特許第5686100号(P5686100)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5686100非水電解液及びそれを用いた電気化学素子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5686100
(24)【登録日】2015年1月30日
(45)【発行日】2015年3月18日
(54)【発明の名称】非水電解液及びそれを用いた電気化学素子
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0567 20100101AFI20150226BHJP
   H01M 10/0569 20100101ALI20150226BHJP
   H01M 6/16 20060101ALI20150226BHJP
   H01G 11/54 20130101ALI20150226BHJP
【FI】
   H01M10/0567
   H01M10/0569
   H01M6/16 A
   H01G11/54
【請求項の数】9
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2011-550903(P2011-550903)
(86)(22)【出願日】2011年1月18日
(86)【国際出願番号】JP2011050685
(87)【国際公開番号】WO2011090006
(87)【国際公開日】20110728
【審査請求日】2013年11月28日
(31)【優先権主張番号】特願2010-9509(P2010-9509)
(32)【優先日】2010年1月19日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000206
【氏名又は名称】宇部興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089185
【弁理士】
【氏名又は名称】片岡 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100078732
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 保
(72)【発明者】
【氏名】安部 浩司
(72)【発明者】
【氏名】近藤 正英
【審査官】 赤樫 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−228721(JP,A)
【文献】 特開2002−170575(JP,A)
【文献】 国際公開第2002/093678(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05−10/0587
H01M 6/16
H01G 11/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非水溶媒に電解質塩が溶解されている非水電解液において、該非水溶媒中に、少なくともエチレンカーボネートの4位にフッ素原子を有する環状カーボネートと、エチレンカーボネート及び少なくともエチレンカーボネートの4位にメチル基を有する環状カーボネートから選ばれる環状カーボネートとの組合せを含み少なくともエチレンカーボネートの4位にフッ素原子を有する環状カーボネートの含有量が非水溶媒の総体積に対して1〜40体積%であり、かつ非水電解液中に、トリメチレングリコールサルファイトを0.1〜5質量%含有することを特徴とする非水電解液。
【請求項2】
少なくともエチレンカーボネートの4位にメチル基を有する環状カーボネートが、プロピレンカーボネート及び/又は2,3−ブチレンカーボネートである請求項1に記載の非水電解液。
【請求項3】
少なくともエチレンカーボネートの4位にフッ素原子を有する環状カーボネートが、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン及び/又は4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンである請求項1又は2に記載の非水電解液。
【請求項4】
少なくともエチレンカーボネートの4位にメチル基を有する環状カーボネート:少なくともエチレンカーボネートの4位にフッ素原子を有する環状カーボネートの体積比が1:99〜49:51である請求項1〜3のいずれかに記載の非水電解液。
【請求項5】
非水溶媒が鎖状エステルを含む請求項1〜のいずれかに記載の非水電解液。
【請求項6】
鎖状エステルが、非対称鎖状カーボネート、対称鎖状カーボネート、鎖状カルボン酸エステル、及び第3級カルボン酸エステルから選ばれる少なくとも1種である請求項に記載の非水電解液。
【請求項7】
非対称鎖状カーボネートが、メチルエチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、メチルイソプロピルカーボネート、メチルブチルカーボネート、及びエチルプロピルカーボネートから選ばれる少なくとも1種である請求項に記載の非水電解液。
【請求項8】
対称鎖状カーボネートが、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、及びジブチルカーボネートから選ばれる少なくとも1種である請求項6又は7に記載の非水電解液。
【請求項9】
正極、負極、及び非水溶媒に電解質塩が溶解されている非水電解液からなる電気化学素子において、該非水電解液が、非水溶媒中に、少なくともエチレンカーボネートの4位にフッ素原子を有する環状カーボネートと、エチレンカーボネート及び少なくともエチレンカーボネートの4位にメチル基を有する環状カーボネートから選ばれる環状カーボネートとの組合せを含み少なくともエチレンカーボネートの4位にフッ素原子を有する環状カーボネートの含有量が非水溶媒の総体積に対して1〜40体積%であり、かつ非水電解液中に、トリメチレングリコールサルファイトを0.1〜5質量%含有することを特徴とする電気化学素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学特性を向上できる非水電解液及びそれを用いた電気化学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気化学素子、特にリチウム二次電池は、携帯電話やノート型パソコン等電子機器の電源、電気自動車や電力貯蔵用等の電源として広く使用されている。これらの電子機器や自動車は、真夏の高温下や極寒の低温下等の広い温度範囲で使用される可能性があるため、広い温度範囲でバランス良くサイクル特性を向上させることが求められている。
リチウム二次電池は、主にリチウムを吸蔵及び放出可能な材料を含む正極及び負極、リチウム塩と非水溶媒からなる非水電解液から構成され、非水溶媒としては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)等のカーボネート類が使用されている。
また、負極としては、金属リチウム、リチウムを吸蔵及び放出可能な金属化合物(金属単体、酸化物、リチウムとの合金等)や炭素材料が知られており、特にリチウムを吸蔵及び放出することが可能なコークス、人造黒鉛、天然黒鉛等の炭素材料を用いたリチウム二次電池が広く実用化されている。
【0003】
例えば、天然黒鉛や人造黒鉛等の高結晶化した炭素材料を負極材料として用いたリチウム二次電池は、非水電解液中の溶媒が充電時に負極表面で還元分解することにより発生した分解物やガスが電池の望ましい電気化学的反応を阻害するため、サイクル特性の低下を生じることが知られている。また、非水溶媒の分解物が蓄積すると、負極へのリチウムの吸蔵及び放出がスムーズにできなくなり、特に低温でのサイクル特性が低下しやすくなる。
更に、リチウム金属やその合金、スズ又はケイ素等の金属単体や酸化物を負極材料として用いたリチウム二次電池は、初期の容量は高いもののサイクル中に微粉化が進むため、炭素材料の負極に比べて非水溶媒の還元分解が加速的に起こり、電池容量やサイクル特性のような電池性能が大きく低下することが知られている。また、これらの負極材料の微粉化や非水溶媒の分解物が蓄積すると、負極へのリチウムの吸蔵及び放出がスムーズにできなくなり、特に低温でのサイクル特性が低下しやすくなる。
一方、正極として、例えばLiCoO2、LiMn24、LiNiO2、LiFePO4を用いたリチウム二次電池は、非水電解液中の非水溶媒が充電状態になった場合に、正極材料と非水電解液との界面において、局部的に一部酸化分解することにより発生した分解物やガスが電池の望ましい電気化学的反応を阻害するため、やはり低温でのサイクル特性のような電池性能の低下を生じることが知られている。
【0004】
以上のように、正極上や負極上で非水電解液が分解するときの分解物やガスにより、リチウムイオンの移動を阻害したり、電池が膨れたりすることで電池性能を低下させていた。そのような状況にも関わらず、リチウム二次電池が搭載されている電子機器の多機能化はますます進み、電力消費量が増大する流れにある。そのため、リチウム二次電池の高容量化はますます進んでおり、電極の密度を高めたり、電池内の無駄な空間体積を減らす等、電池内の非水電解液の占める体積が小さくなっている。従って、少しの非水電解液の分解で、低温での電池の性能が低下しやすい状況にある。
特許文献1には、トリメチレングリコールサルファイトを含有する非水電解液を備えたリチウムイオン二次電池が、高温下でも保存特性、サイクル特性に優れることが開示されている。
【0005】
また、リチウム一次電池として、例えば二酸化マンガンやフッ化黒鉛を正極とし、リチウム金属を負極とするようなリチウム一次電池が使用されており、高いエネルギー密度であることから広く使用されているが、低温サイクル特性を向上させることが求められている。
更に、近年、電気自動車用又はハイブリッド電気自動車用の新しい電源として、出力密度の点から、活性炭等を電極に用いる電気二重層キャパシタ、エネルギー密度と出力密度の両立の観点から、リチウムイオン二次電池と電気二重層キャパシタの蓄電原理を組み合わせた、ハイブリッドキャパシタ(リチウムの吸蔵及び放出による容量と電気二重層容量の両方を活用)と呼ばれる蓄電装置の開発が行われ、低温サイクル特性の改善が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−228721号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、低温サイクル特性を向上できる非水電解液及びそれを用いた電気化学素子を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記特許文献1の非水電解液の性能について詳細に検討した。その結果、特許文献1の非水電解液では、低温サイクル特性に対して顕著な効果は得られなかった。
そこで、本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、非水溶媒に電解質塩が溶解されている非水電解液において、該非水溶媒中に、エチレンカーボネート、1,2−ブチレンカーボネート、少なくともエチレンカーボネートの4位にメチル基を有する環状カーボネート、及び少なくともエチレンカーボネートの4位にフッ素原子を有する環状カーボネートから選ばれる二種以上の環状カーボネートを含み、少なくともエチレンカーボネートの4位にメチル基を有する環状カーボネート及び/又は少なくともエチレンカーボネートの4位にフッ素原子を有する環状カーボネートの含有量が非水溶媒の総体積に対して1〜40体積%であり、更にトリメチレングリコールサルファイトを非水電解液中に0.1〜5質量%含有することにより、低温サイクル特性を大幅に向上しうることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、下記の(1)及び(2)を提供するものである。
【0009】
(1)非水溶媒に電解質塩が溶解されている非水電解液において、該非水溶媒中に、エチレンカーボネート、1,2−ブチレンカーボネート、少なくともエチレンカーボネートの4位にメチル基を有する環状カーボネート、及び少なくともエチレンカーボネートの4位にフッ素原子を有する環状カーボネートから選ばれる二種以上の環状カーボネートを含み、少なくともエチレンカーボネートの4位にメチル基を有する環状カーボネート及び/又は少なくともエチレンカーボネートの4位にフッ素原子を有する環状カーボネートの含有量が非水溶媒の総体積に対して1〜40体積%であり、かつ非水電解液中に、トリメチレングリコールサルファイトを0.1〜5質量%含有することを特徴とする非水電解液。
【0010】
(2)正極、負極、及び非水溶媒に電解質塩が溶解されている非水電解液からなる電気化学素子において、該非水電解液が、非水溶媒中に、エチレンカーボネート、1,2−ブチレンカーボネート、少なくともエチレンカーボネートの4位にメチル基を有する環状カーボネート、及び少なくともエチレンカーボネートの4位にフッ素原子を有する環状カーボネートから選ばれる二種以上の環状カーボネートを含み、少なくともエチレンカーボネートの4位にメチル基を有する環状カーボネート及び/又は少なくともエチレンカーボネートの4位にフッ素原子を有する環状カーボネートの含有量が非水溶媒の総体積に対して1〜40体積%であり、かつ非水電解液中に、トリメチレングリコールサルファイトを0.1〜5質量%含有することを特徴とする電気化学素子。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、低温サイクル特性を向上できる非水電解液、及びそれを用いた電気化学素子を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
〔非水電解液〕
本発明の非水電解液は、非水溶媒に電解質塩が溶解されている非水電解液において、該非水溶媒中に、エチレンカーボネート、1,2−ブチレンカーボネート、少なくともエチレンカーボネートの4位にメチル基を有する環状カーボネート、及び少なくともエチレンカーボネートの4位にフッ素原子を有する環状カーボネートから選ばれる二種以上の環状カーボネートを含み、少なくともエチレンカーボネートの4位にメチル基を有する環状カーボネート及び/又は少なくともエチレンカーボネートの4位にフッ素原子を有する環状カーボネートの含有量が非水溶媒の総体積に対して1〜40体積%であり、かつ非水電解液中に、トリメチレングリコールサルファイトを0.1〜5質量%含有することを特徴とする。
【0013】
本発明の非水電解液が、低温サイクル特性を大幅に改善できる理由は必ずしも明確ではないが、以下のように考えられる。
環状カーボネートを一種だけ含む非水溶媒からなる非水電解液にトリメチレングリコールサルファイトを添加した場合、トリメチレングリコールサルファイト由来のリチウムイオン伝導性の低い被膜が負極表面上に形成される。そのため、低温でサイクルを繰り返すと負極表面にLiが析出し、サイクル特性が低下する問題点があった。
本発明において、前記特定の二種以上の環状カーボネートを含む非水溶媒からなる電解液にトリメチレングリコールサルファイトを添加すると、二種以上の異なる環状カーボネートの分解物が被膜成分として取り込まれることから、リチウムイオン伝導性の高い被膜が形成されると考えられる。前記の環状カーボネートの中でも、少なくともエチレンカーボネートの4位にメチル基を有する環状カーボネート及び/又は少なくともエチレンカーボネートの4位にフッ素原子を有する環状カーボネートのように、構造中にメチル基又はフッ素原子という置換基を分枝した特定の構造を有する環状カーボネートを非水溶媒の総体積に対して1〜40体積%を含ませた場合に、特にリチウムイオン伝導性の高い被膜が形成され、低温特性が著しく向上する特異的な現象が起きると考えられる。
【0014】
〔トリメチレングリコールサルファイト〕
本発明の非水電解液に用いられるトリメチレングリコールサルファイトは、下記式(I)で表される。
【0015】
【化1】
【0016】
このトリメチレングリコールサルファイトの含有量は、非水電解液に対して0.1〜5質量%である。該含有量が5質量%以下であれば、電極上に過度に被膜が形成され低温サイクル特性が低下するおそれが少なく、また0.1質量%以上であれば被膜の形成が十分であり、低温サイクル特性の改善効果が高まる。該含有量は、非水電解液に対して0.1質量%以上が好ましく、0.3質量%以上がより好ましく、その上限は、5質量%以下が好ましく、3質量%以下がより好ましく、1質量%以下が更に好ましい。
以下に述べる非水溶媒、電解質塩、更にその他の添加剤を組み合わせることにより、低温サイクル特性が相乗的に向上するという特異な効果を発現する。その理由は明らかではないが、これらの非水溶媒、電解質塩、更にその他の添加剤由来の構成元素を含有するイオン伝導性の高い混合被膜が形成されるためと考えられる。
【0017】
〔非水溶媒〕
本発明の非水電解液に使用される非水溶媒には、少なくとも下記の環状カーボネートが含まれる。
(環状カーボネート)
環状カーボネートは、エチレンカーボネート(EC)、1,2−ブチレンカーボネート、少なくともエチレンカーボネートの4位にメチル基を有する環状カーボネート、及び少なくともエチレンカーボネートの4位にフッ素原子を有する環状カーボネートから選ばれる二種以上の環状カーボネートを含む。
少なくともエチレンカーボネートの4位にメチル基を有する環状カーボネートとしては、プロピレンカーボネート(PC)、トランス又はシス−2,3−ブチレンカーボネート等が挙げられるが、低温サイクル特性を向上させる観点から、プロピレンカーボネート及び/又はトランス又はシス−2,3−ブチレンカーボネートが好ましい。
少なくともエチレンカーボネートの4位にフッ素原子を有する環状カーボネートとしては、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、トランス又はシス−4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン等が挙げられるが、低温サイクル特性を向上させる観点から、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン(FEC)及び/又はトランス又はシス−4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン(以下、両者を総称して「DFEC」という)が好ましい。
【0018】
少なくともエチレンカーボネートの4位にメチル基を有する環状カーボネート及び/又は少なくともエチレンカーボネートの4位にフッ素原子を有する環状カーボネートの含有量は、低温サイクル特性を向上させる観点から、非水溶媒の総体積に対して1〜40体積%であり、5〜36体積%が好ましく、10〜33体積%がより好ましく、15〜30体積%が更に好ましい。
少なくともエチレンカーボネートの4位にメチル基を有する環状カーボネートと少なくともエチレンカーボネートの4位にフッ素原子を有する環状カーボネートを併用する場合、少なくともエチレンカーボネートの4位にメチル基を有する環状カーボネートと少なくともエチレンカーボネートの4位にフッ素原子を有する環状カーボネートの体積比は、少なくともエチレンカーボネートの4位にメチル基を有する環状カーボネート:少なくともエチレンカーボネートの4位にフッ素原子を有する環状カーボネートが1:99〜49:51が好ましく、5:95〜45:55がより好ましく、10:90〜40:60が更に好ましい。
【0019】
前記の環状カーボネートは、低温サイクル特性を向上させる観点から、二種以上を組み合わせて使用し、三種以上を組み合わせて使用することがより好ましい。前記環状カーボネートの好適な組合せとしては、ECとPC、FECとEC、FECとPC、ECとPCとFEC、DFECとEC、DFECとPC、DFECとFEC、FECとPCとDFEC、FECとECとPCとDFEC等が挙げられる。前記の組合せのうち、ECとPC、FECとPC、DFECとPC、ECとFECとPC等の組合せがより好ましく、FECとPC、ECとFECとPC、FECとPCとDFEC等の組合せが更に好ましい。
環状カーボネートの合計含有量は、特に制限はされないが、非水溶媒の総体積に対して、10〜40体積%の範囲で用いるのが好ましい。含有量が10体積%未満であると非水電解液の伝導度が低下し、低温サイクル特性が低下する傾向があり、40体積%を超えると非水電解液の粘性が高くなるため低温サイクル特性が低下する傾向があるので上記範囲であることが好ましい。
【0020】
〔その他の非水溶媒〕
本発明の非水電解液に使用される前記の環状カーボネート及びトリメチレングリコールサルファイト以外の非水溶媒としては、鎖状エステル、炭素−炭素二重結合を有する環状カーボネート、エーテル、アミド、リン酸エステル、スルホン、ラクトン、ニトリル、カルボン酸無水物、芳香族化合物、トリメチレングリコールサルファイト以外のS=O結合含有化合物等が挙げられる。
【0021】
(鎖状エステル)
鎖状エステルとしては、メチルエチルカーボネート(MEC)、メチルプロピルカーボネート(MPC)、メチルイソプロピルカーボネート(MIPC)、メチルブチルカーボネート、エチルプロピルカーボネート等の非対称鎖状カーボネート、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジプロピルカーボネート、ジブチルカーボネート等の対称鎖状カーボネート、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル等の鎖状カルボン酸エステル、ピバリン酸メチル、ピバリン酸ブチル、ピバリン酸ヘキシル、ピバリン酸オクチル等の第3級カルボン酸エステルが挙げられる。
これらの中でも、低温サイクル特性を向上させる観点から、メチル基を有する鎖状カーボネートを含むことが好ましく、DMC、MEC、MPC、MIPCのうちの少なくとも一種を含むことがより好ましく、DMC、MECのうちの少なくとも一種を含むことが更に好ましい。更には非対称鎖状カーボネートを含むことが好ましく、非対称鎖状カーボネートと対称鎖状カーボネートを併用することが特に好ましい。また、鎖状カーボネートに含まれる非対称鎖状カーボネートの割合が50体積%以上であることが好ましい。
これらの鎖状カーボネートは一種単独で使用してもよいが、二種以上を組み合わせて使用することが好ましい。
鎖状エステルの合計含有量は、特に制限されないが、非水溶媒の総体積に対して、60〜90体積%の範囲で用いるのが好ましい。該含有量が60体積%未満であると電解液の粘度が上昇し、90体積%を超えると電解液の電気伝導度が低下し、負荷特性等の電池特性が低下する場合があるので上記範囲であることが好ましい。
環状カーボネートと鎖状エステルの割合は、低温サイクル特性向上の観点から、環状カーボネート:鎖状エステル(体積比)が10:90〜40:60が好ましく、15:85〜35:65がより好ましく、20:80〜30:70が更に好ましい。
【0022】
炭素−炭素二重結合を有する環状カーボネートとしては、ビニレンカーボネート(VC)、ビニルエチレンカーボネート(VEC)等が挙げられる。
エーテルとしては、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン等の環状エーテル、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、1,2−ジブトキシエタン等の鎖状エーテルが挙げられ、アミドとしては、ジメチルホルムアミド等が挙げられ、リン酸エステルとしては、リン酸トリメチル、リン酸トリブチル、リン酸トリオクチル等が挙げられ、スルホンとしては、スルホラン等が挙げられ、ラクトンとしては、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、α−アンゲリカラクトン等が挙げられ、ニトリルとしては、アセトニトリル、プロピオニトリル、スクシノニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、ピメロニトリル等が挙げられ、カルボン酸無水物としては、無水酢酸、無水プロピオン酸等の鎖状のカルボン酸無水物、無水コハク酸、無水マレイン酸、無水グルタル酸、無水イタコン酸等の環状のカルボン酸無水物が挙げられる。
【0023】
芳香族化合物としては、シクロヘキシルベンゼン、フルオロシクロヘキシルベンゼン化合物(1−フルオロ−2−シクロヘキシルベンゼン、1−フルオロ−3−シクロヘキシルベンゼン、1−フルオロ−4−シクロヘキシルベンゼン)、tert−ブチルベンゼン、tert−アミルベンゼン、1−フルオロ−4−tert−ブチルベンゼン等の分枝アルキル基を有する芳香族化合物や、ビフェニル、ターフェニル(o−、m−、p−体)、ジフェニルエーテル、フルオロベンゼン、ジフルオロベンゼン(o−、m−、p−体)、アニソール、2,4−ジフルオロアニソール、ターフェニルの部分水素化物(1,2−ジシクロヘキシルベンゼン、2−フェニルビシクロヘキシル、1,2−ジフェニルシクロヘキサン、o−シクロヘキシルビフェニル)等の芳香族化合物が挙げられる。
また、トリメチレングリコールサルファイト以外のS=O結合含有化合物としては、1,3−プロパンスルトン、1,3−ブタンスルトン、1,4−ブタンスルトン等のスルトン化合物、エチレンサルファイト、ヘキサヒドロベンゾ[1,3,2]ジオキサチオラン−2−オキシド(1,2−シクロヘキサンジオールサイクリックサルファイトともいう)、5−ビニル−ヘキサヒドロ−1,3,2−ベンゾジオキサチオール−2−オキシド等の環状サルファイト化合物、1,2−エタンジオールジメタンスルホネート、1,2−プロパンジオールジメタンスルホネート、1,3−プロパンジオールジメタンスルホネート、1,4−ブタンジオールジメタンスルホネート、1,5−ペンタンジオールジメタンスルホネート、メタンスルホン酸2−プロピニル等のスルホン酸エステル化合物、ジビニルスルホン、1,2−ビス(ビニルスルホニル)エタン、ビス(2−ビニルスルホニルエチル)エーテル等のビニルスルホン化合物等が挙げられる。
【0024】
上記のその他の非水溶媒のうち、特に炭素−炭素二重結合を含有する環状カーボネート、及びトリメチレングリコールサルファイト以外のS=O結合含有化合物から選ばれる少なくとも一種を併用すると、低温サイクル特性を改善する効果が向上するので好ましい。
炭素−炭素二重結合を含有する環状カーボネートとしては、ビニレンカーボネート(VC)が好ましく、トリメチレングリコールサルファイト以外のS=O結合含有化合物としては、スルホン酸エステル化合物が好ましく、炭素−炭素三重結合のような不飽和基を有するか、炭素数が5以上のアルキレン鎖を有するスルホン酸エステル化合物が更に好ましい。これらの中では、ビニレンカーボネート、メタンスルホン酸2−プロピニル、及び1,5−ペンタンジオールジメタンスルホネートから選ばれる少なくとも一種が特に好ましい。
これらの化合物の添加量は、非水電解液中で5質量%を超えると低温サイクル特性が低下する場合があり、また、0.05質量%に満たないと低温サイクル特性を改善する効果が十分に得られない場合がある。したがって、該含有量は、非水電解液の質量中に0.05質量%以上含むことが好ましく、0.5質量%以上がより好ましい。また、その上限は5質量%以下が好ましく、3質量%以下がより好ましい。
【0025】
〔電解質塩〕
本発明に使用される電解質塩としては、下記のリチウム塩、オニウム塩が好適に挙げられる。
(リチウム塩)
リチウム塩としては、LiPF6、LiBF4、LiClO4等の無機リチウム塩、LiN(SO2CF32、LiN(SO2252、LiCF3SO3、LiC(SO2CF33、LiPF4(CF32、LiPF3(C253、LiPF3(CF33、LiPF3(iso−C373、LiPF5(iso−C37)等の鎖状のフッ化アルキル基を含有するリチウム塩や、(CF22(SO22NLi、(CF23(SO22NLi等の環状のフッ化アルキレン鎖を含有するリチウム塩、ビス[オキサレート−O,O’]ホウ酸リチウムやジフルオロ[オキサレート−O,O’]ホウ酸リチウム等のオキサレート錯体をアニオンとするリチウム塩が挙げられる。これらの電解質塩は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて使用することができる。
これらの中でも、好ましい電解質塩は、LiPF6、LiBF4、LiN(SO2CF32、及びLiN(SO2252であり、LiPF6とLiBF4、LiN(SO2CF32、及びLiN(SO2252から選ばれる一種以上とを組み合わせて使用することが特に好ましい。LiPF6:[LiBF4又はLiN(SO2CF32又はLiN(SO2252](モル比)は、70:30〜99:1の範囲が好ましく、80:20〜98:2の範囲がより好ましい。
【0026】
(オニウム塩)
また、オニウム塩としては、下記に示すオニウムカチオンとアニオンを組み合わせた各種塩が好適に挙げられる。
オニウムカチオンの具体例としては、テトラメチルアンモニウムカチオン、エチルトリメチルアンモニウムカチオン、ジエチルジメチルアンモニウムカチオン、トリエチルメチルアンモニウムカチオン、テトラエチルアンモニウムカチオン、N,N−ジメチルピロリジニウムカチオン、N−エチル−N−メチルピロリジニウムカチオン、N,N−ジエチルピロリジニウムカチオン、スピロ−(N,N')−ビピロリジニウムカチオン、N,N'−ジメチルイミダゾリニウムカチオン、N−エチル−N'−メチルイミダゾリニウムカチオン、N,N'−ジエチルイミダゾリニウムカチオン、N,N'−ジメチルイミダゾリウムカチオン、N−エチル−N'−メチルイミダゾリウムカチオン、N,N'−ジエチルイミダゾリウムカチオン等が好適に挙げられる。
アニオンの具体例としては、PF6アニオン、BF4アニオン、ClO4アニオン、AsF6アニオン、CF3SO3アニオン、N(CF3SO22アニオン、N(C25SO22アニオン、等が好適に挙げられる。
【0027】
これら全電解質塩が溶解されて使用される濃度は、前記の非水溶媒に対して、通常0.3M以上が好ましく、0.5M以上がより好ましく、0.7M以上が更に好ましい。またその上限は、2.5M以下が好ましく、2.0M以下がより好ましく、1.5M以下が更に好ましい。
【0028】
〔非水電解液の製造〕
本発明の非水電解液は、例えば、前記の非水溶媒を混合し、これに前記の電解質塩を混合し、得られた非水電解液に対して、更にトリメチレングリコールサルファイトを0.1〜5質量%溶解することにより得ることができる。
この際、用いる非水溶媒及び非水電解液に加える化合物は、生産性を著しく低下させない範囲内で、予め精製して、不純物が極力少ないものを用いることが好ましい。
【0029】
〔電気化学素子〕
本発明の電気化学素子は、正極、負極、及び非水溶媒に電解質塩が溶解されている非水電解液からなる電気化学素子において、該非水電解液が、前記本発明の非水電解液であることを特徴とする。電気化学素子としては、下記の第1〜第4の電気化学素子が挙げられる。
非水電解質としては、液体状のものだけでなくゲル化されているものも使用し得る。更に本発明の非水電解液は固体高分子電解質用としても使用できる。中でも電解質塩にリチウム塩を使用する第1の電気化学素子用(即ち、リチウム電池用)又は第4の電気化学素子用(即ち、リチウムイオンキャパシター用)として用いることが好ましく、リチウム電池用として用いることが更に好ましく、リチウム二次電池用として用いることが最も適している。
【0030】
〔第1の電気化学素子(リチウム電池)〕
本発明のリチウム電池は、リチウム一次電池及びリチウム二次電池を総称する。本発明のリチウム電池は、正極、負極及び非水溶媒に電解質塩が溶解されている前記非水電解液からなる。非水電解液以外の正極、負極等の構成部材は特に制限なく使用できる。
(リチウム二次電池)
リチウム二次電池用正極活物質としては、コバルト、マンガン、及びニッケルから一種以上を含有するリチウムとの複合金属酸化物が使用される。これらの正極活物質は、一種単独又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
このようなリチウム複合金属酸化物としては、例えば、LiCoO2、LiMn24、LiNiO2、LiCo1-xNix2(0.01<x<1)、LiCo1/3Ni1/3Mn1/32、LiNi1/2Mn3/24、LiCo0.98Mg0.022等が挙げられる。また、LiCoO2とLiMn24、LiCoO2とLiNiO2、LiMn24とLiNiO2のように併用してもよい。
【0031】
また、過充電時の安全性やサイクル特性を向上したり、4.3V以上の充電電位での使用を可能にするために、リチウム複合金属酸化物の一部は他元素で置換してもよい。例えば、コバルト、マンガン、ニッケルの一部をSn、Mg、Fe、Ti、Al、Zr、Cr、V、Ga、Zn、Cu、Bi、Mo、La等の少なくとも一種以上の元素で置換したり、Oの一部をSやFで置換したり、又はこれらの他元素を含有する化合物を被覆することもできる。
これらの中では、LiCoO2、LiMn24、LiNiO2のような満充電状態における正極の充電電位がLi基準で4.3V以上で使用可能なリチウム複合金属酸化物が好ましく、LiCo1-xx2(但し、MはSn、Mg、Fe、Ti、Al、Zr、Cr、V、Ga、Zn、Cuから表される少なくとも一種類以上の元素、0.001≦x≦0.05)、LiCo1/3Ni1/3Mn1/32、LiNi1/2Mn3/24、Li2MnO3とLiMO2(Mは、Co、Ni、Mn、Fe等の遷移金属)との固溶体のような4.4V以上で使用可能なリチウム複合金属酸化物がより好ましい。高充電電圧で動作するリチウム複合金属複合酸化物を使用すると、充電時における電解液との反応により低温サイクル特性を改善する効果が低下しやすいが、本発明に係るリチウム二次電池ではこれらの電気化学特性の低下を抑制することができる。
【0032】
更に、正極活物質として、リチウム含有オリビン型リン酸塩を用いることもできる。特にFe、Co、Ni及びMnから選ばれる少なくとも一種以上含むリチウム含有オリビン型リン酸塩が好ましい。その具体例としては、LiFePO4、LiCoPO4、LiNiPO4、LiMnPO4等が挙げられる。
これらのリチウム含有オリビン型リン酸塩の一部は他元素で置換してもよく、鉄、コバルト、ニッケル、マンガンの一部をCo、Mn、Ni、Mg、Al、B、Ti、V、Nb、Cu、Zn、Mo、Ca、Sr、W及びZr等から選ばれる一種以上の元素で置換したり、又はこれらの他元素を含有する化合物や炭素材料で被覆することもできる。これらの中では、LiFePO4又はLiMnPO4が好ましい。
また、リチウム含有オリビン型リン酸塩は、例えば前記の正極活物質と混合して用いることもできる。
【0033】
上記の正極活物質10gを蒸留水100mlに分散させた時の上澄み液の常温下におけるpHとしては10.0〜12.5である場合、一段と低温サイクル特性の改善効果が得られやすいので好ましく、10.5〜12.0である場合が更に好ましい。
また、正極中に元素としてNiが含まれる場合、正極活物質中のLiOH等の不純物が増える傾向があるため、一段と低温サイクル特性の改善効果が得られやすいので好ましく、正極活物質中のNiの原子濃度が5〜25atomic%である場合が更に好ましく、8〜21atomic%である場合が特に好ましい。
【0034】
正極の導電剤は、化学変化を起こさない電子伝導材料であれば特に制限はない。例えば、天然黒鉛(鱗片状黒鉛等)、人造黒鉛等のグラファイト類、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック等のカーボンブラック類等が挙げられる。また、グラファイト類とカーボンブラック類を適宜混合して用いてもよい。導電剤の正極合剤への添加量は、1〜10質量%が好ましく、2〜5質量%がより好ましい。
【0035】
正極は、前記の正極活物質をアセチレンブラック、カーボンブラック等の導電剤、及びポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、スチレンとブタジエンの共重合体(SBR)、アクリロニトリルとブタジエンの共重合体(NBR)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、エチレンプロピレンジエンターポリマー等の結着剤と混合し、これに1−メチル−2−ピロリドン等の高沸点溶剤を加えて混練して正極合剤とした後、この正極合剤を集電体のアルミニウム箔やステンレス製のラス板等に塗布して、乾燥、加圧成型した後、50℃〜250℃程度の温度で2時間程度真空下で加熱処理することにより作製することができる。
正極の集電体を除く部分の密度は、通常は1.5g/cm3以上であり、電池の容量をさらに高めるため、好ましくは2g/cm3以上であり、より好ましくは、3g/cm3以上であり、更に好ましくは、3.6g/cm3以上である。なお、上限としては、4g/cm3以下が好ましい。
【0036】
負極活物質としては、リチウム金属やリチウム合金、及びリチウムを吸蔵及び放出することが可能な炭素材料(人造黒鉛や天然黒鉛等のグラファイト類)、リチウムを吸蔵及び放出可能な金属化合物等を一種単独又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
リチウムを吸蔵及び放出することが可能な炭素材料としては、易黒鉛化性炭素や、(002)面の面間隔が0.37nm以上の難黒鉛化性炭素や、(002)面の面間隔が0.34nm以下の黒鉛等が好ましい。
これらの中では、人造黒鉛や天然黒鉛等の高結晶性の炭素材料を使用するリチウムイオンの吸蔵及び放出可能な容量が向上するため好ましく、格子面(002)の面間隔(d002)が0.340nm(ナノメータ)以下、特に0.335〜0.337nmである黒鉛型結晶構造を有する炭素材料を使用することが特に好ましい。
複数の扁平状の黒鉛質微粒子が互いに非平行に集合或いは結合した塊状構造を有する人造黒鉛粒子や、例えば鱗片状天然黒鉛粒子に圧縮力、摩擦力、剪断力等の機械的作用を繰り返し与え、球形化処理を施した黒鉛粒子を用いることにより、負極の集電体を除く部分の密度を1.5g/cm3の密度に加圧成形したときの負極シートのX線回折測定から得られる黒鉛結晶の(110)面のピーク強度I(110)と(004)面のピーク強度I(004)の比I(110)/I(004)が0.01以上となると一段と低温サイクル特性が向上するので好ましく、0.05以上となることがより好ましく、0.1以上となることが更に好ましい。また、過度に処理し過ぎて結晶性が低下し電池の放電容量が低下する場合があるので、上限は0.5以下が好ましく、0.3以下が更に好ましい。
【0037】
リチウムを吸蔵及び放出可能な金属化合物としては、Si、Ge、Sn、Pb、P、Sb、Bi、Al、Ga、In、Ti、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ag、Mg、Sr、Ba等の金属元素を少なくとも一種含有する化合物が挙げられる。これらの金属化合物は単体、合金、酸化物、窒化物、硫化物、硼化物、リチウムとの合金等、何れの形態で用いてもよいが、単体、合金、酸化物、リチウムとの合金の何れかが高容量化できるので好ましい。中でも、Si、Ge及びSnから選ばれる少なくとも一種の元素を含有するものが好ましく、Si及びSnから選ばれる少なくとも一種の元素を含むものが電池を高容量化できるので特に好ましい。
【0038】
負極は、上記の正極の作製と同様な導電剤、結着剤、高沸点溶剤を用いて混練して負極合剤とした後、この負極合剤を集電体の銅箔等に塗布して、乾燥、加圧成型した後、50℃〜250℃程度の温度で2時間程度真空下で加熱処理することにより作製することができる。
負極の集電体を除く部分の密度は、通常は1.1g/cm3以上であり、電池の容量を更に高める観点から、好ましくは1.5g/cm3以上、より好ましくは1.7g/cm3以上であり、その上限は、2g/cm3以下が好ましい。
【0039】
リチウム二次電池の構造には特に限定はなく、単層または複層のセパレータを有するコイン型電池、円筒型電池、角型電池、ラミネート式電池等を適用できる。
電池用セパレータとしては、特に制限はされないが、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィンの単層又は積層の多孔性フィルム、織布、不織布等を使用できる。
本発明におけるリチウム二次電池は、充電終止電圧が4.2V以上、特に4.3V以上の場合にも低温サイクル特性に優れ、更に4.4V以上においても特性は良好である。放電終止電圧は、通常2.8V以上、更には2.5V以上とすることができるが、本願発明におけるリチウム二次電池は、2.0V以上とすることができる。電流値については特に限定されないが、通常0.1〜10Cの範囲で使用される。また、本発明におけるリチウム電池は、−40〜100℃、好ましくは−10〜80℃で充放電することができる。
本発明においては、リチウム二次電池の内圧上昇の対策として、電池蓋に安全弁を設けたり、電池缶やガスケット等の部材に切り込みを入れる方法も採用することができる。また、過充電防止の安全対策として、電池の内圧を感知して電流を遮断する電流遮断機構を電池蓋に設けることができる。
【0040】
(リチウム一次電池)
リチウム一次電池の構成には特に限定はなく、リチウム一次電池に特有な構成以外は、上記のリチウム二次電池の構成と同様にして行うことができる。
リチウム一次電池用正極としては、CuO、Cu2O、Ag2O、Ag2CrO4、CuS、CuSO4、TiO2、TiS2、SiO2、SnO、V25、V612、VOx、Nb25、Bi23、Bi2Pb25,Sb23、CrO3、Cr23、MoO3、WO3、SeO2、MnO2、Mn23、Fe23、FeO、Fe34、Ni23、NiO、CoO3、CoO等の一種又は二種以上の金属元素の酸化物あるいはカルコゲン化合物、SO2、SOCl2等の硫黄化合物、一般式(CFxnで表されるフッ化炭素(フッ化黒鉛)等が挙げられる。中でも、MnO2、V25、フッ化黒鉛等が好ましい。
リチウム一次電池用負極活物質としては、リチウム金属、リチウム合金等が使用される。
【0041】
〔第2の電気化学素子(電気二重層キャパシタ)〕
電解液と電極界面の電気二重層容量を利用してエネルギーを貯蔵する電気化学素子である。本発明の一例は、電気二重層キャパシタである。この電気化学素子に用いられる最も典型的な電極活物質は活性炭である。
【0042】
〔第3の電気化学素子〕
電極のドープ/脱ドープ反応を利用してエネルギーを貯蔵する電気化学素子である。この電気化学素子に用いられる電極活物質として、酸化ルテニウム、酸化イリジウム、酸化タングステン、酸化モリブデン、酸化銅等の金属酸化物や、ポリアセン、ポリチオフェン誘導体等のπ共役高分子が挙げられる。
【0043】
〔第4の電気化学素子(リチウムイオンキャパシタ)〕
負極であるグラファイト等の炭素材料へのリチウムイオンのインターカレーションを利用してエネルギーを貯蔵する電気化学素子である。リチウムイオンキャパシタ(LIC)と呼ばれる。正極は、例えば活性炭電極と電解液との間の電気ニ重層を利用したものや、π共役高分子電極のドープ/脱ドープ反応を利用したもの等が挙げられる。電解液には少なくともLiPF6等のリチウム塩が含まれる。
【実施例】
【0044】
以下、本発明の非水電解液を用いた実施例を示すが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
実施例1〜8、及び比較例1〜3
〔リチウムイオン二次電池の作製〕
LiNi0.8Co0.15Al0.052(正極活物質、正極活物質10gを蒸留水100mlに分散させた時の上澄み液の常温下におけるpHは11.8);94質量%、アセチレンブラック(導電剤);3質量%を混合し、予めポリフッ化ビニリデン(結着剤);3質量%を1−メチル−2−ピロリドンに溶解させておいた溶液に加えて混合し、正極合剤ペーストを調製した。この正極合剤ペーストをアルミニウム箔(集電体)上の片面に塗布し、乾燥、加圧処理して所定の大きさに打ち抜き、正極シートを作製した。正極の集電体を除く部分の密度は3.6g/cm3であった。また、人造黒鉛(d002=0.335nm、負極活物質)95質量%を、予めポリフッ化ビニリデン(結着剤)5質量%を1−メチル−2−ピロリドンに溶解させておいた溶液に加えて混合し、負極合剤ペーストを調製した。この負極合剤ペーストを銅箔(集電体)上の片面に塗布し、乾燥、加圧処理して所定の大きさに打ち抜き負極シートを作製した。負極の集電体を除く部分の密度は1.5g/cm3であった。また、この電極シートを用いてX線回折測定した結果、I(110)/I(004)は0.1であった。そして、正極シート、微孔性ポリエチレンフィルム製セパレータ、負極シートの順に積層し、表1に記載の組成の非水電解液を加えて、2032型コイン電池を作製した。
電池の作製条件及び電池特性を表1に示す。
なお、表中の溶媒の略号の意味は、以下のとおりである。
TMGS:トリメチレングリコールサルファイト
FEC:4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン
PC:プロピレンカーボネート、 EC:エチレンカーボネート、
VC:ビニレンカーボネート
MEC:メチルエチルカーボネート、 DMC:ジメチルカーボネート
【0045】
〔低温サイクル特性の評価〕
上記の方法で作製したコイン電池を用いて25℃の恒温槽中、1Cの定電流及び定電圧で終止電圧4.2Vまで3時間充電し、次に1Cの定電流下終止電圧2.75Vまで放電することでプレサイクルを行った。
次に、0℃の恒温槽中、1Cの定電流及び定電圧で終止電圧4.2Vまで3時間充電し、次に1Cの定電流下終止電圧2.75Vまで放電した。これを50サイクルに達するまで繰り返した。そして、下記式により50サイクル後の放電容量維持率を求めた。
放電容量維持率(%)=(50サイクル後の放電容量/1サイクル後の放電容量)×100
【0046】
【表1】
【0047】
実施例9、及び比較例4
実施例2、比較例1で用いた負極活物質に変えて、Si(負極活物質)を用いて、負極シートを作製した。Si;80質量%、アセチレンブラック(導電剤);15質量%を混合し、予めポリフッ化ビニリデン(結着剤);5質量%を1−メチル−2−ピロリドンに溶解させておいた溶液に加えて混合し、負極合剤ペーストを調製した。この負極合剤ペーストを銅箔(集電体)上に塗布し、乾燥、加圧処理して所定の大きさに打ち抜き、負極シートを作製したことの他は、実施例2、比較例1と同様にコイン電池を作製し、電池評価を行った。結果を表2に示す。
【0048】
【表2】
【0049】
実施例10、及び比較例5
実施例2、比較例1で用いた正極活物質に変えて、非晶質炭素で被覆されたLiFePO4(正極活物質)を用いて、正極シートを作製した。非晶質炭素で被覆されたLiFePO4;90質量%、アセチレンブラック(導電剤);5質量%を混合し、予めポリフッ化ビニリデン(結着剤);5質量%を1−メチル−2−ピロリドンに溶解させておいた溶液に加えて混合し、正極合剤ペーストを調製した。この正極合剤ペーストをアルミニウム箔(集電体)上に塗布し、乾燥、加圧処理して所定の大きさに打ち抜き、正極シートを作製したこと、電池評価の際の充電終止電圧を3.6V、放電終止電圧を2.0Vとしたことの他は、実施例2、比較例1と同様にコイン電池を作製し、電池評価を行った。結果を表3に示す。
【0050】
【表3】
【0051】
表1から、実施例1〜8のリチウム二次電池は何れも、非水電解液に添加剤を添加しない比較例1、環状カーボネート一種のみを含む非水溶媒からなる非水電解液にトリメチレングリコールサルファイト(TMGS)を添加した比較例2、少なくともエチレンカーボネートの4位にメチル基を有する環状カーボネート(PC)及び少なくともエチレンカーボネートの4位にフッ素原子を有する環状カーボネート(FEC)の含有量が非水溶媒の総体積に対して40体積%を超えて含む比較例3のリチウム二次電池に比べ、低温サイクル特性が顕著に向上していることが分かる。このことから、本発明の効果は、溶媒に環状カーボネート二種を含み、かつ、少なくともエチレンカーボネートの4位にメチル基を有する環状カーボネート及び/又はフッ素原子を有する環状カーボネートを非水溶媒の総体積に対し1〜40体積%含む非水電解液にトリメチレングリコールサルファイトを組み合わせた場合に特異的であることが分かる。
また、表2の実施例9と比較例4の対比、表3の実施例10と比較例5の対比から、負極にSiを用いた場合や、正極にリチウム含有オリビン型リン酸鉄塩を用いた場合にも低温サイクル特性が向上する効果がみられる。従って、本発明の効果は、特定の正極や負極に依存した効果でないことは明らかである。
更に、本発明の非水電解液は、リチウム一次電池の低温の負荷特性を改善する効果も有する。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の非水電解液を使用すれば、低温サイクル特性に優れた電気化学素子を得ることができる。