(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、鉄系材料は、アルミなどの非鉄系材料よりもじん性が低く、ビレット割れが生じやすい傾向がある。このため、上記2段階加熱を鉄系材料のチクソキャスティングにそのまま適用した場合、1段目の急速加熱においては、ビレット割れの制約により、昇温時間を短くするのに限度があった。
【0005】
また、鉄−炭素系材料加熱時において、高温状態を長く保持するとビレット表面に脱炭層や酸化スケールが成長し、その脱炭層や酸化スケールが成型品に流れ込むことにより成形品質が低下し、かつ、均熱加熱ができていないと成形不良となり、成形品質が悪化する為、短時間で均熱加熱する必要があった。
【0006】
本発明の目的は、ビレット割れを起こすことなく短い時間で均熱加熱まで完了することが可能な誘導加熱方法および誘導加熱装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1発明の誘導加熱方法は、鉄系金属材料からなる加熱対象物を半溶融状態まで誘導加熱により加熱する誘導加熱方法である。この誘導加熱方法は、初期加熱工程と、加熱工程と、均熱加熱工程とを含むことを特徴とする。初期加熱工程は、加熱対象物を
、0〜30℃から加熱対象物のA1変態点未満の
710〜730℃まで誘導加熱により200〜300秒で加熱する。加熱工程は、加熱対象物を
、710〜730℃から半溶融状態になる前の
1100℃まで誘導加熱により140〜180秒で加熱する。均熱加熱工程は、加熱対象物の全体が均一の温度になるように、加熱対象物が半溶融状態になる1160〜1220℃を維持して誘導加熱により加熱する。
【0008】
ここでは、鉄系金属材料からなる加熱対象物を半溶融状態まで誘導加熱により3段階で加熱する。すなわち、初期加熱工程では、加熱対象物を
、0〜30℃から加熱対象物のA1変態点未満の
710〜730℃まで誘導加熱により加熱し、加熱工程では、加熱対象物を
、710〜730℃から半溶融状態になる前の
1100℃まで誘導加熱により加熱し、さらに、均熱加熱工程では、加熱対象物の全体が均一の温度になるように、加熱対象物が半溶融状態になる1160〜1220℃を維持して誘導加熱により加熱するので、ビレット割れを起こすことなく短い時間で均熱加熱まで完了することが可能である。
【0009】
第2発明の誘導加熱装置は、鉄系金属材料からなる加熱対象物を半溶融状態まで誘導加熱により加熱する誘導加熱装置である。この誘導加熱装置は、初期加熱部と、加熱部と、均熱加熱部とを含むことを特徴とする。初期加熱部は、加熱対象物を
、0〜30℃から加熱対象物のA1変態点未満の
710〜730℃まで誘導加熱により200〜300秒で加熱する。加熱部は、加熱対象物を
、710〜730℃から半溶融状態になる前の
1100℃まで誘導加熱により140〜180秒で加熱する。均熱加熱部は、加熱対象物の全体が均一の温度になるように、加熱対象物が半溶融状態になる1160〜1220℃を維持して誘導加熱により加熱する。
【0010】
ここでは、鉄系金属材料からなる加熱対象物を半溶融状態まで誘導加熱により3段階で加熱する。すなわち、初期加熱部では、加熱対象物を
、0〜30℃から加熱対象物のA1変態点未満の
710〜730℃まで誘導加熱により200〜300秒で加熱し、加熱部では、加熱対象物を
、710〜730℃から半溶融状態になる前の
1100℃まで誘導加熱により140〜180秒で加熱し、さらに、均熱加熱部では、加熱対象物の全体が均一の温度になるように、加熱対象物が半溶融状態になる1160〜1220℃を維持して誘導加熱により加熱するので、ビレット割れを起こすことなく短い時間で均熱加熱まで完了することが可能である。
【0011】
第3発明の誘導加熱装置は、第2発明の誘導加熱装置であって、第1誘導加熱部と、第2誘導加熱部とから構成されている。第1誘導加熱部は、初期加熱部を含む。第2誘導加熱部は、加熱部および均熱加熱部を含む。
【0012】
ここでは、初期加熱部を含む第1誘導加熱部と、加熱部および均熱加熱部を含む第2誘導加熱部とから構成されているので、まず、第1誘導加熱部の初期加熱部において、加熱対象物を
、0〜30℃から加熱対象物のA1変態点未満の
710〜730℃まで誘導加熱により加熱し、ついで、加熱対象物を第2誘導加熱部に移し変えることにより、第2誘導加熱部の加熱部において、加熱対象物を
、710〜730℃から半溶融状態になる前の
1100℃まで誘導加熱により加熱し、さらに加熱対象物を第2誘導加熱部の内部で移動させることにより、均熱加熱部において、加熱対象物の全体が均一の温度になるように、加熱対象物が半溶融状態になる1160〜1220℃を維持して誘導加熱により加熱することが可能である。このため、加熱部から均熱加熱部への加熱対象物の移動を第2誘導加熱部の内部で円滑に行うことができ、ビレット割れを起こすことなく短い時間で均熱加熱まで完了することが可能である。
【0013】
しかも、この誘導加熱装置では、停電等の問題が生じたとしても、変態点を有する加熱対象物を第1誘導加熱部から取り出して再利用することができる。したがって、この誘導加熱装置では、加熱中に停電等の問題が生じたとしても、初期加熱部内の全てのビレットを廃棄することなくコストを削減することができる。
【0014】
第4発明の誘導加熱装置は、第3発明の誘導加熱装置であって、初期加熱部において、加熱対象物を、トレイに載せない状態で
、0〜30℃から加熱対象物のA1変態点未満の
710〜730℃まで加熱する。そして、初期加熱部での加熱後に、加熱対象物をトレイに載せる。そして、加熱部において、加熱対象物を、トレイに載せた状態で
、710〜730℃から半溶融状態になる前の
1100℃まで加熱する。
【0015】
ここでは、まず、第1誘導加熱部の初期加熱部において、加熱対象物をトレイに載せない状態で
0〜30℃から加熱対象物のA1変態点未満の
710〜730℃まで誘導加熱により加熱し、ついで、加熱対象物を第1誘導加熱部から第2誘導加熱部へ移し変えるときに、トレイに載せて第2誘導加熱部へ投入する。これにより、第2誘導加熱部の内部において、加熱対象物をトレイに載せた状態で加熱部から均熱加熱部へ円滑に行うことができ、ビレット割れを起こすことなく短い時間で均熱加熱まで完了することが可能である。
【0016】
しかも、トレイに載せない状態で
0〜30℃から加熱対象物のA1変態点未満の
710〜730℃まで初期加熱した後、加熱対象物をトレイに載せた状態で加熱を行うので、トレイが長時間高熱の環境下に置かれることがなくなり、トレイの損傷を防止でき、かつ、トレイのコーティングが加熱対象物に付着して成形不良になるおそれを防止することが可能である。
【0017】
また、加熱対象物と加熱部のコイルとは近づける方が加熱効率が良くなるため、初期加熱部においては、加熱対象物をトレイに載せずに加熱している。しかも、トレイがないために、初期加熱部の炉の中を加熱対象物同士を近づけて流すことができる。また、初期加熱部のコイルを加熱対象物に近づけることができるので、加熱効率を良くすることができる。さらに、コイルを短くすることができ、製造、設備面等においてコストメリットもある。
【0018】
なお、加熱部では、初期加熱部よりも加熱対象物が高温になって柔らかくなるので、形状保持のために、トレイを使用している。
【0019】
第5発明の誘導加熱装置は、第4発明の誘導加熱装置であって、トレイは、加熱対象物を載置する載置部分を備える。載置部分には、加熱対象物との接触面積を低減するための少なくとも1つの凹部および/または凸部が形成されている。
【0020】
ここでは、トレイの載置部分には、加熱対象物との接触面積を低減するための少なくとも1つの凹部および/または凸部が形成されているので、加熱対象物とトレイとの接触面積が低減し、熱伝導による熱流出を抑えることができ、より短時間で均熱化することができる。また、トレイの温度上昇が抑えられ、トレイ寿命を延ばす効果もある。
【0021】
第6発明の誘導加熱装置は、第2発明から第5発明のいずれかの誘導加熱装置であって、初期加熱部、加熱部、および均熱加熱部は、それぞれ個別の高周波発振器を備えている。
【0022】
ここでは、初期加熱部、加熱部、および均熱加熱部が、それぞれ個別の高周波発振器を備えているので、各加熱工程ごとに高周波発振器により個別に電力調整をして機種段替等による加熱対象物の寸法変更にも対応できる。
【0023】
第7発明に係る温度測定方法は、第2発明に記載の誘導加熱装置において誘導加熱時における加熱対象物の温度測定方法であって、複数点温度測定ステップおよび温度決定ステップを備える。複数点温度測定ステップでは、加熱対象物と非接触式温度計とが相対移動させられながら加熱対象物の複数点の温度が測定される。温度決定ステップでは、複数点の温度から低温側の温度が排除されて加熱対象物の温度が決定される。
【0024】
この温度測定方法では、温度計測器具として非接触式の温度計が採用される。このため、この温度測定方法を採用すれば、量産サイクルタイムを遵守して生産を継続することができ、また、温度計の破損を防ぐことができる。また、この温度測定方法では、加熱対象物の複数点の温度が計測され、その温度から低温側の温度が排除されて加熱対象物の温度が決定される。このため、この温度測定方法では、加熱対象物が高温で加熱されて加熱対象物の所々の表面に酸化被膜が生じたとしても、その酸化被膜の温度が排除されて、加熱対象物の表面温度が正確に決定される。したがって、この温度測定方法を採用すれば、正確な温度測定を実現することができ、誘導加熱コイルの安定した正確なフィードバック制御が可能となる。
【0025】
第8発明に係る誘導加熱装置は、第4発明に記載の誘導加熱装置であって、誘導加熱コイル、および非磁性のパイプレールをさらに備える。パイプレールの本数は特に制限されず1本であってもよいし2本以上であってもよい。非磁性のパイプレールは、誘導加熱コイルの内部空間に通される。なお、このパイプレールの内部には、冷却媒体が流される。また、この「冷却媒体」は、特に限定されず水やエチレングリコール等であってよい。また、冷却媒体をパイプレール内に流す方法としては、ポンプを利用する方法や、位置エネルギーを利用する方法などが例示される。また、誘導加熱コイルとパイプレールとの間には壁等が存在してもよい。トレイは、パイプレール上を移動可能に設置される。なお、このトレイには、加熱対象物が置かれる。
【0026】
この誘導加熱装置では、非磁性のパイプレールの内部に冷却媒体が流され、パイプレールが冷却される。また、この誘導加熱装置では、レールに接触するトレイも同時に冷却される。このため、この誘導加熱装置では、トレイがレールに焼き付くのを防止することができる。
【0027】
第9発明に係る誘導加熱装置は、第2発明に係る誘導加熱装置であって、誘導加熱コイル、非接触式温度計および出力調整器をさらに備える。誘導加熱コイルは、直列的に複数配列される。なお、複数の誘導加熱コイルのうち幾つかの誘導加熱コイルが一つの回路を構成してもよいし、全ての誘導加熱コイルが独立した回路に組み込まれていてもよい。非接触式温度計は、複数の誘導加熱コイルのうち少なくとも2つの誘導加熱コイルの間に設置される。そして、この非接触式温度計は、誘導加熱コイルの加熱対象物の温度(表面温度)を計測する。出力調整器は、複数の誘導加熱コイルのうち少なくとも1つの誘導加熱コイル(以下「特定誘導加熱コイル」という)の出力を、特定誘導加熱コイルよりも加熱対象物の搬送方向上流側に配置される非接触式温度計による加熱対象物の実測温度値を利用して調整する。
【0028】
このため、この誘導加熱装置では、各加熱領域に入る前の加熱対象物の温度を利用して各加熱領域に対応する誘導加熱コイルの出力を調整することができる。つまり、この誘導加熱装置では、例えば、外気温等の外乱が原因で低温領域において加熱対象物が十分に加熱されていない場合には高温領域に対応する誘導加熱コイルの出力がデフォルト値よりも高められることになる。また、低温領域において加熱対象物が加熱され過ぎている場合には高温領域に対応する誘導加熱コイルの出力がデフォルト値よりも低められることになる。したがって、この誘導加熱装置は、気温変動等、外乱の激しい環境下に設置されても、加熱対象物をほぼ確実に所望の温度に加熱することができる。その結果、成形品質の安定化が可能になる。
【発明の効果】
【0029】
第1発明に係る誘導加熱方法では、ビレット割れを起こすことなく短い時間で均熱加熱まで完了することができる。
【0030】
第2発明に係る誘導加熱装置では、ビレット割れを起こすことなく短い時間で均熱加熱まで完了することができる。
【0031】
第3発明に係る誘導加熱装置では、加熱部から均熱加熱部への加熱対象物の移動を第2誘導加熱部の内部で円滑に行うことができ、ビレット割れを起こすことなく短い時間で均熱加熱まで完了することが可能である。しかも、停電等の問題が生じたとしても、変態点を有する加熱対象物を第1誘導加熱部から取り出して再利用することができる。その結果、この誘導加熱装置では、加熱中に停電等の問題が生じたとしても、初期加熱部内の全てのビレットを廃棄することなくコストを削減することができる。
【0032】
第4発明に係る誘導加熱装置では、第2誘導加熱部の内部において、加熱対象物をトレイに載せた状態で加熱部から均熱加熱部へ円滑に行うことができ、ビレット割れを起こすことなく短い時間で均熱加熱まで完了することが可能である。しかも、トレイが長時間高熱の環境下に置かれることがなくなり、トレイの損傷を防止でき、かつ、トレイのコーティングが加熱対象物に付着して成形不良になるおそれを防止することができる。
【0033】
しかも、初期加熱部では、加熱対象物をトレイに載せずに加熱しているので、加熱対象物と初期加熱部の加熱コイルとを近づけることができ、加熱効率が良くなる。また、トレイがないために、初期加熱部の中を加熱対象物同士を近づけて流すことができ、これによっても加熱効率を良くすることができる。さらに、初期加熱部のコイルを短くすることができるので、製造、設備面等においてコストメリットもある。
【0034】
第5発明に係る誘導加熱装置では、加熱対象物とトレイとの接触面積が低減し、熱伝導による熱流出を抑えることができ、より短時間で均熱化することができる。また、トレイの温度上昇が抑えられ、トレイ寿命を延ばす効果もある。
【0035】
第6発明に係る誘導加熱装置では、各加熱工程ごとに高周波発振器により個別に電力調整をして機種段替等による加熱対象物の寸法変更にも対応できる。
【0036】
第7発明に係る温度測定方法を採用すれば、量産サイクルタイムを遵守して生産を継続することができ、また、温度計の破損を防ぐことができる。また、この温度測定方法では、加熱対象物の複数点の温度が計測され、その温度から低温側の温度が排除されて加熱対象物の温度が決定されるため、加熱対象物が高温で加熱されて加熱対象物の所々の表面に酸化被膜が生じたとしても、その酸化被膜の温度が排除されて、加熱対象物の表面温度が正確に決定される。したがって、この温度測定方法を採用すれば、正確な温度測定を実現することができ、誘導加熱コイルの安定した正確なフィードバック制御が可能となる。
【0037】
第8発明に係る誘導加熱装置では、非磁性のパイプレールの内部に冷却媒体が流され、パイプレールが冷却される。また、この誘導加熱装置では、レールに接触するトレイも同時に冷却される。このため、この誘導加熱装置では、トレイがレールに焼き付くのを防止することができる。
【0038】
第9発明に係る誘導加熱装置では、気温変動等、外乱の激しい環境下に設置されても、加熱対象物をほぼ確実に所望の温度に加熱することができる。その結果、成形品質の安定化が可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0040】
[第1実施形態]
本発明の第1実施形態に係る誘導加熱装置1は、鉄系金属材料からなる加熱対象物である金属ビレットWKを半溶融状態まで誘導加熱により加熱する誘導加熱装置であり、
図1に示されるように、主に、第1誘導加熱部10、トレイ搬送装置30及び第2誘導加熱部50から構成される。以下、各装置について詳述する。
【0041】
<誘導加熱装置の構成要素の詳細>
この誘導加熱装置1は、2つの加熱装置10、50を備えており、第1誘導加熱部10が初期加熱炉11を含み、第2誘導加熱部50が急速加熱炉51aおよび均熱加熱炉51bを含む構成になっている。
【0042】
なお、本実施形態の誘導加熱装置1は、本発明の均熱加熱部として、均熱加熱炉51bの他にさらにそれを補助する副均熱加熱炉51cの2つの加熱炉を備えているが、副均熱加熱炉51cはなくてもよい。
【0043】
図5のグラフに示されるように、本発明の誘導加熱方法では、まず、初期加熱炉11において、初期加熱工程として、金属ビレットWKをその金属ビレットWKのA1変態点未満の第1所定温度T1(710〜730℃程度)まで誘導加熱により加熱する。
【0044】
この初期加熱工程では、環境温度T0(0〜30℃程度)から第1所定温度T1(710〜730℃程度)まで加熱するのに要する時間は、200〜300秒程度である。
【0045】
つぎに、急速加熱炉51aにおいて、急速加熱工程として、金属ビレットWKを半溶融状態になる直前の第2所定温度T2(共晶点近傍より少し低い1100℃近傍)まで誘導加熱により急速に加熱する。
【0046】
この急速加熱工程では、第1所定温度T1(710〜730℃程度)から第2所定温度T2(1100℃近傍)まで加熱するのに要する時間は、140〜180秒程度である。
【0047】
その後、均熱加熱炉51bにおいて、均熱加熱工程として、金属ビレットWKの全体が均一の温度になるように、金属ビレットWKが半溶融状態になる第3所定温度T3(1160〜1220℃程度)を維持して誘導加熱により加熱する。
【0048】
この均熱加熱工程では、第3所定温度T3(1160〜1220℃程度)を維持して35〜45秒程度加熱する。
【0049】
また、本実施形態の誘導加熱装置1では、まず、初期加熱炉11において、金属ビレットWKを、トレイTRに載せない状態で金属ビレットWKのA1変態点未満の第1所定温度まで加熱する。その後、初期加熱炉11での加熱後に、金属ビレットWKをトレイTRに載せる。それから、急速加熱炉51aにおいて、金属ビレットWKを、トレイTRに載せた状態で半溶融状態になる直前の第2所定温度まで急速に加熱する。
【0050】
また、この誘導加熱装置1では、初期加熱炉11、急速加熱炉51a、および均熱加熱炉51bには、それぞれ個別の高周波発振器15、55a、55bを備えている。すなわち、初期加熱炉11は高周波発振器15によって出力制御され、急速加熱炉51aは高周波発振器55aによって電力制御され、均熱加熱炉51bは高周波発振器55bによって電力制御される。
【0051】
例えば、それぞれの加熱炉は、次のような加熱条件に設定されて加熱を行う。すなわち、初期加熱炉11の電力P1については、出力電圧240V 電流190Aに設定される。急速加熱炉51aの電力P2については、2ステーション有る場合には、1ステーション目が出力電圧230V、電流195Aに設定され、2ステーション目が出力電圧150V、電流160Aに設定される。さらに、均熱加熱炉51bの電力P3については、出力電圧150V、電流110Aに設定される。
【0052】
ここで、初期加熱炉11に用いられるコイルは、トレイTRに載せない状態の金属ビレットWKが通ればよいので小口径ですむ。一方、急速加熱炉51aおよび均熱加熱炉51bに用いられるコイルはトレイTRに載せた状態の金属ビレットWKが通るので大口径になる。
【0053】
なお、本実施形態のように均熱加熱部として均熱加熱炉51bとともに補助用の副均熱加熱炉51cを用いる場合の電力P3は、均熱加熱炉51bおよび副均熱加熱炉51cの電力の総和のことである。
【0054】
(1)第1誘導加熱部
第1誘導加熱部10は、
図2に示されるように、主に、初期加熱炉11、第1プッシャー16、第1非接触式温度センサ19および第1制御装置18から構成されている。
【0055】
初期加熱炉11は、
図2に示されるように、主に、外壁14、内壁13、誘導加熱コイル12および高周波発振器15から構成されている。外壁14は、略円筒形の壁であって、耐火物から形成されている。内壁13は、外壁14よりも小さな径を有する略円筒形の壁であって、外壁14と同様に耐火物から形成されている。誘導加熱コイル12は、内壁13及び外壁14の間に位置し、内壁13を囲うように設けられている。高周波発振器15は、誘導加熱コイル12に接続されている。また、この高周波発振器15は、第1制御装置18にも接続されており、第1制御装置18によって出力が調整される。
【0056】
第1プッシャー16は、いわゆる油圧シリンダであって、第1金属ビレット設置台20に取り付けられており、一定時間おきに金属ビレットWKを押し出す。この結果、金属ビレットWKは、初期加熱炉11から順次排出される。
【0057】
第1非接触式温度センサ19は、初期加熱炉11の排出口付近に取り付けられており、順次移動する金属ビレットWKの表面温度を金属ビレットWKの長手方向に沿って連続的に計測する。計測されたビレットWKの表面温度は、電気信号として第1制御装置18に送られた後、A/D変換されてデータ化され(以下、このデータを「表面温度データ」という)、第1制御装置18の記憶部に蓄積される。なお、誘導加熱コイル12のフィードバック制御に用いられる金属ビレットWKの表面温度は、第1制御装置18の記憶部に蓄積された表面温度データを演算処理することにより得られる。この演算処理については後に詳述する。
【0058】
第1制御装置18は、金属ビレットWKの表面温度データが常に設定値以下となるように高周波発振器15の出力をフィードバック制御する。ここで、本実施の形態において、設定値は、金属ビレットWKのA1変態点よりも低く設定されている。なお、炭素鋼は700℃付近に変態点を有する。
【0059】
(2)トレイ搬送装置
トレイ搬送装置30は、いわゆるアームロボットであって、初期加熱炉11から排出される金属ビレットWKをチャックした後に、その金属ビレットWKを第2誘導加熱部50の入口に配置されるトレイTR(
図3参照)に置く。なお、本実施の形態において、トレイTRは、第2誘導加熱部50から排出されると、第2誘導加熱部50の入口に戻り、再び、ビレットWKを載せて第2誘導加熱部50内に送られる。
【0060】
(3)第2誘導加熱部
第2誘導加熱部50は、
図4に示されるように、主に、急速加熱炉51a、均熱加熱炉51b、副均熱加熱炉51c、第2プッシャー56、ガイドレール57、第2非接触式温度センサ59および第2制御装置58から構成されている。
【0061】
急速加熱炉51aおよび均熱加熱炉51bは、直列的に連結されている。なお、本実施の形態において、急速加熱炉51aは金属ビレットWKの投入側に配置され、均熱加熱炉51bおよび副均熱加熱炉51cは金属ビレットWKの排出側に配置されている。
【0062】
また、これらの誘導加熱炉51a,51b、51cは、同一の構成を有している。したがって、ここでは、急速加熱炉51aについてのみ説明を行う。なお、均熱加熱炉51bおよび副均熱加熱炉51cは、主に均熱処理のために設けられている。
【0063】
急速加熱炉51aは、
図4に示されるように、主に、外壁54a、内壁53a、誘導加熱コイル52aおよび高周波発振器55aから構成されている。外壁54aは、略円筒形の壁であって、耐火物から形成されている。内壁53aは、外壁54aよりも小さな径を有する略円筒形の壁であって、外壁54aと同様に耐火物から形成されている。なお、急速加熱炉51aの外壁54a及び内壁53aは、金属ビレットWKを載せたトレイTRが通過できるように第1初期加熱炉11aのそれよりも径が大きく設計されている。誘導加熱コイル52aは、内壁53a及び外壁54aの間に位置し、内壁53aを囲うように設けられている。なお、この誘導加熱コイル52aもまた上記の事情により初期加熱炉11の誘導加熱コイル12よりも径が大きく設計されている。高周波発振器55aは、誘導加熱コイル52aに接続されている。また、この高周波発振器55aは、第2制御装置58にも接続されており、第2制御装置58によって出力が調整される。
【0064】
第2プッシャー56は、いわゆる油圧シリンダであって、第2金属ビレット設置台55に取り付けられており、一定時間おきに均熱加熱炉51b、副均熱加熱炉51cに向かって金属ビレットWKを載せたトレイTRを押し出す。この結果、金属ビレットWKを載せたトレイTRは、急速加熱炉51aに投入された後に均熱加熱炉51b、副均熱加熱炉51cから順次排出される。なお、副均熱加熱炉51cから排出された金属ビレットWKを載せたトレイTRは、図示しないアームロボットによって図示しない成形機に投入される。
【0065】
ガイドレール57は、ステンレス製の一対のレールであって、急速加熱炉51a、均熱加熱炉51bおよび副均熱加熱炉51cの内壁53a,53bの内部の下方に設置されている。トレイTRは、このガイドレール57に沿って副均熱加熱炉51cに向かって移動する。
【0066】
第2非接触式温度センサ59は、急速加熱炉51aの誘導加熱コイル52aと均熱加熱炉51bの誘導加熱コイル52bとの間、均熱加熱炉51bの誘導加熱コイル52bと副均熱加熱炉51cの誘導加熱コイル52cとの間、および副均熱加熱炉51cの排出口付近に取り付けられており(
図4では排出口付近のもののみ図示されている)、順次移動する金属ビレットWKの表面温度を金属ビレットWKの長手方向に沿って連続的に計測する。なお、説明の便宜上、急速加熱炉51aの誘導加熱コイル52aと均熱加熱炉51bの誘導加熱コイル52bとの間に設置される第2非接触式温度センサ59を「第21非接触式温度センサ」といい、均熱加熱炉51bの誘導加熱コイル52bと副均熱加熱炉51cの誘導加熱コイル52cとの間に設置される第2非接触式温度センサ59を「第22非接触式温度センサ」といい、副均熱加熱炉51cの排出口付近に設置される第2非接触式温度センサ59を「第23非接触式温度センサ」という。計測されたビレットWKの表面温度は、電気信号として第2制御装置58に送られた後、A/D変換されてデータ化され、第2制御装置58の記憶部に蓄積される。なお、高周波発振器55a,55b,55cの出力制御に用いられる金属ビレットWKの表面温度は、第2制御装置58の記憶部に蓄積された表面温度データを演算処理することにより得られる。この演算処理については後に詳述する。なお、本実施形態において、第23非接触式温度センサは、最終確認用の温度センサであって本実施の形態に係る誘導加熱コイル52b,52cの出力調整には関連しない。
【0067】
第2制御装置58は、第21非接触式温度センサに対応する表面温度データに基づいて均熱加熱炉51bの高周波発振器55bの出力調整を行い、第22非接触式温度センサに対応する表面温度データに基づいて副均熱加熱炉51cの高周波発振器55cの出力調整を行う。具体的には、第2非接触式温度センサ59の設置位置毎に規定される金属ビレットWKの目標表面温度値から表面温度データの表面温度値を引いた値が求められ、その値が正の値である場合はその差に応じて高周波発振器55b,55cの出力が高められ、その値が負の値である場合はその差に応じて高周波発振器55b,55cの出力が低くめられる。なお、本実施の形態において、金属ビレットWKの目標表面温度値は、図示しない目標表面温度値入力器において入力される。また、本実施の形態において、金属ビレットWKの目標表面温度値から実際の表面温度値を引いた値と高周波発振器55b、55cの出力調整量とは予め関連付けされている。つまり、本実施の形態では、目標表面温度値と実際の表面温度値との差から直接的に出力調整量が決定される仕組みとなっている。
【0068】
<制御装置における金属ビレットの表面温度データの演算処理>
制御装置18,58は、所定時間毎に記憶部から規定数の表面温度データを読み出し、その表面温度データのうち表面温度が最も高い表面温度データを抽出し、その表面温度データを誘導加熱コイル52b、52cの出力調整用の制御パラメーラとして採用する。なお、本実施の形態では、規定数の表面温度データは、1つの金属ビレットWKから得られたものである。
【0069】
<第1実施形態の誘導加熱方法および誘導加熱装置の特徴>
(1)
第1実施形態の誘導加熱方法では、鉄系金属材料からなる金属ビレットWKを半溶融状態まで誘導加熱により3段階で加熱する。すなわち、初期加熱工程では、金属ビレットWKを金属ビレットWKのA1変態点未満の第1所定温度まで誘導加熱により加熱し、急速加熱工程では、金属ビレットWKを半溶融状態になる直前の第2所定温度T2まで誘導加熱により急速に加熱し、さらに、均熱加熱工程では、金属ビレットWKの全体が均一の温度になるように、半溶融状態になる第3所定温度T3を維持して誘導加熱により加熱する。そのため、ビレット割れを起こすことなく短い時間で均熱加熱まで完了することが可能である。
【0070】
その結果、ビレット割れをおこすことなく短い時間で均熱加熱できるようになり、ビレットが加熱炉に投入されている時間が短くなる効果で、脱炭層、酸化スケールが少なくなり成型品品質を向上することができる。
【0071】
(2)
同様に、第1実施形態の誘導加熱装置1では、 鉄系金属材料からなる金属ビレットWKを半溶融状態まで誘導加熱により3段階で加熱する。すなわち、初期加熱炉11では、金属ビレットWKを金属ビレットWKのA1変態点未満の第1所定温度T1まで誘導加熱により加熱し、急速加熱炉51aでは、金属ビレットWKを半溶融状態になる直前の第2所定温度T2まで誘導加熱により急速に加熱し、さらに、均熱加熱炉51bでは、金属ビレットWKの全体が均一の温度になるように、半溶融状態になる第3所定温度T3を維持して誘導加熱により加熱するので、ビレット割れを起こすことなく短い時間で均熱加熱まで完了することが可能である。これにより、上記(1)と同様に、ビレット割れをおこすことなく短い時間で均熱加熱できるようになり、ビレットが加熱炉に投入されている時間が短くなり、その効果、脱炭層、酸化スケールが少なくなり成型品品質を向上することができる。
【0072】
(3)
また、第1実施形態の誘導加熱装置では、初期加熱炉11を含む第1誘導加熱部10と、急速加熱炉51aおよび均熱加熱炉51bを含む第2誘導加熱部50とから構成されているので、まず、第1誘導加熱部10の初期加熱炉11において、金属ビレットWKを金属ビレットWKのA1変態点未満の第1所定温度T1まで誘導加熱により加熱し、ついで、金属ビレットWKを第2誘導加熱部50に移し変えることにより、第2誘導加熱部50の急速加熱炉51aにおいて、金属ビレットWKを半溶融状態になる直前の第2所定温度T2まで誘導加熱により急速に加熱し、さらに金属ビレットWKを第2誘導加熱部50の内部で移動させることにより、均熱加熱炉51bにおいて、金属ビレットWKの全体が均一の温度になるように、金属ビレットWKが半溶融状態になる第3所定温度T3を維持して誘導加熱により加熱することが可能である。このため、急速加熱炉51aから均熱加熱炉51bへの金属ビレットWKの移動を第2誘導加熱部50の内部で円滑に行うことができ、ビレット割れを起こすことなく短い時間で均熱加熱まで完了することが可能である。
【0073】
しかも、この誘導加熱装置では、停電等の問題が生じたとしても、変態点を有する金属ビレットWKを第1誘導加熱部10から取り出して再利用することができる。したがって、この誘導加熱装置1では、加熱中に停電等の問題が生じたとしても、初期加熱炉11内の全てのビレットを廃棄することなくコストを削減することができる。
【0074】
(4)
すなわち、第1実施形態に係る誘導加熱装置1では、第1誘導加熱部10と第2誘導加熱部50とが分離して設けられており、さらに、第1誘導加熱部10において第1所定温度T1が金属ビレットWKのA1変態点よりも低く設定されている。このため、この誘導加熱装置1が停電等の原因により突然停止して金属ビレットWKが常温近くまで冷却されたとしても、組織変化をしていない状態なので、この金属ビレットWKを再利用することができる。したがって、この誘導加熱装置1では、成形加工物の生産効率に影響を及ぼすことがない。
【0075】
(5)
さらに、第1実施形態に係る誘導加熱装置1では、第1誘導加熱部10と第2誘導加熱部50とが分離して設けられており、さらに、第1誘導加熱部10において第1所定温度T1が金属ビレットWKのA1変態点よりも低く設定されている。このため、この誘導加熱装置1では、第1誘導加熱部10においてビレットWKをトレイTRに載せる必要性がない。したがって、この誘導加熱装置1では、第1誘導加熱部10をコンパクト化することができると共に必要なトレイTRの枚数を少なくすることができる。
【0076】
(6)
また、第1実施形態の誘導加熱装置では、第1誘導加熱部10の初期加熱炉11において、金属ビレットWKをトレイTRに載せない状態で金属ビレットWKのA1変態点未満の第1所定温度T1まで誘導加熱により加熱し、ついで、金属ビレットWKを第1誘導加熱部10から第2誘導加熱部50へ移し変えるときに、トレイTRに載せて第2誘導加熱部50へ投入する。これにより、第2誘導加熱部50の内部において、金属ビレットWKをトレイTRに載せた状態で急速加熱炉51aから均熱加熱炉51bへ円滑に行うことができ、ビレット割れを起こすことなく短い時間で均熱加熱まで完了することが可能である。
【0077】
しかも、トレイTRに載せない状態で金属ビレットWKのA1変態点未満の第1所定温度T1まで初期加熱した後、金属ビレットWKをトレイTRに載せた状態で急速加熱を行うので、トレイTRが長時間高熱の環境下に置かれることがなくなり、トレイTRの損傷を防止できる。また、コーティングを施さなくてもトレイTRの寿命が長くなる。しかも、トレイTRのコーティングが金属ビレットWKに付着して成形不良になるおそれを防止することが可能である。
【0078】
すなわち、従来では、耐久性向上のため、トレイに耐熱性のコーティングを施して使用していたが、コーティングの劣化によるはがれが発生し、コーティング材が成型品への流れ込みによる成型品品質の悪化、あるいは、コーティングの補修コスト(工数、コーティング材料費)等の不具合があった。また、コーティングが劣化すると、ビレットが頻繁にトレーに貼りつく不具合があり、製造ライン停止などの不具合が発生し、復旧に時間をようし大幅な生産性低下があった。
【0079】
しかし、上記のように金属ビレットWKをトレイTRに載せた状態で急速加熱を行うことにより、加熱トレイにコーティングを施すなくトレイ寿命が延び、成型品品質、トレイコスト、生産性向上に効果がある。加熱トレイにコーティングを施すなくトレイ寿命が延び、成型品品質、トレイコスト、生産性向上に効果がある。
【0080】
さらに、初期加熱炉11では、金属ビレットWKをトレイTRに載せずに加熱しているので、金属ビレットWKと誘導加熱コイル12とを近づけることができ、加熱効率が良くなる。
【0081】
また、トレイTRがないために、初期加熱炉11の中を金属ビレットWK同士を近づけて流すことができ、これによっても加熱効率を良くすることができる。
【0082】
しかも、初期加熱炉11の誘導加熱コイル12を短くすることができるので、製造、設備面等においてコストメリットもある。
【0083】
(7)
第1実施形態の誘導加熱装置では、初期加熱炉11、急速加熱炉51a、および均熱加熱炉51bには、それぞれ個別の高周波発振器15、55a、55bを備えているので、各加熱工程ごとに高周波発振器15、55a、55bにより個別に電力調整をして機種段替等による金属ビレットWKの寸法変更にも対応できる。
【0084】
(8)
また、第1実施形態に係る誘導加熱装置1では、第2誘導加熱部50において、第21非接触式温度センサに対応する表面温度データに基づいて均熱加熱炉51bの高周波発振器55bの出力調整が行われ、第22非接触式温度センサに対応する表面温度データに基づいて副均熱加熱炉51cの高周波発振器55cの出力調整が行われる。より具体的には、第2非接触式温度センサ59の設置位置毎に規定される金属ビレットWKの目標表面温度値から表面温度データの表面温度値を引いた値が求められ、その値が正の値である場合はその差に応じて高周波発振器55b、55cの出力が高められ、その値が負の値である場合はその差に応じて高周波発振器55b,55cの出力が低くめられる。このため、この第2誘導加熱部50は、気温変動等、外乱の激しい環境下に設置されても、金属ビレットwkをほぼ確実に目標の表面温度に加熱することができる。
【0085】
(9)
さらに、第1実施形態に係る誘導加熱装置1では、温度計測器具として非接触式温度センサ19,59が採用される。このため、この誘導加熱装置1では、成形加工工程において量産サイクルタイムを遵守して成形加工物の生産を継続することができ、また、温度計の破損を防ぐことができる。
【0086】
<第1実施形態の変形例>
(A)
第1実施形態では第2誘導加熱部50において3つの誘導加熱炉が用いられたが、誘導加熱炉の数は特に限定されず、3つよりも少なくてもよいし多くてもよい。
【0087】
(B)
第1実施形態では非接触式温度センサ19,59により金属ビレットWKの表面温度が計測されたが、接触式温度センサにより金属ビレットWKの内部温度が計測されてもよい。
【0088】
(
C)
第2実施形態に係る誘導加熱装置1では金属ビレットWKの複数点の表面温度データのうち表面温度が最大の表面温度データを制御パラメータとして採用したが、このような態様に代えて、複数点の表面温度データのうち高温側の表温度データを所定割合(例えば70%)残し、その表面温度の平均値や、中央値、最小値などを制御パラメータとして採用してもかまわない。
【0089】
(
D)
第2実施形態に係る誘導加熱装置1では特に言及しなかったが、金属ビレットWKがプッシャー16,56で押されている間のみ温度計測を行うようにしてもかまわない。
【0090】
(
E)
第2実施形態に係る誘導加熱装置1では連続的に金属ビレットWKの温度計測が実施されたが、間欠的に金属ビレットWKの温度計測が実施されていてもよい。
【0091】
<第1実施形態の産業上の利用可能性>
本発明の第1実施形態に係る誘導加熱装置は、とくに、気温変動等、外乱の激しい環境下に設置されても、加熱対象物をほぼ確実に所望の温度に加熱することができるという特徴を有しており、外乱の激しい地域向けの誘導加熱装置として有用である。
【0092】
[第2実施形態]
過去に「誘導加熱時において誘導加熱停止中に加熱対象物の内部に直接、接触式の温度計を挿入し、加熱対象物の内部温度を測定する方法」が提案されている(例えば、特開平6−182777号公報参照)。
【0093】
しかし、接触式温度計を利用した場合、接触部分に加熱対象物の一部が溶着したりすることがある。このように加熱対象物の一部が溶着すると、接触式温度計を頻繁に取り替える必要があり、量産サイクルタイムを遵守して生産を継続することが極めて困難となる。また、接触式温度計を利用した場合、1000℃以上の温度を有する加熱対象物を測定すると、その接触式温度計が破損しやすい。このため、温度計として非接触式の温度計を採用することが考えられるが、加熱対象物を高温で加熱すると所々に酸化被膜が生じ、その酸化被膜部分が測定されてしまうと、測定値が低くなってしまう。このような現象により正確な温度測定が困難となり、引いてはフィードバック制御による誘導加熱コイルの出力調整が行えなくなる。
【0094】
そこで、第2実施形態では、誘導加熱時において、量産サイクルタイムを遵守して生産を継続することができ、温度計の破損を防ぐことができ、さらに正確な温度測定を実現することができる温度測定方法を提供する。
【0095】
本発明の第2実施形態に係る誘導加熱装置1は、第1実施形態と同様に、
図1に示されるように、主に、第1誘導加熱部10、トレイ搬送装置30及び第2誘導加熱部50から構成される。以下、各装置について詳述する。
【0096】
なお、第2実施形態に係る誘導加熱装置1は、第1実施形態と同様に、第1誘導加熱部10と第2誘導加熱部50とが分離して設けられており、さらに、第1誘導加熱部10は、3つの初期加熱炉(第1初期加熱炉11a、第2初期加熱炉11b、第3初期加熱炉11c)を有している。
【0097】
<誘導加熱装置の構成要素の詳細>
(1)第1誘導加熱部
第1誘導加熱部10は、
図6に示されるように、主に、第1初期加熱炉11a、第2初期加熱炉11b、第3初期加熱炉11c、第1プッシャー16、第1非接触式温度センサ19および第1制御装置18から構成されている。
【0098】
第1初期加熱炉11a、第2初期加熱炉11bおよび第3初期加熱炉11cは、直列的に連結されている。なお、本実施の形態において、第1初期加熱炉11aは金属ビレットWKの投入側に配置され、第3初期加熱炉11cは金属ビレットWKの排出側に配置されている。また、これらの初期加熱炉11a,11b,11cは、全て同一の構成を有している。したがって、ここでは、第1初期加熱炉11aについてのみ説明を行う。
【0099】
第1初期加熱炉11aは、
図6に示されるように、主に、外壁14a、内壁13aおよび誘導加熱コイル12aから構成されている。外壁14aは、略円筒形の壁であって、耐火物から形成されている。内壁13aは、外壁14aよりも小さな径を有する略円筒形の壁であって、外壁14aと同様に耐火物から形成されている。誘導加熱コイル12aは、内壁13a及び外壁14aの間に位置し、内壁13aを囲うように設けられている。また、この誘導加熱コイル12aは、第1制御装置18に接続されており、制御装置18によって出力調整される。
【0100】
第1プッシャー16は、いわゆる油圧シリンダであって、第1金属ビレット設置台20に取り付けられており、一定時間おきに第3初期加熱炉11cに向かって金属ビレットWKを押し出す。この結果、金属ビレットWKは、第1初期加熱炉11aに投入された後に第3初期加熱炉11cから順次排出される。なお、第3初期加熱炉11cから排出された金属ビレットWKは、
図3に示されるトレイTRに載せられた後、トレイ搬送装置30により第2誘導加熱部50に送られる。なお、トレイTRは、金属ビレットWKが第3初期加熱炉11cから排出される前にトレイ搬送装置30によってトレイ設置台17に置かれる。
【0101】
第1非接触式温度センサ19は、第3初期加熱炉11cの排出口付近に取り付けられており、順次移動する金属ビレットWKの表面温度を金属ビレットWKの長手方向に沿って連続的に計測する。計測されたビレットWKの表面温度は、電気信号として第1制御装置18に送られた後、A/D変換されてデータ化され(以下、このデータを「表面温度データ」という)、第1制御装置18の記憶部に蓄積される。なお、誘導加熱コイル12a,12b,12cのフィードバック制御に用いられる金属ビレットWKの表面温度は、第1制御装置18の記憶部に蓄積された表面温度データを演算処理することにより得られる。この演算処理については後に詳述する。
【0102】
第1制御装置18は、金属ビレットWKの表面温度データが常に設定値以下となるように誘導加熱コイル12a,12b,12cの出力をフィードバック制御する。なお、本実施の形態において、設定値は、金属ビレットWKのA1変態点よりも低く設定されている。
【0103】
(2)トレイ搬送装置
トレイ搬送装置30は、いわゆるアームロボットであって、二本の爪をトレイTRの両脇に差し込んでトレイTRを持ち上げて移動させる。なお、本実施の形態において、トレイ搬送装置30は、空のトレイTRを第1誘導加熱部10のトレイ設置台17に置く第1動作と、金属ビレットWKが載ったトレイTRをトレイ設置台17から第2誘導加熱部50の第2金属ビレット設置台55(
図7参照)に移動させる第2動作とを繰り返す。
【0104】
(3)第2誘導加熱部
第2誘導加熱部50は、
図7に示されるように、主に、急速加熱炉51a、均熱加熱炉51b、副均熱加熱炉51c、第2プッシャー56、ガイドレール57、第2非接触式温度センサ59および第2制御装置58から構成されている。
【0105】
急速加熱炉51a、均熱加熱炉51bおよび副均熱加熱炉51cは、直列的に連結されている。なお、本実施の形態において、急速加熱炉51aは金属ビレットWKの投入側に配置され、均熱加熱炉51bおよび副均熱加熱炉51cは金属ビレットWKの排出側に配置されている。また、これらの誘導加熱炉51a,51b,51cは、全て同一の構成を有している。したがって、ここでは、急速加熱炉51aについてのみ説明を行う。なお、均熱加熱炉51bおよび副均熱加熱炉51cは、主に均熱処理のために設けられている。
【0106】
急速加熱炉51aは、
図7に示されるように、主に、外壁54a、内壁53aおよび誘導加熱コイル52aから構成されている。外壁54aは、略円筒形の壁であって、耐火物から形成されている。内壁53aは、外壁54aよりも小さな径を有する略円筒形の壁であって、外壁54aと同様に耐火物から形成されている。なお、急速加熱炉51aの外壁54a及び内壁53aは、金属ビレットWKを載せたトレイTRが通過できるように第1初期加熱炉11aのそれよりも径が大きく設計されている。誘導加熱コイル52aは、内壁53a及び外壁54aの間に位置し、内壁53aを囲うように設けられている。なお、この誘導加熱コイル52aもまた上記の事情により第1初期加熱炉11aの誘導加熱コイル12aよりも径が大きく設計されている。また、この誘導加熱コイル52aは、第2制御装置58に接続されており、第2制御装置58によって出力調整される。
【0107】
第2プッシャー56は、いわゆる油圧シリンダであって、第2金属ビレット設置台55に取り付けられており、一定時間おきに副均熱加熱炉51cに向かって金属ビレットWKを載せたトレイTRを押し出す。この結果、金属ビレットWKを載せたトレイTRは、急速加熱炉51aに投入された後に副均熱加熱炉51cから順次排出される。なお、副均熱加熱炉51cから排出された金属ビレットWKを載せたトレイTRは、図示しないアームロボットによって図示しない成形機に投入される。
【0108】
ガイドレール57は、ステンレス製の一対のレールであって、急速加熱炉51a、均熱加熱炉51bおよび副均熱加熱炉51cの内壁53a,53bの内部の下方に設置されている。トレイTRは、このガイドレール57に沿って副均熱加熱炉51cに向かって移動する。
【0109】
第2非接触式温度センサ59は、急速加熱炉51aの誘導加熱コイル52aと均熱加熱炉51bの誘導加熱コイル52bとの間、均熱加熱炉51bの誘導加熱コイル52bと副均熱加熱炉51cの誘導加熱コイル52cとの間、および副均熱加熱炉51cの排出口付近に取り付けられており(
図7では排出口付近のもののみ表示されている)、順次移動する金属ビレットWKの表面温度を金属ビレットWKの長手方向に沿って連続的に計測する。計測されたビレットWKの表面温度は、電気信号として第2制御装置58に送られた後、A/D変換されてデータ化され、第2制御装置58の記憶部に蓄積される。なお、誘導加熱コイル52a,52b,52cのフィードバック制御に用いられる金属ビレットWKの表面温度は、第2制御装置58の記憶部に蓄積された表面温度データを演算処理することにより得られる。この演算処理については後に詳述する。
【0110】
第2制御装置58は、金属ビレットWKの表面温度データが常に設定範囲内となるように誘導加熱コイル52a,52b,52cの出力をフィードバック制御する。なお、本実施の形態において、設定範囲は、金属ビレットWKが半溶融状態となる温度範囲とされている。
【0111】
<制御装置における金属ビレットの表面温度データの演算処理>
制御装置18,58は、所定時間毎に記憶部から規定数の表面温度データを読み出し、その表面温度データのうち表面温度が最も高い表面温度データを抽出し、その表面温度データをフィードバック制御用の制御パラメーラとして採用する。なお、本実施の形態では、規定数の表面温度データは、1つの金属ビレットWKから得られたものである。
【0112】
<第2実施形態の誘導加熱装置の特徴>
(1)
本発明の第2実施形態に係る誘導加熱装置1では、温度計測器具として非接触式温度センサ19,59が採用される。このため、この誘導加熱装置1では、成形加工工程において量産サイクルタイムを遵守して成形加工物の生産を継続することができ、また、温度計の破損を防ぐことができる。
【0113】
(2)
本発明の第2実施形態に係る誘導加熱装置1では、金属ビレットWKの複数点の表面温度が計測され、その表面温度の最大値をフィードバック制御用の制御パラメータとした。このため、この誘導加熱装置1では、金属ビレットWKが高温で加熱されて金属ビレットWKの所々の表面に酸化被膜が生じたとしても、金属ビレットWKの表面温度が正確に決定される。したがって、この誘導加熱装置1では、正確な温度測定を実現することができ、誘導加熱コイル12a,12b,12c,52a,52b,52cの安定した正確なフィードバック制御が可能となる。
【0114】
<第2実施形態の変形例>
(A)
第2実施形態に係る誘導加熱装置1では第1誘導加熱部10および第2誘導加熱部50においてそれぞれ3つの誘導加熱炉が用いられたが、誘導加熱炉の数は特に限定されず、3つよりも少なくてもよいし多くてもよい。
【0115】
(B)
第2実施形態に係る誘導加熱装置1では金属ビレットWKの複数点の表面温度データのうち表面温度が最大の表面温度データを制御パラメータとして採用したが、このような態様に代えて、複数点の表面温度データのうち高温側の表温度データを所定割合(例えば70%)残し、その表面温度の平均値や、中央値、最小値などを制御パラメータとして採用してもかまわない。
【0116】
(C)
第2実施形態に係る誘導加熱装置1では特に言及しなかったが、金属ビレットWKがプッシャー16,56で押されている間のみ温度計測を行うようにしてもかまわない。
【0117】
(D)
第2実施形態に係る誘導加熱装置1では連続的に金属ビレットWKの温度計測が実施されたが、間欠的に金属ビレットWKの温度計測が実施されていてもよい。
【0118】
<第2実施形態の産業上の利用可能性>
本発明の第2実施形態に係る温度測定方法は、量産サイクルタイムを遵守して生産を継続することができ、温度計の破損を防ぐことができ、さらに正確な温度測定を実現することができるという特徴を有し、誘導加熱装置における加熱対象物の温度計測に有効である。
【0119】
[第3実施形態]
さらに、過去に「誘導加熱装置において筒状加熱室の底面にレールを敷設し、そのスライドレールに沿ってトレイをスライド移動させる」ことが提案されている(例えば、特開平7−256334号公報、特開平8−85826号公報、特開平11−251044号公報参照)。
【0120】
しかし、加熱温度が比較的高い場合において、レール及びトレイが共に耐火物で形成されていると、トレイがレールに焼き付いてトレイが動かなくなるという不具合があった。
【0121】
そこで、第3実施形態では、トレイがレールに焼き付くのを防止することができる誘導加熱装置を提供する。
【0122】
本発明の第3実施形態に係る誘導加熱装置1は、第1実施形態と同様に、
図8に示されるように、主に、第1誘導加熱部10、トレイ搬送装置30及び第2誘導加熱部50から構成される。以下、各装置について詳述する。
【0123】
なお、第3実施形態に係る誘導加熱装置1は、第1実施形態と同様に、鉄系金属材料からなる金属ビレットWKを半溶融状態まで誘導加熱により3段階で加熱する。すなわち、
図1〜4に示されるように、初期加熱炉11では、金属ビレットWKを金属ビレットWKのA1変態点未満の第1所定温度T1まで誘導加熱により加熱し、金属ビレットWKをトレイTRに載せた後、急速加熱炉51aでは、金属ビレットWKを半溶融状態になる直前の第2所定温度T2まで誘導加熱により急速に加熱し、さらに、均熱加熱炉51bでは、金属ビレットWKの全体が均一の温度になるように、半溶融状態になる第3所定温度T3を維持して誘導加熱により加熱する。
【0124】
<誘導加熱装置の構成要素の詳細>
(1)第1誘導加熱部
第1誘導加熱部10は、
図6に示されるように、主に、第1初期加熱炉11a、第2初期加熱炉11b、第3初期加熱炉11c、第1プッシャー16、第1非接触式温度センサ19および第1制御装置18から構成されている。
【0125】
第1初期加熱炉11a、第2初期加熱炉11bおよび第3初期加熱炉11cは、直列的に連結されている。なお、本実施の形態において、第1初期加熱炉11aは金属ビレットWKの投入側に配置され、第3初期加熱炉11cは金属ビレットWKの排出側に配置されている。また、これらの初期加熱炉11a,11b,11cは、全て同一の構成を有している。したがって、ここでは、第1初期加熱炉11aについてのみ説明を行う。
【0126】
第1初期加熱炉11aは、
図11に示されるように、主に、外壁14a、内壁13aおよび誘導加熱コイル12aから構成されている。外壁14aは、略円筒形の壁であって、耐火物から形成されている。内壁13aは、外壁14aよりも小さな径を有する略円筒形の壁であって、外壁14aと同様に耐火物から形成されている。誘導加熱コイル12aは、内壁13a及び外壁14aの間に位置し、内壁13aを囲うように設けられている。また、この誘導加熱コイル12aは、第1制御装置18に接続されており、制御装置18によって出力調整される。
【0127】
第1プッシャー16は、いわゆる油圧シリンダであって、第1金属ビレット設置台20に取り付けられており、一定時間おきに第3初期加熱炉11cに向かって金属ビレットWKを押し出す。この結果、金属ビレットWKは、第1初期加熱炉11aに投入された後に第3初期加熱炉11cから順次排出される。なお、第3初期加熱炉11cから排出された金属ビレットWKは、
図3に示されるトレイTRに載せられた後、トレイ搬送装置30により第2誘導加熱部50に送られる。なお、トレイTRは、金属ビレットWKが第3初期加熱炉11cから排出される前にトレイ搬送装置30によってトレイ設置台17に置かれる。
【0128】
第1非接触式温度センサ19は、第3初期加熱炉11cの排出口付近に取り付けられており、金属ビレットWKの表面温度を計測する。そして、計測されたビレットWKの表面温度は、電気信号として第1制御装置18に送られた後、A/D変換されてデータ化され(以下、このデータを「表面温度データ」という)、第1制御装置18に蓄積される。
【0129】
第1制御装置18は、表面温度データが常に設定値以下となるように誘導加熱コイル12a,12b,12cの出力をフィードバック制御する。なお、本実施の形態において、設定値は、金属ビレットWKのA1変態点よりも低く設定されている。また、炭素鋼は700℃付近に変態点を有する。
【0130】
(2)トレイ搬送装置
トレイ搬送装置30は、いわゆるアームロボットであって、二本の爪をトレイTRの両脇に差し込んでトレイTRを持ち上げて移動させる。なお、本実施の形態において、トレイ搬送装置30は、空のトレイTRを第1誘導加熱部10のトレイ設置台17に置く第1動作と、金属ビレットWKが載ったトレイTRをトレイ設置台17から第2誘導加熱部50の第2金属ビレット設置台55(
図9参照)に移動させる第2動作とを繰り返す。
【0131】
なお、本実施の形態において、トレイTRは、カーボンセラミック製であって、金属ビレットWKと接触する面には耐熱性の無機塗膜が形成されている。
【0132】
(3)第2誘導加熱部
第2誘導加熱部50は、
図9、
図10および
図11に示されるように、主に、急速加熱炉51a、均熱加熱炉51b、副均熱加熱炉51c、第2プッシャー56、ガイドレール57、冷却媒体循環装置60、第2非接触式温度センサ59および第2制御装置58から構成されている。
【0133】
急速加熱炉51a、均熱加熱炉51bおよび副均熱加熱炉51cは、直列的に連結されている。なお、本実施の形態において、急速加熱炉51aは金属ビレットWKの投入側に配置され、均熱加熱炉51bおよび副均熱加熱炉51cは金属ビレットWKの排出側に配置されている。また、これらの誘導加熱炉51a,51b,51cは、全て同一の構成を有している。したがって、ここでは、急速加熱炉51aについてのみ説明を行う。なお、均熱加熱炉51bおよび副均熱加熱炉51cは、主に均熱処理のために設けられている。
【0134】
急速加熱炉51aは、
図9および
図10に示されるように、主に、外壁54a、内壁53aおよび誘導加熱コイル52aから構成されている。外壁54aは、略円筒形の壁であって、耐火物から形成されている。内壁53aは、外壁54aよりも小さな径を有する略円筒形の壁であって、外壁54aと同様に耐火物から形成されている。なお、急速加熱炉51aの外壁54a及び内壁53aは、トレイTR付き金属ビレットWKが通過できるように第1初期加熱炉11aのそれよりも径が大きく設計されている。誘導加熱コイル52aは、内壁53a及び外壁54aの間に位置し、内壁53aを囲うように設けられている。なお、この誘導加熱コイル52aもまた上記の事情により第1初期加熱炉11aの誘導加熱コイル12aよりも径が大きく設計されている。また、この誘導加熱コイル52aは、第2制御装置58に接続されており、第2制御装置58によって出力調整される。
【0135】
第2プッシャー56は、いわゆる油圧シリンダであって、第2金属ビレット設置台55に取り付けられており、一定時間おきに副均熱加熱炉51cに向かってトレイTR付き金属ビレットWKを押し出す。この結果、トレイTR付き金属ビレットWKは、急速加熱炉51aに投入された後に副均熱加熱炉51cから順次排出される。なお、副均熱加熱炉51cから排出されたトレイTR付き金属ビレットWKは、図示しないアームロボットによって図示しない成形機に投入される。
【0136】
ガイドレール57は、
図9、
図10及び
図11に示されるように、1本のステンレス製(非磁性体)のパイプレールであって、急速加熱炉51a、均熱加熱炉51bおよび副均熱加熱炉51cの内壁53a,53bの内部の下方に敷設されている。このガイドレール57は、
図11に示されるように略「コ(U)」の字状に成形されており、
図10および
図11に示されるように一端が冷却媒体循環装置60の入口に接続されており、他端が冷却媒体循環装置60の出口に接続されている。そして、このガイドレール57の内部には、冷却媒体循環装置60により冷却媒体(水、塩化カルシウム水溶液、エチレングリコール等)が流される。なお、トレイTRは、このガイドレール57に沿って副均熱加熱炉51cに向かって移動する。
【0137】
冷却媒体循環装置60は、主に、冷凍機、液体ポンプおよび冷却媒体貯留タンクから構成されており、ガイドレール57の内部に低温の冷却媒体を送出し、戻ってきた高温の冷却媒体を再冷却して、再度、ガイドレール57の内部に低温の冷却媒体を送出する。
【0138】
第2非接触式温度センサ59は、急速加熱炉51aの誘導加熱コイル52aと均熱加熱炉51bの誘導加熱コイル52bとの間、均熱加熱炉51bの誘導加熱コイル52bと副均熱加熱炉51cの誘導加熱コイル52cとの間、および副均熱加熱炉51cの排出口付近に取り付けられており(
図9では排出口付近のもののみ表示されている)、金属ビレットWKの表面温度を計測する。そして、計測されたビレットWKの表面温度は、電気信号として第2制御装置58に送られた後、A/D変換されてデータ化され、第2制御装置58に蓄積される。
【0139】
第2制御装置58は、表面温度データが常に設定範囲内となるように誘導加熱コイル52a,52b,52cの出力をフィードバック制御する。なお、本実施の形態において、設定範囲は、金属ビレットWKが半溶融状態となる温度範囲とされている。また、炭素鋼が半溶融状態となる温度範囲は、1160〜1220℃である。
【0140】
<第3実施形態の誘導加熱装置の特徴>
(1)
第3実施形態に係る第2誘導加熱部50では、ガイドレール57の内部に冷却媒体が流され、ガイドレール57が冷却される。また、この第2誘導加熱部50では、ガイドレール57に接触するトレイTRも同時に冷却される。このため、この第2誘導加熱部50では、トレイTRがガイドレール57に焼き付くのを防止することができる。
【0141】
(2)
第3実施形態に係る第2誘導加熱部50では、ガイドレール57の断面形状が円形である。このため、この第2誘導加熱部50では、トレイTRは、ガイドレール57に線接触する。したがって、この第2誘導加熱部50では、ガイドレール57とトレイTRとの接触面積が極めて小さくなりスライド移動に対する抵抗が小さくなる。したがって、この第2誘導加熱部50では、トレイTRがスライド移動しやすくなる。
【0142】
(3)
第3実施形態に係る第2誘導加熱部50では、ガイドレール57は、非磁性のステンレス鋼から形成されている。また、トレイTRは、カーボンセラミックから形成されている。このため、この第2誘導加熱部50では、トレイTRがガイドレール57に焼き付くおそれを低減することができる。
【0143】
(4)
第3実施形態に係る第2誘導加熱部50では、ガイドレール57は、1本のステンレス製パイプであって、全ての誘導加熱コイル52a,52b,52cに亘って連続している。このため、この第2誘導加熱部50では、ガイドレール57に段差がなく、トレイTRのスムーズなスライド移動が可能となっている。
【0144】
<第3実施形態の変形例>
(A)
第3実施形態に係る誘導加熱装置1では第1誘導加熱部10および第2誘導加熱部50においてそれぞれ3つの誘導加熱炉が用いられたが、誘導加熱炉の数は特に限定されず、3つよりも少なくてもよいし多くてもよい。
【0145】
(B)
第3実施形態に係る誘導加熱装置1では非接触式温度センサ19,59により金属ビレットWKの表面温度が計測されたが、接触式温度センサにより金属ビレットWKの内部温度が計測されてもよい。
【0146】
(C)
先の実施の形態に係る誘導加熱装置1では冷却媒体循環装置60により冷却された冷却媒体がガイドレール57内部に流されたが、冷却媒体の供給方法は特に限定されず、水道から供給されてもよいし、ガイドレール57よりも高位置に設置された給水タンクから供給されてもよい。
【0147】
(D)
第3実施形態に係る誘導加熱装置1ではガイドレール57が1本のステンレス製のパイプから形成されていたが、ガイドレールは2本の独立したパイプから構成されていてもよい。
【0148】
(E)
第3実施形態に係る誘導加熱装置1ではガイドレール57の横断面の形状が円形とされていたが、ガイドレールの横断面の形状は特に限定されず、三角形や菱形等、トレイTRと線接触するものであればよい。
【0149】
(F)
第3実施形態に係る誘導加熱装置1ではガイドレール57は1本の連続物とされていたが、ガイドレールは、金属ビレットWKの搬送方向下流側に向かって高さが段階的に低くなる複数の独立したレールから構成されていてもよい。
【0150】
(G)
第3実施形態に係る誘導加熱装置1ではガイドレール57はステンレス製であったが、ガイドレールの素材は非磁性体であって加熱温度よりも高い耐熱性を有するものであれば特に限定されない。
【0151】
(H)
第3実施形態に係る誘導加熱装置1ではトレイTRはカーボンセラミックス製であったが、トレイTRの素材は金属ビレットWKの加熱温度以上の耐熱性を有するものであれば特に限定されない。
【0152】
<第3実施形態の産業上の利用可能性>
本発明の第3実施形態に係る誘導加熱装置は、トレイがレールに焼き付くのを防止することができるという特徴を有し、加熱対象物の加熱温度が比較的高い場合において有用である。
【0153】
[第4実施形態]
つぎに本発明の第4実施形態に係わるビレット搬送装置の実施形態を図面を参照しながら説明する。
【0154】
なお、第4実施形態に係わるビレット搬送装置は、第1実施形態と同様に、鉄系金属材料からなる金属ビレットWKを半溶融状態まで誘導加熱により3段階で加熱する。すなわち、
図1〜4に示されるように、初期加熱炉11では、金属ビレットWKを金属ビレットWKのA1変態点未満の第1所定温度T1まで誘導加熱により加熱し、金属ビレットWKをトレイTRに載せた後、急速加熱炉51aでは、金属ビレットWKを半溶融状態になる直前の第2所定温度T2まで誘導加熱により急速に加熱し、さらに、均熱加熱炉51bでは、金属ビレットWKの全体が均一の温度になるように、半溶融状態になる第3所定温度T3を維持して誘導加熱により加熱する。
【0155】
<ビレット搬送装置101の構成>
図12〜17に示されるビレット搬送装置101は、搬送装置本体である搬送ロボット102と、エアカーテン生成部103とを備えている。
【0156】
搬送ロボット102は、半溶融ダイキャスト成型の素材であるビレットBを把持するロボットハンド104を有する。ロボットハンド104は、ビレットBを載せたトレイ105の突起105aを上下から把持する(
図14参照)。ここで、ロボットハンド104は、本発明の把持部である。
【0157】
誘導加熱炉Fでは、ビレットBは、トレイ105に載せた状態で半溶融状態まで加熱される。搬送ロボット102は、加熱後のビレットBを載せたトレイ105を、誘導加熱炉Fから成型装置Mのダイキャスト給湯口Sへ搬送する。
【0158】
成型装置Mでは、半溶融状態まで加熱されたビレットBがダイキャスト給湯口Sへ投入された後、プランジャーPによって成形型D内部の空間部のキャビティVへ圧入されることにより、所定形状の成型品が製造される。
【0159】
エアカーテン生成部103は、ビレットBを取り囲むように不活性ガスを吹き出してビレットBを外気から遮断するエアカーテンC(
図12参照)を生成する。なお、本発明のエアカーテン生成部103は、ビレットBの酸化を抑制する不活性ガスを吹き出して不活性ガスのカーテンを生成することにより、ビレットBを外気から遮断するものであり、大気中の空気や酸素を吹き出すものではない。
【0160】
エアカーテン生成部103は、
図12〜17に示されるように、不活性ガスを吹き出す複数のノズル106を有する。複数のノズル106は、ロボットアーム107先端のロボットハンド104の付近に配置されている。ノズル106は、ロボットハンド104の移動に伴って移動することが可能である。
【0161】
図12に示されるように、複数のノズル106の吹出口106aは、ロボットハンド104の延びる方向へ向いており、ロボットハンド104に把持されたビレットBおよびトレイ105を搬送している間は常時エアカーテンCで外気から遮断することが可能である。
【0162】
具体的には、誘導加熱炉Fの出口f1のシャッターf2が開く前からエアカーテンCを生成しておくことにより、出口f1から出た直後のビレットBおよびトレイ105も、エアカーテンCで外気から遮断される。また、ロボットアーム107が誘導加熱炉Fから成型装置Mのダイキャスト給湯口Sへ旋回する間も、ロボットハンド104に把持されたビレットBおよびトレイ105は、ノズル106がロボットハンド104の移動に伴って移動することにより、エアカーテンCで外気から遮断される。そして、成型装置Mのダイキャスト給湯口Sへ投入されるビレットBも、ロボットハンド104が回転駆動することによってトレイ105からダイキャスト給湯口Sへ落下する間も、ビレットBおよびトレイ105がエアカーテンCで外気から遮断された状態になっている。ビレットBがダイキャスト給湯口Sへ投入された後は、ダイキャスト給湯口Sを迅速に閉鎖すれば、ビレットBの酸化は抑制される。
【0163】
ここで、
図16に示されるように、本実施形態の複数のノズル106は、ビレットBの周囲を円形に取り囲むように配置され、円弧状断面の吹出口を有する複数の円弧状のノズルである。このため、ビレットBおよびトレイ105を取り囲む最小限の広さのエアカーテンCを生成することが可能であり、不活性ガスの消費を抑えることが可能である。
【0164】
エアカーテン生成部103のノズル106は、加熱されたビレットBに不活性ガスが当たってビレットBの温度を下げないように、ビレットBへ向かう方向よりも外側に不活性ガスを吹き出す。
【0165】
ノズル106から噴出される不活性ガスは、窒素ガスである。窒素ガスは、不活性ガスの中でも安価かつ安全であるので、とくに好ましい。窒素ガスは、
図12に示されるように、ガスボンベ108からガスホース109を介してノズル106へ供給される。
【0166】
以上のような構成により、搬送ロボット102によってビレットBを誘導加熱炉Fから成型装置Mへビレットを搬送する途中では、エアカーテン生成部103によって生成されたエアカーテンCがビレットBを取り囲むように不活性ガスを吹き出してビレットBを外気から遮断することが可能である。
【0167】
<第4実施形態の特徴>
(1)
第4実施形態のビレット搬送装置101では、エアカーテン生成部103を備えているので、搬送ロボット102によってビレットBを誘導加熱炉Fから成型装置Mへビレットを搬送する間、エアカーテン生成部103によって生成されたエアカーテンCがビレットBを取り囲むように不活性ガスを吹き出してビレットBを外気から遮断すること可能である。
【0168】
具体的には、ビレットBの搬送工程に使用するロボットハンド104に取り付けたノズル106より不活性ガスを噴出し、エアカーテンCを生成することにより外気から加熱されたビレットBを遮断して酸化を防止することが可能である。
【0169】
したがって、第4実施形態のビレット搬送装置101を用いることにより、誘導加熱炉Fの中を不活性ガス雰囲気にすると同時に搬送工程もエアカーテンCによって大気からシールドすることにより、酸化皮膜が生成されない状態のビレットBをダイキャスト成型用の成型装置Mに供給することができ、酸化皮膜による内部欠損の無い成型が可能になる。したがって、高品質の成型品を得ることが可能である。
【0170】
(2)
しかも、ビレットBの搬送用のトレイ105は、外気から遮断するための蓋が不要になるので、蓋の開閉等の手間を省略できる。したがって、きわめて短時間でダイキャスト給湯口Sに素材であるビレットBを投入でき、温度低下をおこすことなく供給できる。
【0171】
(3)
また、第4実施形態のビレット搬送装置101では、ロボットハンド104は、ビレットBを載せたトレイ105を介して、ビレットBを把持し、搬送ロボット102は、誘導加熱炉Fから成型装置MへビレットBをトレイ105に載せた状態で搬送する。これにより、搬送中のビレットBは、トレイ105に最小限接触しているのみであり、周囲のダクトその他の部材に接触しないので、熱が奪われにくいという利点も有する。
【0172】
すなわち、もし仮に、誘導加熱炉Fとダイキャスト給湯口Sをダクトでつないで素材であるビレットBまたは溶融金属を給湯すれば、ダクト内部を不活性ガス雰囲気下で搬送することは容易であるが、ダクトにビレットBの熱が奪われ温度が低下したり、ダクトに材料が溶着して詰まるという問題が考えられる。しかし、第4実施形態のビレット搬送装置101を用いれば、そのような不具合無く不活性ガス雰囲気に囲まれた状態で加熱されたビレットBの供給が可能となる。
【0173】
(4)
また、第4実施形態のビレット搬送装置101では、エアカーテン生成部103のノズル106は、ビレットBに不活性ガスが当たらないように、ビレットBへ向かう方向よりも外側に不活性ガスを吹き出すように、ノズル106の向きが調整されている。したがって、不活性ガスの気流をノズル106の調整によりビレットB及びトレイ105に直接当てないようにすることができ、ビレットBの温度低下を抑えることが可能である。
【0174】
(5)
また、第4実施形態のビレット搬送装置101では、エアカーテン生成部103が、ロボットハンド104の付近に配置され、ロボットハンド104の移動に伴って移動することが可能な不活性ガスを吹き出すノズル106を有するので、搬送中のビレットBを常時エアカーテンCで外気から遮断することが可能である。
【0175】
(6)
さらに、第4実施形態のビレット搬送装置101では、ノズル106が、ビレットBの周囲を円形に取り囲むように配置され、円弧状断面の吹出口106aを有する複数の円弧状ノズルであるので、ビレットBおよびトレイ105を取り囲む最小限の広さのエアカーテンCを生成することが可能であり、不活性ガスの消費を抑えることが可能である。とくに、ビレットBが円柱形状であり、トレイ105が半円形の場合には、より狭い範囲でエアカーテンCを生成することが可能であり、不活性ガスの消費をより抑えることが可能である。
【0176】
(7)
また、第4実施形態では、ノズル106から噴出される不活性ガスが窒素ガスであるので、不活性ガスの中でもとくに安価かつ安全である。
【0177】
<第4実施形態の変形例>
(A)
上記第4実施形態では、搬送ロボット102のロボットハンド104が、ビレットBを載せたトレイ105を介して、ビレットBを間接的に把持しているが、本発明はこれに限定される場合ではなく、ロボットハンド104が、ビレットBを直接把持するようにしてもよく、この場合も、エアカーテン生成部103によって生成されたエアカーテンCがビレットBを取り囲むように不活性ガスを吹き出してビレットBを外気から遮断すること可能である。但し、この場合のロボットハンドは図に示すような形状ではなく、半溶融状態の柔らかいビレットがくずれないようなハンド形状の変更も行なう。たとえば、左右からはさんでトレイからすくい取るようなハンド形状とする。
【0178】
(B)
また、上記第4実施形態では、ノズル106の形状が、円弧形状のノズルを例にあげて説明しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、種々の形状を有するノズルを採用することも可能である。
【0179】
例えば、変形例として、
図17に示されるように偏平な矩形断面の吹出口116aを有する平ノズル116を用いて、ビレットBの周囲を多角形(例えば、四角形状)に取り囲むように配置してもよい。この場合も、ビレットBおよびトレイ105を取り囲む最小限の広さのエアカーテンCを生成することが可能であり、不活性ガスの消費を抑えることが可能である。
【0180】
(C)
さらに、上記第4実施形態では、エアカーテン生成用の不活性ガスの一例として、窒素ガスを例にあげて説明しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、種々の不活性ガスを採用することも可能である。
【0181】
例えば、不活性ガスの変形例として、ガス炉等の加熱ガスを用いた加熱炉またはその他の作業現場に有る既存の加熱手段から燃焼時に発生する酸素を含まない既燃ガスを用いてもよい。この場合も、ビレットBを外気から遮断する不活性ガスのエアカーテンを生成することが可能である。しかも、既燃ガスは、加熱炉またはその他の加熱手段から排出されるガスなので、購入費用をかけずに大量に入手することが可能である。
【0182】
(D)
また、上記第4実施形態では、ノズル106がロボットハンド104の付近に配置され、ロボットハンド104の移動に伴って移動する態様を一例にあげて説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0183】
本発明の変形例として、例えば、ノズル106の配置や不活性ガスの噴射範囲等を適宜変更することにより、ノズル106をロボットアーム107先端のロボットハンド104の付近に配置しなくても、ロボットアーム107から離れた位置に設置されたノズル106によって生成される不活性ガスのエアカーテンによって、ロボットハンド104で搬送されるビレットBを外気から遮断することが可能である。この場合、複数のノズル106をビレットBの搬送経路に設置したり、またはロボットハンド104とは別にノズル106を移動させる機構を設けてもよい。
【0184】
(E)
また、上記第4実施形態では、搬送ロボット102として、ロボットアーム107が旋回することにより、ビレットBを搬送する例が示されているが、本発明はこれに限定されるものではなく、加熱されたビレットB又はトレイ105をロボットハンド104で把持して加熱装置から成型装置へ搬送できる搬送ロボット102であれば、種々の形態のものを採用することが可能である。
【0185】
<第4実施形態の産業上の利用可能性>
本発明の第4実施形態に係るビレット搬送装置は、加熱されたビレットを搬送するためのビレット搬送装置に適用することが可能である。
【0186】
[第5実施形態]
つぎに本発明の第5実施形態であるビレットトレイの実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0187】
なお、第5実施形態に係わるビレットトレイは、第1実施形態の誘導加熱装置、鉄系金属材料からなる金属ビレットWKを半溶融状態まで誘導加熱により3段階で加熱する誘導加熱装置、すなわち、
図1〜4に示されるように、初期加熱炉11では、金属ビレットWKを金属ビレットWKのA1変態点未満の第1所定温度T1まで誘導加熱により加熱し、金属ビレットWKをトレイTRに載せた後、急速加熱炉51aでは、金属ビレットWKを半溶融状態になる直前の第2所定温度T2まで誘導加熱により急速に加熱し、さらに、均熱加熱炉51bでは、金属ビレットWKの全体が均一の温度になるように、半溶融状態になる第3所定温度T3を維持して誘導加熱により加熱する誘導加熱装置とともに使用することが可能である。
【0188】
図18〜20に示されるビレットトレイ201は、その上面202において、ビレットBを載置する載置部分204は、円筒面の一部で形成されたくぼみである。
【0189】
また、載置部分204には、ビレットBとの接触面積を低減するための溝203が形成されている。溝203は、載置部分204に載置されるビレットBの長手方向に沿って延びる形状をしている。
【0190】
ビレットBを載置部分204に載置したとき、ビレットBの下側の部分は、溝203によって載置部分204との接触面積が低減され、溝203の両側の縁部分205に線接触またはそれに近い範囲の狭い領域で接触する。
【0191】
溝203は、
図19に示されるように、円筒面の一部で形成されたくぼみである。また、溝203の内面の曲率半径R1は、ビレットB外周面の曲率半径R2よりも小さい。このため、ビレットBと溝203の内面とが面接触しない。
【0192】
具体的には、溝203の曲率半径R1が、ビレットBの曲率半径R2の0.3〜0.5倍程度であれば、ビレットB下側に帯状の溶け残り部分が発生するおそれがなくなる。例えば、ビレットBの曲率半径R2が43mm程度、溝203の曲率半径R1は、18mm程度であれば(R1/R2=0.41)、溶け残りは発生しない。
【0193】
なお、載置部分204の曲率半径については、ビレットBの曲率半径R2以上であればよい。
【0194】
また、ビレットトレイ201の側面には、ロボットハンドでつかむための取っ手211が突出している。さらに、ビレットトレイ201の下側には、加熱装置222内部の一対のレールに沿って搬送するための一対の溝12が形成されている。
【0195】
図21に示されるように、チクソキャスティングを行う場合、ビレットBは、まず、ビレットB単体で第1誘導加熱部221に投入され、高周波加熱により第1所定温度T1まで初期加熱される。初期加熱後のビレットBは、まだ比較的低温なので定形性を保っている。
【0196】
ついで、初期加熱後のビレットBをビレットトレイ201に載置し、その状態で第2誘導加熱部222に投入する。加熱装置222では、ビレットBを載置したビレットトレイ201がレール(図示せず)に沿って搬送されながら、急速加熱および均熱加熱が多段階に高周波加熱が行われ、最終的には、ビレットBが半溶融状態になる1200℃近くまで加熱される。
【0197】
ついで、半溶融状態になったビレットBを載置したビレットトレイ201は、ロボットハンドによって取っ手211をつかまれ、加熱装置222から取り出される。そして、ロボットハンドは、ビレットトレイ201を上下反転させることにより、半溶融状態になったビレットBを成形装置223に投入する。
【0198】
その後、成形装置223では、半溶融状態になったビレットBを型成形して、所定の形状の成形品に加工する。加工後は、成形装置223の金型を開いて、成形品が取り出される。
【0199】
<第5実施形態の特徴>
(1)
第5実施形態のビレットトレイ201は、その上面202において、ビレットBを載置する載置部分204を備えている。載置部分204には、ビレットBとの接触面積を低減するための溝203が形成されている。
【0200】
これにより、ビレットBとビレットトレイ201の載置部分204との接触面積を低減することができる。そして、接触面積を減らすことで、ビレットトレイ201自体から受けるビレットBの熱影響を低減できることで、ビレットBの上下での溶融状態の差が少なくなる。
【0201】
その結果、ビレットBとトレイ201との接触面積が低減し、熱伝導による熱流出を抑えることができ、より短時間で均熱化することができる。また、トレイ201の温度上昇が抑えられトレイ寿命を延ばす効果もある。
【0202】
また、ビレットBからビレットトレイ201への伝熱を抑えることができ、ビレットBの溶け残りの発生を防止し、それとともにビレットトレイ201の載置部分204にビレットBの溶け残りが付着するのを防止できる。
【0203】
(2)
また、溝203によって溶け残りの発生および付着を防止できるので、載置部分204の表面に塗る水性離型剤の塗布面積を少なくすることができる。
【0204】
(3)
また、加熱温度を上げてビレットBの粘度を低くしても、溝203によって溶け残りの発生および付着を防止できるので、半溶融状態のビレットBを型成形する際の成形圧力を下げることができる。
【0205】
(4)
しかも、溝203が載置部分204に載置される円柱状のビレットBの長手方向に沿って延びるので、円柱状のビレットBの下側の全長にわたって、溶け残りの発生および付着を防止できる。
【0206】
(5)
また、溝203の内面の曲率半径R1が、ビレットBの外周面の曲率半径R2よりも小さいので、ビレットBが溝203内面に面接触することを確実に防止できる。また、ビレットトレイ201の設計および加工が容易になる。
【0207】
<第5実施形態の変形例>
(A)
第5実施形態のビレットトレイ201では、載置部分204にビレットBとの接触面積を低減するための溝203が形成されているが、本発明はこれに限定されるものではなく、ビレットBとの接触面積を低減することができる凹凸があればよく、少なくとも1つの凹部および/または凸部が形成されていればよい。したがって、凹部は、溝だけでなく、1または複数の穴やくぼみでもよい。
【0208】
(B)
また、溝203の代わりに、載置部分204にビレットBとの接触面積を低減するために、凸部として、例えば、
図22に示されるように、載置部分204に載置されるビレットBの長手方向に沿って延びる一対の突条215であってもよい。この場合も、一対の突条215によって溶け残りの発生および付着を防止できる。
【0209】
さらに、凸部は、一対の突条だけでなく、1または複数の突起でもよい。
【0210】
<第5実施形態の産業上の利用可能性>
本発明の第5実施形態に係るビレットトレイは、半溶融または半凝固状態のビレットを載置するビレットトレイに種々適用することが可能である。