【実施例】
【0029】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
なお、リンモリブデン酸アンモニウム入り割繊維不織布中の捕捉セシウムの定量分析は、下記の方法に従って行った。
【0030】
<リンモリブデン酸アンモニウム入り割繊維不織布中の捕捉セシウムの定量分析>
試験用不織布として、10cm×10cmの不織布を用い、濃度:0.1mg/L,1.0mg/L、10.0mg/L、1000mg/Lの各塩化セシウム水溶液50cm
3中に所定時間浸漬後、取り出し、常温で乾燥して分析の試料とした。
上記試料を、王水と水との質量比1:1の溶液で完全に溶解し、A5ろ紙でろ過したのち、そのろ液について、分析機器としてフレーム光度計[バリアン社製、機種名「Spectr AA55B型」]を使用し、測定波長:852.1nmにて捕捉セシウムの量を測定した。
【0031】
実施例1
(1)フィルム原料
フィルム原料として、重合度:1700、ケン化度:99.0モル%以上のPVAフィルム[クラレ(株)製、商品名「VF−TR5000」及び「VF−TR6000」]を用い、それぞれ
割繊維不織布 縦ウェブ用 厚さ50μm×巾138cm(VF−TR5000)
割繊維不織布 横ウェブ用 厚さ60μm×巾150cm(VF−TR6000)
を用意した。
(2)延伸工程
上記(1)におけるフィルム原料を用い、延伸倍率:5.8倍、延伸温度:180℃、熱処理温度:220℃、巻取速度:60m/分の条件で、各縦、横用の一軸延伸ウェブを作製した。
(3)積層工程
上記(2)で得られた延伸ウェブを、積層機で縦、横方向から供給しながら、リンモリブデン酸アンモニウム配合のPVA系接着剤で接着し、加工速度:20m/分、接着剤の乾燥温度:140℃の条件にて、純分3.0g/m
2のリンモリブデン酸アンモニウム量を有する割繊維不織布を作製した。
なお、リンモリブデン酸アンモニウム配合のPVA系接着剤は、PVA濃度8.0質量%、リンモリブデン酸アンモニウム濃度(純分)6.0質量%、その他水86.0質量%になるように、PVA8.5質量%水溶液に、リンモリブデン酸アンモニウム水分散体を配合、撹拌することにより調製した。
(4)セシウム捕捉量測定用のセシウム水溶液の準備
セシウム捕捉量の測定には、和光純薬社製の特級試薬「塩化セシウム」を純水に薄めて、塩化セシウム0.1mg/L水溶液を調製し、この水溶液を割繊維不織布浸漬用とした。
(5)試験方法
3.0g/m
2のリンモリブデン酸アンモニウム入り割繊維不織布0.01m
2(10cm×10cm)を準備し、0.1mg/Lの50cm
3塩化セシウム水溶液に1時間浸漬したのち、該割繊維不織布をそれぞれ回収し、割繊維不織布に捕捉されたセシウム量を測定した。更に50cm
3塩化セシウム水溶液の残存セシウム濃度を測定し、セシウムの除去率を調べた。
【0032】
実施例2
(1)フィルム原料及び(2)延伸工程は実施例1と同様である。
(3)積層工程は、純分3.0g/m
2のリンモリブデン酸アンモニウム量を有する割繊維不織布を、実施例1と同様にして作製した。
なお、リンモリブデン酸アンモニウム配合のPVA系接着剤は、実施例1と同様に、PVA濃度8.0質量%、リンモリブデン酸アンモニウム濃度(純分)6.0質量%、その他水86.0質量%になるようにPVA8.5質量%水溶液に、リンモリブデン酸アンモニウム水分散体を配合、撹拌することにより調製した。
(4)セシウム捕捉量測定用のセシウム水溶液の準備
セシウム捕捉量の測定には、和光純薬社製の特級試薬「塩化セシウム」を純水に薄めて、塩化セシウム1.0mg/L水溶液を調製し、この水溶液を割繊維不織布浸漬用とした。
(5)試験方法
3.0g/m
2のリンモリブデン酸アンモニウム入り割繊維不織布0.01m
2(10cm×10cm)を準備し、1.0mg/Lの50cm
3塩化セシウム水溶液に1時間浸漬したのち、該割繊維不織布をそれぞれ回収し、割繊維不織布に捕捉されたセシウム量を測定した。更に50cm
3塩化セシウム水溶液の残存セシウム濃度を測定し、セシウムの除去率を調べた。
【0033】
実施例3
(1)フィルム原料及び(2)延伸工程は実施例1と同様であり、(3)積層工程は、上記(2)で得られたウェブを実施例1と同様の加工条件で純分6.0g/m
2のリンモリブデン酸アンモニウム量を有する割繊維不織布を、実施例1と同様にして作製した。当該積層工程における各条件を表1に示す。
なお、リンモリブデン酸アンモニウム配合のPVA系接着剤は、PVA濃度8.0質量%、リンモリブデン酸アンモニウム濃度(純分)12.0質量%、その他水80.0質量%になるようにPVA8.5質量%水溶液に、リンモリブデン酸アンモニウム水分散体を配合、撹拌することにより調製した。
(4)セシウム捕捉量測定用のセシウム水溶液の準備
セシウム捕捉量の測定には、和光純薬社製の特級試薬「塩化セシウム」を純水に薄めて、塩化セシウム0.1mg/L水溶液を調製し、この水溶液を割繊維不織布浸漬用とした。
(5)試験方法
6.0g/m
2のリンモリブデン酸アンモニウム入り割繊維不織布0.01m
2(10cm×10cm)を準備し、0.1mg/Lの50cm
3塩化セシウム水溶液に1時間浸漬したのち、該割繊維不織布をそれぞれ回収し、割繊維不織布に捕捉されたセシウム量を測定した。更に50cm
3塩化セシウム水溶液の残存セシウム濃度を測定し、セシウムの除去率を調べた。
【0034】
実施例4
(1)フィルム原料及び(2)延伸工程は実施例1と同様である。
(3)積層工程は、純分6.0g/m
2のリンモリブデン酸アンモニウム量を有する割繊維不織布を、実施例3と同様にして作製した。
(4)セシウム捕捉量測定用のセシウム水溶液の準備
セシウム捕捉量の測定には、和光純薬社製の特級試薬「塩化セシウム」を純水に薄めて、塩化セシウム1.0mg/L水溶液を調製し、この水溶液を割繊維不織布浸漬用とした。
(5)試験方法
6.0g/m
2のリンモリブデン酸アンモニウム入り割繊維不織布0.01m
2(10cm×10cm)を準備し、1.0mg/Lの50cm
3塩化セシウム水溶液に1時間浸漬したのち、該割繊維不織布をそれぞれ回収し、割繊維不織布に捕捉されたセシウム量を測定した。更に50cm
3塩化セシウム水溶液の残存セシウム濃度を測定し、セシウムの除去率を調べた。
【0035】
実施例5
(1)フィルム原料、(2)延伸工程、及び(3)積層工程は実施例1と同様にして割繊維不織布を作製した。
(4)セシウム捕捉量測定用のセシウム水溶液は、10.0mg/Lの溶解濃度の塩化セシウム水溶液を調製して使用した。
(5)試験方法は、3.0g/m
2のリンモリブデン酸アンモニウム入り割繊維不織布0.01m
2(10cm×10cm)を準備し、10.0mg/Lの50cm
3塩化セシウム水溶液に1時間浸漬したのち、該割繊維不織布をそれぞれ回収し、割繊維不織布に捕捉されたセシウム量を測定した。更に50cm
3塩化セシウム水溶液の残存セシウム濃度を測定し、セシウムの除去率を調べた。
【0036】
実施例6
(1)フィルム原料及び(2)延伸工程は実施例1と同様である。
(3)積層工程は、純分3.0g/m
2のリンモリブデン酸アンモニウム量を有する割繊維不織布を、実施例1と同様にして作製した。
(4)セシウム捕捉量測定用のセシウム水溶液の準備
セシウム捕捉量の測定には、和光純薬社製の特級試薬「塩化セシウム」を純水に薄めて、塩化セシウム1000mg/L水溶液を調製し、この水溶液を割繊維不織布浸漬用とした。
(5)試験方法
3.0g/m
2のリンモリブデン酸アンモニウム入り割繊維不織布0.01m
2(10cm×10cm)を準備し、1000mg/Lの50cm
3塩化セシウム水溶液に1時間浸漬したのち、該割繊維不織布をそれぞれ回収し、割繊維不織布に捕捉されたセシウム量を測定した。更に50cm
3塩化セシウム水溶液の残存セシウム濃度を測定し、セシウムの除去率を調べた。
【0037】
実施例7
(1)フィルム原料及び(2)延伸工程は実施例1と同様である。
(3)積層工程は、純分6.0g/m
2のリンモリブデン酸アンモニウム量を有する割繊維不織布を、実施例3と同様にして作製した。
(4)セシウム捕捉量測定用のセシウム水溶液の準備
セシウム捕捉量の測定には、和光純薬社製の特級試薬「塩化セシウム」を純水に薄めて、塩化セシウム10.0mg/L水溶液を調製し、この水溶液を割繊維不織布浸漬用とした。
(5)試験方法
6.0g/m
2のリンモリブデン酸アンモニウム入り割繊維不織布0.01m
2(10cm×10cm)を準備し、10.0mg/Lの50cm
3塩化セシウム水溶液に1時間浸漬したのち、該割繊維不織布をそれぞれ回収し、割繊維不織布に捕捉されたセシウム量を測定した。更に50cm
3塩化セシウム水溶液の残存セシウム濃度を測定し、セシウムの除去率を調べた。
【0038】
実施例8
(1)フィルム原料、(2)延伸工程、及び(3)積層工程とも、実施例7と同様にして、純分6.0g/m
2のリンモリブデン酸アンモニウム量を有する割繊維不織布を作製した。
(4)セシウム捕捉量測定用のセシウム水溶液の準備
セシウム捕捉量の測定には、和光純薬社製の特級試薬「塩化セシウム」を純水に薄めて、塩化セシウム1000mg/L水溶液を調製し、この水溶液を割繊維不織布浸漬用とした。
(5)試験方法
6.0g/m
2のリンモリブデン酸アンモニウム入り割繊維不織布0.01m
2(10cm×10cm)を準備し、1000mg/Lの50cm
3塩化セシウム水溶液に1時間浸漬したのち、該割繊維不織布をそれぞれ回収し、割繊維不織布に捕捉されたセシウム量を測定した。更に50cm
3塩化セシウム水溶液の残存セシウム濃度を測定し、セシウムの除去率を調べた。
【0039】
リンモリブデン酸アンモニウムを用いなかった例を参考例として、実施例1〜8及び参考例の積層工程における各条件を表1に示す。
実施例1〜8及び参考例で得られた割繊維不織布の物性を表2に示す
【0040】
【表1】
【0041】
【表2】
【0042】
[注]なお、各例における諸特性は、以下に示す方法に従って求めた。
(1)不織布の厚さ
20cm×20cmのサンプルについて、マイクロメータで4角を測定し、平均値を厚さとした。
(2)不織布の目付け
20cm×20cmのサンプルについて、1m
2の質量を測定し、目付け(g/m
2)を算出した。
【0043】
<不織布の性能>
(3)引張強度及び引張伸度
幅2.5cm、長さ20cmのサンプルについて、オートグラフ[島津製作所社製、機種名「AGSJ−1KN」]を用い、速度10cm/分の条件で引張強度及び引張伸度を測定した。
(4)接着強度
幅2cm、長さ20cmのサンプルについて、オートグラフ(前出)を用いて、斜め45度の強度(接着強度)を測定した。
(5)耐収縮性
下記の試験方法に従い、縦方向及び横方向について収縮率を測定し、耐収縮性を評価した。
縦方向かつ横方向ともSd−5収縮率を求めた。Sd−5収縮率は3.0%以下になるのが望ましい。
【0044】
≪試験方法≫
幅4cm、長さ50.0cmの試験片を4個用意した。
(a)乾燥機(恒温機)の温度を60℃にセットし、昇温。
(b)適当な大きさの容器に水(常温)を入れ、長さ測定済の試験片を入れ、1.0時間浸漬。
(c)濡れたままの試験片の長さを測定。この時、含水によりふやけるため、強く伸ばさないようにしながら適当に張り、
(d)長さ測定。記録(W−1)。
(e)長さ測定後の試験片を、60℃にセットした乾燥機(恒温機)にお互いが重ならないように入れ、5時間乾燥。
(f)乾燥後の試験片の長さを測定(D−1)。
(g)上記(b)〜(f)を繰り返す。
1日の測定を1回(W・D各1)とする場合は、乾燥・測定後の試験片は、ポリ袋等に入れ、次回浸漬前まで保管する。
ブランクの長さをL
0、5回目の水付・乾燥後の各値をLw−5・Ld−5とすると、5回目の各収縮率Sw−5・Sd−5は、
Sw−5(%)=[(L
0−Lw−5)/L
0]×100
Sd−5(%)=[(L
0−Ld−5)/L
0]×100
となる。
【0045】
(6)吸水率
10cm×10cmのサンプルを、25℃、65%RHの条件で5時間放置したのち、質量を測定する(Ag)。その後、105℃の乾燥機で3時間乾燥後、乾燥剤入りデシケータで5分間放冷して質量を測定する(Bg)。
乾燥前後のサンプルの質量から、次式により吸水率を算出する。
吸水率(%)=[(A−B)/B]×100
【0046】
表2の物性の結果から、実施例及び参考例で得られた割繊維不織布の機械的物性は、大差のないものであった。
【0047】
前記の実施例1〜8及び参考例における試験結果を、他の条件と共に表3に示す。
【0048】
【表3】
【0049】
また、この表3の試験データの検証を表4及び表5にて行った。
【0050】
【表4】
【0051】
【表5】
【0052】
考察
(1)上記のデータから、概観的に次のことが言える。
割繊維不織布のリンモリブデン酸アンモニウムに捕捉されるCsはリンモリブデン酸アンモニウムの量が多ければ多いほど、CsCl水中のCs濃度が高ければ高いほど多く捕捉される。
(2)
図1は、表4における[E]=log[C]を横軸に、[F]=log[D]を縦軸にしたグラフであって、この
図1から、[不織布中のCs捕捉量]と、[不織布のリンモリブデン酸アンモニウム含有量×CsCl水中のCs濃度]は、それぞれの対数を取った場合、比例関係にあることが分かる。
(3)したがって、放射能汚染濃度と対象物に応じ、リンモリブデン酸アンモニウム濃度別の割繊維不織布と、それに適した使い方(ソフト)が必要である。
(4)表5から明らかなように、低濃度の塩化セシウム水溶液を用いた場合にも、セシウムを高い除去率で除去できることが分かる。