【実施例】
【0032】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
実験1:ヘパラナーゼ阻害剤による美白効果の評価
メラノサイトを含む皮膚モデルを用いて、ヘパラナーゼ阻害剤である1-[4-(1H-ベンゾイミダゾール-2-イル)-フェニル]-3-[4-(1H-ベンゾイミダゾール-2-イル)-フェニル]-ユレアの美白効果について検討した。
メラノサイトを含む皮膚モデル(MEL-FT、MatTeK社製、USA)を専用培地(MEL-FT-NMM-113、MatTeK社製、USA)にて培養を開始した。培養2日目からはコントロール群はDMSO、ヘパラナーゼ阻害剤群は終濃度50μMとなるように1-[4-(1H-ベンゾイミダゾール-2-イル)-フェニル]-3-[4-(1H-ベンゾイミダゾール-2-イル)-フェニル]-ユレアを加え培養を行い、培地交換を2日または3日おきに行った。培養10日目、14日目に皮膚モデルを採取して外観写真を撮影したところ、ヘパラナーゼ阻害剤群では外観の色がコントロール群より薄く白いことが分かった。
【0033】
さらにその皮膚モデルの表皮のみを採取し、0.2N水酸化ナトリウム溶液300μLを加え攪拌後、24時間室温にて静置し、30分間95℃で加熱することで表皮を完全に可溶化させた。可溶化後の溶液の475nm吸光度を測定することで表皮中に含まれるメラニン量を検討すると、ヘパラナーゼ阻害剤群はコントロール群と比較して有意にOD475nmの値が低い、すなわちメラニン量が少ないことが明らかとなった。
図1は、MEL-FT皮膚モデルの外観写真を示す。培養10日、14日めでヘパラナーゼ阻害剤群で明らかに白いことが分かる。
図2は、各皮膚モデルの表皮中のメラニン量の比較結果を示す。培養10日、14日において、ヘパラナーゼ阻害剤群でメラニンの指標となるOD475nmの吸光度値が優位に低いことがわかる。よって、ヘパラナーゼ阻害剤に美白効果があることが立証された。
【0034】
実験2:凍結ヒト組織の免疫染色
老人性色素斑及び近傍の正常部位皮膚の凍結組織ブロックを新たに切片化し、8μmの切片を作成した。8μmに剥切した組織切片は、冷アセトンによって固定し乾燥後、PBSにて脱OCTを行った。3%過酸化水素水処理にて組織内在性パーオキシダーゼを不活化してから、10%正常ヤギ血清にてブロッキングし、表1の1次抗体、2次抗体の順番で反応させた。HRP標識させた組織は、PBSにて5回洗浄した後、AECにて発色させた。発色後の組織は、流水にて十分に洗浄してから、水溶性マウント剤を用いて封入した。
【表1】
【0035】
実験3:in situ bFGFアッセイ
25μgのbFGFを200μLの膨潤ヘパリン-セファロース(CL-6B; Pharmacia Biotech)に結合させ、DMSOに溶解したNH
2-反応性-ビオチン(Dojindo molecular tech.)を室温で5分反応させ、800μLの洗浄バッファー(20mmol/L HEPES, pH7.4, 400mmol/L NaCl )で洗浄し、200μLの溶出バッファー(20mmol/L HEPES, pH7.4, 0.2% BSA, 3mol/L NaCl )で2回溶出させることで、高塩濃度ビオチン化bFGFを回収した。その後、Ultra free C3LGCカラム(アミコン)に入れ、PBSで3回洗浄することで(0.25g/L)ビオチン化bFGFを得た。
【0036】
5μmに剥切したパラフィン組織切片(老人性、脂漏性角化症部位とその近傍正常部位)を、キシレンにて脱パラ後、エタノール(100%→70%)で置換し、3%過酸化水素水処理にて組織内在性パーオキシダーゼを不活化した。その後、pH5のバッファー(0.5M NaCl含有)、pH10のバッファー(0.5M NaCl含有)で洗浄することで、内在性のヘパラン硫酸結合因子を遊離させた。10%血清にてブロッキングし、ビオチン化bFGF(10nmol/L)を室温1時間反応させ、PBSで3回洗浄した。その後、ペルオキシダーゼ標識ストレプトアビジン(Nichirei, Japan)を室温で15分作用させ、PBSで3回洗浄し、DABにて発色させた。発色後の組織は、流水にて十分に洗浄してから、ヘマトキシリンにて核を染色させ、エタノール(70%→100%)置換、キシレン置換してから封入した。
【0037】
実験4:血管、リンパ管画像解析
CD31染色、LYVE1染色組織は、1切片あたり3枚の写真を撮影し、win roof (Mitani Corporation)にて、染色された血管、リンパ管の数、面積を画像解析にて算出した。さらに、真皮乳頭層エリアの真皮総面積も画像解析にて算出することで、血管やリンパ管の密度、大きさを算出した。
【0038】
図3は、老人性色素斑とその近傍部位の正常組織のパールカン、ヘパラン硫酸の免疫染色結果を示す。正常組織では、パールカン、ヘパラン硫酸ともに基底膜が染色されているが、老人性色素斑組織では、パールカン染色のみ染色され、ヘパラン硫酸の染色は著しく低下している。この結果から、老人性色素斑部位ではヘパラン硫酸が特異的に分解を受けていることがわかる。
【0039】
図4は、血管マーカーである抗CD31抗体による免疫染色の結果と、画像解析結果を示す。各染色組織を画像解析ソフトwin roofにて、cd31で染色された血管の数、太さ、面積を算出することで、老人性色素斑部位とその近傍正常部位の血管の変化を解析した。老人性色素斑部位で血管のサイズ、血管エリアが有意に高いことが明らかとなった。この結果から老人性色素斑部位では血管拡張が起きていることが明らかとなった。
【0040】
図5は、リンパ管マーカーである抗LYVE-1抗体による免疫染色の結果と、画像解析結果を示す。各染色画像を解析ソフトwin roofにて、LYVE-1で染色されたリンパ管の数、太さ、面積を算出することで、老人性色素斑部位とその近傍正常部位のリンパ管の変化を解析した。老人性色素斑部位でリンパ管のサイズ、リンパ管エリアが有意に高いことが明らかとなった。この結果から老人性色素斑部位ではリンパ管拡張が起きていることが明らかとなった。
【0041】
図6は、老人性色素斑組織におけるin situ bFGF結合アッセイの結果を示す。老人性色素斑の近傍の正常組織では、基底膜が茶色に染色されていることから、bFGFが結合することを示しているが、老人性色素斑部位では、基底膜の染色が見られない、すなわちbFGFが結合できないことを示しており、ヘパラン硫酸の分解によりbFGFが結合できなくかったと考えられる。
【0042】
図7は、脂漏性色素斑組織におけるin situ bFGF結合アッセイの結果を示す。脂漏性色素斑の近傍の正常組織では、基底膜が茶色に染色されていることから、bFGFが結合することを示しているが、脂漏性色素斑部位では、基底膜の染色が見られない、すなわちbFGFが結合できないことを示しており、ヘパラン硫酸の分解によりbFGFが結合できなくかったと考えられる。
【0043】
ヘパラナーゼ活性阻害のスクリーニング
1-[4-(1H-ベンゾイミダゾール-2-イル)-フェニル]-3-[4-(1H-ベンゾイミダゾール-2-イル)-フェニル]-ユレアの誘導体である4-(1H-ベンゾイミダゾール-2-イル)-フェニルアミンについてヘパラナーゼ活性を調べた。
A431細胞(浸潤性ヒト上皮ガン細胞)を10%血清入りDMEM培地にて培養した。培養細胞はLysis Buffer(50mM Tris, 0.5% TritonX-100, 0.15M Nacl, pH4.5)にて可溶化し、スクレイパーにて回収した後、ピペッティングを行いon iceで30分間静置させた。その後10,000rpmで10分遠心することで、不溶解物を除去して上清を細胞抽出液とした。細胞抽出液中のタンパク量はBCA Protein Assay Kit(PIERCE, CA46141)にて測定した。
【0044】
細胞抽出液をアッセイBuffer(50mM HEPES, 50mM CH
3COONa, 150mM NaCl, 9mM CaCl
2, 0.1% BSA)にて所定の濃度に希釈し、4-(1H-ベンゾイミダゾール-2-イル)-フェニルアミンを添加、混合してから、ビオチン化ヘパラン硫酸固定化プレートに100μL/wellで播種した。37℃で2時間反応させ、PBS-Tで3回洗浄してから、10,000倍希釈HRP-avidin(Vector, A-2004)/PBS-Tを100μL/wellで播種して37℃で1時間反応させた。再度3回PBS-Tにて洗浄を行い、TMB試薬(BIO-RAD, 172-1066)を100μL/wellで播種して反応させ、1NH
2SO
4にて反応を止めた後、OD475nmを測定した(特表2003-502054参照(特許文献3))。
ヘパラナーゼ活性は、A431細胞抽出液の検量線から活性を算出し、薬剤抽出物を添加していない資料(コントロール)に対する相対的な値を持って、阻害率(%)を示した。
【0045】
その結果、4-(1H-ベンゾイミダゾール-2-イル)-フェニルアミンが濃度依存的にヘパラナーゼ活性を効果的に抑制することが明らかとなった。この結果を
図8に示す。コントロールは、候補薬剤の変わりにDMSOを作用させたものである。
IC50=256μM