(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
  両端が封止されたパイプ状の密閉容器の内部に作動液が封入されているとともに、粉末焼結体からなる多孔質ウィックを有するウィック構造体が前記密閉容器の内壁面に接触するヒートパイプにおいて、
  前記ウィック構造体は、前記多孔質ウィックの内部に埋め込まれ、かつ前記密閉容器の長手方向に伸びるように配置された線条ウィックをさらに有し、
  前記線条ウィックは、複数本の細線を束ねた細線束から構成されるとともに、前記多孔質ウィックよりも毛管力が小さく、かつ前記多孔質ウィックよりも圧力損失が小さく、
  前記ウィック構造体のうち気体流路側に面する部分は前記多孔質ウィックのみにより形成されており、前記線条ウィックはすべての外周部分が前記多孔質ウィックおよび前記内壁面と接触している
ことを特徴とするヒートパイプ。
【背景技術】
【0002】
  従来、冷却対象となる電子機器などの発熱体の熱を潜熱移動により輸送する構成として、所望の温度で相変化する作動流体が封入されたヒートパイプが周知である。ヒートパイプの作動状態では、ヒートパイプが外部から熱を受け取ることにより蒸発部において作動液が気化し、凝縮部において蒸発部で生じた気体を放熱させて液化する。したがって、ヒートパイプ性能の一つの観点として、密閉容器内部において熱輸送媒体となる作動流体の流動性能を向上させてヒートパイプの熱輸送性能を向上させることが望まれる。
【0003】
  特に、電子機器の小型化や、電子機器の高速処理化および高性能化による発熱量増大などに伴い、小型であって熱輸送量が大きなヒートパイプが求められる。つまり、ヒートパイプの外形が制約される場合がある。例えば、同じ幅に形成されたヒートパイプとして、密閉容器に平坦面を有する扁平型ヒートパイプと、円筒状の密閉容器からなる丸型ヒートパイプとを比較すると、扁平型ヒートパイプの方が薄く形成できる。しかし、扁平型ヒートパイプでは、丸型ヒートパイプに比べて気体流路となる密閉容器の内部空間が狭くなってしまう。そのため、扁平型ヒートパイプにおいて密閉容器内に気体流路を確保するための構成が、特許文献1と特許文献2と特許文献3とに開示されている。
【0004】
  特許文献1には、扁平型ヒートパイプにおける内壁面の平坦部分に焼結金属からなるウィック構造体を設け、その内壁面の曲面部分とウィック構造体との間を空洞にする構成が記載されている。また、ウィック構造体が内壁面と接する平坦部とヒートパイプの内部空間に露出する曲部とを有する形状に形成されている。そのウィック構造体の内部を作動液が還流する。
【0005】
  特許文献2には、複数本の細線を束ねた細線束からなるウィックを備えた扁平型ヒートパイプが記載されている。そのウィックはヒートパイプの長手方向に伸びるように配置されてヒートパイプの内壁面のうち平坦面もしくは曲面に接するように構成されている。
【0006】
  特許文献3には、複数本の細線からなるファイバーウィック層が密閉容器の内壁面に接して設けられ、そのファイバーウィック層上に粉体からなるパウダーウィック層を積層させたウィック構造体が記載されている。
【0007】
  一方、作動液が流通する液体流路について、凝縮部から蒸発部への還流性能を向上させる構成の一例が特許文献4に開示されている。
【0008】
  特許文献4に記載された丸型ヒートパイプでは、網状シートと粉末とからなるウィック構造体が密閉容器の内壁面全面に接触して所定厚さのウィック層を構成している。その網状シートにおける一方の側面全面に亘って粉末が付着させられている。すなわち、網状シートと粉末とのうちいずれか一方が密閉容器の内壁面全面に接触している。
 
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
  しかしながら、特許文献1に記載されたヒートパイプのウィック構造体では、圧力損失が大きくなり作動液を長距離移動させることが難しい。また、特許文献2に記載されたウィックでは、作動液の移動距離を延ばすことができるものの単位面積当たりの作動液の量を増大させるなど改良の余地がある。特許文献3に記載されたウィック構造体では、コンテナとウィックとの間における熱抵抗が大きくなり、さらにはパウダーがウィックからグルーブ内に脱落してしまう可能性がある。そして、特許文献4に記載されたウィックでは、粉末焼結体が網状シートにうまく固着せず熱抵抗となる可能性がある。
【0011】
  この発明は、上記の技術的課題に着目してなされたものであって、密閉容器内に設けられたウィック構造体による作動液の還流性能を向上させることによって熱輸送性能を向上させることができるヒートパイプを提供することを目的とするものである。
 
【課題を解決するための手段】
【0012】
  上記の課題を解決するために、この発明は、両端が封止されたパイプ状の密閉容器の内部に作動液が封入されているとともに、粉末焼結体からなる多孔質ウィックを有するウィック構造体が前記密閉容器の内壁面に接触するヒートパイプにおいて、前記ウィック構造体は、前記多孔質ウィックの内部に埋め込まれ、かつ前記密閉容器の長手方向に伸びるように配置された線条ウィックをさらに有し、前記線条ウィックは、複数本の細線を束ねた細線束から構成されるとともに、前記多孔質ウィックよりも毛管力が小さく、かつ前記多孔質ウィックよりも圧力損失が小
さく、前記ウィック構造体のうち気体流路側に面する部分は前記多孔質ウィックのみにより形成されており、前記線条ウィックはすべての外周部分が前記多孔質ウィックおよび前記内壁面と接触していることを特徴とするものである。
【0014】
  この発明は、上記の発明において、前記内壁面は、全面が前記多孔質ウィックおよび前記線条ウィックによって覆われていることを特徴とするヒートパイプである。
【0015】
  この発明は、上記の発明において、前記密閉容器は、平坦部を有する扁平型に形成されており、前記内壁面は、前記平坦部により形成された平坦面を含み、前記多孔質ウィックおよび前記線条ウィックは、熱源側の前記平坦部における前記平坦面のみと接触していることを特徴とするヒートパイプである。
【0016】
  この発明は
、両端が封止されたパイプ状の密閉容器の内部に作動液が封入されているとともに、粉末焼結体からなる多孔質ウィックを有するウィック構造体が前記密閉容器の内壁面に接触するヒートパイプにおいて、前記ウィック構造体は、前記多孔質ウィックの内部に埋め込まれ、かつ前記密閉容器の長手方向に伸びるように配置された線条ウィックをさらに有し、前記線条ウィックは、複数本の細線を束ねた細線束から構成されるとともに、前記多孔質ウィックよりも毛管力が小さく、かつ前記多孔質ウィックよりも圧力損失が小さく、前記密閉容器は、対向する一対の平坦部を有する扁平型に形成されており、前記多孔質ウィックは、前記内壁面のうち一方の前記平坦部により形成される一方の平坦面のみと接触する第一の多孔質ウィックと、前記内壁面のうち他方の前記平坦部により形成される他方の平坦面のみと接触する第二の多孔質ウィックとからなり、前記線条ウィックは、前記第一の多孔質ウィックの内部に埋め込まれ前記一方の平坦面と接触する第一の線条ウィックと、前記第二の多孔質ウィックの内部に埋め込まれ前記他方の平坦面と接触する第二の線条ウィックとからなることを特徴とす
るものである。
【0017】
  この発明は、上記の発明において、前記線条ウィックの外周形状は、矩形であることを特徴とするヒートパイプである。
 
【発明の効果】
【0018】
  この発明によれば、多孔質ウィックの内部に相対的に圧力損失が小さい線条ウィックが埋め込まれているので、ウィック構造体内で作動液を線条ウィックによって還流させることにより、作動液を長い距離で移動させることができる。そのため、熱の輸送距離を長くすることができ、熱輸送性能を向上させることができる。また、多孔質ウィックによる毛管力により内部に埋め込まれた線条ウィックがドライアウトすることを低減できる。
【0019】
  この発明によれば、一束の線条ウィックにおける外周部分のうち内壁面とは非接触の部分を全体的に多孔質ウィックに接触させているので、相対的に毛管力が大きい多孔質ウィックにより線条ウィックの外周部分を覆うことができる。そのため、多孔質ウィックによる毛管力を線条ウィックに作用させることができ、ウィック構造体内で作動液を均一に配分させることができる。
【0020】
  この発明によれば、密閉容器の内壁面は、全面が多孔質ウィックおよび線条ウィックによって覆われているので、ウィック構造体内で作動液を均一に配分できるとともに、内壁面と多孔質ウィックの外周部分との間で生じる熱抵抗を小さくできる。
【0021】
  この発明によれば、平坦部を有する扁平型ヒートパイプにおいて、熱源側の平坦部により形成される平坦面のみにウィック構造体を接触させることにより、作動液の還流性能を向上させるとともに気体流路を確保できるので、熱輸送性能を向上させることができる。
【0022】
  この発明によれば、一対の平坦部を有する扁平型ヒートパイプにおいて、一方の平坦部により形成される平坦面のみに接触する第一の多孔質ウィックおよび線条ウィックと、他方の平坦部により形成される平坦面のみに接触する第二の多孔質ウィックおよび線条ウィックとを備えていることにより、作動液の還流性能を向上させるとともに気体流路を確保できるので、熱輸送性能を向上させることができる。
【0023】
  この発明によれば、線条ウィックの外周形状が矩形に形成されているので、線条ウィックの断面積を大きく取ることができる。特に、ヒートパイプが扁平型の場合にはウィック構造体の厚さが薄くなってしまうが、矩形の線条ウィックによれば密閉容器内で線条ウィックの断面積を大きく取ることができ、線条ウィックにより作動液を還流させ易くなる。
 
 
【発明を実施するための形態】
【0025】
  以下、この発明を具体例に基づいて説明する。この具体例におけるヒートパイプは、密閉容器の内部に相変化する作動流体が封入されており、液相の作動流体が浸透するウィック構造体を備えている。ウィック構造体は、粉末を焼結させて構成された多孔質ウィックを含む。さらに、多孔質ウィックの内部には、多孔質ウィックよりも液相の作動流体が流れ易い水路構造体が設けられている。この具体例では、水路構造体が、複数本の細線を束ねた細線束からなるウィック構造体により構成されている。なお、作動液とは液相の作動流体であり、気体とは気相の作動流体である。
 
【0026】
  まず、
図1を参照して、第一実施例におけるヒートパイプについて説明する。
図1には、長手方向が水平方向に伸びるように配置された第一実施例のヒートパイプの断面図を示してある。なお、以下の説明では、
図1に示す上下方向を用いてヒートパイプを説明する場合がある。
 
【0027】
  第一実施例のヒートパイプ1は、密閉容器2の縦断面形状が円形に形成された丸型ヒートパイプである。密閉容器2は、銅などの金属製のパイプ材から形成され、図示しない長手方向の両端部分が封止されている。また、密閉容器2の内部には、図示しない作動液が封入されている。作動液は、所定の温度で相変化する物質により構成され、例えば水やアルコール類やアンモニア水などの周知のものである。
 
【0028】
  密閉容器2の内部構造は、内壁面2aが周方向全体に亘って平滑な曲面(円弧面)に形成されている。つまり、内壁面2aは周方向で一様な曲面に形成されている。例えば、ヒートパイプ1は、密閉容器2の厚さが均一に形成され、内壁面2aが平滑面である平滑管により形成されている。
 
【0029】
  さらに、密閉容器2内部には、作動液が浸透するウィック構造体10が設けられている。ウィック構造体10は、作動液に対して毛管力を生じる構造体であり、ヒートパイプ1における蒸発部と凝縮部との間を繋ぐように密閉容器2の長手方向へ伸びて配置されている。ヒートパイプ1の作動時、外部熱により蒸発部で作動液が蒸発して気体となり、その気体が密閉容器2内の空間(気体流路)を流通して凝縮部へ移動する。その気体が凝縮部で放熱されて液化して、その作動液がウィック構造体10に浸透する。そして、ウィック構造体10による毛管力によって作動液が凝縮部から蒸発部へ向けて還流する。
 
【0030】
  図1に示すように、ウィック構造体10は、内壁面2aの周方向全面と接するようにして配置されている。ウィック構造体10は、金属粉末を焼結させた多孔質ウィック11と、複数本の細線を束ねた細線束により構成された線条ウィック12とを有する。多孔質ウィック11は銅粉末の焼結体であり、線条ウィック12は銅細線からなる細線束である。つまり、所定の温度で多孔質ウィック11が焼結される場合には、線条ウィック12も焼結されることになる。
 
【0031】
  なお、ウィック構造体10は周知の材料により構成されてよく、例えば線条ウィック12の細線が金属線やカーボン線などにより構成されてよい。また、この説明における線条ウィック12とは、一束単位を表すものであり、外周部分12aとは細線束の外周部分である。
 
【0032】
  また、多孔質ウィック11および線条ウィック12は、密閉容器2の長手方向に伸びるように配置されており、それぞれが作動液に対して毛管力を発揮するように構成されている。さらに、線条ウィック12が多孔質ウィック11内に埋め込まれている。要は、線条ウィック12は多孔質ウィック11の内部で多孔質ウィック11よりも作動液を還流させ易い水路構造体を構成している。
 
【0033】
  具体的には、線条ウィック12の外周部分12aは、略円形状に形成され、密閉容器2の内壁面2aおよび多孔質ウィック11に接触している。多孔質ウィック11は、外周部分12aの直径よりも大きい厚さに形成され、かつ内壁面2aの全面を覆うように配置されており、密閉容器2の内部において略パイプ状に形成されている。さらに、多孔質ウィック11の外周部分は周方向で内壁面2aの略全面と接触している。したがって、線条ウィック12の外周部分12aのうち内壁面2aに接触していない部分は、多孔質ウィック11によって全体的に覆われているとともに接触している。
 
【0034】
  さらに、第一実施例のウィック構造体10は、互いに平行に配置された二つの線条ウィック12を備えている。
図1に示すように、ウィック構造体10は、内壁面2aの最下部に接触する第一の線条ウィック12Aと、内壁面2aの最上部に接触する第二の線条ウィック12Bとを有する。第一の線条ウィック12Aと第二の線条ウィック12Bとは、上下方向で対向して配置されている。すなわち、各線条ウィック12A,12Bはヒートパイプ1の中心軸線に対して対称に配置される。また、各線条ウィック12A,12Bは多孔質ウィック11内に完全に埋もれており気体流路に露出していない。なお、
図1に示す例では、各線条ウィック12A,12Bの太さが略同一に形成されている。
 
【0035】
  ここで、ウィック構造体10における作動液の還流特性について説明する。多孔質ウィック11は、粉末同士が焼結により固着した焼結体であって、粉末同士の間に隙間が形成されている多孔質構造体である。その隙間は、多孔質ウィック11による液体流路を構成し、迷路のような不規則な流路となる。例えば、多孔質ウィック11における銅粉末の平均粒径は約125μm程度である。さらに、多孔質ウィック11の外周部分は、密閉容器2の形状に沿って略円弧状に形成されて内壁面2aの大部分と固着している。したがって、多孔質ウィック11による液体流路には、多孔質ウィック11の外周部分と内壁面2aとの間に形成される隙間が含まれる。それら多孔質ウィック11による液体流路内に浸透した作動液が毛管力を受けて凝縮部から蒸発部へ還流する。
 
【0036】
  また、線条ウィック12は、多孔質ウィック11および密閉容器2の内壁面2aと固着している。要は、線条ウィック12が多孔質ウィック11によって束形状に維持され、かつ内壁面2aに固定されている。そのため、線条ウィック12を結束させるための結束具などを用いる必要がない。加えて、多孔質ウィック11と線条ウィック12との接触部分では、銅粉末と銅細線との間に形成された隙間が作動液を還流させる液体流路を形成している。
 
【0037】
  さらに、線条ウィック12は、銅細線同士が固着し、その銅細線同士の間には線条の隙間が形成される。その線条の隙間は、線条ウィック12による液体流路を形成する。例えば、銅細線の径は50〜100μmである。また、線条ウィック12の外周部分12aと内壁面2aとの間にも線条の隙間が形成される。つまり、線条ウィック12による液体流路として、線条の隙間が密閉容器2の長手方向へ伸びるように形成されている。その線条の隙間である線条ウィック12による液体流路内に浸透した作動液が毛管力を受けて凝縮部から蒸発部へ向けて還流する。
 
【0038】
  また、それら液体流路内で作動液が受ける毛管力の大きさは、毛管半径が小さいほど大きくなる。その毛管半径すなわち隙間の大きさについて、多孔質ウィック11と線条ウィック12とを比較すると、多孔質ウィック11における毛管半径の方が線条ウィック12よりも小さく形成されている。つまり、多孔質ウィック11の方が大きな毛管力を発揮するように形成されている。
 
【0039】
  一方、ウィック構造体10では作動液が流動する際に圧力損失が生じる。その作動液についての圧力損失は、液体流路の形状が要因となる。この具体例では、多孔質ウィック11による液体流路は迷路状となり、線条ウィック12による液体流路は線条となる。そのため、圧力損失の大きさについて多孔質ウィック11と線条ウィック12とを比較すると、線条ウィック12による圧力損失の方が多孔質ウィック11よりも小さい。
 
【0040】
  要するに、ウィック構造体10では、大きな毛管力を発揮する多孔質ウィック11の内部に、圧力損失が小さい線条ウィック12が埋め込まれていることになる。すなわち、多孔質ウィック11内には、多孔質ウィック11よりも作動液を還流させ易い水路構造として線条ウィック12が埋め込まれている。
 
【0041】
  したがって、ウィック構造体10の還流特性とは、多孔質ウィック11が主に毛管力を発揮する役割を果たし、かつ線条ウィック12が主に作動液の流れ易さを発揮する役割を果たすように、各ウィック11,12が役割分担をして機能するように構成されていることにより、長距離で作動液を還流させることができることである。
 
【0042】
  以上説明した通り、第一実施例のヒートパイプによれば、ウィック構造体において、多孔質ウィックが毛管力の役割を果たし、かつ線条ウィックが作動液の流れ易さの役割を果たすように構成されているので、蒸発部と凝縮部との間の距離を長くさせることができ熱の輸送可能距離を伸ばせるので熱輸送性能が向上する。
 
【0043】
  また、ウィック構造体の外周部分は密閉容器の内壁面における略全面に接触しているので、ウィック構造体内で作動液を均一に配分できるとともに、内壁面とウィック構造体の外周部分との間で生じる熱抵抗を小さくできる。
 
【0044】
  さらに、線条ウィックの外周部分が多孔質ウィックに覆われているので、ウィック構造体のうち気体流路側に面する部分すなわち蒸発面が多孔質ウィックのみにより形成されている。そのため、ウィック構造体における蒸発面では多孔質ウィックによる毛管力が生じる。したがって、多孔質ウィックによる毛管力により圧力損失による分を補償することができるので、蒸発部で作動液の液面が低下してドライアウトが生じることを低減できる。さらに、多孔質ウィックのみが気体流路に面していることにより、線条ウィックが露出する場合に比べ作動液が気体流によって飛散し難くなり、飛散限界が向上して最大熱輸送量が増大する。なお、仮に線条ウィックが気体流路に露出している場合には、蒸発部において圧力損失分を補償することができず線条ウィックの液面が低下し続けてドライアウトに到る可能性があるとともに、線条ウィック内の作動液が気体流により飛散し易くなる。
 
【0045】
  加えて、第一実施例のウィック構造体によれば、蒸発部が凝縮部よりも上に位置するトップヒートモードにおいて効果的に熱輸送することができる。さらに、ヒートパイプが取り付けられた冷却対称部材(熱源)の姿勢が変化することによりヒートパイプの姿勢が変化する場合であっても、第一実施例のウィック構造体を備えていることにより、ヒートパイプによる熱輸送力を維持することが可能である。例えば、第一実施例のヒートパイプによれば、従来のヒートパイプに比べて、最大熱輸送量が約1.5〜2倍に増大する。
 
【0046】
  なお、この発明におけるヒートパイプは、第一実施例の構成に限定されず、この発明の目的を逸脱しない範囲で適宜変更が可能である。例えば、線条ウィックが多孔質ウィック内に埋め込まれ、かつ多孔質ウィックの内周部分により気体流路が形成されていればよく、多孔質ウィックの厚さは特に限定されない。仮に多孔質ウィックの厚さが均一に形成されている場合には、密閉容器の内壁面から多孔質ウィックの内周部分まで厚さ(高さ)が線条ウィックの太さ以上に設定される。
 
【0047】
  また、多孔質ウィックを構成する粉末の粒径や、その粉末同士の隙間の大きさは、周知の大きさに設定されてよい。さらに、第一実施例では、第一の線条ウィックと第二の線条ウィックとが同一の太さに設定されていたが、それらは異なる太さに設定されてもよい。さらに、線条ウィックにおける細線の太さや、その細線束内における細線同士の隙間の大きさは、周知の大きさに設定されてよい。
 
【0048】
  次に、
図2を参照して、第二実施例におけるヒートパイプについて説明する。第二実施例のヒートパイプは、いわゆる扁平型ヒートパイプであって、前述した第一実施例とはヒートパイプの断面形状が異なる。また、第二実施例では第一実施例と同様に、ヒートパイプの内壁面における周方向全面に線条ウィックおよび多孔質ウィックからなるウィック構造体が設けられている。さらに、第二実施例における線条ウィックの外周形状は、第一実施例と同様に円形状に形成されてもよく、もしくは四角形状(矩形)に形成されてもよい。
図2には、線条ウィックが四角形状(矩形)に形成された第二実施例のヒートパイプの断面図を示してある。なお、第二実施例の説明において、第一実施例と同様の構成については説明を省略し、その参照符号を引用する。
 
【0049】
  図2に示すように、第二実施例のヒートパイプ5は、密閉容器6の縦断面形状が平坦部61,62により平坦状に形成された扁平型ヒートパイプである。具体的には、密閉容器6は、上下方向で対向する一対の平坦部61,62と、平坦部61,62同士を繋ぐ曲部63とにより形成されている。密閉容器6の内壁面6aは、下側の平坦部61により形成された平坦面61aと、上側の平坦部62により形成された平坦面62aと、曲部63により形成された曲面63aとを有する。すなわち、内壁面6aの周方向全面とは、平坦面61a,62aおよび曲面63aを含む面である。
 
【0050】
  第二実施例のウィック構造体20は、密閉容器6の内部で内壁面6aの周方向全面に接触して配置されている。具体的には、ウィック構造体20は、多孔質ウィック11と、前述した線条ウィック12と同様に細線束により形成された線条ウィック22とを有する。線条ウィック22の外周部分は、略長方形状(矩形)に形成され、多孔質ウィック11内に埋め込まれている。線条ウィック22が多孔質ウィック11内で、多孔質ウィック11よりも作動液を還流させ易い水路構造を構成している。例えば、線条ウィック22は、幅が厚さよりも大きい長方形状に形成され、ヒートパイプ6の長手方向に伸びる四角柱状に形成されたウィック構造体である。
 
【0051】
  また、多孔質ウィック11の外周部分は、内壁面6aのうち、下側の平坦面61aの一部と上側の平坦面62aの一部と曲面63aの全面とに接触している。すなわち、平坦面61a,62aおよび曲面63aには多孔質ウィック11が固着している。
 
【0052】
  具体的には、線条ウィック22は、密閉容器2の幅方向で中央部分に配置された第一および第二の線条ウィック22A,22Bにより構成されている。第一の線条ウィック22Aの外周部分を形成する一方の長辺部分22aは、密閉容器6における下側の平坦面61aに接触している。第二の線条ウィック22Bは、第一の線条ウィック22Aの上方に配置される。さらに、第二の線条ウィック22Bの外周部分を形成する一方の長辺部分22aは、密閉容器6における上側の平坦面62aに接触している。各線条ウィック22A,22Bの厚さは、他方の線条ウィックと接触しない厚さに形成されている。また、各線条ウィック22A,22Bの幅は、各平坦面61a,62aの幅内に収まる大きさに形成されている。
 
【0053】
  例えば、線条ウィック22が密閉容器6内に配置されて所定の温度で焼結された場合、第一の線条ウィック22Aは所定幅の範囲で下側の平坦面61aに固着され、第二の線条ウィック22Bは所定幅の範囲で上側の平坦面62aに固着される。
 
【0054】
  さらに、各線条ウィック22A,22Bの外周部分を形成する短辺部分22bは、厚さ方向に伸びるように形成され、多孔質ウィック11と接触している。すなわち、線条ウィック22は多孔質ウィック11内に埋め込まれている。
図2に示すウィック構造体20では、各線条ウィック22A,22Bと多孔質ウィック11との接触部分において、多孔質ウィック11の厚さが各線条ウィック22A,22Bの厚さよりも大きく設定されている。
 
【0055】
  なお、線条ウィック22を構成する細線の太さや、その細線束内における細線同士の隙間の大きさは、前述した線条ウィック12と同様に周知の大きさに設定されてよい。さらに、各線条ウィック22A,22Bにおける厚さおよび幅は、同一の大きさに形成されてもよく、あるいは異なる大きさに形成されてもよい。
 
【0056】
  以上説明した通り、第二実施例におけるヒートパイプによれば、線条ウィックの外周形状は幅が厚さよりも大きい矩形に形成されているので、扁平型ヒートパイプにおいてウィック構造体の厚さが薄くなる場合であっても、線条ウィックの断面積を大きく取ることができる。つまり、扁平型ヒートパイプ内で線条ウィックにより作動液を還流させ易くなる。さらに、ヒートパイプの内壁面は周方向で全面が線条ウィックおよび多孔質ウィックにより覆われているため、熱輸送性能が向上する。
 
【0057】
  次に、
図3を参照して、第三実施例におけるヒートパイプについて説明する。第三実施例のヒートパイプは、扁平型ヒートパイプであって、前述した第二実施例とはウィック構造体の形状および配置が異なる。
図3には、第三実施例におけるヒートパイプの断面図を示してある。なお、第三実施例の説明において、前述した各実施例と同様の構成については説明を省略し、その参照符号を引用する。
 
【0058】
  図3に示すように、第三実施例のヒートパイプ5は、密閉容器6の内部にウィック構造体30を備えている。ウィック構造体30は、前述した多孔質ウィック11と同様に粉末焼結体により形成された多孔質ウィック31と、多孔質ウィック31の内部に埋め込まれた線条ウィック12とを有する。
 
【0059】
  また、ウィック構造体30は、密閉容器6の幅方向で中央部分に配置され、内壁面6aのうち下側の平坦面61aのみと接触している。すなわち、ウィック構造体30の幅は下側の平坦部61の幅以下に形成され、かつウィック構造体30の高さが平坦面61a,62a同士の上下間隔よりも小さく形成されている。要は、この第三実施例では、前述した第二実施例とは異なり上側の平坦面(天井面)62aにはウィック構造体が設けられていない。さらに、
図3に示す例では、ウィック構造体30の高さは、平坦面61a,62aの上下間隔における中間部分よりも高く形成されている。
 
【0060】
  具体的には、多孔質ウィック31における外周形状は、線条ウィック12が接触する下側の平坦面(底面)61aから山状に盛り上がる形状に形成されている。すなわち、多孔質ウィック31は、ヒートパイプ5の長手方向に伸びるように形成された略半円柱状のウィック構造体である。線条ウィック12の外周部分は、下側の平坦面61aと接触する部分以外が多孔質ウィック32と接触している。
 
【0061】
  また、多孔質ウィック31の外周部分は、下側の平坦面61aに接触する平坦部31aと、その平坦面61aから盛り上がる形状に形成された曲部31bとを有する。曲部31bは、線条ウィック12を覆うように形成されているとともに、密閉容器6内の気体流路に露出している。つまり、多孔質ウィック31がウィック構造体30における蒸発面を形成しており、ウィック構造体30の頂部30aが多孔質ウィック31の曲部31bにより形成されている。頂部30aは、下方に線条ウィック12が埋め込まれているとともに、上側の平坦面62aに接触しないように構成されている。要するに、多孔質ウィック31のみが気体流路を流通する気体に触れる可能性がある。したがって、多孔質ウィック31は、幅方向で頂部30aの両側に向けて、密閉容器6における上側の平坦面62aとの上下間隔が広がるように形成されている。なお、前述したウィック構造体30の高さとは、上下方向で下側の平坦面61aから多孔質ウィック31が形成する頂部30aまでの距離である。
 
【0062】
  密閉容器6内で焼結されたウィック構造体30では、多孔質ウィック31の平坦部31aが下側の平坦面61aに固着される。すなわち、多孔質ウィック31が線条ウィック12に固着するものの、線条ウィック12自体が焼結されて平坦面61aに固着されるか否かを問わない。つまり、ウィック構造体30において、線条ウィック12は下側の平坦面61aと接触していればよい。要は、線条ウィック12が多孔質ウィック31によって平坦面61aに固定されているため、線条ウィック12の丸束形状は多孔質ウィック32によって維持される。
 
【0063】
  なお、第三実施例における線条ウィックの外周形状は、第一実施例と同様に円形状に形成されてもよく、もしくは第二実施例と同様に四角形状(矩形)に形成されてもよい。例えば、第三実施例における線条ウィックの外周形状が矩形の場合、
図2を参照して前述した線条ウィック22を採用できる。この場合には、線条ウィック22における一方の長辺部分22aが下側の平坦面61aに接触し、他方の長辺部分22aが多孔質ウィック31の頂部30aの下方に埋もれている。
 
【0064】
  以上説明した通り、第三実施例のヒートパイプによれば、扁平型ヒートパイプにおいて熱輸送性能を向上させることができる。また、密閉容器の内部では、幅方向で中央から両側に向けて、密閉容器における上側の平坦面と多孔質ウィックとの上下方向間隔が広がるように形成されているため、作動液が上側の平坦面と多孔質ウィックとの間で生じる毛管力により液溜まりを形成し難くなり、熱輸送性能が向上する。すなわち、上側の平坦面と多孔質ウィックによる蒸発面との上下方向間隔が小さくなると、蒸発面と天井面との間で生じる毛管力が強くなり作動液は液溜りを形成し易くなるが、第三実施例によれば、そのような液溜まりができないように蒸発面と天井面との上下方向間隔が広い部分を設けているので、性能低下の原因を回避できる。
 
【0065】
  さらに、線条ウィックの外周形状は幅が厚さよりも大きい矩形に形成されている場合には、扁平型ヒートパイプにおいてウィック構造体の厚さが薄くなる場合であっても、線条ウィックの断面積を大きく取ることができる。つまり、扁平型ヒートパイプ内で線条ウィックにより作動液を還流させ易くなる。ヒートパイプの内壁面は周方向で全面が線条ウィックおよび多孔質ウィックにより覆われているため、熱輸送性能が向上する。
 
【0066】
  次に、
図4を参照して、第四実施例におけるヒートパイプについて説明する。第四実施例では、前述した第三実施例とは密閉容器内におけるウィック構造体の配置が異なる。
図4には、第四実施例におけるヒートパイプの断面図を示してある。なお、第四実施例の説明において、前述した各実施例と同様の構成については説明を省略し、その参照符号を引用する。
 
【0067】
  図4に示すように、第四実施例のウィック構造体40は、密閉容器6の幅方向で中央部分に配置され、前述したウィック構造体30からなる第一のウィック構造体40Aと、第一のウィック構造体40Aの上方に配置された第二のウィック構造体40Bとを有する。第一のウィック構造体40Aの高さは、平坦面61a,62aの上下間隔における中間部分よりも低く形成されている。すなわち、第一のウィック構造体40Aは、前述したウィック構造体30とは下側の平坦面61aから頂部30aまでの高さが異なる。
 
【0068】
  また、第二のウィック構造体40Bは、内壁面6aのうち上側の平坦面62aのみに接触している。ウィック構造体40の幅は平坦部61および平坦部62の幅以下に形成され、かつウィック構造体40の高さは平坦面61a,62a同士の上下間隔における中間部分よりも低く形成されている。要は、第四実施例では、前述した第三実施例とは異なり上側の平坦面62aにウィック構造体が設けられている。第二のウィック構造体40Bでは、前述した多孔質ウィック31と同様に粉末焼結体により形成された多孔質ウィック41内に線条ウィック12が埋め込まれている。
 
【0069】
  また、多孔質ウィック41における外周形状は、線条ウィック12が接触する上側の平坦面62aから山状に盛り上がる形状に形成されている。すなわち、多孔質ウィック41は、ヒートパイプ5の長手方向に伸びるように形成された略半円柱状のウィック構造体である。また、上側の線条ウィック12の外周部分は、上側の平坦面62aと接触する部分以外が多孔質ウィック41と接触している。
 
【0070】
  多孔質ウィック41の外周部分は、上側の平坦面62aに接触する平坦部41aと、その平坦面62aから盛り上がる形状に形成された曲部41bとを有する。曲部41bは、線条ウィック12を覆うように形成されているとともに、密閉容器6内の気体流路に露出している。つまり、第二のウィック構造体40Bの頂部40aが多孔質ウィック41の曲部41bにより形成されている。頂部40aは、上方に線条ウィック12が埋め込まれているとともに、下側の第一のウィック構造体40Aにおける頂部30aおよび曲部31bに接触しないように構成されている。要するに、第四実施例におけるウィック構造体40では、多孔質ウィック31,41のみが気体流路を流通する気体に触れる可能性がある。
 
【0071】
  密閉容器6内で焼結されたウィック構造体40では、多孔質ウィック31の平坦部31aが下側の平坦面61aに固着され、かつ多孔質ウィック41の平坦部41aが上側の平坦面62aに固着される。すなわち、多孔質ウィック31,41が線条ウィック12に固着するものの、その線条ウィック12自体が焼結されて平坦面61aおよび平坦面62aに固着されるか否かを問わない。つまり、ウィック構造体40において、線条ウィック12は下側の平坦面61aおよび上側の平坦面62aと接触していればよく、焼結しても焼結しなくてもどちらでもよい。要は、第二のウィック構造体40Bにおいて、線条ウィック12が多孔質ウィック41によって平坦面62aに固定されているため、線条ウィック12の丸束形状は多孔質ウィック42によって維持される。そのため、いわゆる結束具を用いて細線束の線条ウィック12を結束させる必要がない。
 
【0072】
  なお、第四実施例における線条ウィックの外周形状は、第一実施例と同様に円形状に形成されてもよく、もしくは第二実施例と同様に四角形状(矩形)に形成されてもよい。例えば、第四実施例における線条ウィックの外周形状が矩形の場合、
図2を参照して前述した線条ウィック22を採用できる。この場合には、第一のウィック構造体40Aに含まれる線条ウィック22は一方の長辺部分22aが下側の平坦面61aに接触し、第二のウィック構造体40Bに含まれる線条ウィック22は一方の長辺部分22aが上側の平坦面62aと接触している。
 
【0073】
  以上説明した通り、第四実施例のヒートパイプによれば、最大熱輸送量が増大するとともに、熱源が上側に配置されている場合であっても効果的に熱輸送特性を発揮できる。例えば、前述した
図2に示す第二実施例と比べて、作動液が流れる面(蒸発面)と気体が流れる面(気体流路)との接触面積が小さくなり、ヒートパイプ内部での対向流(気体流)によって作動液の流れが阻害され難くなる。したがって、最大熱輸送量が増大する。さらに、前述した
図3に示す第三実施例では熱源が下側に配置された場合のみしか還流特性を最大限に生かせないが、第四実施例によれば熱源が上下両方に配置された場合でも十分に熱輸送性能を発揮できる。
 
【0074】
  さらに、線条ウィックの外周形状は幅が厚さよりも大きい矩形に形成されている場合には、扁平型ヒートパイプにおいてウィック構造体の厚さが薄くなる場合であっても、線条ウィックの断面積を大きく取ることができる。つまり、扁平型ヒートパイプ内で線条ウィックにより作動液を還流させ易くなる。ヒートパイプの内壁面は周方向で全面が線条ウィックおよび多孔質ウィックにより覆われているため、熱輸送性能が向上する。
 
 
【解決手段】作動液が封入された密閉容器2の内壁面2aが滑らかに形成されており、その内壁面2aに接触する粉末焼結体からなる多孔質ウィック11を有するウィック構造体10に作動液が浸透するように構成されたヒートパイプ1において、多孔質ウィック11内に埋め込まれた線条ウィック12を備え、線条ウィック12は、多孔質ウィック11よりも毛管力がよりも小さく、かつ多孔質ウィック11よりも圧力損失が小さい構造により形成され、作動液が多孔質ウィック11よりも線条ウィック12内を流動して凝縮部から蒸発部へ向けて還流させる。