性が著しく低下して、得られる偏光膜の外観が悪化するなどの不具合を防止することができる。また、水中延伸時に基材が破断したり、基材からPVA系樹脂層が剥離したりするのを防止することができる。なお、吸水率は、JIS K 7209に準じて求められる値である。
【0022】
基材のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは170℃以下である。このような基材を用いることにより、PVA系樹脂層の結晶化を抑制しながら、積層体の延伸性を十分に確保することができる。さらに、水による基材の可塑化と、水中延伸を良好に行うことを考慮すると、基材のガラス転移温度(Tg)は120℃以下であることがより好ましい。1つの実施形態においては、基材のガラス転移温度は、好ましくは60℃以上である。このような基材を用いることにより、上記PVA系樹脂を含む塗布液を塗布・乾燥する際に、基材が変形(例えば、凹凸やタルミ、シワ等の発生)するなどの不具合を防止して、良好に積層体を作製することができる。また、PVA系樹脂層の延伸を、好適な温度(例えば、60℃程度)にて良好に行うことができる。基材のガラス転移温度は、例えば、構成材料に変性基を導入するような結晶化材料を用いて加熱することにより調整することができる。なお、ガラス転移温度(Tg)は、JIS K 7121に準じて求められる値である。
【0023】
別の実施形態においては、PVA系樹脂を含む塗布液を塗布・乾燥する際に、基材が変形しなければ、基材のガラス転移温度は、60℃より低くてもよい。この場合、基材の構成材料としては、例えば、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン等のオレフィン系樹脂が挙げられる。
【0024】
基材の延伸前の厚みは、好ましくは20μm〜300μm、より好ましくは50μm〜200μmである。20μm未満であると、PVA系樹脂層の形成が困難になるおそれがある。300μmを超えると、例えば、工程Bにおいて、基材が水を吸収するのに長時間を要するとともに、延伸に過大な負荷を要するおそれがある。
【0025】
上記PVA系樹脂は、任意の適切な樹脂を採用し得る。例えば、ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体が挙げられる。ポリビニルアルコールは、ポリ酢酸ビニルをケン化することにより得られる。エチレン−ビニルアルコール共重合体は、エチレン−酢酸ビニル共重合体をケン化することにより得られる。PVA系樹脂のケン化度は、通常85モル%〜100モル%であり、好ましくは95.0モル%〜99.95モル%、さらに好ましくは99.0モル%〜99.93モル%である。ケン化度は、JIS K 6726−1994に準じて求めることができる。このようなケン化度のPVA系樹脂を用いることによって、耐久性に優れた薄型偏光膜が得られ得る。ケン化度が高すぎる場合には、ゲル化してしまうおそれがある。
【0026】
PVA系樹脂の平均重合度は、目的に応じて適切に選択し得る。平均重合度は、通常1000〜10000であり、好ましくは1200〜4500、さらに好ましくは1500〜4300である。なお、平均重合度は、JIS K 6726−1994に準じて求めることができる。
【0027】
上記塗布液は、代表的には、上記PVA系樹脂を溶媒に溶解させた溶液である。溶媒としては、例えば、水、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドN−メチルピロリドン、各種グリコール類、トリメチロールプロパン等の多価アルコール類、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン等のアミン類が挙げられる。これらは単独で、または、二種以上組み合わせて用いることができる。これらの中でも、好ましくは、水である。溶液のPVA系樹脂濃度は、溶媒100重量部に対して、好ましくは3重量部〜20重量部である。このような樹脂濃度であれば、熱可塑性樹脂基材に密着した均一な塗布膜を形成することができる。
【0028】
塗布液に、添加剤を配合してもよい。添加剤としては、例えば、可塑剤、界面活性剤等が挙げられる。可塑剤としては、例えば、エチレングリコールやグリセリン等の多価アルコールが挙げられる。界面活性剤としては、例えば、非イオン界面活性剤が挙げられる。これらは、得られるPVA系樹脂層の均一性や染色性、延伸性をより一層向上させる目的で使用され得る。
【0029】
塗布液の塗布方法としては、任意の適切な方法を採用することができる。例えば、ロールコート法、スピンコート法、ワイヤーバーコート法、ディップコート法、ダイコート法、カーテンコート法、スプレコート法、ナイフコート法(コンマコート法等)等が挙げられる。
【0030】
上記塗布液の塗布・乾燥温度は、好ましくは50℃以上である。
【0031】
PVA系樹脂層の延伸前の厚みは、好ましくは20μm以下である。一方、延伸前の厚みは、好ましくは2μm以上、より好ましくは4μm以上である。厚みが薄すぎると得られる薄型偏光膜の光学特性が低下するおそれがある。
【0032】
PVA系樹脂層を形成する前に、基材に表面処理(例えば、コロナ処理等)を施してもよい。このような処理を行うことにより、基材とPVA系樹脂層との密着性を向上させることができる。
【0033】
A−2.工程B
工程Bでは、PVA系樹脂層をヨウ素で染色する。具体的には、PVA系樹脂層にヨウ素を吸着させることにより行う。吸着方法としては、例えば、ヨウ素を含む染色液にPVA系樹脂層(積層体)を浸漬させる方法、PVA系樹脂層に当該染色液を塗工する方法、当該染色液をPVA系樹脂層に噴霧する方法等が挙げられる。好ましくは、染色液に積層体を浸漬させる方法を用いる。ヨウ素が良好にPVA系樹脂層に吸着し得るからである。
【0034】
上記染色液は、好ましくは、ヨウ素水溶液である。ヨウ素の配合量は、水100重量部に対して、好ましくは0.1重量部〜0.5重量部である。ヨウ素の水に対する溶解度を高めるため、ヨウ素水溶液にヨウ化物を配合することが好ましい。ヨウ化物としては、例えば、ヨウ化カリウム、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化亜鉛、ヨウ化アルミニウム、ヨウ化鉛、ヨウ化銅、ヨウ化バリウム、ヨウ化カルシウム、ヨウ化錫、ヨウ化チタン等が挙げられる。これらの中でも、好ましくは、ヨウ化カリウムである。ヨウ化物の配合量は、水100重量部に対して、好ましくは0.02重量部〜20重量部、より好ましくは0.1重量部〜10重量部である。染色液の染色時の液温は、PVA系樹脂の溶解を抑制するため、好ましくは20℃〜50℃である。染色液にPVA系樹脂層を浸漬させる場合、浸漬時間は、PVA系樹脂層の透過率を確保するため、好ましくは5秒〜5分である。また、染色条件(濃度、液温、浸漬時間)は、最終的に得られる偏光膜の偏光度もしくは単体透過率が所定の範囲となるように、設定することができる。1つの実施形態においては、得られる偏光膜の偏光度が99.98%以上となるように、浸漬時間を設定する。別の実施形態においては、得られる偏光膜の単体透過率が40%〜44%となるように、浸漬時間を設定する。
【0035】
好ましくは、工程Bは、後述の工程Cの前に行う。
【0036】
A−3.工程C
工程Cでは、上記積層体を水中延伸(ホウ酸水中延伸)する。水中延伸によれば、上記基材やPVA系樹脂層のガラス転移温度(代表的には、80℃程度)よりも低い温度で延伸し得、PVA系樹脂層を、その結晶化を抑えながら、高倍率に延伸することができる。その結果、優れた光学特性(例えば、偏光度)を有する薄型偏光膜を作製することができる。
【0037】
積層体の延伸方法は、任意の適切な方法を採用することができる。具体的には、固定端延伸でもよいし、自由端延伸(例えば、周速の異なるロール間に積層体を通して一軸延伸する方法)でもよい。積層体の延伸は、一段階で行ってもよいし、多段階で行ってもよい。多段階で行う場合、後述の延伸倍率は、各段階の延伸倍率の積である。
【0038】
水中延伸は、好ましくは、ホウ酸水溶液中に積層体を浸漬させて行う(ホウ酸水中延伸)。延伸浴としてホウ酸水溶液を用いることで、PVA系樹脂層に、延伸時にかかる張力に耐える剛性と、水に溶解しない耐水性とを付与することができる。具体的には、ホウ酸は、水溶液中でテトラヒドロキシホウ酸アニオンを生成してPVA系樹脂と水素結合により架橋し得る。その結果、PVA系樹脂層に剛性と耐水性とを付与して、良好に延伸することができ、優れた光学特性(例えば、偏光度)を有する薄型偏光膜を作製することができる。
【0039】
上記ホウ酸水溶液は、好ましくは、溶媒である水にホウ酸および/またはホウ酸塩を溶解させることにより得られる。ホウ酸濃度は、水100重量部に対して、好ましくは1重量部〜10重量部である。ホウ酸濃度を1重量部以上とすることにより、PVA系樹脂層の溶解を効果的に抑制することができ、より高特性の薄型偏光膜を作製することができる。なお、ホウ酸またはホウ酸塩以外に、ホウ砂等のホウ素化合物、グリオキザール、グルタルアルデヒド等を溶媒に溶解して得られた水溶液も用いることができる。
【0040】
上記染色工程(工程B)により、予め、PVA系樹脂層にヨウ素が吸着されている場合、好ましくは、上記延伸浴(ホウ酸水溶液)にヨウ化物を配合する。ヨウ化物を配合することにより、PVA系樹脂層に吸着させたヨウ素の溶出を抑制することができる。ヨウ化物の具体例は、上述のとおりである。ヨウ化物の濃度は、水100重量部に対して、好ましくは0.05重量部〜15重量部、より好ましくは0.5重量部〜8重量部である。
【0041】
工程Cにおける延伸温度(延伸浴の液温)は、好ましくは40℃〜85℃、より好ましくは50℃〜85℃である。このような温度であれば、PVA系樹脂層の溶解を抑制しながら高倍率に延伸することができる。上述のように、1つの実施形態においては、基材のガラス転移温度(Tg)は、PVA系樹脂層の形成との関係で、好ましくは60℃以上である。この場合、延伸温度が40℃を下回ると、水による基材の可塑化を考慮しても、良好に延伸できないおそれがある。一方、延伸浴の温度が高温になるほど、PVA系樹脂層の溶解性が高くなって、優れた光学特性が得られないおそれがある。積層体の延伸浴への浸漬時間は、好ましくは15秒〜5分である。
【0042】
水中延伸(ホウ酸水中延伸)を採用することにより、高倍率に延伸することができ、優れた光学特性(例えば、偏光度)を有する薄型偏光膜を作製することができる。具体的には、最大延伸倍率は、積層体の元長に対して、好ましくは5.0倍以上である。本明細書において「最大延伸倍率」とは、積層体が破断する直前の延伸倍率をいい、別途、積層体が破断する延伸倍率を確認し、その値よりも0.2低い値をいう。
【0043】
A−4.その他の工程
本発明の偏光膜の製造方法は、上記工程A、工程Bおよび工程C以外に、その他の工程を含み得る。その他の工程としては、例えば、不溶化工程、架橋工程、上記工程Cとは別の延伸工程、洗浄工程、乾燥(水分率の調節)工程等が挙げられる。その他の工程は、任意の適切なタイミングで行い得る。
【0044】
上記不溶化工程は、代表的には、ホウ酸水溶液にPVA系樹脂層を浸漬させることにより行う。不溶化処理を施すことにより、PVA系樹脂層に耐水性を付与することができる。当該ホウ酸水溶液の濃度は、水100重量部に対して、好ましくは1重量部〜4重量部である。不溶化浴(ホウ酸水溶液)の液温は、好ましくは20℃〜50℃である。好ましくは、不溶化工程は、積層体作製後、工程Bや工程Cの前に行う。
【0045】
上記架橋工程は、代表的には、ホウ酸水溶液にPVA系樹脂層を浸漬させることにより行う。架橋処理を施すことにより、PVA系樹脂層に耐水性を付与することができる。当該ホウ酸水溶液の濃度は、水100重量部に対して、好ましくは1重量部〜4重量部である。また、上記染色工程後に架橋工程を行う場合、さらに、ヨウ化物を配合することが好ましい。ヨウ化物を配合することにより、PVA系樹脂層に吸着させたヨウ素の溶出を抑制することができる。ヨウ化物の配合量は、水100重量部に対して、好ましくは1重量部〜5重量部である。ヨウ化物の具体例は、上述のとおりである。架橋浴(ホウ酸水溶液)の液温は、好ましくは20℃〜50℃である。好ましくは、架橋工程は上記工程Cの前に行う。好ましい実施形態においては、工程B、架橋工程および工程Cをこの順で行う。
【0046】
上記工程Cとは別の延伸工程としては、例えば、上記積層体を高温(例えば、95℃以上)で空中延伸する工程が挙げられる。このような空中延伸工程は、好ましくは、ホウ酸水中延伸(工程C)および染色工程の前に行う。このような空中延伸工程は、ホウ酸水中延伸に対する予備的または補助的な延伸として位置付けることができるため、以下「空中補助延伸」という。
【0047】
空中補助延伸を組み合わせることで、積層体をより高倍率に延伸することができる場合がある。その結果、より優れた光学特性(例えば、偏光度)を有する薄型偏光膜を作製することができる。例えば、上記基材としてポリエチレンテレフタレート系樹脂を用いた場合、ホウ酸水中延伸のみで延伸するよりも、空中補助延伸とホウ酸水中延伸とを組み合せる方が、基材の配向を抑制しながら延伸することができる。当該基材は、その配向性が向上するにつれて延伸張力が大きくなり、安定的な延伸が困難となったり、基材が破断したりする。そのため、基材の配向を抑制しながら延伸することで、積層体をより高倍率に延伸することができる。
【0048】
また、空中補助延伸を組み合わせることで、PVA系樹脂の配向性を向上させ、そのことにより、ホウ酸水中延伸後においてもPVA系樹脂の配向性を向上させ得る。具体的には、予め、空中補助延伸によりPVA系樹脂の配向性を向上させておくことで、ホウ酸水中延伸の際にPVA系樹脂がホウ酸と架橋し易くなり、ホウ酸が結節点となった状態で延伸されることで、ホウ酸水中延伸後もPVA系樹脂の配向性が高くなるものと推定される。その結果、優れた光学特性(例えば、偏光度)を有する薄型偏光膜を作製することができる。
【0049】
空中補助延伸の延伸方法は、上記工程Cと同様、固定端延伸でもよいし、自由端延伸(例えば、周速の異なるロール間に積層体を通して一軸延伸する方法)でもよい。また、延伸は、一段階で行ってもよいし、多段階で行ってもよい。多段階で行う場合、後述の延伸倍率は、各段階の延伸倍率の積である。本工程における延伸方向は、好ましくは、上記工程Cの延伸方向と略同一である。
【0050】
空中補助延伸における延伸倍率は、好ましくは3.5倍以下である。空中補助延伸の延伸温度は、PVA系樹脂のガラス転移温度以上であることが好ましい。延伸温度は、好ましくは95℃〜150℃である。なお、空中補助延伸と上記ホウ酸水中延伸とを組み合わせた場合の最大延伸倍率は、積層体の元長に対して、好ましくは5.0倍以上、より好ましくは5.5倍以上、さらに好ましくは6.0倍以上である。
【0051】
上記洗浄工程は、代表的には、ヨウ化カリウム水溶液にPVA系樹脂層を浸漬させることにより行う。上記乾燥工程における乾燥温度は、好ましくは30℃〜100℃である。
【0052】
図4は、本発明の偏光膜の製造方法の一例を示す概略図である。
PET等の熱可塑性樹脂基材41にポリビニルアルコール系樹脂水溶液を塗工機42で塗工し、オーブン43で乾燥することにより、熱可塑性樹脂基材にポリビニルアルコール系樹脂層が製膜された積層体44を作製する。次いで、オーブン45で積層体に空中高温延伸を行うことによって、延伸された熱可塑性樹脂基材と配向されたポリビニルアルコール系樹脂層からなる延伸中間生成物を生成する。更に、染色浴46中で延伸中間生成物を二色性物質を有する水溶液中に浸漬させることにより、二色性物質を延伸中間生成物に吸着させて、二色性物質を配向させたポリビニルアルコール系樹脂層からなる着色中間生成物を生成する。次いで、ホウ酸水中延伸浴47中で着色中間生成物に対してホウ酸水中延伸を行い、オーブン48で乾燥することによって、二色性物質を配向させたポリビニルアルコール系樹脂層からなる厚さが好ましくは10μm以下であるような偏光膜49を生成することができる。
【実施例】
【0053】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。なお、実施例及び比較例において得られた偏光膜についての各評価項目の評価方法は、以下の通りである。
1.密着性
偏光膜作製後、さらにホウ酸水溶液中で偏光膜を延伸した場合において、PVA系樹脂層が破断するまで延伸した時に、破断をきっかけにして基材からPVA系樹脂が剥離してしまったものを×、破断によっても基材からPVA系樹脂層が剥離しなかったものを○とした。
2.外観
偏光膜作製の際のホウ酸水溶液中の延伸においてPVA系樹脂層の溶解がないか、また得られた偏光膜の状態を目視した際にスジなどの斑が見えないかを確認し、いずれも認められない場合を○とした。
【0054】
[実施例1]
A-PET(アモルファス‐ポリエチレンテレフタレート)フィルム、(三菱樹脂(株)製 商品名:ノバクリア SH046 200μm)を基材として用意し、表面にコロナ処理(58W/m
2/min)を施した。一方、アセトアセチル変性PVA(日本合成化学工業(株)製 商品名:ゴーセファイマー Z200(重合度1200、ケン化度99.0%以上、アセトアセチル変性度4.6%))を1wt%添加したPVA(重合度4200、ケン化度99.2%)を用意して、変性割合が0.04mol%であるPVA系樹脂の5.5wt%の塗工液を準備し、乾燥後の膜厚が10μmになるようにアプリケーターで塗工し、60℃の雰囲気下において熱風乾燥により10分間乾燥して、基材上にPVA系樹脂の層を設けた積層体を作製した。
なお、変性割合は、次のように算出した。すなわち、アセトアセチル変性PVAのケン化度(99.0%)と変性度(4.6%)から、アセトアセチル変性PVAの平均分子量を算出(Mw=48.26)し、アセトアセチル変性PVA中のアセトアセチル変性ビニルモノマーユニットの割合(0.00953mol)を算出した。同様に、PVAのケン化度(99.2%)からPVAの平均分子量(Mw=44.34)を算出し、混合比(1.0wt%添加)からPVA系樹脂全体を基準とするアセトアセチル変性ビニルモノマーユニットの割合(0.000423mol)を算出した。これを百分率に換算すると、0.0423mol%となる。
次いで、この積層体をまず空気中130℃で1.8倍に自由端延伸して、延伸積層体を生成した。次に、延伸積層体を液温30℃のホウ酸不溶化水溶液に30秒間浸漬することによって、延伸積層体に含まれるPVA分子が配向されたPVA層を不溶化する工程を行った。本工程のホウ酸不溶化水溶液は、ホウ酸含有量を水100重量%に対して3重量%とした。この延伸積層体を染色することによって着色積層体を生成した。着色積層体は、延伸積層体を液温30℃のヨウ素およびヨウ化カリウムを含む染色液に、最終的に生成される高機能偏光膜を構成するPVA層の単体透過率が40〜44%になるように任意の時間、浸漬することによって、延伸積層体に含まれるPVA層にヨウ素を吸着させたものである。本工程において、染色液は、水を溶媒として、ヨウ素濃度を0.08〜0.25重量%の範囲内とし、ヨウ化カリウム濃度を0.56〜1.75重量%の範囲内とした。ヨウ素とヨウ化カリウムの濃度の比は1対7である。次に、着色積層体を30℃のホウ酸架橋水溶液に60秒間浸漬することによって、ヨウ素を吸着させたPVA層のPVA分子同士に架橋処理を施す工程を行った。本工程のホウ酸架橋水溶液は、ホウ酸含有量を水100重量%に対して3重量%とし、ヨウ化カリウム含有量を水100重量%に対して3重量%とした。さらに、得られた着色積層体をホウ酸水溶液中で延伸温度70℃として、先の空気中での延伸と同様の方向に3.3倍に延伸して、最終的な延伸倍率は5.94倍であるサンプル偏光膜を得た。光学フィルム積層体をホウ酸水溶液から取り出し、PVA層の表面に付着したホウ酸を、ヨウ化カリウム含有量が水100重量%に対して4重量%とした水溶液で洗浄した。洗浄された光学フィルム積層体を60℃の温風による乾燥工程によって乾燥した。
得られた偏光膜の外観を、目視により確認した。
また、ホウ酸水溶液中においてPVA系樹脂層が破断するまで延伸を行い、基材に対するPVA系樹脂層の密着性を評価した。
【0055】
[実施例2]
添加するアセトアセチル変性PVA(日本合成化学工業(株)製 商品名:ゴーセファイマー Z200(重合度1200、ケン化度99.0%以上、アセトアセチル変性度4.6%))の添加量を5wt%に変更した以外は、実施例1と同様にサンプルを作製し、評価を行った。
【0056】
[実施例3]
添加するアセトアセチル変性PVA(日本合成化学工業(株)製 商品名:ゴーセファイマー Z200(重合度1200、ケン化度99.0%以上、アセトアセチル変性度4.6%))の添加量を10wt%に変更した以外は、実施例1と同様にサンプルを作製し、評価を行った。
【0057】
[実施例4]
添加するアセトアセチル変性PVA(日本合成化学工業(株)製 商品名:ゴーセファイマー Z200(重合度1200、ケン化度99.0%以上、アセトアセチル変性度4.6%))の添加量を30wt%に変更した以外は、実施例1と同様にサンプルを作製し、評価を行った。
【0058】
[実施例5]
添加するアセトアセチル変性PVAを(日本合成化学工業(株)製 商品名:ゴーセファイマー Z410(重合度2200、ケン化度97.5〜98.5%、アセトアセチル変性度4.6%))に変更した以外は、実施例3と同様にサンプルを作製し、評価を行った。
【0059】
[実施例6]
A-PET(アモルファス‐ポリエチレンテレフタレート)フィルム、(三菱樹脂(株)製 商品名:ノバクリア SH046 200μm)にコロナ処理(58W/m
2/min)を行い、アセトアセチル変性PVA(日本合成化学工業(株)製 商品名:ゴーセファイマー Z410(重合度2200、ケン化度97.5〜98.5%、アセトアセチル変性度4.6%))を10wt%添加したPVA(重合度4200、ケン化度99.2%)を乾燥後の膜厚が10μmになるように塗工し、60℃で10分間乾燥し積層体を生成した。この積層体を温度60℃のホウ酸水溶液中で5.0倍に延伸し外観を確認した。また、ホウ酸水溶液中においてPVAが破断するまで延伸を行いPVAの密着性を評価した。
【0060】
(比較例1)
A-PET(アモルファス‐ポリエチレンテレフタレート)フィルム、(三菱樹脂(株)製 商品名:ノバクリア SH046 200μm)にコロナ処理(58W/m
2/min)を行い、PVA(重合度4200、ケン化度99.2%)を乾燥後の膜厚が10μmになるように塗工し、60℃で10分間乾燥し積層体を生成した。この積層体を空気中130℃で1.8倍に自由端延伸し、延伸積層体を生成し、次に、延伸積層体を染色によって着色積層体を生成し、さらに着色積層体を延伸温度70℃のホウ酸水溶液中で先の延伸と同様の方向に3.3倍に延伸し外観を確認した。また、ホウ酸水溶液中においてPVAが破断するまで延伸を行いPVAの密着性を評価した。
【0061】
(比較例2)
添加するアセトアセチル変性PVA(日本合成化学工業(株)製 商品名:ゴーセファイマー Z200(重合度1200、ケン化度99.0%以上、アセトアセチル変性度4.6%))の添加量を40wt%に変更した以外は、実施例1と同様にサンプルを作製し、評価を行った。
【0062】
(比較例3)
A-PET(アモルファス‐ポリエチレンテレフタレート)フィルム、(三菱樹脂(株)製 商品名:ノバクリア SH046 200μm)にコロナ処理(58W/m
2/min)を行い、アセトアセチル変性PVA(日本合成化学工業(株)製 商品名:ゴーセファイマー Z200(重合度1200、ケン化度99.0%以上、アセトアセチル変性度4.6%))の5wt%水溶液を乾燥後の膜厚が1μmになるように塗工し、60℃で10分間乾燥し積層体を生成した。次に、PVA(重合度4200、ケン化度99.2%)を乾燥後の膜厚が10μmになるように塗工し、60℃で10分間乾燥し積層体を生成した。この積層体を空気中130℃で1.8倍に自由端延伸し、延伸積層体を生成し、次に、延伸積層体を染色によって着色積層体を生成し、さらに着色積層体を延伸温度70℃のホウ酸水溶液中で先の延伸と同様の方向に3.3倍に延伸し外観を確認した。また、ホウ酸水溶液中においてPVAが破断するまで延伸を行いPVAの密着性を評価した。
【0063】
【表1】
【0064】
本発明によれば、適切な量のアセトアセチル変性PVAを添加することにより、実施例1から実施例6についての結果が示すように、密着性と外観を両立できることが確認された。
これに対して、アセトアセチル変性PVAが添加されていない比較例1においては、密着性の評価において、PVAの剥離が確認された。また、アセトアセチル変性PVAが大量に添加された比較例2及びアセトアセチル変性PVAを易接着層(下塗り)として用いた比較例3においては、それぞれ、ホウ酸水中延伸時のPVAの溶解あるいはPVA塗工時のPVA溶液のハジキによるスジといった、外観の不具合が確認された。