特許第5686871号(P5686871)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5686871
(24)【登録日】2015年1月30日
(45)【発行日】2015年3月18日
(54)【発明の名称】センサ及び濃度測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/327 20060101AFI20150226BHJP
   G01N 27/416 20060101ALI20150226BHJP
【FI】
   G01N27/30 353T
   G01N27/30 353U
   G01N27/46 338
【請求項の数】12
【全頁数】38
(21)【出願番号】特願2013-174473(P2013-174473)
(22)【出願日】2013年8月26日
(62)【分割の表示】特願2011-528661(P2011-528661)の分割
【原出願日】2010年8月30日
(65)【公開番号】特開2013-235017(P2013-235017A)
(43)【公開日】2013年11月21日
【審査請求日】2013年8月26日
(31)【優先権主張番号】特願2009-201116(P2009-201116)
(32)【優先日】2009年8月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314005768
【氏名又は名称】パナソニックヘルスケアホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】新樹グローバル・アイピー特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】高原 佳史
(72)【発明者】
【氏名】中南 貴裕
(72)【発明者】
【氏名】池田 信
【審査官】 黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】 特開平03−202764(JP,A)
【文献】 特開平09−297121(JP,A)
【文献】 特開2000−171428(JP,A)
【文献】 特開2002−090331(JP,A)
【文献】 特開2004−258021(JP,A)
【文献】 特開2010−237145(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/123179(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/26−27/49
G01N 21/27
G01N 21/76
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体試料に含まれる標的物質を検出又は定量するセンサであって、
補酵素に依存する補酵素依存性酵素と、
親水性官能基を有するキノン類化合物と、
少なくとも一対の電極と、を備え
前記キノン類化合物は、キノンと置換基とを有し、前記補酵素依存性酵素から電子を受容し、
前記置換基は、ベンゼン環と、前記ベンゼン環に付加された前記親水性官能基とを有し、
前記一対の電極間に電圧が印加された場合、前記一対の電極のうち一方が、前記キノン類化合物から電子を受容する、
センサ。
【請求項2】
前記補酵素依存性酵素は、脱水素酵素であり、
前記液体試料と接触することで、前記標的物質を脱水素する、
請求項1に記載のセンサ。
【請求項3】
前記脱水素酵素は、NAD依存性脱水素酵素である
請求項2に記載のセンサ。
【請求項4】
前記キノン類化合物は、前記親水性官能基として、スルホン酸基、カルボン酸基、及びリン酸基から選択される少なくとも1種の官能基を有する、
請求項1〜3のいずれか1項に記載のセンサ。
【請求項5】
前記スルホン酸基は、1−スルホン酸、2−スルホン酸、3−スルホン酸、4−スルホン酸、及び2,7−ジスルホン酸からなる群より選択される少なくとも1種の官能基であり、
前記カルボン酸基は、2−カルボン酸であり、
前記リン酸基は、2−リン酸である、
請求項4に記載のセンサ。
【請求項6】
液体試料に含まれる標的物質の濃度を測定する方法であって、
(a)前記液体試料と、補酵素に依存する補酵素依存性酵素と、親水性官能基を有するキノン類化合物と、を接触させること、
(b)前記キノン類化合物によって、前記補酵素依存性酵素から、電子を受容すること、
(c)前記液体試料に接触する一対の電極に、電圧を印加すること、
(d)前記(b)によって電子を受容した前記キノン類化合物を、前記一対の電極の一方によって酸化すること、
(e)前記一対の電極間に流れる電流を測定すること、
(f)前記電流に基づいて、前記標的物質の濃度を算出すること、
を含み、
前記キノン類化合物は、キノンと置換基とを有し、前記置換基は、ベンゼン環と、前記ベンゼン環に付加された前記親水性官能基とを有する、
方法。
【請求項7】
前記補酵素依存性酵素は、脱水素酵素であり、
前記補酵素依存性酵素によって、前記液体試料に含まれる前記標的物質を脱水素すること、を更に含む、
請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記脱水素酵素として、NAD依存性脱水素酵素を備える、
請求項7に記載の方法。
【請求項9】
液体試料に含まれる標的物質の濃度を測定する方法であって、
(a)前記液体試料と、親水性官能基を有するキノン類化合物と、前記標的物質を基質とし、前記キノン類化合物に電子を供与する補酵素依存性酵素と、を接触させること、
(b)前記(a)によって生じた電流を検出すること、及び
(c)前記(b)の検出結果に基づいて、前記標的物質の濃度を算出すること、
を含み、
前記キノン類化合物は、キノンと置換基とを有し、前記置換基は、ベンゼン環と、前記ベンゼン環に付加された前記親水性官能基とを有する、
方法。
【請求項10】
前記補酵素依存性酵素は、脱水素酵素である、
請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記脱水素酵素として、NAD依存性脱水素酵素、PQQ依存性脱水素酵素、及びFAD依存性脱水素酵素からなる群より選択される少なくとも1種の酵素を備える、
請求項10に記載の方法。
【請求項12】
液体試料に含まれる標的物質を検出又は定量するセンサであって、
脱水素酵素と、
親水性官能基を有するキノン類化合物と、
少なくとも第1および第2の電極と、を備え、
前記キノン類化合物は、前記第1の電極の少なくとも一部および第2の電極の少なくとも一部の両方に接触しており、
前記脱水素酵素は、前記液体試料と接触することで、前記標的物質を脱水素し、
前記キノン類化合物は、キノンと置換基とを有し、前記脱水素酵素から電子を受容し、
前記置換基は、ベンゼン環と、前記ベンゼン環に付加された前記親水性官能基とを有し、
前記第1及び第2の電極間に電圧が印加された場合、前記一対の電極のうち一方が、前記キノン類化合物から電子を受容する
センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体試料中の標的物質を検出又は定量するセンサ及び標的物質の濃度測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、生体試料中の標的物質を検出するセンサが提案されている。センサの一例である血糖センサにおいては、生体試料は血液であり、標的物質はグルコースである。
血糖センサのうち、特に多く提案されているのは、電気化学式の血糖センサである。電気化学式の血糖センサは、酵素及びメディエータを備える。この酵素は、血液中のグルコースと特異的に反応することでグルコースを酸化する。メディエータは、酸化によって発生した電子を受容する。電子を受容したメディエータは、例えば電極で電気化学的に酸化される。この酸化によって得られる電流の大きさから、血液中のグルコース濃度、すなわち血糖値が簡便に検出される。
【0003】
従来、上記のような電気化学式の血糖センサにおけるメディエータとしては、フェリシアン化カリウムが多く用いられてきた(例えば特許文献1)。フェリシアン化カリウムは、室温において乾燥状態で化学的に安定であり、価格も安価である。さらには、フェリシアン化カリウムは、血液など水を溶媒とする試料への溶解性が高い。よって、特定のセンサ(血糖の検出時に、血液中へ積極的に酵素およびメディエータを溶解させるセンサ)においては、フェリシアン化カリウムは特に好適である。
【0004】
フェリシアン化カリウムに含まれるフェリシアン化物イオンは、血液中へと迅速に溶解し、グルコースと反応した酵素から電子を受容して、フェロシアン化物イオンとなる。このイオンが、電極で電気化学酸化されることで、血糖値に応じた電流を与える。
しかしながら、フェリシアン化カリウムをメディエータとして備える血糖センサにおいては、血液中の共存物質によって測定誤差が生じるという問題があった。測定誤差は、次のように生じる。血液中には、グルコースの他にアスコルビン酸(ビタミンC)などの物質が共存している。アスコルビン酸は、フェロシアン化物イオンと共に血糖センサ内の電極において酸化される。その結果、血糖値に基づく電流にアスコルビン酸に基づく電流が重畳されることで得られる電流値が、血糖値を表す電流として検出される。こうして、測定誤差が生じる。
【0005】
このような測定誤差は、フェロシアン化物イオンを酸化するために必要な電極の電位が、アスコルビン酸を酸化するための電位よりも有意に高い(正である)ことによって生じる。すなわちフェロシアン化物イオンそのものの酸化電位(約160mV vs.Ag|AgCl)は、アスコルビン酸のそれ(約−140mV vs.Ag|AgCl)よりも非常に高いため、大きな測定誤差が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−305095号公報
【特許文献2】特表2001−520367号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の背景技術に述べたような測定誤差の問題に鑑みて、妨害物質の影響をより受けにくいセンサおよび濃度測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明のセンサは、液体試料に含まれる標的物質を検出又は定量するセンサであって、補酵素に依存する補酵素依存性酵素と、親水性官能基を有するキノン類化合物と、少なくとも一対の電極と、を備える。上記キノン類化合物は、キノンと置換基とを有し、補酵素依存性酵素から電子を受容する。置換基は、ベンゼン環と、ベンゼン環に付加された上記親水性官能基とを有する。上記一対の電極間に電圧が印加された場合、上記一対の電極のうち一方が、上記キノン類化合物から、電子を受容する。
【0009】
第2の発明のセンサは、液体試料に含まれる標的物質を検出又は定量するセンサであって、脱水素酵素と、親水性官能基を有するキノン類化合物と、少なくとも第1および第2の電極と、を備える。上記脱水素酵素は、上記液体試料と接触することで、上記標的物質を脱水素する。上記キノン類化合物は、前記第1の電極の少なくとも一部および第2の電極の少なくとも一部の両方に接触している。上記キノン類化合物は、キノンと置換基とを有し、上記脱水素酵素から電子を受容する。置換基は、ベンゼン環と、ベンゼン環に付加された上記親水性官能基とを有する。上記第1及び第2の電極間に電圧が印加された場合、上記一対の電極のうち一方が、上記キノン類化合物から電子を受容する。
【0010】
第1及び第2の発明によると、センサは親水性官能基を有するキノン類化合物を備える。親水性官能基を有するキノン類化合物は、親水性官能基を有さないキノン類化合物に比べ、水への溶解性に優れることが期待される。キノン類化合物が水への溶解性に優れることで、キノン類化合物が、液体試料中に溶解した標的物質および酵素分子と衝突する機会が増える。その結果、応答電流の増大及び測定に要する時間の短縮が期待できる。
【0011】
さらに、親水性官能基を有するキノン類化合物は、親水性官能基を有さないキノン類化合物と比べ、揮発性が小さいことが期待される。
さらに、センサが親水性官能基を有するキノン類化合物を備えることで、センサが親水性官能基を有さないキノン類化合物を備える場合と比べ、センサが備えるキノン類化合物を増量することができると期待される。
【0012】
第3の発明の方法は、液体試料に含まれる標的物質の濃度を測定する方法であって、
(a)上記液体試料と、補酵素に依存する補酵素依存性酵素と、親水性官能基を有するキノン類化合物と、を接触させること、
(b)上記キノン類化合物によって、上記補酵素依存性酵素から、電子を受容すること、
(c)上記液体試料に接触する一対の電極に、電圧を印加すること、
(d)上記(b)によって電子を受容した上記キノン類化合物を、上記一対の電極の一方によって酸化すること、
(e)上記一対の電極間に流れる電流を測定すること、
(f)上記電流に基づいて、上記標的物質の濃度を算出すること、
を含み、上記キノン類化合物は、キノンと置換基とを有し、置換基は、ベンゼン環と、ベンゼン環に付加された上記親水性官能基とを有する。
【0013】
第4の発明の方法は、液体試料に含まれる標的物質の濃度を測定する方法であって、
(a)上記液体試料と、親水性官能基を有するキノン類化合物と、上記標的物質を基質とし、上記キノン類化合物に電子を供与する補酵素依存性酵素と、を接触させること、
(b)上記(a)によって生じた電流を検出すること、及び
(c)上記(b)の検出結果に基づいて、上記標的物質の濃度を算出すること、
を含み、上記キノン類化合物は、キノンと置換基とを有し、置換基は、ベンゼン環と、ベンゼン環に付加された上記親水性官能基とを有する。
【0014】
親水性官能基を有するキノン類化合物は、親水性官能基を有さないキノン類化合物に比べ、水への溶解性に優れることが期待される。よって、親水性官能基を有するキノン類化合物は、液体試料中に溶解した標的物質および酵素分子と衝突する機会が増える。その結果、第3又は第4の発明によると、電流の増大及び測定に要する時間の短縮が期待できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、測定誤差の少ないセンサおよび濃度測定方法が提供され、高精度での標的物質測定を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】センサの概略構成を示す分解斜視図。
図2】測定システムの概略構成を示す斜視図。
図3】測定システムの概略構成を示すブロック図。
図4】9,10‐フェナンスレンキノン‐2‐スルホン酸ナトリウム塩のサイクリックボルタモグラム(実線)及びフェリシアン化カリウム(点線)のサイクリックボルタモグラム。
図5】グルコース濃度と、9,10‐フェナンスレンキノン‐2‐スルホン酸ナトリウム塩を用いたセンサ(実線)、及びフェリシアン化カリウムを用いたセンサ(点線)の応答電流と、の関係を示すグラフ。
図6】グルコース濃度と、9,10‐フェナンスレンキノン‐2‐スルホン酸ナトリウム塩を用いたセンサ(実線)及びフェリシアン化カリウムを用いたセンサ(点線)によるグルコース濃度測定の同時再現性と、の関係を示すグラフ。
図7】アスコルビン酸濃度と、9,10‐フェナンスレンキノン‐2‐スルホン酸ナトリウム塩を用いたセンサ(実線)及びフェリシアン化カリウムを用いたセンサ(点線)によるグルコース濃度測定結果の真値からの乖離度と、の関係を示すグラフ。
図8】アセトアミノフェン濃度と、9,10‐フェナンスレンキノン‐2‐スルホン酸ナトリウム塩を用いたセンサ(実線)及びフェリシアン化カリウムを用いたセンサ(点線)によるグルコース濃度測定結果の真値からの乖離度と、の関係を示すグラフ。
図9】グルコース濃度80mg/dLにおける、ヘマトクリットレベルと、9,10‐フェナンスレンキノン‐2‐スルホン酸ナトリウム塩を用いたセンサ(実線)及びフェリシアン化カリウムを用いたセンサ(点線)によるグルコース濃度測定結果の真値からの乖離度と、の関係を示すグラフ。
図10】グルコース濃度336mg/dLにおける、ヘマトクリットレベルと、9,10‐フェナンスレンキノン‐2‐スルホン酸ナトリウム塩を用いたセンサ(実線)及びフェリシアン化カリウムを用いたセンサ(点線)によるグルコース濃度測定結果の真値からの乖離度と、の関係を示すグラフ。
図11】フェナンスレンキノン誘導体の合成経路。
図12】9,10‐フェナンスレンキノン‐2‐スルホン酸ナトリウム塩のサイクリックボルタモグラム。
図13】9,10‐フェナンスレンキノン‐2,7‐ジスルホン酸ジナトリウム塩のサイクリックボルタモグラム。
図14】化合物Aのサイクリックボルタモグラム。
図15】化合物Bのサイクリックボルタモグラム。
図16】化合物H’のサイクリックボルタモグラム。
図17】化合物Iのサイクリックボルタモグラム。
図18】化合物I'のサイクリックボルタモグラム。
図19】化合物Jのサイクリックボルタモグラム。
図20】試薬層を形成する試薬液中の緩衝成分によるセンサの応答性の向上を示すグラフ。
図21】試薬液のpHによる溶存酸素の影響の低減効果を示すグラフ。
図22】試薬液中のクエン酸−3Naによるセンサの応答性の向上を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0017】
〔1〕第1実施形態
<1−1.センサ>
≪1−1−a.センサの概略構成≫
センサ1は、キノン類化合物と、酵素と、電極と、を備えるセンサの一例である。センサ1は、液体試料中の標的物質を検出すること及び/又は定量することができる。
【0018】
センサ1は、具体的には、基板2、導電層3、試薬層4、スペーサ5、カバー6を有する。
≪1−1−b.基板≫
図1に示すように、基板2は板状の部材である。基板2は絶縁性を有する。基板2を構成する材料としては、例えば、
-ポリエチレンテレフタレート、ビニルポリマ、ポリイミド、ポリエステル、及びスチレニクス等の樹脂;
-ガラス;並びに
-セラミックス;
等が挙げられる。
【0019】
基板2の寸法は、具体的な数値に限定されない。例えば、基板2の幅は、好ましくは4〜20mm、より好ましくは5〜10mmである。また、基板2の長さは、好ましくは20〜40mmである。また、基板2の厚みは、好ましくは0.1〜1mmである。基板2の幅、長さ及び厚みの全てが、上記範囲内にあることが好ましい。
≪1−1−c.導電層≫
図1に示すように、導電層3は、基板2上に略均一な厚みに形成されている。導電層3は、3つの電極31〜33を含む。電極31は作用電極、電極32は対電極、電極33は検知電極と称されることがある。なお、検知電極33は省略可能である。
【0020】
電極31〜33のそれぞれの一部分は、キャピラリ51に面するように配置される。
電極31〜33の他の一部分は、センサ1の導入口52とは逆の端部において、スペーサ5及びカバー6で覆われずに露出している。これらの露出部分は、リードとして機能する。つまり、これらの露出部分は、測定器101から電圧の印加を受けたり、電流を測定器101に伝えたりする。
【0021】
各電極は、
-導電性材料を用いた印刷等;又は
-基板2を導電性材料で覆った後、レーザアブレーション等で非導電トラックを形成すること;
で形成されてもよい。例えば、基板2にパラジウムをスパッタリングすることによって導電層3を形成し、レーザアブレーションにより、非導電トラックを形成することができる。非導電トラックは、好ましくは0.01〜0.5mm、より好ましくは0.05mm〜0.3mmの幅を有する。
【0022】
なお、導電層3の構成材料は、導電性材料(導電性物質)であればよく、特に限定されるものではない。導電性材料の例としては、
‐金属、金属混合物、合金、金属酸化物、及び金属化合物に代表される無機導電性物質等;
‐炭化水素系導電性ポリマー及びヘテロ原子含有系導電性ポリマー等の有機導電性物質;又は
‐これらの物質の組み合わせ;
が挙げられる。導電層3の構成材料としては、パラジウム、金、白金、炭素などが好ましく、パラジウムが特に好ましい。
【0023】
導電層3の厚さは、その形成方法及び構成材料により変更可能である。例えば、スパッタリングによって導電層3が形成された場合、導電層3の厚さは、好ましくは0.1〜20nmであり、より好ましくは1〜10nmである。印刷により導電層3が形成された場合、導電層3の厚さは、好ましくは0.1〜50μmであり、より好ましくは1〜30μmである。
【0024】
≪1−1−d.試薬層≫
図1に示すように、試薬層4は、電極31〜33に接するように配されている。試薬層4は、電極31及び32と共に、センサ1の活性部として機能する。活性部とは、電気化学的に活性な領域であって、液体試料中の特定の物質に反応し、電気信号を生じる部分である。具体的には、試薬層4は、酵素及びメディエータを含む。
【0025】
試薬層4は、少なくとも電極31及び32(第1の電極及び第2の電極)の一部に接触するように配置されていればよい。また、試薬層4は、さらに電極33に接触するように配置されていてもよい。
[酵素]
試薬層4は、1種又は複数種の酵素を含む。試薬層4に含まれる酵素は、標的物質を基質とする酵素であることが好ましく、特に標的物質に特異的に反応する酵素であることが好ましい。酵素は、標的物質の濃度、つまり標的物質との反応量に応じて、キノン類化合物に電子を供与する。
【0026】
試薬層4に含まれる酵素としては、酸化還元酵素が特に好ましい。酸化還元酵素としては、具体的には、標的物質を基質とする酸化酵素及び脱水素酵素が挙げられる。これらの酸化還元酵素の例としては、
‐標的物質がブドウ糖である場合は、グルコースオキシダーゼ、グルコースデヒドロゲナーゼが好ましく;
‐標的物質が乳酸である場合には、乳酸オキシダーゼ、又は乳酸デヒドロゲナーゼが好ましく;
‐標的物質がコレステロールである場合には、コレステロールエステラーゼ、又はコレステロールオキシダーゼが好ましく;
‐標的物質がアルコールである場合には、アルコールオキシダーゼが好ましく;
‐標的物質がビリルビンである場合には、ビリルビンオキシダーゼが好ましく;
挙げられる。
【0027】
試薬層4は、酵素に合う補酵素を含んでもよい。
酵素は、その補酵素依存性について、特に限定されるものではない。例えば、試薬層4に含まれる酵素は、NAD(nicotinamide adenine dinucleotide)、NADP(nicotinamide adenine dinucleotide phosphate)、PQQ(Pyrroloquinoline quinone)、又はFAD(flavin adenine dinucleotide)等の補酵素に対して依存性を有する酵素であってもよい。
【0028】
酵素の補酵素は、FAD又はPQQであることが好ましい。これらの補酵素に対応する酵素において、補酵素は、その酵素タンパク質に結合するか、又は含有される。よって、センサの作製および測定の実行時に、酵素とは別途に補酵素を添加する必要がない。その結果、センサの構成、製造工程及び測定工程が簡素化される。
NADおよびNADP依存性酵素の場合は、例えば特許文献2に開示されているように、酵素蛋白に結合しない状態で機能する補酵素NADおよびNADPを、別途に添加してもよい。補酵素を別途添加する場合、センサの構成及び製造又は測定工程は、FADおよびPQQを補酵素とする酵素を用いる場合と比較して複雑になる。ただし、本願発明においては、NADおよびNADP依存性酵素も使用可能である。
【0029】
例えば、酵素は、FAD依存性酸化酵素、NAD依存性、PQQ依存性、又はFAD依存性脱水素酵素等であってもよい。酸化酵素及び脱水素酵素の具体例は、上述したとおりである。
試薬層4中の酵素は、これらに限定されるものではなく、標的物質に応じて適宜選択される。
【0030】
試薬層4における酵素の含有量は、標的物質の検出が可能な程度に設定され、1回の測定当たり又はセンサ1個当たりにつき、好ましくは0.2〜20U(ユニット)、より好ましくは0.5〜10U程度に設定される。
[メディエータ]
試薬層4は、1種以上のメディエータを含む。メディエータは、電子受容体又は電子伝達物質と言い換えられてもよい。メディエータは、可逆的に酸化体及び還元体となることができる。直接または別のメディエータと協働して、物質間における電子の移動を媒介する物質である。
【0031】
試薬層4が基質を酸化する酵素を含む場合における、メディエータの働きについて説明する。酵素は、基質を酸化することで、基質からの電子を受け取り、補酵素に電子を与える。その結果、補酵素は、酸化体から還元体になる。酸化体であるメディエータは、還元体になった補酵素から電子を受け取って、補酵素を酸化体に戻す。その結果、メディエータ自身は還元体となる。還元体となったメディエータは、電極31又は32に電子を与えて、自身は酸化体となる。このようにして、メディエータは、酵素と電極間の電子移動を媒介する。
【0032】
上記補酵素は、酵素タンパク質(酵素分子)に結合することで、酵素タンパク質に保持されてもよい。また、補酵素は、酵素タンパク質から分離した状態で存在していてもよい。
メディエータとしては、キノン類化合物が好ましい。キノン類化合物とは、キノンを含有する化合物である。キノン類化合物には、キノン及びキノン誘導体が含まれる。キノン誘導体としては、キノンに種々の官能基(置換基と言い換えてもよい)が付加された化合物が挙げられる。
【0033】
キノン類化合物におけるキノンとしては、(a)ベンゾキノン、(b)ナフトキノン、(c)アントラキノン、(d)フェナンスレンキノン、及び(e)フェナンスロリンキノン等が挙げられる。フェナンスレンキノンとして、特に具体的には、9,10‐フェナンスレンキノンが挙げられる。各キノンの構造式の具体例を、以下に示す。
【0034】
【化1】
【0035】
また、キノン誘導体における付加官能基(置換基)の一例として、親水性官能基が挙げられる。親水性官能基としては、スルホン酸基(スルホ基、‐SO3H)、カルボン酸基(カルボキシル基、‐COOH)、リン酸基(‐PO42)等が挙げられる。なお、スルホン酸基、カルボン酸基、及びリン酸基には、これらの塩(ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩等)も含まれる。
【0036】
1つのキノン誘導体が、2つ以上の親水性官能基を有していてもよい。また、1つのキノン誘導体が、2種類以上の官能基を有していてもよい。
キノン誘導体は、ベンゼン環を含む置換基を有していてもよい。上述の親水性官能基(塩を含む)は、置換基中のベンゼン環に付加されていてもよい。言い換えると、親水性官能基は、ベンゼン環を介してキノンに結合していてもよい。
【0037】
例えば、上述のキノン(a)〜(e)に、下記の置換基の少なくとも1つが付加されていてもよい。
【0038】
【化2】
【0039】
置換基において、1つのベンゼン環に2つ以上の官能基が付加されていてもよいし、1つのベンゼン環に2種類以上の官能基が付加されていてもよい。
さらに、上述の親水性官能基とベンゼン環との間に、他の原子が介在していてもよい。例えば、図11に示す化合物I’は、化合物Iとアミノエタンスルホン酸との縮合反応によって得られる。化合物I’における置換基は、スルホン酸基と、ベンゼン環と、スルホン酸基とベンゼン環との間のアミノカルボキシル(-CONH-)と、を有する。
【0040】
ベンゼン環を有する置換基及びベンゼン環を有さない置換基のいずれであっても、キノンにおけるその付加位置は、特に限定されるものではない。例えば、9,10‐フェナンスレンキノンにおいては、1、2、3、4、及び7位のうちの少なくとも1つの位が、好ましく選択される。
センサ1は、キノン誘導体として、具体的には、9,10‐フェナンスレンキノン‐2‐スルホン酸、9,10‐フェナンスレンキノン‐1‐スルホン酸、9,10‐フェナンスレンキノン‐3‐スルホン酸、9,10‐フェナンスレンキノン‐4‐スルホン酸、9,10‐フェナンスレンキノン‐2,7‐ジスルホン酸、9,10‐フェナンスレンキノン‐2‐カルボン酸、及び9,10‐フェナンスレンキノン‐2‐リン酸からなる群より選択される少なくとも1種の化合物を有してもよい。
【0041】
試薬層4におけるキノン類化合物の含有量は、メディエータとして機能できる程度の量に設定可能であり、1回の測定当たり又はセンサ1個当たりにつき、好ましくは1〜500nmol、より好ましくは10〜200nmol程度に設定される。
1回の測定当たり又はセンサ1個あたりの酵素の量については上述した通りである。よって、酵素1U当たりのメディエータの量は、好ましくは0.05〜2500nmolであり、より好ましくは1〜400nmolである。特に、キノン類化合物(より具体的にはフェナンスレンキノン)の量が、この範囲であることが好ましい。
【0042】
なお、キノン類化合物の製造方法としては、従来の方法が好適に用いられる。
キノンは従来、医薬、農薬、工業の分野で使用されている。キノンは、例えば芳香族炭化水素から製造可能である。具体的には、アントラキノンはアントラセンの酸化により容易に製造される。
また、親水性官能基を有するキノン類化合物の製造方法は、キノンに親水性官能基を導入する工程を含んでもよい。例えば、キノンに親水性官能基としてスルホン酸基を付加する方法としては、キノンと発煙硫酸とを反応させる方法などがある。
【0043】
センサ1は、2以上のキノン類化合物を有してもよいし、キノン類化合物以外の電子伝達物質を有してもよい。
なお、本実施形態ではキノン類化合物は試薬層4中に含まれるが、キノン類化合物は電極に含まれていてもよい。親水性官能基を有するキノン類化合物は、そのキノン類化合物の主要素であるキノンよりも高い水溶性を有する。
【0044】
また、親水性官能基を有するキノン類化合物の揮発性は、そのキノン類化合物の主要素であるキノンよりも低い傾向がある。よって、キノン類化合物が親水性官能基を付加されている場合、キノン類化合物は、試薬層4中に含まれることで、メディエータとして機能することができる。
[親水性官能基を有するキノン類化合物の利点]
親水性官能基を有するキノン類化合物は、水を媒体とする試料(例えば血液)における標的物質の測定に適している。
【0045】
メディエータが親水性官能基を有するキノン類化合物である場合、メディエータ分子と酵素分子とが、試料中で衝突する機会が増大する。その結果、反応の速度が増大し、標的物質に由来する電流量が増大すると共に、測定に要する時間も短縮され得る。
また、メディエータが親水性官能基を有するキノン類化合物である場合、作用電極中又は作用電極上に、メディエータを固定化するために必要な充填剤成分又は結合剤成分を配合する必要がない。すなわち、メディエータが試料に溶解して機能する場合には、前述したように、メディエータ溶液を電極上に滴下及び乾燥させることによって、簡単に電極上にメディエータを配置することができる。
【0046】
メディエータはセンサを構成する電極のうち、第1の電極の少なくとも一部および第2の電極の少なくとも一部に共に接するように配置されることが好ましい。第1の電極及び第2の電極は、作用極及び対極に相当する。メディエータがこのように配置されることで、各電極の電位が安定するので、測定の精度が向上する。第1および第2の電極間に電圧が印加されることにより電気化学反応が進行して測定が実施されるので、メディエータが両極の一部に接している場合、対極として機能する側の電極ではメディエータの還元反応により電極には安定したメディエータの還元電位が与えられる。一方、作用極として機能する側の電極の電位は、上記メディエータの還元電位に上記印加電圧を加えたものとなり、電位が安定する。
【0047】
センサの長期的な安定性等を考慮すると、親水性官能基が付加されていないキノンは、電極中に含まれることが好ましい。すなわち、キノンと導電性材料との混合物により、電極が形成されることが好ましい。充填剤成分や結合剤成分を配合してメディエータ分子を作用電極中又は作用電極上に固定化する方法が知られている。
[メディエータの酸化還元電位の好ましい範囲及びその利点]
妨害物質とは、センサ1による標的物質の正確な検出を妨害する物質であり、干渉物質と称されることもある。妨害物質としては、アスコルビン酸、尿酸、およびアセトアミノフェン等が挙げられる。測定の対象が非生体試料(血液及び尿等の生体試料以外の試料)である場合、妨害物質とは、その非生体試料に含まれる易酸化性物質である。
【0048】
背景技術において前述したとおり、妨害物質の酸化に必要な電位が、メディエータの酸化に必要な電位よりも低い場合に、妨害物質はセンサの測定結果に影響を与える。その結果、測定結果に誤差が生じる。例えば、試料が血液である場合、メディエータを酸化するために必要な電極の電位が血液中に含まれるアスコルビン酸等を酸化するために必要な電極の電位よりも有意に高い(正である)ことによって、誤差がもたらされる。
【0049】
メディエータを酸化するために必要な電極の電位は、メディエータ自身の酸化還元電位に依存する。よって、メディエータの酸化還元電位がより負であることは、妨害物質の影響を軽減するという点において好ましい。妨害物質の影響は、妨害物質の酸化電位よりも正であっても、その酸化電位になるべく近い酸化還元電位を持つメディエータを用いることによって軽減できる。影響をより低減するには、妨害物質の酸化電位よりも負の酸化還元電位を持つメディエータを用いることが好ましい。
【0050】
また、酵素が標的物質を酸化する場合、メディエータの酸化還元電位は、補酵素のそれよりも正であることが好ましい。これによって、メディエータは、補酵素から電子を容易に受容することができる。
なお、酵素が標的物質を還元する場合、メディエータの酸化還元電位は、補酵素のそれよりも負であることが好ましい。これによって、メディエータは、補酵素へ電子を容易に供与できる。このように標的物質を還元反応によって検出する場合には、補酵素、メディエータ、妨害物質(易還元性物質)の電位の関係は、標的物質を酸化によって検出する場合と逆の関係になる。以下では、標的物質が酸化によって検出される場合について説明する。
【0051】
補酵素の具体的な酸化還元電位は以下の通りである。補酵素であるFADおよびPQQは、酵素タンパク質に結合した状態で、酵素タンパク質と協働して典型的に機能する。これらの補酵素の酸化還元電位は、それぞれ約−300および約−200mVである。また、NADは、酵素蛋白に結合せずに機能する。NADの酸化還元電位は、約−520mVである。
【0052】
さらには、一般に、メディエータの電子受容能は、メディエータの酸化還元電位が補酵素のそれに対してより正であるほど、大きくなる傾向がある。すなわち、メディエータの酸化還元電位と補酵素のそれとの差が大きいほど、エネルギーレベルの差が大きい。よって、メディエータの電子受容速度は大きくなる。したがって、センサの測定高感度化及び迅速化の点においては、メディエータの酸化還元電位が正側に高いことが好ましい。
【0053】
以上のように、誤差が少なくかつ感度が良いセンサ及び測定方法を実現するためには、メディエータの酸化還元電位の正側は妨害物質の酸化還元電位によって、負側は電子受容能に関連する補酵素の酸化還元電位によって、制限される。この範囲は、非常に狭く制限されることがある。
例えば、特許文献2では、NAD依存性酵素を有すると共に、メディエータとして、窒素原子を含む複素環化合物であるフェナントロリンキノンを有するセンサが開示されている。フェナントロリンキノンの酸化還元電位は約0mVであり、NADのそれは約−520mVであるつまり、この文献のセンサにおいて、メディエータと補酵素との間には、約520mVの電位差がある。なお、アスコルビン酸の酸化電位は約−140mVであるので、メディエータがフェナントロリンキノンである場合、上記理由により、妨害物質の影響を完全に回避することはできない。
【0054】
ところで、上述したように、PQQ依存性又はFAD依存性酵素を有するセンサは、低い製造コストで製造可能であるという利点を有する。しかしながら、PQQおよびFADはNADと比べて酸化還元電位が高いために、PQQ依存性およびFAD依存性酵素に適用できる電位が低いメディエータの探索は容易ではない。現在、妨害物質の影響を低減させるために、かつ、製造コストの抑制のために、PQQ依存性およびFAD依存性酵素にも適用できる酸化還元電位が低いメディエータが望まれている。
【0055】
しかし、補酵素がFAD又はPQQである場合、それらの電位はより正側にあるので、上記範囲は特に狭い。
本発明に係るメディエータの例である、9,10‐フェナンスレンキノン、9,10‐フェナンスレンキノン‐2‐スルホン酸、1,2−ナフトキノン−4−スルホン酸、2,5−ジメチル−1,4−ベンゾキノンの酸化還元電位は、それぞれ順に、−180mV、−140mV、−16mV、−5mVである。これら酸化還元電位は0mVよりも負であり、NADの電位よりも正、さらにはFADおよびPQQの電位よりも正である。特に、9,10‐フェナンスレンキノン、9,10‐フェナンスレンキノン‐2‐スルホン酸の酸化還元電位は、アスコルビン酸の酸化電位(約−140mV)よりも負である。すなわち、これらのメディエータは、PQQ依存性又はFAD依存性酵素を有するセンサに適用可能である。また、これらのメディエータは、妨害物質が検出結果に与える影響を低減することもできる。
【0056】
ただし、電位の関係だけで補酵素からの電子受容能が決まるわけではない。キノン類化合物の電子受容能は、例えば、キノン類化合物の電荷と酵素の活性部位付近の電荷との関係、及びキノン類化合物の分子サイズと酵素の活性部位空間の大きさとの関係などに影響を受ける。
酵素がFAD依存性酵素又はPQQ依存性酵素である場合、メディエータは9,10‐フェナンスレンキノン(その誘導体を含む)であることが好ましい。9,10‐フェナンスレンキノンは、アントラキノンのように芳香環が横1列に連結しておらず、コンパクトな分子サイズを有している。よって、9,10‐フェナンスレンキノンは、酵素の活性部位空間に侵入しやすいものと推測される。また、9,10‐フェナンスレンキノンは、電荷も有していないため、酵素の活性部位の電荷の影響も受けにくいものと予想される。
【0057】
[その他の組成]
試薬層4は、酵素及びメディエータ以外の他の成分を含んでいてもよい。そのような成分としては、酵素又はメディエータの保存性を高めたり、酵素と標的物質との反応性を高めたりすることができる種々の物質が用いられる。そのような成分として、例えば緩衝剤が挙げられる。
【0058】
[試薬層の形成方法]
試薬層4は、種々の方法によって形成可能である。形成方法としては、例えば印刷法、塗布法等が挙げられる。
形成方法の一例を以下に述べる。酵素、メディエータ、及び必要に応じてその他の成分を含んだ水溶液を、マイクロシリンジなどを用いて、電極31及び32上に一定量滴下した後、適切な環境に静置して乾燥させることにより、試薬層4を形成することができる。なお、必要に応じて、電極33上にも水溶液を滴下してもよい。
【0059】
水溶液の滴下量は特定の数値に限定されないがが、好ましくは0.5〜5μL、より好ましくは1〜2μLである。
試薬層4の形状は、具体的な形状に限定されない。この形状は、矩形状や円形状などであってもよい。試薬層4の面積(基板2の平面方向における面積)は、デバイスの特性及びサイズに応じて決定される。この面積は、好ましくは1〜25mm2、より好ましくは2〜10mm2であってもよい。
【0060】
塗布される水溶液が含む、酵素及びメディエータ並びにその他の成分の含有量は、必要とされるデバイスの特性やサイズに応じて選択される。
≪1−1−e.スペーサ≫
図1に示すように、スペーサ5は、カバー6と導電層3との間に空隙を設けるための部材である。
【0061】
具体的には、スペーサ5は、板状の部材であって、電極31〜33のリード部分及び後述のキャピラリ51部分を除いて、導電層3の全体を覆うようになっている。スペーサ5は、電極31〜33のリード部分とは逆の端部を露出させる矩形の切り欠きを備える。スペーサ5がこの切り欠きを備えることで、スペーサ5、導電層3、及びカバー6とで囲まれたキャピラリ51が形成される。このように、スペーサ5は、キャピラリ51の側壁を提供し、さらにキャピラリ51の長さ、幅、高さ等を規定することができる。
【0062】
キャピラリ51の容量は、好ましくは0.1〜1.0μL(マイクロリットル)程度に設定される。スペーサ5の厚みは0.1〜0.2mmが好ましく、スペーサが備える切り欠きの長さは1〜5mmが好ましく、スペーサが備える幅は0.5〜2mmが好ましい。なお、これらの寸法は、キャピラリ51が所望の容量になるように適宜選択されればよい。例えば、長さが3.4mm、幅が1.2mmの切り欠きを備える厚さ0.145mmのスペーサ5を用いた場合、長さが3.4mm、幅が1.2mm、高さが0.145mm、容量が0.6μLのキャピラリ51が提供される。
【0063】
キャピラリ51は、その開口部である導入口52から毛細管現象によって液体試料を吸引し、電極31〜33上に保持する。
≪1−1−f.カバー≫
図1に示すように、カバー6はスペーサ5全体を覆う板状の部材である。カバー6は、表面から裏面まで貫通する孔を備える。この孔は、キャピラリ51から外部に通じる通気口61として機能する。通気口61は、液体試料がキャピラリ51に吸引されるとき、キャピラリ51内の空気をキャピラリ外へ排出するための排気孔である。このように空気が排出されることで、液体試料がキャピラリ51内に容易に吸引されやすい。通気口61は、導入口52から離れた位置に、つまり、導入口52から見てキャピラリ51の奥に設けられることが好ましい。導入口52がこのように配置されることで、液体試料が、導入口52からキャピラリ51の奥まで、速やかに移動することができる。
【0064】
<1−2.測定システム>
上述のセンサ1は、図2に示す測定システム100で用いられる。測定システム100は、センサ1及び測定器101を有する。
図2及び図3に示すように、測定器101は、表示部102、装着部103、切替回路107、基準電圧現108、電流/電圧変換回路109、A/D変換回路110、演算部111を備える。測定器101は、さらに、センサ1の各電極に対応するコネクタを有する。図3には、コネクタ104〜106が描かれる。
【0065】
表示部102は、測定器101の状態、測定結果、操作内容等を表示する。表示部102は、具体的には液晶表示パネルによって実現される。
図2に示すように、装着部103には、センサ1が着脱可能に挿入される。
図3に示すように、コネクタ104〜106は、センサ1が装着部103に装着されることで、それぞれセンサ1の電極31〜33に接続される。
【0066】
切替回路107は、コネクタ104〜106を、基準電圧源108に接続したり、電流/電圧変換回路109したりする。
基準電圧源108は、コネクタ104〜106を介して、電極31〜33に電圧を印加する。
電流/電圧変換回路109は、センサ1からの電流を、コネクタ104〜106を介して受け取り、電圧に変換して、A/D変換回路110に出力する。
【0067】
A/D変換回路110は、電流/電圧変換回路109からの出力値(アナログ値)をパルス(デジタル値)に変換する。
演算部111は、CPU(Central Processing Unit)並びにROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等の記録媒体を有する。演算部111は、標的物質の濃度算出を行ったり、測定器101内の各部の動作を制御したりする。
【0068】
演算部111の濃度算出機能について説明する。演算部111の記憶媒体中には、試料中の標的物質の濃度の決定に用いられる換算テーブル、この濃度の補正量の決定に用いられる補正量テーブル等が記憶される。演算部111は、A/D変換回路110からのパルスに基づいて、換算テーブルを参照することにより、標的物質の仮の濃度を算出する。演算部111は、さらに、補正量テーブル中の補正量を用いて、標的物質の最終的な濃度を決定する。こうして算出された濃度は、表示部102に表示される。
【0069】
また、演算部111は、濃度算出機能以外に、切換回路107の切替制御、基準電圧源108の電圧制御、濃度測定や補正量選択時の時間の測定(タイマ機能)、表示部102への表示データ出力、及び外部機器との通信機能等を有する。
演算部111の各種機能は、CPUが、図示しないROM等に格納されたプログラムを読み出して実行することにより実現される。
【0070】
<1−3.測定システムの使用>
以下、測定システム100による濃度測定について説明する。
センサ1が装着部103に差し込まれると、コネクタ104〜106が、電極31〜33にそれぞれ接続される。また、装着部103内のスイッチ(図示せず)がセンサ1に押下される。スイッチの押下により、演算部111はセンサ1が装着されたと判断し、測定器101を試料待機状態とする。試料待機状態とは、演算部111の制御の下、基準電圧源108がコネクタ104及び106を介して、作用電極31及び検知電極33間への電圧印加を開始し、かつ電流/電圧変換回路109が電流測定を開始した後であって、液体試料がまだ測定に供されていない状態である。
【0071】
使用者が、センサ1の導入口52に液体試料を付着させると、毛細管現象によって、導入口52からキャピラリ51に液体試料が引き込まれる。
液体試料としては、例えば、血液、汗、尿等の生体由来の液体試料や、環境由来の液体試料、食品由来の液体試料等が用いられる。例えば、センサ1を血糖値センサとして用いる場合、使用者は、自身の指、掌、又は腕等を穿刺して、少量の血液を搾り出し、この血液を液体試料として、センサ1での測定に供する。
【0072】
液体試料が作用電極31及び検知電極33に到達すると、演算部111が、電流/電圧変換回路109を介して受け取る電流値が変化する。この変化から、演算部111は、液体試料がセンサ1に吸引されたと判断する。こうして液体試料の吸引が検知されると、測定が開始される。
センサ1内では、液体試料中に試薬層4中の酵素及びメディエータ等の成分が溶解する。こうして、センサ1の電極31及び32上で、液体試料、酵素、及びメディエータが互いに接触する。
【0073】
演算部111の制御により、切替回路107は、コネクタ104とコネクタ105とを基準電圧源108及び電流/電圧変換回路109に接続する。こうして、作用電極31と対電極32との間に電圧が印加され、作用電極31と対電極32との間に生じた電流が、電流/電圧変換回路109に伝達される。
電流/電圧変換回路109へ流れた電流は電圧へ変換される。そして、この電圧はA/D変換回路110によりさらにパルスへと変換される。演算部111は、このパルスから、特定成分の濃度を算出する。演算部111により算出された値は、表示部202に表示される。その際、使用者へのその他の情報が共に表示されることもある。
【0074】
測定終了後は、使用者はセンサ1を装着部103から取り外すことができる。
なお、基準電圧源108は、2つの電極31及び32間に、目的の電気化学反応を起こすのに十分な電圧を与えられるようになっている。この電圧は主に、利用する化学反応および電極に応じて設定される。
以上の説明から明らかなように、測定システム100を用いることで、
(a)液体試料と、メディエータと、酵素と、を接触させること、
(b)上記(a)によって生じた電流を検出すること、及び
(c)上記(b)の検出結果に基づいて、標的物質の濃度を測定すること
を含む濃度測定方法が実行される。
【0075】
また、水を媒体とする液体試料を対象とする場合、測定システム100において、
(i)上記液体試料に、キノン類化合物と、上記標的物質を基質とし、上記キノン類化合物に電子を供与する酸化酵素と、を溶解させること、
(ii)上記(i)により得られた溶液において生じた電流を検出すること、及び
(iii)上記(ii)の検出結果に基づいて、上記標的物質の濃度を測定すること、
を含む濃度測定方法が実行される。
【0076】
<1−4.まとめ>
以上の説明から明らかなように、センサ1は、液体試料に含まれる標的物質を検出又は定量するセンサであって、キノン類化合物と、キノン類化合物に電子を供与する酵素と、キノン類化合物から電子を受け取る電極と、を備える。標的物質は、酵素の基質となり得る。センサ1の構成は、標的物質を基質とする酵素と、電極と、酵素と電極との間の電子の伝達を行うキノン類化合物と、を備える、と表現されてもよい。
【0077】
本実施形態は、さらに、以下のように表現可能である。
(1)
液体試料に含まれる標的物質を検出又は定量するセンサであって、
PQQ依存性又はFAD依存性酵素と、
親水性官能基を有するキノン類化合物と、
少なくとも一対の電極と、を備え
上記PQQ依存性又はFAD依存性酵素は、上記液体試料と接触することで、上記標的物質を脱水素又は酸化し、
上記キノン類化合物は、上記PQQ依存性又はFAD依存性酵素から電子を受容し、
上記一対の電極間に電圧が印加された場合、上記一対の電極のうち一方が、上記キノン類化合物から電子を受容する
センサ。
【0078】
なお、2対以上の電極が設けられる場合、それらの電極のうちの少なくとも一対の電極に電圧が印加さればよい。以下同様である。
(2)
上記PQQ依存性又はFAD依存性酵素は、脱水素酵素である、
上記(1)に記載のセンサ。
【0079】
(3)
上記FAD依存性酵素は、グルコース脱水素酵素である、
上記(1)に記載のセンサ。
(4)
液体試料に含まれる標的物質を検出又は定量するセンサであって、
親水性官能基を有するキノン類化合物と、
酸化酵素と、
少なくとも一対の電極と、を備え、
上記酸化酵素は、上記液体試料と接触することで、上記標的物質を酸化し、
上記キノン類化合物は、上記酸化酵素から電子を受容し、
上記一対の電極間に電圧が印加された場合、上記一対の電極のうち一方が、上記キノン類化合物から電子を受容する
センサ。
【0080】
(5)
上記酸化酵素は、FAD依存性酵素である、
上記(4)に記載のセンサ。
(6)
液体試料に含まれる標的物質を検出又は定量するセンサであって、
親水性官能基を有するキノン類化合物と、
脱水素酵素と、
少なくとも一対の電極と、を備え、
上記脱水素酵素は、上記液体試料と接触することで、上記標的物質を脱水素し、
上記キノン類化合物は、上記脱水素酵素から電子を受容し、
上記一対の電極間に電圧が印加された場合、上記一対の電極のうち一方が、上記キノン類化合物から電子を受容する
センサ。
【0081】
(7)
上記キノン類化合物は、キノンと置換基とを有し、
上記置換基は、ベンゼン環と、上記ベンゼン環に付加された上記親水性官能基とを有する、
上記(1)〜(6)のいずれかに記載のセンサ。
【0082】
(8)
上記キノン類化合物は、上記親水性官能基として、スルホン酸基、カルボン酸基、及びリン酸基からなる群より選択される少なくとも1種の官能基を有する、
上記(1)〜(7)のいずれかに記載のセンサ。
(9)
上記スルホン酸基は、2−スルホン酸、1−スルホン酸、3−スルホン酸、4−スルホン酸、及び2,7−ジスルホン酸からなる群より選択される少なくとも1種の官能基であり、
上記カルボン酸基は、2−カルボン酸であり、
上記リン酸基は、2−リン酸である
上記(8)に記載のセンサ。
【0083】
(10)
液体試料に含まれる標的物質を検出又は定量するセンサであって、
メディエータとしてのフェナンスレンキノン及び/又はその誘導体と、
酵素と、
少なくとも一対の電極と、を備え、
上記酵素は、上記液体試料と接触することで、上記標的物質を脱水素又は酸化し、
上記フェナンスレンキノン及び/又はその誘導体は、上記酵素から電子を受容し、
上記一対の電極間に電圧が印加された場合、上記一対の電極のうち一方が、上記電子を受容したフェナンスレンキノン及び/又はその誘導体から電子を受容する、
センサ。
【0084】
(11)
上記フェナンスレンキノンは、9,10‐フェナンスレンキノンであり、上記フェナンスレンキノン誘導体は、9,10‐フェナンスレンキノンの誘導体である、
上記(9)に記載のセンサ。
(12)
上記フェナンスレンキノン誘導体は、親水性官能基を有する、
上記(10)又は(11)に記載のセンサ。
【0085】
(13)
上記フェナンスレンキノン誘導体は、上記親水性官能基として、スルホン酸基、カルボン酸基、及びリン酸基からなる群より選択される少なくとも1種の官能基を有する
上記(12)に記載のセンサ。
(14)
上記フェナンスレンキノン誘導体として、
9,10‐フェナンスレンキノン‐2‐スルホン酸、
9,10‐フェナンスレンキノン‐1‐スルホン酸、
9,10‐フェナンスレンキノン‐3‐スルホン酸、
9,10‐フェナンスレンキノン‐4‐スルホン酸、
9,10‐フェナンスレンキノン‐2,7‐ジスルホン酸、
9,10‐フェナンスレンキノン‐2‐カルボン酸、及び
9,10‐フェナンスレンキノン‐2‐リン酸
からなる群より選択される少なくとも1種の化合物を備える、
上記(10)〜(13)のいずれかに記載のセンサ。
【0086】
(15)
上記酵素は、酸化還元酵素である、
上記(10)〜(14)のいずれかに記載のセンサ。
(16)
上記酸化還元酵素は、酸化酵素である、
上記(15)に記載のセンサ。
【0087】
(17)
上記酸化還元酵素は、FAD依存性酸化酵素である、
上記(16)に記載のセンサ。
(18)
上記酸化還元酵素は、脱水素酵素である、
上記(15)に記載のセンサ。
【0088】
(19)
前記酸化還元酵素として、NAD依存性脱水素酵素、PQQ依存性脱水素酵素、及びFAD依存性脱水素酵素からなる群より選択される少なくとも1種の酵素を備える、
上記(18)に記載のセンサ。
(20)
上記酸化還元酵素は、FAD依存性グルコース脱水素酵素である、
上記(19)に記載のセンサ。
【0089】
(21)
上記酸化還元酵素は、PQQ依存性又はFAD依存性酵素である、
上記(15)に記載のセンサ。
(22)
上記センサに含まれる上記フェナンスレンキノン及びその誘導体の量が、上記酵素1Uあたり0.05〜2500nmolである
上記(10)〜(21)のいずれかに記載のセンサ。
【0090】
(23)
上記バイオセンサに含まれる上記フェナンスレンキノン及びその誘導体の量が、上記酵素1Uあたり1〜400nmolである
上記(9)〜(21)のいずれかに記載のセンサ。
(24)
液体試料に含まれる標的物質の濃度を測定する方法であって、
(a)上記液体試料と、PQQ依存性又はFAD依存性酵素と、親水性官能基を有するキノン類化合物と、を接触させること、
(b)上記PQQ依存性又はFAD依存性酵素によって、上記液体試料に含まれる上記標的物質を脱水素又は酸化すること、
(c)上記キノン類化合物によって、上記PQQ依存性又はFAD依存性酵素から、電子を受容すること、
(d)上記液体試料に接触する一対の電極に、電圧を印加すること、
(e)上記(c)によって電子を受容した上記キノン類化合物を、上記一対の電極の一方によって酸化すること、
(f)上記一対の電極間に流れる電流を測定すること、
(g)上記電流に基づいて、上記標的物質の濃度を算出すること、
を含む方法。
【0091】
(25)
液体試料に含まれる標的物質の濃度を測定する方法であって、
(a)上記液体試料と、親水性官能基を有するキノン類化合物と、上記標的物質を基質とし、上記キノン類化合物に電子を供与する酸化酵素と、を接触させること、
(b)上記(a)によって生じた電流を検出すること、及び
(c)上記(b)の検出結果に基づいて、上記標的物質の濃度を算出すること、
を含む方法。
【0092】
(26)
液体試料に含まれる標的物質の濃度を測定する方法であって、
(a)上記液体試料と、親水性官能基を有するキノン類化合物と、上記標的物質を基質とし、上記キノン類化合物に電子を供与する脱水素酵素と、を接触させること、
(b)上記(a)によって生じた電流を検出すること、及び
(c)上記(b)の検出結果に基づいて、上記標的物質の濃度を算出すること、
を含む方法。
【0093】
(27)
液体試料に含まれる標的物質の濃度を測定する方法であって、
(a)上記液体試料と、フェナンスレンキノン及び/又はその誘導体と、上記標的物質を基質とし、上記フェナンスレンキノン及び/又はその誘導体に電子を供与する酵素と、を接触させること、
(b)上記(a)によって生じた電流を検出すること、及び
(c)上記(b)によって検出された電流に基づいて、上記標的物質の濃度を算出すること、
を含む方法。
【0094】
(28)
試料に含まれる標的物質を検出又は定量するセンサであって、
PQQ依存性又はFAD依存性脱水素酵素と、
親水性官能基を有するキノン類化合物と、
少なくとも第1および第2の電極と、を備え、
上記キノン類化合物は、上記第1の電極の少なくとも一部および第2の電極の少なくとも一部の両方に接触しており、
上記PQQ依存性又はFAD依存性脱水素酵素は、上記液体試料と接触することで、上記標的物質を脱水素し、
上記キノン類化合物は、上記PQQ依存性又はFAD依存性酵素から電子を受容し、
上記第1及び第2の電極間に電圧が印加された場合、上記一対の電極のうち一方が、上記キノン類化合物から電子を受容する
センサ。
【0095】
(29)
試料に含まれる標的物質を検出又は定量するセンサであって、
酵素と、
キノン類化合物と、
少なくとも一対の電極と、を備え、
銀/塩化銀(飽和塩化カリウム)電極を基準電極として測定された上記キノン類化合物の酸化還元電位が、0Vよりも負であり、
上記酵素は、上記液体試料と接触することで、上記標的物質を脱水素又は酸化し、
上記キノン類化合物は、上記酵素から電子を受容し、
上記一対の電極間に電圧が印加された場合、上記少なくとも一対の電極のうち一方が、上記キノン類化合物から電子を受容する
センサ。
【0096】
(30)
試料に含まれる標的物質を検出又は定量するセンサであって、
酵素と、
親水性官能基を有するキノン類化合物と、
少なくとも一対の電極と、を備え、
銀/塩化銀(飽和塩化カリウム)電極を基準電極として測定された上記キノン類化合物の酸化還元電位が、0Vよりも負であり、
上記酵素は、上記液体試料と接触することで、上記試料に含まれる上記標的物質を脱水素又は酸化し、
上記キノン類化合物は、上記酵素から電子を受容し、
上記一対の電極間に電圧が印加された場合、上記少なくとも一対の電極のうち一方が、上記キノン類化合物から電子を受容する
センサ。
【0097】
(31)
液体試料に含まれる標的物質を検出又は定量するセンサであって、
親水性官能基を有するキノン類化合物と、
補酵素を酵素分子内に含む、又は補酵素と結合している酵素と、
少なくとも一対の電極と、を備え、
上記酵素は、上記液体試料と接触することで、上記標的物質を脱水素又は酸化し、
上記キノン類化合物は、上記酵素から電子を受容し、
上記一対の電極間に電圧が印加された場合、上記少なくとも一対の電極のうち一方が、上記キノン類化合物から電子を受容する
センサ。
【0098】
(32)
上記酵素が、脱水素酵素である、
上記(30)に記載のセンサ。
(33)
水を媒体とする液体試料に含まれる標的物質の濃度を測定する方法であって、
(a)上記液体試料に、キノン類化合物と、上記標的物質を基質とし、上記キノン類化合物に電子を供与する酸化酵素と、を溶解させること、
(b)上記(a)により得られた溶液において生じた電流を検出すること、及び
(c)上記(b)の検出結果に基づいて、上記標的物質の濃度を算出すること、
を含む方法。
【0099】
〔2〕第2実施形態
本実施形態にかかる方法は、液体試料に含まれる標的物質の濃度を測定する方法であって、
(a)上記液体試料と、脱水素又は酸化酵素と、フェナンスレンキノン及び/又はその誘導体と、を接触させること、
(b)上記脱水素又は酸化酵素によって、上記液体試料に含まれる上記標的物質を脱水素又は酸化すること、
(c)上記フェナンスレンキノン及び/又はその誘導体によって、上記脱水素又は酸化酵素から、電子を受容すること、
(d)上記(c)によって電子を受容した上記フェナンスレンキノン及び/又はその誘導体に光を照射すること、
(e)上記電子を受容した上記フェナンスレンキノン及び/又はその誘導体から出射する光量を測定すること、
(f)上記光量に基づいて、上記標的物質の濃度を算出すること、
を含む。
【0100】
なお、水を媒体とする液体試料が対象である場合、上記(a)は、
・上記液体試料に、フェナンスレンキノン及び/又はその誘導体と、上記標的物質を基質とし、フェナンスレンキノン及び/又はその誘導体に電子を供与する酸化酵素と、を溶解させること、
を含んでもよい。
【0101】
「フェナンスレンキノンの誘導体」については、第1実施形態において既に説明されている。
また、PQQ依存性脱水素酵素及びFAD依存性脱水素酵素も、第1実施形態において既に説明されている。
上記(e)の光量の測定は、例えば以下のように実行される。酵素およびフェナンスレンキノン及び/又はその誘導体を含む光透過性のセルに、液体試料を添加する。セルとしては、例えば、ガラスやポリスチレン製の市販の光学測定用セルを用いることができる。市販の分光光度計を用いて、セルに光を照射し、透過する光を検出する。照射する光の波長および検出する光の波長としては、フェナンスレンキノン及び/又はその誘導体の酸化および還元に伴って吸光度の大きな変化を示す波長を、選択することが好ましい。これにより、標的物質の酸化に伴う、フェナンスレンキノン若しくはその誘導体の酸化体の減少又は還元体の増加を、光によって検出することができる。ここでは、フェナンスレンキノン及び/又はその誘導体を用いる例について述べたが、酵素から電子を受容する化合物であって、還元によって光学特性が変化するキノン類化合物が用いられる。
【0102】
また、上記(f)は、例えば、演算装置が、標的物質の濃度が既知である標準溶液を用いて得られる検量線を用いて、標的物質の濃度を算出することによって、実行される。
〔3〕第3実施形態
本実施形態にかかる濃度測定方法は、第1のメディエータ及び第2のメディエータを用いる以外は、第2実施形態の方法と同様の構成を有する。
【0103】
すなわち、本実施形態の濃度測定方法は、液体試料に含まれる標的物質の濃度を測定する方法であって、
(a)上記液体試料と、脱水素又は酸化酵素と、第1のメディエータであるフェナンスレンキノン及び/又はその誘導体とを接触させること、
(b)上記脱水素又は酸化酵素によって、上記液体試料に含まれる上記標的物質を脱水素又は酸化すること、
(c)上記フェナンスレンキノン及び/又はその誘導体によって、上記脱水素又は酸化酵素から、電子を受容すること、
(d)上記(c)によって電子を受容した上記フェナンスレンキノン及び/又はその誘導体から第2のメディエータによって電子を受容すること、
(e)上記(d)によって電子を受容した上記第2のメディエータに光を照射すること、
(f)上記電子を受容した上記第2のメディエータから出射する光量を測定すること、
(g)上記出射する光量に基づいて、上記標的物質の濃度を算出すること、
を含む。
【0104】
なお、第2実施形態と同じく、本実施形態の方法が水を媒体とする液体試料が対象である場合、上記(a)は、
・上記液体試料に、キノン類化合物と、上記標的物質を基質とし、上記キノン類化合物に電子を供与する酸化酵素と、を溶解させること、
を含んでもよい。
【0105】
第2のメディエータとしては、フェナンスレンキノン及び/又はその誘導体から電子を受容し、還元により光学特性が変化する物質を用いることができる。
【実施例】
【0106】
<1.メディエータの溶解度>
以下に、9,10‐フェナンスレンキノン(上記式(d))及び9,10‐フェナンスレンキノン‐2‐スルホン酸ナトリウム塩(下記式(i))をキノン類化合物の一例として、フェリシアン化カリウムと溶解度を比較した結果を述べる。
【0107】
【化3】
【0108】
市販の9,10―フェナンスレンキノンを発煙硫酸にてスルフォニル化後、異性体の分取を行い、さらにNa塩化して、目的化合物である9,10‐フェナンスレンキノン‐2‐スルホン酸ナトリウム塩を得た。反応式は以下の通りである。
【0109】
【化4】
【0110】
フェリシアン化カリウム、9,10‐フェナンスレンキノン、及び9,10‐フェナンスレンキノン‐2‐スルホン酸ナトリウム塩を秤量し、それらに水を添加した。25℃における水への溶解度を、目視確認により評価した。結果は表1の通りである。
【0111】
【表1】
【0112】
表1の通り、9,10‐フェナンスレンキノン‐2‐スルホン酸ナトリウム塩は、水を溶媒とする液体試料を対象とするセンサにおけるメディエータとして好適な溶解度を示した。
<2.酸化還元電位>
フェリシアン化カリウム及び9,10‐フェナンスレンキノン‐2‐スルホン酸ナトリウム塩を、1mMになるように、100mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7)に溶解させることで、フェリシアン化カリウム水溶液及び9,10‐フェナンスレンキノン‐2‐スルホン酸ナトリウム水溶液を調製した。
【0113】
これらの水溶液を用いて、フェリシアン化カリウム及び9,10‐フェナンスレンキノン‐2‐スルホン酸ナトリウム塩について、サイクリックボルタンメトリーによる酸化還元電位の測定を行った。具体的には、用いた電極は以下の通り
‐作用極:グラッシーカーボン電極、
‐対極:白金ワイヤー、
‐参照電極:銀/塩化銀(飽和塩化カリウム)電極(以下Ag|AgClと記載する)
であった。また、測定にはポテンショスタットを用いた。各種電極及びポテンショスタットは、電気化学で一般的に用いられるものを使用した。これらの設備は、例えばビー・エー・エス社などから入手することが可能である。
【0114】
サイクリックボルタンメトリーにおいては、作用極に印加する電位を、時間に対して線形に走査した。掃引速度は0.1V/秒に設定された。まず、第1の電位を作用極に与え、その電位からより負の第2の電位まで、電極電位を負側に掃引した。続いて、第2の電位から第1の電位まで電極電位を正側に折り返す掃引を行った。
第1の電位および第2の電位は、それぞれ、フェリシアン化カリウムの場合、0.7Vおよび−0.3Vであり、9,10‐フェナンスレンキノン‐2‐スルホン酸ナトリウム塩の場合、0.2Vおよび−0.5Vであった。
【0115】
以下に述べる電位は、Ag|AgClに対する電位である。
結果を図4に図示する。フェリシアン化カリウムについて、酸化電流がピークを示すときの電位は280mVであり、還元電流がピークを示すときの電位は170mVであった。これに対し、9,10‐フェナンスレンキノン‐2‐スルホン酸ナトリウム塩について、酸化電流がピークを示すときの電位は−120mVであり、還元電流がピークを示すときの電位は−180mVであった。
【0116】
酸化還元電位を、酸化電流がピークを示すときの電位値(Eox)と還元電流がピークを示すときの電位値(Ered)との平均値[(Ered+Eox)/2]として算出すると、9,10‐フェナンスレンキノン‐2‐スルホン酸ナトリウム塩の酸化還元電位は−150mVであり、フェリシアン化カリウムの酸化還元電位は225mVである。このように、Ag|AgClを基準電極として測定された、9,10‐フェナンスレンキノン‐2‐スルホン酸ナトリウム塩の酸化還元電位は、負であった。
【0117】
9,10‐フェナンスレンキノン‐2‐スルホン酸ナトリウム塩は、グラッシーカーボン電極と可逆的かつ迅速な酸化還元反応性を有すると同時に、フェリシアン化カリウムに比べて400mV程低い酸化還元電位を有していることが示された。電極との可逆的かつ迅速な酸化還元反応性は、短時間で測定を行う必要があるセンサに用いるメディエータとして好ましい特性である。
【0118】
また、より低い酸化還元電位を有する物質がメディエータとして使用されることで、液体試料中の易酸化性の測定妨害物質、例えば血液中のアスコルビン酸やアセトアミノフェンなどの影響を低減させることができ、結果として正確な測定ができるセンサが提供される。
<3.グルコース応答性>
第1実施形態におけるセンサ1において、各部が以下の構成であるセンサを作製した。より詳細には下記に示す通りである。
【0119】
まず、長さが30mm、幅が7mm、厚みが0.2mmのポリエチレンテレフタレートを主成分として含む基板2に、パラジウムをスパッタリングすることにより、厚みが8nmの導電層3を形成した。その後、レーザアブレーションにより、幅が0.1mmの非導電トラックを形成することで、電極31〜33を形成した。電極31は作用電極、電極32は対電極、電極33は検知電極として機能するよう設計された。続いて、酵素及びメディエータを含有する水溶液を、マイクロシリンジを用いて直径2.2mmの円形状に塗布することにより、試薬層4を形成した。試薬層4を形成した後、3.4mmの長さ及び1.2mmの幅を有する切り欠きを備えるスペーサ5(厚さ0.145mm)と、カバー6とを、電極を形成した基板に順に貼付することで、0.6μLの容量を有するキャビティを備えるセンサ1を作製した。
【0120】
[実施例1]
センサ構成
電極:パラジウム
試薬層:
試薬層は、以下の組成の水溶液(試薬溶液)1.2μLを、電極が形成された基板上に滴下して、乾燥させることで形成された。
【0121】
‐酵素:FAD依存性グルコースデヒドロゲナーゼ 3.5MU/L(リットル)
‐メディエータ:9,10‐フェナンスレンキノン‐2‐スルホン酸 ナトリウム塩 0.6wt%(20mM)
[比較例1]
センサ構成
電極:パラジウム
試薬層:
試薬層は、以下の組成の水溶液(1.4μL)を、電極が形成された基板上に滴下して、乾燥させることで形成された。
【0122】
酵素:FAD依存性グルコースデヒドロゲナーゼ 1.4MU/L(リットル)
メディエータ:フェリシアン化カリウム 1.7wt%(52mM)
実施例1及び比較例1のセンサについて、様々なグルコース濃度(既知)の血液を液体試料として、測定システム100によるグルコース濃度測定を行った。
結果は図5の通りである。9,10‐フェナンスレンキノン‐2‐スルホン酸ナトリウム塩を有するセンサは、フェリシアン化カリウムを有するセンサと同等又はそれ以上のグルコース応答性を示した。
【0123】
<4.再現性>
上記<3.>欄のセンサを用いて、グルコース濃度測定結果の再現性を調べた。様々なグルコース濃度(既知)の血液を液体試料として、6〜10個のセンサを用いて同時に測定した場合の平均値及び標準偏差を算出し、標準偏差を平均値で除することで同時再現性を評価した。
【0124】
横軸にグルコース濃度、縦軸に同時再現性(測定値の平均値で標準偏差を除した値)をプロットした結果を図6に示す。9,10‐フェナンスレンキノン‐2‐スルホン酸ナトリウム塩を有するセンサは、フェリシアン化カリウムを有するセンサと同等又はそれ以上の再現性を示した。
<5.妨害物質の影響>
上記<3.>欄のセンサを用いて、妨害物質の影響を調べた。
【0125】
妨害物質が様々な濃度で添加された血液を液体試料(グルコース濃度80mg/dL)として、センサを用いてグルコース濃度を測定した。6〜10回の測定結果の平均値について、真値からの乖離度(%)を求めた。図7は妨害物質としてアルコルビン酸を用いた場合の、図8は妨害物質としてアセトアミノフェンを用いた場合の結果である。
図7及び図8が示すように、9,10‐フェナンスレンキノン‐2‐スルホン酸ナトリウム塩を有するセンサは、フェリシアン化カリウムを有するセンサよりも妨害物質の影響を低減させた。これは、メディエータとして用いた9,10‐フェナンスレンキノン‐2‐スルホン酸ナトリウム塩が、フェリシアン化カリウムより低い酸化還元電位を有することに起因するためと考えられる。
【0126】
また、図9及び図10は、0%〜70%の各ヘマトクリットレベルにおける、グルコース濃度の測定値の、真値からの乖離度を示す、図9において、グルコース濃度は80mg/dLであり、図10において、グルコース濃度は336mg/dLである。
図9及び図10の通り、9,10‐フェナンスレンキノン‐2‐スルホン酸ナトリウム塩を有するセンサは、フェリシアン化カリウムを有するセンサよりもヘマトクリットの影響を低減することができた。
【0127】
<6.他のメディエータ>
図11に示すように、9,10‐フェナンスレンキノンを出発物質として、化合物A、B、H’、I、I’、及びJを合成した。図11中のp‐TsOHは、p‐トルエンスルホン酸を意味する。
化合物A、B、H’、I、I’、及びJ、並びに9,10‐フェナンスレンキノン‐2,7‐ジスルホン酸ジナトリウム塩の水への溶解度を表2に示す。
【0128】
【表2】
【0129】
化合物H’、I、I’、及びJ、並びに9,10‐フェナンスレンキノン‐2,7‐ジスルホン酸ジナトリウム塩は、親水性官能基を有しており、表2に示すように、水に対して高い溶解度を示した。
親水性官能基を有する化合物、すなわち、9,10‐フェナンスレンキノン‐2,7‐ジスルホン酸ジナトリウム塩、化合物H’、I,I’、Jは、特に高い溶解度を示した。
【0130】
また、図4と同様の操作によって、化合物A、B、H’、I、I’、及びJ、並びに9,10‐フェナンスレンキノン‐2,7‐ジスルホン酸ジナトリウム塩のサイクリックボルタンメトリーを行った。サイクリックボルタモグラムを図13図19に示す。比較するために、図4における9,10‐フェナンスレンキノン‐2‐スルホン酸ナトリウム塩のサイクリックボルタモグラムを図12に示す。表3に、各化合物について、還元電流がピークを示したときの電位値(Ered)、酸化電流がピークを示したときの電位値(Eox)、及び酸化還元電位(E0’)を示す。
【0131】
【表3】
【0132】
表3に示すように、Ag|AgClを基準電極として測定された、これらの化合物の酸化還元電位は、負であった。
<7.緩衝液の効果>
試薬層の形成に用いられる試薬溶液の溶媒として、N‐(2‐アセトアミド)‐2‐アミノエタンスルホン酸(ACES)緩衝液(pH7.0)を用いた。その他の条件(例えば試薬溶液中の酵素及びメディエータの種類並びに濃度等)は、実施例1と同様であった。緩衝成分、ACESの濃度が0mMの場合、10mMの場合、20mMの場合、30mMの場合のそれぞれについて、グルコース濃度に対する応答電流値を測定した。結果を図20に示す。
【0133】
図20に示すように、ACESの存在によって、センサのグルコース濃度に対する応答性は向上した。また、ACES濃度が高い方が、良好な応答性が得られた。
発明者らは、ACES緩衝液に代えてリン酸緩衝液を用いても、グルコース濃度に対するセンサの応答性が向上することを確認した。
<8.試薬溶液のpH>
pH6.4、pH7.0、及びpH7.5のリン酸緩衝液をそれぞれ溶媒として用いることで、3種類の試薬液を調製した。これらの試薬液を用いて試薬層を形成することで、3種のセンサを作製した。他の条件は実施例1と同様であった。
【0134】
これらのセンサを用いて、血液中のグルコース濃度を測定した。図21に示すように、血液中に溶存する酸素はグルコース濃度の測定結果に影響を与える。しかし、pH7.5の緩衝液を用いるよりも、pH7.0の緩衝液を用いることで、酸素の影響は低減された。また、pH6.4の緩衝液を用いた場合には、その影響はさらに低減された。
<9.添加剤>
pH6.4のリン酸緩衝液を溶媒として用いて試薬液を調製し、この試薬液を用いて試薬層を形成した。10mMのクエン酸‐3Naを試薬液に添加した場合と、添加しなかった場合とで、グルコース濃度に対するセンサの応答電流を比較した。なお、pH6.4のリン酸緩衝液を溶媒として用いたこと及びクエン酸‐3Naを添加したこと以外の条件は実施例1と同様であった。
【0135】
図22に示すように、クエン酸‐3Naを添加することで、グルコース濃度に対する応答電流の直線性が向上した。
また、クエン酸‐3Naに代えて塩化カルシウム(CaCl2)を用いた場合でも、同様の効果が認められた。
(付記)
以下に関連する発明について記す。
【0136】
第1の発明のセンサは、液体試料に含まれる標的物質を検出又は定量するセンサであって、PQQ依存性又はFAD依存性酵素と、親水性官能基を有するキノン類化合物と、少なくとも一対の電極と、を備える。上記PQQ依存性又はFAD依存性酵素は、上記液体試料と接触することで、上記標的物質を脱水素又は酸化する。上記キノン類化合物は、キノンと置換基とを有し、酵素から電子を受容する。置換基は、ベンゼン環と、ベンゼン環に付加された上記親水性官能基とを有する。上記一対の電極間に電圧が印加された場合、上記一対の電極のうち一方が、上記キノン類化合物から、電子を受容する。
【0137】
第2の発明のセンサは、液体試料に含まれる標的物質を検出又は定量するセンサであって、親水性官能基を有するキノン類化合物と、酸化酵素と、少なくとも一対の電極と、を備える。上記酸化酵素は、上記液体試料と接触することで、上記標的物質を酸化する。上記キノン類化合物は、キノンと置換基とを有し、上記酸化酵素から電子を受容する。置換基は、ベンゼン環と、ベンゼン環に付加された上記親水性官能基とを有する。上記一対の電極間に電圧が印加された場合、上記一対の電極のうち一方が、上記キノン類化合物から電子を受容する。
【0138】
第3の発明のセンサは、液体試料に含まれる標的物質を検出又は定量するセンサであって、親水性官能基を有するキノン類化合物と、脱水素酵素と、少なくとも一対の電極と、を備える。上記脱水素酵素は、上記液体試料と接触することで、上記標的物質を脱水素する。上記キノン類化合物は、キノンと置換基とを有し、上記脱水素酵素から電子を受容する。置換基は、ベンゼン環と、ベンゼン環に付加された上記親水性官能基とを有する。上記一対の電極間に電圧が印加された場合、上記一対の電極のうち一方が、上記キノン類化合物から電子を受容する。
【0139】
第1の発明、第2の発明、及び第3の発明によると、センサは親水性官能基を有するキノン類化合物を備える。親水性官能基を有するキノン類化合物は、親水性官能基を有さないキノン類化合物に比べ、水への溶解性に優れることが期待される。キノン類化合物が水への溶解性に優れることで、キノン類化合物が、液体試料中に溶解した標的物質および酵素分子と衝突する機会が増える。その結果、応答電流の増大及び測定に要する時間の短縮が期待できる。
【0140】
さらに、親水性官能基を有するキノン類化合物は、親水性官能基を有さないキノン類化合物と比べ、揮発性が小さいことが期待される。
さらに、センサが親水性官能基を有するキノン類化合物を備えることで、センサが親水性官能基を有さないキノン類化合物を備える場合と比べ、センサが備えるキノン類化合物を増量することができると期待される。
【0141】
第4の発明のセンサは、液体試料に含まれる標的物質を検出又は定量するセンサであって、メディエータとしてのフェナンスレンキノン誘導体と、酵素と、少なくとも一対の電極と、を備える。上記酵素は、液体試料と接触することで、上記標的物質を脱水素又は酸化する。上記フェナンスレンキノン誘導体は、親水性官能基を有し、上記酵素から電子を受容する。上記一対の電極間に電圧が印加された場合、上記一対の電極のうち一方が、上記フェナンスレンキノン及び/又はその誘導体から電子を受容する。
【0142】
センサが、フェナンスレンキノン誘導体をメディエータとして備えることで、測定結果が液体試料中の易酸化性の測定妨害物質の影響を受けにくい傾向にある。よって、上記第4の発明によると、より信頼性の高い標的物質の検出が可能となることが期待される。
第5の発明の方法は、液体試料に含まれる標的物質の濃度を測定する方法であって、
(a)上記液体試料と、PQQ依存性又はFAD依存性酵素と、親水性官能基を有するキノン類化合物と、を接触させること、
(b)上記PQQ依存性又はFAD依存性酵素により、上記液体試料に含まれる上記標的物質を脱水素又は酸化すること、
(c)上記キノン類化合物によって、上記PQQ依存性又はFAD依存性酵素から、電子を受容すること、
(d)上記液体試料に接触する一対の電極に、電圧を印加すること、
(e)上記(c)によって電子を受容した上記キノン類化合物を、上記一対の電極の一方によって酸化すること、
(f)上記一対の電極間に流れる電流を測定すること、
(g)上記電流に基づいて、上記標的物質の濃度を算出すること、
を含み、上記キノン類化合物は、キノンと置換基とを有し、置換基は、ベンゼン環と、ベンゼン環に付加された上記親水性官能基とを有する。
【0143】
第6の発明の方法は、液体試料に含まれる標的物質の濃度を測定する方法であって、
(a)上記液体試料と、親水性官能基を有するキノン類化合物と、上記標的物質を基質とし、上記キノン類化合物に電子を供与する酸化酵素と、を接触させること、
(b)上記(a)によって生じた電流を検出すること、及び
(c)上記(b)の検出結果に基づいて、上記標的物質の濃度を算出すること、
を含み、上記キノン類化合物は、キノンと置換基とを有し、置換基は、ベンゼン環と、ベンゼン環に付加された上記親水性官能基とを有する。
【0144】
第7の発明の方法は、液体試料に含まれる標的物質の濃度を測定する方法であって、
(a)上記液体試料と、親水性官能基を有するキノン類化合物と、上記標的物質を基質とし、上記キノン類化合物に電子を供与する脱水素酵素と、を接触させること、
(b)上記(a)によって生じた電流を検出すること、及び
(c)上記(b)の検出結果に基づいて、上記標的物質の濃度を算出すること、
を含み、上記キノン類化合物は、キノンと置換基とを有し、置換基は、ベンゼン環と、ベンゼン環に付加された上記親水性官能基とを有する。
【0145】
親水性官能基を有するキノン類化合物は、親水性官能基を有さないキノン類化合物に比べ、水への溶解性に優れることが期待される。よって、親水性官能基を有するキノン類化合物は、液体試料中に溶解した標的物質および酵素分子と衝突する機会が増える。その結果、第5〜第7の発明によると、電流の増大及び測定に要する時間の短縮が期待できる。
第8の発明の方法は、液体試料に含まれる標的物質の濃度を測定する方法であって、
(a)上記液体試料と、親水性官能基を有するフェナンスレンキノン誘導体と、上記標的物質を基質とし、上記フェナンスレンキノン誘導体に電子を供与する酵素と、を接触させること、
(b)上記(a)によって生じた電流を検出すること、及び
(c)上記(b)によって検出された電流に基づいて、上記標的物質の濃度を算出すること、を含む。
【0146】
フェナンスレンキノン誘導体を用いることで、測定結果が、液体試料中の易酸化性の測定妨害物質の影響を受けにくいことが期待される。
さらに、以下の濃度測定方法が提供される。
第9の発明の濃度測定方法は、液体試料に含まれる標的物質の濃度を測定する方法であって、
(a)上記液体試料と、脱水素又は酸化酵素と、親水性官能基を有するフェナンスレンキノン誘導体と、を接触させること、
(b)上記脱水素又は酸化酵素により、上記液体試料に含まれる上記標的物質を脱水素又は酸化すること、
(c)上記フェナンスレンキノン誘導体により、上記脱水素又は酸化酵素から、電子を受容すること、
(d)上記(c)によって電子を受容した上記フェナンスレンキノン誘導体に光を照射すること、
(e)上記電子を受容した上記フェナンスレンキノン誘導体から出射する光量を測定すること、
(f)上記光量に基づいて、上記標的物質の濃度を算出すること、
を含む。
【0147】
第10の発明の濃度測定方法は、液体試料に含まれる標的物質の濃度を測定する方法であって、
(a)上記液体試料と、脱水素又は酸化酵素と、第1のメディエータである親水性官能基を有するフェナンスレンキノン誘導体とを接触させること、
(b)上記脱水素又は酸化酵素により、上記液体試料に含まれる上記標的物質を脱水素又は酸化すること、
(c)上記フェナンスレンキノン誘導体により、上記脱水素又は酸化酵素から、電子を受容すること、
(d)上記(c)によって電子を受容した上記フェナンスレンキノン誘導体から第2のメディエータによって電子を受容すること、
(e)上記(d)によって電子を受容した上記第2のメディエータに光を照射すること、
(f)上記電子を受容した上記第2のメディエータから出射する光量を測定すること、
(g)上記出射する光量に基づいて、上記標的物質の濃度を算出すること、
を含む。
【0148】
第11の発明の濃度測定方法は、水を媒体とする液体試料に含まれる標的物質の濃度を測定する方法であって、
(a)上記液体試料に、親水性官能基を有するキノン類化合物と、上記標的物質を基質とし、上記キノン類化合物に電子を供与する酸化酵素と、を溶解させること、
(b)上記(a)により得られた溶液において生じた電流を検出すること、及び
(c)上記(b)の検出結果に基づいて、上記標的物質の濃度を算出すること、
を含み、上記キノン類化合物は、キノンと置換基とを有し、置換基は、ベンゼン環と、ベンゼン環に付加された上記親水性官能基とを有する。
【0149】
さらに、以下のセンサが提供される。
第12の発明のセンサは、試料に含まれる標的物質を検出又は定量するセンサであって、PQQ依存性又はFAD依存性脱水素酵素と、親水性官能基を有するキノン類化合物と、少なくとも第1および第2の電極と、を備える。上記キノン類化合物は、上記第1の電極の少なくとも一部および第2の電極の少なくとも一部の両方に接触している。上記PQQ依存性又はFAD依存性脱水素酵素は、上記液体試料と接触することで、上記標的物質を脱水素(酸化)する。上記キノン類化合物は、キノンと置換基とを有し、上記酵素から電子を受容する。置換基は、ベンゼン環と、ベンゼン環に付加された上記親水性官能基とを有する。上記第1及び第2の電極間に電圧が印加された場合、上記一対の電極のうち一方が、上記キノン類化合物から電子を受容する。
【0150】
上記第12の発明によると、試料と、酵素と、キノン類化合物と、第1および第2の電極が接触するので、第1および第2の電極間に電圧が印加された場合、第1又は第2の電極の一方が作用電極となり、他方が対極となることが期待できる。
第13の発明のセンサは、試料に含まれる標的物質を検出又は定量するセンサであって、特に、酵素と、親水性官能基を有するキノン類化合物と、少なくとも一対の電極と、を備える。また、銀/塩化銀(飽和塩化カリウム)電極を基準電極として測定された上記キノン類化合物の酸化還元電位が、0Vよりも負である。キノン類化合物は、キノンと置換基とを有し、置換基は、ベンゼン環と、ベンゼン環に付加された上記親水性官能基とを有する。
【0151】
上記第13の発明によると、銀/塩化銀(飽和塩化カリウム)電極を基準電極として測定された上記キノン類化合物の酸化還元電位が、0Vよりも負であるので、検出結果が、液体試料中の易酸化性の妨害物質の影響を受けにくい傾向にある。よって、より信頼性の高い標的物質の検出が可能となることが期待できる。
第14の発明のセンサは、液体試料に含まれる標的物質を検出又は定量するセンサであって、親水性官能基を有するキノン類化合物と、補酵素を酵素分子内に含む、又は補酵素と結合している酵素と、少なくとも一対の電極と、を備える。上記液体試料と接触することで、上記酵素は、上記試料に含まれる上記標的物質を脱水素又は酸化する。上記キノン類化合物は、キノンと置換基とを有し、上記酵素から電子を受容する。置換基は、ベンゼン環と、ベンゼン環に付加された上記親水性官能基とを有する。上記一対の電極間に電圧が印加された場合、上記少なくとも一対の電極のうち一方が、上記キノン類化合物から電子を受容する。
【符号の説明】
【0152】
1 センサ
2 基板
3 導電層
31 作用電極
32 対電極
33 検知電極
4 試薬層
5 スペーサ
51 キャピラリ
52 導入口
6 カバー
61 通気口
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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