(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
フッ化ビニリデン系樹脂を有機溶媒に溶解して得られるポリマー溶液を、濾過粒子サイズ20μmにおける初期濾過効率が99.9%以上のポリオレフィン系樹脂製の濾過膜(a)を用いて濾過する工程(A)を有し、
前記有機溶媒が、N−メチル−2−ピロリドンであることを特徴とする非水系電池の電極形成用バインダー溶液の製造方法。
前記濾過膜(a)が二層以上の層構造を有しており、前記濾過膜(a)の二次側の目開きが一次側よりも小さいことを特徴とする請求項1に記載の非水系電池の電極形成用バインダー溶液の製造方法。
前記工程(A)以降、前記ポリマー溶液が金属と接触することなく、容器に充填される請求項1〜4のいずれか一項に記載の非水系電池の電極形成用バインダー溶液の製造方法。
前記フッ化ビニリデン系樹脂が、フッ化ビニリデンの単独重合体、フッ化ビニリデンと他のモノマーとの共重合体、フッ化ビニリデンの単独重合体の変性物、およびフッ化ビニリデンと他のモノマーとの共重合体の変性物から選択される少なくとも1種の樹脂である請求項1〜5のいずれか一項に記載の非水系電池の電極形成用バインダー溶液の製造方法。
前記工程(A)が、ポリマー溶液を窒素ガスにより加圧することにより、ポリマー溶液を濾過膜(a)の一次側から二次側に向けて通液することにより濾過する工程であり、
前記工程(A)における二次側と一次側との差圧を、0.01〜0.1MPaに保つ請求項1〜6のいずれか一項に記載の非水系電池の電極形成用バインダー溶液の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0028】
次に本発明について具体的に説明する。
【0029】
<非水系電池の電極形成用バインダー溶液の製造方法>
本発明の非水系電池の電極形成用バインダー溶液の製造方法は、フッ化ビニリデン系樹脂を有機溶媒に溶解して得られるポリマー溶液を、濾過粒子サイズ20μmにおける初期濾過効率が99.9%以上のポリオレフィン系樹脂製の濾過膜(a)を用いて濾過する工程(A)を有する。
【0030】
本発明の非水系電池の電極形成用バインダー溶液の製造方法では、フッ化ビニリデン系樹脂を有機溶媒に溶解して得られるポリマー溶液を用いる。
【0031】
ポリマー溶液に溶解されるフッ化ビニリデン系樹脂としては、フッ化ビニリデン由来の構成単位を有する樹脂であればよく、特に限定はないが、フッ化ビニリデンの単独重合体、フッ化ビニリデンと他のモノマーとの共重合体、フッ化ビニリデンの単独重合体の変性物、フッ化ビニリデンと他のモノマーとの共重合体の変性物が挙げられる。これらの樹脂は通常は一種単独で用いられるが、二種以上を用いてもよい。
【0032】
前記他のモノマーとしては、カルボキシル基含有モノマー、カルボン酸無水物基含有モノマー、フッ化ビニリデンを除くフッ素含有モノマー、α‐オレフィン等が挙げられる。他のモノマーとしては、一種単独で用いても、二種以上で用いてもよい。
【0033】
前記カルボキシル基含有モノマーとしては、不飽和一塩基酸、不飽和二塩基酸、不飽和二塩基酸のモノエステル等が好ましく、不飽和二塩基酸、不飽和二塩基酸のモノエステルがより好ましい。
【0034】
前記不飽和一塩基酸としては、アクリル酸等が挙げられる。前記不飽和二塩基酸としては、マレイン酸、シトラコン酸等が挙げられる。また、前記不飽和二塩基酸のモノエステルとしては、炭素数5〜8のものが好ましく、例えばマレイン酸モノメチルエステル、マレイン酸モノエチルエステル、シトラコン酸モノメチルエステル、シトラコン酸モノエチルエステル等を挙げることができる。
【0035】
中でも、カルボキシル基含有モノマーとしては、マレイン酸、シトラコン酸、マレイン酸モノメチルエステル、シトラコン酸モノメチルエステルが好ましい。
【0036】
前記カルボン酸無水物基含有モノマーとしては、不飽和二塩基酸の酸無水物が挙げられ、不飽和二塩基酸の酸無水物としては、無水マレイン酸、無水シトラコン酸等が挙げられる。
【0037】
フッ化ビニリデンを除くフッ素含有モノマーとしては、フッ化ビニル、トリフルオロエチレン、トリフルオロクロロエチレン、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン等が挙げられる。
【0038】
α‐オレフィンとしては、エチレン、プロピレン、1‐ブテン等が挙げられる。
【0039】
フッ化ビニリデンと他のモノマーの共重合体としては好ましくは、フッ化ビニリデンとマレイン酸モノメチルエステルとの共重合体、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとマレイン酸モノメチルエステルとの共重合体等が挙げられる。
【0040】
フッ化ビニリデンと他のモノマーの共重合体は、フッ化ビニリデンと前記他のモノマーとを共重合することにより得られる。
【0041】
フッ化ビニリデンを単独重合する方法、フッ化ビニリデンと他のモノマーとを共重合する方法としては、特に限定はなく、例えば懸濁重合、乳化重合、溶液重合等の重合法により得ることができる。
【0042】
また、フッ化ビニリデンの単独重合体の変性物、フッ化ビニリデンと他のモノマーとの共重合体の変性物としては、前記フッ化ビニリデンの単独重合体またはフッ化ビニリデンと他のモノマーとの共重合体を、変性することにより得ることができる。該変性としては、マレイン酸、無水マレイン酸等のカルボキシル基またはカルボン酸無水物基を有するモノマーを用いることが好ましい。
【0043】
本発明に用いるフッ化ビニリデン系樹脂としては、フッ化ビニリデンに由来する構成単位を50モル%以上有する(但し、全構成単位を100モル%とする)ことが好ましい。
【0044】
なお、フッ化ビニリデン系樹脂としては、市販品を用いてもよい。
【0045】
前記フッ化ビニリデン系樹脂を溶解する有機溶媒としては、フッ化ビニリデン系樹脂の溶解性に優れる有機溶媒が好ましく、フッ化ビニリデン系樹脂の溶解性に優れる有機溶媒としては、非プロトン性極性溶媒が挙げられる。有機溶媒としては、具体的にはN−メチル−2−ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等が好ましい。有機溶媒としては、フッ化ビニリデン系樹脂の溶解能に優れ、汎用品で比較的毒性が低く、沸点および蒸気圧がハンドリングに適しているN−メチル−2−ピロリドンが特に好ましい。
【0046】
本発明に用いるポリマー溶液は、前述のフッ化ビニリデン系樹脂を前述の有機溶媒に溶解して得られるが、該ポリマー溶液中のフッ化ビニリデン系樹脂の濃度は、0.5〜30wt%であることが好ましく、3〜14wt%であることがより好ましい。
【0047】
本発明に用いるポリマー溶液は、溶液温度が10〜70℃であることが好ましく、30〜60℃であることがより好ましい。また、ポリマー溶液の溶液粘度は、250〜3500mPa・sであることが好ましく、500〜2500mPa・sであることがより好ましい。
【0048】
前記溶液温度が低すぎると、溶液粘度が上昇し、工程(A)、好ましくは行われる工程(X)および(Y)における処理量が低下し、非水系電池の電極形成用バインダー溶液の生産性が悪化する。また、溶液温度が高すぎると、非水系電池の電極形成用バインダー溶液が充填、密閉された容器が変形することがある。これは、温度が高いまま容器中に非水系電池の電極形成用バインダー溶液が充填、密閉されると、溶液温度の低下に従い、容器上部の空間部分が減圧されるためである。
【0049】
本発明に用いるポリマー溶液は、通常固体状の異物を含んでいる。該異物は、フッ化ビニリデン系樹脂の製造、有機溶媒の合成、ポリマー溶液の調製等の様々な段階で混入する可能性がある。本発明の非水系電池の電極形成用バインダー溶液の製造方法では、該異物を好適に除去することが可能であり、得られる非水系電池の電極形成用バインダー溶液を用いて形成された電極を含むリチウムイオン二次電池等の非水系電池は、内部短絡(ショート)の発生を抑制することができる。
【0050】
本発明の非水系電池の電極形成用バインダー溶液の製造方法は、前記工程(A)の前工程として、プレフィルターにより前記ポリマー溶液を、前濾過する工程(X)および、磁気フィルターにより、前記ポリマー溶液中の磁性体の少なくとも一部を除去する工程(Y)から選択される少なくとも1種の工程を有することが好ましく、工程(X)および工程(Y)を有することが特に好ましい。なお、最も好ましくは、工程(X)の後に工程(Y)が行われ、工程(Y)の後に工程(A)が行われる態様である。
【0051】
工程(X)とは、プレフィルターにより前記ポリマー溶液を前濾過する工程である。なお、前濾過とは、工程(A)の前工程として行われる濾過を意味する。工程(X)で用いられるプレフィルターとしては通常、工程(A)で用いる濾過膜(a)よりも除去可能な粒子径の大きいフィルターが用いられる。プレフィルターとしては、数十μm以上の大きさの固形物を補足可能なものを用いることが好ましい。なお、該固形物としては、ポリマー溶液中の異物だけでなく、未溶解のフッ化ビニリデン系樹脂が補足されてもよい。未溶解のフッ化ビニリデン系樹脂が補足された場合には、プレフィルター上で、該樹脂の少なくとも一部が溶解し、プレフィルターを通過する場合もある。
【0052】
プレフィルターとしては特に限定はないが、例えばステンレス製の200〜400メッシュのフィルターを用いることができる。プレフィルターとしては、バスケット型ストレーナ、Y型ストレーナ等を用いることができる。なお、メッシュとは1インチ(25.4mm)当たりの目の数を意味する。
【0053】
工程(Y)とは、磁気フィルターにより、前記ポリマー溶液中の磁性体の少なくとも一部を除去する工程である。工程(Y)で用いられる磁気フィルターとは、永久磁石、電磁石等の磁石の磁力により、金属等の磁性体を除去するための装置である。磁気フィルターは異物のサイズに拘わらず磁性体を除去することが可能である。工程(Y)を行うことにより、ポリマー溶液中の異物のうち、金属等の磁性体を除去することができる。なお、後述の工程(A)においても磁性体の除去は可能であるが、工程(Y)を行うことにより、工程(A)に用いる濾過膜(a)の目詰まりが起こるのを遅くすることが可能である。また、工程(A)における圧力損失を低く保つことが可能である。
【0054】
磁気フィルターとしては、磁力式除鉄器等を用いることができる。磁気フィルターの磁束密度としては、1000〜15000ガウスであることが好ましく、6000〜13000ガウスであることがより好ましい。
【0055】
なお、プラントで非水系電池の電極形成用バインダー溶液を連続的に製造する際には、前記プレフィルターおよび磁気フィルターは、定期検査や掃除を行う際に脱着する必要がある。該脱着の際に起こる部材同士の擦れにより、金属の異物が発生する場合があるが、後述する工程(A)を有するため、該金属の異物が非水系電池の電極形成用バインダー溶液に混入することを防止することができる。
【0056】
本発明の非水系電池の電極形成用バインダー溶液の製造方法が有する工程(A)は、前述の通り、前記ポリマー溶液を、濾過粒子サイズ20μmにおける初期濾過効率が99.9%以上のポリオレフィン系樹脂製の濾過膜(a)を用いて濾過する工程である。
【0057】
工程(A)では、濾過粒子サイズ20μmにおける初期濾過効率が99.9%以上のポリオレフィン系樹脂製の濾過膜(a)を用いるが、濾過粒子サイズ20μmにおける初期濾過効率が99.9%以上とは、最大寸法20μmの異物、すなわち20μm以上の粒子サイズを有する異物であれば、通液直後の最も濾過効率が低い初期状態において、99.9%以上濾過が可能、すなわち捕集することが可能であることを意味する。
【0058】
なお、濾過膜の濾過効率の算出は以下の方法で行われる。精製水に標準粉体ACFTD(Air Cleaner Fine Test Dust;米国アリゾナ砂漠の天然ダストを分級調整した多分散の粉体)を、濃度0.3ppmとなるように添加し、濾過用の原液(以下、ACFTD液と記す)を調製する。前記ACFTD液を流量10L/minで濾過膜に1回通して、濾過試験を実施する。ACFTD液および濾過試験により得られた濾液中に存在する単位体積当たりの粒子数を、レーザー光散乱法粒度分布測定装置(Hiac Royco製、8000A/8000S)で測定する。粒子サイズが20μm以上の粒子について、濾過により捕集することができなかった粒子の割合(非捕捉率)を以下の式(1)により求め、該非捕捉率から以下の式(2)により、濾過粒子サイズ20μmにおける初期濾過効率を算出することができる。
【0059】
非捕捉率[%]=濾液中の粒径サイズが20μm以上の粒子数/ACFTD液中の粒径サイズが20μm以上の粒子数×100% ・・・(1)
初期濾過効率[%]=100−非捕捉率[%] ・・・(2)
なお、本発明において、粒子サイズとは、前記光散乱法により測定される粒子径を意味する。
【0060】
また、ポリオレフィン系樹脂としては特に限定はなく、濾過膜(a)としては、ポリエチレン製の濾過膜や、ポリプロピレン製の濾過膜を適宜用いることができる。ポリオレフィン系樹脂は、前記ポリマー溶液によって、溶解することや、膨張することがないため、好適にポリマー溶液を濾過することができる。なお、ポリオレフィン系樹脂製の濾過膜(a)ではなく、例えばナイロン製の濾過膜を用いた場合には、ナイロンが前記ポリマー溶液により膨張するため、濾過膜が目詰まりを起こし、濾過することができない場合がある。
【0061】
本発明の製造方法では、工程(A)により、内部短絡(ショート)の原因となる異物を含まない非水系電池の電極形成用バインダー溶液を得ることが可能である。
【0062】
工程(A)に用いる濾過膜(a)としては、二層以上の層構造を有することが好ましい。また濾過膜(a)は二次側の目開きが一次側よりも小さいことが好ましい。
【0063】
なお、目開きとは、濾過膜の目(穴)の寸法を意味する。
【0064】
なお、濾過膜(a)の一次側とは工程(A)の上流側、すなわち濾過前のポリマー溶液と接触する面を意味し、二次側とは工程(A)の下流側、すなわち濾過後のポリマー溶液が流出する面を意味する。
【0065】
濾過膜(a)として、二層以上の層構造を有する濾過膜を用い、該膜の二次側の目開きが一次側よりも小さいと、異物の補足が、粒径の大きいものから段階的に可能であり、濾過膜(a)の目詰まりが起こるのを遅くすることが可能である。また、工程(A)における圧力損失を低く保つことが可能である。
【0066】
なお、濾過膜(a)としては、該濾過膜(a)を含むフィルターエレメントとして工程(A)に用いられることが好ましい。
【0067】
具体的には、前記濾過膜(a)が、外周面にヒダ折り加工による縦溝が全周に渡って形成された円筒状の濾過膜であり、前記円筒状の濾過膜の上下に熱可塑性樹脂プレートが接合されてなるフィルターエレメントとして工程(A)に用いられることが好ましい。
【0068】
フィルターエレメントを構成する濾過膜(a)の外周面にヒダ折り加工による縦溝が形成されていると、単位容積当たりの濾過膜(a)の面積を大きくすることが可能である。
【0069】
該フィルターエレメントの構造としては例えば特開平5−329338号公報に記載された構造が挙げられる。
【0070】
工程(A)は例えば、ポリマー溶液をポリマー溶液自体の重量により、濾過膜(a)を通液させることにより濾過する工程であってもよく、ポリマー溶液をポンプ等の駆動機器を用いて、濾過膜(a)を通液させることにより濾過する工程であってもよいが、非水系電池の電極形成用バインダー溶液の生産性の観点および、駆動機器を用いることによる異物の混入を防止する観点から、通常は、工程(A)が、ポリマー溶液を窒素ガスにより加圧することにより、ポリマー溶液を濾過膜(a)の一次側から二次側に向けて通液することにより濾過する工程であることが好ましい。また、この場合の前記工程(A)における二次側と一次側との差圧を、0.01〜0.1MPaに保つことが好ましい。差圧が前記範囲内であると、濾過膜(a)等の工程(A)に用いられる部材に、過度の負担がかかることがないため、好適に非水系電池の電極形成用バインダー溶液を製造することができる。
【0071】
本発明に用いることが可能なフィルターエレメント5の説明図を
図1に示す。
図1(a)では、外周面にヒダ折り加工による縦溝が全周に渡って形成された円筒状の濾過膜1の上下に熱可塑性樹脂プレート3が接合されており、該熱可塑性樹脂プレート3の片方に濾過後のポリマー溶液を排出するための穴(開口部)3'が設けられている。なお、
図1(b)では、熱可塑性樹脂プレート3が接合される前の各部材の位置関係を示す。
【0072】
また、本発明に用いるフィルターエレメントとしては、濾過膜の内側(内周面側)に、強度を上げるためのサポート材が配置されていてもよく、濾過膜の外側(外周面側)に、強度を上げるためのカバーが配置されていてもよい。
【0073】
なお、工程(A)の実施態様としては、前記ポリマー溶液を、前記濾過膜(a)を用いて濾過すればよく、特に限定されないが、例えば後述の樹脂フィルター(濾過装置)に、前記ポリマー溶液を通液することにより行うことができる。なお、樹脂フィルターとは、前述のフィルターエレメントが、ハウジング(筐体)に設置された構造を有しており、樹脂フィルターの入口から供給されたポリマー溶液が、フィルターエレメントを構成する濾過膜(a)により濾過され、樹脂フィルターの出口から、濾過後のポリマー溶液が排出される構造を有している。
【0074】
本発明において、前記工程(A)の実施態様としては、前記ポリマー溶液を、前記濾過膜(a)を用いて濾過すればよく、特に限定されないが、樹脂フィルターを用いることにより工程(A)が行われることが好ましい。具体例としては、
図2に示すような樹脂フィルター(濾過装置)13に、前記ポリマー溶液を通液することにより、工程(A)を行うことができる。樹脂フィルター13は、前記濾過膜1を含むフィルターエレメント5が、ハウジング(筐体)7に設置された構造を有している。なお、樹脂フィルター13の構造は通常、濾過後のポリマー溶液、すなわち濾過膜1を通液した後のポリマー溶液が、金属と接触しない構造であり、ハウジング(筐体)7がポリオレフィン系樹脂から形成されているか、ハウジング(筐体)が金属材料から形成されている場合には、ハウジングの内側に、ポリオレフィン系樹脂から形成されるカートリッジが設置されており、該カートリッジにより、ポリマー溶液が、ハウジング(筐体)と接触しない構造であることが好ましい。なお、
図2では、ハウジング(筐体)中に設置されるカートリッジ9にフィルターエレメント5が接合され、濾過後のポリマー溶液が排出される配管等には樹脂によるライニング11が施されている。
【0075】
図2に記載の樹脂フィルター13においては、入口15からポリマー溶液が供給され、供給されたポリマー溶液が、濾過膜1によって濾過され、濾過後のポリマー溶液が出口17から排出される。
図2に記載の樹脂フィルター13においては、ポリマー溶液が排出される配管等には、樹脂によるライニング11が施されている。なお、
図2においては、フィルターエレメント5は3個記載されているが、供給するポリマー溶液の量、フィルターエレメントのサイズ等によって適宜調整することができる。
【0076】
本発明の製造方法では、工程(A)および、好ましくは行われる工程(X)および(Y)によって、ポリマー溶液中の異物が取り除かれる。特に、工程(A)および工程(Y)によって、金属等の磁性体を好適に取り除くことが可能である。しかしながら、工程(A)以降で、ポリマー溶液が金属と接触すると、該接触した金属が、ポリマー溶液中に異物として混入する場合があるため好ましくない。このため本発明の非水系電池の電極形成用バインダー溶液の製造方法では、前記工程(A)以降、前記ポリマー溶液が金属と接触することなく、容器に充填されることが好ましい。
【0077】
具体的には、濾過膜(a)以降、ポリマー溶液と接触する部材、例えばハウジング、配管、ノズル、バルブ等として、樹脂で構成された部材あるいは樹脂でライニングされた部材を用いることにより、工程(A)以降、前記ポリマー溶液が金属と接触することなく、容器に充填することが可能である。なお、前記樹脂としては、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂が好ましい。
【0078】
また、同様の理由により、ポリマー溶液が充填される容器も、樹脂製の容器あるいは樹脂でライニングされた容器を用いることが好ましく、高密度ポリエチレン製の容器であることがより好ましい。
【0079】
本発明の製造方法では、前記工程(A)の後に、前記ポリマー溶液を容器に充填し、ポリマー溶液が充填された容器の空間部分に窒素ガスを封入した後に、容器を密閉することが好ましい。ポリマー溶液を容器に充填した後に、ポリマー溶液が充填された容器の空間部分に窒素ガスを封入することにより、空間部分に存在する空気を、窒素ガスで置換することができ、空気中の酸素および水が、密閉後の容器に残存することを防ぐことができ、電極形成用バインダー溶液の吸湿や、酸素による酸化を防止することができる。また、バインダー溶液中に酸素および水が溶解することに起因する容器の変形を防止することもできる。
【0080】
このように密閉することにより、容器に密閉された非水系電池の電極形成用バインダー溶液を得ることができる。
【0081】
本発明の製造方法では、前記有機溶媒と接触する全ての部材が、該有機溶剤に対して、溶解、膨張しないことが望まれる。このため、樹脂で構成された部材および樹脂でライニングされた部材における、樹脂としてはポリオレフィン系樹脂であることが好ましい。
【0082】
本発明の製造方法では、前記工程(A)、(X)、および(Y)以外の工程を有していてもよい。他の工程としては例えば、加熱工程や冷却工程が挙げられる。
【0083】
また、前記工程(A)、(X)、および(Y)はそれぞれ、必要に応じて複数回行われてもよい。
【0084】
<非水系電池の電極形成用バインダー溶液>
本発明の非水系電池の電極形成用バインダー溶液は前述の非水系電池の電極形成用バインダー溶液の製造方法により得られる。本発明の非水系電池の電極形成用バインダー溶液を用いて形成された電極を含むリチウムイオン二次電池等の非水系電池は、内部短絡(ショート)の発生を抑制することができるため有用である。
【0085】
本発明の非水系電池の電極形成用バインダー溶液は、電極形成用バインダー溶液400mlあたり、最大寸法が20μm以上の異物量が1個以下であることが好ましく、0個であることがより好ましい。
【実施例】
【0086】
次に本発明について実施例を示してさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0087】
〔実施例1〕
攪拌機を装備した容積150Lの溶解槽を窒素で完全に置換し、槽内を窒素雰囲気にした。
【0088】
その後、溶解槽内に25℃のN−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPとも記す)を130kg投入し攪拌機を起動後、ポリフッ化ビニリデン(フッ化ビニリデンの単独重合体:以下、PVDFとも記す)のパウダーを11.5kg投入した。その後、再度溶解槽を窒素置換し、槽内を窒素雰囲気にした。
【0089】
溶解槽のジャケットに温水を循環させ溶解槽内の温度を50℃で7時間保った後、39℃まで冷却し、PVDFを8.1質量%含む、溶液粘度1770mPa・sのPVDF溶液を得た。
【0090】
攪拌機を停止後、PVDF溶液の液面を0.3MPaの窒素ガスで加圧して、溶解槽下部の抜き出しラインよりPVDF溶液を抜き出し、高密度ポリエチレン製の容器に充填し、ポリエチレン容器の空間部分に窒素ガスを吹き込んだ後密閉し、電極形成用バインダー溶液(1)を得た。
【0091】
なお、前記溶解槽から容器までのラインには、プレフィルターとしてY型ストレーナ(400メッシュ)、磁気フィルターとして磁力式除鉄器(12000ガウス)、濾過膜(a)を有する樹脂フィルターが、上流側(溶解槽側)からこの順で設置されていた。
【0092】
樹脂フィルターは、外周面にヒダ折り加工による縦溝が全周に渡って形成された円筒状の濾過膜の上下に、熱可塑性樹脂プレートが接合されてなるフィルターエレメントを、ポリプリピレン製のハウジングに設置したものを使用した。なお、前記濾過膜として、ポリプロピレン製であり、三層構造であり、二次側の目開きが一次側よりも細かくなっており、濾過粒子サイズ20μmにおける初期濾過効率が99.9%以上である濾過膜を使用した。
【0093】
また、濾過時に掛かる樹脂フィルターの圧力は、1次側(溶解槽側)で0.30MPa、2次側(容器側)で0.24MPa、差圧0.06MPaであり、濾液の流量は9kg/分であった。
【0094】
前記樹脂製フィルターの内面はハウジングやノズルを含めて全て樹脂で構成されており、樹脂フィルター以降は、ポリエチレンをライニングした炭素鋼管とテフロン(登録商標)をライニングしたバルブを使用することで、濾過以降の工程でPVDF溶液は金属と一切接触することなく、容器に充填された。
【0095】
後述する観察方法による、電極形成用バインダー溶液(1)からの異物の検出はなかった。このようなバインダー溶液を用いて形成された電極を、リチウムイオン二次電池等の非水系電池を構成する電極に適用すると、電池の内部短絡(ショート)の発生を抑制することが可能である。
【0096】
〔実施例2〕
実施例1で用いたPVDFのパウダー11.5kgを、ビニリデンフルオライドとマレイン酸モノメチルエステルとの共重合体(以下、VDF−MMM共重合体とも記す)のパウダー19.6kgに代えた以外は実施例1と同様に行い、VDF−MMM共重合体を13.1質量%含む、溶液粘度760mPa・sのVDF−MMM共重合体溶液を得た。
【0097】
実施例1で用いたPVDF溶液を、VDF−MMM共重合体溶液に代えた以外は実施例1と同様に行い、電極形成用バインダー溶液(2)を得た。
【0098】
なお、濾過時に掛かる樹脂フィルターの圧力は、1次側(溶解槽側)で0.30MPa、2次側(容器側)で0.28MPa、差圧0.02MPaであり、濾液の流量は15kg/分であった。
【0099】
後述する観察方法による、電極形成用バインダー溶液(2)からの異物の検出はなかった。このようなバインダー溶液を用いて形成された電極を、リチウムイオン二次電池等の非水系電池を構成する電極に適用すると、電池の内部短絡(ショート)の発生を抑制することが可能である。
【0100】
〔実施例3〕
Y型ストレーナおよび磁力式除鉄器を使用しない以外は、実施例1と同様に行い、電極形成用バインダー溶液(3)を得た。
【0101】
なお、濾過時に掛かる樹脂フィルターの圧力は、1次側(溶解槽側)で0.30MPa、2次側(容器側)で0.23MPa、差圧0.07MPaであり、濾液の流量は8kg/分であった。
【0102】
後述する観察方法による、電極形成用バインダー溶液(3)からの異物の検出はなかった。このようなバインダー溶液を用いて形成された電極を、リチウムイオン二次電池等の非水系電池を構成する電極に適用すると、電池の内部短絡(ショート)の発生を抑制することが可能である。但し、樹脂フィルターを構成する濾過膜のみで異物が補足されているため、仮に濾過膜が破損した場合には、電極形成用バインダー溶液中に異物が混入することが考えられる。このため電極形成用バインダー溶液を製造する際には、プレフィルターにより溶液中の固形物を除去する工程、磁気フィルターにより溶液中の磁性体を除去する工程を設けることが好ましい。
【0103】
〔比較例1〕
樹脂フィルターを使用しない以外は、実施例1と同様に行い、電極形成用バインダー溶液(c1)を得た。
【0104】
比較例1では、樹脂フィルターを用いた濾過が行われないため、プレフィルターや磁気フィルターで取り除くことが困難な微小な異物が、後述する観察方法により、電極形成用バインダー溶液(c1)から検出された。このようなバインダー溶液を用いて形成された電極を、リチウムイオン二次電池等の非水系電池を構成する電極に適用すると、電池の内部短絡(ショート)の原因となる場合がある。
【0105】
〔比較例2〕
樹脂フィルターを使用しない以外は、実施例2と同様に行い、電極形成用バインダー溶液(c2)を得た。
【0106】
比較例2では、樹脂フィルターを用いた濾過が行われないため、プレフィルターや磁気フィルターで取り除くことが困難な微小な異物が、後述する観察方法により、電極形成用バインダー溶液(c2)から検出された。このようなバインダー溶液を用いて形成された電極を、リチウムイオン二次電池等の非水系電池を構成する電極に適用すると、電池の内部短絡(ショート)の原因となる場合がある。
【0107】
〔比較例3〕
実施例1で用いた、ポリプロピレン製であり、三層構造であり、二次側の目開きが一次側よりも細かくなっており、濾過粒子サイズ20μmにおける初期濾過効率が99.9%以上である濾過膜を、ナイロン製であり、三層構造であり、二次側の目開きが一次側よりも細かくなっており、濾過粒子サイズ20μmにおける初期濾過効率が99.9%以上である濾過膜に代えた以外は実施例1と同様に行ったが、PVDF溶液はほとんど樹脂フィルターを透過することなく、PVDF溶液を容器に充填することができなかった。
【0108】
これは、N−メチル−2−ピロリドンにより、ナイロンが膨張し、濾過膜が目詰まりしたためと考えられる。
【0109】
〔比較例4〕
実施例1で用いた、ポリプロピレン製であり、三層構造であり、二次側の目開きが一次側よりも細かくなっており、濾過粒子サイズ20μmにおける初期濾過効率が99.9%以上である濾過膜を、ポリプロピレン製であり、三層構造であり、二次側の目開きが一次側よりも細かくなっており、濾過粒子サイズ20μmにおける初期濾過効率が98%以上である濾過膜に代えた以外は実施例1と同様に行い、電極形成用バインダー溶液(c4)を得た。
【0110】
比較例4では、濾過膜の濾過効率が、実施例で用いた濾過膜と比べて劣るため、プレフィルター、磁気フィルターおよび濾過膜で取り除くことが困難な微小な異物が、後述する観察方法により、電極形成用バインダー溶液(c4)から検出された。このようなバインダー溶液を用いて形成された電極を、リチウムイオン二次電池等の非水系電池を構成する電極に適用すると、電池の内部短絡(ショート)の原因となる場合がある。
【0111】
〔比較例5〕
溶解槽内の温度を80℃とし、冷却を行わなかった以外は、実施例1と同様に行い、溶液粘度800mPa・sのPVDF溶液を得た。
【0112】
該溶液粘度800mPa・sのPVDF溶液を用い、樹脂フィルターを使用しない以外は、実施例1と同様に行い、PVDF溶液を、容器に充填した。容器の空間部分に窒素ガスを吹き込むことなく密閉し、電極形成用バインダー溶液(c5)を得た。
【0113】
比較例5では、樹脂フィルターを用いた濾過が行われないため、プレフィルターや磁気フィルターで取り除くことが困難な微小な異物が、電極形成用バインダー溶液(c5)から検出された。このようなバインダー溶液を用いて形成された電極を、リチウムイオン二次電池等の非水系電池を構成する電極に適用すると、電池の内部短絡(ショート)の原因となる可能性がある。
【0114】
また、電極形成用バインダー溶液(c5)が充填された容器は、充填後48時間経過すると変形した。
【0115】
〔電極形成用バインダー溶液の観察〕
実施例、比較例で得られた電極形成用バインダー溶液400mlを容器から採取した。採取したバインダー溶液を、濾紙(目開き5μm)を配置した吸引濾過機で濾過した。濾紙をN−メチル−2−ピロリドン、アセトンにより洗浄し、乾燥させた。乾燥させた濾紙を光学顕微鏡で観察し、異物の数を計測した。なお、異物の外観により、金属異物と、非金属異物とに分別し、最大寸法が20μm以上の異物のみを計測した。
【0116】
結果を表1に示す。
【0117】
〔樹脂フィルターによる異物の補足の観察〕
実施例、比較例に用いた樹脂フィルターを構成する濾過膜を、目視により観察し、異物の補足の有無を評価した。
【0118】
結果を表1に示す。
【0119】
〔容器の変形の観察〕
実施例、比較例で得た電極形成用バインダー溶液が充填された容器を、充填後定期的に48時間目視により観察し、容器の変形の有無を判断した。
【0120】
結果を表1に示す。
【0121】
【表1】