(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
XYZ三次元直交座標系における各座標軸方向の力および各座標軸まわりのモーメントのうち、少なくとも1軸に関する力もしくはモーメントを検出する力覚センサであって、
前記XYZ三次元直交座標系のZ軸上に配置された内側部材と、
前記Z軸の周囲を取り囲むように配置され、前記内側部材を内部に収容した外側部材と、
前記内側部材と前記外側部材とを接続する役割を果たし、検出対象となる力もしくはモーメントの作用により少なくとも一部に弾性変形を生じる性質を有し、前記内側部材の周囲を部分的に取り囲むように配置された複数n本(n≧2)の弧状アームと、
を有する複数m個(m≧2)の基本構造体と、
前記弧状アームの弾性変形を電気的に検出する検出素子と、
前記検出素子の検出結果に基づいて、前記内側部材および前記外側部材の一方を固定した状態において、他方に作用した所定の座標軸方向の力もしくは所定の座標軸まわりのモーメントの検出値を出力する検出回路と、
を備え、
前記複数n本の弧状アームのうち、第i(1≦i≦n)の弧状アームの内側端部は前記内側部材上の第iの内側接続点に接続され、外側端部は前記外側部材上の第iの外側接続点に接続されており、第1〜第nの内側接続点は、前記内側部材上で異なる位置にある点であり、第1〜第nの外側接続点は、前記外側部材上で異なる位置にある点であり、
前記複数m個(m≧2)の基本構造体は、互いに所定間隔をおいて上下に隣接するように配置され、
前記複数m個の基本構造体を、Z軸を垂直軸として上方から下方に向かって、第1〜第mの基本構造体と呼んだときに、第j(1≦j≦m−1)の基本構造体の内側部材の下面と第(j+1)の基本構造体の内側部材の上面とは接続され、第j(1≦j≦m−1)の基本構造体の外側部材の下面と第(j+1)の基本構造体の外側部材の上面とは接続され、
相互に接続されたm個の内側部材は、全体が積層内側部材として機能し、相互に接続されたm個の外側部材は、全体が積層外側部材として機能し、
前記検出素子は、前記複数m個の基本構造体の全弧状アームもしくはその中から選択された一部の弧状アームの弾性変形を電気的に検出し、前記検出回路は、前記検出素子の検出結果に基づいて、前記積層内側部材および前記積層外側部材の一方を固定した状態において、他方に作用した所定の座標軸方向の力もしくは所定の座標軸まわりのモーメントの検出値を出力することを特徴とする力覚センサ。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、力覚センサは様々な用途に利用されており、単純な構造をもった高感度のセンサの需要が見込まれている。しかしながら、従来提案されている力覚センサの場合、検出感度をより高めるためには、微小な力が作用した場合にも検出に必要な十分な撓みが得られるように、可撓性構造部分を細くあるいは薄くする必要がある。このため、過度の力の作用によって破損が生じ易く、堅牢性が低下するという問題がある。
【0008】
また、力の各軸成分とモーメントの各軸成分とを検出する機能をもった力覚センサの場合、実用上、各成分ごとの検出感度のバランスがとれていた方が好ましいが、これまで提案されている機械的構造部をもったセンサでは、これらのバランスを調整した設計を行うことが困難である。
【0009】
そこで本発明は、十分な堅牢性を確保しつつ、高い検出感度をもった力覚センサを提供することを目的とする。また、力やモーメントの各軸成分の検出感度のバランスを調整しやすい力覚センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1) 本発明の第1の態様は、XYZ三次元直交座標系における各座標軸方向の力および各座標軸まわりのモーメントのうち、少なくとも1軸に関する力もしくはモーメントを検出する力覚センサにおいて、
XYZ三次元直交座標系のZ軸上に配置された内側部材と、
Z軸の周囲を取り囲むように配置され、内側部材を内部に収容した外側部材と、
内側部材と外側部材とを接続する役割を果たし、検出対象となる力もしくはモーメントの作用により少なくとも一部に弾性変形を生じる性質を有し、内側部材の周囲を部分的に取り囲むように配置された複数n本(n≧2)の弧状アームと、
を有する基本構造体と、
弧状アームの弾性変形を電気的に検出する検出素子と、
検出素子の検出結果に基づいて、内側部材および外側部材の一方を固定した状態において、他方に作用した所定の座標軸方向の力もしくは所定の座標軸まわりのモーメントの検出値を出力する検出回路と、
を設け、
複数n本の弧状アームのうち、第i(1≦i≦n)の弧状アームの内側端部は内側部材上の第iの内側接続点に接続され、外側端部は外側部材上の第iの外側接続点に接続されており、第1〜第nの内側接続点は、内側部材上で異なる位置にある点であり、第1〜第nの外側接続点は、外側部材上で異なる位置にある点であるようにしたものである。
【0011】
(2) 本発明の第2の態様は、上述した第1の態様に係る力覚センサにおいて、
内側部材が、XY平面に平行な上面および下面を有し、Z軸が中心軸となるように配置された円盤状部材によって構成され、
外側部材が、XY平面に平行な上面および下面を有し、Z軸が中心軸となるように配置された円環状部材によって構成され、
上記円盤状部材が上記円環状部材の内部に収容されているようにしたものである。
【0012】
(3) 本発明の第3の態様は、上述した第2の態様に係る力覚センサにおいて、
n=2に設定し、内側部材と外側部材とが第1の弧状アームと第2の弧状アームとによって接続されるようにし、
XY平面もしくはXY平面に平行な所定の平面を配置平面と定義し、この配置平面上に、第1の内側接続点、第2の内側接続点、第1の外側接続点、第2の外側接続点が配置され、第1の内側接続点と第2の内側接続点とを結ぶ連結直線および第1の外側接続点と第2の外側接続点とを結ぶ連結直線が、それぞれZ軸と交差するようにしたものである。
【0013】
(4) 本発明の第4の態様は、上述した第3の態様に係る力覚センサにおいて、
第1の弧状アームが、Z軸を中心とした円弧に沿って伸びる第1の円弧状部と、第1の円弧状部の一端を第1の内側接続点に接続する第1の内側接続部と、第1の円弧状部の他端を第1の外側接続点に接続する第1の外側接続部と、を有し、
第2の弧状アームが、Z軸を中心とした円弧に沿って伸びる第2の円弧状部と、第2の円弧状部の一端を第2の内側接続点に接続する第2の内側接続部と、第2の円弧状部の他端を第2の外側接続点に接続する第2の外側接続部と、を有するようにしたものである。
【0014】
(5) 本発明の第5の態様は、上述した第3または第4の態様に係る力覚センサにおいて、
基本構造体が、Z軸を回転軸として180°回転させたときの形状が回転前の形状と同一となる、180°の回転対称構造を有するようにしたものである。
【0015】
(6) 本発明の第6の態様は、上述した第2の態様に係る力覚センサにおいて、
n=3に設定し、内側部材と外側部材とが、第1の弧状アーム、第2の弧状アーム、第3の弧状アームによって接続されるようにし、
XY平面もしくはXY平面に平行な所定の平面を配置平面と定義し、この配置平面上に、第1の内側接続点、第2の内側接続点、第3の内側接続点、第1の外側接続点、第2の外側接続点、第3の外側接続点が配置され、第1の内側接続点と第1の外側接続点とを結ぶ連結直線、第2の内側接続点と第2の外側接続点とを結ぶ連結直線、第3の内側接続点と第3の外側接続点とを結ぶ連結直線が、それぞれZ軸と交差するようにしたものである。
【0016】
(7) 本発明の第7の態様は、上述した第6の態様に係る力覚センサにおいて、
第1の弧状アームが、Z軸の周囲を部分的に取り囲む第1の湾曲部と、第1の湾曲部の一端を第1の内側接続点に接続する第1の内側接続部と、第1の湾曲部の他端を第1の外側接続点に接続する第1の外側接続部と、を有し、
第2の弧状アームが、Z軸の周囲を部分的に取り囲む第2の湾曲部と、第2の湾曲部の一端を第2の内側接続点に接続する第2の内側接続部と、第2の湾曲部の他端を第2の外側接続点に接続する第2の外側接続部と、を有し、
第3の弧状アームが、Z軸の周囲を部分的に取り囲む第3の湾曲部と、第3の湾曲部の一端を第3の内側接続点に接続する第3の内側接続部と、第3の湾曲部の他端を第3の外側接続点に接続する第3の外側接続部と、を有するようにしたものである。
【0017】
(8) 本発明の第8の態様は、上述した第6または第7の態様に係る力覚センサにおいて、
基本構造体が、Z軸を回転軸として120°回転させたときの形状が回転前の形状と同一となる、120°の回転対称構造を有するようにしたものである。
【0018】
(9) 本発明の第9の態様は、上述した第2の態様に係る力覚センサにおいて、
内側部材と外側部材とが、第1〜第nの弧状アームなる合計n本の弧状アームによって接続されるようにし、
基本構造体が、Z軸を回転軸として(360/n)°回転させたときの形状が回転前の形状と同一となる、(360/n)°の回転対称構造を有するようにしたものである。
【0019】
(10) 本発明の第10の態様は、上述した第1〜第9の態様に係る力覚センサにおいて、
内側部材および外側部材が、作用する力もしくはモーメントが所定の許容範囲内である限り実質的な変形を生じない剛体によって構成されているようにしたものである。
【0020】
(11) 本発明の第11の態様は、上述した第1〜第10の態様に係る力覚センサにおいて、
Z軸を垂直軸として基本構造体の下方に配置された支持基板を更に設け、
この支持基板は、基本構造体に対向する底板部と、この底板部の周囲から上方に隆起した縁周部とを有し、
基本構造体の外側部材の下面は、縁周部の上面に固定されており、基本構造体の内側部材の下面と底板部の上面との間に空洞部が形成されており、内側部材が、この空洞部を含む周囲空間内で変位可能となるように弧状アームによって支持されているようにしたものである。
【0021】
(12) 本発明の第12の態様は、上述した第1〜第10の態様に係る力覚センサにおいて、
互いに所定間隔をおいて上下に隣接するように配置された複数m個(m≧2)の基本構造体を用意し、
この複数m個の基本構造体を、Z軸を垂直軸として上方から下方に向かって、第1〜第mの基本構造体と呼んだときに、第j(1≦j≦m−1)の基本構造体の内側部材の下面と第(j+1)の基本構造体の内側部材の上面とは接続され、第j(1≦j≦m−1)の基本構造体の外側部材の下面と第(j+1)の基本構造体の外側部材の上面とは接続されるようにし、
相互に接続されたm個の内側部材の全体が積層内側部材として機能し、相互に接続されたm個の外側部材の全体が積層外側部材として機能するようにし、
検出素子が、複数m個の基本構造体の全弧状アームもしくはその中から選択された一部の弧状アームの弾性変形を電気的に検出し、検出回路が、検出素子の検出結果に基づいて、積層内側部材および積層外側部材の一方を固定した状態において、他方に作用した所定の座標軸方向の力もしくは所定の座標軸まわりのモーメントの検出値を出力するようにしたものである。
【0022】
(13) 本発明の第13の態様は、上述した第12の態様に係る力覚センサにおいて、
第mの基本構造体の下方に配置された支持基板を更に設け、
この支持基板は、第mの基本構造体に対向する底板部と、この底板部の周囲から上方に隆起した縁周部とを有し、
第mの基本構造体の外側部材の下面は、縁周部の上面に固定されており、第mの基本構造体の内側部材の下面と底板部の上面との間に空洞部が形成されており、積層内側部材が、空洞部を含む周囲空間内で変位可能となるように弧状アームによって支持されているようにしたものである。
【0023】
(14) 本発明の第14の態様は、上述した第1〜第13の態様に係る力覚センサにおいて、
検出素子が、弧状アームの所定の測定点の変位を電気的に検出することにより、当該弧状アームの弾性変形を検出するようにしたものである。
【0024】
(15) 本発明の第15の態様は、上述した第14の態様に係る力覚センサにおいて、
検出素子が、弧状アームの所定の測定点近傍の測定対象面と、内側部材または外側部材に固定され、測定対象面に対向する対向基準面と、の距離を電気的に検出するようにしたものである。
【0025】
(16) 本発明の第16の態様は、上述した第15の態様に係る力覚センサにおいて、
弧状アームの内側面もしくは外側面の測定点近傍に脇側測定対象面を定義し、
この脇側測定対象面に対向する脇側対向基準面を有し、内側部材または外側部材に固定された固定構造体を更に設け、
検出素子が、脇側測定対象面と脇側対向基準面との距離を電気的に検出するようにしたものである。
【0026】
(17) 本発明の第17の態様は、上述した第16の態様に係る力覚センサにおいて、
内側部材もしくは弧状アームの所定箇所に付加的測定点を更に設け、内側部材もしくは弧状アームの下面における付加的測定点の近傍に下側測定対象面を定義し、
検出素子が、下側測定対象面と、外側部材に固定され下側測定対象面に対向する下側対向基準面と、の距離を電気的に検出するようにしたものである。
【0027】
(18) 本発明の第18の態様は、上述した第15〜第17の態様に係る力覚センサにおいて、
検出素子を、測定対象面に設けられた変位電極と、対向基準面に設けられた固定電極と、を有する容量素子によって構成したものである。
【0028】
(19) 本発明の第19の態様は、上述した第18の態様に係る力覚センサにおいて、
弧状アームおよび内側部材を導電性材料によって構成し、弧状アームもしくは内側部材の表面を変位電極として容量素子を構成したものである。
【0029】
(20) 本発明の第20の態様は、上述した第18の態様に係る力覚センサにおいて、
弧状アームもしくは内側部材の表面に絶縁層を介して変位電極を形成することにより、容量素子を構成したものである。
【0030】
(21) 本発明の第21の態様は、上述した第1〜第5の態様に係る力覚センサにおいて、
n=2に設定し、内側部材と外側部材とが第1の弧状アームと第2の弧状アームとによって接続されるようにし、
XY平面もしくはXY平面に平行な所定の平面を配置平面と定義し、この配置平面上に、第1の内側接続点、第2の内側接続点、第1の外側接続点、第2の外側接続点が配置されているようにし、
第1の内側接続点が、配置平面上へのY軸の負領域の投影像上もしくはその近傍に配置され、第2の内側接続点が、配置平面上へのY軸の正領域の投影像上もしくはその近傍に配置され、第1の外側接続点が、配置平面上へのY軸の正領域の投影像上もしくはその近傍に配置され、第2の外側接続点が、配置平面上へのY軸の負領域の投影像上もしくはその近傍に配置され、
右ネジをZ軸正方向に進める回転方向を左まわり方向、右ネジをZ軸負方向に進める回転方向を右まわり方向、と定義したときに、第1の弧状アームは、第1の内側接続点から第1の外側接続点に向かって、左まわり方向および右まわり方向のうちのいずれか一方の選択方向に伸び、第2の弧状アームは、第2の内側接続点から第2の外側接続点に向かって、上記選択方向と同じ方向に伸びているようにしたものである。
【0031】
(22) 本発明の第22の態様は、上述した第21の態様に係る力覚センサにおいて、
各弧状アームの中心線が配置平面上に位置するようにし、
XY平面上において、X軸を左まわり方向に45°回転させたW1軸と、Y軸を左まわり方向に45°回転させたW2軸と、を定義し、配置平面上へのW1軸の正領域の投影像と弧状アームの中心線との交点に第1の測定点を定義し、配置平面上へのW1軸の負領域の投影像と弧状アームの中心線との交点に第2の測定点を定義し、配置平面上へのW2軸の正領域の投影像と弧状アームの中心線との交点に第3の測定点を定義し、配置平面上へのW2軸の負領域の投影像と弧状アームの中心線との交点に第4の測定点を定義したときに、
検出素子が、第1〜第4の測定点の変位を電気的に検出することにより、各弧状アームの弾性変形を検出するようにしたものである。
【0032】
(23) 本発明の第23の態様は、上述した第22の態様に係る力覚センサにおいて、
検出素子が、第1の測定点近傍に配置された第1の容量素子および第2の容量素子と、第2の測定点近傍に配置された第3の容量素子および第4の容量素子と、第3の測定点近傍に配置された第5の容量素子および第6の容量素子と、第4の測定点近傍に配置された第7の容量素子および第8の容量素子と、を有しており、
第1の容量素子は、弧状アームの外側の第1の測定点近傍に配置され内側部材または外側部材に固定された第1の固定電極と、弧状アームの表面における第1の固定電極に対向する領域に形成された第1の変位電極と、によって構成され、
第2の容量素子は、弧状アームの内側の第1の測定点近傍に配置され内側部材または外側部材に固定された第2の固定電極と、弧状アームの表面における第2の固定電極に対向する領域に形成された第2の変位電極と、によって構成され、
第3の容量素子は、弧状アームの内側の第2の測定点近傍に配置され内側部材または外側部材に固定された第3の固定電極と、弧状アームの表面における第3の固定電極に対向する領域に形成された第3の変位電極と、によって構成され、
第4の容量素子は、弧状アームの外側の第2の測定点近傍に配置され内側部材または外側部材に固定された第4の固定電極と、弧状アームの表面における第4の固定電極に対向する領域に形成された第4の変位電極と、によって構成され、
第5の容量素子は、弧状アームの外側の第3の測定点近傍に配置され内側部材または外側部材に固定された第5の固定電極と、弧状アームの表面における第5の固定電極に対向する領域に形成された第5の変位電極と、によって構成され、
第6の容量素子は、弧状アームの内側の第3の測定点近傍に配置され内側部材または外側部材に固定された第6の固定電極と、弧状アームの表面における第6の固定電極に対向する領域に形成された第6の変位電極と、によって構成され、
第7の容量素子は、弧状アームの内側の第4の測定点近傍に配置され内側部材または外側部材に固定された第7の固定電極と、弧状アームの表面における第7の固定電極に対向する領域に形成された第7の変位電極と、によって構成され、
第8の容量素子は、弧状アームの外側の第4の測定点近傍に配置され内側部材または外側部材に固定された第8の固定電極と、弧状アームの表面における第8の固定電極に対向する領域に形成された第8の変位電極と、によって構成され、
検出回路が、検出素子の検出結果に基づいて、内側部材および外側部材の一方を固定した状態において、他方に作用したX軸方向の力Fx、Y軸方向の力FyおよびZ軸まわりのモーメントMzの検出値を出力するようにしたものである。
【0033】
(24) 本発明の第24の態様は、上述した第23の態様に係る力覚センサにおいて、
第1〜第4の測定点に加えて、更に、弧状アームもしくは内側部材の所定箇所に第5〜第8の測定点を付加的に定義し、第5の測定点は、配置平面上へのX軸の正領域の投影像上もしくはその近傍位置に配置され、第6の測定点は、配置平面上へのX軸の負領域の投影像上もしくはその近傍位置に配置され、第7の測定点は、配置平面上へのY軸の正領域の投影像上もしくはその近傍位置に配置され、第8の測定点は、配置平面上へのY軸の負領域の投影像上もしくはその近傍位置に配置されるようにし、
検出素子が、第5の測定点近傍に配置された第9の容量素子と、第6の測定点近傍に配置された第10の容量素子と、第7の測定点近傍に配置された第11の容量素子と、第8の測定点近傍に配置された第12の容量素子と、を更に有しており、
Z軸を垂直軸とした場合に、
第9の容量素子は、弧状アームもしくは内側部材の下方の第5の測定点近傍に配置され外側部材に固定された第9の固定電極と、弧状アームもしくは内側部材の下面における第9の固定電極に対向する領域に形成された第9の変位電極と、によって構成され、
第10の容量素子は、弧状アームもしくは内側部材の下方の第6の測定点近傍に配置され外側部材に固定された第10の固定電極と、弧状アームもしくは内側部材の下面における第10の固定電極に対向する領域に形成された第10の変位電極と、によって構成され、
第11の容量素子は、弧状アームもしくは内側部材の下方の第7の測定点近傍に配置され外側部材に固定された第11の固定電極と、弧状アームもしくは内側部材の下面における第11の固定電極に対向する領域に形成された第11の変位電極と、によって構成され、
第12の容量素子は、弧状アームもしくは内側部材の下方の第8の測定点近傍に配置され外側部材に固定された第12の固定電極と、弧状アームもしくは内側部材の下面における第12の固定電極に対向する領域に形成された第12の変位電極と、によって構成され、
検出回路が、検出素子の検出結果に基づいて、内側部材および外側部材の一方を固定した状態において、他方に作用したX軸方向の力Fx、Y軸方向の力Fy、Z軸方向の力Fz、X軸まわりのモーメントMx、Y軸まわりのモーメントMyおよびZ軸まわりのモーメントMzの検出値を出力するようにしたものである。
【0034】
(25) 本発明の第25の態様は、上述した第24の態様に係る力覚センサにおいて、
基本構造体の下方に配置された支持基板を更に設け、
この支持基板は、基本構造体に対向する底板部と、この底板部の周囲から上方に隆起した縁周部とを有し、
基本構造体の外側部材の下面は、縁周部の上面に固定されており、基本構造体の内側部材の下面と底板部の上面との間に空洞部が形成されており、内側部材が、空洞部を含む周囲空間内で変位可能となるように弧状アームによって支持されており、
第1〜第12の固定電極が、底板部の上面に固定されているようにしたものである。
【0035】
(26) 本発明の第26の態様は、上述した第24または第25の態様に係る力覚センサにおいて、
第1の弧状アームが、第1の内側接続点から第1の外側接続点に向かって左まわり方向に伸び、第2の弧状アームが、第2の内側接続点から第2の外側接続点に向かって左まわり方向に伸びており、
検出回路が、第1の容量素子の静電容量値をC1、第2の容量素子の静電容量値をC2、第3の容量素子の静電容量値をC3、第4の容量素子の静電容量値をC4、第5の容量素子の静電容量値をC5、第6の容量素子の静電容量値をC6、第7の容量素子の静電容量値をC7、第8の容量素子の静電容量値をC8、第9の容量素子の静電容量値をC9、第10の容量素子の静電容量値をC10、第11の容量素子の静電容量値をC11、第12の容量素子の静電容量値をC12、としたときに、
Fx=+C1−C2+C3−C4−C5+C6−C7+C8
Fy=+C1−C2+C3−C4+C5−C6+C7−C8
Fz=−(C9+C10+C11+C12)
Mx=−C11+C12
My=+C9−C10
Mz=+C1−C2−C3+C4+C5−C6−C7+C8
なる演算式に基づいて、X軸方向の力Fx、Y軸方向の力Fy、Z軸方向の力Fz、X軸まわりのモーメントMx、Y軸まわりのモーメントMy、Z軸まわりのモーメントMzの検出値を出力するようにしたものである。
【0036】
(27) 本発明の第27の態様は、上述した第24または第25の態様に係る力覚センサにおいて、
第1の弧状アームが、第1の内側接続点から第1の外側接続点に向かって右まわり方向に伸び、第2の弧状アームが、第2の内側接続点から第2の外側接続点に向かって右まわり方向に伸びており、
検出回路が、第1の容量素子の静電容量値をC1、第2の容量素子の静電容量値をC2、第3の容量素子の静電容量値をC3、第4の容量素子の静電容量値をC4、第5の容量素子の静電容量値をC5、第6の容量素子の静電容量値をC6、第7の容量素子の静電容量値をC7、第8の容量素子の静電容量値をC8、第9の容量素子の静電容量値をC9、第10の容量素子の静電容量値をC10、第11の容量素子の静電容量値をC11、第12の容量素子の静電容量値をC12、としたときに、
Fx=+C1−C2+C3−C4−C5+C6−C7+C8
Fy=+C1−C2+C3−C4+C5−C6+C7−C8
Fz=−(C9+C10+C11+C12)
Mx=−C11+C12
My=+C9−C10
Mz=−C1+C2+C3−C4−C5+C6+C7−C8
なる演算式に基づいて、X軸方向の力Fx、Y軸方向の力Fy、Z軸方向の力Fz、X軸まわりのモーメントMx、Y軸まわりのモーメントMy、Z軸まわりのモーメントMzの検出値を出力するようにしたものである。
【0037】
(28) 本発明の第28の態様は、上述した第1〜第5の態様に係る力覚センサを構成する基本構造体を2組と、
この2組の基本構造体の弧状アームの弾性変形を電気的に検出する検出素子と、
この検出素子の検出結果に基づいて、上記2組の基本構造体の内側部材および上記2組の基本構造体の外側部材の一方を固定した状態において、他方に作用した所定の座標軸方向の力もしくは所定の座標軸まわりのモーメントの検出値を出力する検出回路と、
を設け、
上記2組の基本構造体は、Z軸を垂直軸として上下方向に隣接するように配置されており、いずれもn=2に設定することにより、内側部材と外側部材とが第1の弧状アームと第2の弧状アームとによって接続されており、かつ、XY平面に平行な所定の平面を配置平面と定義したときに、この配置平面上に、第1の内側接続点、第2の内側接続点、第1の外側接続点、第2の外側接続点が配置されており、
上記2組の基本構造体のうちの上方に配置された一方を上段基本構造体と呼び、下方に配置された他方を下段基本構造体と呼んだ場合に、上段基本構造体の内側部材の下面と下段基本構造体の内側部材の上面との間に両者を接続する内側中間部材が設けられており、上段基本構造体の外側部材の下面と下段基本構造体の外側部材の上面との間に両者を接続する外側中間部材が設けられており、
上段基本構造体の内側部材と、内側中間部材と、下段基本構造体の内側部材は、相互に接続され、全体が積層内側部材として機能し、上段基本構造体の外側部材と、外側中間部材と、下段基本構造体の外側部材は、相互に接続され、全体が積層外側部材として機能し、
検出素子は、上段基本構造体および下段基本構造体の弧状アームの弾性変形を電気的に検出し、検出回路は、検出素子の検出結果に基づいて、積層内側部材および積層外側部材の一方を固定した状態において、他方に作用した所定の座標軸方向の力もしくは所定の座標軸まわりのモーメントの検出値を出力するようにしたものである。
【0038】
(29) 本発明の第29の態様は、上述した第28の態様に係る力覚センサにおいて、
上段基本構造体および下段基本構造体が、幾何学的に合同となる構造体であり、両者は、Z軸を共通の中心軸として配置され、かつ、下段基本構造体は上段基本構造体をZ軸を回転軸として90°回転させた向きに配置されているようにしたものである。
【0039】
(30) 本発明の第30の態様は、上述した第29の態様に係る力覚センサにおいて、
上段基本構造体として、
第1の内側接続点が、配置平面上へのY軸の負領域の投影像上もしくはその近傍に配置され、第2の内側接続点が、配置平面上へのY軸の正領域の投影像上もしくはその近傍に配置され、第1の外側接続点が、配置平面上へのY軸の正領域の投影像上もしくはその近傍に配置され、第2の外側接続点が、配置平面上へのY軸の負領域の投影像上もしくはその近傍に配置され、
右ネジをZ軸正方向に進める回転方向を左まわり方向、右ネジをZ軸負方向に進める回転方向を右まわり方向、と定義したときに、第1の弧状アームは、第1の内側接続点から第1の外側接続点に向かって、左まわり方向および右まわり方向のうちのいずれか一方の選択方向に伸び、第2の弧状アームは、第2の内側接続点から第2の外側接続点に向かって、上記選択方向と同じ方向に伸びている構造体を用い、
下段基本構造体として、
上段基本構造体と幾何学的に合同となる構造体を、Z軸を回転軸として90°回転させた向きに配置した構造体を用いるようにしたものである。
【0040】
(31) 本発明の第31の態様は、上述した第28の態様に係る力覚センサにおいて、
上段基本構造体および下段基本構造体は、幾何学的に合同となる構造体であり、両者は、Z軸を共通の中心軸として配置され、かつ、下段基本構造体は上段基本構造体をX軸もしくはY軸を回転軸として180°回転させ、更に、Z軸を回転軸として90°回転させた向きに配置されているようにしたものである。
【0041】
(32) 本発明の第32の態様は、上述した第31の態様に係る力覚センサにおいて、
上段基本構造体として、
第1の内側接続点が、配置平面上へのY軸の負領域の投影像上もしくはその近傍に配置され、第2の内側接続点が、配置平面上へのY軸の正領域の投影像上もしくはその近傍に配置され、第1の外側接続点が、配置平面上へのY軸の正領域の投影像上もしくはその近傍に配置され、第2の外側接続点が、配置平面上へのY軸の負領域の投影像上もしくはその近傍に配置され、
右ネジをZ軸正方向に進める回転方向を左まわり方向、右ネジをZ軸負方向に進める回転方向を右まわり方向、と定義したときに、第1の弧状アームは、第1の内側接続点から第1の外側接続点に向かって、左まわり方向および右まわり方向のうちのいずれか一方の選択方向に伸び、第2の弧状アームは、第2の内側接続点から第2の外側接続点に向かって、上記選択方向と同じ方向に伸びている構造体を用い、
下段基本構造体として、
上段基本構造体と幾何学的に合同となる構造体を、X軸もしくはY軸を回転軸として180°回転させ、更に、Z軸を回転軸として90°回転させた向きに配置した構造体を用いるようにしたものである。
【0042】
(33) 本発明の第33の態様は、上述した第30または第32の態様に係る力覚センサにおいて、
上段基本構造体および下段基本構造体のそれぞれについて、各弧状アームの中心線が配置平面上に位置するようにし、
上段基本構造体について、配置平面上へのX軸の正領域の投影像と弧状アームの中心線との交点に第1の測定点を定義し、配置平面上へのX軸の負領域の投影像と弧状アームの中心線との交点に第2の測定点を定義し、
下段基本構造体について、配置平面上へのY軸の正領域の投影像と弧状アームの中心線との交点に第3の測定点を定義し、配置平面上へのY軸の負領域の投影像と弧状アームの中心線との交点に第4の測定点を定義し、
検出素子が、第1〜第4の測定点の変位を電気的に検出することにより、各弧状アームの弾性変形を検出するようにしたものである。
【0043】
(34) 本発明の第34の態様は、上述した第33の態様に係る力覚センサにおいて、
検出素子が、第1の測定点近傍に配置された第1の容量素子と、第2の測定点近傍に配置された第2の容量素子と、第3の測定点近傍に配置された第3の容量素子と、第4の測定点近傍に配置された第4の容量素子と、を有しており、
第1の容量素子は、弧状アームの外側もしくは内側の第1の測定点近傍に配置され積層内側部材または積層外側部材に固定された第1の固定電極と、弧状アームの表面における第1の固定電極に対向する領域に形成された第1の変位電極と、によって構成され、
第2の容量素子は、弧状アームの外側もしくは内側の第2の測定点近傍に配置され積層内側部材または積層外側部材に固定された第2の固定電極と、弧状アームの表面における第2の固定電極に対向する領域に形成された第2の変位電極と、によって構成され、
第3の容量素子は、弧状アームの外側もしくは内側の第3の測定点近傍に配置され積層内側部材または積層外側部材に固定された第3の固定電極と、弧状アームの表面における第3の固定電極に対向する領域に形成された第3の変位電極と、によって構成され、
第4の容量素子は、弧状アームの外側もしくは内側の第4の測定点近傍に配置され積層内側部材または積層外側部材に固定された第4の固定電極と、弧状アームの表面における第4の固定電極に対向する領域に形成された第4の変位電極と、によって構成され、
検出回路が、検出素子の検出結果に基づいて、積層内側部材および積層外側部材の一方を固定した状態において、他方に作用したX軸方向の力Fx、Y軸方向の力FyおよびZ軸まわりのモーメントMzの検出値を出力するようにしたものである。
【0044】
(35) 本発明の第35の態様は、上述した第34の態様に係る力覚センサにおいて、
第1〜第4の測定点に加えて、更に、下段基本構造体の弧状アームもしくは内側部材の所定箇所に第5〜第8の測定点を定義し、第5の測定点は、下段基本構造体の配置平面上へのX軸の正領域の投影像上もしくはその近傍位置に配置され、第6の測定点は、下段基本構造体の配置平面上へのX軸の負領域の投影像上もしくはその近傍位置に配置され、第7の測定点は、下段基本構造体の配置平面上へのY軸の正領域の投影像上もしくはその近傍位置に配置され、第8の測定点は、下段基本構造体の配置平面上へのY軸の負領域の投影像上もしくはその近傍位置に配置されるようにし、
検出素子が、第5の測定点近傍に配置された第5の容量素子と、第6の測定点近傍に配置された第6の容量素子と、第7の測定点近傍に配置された第7の容量素子と、第8の測定点近傍に配置された第8の容量素子と、を更に有しており、
第5の容量素子は、下段基本構造体の弧状アームもしくは内側部材の下方の第5の測定点近傍に配置され下段基本構造体の外側部材に固定された第5の固定電極と、下段基本構造体の弧状アームもしくは内側部材の下面における第5の固定電極に対向する領域に形成された第5の変位電極と、によって構成され、
第6の容量素子は、下段基本構造体の弧状アームもしくは内側部材の下方の第6の測定点近傍に配置され下段基本構造体の外側部材に固定された第6の固定電極と、下段基本構造体の弧状アームもしくは内側部材の下面における第6の固定電極に対向する領域に形成された第6の変位電極と、によって構成され、
第7の容量素子は、下段基本構造体の弧状アームもしくは内側部材の下方の第7の測定点近傍に配置され下段基本構造体の外側部材に固定された第7の固定電極と、下段基本構造体の弧状アームもしくは内側部材の下面における第7の固定電極に対向する領域に形成された第7の変位電極と、によって構成され、
第8の容量素子は、下段基本構造体の弧状アームもしくは内側部材の下方の第8の測定点近傍に配置され下段基本構造体の外側部材に固定された第8の固定電極と、下段基本構造体の弧状アームもしくは内側部材の下面における第8の固定電極に対向する領域に形成された第8の変位電極と、によって構成され、
検出回路が、検出素子の検出結果に基づいて、積層内側部材および積層外側部材の一方を固定した状態において、他方に作用したX軸方向の力Fx、Y軸方向の力Fy、Z軸方向の力Fz、X軸まわりのモーメントMx、Y軸まわりのモーメントMyおよびZ軸まわりのモーメントMzの検出値を出力するようにしたものである。
【0045】
(36) 本発明の第36の態様は、上述した第35の態様に係る力覚センサにおいて、
下段基本構造体の下方に配置された支持基板を更に設け、
この支持基板は、下段基本構造体に対向する底板部と、この底板部の周囲から上方に隆起した縁周部とを有し、
下段基本構造体の外側部材の下面は、縁周部の上面に固定されており、下段基本構造体の内側部材の下面と底板部の上面との間に空洞部が形成されており、積層内側部材が、空洞部を含む周囲空間内で変位可能となるように弧状アームによって支持されており、
第1〜第8の固定電極が、底板部の上面に固定されているようにしたものである。
【発明の効果】
【0046】
本発明に係る力覚センサでは、内側部材と外側部材とが、少なくとも一部に弾性変形を生じる性質を有する複数n本の弧状アームによって接続される。このため、たとえば、外側部材を固定した状態において、内側部材に外力が作用すると、弧状アームに弾性変形が生じて、内側部材に変位が生じる。そして、この弧状アームの弾性変形を、検出素子によって電気的に検出することにより、作用した外力の検出が行われる。
【0047】
弧状アームは、内側部材上の接続点と外側部材上の接続点とを弧状に連結する部材であり、弧の曲がり具合を変えることにより容易に弾性変形を生じる性質を有しており、アーム部分を細くしたり薄くしたりしなくても、微小な外力に対しても十分な変形が生じる。このため、十分な堅牢性を確保しつつ、高い検出感度をもった力覚センサを提供することが可能になる。
【0048】
また、本発明に係る力覚センサを構成する基本構造体は、内側部材の周囲に外側部材を配置し、両者間に弧状アームを配置した構造を有しているため、このような基本構造体を上下に複数m個だけ積層することができる。このように、複数の基本構造体を上下に積層する構造を採用すると、力やモーメントの各軸成分の検出感度のバランスを容易に調整することが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0050】
以下、本発明を図示する実施形態に基づいて説明する。
【0051】
<<< §1. 本発明に係る力覚センサの基本構造体 >>>
はじめに、本発明に係る力覚センサの物理的な構造部分をなす基本構造体の形状およびその変形態様を、
図1〜
図10を参照しながら説明する。§2で詳述するように、本発明に係る力覚センサは、この基本構造体に、更に検出素子および検出回路を付加することにより構成される。
【0052】
図1(a) は、本発明の基本的な実施形態に係る力覚センサの基本構造体100の上面図であり、
図1(b) は、この基本構造体100の下面に支持基板200を付加することにより構成される全体構造体の側面図である。ここでは、説明の便宜上、図示のとおり、基本構造体100の中心位置に点Oをとり、この点Oを原点とするXYZ三次元直交座標系を定義する。
【0053】
具体的には、
図1(a) において、X軸は図の右方、Y軸は図の上方、Z軸は紙面垂直手前方向に向かう座標軸であり、
図1(b) において、X軸は図の右方、Y軸は紙面垂直奥方向、Z軸は図の上方に向かう座標軸である。本発明に係る力覚センサは、このようなXYZ三次元直交座標系における各座標軸方向の力および各座標軸まわりのモーメントのうち、少なくとも1軸に関する力もしくはモーメントを検出する機能を有している。
【0054】
図1(a) に示すとおり、この基本構造体100は、XYZ三次元直交座標系のZ軸上に配置された円盤状の内側部材110と、Z軸の周囲を取り囲むように配置され、内側部材110を内部に収容した円環状(リング状)の外側部材120と、内側部材110と外側部材120とを接続する役割を果たす2本の弧状アーム130,140を有している。
【0055】
図1(b) の側面図に示すとおり、内側部材110は、XY平面に平行な上面および下面を有し、Z軸が中心軸となるように配置された円盤状部材によって構成され、外側部材120は、XY平面に平行な上面および下面を有し、Z軸が中心軸となるように配置された円環状部材(ワッシャ状の部材)によって構成されており、円盤状部材110が円環状部材120の内部に収容されている状態になっている。
【0056】
2本の弧状アーム130,140は、いずれも、検出対象となる力もしくはモーメントの作用により少なくとも一部に弾性変形を生じる性質を有し、内側部材110の周囲を部分的に取り囲むように配置されている。具体的には、
図1(a) に示すとおり、第1の弧状アーム130は、内側部材110の右側の半周部分を取り囲むように配置されており、第2の弧状アーム140は、内側部材110の左側の半周部分を取り囲むように配置されている。なお、本願にいう「弧状」という文言は、必ずしも正確な「円弧」を意味するものではなく、「一般的な湾曲線」を広く含む意味で用いている。
【0057】
第1の弧状アーム130の内側端部は内側部材110上の第1の内側接続点P1に接続され、外側端部は外側部材120上の第1の外側接続点Q1に接続されている。また、第2の弧状アーム140の内側端部は内側部材110上の第2の内側接続点P2に接続され、外側端部は外側部材120上の第2の外側接続点Q2に接続されている。ここで、第1の内側接続点P1および第2の内側接続点P2は、円盤状の内側部材110の外周部の異なる位置にある点であり、第1の外側接続点Q1および第2の内側接続点Q2は、円環状の外側部材120の内周部の異なる位置にある点である。
【0058】
図1(a) に示すとおり、第1の弧状アーム130は、Z軸を中心とした円弧に沿って伸びる第1の円弧状部131と、第1の円弧状部131の一端を第1の内側接続点P1に接続する第1の内側接続部132と、第1の円弧状部131の他端を第1の外側接続点Q1に接続する第1の外側接続部133と、を有している。一方、第2の弧状アーム140は、Z軸を中心とした円弧に沿って伸びる第2の円弧状部141と、第2の円弧状部141の一端を第2の内側接続点P2に接続する第2の内側接続部142と、第2の円弧状部141の他端を第2の外側接続点Q2に接続する第2の外側接続部143と、を有している。
【0059】
図1(b) に示すとおり、Z軸を垂直軸とした場合、基本構造体100の下方には、支持基板200が配置されている。なお、本願では、基本構造体100に関しての「上下」という文言は、Z軸を垂直軸として、Z軸正方向を「上」、Z軸負方向を「下」と呼んで用いることにする。支持基板200は、基本構造体100と同じ外径を有する円盤状の基板であり、Z軸を中心軸として配置されている。支持基板200は、基本構造体100に対向する底板部210と、この底板部210の周囲から上方に隆起した縁周部220とを有している。
【0060】
この基本構造体100および支持基板200の構造は、
図2および
図3の断面図ならびに
図4の上面図を参照すると、より容易に把握できよう。
図2(a) は、
図1(a) に示す基本構造体100をXY平面で切断した横断面図であり、円盤状の内側部材110が、円環状の外側部材120の内部に、第1の弧状アーム130および第2の弧状アーム140によって支持されている状態が明瞭に示されている。
【0061】
図2(b) は、
図1(b) に示す全体構造体(基本構造体100に支持基板200を付加したもの)をXZ平面で切断した縦断面図であり、
図3は、これをYZ平面で切断した縦断面図である。図示のとおり、基本構造体100の外側部材120の下面は、支持基板200の縁周部220の上面に固定されており、基本構造体100の内側部材110の下面と底板部210の上面との間に空洞部250が形成されている。内側部材110は、この空洞部250を含む周囲空間内で変位可能となるように、2本の弧状アーム130,140によって支持されている。
【0062】
図4は、支持基板200の上面図である。ここに示す実施例の場合、円盤状の絶縁性基板の上面中央部を円形に切削することにより円柱状の空洞部250を形成し、その周囲に円環状の縁周部220を残す加工を行っている。空洞部250の下方には、円盤状の底板部210が形成されている。内側部材110は、この底板部210の上方に浮いた状態となるように、2本の弧状アーム130,140によって支持される。
【0063】
上述したとおり、2本の弧状アーム130,140は、検出対象となる力もしくはモーメントの作用により少なくとも一部に弾性変形を生じる性質を有している。このため、支持基板200およびこの支持基板200に接続された外側部材120を固定した状態において、内側部材110に外力が作用すると、2本の弧状アーム130,140に弾性変形(撓み)が生じ、内側部材110は変位することになる。もちろん、作用反作用の法則により、内側部材110を固定した状態において、支持基板200およびこの支持基板200に接続された外側部材120に外力が作用した場合も同様である。
【0064】
§2で詳述するように、本発明に係る力覚センサでは、この弧状アーム130,140に生じた弾性変形を電気的に検出する検出素子が設けられる。そして、検出回路によって、検出素子による検出結果に対して所定の演算を施すことにより、内側部材110および外側部材120の一方を固定した状態において、他方に作用した所定の座標軸方向の力もしくは所定の座標軸まわりのモーメントの検出値を出力することができる。
【0065】
なお、内側部材110および外側部材120は、作用する力もしくはモーメントが所定の許容範囲内である限り実質的な変形を生じない剛体によって構成しておくのが好ましい。そうすれば、作用した外力によって弧状アーム130,140に効率良く弾性変形を生じさせることができ、検出感度を高めることができる。
【0066】
実用上は、基本構造体100全体を金属や樹脂などの同一材料による一体構造体として構成し、弧状アーム130,140の部分を細くすることにより、内側部材110および外側部材120に比べて、十分な弾性を有するようにすればよい。たとえば、1枚の金属円盤に対して切削加工を施して基本構造体100を形成すれば、加工工程を単純化することができ、製造コストを低減させることができる。
【0067】
この場合、内側部材110および外側部材120ならびに弧状アーム130,140は、いずれも同一の金属材料によって構成されることになるが、弧状アーム130,140の部分を十分に細くすれば(検出感度に応じた寸法をもった太さに設計すればよい)、実質的に、内側部材110および外側部材120の部分を剛体として機能させ、弧状アーム130,140の部分を弾性体として機能させることができる。
【0068】
図1(a) に示す第1の内側接続点P1、第2の内側接続点P2、第1の外側接続点Q1、第2の外側接続点Q2は、いずれもXY平面上の点である。本願では、これら各接続点が配置される平面を配置平面と呼ぶことにする。§1,§2で述べる基本的実施形態に係る基本構造体100の場合、配置平面はXY平面に一致するが、§4で述べる二段積層式の実施形態の場合、配置平面はそれぞれXY平面に平行な所定平面になる。
【0069】
図1(a) に示す実施例の場合、第1の内側接続点P1と第2の内側接続点P2とを結ぶ連結直線はZ軸と交差する(すなわち、原点Oを通る)。また、第1の外側接続点Q1と第2の外側接続点Q2とを結ぶ連結直線もZ軸と交差する(すなわち、原点Oを通る)。別言すれば、第1の内側接続点P1と第2の内側接続点P2とは、原点Oに関して反対の位置にあり、第1の外側接続点Q1と第2の内側接続点Q2とは、原点Oに関して反対の位置にある。このような構成を採用することにより、図示の基本構造体100は、Z軸を回転軸として180°回転させたときの形状が回転前の形状と同一となる構造(ここでは、「180°の回転対称構造」と呼ぶ)を有していることになる。
【0070】
このように、基本構造体100が180°の回転対称構造をなすように設計しておくと、外力が作用したときに弧状アーム130,140に生じる弾性変形の態様にも座標軸に関する所定の対称性が現れることになるので、各座標軸方向の力および各座標軸まわりのモーメントを検出する際に必要な演算処理を単純化するメリットが得られる。したがって、実用上は、このような180°の回転対称構造をなすような設計を行うのが好ましい。
【0071】
続いて、
図2に示す基本構造体100について、外側部材120を固定した状態で、内側部材110に各座標軸方向の力および各座標軸まわりのモーメントが作用した場合の弧状アーム130,140の弾性変形の態様および内側部材110の傾斜の態様を、
図5〜
図10を参照して説明する。なお、
図5〜
図10は、変形状態の特徴を模式的に説明するための図であり、実際の変形態様を正確に示すものではない。
【0072】
図5は、
図2に示す基本構造体100の内側部材110にX軸正方向の力+Fxが作用したときの変形態様を示す図であり、上段の図(a) はXY平面で切断した横断面図、下段の図(b) はXZ平面で切断した縦断面図である。内側部材110にX軸正方向の力+Fxが作用すると、内側部材110は図の右方へと移動し、弧状アーム130,140には、これに応じた撓みが生じることになる。具体的には、図示のとおり、弧状アーム130,140は全体的に図の右方へと変位を生じる。
【0073】
図6は、
図2に示す基本構造体100の内側部材110にY軸正方向の力+Fyが作用したときの変形態様を示す図であり、上段の図(a) はXY平面で切断した横断面図、下段の図(b) はXZ平面で切断した縦断面図である。内側部材110にY軸正方向の力+Fyが作用すると、内側部材110は図の上方へと移動し、弧状アーム130,140には、これに応じた撓みが生じることになる。具体的には、図示のとおり、弧状アーム130,140は全体的に図の上方へと変位を生じる。
【0074】
このとき、第1の弧状アーム130に対しては、全長を縮める応力が加わるため、湾曲の程度が大きくなり、全体的に図の上方への変位を生じるとともに、X軸近傍部分が図の右方へと膨らむ変形(矢印R1参照)が生じる点は留意しておくべきである。一方、第2の弧状アーム140に対しては、全長を伸ばす応力が加わるため、湾曲の程度が小さくなり、全体的に図の上方への変位を生じるとともに、X軸近傍部分が図の右方へと逸れる変形(矢印R2参照)が生じる点も留意しておくべきである。
【0075】
図7は、
図2に示す基本構造体100の内側部材110にZ軸正方向の力+Fzが作用したときの変形態様を示す図であり、上段の図(a) はXY平面で切断した横断面図、下段の図(b) はXZ平面で切断した縦断面図である。内側部材110にZ軸正方向の力+Fzが作用すると、内側部材110は図の紙面垂直手前方向へと移動し(内側部材110内に記されている「丸に上」の記号は、紙面垂直手前方向への変位を示している)、弧状アーム130,140には、これに応じた撓みが生じることになる。具体的には、
図7(b) に示すとおり、弧状アーム130,140の内側部分は、内側部材110の図の上方への変位に引きづられて、図の上方へと変位を生じる。
【0076】
図8は、
図2に示す基本構造体100の内側部材110にX軸正まわりのモーメント+Mxが作用したときの変形態様を示す図であり、上段の図(a) はXY平面で切断した横断面図、下段の図(b) はYZ平面で切断した縦断面図である。なお、
図8(b) はXZ平面で切断した断面図ではなく、YZ平面で切断した断面図であるため、
図8(a) では、右方向がX軸正方向になっているが、
図8(b) では、右方向がY軸正方向になっている。本願では、特定の座標軸の正方向に右ネジを進める回転方向のモーメントを、当該特定の座標軸まわりの正方向のモーメントと定義している。したがって、図示の例の場合、X軸正まわりのモーメント+Mxは、
図8(b) において(X軸正方向は、紙面垂直手前方向)、反時計まわりのモーメントということになる。
【0077】
図8(a) において、内側部材110内に記されている「丸に上」の記号および「丸に下」の記号は、紙面垂直手前方向および垂直奥方向への変位を示している。内側部材110に対して、X軸正まわりのモーメント+Mxが作用すると、
図8(a) に示されている内側部材110の上半分については紙面垂直手前方向への力が加わり、下半分については紙面垂直奥方向への力が加わることになり、弧状アーム130,140には、これに応じた撓みが生じることになる。
【0078】
図9は、
図2に示す基本構造体100の内側部材110にY軸正まわりのモーメント+Myが作用したときの変形態様を示す図であり、上段の図(a) はXY平面で切断した横断面図、下段の図(b) はXZ平面で切断した縦断面図である。
図9(b) に示すとおり、Y軸正まわりのモーメント+Myは、図において時計まわりのモーメントということになる。
【0079】
図9(a) において、内側部材110内に記されている「丸に上」の記号および「丸に下」の記号は、紙面垂直手前方向および垂直奥方向への変位を示している。内側部材110に対して、Y軸正まわりのモーメント+Myが作用すると、
図9(a) に示されている内側部材110の左半分については紙面垂直手前方向への力が加わり、右半分については紙面垂直奥方向への力が加わることになり、弧状アーム130,140には、これに応じた撓みが生じることになる。
【0080】
図10は、
図2に示す基本構造体100の内側部材110にZ軸正まわりのモーメント+Mzが作用したときの変形態様を示す図であり、上段の図(a) はXY平面で切断した横断面図、下段の図(b) はXZ平面で切断した縦断面図である。
図10(a) に示すとおり、Z軸正まわりのモーメント+Mzは、図において(Z軸正方向は、紙面垂直手前方向)反時計まわりのモーメントということになる。
【0081】
内側部材110に対して、Z軸正まわりのモーメント+Mzが作用すると、内側部材110が
図10(a) において反時計まわりに回転し、弧状アーム130,140には、これに応じた撓みが生じることになる。具体的には、第1の弧状アーム130に対しては、全長を縮める応力が加わるため、湾曲の程度が大きくなり、外側へ膨らむ変形が生じることになる。同様に、第2の弧状アーム140に対しても、全長を縮める応力が加わるため、湾曲の程度が大きくなり、外側へ膨らむ変形が生じることになる。
【0082】
以上、
図2に示す基本構造体100について、外側部材120を固定した状態で、内側部材110に各座標軸方向の力+Fx,+Fy,+Fzおよび各座標軸まわりのモーメント+Mx,+My,+Mzが作用した場合の弧状アーム130,140の弾性変形の態様および内側部材110の傾斜の態様を説明した。本発明の基本的な実施形態に係る力覚センサは、弧状アーム130,140の弾性変形の態様および内側部材110の傾斜の態様を検出素子によって検出することにより、作用した力+Fx,+Fy,+Fzおよびモーメント+Mx,+My,+Mzの検出値を出力する機能を有している。この機能については、次の§2において詳述する。
【0083】
<<< §2. 基本的実施形態に係る力覚センサ >>>
本発明の基本的実施形態に係る力覚センサは、§1で述べた基本構造体100に、弧状アーム130,140の弾性変形を電気的に検出する検出素子と、この検出素子の検出結果に基づいて、内側部材110および外側部材120の一方を固定した状態において、他方に作用した所定の座標軸方向の力もしくは所定の座標軸まわりのモーメントの検出値を出力する検出回路と、を付加したものである。
【0084】
図5〜
図10を参照して説明したとおり、外力が作用したときの弧状アーム130,140の弾性変形の態様は、作用した外力の向きに応じて異なり、弾性変形の程度は、作用した外力の大きさに応じて異なる。したがって、弧状アーム130,140に生じた弾性変形を、検出素子によって電気的に検出した上で、この検出結果について検出回路による適切な処理を行えば、作用した力+Fx,+Fy,+Fzおよびモーメント+Mx,+My,+Mzの検出値を得ることができる。
【0085】
弧状アームに生じた弾性変形を電気的に検出する1つの方法として、弧状アーム表面に発生する応力を検出する方法を採ることができる。たとえば、弧状アーム表面の所定箇所にストレインゲージを貼り付けておき、このストレインゲージのゲージ抵抗を測定する方法を採れば、各部に生じた応力を電気的に検出することができ、弧状アームに生じた弾性変形の態様および大きさを把握することができる。
【0086】
ただ、ここで説明する基本的実施形態では、弧状アームの所定箇所の変位を検出する方法を採用している。すなわち、弧状アーム130,140に所定の測定点を設定し、検出素子によって、この測定点の変位を電気的に検出することにより、当該弧状アーム130,140の弾性変形を検出する方法を採っている。具体的には、検出素子によって、弧状アーム130,140の測定点近傍の測定対象面と、内側部材110または外側部材120に固定され、測定対象面に対向する対向基準面と、の距離を電気的に検出することになる。
【0087】
このように、変位を生じる測定対象面と、固定された対向基準面と、の間の距離を電気的に測定する方法としては、光学的な測定方法、磁気的な測定方法などが知られているが、最も単純な方法は、容量素子の静電容量値を利用した測定方法である。すなわち、測定対象面に設けられた変位電極と、対向基準面に設けられた固定電極と、を有する容量素子によって検出素子を構成しておけば、この容量素子の静電容量値に基づいて両電極間の距離(すなわち、測定対象面と対向基準面との間の距離)を検出することができる。これは、容量素子の静電容量値が、両電極間の距離に反比例するという物理的な性質を有しているためである。
【0088】
図11は、
図4に示す支持基板200の上面に、12枚の固定電極E1〜E12を配置した状態を示す上面図である。前述したとおり、支持基板200は、円盤状の底板部210の周囲に円環状の縁周部220を設けた構造を有しており、内部に空洞部250が形成されている。12枚の固定電極E1〜E12は、図示のとおり、底板部210の上面の所定位置に固定される。なお、ここに示す実施例の場合、支持基板200は、絶縁性材料によって構成されているため、12枚の固定電極E1〜E12を底板部210の上面に直接固定しているが、支持基板200を金属などの導電性材料によって構成した場合には、何らかの絶縁層を介して、12枚の固定電極E1〜E12を底板部210の上面に固定する必要がある。
【0089】
ここでは、固定電極E1〜E8の配置を説明する便宜上、図示のとおり、W1軸とW2軸とを定義する。これらの軸はいずれもXY平面上の軸であり、W1軸は、XY平面上において、X軸を左まわり方向(図における反時計まわり)に45°回転させた軸であり、W2軸は、XY平面上において、Y軸を左まわり方向(図における反時計まわり)に45°回転させた軸である。図示のとおり、固定電極E1,E2はW1軸の正領域に配置され、固定電極E3,E4はW1軸の負領域に配置され、固定電極E5,E6はW2軸の正領域に配置され、固定電極E7,E8はW2軸の正領域に配置されている。
【0090】
これら固定電極E1〜E8は、長方形の板をわずかに湾曲させた形状を有する同一サイズの電極であり、固定電極E1,E4,E5,E8は弧状アーム130,140の外側面(Z軸から遠い面)に対向する位置に配置され、固定電極E2,E3,E6,E7は弧状アーム130,140の内側面(Z軸に近い面)に対向する位置に配置されている。ここに示す実施例の場合、固定電極E1,E4,E5,E8は、Z軸を中心軸として第1の径をもった円柱面に沿った位置に配置されており、固定電極E2,E3,E6,E7は、Z軸を中心軸として第2の径をもった円柱面に沿った位置に配置されている。なお、固定電極E1〜E8としては、湾曲のない長方形の板をそのまま用いてもかまわない(他の実施例についても同様)。
【0091】
一方、固定電極E9〜E12は、底板部210の上面に固定された同一サイズの円盤状の電極であり、X軸およびY軸を底板部210の上面に投影した場合、固定電極E9はX軸正領域の投影像上に配置され、固定電極E10はX軸負領域の投影像上に配置され、固定電極E11はY軸正領域の投影像上に配置され、固定電極E12はY軸負領域の投影像上に配置されている。
図11において、破線の円は、内側部材110の位置を示している。固定電極E9〜E12は、いずれもこの破線の円の内側に配置されている。これは、固定電極E9〜E12が、内側部材110の下面に対向する位置に配置されていることを示している。この実施例では、各固定電極E9〜E12の中心点とZ軸との距離は同一に設定されており、各固定電極E9〜E12は、Z軸から等距離の位置に配置されている。
【0092】
図12は、
図2に示す全体構造体に、12枚の固定電極E1〜E12を配置した状態を示す縦断面図である。この縦断面図は、全体構造体を、
図11に示すW1軸に沿ったW1−Z平面で切断した断面図になっているため、4枚の固定電極E1〜E4の断面が示されている(図示の便宜上、固定電極E1〜E4は断面部分のみを図示している)。
【0093】
図12の中央奥には、固定電極E6の正面図が示されている(固定電極E5は、固定電極E6の奥に隠れている)。前述したとおり、8枚の固定電極E1〜E8は、いずれも図示されている固定電極E6と同様に、長方形状の板状電極(たとえば、金属板)であり、弧状アーム130,140の内側面もしくは外側面に対向する位置に配置されている。
【0094】
具体的には、固定電極E1は、第1の弧状アーム130の外側面に対向する位置に配置され、固定電極E2は、第1の弧状アーム130の内側面に対向する位置に配置され、固定電極E3は、第2の弧状アーム140の内側面に対向する位置に配置され、固定電極E4は、第2の弧状アーム140の外側面に対向する位置に配置されている。
【0095】
ここに示す実施例の場合、支持基板200は絶縁性材料によって構成されているが、基本構造体100は金属などの導電性材料によって構成されている。したがって、第1の弧状アーム130の表面、第2の弧状アーム140の表面、内側部材110の表面は、いずれも変位電極E0として機能する。たとえば、第1の弧状アーム130および第2の弧状アーム140の表面の、各固定電極E1〜E4の対向部分は、それぞれが変位電極E0として機能する。本願の図では、説明の便宜上、必要に応じて、これら変位電極E0を太線で示すことにする。
【0096】
図12において、第1の弧状アーム130の右側に描かれた太線は、固定電極E1に対向する変位電極E0を示しており、第1の弧状アーム130の左側に描かれた太線は、固定電極E2に対向する変位電極E0を示している。同様に、第2の弧状アーム140の右側に描かれた太線は、固定電極E3に対向する変位電極E0を示しており、第2の弧状アーム140の左側に描かれた太線は、固定電極E4に対向する変位電極E0を示している。これらの変位電極E0は、導電性材料からなる第1の弧状アーム130および第2の弧状アーム140の表面の部分領域であり、相互に導通している。したがって、各変位電極E0は電気的には単一の共通電極として機能することになる。
【0097】
図12は、全体構造体をW1−Z平面で切断した断面図であるが、W2−Z平面で切断した断面図も同様の構造になる。すなわち、固定電極E5〜E8に対向した、第1の弧状アーム130および第2の弧状アーム140の表面の部分領域が、それぞれ変位電極E0として機能することになる。なお、
図12では、固定電極E10,E11は、切断面より奥に位置する電極になるため、内側部材110には、これら固定電極E10,E11に対向する変位電極E0を示す太線が描かれていないが、実際には、内側部材110の下面の図の奥の部分に、固定電極E10,E11に対向する変位電極E0が存在することになる。
【0098】
図13(a) は、
図2に示す全体構造体に、12枚の固定電極E1〜E12を配置した状態を示す横断面図(XY平面で切断した断面図)であり、
図13(b) は、これをXZ平面で切断した縦断面図である。この図においても、各弧状アーム130,140や内側部材110の表面の、各固定電極E1〜E12の対向部分によって構成される変位電極E0を太線で示してある。また、
図13(a) には、支持基板200上に形成された4枚の固定電極E9〜E12の位置を破線で示してある。
【0099】
なお、本願の各図は、センサの設計図ではなく、発明の原理を説明するための図であるため、各部の寸法比は実寸どおりの寸法比を示すものではない。特に、個々の電極の厚みや位置は、図面上、デフォルメされたものとなっており、実寸どおりのものにはなっていない。
【0100】
図13(a) には、XY平面(配置平面)上の所定位置に、8個の測定点H1〜H8を定義した状態が示されている。具体的には、第1の測定点H1は、第1の弧状アーム130の中心線(アームの長手方向に沿って伸びる中心線)とW1軸の正領域との交点位置に定義され、第2の測定点H2は、第2の弧状アーム140の中心線とW1軸の負領域との交点位置に定義され、第3の測定点H3は、第2の弧状アーム140の中心線とW2軸の正領域との交点位置に定義され、第4の測定点H4は、第1の弧状アーム130の中心線とW2軸の負領域との交点位置に定義されている。なお、各弧状アームの中心線は、いずれも配置平面(ここに示す実施例では、XY平面)上に位置している。
【0101】
一方、第5の測定点H5は、内側部材110内のX軸の正領域上に定義され、第6の測定点H6は、内側部材110内のX軸の負領域上に定義され、第7の測定点H7は、内側部材110内のY軸の正領域上に定義され、第8の測定点H8は、内側部材110内のX軸の負領域上に定義されている。
【0102】
ここに示す実施例の場合、4個の測定点H1〜H4は、XY平面上における原点Oを中心とした同一の円の円周上の点として定義され、4個の測定点H5〜H8も、XY平面上における原点Oを中心とした同一の円の円周上の点として定義されている。各測定点を、このように対称性をもった位置に定義しておけば、各座標軸方向の力および各座標軸まわりのモーメントを求めるための演算式が単純化される。
【0103】
このように、8個の測定点H1〜H8を基準にすると、まず、W1軸に沿った位置に関しては、固定電極E1とこれに対向する変位電極(太線部分)とによって第1の測定点H1の外側近傍に配置された第1の容量素子C1が形成され、固定電極E2とこれに対向する変位電極(太線部分)とによって第1の測定点H1の内側近傍に配置された第2の容量素子C2が形成され、固定電極E3とこれに対向する変位電極(太線部分)とによって第2の測定点H2の内側近傍に配置された第3の容量素子C3が形成され、固定電極E4とこれに対向する変位電極(太線部分)とによって第2の測定点H2の外側近傍に配置された第4の容量素子C4が形成されることになる。
【0104】
また、W2軸に沿った位置に関しては、固定電極E5とこれに対向する変位電極(太線部分)とによって第3の測定点H3の外側近傍に配置された第5の容量素子C5が形成され、固定電極E6とこれに対向する変位電極(太線部分)とによって第3の測定点H3の内側近傍に配置された第6の容量素子C6が形成され、固定電極E7とこれに対向する変位電極(太線部分)とによって第4の測定点H4の内側近傍に配置された第7の容量素子C7が形成され、固定電極E8とこれに対向する変位電極(太線部分)とによって第4の測定点H4の外側近傍に配置された第8の容量素子C8が形成されることになる。
【0105】
そして、X軸に沿った位置に関しては、固定電極E9とこれに対向する変位電極(太線部分)とによって第5の測定点H5の下方に配置された第9の容量素子C9が形成され、固定電極E10とこれに対向する変位電極(太線部分)とによって第6の測定点H6の下方に配置された第10の容量素子C10が形成されることになる。また、Y軸に沿った位置に関しては、固定電極E11とこれに対向する変位電極とによって第7の測定点H7の下方に配置された第11の容量素子C11が形成され、固定電極E12とこれに対向する変位電極とによって第8の測定点H8の下方に配置された第12の容量素子C12が形成されることになる。
【0106】
このように、ここに示す実施例の場合、内側部材110、外側部材120、弧状アーム130,140が導電性材料によって構成されているため、弧状アーム130,140もしくは内側部材110の表面の一部分を、12枚の固定電極E1〜E12に対向する変位電極E0として利用することができ、12組の容量素子C1〜C12を構成することができる。
【0107】
結局、弧状アーム130,140の内側面もしくは外側面の測定点H1〜H4の近傍に脇側測定対象面(
図13(a) の太線部分)を定義すれば、8枚の固定電極E1〜E8は、この脇側測定対象面に対向する脇側対向基準面を有し、外側部材120に固定された固定構造体として機能することになり(実際には、各固定電極E1〜E8は、支持基板200を介して外側部材120に間接的に固定されている)、8組の容量素子C1〜C8は、脇側測定対象面と脇側対向基準面との距離を電気的に検出する検出素子としての役割を果たすことになる。
【0108】
また、内側部材110の所定箇所には、付加的測定点H5〜H8が定義されている。そして、内側部材110の下面における付加的測定点H5〜H8の近傍に下側測定対象面(
図13(b) の太線部分)を定義すれば、4枚の固定電極E9〜E12は、この下側測定対象面に対向する下側対向基準面を有し、外側部材120に固定された固定構造体として機能することになり(実際には、各固定電極E9〜E12は、支持基板200を介して外側部材120に間接的に固定されている)、4組の容量素子C9〜C12は、下側測定対象面と下側対向基準面との距離を電気的に検出する検出素子としての役割を果たすことになる。
【0109】
このように、8枚の固定電極E1〜E8とこれらに対向する変位電極とによって構成される容量素子C1〜C8は、測定点H1〜H4の径方向(W1軸もしくはW2軸に沿った方向)の変位検出を行う機能を有しているが、当該検出結果は、測定点H1〜H4の上下方向(Z軸方向)の変位の影響を受けることはない。同様に、4枚の固定電極E9〜E12とこれらに対向する変位電極とによって構成される容量素子C9〜C12は、測定点H5〜H8の上下方向(Z軸方向)の変位検出を行う機能を有しているが、当該検出結果は、測定点H5〜H8の水平方向(XY平面に平行な方向)の変位の影響を受けることはない。その理由は、次のとおりである。
【0110】
いま、
図14に示すような一対の対向電極Ea,Ebから構成される容量素子の静電容量値を考えてみよう。この例の場合、両電極Ea,Ebは、いずれも矩形の板状電極であるが、電極Eaの縦および横のサイズは、電極Ebの縦および横のサイズよりも大きくなっている。しかも、両電極Ea,Ebは、それぞれの中心点が向かい合う位置に配置されているので、電極Ebを電極Eaの形成面に投影した投影像A(正射影投影像)は、電極Eaの内部に包含されている。要するに、電極Eaは、電極Ebよりも、ひとまわり大きなサイズになっている。
【0111】
この
図14に示す例の場合、破線で示す投影像Aの内部の面積が、この容量素子の有効対向面積ということになるが、両電極Ea,Ebが電極面に平行な方向に変位しても、投影像Aが電極Ea内に包含されている限り、有効対向面積は一定であるので、静電容量値に変化は生じない。したがって、たとえば、電極Ebが電極面に垂直な方向に変位した場合、電極間距離に変化が生じて静電容量値が変化することになるが、電極Ebが電極面に平行な方向に変位した場合、電極間距離は変化せず、また、投影像Aが電極Ea内に包含されている限り、有効対向面積も変化しないので、静電容量値に変化は生じない。
【0112】
したがって、
図14に示す容量素子は、両電極Ea,Ebの、電極面に垂直な方向に関する変位検出を行う機能を有しているが、当該検出結果は、両電極Ea,Ebの、電極面に平行な方向に関する変位の影響を受けることはない。
【0113】
図13に示す力覚センサにおける容量素子C9〜C12も同様の特徴を有している。すなわち、固定電極E9〜E12のサイズに比べて、変位電極E0(内側部材110の下面)のサイズの方が大きいため、測定点H5〜H8が水平方向(XY平面に平行な方向)に変位を生じたとしても、当該変位が所定の許容範囲(有効対向面積が一定に維持される範囲)である限り、静電容量値に変化は生じない。
【0114】
このように、容量素子C9〜C12を構成する固定電極E9〜E12を、対向する変位電極E0の形成面(内側部材110の下面)に投影した投影像は、当該変位電極E0の内部に包含される関係になっている。このため、容量素子C9〜C12は、測定点H5〜H8の上下方向(Z軸方向)の変位検出を行う機能を有しているが、測定点H5〜H8が水平方向に変位を生じたとしても、当該変位が所定の許容範囲内である限り、容量素子C9〜C12によって水平方向の変位が検出されることはない。別言すれば、容量素子C9〜C12の静電容量値の変化は、専ら、測定点H5〜H8の上下方向(Z軸方向)の変位を示す情報として取り扱うことが可能になる。
【0115】
続いて、容量素子C1〜C8について考えてみる。
図13(a) の横断面図に示されているように、容量素子C1〜C8は、固定電極E1〜E8と、弧状アーム130,140の表面の対向部分(太線部分)からなる変位電極E0と、によって構成される素子である。ここで、固定電極E1〜E8は、
図12の縦断面図に示されているように、支持基板200の底板部210の上面から上方へと伸びる電極である。実際には、この固定電極E1〜E8の高さは、その上端が基本構造体100の上面よりも更に上に突き出るように設定されている。したがって、基本構造体100を支持基板200の上面に接合すると、基本構造体100の上面より更に上方に、固定電極E1〜E8の上端が所定量δだけ食み出した状態になる。
【0116】
このような構成を採れば、弧状アーム130,140の測定点H1〜H4が上下方向(Z軸方向)に変位したとしても、当該変位量が上記所定量δの範囲内である限り、固定電極E1〜E8と対向電極E0(太線部分)との有効対向面積に変化は生じない。
【0117】
たとえば、
図12に太線で示した4箇所の部分を、それぞれ固定電極E1〜E4に対向する変位電極として把握すれば、これら変位電極を、対向する固定電極E1〜E4に投影した投影像は、それぞれ当該固定電極E1〜E4の内部に包含される関係になっている(固定電極E1〜E4の方が上下に広がっている)。固定電極E5〜E8についても同様である。このため、容量素子C1〜C8は、測定点H1〜H4の径方向の変位検出を行う機能を有しているが、測定点H1〜H4が上下方向(Z軸方向)に変位を生じたとしても、当該変位が所定の許容範囲内である限り、容量素子C1〜C8によって上下方向の変位が検出されることはない。同様の理由により、周方向の変位が検出されることもない。別言すれば、容量素子C1〜C8の静電容量値の変化は、専ら、測定点H1〜H4の径方向の変位を示す情報として取り扱うことが可能になる。
【0118】
図15(a) ,(b) は、このような前提において、
図13に示す力覚センサの支持基板200(外側部材120)を固定した状態で、内側部材110に対して各座標軸方向の力および各座標軸まわりのモーメントが作用したときの容量素子C1〜C12の静電容量値の変化を示すテーブルである。このテーブルで「+」は静電容量値が増加すること(両電極間距離が狭くなること)を示し、「−」は静電容量値が減少すること(両電極間距離が広くなること)を示し、「0」は静電容量値が変動しないことを示している。
【0119】
なお、テーブルの「C1〜C12」欄に付記された括弧書きは、各容量素子を構成する一対の対向電極を示している。たとえば、C1欄の(E1&E0)は、容量素子C1が一対の対向電極E1,E0で構成されることを示している。ここで、電極E1は固定電極、電極E0(弧状アームもしくは内側部材の表面の一部の領域)は変位電極である。
【0120】
前述したように、容量素子C1〜C8の静電容量値の変化は、専ら、測定点H1〜H4の径方向の変位を示し、容量素子C9〜C12の静電容量値の変化は、専ら、測定点H5〜H8の上下方向(Z軸方向)の変位を示すことになる。そして、内側部材110に対して、力+Fx,+Fy,+Fz,モーメント+Mx,+My,+Mzの6軸成分が加わったときの各弧状アーム130,140の弾性変形の態様は、
図5〜
図10に示したとおりである。これらの事実を踏まえれば、
図15のテーブルに示すような結果が得られることは容易に理解できよう。
【0121】
たとえば、力+Fxが作用した場合、各弧状アーム130,140は
図5に示すような弾性変形を生じることになり、全体的に図の右方に変位する。このため、
図13(a) に示す測定点H1〜H4も図の右方に変位し、固定電極E1,E8,E6,E3には近づくが、固定電極E2,E7,E5,E4からは遠ざかる。このため、容量素子C1,C8,C6,C3の静電容量値は増加し、容量素子C2,C7,C5,C4の静電容量値は減少する。このとき、測定点H1〜H4はZ軸方向には変位しないので、容量素子C9〜C12の静電容量値に変化は生じない。
図15(a) ,(b) のテーブルの「+Fx」の欄の結果は、このような現象に基づいて得られた結果である。
【0122】
一方、力+Fyが作用した場合、各弧状アーム130,140は
図6に示すような弾性変形を生じることになり、全体的に図の上方に変位する。このため、
図13(a) に示す測定点H1〜H4も図の上方に変位し、固定電極E1,E5,E7,E3には近づくが、固定電極E2,E6,E8,E4からは遠ざかる。このため、容量素子C1,C5,C7,C3の静電容量値は増加し、容量素子C2,C6,C8,C4の静電容量値は減少する。このとき、測定点H1〜H4はZ軸方向には変位しないので、容量素子C9〜C12の静電容量値に変化は生じない。
図15(a) ,(b) のテーブルの「+Fy」の欄の結果は、このような現象に基づいて得られた結果である。
【0123】
そして、力+Fzが作用した場合、各弧状アーム130,140は
図7に示すような弾性変形を生じることになる。すなわち、内側部材110はZ軸正方向に変位するが、弧状アーム130,140は若干傾斜するものの、測定点H1〜H4の径方向の変位は生じない。このため、容量素子C1〜C8の静電容量値に変化は生じない。ところが、内側部材110はZ軸正方向に変位するため、容量素子C9〜C12の電極間隔は広くなり、静電容量値は減少する。
図15(a) ,(b) のテーブルの「+Fz」の欄の結果は、このような現象に基づいて得られた結果である。
【0124】
一方、モーメント+Mxが作用した場合、各弧状アーム130,140は
図8に示すような弾性変形を生じることになる。すなわち、内側部材110はX軸まわりに傾斜するが、測定点H1〜H4の径方向の変位は生じない(厳密に言えば、微小な変位が生じるが、実質的に無視しうる量である)。このため、容量素子C1〜C8の静電容量値に変化は生じない。ところが、内側部材110がX軸まわりに傾斜するため、容量素子C11の電極間隔は広くなり、その静電容量値は減少し、容量素子C12の電極間隔は狭くなり、その静電容量値は増加する。このとき、容量素子C9,C10については、一部の電極間隔は広くなり、一部の電極間隔は狭くなるため、全体的には、静電容量値に変化は生じない。
図15(a) ,(b) のテーブルの「+Mx」の欄の結果は、このような現象に基づいて得られた結果である。
【0125】
また、モーメント+Myが作用した場合、各弧状アーム130,140は
図9に示すような弾性変形を生じることになる。すなわち、内側部材110はY軸まわりに傾斜するが、測定点H1〜H4の径方向の変位は生じない(厳密に言えば、微小な変位が生じるが、実質的に無視しうる量である)。このため、容量素子C1〜C8の静電容量値に変化は生じない。ところが、内側部材110がY軸まわりに傾斜するため、容量素子C9の電極間隔は狭くなり、その静電容量値は増加し、容量素子C10の電極間隔は広くなり、その静電容量値は減少する。このとき、容量素子C11,C12については、一部の電極間隔は広くなり、一部の電極間隔は狭くなるため、全体的には、静電容量値に変化は生じない。
図15(a) ,(b) のテーブルの「+My」の欄の結果は、このような現象に基づいて得られた結果である。
【0126】
最後に、モーメント+Mzが作用した場合、各弧状アーム130,140は
図10に示すような弾性変形を生じることになる。すなわち、各弧状アーム130,140はいずれも外側に膨らむので、測定点H1〜H4は外側に変位する。したがって、外側に配置された固定電極E1,E4,E5,E8には近づくが、内側に配置された固定電極E2,E3,E6,E7からは遠ざかる。このため、容量素子C1,C4,C5,C8の静電容量値は増加し、容量素子C2,C3,C6,C7の静電容量値は減少する。このとき、測定点H1〜H4はZ軸方向には変位しないので、容量素子C9〜C12の静電容量値に変化は生じない。
図15(a) ,(b) のテーブルの「+Mz」の欄の結果は、このような現象に基づいて得られた結果である。
【0127】
図15のテーブルに示すとおり、12組の容量素子C1〜C12の静電容量値(ここでは、便宜上、静電容量値も同じ符号C1〜C12で示す)の変化パターンは、6軸成分が作用した個々の場合のそれぞれで異なり、しかも作用した力やモーメントが大きくなればなるほど、静電容量値の変動量も大きくなる。そこで、検出回路により、これら静電容量値C1〜C12の測定値に基づく所定の演算を施せば、6軸成分の検出値を独立して出力することが可能になる。
【0128】
図16は、
図13に示す力覚センサに対して作用する各座標軸方向の力Fx,Fy,Fzおよび各座標軸まわりのモーメントMx,My,Mzを求める具体的な演算式を示す図である。このような演算式によって、個々の検出値が得られる理由は、
図15に示すテーブルを参照すれば理解できる。たとえば、
図15のテーブルの+Fxの行を参照すれば、「+」が記されたC1,C3,C6,C8の和と、「−」が記されたC2,C4,C5,C7の和と、の差により、+Fxの検出値が得られることがわかる。他の検出値についても同様である。
【0129】
また、負方向の力−Fx,−Fy,−Fzおよび負まわりのモーメント−Mx,−My,−Mzが作用した場合は、
図15のテーブルにおける「+」と「−」とが逆転するので、
図16に示す演算式をそのまま利用すれば、各検出値を負の値として得ることができる。この
図16に示す6軸成分の演算式は、他軸成分の干渉を受けないので、6軸成分についての各検出値を独立して得ることができる。たとえば、+Fyが作用した場合、C1,C3,C5,C7は増加し、C2,C4,C6,C8は減少するが、FxやMzについての演算式では、これらの増加および減少成分は互いにキャンセルされるので、FxやMzについての検出値にFyの成分が含まれることはない。その他の軸成分についても、同様に、干渉が生じることはない。
【0130】
図16に示すとおり、力Fz以外の演算式は、2組の容量値についての差分を求める形式になっている。このような差分検出は、温度環境の変化により基本構造部が膨張もしくは収縮し、対向電極間距離が変動する誤差が生じたとしても、生じた誤差を相互にキャンセルすることができるので、外乱成分を含まない正確な検出結果を得る上で好ましい。なお、Fzについても差分検出を行いたい場合は、基本構造体100の上方に天蓋基板を設け、この天蓋基板の下面に固定電極を追加し(たとえば、
図11において、XY平面を対称面として固定電極E9〜E12と対称となるような電極を形成すればよい)、内側部材110の上面の対向部分を変位電極とする容量素子を形成すればよい。当該容量素子は、測定点H5〜H8と天蓋基板の下面との距離を測定する役割を果たすので、これらの容量素子の容量値と容量素子C9〜C12の容量値との間で差分をとるようにすればよい。
【0131】
図17は、
図13に示す基本的な実施形態に係る力覚センサに用いる検出回路300および検出素子(容量素子C1〜C12)を示す図である。検出回路300は、12組の容量素子C1〜C12の静電容量値に基づく所定の演算処理(
図16の演算式に基づく演算処理)を行うことにより、Fx,Fy,Fz,Mx,My,Mzなる検出値を出力する機能を果たす。なお、ここで述べる実施例の場合、基本構造体100を金属などの導電性材料によって構成しているため、各容量素子C1〜C12の一方の電極(変位電極E0)は、基本構造体100の表面の一部によって構成される。したがって、検出回路300に対する配線は、基本構造体100の所定の配線箇所に対する1本の配線のみで十分である。
【0132】
図18は、
図13に示す力覚センサに用いる検出回路300の詳細構成を示す回路図である。この検出回路は、
図16に示す演算式に基づいて、力Fx,Fy,FzおよびモーメントMx,My,Mzの検出値を電圧値として出力する回路である。まず、12組の容量素子C1〜C12の静電容量値C1〜C12は、C/V変換器301〜312によって、それぞれ電圧値V1〜V12に変換される。続いて、加減算回路321〜326によって、それぞれ
図16に示す演算式に基づく加減算が行われ、演算結果がそれぞれFx,Fy,Mz,Mx,My,Fzの検出値として出力される。
【0133】
もちろん、この
図18に示す検出回路は一例を示すものであり、原理的に
図16の演算式に基づく検出結果が出力できれば、どのような回路を用いてもかまわない。たとえば、一対の容量素子を並列接続すれば、接続後の容量素子対の静電容量値は、個々の容量素子の静電容量値の和になるので、
図18に示す回路図において、たとえば、容量素子C1とC3とを並列接続すれば、接続後の容量素子対の静電容量値は「C1+C3」になるので、加減算回路321における「V1+V3」の演算は省略することができる。
【0134】
また、
図18は、アナログ演算器を用いた検出回路を示すものであるが、
図16に示す演算は、もちろん、デジタル演算によって行うことも可能である。たとえば、C/V変換器301〜312の後段にA/D変換器を接続すれば、静電容量値C1〜C12をそれぞれデジタル値として取り込むことができるので、マイクロコンピュータなどのデジタル回路により、
図16に示す演算を行い、各検出値をデジタル値として出力することができる。
【0135】
<<< §3. 基本的実施形態の変形例および基本技術概念 >>>
ここでは、§2で述べた本発明の基本的実施形態に係る力覚センサについて、いくつかの変形例を述べるとともに、当該実施形態の基本技術概念をまとめることにする。
【0136】
<3−1.基本的実施形態の変形例>
図19(a) は、
図13に示す基本的な実施形態の変形例に係る力覚センサの横断面図(XY平面で切断した断面図)であり、
図19(b) はこれをXZ平面で切断した断面を示す縦断面図である。
図13に示す基本的な実施形態との相違は、固定電極E9〜E12の代わりに、固定電極E9′〜E12′を設けた点だけである。
図13に示す基本的な実施形態の場合、固定電極E9〜E12を、支持基板200の底板部210上面における内側部材110の下方に配置する構成を採用していた。別言すれば、
図13に示す基本的な実施形態の場合、測定点H5〜H8(ここでは、測定点H1〜H4と区別するために、測定点H5〜H8を付加的測定点と呼ぶことにする)を、内側部材110内の所定箇所に設定していた。
【0137】
これに対して、
図19に示す変形例では、内側部材110内の付加的測定点H5〜H8の代わりに、弧状アーム130,140内に付加的測定点H5′〜H8′を設定しており、これら付加的測定点H5′〜H8′の下方位置に固定電極E9′〜E12′を設けている。すなわち、
図19(a) に示すとおり、第1の測定点H1〜第4の測定点H4については、
図13に示す基本的な実施形態と同じ位置に定義されているが、第5の測定点H5′は、第1の弧状アーム130の円弧状部131の中心線とX軸の正領域との交点位置に定義され、第6の測定点H6′は、第2の弧状アーム140の円弧状部141の中心線とX軸の負領域との交点位置に定義されている。一方、第7の測定点H7′は、第2の弧状アーム140の内側接続部142の外側端の位置に定義され、第8の測定点H8′は、第1の弧状アーム130の内側接続部132の外側端の位置に定義されている。
【0138】
そして、固定電極E9′〜E12′は、支持基板200の底板部210上面における、各付加的測定点H5′〜H8′の下方位置に配置されている。
図19(a) には、4枚の固定電極E9′〜E12′の位置が破線の円で描かれている。これらの各円は、図面上、各付加的測定点H5′〜H8′を中心点とした円になる。
【0139】
図19(b) には、付加的測定点H5′の下方に円盤状の固定電極E9′が配置され、付加的測定点H6′の下方に円盤状の固定電極E10′が配置されている状態が示されている。第1の弧状アーム130の下面における固定電極E9′の対向部分(太線部分)は変位電極として機能し、相互に対向する一対の電極により第9の容量素子C9′が形成される。また、第2の弧状アーム140の下面における固定電極E10′の対向部分(太線部分)は変位電極として機能し、相互に対向する一対の電極により第10の容量素子C10′が形成される。同様に、固定電極E11′とこれに対向する変位電極によって第11の容量素子C11′が形成され、固定電極E12′とこれに対向する変位電極によって第12の容量素子C12′が形成される。
【0140】
この
図19に示す変形例における容量素子C9′〜C12′の機能は、
図13に示す基本的な実施形態における容量素子C9〜C12の機能と全く同じであり、静電容量値の増減態様は、
図15(b) に示す容量素子C9〜C12の態様と変わりはない。したがって、容量素子C9〜C12の代わりに、容量素子C9′〜C12′を用いた変形例でも、Fx,Fy,Fz,Mx,My,Mzの6軸成分を独立して検出することができる。
【0141】
なお、
図19(a) に示す変形例の場合、付加的測定点H5′およびH6′は正確にX軸上の点になっているが、付加的測定点H7′およびH8′はY軸から若干外れた位置の点になっている。このため、たとえば、
図19(b) に示す固定電極E11′は、中心から若干左方向にずれた位置に配置されている。もちろん、検出感度をできるだけ高めるという観点では、付加的測定点H5′およびH6′をX軸上の点として定義し、付加的測定点H7′およびH8′をY軸上の点として定義するのが好ましいが、実用上は、図示の例のように、各軸の近傍位置であれば、各軸から若干外れた位置に定義しても、補正演算を行うことにより補正が可能であるため問題はない。
【0142】
図13に示す基本的な実施形態における容量素子C9〜C12の役割は、
図15(b) のテーブルに示されているとおり、力FzおよびモーメントMx,Myを検出することにある。このような役割を果たす上では、容量素子C9〜C12は、必ずしも内側部材110の下方に設ける必要はなく、弧状アーム130,140の下方に設けてもかまわない。
図19に示す変形例は、このような観点から、内側部材110の下方に設けられている容量素子C9〜C12の代わりに、弧状アーム130,140の下方に設けられている容量素子C9′〜C12′を用いるようにした例である。
【0143】
なお、これまでの実施例では、固定電極E1〜E8を支持基板200の底板部210上に固定した例を示した。支持基板200は外側部材120に固定されているので、結局、これまでの実施例は、固定電極E1〜E8を外側部材120に固定した例ということができる。
【0144】
これに対して、固定電極E1〜E8を内側部材110に固定した変形例も可能である。弧状アーム130,140は、内側部材110と外側部材120とを接続する部材であり、弧状アーム130,140が弾性変形を生じた場合、内側部材110に対しても変位するし、外側部材120に対しても変位することになる。したがって、固定電極E1〜E8を内側部材110に固定した場合でも、弧状アーム130,140の弾性変形を容量素子E1〜E8の静電容量値の変化として検出することが可能である。
【0145】
以上、
図1に示すように、特定の構造をもった基本構造体100をXYZ三次元直交座標系に対して特定の向きに配置した実施例を述べてきたが、もちろん、基本構造体100の配置は、必ずしも
図1に示す向きに限定されるものではない。たとえば、
図1に示す基本構造体100をZ軸を回転軸として時計まわり、あるいは反時計まわりに90°回転させた配置を採用することも可能である。この場合、X軸とY軸が入れ替わったり、座標軸の正負の方向が入れ替わったりするため、静電容量値の変化態様は、
図15のテーブルに示すものとは若干異なったものになる。
【0146】
また、
図1に示す基本構造体100をX軸もしくはY軸を回転軸として180°回転させた配置を採用することも可能である。別言すれば、基本構造体100を裏返して配置した変形例ということになる。このような変形例では、Z軸の正負の向きが逆転するため、
図15(a) のテーブルの「+Mz」の欄の符号が逆転することになり、
図16のMzの式の右辺の各項の符号も逆転することになる。
【0147】
更に、弧状アームの本数を3本以上にする変形例も可能である。
図20は、3本の弧状アームを有する基本構造体400の横断面図(XY平面で切断した断面を示す)である。この変形例に係る基本構造体400は、内側部材410と外側部材420との間を、3本の弧状アーム430,440,450で接続した形態を採るものである。
【0148】
内側部材410は、これまで述べてきた実施例における内側部材110と同じくZ軸を中心軸として配置された円盤状の部材であり、その外周部には、図示のとおり、第1の内側接続点P1、第2の内側接続点P2、第3の内側接続点P3が定義されている。一方、外側部材420は、これまで述べてきた実施例における外側部材120と同じくZ軸を中心軸として配置された円環状の部材であり、その内周部には、図示のとおり、第1の外側接続点Q1、第2の外側接続点Q2、第3の外側接続点Q3が定義されている。
【0149】
これら各接続点P1,P2,P3,Q1,Q2,Q3は、いずれもXY平面上の点であり、第1の弧状アーム430は、第1の内側接続点P1と第1の外側接続点Q1とを接続し、第2の弧状アーム440は、第2の内側接続点P2と第2の外側接続点Q2とを接続し、第3の弧状アーム450は、第3の内側接続点P3と第3の外側接続点Q3とを接続している。もちろん、これら3本の弧状アーム430,440,450は、検出対象となる力もしくはモーメントの作用により少なくとも一部に弾性変形を生じる性質を有しており、図示のとおり、内側部材410の周囲を部分的に取り囲むように配置されている。
【0150】
なお、
図1に示す基本構造体100を構成する第1の弧状アーム130および第2の弧状アーム140の円弧状部131,141は、Z軸を中心とした正確な円弧に沿って伸びる構造物であるのに対して、
図20に示す基本構造体400を構成する3本の弧状アーム430,440,450は、Z軸を中心とした円弧ではなく、当該円弧の近傍に沿って伸びる渦巻状の湾曲部によって構成されている。このように、本発明に用いる「弧状アーム」とは、必ずしも正確な円弧に沿ったアームである必要はなく、内側部材の周囲を部分的に取り囲むように湾曲したアームであれば足りる。
【0151】
結局、
図20に示す基本構造体400の場合、第1の弧状アーム430が、Z軸の周囲を部分的に取り囲む第1の湾曲部と、この第1の湾曲部の一端を第1の内側接続点P1に接続する第1の内側接続部と、第1の湾曲部の他端を第1の外側接続点Q1に接続する第1の外側接続部と、を有しており、第2の弧状アーム440が、Z軸の周囲を部分的に取り囲む第2の湾曲部と、この第2の湾曲部の一端を第2の内側接続点P2に接続する第2の内側接続部と、第2の湾曲部の他端を第2の外側接続点Q2に接続する第2の外側接続部と、を有しており、第3の弧状アーム450が、Z軸の周囲を部分的に取り囲む第3の湾曲部と、この第3の湾曲部の一端を第3の内側接続点P3に接続する第3の内側接続部と、第3の湾曲部の他端を第3の外側接続点Q3に接続する第3の外側接続部と、を有している。
【0152】
もちろん、弧状アームの数は、4本以上であってもかまわない。一般論としては、内側部材と外側部材とを接続する役割を果たす複数n本(n≧2)の弧状アームが設けられており、各弧状アームが、検出対象となる力もしくはモーメントの作用により少なくとも一部に弾性変形を生じる性質を有し、内側部材の周囲を部分的に取り囲むように配置されていればよい。
【0153】
なお、これら複数n本の弧状アームによって、外側部材の内部に内側部材を安定して支持するため、個々の内側接続点は互いに異なる点となるようにし、個々の外側接続点も互いに異なる点となるようにする。すなわち、複数n本の弧状アームのうち、第i(1≦i≦n)の弧状アームの内側端部は内側部材上の第iの内側接続点に接続され、外側端部は外側部材上の第iの外側接続点に接続されており、第1〜第nの内側接続点は、内側部材上で異なる位置にある点となり、第1〜第nの外側接続点は、外側部材上で異なる位置にある点となるようにする。
【0154】
図1(a) に示す基本構造体100は、n=2に設定することにより、内側部材110と外側部材120とが第1の弧状アーム130と第2の弧状アーム140とによって接続されるようにした例である。この例の場合、XY平面を配置平面と定義すれば、この配置平面上に、第1の内側接続点P1、第2の内側接続点P2、第1の外側接続点Q1、第2の外側接続点Q2が配置されており、第1の内側接続点P1と第2の内側接続点P2とを結ぶ連結直線および第1の外側接続点Q1と第2の外側接続点Q2とを結ぶ連結直線が、それぞれZ軸と交差するようにしている。
【0155】
このような構成を採れば、基本構造体100が、Z軸を回転軸として180°回転させたときの形状が回転前の形状と同一となる、180°の回転対称構造になり、各座標軸方向の力および各座標軸まわりのモーメントを算出するための演算式を単純化するメリットが得られることは、既に述べたとおりである。また、180°の回転対称構造を採用すると、内側部材110を正反対に位置する2箇所の内側接続点P1,P2で支持することができるので、堅牢性をもった構造が実現できる。なお、§4で述べる二段積層式の実施形態の場合、XY平面の代わりに、XY平面に平行な所定の平面が配置平面になる(この点については、§4で詳述する)。
【0156】
これに対して、
図20に示す基本構造体400は、n=3に設定することにより、内側部材410と外側部材420とが、第1の弧状アーム430、第2の弧状アーム440、第3の弧状アーム450によって接続されるようにした例である。この例の場合も、XY平面を配置平面と定義すれば、この配置平面上に、第1の内側接続点P1、第2の内側接続点P2、第3の内側接続点P3、第1の外側接続点Q1、第2の外側接続点Q2、第3の外側接続点Q3が配置されている(§4で述べる二段積層式の実施形態の場合、XY平面の代わりに、XY平面に平行な所定の平面が配置平面になる)。そして、第1の内側接続点P1と第1の外側接続点Q1とを結ぶ連結直線、第2の内側接続点P2と第2の外側接続点Q2とを結ぶ連結直線、第3の内側接続点P3と第3の外側接続点Q3とを結ぶ連結直線が、それぞれZ軸と交差するようにしている。
【0157】
このような構成を採れば、基本構造体400が、Z軸を回転軸として120°回転させたときの形状が回転前の形状と同一となる、120°の回転対称構造になり、やはり、各座標軸方向の力および各座標軸まわりのモーメントを算出するための演算式を単純化することができ、また、内側部材110に対して、堅牢性をもった支持構造が実現できる。
【0158】
一般論として述べれば、内側部材と外側部材とを、第1〜第nの弧状アームなる合計n本(n≧2)の弧状アームによって接続する構成を採用する場合、基本構造体が、Z軸を回転軸として(360/n)°回転させたときの形状が回転前の形状と同一となる、(360/n)°の回転対称構造を有するようにすればよい。
【0159】
このように、本発明に係る力覚センサを構成する基本構造体において、内側部材と外側部材とを接続する弧状アームの本数nは、2以上の任意の数でかまわないが、実用上は、§1,§2で述べたように、n=2に設定して、内側部材110と外側部材120との間を、第1の弧状アーム130および第2の弧状アーム140によって接続する構成を採るのが好ましい。これは、2箇所の内側接続点P1,P2において内側部材110を支持すれば、実用上、十分堅牢な支持構造を実現することができ、構造を単純化することができるためである。しかも、§2で述べたように、検出素子(容量素子)を特定箇所に配置すれば、力およびモーメントの6軸成分を独立して検出することが可能になる。
【0160】
<3−2.基本的実施形態の基本技術概念>
ここでは、§2で述べた基本的実施形態に係る力覚センサの基本技術概念をまとめておく。なお、本願では、説明の便宜上、右ネジをZ軸正方向に進める回転方向を左まわり方向、右ネジをZ軸負方向に進める回転方向を右まわり方向、と定義することにする。たとえば、
図1(a) の上面図の場合、反時計まわりの方向が左まわり方向、時計まわりの方向が右まわり方向ということになる。
【0161】
このような定義を行った場合、
図1(a) に示す基本構造体100の第1の弧状アーム130は、第1の内側接続点P1から第1の外側接続点Q1に向かって、左まわり方向に伸び、第2の弧状アーム140は、第2の内側接続点P2から第2の外側接続点Q2に向かって、左まわり方向に伸びている。別言すれば、第1の弧状アーム130も第2の弧状アーム140も、同一の左まわり方向に伸びていることになる。
【0162】
一方、この
図1(a) に示す基本構造体100を、X軸もしくはY軸を回転軸として180°回転させて裏返しにした場合、物理的には同一の基本構造体100でありながら、上方から見たときの弧状アームの伸びる方向は逆まわりになる。すなわち、第1の弧状アーム130も第2の弧状アーム140も、右まわり方向に伸びていることになる。
【0163】
このように、第1の弧状アーム130および第2の弧状アーム140が、右まわりになるか、左まわりになるかは、XYZ三次元直交座標系に基本構造体100を表向きに配置するか、裏向きに配置するか、によって異なることになるが、どのような向きに配置したとしても、第1の弧状アーム130および第2の弧状アーム140が、同一の回転方向に伸びていることに変わりはない。もちろん、一方の弧状アームが右まわりに伸び、他方の弧状アームが左まわりに伸びているような基本構造体を用いることも可能であるが、実用上は、両弧状アームが同一の回転方向に伸びているような構造を採用した方が、狭い空間を有効利用して両弧状アームを効率的に配置することができるので好ましい。
【0164】
要するに、一般論としては、第1の弧状アーム130は、第1の内側接続点P1から第1の外側接続点Q2に向かって、左まわり方向および右まわり方向のうちのいずれか一方の選択方向に伸び、第2の弧状アーム140は、第2の内側接続点P2から第2の外側接続点Q2に向かって、上記選択方向と同じ方向に伸びているような構造を採用すればよい。
【0165】
なお、
図1(a) に示すとおり、第1の内側接続点P1は、配置平面(各接続点P1,P2,Q1,Q2が配置されている平面、これまでの実施例の場合はXY平面自身になるが、§4で述べる二段積層式の実施形態の場合、XY平面に平行な所定の平面が配置平面になる)上へのY軸の負領域の投影像上もしくはその近傍に配置され、第2の内側接続点P2は、配置平面上へのY軸の正領域の投影像上もしくはその近傍に配置され、第1の外側接続点Q1は、配置平面上へのY軸の正領域の投影像上もしくはその近傍に配置され、第2の外側接続点Q2は、配置平面上へのY軸の負領域の投影像上もしくはその近傍に配置されている。
【0166】
このような基本構造体100を用いて、X軸方向の力Fx、Y軸方向の力Fy、Z軸まわりのモーメントMzという3軸成分の検出を行うには、
図13(a) に示す4個の測定点H1〜H4を定義し、その変位を電気的に検出すればよい。
【0167】
具体的には、
図13(a) に示すように、XY平面上において、X軸を左まわり方向に45°回転させたW1軸と、Y軸を左まわり方向に45°回転させたW2軸と、を定義し、配置平面上へのW1軸の正領域の投影像と弧状アーム130の中心線との交点に第1の測定点H1を定義し、配置平面上へのW1軸の負領域の投影像と弧状アーム140の中心線との交点に第2の測定点H2を定義し、配置平面上へのW2軸の正領域の投影像と弧状アーム140の中心線との交点に第3の測定点H3を定義し、配置平面上へのW2軸の負領域の投影像と弧状アーム130の中心線との交点に第4の測定点H4を定義し、検出素子によって、各測定点H1〜H4の変位を電気的に検出することにより、各弧状アーム130,140の弾性変形を検出すればよい。
【0168】
図13に示す実施形態の場合、Fx,Fy,Mz検出用の検出素子として8組の容量素子C1〜C8が用いられている。すなわち、第1の測定点H1近傍に配置された第1の容量素子C1および第2の容量素子C2と、第2の測定点H2近傍に配置された第3の容量素子C3および第4の容量素子C4と、第3の測定点H3近傍に配置された第5の容量素子C5および第6の容量素子C6と、第4の測定点H4近傍に配置された第7の容量素子C7および第8の容量素子C8と、が設けられている。
【0169】
ここで、第1の容量素子C1は、弧状アーム130の外側の第1の測定点H1近傍に配置され外側部材120(あるいは内側部材110でもよい)に固定された第1の固定電極E1と、弧状アーム130の表面における第1の固定電極E1に対向する領域に形成された第1の変位電極E0と、によって構成され、第2の容量素子C2は、弧状アーム130の内側の第1の測定点H1近傍に配置され外側部材120(あるいは内側部材110でもよい)に固定された第2の固定電極E2と、弧状アーム130の表面における第2の固定電極E2に対向する領域に形成された第2の変位電極E0と、によって構成される。
【0170】
また、第3の容量素子C3は、弧状アーム140の内側の第2の測定点H2近傍に配置され外側部材120(あるいは内側部材110でもよい)に固定された第3の固定電極E3と、弧状アーム140の表面における第3の固定電極E3に対向する領域に形成された第3の変位電極E0と、によって構成され、第4の容量素子C4は、弧状アーム140の外側の第2の測定点H2近傍に配置され外側部材120(あるいは内側部材110でもよい)に固定された第4の固定電極E4と、弧状アーム140の表面における第4の固定電極E4に対向する領域に形成された第4の変位電極E0と、によって構成される。
【0171】
そして、第5の容量素子C5は、弧状アーム140の外側の第3の測定点H3近傍に配置され外側部材120(あるいは内側部材110でもよい)に固定された第5の固定電極E5と、弧状アーム140の表面における第5の固定電極E5に対向する領域に形成された第5の変位電極E0と、によって構成され、第6の容量素子C6は、弧状アーム140の内側の第3の測定点H3近傍に配置され外側部材120(あるいは内側部材110でもよい)に固定された第6の固定電極E6と、弧状アーム140の表面における第6の固定電極E6に対向する領域に形成された第6の変位電極E0と、によって構成される。
【0172】
最後に、第7の容量素子C7は、弧状アーム130の内側の第4の測定点H4近傍に配置され外側部材120(あるいは内側部材110でもよい)に固定された第7の固定電極E7と、弧状アーム130の表面における第7の固定電極E7に対向する領域に形成された第7の変位電極E0と、によって構成され、第8の容量素子C8は、弧状アーム130の外側の第4の測定点H4近傍に配置され外側部材120(あるいは内側部材110でもよい)に固定された第8の固定電極E8と、弧状アーム130の表面における第8の固定電極E8に対向する領域に形成された第8の変位電極E0と、によって構成される。
【0173】
検出回路300は、これら検出素子(容量素子C1〜C8)の検出結果に基づいて、内側部材110および外側部材120の一方を固定した状態において、他方に作用したX軸方向の力Fx、Y軸方向の力FyおよびZ軸まわりのモーメントMzの3軸に関する検出値を出力することができる(
図16の式Fx,Fy,Mz参照)。
【0174】
一方、上記3軸成分に加えて、更に、Z軸方向の力Fz、X軸まわりのモーメントMx、Y軸まわりのモーメントMyの3軸に関する検出値を含む合計6軸の検出値を出力するには、更に、
図13(a) に示す4個の付加的測定点H5〜H8(あるいは、
図19に示す4個の付加的測定点H5′〜H8′でもよい)を定義し、その変位を電気的に検出すればよい。
【0175】
図13に示す実施形態の場合、測定点H1〜H4に加えて、更に、内側部材110の所定箇所に第5〜第8の測定点H5〜H8を付加的に定義している。また、
図19に示す実施形態の場合、測定点H1〜H4に加えて、更に、弧状アーム130,140の所定箇所に第5〜第8の測定点H5′〜H8′を付加的に定義している。
【0176】
ここで、第5の測定点H5,H5′は、配置平面上へのX軸の正領域の投影像上もしくはその近傍位置に配置され、第6の測定点H6,H6′は、配置平面上へのX軸の負領域の投影像上もしくはその近傍位置に配置され、第7の測定点H7,H7′は、配置平面上へのY軸の正領域の投影像上もしくはその近傍位置に配置され、第8の測定点H8,H8′は、配置平面上へのY軸の負領域の投影像上もしくはその近傍位置に配置されるようにする。
【0177】
そして、検出素子として、第5の測定点H5,H5′近傍に配置された第9の容量素子C9,C9′と、第6の測定点H6,H6′近傍に配置された第10の容量素子C10,C10′と、第7の測定点H7,H7′近傍に配置された第11の容量素子C11,C11′と、第8の測定点H8,H8′近傍に配置された第12の容量素子C12,C12′と、を更に設ければよい。
【0178】
ここで、第9の容量素子C9,C9′は、内側部材110もしくは弧状アーム130の下方の第5の測定点H5,H5′近傍に配置され外側部材120に固定された第9の固定電極E9,E9′と、内側部材110もしくは弧状アーム130の下面における第9の固定電極E9,E9′に対向する領域に形成された第9の変位電極E0と、によって構成され、第10の容量素子C10,C10′は、内側部材110もしくは弧状アーム140の下方の第6の測定点H6,H6′近傍に配置され外側部材120に固定された第10の固定電極E10,E10′と、内側部材110もしくは弧状アーム140の下面における第10の固定電極E10,E10′に対向する領域に形成された第10の変位電極E0と、によって構成される。
【0179】
同様に、第11の容量素子C11,C11′は、内側部材110もしくは弧状アーム140の下方の第7の測定点H7,H7′近傍に配置され外側部材120に固定された第11の固定電極E11,E11′と、内側部材110もしくは弧状アーム140の下面における第11の固定電極E11,E11′に対向する領域に形成された第11の変位電極E0と、によって構成され、第12の容量素子C12,C12′は、内側部材110もしくは弧状アーム130の下方の第8の測定点H8,H8′近傍に配置され外側部材120に固定された第12の固定電極E12,E12′と、内側部材110もしくは弧状アーム130の下面における第12の固定電極E12,E12′に対向する領域に形成された第12の変位電極E0と、によって構成される。
【0180】
検出回路300は、これら検出素子(容量素子C1〜C12)の検出結果に基づいて、内側部材110および外側部材120の一方を固定した状態において、他方に作用したX軸方向の力Fx、Y軸方向の力Fy、Z軸方向の力Fz、X軸まわりのモーメントMx、Y軸まわりのモーメントMyおよびZ軸まわりのモーメントMzの検出値を出力することができる。
【0181】
図1(a) に示すように、第1の弧状アーム130が、第1の内側接続点P1から第1の外側接続点Q2に向かって左まわり方向に伸び、第2の弧状アーム140が、第2の内側接続点P2から第2の外側接続点Q2に向かって左まわり方向に伸びている基本構造体100を用いている場合、検出回路300は、
図16に示すとおり、
Fx=+C1−C2+C3−C4−C5+C6−C7+C8
Fy=+C1−C2+C3−C4+C5−C6+C7−C8
Fz=−(C9+C10+C11+C12)
Mx=−C11+C12
My=+C9−C10
Mz=+C1−C2−C3+C4+C5−C6−C7+C8
なる演算式に基づいて、X軸方向の力Fx、Y軸方向の力Fy、Z軸方向の力Fz、X軸まわりのモーメントMx、Y軸まわりのモーメントMy、Z軸まわりのモーメントMzの検出値を出力することができる。
【0182】
これに対して、第1の弧状アーム130が、第1の内側接続点P1から第1の外側接続点Q2に向かって右まわり方向に伸び、第2の弧状アーム140が、第2の内側接続点P2から第2の外側接続点Q2に向かって右まわり方向に伸びている基本構造体(
図1(a) に示す基本構造体100を裏返しにした構造体)を用いている場合、Z軸方向の正負が逆転するため、上記式におけるMzの式を、
Mz=−C1+C2+C3−C4−C5+C6+C7−C8
と反転させればよい。
【0183】
<<< §4. 二段積層式の実施形態 >>>
ここでは、基本構造体を2組用いた二段積層式の実施形態を説明する。
【0184】
<4−1.基本構造体の4つのバリエーション>
図21(a) は、この二段積層式の実施形態に係る力覚センサに用いる基本構造体100Lの横断面図(XY平面で切断した断面を示す)であり、
図21(b) は、これをXZ平面で切断した側断面図である。
【0185】
この基本構造体100Lは、基本的には、
図1に示されている基本構造体100と同じ機能を果たす構成要素であり、両者の相違は、2本の弧状アームの接続位置が若干異なっている点だけである。そこで、両者の対応関係が明確になるように、
図21に示す基本構造体100Lの各構成要素には、
図1に示されている基本構造体100の対応する構成要素の符号の末尾にLを付した符号を用いている。
【0186】
具体的には、基本構造体100Lは、Z軸を中心軸として配置された円盤状部材によって構成される内側部材110Lと、Z軸を中心軸として配置された円環状部材によって構成される外側部材120Lと、これら両者を接続する第1の弧状アーム部130Lおよび第2の弧状アーム部140Lと、を有している。
【0187】
ここで、XY平面を配置平面と定義すると、この配置平面上に、第1の内側接続点P1、第2の内側接続点P2、第1の外側接続点Q1、第2の外側接続点Q2が配置されており、第1の内側接続点P1と第2の内側接続点P2と結ぶ連結直線(この例の場合はY軸に一致する)および第1の外側接続点Q1と第2の外側接続点Q2とを結ぶ連結直線は、それぞれZ軸と交差する。
図1に示す基本構造体100と比較すると、
図21に示す基本構造体100Lでは、第1の内側接続点P1および第2の内側接続点P2がY軸上に配置され、第1の外側接続点Q1および第2の外側接続点Q2は、Y軸から若干離れた位置に配置されている。
【0188】
第1の弧状アーム130Lは、第1の内側接続点P1と第1の外側接続点Q1とを接続する役割を果たし、Z軸を中心とした円弧に沿って伸びる第1の円弧状部131Lと、第1の円弧状部131Lの一端を第1の内側接続点P1に接続する第1の内側接続部132Lと、第1の円弧状部131Lの他端を第1の外側接続点Q1に接続する第1の外側接続部133Lと、を有している。同様に、第2の弧状アーム140Lは、第2の内側接続点P2と第2の外側接続点Q2とを接続する役割を果たし、Z軸を中心とした円弧に沿って伸びる第2の円弧状部141Lと、第2の円弧状部141Lの一端を第2の内側接続点P2に接続する第2の内側接続部142Lと、第2の円弧状部141Lの他端を第2の外側接続点Q2に接続する第2の外側接続部143Lと、を有している。
【0189】
また、点G1はX軸正領域上の点、点G2はX軸負領域上の点、点G3はY軸正領域上の点、点G4はY軸負領域上の点であり、ここでは、これら4点G1〜G4を軸上点と呼ぶことにする。図示のとおり、この軸上点G1〜G4の近傍は空隙部になっており、後述するように、固定電極を配置するスペースが確保されている。この§4で述べる実施形態も、§2で述べた基本的実施形態と同様に、各弧状アームの弾性変形を電気的に検出する検出素子として容量素子を利用しており、軸上点G1〜G4に配置される固定電極E1〜E4が、容量素子の一方の電極を形成することになる。
【0190】
続いて、この
図21に示す基本構造体100Lを、XYZ三次元直交座標系に配置するいくつかのバリエーションを、
図22および
図23を用いて説明する。
図22(a) には、基本構造体100Lの横断面図が示され、
図22(b) には、基本構造体100Rの横断面図が示され、
図23(a) には、基本構造体100LLの横断面図が示され、
図23(b) には、基本構造体100RRの横断面図が示されている。いずれの図も、基本構造体をXY平面で切断した断面を示している。なお、いずれの図においても、XYZ三次元直交座標系の各座標軸の向きは同一であり、図の右方がX軸正方向、図の上方がY軸正方向、紙面垂直手前方向がZ軸正方向になる。
【0191】
ここに図示されている4つのバリエーション係る基本構造体100L,100R,100LL,100RRは、物理的には全く同一の構造体である。ただ、XYZ三次元直交座標系への配置態様が異なっているため、便宜上、異なる符号を付して示してある。
図22(a) に示す基本構造体100Lは、
図21(a) に示す構造体を、
図21(a) に示す態様と同一の態様で配置したものである。これに対して、
図22(b) に示す基本構造体100Rは、
図21(a) に示す構造体を裏返しにした状態(X軸もしくはY軸を回転軸として、180°回転させた状態)で配置したものである。
【0192】
既に述べたとおり、本願では、説明の便宜上、右ネジをZ軸正方向に進める回転方向を左まわり方向、右ネジをZ軸負方向に進める回転方向を右まわり方向、と定義している。したがって、
図22(a) に示す基本構造体100Lの2本の弧状アーム130L,140Lは、いずれも内側から外側に向かって左まわり方向に伸びている。基本構造体100Lの符号末尾のLは、「左まわり(Left)」の頭文字をとったものである。一方、
図22(b) に示す基本構造体100Rの2本の弧状アーム130R,140Rは、いずれも内側から外側に向かって右まわり方向に伸びている。基本構造体100Rの符号末尾のRは、「右まわり(Right)」の頭文字をとったものである。
【0193】
ここでは、
図22(a) に示すように、基本構造体100Lの第1の弧状アーム130Lの中心線とX軸の正領域との交点に第1の測定点H11を定義し、基本構造体100Lの第2の弧状アーム140Lの中心線とX軸の負領域との交点に第2の測定点H12を定義する。そして、第1の測定点H11の外側近傍に第1の固定電極E1を配置し、第2の測定点H12の外側近傍に第2の固定電極E2を配置し、これら各固定電極E1,E2と、各弧状アーム130L,140Lの外側表面の対向領域に形成された変位電極(太線部分)とによって、第1の容量素子C1および第2の容量素子C2を形成する。
【0194】
同様に、
図22(b) に示すように、基本構造体100Rの第1の弧状アーム130Rの中心線とX軸の正領域との交点に第1の測定点H11を定義し、基本構造体100Rの第2の弧状アーム140Rの中心線とX軸の負領域との交点に第2の測定点H12を定義する。そして、第1の測定点H11の外側近傍に第1の固定電極E1を配置し、第2の測定点H12の外側近傍に第2の固定電極E2を配置し、これら各固定電極E1,E2と、各弧状アーム130R,140Rの外側表面の対向領域に形成された変位電極(太線部分)とによって、第1の容量素子C1および第2の容量素子C2を形成する。
【0195】
一方、
図23(a) に示す基本構造体100LLは、
図22(a) に示す基本構造体100Lを左まわり(右まわりでも実質的には同じ)に90°回転させて配置したものであり、
図23(b) に示す基本構造体100RRは、
図22(b) に示す基本構造体100Rを左まわり(右まわりでも実質的には同じ)に90°回転させて配置したものである。
【0196】
ここでは、
図23(a) に示すように、基本構造体100LLの第1の弧状アーム130Lの中心線とY軸の正領域との交点に第3の測定点H13を定義し、基本構造体100LLの第2の弧状アーム140Lの中心線とY軸の負領域との交点に第4の測定点H14を定義する。そして、第3の測定点H13の外側近傍に第3の固定電極E3を配置し、第4の測定点H14の外側近傍に第4の固定電極E4を配置し、これら各固定電極E3,E4と、各弧状アーム130L,140Lの外側表面の対向領域に形成された変位電極(太線部分)とによって、第3の容量素子C3および第4の容量素子C4を形成する。
【0197】
同様に、
図23(b) に示すように、基本構造体100RRの第1の弧状アーム130Rの中心線とY軸の正領域との交点に第3の測定点H13を定義し、基本構造体100RRの第2の弧状アーム140Rの中心線とY軸の負領域との交点に第4の測定点H14を定義する。そして、第3の測定点H13の外側近傍に第3の固定電極E3を配置し、第4の測定点H14の外側近傍に第4の固定電極E4を配置し、これら各固定電極E3,E4と、各弧状アーム130R,140Rの外側表面の対向領域に形成された変位電極(太線部分)とによって、第3の容量素子C3および第4の容量素子C4を形成する。
【0198】
なお、上例の場合、各固定電極E1〜E4を、各測定点H11〜H14の外側近傍に設けているが、各固定電極E1〜E4を、各測定点H11〜H14の内側近傍(各弧状アームの内側)に設けることも可能である。ただ、各固定電極E1〜E4を内側に設ける場合は、内側接続部132L,142Lの位置をずらして、相互に干渉しないように配慮することが必要になる。
【0199】
図24は、
図22および
図23に示す基本構造体100L,100R,100LL,100RRに対して力+Fx,+Fyおよびモーメント+Mzが作用したときの各容量素子C1〜C4の静電容量値の変化を示すテーブルである。いずれも外側部材120L,120Rを固定した状態において、内側部材110L,110Rに外力が作用した場合を示している。
【0200】
このテーブルで「+」もしくは「++」は静電容量値が増加すること(両電極間距離が狭くなること)を示し、「−」もしくは「−−」は静電容量値が減少すること(両電極間距離が広くなること)を示し、「0」は静電容量値が変動しないことを示している。また、「++」は「+」に比べて増加量が大きく、「−−」は「−」に比べて減少量が大きいことを示している。
【0201】
図15(a) のテーブルは、
図13(a) に示すように、W1軸およびW2軸上に配置した8枚の固定電極E1〜E8によって構成される8組の容量素子C1〜C8についての静電容量値の変化を示すものであるのに対して、
図24のテーブルは、
図21に示す軸上点G1〜G4に配置した4枚の固定電極E1〜E4によって構成される4組の容量素子C1〜C4についての静電容量値の変化を示すものである。よって、両テーブルの内容は大きく異なっているが、
図24のテーブルに示すような結果が得られることは、やはり
図5〜
図10に示す変形態様を参照すれば容易に理解できる。
【0202】
たとえば、
図22(a) に示す基本構造体100Lについて、内側部材110Lに力+Fxが作用した場合、各弧状アーム130L,140Lは
図5に示すような弾性変形を生じることになり、全体的に図の右方に変位する。したがって、
図22(a) に示す測定点H11,H12も図の右方に変位し、測定点H11は固定電極E1に近づき、測定点H12は固定電極E2から遠ざかる。このため、容量素子C1の静電容量値は大きく増加して「++」となり、容量素子C2の静電容量値は大きく減少して「−−」となる。
【0203】
一方、
図22(a) に示す基本構造体100Lについて、内側部材110Lに力+Fyが作用した場合、各弧状アーム130L,140Lは
図6に示すような弾性変形を生じることになる。すなわち、第1の弧状アーム130Lに対しては、全長を縮める応力が加わるため、湾曲の程度が大きくなり、全体的には、図の上方への変位が生じるものの、X軸近傍部分が図の右方へと若干膨らむ変形(矢印R1参照)が生じる。一方、第2の弧状アーム140Lに対しては、全長を伸ばす応力が加わるため、湾曲の程度が小さくなり、全体的には、図の上方への変位が生じるものの、X軸近傍部分が図の右方へと若干逸れる変形(矢印R2参照)が生じる。したがって、
図22(a) に示す測定点H11は固定電極E1に若干だけ近づき、測定点H12は固定電極E2から若干だけ遠ざかる。このため、容量素子C1の静電容量値は若干増加して「+」となり、容量素子C2の静電容量値は若干減少して「−」となる。
【0204】
また、
図22(a) に示す基本構造体100Lについて、内側部材110Lにモーメント+Mzが作用した場合、各弧状アーム130L,140Lは
図10に示すような弾性変形を生じることになる。すなわち、各弧状アーム130L,140Lは、若干外側へと膨らむ変形を生じる。したがって、
図22(a) に示す測定点H11は固定電極E1に若干だけ近づき、測定点H12は固定電極E2に若干だけ近づく。このため、容量素子C1の静電容量値は若干増加して「+」となり、容量素子C2の静電容量値も若干増加して「+」となる。
【0205】
以上、
図24のテーブルの「100L」の欄の結果が得られる理由を説明したが、「100R」の欄の結果が得られる理由も同様である。基本構造体100Rでは、各弧状アームの伸びる回転方向が基本構造体100Lとは逆になっているため、力+Fyが作用した場合およびモーメント+Mzが作用した場合の結果が逆転することになる。また、基本構造体100Lを90°回転させたものが基本構造体100LLであり、基本構造体100Rを90°回転させたものが基本構造体100RRであることを踏まえれば、
図24のテーブルの「100LL」の欄の結果が得られる理由や「100RR」の欄の結果が得られる理由も容易に理解できよう。
【0206】
なお、力+Fz、モーメント+Mx,+Myが作用した場合は、
図7〜
図9に示すような弾性変形が生じることになるが、各測定点H11〜H14に有意な変位は生じない。したがって、
図24の「共通」の欄に示すとおり、+Fz,+Mx,+Myの作用に対して静電容量値C1〜C4は変化しない。また、
図24のテーブルは、+Fx,+Fy,+Mzが作用したときの各静電容量値の増減を示すものであるが、もちろん、−Fx,−Fy,−Mzが作用したときの各静電容量値の増減の結果は、このテーブルに示されている符号を逆転させたものになる。
【0207】
<4−2.2組の基本構造体の組み合わせ>
図24のテーブルに示す結果を踏まえると、基本構造体100L,100R,100LL,100RRという4通りのバリエーション(前述したように、これらは物理的には同一の構造体であるが、XYZ三次元直交座標系における配置態様が異なっている)の中から、特定の2組を選択して組み合わせれば、力Fx,FyおよびモーメントMzという3軸成分を独立して検出できる。以下、その理由を説明する。
【0208】
一般に4種類の品物の中から任意の2品を選択する組み合わせは合計6通りある。したがって、100L,100R,100LL,100RRという4通りのバリエーションの中から任意の2組を選択する組み合わせは6通り存在する。ただ、4組の容量素子C1〜C4を利用することが可能な組み合わせに限定すると、4通りのみになる。
【0209】
図25は、そのような4通りの組み合わせについて、力+Fx,+Fyおよびモーメント+Mzが作用したときの各容量素子C1〜C4の静電容量値の変化を示すテーブルである。すなわち、番号1は、基本構造体100Lと100LLとの組み合わせを示し、番号2は、基本構造体100Lと100RRとの組み合わせを示し、番号3は、基本構造体100Rと100RRとの組み合わせを示し、番号4は、基本構造体100Rと100LLとの組み合わせを示している。番号1〜4のいずれも、4組の容量素子C1〜C4を利用することが可能な組み合わせである。このテーブルにおいて、各容量素子C1〜C4の静電容量値の変化を示す各符号欄は、
図24のテーブルの対応する符号欄の内容を嵌め込んだものである。
【0210】
この
図25に示すテーブルの内容を踏まえると、番号1および番号3の組み合わせについては、
図26に示す演算式による演算を行うことにより、力Fx,FyおよびモーメントMzの値をそれぞれ独立して求めることができることがわかる。
【0211】
たとえば、番号1は、基本構造体100Lと100LLとの組み合わせであるが、
図26上段に示すとおり、
Fx=(C1+C4)−(C2+C3)
Fy=(C1+C3)−(C2+C4)
Mz=C1+C2+C3+C4
なる演算式により、Fx,Fy,Mzの検出値を得ることができる。ここで、C1〜C4は、各容量素子C1〜C4の静電容量値である。
【0212】
たとえば、力+Fxのみが作用した場合、
図25のテーブルの番号1の欄の+Fxの符号欄を見ると、C1は「++」,C2は「−−」,C3は「−」,C4は「+」であるから、上掲のFxの演算式により、作用した力+Fxが検出できることがわかる。一方、力+Fyのみが作用した場合、+Fyの符号欄を見ると、C1は「+」,C2は「−」,C3は「++」,C4は「−−」であるから、上掲のFxの演算式の演算結果は0になる。また、モーメント+Mzのみが作用した場合、+Mzの符号欄を見ると、いずれも「+」であるから、上掲のFxの演算式の演算結果は0になる。
【0213】
結局、上掲のFxの演算式の演算結果は、力Fxの成分のみを含む検出値になり、検出結果に他軸成分が混入することはない。同様の理由により、上掲のFyの演算式の演算結果は、力Fyの成分のみを含む検出値になり、上掲のMzの演算式の演算結果は、モーメントMzの成分のみを含む検出値になる。このように、番号1の組み合わせであれば、
図26上段の演算式を用いた演算を行うことにより、力Fx,FyおよびモーメントMzの値をそれぞれ独立して検出できる。
【0214】
なお、ここで述べる実施例の場合、前述したとおり、基本構造体が180°の回転対称構造を有しているため、上掲の各演算式による演算によって、他軸成分が相殺されることになるが、基本構造体が対称性を有していない場合には、適宜、各静電容量値に補正係数を乗じる補正を行うようにすればよい。
【0215】
一方、番号3は、基本構造体100Rと100RRとの組み合わせであるが、
図26下段に示すとおり、
Fx=(C1+C3)−(C2+C4)
Fy=(C2+C3)−(C1+C4)
Mz=−(C1+C2+C3+C4)
なる演算式を用いた演算を行うことにより、力Fx,FyおよびモーメントMzの値をそれぞれ独立して検出できる。その理由は、
図25のテーブルの番号3の欄を参照すれば、容易に理解できよう。
【0216】
これに対して、番号2および番号4の組み合わせについては、他軸成分を排除した独立検出を行うことはできない。たとえば、番号2の組み合わせについて、
Fx=(C1+C3)−(C2+C4)
なる演算式を適用して力Fxを検出しようとした場合、力+Fxのみが作用しているのであれば、
図25のテーブルの番号2の欄の+Fxの符号欄を見ると、C1は「++」,C2は「−−」,C3は「+」,C4は「−」であるから、上掲の演算式によって、力Fxの値を得ることができる。しかしながら、力+Fyが作用している場合、
図25のテーブルの番号2の欄の+Fyの符号欄を見ると、C1は「+」,C2は「−」,C3は「++」,C4は「−−」であるから、上掲の演算式によって、力Fxの値として誤検出されてしまうことになる。
【0217】
以上のことから、この§4で述べる二段積層式の実施形態に用いる2組の基本構造体としては、番号1の組み合わせ(基本構造体100Lと100LL)もしくは番号3の組み合わせ(基本構造体100Rと100RR)が適していることになる。
【0218】
もっとも、厳密な検出精度が要求されない用途に利用される力覚センサの場合は、番号1〜4のいずれの組み合わせを用いてもかまわない。これは、
図25のテーブルにおいて、「+」または「−」が記載されている特定の符号欄を「0」と近似した取扱いが可能になるためである。もちろん、
図25のテーブルにおける「+」は静電容量値が若干増加することを示しており、「−」は静電容量値が若干減少することを示している。しかしながら、「+」が示されている欄の増加量の絶対値や「−」が示されている欄の減少量の絶対値は、「++」が示されている欄の増加量の絶対値や「−−」が示されている欄の減少量の絶対値に比べると小さい。したがって、厳密な検出精度が要求されない場合には、「+」や「−」を近似的に「0」として取り扱っても支障はない。
【0219】
図27に示すテーブルは、このような考え方に基づいて、
図25のテーブルにおいて、一部の「+」欄および一部の「−」欄を近似的に「0」に置き換えたものである。この
図27に示すテーブルを前提とすれば、番号1〜4のいずれの組み合わせについても、力Fx,FyおよびモーメントMzの値をそれぞれ独立して検出することができる。
図28は、そのような検出を行う際に用いる演算式を示す図である。
【0220】
たとえば、番号1の組み合わせ(基本構造体100Lと100LL)については、
図27に示すテーブルを前提とすれば、
Fx=C1−C2
Fy=C3−C4
Mz=C1+C2+C3+C4
なる演算式を用いた演算を行うことにより、力Fx,FyおよびモーメントMzの値をそれぞれ独立して検出できる。
【0221】
また、番号2の組み合わせ(基本構造体100Lと100RR)については、
図27に示すテーブルを前提とすれば、
Fx=C1−C2
Fy=C3−C4
Mz=C1+C2−C3−C4
なる演算式を用いた演算を行うことにより、力Fx,FyおよびモーメントMzの値をそれぞれ独立して検出できる。
【0222】
一方、番号3の組み合わせ(基本構造体100Rと100RR)については、
図27に示すテーブルを前提とすれば、
Fx=C1−C2
Fy=C3−C4
Mz=−(C1+C2+C3+C4)
なる演算式を用いた演算を行うことにより、力Fx,FyおよびモーメントMzの値をそれぞれ独立して検出できる。
【0223】
そして、番号4の組み合わせ(基本構造体100Rと100LL)については、
図27に示すテーブルを前提とすれば、
Fx=C1−C2
Fy=C3−C4
Mz=−C1−C2+C3+C4
なる演算式を用いた演算を行うことにより、力Fx,FyおよびモーメントMzの値をそれぞれ独立して検出できる。
【0224】
図27のテーブルを前提とすれば、
図28に示す各演算式によって得られる力Fx,FyおよびモーメントMzの値は、他軸成分の混入のない正しい値になる。ただ、前述したとおり、この
図27のテーブルは、本来は、「+」もしくは「−」とすべき欄を近似的に「0」に置き換えたものであるので、実際には、
図28に示す各演算式によって得られる検出値は、他軸成分の混入が生じているため、誤差を含むものになる。
【0225】
このように、
図28に示す演算式を採用して各検出値を求める方法は、
図26に示す演算式を採用して各検出値を求める方法(番号1および3の組み合わせに限定される)に比べて、他軸成分の混入に基づく誤差が生じるというデメリットがある。しかしながら、
図28に示す演算式を採用して各検出値を求める方法のうち、番号2および4の組み合わせについては、モーメントMzを差分検出できるというメリットがある。
【0226】
すなわち、
図26に示す演算式では、モーメントMzの絶対値は、「C1+C2+C3+C4」なる和によって決まるため、温度や実装時に加わる応力の影響などのノイズ成分が混入してしまう可能性がある。これに対して、
図28の番号2および4の組み合わせについては、Fx,Fy,Mzのすべての演算式が差分演算、すなわち、複数の静電容量値の差を求める演算を含んでいるため、温度や実装時に加わる応力の影響は相殺され、ノイズ成分の混入を排除できるというメリットが得られる。
【0227】
したがって、実用上は、他軸成分の混入というデメリットと、温度や実装時に加わる応力に起因したノイズ成分の混入というデメリット(モーメントMz検出に関するデメリット)とを比較して、前者のデメリットが受け入れ難い用途の場合は、番号1および3の組み合わせを採用して、
図26の演算式に基づく演算を行うようにし、後者のデメリットが受け入れ難い用途の場合は、番号2および4の組み合わせを採用して、
図28の演算式に基づく演算を行うようにすればよい。
【0228】
また、他軸成分の混入というデメリットは、必要に応じて、所定の補正演算を行うことにより排除することも可能である。したがって、他軸成分の混入の程度が、補正演算で是正可能な範囲であれば、番号2および4の組み合わせを採用して、
図28の演算式に基づく演算および補正演算を行うようにすれば、他軸成分の混入というデメリットと、温度や実装時に加わる応力に起因したノイズ成分の混入というデメリットとの双方を排除した力覚センサを実現することも可能である。
【0229】
なお、これまでの説明は、検出値に他軸成分が混入することは、検出精度を低下させるデメリットである、との前提の説明であったが、用途によっては、他軸成分の混入が問題にならないケースもある。たとえば、地震の振動エネルギーを検出する用途の場合、水平方向の力の合力のみが検出できれば十分なケースもある。このようなケースでは、力Fxと力Fyとを区別して検出する必要はないので、力Fxの検出成分に力Fyの検出成分が混入しても何ら支障は生じない。このような用途まで視野に入れた場合、利用可能な演算式は、
図26や
図28に示す演算式に限定されるものではない。
【0230】
<4−3.二段積層式の実施形態の具体的構造>
続いて、二段積層式の実施形態に係る力覚センサの具体的な構造を説明する。
図29は、この力覚センサの積層構造体を構成する4つの構成要素を分離して示した側面図である。図示のとおり、この積層構造体は、上段基本構造体100a、中間基板500、下段基本構造体100b、支持基板200という4つの構成要素を上下に積層することによって構成される。
【0231】
ここで、上段基本構造体100aおよび下段基本構造体100bは、
図22および
図23に示す4つのバリエーション係る基本構造体100L,100R,100LL,100RRの中から選択された2組の基本構造体である。4つのバリエーションの中から2組を選択する組み合わせは、
図25,
図27,
図28のテーブルに番号1〜4として示したとおりである。
【0232】
たとえば、番号1の組み合わせを採用することにすれば、基本構造体100Lと100LLとが選択されることになるので、上段基本構造体100aとして基本構造体100Lを用い、下段基本構造体100bとして基本構造体100LLを用いればよい。あるいは、上下を逆にして、上段基本構造体100aとして基本構造体100LLを用い、下段基本構造体100bとして基本構造体100Lを用いてもよい。ここでは、便宜上、上段基本構造体100aとして基本構造体100Lを用い、下段基本構造体100bとして基本構造体100LLを用いた例を代表例として、以下の説明を行うことにする。
【0233】
§4−1で述べたとおり、基本構造体100L,100R,100LL,100RRは、物理的には全く同一の構造体であり、XYZ三次元直交座標系への配置態様が異なっているだけである。したがって、
図29に示す上段基本構造体100aおよび下段基本構造体100bは、実際には、全く同一の構造体になる。別言すれば、全く同一の部品を2個用意し、向きを変えて配置すれば足りる。たとえば、番号1の組み合わせを採用した場合、
図22(a) に示す基本構造体100Lを部品として2個用意し、1個目を、
図22(a) に示す向きのまま上段基本構造体100aとして配置し、2個目は、これをZ軸まわりに90°回転させて
図23(a) に示す向きに修正し、下段基本構造体100bとして配置すればよい。
【0234】
なお、この二段積層式の実施形態を示す図では、便宜上、上段基本構造体100aの構造を説明するための座標系として、原点OaをもつXaYaZ三次元直交座標系を用い、下段基本構造体100bの構造を説明するための座標系として、原点ObをもつXbYbZ三次元直交座標系を用い、積層構造体の全体構造を説明するための座標系として、原点OをもつXYZ三次元直交座標系を用いることにする。なお、Z軸は積層構造体の中心軸であるため、原点の位置は異なるものの、便宜上、いずれの座標系でも共通の軸として取り扱う。
【0235】
ここで述べる代表例の場合、上段基本構造体100aとして基本構造体100Lを用い、下段基本構造体100bとして基本構造体100LLを用いているので、基本構造体100Lについては、
図22(a) に示す原点O,X軸,Y軸を、それぞれ原点Oa,Xa軸,Ya軸と読み替え、基本構造体100LLについては、
図23(a) に示す原点O,X軸,Y軸を、それぞれ原点Ob,Xb軸,Yb軸と読み替える必要がある。
【0236】
図29に示すとおり、上段基本構造体100aについてのXaYaZ三次元直交座標系、積層構造体全体についてのXYZ三次元直交座標系、下段基本構造体100bについてのXbYbZ三次元直交座標系は、いずれもZ軸を共通軸としているため、原点Oa,O,Obは、いずれもこの共通Z軸上に位置することになり、XaYa平面、XY平面、XbYb平面は、互いに平行な平面になる。
【0237】
図30は、
図29に示す4つの構成要素100a,500,100b,200を積層して積層構造体を構成した状態を示す側面図である。この状態においても、Z軸が共通軸となり、XaYa平面、XY平面、XbYb平面が、互いに平行な平面になる点に変わりはない。なお、積層構造体全体についてのXYZ三次元直交座標系の原点Oは、中間基板500の中心点に定義される。
【0238】
図31は、
図30に示す中間基板500をXY平面で切断した状態を示す横断面図である。図示のとおり、中間基板500は、内側中間部材510と外側中間部材520と、によって構成されている。内側中間部材510は、その上下に配置された内側部材を相互に接続するための部材であり、内側部材と同サイズの円盤状の部材である。一方、外側中間部材520は、その上下に配置された外側部材を相互に接続するための部材であり、外側部材と同サイズの円環状の部材である。なお、支持基板200は、§1で述べた支持基板200と全く同一の構造体であり、その上面図は、
図4に示したとおりである。
【0239】
図32は、
図30に示す積層構造体をXZ平面で切断した状態を示す縦断面図である。図示のとおり、上段基本構造体100aの内側部材110aの下面に内側中間部材510の上面が接合され、下段基本構造体100bの内側部材110b(左右は、弧状アーム130b,140bに連なっている)の上面に内側中間部材510の下面が接合されている。また、上段基本構造体100aの外側部材120aの下面に外側中間部材520の上面が接合され、下段基本構造体100bの外側部材120bの上面に外側中間部材520の下面が接合されている。そして、下段基本構造体100bの外側部材120bの下面は、支持基板200の縁周部220の上面に接合されている。したがって、下段基本構造体100bの内側部材110bの下面と底板部210の上面との間には、空洞部250が形成される。
【0240】
結局、
図32に示す積層構造体では、上段基本構造体100aの内側部材110a、内側中間部材510、下段基本構造体100bの内側部材110bが上下方向に3層積層した状態で相互に接合され、全体が積層内側部材として機能することになる。同様に、上段基本構造体100aの外側部材120a、外側中間部材520、下段基本構造体100bの外側部材120bが上下方向に3層積層した状態で相互に接合され、全体が積層外側部材として機能することになる。この積層外側部材は、支持基板200に接合される。
【0241】
一方、上段基本構造体100aの弧状アーム130a,140aおよび下段基本構造体100bの弧状アーム130b,140bは、それぞれ別個独立したアームとして機能する。したがって、積層内側部材と積層外側部材とは、少なくとも一部に弾性変形を生じる性質をもった4本の弧状アーム130a,140a,130b,140bによって接続されることになる。
図32に示すとおり、積層内側部材と積層外側部材との間には、空洞部250を含めた周囲空間が形成されており、積層内側部材は、外力の作用を受けたときに、この周囲空間内で変位することができる。
【0242】
外力の作用を受けた積層内側部材が変位を生じると、4本の弧状アーム130a,140a,130b,140bに弾性変形が生じることになる。そこで、この弾性変形を電気的に検出する検出素子を設けておき、この検出素子の検出結果に基づいて、外力として作用した力やモーメントを求める点は、これまで述べてきた基本的な実施形態と同様である。以下、検出素子として容量素子を用いた実施例について述べる。
【0243】
図33は、二段積層式の実施形態に係る力覚センサの支持基板200の上面に、8枚の固定電極E1〜E8を配置した状態を示す上面図である。§2で述べた実施形態の場合、
図11に示すように、支持基板200上に合計12枚の固定電極E1〜E12を設けていたが、ここで述べる二段積層式の実施形態の場合、
図33に示すように、支持基板200上に合計8枚の固定電極E1〜E8を設ければ足りる。
【0244】
まず、
図33に示す固定電極E5〜E8は、
図11に示す固定電極E9〜E12に対応する円盤状の電極であり、形状および配置は
図11に示す固定電極E9〜E12と全く同じである。すなわち、X軸およびY軸を底板部210の上面に投影した場合、固定電極E5はX軸正領域の投影像上に配置され、固定電極E6はX軸負領域の投影像上に配置され、固定電極E7はY軸正領域の投影像上に配置され、固定電極E8はY軸負領域の投影像上に配置されている。
【0245】
図に破線で示す円は、下段基本構造体100bの内側部材110bの位置を示すものであり、固定電極E5〜E8は、いずれもこの破線の円内に配置されている。これは、固定電極E5〜E8が、内側部材110bの下面に対向する位置に配置されていることを示している。この実施例では、各固定電極E5〜E8の中心点とZ軸との距離は同一に設定されており、各固定電極E5〜E8は、Z軸から等距離の位置に配置されている。
【0246】
一方、
図33に示す固定電極E1〜E4は、
図11に示す固定電極E1,E4,E5,E8と同様に、各弧状アームの外側に配置される電極であり、長方形の板をわずかに湾曲させた形状を有する同一サイズの電極である。ただ、
図11に示す固定電極E1,E4,E5,E8が、W1軸もしくはW2軸上に配置されていたのに対し、
図33に示す固定電極E1〜E4は、X軸もしくはY軸上に配置されている(正確に表現すれば、XY平面への投影像がX軸もしくはY軸上にくるような位置に配置されている)。また、
図33に示す固定電極E1〜E4は、長方形の板をわずかに湾曲させた形状を有する同一サイズの支持部材S1〜S4によって支持されている。
【0247】
ここで、支持部材S1〜S4は、底板部210の上面に、上方に伸びるように固定された絶縁性の構造体であり、その上端は、いずれも上段基本構造体100aの上面から更に上方へと突き出している。支持部材S1〜S4の具体的な配置は、
図33に示されているとおり、支持部材S1がX軸正領域、支持部材S2がX軸負領域、支持部材S3がY軸正領域、支持部材S4がY軸負領域である。ここに示す実施例の場合、支持部材S1〜S4は、Z軸を中心軸とした円柱面(各弧状アームを内包する円柱の表面)に沿った位置に配置されている。
【0248】
一方、固定電極E1〜E4は、それぞれ支持部材S1〜S4によって支持された電極であるが、その上下方向の寸法は、支持部材S1〜S4の上下方向の寸法に比べて短く設定されている。別言すれば、固定電極E1,E2は、上段基本構造体100aの弧状アーム130a,140aの側面に対向する電極として必要十分な位置に形成され、固定電極E3,E4は、下段基本構造体100bの弧状アーム130b,140bの側面に対向する電極として必要十分な位置に形成されている。その様子は、
図34に明瞭に示されている。
【0249】
図34は、
図32に示す積層構造体に、8枚の固定電極E1〜E8を配置した状態を示す縦断面図であり、XZ平面で切断した断面を示している。積層構造体が、100a,500,100b,200なる4つの構成要素を上下に積層した構造体であることは、既に述べたとおりである。
【0250】
図の右端近傍には、支持部材S1の上方近くに固定電極E1が配置された状態が示されており、図の左端近傍には、支持部材S2の上方近くに固定電極E2が配置された状態が示されている。固定電極E1は、上段基本構造体100aの弧状アーム130aの外側面に対向する位置に配置されており、弧状アーム130aの表面の対向面(太線部分)は、固定電極E1に対向する変位電極E0として機能する。同様に、固定電極E2は、上段基本構造体100aの弧状アーム140aの外側面に対向する位置に配置されており、弧状アーム140aの表面の対向面(太線部分)は、固定電極E2に対向する変位電極E0として機能する。
【0251】
ここで、固定電極E1とこれに対向する変位電極E0(太線部分)との関係および固定電極E2とこれに対向する変位電極E0(太線部分)との関係は、
図14で説明した関係になっている。
【0252】
図34の中央部の奥には、支持部材S3が描かれている。この支持部材S3は、固定電極E3を支持する部材である。固定電極E3は、下段基本構造体100bの弧状アーム130b(内側部材110bの奥に位置するアーム)の外側面に対向する位置に配置されており、図には、内側部材110bの下方に一部が覗いている状態が示されている。また、
図34には現れていないが、内側部材110bの手前側には、固定電極E4を支持するための支持部材S4が配置されている。ここで、固定電極E4は、下段基本構造体100bの弧状アーム140b(内側部材110bの手前に位置するアーム)の外側面に対向する位置に配置されている。
【0253】
弧状アーム130bの表面の固定電極E3に対向する部分は変位電極E0として機能し、弧状アーム140bの表面の固定電極E4に対向する部分も変位電極E0として機能する。ここで、固定電極E3とこれに対向する変位電極E0との関係および固定電極E4とこれに対向する変位電極E0との関係は、
図14で説明した関係になっている。
【0254】
図34には、底板部210の上面に固定された固定電極E5,E6,E7も描かれている(固定電極E8は、
図34には現れていないが、紙面の手前側に位置する)。また、
図34では、内側部材110bの下面における、固定電極E5に対向する部分および固定電極E6に対向する部分が太線で示されている。この太線部分は、それぞれ固定電極E5に対向する変位電極E0および固定電極E6に対向する変位電極E0として機能する。
【0255】
ここに示す実施例の場合、上段基本構造体100a、中間基板500、下段基本構造体100bは、いずれも金属などの導電性材料によって構成されているため、図に太線で示す変位電極E0は互いに電気的に導通しており、共通電極として機能することになる。これに対して、支持基板200は、樹脂などの絶縁性材料によって構成されているため、固定電極E5〜E8は、それぞれ電気的に独立した個別電極として機能する。もちろん、支持基板200を金属などの導電性材料によって構成することも可能であるが、その場合、固定電極E5〜E8は、底板部210の上面に絶縁層を介して固定する必要がある。
【0256】
図35(a) は、
図34に示す二段積層式の実施形態に係る力覚センサをXaYa平面で切断した状態を示す横断面図であり、
図35(b) は、これをXbYb平面で切断した状態を示す横断面図である(破線の円で示すE5〜E8は、支持基板200上に配置された各固定電極の位置を示している)。もちろん、これまで述べてきた実施例と同様に、各固定電極E1〜E8と、これらに対向する個々の変位電極E0とによって、容量素子C1〜C8が形成されることになる。
【0257】
前述したとおり、ここに示す実施例は、上段基本構造体100aとして基本構造体100Lを用い、下段基本構造体100bとして基本構造体100LLを用いた例(番号1の組み合わせ)であるため、
図35(a) に示す上段基本構造体100aは、
図22(a) に示す基本構造体100Lと同じものであり、
図35(b) に示す下段基本構造体100bは、
図23(a) に示す基本構造体100LLと同じものである。
【0258】
図35(a) に示すとおり、各弧状アーム部の外側位置のXa軸およびYa軸上には、支持部材S1〜S4が配置されている。また、
図35(b) に示すとおり、各弧状アーム部の外側位置のXb軸およびYb軸上にも、支持部材S1〜S4が配置されている。上述したとおり、支持部材S1〜S4は、底板部210の上面から上方に向かって伸びる絶縁性の板状部材であり、下段基本構造体100bと上段基本構造体100aとの双方の空隙部を貫通するように配置されている。
【0259】
これに対して、固定電極E1,E2は、支持部材S1,S2の上段基本構造体100aの位置近傍に配置された電極であり、固定電極E3,E4は、支持部材S3,S4の下段基本構造体100bの位置近傍に配置された電極である。このため、
図35(a) には、測定点H11,H12の近傍に配置された固定電極E1,E2の断面と、これに対向する弧状アーム表面側の変位電極(太線部分)とが示されている(
図35(a) に現れている固定電極E3,E4は、XaYa平面ではなく、その下方に位置するXbYb平面に配置されている電極である)。
【0260】
同様に、
図35(b) には、測定点H13,H14の近傍に配置された固定電極E3,E4の断面と、これに対向する弧状アーム表面側の変位電極(太線部分)とが示されている(XbYb平面の位置では、支持部材S1,S2に固定電極は形成されていない)。また、
図35(b) には、底板部210の上面に形成された4枚の円盤状の固定電極E5〜E8の位置が破線の円で示されている。これら固定電極E5〜E8は、図示する測定点H15〜H18の近傍に配置された電極である。ここで、測定点H15はXb軸正領域上の点、測定点H16はXb軸負領域上の点、測定点H17はYb軸正領域上の点、測定点H18はYb軸負領域上の点であり、いずれも原点Obから等距離の点として定義される。
【0261】
結局、
図35(a) に示す上段基本構造体100aおよび固定電極E1,E2は、
図22(a) に示す基本構造体100Lおよび電極E1,E2と等価であり、
図35(b) に示す下段基本構造体100bおよび固定電極E3,E4は、
図23(a) に示す基本構造体100LLおよび電極E3,E4と等価である。したがって、
図25のテーブルの番号1の組み合わせを適用することができる(もちろん、
図27のテーブルの番号1の組み合わせを適用してもよい)。一方、
図35(b) に示す下段基本構造体100bおよび固定電極E5〜E8は、
図13(a) に示す基本構造体100および固定電極E9〜E12と等価になるので、
図15(b) のテーブルのC9〜C12の欄をC5〜C8と読み替えて適用することができる。
【0262】
したがって、
図35に示す構造を有する力覚センサに対して、各座標軸方向の力および各座標軸まわりのモーメントが作用したときの各容量素子C1〜C8の静電容量値の変化を示すテーブルとして、
図36に示すテーブルが得られる(いずれも、正符号の外力を示すものであるが、負符号の外力が作用した場合は、各欄の符号を逆転させた結果が得られる)。ここで、
図36に示すテーブルのC1〜C4の+Fx,+Fy,+Mz欄は、
図25のテーブルの番号1の対応欄を転記したものになっており、+Fz,+Mx,+My欄は、
図24のテーブルの「共通」欄を転記したものになっており、C5〜C8の欄は、
図15(b) のC9〜C12欄をC5〜C8欄と読み替えて転記したものになっている。
【0263】
この
図36のテーブルに示す結果を踏まえると、
図35に示す構造を有する力覚センサの場合、検出回路300によって、
図37の演算式に基づく演算、すなわち、
Fx=(C1+C4)−(C2+C3)
Fy=(C1+C3)−(C2+C4)
Fz=−(C5+C6+C7+C8)
Mx=−C7+C8
My=+C5−C6
Mz=C1+C2+C3+C4
なる演算を行えば、X軸方向の力Fx、Y軸方向の力Fy、Z軸方向の力Fz、X軸まわりのモーメントMx、Y軸まわりのモーメントMy、Z軸まわりのモーメントMzの検出値をそれぞれ求めることができる。しかも、
図36のテーブルに示す結果を見ればわかるとおり、上記各演算式に基づいて算出された検出値には、他軸成分の混入はないので、6軸成分の検出値をそれぞれ独立して得ることができる。
【0264】
もちろん、上述の演算式は、上段基本構造体100aとして基本構造体100Lを用い、下段基本構造体100bとして基本構造体100LLを用いた例(番号1の組み合わせ)についてのものであるので、別な組み合わせを採用した場合には、当該組み合わせに応じた演算式を用いる必要がある。
【0265】
<4−4.二段積層式の実施形態のメリット>
§2では、
図13に例示するような基本的な実施形態に係る力覚センサを説明し、§4では、
図35に例示するような二段積層式の実施形態に係る力覚センサを説明した。両者は、いずれも力Fx,Fy,Fz、モーメントMx,My,Mzの6軸成分の検出値をそれぞれ独立して求める機能を有している。ここで、前者では、単一の基本構造体100のみを用いればよいのに対して、後者では、2組の基本構造体100a,100bを用いる必要があるため、基本構造体の数という点では、前者の方が構造が単純になる。
【0266】
しかしながら、前者では、
図13に示すように、合計12枚の固定電極E1〜E12が必要になるのに対して、後者では、
図35に示すように、合計8枚の固定電極E1〜E8のみを設ければよいので、電極構成という点では、後者の方が構造が単純になる。
【0267】
前者に対する後者の顕著なメリットは、力やモーメントの各軸成分の検出感度のバランスを調整しやすくなる、という点である。このメリットは、
図38の表を見るとよくわかる。この表は、
図13に示す基本的な実施形態に係る力覚センサ(基本構造体を1段重ねにしたもの)と、
図35に示す二段積層式の実施形態に係る力覚センサ(基本構造体を2段重ねにしたもの)と、について、力Fx,Fy,Fz、モーメントMx,My,Mzの6軸成分を作用させたとき、それぞれの検出値を求めるために利用される容量素子(各検出値の演算式に静電容量値が用いられる容量素子)の平均変位量Δ(単位:μm)を実験により求めた結果を示すものである。
【0268】
この実験では、外側部材(積層外側部材)を固定した状態において、内側部材(積層内側部材)に力Fx,Fy,Fz、モーメントMx,My,Mzの6軸成分を作用させている。具体的には、力Fx,Fy,Fzとしては、いずれも25Nの力を加え、モーメントMx,My,Mzとしては、いずれも25N・cmのモーメントを加えている。
【0269】
この表において、平均変位量Δは、作用した外力成分についての検出感度を示すパラメータとなり、平均変位量Δが大きい結果が示されている外力成分ほど、検出感度が高いことになる。一般的な用途では、6軸成分の検出感度が、できるだけ同じになるのが好ましい。
【0270】
このような観点で、この表を見てみると、1段重ねの力覚センサの場合、力Fxの検出感度「80」と力Fyの検出感度「15」との間には、大きな差が生じていることがわかる。これは、
図13(a) を見ればわかるように、2本の弧状アーム130,140が、いずれもY軸近傍に端点を有するアームになっており、X軸方向には変位しやすいが、Y軸方向には変位しにくい構造をもっているためである。
【0271】
これに対して、2段重ねの力覚センサの場合、力Fxの検出感度と力Fyの検出感度は、いずれも「19」になっており、両者の感度に差は生じていない。これは、
図35に示すとおり、上段基本構造体100aと下段基本構造体100bとが、90°回転させた配置関係になっており、上下2段に重ねた積層構造体に関しては、X軸方向に関する変位のしやすさと、Y軸方向に関する変位のしやすさと、の間に差が生じなくなっているためである。
【0272】
もちろん、モーメントの検出感度についても同様のことが言える。すなわち、1段重ねの力覚センサの場合、モーメントMxの検出感度「140」とモーメントMyの検出感度「70」との間には、大きな差が生じているが、2段重ねの力覚センサの場合、モーメントMxの検出感度とモーメントMyの検出感度は、いずれも「35」になっており、両者の感度に差は生じていない。
【0273】
また、2段重ねの力覚センサでは、力の検出感度とモーメントの検出感度との差を是正する効果も得られる。たとえば、1段重ねの力覚センサの場合、モーメントMxの検出感度「140」は、力Fzの検出感度「100」に対して1.40倍になっているのに対して、2段重ねの力覚センサの場合、モーメントMxの検出感度「35」は、力Fzの検出感度「45」に対して0.78倍になっており、感度差は是正されている。
【0274】
このように、二段積層式の実施形態では、力やモーメントの各軸成分の検出感度のバランスが調整される点が大きな特徴である。
【0275】
<4−5.二段積層式の実施形態の基本技術概念>
最後に、§4で述べた二段積層式の実施形態に係る力覚センサの基本技術概念をまとめておく。この二段積層式の実施形態に係る力覚センサは、結局、§1で述べた基本構造体100を2組と、この2組の基本構造体100の弧状アーム130,140の弾性変形を電気的に検出する検出素子と、この検出素子の検出結果に基づいて、2組の基本構造体100の内側部材110および2組の基本構造体100の外側部材120の一方を固定した状態において、他方に作用した所定の座標軸方向の力もしくは所定の座標軸まわりのモーメントの検出値を出力する検出回路と、を備えたセンサということになる。
【0276】
上述した実施形態の場合、2組の基本構造体100は、Z軸を垂直軸として上下方向に隣接するように配置されており、いずれもn=2に設定することにより、内側部材110と外側部材120とが第1の弧状アーム130と第2の弧状アーム140とによって接続されており、かつ、XY平面に平行な所定の平面(具体的には、
図35(a) に示すXaYa平面もしくは
図35(b) に示すXbYb平面)を配置平面と定義したときに、この配置平面上に、第1の内側接続点P1、第2の内側接続点P2、第1の外側接続点Q1、第2の外側接続点Q2が配置されている。
【0277】
上述した実施例の説明では、この2組の基本構造体100のうち、上方に配置された一方を上段基本構造体100aと呼び、下方に配置された他方を下段基本構造体100bと呼んでいる。
【0278】
そして、
図32に示すように、上段基本構造体100aの内側部材110aの下面と下段基本構造体100bの内側部材110bの上面との間には、両者を接続する内側中間部材510が設けられており、上段基本構造体100aの外側部材120aの下面と下段基本構造体100bの外側部材120bの上面との間には、両者を接続する外側中間部材520が設けられている。
【0279】
その結果、上段基本構造体100aの内側部材110aと、内側中間部材510と、下段基本構造体100bの内側部材110bは、相互に接続され、全体が積層内側部材として機能する。同様に、上段基本構造体100aの外側部材120aと、外側中間部材520と、下段基本構造体100bの外側部材120bは、相互に接続され、全体が積層外側部材として機能する。
【0280】
そして、上段基本構造体100aおよび下段基本構造体100bの双方について、弧状アーム130a,140a,130b,140bの弾性変形を電気的に検出する検出素子(上述した実施例の場合は容量素子C1〜C8)が設けられ、検出回路300が、これら検出素子の検出結果に基づいて、積層内側部材および積層外側部材の一方を固定した状態において、他方に作用した所定の座標軸方向の力もしくは所定の座標軸まわりのモーメントの検出値を出力することになる。
【0281】
実際には、上段基本構造体100aおよび下段基本構造体100bは、幾何学的に合同となる構造体であり、両者は、Z軸を共通の中心軸として配置される。そして、
図25のテーブルに番号1もしくは番号3として記載されている組み合わせを採用する場合、下段基本構造体100bは、上段基本構造体100aをZ軸を回転軸として90°回転させた向きに配置した構造体になる。
【0282】
より具体的には、番号1もしくは番号3として記載されている組み合わせを採用する場合、上段基本構造体100aとして、第1の内側接続点P1が、配置平面上へのY軸の負領域の投影像上もしくはその近傍に配置され、第2の内側接続点P2が、配置平面上へのY軸の正領域の投影像上もしくはその近傍に配置され、第1の外側接続点Q1が、配置平面上へのY軸の正領域の投影像上もしくはその近傍に配置され、第2の外側接続点Q2が、配置平面上へのY軸の負領域の投影像上もしくはその近傍に配置された基本構造体を用いればよい。
【0283】
この場合、右ネジをZ軸正方向に進める回転方向を左まわり方向、右ネジをZ軸負方向に進める回転方向を右まわり方向、と定義したときに、第1の弧状アームは、第1の内側接続点P1から第1の外側接続点Q2に向かって、左まわり方向(基本構造体100Lの場合)および右まわり方向(基本構造体100Rの場合)のうちのいずれか一方の選択方向に伸びており、第2の弧状アームは、第2の内側接続点P2から第2の外側接続点Q2に向かって、上記選択方向と同じ方向に伸びているようにする。
【0284】
また、下段基本構造体100bとしては、上述した上段基本構造体100aと幾何学的に合同となる構造体を、Z軸を回転軸として90°回転させた向きに配置した構造体を用いるようにすればよい。
【0285】
一方、
図25のテーブルに番号2もしくは番号4として記載されている組み合わせを採用する場合については、やはり上段基本構造体100aおよび下段基本構造体100bは、幾何学的に合同となる構造体でよく、両者を、Z軸を共通の中心軸として配置すればよい。ただ、この場合、下段基本構造体100bは、上段基本構造体100aをX軸もしくはY軸を回転軸として180°回転させ、更に、Z軸を回転軸として90°回転させた向きに配置した構造体になる。
【0286】
より具体的には、番号2もしくは番号4として記載されている組み合わせを採用する場合、上段基本構造体100aとして、第1の内側接続点P1が、配置平面(XaYa平面)上へのY軸の負領域の投影像(Ya軸の負領域)上もしくはその近傍に配置され、第2の内側接続点P2が、配置平面(XaYa平面)上へのY軸の正領域の投影像(Ya軸の正領域)上もしくはその近傍に配置され、第1の外側接続点Q1が、配置平面(XaYa平面)上へのY軸の正領域の投影像(Ya軸の正領域)上もしくはその近傍に配置され、第2の外側接続点Q2が、配置平面(XaYa平面)上へのY軸の負領域の投影像(Ya軸の負領域)上もしくはその近傍に配置された基本構造体を用いればよい。
【0287】
この場合、右ネジをZ軸正方向に進める回転方向を左まわり方向、右ネジをZ軸負方向に進める回転方向を右まわり方向、と定義したときに、第1の弧状アームは、第1の内側接続点P1から第1の外側接続点Q1に向かって、左まわり方向(基本構造体100Lの場合)および右まわり方向(基本構造体100Rの場合)のうちのいずれか一方の選択方向に伸びており、第2の弧状アームは、第2の内側接続点P2から第2の外側接続点Q2に向かって、上記選択方向と同じ方向に伸びているようにする。
【0288】
また、下段基本構造体100bとしては、上述した上段基本構造体100aと幾何学的に合同となる構造体を、X軸もしくはY軸を回転軸として180°回転させ、更に、Z軸を回転軸として90°回転させた向きに配置した構造体を用いるようにすればよい。
【0289】
各検出素子の配置に関しては、次のようにすればよい。まず、上段基本構造体100aについては、配置平面(XaYa平面)上へのX軸の正領域の投影像(Xa軸の正領域)と弧状アームの中心線との交点に第1の測定点H11を定義し、配置平面(XaYa平面)上へのX軸の負領域の投影像(Xa軸の負領域)と弧状アームの中心線との交点に第2の測定点H12を定義する(
図22参照)。次に、下段基本構造体100bについては、配置平面(XbYb平面)上へのY軸の正領域の投影像(Yb軸の正領域)と弧状アームの中心線との交点に第3の測定点H13を定義し、配置平面(XbYb平面)上へのY軸の負領域の投影像(Yb軸の負領域)と弧状アームの中心線との交点に第4の測定点H14を定義する(
図23参照)。そして、検出素子が、第1〜第4の測定点H11〜H14の変位を電気的に検出することにより、各弧状アームの弾性変形を検出するようにすればよい。
【0290】
検出素子として容量素子を用いる場合は、第1の測定点H11の近傍に配置された第1の容量素子C1と、第2の測定点H12の近傍に配置された第2の容量素子C2と、第3の測定点H13の近傍に配置された第3の容量素子C3と、第4の測定点H14の近傍に配置された第4の容量素子C4と、を設けるようにすればよい。
【0291】
ここで、第1の容量素子C1は、弧状アームの外側もしくは内側の第1の測定点H11の近傍に配置され積層内側部材または積層外側部材に固定された第1の固定電極E1と、弧状アームの表面における第1の固定電極E1に対向する領域に形成された第1の変位電極E0と、によって構成された容量素子である。
【0292】
また、第2の容量素子C2は、弧状アームの外側もしくは内側の第2の測定点H12の近傍に配置され積層内側部材または積層外側部材に固定された第2の固定電極E2と、弧状アームの表面における第2の固定電極E2に対向する領域に形成された第2の変位電極E0と、によって構成された容量素子である。
【0293】
そして、第3の容量素子C3は、弧状アームの外側もしくは内側の第3の測定点H13の近傍に配置され積層内側部材または積層外側部材に固定された第3の固定電極E3と、弧状アームの表面における第3の固定電極E3に対向する領域に形成された第3の変位電極E0と、によって構成された容量素子である。
【0294】
最後の第4の容量素子C4は、弧状アームの外側もしくは内側の第4の測定点H14の近傍に配置され積層内側部材または積層外側部材に固定された第4の固定電極E4と、弧状アームの表面における第4の固定電極E4に対向する領域に形成された第4の変位電極E0と、によって構成された容量素子である。
【0295】
検出回路は、これら容量素子C1〜C4によって構成される検出素子の検出結果に基づいて、積層内側部材および積層外側部材の一方を固定した状態において、他方に作用したX軸方向の力Fx、Y軸方向の力FyおよびZ軸まわりのモーメントMzの検出値を出力することができる。
【0296】
6軸すべての検出値が得られるようにするには、上述した第1〜第4の測定点H11〜H14に加えて、更に、下段基本構造体100bの弧状アームもしくは内側部材の所定箇所に第5〜第8の測定点H15〜H18を定義すればよい(
図35(b) 参照)。ここで、第5の測定点H15は、下段基本構造体の配置平面(XbYb平面)上へのX軸の正領域の投影像(Xb軸の正領域)上もしくはその近傍位置に配置され、第6の測定点H16は、下段基本構造体の配置平面(XbYb平面)上へのX軸の負領域の投影像(Xb軸の負領域)上もしくはその近傍位置に配置され、第7の測定点H17は、下段基本構造体の配置平面(XbYb平面)上へのY軸の正領域(Yb軸の正領域)の投影像上もしくはその近傍位置に配置され、第8の測定点H18は、下段基本構造体の配置平面(XbYb平面)上へのY軸の負領域の投影像(Yb軸の負領域)上もしくはその近傍位置に配置されるようにすればよい。
【0297】
そして、検出素子として、更に、第5の測定点H15の近傍に配置された第5の容量素子C5と、第6の測定点H16の近傍に配置された第6の容量素子C6と、第7の測定点H17の近傍に配置された第7の容量素子C7と、第8の測定点H18の近傍に配置された第8の容量素子C8と、を設けるようにする。
【0298】
ここで、第5の容量素子C5は、下段基本構造体100bの弧状アームもしくは内側部材の下方の第5の測定点H15の近傍に配置され下段基本構造体100bの外側部材に固定された第5の固定電極E5と、下段基本構造体100bの弧状アームもしくは内側部材の下面における第5の固定電極E5に対向する領域に形成された第5の変位電極E0と、によって構成された容量素子である。
【0299】
また、第6の容量素子C6は、下段基本構造体100bの弧状アームもしくは内側部材の下方の第6の測定点H16の近傍に配置され下段基本構造体100bの外側部材に固定された第6の固定電極E6と、下段基本構造体100bの弧状アームもしくは内側部材の下面における第6の固定電極E6に対向する領域に形成された第6の変位電極E0と、によって構成された容量素子である。
【0300】
そして、第7の容量素子C7は、下段基本構造体100bの弧状アームもしくは内側部材の下方の第7の測定点H17の近傍に配置され下段基本構造体100bの外側部材に固定された第7の固定電極E7と、下段基本構造体100bの弧状アームもしくは内側部材の下面における第7の固定電極E7に対向する領域に形成された第7の変位電極E0と、によって構成された容量素子である。
【0301】
最後の第8の容量素子C8は、下段基本構造体100bの弧状アームもしくは内側部材の下方の第8の測定点H18の近傍に配置され下段基本構造体100bの外側部材に固定された第8の固定電極E8と、下段基本構造体100bの弧状アームもしくは内側部材の下面における第8の固定電極E8に対向する領域に形成された第8の変位電極E0と、によって構成された容量素子である。
【0302】
検出回路は、これら容量素子C1〜C8によって構成される検出素子の検出結果に基づいて、積層内側部材および積層外側部材の一方を固定した状態において、他方に作用したX軸方向の力Fx、Y軸方向の力Fy、Z軸方向の力Fz、X軸まわりのモーメントMx、Y軸まわりのモーメントMyおよびZ軸まわりのモーメントMzの検出値を出力することができる。
【0303】
なお、
図34に示す実施例の場合、下段基本構造体100bの下方に支持基板200が配置されている。この支持基板200は、下段基本構造体100bに対向する底板部210と、この底板部210の周囲から上方に隆起した縁周部220とを有しており、下段基本構造体100bの外側部材120bの下面は、縁周部220の上面に固定されており、下段基本構造体100bの内側部材110bの下面と底板部210の上面との間に空洞部250が形成されており、積層内側部材(110a,510,110b)が、この空洞部250を含む周囲空間内で変位可能となるように弧状アームによって支持されている。また、第1〜第8の固定電極E1〜E8は、底板部210の上面に固定されている。
【0304】
<<< §5. その他の変形例 >>>
最後に、これまで述べてきた様々な実施例に対する更なる変形例をいくつか列挙しておく。
【0305】
図39は、本発明に係る力覚センサにおける電極構成の変形例を示す基本構造体100Lの横断面図(XY平面で切断した断面を示す)である。図の右側の測定点H11の近傍には、支持部材SAに支持された固定電極EAと、支持部材SBに支持された固定電極EBとが示されている。
図13には、支持基板200の底板部210の上面に固定電極E1〜E12を直接固定した例が示されているが、底板部210が金属などの導電性材料から構成されている場合は、
図39に示す例のように、絶縁性材料からなる支持部材SA,SBを介して、固定電極EA,EBを底板部210の上面に固定する必要がある。
【0306】
一方、
図39の左側の測定点H12の近傍には、絶縁性材料からなる支持部材SCを介して変位電極ECを形成し、これに対向する位置に、支持部材SDを介して、固定電極EDを底板部210の上面に固定した状態が示されている。固定電極EDに比べて、変位電極ECの方が広い電極になっているのは、両電極間に、
図14で述べた関係が維持されるようにするためである。
【0307】
測定点H12の近傍の測定対象面(弧状アーム140Lの外側面)と、これに対向する対向基準面(支持部材SDの表面)との距離を測定するという基本原理によれば、図示のように、変位電極ECと固定電極EDとを個別に設けて容量素子を構成するのが基本的手法と言える。
【0308】
ただ、これまで述べてきた実施例では、基本構造体100Lを金属などの導電性材料によって構成したため、基本構造体100Lの表面の個々の部分領域を変位電極として代用している。たとえば、
図39の右側の測定点H11の変位を検出するための容量素子の変位電極としては、図に太線で示すように、弧状アーム130Lの表面の一部が代用されている。このように、基本構造体100Lを金属などの導電性材料によって構成すれば、その表面の部分領域を個別の変位電極として代用することができるため、電極構成は単純化され、また、配線も単純化される。
【0309】
しかしながら、基本構造体100Lは、この力覚センサの主要な構造部を占める大きな構造体であるため、電気的なノイズの影響を受けることは否めない。また、本来は意図していない箇所に無用な容量素子が形成されてしまう懸念もある。
【0310】
たとえば、
図39に示す例において、固定電極EAは、弧状アーム130Lの測定点H11の近傍の外側面に形成された変位電極(太線部分)に対向しており、両電極によって容量素子CAが形成されることになる。こうして形成された容量素子CAは、意図どおりの検出素子ということになる。しかしながら、固定電極EAは、導電性材料からなる外側部材120Lの内側面にも対向しているため、固定電極EAと外側部材120Lの内側対向面との間にも、予期せぬ容量素子が形成されることになる。
【0311】
もちろん、実際には、固定電極EAは、弧状アーム130Lの近傍に配置され、外側部材120Lから離れた位置に置かれるため(前述したとおり、本願の各図は、説明の便宜上、デフォルメされたものとなっており、実寸どおりのものにはなっていない)、上述した予期せぬ容量素子の影響は微小なものになるが、電気的なノイズ成分の要因になることは否めない。また、外側部材120Lをセンサの装置筐体などに固定して用いるような場合、装置筐体を伝わって電気的ノイズ成分が混入することになる。
【0312】
図39の左側の測定点H12の近傍に示す例のように、弧状アーム(もしくは内側部材)の表面に絶縁層を介して変位電極を形成することにより、容量素子を構成するようにすれば、電極形成や配線作業は複雑になるが、このような電気的ノイズ成分の混入を排除することができる。
【0313】
ところで、§4では、2組の基本構造体を上下方向に積層した二段積層式の実施形態を述べたが、もちろん、基本構造体を3組以上積層するようにしてもかまわない。このように、複数の基本構造体を上下方向に積層した実施形態に係る力覚センサを一般論として説明すれば、互いに所定間隔をおいて上下に隣接するように配置された複数m個(m≧2)の基本構造体を備えた力覚センサということになる。
【0314】
ここで、複数m個の基本構造体を、Z軸を垂直軸として上方から下方に向かって、第1〜第mの基本構造体と呼んだ場合、第j(1≦j≦m−1)の基本構造体の内側部材の下面と第(j+1)の基本構造体の内側部材の上面とが接続され、第j(1≦j≦m−1)の基本構造体の外側部材の下面と第(j+1)の基本構造体の外側部材の上面とが接続されるようにする。そうすれば、相互に接続されたm個の内側部材は、全体が積層内側部材として機能し、相互に接続されたm個の外側部材は、全体が積層外側部材として機能することになる。
【0315】
検出素子は、これら複数m個の基本構造体の全弧状アームもしくはその中から選択された一部の弧状アームの弾性変形を電気的に検出するようにし、検出回路は、検出素子の検出結果に基づいて、積層内側部材および積層外側部材の一方を固定した状態において、他方に作用した所定の座標軸方向の力もしくは所定の座標軸まわりのモーメントの検出値を出力すればよい。
【0316】
一番下層に支持基板を設ける場合は、第mの基本構造体の下方に支持基板を配置すればよい。この支持基板は、第mの基本構造体に対向する底板部と、この底板部の周囲から上方に隆起した縁周部とを有した構造体になるようにする。そして、第mの基本構造体の外側部材の下面が、縁周部の上面に固定され、第mの基本構造体の内側部材の下面と底板部の上面との間に空洞部が形成され、積層内側部材が、この空洞部を含む周囲空間内で変位可能となるように弧状アームによって支持されているようにすればよい。
【解決手段】原点Oを中心に配置された円盤状の内側部材110と、原点Oを中心に配置された円環状の外側部材120と、両者を接続する2本の弧状アーム130,140と、によって基本構造体100が形成される。外側部材120の下面には、支持基板200が接合され、底板部210の上面には、固定電極E1〜E12が取り付けられる。弧状アーム130,140の所定位置に、測定点H1〜H4が定義され、固定電極E1〜E8は、その近傍に配置される。固定電極E9〜E12は、内側部材110の下方に配置される。内側部材110に外力が作用すると、弧状アーム130,140が撓みを生じる。固定電極E1〜E12とその対向面とによって容量素子が形成され、これら容量素子の容量値の変化に基づいて、内側部材110に作用した各座標軸方向の力および各座標軸まわりのモーメントを検出する。