【実施例1】
【0016】
図1は、本発明の第1の実施例による映像表示装置を示す構成図である。本実施例は、単一の表示素子を用いて、時分割で左右同一あるいは異なる映像を表示して立体視するタイプであり、かつ外景を同時に見るタイプのHMDの場合である。表示方式は、光源から発せられた光ビームを揺動ミラーで反射し、左右の表示面に投射し2次元的に走査させて映像を表示する方式である。映像表示装置を光学系と制御系に分けて説明する。
【0017】
光学系の構成は、赤(R)・緑(G)・青(B)色のレーザ光源10r/g/b、コリメートレンズ11、ミラーとダイクロイックプリズムで構成し各色のレーザ光を合成する光合波部12、時分割で透過と偏光変換を繰り返す偏光変換部14、ビーム光を2次元的に偏向する2軸揺動ミラー6,7、接眼光学系として偏光ビームスプリッタ15、ミラー16、左右の接眼部17L/Rを有し、表示面である使用者の左/右眼18L/Rに右眼側から映像を投射する構成である。各レーザ光源10からは、映像信号で変調された同一の偏光状態(本実施例ではP偏光)のビーム光が出射され、光合波部12にて同軸上に揃ったビーム光13となる。ビーム光は偏光変換部14にて、時分割でP偏光とS偏光とに交互に切り替えられ、2軸揺動ミラー6,7は所定の角度で反射ミラーを水平及び垂直方向に揺動回転することで、ビーム光を2次元的に偏向する。偏光ビームスプリッタ15では、偏向されたビーム光がS偏光のときは反射され右眼用の接眼部17Rへ進み、P偏光のときは透過してミラー16を介し左眼用の接眼部17Lへ進み、それぞれ表示面である使用者の右眼18Rと左眼18Lに導かれて映像を表示する。
【0018】
制御系の構成は、タイミング信号を生成するタイミング生成部3、揺動ミラー6,7の揺動条件を設定するミラー制御部4、揺動ミラー6,7を駆動するミラー駆動部5、入力映像信号を処理して表示用映像信号を生成する画像処理部8、レーザ光源10を駆動する光源駆動部9を有する。入力した映像信号2は画像処理部8にて左眼用と右眼用の映像信号に分離され、光源駆動部9はそれぞれの映像信号(R,G,B)に応じてレーザ光源10に駆動信号を供給する。タイミング生成部3は、揺動ミラー6,7の揺動タイミングに合わせて、左眼用と右眼用の映像信号の表示タイミングを決定し、また偏光変換部14のP偏光/S偏光切り替えを制御する。また、使用者の左/右眼18L/Rの間隔(眼幅Δd)を示す眼幅信号1は、タイミング生成部3に入力してミラー制御部4に送られる。ミラー制御部4では、眼幅Δdに応じて左眼表示と右眼表示の揺動ミラー6,7の揺動角を設定し、ミラー駆動部5は揺動ミラー6,7に対し揺動角に応じた駆動信号を供給する。
【0019】
以下、各部の構成を説明する。本実施例の光源には、ビーム光の光量を高速で容易に変調できるレーザ光源10を用いる。もちろん、レーザ光源の代わりに、LED光源をビーム集光用の光学部品や光量の変調部品とともに用いても良い。光ビームのスポット径(ビーム径)は、その放射強度がピーク値または光軸上の値の1/e
2(13.5%)となる所をスポット径とする定義にてφ1mm以下の大きさとし、表示する映像が所望の解像度を満足するようにしている。各レーザ光源10r,10g,10bの波長は、λr=640nm、λg=530nm、λb=450nmの可視光とする。
【0020】
偏光変換部14では、タイミング生成部3からの左眼映像と右眼映像の切替信号(LR_SW)を基準に、左眼/右眼の表示期間に合わせ、時分割でそれぞれ透過(P偏光出力)と偏光変換(S偏光出力)とを繰り返す。
【0021】
2軸の揺動ミラー6,7は、反射ミラーを2次元的に揺動するものであり、その駆動方式は電磁誘導、圧電駆動、静電駆動等いずれでも良い。また、揺動ミラー6,7の具体例を示せば、表示画面を水平方向走査(H_scan)する揺動ミラー6はφL=1.5mmの大きさで、揺動周期は25kHzである。一方表示画面を垂直方向走査(V_scan)する揺動ミラー7は、60Hzの周期で揺動する。ミラー駆動部5は揺動ミラー6,7に対して、25kHzの水平駆動信号(H_drive)と、60Hzの垂直駆動信号(V_drive)とを供給する。また、水平/垂直駆動信号の振幅を変えることで、揺動ミラー6,7の水平/垂直方向の揺動角(回転角)を調整する。なお、垂直駆動では画面内を一方向(例えば上から下方向)に走査するが、水平駆動では画面内を2方向(左から右方向と、右から左方向)に往復して走査する。
【0022】
接眼部17L/Rでは眼幅調整を行う。揺動ミラー6から右眼18Rまでの固定の光路長をd、使用者の眼幅をΔdとすると、揺動ミラー6から左眼18Lまでの光路長はd+Δdとなる。目幅調整では、接眼部17Rの位置を使用者の右眼18Rに合わせた後、図示しない調整機構を用いて、接眼部17Lの位置を移動させ使用者の左眼18Lに合致させる。この調整はHMD装着時だけでなく、映像表示中であっても良い。
【0023】
ミラー制御部4とミラー駆動部5は、接眼部17L/Rから固定の光路長dと調整後の眼幅Δdの情報を取得すると、左眼と右眼においてそれぞれ所望の走査範囲となるよう、揺動ミラー6,7の揺動条件を設定して駆動する。また画像処理部8は、左眼と右眼においてそれぞれが所望の映像表示サイズとなるよう、画像処理条件を設定して処理する。
【0024】
このように本実施例では、使用者の眼幅Δdにより生じる揺動ミラー6,7からの光路長の差に応じて揺動ミラー6,7の揺動角を設定し、左眼映像表示と右眼映像表示の際、揺動ミラー6,7の揺動角を切り替えることに特徴がある。
【0025】
図2は、左眼と右眼の映像表示のタイミング信号を示す図である。図面上側は画面垂直方向のタイミング信号、下側は画面水平方向のタイミング信号を示す。
【0026】
タイミング生成部3は、ミラー駆動部5で検出した揺動ミラー6,7の揺動位置信号(V_position、H_position)から垂直/水平開始基準信号(V_start、H_start)を生成し、これを基に映像信号のフレーム開始信号(V_sync)とライン開始信号(H_sync)を生成する。さらにタイミング生成部3は、左眼(L−ch)と右眼(R−ch)の時分割表示を実現するため、左眼と右眼とでミラー駆動信号(V_drive、H_drive)を切り替える切替信号(LR_SW_M)と、左眼と右眼とで映像表示期間(V_disp、H_disp)を切り替える切替信号(LR_SW)を生成する。
【0027】
揺動角の調整では、揺動ミラー6から右眼までの光路長d、左眼までの光路長d+Δdに対し、左右の接眼部17L/Rでの水平/垂直走査量(ラスタスキャン量)RSh/RSvが一致するように、ミラー6,7の左/右眼の揺動角θL/Rを定める。例えば、右眼までの光路長d=50mm、目幅Δd=80mmの場合、水平ラスタスキャン量RSh=10mmとするには、水平揺動ミラー6の左眼用揺動角θL=atan(RSh/2/(d+Δd))=±2.2°、右眼用揺動角θR=atan(RSh/2/d)=±5.7°の関係となる。垂直揺動ミラー7についても垂直ラスタスキャン量RSvに応じて同様に決定する。
【0028】
ミラー駆動部5は揺動ミラー6,7に対し、上記の揺動角θL/Rで揺動するように駆動信号(H_drive、V_drive)を与える。揺動角が駆動電圧に比例すると仮定すれば、
図2で示すように、右眼用駆動期間の駆動信号の振幅を5.7(相対値)、左眼用駆動期間の駆動信号の振幅を2.2(相対値)に設定することで、左/右眼での水平/垂直ラスタスキャン量RSh/RSvを一致させることができる。
【0029】
さらにタイミング生成部3では、上記揺動ミラー6,7の揺動条件に合わせて、左右の接眼部17L/Rでの映像表示領域と解像度が合致するように映像表示領域(期間)信号(V_disp、H_disp)、並びに左/右眼用の画素クロック(clk_l、clk_r)を生成する。画像処理部8では、入力した左/右眼用の映像信号Videoに対し、上記映像表示領域信号(V_disp、H_disp)と画素クロック(clk_l、clk_r)に同期するよう、フレームレート変換、スケーリングや解像度変換等を施して光源駆動部9に出力する。
【0030】
垂直方向の映像表示領域信号(V_disp)は、垂直同期信号(V_sync)を基準に、右眼表示開始時間t1、右眼表示領域時間t2、左眼表示開始時間t3、左眼表示領域時間t4を定める信号である。また水平方向の映像表示領域信号(H_disp)は、上記右眼表示領域時間t2と左眼表示領域時間t4の期間内に、水平同期信号(H_sync)を基準に、走査方向を順方向(左から右方向)と逆方向(右から左方向)に区別して定める。右眼については、順方向表示開始時間t21、順方向表示領域時間t22、逆方向表示開始時間t23、逆方向表示領域時間t24を定め、左眼については、順方向表示開始時間t41、順方向表示領域時間t42、逆方向表示開始時間t43、逆方向表示領域時間t44を定める。
【0031】
本実施例の構成では、上記したように左/右眼で走査領域(ラスタスキャン量)を一致させているので、映像表示領域信号(V_disp、H_disp)と画素クロック(clk_l、clk_r)は、左眼と右眼で同じ条件とする。
【0032】
図5は、左眼と右眼の走査領域と映像表示領域を示す図である。接眼部17L/Rにおける走査領域20L/Rと映像表示領域21L/Rは、上記したように左右両眼で同一条件で駆動されている。しかしながら、使用者の個人差やHMDの使用状況により立体映像を違和感なく視認するためには、左右両眼での輻輳距離や視距離を一致させる必要があり、そのために映像表示位置の微調整を行う。表示位置のシフト調整は、
図2における映像表示領域信号(V_disp、H_disp)の中で、垂直方向表示開始時間t1、t3と、水平方向表示開始時間t21、t23、t41、t43を調整する。これにより、
図5に示す走査領域20L/R中の映像表示領域21L/Rを上下左右にシフトさせ、使用者は立体映像を違和感なく視認することができる。
【0033】
以上のように本実施例では、単一の表示素子を用いた両眼タイプのHMDにおいて、個々人の眼幅を調整する際、あるいは輻輳距離や視距離を一致させるよう各種調整する際、タイミング信号をもとに電気的に調整する構成としたので、特別なレンズ系や収差補正や歪み補正等の光学系構成が不要となる。よって、装置のサイズや重量の低減につながり、HMD本来の利便性や携帯性を損なわずに実現できる。
【0034】
また、単一の表示素子を用いて、左右同一あるいは異なる映像を表示して立体視する場合でかつ外景を同時に見るタイプのHMDにおいて、視認する外景の明るさを維持することができる。
また、同一素子を時分割で利用する装置で特有の映像の色割れ感や左右映像のクロストーク(混合)等の視認性劣化を低減できる。
【0035】
さらに、視野内の外景に点滅体が存在する際であっても、外光を遮る期間がないため、点滅体の点滅周期と表示素子の動作周期との関係によるフリッカ(点滅)も発生しない。
また、偏光メガネや偏光シャッター眼鏡を介さない構成であるため、外光の偏光成分を保存して視認できることから、外景の明るさ低減も抑えることができる。
【0036】
なお、本実施例において次のような変形や置き換えが可能である。
本実施例では左眼と右眼の映像切り替えにP/S偏光の切り替えとしたが、右円/左円偏光としても良い。
光源がLED素子や蛍光体励起光などのように無偏光な光源の場合、P/S偏光のいずれかの偏光成分に揃えても良く、あるいは偏光変換部14がP偏光あるいはS偏光成分を時分割で選択するものであっても良い。
【0037】
揺動ミラー6,7はミラー面を機械的に揺動させる構成としたが、電気的に光の回折・屈折量を制御する電気偏向素子で構成しても良い。
揺動ミラー6から接眼部17L/Rまでの光路は、
図1の構成に限定されるものではなく、左/右眼で偏光成分が異る構成であれば左眼側から入射する構成でも良い。
【0038】
ラスタスキャン量は、直接描画を前提とした光学系で説明したが、ビーム径に見合った拡大・縮小光学系を例えば接眼部17L/Rに配してラスタスキャン量を調整する構成でも良い。
接眼部17L/Rに左眼/右眼の注視点を検出する検出器を付加し、注視点情報に基づき映像表示領域をシフトさせる構成としても良い。
【実施例2】
【0039】
図3は、本発明の第2の実施例による映像表示装置を示す構成図である。本実施例は、第1の実施例(
図1)の構成において、左/右眼用の駆動期間で水平方向の揺動ミラー6の揺動条件(H_drive)を同一とし、画像処理部8から出力される左/右眼用の映像信号の水平方向の表示期間の長さを異なるように構成したものである。以下、表示期間の変更を「スケーリング処理」と呼ぶことにする。この方式は、揺動ミラー6の共振周波数特性の影響で、揺動ミラー6の揺動角(振幅)を左/右眼用の駆動期間で高速(例えば25kHz)に切り替えるのが困難な場合に有効となる。
【0040】
本実施例では水平方向の左/右眼の揺動角を同一(θL=θR)としているため、左/右眼の水平ラスタスキャン量RShはそれぞれの光路長に比例し、眼幅Δdに相当する分だけ差が生じる。実施例1での数値条件においては、左眼の水平ラスタスキャン量RShは右眼の130/50=2.6倍に拡大するので、左眼用の映像表示期間を1/2.6倍に縮小(スケーリング処理)して左/右眼での表示サイズを一致させる。一方、垂直方向のラスタスキャン量RSvは左/右眼で同一であるので、スケーリング処理は行わない。
【0041】
図4は、左眼と右眼の映像表示のタイミング信号を示す図である。図面上側は画面垂直方向のタイミング信号を、下側は画面水平方向のタイミング信号を示す。揺動ミラー7に対する垂直駆動信号(V_drive)は、実施例1(
図2)と同様に左眼と右眼で異なる振幅を与えるが、水平駆動信号(H_drive)は左眼と右眼で同一の振幅を与える。
【0042】
垂直方向の映像表示領域信号(V_disp)については、左眼と右眼は同じ条件で良い。水平方向の映像表示領域信号(H_disp)については、左眼と右眼で同一の映像表示領域となるようにスケーリング処理を行い、左眼の表示領域時間をt42’,t44’に短縮し、左眼の表示開始時間をt41’,t43’に変更する。また、表示領域時間を短縮した分、左眼の表示映像の解像度を維持するため、画素クロック(clk_l)の周波数(変調速度)を上げる。さらに、画素当りの発光時間に応じて所望の輝度が得られるようにレーザ光源10r/g/bの増幅度を調整して駆動する。
【0043】
図6は、左眼と右眼の走査領域と映像表示領域を示す図である。走査領域20L/Rは左右で異なるものの、映像表示領域21L/Rは左右で同一とすることができる。さらに、左右両眼での輻輳距離や視距離を一致させるための表示領域のシフト調整は、実施例1と同様に、
図4における垂直方向表示開始時間t1、t3と、水平方向表示開始時間t21、t23、t41’、t43’を調整する。
【0044】
本実施例では、揺動ミラーの高周波数特性が制限される場合でも、左右の表示領域が同一となるよう電気的に処理することができる。また、個々人の眼幅を調整する際、あるいは輻輳距離や視距離を一致させるよう各種調整する際、タイミング信号をもとに電気的に調整する構成としたので、特別なレンズ系や収差補正や歪み補正等の光学系構成が不要となる。
【0045】
なお、上記実施例では水平方向の揺動ミラー6の揺動条件(H_drive)を左/右眼で同一としたが、さらに、垂直方向の揺動ミラー7の揺動条件(V_drive)を左/右眼で同一とすることも可能である。その場合には、左/右眼用の映像信号の垂直方向の表示期間についてもスケーリング処理を施してやれば良い。