【文献】
乾隆子,ビールにおけるホップ由来の香りの研究,バイオインダストリー,2012年10月15日,Vol.29, No11,pp.23-30
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ホップ苞含有組成物が、α酸100重量部に対して、リナロールを0.12重量部以上さらに含有し、かつ、総ポリフェノールを410重量部以上、又は、二量体プロアントシアニジンと三量体プロアントシアニジンを合計で16重量部以上さらに含有する、請求項1記載の製造方法。
【背景技術】
【0002】
ビールテイスト飲料においては、麦芽、ホップなどの原料がその品質に大きな影響を及ぼす。例えば、ホップはビールテイスト飲料に苦味を付与するだけでなく、その爽やかなホップ香やコクも付与する。苦味はホップ中のα酸など、ホップ香はテルペン類など、コクはポリフェノールなど、それぞれ種々の成分から付与されている。よって、ビールテイスト飲料の苦味・ホップ香・コクは、従来、用いるホップに拠って、醸造方法・使用品種・加工品を選別することで調整されてきた。
【0003】
醸造方法の選別としては、麦汁煮沸中にホップを添加する際に、麦汁煮沸工程の初期にホップを添加するか、中期に添加するか、後期もしくは発酵工程以降に添加するかで品質を調整できる。初期に添加した際は、苦味の元となるα酸が十分にイソ化されてイソα酸となることで、良質な苦味を抽出することができる。一方で香気に寄与するテルペン類は大部分が蒸散する。後期に添加した際は、香気に寄与するテルペン類は残存し、しっかりとホップ香が付与されるが、一方で、α酸のイソ化が不十分となり、苦味がビールと調和しない可能性がある。また発酵・貯酒中にホップを漬け込むドライホッピングなどの製法がある。ドライホッピングの場合は、生ホップ独特の新鮮な香気が付与される。
【0004】
使用品種としては、ホップは主に苦味付与を目的としたα酸の含有量が高いビター品種、良質な香気を付与するアロマ品種に大別され、世界市場には100種を超える品種が栽培されている。これら苦味・香気・コクについて様々な品質を有する品種を選別することにより所望のビールテイスト飲料を製造することが可能である。
【0005】
ところで、ホップはアサ科の多年生植物であり、その毬花(未受精の雌花が成熟したもの)を一般にホップと呼んでいる。この毬花のルプリン部分(黄色の顆粒)がホップの苦味、芳香の本体であると考えられている。
【0006】
ビールテイスト飲料には、ホップを種々加工して得られた様々な特性を有するホップ加工品が用いられることが知られている。例えば、ホップを乾燥しただけの「乾燥毬花」、乾燥毬花を粉砕しペレット状にした「Type90ホップペレット」、乾燥毬花を凍結して粉砕し、分画したルプリン画分を濃縮してペレット状にした「Type45ホップペレット」、Type90ホップペレットから苦味成分をCO
2抽出した「ホップエキス」が挙げられる。さらに、精製度の高い加工品としては、香気付与には、ホップペレットから香気成分をエタノール抽出した「オイルリッチエキス」、コクの付与には、ホップエキス製造時に排出される副産物「ポリフェノールリッチペレット」や該ポリフェノールリッチペレットからポリフェノール画分のみを濃縮した「ポリフェノールリッチエキス」等を用いることができる。なお、「Type90」、「Type45」とは、それぞれ歩留まりが90%程度、45%程度であることを意味する。
【0007】
一方、Type45ホップペレット製造時に副産物として排出される苞画分であるホップ苞は、通常、土壌改良用肥料や家畜用飼料として用いられている。また、このホップ苞を用いた技術としては、特許文献1には、ホップ苞由来のポリフェノールが抗酸化作用や泡安定化作用、抗う蝕作用、消臭作用、癌細胞転移抑制作用、トポイソメラーゼ阻害作用を有することから、ホップ苞から精製度の高いポリフェノールを製造して、飲食品、化粧品、医薬品等に配合することが開示されている。特許文献2では、ホップ苞を焙煎して得られたホップ苞茶又はホップ苞そのものを熱水あるいは水で抽出して得られた飲料が開示されている。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のビールテイスト飲料の製造方法は、α酸の含有量が組成物中1重量%未満であるホップ苞含有組成物(以下、本発明のホップ苞含有組成物と記載することもある)をビールテイスト飲料の製造工程で添加することを特徴とする。即ち、本発明は、ホップ苞が香気成分とコク等に関する成分(以下、コク成分と記載する)を、苦味成分あたりの量に換算した場合、香気成分とコク成分の双方がその他のホップ加工品におけるそれらよりも多い量で含有することを、本発明者らが初めて見出したことである。本発明では、かかる品質を有するホップ苞を用いて目的とするビールテイストとなるよう、本発明のホップ苞含有組成物を添加することに大きな特徴を有する。なお、本発明におけるホップ苞含有組成物としては、組成物中のα酸の含有量が1重量%未満であれば特に限定はなく、ホップそのもの(例えば、乾燥毬花)も一態様として含む。
【0016】
本明細書における「ビールテイスト飲料」とは、ビール様の風味をもつ炭酸飲料をいう。つまり、本明細書のビールテイスト飲料は、特に断わりがない場合、酵母による発酵工程の有無に拘わらず、ビール風味の炭酸飲料を全て包含する。具体的には、ビール、発泡酒、その他醸造酒、リキュール類、ノンアルコール飲料などが挙げられる。
【0017】
以下に、ホップ苞の特徴を見出した方法を説明する。
【0018】
本発明におけるホップとしては、その産地、品種に特に限定はなく、公知のアロマホップ、ビターホップ等が用いられる。具体的には、アロマホップとしてHallertauer Mittelfrueh、Hallertauer Tradition、Hersbrucker、Perle、Tettnanger、Cascade、Saaz、Sladekなどが、ビターホップとしてNorthern Brewer、Herkules、Magnum、Nugget、Taurus、Galaxy、Targetなどが例示される。
【0019】
ビールの製造におけるホップとしては、樹脂と精油を含有するルプリンと、フェノール(タンニン)を含有する苞(ホップ苞)とによって構成される毬花部分が主に用いられる。なお、苞とは、ホップ毬花の外側の花びら状の組織のことであり、一方、ルプリンとは、その苞の付け根に存在している黄色の顆粒である。樹脂成分には、苦味成分であるα酸の他、β酸が主に含まれている。精油成分にはテルペン類が含まれており、より詳しくは、華やかな香気(花様など)に寄与するとされるモノテルペン類、穏やかな香気(木皮様など)に寄与するとされるセスキテルペン類が含まれている。モノテルペン類としては、ミルセン、リナロール、ゲラニオール、リモネン等が、セスキテルペン類としては、カリオフィレン、フムレン、ファルネセン等が挙げられる。また、フェノール成分としては、ヒドロキシ安息香酸、ヒドロキシ桂皮酸、プロアントシアニジン、フラボノイド類、及びそれらの重合体が挙げられる。これらのうち、1分子内に複数個のフェノール性ヒドロキシル基を持つものについてはポリフェノール類と総称され、コクに寄与すると考えられている。なかでも、二量体プロアントシアニジン及び三量体プロアントシアニジンは、特にコクに寄与するとされる。
【0020】
一方、これまで、ホップ苞については総ポリフェノール含有量が多いという程度の知見しかなかったため、先ず、ホップ苞が持つ品質を確認するために、ホップ苞として、Type45ホップペレット製造時に発生するホップ毬花からルプリンを除去した画分について分析を行なう。具体的には、苦味の元となる成分であるα酸、ホップ香成分であるテルペン類(リナロール)、コク成分である、総ポリフェノール(本明細書では「T−PP」ともいう)、二量体プロアントシアニジン及び三量体プロアントシアニジン(本明細書では、まとめて「PAO」ともいう)について、それぞれのホップ苞中の含有量を測定する。なお、本明細書において、総ポリフェノールとは、EBC法に則り測定されるポリフェノール類のことであり、PAOの他、各種ポリフェノールが含まれる。
【0021】
各成分の含有量の測定は、成分の特性に応じた公知の方法を用いることができる。ホップ苞含有組成物の各成分の含有量は、実施例記載の方法等の抽出操作の後、測定を行う。
【0022】
例えば、α酸及びイソα酸は、EBC(European Brewery Convention)が発行している分析法の規定「Analytica−EBC」のMethod 7.7に従って測定することができる。本明細書においては、後述の実施例に記載の方法に従って測定することができる。
【0023】
テルペン類の1つであるリナロールは、ASBC(The American Society of Brewing Chemists)が発行している分析法の規定「ASBC Methods of Analysis」に従って測定することができる。本明細書においては、後述の実施例に記載の方法に従って測定することができる。
【0024】
総ポリフェノールは、EBC(European Brewery Convention)が発行している分析法の規定「Analytica−EBC」のMethod 9.11に記載されている方法に従って測定することができる。また、PAOは、後述の実施例に記載の方法、例えば、HPLC法に従って測定することができる。
【0025】
次に、ホップ苞における成分含有量を解析した品種と同じ品種について、苞の含有量が異なるホップ加工品、例えば、Type90ホップペレット(Type90ペレットともいい、Type45ホップペレットはType45ペレットともいう)における成分含有量を前記と同様にして測定する。なお、Type90ペレットにおける苞含有量は95〜99.5重量%程度、Type45ペレットにおける苞含有量は90〜99重量%程度である。
【0026】
かくして得られた各成分の含有量をホップ苞とホップ加工品毎に対比する。例えば、苦味成分、香気成分、コク成分等の各成分について、ホップの形態を横軸として含有量を縦軸にプロットすることで、ホップ苞の特徴が把握できる。
【0027】
対比においては、成分の絶対量をそのまま比較することもできるが、一成分あたりの他成分含有量に換算して比較を行なってもよく、例えば、α酸1mgあたりのリナロール含有量、T−PP含有量、及びPAO含有量(二量体プロアントシアニジン及び三量体プロアントシアニジンの合計含有量)を算出して対比してもよい。また、前記含有量は、α酸100重量部に対する含有量(重量部)として記載することができる。
【0028】
例えば、Hallertauer Traditionホップについて、ホップ苞部分とType90ペレットの対比を前記方法に基づいて行ない、本発明者らが以下の傾向を見出したことを報告する。
<ホップ苞の傾向(Type90ペレットとの比較)>
α酸:絶対量がType90ペレットに比べ極端に少ない点
テルペン類:Type90ペレットに比べ絶対量は少ないが、α酸含有量あたりの含有量として比較した場合約4倍多く含有する点
総ポリフェノール、PAO:いずれも、Type90ペレットと絶対量はほぼ同程度であるが、α酸含有量あたりの含有量として比較した場合極めて多く含有する点
【0029】
また、ホップ苞部分における各成分については、α酸の含有量が通常のホップ加工品に比べ極端に少ないため、それらの絶対含有量から以下の傾向も分かる。
<ホップ苞の傾向>
テルペン類:α酸100重量部に対する含有量が好ましくは0.12重量部以上、より好ましくは0.24重量部以上であり、例えば、α酸1mgに対する含有量が好ましくは1.2μg以上、より好ましくは2.4μg以上である点
総ポリフェノール:α酸100重量部に対する含有量が好ましくは410重量部以上、より好ましくは1380重量部以上であり、例えば、α酸1mgに対する含有量が好ましくは4.1mg以上、より好ましくは13.8mg以上である点
PAO:α酸100重量部に対する含有量が好ましくは16重量部以上、より好ましくは140重量部以上であり、例えば、α酸1mgに対する含有量が好ましくは0.16mg以上、より好ましくは1.4mg以上である点
【0030】
このように、ホップ苞は、α酸含有量が少ないことに加えて、α酸含有量あたりの総ポリフェノール含有量、PAO含有量が多く、さらに、従来、ルプリン部分に存在すると考えられていたテルペン類を多く含有することから、コクのみでなく香気の付与も可能であることが分かる。また、Type90ペレットとは大きく品質が異なることから、ビールテイスト飲料に苦味を増加することなくコクや香気を付与する場合には、ホップ苞を選択して用いればよいことが示唆される。その際に、品種に拠らず、ホップ苞の含有する香気成分とコク成分を把握した上で、使用量を選択すればよい。よって、本発明の製造方法では、ルプリンを極力含まない、すなわち、α酸含有量が1重量%未満であるホップ苞含有組成物を用いることで、α酸に基づくホップ使用量を増加せずとも、コクや香気の増強が可能となる。コクや香気を付与することが可能となって、所望のビールテイスト飲料を精度良く製造することが可能になる。また、Type45等のホップペレット製造時の副産物であることから入手しやすく、生産性も優れるものとなる。
【0031】
また、より顕著なコクや香気を付与させるためには、ビールテイスト飲料の製造工程におけるホップ苞含有組成物の添加時期を調整すればよい。例えば、煮沸工程後期(煮沸終了時も含む)及び/又は煮沸工程以降にホップ苞含有組成物を添加して、より味わいの豊かなビールテイスト飲料としたり、より華やかな香気に富むビールテイスト飲料としたりすることができる。また、煮沸工程前期に添加することで、ホップの香気を顕著に付与することなく味わいをより多く付与することができる。なお、ホップ苞含有組成物の添加量は、所望するコクや香気によって一概には決定されず、ビールテイスト飲料の製造に用いられる全体のホップ量のうち、通常、10〜95重量%程度である。
【0032】
本発明におけるホップ苞含有組成物は、組成物中のα酸の含有量が1重量%未満であれば、特に限定はなく、例えば、ホップ毬花からルプリンを選択的に除去して調製することができる。その一例は、Type45ペレット製造時のバイプロダクトとして調製することである。また、α酸の含有量が1重量%以上のもの(例えば、Type90ペレット)と、α酸含有量が1重量%未満のもの(例えば、ホップ苞)をブレンドして、ブレンド品中のα酸の含有量が1重量%未満となるものを、本発明におけるホップ苞含有組成物として用いてもよい。また、乾燥毬花をそのまま用いることもできる。なお、その形態は特に制限されず、ペレット状であってもよい。
【0033】
また、本発明においては、コク・香気・苦味を所望のバランスで付与する場合には、あらかじめホップ苞の持つ成分を把握した上で、所望の苦味成分含有量、香気成分含有量、コク成分含有量を有するよう使用品種、量を調整して、ホップ苞含有組成物を調製してもよい。
【0034】
かくして、ホップ苞含有組成物を用いることで、ビールテイスト飲料への苦味の付与を最小限にした上で、コクや香気を付与することが可能となる。
【0035】
ビールテイスト飲料の製造方法では、主に、麦汁煮沸中にホップを添加する。その第一の目的としては、苦味のもととなるα酸をイソ化して、ビールテイスト飲料に順応した苦味とすることにある。通常、ビールテイスト飲料の品質設計においては、麦汁煮沸におけるホップ添加を1〜3回に分けて実施する。例えば、麦汁煮沸の初期(前期)にホップを添加することで、α酸のイソ化は十分に進行して苦味の質は確保され、残存α酸もないため発酵中の系外除去によるα酸のロスは極小化される。また味わいに寄与するポリフェノール類も十分な抽出が行われる。一方で、ホップ香に寄与するテルペン類が蒸散するため、ホップ香の付与が十分ではなくなる。また、麦汁煮沸の後期もしくは煮沸工程や発酵工程以降にホップを添加することで、テルペン類の蒸散が抑えられビールテイスト飲料にホップ香が付与される。一方で、ポリフェノール類の抽出は若干効率が低下する懸念があること、また、α酸のイソ化が不十分となり、製品中にα酸が残り良質な苦味が担保されないといったことが想定される。よって、α酸の付与を抑制しながら、香気成分とコク成分の付与が可能となるホップ苞含有組成物を用いることで、コク・香気・苦味の各成分をホップ使用量に拠らず所望の含有量に調整することが可能となる。また、本発明のホップ苞含有組成物は、α酸の含有量がType90ペレットやType45ペレット等の通常のホップ加工品に比べ極端に少ないために、麦汁煮沸時や発酵開始時、発酵終了時など、いずれのタイミングでも添加が可能となる。
【0036】
本発明のビールテイスト飲料の製造方法は、前記ホップ苞含有組成物を添加する工程を行う以外は、当業者に知られる通常の方法に従って行なうことができる。例えば、麦芽等の麦、他の穀物、でんぷん、及び糖類からなる群より選ばれる少なくとも1種に加え、必要に応じ、苦味料、色素などの原料を、仕込釜又は仕込槽に投入し、必要に応じてアミラーゼなどの酵素を添加し、糊化、糖化を行なわせた後、穀皮等を濾過により取り除いて麦汁を得、次いで得られた麦汁に本発明のホップ苞含有組成物を、必要により、公知のホップ(ホップ加工品)と共に添加して煮沸し、清澄タンクにて凝固タンパク質などの固形分を取り除いて、清澄麦汁を得る。これらの糖化工程、煮沸・清澄化工程、固形分除去工程などにおける条件は、公知の条件を用いればよい。
【0037】
次いで、アルコール飲料の場合には、前記で得られた清澄麦汁に酵母を添加して発酵を行なわせ、必要に応じ濾過機などで酵母を取り除いて製造することができる(発酵工程ともいう)。発酵条件は、知られている条件を用いればよい。また、発酵開始後に本発明のホップ苞含有組成物を添加してもよい。あるいは、発酵工程を経る代わりに、スピリッツなどアルコール分を有する原料を添加してもよい。更に、貯酒、必要により炭酸ガスを添加して、濾過・容器詰め、必要により殺菌の工程を経て、アルコールビールテイスト飲料を得ることができる。
【0038】
一方、ノンアルコール飲料の場合、例えば、前記発酵工程を経ることなく、上記固形分除去工程に次いで、前記で得られた清澄麦汁をそのまま貯蔵、炭酸ガスを添加して、濾過・容器詰め、必要により殺菌の工程を経て、製造することができる。あるいは、前記アルコール飲料の発酵工程の後、ビール膜処理や希釈などの公知の方法によりアルコール濃度を低減させることによって、ノンアルコールビールテイスト飲料を得ることもできる。好ましい製造方法は、発酵工程を経る製造方法である。
【0039】
本発明により、所望のビールテイスト飲料を精度良く製造することが可能となる。本発明により得られるビールテイスト飲料としては、例えば、リナロールの含有量とα酸及びイソα酸の合計含有量との比(リナロール/(α酸+イソα酸))が4.2×10
−4以上であり、かつ、総ポリフェノールの含有量とα酸及びイソα酸の合計含有量との比(総ポリフェノール/(α酸+イソα酸))が4.1以上、又は、二量体プロアントシアニジン及び三量体プロアントシアニジンの合計含有量とα酸及びイソα酸の合計含有量との比((二量体プロアントシアニジン+三量体プロアントシアニジン)/(α酸+イソα酸))が0.32以上であるビールテイスト飲料が挙げられる。
【0040】
本発明はまた、前記のように所望の成分量を有するホップ苞を使用してビールテイスト飲料にコクや香気の付与が可能となるので、目的とするビールテイストに適したホップ苞含有組成物を選択して添加することを特徴とする、ビールテイスト飲料の香味調整方法を提供する。なお、香味としては、ホップ香、コクが主に挙げられる。
【0041】
具体的には、ホップ香品質の調整においては、本発明のホップ苞含有組成物の添加時期を選択することで、希望する品質の造り込みが可能となる。例えば、麦汁煮沸の後期に添加する本発明のホップ苞含有組成物の使用比率を、同時期に添加するホップ総量の10重量%以上に調整することで、ホップ香を増強することができる。
【0042】
コクの調整において、例えば、麦汁煮沸の前期に添加する本発明のホップ苞含有組成物の使用比率を同時期に添加するホップ総量の10重量%以上に調整することで、コク成分を増強することができる。
【0043】
かくして、香気成分、コクなどを所望の品質に応じて、本発明のホップ苞含有組成物添加時期を適宜調整することでビールテイスト飲料の品質を精度良く製造することが可能になるという優れた効果が奏される。
【0044】
またさらに、本発明では、苦味成分あたりの香気成分とコク成分が多いホップ苞を用いて、所望の成分が豊富なホップ加工品を調製することが可能となる。よって、本発明は、α酸の含有量が1重量%未満であるホップ加工品を提供する。
【0045】
ホップ加工品としては、α酸含有量が1重量%未満、好ましくは0.75重量%未満、より好ましくは0.5重量%未満、のものであればその形状に特に限定はないが、通常はペレットの形で加工される。
【0046】
本発明のホップ加工品は、α酸の含有量が前記範囲内となるようにするのであれば、その形状に応じた公知の方法に従って製造することができる。例えば、Type45ペレット製造時の副産物として製造することができる。Type45ペレットはホップ毬花を凍結乾燥して、粉砕、篩分けを行い、ルプリン画分を濃縮したものをペレタイジングして製造されるが、その際にルプリン画分ではない、苞の組織が多く存在する部分をペレタイジングして、ペレット状の本発明のホップ加工品(ホップ苞ペレット)を製造することができる。
【0047】
かかる加工品を用いることで、例えば、本発明のビールテイスト飲料の香味調整方法に記載のようにして該加工品を麦汁煮沸に添加することで、所望のビールテイスト飲料を精度良く製造することが可能となる。
【実施例】
【0048】
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に制限されるものではない。
【0049】
試験例1(ホップ苞中の苦味成分含有量)
品種の異なるホップ苞5種類について、α酸の含有量を定量した。また、前記品種のうち、1種類のホップ加工品(Type90ペレット)についてもα酸の含有量を定量した。具体的には、苞又はペレット2.5gを20mLのトルエンに懸濁し、30分振盪し抽出を行い、遠心処理により上清を回収し、8mLの上清をエバポレーターにて乾燥させた。この残渣に対して25mLのメタノールを加え、溶解し、ホップ成分抽出物を得た。得られた抽出物をEBC(European Brewery Convention)が発行している分析法の規定「Analytica−EBC」のMethod 7.7に記載されている方法に従って分析した。結果を表1及び
図1に示す。結果はホップ苞又はペレットの重量あたりのα酸重量で示す。
【0050】
【表1】
【0051】
表1及び
図1より、ホップ苞のα酸含有量は1重量%未満であり、通常のホップペレットに比べ顕著に少ないことが分かる。
【0052】
試験例2(ホップ苞中の香気成分含有量)
試験例1のホップ苞及びホップペレットにおいて、ホップ香成分としてリナロールの含有量を測定した。具体的には、先ず、苞又はペレット0.08gをpH5.30に調整したクエン酸バッファー40mLに懸濁し、オートクレーブにて100℃にて10分処理を行い、急冷後、フィルターで濾過をし、ホップ成分抽出物を得た。それに対してASBC(The American Society of Brewing Chemists)が発行している分析法の規定「ASBC Methods of Analysis」に従って、GC−MSを用いて下記条件に従って定量した。結果を表2及び
図2に示す。結果はホップ苞又はペレットの重量あたりのリナロール重量で示す。
<GC−MS条件>
キャピラリーカラム:J&W社製、DB−WAX(長さ60m、内径、0.25mm、膜圧0.5μm)
オーブン温度:40℃から6℃/分で240℃まで昇温、20分保持
キャリアガス:He
ガス流量:1.5mL/min
トランスファーライン温度:240℃
MSイオンソース温度:230℃
MS四重極温度:150℃
フロント注入口温度:240℃
【0053】
【表2】
【0054】
表2より、これまでルプリン部分に局在すると考えられていた香気成分(リナロール)が、ホップ苞にもある程度多く存在することが分かった。
【0055】
試験例3(ホップ苞中のコク成分含有量1)
試験例1のホップ苞及びホップペレットにおいて、コク成分として、ポリフェノール類である総ポリフェノール(T−PP)の定量を行なった。具体的には、先ず、苞又はペレット0.08gをpH5.30に調整したクエン酸バッファー40mLに懸濁し、オートクレーブにて100℃にて10分処理を行い、急冷後、フィルターで濾過をし、ホップ成分抽出物を得た。それに対して、EBC(European Brewery Convention)が発行している分析法の規定「Analytica−EBC」のMethod 9.11に記載されている方法に従って定量した。結果を表3及び
図3に示す。結果はホップ苞又はペレットの重量あたりのT−PP重量で示す。
【0056】
【表3】
【0057】
表3及び
図3より、T−PP含有量は、ホップ苞、ホップペレット共に同程度であることが分かった。
【0058】
試験例4(ホップ苞中のコク成分含有量2)
表4に示すホップ苞及びホップペレットにおいて、コク成分として、ポリフェノール類である、二量体プロアントシアニジン及び三量体プロアントシアニジン(PAO)の定量を行なった。具体的には、先ず、苞又はペレット20gを2Lの水で攪拌し、97℃、20分間抽出して抽出物(ポリフェノール画分)を得た。ろ過後、放冷し、抽出液を30℃、減圧下100mLまで濃縮し、凍結乾燥して粉末を得た。得られた粉末を用いて、以下に示す条件によりHPLC分析を行なって定量した。結果を表4及び
図4に示す。結果はホップ苞又はペレットの重量あたりのPAO重量で示す。
<HPLC条件>
装置:HEWLETT PACKARD SERIES 1100
カラム:Inert Sil(GL Sciences Inc. SIL 100A 3μm 4.6×150mm)
流速:1.0mL/min
移動相:ヘキサン/メタノール/テトラヒドロフラン/蟻酸=45/40/14/1の溶液を用いてアイソクラティック溶出
サンプル注入量:10μL
検出:200〜300nmでの多波長検出
【0059】
【表4】
【0060】
表4及び
図4より、PAO含有量は、ホップ苞、ホップペレット共に同程度であり、T−PPと同様の傾向を示した。
【0061】
本発明者らは、試験例1〜4より、ホップ苞をビールテイスト飲料に活用しうることを見出した。
【0062】
試験例5(ホップ苞・加工品中のα酸1mgあたりの各成分の含有量)
前記試験例1〜4にて定量した各種ホップの各成分について、α酸を1mg含有する組成物中に含まれる含有量(「α酸1mgに対する含有量」ともいう)を苞とType90ペレットそれぞれについて算出した。Hallertaue Traditionの結果を表5及び
図5、その他の品種の結果を表6に示す。
【0063】
【表5】
【0064】
【表6】
【0065】
表5及び
図5より、ホップ香成分であるリナロール、コク成分であるT−PP、PAOのいずれにおいても、同じ品種の場合、Type90ペレットよりもホップ苞の方がα酸に対する含量が顕著に大きいことが判明した。これにより、ホップ苞がビールテイスト飲料の香気やコクの調整に活用できることが示唆された。また、表6よりホップ品種ごとのばらつきは存在するものの、表5、
図5のペレットのデータと比較したところ、リナロール、T−PP、PAOのいずれもペレットより苞のほうがα酸あたりの含有量は大きいことが分かった。
【0066】
試験例6(ビールの官能評価)
<ビールの製造>
通常の方法で得られたろ過麦汁100Lを煮沸釜にて100℃まで加熱後、煮沸工程に供した。その際に、市販品のType90ペレット(品種:Hallertauer Tradition)を煮沸開始時にホップ全添加量の10重量%になるよう添加し、煮沸開始時もしくは煮沸終了時にホップ苞ペレット(品種:Hallertauer Tradition)をホップ全添加量の90重量%になるよう添加した。煮沸終了後、ワールプールレストをとり、急冷して冷麦汁を調製した。次いで、酵母を添加して発酵させ、ろ過後、炭酸ガス圧を調整してビールを製造した。コントロールには、Type90ペレット(品種:Hallertauer Tradition)を煮沸開始時に全量添加するものを用いた。なお、ホップ苞ペレットは、Type45製造時の副産物をペレタイジングしたものを用いた。
【0067】
<成分分析>
製造したビールについて、苦味成分分析、ホップ香成分分析(リナロール)、ポリフェノール類分析(T−PP、PAO)を試験例1〜4に従って実施した。各成分の定量結果を表7、
図6〜9に、また、α酸とイソα酸の合計含有量を1とした時の各成分の含有量比を示す結果を表7、
図10にそれぞれ示す。なお、苦味成分は、α酸とα酸がイソ化したイソα酸の合計含有量で表す。
【0068】
<官能評価>
製造したビールについて訓練を積んだパネル15人によって官能評価を行った。官能評価項目には、ホップ香の量、ホップ香の質、ボティー・コク、豊かな味わい、後味のすっきりさ、のどに感じる刺激の計6項目を挙げ、これらについて0点から3点の範囲内で0.1点刻みでスコア比較評価を行なった。パネリストによって、官能スコア幅が異なることから、一人のパネリストの全サンプルのスコアの平均が50、標準偏差が10となるように標準化し、サンプル間の比較を行った。結果を
図11に示す。
【0069】
【表7】
【0070】
図6〜11より、ホップ苞を添加することで味わい、香りを増強できることが明らかとなった。なかでも、煮沸開始時に入れることで味わい成分をより効果的に付与でき、煮沸終了時に添加することで香り成分をより効果的に付与できることが、明らかとなった。