(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明に係る電子写真機器用導電性ゴム組成物(以下、本組成物ということがある。)について詳細に説明する。
【0021】
本組成物は、(a)特定の極性ゴムと、(b)特定のイオン導電剤と、(c)架橋剤と、を含有するものからなる。
【0022】
(a)特定の極性ゴムは、不飽和結合を有する極性ゴム、または、エーテル結合を有する極性ゴムである。極性ゴムは、極性基を有するゴムであり、極性基としては、クロロ基、ニトリル基、カルボキシル基、エポキシ基などを挙げることができる。(a)特定の極性ゴムとしては、具体的には、ヒドリンゴム、ニトリルゴム(NBR)、ウレタンゴム(U)、アクリルゴム(アクリル酸エステルと2−クロロエチルビニルエーテルとの共重合体、ACM)、クロロプレンゴム(CR)、エポキシ化天然ゴム(ENR)などを挙げることができる。
【0023】
(a)特定の極性ゴムのうちでは、本組成物の体積抵抗率が特に低くなりやすいなどの観点から、ヒドリンゴム、ニトリルゴム(NBR)が好ましい。
【0024】
ヒドリンゴムとしては、エピクロルヒドリンの単独重合体(CO)、エピクロルヒドリン−エチレンオキサイド二元共重合体(ECO)、エピクロルヒドリン−アリルグリシジルエーテル二元共重合体(GCO)、エピクロルヒドリン−エチレンオキサイド−アリルグリシジルエーテル三元共重合体(GECO)などを挙げることができる。
【0025】
ウレタンゴムとしては、分子内にエーテル結合を有するポリエーテル型のウレタンゴムを挙げることができる。ポリエーテル型のウレタンゴムは、両末端にヒドロキシル基を有するポリエーテルとジイソシアネートとの反応により製造できる。ポリエーテルとしては、特に限定されるものではないが、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどを挙げることができる。ジイソシアネートとしては、特に限定されるものではないが、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネートなどを挙げることができる。
【0026】
(b)特定のイオン導電剤は、下記の式(1)〜式(2)に示す群から選択された1種または2種以上のホスホニウム塩よりなる。
【0027】
【化3】
(式中、nは、8〜16の整数である。)
【化4】
(式中、nは、8〜16の整数である。)
【0028】
式(1)中、あるいは、式(2)中のアルキル基は、直鎖状または分岐鎖状のアルキル基を挙げることができる。なかでも、直鎖状のアルキル基が好ましい。
【0029】
(b)特定のイオン導電剤のカチオンは、燐原子が中心原子のカチオンである。燐原子は、極性基だけでなく不飽和基やエーテル基にも配位できることから、(a)特定の極性ゴムの極性基だけでなく不飽和結合あるいはエーテル結合にも配位して、カチオンがこの極性ゴム中を移動するのを抑える効果を有すると推察される。これにより、通電耐久時にカチオンがこの極性ゴム中を移動して電極近傍で高濃度になるのを抑えて、(b)特定のイオン導電剤がブリードするのを抑える効果に優れるものと推察される。
【0030】
また、(b)特定のイオン導電剤のカチオンは、燐原子に結合している4つのアルキル基がすべて同じではなく、そのうちの1つのアルキル基は他の3つのアルキル基(ブチル基)と異なっており、ホスホニウムカチオンは非対称の構造を有している。そのため、対称構造のホスホニウム塩と比較して、ホスホニウム塩の結晶性が下がっていると推察される。これにより、これらのホスホニウム塩は、上記極性ゴム中でイオンに解離しやすく、本組成物の低電気抵抗化に寄与していると推察される。
【0031】
さらに、(b)特定のイオン導電剤のカチオンは、燐原子に結合している1つのアルキル基の炭素数が8〜16の整数であり、他の3つのアルキル基の炭素数が4になっている。この範囲の炭素数のカチオンとすることにより、本組成物を低抵抗にできる(低体積抵抗率にできる)とともに、帯電ロールに用いた際に、通電耐久後に体積抵抗率が上昇するのを抑えることができる。1つのアルキル基の炭素数が8未満では、帯電ロールに用いた際に、通電耐久後に体積抵抗率が上昇する。一方、1つのアルキル基の炭素数が16を超えると、本組成物の体積抵抗率を低くできなくなるとともに、帯電ロールに用いた際に、通電耐久後に体積抵抗率が上昇する。
【0032】
(b)特定のイオン導電剤のアニオンの(CF
3SO
2)
2N
−(以下、TFSIと略記する。)およびCF
3SO
3−(以下、TFと略記する。)は、構造中にフッ素基を多く含んでいるため、アニオン自体の塩基性が小さく、カチオンと比較的弱いイオン結合を形成する。そのため、これらのホスホニウム塩は、上記極性ゴム中でイオンに解離しやすく、極性ゴムの低電気抵抗化に寄与していると推察される。
【0033】
また、(b)特定のイオン導電剤のアニオンのTFSI、TFは、いずれも疎水性であるため、高湿度環境下においても吸湿性が低い。このため、環境変化による電気抵抗の変動を抑える効果が向上すると推察される。2つのアニオン種のうちでは、TFSIのほうがより疎水性に優れることから、TFSIのほうが環境変化による電気抵抗の変動を抑える効果に優れる。
【0034】
(b)特定のイオン導電剤の配合量は、(a)特定の極性ゴム100質量部に対して、0.1〜10質量部の範囲内である。配合量が0.1質量部未満では、本組成物を低体積抵抗率にする効果に劣る。また、帯電ロールに用いた際に、通電耐久後に体積抵抗率が上昇する。一方、配合量が10質量部を超えると、帯電ロールに用いた際に、通電耐久後にイオン導電剤がブリードする。
【0035】
(b)特定のイオン導電剤の配合量としては、(a)特定の極性ゴム100質量部に対して、より好ましくは0.5〜7質量部の範囲内、さらに好ましくは1〜5質量部の範囲内である。配合量をより好ましい範囲、あるいは、さらに好ましい範囲とすることにより、本組成物を低体積抵抗率にする効果と通電耐久後にイオン導電剤がブリードするのを抑える効果とのバランスに優れる。
【0036】
式(1)のホスホニウム塩は、例えば、対応するホスホニウムカチオンを有するホスホニウム=ハライドを、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド酸またはそのアルカリ金属塩を用いてアニオン交換反応をすることにより、製造できる。ホスホニウム=ハライドは、市販のものを用いても良いし、例えば、トリブチルホスフィンを、炭素数8〜16のアルキルハライドと反応させることにより、製造できる。式(2)のホスホニウム塩も、同様の方法により、製造できる。
【0037】
(c)架橋剤としては、(a)特定の極性ゴムを架橋する架橋剤であれば特に限定されるものではない。(c)架橋剤としては、硫黄架橋剤、過酸化物架橋剤、脱塩素架橋剤を挙げることができる。これらの架橋剤は、単独で用いても良いし、2種以上組み合わせて用いても良い。
【0038】
硫黄架橋剤としては、粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、表面処理硫黄、不溶性硫黄、塩化硫黄、チウラム系加硫促進剤、高分子多硫化物などの従来より公知の硫黄架橋剤を挙げることができる。
【0039】
過酸化物架橋剤としては、パーオキシケタール、ジアルキルパーオキサイド、パーオキシエステル、ケトンパーオキサイド、パーオキシジカーボネート、ジアシルパーオキサイド、ハイドロパーオキサイドなどの従来より公知の過酸化物架橋剤を挙げることができる。
【0040】
脱塩素架橋剤としては、ジチオカーボネート化合物を挙げることができる。より具体的には、キノキサリン−2,3−ジチオカーボネート、6−メチルキノキサリン−2,3−ジチオカーボネート、6−イソプロピルキノキサリン−2,3−ジチオカーボネート、5,8−ジメチルキノキサリン−2,3−ジチオカーボネートなどを挙げることができる。
【0041】
(c)架橋剤の配合量としては、ブリードしにくいなどの観点から、(a)特定の極性ゴム100質量部に対して、好ましくは0.1〜2質量部の範囲内、より好ましくは0.3〜1.8質量部の範囲内、さらに好ましくは0.5〜1.5質量部の範囲内である。
【0042】
(c)架橋剤として脱塩素架橋剤を用いる場合には、脱塩素架橋促進剤を併用しても良い。脱塩素架橋促進剤としては、1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7(以下、DBUと略称する。)もしくはその弱酸塩を挙げることができる。脱塩素架橋促進剤は、DBUの形態として用いても良いが、その取り扱い面から、その弱酸塩の形態として用いることが好ましい。DBUの弱酸塩としては、炭酸塩、ステアリン酸塩、2−エチルヘキシル酸塩、安息香酸塩、サリチル酸塩、3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸塩、フェノール樹脂塩、2−メルカプトベンゾチアゾール塩、2−メルカプトベンズイミダゾール塩などを挙げることができる。
【0043】
脱塩素架橋促進剤の含有量としては、ブリードしにくいなどの観点から、(a)イオン導電性ゴム100質量部に対して、0.1〜2質量部の範囲内であることが好ましい。より好ましくは0.3〜1.8質量部の範囲内、さらに好ましくは0.5〜1.5質量部の範囲内である。
【0044】
本組成物においては、必要に応じて、カーボンブラックなどの電子導電剤、滑剤、老化防止剤、光安定剤、粘度調整剤、加工助剤、難燃剤、可塑剤、発泡剤、充填剤、分散剤、消泡剤、顔料、離型剤などの各種添加剤を1種または2種以上含有していても良い。
【0045】
以上の構成の本組成物は、電子写真機器用帯電ロールに用いられる導電性ゴム組成物に好適である。より具体的には、帯電ロールの基層、抵抗調整層などの誘電層となる層を形成する導電性ゴム組成物に好適である。また、以上の構成の本組成物は、電子写真機器用帯電ロール以外にも、電子写真機器用導電性部材である現像ロール、転写ロール、転写ベルト、トナー供給ロールなどの弾性層を形成する材料としても用いることができる。
【0046】
そして、本組成物は、上述するように、(a)特定の極性ゴムに(b)特定のイオン導電剤を配合するものであるから、本組成物を用いて帯電ロールの基層、抵抗調整層などの誘電層となる層を形成することにより、これらの層の体積抵抗率を低くできるとともに、通電耐久時における体積抵抗率の上昇およびイオン導電剤のブルームを抑えることができる。さらに、環境変化による電気抵抗の変動を抑えることができる。
【0047】
体積抵抗率を低くできることにより、より少量の配合で、目的とする抵抗値に下げることができるため、イオン導電剤のブルームも抑えやすくなる。また、通電耐久時における体積抵抗率の上昇を抑えることにより、帯電ロールを長期に使用できる。さらに、通電耐久時におけるイオン導電剤のブルームを抑えることにより、帯電ロールを長期に使用できるとともに、帯電ロールの基層あるいは抵抗調整層の膜厚を薄くしてロールの小径化を図ることができる。また、通電耐久時におけるイオン導電剤のブルームを抑えることにより、軸体と基層との剥離、あるいは、基層と抵抗調整層との剥離も防ぐことができる。
【0048】
次に、本発明に係る電子写真機器用帯電ロールについて説明する。
【0049】
図1および
図2に、本発明に係る電子写真機器用帯電ロールの一例を示す。
図1および
図2は、本発明に係る電子写真機器用帯電ロールの一例を示す周方向断面図である。
【0050】
図1に示す帯電ロール10は、軸体12の外周に、基層14と、表層16とがこの順に積層された積層構造を有している。
図1に示す帯電ロール10は、基層14の外周に抵抗調整層を有していない構成であり、基層14が誘電層となる層である。したがって、基層14を形成する材料に本組成物を用いる。
【0051】
一方、
図2に示す帯電ロール20は、軸体22の外周に、基層24と、抵抗調整層28と、表層26とがこの順に積層された積層構造を有している。この抵抗調製層28が誘電層となる層である。したがって、抵抗調整層28を形成する材料に本組成物を用いる。
【0052】
なお、帯電ロールの構成としては、
図1および
図2に示す構成に特に限定されるものではない。例えば、基層と表層との間に、抵抗調整層28の他に、さらに1層以上の中間層を有する構成であっても良い。また、表層に代えて、基層あるいは抵抗調整層などの中間層に表面改質を施すことにより、表層を形成することと同等の表面特性を有するようにすることもできる。表面改質方法としては、UVや電子線を照射する方法、基層の不飽和結合やハロゲンと反応可能な表面改質剤、例えば、イソシアネート基、ヒドロシリル基、アミノ基、ハロゲン基、チオール基などの反応活性基を含む化合物と接触させる方法などを挙げることができる。
【0053】
図1に示す帯電ロール10において、基層14は、軸体12をロール成形金型の中空部に同軸的に設置し、本組成物を注入して、加熱・硬化させた後、脱型する方法(注入法)、あるいは、軸体12の表面に本組成物を押出成形する方法(押出法)などにより、形成できる。
【0054】
基層14の厚みは、0.1〜10mmの範囲内であることが好ましい。この範囲内であれば、通電耐久前後の体積抵抗率の変化幅(上昇)を小さくできるとともに、環境変化による電気抵抗の変動を抑える効果にも優れる。基層14の厚みが0.1mm未満では、通電耐久前後の体積抵抗率の変化幅が大きくなる傾向にある。一方、基層14の厚みが10mmを超えると、環境変化による電気抵抗の変動が大きくなる傾向にある。
【0055】
基層14の厚みとしては、より好ましくは0.5〜5mmの範囲内、さらに好ましくは1〜3mmの範囲内である。基層14の厚みをより好ましい範囲、あるいは、さらに好ましい範囲とすることにより、より一層、通電耐久前後の体積抵抗率の変化幅を小さくする効果と、環境変化による電気抵抗の変動を抑える効果のバランスに優れる。
【0056】
基層14の体積抵抗率としては、好ましくは10
2〜10
10Ω・cm、より好ましくは10
3〜10
9Ω・cm、さらに好ましくは10
4〜10
8Ω・cmの範囲内である。基層14を形成する材料に本組成物を用いることにより、基層14の体積抵抗率をこれらの好ましい範囲内に調整することができる。
【0057】
軸体12は、導電性を有するものであれば特に限定されない。具体的には、鉄、ステンレス、アルミニウムなどの金属製の中実体、中空体からなる芯金などを例示することができる。軸体12の表面には、必要に応じて、接着剤、プライマーなどを塗布しても良い。接着剤、プライマーなどには、必要に応じて導電化を行なっても良い。
【0058】
表層16は、ロール表面の保護層などとして機能し得る。表層16を形成する主材料としては、特に限定されるものではなく、ポリアミド(ナイロン)系、アクリル系、ウレタン系、シリコーン系、フッ素系のポリマーを挙げることができる。これらのポリマーは、変性されたものであっても良い。変性基としては、例えば、N−メトキシメチル基、シリコーン基、フッ素基などを挙げることができる。
【0059】
表層16には、導電性付与のため、カーボンブラック、グラファイト、c−TiO
2、c−ZnO、c−SnO
2(c−は、導電性を意味する。)、イオン導電剤(4級アンモニウム塩、ホウ酸塩、界面活性剤など)などの従来より公知の導電剤を適宜添加することができる。また、必要に応じて、各種添加剤を適宜添加しても良い。
【0060】
表層16を形成するには、表層形成用組成物を用いる。表層形成用組成物は、上記主材料、導電剤、必要に応じて含有されるその他の添加剤を含有するものからなる。添加剤としては、滑剤、加硫促進剤、老化防止剤、光安定剤、粘度調整剤、加工助剤、難燃剤、可塑剤、発泡剤、充填剤、分散剤、消泡剤、顔料、離型剤などを挙げることができる。
【0061】
表層形成用組成物は、粘度を調整するなどの観点から、メチルエチルケトン、トルエン、アセトン、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルイソブチルケトン(MIBK)、THF、DMFなどの有機溶剤や、メタノール、エタノールなどの水溶性溶剤などの溶剤を適宜含んでいても良い。
【0062】
表層16は、基層14の外周に表層形成用組成物を塗工するなどの方法により、形成できる。塗工方法としては、ロールコーティング法や、ディッピング法、スプレーコート法などの各種コーティング法を適用することができる。塗工された表層16には、必要に応じて、紫外線照射や熱処理を行なっても良い。
【0063】
表層16の厚みは、特に限定されるものではないが、好ましくは0.01〜100μmの範囲内、より好ましくは0.1〜20μmの範囲内、さらに好ましくは0.3〜10μmの範囲内である。表層16の体積抵抗率は、好ましくは、10
4〜10
9Ω・cm、より好ましくは、10
5〜10
8Ω・cm、さらに好ましくは、10
6〜10
7Ω・cmの範囲内である。
【0064】
図2に示す帯電ロール20において、基層24を形成する主材料としては、例えば、エチレン−プロピレンゴム(EPDM)、ニトリルゴム(NBR)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、シリコーンゴム、ブタジエンゴム(BR)、イソプレンゴム(IR)、アクリルゴム(ACM)、クロロプレンゴム(CR)、ウレタンゴム(U)、フッ素ゴム、ヒドリンゴム(CO、ECO、GCO、GECO)、天然ゴム(NR)、エポキシ化天然ゴム(ENR)などの各種ゴム材料を挙げることができる。これらは単独で用いても良いし、2種以上組み合わせて用いても良い。
【0065】
基層24には、導電性付与のため、カーボンブラック、グラファイト、c−TiO
2、c−ZnO、c−SnO
2(c−は、導電性を意味する。)、イオン導電剤(4級アンモニウム塩、ホウ酸塩、界面活性剤など)などの従来より公知の導電剤を適宜添加することができる。導電剤を配合することで、体積抵抗率が5×10
2〜1×10
5Ω・cmの範囲内の導電性を得ることができる。
【0066】
また、必要に応じて、各種添加剤を適宜添加しても良い。添加剤としては、増量剤、補強剤、加工助剤、硬化剤、架橋剤、架橋促進剤、発泡剤、酸化防止剤、可塑剤、紫外線吸収剤、シリコーンオイル、滑剤、助剤、界面活性剤などを挙げることができる。
【0067】
図2に示す基層24は、
図1に示す基層14と同様の方法により、形成できる。基層24の厚みとしては、好ましくは0.1〜10mmの範囲内、より好ましくは0.5〜5mmの範囲内、さらに好ましくは1〜3mmの範囲内である。
【0068】
抵抗調整層28は、基層24を形成した軸体22をロール成形金型の中空部に同軸的に設置し、本組成物を注入して、加熱・硬化させた後、脱型する方法(注入法)、あるいは、基層24の表面に本組成物を押出成形する方法(押出法)などにより、形成できる。
【0069】
抵抗調整層28の厚みは、0.1〜10mmの範囲内であることが好ましい。この範囲内であれば、通電耐久前後の体積抵抗率の変化幅を小さくできるとともに、環境変化による電気抵抗の変動を抑える効果にも優れる。抵抗調整層28の厚みが0.1mm未満では、通電耐久前後の体積抵抗率の変化幅が大きくなる傾向にある。一方、抵抗調整層28の厚みが10mmを超えると、環境変化による電気抵抗の変動が大きくなる傾向にある。
【0070】
抵抗調整層28の厚みとしては、より好ましくは0.5〜5mmの範囲内、さらに好ましくは1〜3mmの範囲内である。抵抗調整層28の厚みをより好ましい範囲、あるいは、さらに好ましい範囲とすることにより、より一層、通電耐久前後の体積抵抗率の変化幅を小さくする効果と、環境変化による電気抵抗の変動を抑える効果のバランスに優れる。
【0071】
抵抗調整層28の体積抵抗率としては、好ましくは10
2〜10
10Ω・cm、より好ましくは10
3〜10
9Ω・cm、さらに好ましくは10
4〜10
8Ω・cmの範囲内である。抵抗調整層28を形成する材料に本組成物を用いることにより、抵抗調整層28の体積抵抗率をこれらの好ましい範囲内に調整することができる。
【0072】
図2に示す帯電ロール20の軸体22および表層26の構成は、
図1に示す帯電ロール10の軸体12および表層16と同様の構成であれば良い。表層26は、抵抗調整層28の外周に表層形成用組成物を塗工するなどの方法により、形成できる。
【0073】
以上の構成の本発明に係る帯電ロールは、感光ドラムなどに一定の荷重で圧接された状態で使用される、いわゆる接触帯電方式に用いられる帯電ロールに好適である。
【実施例】
【0074】
以下、実施例を用いて本発明を詳細に説明する。なお、実施例は、軸体の外周に基層と表層とがこの順に積層された積層構造を有する帯電ロールを例に挙げるものであるが、本発明はこの構成に限定されるものではない。
【0075】
(実施例1)
<ホスホニウム塩の合成>
塩化メチレン:イオン交換水(1:1)混合液中で、トリn−ブチルドデシルホスホニウムブロミドおよびビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド酸を添加し、室温で4時間攪拌した後、有機層からトリn−ブチルドデシルホスホニウム=ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドを得た。このホスホニウム塩のカチオン種を、「(C
4)
3(C
12)P」と略記する。また、このホスホニウム塩のアニオン種を、「TFSI」と略記する。
【0076】
<導電性ゴム組成物の調製>
ヒドリンゴム(ECO、日本ゼオン社製、「HydrinT3106」)100質量部に対し、上記ホスホニウム塩を3質量部、架橋剤として硫黄(鶴見化学社製、「イオウ−PTC」)を2質量部添加し、これらを攪拌機により撹拌、混合して、実施例1に係る導電性ゴム組成物を調製した。
【0077】
<帯電ロールの作製>
(基層の形成)
成形金型に芯金(直径6mm)をセットし、上記導電性ゴム組成物を注入し、170℃で30分加熱した後、冷却、脱型して、芯金の外周に、厚み1.5mmの基層(誘電層)を形成した。
【0078】
(表層の形成)
N−メトキシメチル化ナイロン(ナガセケムテックス社製、「EF30T」)100質量部と、導電性酸化スズ(三菱マテリアル社製、「S−2000」)60質量部と、クエン酸1質量部と、メタノール300質量部とを混合して、表層形成用組成物を調製した。次いで、基層の表面に表層形成用組成物をロールコートし、120℃で50分加熱して、基層の外周に、厚み10μmの表層を形成した。これにより、実施例1に係る帯電ロールを作製した。
【0079】
(実施例2〜3、比較例10〜11)
実施例1の導電性ゴム組成物の調製において、上記ホスホニウム塩の添加量を表1または4に記載の添加量とした以外は、実施例1と同様にして、導電性ゴム組成物を調製した。また、調製した導電性ゴム組成物を用い、実施例1と同様にして、帯電ロールを作製した。
【0080】
(実施例4〜6)
実施例1と同様にして、導電性ゴム組成物を調製した。調製した導電性ゴム組成物を用い、帯電ロールの基層の形成において、基層の厚みを0.1mm、10mm、あるいは、11mmにした以外は、実施例1と同様にして、帯電ロールを作製した。
【0081】
(実施例7〜11)
実施例1の導電性ゴム組成物の調製において、ヒドリンゴムに代えて表1に記載の各極性ゴムを用いた以外は、実施例1と同様にして、導電性ゴム組成物を調製した。また、調製した導電性ゴム組成物を用い、実施例1と同様にして、帯電ロールを作製した。用いた各極性ゴムの詳細については、以下に示す。
・ニトリルゴム(NBR):日本ゼオン社製「Nipol DN302」
・ウレタンゴム(U):TSEインダストリーズ社製「ミラセンE−34」
・アクリルゴム(ACM):日本ゼオン社製「Nipol AR31」
・クロロプレンゴム(CR):東ソー社製「スカイプレンB−30」
・エポキシ化天然ゴム(ENR):MMG社製「EPOXYPRENE50」
【0082】
(実施例12)
実施例1のホスホニウム塩の合成において、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド酸に代えてトリフルオロメタンスルホン酸リチウムを用いた以外は、実施例1と同様にして、トリn−ブチルドデシルホスホニウム=トリフルオロメタンスルホネートを得た。このホスホニウム塩のカチオン種を、「(C
4)
3(C
12)P」と略記する。また、このホスホニウム塩のアニオン種を、「TF」と略記する。次いで、実施例1の導電性ゴム組成物の調製において、実施例1のホスホニウム塩に代えて合成したホスホニウム塩を用いた以外は、実施例1と同様にして、導電性ゴム組成物を調製した。また、調製した導電性ゴム組成物を用い、実施例1と同様にして、帯電ロールを作製した。
【0083】
(実施例13〜14、比較例12〜13)
実施例2の導電性ゴム組成物の調製において、上記ホスホニウム塩の添加量を表2または4に記載の添加量とした以外は、実施例2と同様にして、導電性ゴム組成物を調製した。また、調製した導電性ゴム組成物を用い、実施例2と同様にして、帯電ロールを作製した。
【0084】
(実施例15〜19)
実施例2の導電性ゴム組成物の調製において、ヒドリンゴムに代えて表2に記載の各極性ゴムを用いた以外は、実施例2と同様にして、導電性ゴム組成物を調製した。また、調製した導電性ゴム組成物を用い、実施例2と同様にして、帯電ロールを作製した。
【0085】
(実施例20〜27、比較例8〜9)
実施例1のホスホニウム塩の合成において、トリn−ブチルドデシルホスホニウムブロミドに代えてトリn−ブチルアルキルホスホニウムブロミド(ただし、アルキル基はC7〜C11、C13〜C17の直鎖アルキル基)を用いた以外は、実施例1と同様にして、トリn−ブチルアルキルホスホニウム=トリフルオロメタンスルホネートを得た。このホスホニウム塩のカチオン種を、「(C
4)
3(C
m)P」と略記する。ただし、mは7〜11、13〜17のうちのいずれかの整数である。次いで、実施例1の導電性ゴム組成物の調製において、実施例1のホスホニウム塩に代えて合成したホスホニウム塩を用いた以外は、実施例1と同様にして、導電性ゴム組成物を調製した。また、調製した導電性ゴム組成物を用い、実施例1と同様にして、帯電ロールを作製した。
【0086】
(比較例1〜7)
実施例1の導電性ゴム組成物の調製において、実施例1のホスホニウム塩に代えて、下記のホスホニウム塩を用いた以外は、実施例1と同様にして、導電性ゴム組成物を調製した。また、調製した導電性ゴム組成物を用い、実施例1と同様にして、帯電ロールを作製した。なお、下記のホスホニウム塩は、市販品を用いたか、あるいは、実施例1のホスホニウム塩の合成方法に準じて合成したものを用いた。
【0087】
(比較例1〜7のホスホニウム塩)
・1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウム=トリフルオロメタンスルホネート
・テトラn−ブチルアンモニウムクロリド((C
4)
4NClと略記する。)
・テトラメチルホスホニウムクロリド((C
1)
4PClと略記する。)
・テトラn−ブチルホスホニウム=ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド((C
4)
4P=TFSIと略記する。)
・テトラn−ブチルホスホニウムクロリド((C
4)
4PClと略記する。)
・トリn−ブチルドデシルホスホニウム=p−トルエンスルホネート((C
4)
3(C
12)P=PTSと略記する。)
・トリn−ブチルドデシルホスホニウムブロミド((C
4)
3(C
12)PBrと略記する。)
【0088】
調製した各導電性ゴム組成物を用いて、180℃で20分間プレス架橋成形を行い、厚さ2mmのシート状サンプルを作製した(ただし、実施例4〜6においては、それぞれ厚みを0.1mm、10mm、11mmとした。)。作製したシート状サンプルを用いて、材料特性評価を行った。測定方法および評価方法を以下に示す。
【0089】
(初期体積抵抗率)
シート状サンプルにおける一方の表面上に銀ペーストを塗布することにより、10×10mmの大きさの電極を設けた(ガード電極付き)。一方、電極を設けた面と反対側の面に対向電極を設け、印加電圧100Vの条件下における両電極間の抵抗を、JIS K 6911に準拠して測定した。この際、体積抵抗率が1×10
7Ω・cm未満の場合を良好とした。
【0090】
(通電耐久前後の体積抵抗率の変化幅)
DC200μAの定電流を連続印加することにより、60分間通電耐久試験を行った。その後、初期体積抵抗率の測定方法に準拠して、通電耐久後の体積抵抗率を測定し、初期体積抵抗率と通電耐久後の体積抵抗率のLOGの差を変化幅(通電耐久変化幅)として算出した。この際、変化幅が0.100桁未満の場合を良好とした。
【0091】
(通電耐久後のブリード)
φ40mmのアルミ製電極をマイナス側にとり、アルミ製金属板をプラス側にとり、これらの間にシート状サンプルを挟み、電極間に1000V、600分の通電を実施した。通電後、シート状サンプルとアルミ製電極との当接面を拡大観察した(ブリード物の有無を調べた)。この際、ブリード物がないものを「○」、ブリード物があるものを「×」とした。
【0092】
(環境変化による体積抵抗率の変化幅)
15℃×10%RH条件下および32.5℃×85%RH条件下のそれぞれで、初期体積抵抗率の測定方法に準拠して、体積抵抗率を測定した。次いで、それぞれの条件下における体積抵抗率のLOGの差を変化幅(環境変化幅)として算出した。この際、変化幅が0.50桁未満の場合を良好とした。
【0093】
また、作製した各帯電ロールを用い、製品特性評価を行った。測定方法および評価方法を以下に示す。
【0094】
(電気抵抗)
図3に示すように、作製した帯電ロール1の両端を所定の荷重にて金属ロール2(直径:30mm)に押圧した状態で、かかる金属ロール2を所定の回転数にて図中の矢印方向に回転させることにより、帯電ロール1を連れ回りさせた。かかる状態を保ちながら(金属ロール2及び帯電ロール1を共に回転させながら)、帯電ロール1と金属ロール2の端部間に300Vの電圧を印加して、流れる電流値を測定し、電気抵抗値(ロール抵抗:Ω)を求めた。
【0095】
(通電耐久前後の体積抵抗率の変化幅)
上記電気抵抗値の測定方法に準拠して、15℃×10%RH環境下で、通電耐久試験前に予め帯電ロールの電気抵抗値を測定した。その後、同環境下で、各帯電ロールをそれぞれ30mmφの鏡面金属ロール(金属ドラム)に対して軸平行の状態で接触させ、帯電ロールの両端に軸体部分に片端当たり500gfの荷重をかけて、金属ドラムに対して押し付けた状態において、その金属ドラムを30rpmで回転させながら(帯電ロールは金属ドラムに連れ周りする)、DC200μAの定電流を連続印加することにより、3時間通電耐久試験を行った。次いで、上記電気抵抗値の測定方法に準拠して、15℃×10%RH環境下で、耐久試験後の帯電ロールの電気抵抗値を測定し、通電耐久前後の帯電ロールの電気抵抗値から、抵抗変化桁数を求めた。この際、変化幅が0.100桁未満の場合を良好とした。
【0096】
(通電耐久後のブリード)
上記通電耐久後の帯電ロール表面を目視にて確認した(ブリード物の有無を調べた)。この際、ブリード物がないものを「○」、ブリード物があるものを「×」とした。
【0097】
【表1】
【0098】
【表2】
【0099】
【表3】
【0100】
【表4】
【0101】
比較例1〜2では、イオン導電剤としてイミダゾリウム系イオン導電剤、あるいはアンモニウム系イオン導電剤を用いており、通電耐久後にイオン導電剤がブリードする問題がある。また、比較例2では、イオン導電剤のアニオン種がクロリドイオンであり、さらに、低電気抵抗化の面で満足されないとともに、通電耐久前後の電気抵抗の変化が大きいという問題がある。また、環境変化による電気抵抗の変動も比較的大きい。
【0102】
比較例3〜5では、イオン導電剤のカチオンの燐原子に結合しているアルキル基が全て同じであり、低電気抵抗化の面で満足されない。また、通電耐久前後の電気抵抗の変化が大きいという問題がある。また、比較例3、5では、イオン導電剤のアニオン種がクロリドイオンであり、さらに、環境変化による電気抵抗の変動が大きいという問題がある。
【0103】
比較例6〜7では、イオン導電剤のアニオン種がp−トルエンスルホネートイオンあるいはブロミドイオンであり、低電気抵抗化の面で満足されない。また、比較例7では、イオン導電剤のアニオン種がブロミドイオンであり、さらに、環境変化による電気抵抗の変動が大きいという問題がある。
【0104】
比較例8では、イオン導電剤のカチオン種の炭素数が少なく、通電耐久前後の電気抵抗の変化が大きいという問題がある。比較例9では、イオン導電剤のカチオン種の炭素数が多く、低電気抵抗化の面で満足されない。
【0105】
比較例10、12では、イオン導電剤の添加量が少なく、低電気抵抗化の面で満足されない。比較例11、13では、イオン導電剤の添加量が多く、通電耐久後にイオン導電剤がブリードする問題がある。
【0106】
これに対し、実施例によれば、低体積抵抗率であるとともに、通電耐久後にも体積抵抗率の上昇およびイオン導電剤のブリードを抑えることができることが確認できた。実施例のように、従来、通電耐久前後の体積抵抗率の変化幅が0.2であったものを0.1にすることにより、帯電ロールの使用期間が2倍程度に延びるため、実施例によれば、帯電ロールを従来よりも長期に使用できるようになることが分かる。また、従来よりもイオン導電剤のブリードを抑えることができるため、実施例によれば、帯電ロールを従来よりも長期に使用できるとともに、帯電ロールの基層(誘電層)の膜厚を薄くしてロールの小径化を図ることができるようになることが分かる。
【0107】
実施例同士の比較では、実施例3、14では、特定のイオン導電剤の添加量が10phrとやや多いため、他の実施例と比べてイオン導電剤のブリード抑制効果がやや低下する傾向がある。
【0108】
また、実施例4〜6は、互いにシート状サンプルの厚さが異なるとともに、互いに帯電ロールの基層の厚さが異なるものである。実施例4〜6によれば、これらの厚さが厚くなるにつれて通電耐久前後の電気抵抗の変化幅は小さくなる傾向にあるが、環境変化による電気抵抗の変化幅は大きくなる傾向にあることが確認できた。
【0109】
また、実施例1〜3、7〜11と、実施例12〜19とを比較すると、2つのアニオン種のうちでは、TFSIのほうが環境変化による電気抵抗の変動を抑える効果に優れることが確認できた。
【0110】
以上、本発明の実施形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。