特許第5685448号(P5685448)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5685448工作機械における移動台の摺動案内構造及びシューの交換方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5685448
(24)【登録日】2015年1月23日
(45)【発行日】2015年3月18日
(54)【発明の名称】工作機械における移動台の摺動案内構造及びシューの交換方法
(51)【国際特許分類】
   B23Q 1/26 20060101AFI20150226BHJP
   B23Q 1/01 20060101ALI20150226BHJP
【FI】
   B23Q1/26 Z
   B23Q1/01 W
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2011-13156(P2011-13156)
(22)【出願日】2011年1月25日
(65)【公開番号】特開2012-152844(P2012-152844A)
(43)【公開日】2012年8月16日
【審査請求日】2013年12月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000212566
【氏名又は名称】中村留精密工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078673
【弁理士】
【氏名又は名称】西 孝雄
(72)【発明者】
【氏名】南 憲明
【審査官】 村上 哲
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−159374(JP,A)
【文献】 特開2001−280343(JP,A)
【文献】 実開昭62−165825(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 1/26
B23Q 1/01
B23Q 1/58
B23Q 11/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基台(1)に固定されたレール(2)と、当該基台上を移動する移動台(3)に固定されて前記レール上を滑り移動するシュー(4)とを備えた工作機械の摺動案内構造において、
移動台(3)の自重を受ける前記シュー(4)がその移動方向の中間部(47)で2分割され、分割されたそれぞれのシュー(4a,4b)が固定ボルト(12)で移動台(3)に固定され、分割されたそれぞれのシュー(4a,4b)の露出端(41)に開口してそれぞれのシューの油溝に連通されている油孔(43)と、上記露出端に設けた抜きねじ孔(44)と、それぞれのシューの露出端の周囲において移動台(3)の端面(31)に設けた治具取付用ねじ孔(32)と、移動台(3)の下方に空間(6)を隔てて基台(1)に形成したジャッキ受面(11)とを備え、前記移動台の端面に当接した治具(5)に挿通して前記抜きねじ孔にねじ込んた抜きボルトの倍力作用を利用して前記シューを引出し可能とした、
工作機械の摺動案内構造。
【請求項2】
請求項1記載の構造で前記移動台に装着された前記シューの交換方法において、
前記移動台の端面に装着される治具(5)であって、前記抜きねじ孔に挿入される抜きボルトの挿通孔と引き抜かれたシューの露出端(41)を受け入れる凹所(56)とを備えた治具を準備し、
ジャッキ受面(11)と移動台(3)との間の空間(6)に挿入したジャッキ(7)で移動台(3)を上方に付勢し、前記凹所を前記シューの露出端に対向させて治具(5)を移動台の端面に当接させた状態で前記抜きボルトの挿通孔に挿通した抜きボルトを前記抜きねじ孔にねじ込んで前記シューを引出し、
引き出された前記シューを移動台から取り外してその後の空間に新しいシュー挿入して固定する、工作機械における移動台のシューの交換方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、工作機械に設けられる刃物台や移動主軸台などの移動台の摺動案内構造に関するもので、レール上を滑り移動するシューを容易に交換できるようにした上記装置及び当該装置におけるシューの交換方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
工作機械は、直線ガイド(レール)に沿って往復移動する刃物台や移動主軸台などの移動台を備えている。工作機械に要求される高い加工精度と円滑な加工動作を実現するため、移動台を支持してその移動を案内する構造として、支持剛性が高くかつ防振性に優れた摺動案内構造が採用される。
【0003】
この摺動案内構造は、基台(フレームないしベッド)に固定されたレールと、移動台に固定されて当該レールに沿って滑り移動するシューとによって形成される。シューは、矩形ブロック状の金属基材の一面に低摩擦材料からなる摺動面材を貼り付けた構造で、この摺動面材の表面(摺動面)がレールの表面に接して滑り移動する。
【0004】
通常、レールは平行に2本設けられ、2本のレールの上面(移動台の自重を受ける面)と自重などにより移動台が押し付けられる側の側面(基準側面)とを基準にして、移動台が案内されている。移動台は、レールの上面と下面とで上下を案内され、2本のレールの内側側面の対又は外側側面の対で左右を案内されている。従って、移動台には、各レールに対して、上面シュー、側面シュー及び下面シューの3個のシューが取り付けられている。
【0005】
工作機械に移動台を取り付けるときは、上面と基準側面のシューを取り付けた移動台を基台に取り付けたレール上に搭載して、当該レールに沿って移動させながら、その移動中における移動台の基準位置と基台の基準位置とのずれを計測する。その後、一旦上面と基準側面のシューを取り外して、計測した基準位置のずれがゼロとなるように、これらのシューを研磨加工する。そして、加工したシューの厚さを記録し、当該シューを移動台に取り付けてレール上に搭載し、更にレールとのクリアランスが適切なクリアランスとなる厚さに研磨加工した反基準側面と下面のシューを取り付けることにより、組み立てる。
【0006】
摺接面には、その摺動方向、すなわちレールの長手方向に対して交差する方向の油溝が彫られており、この油溝に潤滑油を供給しながらシューを移動させる。シューの移動方向両端には、先端辺をレールの表面に接触させたゴム製のワイパが取り付けられ、移動台が移動したときに、レール上に付着した切粉などの塵埃がレールとシューの間に進入するのを防止している。特許文献1には、このワイパの交換を容易にするためのワイパ装置の構造が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−106066号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
低摩擦材料からなる摺動面材は、レールより柔らかいため、長期の移動台の摺動移動により、摺動面材が摩耗する。特に移動台の荷重が常時作用している上面シューの摩耗が大きく、かつ上面シューが摩耗すると、移動台の基準位置が基台の基準位置からずれて、工作機械の加工精度が低下する。そのため摩耗したシューは、新しいものに交換する必要がある。
【0009】
このシューを交換するとき、従来は、クレーンで移動台を吊り上げてレール上から作業台上へ移動してシューを交換し、再び移動台をレール上に搭載するという作業が必要であった。なお、移動台を最初に組み立てるときに、移動台と基台の基準位置を一致させるために必要なシューの厚さを記録してあるので、その厚さに研磨加工してシューを新しく取り付けてやれば、移動台の基準位置は、シューが摩耗する前の位置に復帰する。
【0010】
工作機械の移動台には、刃物の割出装置や回転駆動装置、ワークや大型の工具を把持して回転駆動する主軸やその駆動モータなどが搭載されており、更にこれらの装置に潤滑油を供給するパイプや電気ケーブルが接続されているため、レールから移動台を着脱する作業は、大掛かりな装置を必要とし、かつ作業時間も多く必要である。
【0011】
この発明は、このような現状に鑑み、摩耗したシューを新しいシューに交換することが容易な構造の摺動装置を得ることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明は、基台1に固定されたレール2と、当該基台上を移動する移動台3に固定されてレール2の上面に摺接しているシュー4とを備えた工作機械の摺動案内構造に関するものである。
【0013】
この発明の摺動案内構造は、交換が必要となる可能性の高いレール上面シュー4を長手方向略中央で2分割して、分割した両方のシュー4a、4bのそれぞれの一端(以下、「露出端」という。)41が移動台3のそれぞれの側の端面31に位置するように、取り付けている。分割した各シュー4a、4bの油溝42には、露出端41に設けた油孔43から潤滑油が供給される。
【0014】
また、分割した各シュー4a、4bの露出端41には、当該シュー4a、4bを交換する際に用いる抜きボルト54を螺合する抜きねじ孔44が設けられており、移動台3の端面31には、この露出端41の周囲に、当該シュー4a、4bを交換する際に用いる治具5を取り付ける取付ボルト52を螺合する取付ねじ孔32が設けられている。
【0015】
一方、レール2を固定している基台1には、移動台3の下方となる位置に、空間6を隔ててジャッキ受面11が形成されている。ジャッキ受面11は、シュー4a、4bの交換作業をするときに移動台3を位置させる箇所の下方に設けられている。
【0016】
この発明の摺動案内構造のシュー4a、4bの交換に使用する治具5は、移動台の端面31に当接する座面51と、前記取付ボルト52を挿通するボルト挿通孔53と、引き抜かれたときのシューの露出端41を受け入れる凹所56と、前記抜きボルト54を挿通するボルト挿通孔55とを備えている。
【0017】
この発明の摺動案内構造におけるシューの交換は、次の手順で行われる。まず、シューの露出端41部分に取り付けられているワイパ装置(図示されていない)を外し、下面シュー46を取り外し、油孔43に連結されている給油パイプを外す。次に取付ボルト挿通孔53に挿通した取付ボルト52を移動台の端面31に設けた取付ねじ孔32にねじ込んで、治具5を移動台に固定する。そしてシュー4aを固定している固定ボルト12を取り外し、ジャッキ受面11と移動台3との間の空間6に挿入したジャッキ7で移動台3を上方に付勢して、シュー4aとレール2の上面との間に作用している荷重を解放する。
【0018】
次に抜きボルト54を治具のボルト挿通孔55に挿通してその先端をシューの露出端41に設けた抜きねじ孔44に螺入する。この螺入の途中で抜きボルト54の頭が治具5に当接し、更に抜きボルト54をねじ込むことにより、ねじの倍力作用でシュー4aが治具5側へと引き出される。治具の凹所56は、引き出されたシューの端面41と治具5との干渉を避けるために設けられたものである。
【0019】
シューが少し引き出されると、あとは手で引き出すことができるようになるから、治具5を固定している取付ボルト52を取り外し、抜きボルト54の先端に螺合されているシュー4aを治具5を手で引っ張ることによって引き抜く。そして、新しいシューを古いシューを引き抜いた後の空間に挿入し、固定ボルト12で新しいシューを移動台3に固定した後、ジャッキ7による移動台の持ち上げ力を解除し、図示しない給油パイプを接続し、更に図示しないワイパ装置を取り付けて、1個のシューの交換を終る。
【0020】
1個のシューの交換を終了した後、同様な作業で分割された反対側のシュー4bを交換し、更に同様な作業でもう一方のレールのシューを交換することにより、4個の上シューの交換を終了する。
【発明の効果】
【0021】
この発明により、工作機械の主軸送り台、工具送り台、サドルなどの移動台を工作機械本体から取り外すことなく、それらに装着されているシューを交換することができ、シューの交換に要する作業時間及び作業負担が大幅に軽減される。
【0022】
また、シューの交換作業が容易になることから、工作機械の制動維持に要する負担が軽減され、高い加工精度を維持することが可能な工作機械を得ることができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】移動案内構造の例を示す正面図
図2】移動台の移動案内構造部分の下面図
図3】治具の斜視図
図4】シューの取り外し方法を示す第1の図
図5】シューの取り外し方法を示す第2の図
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、旋盤の主軸送り台に、この発明を適用した例を示す図面を参照して、この発明の実施形態を説明する。図において、1は基台(ベッド)、2は基台1に固定されたZ軸方向(主軸軸線方向)のレール、3はレール2に沿って移動する移動台(主軸送り台)、13は基台1と移動台3との間に装着された送り装置(送りねじ及び送りナット)である。
【0025】
レール2は、その上面24、内側側面25及び断面を逆L字形に切り欠いて形成した下面26が案内面となっている。移動台3には、固定ボルト12、15、16で上面シュー4、側面シュー45及び下面シュー46が固定され、これらのシューの摺動面がレール2の対応する案内面24、25、26に摺接している。各シューの摺動面には、低摩擦材料からなる摺動面材が貼着されている。
【0026】
工作機械を運転することにより、移動台3は、レール2に沿って繰り返し往復移動する。この移動の間、移動台やその上に搭載されている図示しない主軸台の自重及び加工反力は、主として上面シュー4によって支持されている。シューに貼着した摺動面材は、レール2より柔らかいので、移動台3の繰り返し移動により大きな荷重が作用している上面シューの摺動面材が摩耗し、それにより基台1に対する移動台3の位置に誤差が生じ、この誤差が工作機械の高精度を低下させる。これに対して側面シュー45、下面シュー46、特に下面シュー46は、荷重がかからないので、上面シューに比べてこれらのシューの摩耗は極めて少ない。
【0027】
図の実施例は、摩耗が大きい上面シュー4の交換を容易にするために、この発明の摺動案内構造を採用している。上面シュー4は、図2に示すように、その長手方向(Z軸方向)の長さ中間部47で2分割されている。分割されたそれぞれのシューの一端41は、移動台3の移動方向前後の端面に露出している。実際には、これらのシュー4a、4bが露出する端部に移動台3の移動動作により、レール2上に落下した切削油や切粉を除去するワイパ装置が取り付けられており、図はこのワイパ装置を取り外した状態で示されている。シューの摺動面には、シューとレールとの間に潤滑油を供給するための油溝42が設けらており、この油溝に連通する油孔(潤滑油供給孔)43がそれぞれの上面シューの露出端41に開口している。更にそれぞれのシューの露出端41には、後述する抜きボルトを螺合するための抜きねじ孔44が設けられている。また、このシューの露出端に近接した移動台の端面31には、後述する治具5を取り付けるための取付ねじ孔32が設けられている。この取付ねじ孔32は、前述したワイパ装置を取り付けるためのねじ孔と兼用することができる。一方、基台1には、下面シュー46の下方の位置に空間6を隔ててジャッキ受面11が形成されている。
【0028】
図3は、上面シュー4aを交換するのに用いる治具の斜視図である。この治具5は、矩形板状の金属板の一方の面に上面シュー4aの端部が挿入可能な凹所56を設け、移動台の取付ねじ孔32及び移動台に装着されている上面シュー4aの抜きねじ孔44の位置に合せてボルト挿通孔53、55を設けた簡単な形状のものである。図示実施例の治具5には、凹所56の部分に、押しボルト48を螺合する押しねじ孔58が設けられている。
【0029】
次に図4及び5を参照して、上面シュー4aの交換手順を説明する。まず、交換しようとする上面シューの露出端に設けられているワイパ装置を外し、油孔43に接続されている給油パイプを外す。更に、下面シュー46を取り外し、上面シューを固定している固定ボルト12を抜き取る。この状態で上面シュー4aは、Z軸方向に引き抜き可能な状態となるが、長期間の使用により、シュー4aは移動台3に貼り付いた状態となっており、また、上面シュー4aには、移動台3及びその移動台に設置した機器の荷重が加わっているので、シュー4aを抜き取ることはできない。
【0030】
そこで、取付ボルト52で治具5をその凹所56をシューの露出端41に向けた状態で移動台3に固定し、下面シュー46を取り外した後の移動台の下面36とジャッキ受面11との間にジャッキ7を挿入して、移動台3及びその上の主軸台等の荷重がジャッキ7にかかるように移動台3にジャッキの支持力を作用させる。そして、治具のボルト挿通孔55に挿入した抜きボルト54をシュー4aの抜きねじ孔44に螺合して、当該抜きボルトを螺進させることにより、ねじの倍力作用を利用してシュー4aを引き抜く。シュー4aが一旦引き抜き方向に移動すれば、あとは容易に引き抜くことが可能なので、取付ボルト52を取り外し、治具5をZ軸方向に手で引き出すことでシュー4aが引き出される。
【0031】
次にこの状態で新しいシューを古いシューを抜いたあとの空間に差し込む。このとき必要があれば、取付ボルト52で治具5を再び移動台3に固定し、治具の押しねじ孔58にねじ込んだ押しボルト48で差し込んだシュー4aを押し込む。そして、固定ボルト12で新しいシューを移動台3に固定する。更に反対側の上面シュー4bを同様な手順で交換する。その後、ジャッキ7を縮めて取り外し、給油パイプ及びワイパ装置を元のように取り付けて、一方のレールに対する上面シューの交換を終了する。反対側のレールについても同様な手順で上面シューの交換を行う。
【0032】
以上のように、この発明の摺動案内構造によれば、簡単な構造の治具5とジャッキ7を用意するだけで、摩耗したシューの交換を容易に行うことができる。なお、上記の実施例では、基台1の上面が水平な構造のものについて説明したが、レール2が基台の鉛直方向の面に水平に設けられている場合には、図1で側面シュー45や下面シュー46として示したシューが移動台等の自重が作用する上面シューとなる場合があり、また、基台上面が斜めになっているときは、図1で上面シュー4と側面シュー45として示した2本のシューが移動台等の荷重が作用する上面シューとなる場合があり、それらの構造のものにおいても摩耗が大きい上面シューの構造として、この発明の構造を採用することができる。それぞれの場合のジャッキ受面11は、交換しようとするシューに対する移動台3などの荷重がゼロとなるような位置に挿入されたジャッキを受けることができる位置に設けてやればよい。
【符号の説明】
【0033】
1 基台
2 レール
3 移動台
4(4a,4b) 上面シュー
5 治具
6 空間
7 ジャッキ
11 ジャッキ受面
12 固定ボルト
31 移動台の端面
32 治具取付用ねじ孔
41 露出端
43 油孔
44 抜きねじ孔
45 側面シュー
46 下面シュー
56 凹所
図1
図2
図3
図4
図5