(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来より、食品や日用品、医薬品の包装分野では内容物の変質を防止することが求められてきた。これら内容物の変質は、酸素や水蒸気などのガスが包装材料を透過して内容物と反応してしまう。よって、酸素や水蒸気などのガスを透過させない性質(ガスバリア性)を備えていることが求められており、温度、湿度などに影響されないアルミニウムなどの金属箔やアルミニウム蒸着フィルムが用いられてきた。
【0003】
ところが、アルミニウムなどの金属箔やアルミニウム蒸着フィルムを用いた包装材料は、ガスバリア性に優れるが、包装材料を透視して内容物を確認することができないだけではなく、使用後の廃棄の際は不燃物として処理しなければならない点や包装後の内容物などの検査の際に金属探知器が使用できない点などの欠点を有していた。また、包装用途ではなくとも酸素や水蒸気の進入で耐久性が劣化するようなエレクトロニクス部材等にもガスバリア性が必要とされる。同時に可視光線の透過が求められるときは、金属箔やアルミニウム蒸着フィルムでは対応しきれない問題があった。
【0004】
そこで、これらの欠点を克服した包装用材料として、最近では酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化アルミニウム、酸化珪素などの無機酸化物を透明な基材フィルム上に蒸着した蒸着フィルムが上市されている。これらの蒸着フィルムは透明性及び酸素、水蒸気等のガス遮断性を有していることが知られ、金属箔などでは得る事が出来ない透明性、ガスバリア性の両方を有する包装材料として好適とされている。特に酸化珪素膜は酸素と水蒸気の遮断性が優れている。
【0005】
この酸化珪素膜を得る蒸着材料として一般的に用いられる一酸化珪素(SiO)は、昇華で蒸発するため不安定である問題に関して安定化への加熱方法の試みが成されている(特許文献1参照)。これは、予備加熱を行い、昇華温度付近まで蒸着材料を加熱し安定成膜を実現するものである。しかしながら、生産性を上げるために原料を多く並べると、予備加熱を均一に行うことが難しくなる。また、昇華性の原料を底まで使い切ると急激に蒸発量が低下する問題には対処できない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、蒸着材料の蒸発量の安定化を図ることにより、蒸着フィルムの収率及び生産性を向上させることができる蒸着装置
を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の発明に係る蒸着装置は、フィルム搬送巻取室及び成膜室からなる真空チャンバーと、前記フィルム搬送巻取室内に配置され、樹脂フィルム基材を前記成膜室内を通過させながら連続的に搬送して巻き取るフィルム搬送巻取手段と、前記成膜室内に配置されている蒸着材料に電子ビームを照射して前記蒸着材料を蒸発させ前記成膜室内を通過する前記樹脂フィルム基材の下面に蒸着材料を蒸着する成膜手段と、前記成膜室内に配置され、前記蒸着材料を支持して所定方向へ移動させる蒸着材料移動台を有する蒸着材料移動手段と、前記蒸着材料移動台で支持された前記蒸着材料の下面の温度を測定して前記蒸着材料の温度測定値を生成する蒸着材料温度測定手段と、前記蒸着材料温度測定手段で生成された前記材料温度測定値に基づいて前記蒸着材料の蒸着加熱を制御する加熱蒸着制御手段と、を具備し、前記蒸着材料温度測定手段は、
カーボン製の前記蒸着材料移動台の内部に
上部が前記蒸着材料の下面
に接して当該下面の温度を複数個所で測定し得るように埋設され下部が前記蒸着材料移動台の下面から露出している
ステンレス製の複数の金属ピンと、前記各金属ピンの下部に接触するようにそれぞれ配置され前記各金属ピンの温度を個別に測定することにより前記蒸着材料の複数個所の温度を測定する複数の熱電対を具備し、前記蒸着材料温度測定手段は、前記複数の熱電対を用いて前記蒸着材料の予備加熱直前における前記蒸着材料の下面の複数個所の温度を測定することにより前記蒸着材料への加熱温度分布を測定し、前記加熱蒸着制御手段は、前記加熱温度分布における最大温度と最小温度の差が平均温度から10%以内となるように電子ビームの滞在時間を調整することにより前記蒸着材料を予備加熱し、かつ当該予備加熱後に該蒸着材料を電子ビームの照射で加熱蒸発するように構成されている、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、蒸着材料の予備加熱直前における蒸着材料の下面の温度を測定し蒸着材料への加熱温度分布を測定し、当該加熱温度分布における最大温度と最小温度の差が平均温度から10%以内で電子ビームによる加熱蒸着を行うため、蒸着材料の蒸発量の安定化を図ることにより、蒸着フィルムの収率及び生産性を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1に係る蒸着装置を示す概略図である。
図2は、本発明の実施の形態1に係る蒸着装置の蒸着材料移動台及び蒸着材料温度測定手段を示す斜視図である。
図3は、本発明の実施の形態1に係る蒸着装置の蒸着材料移動台を示す斜視図である。
【0013】
図1に示すように、本発明の実施の形態1に係る蒸着装置は、真空チャンバー11及び2つの真空ポンプ10を具備している。真空ポンプ10は、真空チャンバー11の内部の気体を排出して真空チャンバー11の内部を真空状態にする。
【0014】
真空チャンバー11の内部のほぼ中央部には、成膜ロール15が配置されている。真空チャンバー11の内部の上部には、繰り出しロール13及び巻き取りロール14が配置されている。真空チャンバー11の内部の下部には、仕切り板11aが配置されている。この仕切り板11aは、真空チャンバー11に固定されている。仕切り板11aは、真空チャンバー11の内部の上部をフィルム搬送巻取室21とし、真空チャンバー11の内部の下部を成膜室20としている。仕切り板11aは、貫通孔を規定
する孔内周面を有している。
【0015】
成膜ロール15は、上部がフィルム搬送巻取室21に配置され、かつ、下部が仕切り板11aの貫通孔を貫通して成膜室20に配置されている。繰り出しロール13には、予め樹脂フィルム基材12が巻かれている。繰り出しロール13、成膜ロール15及び巻き取りロール14は、矢印A、B、C方向ヘ駆動装置(図
示せず)により回転される。繰り出しロール13から繰り出される樹脂フィルム基材12は、成膜ロール15の下部の外周面を介して巻き取りロール14に巻き取られる。成膜ロール1
5は、樹脂フィルム基材12の冷却を行い、成膜過程で生じた熱によるフィルム基材12の浮きを少なくしている。繰り出しロール13、成膜ロール15、巻き取りロール14及び前記駆動装置は、真空チャンバー11のフィルム搬送巻取室21において樹脂フィルム基材12を連続的に搬送して巻き取るフィルム搬送巻取手段を構成している。
【0016】
本発明の実施の形態1に係る蒸着装置は、さらに蒸着材料17、蒸着材料移動手段18、電子銃16、蒸着材料温度測定手段22及び加熱蒸着制御手段23を具備している。蒸着材料移動手段18は、成膜室20に配置され、蒸着材料17を支持して矢印D方向へ移動させるものである。蒸着材料移動手段18は、蒸着材料17を支持して移動させる蒸着材料移動台181を具備している。
【0017】
蒸着材料17は、蒸着材料移動台181のカーボンからなる平板182の上に載置されている。電子銃16は、真空チャンバー11の成膜室20の側壁に固定されている。電子銃16は、蒸着材料17に電子ビーム19を照射して蒸着材料17を蒸発させて成膜ロール15の下部の外表面における樹脂フィルム基材12の下面に蒸着する。電子銃16及び蒸着材料17は、蒸着材料17を成膜ロール15の下部の外表面における樹脂フィルム基材12の下面に蒸着する成膜手段を構成している。
【0018】
蒸着材料17は、その組成によって蒸発温度が異なるがその温度に満たない低い温度にて予備加熱を行うことで蒸着の安定化を図ることができる。この蒸着の安定化により、具体的には、蒸着材料17の突沸防止や含有不純物の除去の効果がある。
【0019】
蒸着材料温度測定手段22は、蒸着材料17の下面の温度を測定して材料温度測定値を生成するものである。
図2に示すように、蒸着材料温度測定手段22は、複数の金属ピン221と複数の熱電対222とを具備している。複数の金属ピン221は、蒸着材料移動台181のカーボンの平板182に埋設され(
図2及び
図3参照)、上部が蒸着材料移動台181の平板182の
上面から露出し下部が蒸着材料移動台181の平板182の下面から露出している。複数の熱電対222は、複数の金属ピン221の下部に接触するように配置され複数の金属ピン221の温度を測定することにより蒸着材料17の温度を測定して材料温度測定値を生成する。金属ピン221の材料としては、特に問わないが一般的なステンレス製の金属を用いることができる。熱電対222は、特に限定されるものではないが、K熱電対(クロメルーアルメル)で構成することが好ましい。これは、K熱電対が1000℃程度の温度測定が可能で安価であるためである。
【0020】
加熱蒸着制御手段23は、蒸着材料温度測定手段22及び電子銃16に接続されている。蒸着材料温度測定手段22は、蒸着材料の予備加熱直前における蒸着材料の下面の温度を測定し蒸着材料への加熱温度分布を測定する。加熱蒸着制御手段23は、前記加熱温度分布における最大温度と最小温度の差が平均温度から10%以内で電子銃16の電子ビームによる加熱蒸着を行う。すなわち、加熱蒸着制御手段23は、電子銃16の電子ビームの滞在時間の調整を行うことで加熱温度分布における最大値と最小値が10%以内となるように予備加熱を行う。
【0021】
包装材料などに用いる透明バリア性薄膜は、真空成膜によって作成することがバリア性能や膜均一性の観点から好ましい。成膜手段は、真空蒸着法、スパッタリング法、化学的気相成長法(CVD法)などの公知の方法で作成することができるが、成膜速度が速く生産性が高いことから真空蒸着法が好ましい。
【0022】
その真空蒸着法の中でも特に電子ビーム加熱方式は、成膜速度が照射面積や電子ビーム電流などで制御し易いことや材料への昇温降温が短時間で行える点で有効である。薄膜の膜厚は用途によって選ぶことができるが、10nm以下では薄膜の連続性に問題があり、また300nm越えるとカールやクラックが発生しやすくバリア性能に悪影響を与えかつ可撓性が低下するため、好ましくは20〜200nmである。
【0023】
樹脂フィルム基材12は、特に限定されるものではなく公知のものを使用することができる。樹脂フィルム基材12の材料としては、例えば、ポリオレフィン系(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、ポリエステル系(ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等)、ポリアミド系(ナイロン−6、ナイロン−66等)、ポリスチレン、エチレンビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリイミド、ポリビニルアルコール、ポリカーボネイト、ポリエーテルスルホン、アクリル又はセルロース系(トリアセチルセルロース、ジアセチルセルロース等)などが挙げられるが特に限定されない。
【0024】
樹脂フィルム基材12の材料としては、実際的には、用途や要求物性により適宜選定をすることが望ましく、限定をする例ではないが医療用品、薬品、食品等の包装には、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン又はナイロンなどがコスト的に用いやすい。また、樹脂フィルム基材12の材料としては、電子部材、光学部材等の極端に水分を嫌う内容物を保護する包装には、ポリエチレンナフタレート、ポリイミド類又はポリエーテルスルホンなどのそれ自体も高いガスバリア性を有する基材を用いることが望ましい。また、樹脂フィルム基材12の厚みは、限定するものではないが、用途に応じて、6μmから200μm程度が使用しやすい。
【0025】
昇華性の蒸着材料17としては、例えば、一酸化珪素(SiO)、二酸化珪素(SiO
2)、フッ化マグネシウム(MgF
2)、酸化マグネシウム(MgO)又はインジウム−スズ酸化物(ITO)などが挙げられるがこれに限ったものではない。成型された原材料が加熱した部分のみ蒸発する材料であればかまわない。
【0026】
電子ビームの照射時温度は、カーボン製の平板182の上の金属ピン221から測定することができる。カーボン製の平板182は、炭素質からくる優れた特性、代表的なものでは導電性、耐熱性、低熱膨張率、化学安定性及び高熱伝導性を併せもつため、加熱による変形がないため好ましい。一般的にカーボンの平板182は、市販されているものを使用することができてフェルトやプレートなどの形で限定されるものではない。また、平板182の厚さは、温度測定ができるようであれば薄いものでも構わない。平板182は、金属ピン221が固定できる厚みがあれば十分である。電子ビームの温度測定としてカーボン板を使用する際には、平板182は、5mmから10mmの厚さのものが強度や熱容量があり好ましい。また、平板182は、カーボン板同士を互いに重ね合わせての利用ができる。
【0027】
(実施例1)
次に、本発明の実施例1について、図面を参照して説明する。真空チャンバー11の内部の蒸着材料移動台18
1の上に移動方向に対して直角方向である幅方向に蒸着材料17として、酸化珪素材料(SiO、大阪チタニウムテクノロジー社製)が400mmの幅に並べられた。
【0028】
蒸着材料移動台18
1の移動方向と同じ方向には150mmに渡り蒸着材料17が並べられ、その高さが約50mmになるように配置された。樹脂フィルム基材12としては、PET(ポリエチレンテレフタレート、東レ社製P60)の12μm厚のフィルムが用いられた。蒸着材料17と同じ高さに金属ピン(材質SUS316)221が埋め込まれており、それらの金属ピン221は、移動方向に対して幅方向に中心位置を含めた5箇所(80mmピッチ)に設置され、それぞれに熱電対(K熱電対)222がカーボンの平板18
2と金属ピン22
1の間で固定された。
【0029】
電子銃16の加速電圧が40kVとされ、ビーム電流が0.1Aとして酸化珪素材料からなる蒸着材料17が加熱され、蒸着材料温度測定手段22の温度測定器に表示された温度を確認しながら、電子ビームの滞在時間の調整を行うことで温度分布が最大値と最小値が10%以内となるように予備加熱が開始された。
【0030】
蒸着材料17の電子ビーム照射面の全面が予備加熱されたのちに、ビーム電流が0.25Aとされ酸化珪素材料からなる蒸着材料17が電子ビームにより加熱された。成膜室圧力は8.3×10
-3Paとされ蒸着材料17の膜厚が40nmとなるように巻取速度が調整され、電子ビームの加熱蒸着が行われた。蒸着材料移動台181は9mm/minの速度で電子ビームの加熱が開始された。蒸着膜の実際の厚さは蛍光X線(リガク社製 Supermini)でSi強度を測定し、予め電子顕微鏡の断面観察から得られた検量線によって膜厚測定がされた。
【0031】
(比較例1)
比較例1においては、電子ビームの加熱蒸着の調整をしない以外は、実施例1と同様の条件で加熱蒸着がされ膜厚安定度が確認された。
【0032】
(比較例2)
比較例2においては、電子ビームの加熱蒸着の調整をせず、かつ、蒸着材料の予備加熱をしない以外は、実施例1と同様の条件で加熱蒸着がされ膜厚安定度が確認された。
【0033】
図4は、本発明の実施例1と比較例1、2における透過率(%T)と膜厚を評価した結果を説明するための図である。
図4に示すように、実施例1は予備加熱の温度分布(分布に関して(最大値−最小値)/平均値と計算)は8.3%であるのに対して、比較例1では50%の分布となる。また、膜厚分布に関しては実施例1では8.5%であり,比較例1では28%であり、比較例2では35%であることが確認された。電子ビームの滞在時間の調整を行うことで温度分布が最大値と最小値が10%以内となるように予備加熱が行われることにより幅方向の膜厚分布を均一化することができた。
【0034】
本発明の実施の形態1においては、蒸着材料の蒸着量の安定した成膜が行えて、蒸着フィルムの収率向上及び生産性向上を提供する装置が得られる。また、本発明の実施の形態1においては、幅方向の均一な蒸発を実現できることで材料の使用効率が上がりコストダウンの効果がある。