特許第5688429号(P5688429)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5688429コンクリート構造物の製造方法及び打設兼用コンクリート養生シート
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5688429
(24)【登録日】2015年1月30日
(45)【発行日】2015年3月25日
(54)【発明の名称】コンクリート構造物の製造方法及び打設兼用コンクリート養生シート
(51)【国際特許分類】
   E04G 21/02 20060101AFI20150305BHJP
   E04G 9/10 20060101ALI20150305BHJP
【FI】
   E04G21/02 104
   E04G9/10 101B
【請求項の数】30
【全頁数】30
(21)【出願番号】特願2013-92281(P2013-92281)
(22)【出願日】2013年4月25日
(65)【公開番号】特開2014-185506(P2014-185506A)
(43)【公開日】2014年10月2日
【審査請求日】2014年9月10日
(31)【優先権主張番号】特願2013-30325(P2013-30325)
(32)【優先日】2013年2月19日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100122781
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 寛
(74)【代理人】
【識別番号】100136722
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼木 邦夫
(72)【発明者】
【氏名】坂田 昇
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 賢三
(72)【発明者】
【氏名】温品 達也
(72)【発明者】
【氏名】柳井 修司
(72)【発明者】
【氏名】坂井 吾郎
(72)【発明者】
【氏名】横関 康祐
(72)【発明者】
【氏名】近藤 啓二
【審査官】 瓦井 秀憲
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭63−306003(JP,A)
【文献】 特開平10−058417(JP,A)
【文献】 特開平05−149001(JP,A)
【文献】 特開平10−061184(JP,A)
【文献】 特開平02−183049(JP,A)
【文献】 特開2010−196396(JP,A)
【文献】 特開2003−221928(JP,A)
【文献】 特開平07−102763(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 21/02
E04G 9/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート打設用の型枠を設置する型枠設置工程と、
前記型枠の内面に非穿孔の養生シートが貼付された状態でコンクリートの打設を行う打設工程と、
前記コンクリートの打設後に前記型枠を脱型する脱型工程と、を備え、
前記打設工程で用いられる前記養生シートの前記コンクリート側の接触面の水との接触角が50度以上であることを特徴とする、コンクリート構造物の製造方法。
【請求項2】
前記型枠設置工程の前に前記型枠内に予め養生シートを貼付する養生シート貼付工程を、更に備えることを特徴とする請求項1に記載のコンクリート構造物の製造方法。
【請求項3】
前記脱型工程の後に、前記養生シートを前記コンクリート構造物の貼付面に残置させて、前記コンクリート構造物を所定期間養生する養生工程を、更に備えることを特徴とする請求項1又は2に記載のコンクリート構造物の製造方法。
【請求項4】
前記養生工程における前記所定期間が、前記型枠の脱型後、30日以上であることを特徴とする請求項3に記載のコンクリート構造物の製造方法。
【請求項5】
前記養生工程における前記所定期間が、前記型枠の脱型後、90日以上であることを特徴とする請求項3に記載のコンクリート構造物の製造方法。
【請求項6】
前記打設工程で用いられる前記養生シートの前記接触面の水との接触角が69度以上であることを特徴とする請求項1〜5の何れか一項に記載のコンクリート構造物の製造方法。
【請求項7】
前記打設工程で用いられる前記養生シートの前記接触面の水との接触角が80度以上であることを特徴とする請求項6に記載のコンクリート構造物の製造方法。
【請求項8】
前記打設工程で用いられる前記養生シートの前記接触面の水との接触角が90度以上であることを特徴とする請求項7に記載のコンクリート構造物の製造方法。
【請求項9】
前記打設工程で用いられる前記養生シートは、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタラート、ポリ塩化ビニリデン、又は、ポリ塩化ビニルから構成されるシートであることを特徴とする請求項1〜8の何れか一項に記載のコンクリート構造物の製造方法。
【請求項10】
前記打設工程で用いられる前記養生シートの厚みが0.1mm以上であることを特徴とする請求項1〜9の何れか一項に記載のコンクリート構造物の製造方法。
【請求項11】
所定の鉄筋を配筋する配筋工程を更に備え、前記コンクリート構造物として鉄筋コンクリート構造物を製造することを特徴とする請求項1〜10の何れか一項に記載のコンクリート構造物の製造方法。
【請求項12】
前記型枠設置工程において前記型枠を設置する際、前記型枠の境界部において前記型枠の内面に貼付された前記養生シートの端が前記型枠から略直角になるように折り返されており、
前記打設工程では、前記折り返されている突出部がコンクリート打設時に前記コンクリート中に埋入されることにより前記養生シートが固定され、前記折り返された前記養生シート同士が所定の間隔を空けていることを特徴とする請求項1〜11の何れか一項に記載のコンクリート構造物の製造方法。
【請求項13】
前記所定の間隔を空けて配置される前記養生シート間に露出するコンクリート表面を、前記型枠の脱型後にテープ部材で覆うことを特徴とする請求項12に記載のコンクリート構造物の製造方法。
【請求項14】
前記型枠設置工程では、勾配が少なくとも1%以上になるように前記コンクリート打設用の型枠を設置し、
前記打設工程では、前記型枠の内面に前記養生シートが貼付された状態で勾配を有する部分のコンクリートの打設を行うことを特徴とする、請求項1〜13の何れか一項に記載のコンクリート構造物の製造方法。
【請求項15】
前記打設工程では、前記養生シートと前記型枠との間に断熱材が配置された状態でコンクリートの打設を行い、
前記脱型工程では、前記断熱材を残置したまま前記型枠を脱型することを特徴とする請求項1〜14の何れか一項に記載のコンクリート構造物の製造方法。
【請求項16】
前記断熱材は、表面熱伝達率が8W/m℃以下であることを特徴とする請求項15に記載のコンクリート構造物の製造方法。
【請求項17】
前記打設工程では、前記養生シートのコンクリート打設側の面に、表面改質剤、収縮低減剤、吸水防止剤、及び剥離剤の少なくとも1つを塗布してコンクリートの打設を行うことを特徴とする請求項1〜16の何れか一項に記載のコンクリート構造物の製造方法。
【請求項18】
前記打設工程で用いられる前記養生シートの水蒸気透過性は10g/m・24h以下であることを特徴とする請求項1〜17の何れか一項に記載のコンクリート構造物の製造方法。
【請求項19】
前記打設工程で用いられる前記養生シートの二酸化炭素透過性は10万cc/m・24h・atm以下であることを特徴とする請求項1〜18の何れか一項に記載のコンクリート構造物の製造方法。
【請求項20】
コンクリート構造物の製造方法において、
コンクリートの打設を行う際に非穿孔の養生シートがコンクリート面を覆うように打設を行い、前記養生シートの前記コンクリート側の接触面の水との接触角が50度以上であることを特徴とする、コンクリート構造物の製造方法。
【請求項21】
コンクリートを打設する前にコンクリート打設用の型枠の内面に貼付されて打設後のコンクリートの養生にそのまま用いられる非穿孔の養生シートであって、前記打設されるコンクリート側の接触面の水との接触角が50度以上であることを特徴とする、打設兼用コンクリート養生シート。
【請求項22】
前記接触面の水との接触角が69度以上であることを特徴とする請求項21に記載の打設兼用コンクリート養生シート。
【請求項23】
前記接触面の水との接触角が80度以上であることを特徴とする請求項22に記載の打設兼用コンクリート養生シート。
【請求項24】
前記接触面の水との接触角が90度以上であることを特徴とする請求項23に記載の打設兼用コンクリート養生シート。
【請求項25】
ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタラート、ポリ塩化ビニリデン、又は、ポリ塩化ビニルから構成されることを特徴とする請求項21〜24の何れか一項に記載の打設兼用コンクリート養生シート。
【請求項26】
シートの厚みが0.1mm以上であることを特徴とする請求項21〜25の何れか一項に記載の打設兼用コンクリート養生シート。
【請求項27】
シート本体の端に配置される針状又はシート状の複数の突起部を更に備え、前記複数の突起部は前記シート本体の面に対して略直交するように所定の間隔で配置されていることを特徴とする請求項21〜26の何れか一項に記載の打設兼用コンクリート養生シート。
【請求項28】
前記複数の突起部は、前記シート本体と同一材料からなり、一体成形されていることを特徴とする請求項27に記載の打設兼用コンクリート養生シート。
【請求項29】
前記養生シートの水蒸気透過性は10g/m・24h以下であることを特徴とする請求項21〜28の何れか一項に記載の打設兼用コンクリート養生シート。
【請求項30】
前記養生シートの二酸化炭素透過性は10万cc/m・24h・atm以下であることを特徴とする請求項21〜29の何れか一項に記載の打設兼用コンクリート養生シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート構造物の製造方法及びコンクリート養生シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
コンクリート構造物を製造するには、所定位置に設置した型枠内にコンクリートを打設し、ある程度凝結が進んで硬化した後に型枠を脱型し、型枠が脱型されたコンクリート表面に養生シートを所定期間貼付して水和反応が進むようコンクリートの湿潤養生を行うことが一般的である。ところで、打設に用いられるコンクリートは、型枠内の隅々まで充填できるよう流動性を高められており、セメントの当初の硬化に必要な量以上の余剰な水を含んでいる。そのため、コンクリート打設後に、これら余剰な水がブリージング水としてコンクリート表面に集まってしまい、コンクリート表面の強度不足を生じさせたり、コンクリート表面に気泡(あばた)を形成してしまうことがあった。
【0003】
そこで、例えば、特許文献1では、打設後に発生するブリージング水を外部に排出できるように多数の細孔を穿孔したシートを用いることが提案されている。一方、ある程度凝結が進んで硬化した脱型後のコンクリートは、セメントと水との水和反応を促進させるためその表面が湿潤状態である必要があり、打設直後とは逆にコンクリート表面に養生水を供給すると共に、穿孔されていないシート又は不織布などを用いてコンクリート表面を覆うといったことが行われていた(例えば特許文献2,3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平03−99805号公報
【特許文献2】特開平07−102763号公報
【特許文献3】特開2010−24785号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、セメントの水和反応に必要とされる水は、セメント重量の約40%であり、約25%がセメントと化学的に結合し、15%はゲル水としてセメントなどに吸着されているとされている。一方、一般的なコンクリートの水セメント比は40〜55%程度であり、コンクリート自身は、セメントの水和反応に最低限必要な水量を当初から有しているといえる。しかしながら、上述したように、セメントの当初の硬化段階では、ブリージング水の発生を低減するため余剰水をできるだけ外部に排出する必要がある一方、セメントの水和反応が進む段階では、別途、養生水を供給する必要があり、所定の圧縮強度や耐久性を発現するには、水を必要以上に使用せざるを得なかった。
【0006】
そこで、本発明の課題は、水を有効に活用して所定品質のコンクリート構造物を製造することができるコンクリート構造物の製造方法および当該製造方法に用いられる養生シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明者らは鋭意研究を重ねる過程で、セメントの水和反応に必要とされる最低限の水をコンクリートが当初から有しており、ブリージング水の発生を抑制しつつコンクリートを硬化させることができれば、型枠脱型後もコンクリート内に水和反応に必要な量の水を残存させることができるのではないかという点に着目した。そして、本発明者らは、更に検討を進め、所定の接触角を有する養生シートをコンクリート打設時にコンクリート表面を覆うようにしておくとブリージング水の発生を効果的に抑制できるとの知見を得て、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、上記課題を解決するため、本発明に係るコンクリート構造物の製造方法は、コンクリート打設用の型枠を設置する型枠設置工程と、型枠内面に非穿孔の養生シートが貼付された状態でコンクリートの打設を行う打設工程と、コンクリートの打設後に型枠を脱型する脱型工程とを備え、養生シートのコンクリート側の接触面の水との接触角が50度以上であることを特徴としている。
【0009】
本発明に係るコンクリート構造物の製造方法では、水との接触角が50度以上の非穿孔の養生シートを打設時に用いている。この場合、打設後にコンクリートが硬化する際、通常発生するブリージング水の発生を効果的に抑制することができる。このようにブリージング水の発生が抑制されるのは、コンクリート表面を覆っている養生シートのシート面(接触面)の接触角(濡れ角とも言う)が大きいと、コンクリート内に含まれていてその表面から外に出ようとする水や当該水中に存在する空気がシート接触面においてコンクリート内部に押し戻される作用が働き、その結果、水及びその内部の空気がコンクリート内に残存したまま硬化が進むためと考えられる。
【0010】
そして、本発明によれば、このようにしてブリージング水の発生が抑制されるため、脱型後の水和反応に必要な水をコンクリートが含有していることになり、コンクリート養生の際に外部から養生水を供給することなく又は養生水をそれほど用いることなく、所定の圧縮強度や耐久性などの品質を発現できるコンクリート構造物を製造することができる。また、コンクリート表面に空気が集まることが抑制されるため、表面組織が密実となり、またかぶりの一部が欠損するといったことも防止できるので、圧縮強度や耐久性などの品質を従来よりも向上させることができる。また、本発明に係るコンクリート構造物の製造方法は、型枠設置工程の前に型枠内に予め養生シートを貼付する養生シート貼付工程を更に備えることが好ましいが、設置された型枠に養生シートを貼付してもよい。
【0011】
また、本発明に係るコンクリート構造物の製造方法では、上述したように、脱型前においてコンクリート内の空気が表面に集まることが抑制されるため、コンクリート表面の気泡(あばた)の発生を抑え、これにより、外観の良い美しいコンクリート構造物を製造することも可能である。上述した養生シートは、コンクリートからの剥離が容易であるため、従来のように型枠とコンクリートを付着させないため、剥離剤を型枠内面に塗布する必要がなく、剥離剤によるコンクリート表面の汚れやシミの発生も防止できる。
【0012】
また、上記コンクリート構造物の製造方法は、脱型工程の後に、養生シートをコンクリート構造物の貼付面に残置させて、コンクリート構造物を所定期間養生する養生工程を、更に備えていることが好ましい。このようなシートを用いることにより、型枠脱型後も長期にわたり、コンクリートを湿潤養生させることができる。なお、養生工程における所定期間が、型枠の脱型後、30日以上であってよいし、90日以上であってもよい。更に、本発明に係る製造方法であれば、かかる養生シートを型枠の脱型後1年程度そのままにして、長期の養生を行うことも可能である。
【0013】
また、上記コンクリート構造物の製造方法において、打設工程で用いられる養生シートの接触面の水との接触角が69度以上であることがより好ましく、養生シートの接触面の水との接触角が80度以上であることが更に好ましく、養生シートの接触面の水との接触角が90度以上であることがより一層好ましい。養生シートの接触面の水との接触角を高めることにより、コンクリート内に含まれていて表面から出ようとする水や当該水中に存在する空気がシート接触面においてコンクリート内部に押し戻される作用が強く働くため、水和反応に必要な水が十分に内包されることになり、製造されるコンクリート構造物の圧縮強度や耐久性といった品質をより一層高めることができる。
【0014】
上記コンクリート構造物の製造方法において、打設工程で用いられる養生シートは、例えば、ポリプロピレン、ナイロン、ナイロン6、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体、エチレン・四フッ化エチレン共重合体、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリオレフィンなどの高分子化合物から構成されるシートを用いることができる。中でも、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタラート、ポリ塩化ビニリデン、又は、ポリ塩化ビニルから構成されるシートを用いることで、より安価な養生シートを提供することができ、脱型後もコンクリート表面上に残置させることでコンクリートの養生期間を容易に長くすることができる。
【0015】
また、上記コンクリート構造物の製造方法において、打設工程で用いられる養生シートの厚みが0.1mm以上であってもよい。この場合、養生シートにシワが発生しにくくなり、製造されるコンクリート構造物の外観をより一層綺麗なものとすることができる。
【0016】
また、上記コンクリート構造物の製造方法において、打設工程で用いられる養生シートの水蒸気透過性が10g/m・24h以下であってもよく、更に、養生シートの水蒸気透過性が5g/m・24h以下であってもよい。この場合、水和反応に必要な水の外部への透過を更に抑えることが可能となる。また、上記コンクリート構造物の製造方法において、打設工程で用いられる養生シートの二酸化炭素透過性が10万cc/m・24h・atm以下であってもよく、更に、養生シートの二酸化炭素透過性が5万cc/m・24h・atm以下であってもよい。この場合、養生中のコンクリート表面への二酸化炭素の浸入を抑制して、コンクリート表面の中性化を抑えることが可能となる。
【0017】
また,上記コンクリート構造物の製造方法において、打設工程で用いられる養生シートのアルカリおよび水に対する耐久性は、pH12の水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液に24時間浸漬した場合の長さ変化率で3%以下であってもよく、更に、長さ変化率が1%以下であってもよい。この場合、コンクリートの打込み後にシートによれなどが生じることなく,平滑なコンクリート表面を構築することが可能となる。
【0018】
また、上記コンクリート構造物の製造方法は、所定の鉄筋を配筋する配筋工程を更に備え、コンクリート構造物として鉄筋コンクリート構造物を製造してもよい。本発明に係る製造方法によれば、コンクリート表面に発生する気泡が抑制されるため、かぶり厚を十分にとることができ、製造される鉄筋コンクリート構造物における鉄筋の錆をより一層効果的に防止することができる。また、従来の手法に比べ、かぶり厚を確実且つ十分にとることができるため、従来よりも設計上のかぶり厚を薄くすることが可能であり、これにより、従来の強度を維持しつつ、コンクリート構造物に用いるコンクリートの量を減らすことも可能である。
【0019】
また、上記コンクリート構造物の製造方法において、打設工程に用いられるコンクリートの設計基準強度に制約はなく、全ての強度域のコンクリートにおいて上記効果を奏するが、例えば、コンクリートの設計基準強度が18N/mm以上33N/mm以下であってもよい。本発明によれば、養生期間を長くとることが容易にできるため、いわゆる高強度コンクリートを用いず、費用を抑えた一般的なコンクリートを用いて、従来以上の圧縮強度や耐久性を有するコンクリート構造物を製造することができる。
【0020】
また、上記コンクリート構造物の製造方法において、設置工程において型枠を設置する際、型枠の境界部において型枠の内面に貼付された養生シートの端が型枠から略直角になるように折り返されており、打設工程では、折り返された突出部がコンクリート打設時にコンクリート中に埋入されることにより養生シートがコンクリートに固定され、折り返された養生シート同士が所定の間隔を空けているようにしてもよい。この場合、型枠の境界付近において養生シートの端部を容易に固定できるため、養生シートや型枠の施工を容易にすることができる。なお、この場合において、所定の間隔を空けて配置される養生シート間に露出する型枠境界部のコンクリート表面については、型枠の脱型後にテープ部材で覆うようにすることで、コンクリートからの水分の逸散を抑制して、より確実な養生を行うことができる。
【0021】
また、上記コンクリート構造物の製造方法において、型枠設置工程では、勾配が少なくとも1%以上になるようにコンクリート打設用の型枠を設置し、打設工程では、型枠の内面に養生シートが貼付された状態で勾配を有する部分のコンクリートの打設を行ってもよい。コンクリート構造物における勾配部分を形成する際、コンクリート打設時にコンクリート中の空気が排出されづらく表面気泡が発生しやすいことが一般的であるが、上記方法によれば、接触角の高い養生シートを勾配部分形成用の型枠に貼り付けることで、表面部への気泡の到達を抑制し表面気泡の発生を低減することができる。
【0022】
また、上記コンクリート構造物の製造方法において、打設工程では、養生シートと型枠との間に断熱材が配置された状態でコンクリートの打設を行い、脱型工程では、養生シート側に断熱材を残置したまま型枠を脱型するようにしてもよい。この場合、断熱性型枠を使用した場合に比べて早期脱型が可能になり、また脱型後に断熱材を別途貼り付ける場合に比べて断熱材貼り付けまでの間の急冷を予防することができる。その結果、この方法によれば、早期脱型を可能にしつつコンクリートの温度ひび割れ等を防止することができる。なお、ここで用いる断熱材は、例えば表面熱伝達率が8W/m℃以下であることが好ましい。
【0023】
また、上記コンクリート構造物の製造方法において、打設工程では、養生シートのコンクリート打設側の面に、表面改質剤、収縮低減剤、吸水防止剤、及び剥離剤の少なくとも1つを塗布してコンクリートの打設を行ってもよい。この場合、表面の平滑化や保湿化だけでなく、塗布した剤による追加効果をコンクリート構造物に容易に付与することができる。例えば、ケイ酸アルカリ又はセメント系化合物で構成された表面改質剤を用いた場合、コンクリート表面にシリカゲル又はC−S−H(カルシウム・シリケート水和物)を生成して、コンクリート組織を緻密化することができる。また、アルコール系化合物で構成された収縮低減剤を用いた場合、界面活性剤の作用により、コンクリートの細孔空隙に発生する負圧を抑制して乾燥収縮などを低減することができる。また、シラン系化合物で構成された吸水防止剤を用いた場合、コンクリート表面に吸水防止層を形成することにより、凍害を抑制することができる。また、油性又は水性の剥離剤を用いた場合、コンクリートの肌離れ(離型のし易さ)がより一層向上し、より緻密なコンクリート表面とすることができる。なお、上述した剤の何れか1つを用いてもよいし、複数の剤を用いてもよい。
【0024】
また、本発明に係るコンクリート構造物の製造方法は、コンクリートの打設を行う際に非穿孔の養生シートがコンクリート面を覆うように打設を行い、養生シートのコンクリート側の接触面の水との接触角が50度以上であることを特徴としてもよい。この製造方法によっても、上記同様、打設後にコンクリートが硬化する際、通常発生するブリージング水の発生を効果的に抑制することができる。そのため、脱型後の水和反応に必要な水をコンクリートが含有していることになり、コンクリート養生の際に外部から養生水を供給することなく又は養生水をそれほど用いることなく、所定の圧縮強度や耐久性などの品質を発現できるコンクリート構造物を製造することができる。また、コンクリート表面に空気が集まることが抑制されるため、表面組織が密実となり、またかぶりの一部が欠損するといったことも防止できるので、圧縮強度や耐久性などの品質を従来よりも向上させることができる。
【0025】
また、本発明は、コンクリート養生シートの発明として捉えることもできる。即ち、本発明に係る打設兼用のコンクリート養生シートは、コンクリートを打設する前にコンクリート打設用の型枠の内面に貼付されて打設後にコンクリートの養生にそのまま用いられる非穿孔の養生シートであって、打設されるコンクリート側の接触面の水との接触角が50度以上であることを特徴としている。
【0026】
このような接触角の非穿孔の養生シートを用いることにより、コンクリートが硬化する際に通常発生するブリージング水の発生を抑制することができ、脱型後の水和反応に必要な水をコンクリートに含有させて、コンクリート養生の際に外部から養生水を供給することなく又は養生水をそれほど用いることなく、所定の圧縮強度や耐久性を発現できるコンクリート構造物を製造することができる。
【0027】
また、上記養生シートにおいて、接触面の水との接触角が69度以上であることがより好ましく、接触面の水との接触角が80度以上であることが更に好ましく、接触面の水との接触角が90度以上であることがより一層好ましい。養生シートの接触面の水との接触角を高めることにより、コンクリート内に含まれていて表面から出ようとする水や当該水中に存在する空気がシート接触面においてコンクリート内部に押し戻される作用が強く働くため、水和反応に必要な水が十分に内包されることになり、製造されるコンクリート構造物の圧縮強度や耐久性といった品質をより一層高めることができる。
【0028】
また、上記養生シートは、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタラート、ポリ塩化ビニリデン、又は、ポリ塩化ビニルから構成されるシートであってもよい。この場合、より安価な養生シートを提供することができ脱型後もコンクリート表面上に残置させることでコンクリートの養生期間を容易に長くすることができる。
【0029】
また、上記養生シートは、その厚みが0.1mm以上であってもよい。この場合、養生シートにシワが発生しにくくなり、製造されるコンクリート構造物の外観をより一層綺麗なものとすることができる。
【0030】
また、上記養生シートは、その水蒸気透過性が10g/m・24h以下であってもよく、更に、水蒸気透過性が5g/m・24h以下であってもよい。この場合、水和反応に必要な水の外部への透過を抑えることが可能となる。この場合、水和反応に必要な水の外部への透過を更に抑えることが可能となる。
【0031】
また、上記養生シートは、その二酸化炭素透過性が10万cc/m・24h・atm以下であってもよく、更に、二酸化炭素透過性が5万cc/m・24h・atm以下であってもよい。この場合、養生中のコンクリート表面への二酸化炭素の浸入を抑制して、コンクリート表面の中性化を抑えることが可能となる。
【0032】
また、上記養生シートは、シート本体の端に配置される針状又はシート状の複数の突起物を更に備え、複数の突起物はシート本体の面に対して略直交するように所定の間隔で配置されていてもよい。この場合、かかる突起部を用いることで、コンクリート打設時に養生シートをコンクリートに容易に取り付けることができる。なお、この養生シートでは、複数の突起物は、シート本体と同一材料からなり、一体成形されていてもよい。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、水を有効に活用して所定品質のコンクリート構造物を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】本発明に係るコンクリート構造物の製造方法に用いられる養生シートを示す斜視図である。
図2】養生シートの表面の水への接触角を示す模式図である。
図3】コンクリート構造物の製造方法において、型枠へ養生シートを貼付し、打設を開始した状態を示す斜視図である。
図4】コンクリート構造物の製造方法における打設後の状態を示す平面図である。
図5】コンクリート構造物の製造方法における脱型工程を示す斜視図である。
図6】コンクリート構造物の製造方法における脱型後の状態を示す平面図である。
図7】コンクリート構造物の製造方法における養生工程を示す平面図である。
図8】本実施形態におけるセパの取り合いを示す平面図である。
図9】実施例に用いた供試体の概要を示す斜視図である。
図10】実施例での中性化深さの測定結果を示すグラフである。
図11】実施例での表面気泡面積率の測定結果を示すグラフである。
図12】実施例での反発硬度の測定結果を示すグラフである。
図13】実施例での透気係数の測定結果を示すグラフである。
図14】実施例での表面吸水速度の測定結果を示すグラフである。
図15】実施例での表面含水率の測定結果を示すグラフである。
図16】実施例の比較試験における中性化深さの測定結果を示すグラフである。
図17】実施例の比較試験における表面気泡面積率の測定結果を示すグラフである。
図18】実施例の比較試験における透気係数の測定結果を示すグラフである。
図19】実施例の比較試験における表面吸水速度の測定結果を示すグラフである。
図20】実施例の比較試験における表面含水率の測定結果を示すグラフである。
図21】実施例の比較試験におけるコンクリート表面を示す写真である。
図22】実施例の比較試験におけるコンクリート表面を示す拡大写真である。
図23】本発明に係るコンクリート構造物の製造方法を勾配箇所に適用した例を示す図であり、(a)はハンチ部に適用した場合を示し、(b)は階段に適用した場合を示す。
図24】ハンチ部のコンクリート表面を示す写真であり、(a)は本発明に係るシートを用いた場合を示し、(b)はシートを用いずに型枠のみを用いた場合を示す。
図25】コンクリート構造物の製造方法において断熱材を用いた場合を示す図であり、(a)は型枠設置時を示し、(b)は脱型時を示す。
図26】断熱材を使用した場合と未使用の場合とでのコンクリートの内外温度差を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、図面を参照しつつ、本発明に係るコンクリート構造物の製造方法、及び、当該方法に用いることができるコンクリート養生シートの実施形態について詳細に説明する。
【0036】
まず、コンクリート構造物の製造方法に用いられるコンクリート養生シートについて、図1及び図2を参照して説明する。図1は、コンクリート構造物の製造方法に用いられる養生シートを示している。図1の(a)に示されるように、養生シート10は、所定の厚みを有するコンクリート養生シートであり、例えば略矩形形状を呈している。養生シート10は、矩形形状のシート本体12と、シート本体12の幅方向の両端に位置する端部14と、両端部14からコンクリートが打設される側に延出する複数の突起部16とを備えている。本実施形態では、シート本体12、端部14及び突起部16は、例えば同一材料からなっており、一体成形されているが、突起部16を別体として設け、端部14に接続されるようにしてもよい。なお、養生シート10の厚みは、0.1mm以上であることが好ましく、例えば0.1mm〜2mm程度である。
【0037】
各突起部16は、図示上下方向の長さが例えば5〜50mm(好ましくは20〜30mm)であり、奥行きである幅が例えば1〜20mm(好ましくは5〜10mm)の矩形形状(シート状)を呈している。各突起部16の厚みは、例えば、0.1〜2mmである。このような突起部16が、所定の間隔、例えば5〜50mm(好ましくは10〜30mm)で上下方向に配置されており、シート本体12の面に対して略直交するように、コンクリートが打設される側に向かって折り曲げられている。このような突起部16は、コンクリート打設時には、コンクリート内にその大部分が埋め込まれることになり、養生シート10をコンクリートに確実に貼り付けさせる。
【0038】
また、本実施形態で用いられる養生シートとしては、図1の(b)に示される構成のシートを用いてもよい。図1の(b)に示される養生シート20は、同様に、矩形形状のシート本体22と、シート本体22の幅方向の両端に位置する端部24と、両端部24からコンクリートが打設される側に延出する複数の突起部26とを備えている。但し、養生シート20では、突起部26が突起部16と異なる形状であり、針状になっている。これら突起部26は、奥行きである幅(針の長さ)が例えば1〜20mm(好ましくは5〜10mm)であり、厚みが例えば0.1〜2mmである。このような突起部26は、所定の間隔、例えば5〜50mm(好ましくは10〜30mm)で上下方向に配置されており、シート本体22の面に対して略直交するように、コンクリートが打設される側に向かって折り曲げられている。
【0039】
なお、上述した養生シート10,20における突起部16,26の折り曲げられた側の隅角部付近にシートとコンクリートの間に挟まれるよう、凧糸のような連続体を貼付しておいてもよい。この場合、後述するシート除去の際の撤去作業を容易なものとすることもできる。また、各養生シート10,20は、突起部16,26を除いた矩形形状のシートであってもよい。この場合、養生シート10,20がコンクリートから剥がれないように接着剤又は他のフック部材などを適宜用いて養生を行うことができる。
【0040】
養生シート10,20の材料としては、例えば、ポリプロピレン、ナイロン、ナイロン6、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体、エチレン・四フッ化エチレン共重合体、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリオレフィンなどの高分子化合物を用いることができる。養生期間を長くとるためにそのままコンクリート表面に貼り付ける点を考慮すると、汎用されていて費用が比較的安いポリプロピレンやポリエチレンテレフタラート、ポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニルから構成される養生シートが好ましい。
【0041】
このような養生シート10,20は、少なくとも、打設されたコンクリートに接触する側の面(接触面)の水との接触角θ(ぬれ角)が50度以上となっており、この接触角が高いほど好ましい。具体的には、養生シート10,20の接触面の水との接触角θが69度以上であることが好ましく、接触角θが80度以上であることが更に好ましく、接触角θが90度以上であることがより一層好ましい。素材の表面を各種表面加工技術によって加工することで、水との接触角は適宜調整することができる。
【0042】
ここで、「接触角θ」とは、図2の(a)に示されるように、液滴の接線と固体表面(シート表面)とのなす角度であり、以下の式(1)で示される。
【数1】

γ:固体の表面張力
γ:液体の表面張力
γSL:固体と液体の界面張力
【0043】
そして、「接触角θ」は、例えば、θ/2法で測定することができる。具体的には、図2の(b)に示されるように、液滴の半径rと高さhを求める。そして、以下の式(2)、(3)から、接触角θを求める。
【数2】

【数3】
【0044】
また、養生シート10,20は、シートの水蒸気透過性の小さいものを用いることが好ましく、シートの水蒸気透過性が10g/m・24h以下であることが好ましく、シートの水蒸気透過性が5g/m・24h以下であることがより一層好ましい。また、養生シート10,20は、シートの二酸化炭素透過性の小さいものを用いることが好ましく、シートの二酸化炭素透過性が10万cc/m・24h・atm以下であることが好ましく、シートの二酸化炭素透過性が5万cc/m・24h・atm以下であることがより一層好ましい。素材の表面を各種表面加工技術によって加工することで、水蒸気透過性又は二酸化炭素透過性を小さくしたシートを作製することができる。
【0045】
続いて、以上のような構成を備えた養生シート10,20を用いて、コンクリート構造物を製造する方法について説明する。以下の説明では養生シート10を用いた例を説明するが、養生シート20を用いた場合でも同様である。
【0046】
まず、図3に示されるように、コンクリート打設用の型枠30の内面(つまり打設されるコンクリート側の面)に養生シート10を粘着性を有する両面テープ等で予め貼付し(養生シート貼付工程)、前記型枠30を所定の位置に設置する(型枠設置工程)。型枠30同士は隙間なく設置するが、養生シート10同士の間には、例えば約30〜40mm程度の間隔が空いてしまう。これは、養生シート10の施工精度から勘案して、養生シート10の端部14を直線に施工し、且つ、型枠30の端部と完全に一致させることが困難なためである。なお、型枠30に養生シート10を貼付けるために、両面テープに代えて水の表面張力を用いてもよいし、グリースなどを使用してもよい。また、型枠30の設置の際、互いに隣接する型枠30の境界部において型枠30の内面に貼付された養生シート10の突起部16を型枠30からコンクリート打設側に向けて略直角になるように折り返した状態で保持する。なお、型枠30を設置してから、養生シート10を型枠30の内面に貼り付けてもよい。
【0047】
続いて、養生シート10が貼り付けられた型枠30が所定の位置に設置されると、図3の矢印で示すように、コンクリートCを型枠30内に流し込み、コンクリートの打設を行う(打設工程)。打設を行う際、養生シート10の折り返された突起部16がコンクリートC中に埋入されるようにする。突起部16は、コンクリートC中に埋入されても形状を維持できる剛性を有し、また、コンクリートCと付着する性状を有している。この突起部16の埋入により、養生シートがコンクリートCに対して固定される。折り返された養生シート10同士は、上述したように、所定の間隔を空けている。
【0048】
コンクリートの打設が終了すると、続いて、バイブレータ等を用いて締固めを行う。これにより、型枠30内の隅々まで十分にコンクリートCが流れこむようになる(図4参照)。従来であれば、コンクリート打設後に、コンクリート内部に含まれる空気の泡やブリージング水が表面に浮かび上がってくるが、本実施形態では、上述したように、所定角以上の接触角θを有する養生シート10をコンクリートCとの接触部分に設けているため、空気の泡やブリージング水の発生が抑制される。このように、空気の泡やブリージング水の発生が抑制されるのは、本発明者らによれば、コンクリート表面を覆っている養生シート10の接触面の接触角θが大きいと、コンクリート内に含まれていてその表面から外に出ようとする水や当該水中に存在する空気が接触面においてコンクリート内部に押し戻される作用が働き、その結果、水及びその内部の空気がコンクリートC内に残存したまま硬化が進むためと考えられる。具体的な例については、後述する実施例にて説明する。
【0049】
続いて、コンクリートの締固めが終了すると、型枠30をはめたまま、コンクリートCの湿潤養生を例えば7日〜28日程度行い、コンクリートを硬化させる。
【0050】
続いて、コンクリートCの凝結がある程度進み硬化したら、図5に示すように、型枠30を脱型する(脱型工程)。脱型の際、型枠30内に貼付された養生シート10は、そのままコンクリートCに貼り付けておく。つまり、養生シート10を残置しておく。養生シート10を残置しておくことにより、型枠30を外したものの、そのままコンクリートの湿潤養生を続けることができる。上述したように養生シート10間には(型枠境界部に)隙間があり、コンクリートCの表面が露出している箇所もあるため、当該露出部分は、図5に示すように、ガムテープ40(テープ部材)を貼付し、コンクリートCからの水分の逸散を防止する。ガムテープ40を貼付して水分の逸散を防止した状態を図6に示す。なお、型枠30を脱型する際に養生シート10を一緒に外し、別の養生シートでそのコンクリートを覆うようにしてもよい。この場合であっても、コンクリートの初期の凝結時においてブリージング水の発生が抑制されているため、上記同様の効果を得ることができる。
【0051】
続いて、型枠30を脱型した後、コンクリート構造物Cの貼付面に残置された養生シート10を用いて、コンクリート構造物Cを所定期間養生する(養生工程)。この養生では、既に型枠30が取り除かれており、シート状の養生シート10をコンクリート表面に残置させるだけで、特別な設備を用いることなくそのまま長期に養生を続けることができる。例えば、型枠30の脱型後30日以上養生を続けてもよいし、型枠の脱型後90日以上養生を続けてもよい。更に、コンクリート構造物Cの引き渡しに至るまで(例えば脱型後1年以上)養生を続けてももちろんよい。このような長期の養生を続けられることにより、コンクリート構造物Cの強度を飛躍的に高めることができる。なお、本実施形態の製造方法では、ブリージング水の発生を抑制しているため、コンクリートC内に水和反応を促進するための水が十分に含まれていることになり、養生工程の際、養生に用いる養生水を別途供給しなくてもよいか、あるいは、従来に比べて、はるかに少ない養生水を供給する程度でよい。
【0052】
その後、所定の養生期間が終了すると、コンクリート表面から養生シートを取り外す。この際、ガムテープ40を剥せば、これにより養生シートが引っ張られて、養生シート10の突起部16が点線部で切断され(図7参照)、養生シート10をコンクリート構造物Cから取り外すことができる。これにより、コンクリート構造物Cが完成する。
【0053】
以上、本実施形態による製造方法によれば、水との接触角が50度以上の養生シート10,20を打設時に用いることにより、打設後にコンクリートCが硬化する際、通常発生するブリージング水の発生を効果的に抑制することができる。そして、この製造方法によれば、ブリージング水の発生が抑制されるため、脱型後の水和反応に必要な水をコンクリートCが含有していることになり、コンクリート養生の際に外部から養生水を供給することなく又は養生水をそれほど用いることなく、所定の圧縮強度や耐久性などの品質を発現できるコンクリート構造物Cを製造することができる。
【0054】
また、本実施形態による製造方法によれば、凝結の際にコンクリートCの表面に空気が集まることが抑制されるため、表面組織が密実となり、またかぶりの一部が欠損するといったことも防止されるので、圧縮強度や耐久性などの品質を従来よりも向上させることができる。
【0055】
また、本実施形態による製造方法によれば、上述したように、脱型前においてコンクリートC内の空気が表面に集まることが抑制されるため、コンクリートCの表面の気泡の発生を抑え、これにより、外観の良い美しいコンクリート構造物を製造することが可能である(例えば図22参照)。また、養生シート10,20は、型枠30やコンクリートCからの剥離が容易であるため、型枠に剥離剤を塗布しなくてもよくなり、これにより、剥離剤によってコンクリート表面に汚れやシミを発生させてしまうことを防止できる。
【0056】
また、本実施形態による製造方法は、脱型工程の後に、養生シートをコンクリート構造物Cの貼付面にそのまま残置させて、コンクリート構造物Cを所定期間養生する養生工程を更に備えている。養生シート10,20を用いることにより、型枠脱型後も長期にわたり、コンクリートCを湿潤養生させることが容易にできる。
【0057】
また、本実施形態による製造方法では、打設工程で用いられる養生シート10,20の接触面の水との接触角θが69度以上であることがより好ましく、養生シート10,20の接触面の水との接触角θが80度以上であることが更に好ましく、養生シート10,20の接触面の水との接触角θが90度以上であることがより一層好ましい。このように、養生シート10,20の接触面の水との接触角θを高めることにより、コンクリートC内に含まれていて表面から出ようとする水や当該水中に存在する空気がシート接触面においてコンクリートCの内部に押し戻される作用がより強く働くため、水和反応に必要な水が十分に内包されることになり、製造されるコンクリート構造物Cの圧縮強度や耐久性といった品質をより一層高めることができる。
【0058】
また、本実施形態による製造方法では、養生シート10,20が、上述した各種材料から構成されていてもよいが、ポリプロピレンやポリエチレンテレフタラート,ポリ塩化ビニリデン,ポリ塩化ビニルから構成されるシートであってもよい。この場合、安価な養生シートを提供することができ、脱型後もコンクリート表面上に残置させることでコンクリートCの養生期間を容易に長くすることができる。
【0059】
また、本実施形態による製造方法では、養生シート10,20の厚みが0.1mm以上であってもよい。この場合、養生シート10,20にシワが発生しにくくなり、製造されるコンクリート構造物Cの外観をより一層綺麗なものとすることができる。
【0060】
また、本実施形態による製造方法では、養生シート10,20の水蒸気透過性が10g/m・24h以下であってもよく、更に、養生シート10,20の水蒸気透過性が5g/m・24h以下であってもよい。この場合、水和反応に必要な水の外部への透過を更に抑えることが可能となる。
【0061】
また、本実施形態による製造方法では、養生シート10,20の二酸化炭素透過性が10万cc/m・24h・atm以下であってもよく、更に、養生シートの二酸化炭素透過性が5万cc/m・24h・atm以下であってもよい。この場合、養生中のコンクリートCの表面への二酸化炭素の浸入を抑制して、コンクリートCの表面の中性化を抑えることが可能となる。
【0062】
また、本実施形態によるコンクリート構造物の製造方法には、設計基準強度が18N/mm以上100N/mm以下である各種コンクリートを用いることができるが、設計基準強度が18N/mm以上50N/mm以下のコンクリートを用いてもよいし、更に、設計基準強度が18N/mm以上33N/mm以下のコンクリートを用いてもよい。本実施形態の方法によれば、養生期間を長くとることが容易にできるため、いわゆる高強度コンクリートを用いずに費用を抑えた一般的なコンクリートを用いて、従来以上の圧縮強度や耐久性のコンクリート構造物を容易に製造することができる。
【0063】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、様々な実施形態に適用できる。例えば、上記実施形態では、鉄筋を含まないコンクリート構造物Cを例としてコンクリート構造物の製造方法を説明したが、同様の手法により、鉄筋コンクリート構造物を製造してもよい。この場合、コンクリート構造物の製造方法は、更に、所定の鉄筋を配筋する配筋工程を備えることになり、コンクリート構造物として鉄筋コンクリート構造物を製造することになる。この場合でも、コンクリート表面に発生する気泡や水が抑制されるため、かぶり厚を十分にとることができ、製造される鉄筋コンクリート構造物における鉄筋の錆をより一層効果的に防止することができる。また、従来の手法に比べ、かぶり厚を確実且つ十分にとることができるため、従来よりも設計上のかぶり厚を薄くすることも可能であり、かぶり厚を薄くすることにより、従来の強度を維持しつつ、コンクリート構造物に用いるコンクリートの量を減らすことも可能である。
【0064】
なお、本実施形態の製造方法では、養生シート10,20が千枚通しでの削孔又はのこぎりでの切断等が容易であるため、例えば、図8に示すように、養生シート10,20を用いない場合と同様に、セパ42などを用いた型枠の加工が可能である。
【0065】
また、上記実施形態では、垂直方向に延びるコンクリート面を養生シート10,20が覆う場合を例として説明したが、本発明の適用範囲はこれに限定されるわけではない。例えば、図23(a)に示されるようなボックスカルバートC1のハンチ部101や橋梁壁高欄のハンチ部を形成する際に本発明を適用してもよい。また、図23(b)に示されるような階段C2の面板102、即ち水平方向に延びるコンクリート面を形成する際に本発明を適用してもよい。この場合、型枠を設置する際、所定の勾配(例えば1%以上又は5%以上)となるようにコンクリート打設用の型枠を設置し、コンクリートを打設する際、その傾斜している型枠の内面に養生シート10,20が貼付された状態で勾配を有する部分のコンクリートの打設を行う。
【0066】
コンクリート構造物における勾配部分を形成する場合、コンクリート打設時にコンクリート中の空気が排出されづらく表面気泡が発生しやすいことが一般的である。しかしながら、上記方法によれば、接触角の高い養生シート10,20を勾配部分形成用の型枠に貼り付けることで、表面部への気泡の到達を抑制し、勾配部分の表面気泡の発生を低減することができる。図24に、本発明によってハンチ部の表面気泡の発生が低減された例を示す。図24の(b)は、養生シートを用いずに型枠(木枠)のみでハンチ部S12を形成した場合を示しており、図24の(a)は、本発明の接触角が50度以上の養生シートを型枠に貼り付けてハンチ部S11を形成した場合を示す。これらの写真の比較から明らかなように、接触角が50度以上の養生シートを用いた場合(図24の(a)の場合)、形成されたハンチ部S11の表面における気泡の発生が抑制されている。
【0067】
また、上記実施形態では、一般的なコンクリート構造物の製造方法を例示したが、例えばコンクリートからなる水路トンネルのインバートに本発明を適用してもよい。本発明によれば、コンクリート構造物の表面硬度を向上させることができるため、水路トンネルのインバートに本発明を適用することにより、補修困難なインバートなどの長期耐久性を容易に向上させることができる。このようなインバートを形成するには、上述した養生シート10,20をコンクリートの打設時にインバート部の表面を覆うように配置して打設や養生を行うことによって実現できる。
【0068】
また、本発明を水路の断面縮小に適用してもよい。具体的には、養生シート10,20を用いてコンクリート構造物を製造する場合、その表面の粗度係数を一般的な粗度係数0.015から0.013等に容易に向上させることができるので、例えば従来の直径5mの水路トンネルにおいて、1/2水深(水深が直径の1/2)で1%勾配の場合、同程度の流路を確保するために、水路断面の直径を4.73mに縮小することも可能である。なお、これらの算出は、マニングの式等を用いて算出することが可能である。
【0069】
また、上記実施形態では、コンクリート表面の保温のために断熱材を用いていなかったが、コンクリートの温度ひび割れ抑制や冬季の保温養生技術として断熱材を用いてもよい。コンクリートの温度ひび割れ等は、例えば、図26に示すように、断熱材を用いない場合、脱型時(図では材齢3日)に内外温度差が急激に大きくなること等によって発生する場合がある。しかし、図25の(a)に示すように、型枠30に養生シート10を貼り付ける際に養生シート10と型枠30との間に断熱材120を配置し、養生シート10と型枠30との間に断熱材120が配置された状態でコンクリートの打設を行い、更に、図25の(b)に示すように、脱型時に、断熱材120をコンクリート構造物Cの表面に残置したまま型枠30を脱型する。
【0070】
このようにすることで、図26の断熱材ありのグラフに示すように、内外温度差を徐々に小さくすることができ、脱型後に断熱材を別途貼り付ける場合に比べて断熱材貼り付けまでの間の急冷を予防することができる。また、断熱性型枠を使用した場合に比べて早期脱型が可能にもなる。この結果、断熱材を更に用いる本発明の方法によれば、早期脱型を可能にしつつコンクリートの温度ひび割れ等を防止することができる。なお、ここで用いる断熱材は、例えば表面熱伝達率が8W/m℃以下であることが好ましい。
【0071】
また、上記実施形態では、養生シート10,20に対して表面改質剤等を塗布したりしていなかったが、養生シート10,20に対して更に表面改質剤等を塗布するようにしてもよい。具体的には、養生シート10,20のコンクリート打設側の面に、表面改質剤、収縮低減剤、吸水防止剤、及び剥離剤の少なくとも1つを塗布してコンクリートの打設を行う。これにより、表面の平滑化や保湿化だけでなく、塗布した剤による追加効果をコンクリート構造物に容易に付与することができる。例えば、ケイ酸アルカリ又はセメント系化合物で構成された表面改質剤を用いた場合、コンクリート表面にシリカゲル又はC−S−H(カルシウム・シリケート水和物)を生成して、コンクリート組織を緻密化することができる。
【0072】
また、アルコール系化合物で構成された収縮低減剤を用いた場合、界面活性剤の作用により、コンクリートの細孔空隙に発生する負圧を抑制して乾燥収縮などを低減することができる。また、シラン系化合物で構成される吸水防止剤を用いた場合、コンクリート表面に吸水防止層を形成することにより凍害を抑制することができる。また、油性又は水性の剥離剤を用いた場合、コンクリートの肌離れ(離型のし易さ)がより一層向上し、より緻密なコンクリート表面とすることができる。上述した剤の何れか1つを用いてもよいし、複数の剤を組み合わせて用いてもよい。
【実施例】
【0073】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0074】
まず、以下の表1及び表2に示す材料及び配合のコンクリートを作製した。
【0075】
【表1】
【0076】
【表2】
【0077】
続いて、表1、2に記載した材料及び配合のコンクリートを用いて、図9に示す供試体Tを作製した。この供試体Tは、1辺が900mmのコンクリートブロックである。この供試体Tを作製する際には、コンクリートとの接触面の接触角θが52度〜115度となる養生シート(実施例1〜9)を型枠の内面に貼り付けて、それぞれコンクリートの打ち込みを行った。コンクリートの打ち込みは一層であり、材齢5日で型枠を脱型した後、材齢91日において、以下の表3に示す物性を測定した。
【0078】
【表3】
【0079】
また、比較例1として、上述した養生シートに代えて、普通型枠(シート貼付無し)を用いて、同様のコンクリート供試体Tを作製した。また、比較例2として、上述した養生シートに代えて、透水性型枠(シート貼付無し)を用いて、同様のコンクリート供試体Tを作製した。比較例1,2でも、コンクリートの打ち込みは一層であり、材齢5日で型枠を脱型した後、材齢91日において、上記の表3に示す物性を測定した。なお、比較例2では、脱型後、直ちに一般的な養生シートをコンクリートに貼り付けた。
【0080】
以下の表4に試験に用いた養生シート及び型枠を示す。なお、実施例1〜9では、型枠の記載は省略してあるが、通常の型枠を用いた。
【0081】
【表4】
【0082】
まず、本試験に用いたコンクリートのフレッシュ性状を打込み時に試験したところ、スランプが14.5cmであり、空気量が4.6%であった。
【0083】
また、シート1〜9を用いてそれぞれ作製したコンクリート供試体T(実施例1〜9)、及び、普通型枠又は透水性型枠を用いて作製したコンクリート供試体T(比較例1,2)について、中性化深さ、表面気泡面積率、反発硬度、透気係数、表面吸水速度、及び、表面含水率を測定した。
【0084】
[中性化深さ]
図10に、実施例1〜9及び比較例1,2の供試体Tの中性化深さを、シート接触面の接触角θとの関係で示す。いずれの実施例1〜9の場合も、養生シートの貼付によって、比較例1の普通型枠の場合よりも中性化深さを小さくすることができた。また、接触角が52〜69度(実施例7〜9)の場合、養生シートの貼付によって、比較例2の透水型枠の使用と同等の中性化深さとすることができた。また、接触角が80度以上(実施例6)の場合、比較例2の透水型枠の使用よりも小さい中性化深さとすることができた。また、接触角が90度以上(実施例1〜5)の場合、比較例2の透水型枠の使用よりもかなり小さい中性化深さとすることができた。
【0085】
[表面気泡面積率]
図11に、実施例1〜9及び比較例1,2の供試体Tの表面気泡面積率を、シート接触面の接触角θとの関係で示す。いずれの実施例1〜9の場合も、養生シートの貼付によって、比較例1の普通型枠の場合よりも表面気泡面積率を小さくすることができた。また、接触角が80度以上(実施例6)の場合、比較例2の透水型枠の使用よりも小さい表面気泡面積率とすることができた。また、接触角が90度以上(実施例1〜5)の場合、比較例2の透水型枠の使用よりもかなり小さい表面気泡面積率とすることができた。なお、図11から明らかなように、養生シートの接触角が大きいほど表面気泡率が減少することが判明した。
【0086】
[反発硬度]
図12に、実施例1〜9及び比較例1,2の供試体Tの反発硬度を、シート接触面の接触角θとの関係で示す。いずれの実施例1〜9の場合も、養生シートの貼付によって、比較例1の普通型枠の場合よりも反発硬度を大きくすることができた。また、接触角が80度(実施例6)の場合、比較例2の透水型枠と同等の反発硬度とすることができた。また、接触角が90度以上(実施例1〜5)の場合、比較例2の透水型枠の使用よりもかなり大きな反発硬度とすることができた。
【0087】
[透気係数]
図13に、実施例1〜9及び比較例1,2の供試体Tの透気係数を、シート接触面の接触角θとの関係で示す。いずれの実施例1〜9の場合も、養生シートの貼付によって、比較例1の普通型枠の場合よりも透気係数を小さくすることができた。また、接触角が52度(実施例9)の場合、比較例2の透水型枠と同等の透気係数とすることができた。また、接触角が68度以上(実施例6〜8)の場合、比較例2の透水型枠の使用よりも小さい透気係数とすることができ、接触角が90度以上(実施例1〜5)の場合、比較例2の透水型枠の使用よりもかなり小さい透気係数とすることができた。
【0088】
[表面吸水速度]
図14に、実施例1〜9及び比較例1,2の供試体Tの表面吸水速度を、シート接触面の接触角θとの関係で示す。いずれの実施例1〜9の場合も、養生シートの貼付によって、比較例1の普通型枠の場合よりも表面吸水速度を小さくすることができた。また、接触角が68度以上(実施例6〜8)の場合、比較例2の透水型枠と同等の表面吸水速度とすることができた。また、接触角が90度以上(実施例1〜5)の場合、比較例2の透水型枠の使用よりもかなり小さい表面吸水速度とすることができた。
【0089】
[表面含水率]
図15に、実施例1〜9及び比較例1,2の供試体Tの表面含水率を、シート接触面の接触角θとの関係で示す。いずれの実施例1〜9の場合も、養生シートの貼付によって、比較例1の普通型枠の場合よりも表面含水率を大きくすることができた。また、接触角が68度以上(実施例6〜8)の場合、比較例2の透水型枠と同等の表面含水率とすることができた。また、接触角が90度以上(実施例1〜5)の場合、比較例2の透水型枠の使用よりもかなり大きい表面含水率とすることができた。
【0090】
続いて、本発明の方法による所定の接触角を有する養生シートを事前に貼り付けた場合の有効性を確認するため、以下の比較試験を追加で行った。表6に示すように、上述した実施例1のシート1を通常型枠に用いた場合(実施例)と、シート1を用いずに単に通常型枠のみを用いた場合(比較例)とで表5に示す物性を測定して比較した。なお、使用したコンクリートの配合や供試体は同一であった。
【0091】
【表5】
【0092】
【表6】
【0093】
[中性化深さ]
図16に、実施例と比較例の供試体Tの中性化深さを示す。図16から明らかなように、比較例の中性化深さが約10mmであるのに対し、実施例の中性化深さは5mm程度であり、実施例の製法によれば、コンクリート構造物の中性化深さをかなり小さくすることができた。
【0094】
[表面気泡面積率]
図17に、実施例と比較例の供試体Tの表面気泡面積率を示す。図17から明らかなように、比較例の表面気泡面積率が5%であるのに対し、実施例の表面気泡面積率は1.2%程度であり、実施例の製法によれば、コンクリート構造物の表面気泡面積率をかなり小さくすることができた。
【0095】
[透気係数]
図18に、実施例と比較例の供試体Tの透気係数を示す。図18から明らかなように、比較例の透気係数が0.1〜1.0*10−16の間(一般)であるのに対し、実施例の透気係数は0.001〜0.01*10−16の間(優)であり、実施例の製法によれば、コンクリート構造物の透気係数をかなり小さくすることができた。
【0096】
[表面吸水速度]
図19に、実施例と比較例の供試体Tの表面吸水速度を示す。図19から明らかなように、比較例の表面吸水速度が0.24ml/m/sであるのに対し、実施例の表面吸水速度は0.02ml/m/sであり、実施例の製法によれば、コンクリート構造物の表面吸水速度をかなり小さくすることができた。
【0097】
[表面含水率]
図20に、実施例と比較例の供試体Tの表面含水率を示す。図20から明らかなように、比較例の表面含水率が3.4%であるのに対し、実施例の表面含水率は4.1%であり、実施例の製法によれば、コンクリート構造物の表面含水率をかなり大きくすることができた。
【0098】
また、実施例および比較例として作成した供試体Tのコンクリート表面の外観を観察した。その結果を図21,22に示す。
【0099】
図21,22の写真から明らかなように、比較例として作製したコンクリート表面S2には、表面に多数の気泡が確認された。一方、実施例として作製したコンクリート表面S1は、表面に気泡が少なく、外観がとてもきれいに仕上がっていることが確認された。特に図22の写真によれば、実施例として作製したコンクリート表面S1が大理石のように艶々としていることが確認できた。
【符号の説明】
【0100】
10,20…養生シート、14,24…端部、16,26…突起部、30…型枠、40…ガムテープ、C…コンクリート構造物。
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