特許第5687291号(P5687291)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5687291
(24)【登録日】2015年1月30日
(45)【発行日】2015年3月18日
(54)【発明の名称】強力なHCV阻害剤の結晶塩
(51)【国際特許分類】
   C07K 5/083 20060101AFI20150226BHJP
   A61K 31/4709 20060101ALI20150226BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20150226BHJP
【FI】
   C07K5/083
   A61K31/4709
   A61P31/12
【請求項の数】9
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2012-557229(P2012-557229)
(86)(22)【出願日】2011年3月10日
(65)【公表番号】特表2013-522221(P2013-522221A)
(43)【公表日】2013年6月13日
(86)【国際出願番号】US2011027807
(87)【国際公開番号】WO2011112761
(87)【国際公開日】20110915
【審査請求日】2012年9月10日
(31)【優先権主張番号】61/312,791
(32)【優先日】2010年3月11日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】503385923
【氏名又は名称】ベーリンガー インゲルハイム インターナショナル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100092093
【弁理士】
【氏名又は名称】辻居 幸一
(74)【代理人】
【識別番号】100082005
【弁理士】
【氏名又は名称】熊倉 禎男
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【弁理士】
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(72)【発明者】
【氏名】ヤン ビン−ショウ
(72)【発明者】
【氏名】イップ カー
【審査官】 深谷 良範
(56)【参考文献】
【文献】 特表2006−528937(JP,A)
【文献】 Journal of Pharmaceutical Sciences,1997年,Vol.86, No.1,p.1-12
【文献】 Pharmaceutical Research,1995年,Vol.12, No.7,p.945-954
【文献】 International Journal of Pharmaceutics,1990年,Vol.62,p.87-95
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K
C07D
A61K
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の式(1)の化合物のトロメタミン結晶塩:
【化1】
(1)
【請求項2】
CuKα線を用いて測定したときに5.9度2θ(±0.2度2θ)においてピークを含むX線粉末回折パターンを有する、請求項1に記載の結晶塩。
【請求項3】
178.3、138.1および27.1ppm(±0.2ppm)の化学シフトにおいてピークを含む13C固体NMRスペクトルを有する、請求項1に記載の結晶塩。
【請求項4】
CuKα線を用いて測定したときに5.9度2θ(±0.2度2θ)においてピークを含むX線粉末回折パターンおよび178.3、138.1および27.1ppm(±0.2ppm)の化学シフトにおいてピークを含む13C固体NMRスペクトルを有する、請求項1に記載の結晶塩。
【請求項5】
下記の式(1)の化合物のコリン結晶塩:
【化2】
(1)
【請求項6】
CuKα線を用いて測定したときに7.5度2θ(±0.2度2θ)においてピークを含むX線粉末回折パターンを有する、請求項5に記載の結晶塩。
【請求項7】
175.1、137.6および27.2ppm(±0.2ppm)の化学シフトにおいてピークを含む13C固体NMRスペクトルを有する、請求項5に記載の結晶塩。
【請求項8】
CuKα線を用いて測定したときに7.5度2θ(±0.2度2θ)においてピークを含むX線粉末回折パターンおよび175.1、137.6および27.2ppm(±0.2ppm)の化学シフトにおいてピークを含む13C固体NMRスペクトルを有する、請求項5に記載の結晶塩。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の塩、および少なくとも1つの医薬的に許容され得る担体または希釈剤を含む医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、本明細書に記載される化合物(1)の新規な結晶塩、その調製方法、その医薬組成物、およびC型肝炎ウイルス(HCV)感染の治療におけるその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
下記の化合物(1):
【0003】
【化1】
(1)
【0004】
は、HCV NS3セリンプロテアーゼの選択的かつ強力な阻害剤として知られる。化合物(1)は、米国特許第6,323,180号明細書、同第7,514,557号明細書および同第7,585,845号明細書に開示されているHCV阻害剤の非環状ペプチドシリーズの範囲内に入る。化合物(1)は、米国特許第7,585,845号明細書において化合物# 1055として、また、米国特許第7,514,557号明細書において化合物# 1008として特に開示されている。化合物(1)は、上記の文献に見られる一般手順によって調製することができ、これらの文献の記載は本願明細書に参照により組み込まれている。
【0005】
化合物(1)は、また、上記の構造と等価である化学構造の下記の代替表示によって知られていることがある
【0006】
【化2】
【0007】
(式中、Bは、
【0008】
【化3】
【0009】
であり; L0は、MeO-であり; L1は、Brであり; R2は、
【0010】
【化4】
【0011】
である)。
上記の文献に記載されている一般手順によって合成されるときに、化合物(1)は、フルスケールの医薬品製造に一般的により適していない形態であるアモルファス固体として調製される。したがって、医薬品の厳しい要求および規格を満たす製剤を可能にする結晶形態で化合物(1)を製造することが求められている。更に、化合物(1)が製造される方法は、大規模な生産を受け入れられるものである必要がある。更に、生成物は、ろ過されやすくかつ容易に乾燥される形態であることが望ましい。最後に、生成物は、特殊貯蔵状態を必要とせずに長期間安定であることが経済的に望ましい。
【0012】
2009年9月15日に出願された米国特許出願公開第12/559,927号明細書には、アモルファス化合物と比較してより好ましい医薬品特性を有する化合物(I)のタイプA結晶形態と化合物(I)のナトリウム結晶塩形態が開示されている。しかしながら、ナトリウム結晶塩は、生産における難題、例えば一貫した配合確認、製造(例えば、乾燥の難しさ)および取扱いにおける難題を課すことになる変化しうる水和物である。化合物(I)のタイプA結晶形態およびナトリウム結晶塩と比較して優れた特性を有する塩、例えば溶媒和されていない結晶形態は、大規模生産および医薬製剤に好ましいものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ここで、本発明者らは、驚くべきことにかつ予想外に、化合物(1)がトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(トロメタミン)結晶形態で、またそのコリン結晶塩、またそのN-メチル-D-グルカミン結晶塩の形で調製され得ることを初めて見出した。したがって、本発明は、化合物(1)を、一実施態様においては新規なトロメタミン結晶塩であり、追加の実施態様においてはコリン結晶塩およびN-メチル-D-グルカミン結晶塩が含まれている新規な結晶塩形態で提供する。これらの新規な結晶形態は、アモルファス形態の使用に固有な医薬品加工の問題点を克服し、また、特にトロメタミン塩やコリン塩は、以下に詳述するように医薬製剤加工においてタイプAやナトリウム結晶塩形態と比較してそれらを特に有利にする他の特性を有する。
【0014】
化合物(1)のこれらの新規な結晶形態は、X線粉末回折法(XRPD)および固体NMR(ssNMR)が含まれるさまざまな技術を用いて確認されかつ相互に識別され得る。
【課題を解決するための手段】
【0015】
一実施態様において、本発明は、本明細書において「TH」と呼ばれるトロメタミン結晶塩形態での化合物(1)に関する。
他の実施態様は、本明細書において「HEA」と呼ばれる化合物(1)のコリン結晶塩に関する。
【0016】
他の実施態様は、本明細書において「MU」と呼ばれる化合物(1)のN-メチル-D-グルカミン結晶塩に関する。
追加の実施態様には、XRPDまたはssNMRまたはXRPDとssNMRの双方によって確認されるTH、HEAおよびMUの塩の各々が含まれている。
【0017】
更に他の実施態様は、TH、HEAまたはMU、またはこれらの混合物、および少なくとも1つの医薬的に許容され得る担体または希釈剤を含む医薬組成物に関する。
更に他の実施態様は、哺乳類においてHCV感染を治療する方法であって、治療的に有効な量のTH、HEAまたはMU、またはこれらの混合物を前記哺乳類に投与することを含む前記方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、結晶THの固有X線粉末回折パターンである。
図2図2は、結晶THの固有13C固体NMRスペクトルである。
図3図3は、結晶HEAの固有X線粉末回折パターンである。
図4図4は、結晶HEAの固有13C固体NMRスペクトルである。
図5図5は、結晶MUの固有X線粉末回折パターンである。
図6図6は、結晶MUの固有13C固体NMRスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
定義
本明細書において特に定義されていない用語には、開示内容および文脈に照らして当業者が与える意味が与えられるべきである。しかしながら、本出願全体に用いられている下記の用語は、それとは別に明記しない限り示した意味を有する。
【0020】
用語「TH」は、化合物(1)のトロメタミン結晶塩を意味する。
用語「HEA」は、化合物(1)のコリン結晶塩を意味する。
用語「MU」は、化合物(1)のN-メチル-D-グルカミン結晶塩を意味する。
【0021】
用語「約」は、所定の値または範囲の5%以内、より好ましくは1%以内を意味する。例えば、「約3.7%」は、3.5から3.9%まで、好ましくは3.66から3.74%までを意味する。用語「約」が値の範囲、例えば「約X%〜Y%」)と関連しているときに、用語「約」は、記載された範囲のより低い(X)値とより高い(Y)値の双方を修飾することを意味する。例えば、「約20%〜40%」は、「約20%〜約40%」と等価である。
【0022】
本明細書に用いられる物質に関して用語「医薬的に許容され得る」は、正しい医学的判断の範囲内で、過度の毒性、刺激作用、アレルギー反応等がなくヒトおよび下等動物の組織と接触させて用いるのに適し、合理的な利益/リスク比と釣り合い、かつ物質が医薬組成物中で用いられるときに意図した使用に有効である物質を意味する。
【0023】
患者における病態の治療に関して用語「治療すること」は、(i)患者において病態を阻害または改善させること、例えば、その発症を抑止または遅延させること、または(ii)患者において病態を緩和させること、すなわち、病態の後退または治癒をもたらすことを含む。HCVの場合、治療には、患者においてHCVウイルス量のレベルを低下させることが含まれる。
【0024】
結晶TH
化合物(1)は、本明細書において「TH」と呼ばれるトロメタミン結晶塩多形体として単離され、X線粉末回折法(XRPD)、示差走査熱量測定(DSC)および固体NMR(ssNMR)を用いて確認されている。
【0025】
一般に、THは、5.9、9.8、10.0、16.4、16.7、20.3、20.9および22.6において度2θ(±0.2度2θ)で表されるより高い強度ピークを有する特徴的なX線粉末回折(「XRPD」)パターンを示す。
【0026】
THのXRPDパターンを図1に示す。図1におけるXRPDパターンの特徴的なピーク位置と相対強度を下記の表1に示す(より高い強度ピークもより低い強度ピークも含まれる)。
【0027】
表1

【0028】
TH結晶について、示差走査熱量測定(DSC)は、201℃の開始温度で吸熱融解/分解を示す。熱重量分析(TGA)は、165℃まで0.15%の質量減少を示す。これらのデータは、THが溶媒和されていない結晶固体形態であることを示している。TH結晶は、動的水蒸気吸着(DVS)によって25℃で85% RHによる<約4%吸湿を示し、分析に用いられる条件で吸湿性がないかわずかに吸湿性であることを示した。
【0029】
一般の一実施態様において、本発明は、本明細書において「TH」と呼ばれる化合物(1)のトロメタミン結晶塩に関する。
【0030】
他のより特定の実施態様は、少なくとも下記の特徴: CuKα線を用いて測定したときに5.9度2θ(±0.2度2θ)においてピークを含むX線粉末回折パターンを有する結晶THに関する。
【0031】
他の実施態様は、CuKα線を用いて測定したときに上記のように5.9度2θ(±0.2度2θ)においてピークを含み、更に10.0度および20.9度2θ(±0.2度2θ)においてピークを含むXRPDパターンを有する結晶THに関する。
【0032】
他の実施態様は、CuKα線を用いて測定したときに上記のように5.9度2θ(±0.2度2θ)においてピークを含み、更に10.0、16.7、20.3および20.9度2θ(±0.2度2θ)においてピークを含むXRPDパターンを有する結晶THに関する。
【0033】
他の実施態様は、CuKα線を用いて測定したときに上記のように5.9度2θ(±0.2度2θ)においてピークを含み、更に9.8、10.0、16.4、16.7、20.3、20.9および22.6度2θ(±0.2度2θ)においてピークを含むXRPDパターンを有する結晶THに関する。
【0034】
他の実施態様は、図1に示すものと実質的に同じXRPDパターンを示す結晶THに関する。
【0035】
THは、下記の表2に示される13C化学シフトを有する固体NMR(ssNMR)パターン(より高い強度ピークとより低い強度ピークが含まれる)を示す。
【0036】
表2

【0037】
本明細書に示しかつ特許請求するすべての化学シフトは、特に明記しない限り±0.2ppmまで正確である。
【0038】
THの代表的な13C ssNMRスペクトルを図2に示す。
【0039】
一般の一実施態様は、178.3、138.1および27.1ppm(±0.2ppm)の化学シフトにおいてピークを含む13C固体NMRスペクトルを有する化合物(1)のトロメタミン結晶塩に関する。これらの化学シフトピークは、化合物(1)のTH塩を確認しかつそれを他の結晶形態から識別するのに充分であると考えられる。
【0040】
他の実施態様は、178.3、173.9、173.1、150.2、147.9、138.1および27.1(すべて±0.2ppm)の化学シフトにおいてピークを含む13C固体NMRスペクトルを有する化合物(1)のトロメタミン結晶塩に関する。
【0041】
他の実施態様は、178.3、176.0、173.9、173.1、150.2、147.9、138.1、36.7、27.1、22.8および18.6ppm(すべて±0.2ppm)の化学シフトにおいてピークを含む13C固体NMRスペクトルを有する化合物(1)のトロメタミン結晶塩に関する。
【0042】
他の実施態様は、図2に示すものと実質的に同じ13C ssNMRスペクトルを示す化合物(1)のトロメタミン結晶塩に関する。
【0043】
他の実施態様は、上述のXRPDと13C ssNMRの実施態様の組み合わせによるXRPDパターンと13C ssNMRスペクトル双方を有する化合物(1)のトロメタミン結晶塩に関する。例えば、トロメタミン結晶塩は、CuKα線を用いて測定したときに5.9度2θ(±0.2度2θ)においてピークを含むX線粉末回折パターンおよび178.3、138.1および27.1ppm(±0.2ppm)の化学シフトにおいてピークを含む13C固体NMRスペクトルを有する。
本発明は、下記に記載される条件下でTHを結晶化させることを含むTHを調製する方法を提供する。THが形成される正確な条件は経験的に決定することができ、実際に適切であることがわかった方法のみを示すことが可能である。
【0044】
THが下記の工程を含む方法によって調製され得ることがわかった。この方法は本発明の実施態様である:
(i)化合物(1)と1当量のトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンとを適切な溶媒中で合わせる工程;
(ii)混合物を約50℃に加熱し、約3〜5時間撹拌する工程;
(iii)スラリーを約20℃に冷却する工程;
(iv)スラリーをろ過し、得られた固形物を適切な溶媒ですすぐ工程;
(v)固形物を減圧下に約70℃で乾燥させる工程。
【0045】
適切な溶媒には、アセトンおよびアセトニトリルが含まれる。好ましい溶媒は、アセトンである。得られたTH結晶は、当該技術において知られる通常法によって回収され得る。
【0046】
最終工程(iv)および(v)において、工程(iii)において得られた固形物を慣用の収集および高温乾燥技術、例えばろ過や真空オーブンを用いて収集されるとともに高温で乾燥され得る。
【0047】
好ましい一実施態様において、工程(i)において化合物(1)と1当量のトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンをアセトン中で1グラムの化合物(1)当たり10mLのアセトンの割合で合わせ、工程(ii)において約50℃に加熱し、4時間撹拌し、工程(iv)においてアセトンですすぐ。
【0048】
他の態様において、工程(iii)において、スラリーを撹拌し、約4〜12時間冷却する。
他の実施態様において、前の調製から得られたTHのシードを工程(ii)の間に添加する。
他の実施態様において、固形物を工程(v)において約4〜12時間乾燥する。
プロセス工程は、当然、慣用のかきまぜ技術、例えば撹拌、およびプロセスを促進するためによく理解されている他の慣用の技術によって促進され得る。
【0049】
結晶HEA
化合物(1)は、本明細書において「HEA」と呼ばれるコリン結晶塩多形体として単離される。一般に、HEAは、7.5、14.2、14.9、17.5、21.8、22.1、22.7および24.3において度2θ(±0.2度2θ)で表されるより高い強度ピークを有する特徴的なX線粉末回折(「XRPD」)パターンを示す。
【0050】
HEAのXRPDパターンを図3に示す。図3におけるXRPDパターンの特徴的なピーク位置と相対強度を下記の表3に示す(より高い強度ピークもより低い強度ピークも含まれる)。
【0051】
表3

【0052】
HEA結晶について、示差走査熱量測定(DSC)は、264℃の開始温度で吸熱融解/分解を示す。熱重量分析(TGA)は、230℃まで0.045%の質量減少を示す。これらのデータは、HEAが溶媒和されていない結晶固体形態であることを示している。HEA結晶は、動的水蒸気吸着(DVS)によって25℃で85% RHによる<約2.5%吸湿を示し、分析に用いられる条件で吸湿性がないことが示された。
【0053】
一般の一実施態様において、本発明は、本明細書においてHEAと呼ばれる化合物(1)のトロメタミン結晶塩に関する。
他のより特定の実施態様は、少なくとも下記の特徴: CuKα線を用いて測定したときに7.5度2θ(±0.2度2θ)においてピークを含むX線粉末回折パターンを有する結晶HEAに関する。
【0054】
他の実施態様は、CuKα線を用いて測定したときに上記のように7.5度2θ(±0.2度2θ)においてピークを含み、更に14.9および17.5度2θ(±0.2度2θ)においてピークを含むXRPDパターンを有する結晶HEAに関する。
他の実施態様は、CuKα線を用いて測定したときに上記のように7.5度2θ(±0.2度2θ)においてピークを含み、更に14.9、17.5、22.1および24.3度2θ(±0.2度2θ)においてピークを含むXRPDパターンを有する結晶HEAに関する。
【0055】
他の実施態様は、CuKα線を用いて測定したときに上記のように7.5度2θ(±0.2度2θ)においてピークを含み、更に14.2、14.9、17.5、21.8、22.1、22.7および24.3度2θ(±0.2度2θ)においてピークを含むXRPDパターンを有する結晶HEAに関する。
他の実施態様は、図3に示すものと実質的に同じXRPDパターンを示す結晶HEAに関する。
HEAは、下記の表4に示される13C化学シフトを有する固体NMR(ssNMR)パターン(より高い強度ピークとより低い強度ピークが含まれる)を示す。
【0056】
表4

【0057】
本明細書に示しかつ特許請求するすべての化学シフトは、特に明記しない限り±0.2ppmまで正確である。
【0058】
結晶HEAの代表的な13C ssNMRスペクトルを図4に示す。
【0059】
一般の一実施態様は、175.1、137.6および27.2ppm(±0.2ppm)の化学シフトにおいてピークを含む13C固体NMRスペクトルを有する化合物(1)のコリン結晶塩に関する。これらの化学シフトピークは、化合物(1)のHEA塩を確認しかつそれを他の結晶形態から識別するのに充分であると考えられる。
【0060】
他の実施態様は、175.1、172.6、172.2、147.8、147.1、137.6および27.2(すべて±0.2ppm)の化学シフトにおいてピークを含む13C固体NMRスペクトルを有する化合物(1)のコリン結晶塩に関する。
【0061】
他の実施態様は、175.1、172.6、172.2、170.2、154.9、149.5、147.8、147.1、137.6、27.2および15.7ppm(すべて±0.2ppm)の化学シフトにおいてピークを含む13C固体NMRスペクトルを有する化合物(1)のコリン結晶塩に関する。
【0062】
他の実施態様は、図4に示すものと実質的に同じ13C ssNMRスペクトルを示す化合物(1)のコリン結晶塩に関する。
【0063】
他の実施態様は、上述の実施態様の組み合わせによるXRPDパターンと13C ssNMRスペクトル双方を有する化合物(1)のコリン結晶塩に関する。例えば、コリン結晶塩は、CuKα線を用いて測定したときに7.5度2θ(±0.2度2θ)においてピークを含むX線粉末回折パターンおよび175.1、137.6および27.2ppm(±0.2ppm)の化学シフトにおいてピークを含む13C固体NMRスペクトルを有する。
【0064】
本発明は、下記に記載される条件下でHEAを結晶化させることを含むHEAを調製する方法を提供する。HEAが形成される正確な条件は経験的に決定することができ、実際に適切であることがわかった方法のみを示すことが可能である。
【0065】
HEAが下記の工程を含む方法によって調製され得ることがわかった。この方法は本発明の実施態様である:
(i)化合物(1)と適切な溶媒とを合わせ、約60℃に加熱する工程;
(ii)適切な溶媒中の約1.1当量の水酸化コリン貯蔵液を添加する工程;
(iii)約5℃に冷却する工程;
(iv)得られたスラリーをろ過し、固形物を適切な溶媒ですすぐ工程;
(v)固形物を減圧下に約70℃で乾燥させる工程。
【0066】
適切な溶媒には、アセトニトリルおよびアセトンが含まれる。最も好ましい溶媒は、アセトニトリルである。好適な水酸化コリン貯蔵液には、必要によりアセトニトリルで希釈されてもよい、メタノール中の溶液または水溶液が含まれる。好ましい貯蔵液は、アセトニトリルで希釈されたメタノール中の45wt%溶液である。得られたHEA結晶は、当該技術において知られる通常法によって回収され得る。
【0067】
最終工程(iv)および(v)において、工程(iv)において得られた固形物が慣用の収集および高温乾燥技術、例えばろ過および真空オーブンを用いて、収集されるとともに高温で乾燥され得る。
【0068】
好ましい一実施態様において、工程(i)において化合物(1)とアセトニトリルとを1グラムの化合物(1)当たり10mLのアセトニトリルの割合で合わせ、工程(ii)において用いられる水酸化コリン貯蔵液がメタノール中45wt%水酸化コリン溶液をアセトニトリルで元の容積の5倍に希釈することによって調製される。
【0069】
他の実施態様において、水酸化コリンが添加された後に前の調製から得られたHEAのシードが工程(ii)の間に添加される。
他の態様において、工程(iii)において冷却が約4時間にわたって撹拌しつつ行われる。
他の実施態様において、工程(v)において固形物を約4〜12時間乾燥させる。
プロセス工程は、当然、慣用のかきまぜ技術、例えば撹拌、およびプロセスを促進するためによく理解されている他の慣用の技術によって促進され得る。
【0070】
結晶MU
化合物(1)は、本明細書において「MU」と呼ばれるN-メチル-D-グルカミン結晶塩多形体として単離される。一般に、MUは、2.5、4.4、5.1、11.7、15.5、15.9および20.9において度2θ(±0.2度2θ)で表されるより高い強度ピークを有する特徴的なX線粉末回折(「XRPD」)パターンを示す。
【0071】
MUのXRPDパターンを図5に示す。図5におけるXRPDパターンの特徴的なピーク位置と相対強度を下記の表5に示す(より高い強度ピークもより低い強度ピークも含まれる)。
【0072】
表5

【0073】
MU結晶について、示差走査熱量測定(DSC)は、2つの幅広い吸熱事象、一方が20℃から69℃まで、もう一方が155℃から187℃までを示す。熱重量分析(TGA)は第1の吸熱事象(20℃〜69℃)と関連した3.13%の質量減少を示し、MUがヘミペンタ水和物形態であることを示している。
【0074】
一般の一実施態様において、本発明は、本明細書において「MU」と呼ばれる化合物(1)のN-メチル-D-グルカミン結晶塩に関する。
【0075】
他のより特定の実施態様は、少なくとも下記の特徴: CuKα線を用いて測定したときに4.4度2θ(±0.2度2θ)においてピークを含むX線粉末回折パターンを有する結晶MUに関する。
【0076】
他の実施態様は、CuKα線を用いて測定したときに上記のように4.4度2θ(±0.2度2θ)においてピークを含み、更に2.5および5.1度2θ(±0.2度2θ)においてピークを含むXRPDパターンを有する結晶MUに関する。
【0077】
他の実施態様は、CuKα線を用いて測定したときに上記のように4.4度2θ(±0.2度2θ)においてピークを含み、更に2.5、5.1、11.7および15.9度2θ(±0.2度2θ)においてピークを含むXRPDパターンを有する結晶MUに関する。
【0078】
他の実施態様は、CuKα線を用いて測定したときに上記のように4.4度2θ(±0.2度2θ)においてピークを含み、更に2.5、5.1、11.7、15.5、15.9および20.9度2θ(±0.2度2θ)においてピークを含むXRPDパターンを有する結晶MUに関する。
【0079】
他の実施態様は、図5に示すものと実質的に同じXRPDパターンを示す結晶MUに関する。
MUは、下記の表6に示す13C化学シフトを有する固体NMR(ssNMR)パターン(より高い強度ピークとより低い強度ピークが含まれる)を示す。
【0080】
表6

【0081】
本明細書に示しかつ特許請求するすべての化学シフトは、特に明記しない限り±0.2ppmまで正確である。
MUの代表的な13C ssNMRスペクトルを図6に示す。
【0082】
一般の一実施態様は、178.4、138.0および27.0ppm(±0.2ppm)の化学シフトにおいてピークを含む13C固体NMRスペクトルを有する化合物(1)のN-メチル-D-グルカミン結晶塩に関する。これらの化学シフトピークは、化合物(1)のMU塩を確認しかつそれを他の結晶形態から識別するのに充分であると考えられる。
【0083】
他の実施態様は、178.4、175.6、159.8、154.2、151.2、138.0および27.0ppm(すべて±0.2ppm)の化学シフトにおいてピークを含む13C固体NMRスペクトルを有する化合物(1)のN-メチル-D-グルカミン結晶塩に関する。
【0084】
他の実施態様は、178.4、175.6、173.4、172.3、159.8、154.2、151.2、138.0、27.0、24.7および20.8ppm(すべて±0.2ppm)の化学シフトにおいてピークを含む13C固体NMRスペクトルを有する化合物(1)の結晶のN-メチル-D-グルカミン塩に関する。
【0085】
他の実施態様は、図6に示すものと実質的に同じ13C ssNMRスペクトルを示す化合物(1)のN-メチル-D-グルカミン結晶塩に関する。
【0086】
他の実施態様は、上述の実施態様の組み合わせによるXRPDパターンと13C ssNMRスペクトル双方を有する化合物(1)のN-メチル-D-グルカミン結晶塩に関する。例えば、N-メチル-D-グルカミン結晶塩は、CuKα線を用いて測定したときに4.4度2θ(±0.2度2θ)においてピークを含むX線粉末回折パターンおよび178.4, 138.0および27.0ppm(±0.2ppm)の化学シフトにおいてピークを含む13C固体NMRスペクトルを有する。
【0087】
本発明は、下記に記載される条件下でMUを結晶化させることを含むMUを調製する方法を提供する。MUが形成される正確な条件は経験的に決定することができ、実際に適切であることがわかった方法のみを示すことが可能である。
【0088】
MUが下記の工程を含む方法によって調製され得ることがわかった。この方法は本発明の実施態様である:
(i)化合物(1)と1当量のN-メチル-D-グルカミンとを適切な溶媒中で合わせる工程;
(ii)混合物を約50℃に加熱する工程;
(iii)適切な溶媒を充填して、4時間にわたってMUの溶解性を低減させる工程;
(iv)スラリーを約20℃に3時間にわたって冷却する工程;
(v)スラリーをろ過し、得られた固形物を適切な溶媒または溶媒混合物ですすぐ工程;
(vi)固形物を減圧下に≦約30℃で乾燥させる工程。
【0089】
適切な溶媒には、酢酸メチル(MeOAc)/H2Oまたはイソプロピルアルコール(IPA)/H2Oが含まれる。好ましい溶媒は、MeOAc/H2O混合物である。得られたMU結晶は、当該技術において知られる通常法によって回収され得る。
【0090】
好ましい一実施態様において、工程(i)において化合物(1)と1当量のN-メチル-D-グルカミンをMeOAc/H2O(9.2wt%)中で1グラムの化合物(1)当たり4.68gのMeOAc/H2Oの割合で合わせ、約50℃に加熱し、工程(iii)において1グラムの化合物(1)当たり7.13gのMeOAcを4時間かけて添加し、工程(v)においてMeOAc/H2O混合物(1グラムの化合物(1)当たり1.75gのMeOAc+0.035 g H2O)ですすぐ。
【0091】
他の実施態様において、前の調製から得られたMUのシードを工程(ii)の間に添加する。
プロセス工程は、当然、慣用のかきまぜ技術、例えば撹拌、およびプロセスを促進するためによく理解されている他の慣用の技術によって促進され得る。
【0092】
塩特性
トロメタミン塩形態THおよびコリン塩HEAが、予想外に、これらを医薬製剤加工において特に有利にする特有な特性を有することがわかった。特に、THおよびHEAは、製造の間により簡単な確認、加工および取扱いを与えるある種の特性を有する。
【0093】
第一に、THが、予想外に、溶媒和されてなくかつ吸湿性がないかわずかに吸湿性(周囲温度で85% RHまで)の結晶形態で存在することがわかった。HEAもまた、溶媒和されてなくかつ吸湿性がない結晶形態(周囲温度で85% RHまで)で存在することがわかった。これらは予測可能な特性でない。例えば、ナトリウム塩(NA)は、一貫した製剤確認、製造(例えば、乾燥する難しさ)および取扱いの課題を生じ得る可変水和物として存在することがわかった。
更に、THは、予想外に、表7に示すようにpH 6.8での溶解速度がナトリウム塩またはHEAより10倍を超えることがわかった。HEAは、ナトリウム塩に匹敵した。溶解増強は、吸収および生物学的利用能に有利であり得る。
【0094】
表7

【0095】
これらの結果を生じるのに用いられる方法は、下記の確認方法の項で記載される。
化合物(1)の種々の結晶塩によって得られた上記の結果は、一般的には、化合物の異なる塩形態の間で、特に化合物(1)に対するその吸湿性、溶媒和形態または溶解性の違いを予測することが、その形態がうまく調製された後でさえも可能でないことから予想外である。
【0096】
医薬組成物および方法
TH、HEAおよびMU塩形態を含む化合物(1)の上記の形態は、HCV NS3セリンプロテアーゼに対する化合物(1)の証明された阻害活性を考慮すると抗HCV剤として有用である。それ故、これらの形態は、哺乳動物においてHCV感染の治療に有用であり、患者においてHCV感染を治療するかまたはその1つ以上の症状を改善するための医薬組成物の調製に使用し得る。具体的な患者に適当な投与量と用法は、当該技術において既知の方法によって、また、米国特許第6,323,180号明細書および同第7,585,845号明細書における開示内容を参照することによって決定され得る。一般に、哺乳動物におけるHCV感染の治療に治療的に有効な量が投与される。一実施態様において、単回用量または多回用量で成人のヒトに対して1日約50mgから1000mgまで、より好ましくは約120mgから約480mgまでが投与される。
【0097】
具体的な患者について個々の最適な用量と用法は、当然、年齢、体重、全身の健康状態、性別、食事、投与時間、排せつ率、薬剤併用、感染の重症度と経過、感染に対する患者の素因および治療する医師の判断を含む種々の要因に左右される。一般に、有害なまたは悪い副作用を生じることなく抗ウイルス的に有効な結果を一般的には与える濃度レベルで化合物が最も望ましくは投与される。
【0098】
典型的には、選択された用量レベルの化合物(1)のTH、HEAおよびMUの結晶塩形態が医薬組成物によって患者に投与される。例えば、本発明において使い得る様々なタイプの組成物については米国特許第6,323,180号明細書および同第7,585,845号明細書における記載を参照のこと。医薬組成物は、経口的、非経口的にまたは埋込みリザーバーによって投与され得る。本明細書に用いられる用語非経口には、皮下、皮内、静脈内、筋内内、関節内、滑液嚢内、胸骨内、くも膜下腔内、および病巣内の注射または注入技術が含まれる。経口投与または注射による投与が好ましい。
【0099】
本発明の医薬組成物は、慣用の無毒性の医薬的に許容され得る担体、希釈剤、アジュバント、賦形剤またはビヒクルを含有し得る。場合によっては、製剤のpHは、医薬的に許容され得る酸、塩基または緩衝液で調節して、配合された化合物またはその送達形態の安定性を増強し得る。
【0100】
医薬組成物は、滅菌注射用製剤の形態で、例えば滅菌注射用水性または油性懸濁液としてもよい。この懸濁液は、適切な分散剤または湿潤剤(例えばTween 80)および懸濁化剤を用いて当該技術において既知の技術によって配合され得る。
【0101】
医薬組成物は、また、化合物(1)のTH、HEAまたはMU塩、またはこれらの混合物および少なくとも1つの医薬的に許容され得る担体または希釈剤を含む経口医薬組成物の形態であり得る。経口医薬組成物は、これらに限定されないが、錠剤、液体充填カプセルを含むカプセル剤(例えば、硬または軟ゼラチンカプセル)、および水性懸濁剤および液剤を含む経口的に許容され得る剤形で経口的に投与され得る。経口使用のための錠剤の場合、通常用いられる担体にはラクトースおよびトウモロコシデンプンが含まれる。典型的には、滑沢剤、例えばステアリン酸マグネシウムも添加される。カプセル剤形での経口投与に有用な賦形剤には、ラクトースおよび乾燥トウモロコシデンプンが含まれる。使用し得る軟ゼラチンカプセルの例には、欧州特許第649651 B1号明細書および米国特許5,985,321号明細書に開示されているものが含まれる。水性懸濁液が経口的に投与されるときに、活性成分が乳化剤や懸濁化剤と合わせられる。所望される場合、ある種の甘味剤および/または香味剤および/または着色剤が添加され得る。
【0102】
上記の配合物および組成物に適切な他の賦形剤または担体は、標準医薬品テキスト、例えば「Remington's Pharmaceutical Sciences」, 19th ed., Mack Publishing Company, Easton, Penn., 1995に見られ得る。
【0103】
確かに、TH、HEAまたはMU結晶塩が、例えば、経口投与用または注射による溶液または懸濁液として、例えば液体充填カプセル中を含む、液体ビヒクル中に配合されるときに、塩はその結晶性を喪失する。しかし、最終的な液体ベースの医薬組成物は、化合物(1)の新規なTH、HEAまたはMU塩を含有するので、本発明が包含する別個の実施態様とみなされるべきである。
【0104】
確認方法
1. X線粉末回折
CuKa線を用いたウィスコンシン州マディソンのBruker AXS社から入手可能なBruker AXS X-Ray Powder Diffractometer Model D8 DiscoverによりX線粉末回折分析を行った。ステップ走査は、2から35°までの2θをステップ毎に0.05°、ステップ毎に4秒で行った。石英の参照標準を用いて、機器アライメントを点検した。ゼロバックグラウンドシリコンホルダーをファイルすることによって分析のために試料を調製した。
【0105】
2. DSC分析
DSC分析にはTA機器Q1000を用いた。開いている気密アルミニウムパンの中に約5mgの試料を計量した。標準ランプモードを10℃/分加熱速度で20℃から300℃まで用いた。DSCセルを処理しながら50mL/分の窒素でパージした。
【0106】
3. TGA分析
TGA分析にはTA機器Q500を用いた。風袋を除いた白金TGAパンに約10mgの試料を置いた。試料を10℃/分加熱速度で25℃から300°Cまで走査した。TGA炉を60mL/分の窒素でパージし、残りを40mL/分の窒素でパージした。
【0107】
4. 動的水蒸気吸着
動的水分吸着分析をSurface Measurement Systems DVSまたはDVS-HT、またはVTI SGA-100機器を用いて行った。試料の大きさは、4mgから13mgまでの範囲であった。3サイクルの水分吸着/脱着を25℃において相対湿度を5から10%までの増加分で5%から95%まで変化させて行った。ステップの基準は0.002%以下の質量変化または3時間の最大時間であった。
【0108】
5. 固体NMR
固体NMR(SSNMR)データを9.4T(1H=400.46 MHz、13C=100.70 MHz)においてBruker Avance III NMRスペクトロメータ(Bruker Biospin社、ビルリカ、マサチューセッツ州)により獲得した。Kel-F(登録商標)ドライブチップを有する4mmのO.D.酸化ジルコニウムローターに試料を装填た。Brukerモデル4BL CP BB WVTプローブをデータ収集およびマジック角(54.74°)で回転させる試料に用いた。試料スペクトル収集は、12kHzの回転速度を用いた。標準交差偏光パルス系列を周囲温度と圧力においてプロトンチャネル上の傾斜したHartman-Hahnマッチパルスで用いた。パルス系列は、5ミリ秒の接触パルスおよび2秒の待ち時間を用いた。パルス系列に2パルス位相変調(tppm)デカップリングも使った。自由誘導減衰のフーリエ変換の前に指数関数的ラインブロードニングは用いられなかった。アダマンタンの二次標準を用いて化学シフトが示され、高磁場共鳴は29.5ppmに設定された。マジック角は、5kHzの回転速度でKBrパウダーの79Brシグナルを用いて設定した。
【0109】
6. 溶解性実験
37℃で100rpmの回転速度を有するVan Kel VK7000溶解テスターと400mLの溶解槽を用いて固有溶解速度を評価した。Carverプレスによって3kNの圧縮力と15秒のドエルタイムを有する6mm直径Woodダイにおいて約50mgのAPIを用いて試料を調製した。試験をpH 6.8の400mL(20mM燐酸ナトリウム)で行った。試料を2、5、10、15、20、25、および30分で収集し、収集した試料をろ過しないかまたは0.2μm PDVFフィルタを用いてろ過した。蛍光検出による無勾配溶出法を用いるHPLCによって薬剤の濃度を決定した。
【0110】
本発明をより充分に理解するために、下記の実施例を示す。これらの実施例は、本発明の実施態様を例示するためであり、決して本発明の範囲を限定するものとして解釈すべきでない。実施例に用いられる出発材料、化合物(1)は、米国特許第6,323,180号明細書、同第7,514,557号明細書および同第7,585,845号明細書に開示されている方法によって調製され得る。
【実施例】
【0111】
実施例1: 化合物(1)のトロメタミン塩の調製
化合物(1)(5g)およびトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(0.696g)を50mLのアセトン中で合わせる。混合物を撹拌し、50℃に加熱し、その温度で4時間撹拌する。得られたスラリーを撹拌しながら20℃に徐々に冷却する。冷却した混合物を合計12時間撹拌する。得られた混合物を減圧ろ過し、得られた固形物をアセトン(2×10mL)ですすぐ。固形物を減圧下に70℃で12時間乾燥して、化合物(1)のトロメタミン塩(TH)を得る。
【0112】
THのXRPDパターンを図1に示し、THの13C ssNMRスペクトルを図2に示す。
【0113】
実施例2: 化合物(1)のコリン塩の調製
化合物(1)(5g)を合わせ、50mLのアセトニトリルと撹拌し、60℃に加熱する。5mLの水酸化コリンのMeOH中の45wt%溶液を25mLの全容積にアセトニトリルで希釈することによってあらかじめ調製された4.52mLの水酸化コリン貯蔵液を60℃で撹拌しながら6時間にわたって徐々に添加する。混合物を撹拌し、4時間かけて5℃に徐々に冷却する。次にスラリーをろ過し、得られた固形物をアセトニトリル(2×10mL)で洗浄する。次に固体を減圧下に70℃で12時間乾燥して、化合物(1)のコリン塩(HEA)を得る。
HEAのXRPDパターンを図3に示し、HEAの13C ssNMRスペクトルを図4に示す。
【0114】
実施例3: 化合物(1)のNメチル-D-グルカミン塩の調製
化合物(1)(20g)およびN-メチル-D-グルカミン(4.49g)を8.63gのH2Oおよび85gの酢酸メチル(MeOAc)と合わせる。混合物を撹拌し、50℃に加熱する。混合物に142.5gのMeOAcを≧4時間かけて充填する(シード添加が好ましいが、MeOAc添加の前に必要とされない)。得られたスラリーを撹拌しながら≧3時間かけて20℃に冷却する。得られた混合物をろ過し、得られた固形物をMeOAc/H2O混合物(35.15gのMeOAc+0.717gのH2O)ですすぐ。固形物を減圧下に≦30℃で≧12時間乾燥して、化合物(1)のN-メチル-D-グルタミン塩(MU)を得る。
MUのXRPDパターンを図5に示し、MUの13C ssNMRスペクトルを図6に示す。
図1
図2
図3
図4
図5
図6