(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1から4の何れかの浄化方法において、前記汚染土を撒き出す複数の基盤を設け、前記汚染土の一部を各基盤上に順次撒き出し且つ撒き出した土層を順次所定濃度に浄化されるまで放置するサイクルを繰り返し、前記各基盤上への前記汚染土の撒き出し量を、その基盤に撒き出した土層が他の基盤への撒き出し時間中に浄化が完了する量としてなる汚染土の積層式浄化方法。
請求項7から9の何れかの浄化システムにおいて、前記撒き出した土層を前記検出厚さで切り返す撹拌装置を設け、前記放置に代えて、前記撒き出した土層を前記検出厚さで切り返しながら浄化してなる汚染土の積層式浄化システム。
請求項7から11の何れかの浄化システムにおいて、前記検出装置に、異なる粒度分布の土壌について深度別の最低酸素濃度を記憶する記憶手段と、前記汚染土の粒度分布を計測する計測手段とを含め、その粒度分布の計測値により前記汚染土の自然通気可能な厚さを検出してなる汚染土の積層式浄化システム。
【背景技術】
【0002】
石油等の有機物その他の汚染物質で汚染された汚染土壌(以下、汚染土ということがある)を浄化・修復する方法として、汚染土中に好気性微生物(以下、単に微生物という)の生育に必要な空気(酸素)と栄養物質と水分とを供給し、汚染土中に生息する微生物を人為的に活性化させて汚染物質を分解するバイオレメディエーション技術が開発されている。バイオレメディエーションは、汚染土自体を微生物増殖の支持体として利用しながら汚染土中の汚染物質を直接分解する技術であり、二次廃棄物の発生がないので環境負荷が低く、処理に要するエネルギーが少ないので比較的低コストであり、物理化学的処理のみでは分解が難しい低濃度まで汚染物質を浄化できる等の効果が期待されている。バイオレメディエーションは、地盤中の原位置の汚染土を対象とする場合もあるが、本明細書では地表に現れた汚染土又は地表に掘り出した汚染土を対象とする。
【0003】
地表で行うバイオレメディエーションの一例は、汚染土を耕作機械等で耕転し(切り返し)ながら継続的に空気(大気中の酸素)を供給して汚染物質の微生物分解を促進するランドファーミング法である(非特許文献1参照)。ランドファーミング法は、油性汚泥その他の油系汚染土の浄化に広く用いられており、例えば土壌1kg当たり100mgのペンタクロロフェノール(PCP)で汚染された汚染土を10〜20週間で20mg/kg程度の低濃度にまで浄化できることも報告されている。しかし、ランドファーミング法は耕転可能な地表1フィート(30cm程度)程度の表層を浄化対象とする方法であり、1フィート以深の汚染土については地盤から掘り出して地表に撒き広げたうえで耕転する必要があるため、地盤中の広範囲に拡散した大量の汚染土を浄化するには撒き広げるための広大な敷地(処理スペース)を必要とする。
【0004】
これに対し、バイオレメディエーションの他の一例として、例えば
図2(C)に示すように、地盤E中から掘削した汚染土Cを積み上げてパイルPを作り、汚染土パイルPを油圧ショベル等の重機(切り返し装置)21で切り返し又は撹拌しながら空気を供給して微生物分解を促進するバイオパイル法(静置堆積法)が開発されている。また、重機による汚染土の切り返しに代えて又は加えて、
図2(D)に示すように汚染土パイルPの下部又は中間部に通気パイプ23を設置又は挿入し、通気パイプ23に接続した送気又は吸気装置により汚染土パイルP中に強制的に空気を圧入又は吸引するバイオパイル法もある(特許文献1〜4参照)。バイオパイル法は、汚染土Cをパイル状に高く積み上げることにより、ランドファーミング法に比して小さな敷地で比較的大量の汚染土Cを処理することが可能であり、汚染土Cの浄化・修復のために広いスペースを確保できない汚染現場のオンサイト処理に適した技術とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、従来のバイオパイル法は、例えば15分間程度の短時間でも通気が止まるとパイルP中にかなりの嫌気ゾーンを生じることが報告されており(非特許文献1参照)、効率的に浄化するためには嫌気ゾーンが生じないように切り返しや強制的な通気を継続しなければならず、通気のために大量の動力やエネルギーを消費する問題点がある。汚染濃度にもよるが、通常のバイオパイル法では浄化完了までに数週間〜数ヶ月程度を要し、その期間にわたり汚染土Cの切り返しや強制通気の継続するため、それに応じて処理コストも増加している。大量のエネルギー消費は環境面からも好ましくなく、エネルギーの消費をできるだけ小さく抑えて汚染土を効率的・経済的に浄化・修復できる技術の開発が望まれている。
【0008】
また、バイオパイル法でも汚染土を積み上げるパイルPの高さに限界があり、あまり高くすると汚染土パイルPの切り返しや強制通気が難しくなる。例えば重機で切り返す場合は、汚染土パイルPの安定性(崩壊防止)や重機の作業性を確保するために高さを2〜5m程度に抑える必要があり、それ以上に高くすると重機21による切り返しが難しくなってパイルP中に通気の困難な嫌気ゾーンが生じうる。また、強制的に通気する場合も、あまり高く積み上げるとパイルP中に圧密等が生じて嫌気ゾーンが発生しやすくなる。このため、浄化対象の汚染土量が増えた場合は、
図2(C)及び
図2(D)に示すように汚染土Cを適当な高さの細長いパイルPa、Pbの複数の列として積み上げなければならず、パイルの設置スペースが大きくなると共に、動力やエネルギーの消費量も比例的に増加する。すなわち、従来のバイオパイル法ではスケールメリットを得ることが難しく、浄化対象の土量が増えても処理スペースや動力・エネルギーの増加をできる限り小さく抑えることができる技術が望まれている。
【0009】
そこで本発明の目的は、汚染土を小さなエネルギー消費量で効率的・経済的に浄化できる浄化方法及びシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、バイオパイル法のように汚染土を積み上げて浄化する際に、汚染土の表面から自然供給される大気中の酸素を利用することに着目した。
図9(A)は、油系汚染物質で汚染された汚染土
(以下、油系汚染土ということがある)Cの表面から異なる深さ(図示例では汚染土パイルの表面から10、20、40、80cmの深度)に酸素濃度計を埋め込み、各深度における酸素濃度データをデータロガーにより連続的に測定した実験を示す。その実験結果を示す
図9(B)から分かるように、この実験対象の汚染土Cでは、地表面(酸素濃度約21%)から80cm以深では大気中の酸素が供給されず、微生物分解時の酸素消費によえりほぼ1日以内で酸素が全て消費されてしまう。40cmの深度でも、80cmに比して地表面からの酸素供給の影響は多少見られるものの、ほぼ2日以内に酸素が全て消費されている。しかし深度20cmより浅い部分では、3日以上経過しても一定の酸素濃度(約5〜10%)が維持されており、地表面からの酸素供給により微生物分解が継続的に進行していることが分かる。
【0011】
図9(B)の実験結果は、
油系汚染土Cの種類や汚染濃度により相違しうるが、汚染土Cの表層の一定厚さ部分は大気中の酸素が自然に供給され、動力やエネルギーを用いなくても微生物分解による浄化が進行することを示している。
油系汚染土Cを、そのような自然通気可能な厚さの土層として撒き出し、各土層を自然通気状態にできる限り長く保持しながら積層すれば、パイル中の嫌気ゾーンの発生を抑制し、動力やエネルギーの消費を小さく抑えつつ汚染土全体を浄化することが期待できる。また、
油系汚染土Cを自然通気可能な厚さの土層として積層する方法によれば、各土層に対して大気中の酸素供給だけでなく、隣接する浄化済の土層(下層)からの酸素供給も期待できる。本発明は、この着想に基づく研究開発の結果、完成に至ったものである。
【0012】
図1の実施例を参照するに、本発明による汚染土の積層式浄化方法は、浄化対象の
油系汚染物質で汚染された汚染土(油系汚染土)Cの表面から自然通気可能な厚さdを検出し(
図9参照)、
油系汚染土Cの一部を検出厚さdの土層C1として撒き出し且つ撒き出した土層C1を所定濃度に浄化されるまで放置し、浄化後の土層C1上に
油系汚染土Cの他の一部を検出厚さdの覆土層C2として撒き出し且つ撒き出した土層C2を所定濃度に浄化されるまで放置するサイクルを繰り返すことにより、
油系汚染土C全体を積層しながら浄化してなるものである。好ましくは、撒き出した土層C1、C2の浄化進行状況を継続的に測定し、その測定値により撒き出した土層C1、C2の浄化を検知する。
【0013】
また、
図1に示すブロック図を参照するに、本発明による汚染土の積層式浄化システムは、浄化対象の
油系汚染物質で汚染された汚染土(油系汚染土)Cの表面から自然通気可能な厚さdを検出する検出装置6、
油系汚染土Cの一部を検出厚さdの土層C1として撒き出す撒き出し装置10、撒き出した土層C1の所定濃度への浄化を検知する検知装置12、及び撒き出し装置10により浄化後の土層C1上に
油系汚染土Cの他の一部を検出厚さdの覆土層C2として撒き出し且つ検知装置12により浄化が検知されるまで撒き出した土層C2を放置するサイクルを繰り返す制御装置11を備えてなるものである。
【0014】
好ましくは、撒き出し装置10で撒き出す汚染土Cに栄養物質及び水分8と均一に混合する混合装置7を設け、汚染土Cを栄養物質及び水分8と均一に混合したうえで撒き出す。検知装置12には、撒き出した土層Cn(n=1、2、……)の浄化進行状況を継続的に測定する測定装置14を含めることができる。また、
図1(D)に示すように、撒き出した土層Cnを検出厚さdで切り返す撹拌装置15を設け、撒き出した土層Cnを放置するのではなく、撒き出した土層Cnを撹拌装置15により検出厚さdで切り返しながら浄化することができる。
【0015】
更に好ましくは、
図4に示すように、汚染土Cを撒き出す複数の基盤5a、5b……を設け、汚染土Cの一部を各基盤5a、5b……上に順次撒き出し且つ撒き出した土層Cna、Cnb……(n=1、2、……)を順次所定濃度に浄化されるまで放置するサイクルを繰り返す。この場合は、各基盤5a、5b……上への汚染土Cna、Cnb……の撒き出し量を、その基盤5iに撒き出した土層Cniが他の基盤5j(j≠i)への撒き出し時間中に浄化が完了する量とすることが望ましい。
【0016】
望ましくは、検出装置6に、異なる粒度分布の土壌について深度別の最低酸素濃度を記憶する記憶手段と、浄化対象の汚染土Cの粒度分布を計測する計測手段とを含め、その粒度分布の計測値により汚染土の自然通気可能な厚さを検出する。
【発明の効果】
【0017】
本発明による汚染土の積層式浄化方法及びシステムは、浄化対象の
油系汚染土C(以下、単に汚染土Cということがある)の一部を表面から自然通気可能な厚さdの土層C1として撒き出して所定濃度に浄化されるまで放置し、浄化後の土層C1上に
油系汚染土Cの他の一部を自然通気可能な厚さdの覆土層C2として撒き出して所定濃度に浄化されるまで放置するサイクルを繰り返すことにより、
油系汚染土C全体を積層しながら浄化するので、次の有利な効果を奏する。
【0018】
(イ)汚染土Cの各土層Cn(n=1、2、……)を、その表面から自然通気により供給される大気中の酸素により浄化するので、強制的な酸素の供給が不要であり、従来のバイオパイル法に比して動力・エネルギーの消費量を低く抑えつつ汚染土Cを浄化することができる。
(ロ)また、汚染土Cの各土層Cnを所定濃度に浄化したのち、その上に他の汚染土Cの土層C(n+1)を撒き出すので、2層目以降の土層C(n+1)はその表面からのみならず下方の土層Cnからも残存する酸素を取り込むことができ、上方に積み重ねる土層C(n+1)の浄化に要する時間を下方の土層Cnよりも短縮することができる。
(ハ)汚染土Cの土層Cnを浄化しながら積層するので、積層した汚染土パイル中に嫌気ゾーンが発生しにくく、浄化対象の土量が増えても、崩壊を防止できる範囲内であれば、パイルを高く積層することで処理スペースの増加を避けることができる。
(ニ)必要に応じて従来のランドファーミング法と組み合わせることができ、撒き出した土層Cnを検出厚さdで切り返しながら浄化することにより、各土層Cnの浄化を促進すると共に、各土層Cnに残存する酸素濃度を増やすことで上方に撒き出す土層C(n+1)の浄化の促進を図ることができる。
(ホ)また、必要に応じて従来のバイオパイル法と組み合わせることができ、浄化後の土層Cnの積層パイルに対してバイオパイル法を適用することにより、積層した各土層Cn中に未浄化部分が残っていた場合でも、汚染土Cの全体を短時間で経済的に浄化することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図2(E)は油系汚染地盤Eから掘り出した汚染土Cに本発明の浄化方法を適用した実施例を示し、
図3はその浄化方法の流れ図を示す。
図3のステップS01〜S02は、
図2(A)に示すように油圧ショベル等の掘削装置20により汚染地盤Eから汚染土Cを掘り出し、汚染の種類及び汚染濃度を確認すると共に汚染土Cの土質・粒度分布等の性状を確認し、掘り出した汚染土Cが微生物により分解可能なものであるか否かを判断する処理を示す。或いは、ステップS01〜S02において、ボーリング装置(図示せず)により汚染地盤Eのコアサンプルを採取し、そのコアサンプルにより汚染土Cの汚染の種類や汚染濃度、土質、粒度分布等を確認し、微生物により分解可能なものであるか否かを判断したうえで、汚染地盤Eから掘り出してもよい。ステップS02において不適と判断された場合は、ステップS11へ進み、汚染土Cを本発明以外の方法で浄化することを検討する。
【0021】
ステップS02において適用可能と判断された場合は、掘り出した汚染土Cに本発明を適用して微生物分解により、更に大気中への揮発や降水による希釈効果も利用して汚染土Cを所定濃度に浄化する(
図2(E)参照)。微生物分解に適する濃度以上(例えば、油系汚染濃度が平均して5000mg/kg程度以上)の汚染土Cは、ステップS02において別途適当な前処理(洗浄処理、加熱処理、その他の物理化学処理等)を施して濃度を低下させたうえで本発明の処理対象とすることが有効である。例えば、油系汚染濃度が1000〜5000mg/kg程度、好ましくは1000〜3000mg/kg程度の汚染土Cを処理対象とし、本発明の浄化方法により汚染濃度を40〜60%に低下させる。水分調整等を必要とする汚染土Cは、
図2(B)に示すように汚染が拡散しない貯蔵場3に一時的に仮置きして水分調整等を施してもよい。また、汚染濃度や土質の異なる汚染土Cは、後述するように浄化に必要な時間等が異なるので、別々に処理することが望ましい。
【0022】
図2(E)の実施例においても、
図2(C)及び
図2(D)に示す従来のバイオパイル法と同様に、例えば汚染物質の移動を防止できる不透性ライナー等を汚染地盤E上又はその近傍に敷設して処理基盤(又はベッド)5を設け、掘削した汚染土Cを基盤5に移し替えてオンサイト処理することができる。ただし、従来のバイオパイル法のように汚染土Cを基盤5上に単に積み上げてパイルPとするのではなく、
図3のステップS03〜S10に示すように、汚染土Cの土質や汚染濃度に応じて表面から自然通気可能な厚さdを予め検出し、汚染土Cをその検出された厚さdの複数の土層C1、C2、……として基盤5上に順次撒き出し、各土層Cn(n=1、2、……)を浄化に有効な時間放置したのち次の土層C(n+1)を積層することにより、嫌気ゾーンの発生しにくい積層パイルPを形成する。
【0023】
図1は、
図2(E)のような積層パイルPを形成する本発明の浄化システムの実施例を示す。図示例の浄化システムは、汚染土Cの自然通気可能な厚さdを検出する検出装置6と、汚染土Cの一部をその検出厚さdの土層Cn(n=1、2、……)として基盤5上に順次捲き広げる撒き出し装置10と、撒き出した各土層Cnの浄化を検知する検知装置12と、撒き出し装置10及び検知装置12に接続された制御装置11とを有する。以下、
図1を参照しながら、
図3のステップS03〜S10の流れ図を具体的に説明する。
【0024】
先ずステップS03において、処理対象の汚染土Cについて、その表面から自然通気可能な厚さdを検出装置6により検出する(
図1(A)参照)。図示例の検出装置6は、例えば
図9を参照して上述したように、汚染土Cの表面に異なる深さで埋め込む複数の酸素濃度計を有し、微生物分解に必要な酸素濃度が維持される深さを自然通気可能な厚さdとして検出するものである。図示例では、自然通気可能な厚さdを掘削後の仮置きした汚染土Cから検出しているが、例えばステップS01において汚染地盤Eのコアサンプルを採取している場合は、そのコアサンプルから汚染土Cの自然通気可能な厚さdを検出してもよい。汚染土Cの土質や濃度によって自然通気可能な厚さdは異なるが、本発明者の予備的実験によれば、上述した微生物分解に適する汚染濃度とした通常の油系汚染土Cの場合は10〜50cm程度と想定される。また、このように自然通気により所定酸素濃度に維持できる厚さdは、汚染土Cの土質とくに粒度分布から推定することができる。
【0025】
[実験例1]
図6は粒度分布の異なる砂、シルト砂質(シルトが混合した砂)、砂質シルト(砂が混合したシルト)の3種類の模擬土を用いて油系汚染土Cを調製し、その各々の自然通気可能な厚さdを検出した実験例を示す。各模擬土の粒度分布は、
図6(D)に示すようにシルト砂質は砂よりも細粒分が多く、砂質シルトはシルト砂質より更に細粒分が多くなっている。砂質シルトより更に粒度の細かい粘土には油系汚染が届かない(浸透しない)ので、本発明において浄化対象の油系汚染土Cの典型的な土質は
図6の3種類であると考えられる。
図6(A)〜(C)に示すように、同一形状の一端開放試験カラム9に各模擬汚染土Cをそれぞれ所定深度の検出装置(図示例では酸素濃度計)6と共に封入し、各カラム9の一端を大気に開放しながら模擬汚染土C中の様々な深度における酸素濃度の経時的変化を検出した。実験結果を
図8のグラフに示す。
【0026】
図8のグラフは、汚染土Cが砂であれば深度約50cmでも酸素濃度(最低酸素濃度)を18%程度に維持できるのに対し、シルト砂質であると18%程度の最低酸素濃度を維持できる深度は30cm程度となることを示している。また、汚染土Cが砂質シルトの場合は、深度が10cmであれば16%程度の最低酸素濃度に維持できるが、深度が30cm程度になると維持できる最低酸素濃度は12%程度にまで低下してしまう。この実験結果から、例えば微生物分解に15%以上の酸素濃度を維持する必要がある場合に、汚染土Cが砂であれば自然通気可能な厚さdを50cm程度とし、シルト砂質であれば30cm程度とし、砂質シルトであれば10cm程度とすればよいことが分かる。すなわち、
図6(D)及び
図8のグラフは汚染土Cの粒度分布と汚染土Cの深度毎の最低酸素濃度との間に相関関係があることを示しており、様々な粒度分布の土壌について深度別の最低酸素濃度を予め求めておくことにより、処理対象の汚染土Cの粒度分布から、所定最低酸素濃度に維持できる自然通気可能な深さdを推定できることを示唆している。例えば図示例の検出装置6に、異なる粒度分布の土壌について深度別の最低酸素濃度を記憶する記憶手段と、浄化対象の汚染土Cの粒度分布を計測する計測手段とを含め、その粒度分布の計測値により汚染土Cの自然通気可能な厚さdを推定することができる。
【0027】
次いで
図3の流れ図のステップS04において、ステップS01で検出した汚染土Cの汚染濃度からステップS03で検出した自然通気可能な厚さdの汚染土Cの単位面積当たりの汚染物質量を求め、厚さdの汚染土Cを所定濃度レベルとするために必要な酸素量及び酸素接触時間、すなわち厚さdで撒き出す汚染土Cの濃度が所定レベル以下に低減する浄化時間Tを設定する。或いはステップS04において、汚染土Cを厚さdで実験的に撒き出し、その汚染土Cの汚染濃度が所定レベル以下に低減する浄化時間Tを実験的に求めてもよい。設定する浄化時間は汚染土Cの土質や濃度、目的とする浄化レベル、更に気象条件等によっても異なるが、本発明者の予備的実験によれば、上述した厚さd=10〜50cm程度で撒き出した汚染濃度1000〜5000mg/kg程度(好ましくは、1000〜3000mg/kg程度)の油系汚染土Cを40〜60%程度の濃度に低減させる場合は7〜14日程度の浄化時間が必要であると想定される。
【0028】
なお、
図3のステップS03とステップS04とを逆転させ、処理対象の汚染土Cについて浄化時間Tを設定したのち、その浄化時間Tで汚染土Cの濃度が所定レベル以下に低減するように(表面から自然通気可能な厚さの範囲内で)汚染土Cの撒き出し厚さdを設定することも可能である。すなわち、汚染土Cの汚染濃度と厚さdと浄化時間Tとの間には相関関係があり、浄化時間Tが予め決められている場合は、汚染土Cの汚染濃度に応じて、汚染土Cを所定濃度レベルとするために必要な酸素量が所定浄化時間Tで得られる厚さdを求めることができる。例えば、上述したように検出装置6に、異なる粒度分布の土壌について深度別の最低酸素濃度を記憶する記憶手段と、浄化対象の汚染土Cの粒度分布を計測する計測手段とを含め、その粒度分布の計測値と浄化時間Tとから必要な酸素量が得られる自然通気可能な厚さdを算出することができる。
【0029】
次にステップS06において、制御装置11により撒き出し装置10を駆動し、処理対象の汚染土Cの一部をステップS03で検出した自然通気可能な厚さdの土層(底土層)C1として基盤5上に撒き出す(
図1(B)参照)。
図1の撒き出し装置10の一例は、基盤5上を走行しながら土層Cnを厚さdに撒き広げる耕作機械又は重機等であり、土層Cnをできるだけ圧縮しないように捲き広げる装置とすることが望ましい。また、汚染土Cは撒き出す前にステップS05において栄養物質(無機栄養塩等)や水分と混合し、できるだけ空隙率を増加させたうえで撒き広げることが望ましい。
図1に示す混合装置7は、汚染土C中の大きな岩石等を取り除くと共に、栄養物質及び水分8を均一に撹拌・混合して汚染土C中の空隙率を増加させるものである。汚染土Cに混合すべき栄養物質及び水分8の添加量は、例えばステップS01で検出した汚染土Cの汚染濃度に基づき定めることができる。
【0030】
撒き出した底土層C1は、ステップS08において検知装置12により浄化が検知されるまで放置し、土層表面からの自然通気(酸素供給)によって微生物分解を進行させる(
図1(B)の白抜き矢印参照)。検知装置12の一例は、土層C1を撒き出したのち微生物分解に有効な期間の経過を判定するタイマーであり、例えばステップS03で設定された厚さdの汚染土Cの微生物分解に必要な浄化時間に基づき土層C1が所定濃度レベル(例えば、上述した当初濃度の40〜60%程度)に浄化されたことを判定する。或いは、
図1に示すように検知装置12に土層C1の浄化状況を測定する測定装置14を含め、ステップS07に示すように測定装置14によって土層C1の浄化進行状況を適宜測定し、ステップS08において測定装置14の測定値により土層C1が所定濃度レベルに浄化されたことを検知してもよい。例えば測定装置14により土層C1中の汚染濃度を適宜測定し、その測定値に基づき検知装置12が土層C1の所定濃度レベルに浄化されたことを検知する。また、測定装置14により土層C1中の酸素濃度、二酸化炭素(CO
2)濃度、含水率を測定し、土層C1の浄化進行を管理しながら浄化の完了を検知することも可能である。
【0031】
好ましくは、浄化システムに底土層C1をその厚さdで切り返すスタビライザー等の撹拌装置15を含め(
図1(D)参照)、撒き出した土層C1を放置するのではなく、ステップS07において、従来のランドファーミング法と同様に撹拌装置15によって土層C1を厚さdで耕転しながら微生物分解を進行させる。土層C1は自然通気可能な厚さdとすることで嫌気ゾーンの発生が防止されるが、例えば土層C1中の汚染濃度の偏りや気象条件等により自然通気だけでは部分的に酸素供給不足が発生する場合も考えられる。撹拌装置15による切り返しは従来のバイオパイル法のように継続する必要はなく、例えば1日に1回程度の割合で土層C1を撹拌装置15で耕転することにより、小さなエネルギーで土層C1中の微生物分解の進行遅れをなくし、土層C1を均一に浄化することができる。また、測定装置14で土層C1の浄化進行状況を測定している場合は、進行状況に遅れが検出されたときに撹拌装置15を走行させ、土層C1を耕転することで浄化を促進してもよい。
【0032】
ステップS08において底土層C1の浄化が検知されたのち、ステップS09において必要に応じて濃度分析等により底土層C1の浄化状態を検査確認し、浄化不十分である場合は検知装置12の浄化時間を再設定したうえでステップS05〜08を更に継続する。ステップS09において目的とするレベルの浄化が確認された場合は、ステップS10からステップS05に戻って汚染土Cの他の一部を栄養物質8等と均一に撹拌・混合し、ステップS06において再び制御装置11により撒き出し装置10を駆動し、汚染土Cの他の一部を浄化後の底土層C1上に自然通気可能な厚さdの覆土層C2として撒き出す(
図1(C)参照)。また、底土層C1に設置した測定装置14は、覆土層C2の撒き出し前に撤去し、撒き出した覆土層C2に移し替える。なお、ステップS09における検査確認は本発明に必須の処理ではなく、後述するように複数の土層Cnを積層したのちステップS12においてパイルPの浄化状態を検査確認する場合は、各土層Cnについて検査確認するステップS09は省略可能である。この場合は、
図1の実施例において、例えば検知装置12による浄化の検知に応じて直ちに撒き出し装置10を駆動することが可能である。
【0033】
更にステップS07〜S08において、撒き出した覆土層C2を検知装置12により浄化が検知されるまで放置し、又は撹拌装置15により適宜切り返しながら浄化する。覆土層C2では、その表面からの自然通気による酸素と共に、下方の底土層C1からも酸素を取り込んで微生物分解が進行する(
図1(C)の白抜き矢印参照)。すなわち、覆土層C2の下方の底土層C1には基盤5に比して空隙が多く存在し、しかも浄化後は空隙中の空気が消費されずに残存しているので、覆土層C2には自然通気による酸素だけでなく底土層C1の空隙に残存する酸素も供給され、覆土層C2の微生物分解を底土層C1との相互作用により迅速に進行させることができる。
【0034】
[実験例2]
図7は、浄化後の底土層C1の上方に覆土層C2を積層して浄化する本発明の浄化方法(以下、積層工法ということがある)と、覆土層C2のみを単層で浄化する方法(以下、単層工法ということがある)とを比較した実験例を示す。
図7(A)は、一端開放試験カラム9内に浄化済み土C1(土質=砂、厚さ10cm)と油系汚染土C2(土質=砂、厚さ80cm)とを積層充填して積層工法を模擬したもの、
図7(B)は、同一形状の一端開放試験カラム9内に油系汚染土C2(土質=砂、厚さ80cm)のみを充填して単層工法を模擬したものである。各カラム9の汚染土C2の地表面から同一所定深度に検出装置(図示例では酸素濃度計)6を設置し、その所定深度における酸素濃度の経時的変化を検出した。実験結果を
図7(C)のグラフに示す。
【0035】
図7(C)のグラフは、積層工法では単層工法に比して汚染土C中の酸素濃度の低下速度が小さくなることを示しており、この速度低下は、汚染土C2中に自然通気による酸素だけでなく下方の底土層C1からも酸素が供給されたことによると考えられる。すなわち、この実験結果から、本発明のように浄化後の汚染土C1上に未浄化の汚染土C2を積層しながら浄化することにより、上方層C2の微生物浄化の迅速化を図ることができることを確認できた。なお、
図7(C)において積層工法のグラフと単層工法のグラフとの面積差(積分値の差)が厚さ10cmの下層C1から上層C2への酸素供給量に相当するが、下層C1の厚さを10cm以上とすれば、上層C2への酸素供給量を更に増やすことができる。
【0036】
好ましくは、覆土層C2を撒き出す前に底土層C1を撹拌装置15によって切り返し、底土層C1に含まれる酸素濃度を高めたうえで覆土層C2を撒き出す。土層C1中の酸素濃度は切り返しにより増大することが知られており、底土層C1を切り返したうえで覆土層C2を撒き出すことで覆土層C2に対する底土層C1からの酸素供給量を増やし、覆土層C2の浄化時間を底土層C1に比して短縮すること期待できる。汚染土Cの土質や濃度、気象条件等によっても異なるが、覆土層C2の浄化時間は底土層C1に比して例えば1日程度短縮することも想定できる。例えばステップS04において覆土層C2の浄化時間を求めておき、ステップS08において検知装置12のタイマーの浄化時間を再設定したうえで覆土層C2の浄化を判定する。
【0037】
ステップS08〜S09において覆土層C2の浄化が検知されたのち、ステップS10から再びステップS05に戻って制御装置11により撒き出し装置10を駆動し、汚染土Cの他の一部を浄化後の覆度層C2上に自然通気可能な厚さdの覆土層C3として撒き出して上述したステップS06〜S10を繰り返す(
図1(D)参照)。このように、汚染土Cの一部を自然通気可能な厚さdの土層Cnとして順次撒き出し、各土層Cnを土壌表面及び下方の土層C(n−1)からの酸素の取り込みにより浄化されるまで放置するサイクルを繰り返すことにより、従来のバイオパイル法のように強制的通気のための動力・エネルギーの消費を小さく抑えつつ、
図1(E)及び
図2(E)のような嫌気ゾーンの発生しにくい積層パイルPを形成することができる。
【0038】
図3のステップS12において、
図1(E)及び
図2(E)の積層パイルPの浄化状態を検査確認し、積層パイルP中に浄化不十分な部分が発見された場合は、
図2(C)及び
図2(D)のような従来のバイオパイル法を積層パイルPに対して適用することができる。積層パイルPの各土層Cn(n=1、2、……)はそれぞれ浄化に有効な所定時間放置されて嫌気ゾーンの発生が抑えられているので、バイオパイル法を適用した場合でも比較的短時間の切り返しや強制的通気で積層パイルPを十分に浄化することができ、最小限の動力乃至エネルギーで積層パイルPを経済的に浄化することができる。ステップS12において十分な浄化が確認された場合は、
図2(F)に示すように積層パイルPの土壌を汚染地盤Eに埋め戻す。
【0039】
こうして、本発明の目的である「汚染土を小さなエネルギー消費量で効率的・経済的に浄化できる浄化方法及びシステム」の提供が達成できる。
【0040】
なお、
図3の流れ図では、ステップS05において汚染土Cに栄養物質及び水分8を混合したうえで各土層Cn(n=1、2、……)として撒き出しているが、ステップS07において各土層Cnの浄化進行状況又は水分不足等の検知に応じて、必要に応じて各土層Cnの上方から栄養物質及び水分8を適宜散布して供給することも可能である。また、例えば
図1の実施例において、各土層Cn(n=1、2、……)の表面に酸素が供給できる上方空間を設けたうえで基盤5上の積層パイルPを覆うシート(図示せず)を設け、降水による積層パイルPの含水率の過剰な上昇を抑制することも有効である。必要に応じて、積層パイルPを載置する基盤5上又は積層パイルP中に電熱線その他の保温装置を設け、各土層Cnを微生物分解に適した温度に保温することで浄化を促進することもできる。
【実施例1】
【0041】
図4は、汚染土Cを撒き出す複数の基盤5a、5b、……、5fを設け、各基盤5a、5b、……、5f上にそれぞれ
図1(E)のような積層パイルPa、Pb……、Pfを形成する本発明の実施例を示す。
図1の実施例では、単独の基盤5上に自然通気可能な厚さdの土層Cn(n=1、2、……)を浄化に有効な時間放置しながら順次撒き出すので、各土層Cnの撒き出し作業に待ち時間(各土層Cnの浄化期間)が発生し、従来のバイオパイル法に比して単独のパイルPを形成するために長い時間が必要となる。
図4の実施例では、
図4(C)に示すように各基盤5a、5b、……、5f上に厚さdの土層Cna、Cnb、……、Cnf(n=1、2、……)を撒き出す時間をシフトさせることにより、従来のバイオパイル法とほぼ同じ時間で複数の積層パイルPa、Pb、……、Pfを形成することができる。
【0042】
先ず
図4(A)に示すように、各基盤5a、5b、……、5f上にそれぞれ汚染土Cの一部を底土層C1a、C1b、……、C1fとして順次撒き出すが、
図4(C)に示すように各基盤5a、5b、……、5f上に撒き出す時間をシフトさせ、例えば基盤5aに撒き出した底土層C1aを微生物分解により浄化させる間に他の基盤5b、……、5fに底土層C1b、……、C1fを順次撒き出す。基盤5a上の底土層C1aの撒き出し量を、他の基盤5b、……、5fへの撒き出し時間中に浄化が完了する量とすれば、他の基盤5b、……、5fの撒き出し終了後直ちに浄化後の底土層C1a上に覆土層C2aを撒き出すことができる(
図4(B)参照)。他の基盤5i(i≠a)についても底土層C1i(i≠a)の撒き出し量を、その他の基盤5j(j≠i)の撒き出し時間中に浄化が完了する量とすれば、全体として底土層の撒き出し作業の待ち時間をなくすことができ、例えば1台の撒き出し装置10を各基盤上へ順次移動させながら連続的に撒き出し作業を進めることができる。
【0043】
同様に、
図4(B)に示すように、各基盤5a、5b、……、5f上に撒き出す覆土層C2a、C2b、……、C2fも他の基盤への撒き出し時間中に浄化が完了する量とすれば、
図4(C)に示すように全体として見れば撒き出し作業を連続的に進めることが可能となり、実質的に従来のバイオパイル法と同じ時間で複数の積層パイルPa、Pb、……、Pfを形成することができる。上述したように従来のバイオパイル法では、パイルPを積み上げたのち嫌気ゾーンが生じないように切り返しや強制的な通気を継続しなければならず、通気のために大量の動力やエネルギーが必要である。これに対し
図4(B)の積層パイルPの形成方法によれば、積層パイルPを形成する段階で各土層Cn(n=1、2、……)がそれぞれ所定濃度レベルに浄化されて嫌気ゾーンの発生が抑制されているので、バイオパイル法を適用した場合でも、必要に応じて短時間の切り返しや強制的通気を行うことで積層パイルPの全体を浄化することができる。しかも、パイルPを従来のバイオパイル法と同程度の時間で形成できるので、全体として見れば従来のバイオパイル法に比し小さなエネルギーで効率的・経済的に汚染土Cを浄化することが可能となる。
【0044】
図5は、比較的大きな単独の基盤5上にパイルPを形成する場合に、撒き出し作業の待ち時間をできるだけ削減し、積層パイルPを従来のバイオパイル法と実質上同程度の時間で形成することができる本発明の他の実施例を示す。
図5(A)に示すように、単独の基盤5を複数の区画に区分けし、
図4(C)の場合と同様に各区画上に厚さdの土層Cna、Cnb、……、Cnf(n=1、2、……)を撒き出す時間をシフトさせ、各区画上に撒き出す底土層C1a、C1b、……、C1fの量を他の区画への撒き出し時間中に浄化が完了する量とする。同様に、
図5(B)に示すように各区画上の覆土層C2a、C2b、……、C2fの撒き出し量も他の区画への撒き出し時間中に浄化が完了する量とし、
図4(C)の場合と同様に全体として撒き出し作業を連続的に進めることにより、実質的に従来のバイオパイル法と同程度の時間で単独の積層パイルPを形成することができる。
図5の方法で形成した単独の積層パイルPも、形成段階で嫌気ゾーンの発生が抑制されているので、
図4の場合と同様に従来のバイオパイル法を適用することにより、積層パイルPを小さなエネルギーで効率的・経済的に浄化することが可能である。