特許第5685283号(P5685283)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ダイオ化成株式会社の特許一覧 ▶ 新日鉄住金エンジニアリング株式会社の特許一覧

特許5685283放射性核種捕捉ネット及び水性コーティング剤組成物
<>
  • 特許5685283-放射性核種捕捉ネット及び水性コーティング剤組成物 図000007
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5685283
(24)【登録日】2015年1月23日
(45)【発行日】2015年3月18日
(54)【発明の名称】放射性核種捕捉ネット及び水性コーティング剤組成物
(51)【国際特許分類】
   G21F 9/12 20060101AFI20150226BHJP
   G21F 9/06 20060101ALI20150226BHJP
   B01J 20/06 20060101ALI20150226BHJP
   C09J 131/04 20060101ALI20150226BHJP
   C09J 175/04 20060101ALI20150226BHJP
   C09J 129/04 20060101ALI20150226BHJP
   C09J 11/04 20060101ALI20150226BHJP
   D04H 13/00 20060101ALI20150226BHJP
   C01B 25/24 20060101ALI20150226BHJP
【FI】
   G21F9/12 501B
   G21F9/06 521M
   G21F9/12 511A
   B01J20/06 C
   C09J131/04
   C09J175/04
   C09J129/04
   C09J11/04
   D04H13/00
   C01B25/24
【請求項の数】5
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2013-84922(P2013-84922)
(22)【出願日】2013年4月15日
(65)【公開番号】特開2014-206492(P2014-206492A)
(43)【公開日】2014年10月30日
【審査請求日】2013年4月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】390028451
【氏名又は名称】ダイオ化成株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】306022513
【氏名又は名称】新日鉄住金エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100075177
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 尚純
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【弁理士】
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(72)【発明者】
【氏名】印藤 ▲たかし▼
(72)【発明者】
【氏名】安岡 実
(72)【発明者】
【氏名】福永 和久
(72)【発明者】
【氏名】嘉森 裕史
【審査官】 村川 雄一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−186020(JP,A)
【文献】 特開2012−215551(JP,A)
【文献】 特開2010−138524(JP,A)
【文献】 特開2013−101112(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21F 9/00 − 9/36
B01J 20/00 − 20/34
C01B 25/00 − 25/46
C09J 1/00 − 5/10
C09J 9/00 − 201/10
D04H 1/00 − 18/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアルコール製の割繊維ウェブ(A)と(B)とが、ポリビニルアルコール系接着剤層を介して縦、横に直交積層されてなる、2層積層構造の割繊維不織布であって、前記接着剤層を構成する接着剤が、接着樹脂成分としてポリビニルアルコール50質量%以上を含むと共に、放射性核種捕捉材として少なくともリンモリブデン酸アンモニウムを含むポリビニルアルコール系接着剤であり、該ポリビニルアルコール系接着剤中のリンモリブデン酸アンモニウムの含有量が、当該不織布に対して0.1〜25g/m2であることを特徴とする、放射性核種捕捉ネット。
【請求項2】
エチレン−ビニルアルコール共重合体製の割繊維ウェブ(C)と、ポリビニルアルコール製の割繊維ウェブ又はエチレン−ビニルアルコール共重合体製の割繊維ウェブ(D)とが、接着剤層を介して縦、横に直交積層されてなる、2層積層構造の割繊維不織布であって、前記接着剤層を構成する接着剤が、接着樹脂成分としてポリビニルアルコール50質量%以上を含むと共に、放射性核種捕捉材として少なくともリンモリブデン酸アンモニウムを含むポリビニルアルコール系接着剤であり、該ポリビニルアルコール系接着剤中のリンモリブデン酸アンモニウムの含有量が、当該不織布に対して0.1〜25g/m2であることを特徴とする、放射性核種捕捉ネット。
【請求項3】
前記放射性核種が、放射性セシウム、放射性ストロンチウム、放射性コバルト、放射性マンガンの少なくとも1種である請求項1又は2に記載の放射性核種捕捉ネット。
【請求項4】
ポリビニルアルコール系接着剤が水性接着剤である請求項1〜のいずれかに記載の放射性核種捕捉ネット。
【請求項5】
ポリビニルアルコール系接着剤が、接着樹脂成分として、ポリ酢酸ビニル系又はポリウレタン系を50質量%以下の割合で含むものである、請求項1〜のいずれかに記載の放射性核種捕捉ネット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は放射性核種捕捉ネット及び水性コーティング剤組成物に関し、さらに詳しくは、特に放射性セシウムなどの放射性核種による汚染からの農作物の保護や、放射性核種による種々の汚染物の除染などに有用な放射性核種捕捉ネット、及びフィルムや布帛の表面に、放射性核種捕捉層を形成し得る水性コーティング剤組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
セシウム分離、回収技術は、例えば使用済み燃料の再処理施設のような原子力利用に関連した施設から発生する硝酸や硝酸ナトリウムを主成分として含む廃液中の放射性セシウムの分離、回収、放射性セシウムに汚染された牛乳などの飲料からの放射性セシウムの除去、廃地熱水中に含まれるセシウムの回収などに適用でき、極めて重要な技術である。
【0003】
現在、原子力分野の多くの部門において、放射性セシウムの回収及び除去が種々の方法で検討されている。
放射性セシウムは、ウラン235などの核分裂反応によって生成し、セシウム137(半減期:30.04年)、セシウム134(半減期:2.06年)などが知られているが、特にセシウム137は半減期が長く、かつアルカリ金属であるため溶出しやすく、原子力施設の各種廃液に含まれ、その効果的な除去方法が望まれている。
【0004】
放射性セシウムの除去方法としては、例えば(1)蒸発分離方法、(2)イオン交換体であるイオン交換樹脂やゼオライトを用いたイオン交換吸着法、(3)フェロシアン化金属化合物による共沈法、(4)フェロシアン化金属化合物を担持したゼオライト吸着法などが知られているが、蒸発分離法では、全液を蒸発させる必要があり、その際飛沫同伴によるセシウムの漏出、イオン交換法では共存塩による妨害、共沈法ではフェロシアン化金属化合物がゼラチナスなため、操作性が悪いなど、いずれも種々の問題点をかかえている。
【0005】
セシウム分離材としては、従来、多孔性樹脂細孔内にヘキサシアノ鉄(II)酸銅を担持させたものや(例えば特許文献1参照)、或いは多孔性無機物担体の細孔内にリンモリブデン酸アンモニウムを担持させたもの(特許文献2)が知られているが、このようなセシウム分離材は、カラムに充填し、セシウムを含む水溶液を通液して、該セシウムを吸着除去する方式では有効であるが、該セシウム分離材を、不織布や編織布などの布帛に担持して使用することは困難である。
【0006】
一方、近年プルシアンブルー(紺青)が、セシウム捕捉能を有することが見出され、プルシアンブルーで染めた綿布や不織布がセシウムを効果的に捕捉し得ることが確認されている。そして、このプルシアンブルーは様々な用途に利用されるため、そのナノ粒子化の研究が進められ、特許文献3には、プルシアンブルー型金属錯体ナノ粒子の製造方法、及びそれにより得られるプルシアンブルー型金属錯体ナノ粒子と、その分散液が開示されている。
しかしながら、このようなプルシアンブルー型金属錯体ナノ粒子の分散液を用いて染めた綿布や不織布を作製する場合、新たに染色工程が必要となり、また、プラスチックフィルムに適用する場合、はじきが生じ、染色できないという問題が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−173832号公報
【特許文献2】特開2000−84418号公報
【特許文献3】WO2008/081923号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような状況下になされたものであり、放射性セシウムや放射性ストロンチウムなどの放射性核種による汚染からの農作物の保護や、放射性核種による種々の汚染物の除染などに有用な放射性核種捕捉ネットを、染色工程などを必要とせず、簡単な操作で提供すると共に、フィルムや布帛の表面に放射性核種捕捉層を形成し得る水性コーティング剤組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、先にポリビニルアルコール製の割繊維ウェブ(A)と(B)とが、ポリビニルアルコール系接着剤層を介して、縦、横に直交積層されてなる2層積層構造の割繊維不織布を開発した(特開2010−138524号公報)。
【0010】
本発明者らは、前記の目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、上記の割繊維不織布に着目し、下記の知見を得た。
該割繊維不織布におけるポリビニルアルコール系接着剤層を構成する接着剤を、接着樹脂成分としてポリビニルアルコールをある値以上含むと共に、放射性核種捕捉材としてリンモリブデン酸アンモニウムを含むものとすることにより、簡単な操作で、所望の放射性核種捕捉ネットが得られること、そして前記のポリビニルアルコール系接着剤に、放射性核種捕捉材としてリンモリブデン酸アンモニウムを含有させることにより、フィルムや布帛の表面に、放射性核種捕捉層を形成し得る水性コーティング剤組成物が得られることを見出した。
本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
【0011】
すなわち、本発明は、
[1]ポリビニルアルコール製の割繊維ウェブ(A)と(B)とが、ポリビニルアルコール系接着剤層を介して縦、横に直交積層されてなる、2層積層構造の割繊維不織布であって、前記接着剤層を構成する接着剤が、接着樹脂成分としてポリビニルアルコール50質量%以上を含むと共に、放射性核種捕捉材としてリンモリブデン酸アンモニウムを含むポリビニルアルコール系接着剤であり、該ポリビニルアルコール系接着剤中のリンモリブデン酸アンモニウムの含有量が、当該不織布に対して0.1〜25g/m2であることを特徴とする、放射性核種捕捉ネット、
[2]エチレン−ビニルアルコール共重合体製の割繊維ウェブ(C)と、ポリビニルアルコール製の割繊維ウェブ又はエチレン−ビニルアルコール共重合体製の割繊維ウェブ(D)とが、接着剤層を介して縦、横に直交積層されてなる、2層積層構造の割繊維不織布であって、前記接着剤層を構成する接着剤が、接着樹脂成分としてポリビニルアルコール50質量%以上を含むと共に、放射性核種捕捉材としてリンモリブデン酸アンモニウムを含むポリビニルアルコール系接着剤であり、該ポリビニルアルコール系接着剤中のリンモリブデン酸アンモニウムの含有量が、当該不織布に対して0.1〜25g/m2であることを特徴とする、放射性核種捕捉ネット、
]放射性核種が、放射性セシウム、放射性ストロンチウム、放射性コバルト、放射性マンガンの少なくとも1種である上記[1]又は[2]項に記載の放射性核種捕捉ネット、
]ポリビニルアルコール系接着剤が水性接着剤である上記[1]〜[]項のいずれかに記載の放射性核種捕捉ネット、
]ポリビニルアルコール系接着剤が、接着樹脂成分として、ポリ酢酸ビニル系又はポリウレタン系を50質量%以下の割合で含むものである、上記[1]〜[]項のいずれかに記載の放射性核種捕捉ネット
、提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、放射性セシウムや放射性ストロンチウムなどの放射性核種による汚染からの農作物の保護や、放射性核種による種々の汚染物の除染などに有用な放射性核種捕捉ネットを簡単な操作で提供すると共に、フィルムや布帛の表面に放射性核種捕捉層を形成し得る水性コーティング剤組成物を提供することができる。
また本発明によれば、放射性核種をその濃度にもかかわらず効率よく捕捉することが可能である。
更に本発明の放射性核種捕捉ネットによれば、廃棄物の処理の際、軽量であって、体積を小さくすることにより、減容量化も可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】表4における[E]=log[C]を横軸に、[F]=log[D]を縦軸にした場合のグラフであって、log[C]とlog[D]とが比例関係にあることを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の放射性核種捕捉ネットは、ポリビニルアルコール系の割繊維不織布からなるものであって、本発明においては、該割繊維不織布として、割繊維不織布I及びIIの2つの態様がある。
【0015】
[割繊維不織布I]
本発明の放射性核種捕捉ネットを構成する割繊維不織布Iは、ポリビニルアルコール製の割繊維ウェブ(A)と(B)とが、ポリビニルアルコール系接着剤層を介して縦、横に直交積層されてなる、2層積層構造の割繊維不織布であって、前記接着剤層を構成する接着剤が、接着樹脂成分としてポリビニルコール50質量%以上を含むと共に、放射性核種捕捉材を含むポリビニルアルコール系接着剤であることを特徴とする。
【0016】
(割繊維ウェブ(A)及び(B))
当該割繊維不織布Iにおいて、(A)及び(B)層として用いられる割繊維ウェブは、ポリビニルアルコール(以下、「PVA」と略記することがある。)から作製されたウェブである。
前記PVAは、ポリ酢酸ビニルを、実質上完全ケン化することにより得られるものであって、製膜性を向上させるために、通常可塑剤としてグリセリンが、少量含まれている。
前記PVA製割繊維ウェブ(A)及び(B)は、例えば下記のようにして作製することができる。
まず、可塑剤としてグリセリンを含むPVAフィルムを従来公知の方法により製膜したのち、長尺方向に約4倍以上になるように一軸延伸しながら、次いでこの延伸フィルムをスプリット(割繊)加工によりネット状にすると共に高温熱処理によって寸法固定を行う。
前記一軸延伸処理方法に特に制限はないが、可塑剤としてグリセリンを含むPVAのガラス転移温度以上、融解温度未満の適当な温度で、ロール間速度差によって一軸延伸を行うのがよい。これにより分子配向が延伸方向に整列し、次のスプリット加工が容易になる。また、スプリット加工には、既知の各種スプリッターを適宜使用することができる。
なお、PVAフィルム製膜時に、可塑剤のグリセリンと共に、耐候性をより優れたものにするために、所望により紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系光安定剤及び酸化防止剤などを適宜加えることができる。
【0017】
(割繊維不織布Iの作製)
当該割繊維不織布Iは、前記のようにして得られたPVA製割繊維(A)と(B)とを、接着剤層を介して縦、横に直交積層することにより、作製することができる。なお、上記縦とは長尺方向を指し、横とは幅方向を指す。
本発明においては、割繊維ウェブ(A)及び(B)の厚さは、それぞれ独立に10〜70μmの範囲であることが好ましい。
このようにして作製された本発明における2層積層構造を有する割繊維不織布Iの原反は、通常長さが80〜120m程度で、幅は1〜3m程度である。さらに実際の現場に展張する時は広幅が必要とされる場合もあり、その時は幅つぎ加工により、30mの幅も可能である。
【0018】
<接着剤層>
当該割繊維不織布Iは、前述した割繊維ウェブ(A)と、割繊維ウェブ(B)とが、接着剤層を介して縦、横に直交積層されてなる2層積層構造を有しており、上記接着剤層を構成する接着剤としては、接着樹脂成分としてPVA50質量%以上を含むと共に、放射性核種捕捉材を含むPVA系接着剤を用いることが必要である。
このように、接着樹脂成分として、PVA50質量%以上を含むPVA系接着剤を用いることにより、得られる割繊維不織布は、吸湿性が向上したものになる。このPVA系接着剤としては、通常水性接着剤が用いられる。
なお、さらに強い接着強度を必要とする場合には、接着樹脂成分として、ポリ酢酸ビニル系(変性PVA系)又はポリウレタン系を50質量%以下、好ましくは30質量%以下の割合で含むPVA系接着剤を用いることができる。PVA系接着剤にポリ酢酸ビニル系(変性PVA系)接着剤又はポリウレタン系接着剤を配合して、ポリ酢酸ビニル(変性PVA)、ポリウレタンを含むPVA系接着剤を調製する場合、該ポリ酢酸ビニル系(変性PVA系)接着剤及び該ポリウレタン系接着剤としては、通常水性接着剤が好ましい。
当該接着剤層の接着剤純分塗布量は、通常0.5〜10g/m2程度、好ましくは1.0〜8g/m2である。
【0019】
≪放射性核種捕捉材≫
本発明においては、上記PVA系接着剤に放射性核種捕捉材としてリンモリブデン酸アンモニウムを含有させる。
リンモリブデン酸アンモニウムは、放射性核種捕捉ネットにした時に、不織布に対して0.1〜25g/m2の量で含有されていることが好ましく、これを満足する限り、PVA系接着剤中のリンモリブデン酸アンモニウムの含有量は特に制限はないが、一般的には0.2〜50質量%の量でPVA系接着剤に含有されていることが好適である。
リンモリブデン酸アンモニウムは、(NHPMo1240 の化学構造を有する化合物であって、特にセシウム捕捉性能に優れている。
本発明においては、放射性核種捕捉材としてリンモリブデン酸アンモニウムを用いることが重要な特徴であるが、リンモリブデン酸アンモニウムと共に、他の放射性核種捕捉材、例えばプルシアンブルー(紺青)粒子、ヘキサシアノ鉄(II)酸銅担持多孔性担体粒子、雲母粒子、ゼオライト粒子、ボロシリケートゼオライト粒子、カオリン粒子、ベントナイト粒子、微細藻類、及びイオン交換樹脂の中から選ばれる少なくとも1種の放射性核種捕捉材を併用して用いることを除外するものではない。
これらの放射性核種捕捉材の粒径は、PVA系接着剤中への分散性及び表面積の観点から小さいほど好ましい。
放射性核種としては、例えばセシウム137、セシウム134などの放射性セシウム、マンガン54、コバルト60、放射性ストロンチウム、ヨウ素131などが挙げられる。
【0020】
本発明の放射性核種捕捉ネットにおいて、PVA系接着剤にリンモリブデン酸アンモニウムを含有させることにより、下記の作用効果を奏する。
セシウムはアルカリ金属であって水に可溶であり、PVAも親水性で吸湿性を有している。その一方、リンモリブデン酸アンモニウムは水に溶解しにいことから、リンモリブデン酸アンモニウムは、PVA系接着剤中に水を媒体として分散し、その結果、PVA系接着剤中のリンモリブデン酸アンモニウムは、セシウムを短時間で効率よく捕捉することができる。
さらに、割繊維不織布は、フィルム状ネット基材であり、放射性核種に接触する面積が大きく、放射性核種の捕捉に有利である。また、PVA系接着剤はネット基材の表面を覆っているため、その中に存在するリンモリブデン酸アンモニウムに、降雨などがあれば水が浸透しやすく、セシウムがリンモリブデン酸アンモニウムに接触するのに有利である。
【0021】
次に、割繊維不織布IIについて説明する。
[割繊維不織布II]
本発明の放射性核種捕捉ネットを構成する割繊維不織布IIは、エチレン−ビニルアルコール共重合体製の割繊維ウェブ(C)と、ポリビニルアルコール製の割繊維ウェブ又はエチレン−ビニルアルコール共重合体製の割繊維ウェブ(D)とが、接着剤層を介して縦、横に直交積層されてなる2層積層構造の割繊維不織布であって、前記接着剤層を構成する接着剤が、接着樹脂成分としてポリビニルアルコール50質量%以上を含むと共に、放射性核種捕捉材を含むPVA系接着剤であることを特徴とする。
【0022】
(割繊維ウェブ(C))
当該割繊維不織布IIにおいて、(C)層として用いられる割繊維ウェブは、エチレン−ビニルアルコール共重合体から作製されたものである。
前記エチレン−ビニルアルコール共重合体(以下、「EVOH」と略記することがある。)は、エチレン−酢酸ビニル共重合体を、実質上完全ケン化することにより得られるものであって、エチレン単位含有量は、10〜50モル%の範囲にあることが好ましい。このエチレン単位含有量が10モル%未満では、吸湿性は良好であるものの、ハンドリング性が悪く、一方50モル%を超えると、ハンドリング性は良好になるものの、吸湿性が低下する。ハンドリング性及び吸湿性のバランスの観点から、該エチレン単位含有量は、16〜44モル%がより好ましく、21〜44モル%がさらに好ましく、21〜34モル%が特に好ましい。
前記EVOH製割繊維ウェブは、例えば下記のようにして作製することができる。
【0023】
まず、EVOHを従来公知の方法により製膜したのち、長尺方向に約4倍以上になるように一軸延伸しながら、次いでこの延伸フィルムをスプリット(割繊)加工によりネット状にすると共に高温熱処理によって寸法固定を行う。
前記一軸延伸処理方法に特に制限はないが、使用するEVOHのガラス転移温度以上、融解温度未満の適当な温度で、ロール間速度差によって一軸延伸を行うのがよい。これにより分子配向が延伸方向に整列し、次のスプリット加工が容易になる。また、スプリット加工には、カミソリスプリッター、ニードルスプリッター、波形粗面スプリッター、ヤスリ型スプリッターなどの既知のスプリッターを適宜使用することができる。
なお、EVOHフィルム製膜時に、耐候性をより優れたものにするために、所望により紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系光安定剤及び酸化防止剤などを適宜加えることができる。
【0024】
(割繊維ウェブ(D))
当該割繊維不織布IIにおいて、(D)層として用いられる割繊維ウェブは、PVAから作製されたウェブ、又はEVOHから作製されたウェブである。
(D)層として用いることのできるPVA製割繊維ウェブは、前記PVA製割繊維ウェブ(A)及び(B)と同様であり、PVA製割繊維ウェブ(A)及び(B)においてついて説明したとおりである。
また、(D)層として用いることのできるEVOH製割繊維ウェブについては、EVOH製割繊維ウェブ(C)において説明したとおりである。
【0025】
(割繊維不織布IIの作製)
当該割繊維不織布IIは、前記のようにして得られたEVOH製割繊維ウェブ(C)と、PVA製割繊維ウェブ又はEVOH製割繊維ウェブ(D)とを、接着剤層を介して縦、横に直交積層することにより、作製することができる。
本発明においては、縦方向の割繊維ウェブとしては、前記の割繊維ウェブ(C)であってもよいし、割繊維ウェブ(D)であってもよい。縦方向の割繊維ウェブが、ウェブ(C)である場合、それに直交させる割繊維ウェブとしては、ウェブ(D)が用いられ、逆に、縦方向の割繊維ウェブが、ウェブ(D)である場合、それに直交させる割繊維ウェブとしては、ウェブ(C)が用いられる。
本発明においては、割繊維ウェブ(C)及び割繊維ウェブ(D)の厚さは、それぞれ独立に10〜70μmの範囲であることが好ましい。
なお、接着剤層及び放射性核種捕捉材については、前述した割繊維不織布Iにおいて説明したとおりである。
【0026】
このようにして得られた本発明の放射性核種捕捉ネットは、放射性セシウムや放射性ストロンチウムなどの放射性核種による汚染からの農作物の保護や、放射性核種による種々の汚染物の除染などに有用であり、例えば放射性核種からの農作物の保護として、ベタがけやカーテン用などとして用いられ、また水田、耕地、田畑の除染や、道路、側溝、校庭、グランド、芝生、家屋屋根、壁などの除染、さらにはフィルターとして汚染水の除染等に用いることができる。
本発明の放射性核種捕捉ネットは、廃棄物の処理の際、軽量であって、体積を小さくすることにより、減容量化が可能である。
【0027】
次に、本発明の水性コーティング剤組成物について説明する。
[水性コーティング剤組成物]
本発明の水性コーティング剤組成物は、PVA系接着剤と、放射性核種捕捉材としてリンモリブデン酸アンモニウムとを含むことを特徴とし、当該水性コーティング剤組成物は、フィルムや布帛の表面に、放射性核種捕捉層の形成用として用いられる。
尚、本発明の水性コーティング材組成物においても、前記放射性核種捕捉ネットと同様に、リンモリブデン酸アンモニウムと共に、他の放射性核種捕捉材、例えばプルシアンブルー(紺青)粒子、ヘキサシアノ鉄(II)酸銅担持多孔性担体粒子、雲母粒子、ゼオライト粒子、ボロシリケートゼオライト粒子、カオリン粒子、ベントナイト粒子、微細藻類、及びイオン交換樹脂の中から選ばれる少なくとも1種の放射性核種捕捉材を併用して用いることを除外するものではない。
【0028】
また、放射性核種としては、例えばセシウム137、セシウム134などの放射性セシウム、マンガン54、コバルト60、放射性ストロンチウム、ヨウ素131などが挙げられる。
当該水性コーティング剤組成物においては、放射性セシウムを好適に捕捉することができる。
当該水性コーティング剤組成物においては、PVA系接着剤が、接着樹脂成分としてポリ酢酸ビニル系又はポリウレタン系を50質量%以下の割合で含むものであることが好ましい。このようなPVA系接着剤については、前述した割繊維不織布Iの説明において示したとおりである。
また当該水性コーティング剤組成物においては、リンモリブデン酸アンモニウムを0.2〜50質量%の割合で含有することが好ましい。
当該水性コーティング剤組成物を用いて、フィルムや布帛などの被コーティング部材の表面に放射性核種捕捉層を形成する場合、上記被コーティング部材として、親水性のフィルムや布帛を用いることが、放射性核種捕捉層形成性の観点から好ましい。
【実施例】
【0029】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
なお、リンモリブデン酸アンモニウム入り割繊維不織布中の捕捉セシウムの定量分析は、下記の方法に従って行った。
【0030】
<リンモリブデン酸アンモニウム入り割繊維不織布中の捕捉セシウムの定量分析>
試験用不織布として、10cm×10cmの不織布を用い、濃度:0.1mg/L,1.0mg/L、10.0mg/L、1000mg/Lの各塩化セシウム水溶液50cm3中に所定時間浸漬後、取り出し、常温で乾燥して分析の試料とした。
上記試料を、王水と水との質量比1:1の溶液で完全に溶解し、A5ろ紙でろ過したのち、そのろ液について、分析機器としてフレーム光度計[バリアン社製、機種名「Spectr AA55B型」]を使用し、測定波長:852.1nmにて捕捉セシウムの量を測定した。
【0031】
実施例1
(1)フィルム原料
フィルム原料として、重合度:1700、ケン化度:99.0モル%以上のPVAフィルム[クラレ(株)製、商品名「VF−TR5000」及び「VF−TR6000」]を用い、それぞれ
割繊維不織布 縦ウェブ用 厚さ50μm×巾138cm(VF−TR5000)
割繊維不織布 横ウェブ用 厚さ60μm×巾150cm(VF−TR6000)
を用意した。
(2)延伸工程
上記(1)におけるフィルム原料を用い、延伸倍率:5.8倍、延伸温度:180℃、熱処理温度:220℃、巻取速度:60m/分の条件で、各縦、横用の一軸延伸ウェブを作製した。
(3)積層工程
上記(2)で得られた延伸ウェブを、積層機で縦、横方向から供給しながら、リンモリブデン酸アンモニウム配合のPVA系接着剤で接着し、加工速度:20m/分、接着剤の乾燥温度:140℃の条件にて、純分3.0g/m2のリンモリブデン酸アンモニウム量を有する割繊維不織布を作製した。
なお、リンモリブデン酸アンモニウム配合のPVA系接着剤は、PVA濃度8.0質量%、リンモリブデン酸アンモニウム濃度(純分)6.0質量%、その他水86.0質量%になるように、PVA8.5質量%水溶液に、リンモリブデン酸アンモニウム水分散体を配合、撹拌することにより調製した。
(4)セシウム捕捉量測定用のセシウム水溶液の準備
セシウム捕捉量の測定には、和光純薬社製の特級試薬「塩化セシウム」を純水に薄めて、塩化セシウム0.1mg/L水溶液を調製し、この水溶液を割繊維不織布浸漬用とした。
(5)試験方法
3.0g/m2のリンモリブデン酸アンモニウム入り割繊維不織布0.01m2(10cm×10cm)を準備し、0.1mg/Lの50cm3塩化セシウム水溶液に1時間浸漬したのち、該割繊維不織布をそれぞれ回収し、割繊維不織布に捕捉されたセシウム量を測定した。更に50cm塩化セシウム水溶液の残存セシウム濃度を測定し、セシウムの除去率を調べた。
【0032】
実施例2
(1)フィルム原料及び(2)延伸工程は実施例1と同様である。
(3)積層工程は、純分3.0g/m2のリンモリブデン酸アンモニウム量を有する割繊維不織布を、実施例1と同様にして作製した。
なお、リンモリブデン酸アンモニウム配合のPVA系接着剤は、実施例1と同様に、PVA濃度8.0質量%、リンモリブデン酸アンモニウム濃度(純分)6.0質量%、その他水86.0質量%になるようにPVA8.5質量%水溶液に、リンモリブデン酸アンモニウム水分散体を配合、撹拌することにより調製した。
(4)セシウム捕捉量測定用のセシウム水溶液の準備
セシウム捕捉量の測定には、和光純薬社製の特級試薬「塩化セシウム」を純水に薄めて、塩化セシウム1.0mg/L水溶液を調製し、この水溶液を割繊維不織布浸漬用とした。
(5)試験方法
3.0g/m2のリンモリブデン酸アンモニウム入り割繊維不織布0.01m2(10cm×10cm)を準備し、1.0mg/Lの50cm3塩化セシウム水溶液に1時間浸漬したのち、該割繊維不織布をそれぞれ回収し、割繊維不織布に捕捉されたセシウム量を測定した。更に50cm塩化セシウム水溶液の残存セシウム濃度を測定し、セシウムの除去率を調べた。
【0033】
実施例3
(1)フィルム原料及び(2)延伸工程は実施例1と同様であり、(3)積層工程は、上記(2)で得られたウェブを実施例1と同様の加工条件で純分6.0g/m2のリンモリブデン酸アンモニウム量を有する割繊維不織布を、実施例1と同様にして作製した。当該積層工程における各条件を表1に示す。
なお、リンモリブデン酸アンモニウム配合のPVA系接着剤は、PVA濃度8.0質量%、リンモリブデン酸アンモニウム濃度(純分)12.0質量%、その他水80.0質量%になるようにPVA8.5質量%水溶液に、リンモリブデン酸アンモニウム水分散体を配合、撹拌することにより調製した。
(4)セシウム捕捉量測定用のセシウム水溶液の準備
セシウム捕捉量の測定には、和光純薬社製の特級試薬「塩化セシウム」を純水に薄めて、塩化セシウム0.1mg/L水溶液を調製し、この水溶液を割繊維不織布浸漬用とした。
(5)試験方法
6.0g/m2のリンモリブデン酸アンモニウム入り割繊維不織布0.01m2(10cm×10cm)を準備し、0.1mg/Lの50cm3塩化セシウム水溶液に1時間浸漬したのち、該割繊維不織布をそれぞれ回収し、割繊維不織布に捕捉されたセシウム量を測定した。更に50cm塩化セシウム水溶液の残存セシウム濃度を測定し、セシウムの除去率を調べた。
【0034】
実施例4
(1)フィルム原料及び(2)延伸工程は実施例1と同様である。
(3)積層工程は、純分6.0g/m2のリンモリブデン酸アンモニウム量を有する割繊維不織布を、実施例3と同様にして作製した。
(4)セシウム捕捉量測定用のセシウム水溶液の準備
セシウム捕捉量の測定には、和光純薬社製の特級試薬「塩化セシウム」を純水に薄めて、塩化セシウム1.0mg/L水溶液を調製し、この水溶液を割繊維不織布浸漬用とした。
(5)試験方法
6.0g/m2のリンモリブデン酸アンモニウム入り割繊維不織布0.01m2(10cm×10cm)を準備し、1.0mg/Lの50cm3塩化セシウム水溶液に1時間浸漬したのち、該割繊維不織布をそれぞれ回収し、割繊維不織布に捕捉されたセシウム量を測定した。更に50cm塩化セシウム水溶液の残存セシウム濃度を測定し、セシウムの除去率を調べた。
【0035】
実施例5
(1)フィルム原料、(2)延伸工程、及び(3)積層工程は実施例1と同様にして割繊維不織布を作製した。
(4)セシウム捕捉量測定用のセシウム水溶液は、10.0mg/Lの溶解濃度の塩化セシウム水溶液を調製して使用した。
(5)試験方法は、3.0g/m2のリンモリブデン酸アンモニウム入り割繊維不織布0.01m2(10cm×10cm)を準備し、10.0mg/Lの50cm3塩化セシウム水溶液に1時間浸漬したのち、該割繊維不織布をそれぞれ回収し、割繊維不織布に捕捉されたセシウム量を測定した。更に50cm塩化セシウム水溶液の残存セシウム濃度を測定し、セシウムの除去率を調べた。
【0036】
実施例6
(1)フィルム原料及び(2)延伸工程は実施例1と同様である。
(3)積層工程は、純分3.0g/m2のリンモリブデン酸アンモニウム量を有する割繊維不織布を、実施例1と同様にして作製した。
(4)セシウム捕捉量測定用のセシウム水溶液の準備
セシウム捕捉量の測定には、和光純薬社製の特級試薬「塩化セシウム」を純水に薄めて、塩化セシウム1000mg/L水溶液を調製し、この水溶液を割繊維不織布浸漬用とした。
(5)試験方法
3.0g/m2のリンモリブデン酸アンモニウム入り割繊維不織布0.01m2(10cm×10cm)を準備し、1000mg/Lの50cm3塩化セシウム水溶液に1時間浸漬したのち、該割繊維不織布をそれぞれ回収し、割繊維不織布に捕捉されたセシウム量を測定した。更に50cm塩化セシウム水溶液の残存セシウム濃度を測定し、セシウムの除去率を調べた。
【0037】
実施例7
(1)フィルム原料及び(2)延伸工程は実施例1と同様である。
(3)積層工程は、純分6.0g/m2のリンモリブデン酸アンモニウム量を有する割繊維不織布を、実施例3と同様にして作製した。
(4)セシウム捕捉量測定用のセシウム水溶液の準備
セシウム捕捉量の測定には、和光純薬社製の特級試薬「塩化セシウム」を純水に薄めて、塩化セシウム10.0mg/L水溶液を調製し、この水溶液を割繊維不織布浸漬用とした。
(5)試験方法
6.0g/m2のリンモリブデン酸アンモニウム入り割繊維不織布0.01m2(10cm×10cm)を準備し、10.0mg/Lの50cm3塩化セシウム水溶液に1時間浸漬したのち、該割繊維不織布をそれぞれ回収し、割繊維不織布に捕捉されたセシウム量を測定した。更に50cm塩化セシウム水溶液の残存セシウム濃度を測定し、セシウムの除去率を調べた。
【0038】
実施例8
(1)フィルム原料、(2)延伸工程、及び(3)積層工程とも、実施例7と同様にして、純分6.0g/m2のリンモリブデン酸アンモニウム量を有する割繊維不織布を作製した。
(4)セシウム捕捉量測定用のセシウム水溶液の準備
セシウム捕捉量の測定には、和光純薬社製の特級試薬「塩化セシウム」を純水に薄めて、塩化セシウム1000mg/L水溶液を調製し、この水溶液を割繊維不織布浸漬用とした。
(5)試験方法
6.0g/m2のリンモリブデン酸アンモニウム入り割繊維不織布0.01m2(10cm×10cm)を準備し、1000mg/Lの50cm3塩化セシウム水溶液に1時間浸漬したのち、該割繊維不織布をそれぞれ回収し、割繊維不織布に捕捉されたセシウム量を測定した。更に50cm塩化セシウム水溶液の残存セシウム濃度を測定し、セシウムの除去率を調べた。
【0039】
リンモリブデン酸アンモニウムを用いなかった例を参考例として、実施例1〜8及び参考例の積層工程における各条件を表1に示す。
実施例1〜8及び参考例で得られた割繊維不織布の物性を表2に示す
【0040】
【表1】
【0041】
【表2】
【0042】
[注]なお、各例における諸特性は、以下に示す方法に従って求めた。
(1)不織布の厚さ
20cm×20cmのサンプルについて、マイクロメータで4角を測定し、平均値を厚さとした。
(2)不織布の目付け
20cm×20cmのサンプルについて、1m2の質量を測定し、目付け(g/m2)を算出した。
【0043】
<不織布の性能>
(3)引張強度及び引張伸度
幅2.5cm、長さ20cmのサンプルについて、オートグラフ[島津製作所社製、機種名「AGSJ−1KN」]を用い、速度10cm/分の条件で引張強度及び引張伸度を測定した。
(4)接着強度
幅2cm、長さ20cmのサンプルについて、オートグラフ(前出)を用いて、斜め45度の強度(接着強度)を測定した。
(5)耐収縮性
下記の試験方法に従い、縦方向及び横方向について収縮率を測定し、耐収縮性を評価した。
縦方向かつ横方向ともSd−5収縮率を求めた。Sd−5収縮率は3.0%以下になるのが望ましい。
【0044】
≪試験方法≫
幅4cm、長さ50.0cmの試験片を4個用意した。
(a)乾燥機(恒温機)の温度を60℃にセットし、昇温。
(b)適当な大きさの容器に水(常温)を入れ、長さ測定済の試験片を入れ、1.0時間浸漬。
(c)濡れたままの試験片の長さを測定。この時、含水によりふやけるため、強く伸ばさないようにしながら適当に張り、
(d)長さ測定。記録(W−1)。
(e)長さ測定後の試験片を、60℃にセットした乾燥機(恒温機)にお互いが重ならないように入れ、5時間乾燥。
(f)乾燥後の試験片の長さを測定(D−1)。
(g)上記(b)〜(f)を繰り返す。
1日の測定を1回(W・D各1)とする場合は、乾燥・測定後の試験片は、ポリ袋等に入れ、次回浸漬前まで保管する。
ブランクの長さをL0、5回目の水付・乾燥後の各値をLw−5・Ld−5とすると、5回目の各収縮率Sw−5・Sd−5は、
Sw−5(%)=[(L0−Lw−5)/L0]×100
Sd−5(%)=[(L0−Ld−5)/L0]×100
となる。
【0045】
(6)吸水率
10cm×10cmのサンプルを、25℃、65%RHの条件で5時間放置したのち、質量を測定する(Ag)。その後、105℃の乾燥機で3時間乾燥後、乾燥剤入りデシケータで5分間放冷して質量を測定する(Bg)。
乾燥前後のサンプルの質量から、次式により吸水率を算出する。
吸水率(%)=[(A−B)/B]×100
【0046】
表2の物性の結果から、実施例及び参考例で得られた割繊維不織布の機械的物性は、大差のないものであった。
【0047】
前記の実施例1〜8及び参考例における試験結果を、他の条件と共に表3に示す。
【0048】
【表3】
【0049】
また、この表3の試験データの検証を表4及び表5にて行った。
【0050】
【表4】
【0051】
【表5】
【0052】
考察
(1)上記のデータから、概観的に次のことが言える。
割繊維不織布のリンモリブデン酸アンモニウムに捕捉されるCsはリンモリブデン酸アンモニウムの量が多ければ多いほど、CsCl水中のCs濃度が高ければ高いほど多く捕捉される。
(2)図1は、表4における[E]=log[C]を横軸に、[F]=log[D]を縦軸にしたグラフであって、この図1から、[不織布中のCs捕捉量]と、[不織布のリンモリブデン酸アンモニウム含有量×CsCl水中のCs濃度]は、それぞれの対数を取った場合、比例関係にあることが分かる。
(3)したがって、放射能汚染濃度と対象物に応じ、リンモリブデン酸アンモニウム濃度別の割繊維不織布と、それに適した使い方(ソフト)が必要である。
(4)表5から明らかなように、低濃度の塩化セシウム水溶液を用いた場合にも、セシウムを高い除去率で除去できることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の放射性核種捕捉ネットは、放射性セシウム、放射性ストロンチウム、放射性コバルト、放射性マンガンなどの放射性核種による汚染からの農作物の保護や、放射性核種による種々の汚染物の除染などに好適に用いられる。特に放射性核種汚染水の処理において、フィルター素材としての利用が期待される。また、本発明の水性コーティング剤組成物は、フィルムや布帛の表面に、放射性核種捕捉層を形成することができ、種々の放射性核種捕捉部材を提供することができる。
図1