特許第5686502号(P5686502)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱鉛筆株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5686502
(24)【登録日】2015年1月30日
(45)【発行日】2015年3月18日
(54)【発明の名称】感熱消色性インキ組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/16 20140101AFI20150226BHJP
   C09D 11/18 20060101ALI20150226BHJP
   B43K 7/00 20060101ALI20150226BHJP
   B43K 8/02 20060101ALI20150226BHJP
【FI】
   C09D11/16
   C09D11/18
   B43K7/00
   B43K8/02 F
【請求項の数】10
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2009-89383(P2009-89383)
(22)【出願日】2009年4月1日
(65)【公開番号】特開2010-241867(P2010-241867A)
(43)【公開日】2010年10月28日
【審査請求日】2012年3月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005957
【氏名又は名称】三菱鉛筆株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112335
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 英介
(74)【代理人】
【識別番号】100101144
【弁理士】
【氏名又は名称】神田 正義
(74)【代理人】
【識別番号】100101694
【弁理士】
【氏名又は名称】宮尾 明茂
(72)【発明者】
【氏名】神谷 俊史
(72)【発明者】
【氏名】奥山 広幸
【審査官】 内藤 康彰
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−056497(JP,A)
【文献】 特開2004−137510(JP,A)
【文献】 特開2001−271016(JP,A)
【文献】 特開2001−342415(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00− 11/54
B43K 7/00− 7/12
B43K 8/00− 8/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともロイコ染料、顕色剤、下記A群の化合物から選ばれる結晶性物質からなる顕色粒子を着色剤として含有する感熱インキ組成物であって、更に、前記着色剤と共にコレステロール誘導体からなる消色剤又はコレステロール誘導体と下記A群の化合物から選ばれる結晶性物質からなる消色剤を含有し、かつ、前記顕色粒子及び消色剤は、マイクロカプセルを使用せずに、結晶状態でインキ中に含有され、その融点は、40〜150℃であることを特徴とする筆記具用感熱消色性インキ組成物。
A群:炭素数13〜20の鎖状分子であり、水酸基、エステル結合、エーテル結合、アミド結合の極性基を少なくとも1つ有する化合物、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、ベヘニルアルコール
【請求項2】
コレステロール誘導体は、コール酸のアルキルエステルである請求項1記載の筆記具用感熱消色性インキ組成物。
【請求項3】
消色剤は、平均粒子径10〜2000nmの微粒子からなる請求項1又は2記載の筆記具用感熱消色性インキ組成物。
【請求項4】
消色剤は、結晶状態でインキ中に含有され、その熱容量は、10J/g以上であることを特徴とする請求項1〜の何れか一つに記載の筆記具用感熱消色性インキ組成物。
【請求項5】
消色剤の含有量が、インキ組成物全量に対して、5〜30質量%であることを特徴とする請求項1〜の何れか一つに記載の筆記具用感熱消色性インキ組成物。
【請求項6】
顕色粒子は、平均粒子径10〜2000nmの微粒子からなる請求項1〜5の何れか一つに記載の筆記具用感熱消色性インキ組成物。
【請求項7】
顕色粒子は、結晶状態でインキ中に含有され、その熱容量は、10J/g以上であることを特徴とする請求項1〜の何れか一つに記載の筆記具用感熱消色性インキ組成物。
【請求項8】
顕色粒子の含有量が、インキ組成物全量に対して、5〜30質量%であることを特徴とする請求項1〜7の何れか一つに記載の筆記具用感熱消色性インキ組成物。
【請求項9】
請求項1〜の何れか一つに記載の筆記具用感熱消色性インキ組成物が、筆記具に搭載されたことを特徴とする筆記具。
【請求項10】
筆記具がボールペン又はマーキングペンであることを特徴とする請求項記載の筆記具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロイコ染料の顕色、消色機構を利用した感熱消色性インキ組成物に関し、更に詳しくは、マイクロカプセルを用いずに、擦過等による簡単な加熱で容易に消色でき、極低温化(−50℃以下)に保存しても、再発色せず、しかも、経時安定性に優れ、鮮やかな色相濃度を有する感熱消色性インキ組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ロイコ染料の顕色、消色機構を利用した感熱消色性インキ組成物は、数多く知られている。
例えば、溶剤又は加熱により消色可能な水性インキに用いる着色剤であって、少なくともロイコ染料、顕色剤、消色剤及び樹脂からなる微粉体を着色剤とし、前記樹脂がガラス転移温度又はビカット軟化温度のうち温度の低い方が50℃より高温であり、かつ融点又は成形可能温度が230℃以下である樹脂からなる水性インキ用着色剤(例えば、特許文献1参照)や、樹脂製球状微粒子をロイコ染料から選択される呈色性物質で着色してなる着色剤を含有することを特徴とする消色又は変色可能な水性インキ(例えば、特許文献2参照)が知られている。
【0003】
しかしながら、上記特許文献1及び2の水性インキでは、着色剤の経時的な退色の問題を解決し筆記又は印刷された文字又は画像をアセトン等の溶剤、または、200℃での加熱(実施例ではアイロン)で消色するものであるため、擦過等による加熱で容易に消色できるものでなく、使用性、汎用性の点で課題があるものである。
【0004】
一方、擦過等による加熱で消色できるロイコ染料を用いた感熱消色性インキ組成物としては、例えば、(イ)電子供与性呈色性有機化合物(ロイコ染料、以下同様)、(ロ)電子受容性化合物(顕色剤、以下同様)、(ハ)前記(イ)、(ロ)の呈色反応をコントロールする特定のエステル類や特定のアリールアルキルケトン類の三成分を必須成分とする均質相溶体を構成し、色濃度−温度曲線に関して8℃乃至30℃、8℃乃至80℃の大きなヒステリシス幅(△H)を示して準可逆的な熱変色特性を発現する感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料(例えば、特許文献3及び4参照)が知られている。
【0005】
また、これらのマイクロカプセル顔料を用いた熱消去性筆記具等としては、例えば、(イ)電子供与性呈色性有機化合物、(ロ)電子受容性化合物、(ハ)前記(イ)、(ロ)の呈色反応をコントロールする反応媒体の均質相溶体からなる感温変色性色彩記憶性組成物を内包したマイクロカプセル顔料と、溶剤と、樹脂とから少なくともなり、前記マイクロカプセル顔料は、色濃度−温度曲線に関して40℃乃至70℃のヒステリシス幅(△H)を示し、完全消色温度(T4)が45〜95℃、且つ、発色開始温度(T2 )が0℃以下であり、有色から無色に変色する感温変色性色彩記憶性インキ組成物を充填してなる熱消去性筆記具(例えば、特許文献5参照)や、(イ)電子供与性呈色性有機化合物、(ロ)電子受容性化合物、(ハ)前記両者の呈色反応の生起温度を決める反応媒体からなる可逆熱変色性組成物を内包させた可逆熱変色性マイクロカプセル顔料と、水を少なくとも含有してなり、前記可逆熱変色性マイクロカプセル顔料の平均粒子径が2.5〜4.0μmの範囲にあり、且つ、2.0μm以下の粒子が全マイクロカプセル顔料中の30体積%以下であることを特徴とする可逆熱変色性筆記具用水性インキ組成物、並びに、前記可逆熱変色性マイクロカプセル顔料は、色濃度−温度曲線に関して完全発色温度(t1)が−30〜0℃であり、完全消色温度(t4)が50〜95℃である可逆熱変色性筆記具用水性インキ組成物を収容したボールペン形態の筆記具(例えば、特許文献6参照)が知られている。
【0006】
上記特許文献3〜6に記載される感熱消色性インキ組成物等は、マイクロカプセル内に電子供与性呈色性有機化合物であるロイコ染料、電子受容性化合物である顕色剤、結晶性物質等が内包しているものである。この消色機構は、まず、溶融した結晶性物質にロイコ染料及び顕色剤を溶解させ、その結晶性物質を冷却することで結晶化させてロイコ染料、顕色剤を析出させる。溶解状態でなくなったロイコ染料と顕色剤は互いに相互作用(中和)し、ロイコ染料のラクトン環等が開環することで発色し、顕色状態のトナーとなる。この顕色状態にあるトナーは、擦過等による加熱で、結晶性物質が溶融し、ロイコ染料と顕色剤とを再溶解するため、ロイコ染料と顕色剤とが相互作用できなくなり、消色状態となる。
擦過等による加熱が止まると、トナーが室温に冷却され、結晶性物質が結晶化し再度ロイコ染料と顕色剤が析出、相互作用し、再顕色状態となる。これを防ぐために、熱的ヒステリシスを生じさせる物質を結晶性物質に混合し、室温での再結晶化を阻害している。感熱トナー内の結晶性物質の融点は室温以上(例えば、60℃)であるが、溶融後の再結晶化の凝固点は室温以下(例えば、−10℃)とすることで、室温への冷却による再発色を防止している。
【0007】
従って、上記特許文献3〜6に記載されるロイコ染料は、結晶性物質が溶融しているとき消色状態で、凝固しているとき顕色状態であるため、結晶性物質の溶融、凝固を制御(熱的ヒステリシス)することで消色、顕色状態を制御するのが従来の技術である。
【0008】
しかしながら、従来の感熱消色性インキ組成物等では、消色発色を制御する機構が結晶性物質の熱的ヒステリシスを広げることであるため、結晶性物質の再凝固点温度以下に保存した消色描線が再発色するという課題を有するものである。
また、熱的ヒステリシスの幅を広げることで、再発色を抑制することはできるが、有効な物質が見つかっていない現状と、結晶性物質はいずれ結晶化するため、更なる低温状態での再発色を防止することができないという課題がある。
【0009】
更に、上記熱的ヒステリシスを結晶性物質に付与するためには、不純物の混入を防止しなくてはならず、マイクロカプセル化をすることが必須となる。現在、マイクロカプセル化は20μm以下の平均粒子径で達成することが難しく、または、マイクロカプセル化として20μm以下の平均粒子径が製造できたとしても生産効率が低いものである。このマイクロカプセルの平均粒子径が大きいものを用いると、色相濃度が低いことや、描線を消去するために溶融させる結晶性物質の量が多くなるため、消色に、より多くのエネルギーが必要となるという課題を有するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2001−271011号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【特許文献2】特開2002−294104号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【特許文献3】特開平7−33997号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【特許文献4】特開平8−39936号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【特許文献5】特開2006−63238号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【特許文献6】特開2008−280440号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記従来技術の課題及び現状に鑑み、これを解消しようとするものであり、マイクロカプセルを用いずに、擦過等による簡単な加熱で容易に消色でき、極低温化(−50℃以下)に保存しても、再発色せず、しかも、経時安定性に優れ、鮮やかな色相濃度を有する感熱消色性インキ組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記従来の課題等に鑑み、鋭意研究を行った結果、少なくともロイコ染料、顕色剤、結晶性物質からなる顕色粒子を着色剤として含有する感熱インキ組成物に、更に、特定の消色剤を含有することにより、上記目的の感熱消色性インキ組成物が得られることを見い出し、本発明を完成するに至ったのである。
【0013】
すなわち、本発明は、次の(1)〜(12)に存する。
(1) 少なくともロイコ染料、顕色剤、結晶性物質からなる顕色粒子を着色剤として含有する感熱インキ組成物であって、更に、コレステロール誘導体からなる消色剤を含有してなることを特徴とする感熱消色性インキ組成物。
(2) コレステロール誘導体は、コール酸のアルキルエステルである上記(1)記載の感熱消色性インキ組成物。
(3) 消色剤の融点は、30〜190℃である上記(1)又は(2)記載の感熱消色性インキ組成物。
(4) 消色剤は、平均粒子径10〜2000nmの微粒子からなる上記(1)〜(3)の何れか一つに記載の感熱消色性インキ組成物。
(5) 消色剤は、結晶状態でインキ中に含有され、その融点は、40〜150℃であることを特徴とする上記(1)〜(4)の何れか一つに記載の感熱消色性インキ組成物。
(6) 消色剤は、結晶状態でインキ中に配合され、その熱容量は、10J/g以上であることを特徴とする上記(1)〜(5)の何れか一つに記載の感熱消色性インキ組成物。
(7) 消色剤の含有量が、インキ組成物全量に対して、5〜30質量%であることを特徴とする上記(1)〜(6)の何れか一つ記載の感熱消色性インキ組成物。
(8) 顕色粒子は、結晶状態でインキ中に含有され、その融点は、40〜150℃であることを特徴とする上記(1)〜(7)の何れか一つ記載の感熱消色性インキ組成物。
(9) 顕色粒子は、結晶状態でインキ中に含有され、その熱容量は、10J/g以上であることを特徴とする上記(1)〜(8)の何れか一つ記載の感熱消色性インキ組成物。
(10) 上記(1)〜(9)の何れ一つに記載の感熱消色性インキ組成物が筆記具に搭載される感熱消色性インキ組成物。
(11) 上記(1)〜(10)の何れか一つに記載の感熱消色性インキ組成物が、筆記具に搭載されたことを特徴とする筆記具。
(12) 筆記具がボールペン又はマーキングペンであることを特徴とする上記(11)記載の筆記具。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、マイクロカプセルを用いずに、擦過等による簡単な加熱で容易に消色でき、極低温化(−50℃以下)に保存しても、再発色せず、しかも、経時安定性に優れ、鮮やかな色相濃度を有する筆記具用等に好適な感熱消色性インキ組成物及びこのインキ組成物が搭載された筆記具が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明の実施形態を詳しく説明する。
本発明の感熱消色性インキ組成物は、少なくともロイコ染料、顕色剤、結晶性物質からなる顕色粒子を着色剤として含有する感熱インキ組成物であって、更に、コレステロール誘導体からなる消色剤を含有してなることを特徴とするものである。
【0016】
本発明に用いる着色剤は、少なくともロイコ染料、顕色剤、結晶性物質からなる顕色粒子から構成される。
本発明に用いるロイコ染料としては、電子供与性染料で、発色剤としての機能するものであれば、特に限定されものではない。具体的には、発色特性に優れるインキを得る点から、例えば、3,3−ビス(p−ジメチルアミノフェニル)−6−ジメチルアミノフタリド、3−(4−ジエチルアミノフェニル)−3−(1−エチル−2−メチルインドール−3−イル)フタリド、3−(4−ジエチルアミノ−2−エトキシフェニル)−3−(1−エチル−2−メチルインドール−3−イル)−4−アザフタリド、1,3−ジメチル−6−ジエチルアミノフルオラン、2−クロロ−3−メチル−6−ジメチルアミノフルオラン、3−ジブチルアミノ−6−メチル−7−アニリノフルオラン、3−ジエチルアミノ−6−メチル−7−アニリノフルオラン、3−ジエチルアミノ−6−メチル−7−キシリジノフルオラン、2−(2−クロロアニリノ)−6−ジブチルアミノフルオラン、3,6−ジメトキシフルオラン、3,6−ジ−n−ブトキシフルオラン、1,2−ベンツ−6−ジエチルアミノフルオラン、1,2−ベンツ−6−ジブチルアミノフルオラン、1,2−ベンツ−6−エチルイソアミルアミノフルオラン、2−メチル−6−(N−p−トリル−N−エチルアミノ)フルオラン、2−(N−フェニル−N-−メチルアミノ)−6−(N−p−トリル−N−エチルアミノ)フルオラン、2−(3’−トリフルオロメチルアニリノ)−6−ジエチルアミノフルオラン、3−クロロ−6−シクロヘキシルアミノフルオラン、2−メチル−6−シクロヘキシルアミノフルオラン、3−メトキシ−4−ドデコキシスチリノキノリンなどが挙げられ、これらは、単独(1種)で又は2種以上を混合して(以下、単に「少なくとも1種」という)用いることができる。
更に、黄色〜赤色の発色を発現させるピリジン系化合物、キナゾリン系化合物、ビスキナゾリン系化合物等も用いることができる。
これらのロイコ染料は、ラクトン骨格、ピリジン骨格、キナゾリン骨格、ビスキナゾリン骨格等を有するものであり、これらの骨格(環)が開環することで発色を発現するものである。
【0017】
本発明に用いる顕色剤は、ロイコ染料を発色させるものであり、発色特性に優れるインキを得る点から、例えば、o−クレゾール、ターシャリーブチルカテコール、ノニルフェノール、n−オクチルフェノール、n−ドデシルフェノール、n−ステアリルフェノール、p−クロロフェノール、p−ブロモフェノール、o−フェニルフェノール、ヘキサフルオロビスフェノール、p−ヒドロキシ安息香酸n−ブチル、p−ヒドロキシ安息香酸n−オクチル、レゾルシン、没食子酸ドデシル、2,2−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)プロパン、4,4−ジヒドロキシジフェニルスルホン、1,1−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4’−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、1−フェニル−1,1−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)−3−メチルブタン、1,1−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)−2−メチルプロパン、1,1−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)n−ヘキサン、1,1−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)n−ヘプタン、1,1−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)n−オクタン、1,1−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)n−ノナン、1,1−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)n−デカン、1,1−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)n−ドデカン、2,2−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)エチルプロピオネート、2,2−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)−4−メチルペンタン、2,2−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)n−ヘプタン、2,2−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)n−ノナンなどが挙げられ、これらは、少なくとも1種用いることができる。
【0018】
本発明に用いる結晶性物質は、溶融した状態でロイコ染料及び顕色剤を溶解させ、該結晶性物質が冷却(例えば、5〜20℃)することで結晶化させてロイコ染料、顕色剤を析出させて発色、顕色状態とするものであり、擦過等による加熱(例えば、60〜80℃)で、結晶性物質が溶融し、ロイコ染料と顕色剤とを再溶解するため、ロイコ染料と顕色剤とが相互作用できなくなり、消色状態として機能するものであり、擦過等による加熱が止まると、室温等に冷却され、結晶性物質が結晶化し再度ロイコ染料と顕色剤が析出、相互作用し、再顕色状態として機能するものである。
用いることができる結晶性物質は、上記機能を有するものであれば、特に限定されず、例えば、水酸基、エステル結合、エーテル結合、アミド結合などの極性基を少なくとも1つ以上有する化合物、具体的には、デカン酸、ドデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、ノナデカン酸、イコサン酸、ドコサン酸、テトラドコサン酸、ヘキサドコサン酸、オクタドコサン酸などの飽和脂肪酸、カプリルアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、イソステアリルアルコール、パルミトレイルアルコール、などの高級アルコール、上記脂肪酸とアミンのアミド類、上記脂肪酸とアルコールのエステル類、上記高級アルコールと、グリセリン、プロピレングリコール、エチレングリコールとのエーテル類などが挙げられ、また、ジフェニルプロパンジオン、ジベンジオキシベンゼン、ジフェノキシベンゼン、ジイソプロピルナフタレン、ベンジルビフェニル、ベンジルナフチルエーテル、ジベンジルスルホキシド、ジメチルテレフタレート、ジフェニルカルボネート、ジフェニルスルホン、フルオランテン、フルオレン、メチルヒドロキシナフタレート、フェニルヒドロキシナフタレート、ステラニリド、などの芳香族化合物などが挙げられ、これらは、少なくとも1種用いることができる。
【0019】
好ましくは、擦過前の描線や、インキ状態での安定性を更に高めることができる点から、40〜90℃の融点を有する結晶性物質であるものが望ましく、更に好ましくは、安定な顕色微粒子を得る点から、炭素数13〜20の鎖状分子であり、水酸基、エステル結合、エーテル結合、アミド結合などの極性基を少なくとも1つ以上有するものが望ましい。
好ましい顕色粒子の結晶性物質としては、例えば、ステアリン酸(融点約70℃)、パルミチン酸(融点63℃)、ステアリン酸アミド(融点104℃)、ベヘニルアルコール(融点60℃)、ステアリン酸亜鉛(融点130℃)などの様な極性基を有する結晶性物質だけでなく、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス〔融点は、それぞれ分子量に依存し、使用可能な(消色剤用の)結晶性物質としては、融点30〜150℃である〕なども使用することができる。
【0020】
本発明の着色剤は、少なくとも上記ロイコ染料、顕色剤、結晶性物質からなる顕色粒子を用いるものであり、その調製方法としては、溶融乳化方法を用いるとすることにより調製でき、例えば、ロイコ染料、顕色剤、結晶性物質、乳化剤、水(イオン交換水等)を配合して加熱後、60〜95℃の条件下で高速ホモジナイザーなどの混練機等で撹拌した後、冷却(例えば、氷冷)することにより顕色粒子を調製することができる。
これらロイコ染料、顕色剤、結晶性物質の含有量は、ロイコ染料1に対して、質量比で顕色剤0.8〜3、結晶性物質1〜5である。
本発明の着色剤では、上記ロイコ染料、顕色剤及び結晶性物質の種類、量などを好適に組み合わせることにより、任意の発色温度、消色温度とすることができる。
【0021】
また、得られる顕色粒子の平均粒子径は、着色性、発色性、易消色性の点から、10〜2000nm、更に好ましくは、80〜300nmであるものが望ましい。
なお、本発明(実施例等含む)で規定する「平均粒子径」は、粒度分布測定装置〔Unimodal測定(平均粒子径測定)〕にて、平均粒子径を測定した値である。
また、上記ロイコ染料、顕色剤、結晶性物質からなる顕色粒子は、インキでの熱的安定性及び易消色性の点から、好ましくは、その融点は、40〜150℃であることが好ましく、更に、60〜130℃であることが望ましい。
更に、この顕色粒子の熱容量は、10J/g以上であることが好ましく、特に好ましくは、10J/g以上〜500J/g以下であるものが望ましい。この顕色粒子の熱容量が10J/gより低いと、環境の僅かな温度変化で消色作用が発現することがあり、一方、500J/gより高いと、消色に必要なエネルギー量が多すぎて、擦過を長時間繰り返さないと消色できなくなるという課題を生じることがある。
なお、本発明(実施例等含む)で規定する上記ロイコ染料、顕色剤、結晶性物質からなる顕色粒子、後述する消色粒子などの「融点」は、顕色トナー(乳化液)、消色液の乾燥残分を、それぞれ示差走査熱量計(理学電機社製:DSC8230L)を用いて10℃/minの速度で昇温する条件で測定し、吸熱ピークのトップ温度を「融点」とし、吸熱ピーク面積を「熱容量」として測定した値である。
【0022】
本発明において、着色剤(顕色粒子)の含有量は、インキ組成物全量に対して、好ましくは、5〜30質量%、更に好ましくは、10〜20質量%することが望ましい。
この着色剤(顕色粒子)の含有量が5質量%未満であると、着色力、発色性が不十分となり、一方、30質量%を超えると、それに対応する消色剤の必要量が増え、インクの粘度が増大し、筆記性が低下することとなり、好ましくない。
【0023】
本発明に用いる消色剤は、コレステロール誘導体からなるものである。このコレステロール誘導体による消色剤の消色作用は、筆記等による描線〔顕色状態にある着色剤(顕色粒子)〕を擦過等すると、消色剤自体も擦過による加熱で溶融し、同様に溶融した結晶性物質に溶解したロイコ染料と顕色剤とを取り込むことで非晶質化する。ロイコ染料と顕色剤を取り込むことで消色剤が非晶質化するため、冷却後も、ロイコ染料と顕色剤との相互作用を防止し消色状態を維持するものである。
【0024】
用いることができるコレステロール誘導体としては、上記機能を発揮できるコレステロール誘導体であれば、特に限定されないが、好ましくは、好適な消色能を有するインキを得ることができる点から、コレステロール誘導体はコール酸のアルキルエステルであるものが望ましい。
本発明では、擦過前の描線や、インキ状態での安定性を更に高めることができる点から、消色剤の融点は、30〜190℃、好ましくは、30〜170℃、更に好ましくは、60〜150℃となるものが望ましい。
具体的に用いることができるコレステロール誘導体としては、具体的には、コール酸メチル(融点150℃)、テストステロン(融点約160℃)、メチルテストステロン(融点約160℃)、リトコール酸(融点約190℃)、コール酸(融点約190℃)、コレステロール(融点約150℃)、ラノステロール(融点約140℃)などの少なくとも1種が挙げられる。
【0025】
本発明の消色剤は、少なくとも上記コレステロール誘導体、好ましくは、少なくとも上記コレステロール誘導体及び結晶性物質からなる消色粒子を用いるものであり、その調製方法としては、溶融乳化方法を用いるとすることにより調製でき、例えば、コレステロール誘導体、結晶性物質、乳化剤、水(イオン交換水等)を配合して加熱後60〜95℃の条件下で高速ホモジナイザーなどの混練機等で撹拌した後、冷却(例えば、氷冷)することにより消色粒子を調製することができる。
また、消色剤の沈降を防止することができ、経時保管時の安定性を更に高めることができる点から、消色剤の平均粒子径は10〜2000nm、特に好ましくは、80〜300nmとなるものを使用することが望ましい。
【0026】
更に、上記少なくとも上記コレステロール誘導体及び結晶性物質からなる消色粒子(消色剤)は、結晶状態でインキ中へ含有され、インキでの熱的安定性及び易消色性の点から、好ましくは、その融点は、40〜150℃であることが好ましく、更に、60〜130℃であることが望ましい。
また、この消色粒子(消色剤)の熱容量は、10J/g以上であることが好ましく、特に好ましくは、10J/g以上〜500J/g以下であるものが望ましい。この消色粒子の熱容量が10J/gより低いと、環境の僅かな温度変化で消色作用が発現することがあり、一方、500J/gより高いと、消色に必要なエネルギー量が多すぎて、擦過を長時間繰り返さないと消色できなくなるという課題を生じることがある。
【0027】
これらの消色剤の含有量は、インキ組成物全量に対して、好ましくは、固形分量で5〜30質量%、更に好ましくは、10〜20質量%とすることが望ましい。
この消色剤の含有量が5質量%未満であると、消し色性が不十分となり、一方、30質量%を超えると、 インキの粘度が増大し、筆記性が低下することとなり、好ましくない。
【0028】
本発明の感熱消色性インキ組成物では、上記ロイコ染料、顕色剤、結晶性物質からなる顕色粒子、消色剤の他、本発明の効果を損なわない範囲で、描線の固着性の向上の点から、固着剤、更に、濡れ剤などを適宜含有することができる。
本発明の感熱消色性インキ組成物は、上記着色剤、消色剤、上記任意成分などを混練機等で撹拌することにより調製することができる。
【0029】
このように構成される本発明の感熱消色性インキ組成物は、着色剤(顕色粒子)、消色剤の二成分を必須とするものである。顕色粒子は、結晶性物質とロイコ染料、顕色剤を少なくとも含有してあり、上述の従来技術と同様、結晶性物質が結晶化することで、ロイコ染料と顕色剤とが相互作用し顕色状態となっている。従来技術と同様、擦過による加熱で、結晶性物質が溶融し、そこにロイコ染料と顕色剤とが溶解することで消色状態となる。しかし、本発明の顕色粒子の結晶性物質は熱的ヒステリシスを発現する材料を含有していないため、擦過による加熱が止むと、室温に冷却されることで、融点とほぼ同じ温度で再凝固し、再発色する。
本発明の感熱消色性インキ組成物では、消色状態を維持させるために必須となる成分が、消色剤である。本発明の消色剤の作用は、筆記等による描線〔顕色状態にある着色剤(顕色粒子)〕を擦過等すると、消色剤自体も擦過による加熱で溶融し、同様に溶融した結晶性物質に溶解したロイコ染料と顕色剤とを取り込むことで非晶質化する。ロイコ染料と顕色剤を取り込むことで消色剤が非晶質化するため、冷却後も、ロイコ染料と顕色剤との相互作用を防止し消色状態を維持するものである。具体的には、上述のコレステロール誘導体の単独もしくは複合粒子を消色剤として用いるものである。
【0030】
本発明の消色機構は、結晶性物質の熱的ヒステリシスに頼るものでなく、結晶性物質からロイコ染料及びまたは顕色剤を取り込むことで、消色剤が非晶質化し消色するものである。本発明の消色機構では、ロイコ染料及びまたは顕色剤を取り込んだ(相溶)消色剤は、冷却しても結晶化しないため、極低温下での再発色を防止することができる。
また、本発明では、顕色粒子、消色剤微粒子ともに(マイクロカプセルにて保護する必要がないため)、微粒子化が可能であり、より色相濃度が高く、必要とする消色エネルギーが少ない感熱消色性インキ組成物が調製可能となるものである。
従って、本発明では、マイクロカプセルを用いずに、擦過等による簡単な加熱で容易に消色でき、極低温化(−50℃以下)に保存しても、再発色せず、しかも、経時安定性に優れ、鮮やかな色相濃度を有する感熱消色性インキ組成物が得られるものとなる。
【0031】
このように構成され機能を発揮する本発明の感熱消色性インキ組成物は、例えば、水性ボールペン、ゲルインキボールペン、マーキングペンなどの筆記具に好適に搭載して、紙などの被筆記面に筆記描線を形成することができ、筆記具本体の後端部に備えた消し具等による擦過熱(例えば、60℃以上)で筆記描線を簡単に消色することができるものとなる。
本発明の筆記具は、上記感熱消色性インキ組成物を搭載したものであり、水性ボールペン、ゲルインキボールペン、マーキングペン、筆ペンなどとして好適使用することができるものである。
【実施例】
【0032】
次に、実施例及び比較例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は下記実施例等に限定されるものではない。
【0033】
〔実施例1〜5及び比較例1〜5〕
<実施例1>
以下の方法で、着色剤液1を調製した。
CVL(クリスタルバイオレットラクトン、ロイコ染料、山田化学社製) 1質量部
ヘキサフルオロビスフェノールA(顕色剤、融点約130℃、熱容量60J/g、東京化成社製) 1質量部
ベヘニルアルコール80(結晶性物質、融点60℃、日光ケミカル社製) 8質量部
ドデシル硫酸ナトリウム(乳化剤、和光純薬工業社製) 1質量部
イオン交換水 89質量部
以上の配合の着色剤液を80℃で2時間加熱した。
【0034】
次いで、80℃条件下で高速ホモジナイザーにて、15,000rpmにて、10分間高速撹拌した後、直ちに氷冷し、着色剤液1(平均粒子径130nm)を調製した。
この着色剤液1における顕色粒子は、融点70℃、熱容量31J/gであった。
【0035】
次に、以下の方法で、消色液1を調製した。
コール酸メチル(コレステロール誘導体、和光純薬工業社製) 2質量部
ベヘニルアルコール80(結晶性物質、日光ケミカル社製) 8質量部
ドデシル硫酸ナトリウム(乳化剤、和光純薬工業社製) 1質量部
イオン交換水 89質量部
以上の配合の消色液を80℃で2時間加熱した。
次いで、80℃条件下で高速ホモジナイザーにて、15,000rpmにて、10分間高速撹拌した後、直ちに氷冷し、消色液1(平均粒子径150nm)を調製した。
この消色液1における消色粒子は、融点68℃、熱容量35J/gであった。
【0036】
上記着色剤液1及び消色液1を用いて、以下の方法で、感熱消色性インキ組成物1を調製した。
着色剤液1 50質量部
消色液1 40質量部
ジョンクリル61J(固着剤、BASFジャパン社製) 10質量部
【0037】
<実施例2>
以下の方法で、着色剤液2を調製した。
RED−500(ロイコ染料、山田化学社製) 1質量部
ヘキサフルオロビスフェノールA(顕色剤、東京化成社製) 1質量部
ベヘニルアルコール80(結晶性物質、日光ケミカル社製) 8質量部
ドデシル硫酸ナトリウム(乳化剤、和光純薬工業社製) 1質量部
イオン交換水 89質量部
以上の配合の着色剤液を80℃で2時間加熱した。
次いで、80℃条件下で高速ホモジナイザーにて、15,000rpmにて、10分間高速撹拌した後、直ちに氷冷し、着色剤液2(平均粒子径140nm)を調製した。
この着色剤液2における顕色粒子は、融点70℃、熱容量33J/gであった。
【0038】
上記着色剤液2及び実施例1の消色液1を用いて、以下の方法で、感熱消色性インキ組成物2を調製した。
着色剤液2 50質量部
消色液1 40質量部
ジョンクリル61J(固着剤、BASFジャパン社製) 10質量部
【0039】
<実施例3>
以下の方法で、着色剤液3を調製した。
BLACK−202(ロイコ染料、山田化学社製) 1質量部
ヘキサフルオロビスフェノールA(顕色剤、東京化成社製) 1質量部
ベヘニルアルコール80(結晶性物質、日光ケミカル社製) 8質量部
ドデシル硫酸ナトリウム(乳化剤、和光純薬工業社製) 1質量部
イオン交換水 89質量部
以上の配合の着色剤液を80℃で2時間加熱した。
次いで、80℃条件下で高速ホモジナイザーにて、15,000rpmにて、10分間高速撹拌した後、直ちに氷冷し、着色剤液3(平均粒子径140nm)を作製した。
この着色剤液3における顕色粒子は、融点70℃、熱容量30J/gであった。
【0040】
上記着色剤液3及び実施例1の消色液1を用いて、以下の方法で、感熱消色性インキ組成物2を調製した。
着色剤液3 50質量部
消色液1 40質量部
ジョンクリル61J(固着剤、BASFジャパン社製) 10質量部
【0041】
<実施例4>
実施例1の着色剤液1と以下の方法で調製した消色液2を用いて感熱消色性インキ4を調製した。
以下の方法で、消色液2を調製した。
テストステロン(コレステロール誘導体、東京化成工業社製) 2質量部
ベヘニルアルコール80(結晶性物質、日光ケミカル社製) 8質量部
ドデシル硫酸ナトリウム(乳化剤、和光純薬工業社製) 1質量部
イオン交換水 89質量部
以上の配合の消色液を80℃で2時間加熱した。
次いで、80℃条件下で高速ホモジナイザーにて、15,000rpmにて、10分間高速撹拌した後、直ちに氷冷し、消色液2(平均粒子径160nm)を調製した。
この消色液2における消色粒子は、融点69℃、熱容量41J/gであった。
【0042】
実施例1の着色剤液1及び上記消色液2を用いて、以下の方法で、感熱消色性インキ組成物4を調製した。
着色剤液1 50質量部
消色液2 40質量部
ジョンクリル61J(固着剤、BASFジャパン社製) 10質量部
【0043】
<実施例5>
実施例2の着色剤液2と以下の方法で調製した消色液3を用いて感熱消色性インキ4を調製した。
以下の方法で、消色液3を調製した。
メチルテストステロン(コレステロール誘導体、東京化成工業社製) 2質量部
ベヘニルアルコール80(結晶性物質、日光ケミカル社製) 8質量部
ドデシル硫酸ナトリウム(乳化剤、和光純薬工業社製) 1質量部
イオン交換水 89質量部
以上の配合の消色液を80℃で2時間加熱した。
次いで、80℃条件下で高速ホモジナイザーにて、15,000rpmにて、10分間高速撹拌した後、直ちに氷冷し、消色液1(平均粒子径160nm)を調製した。
この消色液3における消色粒子は、融点68℃、熱容量33J/gであった。
【0044】
実施例2の着色剤液2及び上記消色液3を用いて、以下の方法で、感熱消色性インキ組成物4を調製した。
着色剤液2 50質量部
消色液3 40質量部
ジョンクリル61J(固着剤、BASFジャパン社製) 10質量部
【0045】
<比較例1〜3>
上記実施例1〜3の着色剤液1〜3のみを単独でインキとして用い、感熱消色性インキ6〜8とした。
【0046】
<比較例4>
以下の方法で、感熱消色性インキ9を得た。
パイロット社製の「フリクションボール黒」のリフィールからインキを取り出し、精製水にて50%に希釈することで低粘度化し、感熱消色性インキ9とした。
【0047】
<比較例5>
以下の方法で、感熱消色性インキ10を得た。
パイロット社製の「フリクションラインブルー」の中綿からインキを取り出し、感熱消色性インキ10とした。
【0048】
上記で得られた実施例1〜5の感熱消色性インキ1〜5及び比較例1〜5の感熱消色性インキ6〜10を用いた筆記具〔三菱鉛筆社製のコレクター式水性ボールペン(UB−150、製品名ユニボールアイ)〕に充填し、下記各評価方法で発色性、経時安定性、消色性、及び消色描線の耐復元性の評価を行った。
これらの結果を下記表1に示す。
【0049】
〔発色性の評価方法〕
前記筆記具で、普通紙に手書き筆記し、その筆記描線の色相を目視にて下記評価基準で評価した。
評価基準:
○:かすれなく筆記可能。色相濃度も高い。
△:カスレあり。一部消色している部分がある。
×:筆記不可。
【0050】
〔経時安定性の評価方法〕
前記筆記描線を、40℃条件下に一週間保存し、その筆記描線の色相を目視にて下記評価基準で比較評価した。
評価基準:
○:色相変化なし
△:一部消色。もしくは全体的に色相低下。
×:消色。描線を認識できない。
【0051】
〔消し具による擦過での加熱による消色性、及び−50℃下での再復元性の評価方法〕
筆記描線を下記製法で作製した消し具にて筆記描線を擦過し、下記の評価基準で評価した。また、この消し具で消去した箇所を含む紙面を−50℃の冷凍庫の中に3時間保存して後の再復元性を下記評価基準で評価した。
(消し具の作製法)
ポリプロピレン樹脂(J−728、三井化学社製)25質量部と、熱可塑性エラストマー(アクティマー、LQA9770N、リケンテクノス社製)75質量部とを加熱溶融してニーダーで十分混練した後、冷却、粉砕したものを押し出し成形機により溶融押し出しして冷却したものを切断して消し具(大きさ12×5×20mm)を得た。
【0052】
加熱による消色性の評価基準:
○:消色でき、描線が認識されない。
△:一部消色しない。もしくは全体的に薄く色相が残る。
×:消色不可。描線に変化無し。
−50℃下での消色描線の耐復元性の評価基準:
○:消色描線は、変化無し。復元しない。
△:一部復元部分がある。もしくは全体的に薄く色相が復元する。
×:描線が復元する。筆記描線が認識できる。
−:加熱によって消色しなかったため、消色描線の耐復元性は未評価。
【0053】
【表1】
【0054】
上記表1の結果から明らかなように、実施例1〜5のインキの筆記描線は、上記消し具による擦過で、直ちに消色し、−50℃の冷凍庫の中に3時間保存しても、再発色することがなく、しかも、発色性、経時安定性に優れていることが判った。
これに対して、比較例1〜3のインキの筆記描線は、上記消し具による擦過で、ほんの一瞬は消色するが、擦過を止めると直ちに再発色することがわかった。
また、比較例4及び5は、発色性、経時安定性、消色性は、問題がなかったが、−50℃の冷蔵庫の中に3時間保存することで、消色させた描線の色相が復元することがわかったので、消色描線の安定性に課題があるものとなった。
以上のことより、本発明による感熱消色性インキは、筆記描線を擦過の熱により消色することができ、さらに極低温に保存しても再発色せず、発色性、経時安定性にも優れていることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0055】
ボールペン、マーキングペンなどの筆記具に、好適に搭載することができる感熱消色性インキ組成物が得られる。