特許第5685669号(P5685669)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5685669
(24)【登録日】2015年1月23日
(45)【発行日】2015年3月18日
(54)【発明の名称】裏打ち用接着剤組成物
(51)【国際特許分類】
   C09J 201/00 20060101AFI20150226BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20150226BHJP
   C09J 103/02 20060101ALI20150226BHJP
   C09J 109/10 20060101ALI20150226BHJP
【FI】
   C09J201/00
   C09J11/06
   C09J103/02
   C09J109/10
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-132226(P2014-132226)
(22)【出願日】2014年6月27日
【審査請求日】2014年8月20日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】399034220
【氏名又は名称】日本エイアンドエル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】寺西 孝雄
(72)【発明者】
【氏名】森 文三
(72)【発明者】
【氏名】宇都宮 久芳
(72)【発明者】
【氏名】太田 清也
【審査官】 磯貝 香苗
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭54−126242(JP,A)
【文献】 特開2008−248432(JP,A)
【文献】 特公昭57−030429(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00−201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)高分子ラテックス、(B)アセチレンジオール類、(C)ヒンダードフェノール系酸化防止剤、(D)イオウ系酸化防止剤、(E)金属不活性剤及びデンプンを含有し、(A)の100重量部(固形分換算)に対して(B)を0.1〜3重量部(固形分換算)、(C)〜(E)の合計が0.1〜1.5重量部(固形分換算)であることを特徴とする裏打ち用接着
剤組成物。
【請求項2】
(B)アセチレンジオール類がアセチレングリコールであることを特徴とする請求項1に記載の裏打ち用接着剤組成物。
【請求項3】
(C)ヒンダードフェノール系酸化防止剤と(D)イオウ系酸化防止剤の合計に対し、混合比率(C)/(D)が50/50〜95/5であることを特徴とする請求項1または2に記載の裏打ち用接着剤組成物。
【請求項4】
(C)と(D)の合計と(E)金属不活性剤の比率((C)+(D))/(E)が、70/30〜99/1の比率であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の裏打ち用接着剤組成物。
【請求項5】
(A)高分子ラテックスが、ジエン系共重合体ラテックスであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の裏打ち用接着剤組成物。
【請求項6】
人工芝の裏打ち用として使用されることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の接着剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、裏打ち用接着剤組成物に関する。詳しくは、基布に植設されたパイルの抜け落ちを防止する裏打ちが施されている人工芝などの敷物製品を製造する際裏打ち材として使用された際に、特に生産性、耐ブリスター性、耐老化性、抜糸強度に優れる接着剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
人工芝を含む多くの敷物は、そのパイルを固着するために裏打ち材として高分子ラテックス系接着剤組成物が使用されている。この接着剤組成物には、天然ゴムラテックスや合成ゴムラテックスとしてジエン系共重合体ラテックスやアクリル系共重合体ラテックスなどの高分子ラテックスに、炭酸カルシウムなどの無機充填材やポリオレフィン樹脂粉体などの有機充填剤を配合した水系の接着剤組成物が用いられていることは周知である。
【0003】
近年、敷物の裏打ち加工工程では生産性の向上、合理化を目的として様々な手段が講じられるようになった。乾燥工程での時間短縮もその方法の一つである。その手段としては、従来の接着剤組成物よりも組成物の固形分を高くすることで、乾燥重量としての塗布量を維持しつつ乾燥工程で蒸発する水分を減らすことになり、同じ単位時間当たりの熱エネルギーの加工であっても加工速度を上げることで生産性の向上が可能となる。また同じ加工速度の場合には乾燥に必要とする熱エネルギーが減少し省エネルギー化による合理化となる。
【0004】
しかしながら、接着剤組成物の固形分を高くする手段としては、炭酸カルシウムなどの無機充填剤を増量する方法が一般的に行われるが、結果として配合物中に占める高分子ラテックスの相対的な比率が低下することにより抜糸強度、特に屋外で使用される際に求められる耐水抜糸強度が低下するという問題があり好ましくない。そこで、配合時に持ち込まれる水分を減らすという方法で接着剤組成物の固形分を高くする方法がとられる。その際に、従来と同じ乾燥重量の接着剤組成物の塗布量を維持するためには、基布に塗布する乾燥前の接着剤組成物の塗布量としては減少することになり、敷物の裏面をカバーするのに十分な塗布容積が確保できなくなり、一般的にポリオレフィン系の織物で基布は構成されていることから接着剤組成物をハジキ易く、カスレといわれる接着剤組成物の被覆不良が部分的に発生して外観不良となり製品価値が低下し、パイルの接着剤組成物による保持が不十分となり抜糸強度が低下するという問題がある。
【0005】
そこで、塗布容積の不足を補うために接着剤組成物の表面張力を下げて濡れ性を改良する手段が一般的にとられるが、表面張力を低下させるためドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどのアニオン性界面活性剤やノニオン性界面活性剤などを使用した場合には、十分な濡れ性を得るため多量の添加が必要となり、結果として抜糸強度、特に耐水性の抜糸強度の低下となり好ましくない。更には、加工時においての予期せぬ泡立ちにより加工中の接着剤組成物の比重が変動し塗布重量の安定性に欠くなど、安定した物性を有する製品を得ることが困難となり好ましい方法とは言えない。
【0006】
また、接着剤組成物を機械的に発泡させて塗布容積を増やすという方法も考えられるが、発泡させるために加える界面活性剤により、前述と同様に抜糸強度の低下、特に耐水抜糸強度の低下となり好ましい方法ではない。さらに、濡れ性の改良の場合も同様であるが、界面活性剤を加えることは、接着剤組成物の安定性の向上という利点はあるが、その反面、後述の耐ブリスター剤として使用するデンプンなどの感熱ゲル化剤の作用を阻害することもあり、好ましい方法ではない。
【0007】
一方、生産性の向上のため、乾燥温度を上げることで乾燥工程にかける時間を短縮するという方法も採られている。その場合、塗布した接着剤組成物の表面が、従来よりも速く乾燥し皮膜化するため接着剤組成物内部の水分の急激な蒸発によるブリスター、いわゆる火ぶくれが発生し、外観不良となり商品価値が低下するという問題がある。さらに、前述の生産性向上を目的とする接着剤組成物の高固形分化は表面の皮膜化が促進され、ブリスターの発生がより悪化するという事態を招く。また、乾燥温度を高くすることは高分子ラテックスを含む接着剤組成物に対する乾燥工程での熱履歴が増大し、耐老化性が低下するという問題も発生する。
【0008】
耐ブリスター性の改善のために従来から使用されている感熱ゲル化剤としてのデンプンなど(例えば、特許文献1、特許文献2)は比較的容易に耐ブリスター性が得られるという利点がある反面、厳しい乾燥温度条件下での耐ブリスター性の改善のためには増量するという手段をとらざるを得ない。その結果、相対的に接着剤組成物中の接着剤としての高分子ラテックスの比率が下がることによる抜糸強度の低下、耐老化性の低下、デンプンなどを多量に配合することにより接着剤組成物の保管中に腐敗しやすくなる。また、デンプンなどの増量により乾燥後の製品外観の光沢が低下し商品価値が低下するなどの問題がある。そのため安易な増量は物性、商品価値の点から望ましい方向ではない。
【0009】
さらに耐ブリスター性の改善のための感熱ゲル化剤としては、ポリビニアルコールなどを配合する(例えば、特許文献3)、ポリオルガノシロキサンなどを配合する(例えば、特許文献4、特許文献5)、ジルコニウム系化合物などを配合する(例えば、特許文献6、特許文献7)などがあるが、接着剤組成物に使用できる高分子ラテックスの組成などに制限があり、接着剤組成物の貯蔵時の安定性に問題があるなど、耐ブリスター性も含めて必ずしも満足できるものではない。
【0010】
熱履歴による耐老化性の低下は、老化防止剤の増量により、ある程度改善が可能であるが、老化防止剤の安易な増量は経済的ではない。また、老化防止のため老化防止剤と金属封鎖剤を配合する例(例えば、特許文献8)、特定のフェノール系老化防止剤とイオウ系老化防止剤を配合する例(例えば、特許文献9)などが開示されているが、必ずしも十分な性能とはいえない。
【0011】
生産性の向上を目的とする乾燥工程の時間短縮のための様々な方法は従来の配合物では、前述のような問題点があり、これらの問題点を改善する方法が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特公昭57―30429号公報
【0013】
【特許文献2】特開昭54―126242号公報
【0014】
【特許文献3】特開昭60―149677号公報
【0015】
【特許文献4】特開昭61―271365号公報
【0016】
【特許文献5】特開昭52―95749号公報
【0017】
【特許文献6】特開平03―234779号公報
【0018】
【特許文献7】特開2011―117112号公報
【0019】
【特許文献8】特開昭62―030172号公報
【0020】
【特許文献9】特開平05―148464号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
本発明の目的は、従来技術では解決が困難であった、前述の生産性の向上を目的とした際に発生する諸問題を解決すべく、生産性に優れ、抜糸強度を低下させることなく、耐ブリスター性及び耐老化性に優れる裏打ち材として使用する接着剤組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明は、(A)高分子ラテックス、(B)アセチレンジオール類、(C)ヒンダードフェノール系酸化防止剤、(D)イオウ系酸化防止剤、(E)金属不活性剤及びデンプンを含有し、(A)の100重量部(固形分換算)に対して(B)を0.1〜3重量部(固形分換算)、(C)〜(E)の合計が0.1〜1.5重量部(固形分換算)であることを特徴とする裏打ち用接着剤組成物を使用するものである。
【発明の効果】
【0023】
本発明の接着剤組成物は、生産性向上のため配合物の固形分を高くすることにより発生する不具合、具体的には塗布容積の減少によるカスレの抑制が可能となり、さらには耐ブリスター性が改善される。結果として耐ブリスター剤としてのデンプンなどの増量が不要となり、抜糸強度の低下も見られない。また、耐老化性が改善され、より高温で高速での加工も可能となり、生産性の向上に寄与するものである。かつ、屋外での使用という過酷な条件下でも十分な耐老化性を有する敷物が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、本発明を詳細に説明する。
本発明における(A)高分子ラテックスとしては、天然ゴムラテックスや、ブタジエン・スチレン系共重合体ラテックス、ブタジエン・アクリロニトリル系共重合体ラテックス、ブタジエン・メチルメタクリレート系共重合体ラテックス、ブタジエン・スチレン・ビニルピリジン系共重合体ラテックスなどのジエン系共重合体ラテックス、ポリクロロプレンラテックス、ポリイソプレンラテックス、アクリル系共重合体ラテックス、エチレン酢酸ビニル系共重合体ラテックスなどがあげられる。これらを1種もしくは2種以上使用することができる。中でも、ジエン系共重合体ラテックスが好ましく、さらにはカルボキシ変性されたジエン系共重合体ラテックスがより好ましい。
【0025】
上記ジエン系共重合体ラテックスを構成する単量体としては、共役ジエン系単量体、及び、共役ジエン系単量体と共重合可能な他の単量体の使用が可能である。共重合可能な他の単量体としては、芳香族ビニル系単量体、エチレン系不飽和カルボン酸単量体、エチレン系不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体、ヒドロキシル基を含有するエチレン系不飽和単量体、シアン化ビニル系単量体など公知のものがあげられる。これらの単量体は、得られる接着剤組成物としての性能を阻害するものでない限り、種類、使用量に特に制限はないが、ジエン系共重合体ラテックスを構成する単量体100重量部とした場合に、共役ジエン系単量体の好ましい範囲は30〜60重量部であり、より好ましくは35〜50重量部である。
共役ジエン系単量体が30重量部未満では風合いが硬くなる傾向があり、敷物の施工性に支障が出る傾向があり、60重量部を超えると抜糸強度が低下する傾向がある。
【0026】
カルボキシ変性されたジエン系共重合体ラテックスの場合には、前述したエチレン系不飽和カルボン酸単量体を使用する。エチレン系不飽和カルボン酸単量体としては、アクリル酸、メタアクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などがあげられ、これらを1種もしくは2種以上使用することができる。これらの単量体は得られる接着剤組成物としての性能を阻害するものでない限り、種類、使用量に特に制限はないが、カルボキシ変性されたジエン系共重合体ラテックスを構成する単量体100重量部とした場合に、エチレン系不飽和カルボン酸単量体は好ましい範囲は、0.3〜5重量部であり、より好ましくは0.5〜2重量部である。エチレン系不飽和カルボン酸単量体が0.3重量部を下回ると、接着剤組成物の配合性及び加工製品の抜糸強度が低下する傾向があり、5重量部を超えるとジエン系共重合体ラテックスの粘度が高く取扱いに不具合が発生し、耐水性が低下する傾向があり、好ましくない。
【0027】
本発明の接着剤組成物に使用する天然ゴムを除く(A)高分子ラテックスは、各単量体を乳化重合することによって得られる。乳化重合における各種成分の添加方法については特に制限するものではなく、一括添加方法、分割添加方法、連続添加方法、パワーフィード法の何れでも採用することができる。また重合方法としても、バッチ重合、セミバッチ重合、シード重合などを用いることができる。
更に、乳化重合の際には、常用の乳化剤、連鎖移動剤、重合開始剤、炭化水素系溶剤、電解質、重合促進剤、などを使用することができる。
【0028】
(A)高分子ラテックスを乳化重合する際に使用する乳化剤としては、高級アルコールの硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、脂肪族スルホン酸塩、脂肪族カルボン酸塩、脂肪族硫酸エステル塩等の陰イオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン誘導体などの非イオン性界面活性剤、ベタイン型などの両性界面活性剤を1種又は2種以上併用して使用することができ、接着剤組成物の性能を阻害しない範囲内で種類、量に制限は無い。
【0029】
(A)高分子ラテックスの重合時に使用する連鎖移動剤としては、n−ヘキシルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、t−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、n−ステアリルメルカプタン等のアルキルメルカプタン、ジメチルキサントゲンジサルファイド、ジイソプロピルキサントゲンジサルファイド等のキサントゲン化合物、ターピノレンや、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラメチルチウラムモノスルフィド等のチウラム系化合物、α−メチルスチレンダイマー、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、スチレン化フェノール等のフェノール系化合物、アリルアルコール等のアリル化合物、ジクロルメタン、ジブロモメタン、四臭化炭素等のハロゲン化炭化水素化合物、α−ベンジルオキシスチレン、α−ベンジルオキシアクリロニトリル、α−ベンジルオキシアクリルアミド等のビニルエーテル、トリフェニルエタン、ペンタフェニルエタン、アクロレイン、メタアクロレイン、チオグリコール酸、チオリンゴ酸、2−エチルヘキシルチオグリコレート等が挙げられ、これらを1種または2種以上使用することができる。
【0030】
(A)高分子ラテックスの重合時に使用する重合開始剤としては、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の水溶性重合開始剤、レドックス系重合開始剤、過酸化ベンゾイル等の油溶性重合開始剤を適宜用いることができる。特に水溶性重合開始剤の使用が好ましい。
【0031】
また、(A)高分子ラテックスの重合時に際して、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン等の飽和炭化水素、ペンテン、ヘキセン、ヘプテン、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロヘプテン、4−メチルシクロヘキセン、1−メチルシクロヘキセン等の不飽和炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素などの炭化水素系溶剤を使用しても良い。
【0032】
本発明の接着剤組成物に使用する(B)アセチレンジオール類としては、アセチレングリコールや、アセチレングリコールにエチレンオキサイドを付加させたものなどが挙げられ、さらには、そのアルコール類溶解物、グリコール類溶解物などが挙げられる。また。これらの(B)アセチレンジオール類は単独あるいは2種類以上で使用することも可能であり、使用比率にも特別な制限はない。その中でアセチレングリコールが好ましく、さらにはそのエチレングリコール溶解物がより好ましい。
これらの(B)アセチレンジオール類は、エアープロダクツ社製のサーフィノールシリーズなどの市販品として入手が可能である。
【0033】
本発明の接着剤組成物は、(A)高分子ラテックス100重量部(固形分換算)に対して、(B)アセチレンジオール類が0.1〜3重量部(固形分換算)含まれることが必要である。0.1重量部(固形分換算)を下回ると接着剤組成物の塗布時におけるカスレなどの外観不良、及び抜糸強度不良の原因となる。さらには、耐ブリスター性が低下する。3重量部(固形分換算)を超えても、添加量に見合いする性能の向上幅が小さい。
【0034】
本発明の接着剤組成物では前述の(B)アセチレンジオール類の使用により耐ブリスター性が改善されることで、耐ブリスター剤として常用されるデンプン類の使用量の低減が可能となる。また、後述の(C)ヒンダードフェノール系酸化防止剤、(D)イオウ系酸化防止剤、(E)金属不活性剤を使用することで、より優れた品質の向上が可能となる。
【0035】
本発明では従来技術では到達しえなかった、(C)ヒンダードフェノール系酸化防止剤と(D)イオウ系酸化防止剤を、を特定の比率で使用し、さらには(C)ヒンダードフェノール系酸化防止剤と(D)イオウ系酸化防止剤の合計に対して(E)金属不活性剤を特定の比率で使用することで、より品質の向上が可能であり、生産性の向上に寄与することを見出した。
【0036】
本発明の接着剤組成物に使用する(C)ヒンダードフェノール系酸化防止剤は(A)高分子ラテックス内に発生したラジカルを補足することで老化を防止する物質であり、一次酸化防止剤として知られている。(C)ヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、住友化学社製、スミライザーGP、スミライザーGA―80、スミライザーMDP―Sなどがある。また、BASF社製、イルガノックス1010、イルガノックス245などがあげられる。さらには、エリオケム社製、ウィングスティLなどがあげられる。これらの1種または2種以上を併用することができる。中でもスミライザーGA―80、ウィングスティLの使用が好ましい。
【0037】
本発明の接着剤組成物に使用する(D)イオウ系酸化防止剤は、(A)高分子ラテックス内に発生する過酸化物を抑制することで老化を防止する物質であり、二次酸化防止剤として知られている。(D)イオウ系酸化防止剤としては、住友化学社製のスミライザーTP―D、スミライザーTPMなどが挙げられる。また、エーピーアイコーポレーション社製のDLTPヨシトミBなどが挙げられる。これらの1種または2種以上を併用することができる。中でもスミライザーTP―D、DLTPヨシトミBの使用が好ましい。
【0038】
本発明の接着剤組成物に使用する(E)金属不活性剤としては、アミノカルボン酸系キレート剤があげられる。具体的にはエチレンジアミン四酢酸、ジエチレン―トリアミン五酢酸などがある。また、アデカ社製のアデカスタブCDA―1、アデカスタブCDA―6、アデカスタブCDA―10などのベンズアミド系、ヒドラジド系の化合物などがあげられる。これらは単独でも使用可能であるが、二種類以上を使用することも可能である。中でもエチレンジアミン四酢酸、アデカスタブCDA―6の使用が好ましい。
【0039】
本発明の接着剤組成物に使用する(C)ヒンダードフェノール系酸化防止剤、(D)イオウ系酸化防止剤および(E)金属不活性剤は、(A)高分子ラテックス100重量部(固形分換算)に対して、(C)+(D)+(E)の合計量が0.1〜1.5重量部(固形分換算)であることが必要である。さらには、0.15〜1重量部(固形分換算)であることがより好ましい。0.1重量部(固形分換算)未満では十分な耐老化性が得られず、1.5重量部(固形分換算)を超えてもそれ以上の耐老化性の向上は期待できない。
【0040】
本発明の接着剤組成物では前述の(C)及び(D)の酸化防止剤と(E)金属不活性剤を特定の比率で使用することを特徴としている。(C)ヒンダードフェノール系酸化防止剤と(D)イオウ系酸化防止剤の混合比率は、(C)と(D)の合計を100とした場合、(C)/(D)=50/50〜95/5であることが好ましい。さらには、60/40〜90/10が好ましく、最も好ましくは、70/30〜80/20である。また、(C)ヒンダードフェノール系酸化防止剤と(D)イオウ系酸化防止剤の合計と(E)金属不活性剤の混合比率は、(C)+(D)+(E)の合計量を100とした場合、((C)+(D))/(E)=70/30〜99/1の比率であることが好ましい。さらには、80/20〜98/2が好ましく、最も好ましくは、70/30〜95/5である。これら上記の比率から逸脱した場合には、耐老化性が低下する傾向にある。
【0041】
前述の酸化防止剤(C)及び(D)は、平均粒子径として20μm以下の微粒子としかつ、水性分散体として(A)高分子ラテックスに加えるのが望ましい。平均粒子径として20μmを超えると酸化防止剤としての性能が不十分となる傾向があるので好ましくない。微粒子とし水性分散体とする工程は、(C)ヒンダードフェノール系酸化防止剤と(D)イオウ系酸化防止剤を単独あるいは所定の比率で混合し水と分散剤などを加えてボールミルで粉砕分散する、あるいは同様にしてガラスビースと混合して高速で攪拌し粉砕分散する方法などが挙げられる。
また、水に不溶あるいは水に対する溶解度の低い(E)金属不活性剤を使用する場合には、(E)金属不活性剤を所定の比率で(C)及び(D)の酸化防止剤と混合して水分散体とすることも可能である。水溶性あるいは水に対する溶解度の高い(E)金属不活性剤を使用する場合には、原体のまま、あるいは水に溶解して配合物に添加することも可能である。
【0042】
また、本発明の接着剤組成物には、充填剤として、炭酸カルシウム、クレー、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、硫酸バリウム、ゼオライト、酸化亜鉛、サチンホワイトなどの無機充填剤、あるいはポリオレフィン系紛体などの有機充填剤を1種または2種以上使用することができる。充填剤の使用量は、(A)高分子ラテックス100重量部(固形分換算)に対して350重量部(固形分換算)以下が好ましい。350重量部(固形分換算)を超えると抜糸強度及び耐水性が低下する傾向がある。
【0043】
本発明の接着剤組成物には、その他の添加剤として低分子量のポリアクリル酸ソーダ、アルキルナフタレンスルホン酸ソーダ、トリポリリン酸ソーダなどの分散剤、紫外線吸収剤、塩素系、臭素系、リン系などの難燃剤、イソチアゾリン系などの防腐剤、抗菌剤、消臭剤、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニアなどのpH調整剤、ポリアクリル酸ソーダ、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースなどの増粘剤、スルホコハク酸系などの浸透剤、シリコン系、鉱物油系などの消泡剤、着色顔料、香料など公知の添加剤を配合することも可能である。これらは種類、使用量ともに特に限定されず、接着剤組成物としての性能を阻害しない範囲で適宜適量使用することが出来る。
【0044】
本発明の接着剤組成物を敷物などに塗布する方法としては、特に限定されないが、例えば、コーティングバスに接着剤組成物を供給し、コーティングロールで持ち上げて裏面に塗布しドクターブレード等で過剰な接着剤組成物を掻き落として加工するロールコート法、裏面を上にして接着剤組成物を直接塗布してドクターロール等で過剰な接着剤組成物を掻き取り加工するダイレクトコート法などが挙げられる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、これらの実施例に限定されるものではない。なお実施例中、割合を示す部および%は特に断りのない限り重量基準によるものである。また実施例における諸物性の評価は次の方法に拠った。その評価結果は、表−1に示した。
【0046】
耐ブリスター性の評価
実施例及び比較例で得られた接着剤組成物を、一次基布がポリプロピレン製のスプリットヤーン織物で、パイルがポリプロピレン製の人工芝生機裏面に、乾燥前重量で800g/m均一に塗布したものを、150℃のオーブン中で15分間熱風乾燥、又は、180℃のオーブン中で10分間熱風乾燥し、発生したブリスターを目視で評価した。
(ブリスターの発生なし) ◎ > ○ > △ > × (全面にブリスター発生)
【0047】
耐老化性の評価
実施例及び比較例の配合から着色顔料を使用しない接着組成物を作成し、ガラス板上に厚み1mmでキャスティングし一夜間風乾させてフィルムを作成。フィルムを120℃で20分間加熱して耐老化試験用のサンプルとした。サンプルをギヤオーブン中、150℃で6時間加熱して、目視による黄変度の変化及びフィルムの硬化度合いを触感で評価し、総合的に耐老化性を評価した。
(耐老化性が良好) ◎ > ○ > △ > × (耐老化性が不良)
【0048】
抜糸強度の評価
実施例及び比較例で得られた接着剤組成物を、耐ブリスター性評価用と同じ人工芝生機裏面に、乾燥前重量で800g/m均一に塗布したものを、120℃のオーブン中で20分間熱風乾燥し、人工芝製品を作成した。得られた人工芝製品の抜糸強度について、JIS L 1021−8:2007(繊維性床敷物試験方法−第8部:パイル糸の引抜き強さ試験方法)に準拠した方法で測定した。
【0049】
耐水性の評価(耐水抜糸強度)
抜糸強度の評価用に得られた人工芝製品を、25℃の水に24時間浸漬させた後に取り出し、ウエスで水分をふき取った後、抜糸強度の評価と同様に測定した。
接着剤組成物の作成
【0050】
−1に示す配合にて、(A)高分子ラテックス、(B)アセチレンジオール類、(C)ヒンダードフェノール系酸化防止剤、(D)イオウ系酸化防止剤、(E)金属不活性剤、分散剤、消泡剤、デンプン、着色黒顔料、重質炭酸カルシウム、消泡剤、増粘剤と水で、固形分60±1%、粘度10000±1000mPa・sに調整し、本発明の実施例及び比較例としての接着剤組成物を作成し、それぞれの評価に使用した。耐老化試験用の接着剤組成物については着色黒顔料を使用しないものを同様に作成して評価に使用した。
【0051】
【表-1】
【0052】
表−1に示すとおり、本願発明である実施例1〜4に示す接着剤組成物は、いずれも耐ブリスター性、耐老化性、抜糸強度、耐水性に優れていた。
【0053】
表−1に示すとおり、比較例1〜5はいずれも本発明範囲とは異なることから耐ブリスター性、耐老化性、抜糸強度、耐水性が劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0054】
上記のとおり、本発明の裏打ち用接着剤組成物を用いることで、耐ブリスター性、耐老化性に優れることにより生産性の向上の際の諸問題の解決が可能となり、かつ、抜糸強度や耐水性などに優れた製品を安定的に提供できる。また、屋外での使用という過酷な条件でも十分な耐老化性を有するため、特に人工芝製品用の裏打ち材として好適である。

【要約】
(A)高分子ラテックス、(B)アセチレンジオール類、(C)ヒンダードフェノール系酸化防止剤、(D)イオウ系酸化防止剤、(E)金属不活性剤を含有し、(A)の100重量部(固形分換算)に対して(B)を0.1〜3重量部(固形分換算)、(C)〜(E)の合計が0.1〜1.5重量部(固形分換算)であることを特徴とする裏打ち用接着剤組成物を提供するものである。
【選択図】なし