(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、複数の走行モードから所望のモードを選択可能な車両が前後輪にトランスファクラッチを介して駆動力を配分する全輪駆動車である場合、トランスファクラッチの締結トルクは、入力トルクと車両の走行状態とに基づいて決定され、各走行モード間では特に差がない。このため、走行モードに拘らず、同じような前後駆動力配分で同じような走行状態となる場合があり、ドライバが走行モード毎の特性差を実感的に認知することが困難となって車両の商品性をより向上させる上での支障となっている。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、全輪駆動車における複数の走行モード毎の特性差をドライバが容易に認知することを可能とし、車両の商品性をより向上することのできる全輪駆動車の駆動力配分制御装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による全輪駆動車の駆動力配分制御装置は、前輪と後輪とにトランスファクラッチを介して駆動力を配分すると共に、
アクセル操作に対するパワートレインの駆動力特性が異なる複数の走行モードから所望のモードを選択可能な全輪駆動車の駆動力配分制御装置であって、選択されている現在の走行モードを判定するモード判定部と、上記トランスファクラッチの締結トルク
を設定する締結トルク設定部とを備え
、上記締結トルク設定部は、上記トランスファクラッチの締結トルクを算出する際のゲインを上記モード判定部で判定した走行モードに応じて設定するゲイン設定部を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、全輪駆動車における複数の走行モード毎の特性差をドライバが容易に認知することが可能となり、車両の商品性をより向上することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
先ず、車両のパワートレイン系について説明する。
図1において、符号1は車両前部に配置されるエンジンを示し、本実施の形態においては、エンジン1の駆動力が前輪と後輪とに可変配分される全輪駆動(AWD;all-wheel drive)車に適用される。
【0011】
具体的には、エンジン1の駆動力は、エンジン1後方の自動変速装置(トルクコンバータ等も含む)2からトランスミッション出力軸2aを経てトランスファ3に伝達される。更に、トランスファ3に伝達された駆動力は、リヤドライブ軸4、プロペラシャフト5、ドライブピニオン軸部6を介して後輪終減速装置7に入力される一方、トランスファドライブギヤ8、トランスファドリブンギヤ9、フロントドライブ軸10を介して前輪終減速装置11に入力される。
【0012】
後輪終減速装置7に入力された駆動力は、後輪左ドライブ軸13RLを経て左後輪14RLに伝達され、後輪右ドライブ軸13RRを経て右後輪14RRに伝達される。また、前輪終減速装置11に入力された駆動力は、前輪左ドライブ軸13FLを経て左前輪14FLに伝達され、前輪右ドライブ軸13FRを経て右前輪14FRに伝達される。
【0013】
ここで、自動変速装置2、トランスファ3、及び前輪終減速装置11等は、一体的にケース12内に設けられている。トランスファ3は、ケース12内の後方に設けられ、本実施の形態においては、トランスファ3として、先に本出願人が提案した特開2009−143295号公報に開示の動力分配機構を用いている。
【0014】
すなわち、トランスファ3は、前輪クラッチ16aと後輪クラッチ16bとの2つにクラッチを有するトランスファクラッチ16と、このトランスファクラッチ16の締結力を可変するアクチュエータ17とにより構成されており、これらのクラッチ16a,16bを介してフロントドライブ軸10とリヤドライブ軸4とに動力が伝達される。
【0015】
前輪クラッチ16aは、トランスミッション出力軸2aに取り付けられるクラッチハブと、トランスファドライブギヤ8に取り付けられるクラッチドラムとを有するトルク伝達容量可変型クラッチとしての湿式多板クラッチである。この前輪クラッチ16aは、前輪クラッチ16aと後輪クラッチ16bとの間に設けられたアクチュエータ17のピストン17aによって押圧・締結され、トランスミッション出力軸2aからトランスファドライブギヤ8を介してフロントドライブ軸10へ動力を伝達する。
【0016】
後輪クラッチ16bは、トランスミッション出力軸2aに取り付けられるクラッチハブと、リヤドライブ軸4に取り付けられるクラッチドラムとを有するトルク伝達容量可変型クラッチとしての湿式多板クラッチである。この後輪クラッチ16bは、押圧部材19を介してバネ部材18の付勢力によって締結され、トランスミッション出力軸2aからトランスファドライブギヤ8を介してリヤドライブ軸4に動力を伝達する。
【0017】
また、前輪クラッチ16aと後輪クラッチ16bとの間に設けられるアクチュエータ17は、ピストン17aと、このピストン17aが軸方向に摺動自在に組み付けられるシリンダ17bとによって構成される油圧アクチュエータであり、ピストン17aとシリンダ17bとの間に形成される油圧室に油圧が供給されると、ピストン17aとシリンダ17bとが相互に離反する相反方向に駆動される。このとき、シリンダ17bは、押圧部材19を介してバネ部材18の付勢力に抗して後輪クラッチ16bを開放する方向に駆動し、ピストン17aは、前輪クラッチ16aを締結する方向に駆動する。
【0018】
油圧室の圧力が解除されると、シリンダ17bとピストン17aとは相互に接近する方向に駆動され、ピストン17aは前輪クラッチ16aから離れる方向に移動して前輪クラッチ16aがスリップ状態を経て開放状態になる。一方、シリンダ17bは後輪クラッチ16bから離れる方向に移動し、バネ部材18の付勢力により後輪クラッチ16bはスリップ状態を経て締結状態となる。
【0019】
従って、トランスファクラッチ16の1つの油圧室により、前輪クラッチ16aと後輪クラッチ16bとの両方を同時に連続的に切り換えることができる。すなわち、トランスファクラッチ16の締結トルクを制御することで、前後輪のトルク配分を、前輪偏重の配分比から後輪偏重の配分比まで可変制御することが可能となっている。
【0020】
次に、車両のパワートレインを制御する電子制御系について説明する。パワートレインの制御系は、CAN(Controller Area Network)等の車内LAN100に接続される複数の制御ユニットによって構成され、これらの制御ユニットを介した協調制御によりエンジン1及び自動変速装置2が制御される。複数の制御ユニットは、エンジン1を制御するエンジン制御ユニット(ECU)50、自動変速装置2を制御するトランスミッション制御ユニット(TCU)60、車両挙動を制御するビークルダイナミクス制御(VDC;Vehicle Dynamics Control)ユニット70、複数の駆動力特性モードから所望のモードを選択するドライバの操作入力に対する処理及びマルチファンクションディスプレイ等のメータ類への表示制御を行うメータ制御ユニット80によって代表される。
【0021】
ここで、本実施の形態における全輪駆動車は、ドライバが選択可能な走行モードとして、アクセル操作に対するパワートレインの駆動力特性が異なる複数のモードを備えている。複数の走行モードとしては、アクセル開度に対して出力トルクが略リニアに変化するノーマルモードと、エンジントルクをセーブしてイージードライブ性と低燃費性との双方を両立させるセーブモードと、エンジンの低回転域から高回転域までレスポンスに優れる出力特性を実現するパワー重視のスポーツモードとが備えられており、これらのモードの中からドライバが好みに応じて所望するモードを選択すると、選択した走行モードに応じた駆動力特性への制御と、選択した走行モードに応じて前後駆動力配分を変更する制御とが同時に実施される。
【0022】
走行モードに応じた駆動力特性への制御は、センターコンソール等に設けられている走行モード切換スイッチ81をドライバが操作すると、この操作入力がモード判定部としての機能を有するメータ制御ユニット80で判定され、ECU50によるエンジン1の制御及びTCU60による自動変速装置2の制御として実行される。尚、このとき、メータ制御ユニット80は、選択された走行モードの特性情報や燃費情報等に関する表示制御を行う。
【0023】
ECU50は、各走行モード毎のエンジン出力特性を示すマップとして、
図2(a)〜(c)に示すように、アクセル開度θaccとエンジン回転数Neとを格子軸とし、各格子点にエンジン出力指示値(目標トルク)を格納したマップMpe1,Mpe2,Mpe3を保有しており、これらの3種類のマップを走行モードに応じて選択する。そして、ECU50は、選択したモードマップと各センサ類からの検出信号等に基いて、エンジンの燃料噴射タイミング及び燃料噴射パルス幅を設定すると共に、電子制御スロットル装置(図示せず)を介してエンジンのスロットル開度を制御する。
【0024】
図2(a)に示すマップMpe1は、ノーマルモードの場合に選択されるマップであり、アクセル開度θaccが比較的小さい領域で目標トルクがリニアに変化し、スロットル開度が全開付近で最大目標トルクとなるように設定されている。また、
図2(b)に示すマップMpe2は、セーブモードの場合に選択されるマップであり、ノーマルモードのマップMpe1に比し、目標トルクの上昇が抑えられ、アクセルペダルを全踏してもスロットル全開とせず、相対的にアクセルペダルの踏み込みに対してスロットル開度変化がノーマルモードよりも小さくなる特性に設定されている。
【0025】
従って、セーブモードでは、ノーマルモードと同じアクセルペダルの踏み込み量であってもスロットル開度が小さく、出力トルクの上昇が抑制される。その結果、セーブモードのマップMpe2に基づき出力トルクを抑制した走行を行うことで、アクセルペダルを思い切り踏み込む等のアクセルワークを楽しむことができる。さらに、目標トルクの上昇が抑えられているため、イージードライブ性と低燃費性との双方をバランス良く両立させることができ、例えば、3リッタエンジンを搭載する車両であっても、2リッタエンジン相当の十分な出力を確保しながらスムーズな出力特性とし、特に街中等の実用領域における扱いやすさを重視した目標トルクが設定される。
【0026】
また、
図2(c)に示すマップMpe3は、パワーモードの場合に選択されるマップであり、略全運転領域でアクセル開度の変化に対する目標トルクの変化率が大きく設定されている。従って、例えば、3リッタエンジンを搭載する車両であれば、3リッタエンジンの有するポテンシャルを最大限に発揮できるような目標トルクが設定される。
【0027】
また、TCU60は、ノーマルモード、セーブモード、スポーツモードのマップMpe1〜Mpe3にそれぞれ適合した変速特性にて自動変速装置2の変速特性を制御するための3種類の変速用マップを保有している。TCU60は、走行モードに応じて変速用マップを選択し、選択した変速用マップと各センサ類からの検出信号等に基いて、自動変速装置2の油圧回路に供給する各油圧の制御を通じて、自動変速装置2のロックアップ制御やシフトアップポイントの変更等を行う。
【0028】
一方、走行モードに応じて前後駆動力配分を変更する制御は、本実施の形態においては旋回走行時のトランスファクラッチ16の締結トルクを、走行モードに応じて異なる値に設定する制御として実施される。具体的には、前後輪のトルク配分は、トランスファクラッチ16に供給する油圧を、複数のソレノイドバルブ等を擁した油圧回路で構成されるトランスファ駆動部61を介してTCU60が制御し、トランスファクラッチ16の締結トルクを可変することで決定される。従って、TCU60の締結トルク設定部としての機能により締結トルクを演算する際に、ゲイン設定部としての更なる機能により走行モード毎に異なる値のゲインを設定し、旋回走行中の前後駆動力配分を走行モード間で異なる配分とする。
【0029】
トランスファクラッチ16の締結トルクTcは、以下に示すように、アクセル開度とエンジン回転数とから推定されるエンジントルクに変速比を乗算して得られる入力トルクTiや車両挙動から算出されるトルクTmに基いて算出されるトルクT(Ti,Tm)に、所定のゲインGを乗算して算出される。車両挙動は、VDCユニット70に入力される各センサからの信号、例えば、各車輪14FL,14FR,14RL,14RRの車輪速を検出する車輪速センサ15FL,15FR,15RL,15RR、操舵角を検出する舵角センサ71、車両の横加速度を検出する横加速度センサ72、車両のヨーレートを検出するヨーレートセンサ73等からの信号に基いて検出される。
Tc=T(Ti,Tm)×G
【0030】
従来、この締結トルクTcは、走行モード間では特に差がなく、各走行モードはエンジン回転数と駆動力との関係からは明確な特性差があるものの、走行状態によってはドライバが感じるモード間の特性差が小さくなる可能性がある。このため、本実施の形態においては、旋回走行時に前後駆動力配分を走行モードによって異なる配分として、旋回走行時のステアリング特性に差を明確な差を生じさせ、ドライバが走行モードの差を実感として明確に認知できるようにする。
【0031】
具体的には、コーナー進入時の走行モードがノーマルモード、セーブモード、スポーツモードの何れであるかを判定し、各走行モード毎に、それぞれ、トランスファクラッチ16の締結トルクのゲインを異なる値に設定する。このゲインは、セーブモードの場合、後輪への駆動力配分を減少させてステアリング特性をアンダーステア傾向とするゲインG1、ノーマルモードの場合、前後輪に略均等に駆動力を配分してニュートラルステアとするゲインG2、スポーツモードの場合、後輪への駆動力配分を増大させてオーバーステア傾向とするゲインG3に設定され、相対的にG1<G2<G3の関係に設定される。
【0032】
次に、TCU60におけるトランスファクラッチ16の締結トルクゲイン設定処理に係るプログラム処理について、
図3のフローチャートを用いて説明する。
【0033】
図3は、TCU60において実行される締結トルクゲイン設定ルーチンを示し、先ず、最初のステップS1において、現在の車両走行状態がコーナー進入時であるか否かを調べる。コーナー進入時でない場合には、本ルーチンを抜け、コーナー進入時である場合、ステップS1からステップS2へ進んで、舵角、ヨーレート、横加速度、その他の値に基いて、コーナー進入時の前後輪へのトルク配分を決定する。
【0034】
次に、ステップS3でコーナー進入時の走行モードがセーブモード、ノーマルモード、スポーツモードの何れであるかを調べる。その結果、セーブモードである場合には、ステップS4でセーブモード用のゲインG1を設定し、ノーマルモードである場合には、ステップS5でノーマルモード用のゲインG2を設定し、スポーツモードである場合には、ステップS6でスポーツモード用のゲインG3を設定する。そして、ステップS7で走行モードに応じたゲインを用いてトランスファクラッチ16の締結トルクを算出する。
【0035】
これにより、前後駆動力配分が走行モード毎に異なる配分に切換えられ、セーブモードでは、後輪へのトルク配分を減らしてアンダーステア傾向にすることにより、安定性を確保することができ、ノーマルモードでは、ニュートラルステア傾向として操縦追従性を確保し、スポーツモードでは、後輪へのトルク配分を増大させてオーバーステア傾向にすることにより旋回性能を確保することができる。
【0036】
このように本実施の形態においては、ドライバが選択した走行モード毎にトランスファクラッチ16の締結トルクを変更することで、旋回走行時のステアリング特性に差を持たせ、これにより、ドライバが各走行モードの差を明確に認知し易くなり、車両としての商品性を向上することができる。