(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
水溶性高分子を含む基体層の両面のうち少なくとも一方に、脂肪族エステルを含む被覆層を、該被覆層の層厚が130nm以上820nm未満となるように積層した癒着防止材。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1及び2に開示された従来の癒着防止材においては、ヒアルロン酸等の水溶性高分子は親水性(水溶性)であるため、例えば術中に濡れたピンセットで取り扱うのが難しいなど、濡れたときの取り扱い性が非常に悪いという問題がある。濡れたときの取り扱い性が悪いと、例えば、目的位置からずれて癒着防止材を貼り付けてしまったときに貼り直しがきかないことから、経済的損失が大きくなってしまうという不具合がある。また、完全に乾燥した手術器具を使用しなければならないことから、使用者に過度の負担を与えかねない。
【0006】
一方、特許文献3〜5に開示された従来の他の癒着防止材によれば、支持層を有することから、水溶性高分子を含む基体層のみで構成された癒着防止材と比べ、濡れたときの取り扱い性に改善が期待できるものの、生体内での分解性や癒着防止性能の面から言えば、求められるレベルに十分達しているとは言い難い。
【0007】
そこで、本発明は、このような問題を解決するためになされたもので、生体内での十分な分解性及び優れた癒着防止性能を備えつつ、従来よりも濡れたときの取り扱い性に優れた癒着防止材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
[1]本発明の癒着防止材は、水溶性高分子を含む基体層と、前記基体層の両面のうち少なくとも一方に配置され、脂肪族エステルを含む被覆層とを備え、分光エリプソメータを用いて波長380nm〜900nmで測定したときの前記被覆層の光学厚みが、27nm以上160nm未満であることを特徴とする。
【0009】
本発明の癒着防止材によれば、水溶性高分子を含む基体層の両面のうち少なくとも一方に、脂肪族エステルを含む被覆層が配置されているため、水溶性高分子を含む基体層のみで構成された癒着防止材と比べて、濡れたときの取り扱い性を向上することが可能となる。また、被覆層の光学厚みが、27nm以上160nm未満という非常に薄い値に設定されているため、被覆層を配置したからといって生体内での分解性や癒着防止性能が必要レベル以下に落ちてしまうこともない。詳細については実施例で後述するが、本発明の癒着防止材は、生体内での分解性も十分なレベルを満たし、癒着防止性能についても、水溶性高分子を含む基体層のみで構成された癒着防止材と比べても遜色のないものとなる。
したがって、本発明の癒着防止材は、生体内での十分な分解性及び優れた癒着防止性能を備えつつ、従来よりも濡れたときの取り扱い性に優れた癒着防止材となる。
【0010】
また、本発明者らが実験したところによると、被覆層の光学厚みを27nm以上160nm未満に設定した場合、上記の効果を奏するのみならず、癒着防止材を生体組織に貼り付けたときの癒着防止材と生体組織との密着性を、従来よりも格段に高くすることが可能となる。
【0011】
[2]上記[1]に記載の癒着防止材においては、前記被覆層の光学厚みが、27nm以上128nm以下に設定されていることが好ましい。
【0012】
詳細については実施例で後述するが、上記のように構成することにより、優れた癒着防止性能を備え、かつ、従来よりも濡れたときの取り扱い性に優れ、生体内での分解性により一層優れた癒着防止材を実現することができる。
また、癒着防止材を生体組織に貼り付けたときの癒着防止材と生体組織との密着性の点においても、上記のように構成することにより、さらに密着性に優れた癒着防止材を実現することができる。
【0013】
[3]また、本発明の癒着防止材は、水溶性高分子を含む基体層の両面のうち少なくとも一方に、脂肪族エステルを含む被覆層を、該被覆層の層厚が130nm以上820nm未満となるように積層することを特徴とする。
【0014】
このように構成することにより、水溶性高分子を含む基体層の両面のうち少なくとも一方に、脂肪族エステルを含む被覆層が配置されることとなるため、水溶性高分子を含む基体層のみで構成された癒着防止材と比べて、濡れたときの取り扱い性を向上することが可能となる。また、被覆層を、その層厚が130nm以上820nm未満となるように設定して積層するため、該被覆層が非常に薄くなる結果、被覆層を配置したからといって生体内での分解性や癒着防止性能が必要レベル以下に落ちてしまうこともない。詳細については実施例で後述するが、本発明の癒着防止材は、生体内での分解性も十分なレベルを満たし、癒着防止性能についても、水溶性高分子を含む基体層のみで構成された癒着防止材と比べても遜色のないものとなる。
したがって、本発明の癒着防止材は、生体内での十分な分解性及び優れた癒着防止性能を備えつつ、従来よりも濡れたときの取り扱い性に優れた癒着防止材となる。
また、被覆層の層厚を130nm以上820nm未満に設定した場合、上記の効果を奏するのみならず、癒着防止材を生体組織に貼り付けたときの癒着防止材と生体組織との密着性を、従来よりも格段に高くすることが可能となる。
【0015】
[4]上記[3]に記載の癒着防止材においては、前記被覆層の層厚が、130nm以上660nm以下に設定されていることが好ましい。
【0016】
上記のように構成することにより、優れた癒着防止性能を備え、かつ、従来よりも濡れたときの取り扱い性に優れ、生体内での分解性により一層優れた癒着防止材を実現することができる。
また、癒着防止材を生体組織に貼り付けたときの癒着防止材と生体組織との密着性の点においても、上記のように構成することにより、さらに密着性に優れた癒着防止材を実現することができる。
【0017】
[5]上記[1]〜[4]のいずれか1つに記載の癒着防止材においては、前記被覆層として、前記基体層の一方側の面に配置された第1被覆層と、前記基体層の他方側の面に配置された第2被覆層とを備え、前記第1被覆層及び第2被覆層が同一材料で構成されていることが好ましい。
【0018】
このように構成することにより、製造効率を向上することができ、製造コストの低廉化を図ることが可能となる。
【0019】
[6]上記[1]〜[4]のいずれか1つに記載の癒着防止材においては、前記被覆層として、前記基体層の一方側の面に配置された第1被覆層と、前記基体層の他方側の面に配置された第2被覆層とを備え、前記第1被覆層と前記第2被覆層とが異なる材料で構成されていることが好ましい。
【0020】
このように構成することにより、面によって異なる機能を備える癒着防止材を実現可能となる。
【0021】
[7]上記[1]〜[6]のいずれか1つに記載の癒着防止材においては、前記基体層及び前記被覆層のうち少なくとも一方には、薬剤が添加されていることが好ましい。
【0022】
このように構成することにより、添加した薬剤の効能をさらに備える癒着防止材を実現することができる。
【0023】
[8]上記[1]〜[7]のいずれか1つに記載の癒着防止材においては、前記水溶性高分子として、多糖類、蛋白質又は合成高分子を好ましく用いることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明の癒着防止材によれば、生体内での十分な分解性及び優れた癒着防止性能を備えつつ、従来よりも濡れたときの取り扱い性に優れた癒着防止材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の癒着防止材について、図に示す実施の形態に基づいて説明する。
【0027】
[第1実施形態]
図1は、第1実施形態に係る癒着防止材1を説明するために示す図である。
図1(a)は癒着防止材1の斜視図であり、
図1(b)は癒着防止材1の一部拡大断面図である。なお、
図1(a)及び
図1(b)においては、発明の理解を容易にするため、基体層10の層厚並びに基体層10に対する第1被覆層20及び第2被覆層30の層厚をある程度誇張して表している。
【0028】
第1実施形態に係る癒着防止材1は、
図1に示すように、シート状からなる基体層10と、基体層10の一方側の面に配置された第1被覆層20と、基体層10の他方側の面に配置された第2被覆層30とを備える。
【0029】
基体層10は、水溶性高分子から構成されている。水溶性高分子としては、多糖類、蛋白質又は合成高分子を好ましく用いることができる。
【0030】
多糖類としては、例えば、デンプン、アミロース、アミロペクチン、グリコーゲン、グルコマンナン、デキストリン、グルカン、フルクタンなどの動植物の貯蔵多糖類、セルロース、ペクチン、キチンなどの動植物の構造多糖類、カラギーナン、アガロースなどの海藻由来の多糖類、プルランなどの微生物多糖類、ローカストビーンガム、グアーガムなどの植物ゴム多糖類、ヘパリン、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、へパラン硫酸、デルマタン硫酸、ケラタン硫酸などのグリコサミノグリカン、その他これら多糖の誘導体を好適に用いることができる。
蛋白質としては、例えば、ゼラチン、カゼイン、コラーゲンなどを好適に用いることができる。
合成高分子としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルアルコール誘導体、ポリアクリル酸系水溶性ポリマー、ポリアクリルアミド、ポリアクリルアミド誘導体、ポリエチレンオキシド、ポリエチレンオキシド誘導体、ポリビニルピロリドン、ポリビニルピロリドン誘導体、ポリアミド系ポリマー、ポリアルキレンオキシド系ポリマー、ポリエーテルグリコール系ポリマー、無水マレイン酸共重合体系ポリマーなどを好適に用いることができる。
癒着防止材全体のしなやかさを高める観点から言えば、例示した水溶性高分子のなかでも、プルランを特に好適に用いることができる。
【0031】
基体層10の層厚は、例えば、1μm〜5000μmに設定されている。
【0032】
被覆層としての第1被覆層20及び第2被覆層30は、ともに脂肪族エステルから構成されている。脂肪族エステルとしては、例えば、ポリ(ラクチド)類、ポリ(グリコリド)類、ポリ(ラクチド−コ−グリコリド)類、ポリ(乳酸)類、ポリ(グリコール酸)類、ポリ(乳酸−コ−グリコール酸)類、ポリカプロラクトン類
、ポリエステルアミド類、ポリアンヒドリド類
、ポリオルトエステル類
、ポリシアノアクリレート類、ポリエーテルエステル類、ポリ(ジオキサノン)類、ポリ(アルキレンアルキレート)類、ポリエチレングリコールとポリオルトエステルとのコポリマー
、その他これらの共重合体、ポリマーアロイなどを好適に用いることができる。特に、生体内適合性及び生体分解性に優れることから、ポリ(乳酸)類、ポリ(グリコール酸)類、ポリカプロラクトン類
、及びこれらの共重合体のうちの少なくとも1種を用いることが好ましい。なお、第1実施形態において、第1被覆層20及び第2被覆層30は、これら例示した材料の中から同じ材料で構成されている。
【0033】
第1被覆層20は、分光エリプソメータを用いて波長380nm〜900nmで測定したときの光学厚みが、27nm以上160nm未満である。第2被覆層30についても同様に、分光エリプソメータを用いて波長380nm〜900nmで測定したときの光学厚みは、27nm以上160nm未満である。
なお、第1被覆層20と第2被覆層30のそれぞれについて、分光エリプソメータを用いて波長380nm〜900nmで測定したときの光学厚みは、27nm以上128nm以下であることがより好ましい。
【0034】
ここで、「光学厚み」とは、測定対象物を光学的に測定して算出される厚みのことをいう。一方、「層厚」とは、測定対象物を物理的に測定して算出される厚みのことをいう。本明細書においては、「光学厚み」と「層厚」を異なる意味で用いている。
【0035】
第1実施形態に係る癒着防止材1は、「基体層準備工程」と、「被覆層積層工程」とをこの順序で行うことにより製造することができる。以下、これら各工程を詳細に説明する。
【0036】
「基体層準備工程」
まず、所定サイズの基体層10を準備する。基体層10の材料としては、上述した材料を好ましく用いることができる。
【0037】
「被覆層積層工程」
次に、準備された基体層10の一方面に第1被覆層20を積層し、基体層10の他方面に第2被覆層30を積層する。第1被覆層20及び第2被覆層30の積層方法としては、例えば、第1被覆層20及び第2被覆層30の材料を所定濃度となるように調整したコーティング液を作製し、当該コーティング液中に基体層10を所定時間浸漬させた後、コーティング液中から引き上げて乾燥等することによって、基体層10に第1被覆層20及び第2被覆層30をそれぞれ積層することができる。
【0038】
第1実施形態に係る癒着防止材1においては、第1被覆層20の層厚が130nm以上820nm未満となるように積層している。第2被覆層30についても同様に、その層厚が130nm以上820nm未満となるように積層している。
なお、第1被覆層20と第2被覆層30のそれぞれについて、層厚が130nm以上660nm以下となるように積層することがより好ましい。
【0039】
以上のように構成された第1実施形態に係る癒着防止材1によれば、水溶性高分子を含む基体層10の両面に脂肪族エステルを含む第1被覆層20及び第2被覆層30が配置されているため、水溶性高分子を含む基体層のみで構成された癒着防止材と比べて、濡れたときの取り扱い性を向上することが可能となる。また、分光エリプソメータを用いて波長380nm〜900nmで測定したときの、第1被覆層20及び第2被覆層30の各層の光学厚みが27nm以上160nm未満(積層時の層厚で表すと130nm以上820nm未満)という非常に薄い値に設定されているため、第1被覆層20及び第2被覆層30を配置したからといって生体内での分解性や癒着防止性能が必要レベル以下に落ちてしまうこともない。詳細については実施例で後述するが、第1実施形態に係る癒着防止材1は、生体内での分解性も十分なレベルを満たし、癒着防止性能についても、水溶性高分子を含む基体層のみで構成された癒着防止材と比べても遜色のないものとなる。
したがって、第1実施形態に係る癒着防止材1は、生体内での十分な分解性及び優れた癒着防止性能を備えつつ、従来よりも濡れたときの取り扱い性に優れた癒着防止材となる。
【0040】
また、詳細については実施例で後述するが、第1実施形態に係る癒着防止材1によれば、第1被覆層20及び第2被覆層30の各層の光学厚みが27nm以上160nm未満(積層時の層厚で表すと130nm以上820nm未満)であるため、上記の効果を奏するのみならず、癒着防止材1を生体組織に貼り付けたときの癒着防止材1と生体組織との密着性を、従来よりも格段に高くすることが可能となる。
【0041】
さらにまた、第1実施形態に係る癒着防止材1はシート状であることから、生体組織の使用箇所を問わずに幅広く使用することができる。
【0042】
第1実施形態に係る癒着防止材1においては、第1被覆層20及び第2被覆層30が同一材料で構成されているため、製造効率を向上することができ、製造コストの低廉化を図ることが可能となる。
【0043】
[第2実施形態]
図2は、第2実施形態に係る癒着防止材2を説明するために示す図である。
図2(a)は癒着防止材2の斜視図であり、
図2(b)は癒着防止材2の一部拡大断面図である。なお、
図2(a)及び
図2(b)においては、発明の理解を容易にするため、基体層10の層厚並びに基体層10に対する被覆層22の層厚をある程度誇張して表している。また、
図2において、
図1と同一の部材については同一の符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0044】
第2実施形態に係る癒着防止材2は、基本的には第1実施形態に係る癒着防止材1と良く似た構成を有するが、基体層の一方側の面にのみ被覆層が配置されている点で、第1実施形態に係る癒着防止材1とは異なる。
【0045】
すなわち、第2実施形態に係る癒着防止材2は、
図2に示すように、シート状からなる基体層10と、基体層10の一方側の面に配置された被覆層22とを備える。
【0046】
被覆層22は、脂肪族エステルから構成されている。脂肪族エステルとしては、第1実施形態で説明した第1被覆層20及び第2被覆層30と同様のものを例示することができる。
【0047】
分光エリプソメータを用いて波長380nm〜900nmで測定したときの、被覆層22の光学厚みは27nm以上160nm未満(積層時の層厚で表すと130nm以上820nm未満)に設定されている。
なお、被覆層22について、分光エリプソメータを用いて波長380nm〜900nmで測定したときの光学厚みは、27nm以上128nm以下(積層時の層厚で表すと130nm以上660nm以下)であることがより好ましい。
【0048】
このように、第2実施形態に係る癒着防止材2は、第1実施形態に係る癒着防止材1とは、基体層の一方側の面にのみ被覆層が配置されている点で異なるが、水溶性高分子を含む基体層10の一方側の面に脂肪族エステルを含む被覆層22が配置されているため、第1実施形態に係る癒着防止材1の場合と同様に、水溶性高分子を含む基体層のみで構成された癒着防止材と比べて、濡れたときの取り扱い性を向上することが可能となる。また、分光エリプソメータを用いて波長380nm〜900nmで測定したときの、被覆層22の光学厚みが27nm以上160nm未満(積層時の層厚で表すと130nm以上820nm未満)という非常に薄い値に設定されているため、生体内での分解性も十分なレベルを満たし、癒着防止性能についても、水溶性高分子を含む基体層のみで構成された癒着防止材と比べても遜色のないものとなる。
したがって、第2実施形態に係る癒着防止材2は、生体内での十分な分解性及び優れた癒着防止性能を備えつつ、従来よりも濡れたときの取り扱い性に優れた癒着防止材となる。
【0049】
第2実施形態に係る癒着防止材2は、基体層の一方側の面にのみ被覆層が配置されている点以外では、第1実施形態に係る癒着防止材1と同様の構成を有するため、第1実施形態に係る癒着防止材1が有する効果のうち該当する効果をそのまま有する。
【0050】
[第3実施形態]
図3は、第3実施形態に係る癒着防止材3を説明するために示す図である。
図3(a)は癒着防止材3の斜視図であり、
図3(b)は癒着防止材3の一部拡大断面図である。なお、
図3(a)及び
図3(b)においては、発明の理解を容易にするため、基体層12の層厚並びに基体層12に対する第1被覆層20及び第2被覆層30の層厚をある程度誇張して表している。また、
図3において、
図1と同一の部材については同一の符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0051】
第3実施形態に係る癒着防止材3は、基本的には第1実施形態に係る癒着防止材1と良く似た構成を有するが、基体層に抗菌剤が添加されている点で、第1実施形態に係る癒着防止材1とは異なる。
【0052】
すなわち、第3実施形態に係る癒着防止材3においては、
図3に示すように、基体層として、抗菌剤が添加された基体層12を備える。基体層12は、水溶性高分子に抗菌剤が添加されたものである。
基体層12を構成する水溶性高分子としては、第1実施形態で説明した基体層10と同様のものを例示することができる。抗菌剤としては、例えば、ニューキノロン系の抗菌剤などを好適に用いることができる。
基体層12の層厚は、例えば、1μm〜5000μmに設定されている。
【0053】
このように、第3実施形態に係る癒着防止材3は、第1実施形態に係る癒着防止材1とは、基体層に抗菌剤が添加されている点で異なるが、水溶性高分子を含む基体層12の両面に脂肪族エステルを含む第1被覆層20及び第2被覆層30が配置されているため、第1実施形態に係る癒着防止材1の場合と同様に、水溶性高分子を含む基体層のみで構成された癒着防止材と比べて、濡れたときの取り扱い性を向上することが可能となる。また、分光エリプソメータを用いて波長380nm〜900nmで測定したときの、第1被覆層20及び第2被覆層30の光学厚みが27nm以上160nm未満(積層時の層厚で表すと130nm以上820nm未満)という非常に薄い値に設定されているため、生体内での分解性も十分なレベルを満たし、癒着防止性能についても、水溶性高分子を含む基体層のみで構成された癒着防止材と比べても遜色のないものとなる。
したがって、第3実施形態に係る癒着防止材3は、生体内での十分な分解性及び優れた癒着防止性能を備えつつ、従来よりも濡れたときの取り扱い性に優れた癒着防止材となる。
【0054】
第3実施形態に係る癒着防止材3においては、基体層12には、抗菌剤が添加されているため、抗菌性能に優れた癒着防止材となる。
【0055】
第3実施形態に係る癒着防止材3は、基体層に抗菌剤が添加されている点以外では、第1実施形態に係る癒着防止材1と同様の構成を有するため、第1実施形態に係る癒着防止材1が有する効果のうち該当する効果をそのまま有する。
【0056】
[第4実施形態]
図4は、第4実施形態に係る癒着防止材4を説明するために示す図である。
図4(a)は癒着防止材4の斜視図であり、
図4(b)は癒着防止材4の一部拡大断面図である。なお、
図4(a)及び
図4(b)においては、発明の理解を容易にするため、基体層14の層厚並びに基体層14に対する第1被覆層24及び第2被覆層34の層厚をある程度誇張して表している。
【0057】
第4実施形態に係る癒着防止材4は、
図4に示すように、筒状からなる基体層14と、基体層14の外面に配置された第1被覆層24と、基体層14の内面に配置された第2被覆層34とを備える。
【0058】
基体層14は、水溶性高分子から構成されている。水溶性高分子としては、第1実施形態で説明した基体層10と同様のものを例示することができる。
基体層14の層厚は、例えば、1μm〜5000μmに設定されている。
【0059】
被覆層としての第1被覆層24及び第2被覆層34は、ともに脂肪族エステルから構成されている。脂肪族エステルとしては、第1実施形態で説明した第1被覆層20及び第2被覆層30と同様のものを例示することができる。
【0060】
第1被覆層24及び第2被覆層34は、分光エリプソメータを用いて波長380nm〜900nmで測定したときの光学厚みが、27nm以上160nm未満(積層時の層厚で表すと130nm以上820nm未満)に設定されている。
なお、第1被覆層24と第2被覆層34のそれぞれについて、分光エリプソメータを用いて波長380nm〜900nmで測定したときの光学厚みは、27nm以上128nm以下(積層時の層厚で表すと130nm以上660nm以下)であることがより好ましい。
【0061】
以上のように構成された第4実施形態に係る癒着防止材4によれば、水溶性高分子を含む基体層14の外面及び内面に脂肪族エステルを含む第1被覆層24及び第2被覆層34が配置されているため、第1実施形態に係る癒着防止材1の場合と同様に、水溶性高分子を含む基体層のみで構成された癒着防止材と比べて、濡れたときの取り扱い性を向上することが可能となる。また、分光エリプソメータを用いて波長380nm〜900nmで測定したときの、第1被覆層24及び第2被覆層34の光学厚みが27nm以上160nm未満(積層時の層厚で表すと130nm以上820nm未満)という非常に薄い値に設定されているため、生体内での分解性も十分なレベルを満たし、癒着防止性能についても、水溶性高分子を含む基体層のみで構成された癒着防止材と比べても遜色のないものとなる。
したがって、第4実施形態に係る癒着防止材4は、生体内での十分な分解性及び優れた癒着防止性能を備えつつ、従来よりも濡れたときの取り扱い性に優れた癒着防止材となる。
【0062】
また、第4実施形態に係る癒着防止材4によれば、分光エリプソメータを用いて波長380nm〜900nmで測定したときの、第1被覆層24及び第2被覆層34の光学厚みが27nm以上160nm未満(積層時の層厚で表すと130nm以上820nm未満)に設定されているため、上記の効果を奏するのみならず、癒着防止材4を生体組織に貼り付けた(配置した)ときの癒着防止材4と生体組織との密着性を、従来よりも格段に高くすることが可能となる。
【0063】
さらにまた、第4実施形態に係る癒着防止材4は筒状であることから、例えば、腱、神経、卵管等の管状組織周辺に用いる癒着防止材として、特に有用である。
【0064】
以上、本発明の癒着防止材を上記の各実施形態に基づいて説明したが、本発明は上記の各実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0065】
(1)上記第1実施形態、第3実施形態及び第4実施形態においては、第1被覆層及び第2被覆層が、脂肪族エステルのうち同じ材料で構成されていたが、本発明はこれに限定されるものではなく、第1被覆層と第2被覆層とが脂肪族エステルのうち異なる材料で構成されていてもよい。この場合は、面によって異なる機能を備える癒着防止材を実現可能となる。
【0066】
(2)上記第3実施形態においては、基体層に抗菌剤が添加されている場合を例示して説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、基体層ではなく被覆層に抗菌剤が添加されていてもよいし、基体層と被覆層の両方に抗菌剤が添加されていてもよい。また、被覆層が第1被覆層及び第2被覆層の2層からなる場合には、第1被覆層及び第2被覆層のいずれか一方に抗菌剤が添加されていてもよいし、第1被覆層及び第2被覆層の両方に抗菌剤が添加されていてもよい。
また、上記第3実施形態においては、薬剤として抗菌剤が添加されている場合を例示して説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、抗菌剤以外の薬剤(例えば、抗生剤、抗炎症剤、抗癒着剤、抗がん剤、消毒剤など)を用いてもよい。なお、癒着防止材を構成する各層のうち少なくとも2層に薬剤が添加されている場合においては、同一種類の薬剤を添加してもよいし、異なる種類の薬剤を添加してもよい。
【0067】
(3)上記第4実施形態においては、基体層14の外面及び内面に第1被覆層24及び第2被覆層34がそれぞれ配置されている場合を例示して説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。第2実施形態の場合のように、基体層14の外面及び内面のいずれか一方にのみ被覆層が配置されていてもよい。
また、上記第4実施形態においては、基体層14並びに第1被覆層24及び第2被覆層34のいずれの層にも薬剤が添加されていないが、本発明はこれに限定されるものではない。第3実施形態の場合のように、基体層に薬剤が添加されていてもよいし、他の層に薬剤が添加されていてもよい。
【0068】
(4)上記第1実施形態においては、被覆層積層工程として、いわゆるディッピング法を用いた場合を例示して説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えばスプレー法などの公知の成膜方法を用いることができる。
【実施例】
【0069】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例により何ら限定されるものではない。
【0070】
[実施例]
上述の第1実施形態に係る癒着防止材1の構成をもとに、シート状からなる基体層の両面に同一材料からなる第1被覆層及び第2被覆層(以下、単に「被覆層」と省略する場合もある。)が配置されたものを実施例とした。
具体的には、まず、100mm×100mm×厚さ40μmのプルラン膜を成膜して基体層を形成した。次に、所定濃度に調整したポリ乳酸−ポリグリコール酸−ポリεカプロラクトン/トルエン溶液(以下、コーティング液という。)を作製し、該コーティング液中に基体層を浸し、該基体層の両表面に被覆層を形成した。ディッピング後に一昼夜室温で乾燥させ、これを実施例に係る試料とした。
【0071】
[比較例]
水溶性高分子を含む基体層のみで構成された癒着防止材を比較例とした。具体的には、ヒアルロン酸とカルボキシメチルセルロースをカルボジイミド塩酸塩で架橋し、シート状に成型したものを比較例に係る試料とした。
【0072】
[被覆層の層厚の算出方法]
基体層に積層された被覆層の層厚を算出するにあたっては、次の手順で算出した。
【0073】
まず、基体層単独の層厚を予め測定しておき、基体層の両表面に被覆層をそれぞれ積層した後で、得られた試料の全体の厚みを測定した。次に、試料の全体の厚みから予め測定しておいた基体層の層厚を引いて、被覆層全体の厚み(第1被覆層と第2被覆層の層厚を合算した値)を算出した。そして、当該被覆層全体の厚みを2で除算し、基体層に積層された被覆層の層厚(第1被覆層及び第2被覆層の各層厚)を算出した。
【0074】
基体層の層厚又は試料全体の厚みについては、デジマチックインジケータ(株式会社ミツトヨ製「ID−N112」)を用いて測定した。
【0075】
[被覆層の光学厚みの測定方法]
基体層に積層された被覆層の光学厚みを測定するにあたっては、分光エリプソメータ(ジェー・エー・ウーラム・ジャパン株式会社製「alpha−SE(米国登録商標)」)を用いた。測定波長は、380nm〜900nmとした。
【0076】
[コーティング液の濃度と被覆層の層厚との関係]
本発明者らは、プルラン膜(基体層)にディッピングするコーティング液の濃度と、ディッピング後の試料における被覆層の層厚(第1被覆層及び第2被覆層それぞれの層厚)との関係を知るため、以下に示す試験を行った。
【0077】
まず、100mm×100mm×厚さ40μmのプルラン膜(基体層)を準備し、当該プルラン膜に、0.05w/v%〜5w/v%の間で段階的に濃度調整されたコーティング液をディッピングした。そして、上述した[被覆層の層厚の算出方法]によって、ディッピング後の試料における被覆層(第1被覆層及び第2被覆層)の層厚をそれぞれ算出した。
【0078】
図5は、コーティング液の濃度と被覆層の層厚との相関図である。
上記試験を行った結果、
図5から分かるように、少なくとも上記の条件下においては、コーティング液の濃度と、ディッピング後の試料における被覆層の層厚との間には、強い相関関係があることがわかった。このため、試験例1〜4で用いる各試料における被覆層の層厚は、[被覆層の層厚の算出方法]によって得られる算出値ではなく、コーティング液の濃度と被覆層の層厚との関係から得られた相関式、例えば、直線式(y=0.66x,x:コーティング液の濃度(w/v%),y:被覆層の層厚(μm))を求めておき、各試料を作製したときの実際のコーティング液の濃度を代入して求めた理論値を採用した。
【0079】
[コーティング液の濃度と被覆層の光学厚みとの関係]
本発明者らは、プルラン膜(基体層)にディッピングするコーティング液の濃度と、ディッピング後の試料における被覆層の光学厚み(第1被覆層及び第2被覆層それぞれの光学厚み)との関係を知るため、以下に示す試験を行った。
【0080】
まず、100mm×120mm×厚さ40μmのプルラン膜(基体層)を7枚準備し、当該プルラン膜に、0.3w/v%〜0.9w/v%の間で段階的に濃度調整されたコーティング液をそれぞれディッピングし、試料を作製した。コーティング液の濃度は、0.1w/v%刻みで計7段階とした。そして、分光エリプソメータを用いて、ディッピング後の試料における被覆層(第1被覆層及び第2被覆層)の光学厚みをそれぞれ測定した。
【0081】
図6は、コーティング液の濃度と被覆層の光学厚みとの相関図である。
上記試験を行った結果、
図6から分かるように、少なくとも上記の条件下においては、コーティング液の濃度と被覆層の光学厚みとの間には、強い相関関係があることがわかった。このため、試験例1〜4で用いる各試料における被覆層の光学厚みは、エリプソメータを用いて実際に測定することによって得られる実測値ではなく、コーティング液の濃度と被覆層の光学厚みの関係から得られた相関式、例えば、直線式(y=126.41x+1.92,x:コーティング液の濃度(w/v%),y:被覆層の光学厚み(nm))を求めておき、各試料を作製したときの実際のコーティング液の濃度を代入して求めた理論値を採用した。
【0082】
[試験例1]
試験例1は、生体組織に貼り付けたときの癒着防止材の分解性を評価するための試験である。癒着防止材の分解性を評価するにあたっては、実施例及び比較例に係る試料から試験片を作製し、試験片をリン酸緩衝液に浸した後の外観を確認してスコア化することにより、癒着防止材の分解性を評価した。
【0083】
(1)試験片の準備
上記した実施例及び比較例に係る試料を裁断して、50mm×50mmの正方形状の試験片を作製した。実施例に係る試料としては、コーティング液の濃度を0.05w/v%、0.10w/v%、0.20w/v%、0.50w/v%、0.75w/v%、1.00w/v%、1.25w/v%、1.50w/v%の8段階に設定して作製した試料(試料A−1〜A−8)を用い、これら各試料について試験片を5枚ずつ準備した。比較例に係る試料(試料A−0)についても、試験片を5枚準備した。
【0084】
(2)試験方法
まず、試験片を孔径40μmのメッシュで両面から挟み、メッシュで挟んだ試験片をリン酸緩衝液(37℃、pH7.4に調整)の入ったビーカーに浸漬させ、緩やかに(50rpm)振とうさせ続けた。浸漬させてから14日後、試験片の外観を観察して試験片の分解の程度(分解状態)をスコア化した。当該スコア(以下、分解性スコア)は、試験片がそのままの形状を維持しているものを「スコア2」とし、形状を維持していないが残存物が確認できるものを「スコア1」とし、形状を維持しておらず残存物も確認できないものを「スコア0」とした。そして、5枚の試験片の分解性スコアに基づき、平均分解性スコアを算出した。
各試料の被覆層の厚み(層厚の理論値と光学厚みの理論値)と平均分解性スコアを、表1に示す。また、被覆層の層厚(理論値)と平均分解性スコアとの関係を、
図7に示す。
【0085】
【表1】
【0086】
表1及び
図7に示すように、試料A−7,A−8については分解性が良くないが、試料A−1〜A−6については所定の分解性が認められた。特に、試料A−1〜A−4については、試料A−0(比較例)と同等の分解性が認められた。これより、被覆層を層厚820nm未満に設定して積層すれば(すなわち、光学厚みを160nm未満とすれば)、生体内での十分な分解性を得ることができ、被覆層を層厚660nm以下に設定して積層すれば(すなわち、光学厚みを128nm以下とすれば)、さらに高い分解性を得ることができ、被覆層を層厚490nm未満に設定して積層すれば(すなわち、光学厚みを97nm未満とすれば)、従来の癒着防止材と同等の分解性を得ることができるということが確認できた。
【0087】
なお、表1を見て分かるように、分光エリプソメータを用いて測定したときの各被覆層の光学厚みは、被覆層の層厚よりも小さくなっている。その理由は、基体層に積層された被覆層が基体層の表面に浸透して各被覆層と基体層との境界面が一体化するためと推測される。
【0088】
[試験例2]
試験例2は、癒着防止材の癒着防止性能を評価するための試験である。癒着防止性能を評価するにあたっては、実施例及び比較例に係る試料から試験片を作製し、試験片をラットの腹腔内に貼り付けて癒着の程度を観察及びスコア化することにより、癒着防止性能を評価した。
【0089】
(1)試験片の準備
上記した実施例及び比較例に係る試料を裁断して、30mm×30mmの正方形状の試験片を作製した。実施例に係る試料としては、コーティング液の濃度を0.5w/v%に設定して作製した試料(試料B−1)を用い、試験片を10枚準備した。比較例に係る試料(試料B−0)についても、試験片を10枚準備した。
【0090】
(2−1)試験方法(癒着モデルの作製)
まず、ラットを全身麻酔下で3〜4cmの腹部正中切開によって開腹し、盲腸を創外に露出させた。次に、露出させた盲腸の小腸側の一定面積(1〜2cm
2)について、滅菌ガーゼを用いて点状出血が生じるまで擦過した。点状出血が生じた後は、正確に10分間空気中に曝露した。そして、試験片を擦過部位に貼り付けて盲腸を腹腔内に戻し、切開した部分の腹壁を吸収性縫合糸(3−0)を用いて2層で連続縫合し、閉鎖した。
なお、実施例に係る試料(試料B−1)及び比較例に係る試料(試料B−0)のそれぞれについて1群あたり10匹の癒着モデルを作製するとともに、対照群(試験片を貼り付けず盲腸部の擦過のみ)のモデルも計10匹作製した。
【0091】
(2−2)試験方法(癒着程度の観察、癒着スコアの算出)
モデル作製から14日後、ラットを全身麻酔下で開腹し、癒着惹起部位(試験片を貼り付けた部位及びその周辺部位)の癒着の程度を肉眼観察し、スコア化した。当該スコア(以下、癒着スコア)は、癒着が認められない状態を「スコア0」とし、細くて容易に分離できる程度の癒着が認められる状態を「スコア1」とし、狭い範囲ではあるが軽度の牽引に耐えられる程度の弱い癒着が認められる状態を「スコア2」とし、かなりしっかりとした癒着あるいは少なくとも2箇所に癒着が認められる状態を「スコア3」とし、3箇所以上に癒着が認められる状態を「スコア4」とした。
【0092】
(3)有意差の判定
対照群並びに実施例及び比較例に係る試料の平均癒着スコアを算出し、対照群−実施例間、実施例−比較例間の有意差検定を行った。検定は、Wilcoxon順位和検定を採用し、危険率5%以下を有意水準として、有意差の判定を行った。
各癒着モデルの癒着スコア及び平均癒着スコアを、表2に示す。また、対照群及び試料B−1,B−0の平均癒着スコアを、
図8に示す。
【0093】
【表2】
【0094】
表2及び
図8に示すように、試料B−1の平均癒着スコアは、対照群の平均癒着スコアよりも低く、統計的にみても危険率5%で両者の間に有意な差が認められた。また、試料B−1(実施例)の平均癒着スコアと試料B−0(比較例)の平均癒着スコアとの間には、統計的な有意差が認められなかった。これより、本発明の癒着防止材は、14日間適用において優れた癒着防止性能を備えており、その癒着防止性能は、従来の癒着防止材と比較しても遜色の無いレベルであることが確認できた。
【0095】
[試験例3]
試験例3は、癒着防止材が濡れたときの取り扱い性を評価するための試験である。癒着防止材が濡れたときの取り扱い性を評価するにあたっては、実施例及び比較例に係る試料から試験片を作製し、試験片の一部を濡らしたときの破断強度を測定して、当該測定結果から濡れたときの取り扱い性を評価した。
【0096】
(1)試験片の準備
上記した実施例及び比較例に係る試料を裁断して、幅10mm×長さ約100mmの短冊状の試験片を作製した。実施例に係る試料としては、コーティング液の濃度を0.10w/v%、0.20w/v%、0.50w/v%、0.75w/v%の4段階に設定して作製した試料(試料C−1〜C−4)を用い、これら各試料について試験片を5枚ずつ準備した。比較例に係る試料(試料C−0)についても、試験片を5枚準備した。
【0097】
(2)試験方法
まず、試験片の両端部(長手方向の両端部)を把持して試験片をループ状にし、ループ部分(試験片の中間部分)を擬似湿性組織に30秒間押し当てた。このとき、ループ部分のうち約10mm長が擬似湿性組織に押し当てられるようにした。擬似湿性組織として、100mm×140mmのベルクリン(アイオン株式会社の登録商標)に約30mLの超純水を吸わせたものを用いた。
次に、擬似湿性組織から試験片を外し、試験片を引張試験機(株式会社島津製作所製「オートグラフAGS−J」)にセットし、試験片の破断強度を測定した。擬似湿性組織から試験片を外してから破断強度を測定するまでに要する時間は、10秒以内とした。
各試料の破断強度の測定結果を、表3及び
図9に示す。
【0098】
【表3】
【0099】
表3及び
図9に示すように、被覆層が層厚130nm以上(すなわち、光学厚み27nm以上)である試料C−2,C−3,C−4の破断強度は、試料C−0(比較例)の破断強度よりも高かった。これより、塗布する被覆層の層厚を130nm以上(すなわち、被覆層の光学厚みを27nm以上)に設定すれば、従来の癒着防止材よりも濡れたときの破断強度が高くなる、つまり、濡れたときの取り扱い性に優れることが確認できた。
【0100】
[試験例1〜3のまとめ]
試験例1より、被覆層の層厚を820nm未満(被覆層の光学厚みを160nm未満)に設定すれば、生体内での十分な分解性を得ることができるということが確認できた。また、試験例2より、実施例に係る癒着防止材は、14日間適用において優れた癒着防止性能を備えており、その癒着防止性能は、従来の癒着防止材と比較しても遜色の無いレベルであることが確認できた。また、試験例3より、塗布する被覆層の層厚を130nm以上(すなわち、被覆層の光学厚みを27nm以上)に設定すれば、従来の癒着防止材よりも濡れたときの取り扱い性に優れることが確認できた。
以上より、水溶性高分子を含む基体層の両面のうち少なくとも一方に脂肪族エステルを含む被覆層が配置され、かつ、積層する被覆層の層厚が130nm以上820nm未満(すなわち、被覆層の光学厚みが27nm以上160nm未満)に設定された癒着防止材は、生体内での十分な分解性及び優れた癒着防止性能を備えつつ、従来よりも濡れたときの取り扱い性に優れた癒着防止材となることが確認できた。
【0101】
[試験例4]
ところで、本発明者らは、上記の試験例1〜3に加えて、生体組織に癒着防止材を貼り付けたときの密着性を評価する試験も行った。癒着防止材の密着性を評価するにあたっては、実施例及び比較例に係る試料から試験片を作製し、擬似湿性組織に試験片が接触した状態で試験片を引っ張ったときの摩擦抵抗力(貼付強度)を測定して、当該測定結果から癒着防止材の密着性を評価した。
【0102】
(1)試験片の準備
上記した実施例及び比較例に係る試料を裁断して、幅10mm×長さ約100mmの短冊状の試験片を作製した。実施例に係る試料としては、コーティング液の濃度を0.10w/v%、0.20w/v%、0.50w/v%、0.75w/v%、1.00w/v%、1.25w/v%、1.50w/v%、2.00w/v%、3.00w/v%、4.00w/v%、5.00w/v%の11段階に設定して作製した試料(試料D−1〜D−11)を用い、これら各試料について試験片を5枚ずつ準備した。比較例に係る試料(試料D−0)についても、試験片を5枚準備した。
【0103】
(2)試験方法
まず、プッシュプルゲージが取り付けられた固定治具に、試験片の長手方向一方端部を挟み、試験片の他方端部の先端から40mmを、擬似湿性組織に10秒間押し当てた。擬似湿性組織として、100mm×140mmのベルクリン(アイオン株式会社の登録商標)に約30mLの超純水を吸わせたものを用いた。
次に、擬似湿性組織に試験片が接触した状態で固定治具ごと試験片を長手方向に沿って引っ張り(1mm/1sec)、試験片の摩擦抵抗力を測定した。
各試料の摩擦抵抗力の測定結果を、表4及び
図10に示す。
【0104】
【表4】
【0105】
表4及び
図10に示すように、実施例に係る試料D−1〜D−11のいずれにおいても、比較例に係る試料D−0よりも摩擦抵抗力が大きくなった。特に、試料D−2〜D−7の場合、比較例に係る試料D−0の摩擦抵抗力の2倍強の値を示した。これより、被覆層の層厚を130nm以上820nm未満(すなわち、被覆層の光学厚みを27nm以上160nm未満)に設定すれば、従来の癒着防止材よりも貼付強度が格段に高くなり、癒着防止材を生体組織に貼り付けたときの癒着防止材と生体組織との密着性を、従来よりも格段に高くできることが確認できた。
【0106】
本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。本出願は、2009年12月28日出願の日本特許出願(特願2009−296876)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。