特許第5688571号(P5688571)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5688571
(24)【登録日】2015年2月6日
(45)【発行日】2015年3月25日
(54)【発明の名称】複層塗膜形成方法
(51)【国際特許分類】
   B05D 1/36 20060101AFI20150305BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20150305BHJP
   C09D 133/00 20060101ALN20150305BHJP
   C09D 167/00 20060101ALN20150305BHJP
【FI】
   B05D1/36 B
   B05D7/24 302P
   B05D7/24 302V
   B05D7/24 303E
   !C09D133/00
   !C09D167/00
【請求項の数】6
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2013-19628(P2013-19628)
(22)【出願日】2013年2月4日
(65)【公開番号】特開2014-147918(P2014-147918A)
(43)【公開日】2014年8月21日
【審査請求日】2014年6月3日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】314014405
【氏名又は名称】日本ペイント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081422
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 光雄
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(72)【発明者】
【氏名】四尺 智理
(72)【発明者】
【氏名】小川 弘隆
(72)【発明者】
【氏名】栂井 広和
【審査官】 山本 昌広
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−66034(JP,A)
【文献】 特開2004−290714(JP,A)
【文献】 特開2010−253378(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D 1/00−7/26
C09D 1/00−201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被塗物表面に対して、第1水性ベース塗料を塗布して未硬化の第1水性ベース塗膜を得る工程(1)、前記未硬化の第1水性ベース塗膜上に、第2水性ベース塗料を塗布して未硬化の第2水性ベース塗膜を形成する工程(2)、前記未硬化の第2水性ベース塗膜上に、クリヤー塗料を塗布して未硬化のクリヤー塗膜を形成する工程(3)、および、前記工程(1)〜(3)で得られた未硬化の第1水性ベース塗膜、未硬化の第2水性ベース塗膜および未硬化のクリヤー塗膜を、一度に加熱硬化して複層塗膜を形成する工程(4)を含む複層塗膜形成方法であって、
前記第1水性ベース塗料が、アクリルエマルション樹脂および親水会合型粘性剤を含んでおり、かつ、
前記第2水性ベース塗料が、塗膜形成樹脂としてアクリルエマルション樹脂(A)、水溶性アクリル樹脂(B)および水溶性ポリエステル樹脂(C)を含み、アクリルエマルション樹脂(A)の樹脂固形分質量と、アクリルエマルション樹脂(A)、水溶性アクリル樹脂(B)および水溶性ポリエステル樹脂(C)の樹脂固形分合計質量との比率(A)/(A+B+C)の百分率が40〜60%である、
ことを特徴とする、複層塗膜形成方法。
【請求項2】
前記第1水性ベース塗料に含まれる粘性剤は、前記親水会合型粘性剤とその他の粘性剤との固形分含有比として、前記親水会合型粘性剤/その他の粘性剤=100/0〜50/50である、請求項1に記載の複層塗膜形成方法。
【請求項3】
前記第1水性ベース塗料に含まれる親水会合型粘性剤がポリアマイド型粘性剤である請求項1または2に記載の複層塗膜形成方法。
【請求項4】
前記第2水性ベース塗料に含まれるアクリルエマルション樹脂(A)が、単層型アクリルエマルション樹脂(a)およびコア・シェル型アクリルエマルション樹脂(b)を含んでいる請求項1〜3のいずれか1つに記載の複層塗膜形成方法。
【請求項5】
前記工程(2)において前記第2水性ベース塗料を塗布した際の前記未硬化の第1水性ベース塗膜の20℃での塗膜粘度が剪断速度0.01/sにおいて、45〜100Pa・sである請求項1〜のいずれか1つに記載の複層塗膜形成方法。
【請求項6】
前記工程(1)と前記工程(2)との間に、加熱乾燥工程がない、請求項1〜のいずれか1つに記載の複層塗膜形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複層塗膜形成方法、特に、いわゆるウェット・オン・ウェット塗装で第1水性ベース塗料、第2水性ベース塗料およびクリヤー塗料を塗布した後、3層を一度に加熱硬化する複層塗膜形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車車体などの塗装は、基本的には、電着塗膜、第1ベース塗膜(「水性中塗り塗膜」と呼ばれることもある。)、第2ベース塗膜(「着色ベース塗料」と呼ばれることもある。)およびクリヤー塗膜を、被塗物である鋼板の上に順次積層して行われる。このような塗装において、各構成塗膜を形成する毎に焼付け硬化する方法と、積層された複数の塗膜を同時に硬化する方法とがある。ここで、積層された複数の塗膜を同時に硬化する方法においては、加熱硬化工程を省略することができ、塗装の省エネルギー化を実現することができるという利点がある。
【0003】
積層された複数の塗膜を同時に硬化する方法として、第1ベース塗膜、第2ベース塗膜およびクリヤー塗膜を、順次ウェットオンウェットで塗膜形成し、その後に焼き付け硬化させる3コート1ベーク塗装が実施されている。しかし、従来の3コート1ベーク塗装においては、特に水性塗料を用いる場合、第1ベース塗料組成物を塗装した後、例えば60〜100℃で2〜20分乾燥させる、いわゆるプレヒート工程と呼ばれる予備乾燥工程が必要である。これは、未硬化の第1水性ベース塗膜を形成した後、すぐに第2水性ベース塗膜を形成すると、上層である未硬化の第2ベース塗膜に含まれる水分や有機溶剤が、未硬化の第1水性ベース塗膜に移行し、これら2つの塗膜層が混じり合い(混層)、これにより得られる複層塗膜の塗膜外観が悪化することを抑制するためである。
【0004】
一方で、近年における、省エネルギー化およびCO排出量削減といった環境負荷低減に対するさらなる要請により、未硬化の第1水性ベース塗膜形成後のプレヒート工程をも省略することが望まれるようになった。その一方で、得られる積層塗膜に対しては、従来の塗装方法と比較して劣ることのない、良好な塗膜外観であることが求められる。
【0005】
特開2001−9357号公報(特許文献1)には、基材上に、水性中塗り塗料組成物により中塗り塗膜、水性メタリックベース塗料組成物によりメタリックベース塗膜およびクリヤー塗料組成物によりクリヤー塗膜を、順次形成する塗膜形成方法において、上記水性中塗り塗料組成物および/または上記水性メタリックベース塗料組成物が、ポリカルボジイミド化合物およびカルボキシル基含有水性樹脂を含有することを特徴とする塗膜形成方法が記載されている(請求項1)。そしてこの方法によって、水性中塗り塗膜および上塗り塗膜を順次塗装した場合の、各塗膜層間の界面でのなじみや反転を制御し、高外観を有する積層塗膜を形成することができると記載されている。しかしこの塗膜形成方法においては、80℃で5分間のプレヒートが行われている([0101]段落)。
【0006】
特開2004−358462号公報(特許文献2)には、水性中塗り塗料組成物、水性ベース塗料組成物およびクリヤー塗料組成物をウェットオンウェットで塗装し、その後同時に焼き付け硬化させる複層塗膜形成方法において、水性中塗り塗料組成物が、ガラス転移温度−50〜20℃、固形分酸価2〜60mgKOH/gおよび固形分水酸基価10〜120mgKOH/gを有するアクリル樹脂エマルション、固形分酸価5〜50mgKOH/gを有するウレタン樹脂エマルション、および硬化剤を含有することを特徴とする複層塗膜の形成方法が記載されている(請求項1)。そしてこの方法により、中塗り塗膜とベース塗膜との混相を有効に防止して表面平滑性に優れる複層塗膜を形成することができると記載されている。しかしこの複層塗膜の形成方法においてもまた、水性中塗り塗料組成物を塗装した後、80℃で5分間のプレヒートが行われている([0117]段落)。
【0007】
特開2009−262002号公報(特許文献3)には、水性中塗り塗料組成物、水性ベース塗料組成物およびクリヤー塗料組成物をウェットオンウェットで塗装し、その後同時に焼き付け硬化させる、複層塗膜を形成する方法であって、水性中塗り塗料組成物は、固形分水酸基価が50〜120および固形分酸価が20〜60mgKOH/gであるアクリル樹脂エマルション;アルキル側鎖の炭素数が1〜4である完全アルキルエーテル化メラミン樹脂;および、カルボジイミド化合物;を含む、複層塗膜形成方法が記載されている(請求項1)。そしてこの方法により、3コート1ベーク法において中塗り塗膜とベース塗膜との間の混層を防止することができると記載されている。しかしこの複層塗膜形成方法においてもまた、80℃で5分間のプレヒートが行われている([0162]段落)。
【0008】
特開2012−116879号公報(特許文献4)には、アクリル樹脂エマルションおよび硬化剤を含む水性中塗り塗料組成物中に、ダイマー酸誘導体水分散物を配合することによって、水性中塗り塗料中に擬似的な結晶状態を形成して塗膜を疎水性にし、水性ベース塗料からの水を含む溶剤の移動を防止することが記載されている。この方法においても、プレヒート工程を完全に省くことは難しく、混層やタレの発生が見られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2001−9357号公報
【特許文献2】特開2004−358462号公報
【特許文献3】特開2009−262002号公報
【特許文献4】特開2012−116879号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記従来技術の問題点を解決することを課題とする。より特定すれば、本発明は、第1水性ベース塗料を塗布して未硬化の第1水性ベース塗膜を設けた後、硬化させることなく第2水性ベース塗料を塗布するウェット・オン・ウェット塗装において、混層などの不具合が生じない第1水性ベース塗料および第2水性ベース塗料の配合を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、
被塗物表面に対して、第1水性ベース塗料を塗布して未硬化の第1水性ベース塗膜を得る工程(1)、前記未硬化の第1水性ベース塗膜上に、第2水性ベース塗料を塗布して未硬化の第2水性ベース塗膜を形成する工程(2)、前記未硬化の第2水性ベース塗膜上に、クリヤー塗料を塗布して未硬化のクリヤー塗膜を形成する工程(3)、および、前記工程(1)〜(3)で得られた未硬化の第1水性ベース塗膜、未硬化の第2水性ベース塗膜および未硬化のクリヤー塗膜を、一度に加熱硬化して複層塗膜を形成する工程(4)を含む複層塗膜形成方法であって、
前記第1水性ベース塗料が親水会合型粘性剤を含んでおり、かつ、
前記第2水性ベース塗料が、塗膜形成樹脂としてアクリルエマルション樹脂(A)、水溶性アクリル樹脂(B)および水溶性ポリエステル樹脂(C)を含み、アクリルエマルション樹脂(A)の樹脂固形分質量と、アクリルエマルション樹脂(A)、水溶性アクリル樹脂(B)および水溶性ポリエステル樹脂(C)の合計樹脂固形分合計質量との比率(A)/(A+B+C)の百分率が40〜60%である、
ことを特徴とする、複層塗膜形成方法、を提供するものであり、これにより上記課題が解決される。
【0012】
本発明は、また以下の態様を含んでいる:
前記第1水性ベース塗料に含まれる親水会合型粘性剤がポリアマイド型粘性剤であること、
前記第2水性ベース塗料に含まれるアクリルエマルション樹脂(A)が、単層型アクリルエマルション樹脂(a)およびコア・シェル型アクリルエマルション樹脂(b)を含んでいること、
前記工程(2)において前記第2水性ベース塗料を塗布した際の前記未硬化の第1水性ベース塗膜の20℃での塗膜粘度が剪断速度0.01/sにおいて、45〜100Pa・sであること、
前記工程(1)と前記工程(2)との間に、加熱乾燥工程がないこと。
【発明の効果】
【0013】
本発明者等は、第1水性ベース塗料を塗布して未硬化の第1水性ベース塗膜を得た後、予備乾燥工程(プレヒート工程)を経ることなく、第2水性ベース塗料を塗布しても、タレや混層などの欠陥を生じない方法を検討してきた。20℃において、プレヒートを行わない場合の第1水性ベース塗膜の粘度は、50〜100Pa・s(剪断速度0.01/s)であるのに対して、プレヒートを行うと、第1水性ベース塗膜の粘度は10,000Pa・s(剪断速度0.01/s)を超える。プレヒートを行わない状態で得られる第1水性ベース塗膜の粘度が最大150Pa・s(剪断速度0.01/s)程度であるとして、第1水性ベース塗膜の粘度と第2水性ベース塗料組成物を塗布した後のタレとの相関関係を調べたが、関係が見出せなかった。
【0014】
そこで、第2水性ベース塗料塗布後の第1水性ベース塗膜の粘度を特殊な方法で測定し、タレとの相関関係を取った。そこには、第1水性ベース塗膜の粘度が高くなるにつれて、タレが減少する相関関係が見られ、20℃における剪断速度0.01/sでの粘度が45Pa・sよりも小さいとタレは多いが、45Pa・sを超えるとタレが大きく減少することを見出した。本発明は、この知見に基づいてなされたものであり、第2水性ベース塗料を塗布した時点での第1水性ベース塗膜の粘度を高めるために、第1水性ベース塗料に親水会合型粘性剤を配合し、第2水性ベース塗料では第1水性ベース塗膜への水分の流出を防ぐための配合設計をして達成した。
【0015】
従って、本発明の第1水性ベース塗料と第2水性ベース塗料との配合設計を、いわゆるウェット・オン・ウェット塗装で塗装する方法に適用した場合に、プレヒート工程(即ち、予備乾燥工程)が無くてもタレや混層などの欠陥が生じないのであり、水性塗料の複層塗膜塗装工程から、通常は必須であるプレヒート工程を省略することが可能となった。従って、プレヒート工程でのエネルギーが不要になるばかりでなく、塗装工程の時間的および工程的短縮が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
第1水性ベース塗料
本発明の第1水性ベース塗料は、通常、アクリルエマルション樹脂および硬化剤を含み、本発明では親水会合型粘性剤を更に含む。この第1水性ベース塗料にはさらに、顔料および必要に応じた添加剤を含んでもよい。
【0017】
アクリルエマルション樹脂
アクリルエマルション樹脂を構成するアクリル樹脂のガラス転移温度(Tg)は−20℃〜60℃であるのが好ましく、−10℃〜50℃であるのがより好ましく、0℃〜40℃であるのがさらに好ましい。樹脂のTgが−20℃未満では塗膜の機械的強度が不足し、耐チッピング性が低下する。一方、樹脂のTgが60℃を超えると、塗膜が硬くて脆くなるため、耐衝撃性に欠け、耐チッピング性が低下する。上記アクリルエマルション樹脂のTgは、構成するモノマーまたはホモポリマーの既知のTgおよび組成比に基づいて算出することができる。
【0018】
上記アクリルエマルション樹脂を構成するアクリル樹脂の固形分酸価は2〜60mgKOH/gであり、5〜50mgKOH/gであるのが好ましい。樹脂の固形分酸価が2mgKOH/g未満では、アクリルエマルション樹脂やそれを用いた第1水性ベース塗料の保存安定性、機械的安定性、凍結に対する安定性などが低下し、また、メラミン樹脂などの硬化剤との硬化反応において、十分な硬化性が確保できず、塗膜の諸強度、耐チッピング性、耐水性が低下する。一方、樹脂の固形分酸価が60mgKOH/gを超えると、樹脂の重合安定性が低下したり、得られた塗膜の耐水性が低下する。アクリル樹脂の固形分酸価は、上記各モノマー成分の種類や配合量を、樹脂の固形分酸価が上記範囲となるように選択することによって調整することができる。下記に詳述するが、酸基含有エチレン性不飽和モノマー(ii)の内でもカルボキシル基含有モノマーを用いることが重要であり、モノマー(ii)の内、カルボキシル基含有モノマーが50質量%以上であるのが好ましく、80質量%以上含まれるのがより好ましい。
【0019】
上記アクリルエマルション樹脂を構成するアクリル樹脂の固形分水酸基価は10〜120mgKOH/gであり、20〜100mgKOH/gであるのが好ましい。固形分水酸基価が10mgKOH/g未満では、上記硬化剤との硬化反応において、十分な硬化性が確保できず、塗膜の機械的性質が低く、耐チッピング性が低下し、耐水性および耐溶剤性も低下する。一方、固形分水酸基価が120mgKOH/gを超えると、得られた塗膜の耐水性が低下したり、上記硬化剤との相溶性が低く、塗膜にひずみが生じ、硬化反応が不均一に起こり、その結果、塗膜の諸強度、特に耐チッピング性、耐溶剤性および耐水性が低下する。
【0020】
上記アクリル樹脂の固形分酸価および固形分水酸基価は、使用したモノマー混合物の固形分酸価および固形分水酸基価に基づいて算出することができる。
【0021】
本発明の複層塗膜形成方法に用いられる第1水性ベース塗料に含まれるアクリルエマルション樹脂は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(i)、酸基含有エチレン性不飽和モノマー(ii)、および水酸基含有エチレン性不飽和モノマー(iii)を含むモノマー混合物を乳化重合して得ることができる。尚、モノマー混合物の成分として以下に例示される化合物(i)〜(iii)は、それぞれ1種のみを用いてもよく、または2種以上を適宜組み合わせて用いてもよい。
【0022】
(メタ)アクリル酸アルキルエステル(i)はアクリルエマルション樹脂の主骨格を構成するために使用する。(メタ)アクリル酸アルキルエステル(i)の具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ステアリルなどが挙げられる。本明細書中において、例えば、「(メタ)アクリル酸メチル」とは、アクリル酸メチルおよびメタクリル酸メチルを表す。
【0023】
酸基含有エチレン性不飽和モノマー(ii)は、得られるアクリルエマルション樹脂の貯蔵安定性、機械的安定性、凍結に対する安定性などの諸性能を向上させ、塗膜形成時におけるメラミン樹脂などの硬化剤との硬化反応を促進するために使用する。酸基は、カルボキシル基、スルホン酸基およびリン酸基などから選ばれることが好ましい。特に好ましい酸基は、上記諸安定性向上や硬化反応促進機能の観点から、カルボキシル基である。
【0024】
カルボキシル基含有エチレン性不飽和モノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸、エタクリル酸、プロピルアクリル酸、イソプロピルアクリル酸、イタコン酸、無水マレイン酸およびフマル酸などが挙げられる。スルホン酸基含有エチレン性不飽和モノマーとしては、例えば、p−ビニルベンゼンスルホン酸、p−アクリルアミドプロパンスルホン酸、t−ブチルアクリルアミドスルホン酸などが挙げられる。リン酸基含有エチレン性不飽和モノマーとしては、例えば、2−ヒドロキシエチルアクリレートのリン酸モノエステル、2−ヒドロキシプロピルメタクリレートのリン酸モノエステルのライトエステルPM(共栄社化学社製)などが挙げられる。
【0025】
水酸基含有エチレン性不飽和モノマー(iii)は、水酸基に基づく親水性をアクリルエマルション樹脂に付与し、これを塗料として用いた場合における作業性や凍結に対する安定性を向上させると共に、硬化剤として好適に用いることができるメラミン樹脂またはイソシアネート系硬化剤などとの硬化反応性を付与するために使用する。
【0026】
水酸基含有エチレン性不飽和モノマー(iii)としては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、N−メチロールアクリルアミド、アリルアルコール、ε−カプロラクトン変性アクリルモノマーなどが挙げられる。
【0027】
ε−カプロラクトン変性アクリルモノマーの具体例としては、ダイセル化学工業社製のプラクセルFA−1、プラクセルFA−2、プラクセルFA−3、プラクセルFA−4、プラクセルFA−5、プラクセルFM−1、プラクセルFM−2、プラクセルFM−3、プラクセルFM−4およびプラクセルFM−5などが挙げられる。
【0028】
上記アクリルエマルション樹脂の調製に用いられるモノマー混合物は、上記モノマー(i)〜(iii)以外にも、任意成分として、スチレン系モノマー、(メタ)アクリロニトリルおよび(メタ)アクリルアミドからなる群から選ばれる少なくとも1種のモノマーを含んでもよい。スチレン系モノマーとしては、スチレンのほかにα−メチルスチレンなどが挙げられる。
【0029】
また、上記モノマー混合物は、カルボニル基含有エチレン性不飽和モノマー、加水分解重合性シリル基含有モノマー、種々の多官能ビニルモノマーなどの架橋性モノマーを含んでよい。これらの架橋性モノマーが含まれる場合、得られるアクリルエマルション樹脂は自己架橋性を有する。
【0030】
カルボニル基含有エチレン性不飽和モノマーとしては、例えば、アクロレイン、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート、ホルミルスチロール、4〜7個の炭素原子を有するアルキルビニルケトン(例えばメチルビニルケトン、エチルビニルケトン、ブチルビニルケトン)などのケト基を含有するモノマーが挙げられる。これらのうちジアセトン(メタ)アクリルアミドが好適である。
【0031】
加水分解重合性シリル基含有モノマーとしては、例えば、γ−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシランなどのアルコキシシリル基を含有するモノマーが挙げられる。
【0032】
多官能ビニル系モノマーは、分子内に2つ以上のラジカル重合可能なエチレン性不飽和基を有する化合物であり、例えば、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリストールジ(メタ)アクリレートなどのジビニル化合物が挙げられ、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートなども挙げられる。
【0033】
本発明の複層塗膜形成方法に用いられるアクリルエマルション樹脂は、上記(i)〜(iii)を含むモノマー混合物を乳化重合することによって調製することができる。乳化重合(乳化共重合)は、上記モノマー混合物を水溶性液中で、ラジカル重合開始剤および乳化剤の存在下で、攪拌下加熱することによって実施することができる。反応温度は例えば30〜100℃として、反応時間は例えば1〜10時間が好ましい。水と乳化剤を仕込んだ反応容器にモノマー混合物またはモノマープレ乳化液の一括添加または暫時滴下によって、反応温度の調節を行うことができる。
【0034】
ラジカル重合開始剤としては、通常アクリル樹脂の乳化重合で使用される公知の開始剤を使用することができる。具体的には、水溶性のフリーラジカル重合開始剤として、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウムなどの過硫酸塩、または4,4’−アゾビス−4−シアノ吉草酸などのアゾ系化合物が、水溶液の形で使用される。また、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素などの酸化剤と、亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、ロンガリット、アスコルビン酸などの還元剤とが組み合わされたいわゆるレドックス系開始剤を水溶液として使用するのが好ましい。
【0035】
乳化剤としては、炭素数が6以上の炭素原子を有する炭化水素基と、カルボン酸塩、スルホン酸塩または硫酸塩部分エステルなどの親水性部分とを同一分子中に有する両親媒性化合物から選ばれるアニオン系または非イオン系の乳化剤が用いられる。このうちアニオン系の乳化剤としては、アルキルフェノール類または高級アルコール類の硫酸半エステルのアルカリ金属塩またはアンモニウム塩;アルキルまたはアリルスルホナートのアルカリ金属塩またはアンモニウム塩;ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテルまたはポリオキシエチレンアリルエーテルの硫酸半エステルのアルカリ金属塩またはアンモニウム塩などが挙げられる。また非イオン系の乳化剤としては、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテルまたはポリオキシエチレンアリルエーテルなどが挙げられる。またこれら公知のアニオン系、ノニオン系乳化剤の他に、分子内にラジカル重合性の不飽和二重結合を有する、すなわちアクリル系、メタクリル系、プロペニル系、アリル系、アリルエーテル系、マレイン酸系などの基を有する各種アニオン系、ノニオン系反応性乳化剤なども適宜、単独または2種以上の組み合わせで使用される。
【0036】
また乳化重合の際、メルカプタン系化合物、低級アルコールまたはα−メチルスチレンダイマーなどの分子量調節のための助剤(連鎖移動剤)を、必要に応じて用いてもよい。これらの助剤(連鎖移動剤)を用いることは、乳化重合を進める観点から、また塗膜の円滑かつ均一な形成を促進し被塗物への接着性を向上させる観点から、好ましい場合が多い。
【0037】
また乳化重合としては、通常の一段連続モノマー均一滴下法、多段モノマーフィード法であるコア・シェル重合法や、重合中にフィードするモノマー組成を連続的に変化させるパワーフィード重合法など、いずれの重合法も利用することができる。ここで、通常の一段連続モノマー均一滴下法を用いた場合には単層型アクリルエマルション樹脂を得ることができ、また、多段モノマーフィード法であるコア・シェル重合法を用いた場合にはコア・シェル型アクリルエマルション樹脂を得ることができる。
【0038】
このようにして本発明で用いられるアクリルエマルション樹脂が調製される。アクリルエマルション樹脂を構成するアクリル樹脂の重量平均分子量は、特に限定されないが、一般的に50,000〜1,000,000程度であるのが好ましく、100,000〜800,000程度であるのがより好ましい。本発明において重量平均分子量は、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)によって測定することができ、ポリスチレン標準による換算値によって算出することができる。
【0039】
こうして得られたアクリルエマルション樹脂に対して、塩基性化合物を添加して、カルボン酸の一部または全量を中和することによりアクリルエマルション樹脂の分散安定性を向上させてもよい。これら塩基性化合物としては、アンモニア類、各種アミン類、アルカリ金属などを用いることができる。
【0040】
硬化剤
本発明の第1水性ベース塗料は硬化剤を含むことが好ましい。この硬化剤は、上記アクリルエマルション樹脂と硬化反応を生じ、第1水性ベース塗料中に配合することができるものであれば、特に限定されずに用いることができる。硬化剤として、例えば、メラミン樹脂、ブロックイソシアネート樹脂、オキサゾリン系化合物あるいはカルボジイミド系化合物などが挙げられる。これらは1種で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0041】
メラミン樹脂としては特に限定されず、硬化剤として通常用いられるものを使用することができる。メラミン樹脂として、例えば、アルキルエーテル化したアルキルエーテル化メラミン樹脂が好ましく、メトキシ基および/またはブトキシ基で置換されたメラミン樹脂がより好ましい。このようなメラミン樹脂としては、メトキシ基を単独で有するものとして、サイメル325、サイメル327、サイメル370、マイコート723;メトキシ基とブトキシ基との両方を有するものとして、サイメル202、サイメル204、サイメル211、サイメル232、サイメル235、サイメル236、サイメル238、サイメル251、サイメル254、サイメル266、サイメル267、サイメル285(いずれも商品名、日本サイテックインダストリーズ社製);ブトキシ基を単独で有するものとして、マイコート506(商品名、三井サイテック社製)、ユーバン20N60、ユーバン20SE(いずれも商品名、三井化学社製)などが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらのうち、サイメル211、サイメル251、サイメル285、サイメル325、サイメル327、マイコート723がより好ましい。
【0042】
ブロックイソシアネート樹脂は、ポリイソシアネート化合物を適当なブロック剤でブロックしたものである。上記ポリイソシアネート化合物は、1分子中に2個以上のイソシアネート基を有する化合物であれば特に限定されず、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート(TMDI)などの脂肪族ジイソシアネート類;イソホロンジイソシアネート(IPDI)などの脂環族ジイソシアネート類;キシリレンジイソシアネート(XDI)などの芳香族−脂肪族ジイソシアネート類;トリレンジイソシアネート(TDI)、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)などの芳香族ジイソシアネート類;ダイマー酸ジイソシアネート(DDI)、水素化されたTDI(HTDI)、水素化されたXDI(H6XDI)、水素化されたMDI(H12MDI)などの水素添加ジイソシアネート類、および以上のジイソシアネート類のアダクト体およびヌレート体などを挙げることができる。さらに、これらの1種または2種以上を適宜組み合わせて使用することができる。
【0043】
ポリイソシアネート化合物をブロックするブロック剤としては、特に限定されず、例えば、メチルエチルケトオキシム、アセトキシム、シクロヘキサノンオキシムなどのオキシム類;m−クレゾール、キシレノールなどのフェノール類;ブタノール、2−エチルヘキサノール、シクロヘキサノール、エチレングリコールモノエチルエーテルなどのアルコール類;ε−カプロラクタムなどのラクタム類;マロン酸ジエチル、アセト酢酸エステルなどのジケトン類;チオフェノールなどのメルカプタン類;チオ尿酸などの尿素類;イミダゾール類;カルバミン酸類などを挙げることができる。なかでも、オキシム類、フェノール類、アルコール類、ラクタム類、ジケトン類が好ましい。
【0044】
オキサゾリン系化合物は、2個以上の2−オキサゾリン基を有する化合物であることが好ましく、例えば、下記のオキサゾリン類やオキサゾリン基含有重合体などを挙げることができる。これらの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。オキサゾリン系化合物は、アミドアルコールを触媒の存在下で加熱して脱水環化する方法、アルカノールアミンとニトリルとから合成する方法、またはアルカノールアミンとカルボン酸とから合成する方法などを用いることによって得られる。
【0045】
オキサゾリン類としては、例えば、2,2’−ビス−(2−オキサゾリン)、2,2’−メチレン−ビス−(2−オキサゾリン)、2,2’−エチレン−ビス−(2−オキサゾリン)、2,2’−トリメチレン−ビス−(2−オキサゾリン)、2,2’−テトラメチレン−ビス−(2−オキサゾリン)、2、2’−ヘキサメチレン−ビス−(2−オキサゾリン)、2,2’−オクタメチレン−ビス−(2−オキサゾリン)、2,2’−エチレン−ビス−(4,4’−ジメチル−2−オキサゾリン)、2,2’−p−フェニレン−ビス−(2−オキサゾリン)、2,2’−m−フェニレン−ビス−(2−オキサゾリン)、2,2’−m−フェニレン−ビス−(4,4’−ジメチル−2−オキサゾリン)、ビス−(2−オキサゾリニルシクロヘキサン)スルフィド、ビス−(2−オキサゾリニルノルボルナン)スルフィドなどが挙げられる。これらの1種または2種以上を適宜組み合わせて使用することができる。
【0046】
オキサゾリン基含有重合体は、付加重合性オキサゾリンおよび必要に応じて少なくとも1種の他の重合性単量体を重合したものである。付加重合性オキサゾリンとしては、例えば、2−ビニル−2−オキサゾリン、2−ビニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−ビニル−5−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−5−エチル−2−オキサゾリンなどを挙げることができる。これらの1種または2種以上が適宜組み合わされて使用される。中でも、2−イソプロペニル−2−オキサゾリンが工業的にも入手しやすく好適である。
【0047】
付加重合性オキサゾリンの使用量は特に限定されるものではないが、オキサゾリン基含有重合体中、1質量%以上であることが好ましい。1質量%未満の量では硬化の程度が不十分となる傾向にあり、得られる塗膜の耐久性、耐水性などが損なわれる傾向にある。
【0048】
他の重合性単量体としては、付加重合性オキサゾリンと共重合可能で、かつ、オキサゾリン基と反応しない単量体であれば特に制限はなく、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシルなどの(メタ)アクリル酸エステル類;(メタ)アクリロニトリルなどの不飽和ニトリル類;(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミドなどの不飽和アミド類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどのビニルエステル類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテルなどのビニルエーテル類;エチレン、プロピレンなどのα−オレフィン類;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニルなどのハロゲン化α,β−不飽和単量体類;スチレン、α−メチルスチレンなどのα,β−不飽和芳香族単量体類などが挙げられる。これらの1種または2種以上を適宜組み合わせて使用することができる。
【0049】
オキサゾリン基含有重合体は付加重合性オキサゾリンおよび必要に応じて少なくとも1種の他の重合性単量体を、従来公知の重合法、例えば懸濁重合、溶液重合、乳化重合などにより製造できる。上記オキサゾリン基含有化合物の供給形態は、有機溶剤溶液、水溶液、非水ディスパーション、エマルションなどが挙げられるが、特にこれらの形態に限定されない。
【0050】
カルボジイミド化合物としては、種々の方法で製造したものを使用することができるが、基本的には有機ジイソシアネートの脱二酸化炭素を伴う縮合反応によりイソシアネート末端ポリカルボジイミドを合成して得られたものを挙げることができる。より具体的には、ポリカルボジイミド化合物の製造において、1分子中にイソシアネート基を少なくとも2個含有するポリカルボジイミド化合物と、分子末端に水酸基を有するポリオールとを、上記ポリカルボジイミド化合物のイソシアネート基のモル量が上記ポリオールの水酸基のモル量を上回る比率で反応させる工程と、上記工程で得られた反応生成物に、活性水素および親水性部分を有する親水化剤を反応させる工程とにより得られた親水化変性カルボジイミド化合物が好ましいものとして挙げることができる。
【0051】
1分子中にイソシアネート基を少なくとも2個含有するカルボジイミド化合物としては、特に限定されないが、反応性の観点から、両末端にイソシアネート基を有するカルボジイミド化合物であることが好ましい。両末端にイソシアネート基を有するカルボジイミド化合物の製造方法は当業者によってよく知られており、例えば、有機ジイソシアネートの脱二酸化炭素を伴う縮合反応を利用することができる。
【0052】
親水会合型粘性剤
親水会合型粘性剤は、粘性剤同士、あるいは基体樹脂との間に水素結合を有し、その結合力(相互作用)を利用した粘性剤である。このような親水会合型粘性剤としては、例えば、ポリアマイド型の粘性剤が挙げられ、市販されているものとしては、BYK−430、BYK−431(いずれも商品名、ビックケミー社製)、ディスパロンAQ−580、ディスパロンAQ−600、ディスパロンAQ−607(いずれも商品名、楠本化成社製)、チクゾールW−300、チクゾールW−400LP(いずれも商品名、共栄社化学製)などを挙げることができる。
【0053】
なお、本発明で用いる第1水性ベース塗料は、上記親水会合型粘性剤以外のその他の粘性剤を含んでいても良い。上記その他の粘性剤としては、分子内の疎水基(部分)同士の相互作用を利用し、粘性を発現させる疎水会合型粘性剤やアルカリ増粘型粘性剤等を挙げることができる。上記疎水会合型粘性剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、市販されているもの(以下、いずれも商品名)としては、アデカノールUH−420、アデカノールUH−462、アデカノールUH−472、UH−540、アデカノールUH−814N(いずれも旭電化工業社製)、プライマルRH−1020(ローム&ハース社製)、クラレポバール(クラレ社製)などが挙げられる。またアルカリ増粘型粘性剤としては、例えば、ビスコース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、市販されているもの(以下、いずれも商品名)としては、チローゼMHおよびチローゼH(いずれもヘキスト社製)などのセルロース系のもの;ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、市販されているもの(以下、いずれも商品名)としては、プライマルASE−60、プライマルTT−615、プライマルRM−5(いずれもローム&ハース社製)、ユーカーポリフォーブ(ユニオンカーバイト社製)が挙げられる。
【0054】
本発明で用いる第1水性ベース塗料における親水会合型粘性剤およびその他の粘性剤の含有量は、上記第1水性ベース塗料の樹脂固形分(第1水性ベース塗料に含まれる全ての樹脂の固形分)に対して、0.01〜20質量%であることが好ましく、0.1〜10質量%であることがより好ましい。0.01質量%未満であると、粘性制御の効果が得られず、塗布時のタレが発生するおそれがあり、20質量%を超えると、外観および得られる塗膜の諸性能が低下するおそれがある。
【0055】
また、本発明で用いる第1水性ベース塗料に含まれる親水会合型粘性剤とその他の粘性剤との固形分含有比は、親水会合型粘性剤/その他の粘性剤が100/0〜50/50であることが好ましく、100/0〜80/20であることがさらに好ましい。上記親水会合型粘性剤/その他の粘性剤の比が50/50よりもその他の粘性剤が上回ると、塗布時のタレ性や、最終的な複層塗膜の仕上がり外観の低下を引き起こすおそれがある。
【0056】
本発明で用いる第1水性ベース塗料は、上記アクリルエマルション樹脂、硬化剤および親水会合型粘性剤に加えて、例えば、追加の樹脂成分、顔料分散ペースト、その他の添加剤などを含んでもよい。
【0057】
上記追加の樹脂成分としては特に限定されないが、例えば、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、カーボネート樹脂およびエポキシ樹脂などを挙げることができる。
【0058】
顔料分散ペーストは、顔料と顔料分散剤とを少量の水性媒体に予め分散して得られる。顔料分散剤は、顔料親和部分および親水性部分を含む構造を有する樹脂である。顔料親和部分および親水性部分としては、例えば、ノニオン性、カチオン性およびアニオン性の官能基を挙げることができる。顔料分散剤は、1分子中に上記官能基を2種類以上有していてもよい。
【0059】
ノニオン性官能基としては、例えば、ヒドロキシル基、アミド基、ポリオキシアルキレン基などが挙げられる。カチオン性官能基としては、例えば、アミノ基、イミノ基、ヒドラジノ基などが挙げられる。また、アニオン性官能基としては、例えば、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基などが挙げられる。このような顔料分散剤は、当業者にとってよく知られた方法によって製造することができる。
【0060】
顔料分散剤としては、少量の顔料分散剤によって効率的に顔料を分散することができるものが好ましい。顔料分散剤として、例えば、市販されているもの(以下、いずれも商品名)を使用することもでき、具体的には、アニオン・ノニオン系分散剤であるDisperbyk 190、Disperbyk 181、Disperbyk 182、Disperbyk 184(いずれもビックケミー社製)、EFKAPOLYMER4550(EFKA社製)、ノニオン系分散剤であるソルスパース27000(アビシア社製)、アニオン系分散剤であるソルスパース41000、ソルスパース53095(いずれもアビシア社製)などを挙げることができる。
【0061】
顔料分散剤の数平均分子量は、1,000〜100,000であることが好ましく、2,000〜50,000であることがより好ましく、4,000〜50,000であることがさらに好ましい。1,000未満であると、分散安定性が充分ではない場合があり、100,000を超えると、粘度が高すぎて取り扱いが困難となる場合がある。
【0062】
上記顔料分散ペーストは、顔料分散剤と顔料とを公知の方法に従って混合分散することにより得ることができる。顔料分散ペースト製造時の顔料分散剤の割合は、顔料分散ペーストの固形分に対して、1〜20質量%であることが好ましい。1質量%未満であると、顔料を安定に分散しにくく、20質量%を超えると、得られる塗膜の物性が劣る場合がある。好ましくは、5〜15質量%である。
【0063】
顔料としては、通常の水性塗料に使用される顔料であれば特に限定されないが、耐候性を向上させ、かつ隠蔽性を確保する点から、着色顔料であることが好ましい。特に二酸化チタンは着色隠蔽性に優れ、しかも安価であることから、より好ましい。
【0064】
二酸化チタン以外の顔料としては、例えば、アゾキレート系顔料、不溶性アゾ系顔料、縮合アゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、インジゴ顔料、ペリノン系顔料、ペリレン系顔料、ジオキサン系顔料、キナクリドン系顔料、イソインドリノン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、ベンズイミダゾロン系顔料、金属錯体顔料などの有機系着色顔料;黄鉛、黄色酸化鉄、ベンガラ、カーボンブラックなどの無機着色顔料などが挙げられる。これら顔料に、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、クレー、タルクなどの体質顔料を併用してもよい。
【0065】
顔料は、第1水性ベース塗料中に含まれる全ての樹脂の固形分および顔料の合計質量に対する顔料の質量の比(PWC;pigment weight content)が、10〜60質量%であることが好ましい。10質量%未満では、隠蔽性が低下するおそれがある。60質量%を超えると、硬化時の粘性増大を招き、フロー性が低下して塗膜外観が低下することがある。
【0066】
その他の添加剤としては、上記成分の他に通常添加される添加剤、例えば、紫外線吸収剤、酸化防止剤、消泡剤、表面調整剤、ピンホール防止剤などが挙げられる。これらの配合量は当業者の公知の範囲である。
【0067】
上記第1水性ベース塗料は、上述のアクリルエマルション樹脂、硬化剤および親水会合型粘性剤、ならびに必要に応じた他の成分などを混合して調製される。
アクリルエマルション樹脂、硬化剤および親水会合型粘性剤の含有量は、樹脂固形分質量比で、アクリルエマルション樹脂1〜60質量%、より好ましくは10〜50質量%、
硬化剤5〜80質量%、より好ましくは10〜70質量%、および親水会合型粘性剤0.01〜20質量%、より好ましくは0.1〜10質量%、であるのが好ましい。
アクリルエマルション樹脂が60質量%を超える場合は、得られる塗膜の外観が低下するおそれがある。また、アクリルエマルション樹脂が1質量%未満である場合は、塗装作業性が低下するおそれがある。
硬化剤が80質量%を超える場合は、得られる塗膜の耐チッピング性が低下するおそれがある。また、硬化剤が5質量%未満である場合は、得られる塗膜の耐水性が低下するおそれがある。
親水会合型粘性剤が20質量%を超える場合は、塗膜の外観が低下、あるいは耐水性が低下するおそれがある。また、親水会合型粘性剤が0.01質量%未満である場合は、第2水性ベース塗料を塗布した際に、タレや混層が生じるおそれがある。
【0068】
必要に応じて用いることのできる、追加の樹脂成分、顔料分散ペーストやその他の添加剤は、適量で混合することができる。但し、追加の樹脂成分は、第1水性ベース塗料中に含まれる全ての樹脂の固形分を基準として、50質量%以下の割合で配合することが好ましい。50質量%を超えて配合した場合は、塗料中の固形分濃度を高くすることが困難になるため、好ましくない。
【0069】
これら成分を加える順番は特に限定されない。なお本発明の第1水性ベース塗料は、水性であれば形態は特に限定されず、例えば、水溶性、水分散型、エマルションなどの形態が挙げられる。
【0070】
第2水性ベース塗料
本発明の複層塗膜形成方法で用いる第2水性ベース塗料として、自動車車体の塗布において通常用いられる第2水性ベース塗料を用いることができる。このような第2水性ベース塗料として、例えば、水性媒体中に分散または溶解された状態で、塗膜形成樹脂、硬化剤、光輝性顔料、着色顔料や体質顔料などの顔料、各種添加剤などを含むものを挙げることができる。塗膜形成樹脂としては、アクリルエマルション樹脂(A)、水溶性アクリル樹脂(B)および水溶性ポリエステル樹脂(C)を含む。
【0071】
アクリルエマルション樹脂(A)
アクリルエマルション樹脂(A)は、第1水性ベース塗料で説明したアクリルエマルション樹脂を用いることができる。但し、アクリルエマルション樹脂(A)は、単層型アクリルエマルション樹脂(a)とコア・シェル型アクリルエマルション樹脂(b)とを含むものが好ましい。第2水性ベース塗料では、コア・シェル型アクリルエマルション樹脂(b)に比べて単層型アクリルエマルション樹脂(a)の水保持性が低く、単層型アクリルエマルション樹脂(a)の割合を上げると、第1水性ベース塗膜への水の移行量が多くなり、第1水性ベース塗膜でのタレや混層が生じるおそれがある。コア・シェル型アクリルエマルション樹脂(b)の割合を上げると、第2水性ベース塗料の塗膜粘度が高くなりすぎ、平滑性が損なわれるという不具合も生じる。水保持性と平滑性を両立させるためには、コア・シェル型アクリルエマルション樹脂(b)と単層型アクリルエマルション樹脂(a)の配合比率が重要になり、単層型アクリルエマルション樹脂(a)の樹脂固形分質量と、アクリルエマルション樹脂(A)の樹脂固形分質量の比率(a)/(A)の百分率が30〜60%であるのが好ましい。
【0072】
水溶性アクリル樹脂(B)
水溶性アクリル樹脂(B)は、水酸基含有モノマーおよび他のモノマーを共重合することによって調製することができる。
【0073】
水酸基含有モノマーとして、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2,3−ジヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、これら水酸基含有(メタ)アクリレートとεカプロラクトンとの反応物、および、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートなどの多価アルコールとアクリル酸またはメタクリル酸とのエステル化物などが挙げられる。さらに、上記多価アルコールと、アクリル酸またはメタクリル酸とのモノエステル化物にε−カプロラクトンを開環重合した反応物を用いることもできる。これらの水酸基含有モノマー(a)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なお本明細書において、「(メタ)アクリレート」は、「アクリレートまたはメタクリレート」を意味する。
【0074】
他のモノマーとして、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、イタコン酸、フマール酸などの、カルボキシル基含有モノマー、および、マレイン酸エチル、マレイン酸ブチル、イタコン酸エチル、イタコン酸ブチルなどのジカルボン酸モノエステルモノマー;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n、iまたはt−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマー;(メタ)アクリル酸シクロペンチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、イソボルニル(メタ)アクリレート、トリシクロデカニル(メタ)アクリレート、アダマンチル(メタ)アクリレートなどの脂環基含有モノマー;(メタ)アクリル酸アミノエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ブチルアミノエチルなどの(メタ)アクリル酸アミノアルキルエステルモノマー;アミノエチル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノメチル(メタ)アクリルアミド、メチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドなどの(メタ)アクリル酸アミノアルキルアミドモノマー;アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、メトキシブチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミドなどのその他のアミド基含有モノマー;(メタ)アクリロニトリル、α−クロルアクリロニトリルなどのシアン化ビニル系モノマー;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどの飽和脂肪族カルボン酸ビニルエステルモノマー;スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエンなどのスチレン系モノマー;などを挙げることができる。これらの他のモノマーは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0075】
上記他のモノマーのうち、アクリル酸、メタクリル酸、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸シクロヘキシルなどが好ましく用いられる。
【0076】
水酸基含有モノマーおよび他のモノマーの重合方法として、当業者に通常用いられる方法を用いることができる。重合方法として、例えば、ラジカル重合開始剤を用いた、塊状重合法、溶液重合法、塊状重合後に懸濁重合を行う塊状−懸濁二段重合法などを用いることができる。これらの中でも、溶液重合法が特に好ましく用いることができる。溶液重合法として、例えば、上記モノマー混合物を、ラジカル重合開始剤の存在下で、例えば80〜200℃の温度で撹拌しながら加熱する方法などが挙げられる。
【0077】
上記水溶性アクリル樹脂(B)は、数平均分子量が1,000〜15,000であるのが好ましく、1,000〜8,000であるのがより好ましく、1,000〜5,000であるのがさらに好ましい。数平均分子量が1,000未満である場合は、得られる複層塗膜の塗膜物性が劣るおそれがある。一方で、数平均分子量が15,000を超える場合は、樹脂成分の粘度が高くなり、塗料の調製において多量の溶剤が必要となるおそれがある。
【0078】
上記水溶性アクリル樹脂(B)は、固形分水酸基価が50〜250mgKOH/gであるのが好ましく、60〜200mgKOH/gであるのがより好ましく、80〜180mgKOH/gであるのがさらに好ましい。固形分水酸基価が50mgKOH/g未満である場合は、硬化剤との反応性が低下し、得られる複層塗膜の塗膜物性が劣るおそれがあり、また塗膜密着性が劣るおそれがある。一方で固形分水酸基価が250mgKOH/gを超える場合は、得られる複層塗膜の耐水性が劣るおそれがある。
【0079】
上記水溶性アクリル樹脂(B)は、固形分酸価が2〜50mgKOH/gであるのが好ましく、5〜20mgKOH/gであるのがより好ましい。固形分酸価が2mgKOH/g未満である場合は、得られる複層塗膜の塗膜物性が劣るおそれがある。一方で固形分酸価が50mgKOH/gを超える場合は、得られる複層塗膜の耐水性が劣るおそれがある。
【0080】
水溶性アクリル樹脂(B)として、市販されるものを用いてもよい。このような水溶性アクリル樹脂(B)の具体例として、DIC社製の商品名「アクリディック」シリーズ(例えば、アクリディックA−837、アクリディックA−871、アクリディックA−1370など)、ハリマ化成社製の商品名「ハリアクロン」シリーズ(例えば、ハリアクロン D−1703、ハリアクロン N−2043−60MEXなど)、三菱レイヨン社製の商品名「ダイヤナール」シリーズ、日立化成工業社製の商品名「ヒタロイド」シリーズ、三井化学社製の商品名「オレスター」シリーズなどが挙げられる。
【0081】
水溶性ポリエステル樹脂(C)
本発明における第2水性ベース塗料には水溶性ポリエステル樹脂(C)が含まれる。第2水性ベース塗料に水溶性ポリエステル樹脂(C)が含まれることによって、塗装作業性が向上し、得られる塗膜の外観が向上するという利点がある。第2水性ベース塗料に含まれる水溶性ポリエステル樹脂(C)として、一般にポリエステルポリオールと呼ばれる、1分子中に2個以上の水酸基を有するものが好適に用いられる。このような水溶性ポリエステル樹脂は、多価アルコールと多塩基酸またはその無水物とを重縮合(エステル反応)して調製することができる。
【0082】
多価アルコールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、水添ビスフェノールA、ヒドロキシアルキル化ビスフェノールA、1,4−シクロヘキサンジメタノール、2,2−ジメチル−3−ヒドロキシプロピル−2,2−ジメチル−3−ヒドロキシプロピオネート、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、N,N−ビス−(2−ヒドロキシエチル)ジメチルヒダントイン、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリカプロラクトンポリオール、グリセリン、ソルビトール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、ヘキサントリオール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリス−(ヒドロキシエチル)イソシアネートなどが挙げられる。これらの多価アルコールは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0083】
多塩基酸またはその無水物としては、フタル酸、無水フタル酸、テトラヒドロフタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロフタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、無水ハイミック酸、トリメリット酸、無水トリメリット酸、ピロメリット酸、無水ピロメリット酸、イソフタル酸、テレフタル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、コハク酸、無水コハク酸、乳酸、ドデセニルコハク酸、ドデセニル無水コハク酸、シクロヘキサン−1,4−ジカルボン酸、無水エンド酸などが挙げられる。これらの多塩基酸またはその無水物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0084】
水溶性ポリエステル樹脂(C)として、ラクトン、油脂または脂肪酸、メラミン樹脂、ウレタン樹脂などを用いて変性した水溶性ポリエステル樹脂を用いることもできる。例えば、油脂または脂肪酸を用いて変性した水溶性ポリエステル樹脂は、ヒマシ油、脱水ヒマシ油、ヤシ油、コーン油、綿実油、亜麻仁油、荏の油、ケシ油、紅花油、大豆油、桐油などの油脂、またはこれらの油脂から抽出した脂肪酸を用いて、ポリエステル樹脂を変性したものである。この油脂または脂肪酸変性ポリエステル樹脂の製造においては、ポリエステル樹脂100質量部に対して、上述した油脂および/または脂肪酸を合計で30質量部程度まで加えるのが好ましい。
【0085】
上記水溶性ポリエステル樹脂(C)は、GPC測定によるポリスチレン換算値で、数平均分子量が500〜6,000であり、1,000〜4,000であるのがより好ましい。数平均分子量が500未満である場合は、得られる塗膜の密着性が劣るおそれがある。一方で、数平均分子量が6,000を超える場合は、塗布時において被塗物に対するなじみ性が劣るおそれがある。
【0086】
上記水溶性ポリエステル樹脂(C)は、固形分水酸基価が80〜350mgKOH/gであるのが好ましく、80〜300mgKOH/gであるのがより好ましく、150〜250mgKOH/gであるのがさらに好ましい。固形分水酸基価が80mgKOH/g未満である場合は、硬化剤との反応性が低下し、得られる複層塗膜の塗膜物性が劣るおそれがあり、また塗膜密着性が劣るおそれがある。一方で固形分水酸基価が350mgKOH/gを超える場合は、得られる複層塗膜の耐水性が劣るおそれがある。
【0087】
本発明の第2水性ベース塗料では、アクリルエマルション樹脂(A)の樹脂固形分質量と、アクリルエマルション樹脂(A)、水溶性アクリル樹脂(B)および水溶性ポリエステル樹脂(C)の樹脂固形分合計質量との比率(A)/(A+B+C)の百分率が40〜60%であることが必要である。一般にアクリルエマルション樹脂は分子量が高く、また樹脂固形分含有量が高くなると急激に凝集することなどから、水溶性樹脂に比べて水を吐き出し易い性質がある。そこで、第2水性ベース塗料中の、水溶性樹脂比率を上げる、即ちアクリルエマルション樹脂(A)の比率を下げることで、第2水性ベース塗料の水保持力を上げ、塗布時に下層である第1水性ベース塗膜への水移行量を抑制する。ただし、アクリルエマルション樹脂(A)の比率を下げると、得られる塗膜粘度が低下して意匠性(例えば、第2水性ベース塗膜中のアルミ顔料の配向性)が低下(背反)するので、両事象を両立させるために、アクリルエマルション樹脂(A)と、水溶性樹脂、すなわち水溶性アクリル樹脂(B)および水溶性ポリエステル樹脂(C)との配合比率が重要になる。
【0088】
本発明では、上記割合をアクリルエマルション樹脂(A)の樹脂固形分質量と、アクリルエマルション樹脂(A)、水溶性アクリル樹脂(B)および水溶性ポリエステル樹脂(C)の樹脂固形分合計との比率(A)/(A+B+C)の百分率で表して、40〜60%としている。この比率の百分率は、好ましくは50〜60%、より好ましくは55〜60%である。40%より少ない場合には、第2水性ベース塗膜の塗膜粘度が低下して意匠性(アルミ顔料の配向)が低下する。一方、60%を超える場合は、第2水性ベース塗料の水保持力が弱く、第2水性ベース塗料の塗布時に第1水性ベース塗膜に水が移行してタレや混層などの欠陥を起こす。
【0089】
顔料
第2水性ベース塗料は顔料を含むのが好ましい。顔料としては、塗料分野において一般的に用いられる顔料を用いることができ、例えば、上記第1水性ベース塗料で挙げた顔料の他、アルミニウム、銅、亜鉛、鉄、ニッケル、スズ、酸化アルミニウム等の金属または合金等の無着色あるいは着色された金属製光輝材およびその混合物、干渉マイカ顔料、ホワイトマイカ顔料、グラファイト顔料等の光輝性顔料等が挙げられる。これらの顔料は、それぞれ1種のみが用いられてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0090】
第2水性ベース塗料中に含まれる顔料質量濃度(PWC)は、一般的には、0.1〜50質量%であり、0.5〜40質量%がより好ましく、1〜30質量%がさらに好ましい。上記顔料濃度が0.1質量%未満であると、顔料による効果が得られず、50質量%を超えると、得られる塗膜の外観が低下するおそれがある。
【0091】
本発明における第2水性ベース塗料は、必要に応じて、上記以外の添加剤を含んでもよい。添加剤としては、例えば、有機溶剤、硬化触媒(有機金属触媒)、タレ止め・沈降防止剤、表面調製剤、色分れ防止剤、分散剤、消泡・ワキ防止剤、粘性調整剤(増粘剤)、レベリング剤、ツヤ消し剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、可塑剤、造膜助剤などを挙げることができる。
【0092】
有機溶剤としては、例えば、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、ソルベッソ100、ソルベッソ150、ソルベッソ200(いずれもエクソン化学社製)、トルエン、キシレン、メトキシブチルアセテート、セロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、石油エーテル、石油ナフサなどが挙げられる。
【0093】
有機溶剤の含有量は特に制限されるものではないものの、近年における環境保護および環境負荷を考慮した量で用いるのがより好ましい。
【0094】
タレ止め・沈降防止剤としては、例えば「ディスパロン 6700」(商品名、脂肪族ビスアマイド揺変剤、楠本化成社製)などを好ましく用いることができる。上記色分れ防止剤としては、例えば「ディスパロン 2100」(商品名、シリコン添加脂肪族系多価カルボン酸、楠本化成社製)などを好ましく用いることができる。上記消泡・ワキ防止剤としては、例えば「ディスパロン 1950」(商品名、特殊ビニル系重合物、楠本化成社製)などを好ましく用いることができる。
【0095】
表面調整剤として、例えば、ポリエーテル変性シロキサン、ポリエステル変性ポリメチルアルキルシロキサン、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、アクリル基含有ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンなどが挙げられる。このような表面調整剤を用いることによって、塗料の表面張力を好適な範囲に調整することができる。
【0096】
第2水性ベース塗料は、第1水性ベース塗料と同様の方法によって調製することができる。また、第2水性ベース塗料は、水性であれば形態は特に限定されず、例えば、水溶性、水分散型、エマルションなどの形態であればよい。
【0097】
クリヤー塗料
本発明の複層塗膜形成方法で用いるクリヤー塗料としては、自動車車体用クリヤー塗料として通常用いられているものを用いることができる。このようなクリヤー塗料として、例えば、媒体中に分散または溶解された状態で、塗膜形成樹脂、そして必要に応じた硬化剤およびその他の添加剤を含むものを挙げることができる。塗膜形成樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂などが挙げられる。これらはアミノ樹脂および/またはイソシアネート樹脂などの硬化剤と組み合わせて用いることができる。透明性または耐酸エッチング性などの点から、アクリル樹脂および/もしくはポリエステル樹脂とアミノ樹脂との組み合わせ、または、カルボン酸・エポキシ硬化系を有するアクリル樹脂および/もしくはポリエステル樹脂などを用いることが好ましい。
【0098】
クリヤー塗料の塗料形態としては、有機溶剤型、水性型(水溶性、水分散性、エマルション)、非水分散型、粉体型のいずれであってもよい。また、クリヤー塗料は、必要に応じて硬化触媒、表面調整剤、粘性制御剤、紫外線吸収剤、光安定剤などを含んでもよい。
【0099】
複層塗膜形成方法
本発明の複層塗膜形成方法は、下記工程:
被塗物表面に対して、第1水性ベース塗料を塗布して、未硬化の第1水性ベース塗膜を形成する工程(1)、
得られた未硬化の第1水性ベース塗膜の上に、第2水性ベース塗料を塗布して未硬化の第2水性ベース塗膜を形成する工程(2)、
得られた未硬化の第2水性ベース塗膜上に、クリヤー塗料を塗布して未硬化のクリヤー塗膜を形成する工程(3)、および、工程(1)〜(3)で得られた未硬化の第1水性ベース塗膜、未硬化の第2水性ベース塗膜および未硬化のクリヤー塗膜を、一度に加熱硬化して複層塗膜を形成する工程(4)
を包む方法である。
【0100】
本発明の複層塗膜形成方法で用いる被塗物は、特に限定されず、例えば、鉄、銅、アルミニウム、スズ、亜鉛およびこれらの金属を含む合金、並びに、これらの金属によるメッキまたは蒸着製品などを挙げることができる。被塗物は、表面に硬化電着塗膜が形成されていてもよい。硬化電着塗膜は、被塗物に対して電着塗料を電着塗装し、加熱硬化することによって形成される。
【0101】
電着塗料は、特に限定されるものではなく公知のカチオン電着塗料またはアニオン電着塗料を使用することができる。また、電着塗装および焼き付けは、自動車車体を電着塗装するのに通常用いられる方法および条件で行うことができる。
【0102】
まず、被塗物表面に対して、第1水性ベース塗料を塗布して、未硬化の第1水性ベース塗膜を形成する。第1水性ベース塗料は、例えば、通称「リアクトガン」と言われるエアー静電スプレー、通称「マイクロ・マイクロベル(μμベル)」、「マイクロベル(μベル)」、「メタリックベル(メタベル)」などと言われる回転霧化式の静電塗装機などを用いて塗布することができる。
【0103】
塗布量は、硬化後の塗膜の膜厚が5〜40μm、好ましくは10〜30μmになるように調節する。膜厚が5μm未満であると得られる塗膜の外観および耐チッピング性が低下するおそれがあり、40μmを超えると塗布時のタレや焼付け硬化時のピンホールなどの不具合が起こることがある。
【0104】
本発明の複層塗膜形成方法においては、第1水性ベース塗料を塗布して得られた未硬化の第1水性ベース塗膜を加熱硬化させることなく、次の第2水性ベース塗料を塗布して、未硬化の第2水性ベース塗膜を形成する。本発明の複層塗膜形成方法においては、未硬化の第1水性ベース塗膜を形成した後、第2水性ベース塗料を塗布するまでの間に、プレヒートを行わずにウェット・オン・ウェット塗装することができるという利点がある。
【0105】
従来のウェット・オン・ウェット塗装においては、未硬化の第1水性ベース塗膜は、第2水性ベース塗料を塗布する前に、予備的に加熱によって乾燥させるプレヒート工程が一般に行われていた。プレヒート工程が行われていた理由は、未硬化の第1水性ベース塗膜中に残存した水が複層塗膜を焼き付ける工程で突沸を起こし、ワキが発生しやすいことや、未硬化の第1水性ベース塗膜上に第2水性ベース塗料を塗布した際に未硬化の第1水性ベース塗膜と未硬化の第2水性ベース塗膜とが混ざりあって混層が生じ、これにより得られる複層塗膜の塗膜外観が低下してしまうためである。このようなプレヒート工程としては、例えば80℃程の温度で1〜10分間乾燥させる工程などが行われていた。
【0106】
本発明においては、第1水性ベース塗料および第2水性ベース塗料の配合を規定することにより、第1水性ベース塗料を塗布して未硬化の第1水性ベース塗膜を得た後、上述のようなプレヒート工程を行うことなく、第2水性ベース塗料をウェット・オン・ウェット塗装することができるという利点がある。ここで「プレヒート工程を行うことなく」とは、例えば、第1水性ベース塗料を室温(例えば10〜30℃)で塗布した後、0〜30分以内で、第2水性ベース塗料を塗布する態様が挙げられる。本発明におけるこのような性能は、未硬化の第1水性ベース塗膜上に第2水性ベース塗料を塗布した時点で、第2水性ベース塗料に含まれる水の、未硬化の第1水性ベース塗膜への移行が抑制されて、しかも未硬化の第1水性ベース塗膜では親水会合型粘性剤により粘性が制御されていて、タレや混層を防止する効果が発揮されるためと考えられる。
【0107】
上記により得られた未硬化の第1水性ベース塗膜の上に、第2水性ベース塗料を塗布して、未硬化の第2水性ベース塗膜を形成する。第2水性ベース塗料は、例えば、通称「リアクトガン」と言われるエアー静電スプレー、通称「マイクロ・マイクロベル(μμベル)」、「マイクロベル(μベル)」、「メタリックベル(メタベル)」などと言われる回転霧化式の静電塗装機などを用いて塗布することができる。
【0108】
第2水性ベース塗料は、通常、塗膜の硬化後の膜厚が5〜30μmとなるように塗布量が調節される。硬化後の膜厚が5μm未満である場合、下地の隠蔽が不充分になったり、色ムラが発生するおそれがあり、また、30μmを超える場合、塗布時にタレや、加熱硬化時にピンホールが発生したりするおそれがある。
【0109】
最終的に得られる複層塗膜の平滑性の観点から、第2水性ベース塗料を塗布した後の、下層である未硬化の第1水性ベース塗膜の20℃での塗膜粘度は、剪断速度0.01/sにおいて、45〜100Pa・sであることが好ましく、60〜90Pa・sであることがさらに好ましい。上記塗膜粘度は以下のようにして測定できる。
(1)基材の上に形成した硬化電着塗膜上に、第1水性ベース塗料を塗布した後、25℃で6分間セッティングし、第2水性ベース塗料を塗布する。
(2)その後同じく25℃で3分間セッティングした後、アルミ箔を第2水性ベース塗膜の上に載せて、それを剥がすことによって第2水性ベース塗膜のみをアルミ箔に移行させて取り除く。
(3)残った第1水性ベース塗膜をスパチュラでかき集めて、それをアントン・パール(Anton Paar)社製粘度計(MCR−301)にて剪断速度0.01/sで粘度を測定する。
【0110】
次いで、得られた未硬化の第2水性ベース塗膜の上に、クリヤー塗料を塗布して未硬化のクリヤー塗膜を形成する。クリヤー塗料は、その塗料形態に応じた塗布方法を用いて塗布することができる。クリヤー塗料は、通常、塗膜の乾燥硬化後の膜厚が10〜70μmとなるように塗布量が調節される。硬化後の膜厚が10μm未満であると複層塗膜のつや感などの外観が低下するおそれがある。一方で膜厚が70μmを超えると、鮮映性が低下したり、塗布時にムラ、タレなどの不具合が生じるおそれがある。なお、未硬化の第2水性ベース塗膜形成後に、例えば40〜100℃で2〜10分間プレヒートすることによって、より良好な仕上がり外観を得ることができ、好ましい。
【0111】
次いで、得られた未硬化の第1水性ベース塗膜、未硬化の第2水性ベース塗膜および未硬化のクリヤー塗膜を同時に加熱硬化させる。加熱は、通常110〜180℃、好ましくは120〜160℃の温度で行われる。これにより、高い架橋度の硬化塗膜を得ることができる。加熱温度が110℃未満であると、硬化が不十分になる傾向があり、180℃を超えると、得られる塗膜が固く脆くなるおそれがある。加熱する時間は、上記温度に応じて適宜設定することができるが、例えば、温度が120〜160℃である場合、10〜60分間である。
【0112】
本発明の複層塗膜形成方法によって得られる複層塗膜は、第1水性ベース塗料を塗布した後、プレヒートを行うことなくウェット・オン・ウェットで第2水性ベース塗料を塗布しても、平滑性が高く、塗膜外観が良好である複層塗膜を得ることができるという利点がある。そのため、第1水性ベース塗料を塗布した後のプレヒート工程を行う必要がなく、塗布工程における省エネルギー化およびCO排出量削減を図ることができ、さらに塗装設備費用および塗装ラインスペース上における利点もある。
【実施例】
【0113】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。実施例中、「部」および「%」は、ことわりのない限り、質量基準による。
【0114】
製造例1 アクリルエマルション樹脂の製造
攪拌機、温度計、滴下ロート、還流冷却器および窒素導入管などを備えた通常のアクリル系樹脂エマルション製造用の反応容器に、水445部およびニューコール293(日本乳化剤社製)5部を仕込み、攪拌しながら75℃に昇温した。メタクリル酸メチル145部、スチレン50部、アクリル酸エチル220部、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル70部およびメタクリル酸15部を含むモノマー混合物、水240部およびニューコール293(日本乳化剤社製)30部の混合物を、ホモジナイザーを用いて乳化し、そのモノマープレ乳化液を上記反応容器中に3時間にわたって攪拌しながら滴下した。モノマープレ乳化液の滴下と併行して、重合開始剤としてAPS(過硫酸アンモニウム)1部を水50部に溶解した水溶液を、上記反応容器中に上記モノマープレ乳化液の滴下終了時まで均等に滴下した。モノマープレ乳化液の滴下終了後、さらに80℃で1時間反応を継続し、その後、冷却した。冷却後、ジメチルアミノエタノール2部を水20部に溶解した水溶液を投入し、固形分濃度40.6質量%のアクリルエマルション樹脂を得た。
【0115】
得られたアクリルエマルション樹脂は、固形分酸価20mgKOH/g、固形分水酸基価60mgKOH/g、Tg30℃であった(固形分濃度:JIS K 5601−1−2 加熱残分測定方法に従って測定)。
【0116】
製造例2 顔料分散ペーストの製造
分散剤であるDisperbyk 190(ビックケミー社製ノニオン・アニオン系分散剤)4.5部、消泡剤であるBYK−011(ビックケミー社製消泡剤)0.5部、イオン交換水22.9部、二酸化チタン72.1部を予備混合した後、ペイントコンディショナー中でガラスビーズ媒体を加え、室温で粒度5μm以下となるまで混合分散し、顔料分散ペーストを得た。
【0117】
製造例3 ポリエステル樹脂水分散体の製造
攪拌機、温度計、環流冷却器および窒素導入管などを備えた通常のポリエステル系樹脂製造用反応容器に、イソフタル酸19部、ヘキサヒドロフタル酸無水物36部、トリメチロールプロパン7部、ネオペンチルグリコール12部、1,6−ヘキサンジオール26部、触媒としてジブチル錫オキサイド0.1部を仕込み、150℃から230℃まで3時間かけて昇温し、230℃で5時間程度保持した。
【0118】
135℃まで冷却後、無水トリメリット酸7.7部を加え1時間撹拌することで、固形分酸価50mgKOH/g、固形分水酸基価45mgKOH/g、数平均分子量2500のポリエステル樹脂を得た。90℃まで冷却し、ジメチルエタノールアミン7.3部とイオン交換水225部とを加え、固形分濃度30%のポリエステル樹脂水分散体を得た。
【0119】
製造例4 第1水性ベース塗料(1)の調製
上記製造例2より得られた顔料分散ペースト206.6部、上記製造例1より得られたアクリルエマルション樹脂45.0部、上記製造例3より得られたポリエステル樹脂水分散体62.4部、および硬化剤としてサイメル211(日本サイテックインダストリーズ社製メラミン樹脂、不揮発分80%)78.7部を混合した後、粘性剤としてBYK−430(ビックケミー社製親水会合型粘性剤、不揮発分30%)6.7部(第1水性ベース塗料の樹脂固形分に対して2質量%に相当)を混合撹拌し、第1水性ベース塗料(1)を得た。
【0120】
製造例5 第1水性ベース塗料(2)〜(9)の調製
粘性剤として用いた親水会合型粘性剤BYK−430を、表1に記載するものおよび表1に記載する質量%に変更する以外は、製造例4と同様に第1水性ベース塗料(2)〜(9)を調製した。なお、第1水性ベース塗料(7)〜(9)は、親水会合型粘性剤でなく、疎水会合型粘性剤を用いたものである。
【0121】
【表1】
【0122】
表中の数値は第1水性ベース塗料の塗料樹脂固形分に対する質量%である。
*1:ビックケミー社製親水会合型粘性剤
*2:楠本化成社製親水会合型粘性剤
*3:ADEKA社製疎水会合型粘性剤
*4:エレメンティス社製疎水会合型粘性剤
*5:ビックケミー社製疎水会合型粘性剤
【0123】
製造例6 単層型アクリルエマルション樹脂(a)の調製
反応容器に脱イオン水126.5部を加え、窒素気流中で混合撹拌しながら80℃に昇温した。次いで、アクリル酸メチル27.61部、アクリル酸エチル53.04部、スチレン4.00部、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル9.28部、メタクリル酸3.07部およびメタクリル酸アリル3.00部のモノマー混合物100部、アクアロンHS−10(ポリオキシエチレンアルキルプロペニルフェニルエーテル硫酸エステル、第一工業製薬社製)0.7部、アデカリアソープNE−20(α−[1−[(アリルオキシ)メチル]−2−(ノニルフェノキシ)エチル]−ω−ヒドロキシオキシエチレン、旭電化社製)0.5部、および脱イオン水80部からなるモノマー乳化物と、過硫酸アンモニウム0.3部、および脱イオン水10部からなる開始剤溶液とを2時間にわたり並行して反応容器に滴下した。滴下終了後、2時間同温度で熟成を行った。次いで、40℃まで冷却し、400メッシュフィルターで濾過した後、脱イオン水70部およびジメチルアミノエタノール0.32部を加えpH6.5に調整し、平均粒子径150nm、不揮発分25%、固形分酸価20mgKOH/g、水酸基価40mgKOH/gの単層型アクリルエマルション樹脂(a)を得た。
【0124】
製造例7 コア・シェル型アクリルエマルション樹脂(b)の調製
撹拌機、還流冷却器、滴下ロート、窒素導入管、温度センサーを備えた2Lのセパラブルフラスコに、イオン交換水651部を仕込んだ後、窒素ガスを吹込みながら、撹拌下、70℃に昇温した。次いで滴下ロートから、予め調製しておいたメチルメタクリレート300部、スチレン194部、メタアクリル酸6部(以上の単量体から得られるコアの計算Tg:104℃)、15%水溶液のポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸アンモニウム塩(「ハイテノールN−08」;第一工業製薬社製)33部、25%水溶液のポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル(「ノニポール200」;三洋化成社製)40部と脱イオン水102部からなるプレエマルション(1)を第一段目の単量体成分として1時間30分にわたって滴下した。このとき、同時に、5%過硫酸アンモニウム水溶液30部を1時間30分にわたって滴下した。滴下終了後、40分熟成を行い、続けて予め調製しておいた2−エチルヘキシルアクリレート116部、メチルメタクリレート206部、スチレン150部、アクリル酸28部(以上の単量体から得られるシェルのTg:40℃)、15%水溶液のハイテノールN−08を33部、25%水溶液のノニポール200を40部と脱イオン水102部からなるプレエマルション(2)を最終段目の単量体成分として1時間30分にわたって滴下した。このとき、同時に、5%過硫酸アンモニウム水溶液30部を1時間30分にわたって滴下した。滴下終了後、1時間熟成を行った。冷却して、25%アンモニア水を4.6部添加して中和を行い、コア・シェル型アクリルエマルション樹脂(b)を得た。このコア・シェル型アクリルエマルション樹脂(b)は、コアのTgが104℃、シェルのTgが40℃、不揮発分49.2%、pH6.0、粘度550mPa・s(B型粘度計を用い、ローターNo.2、30回/分、25℃で測定;以下同じ)、動的光散乱式粒径測定装置LB−500(堀場製作所社製)によって、20℃で測定したところ、平均粒子径140nmであった。
【0125】
製造例8 水溶性アクリル樹脂(B)の調製
反応容器にトリプロピレングリコールメチルエーテル23.89部およびプロピレングリコールメチルエーテル16.11部を加え、窒素気流中で混合撹拌しながら105℃に昇温した。次いで、メタクリル酸メチル13.1部、アクリル酸エチル68.4部、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル11.6部およびメタクリル酸6.9部を含むモノマー混合物を作成し、そのモノマー混合物100部、トリプロピレングリコールメチルエーテル10部およびターシャルブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート1部からなる開始剤溶液を3時間にわたり並行して反応容器に滴下した。滴下終了後、0.5時間同温度で熟成を行った。さらに、トリプロピレングリコールメチルエーテル5部およびターシャルブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート0.3部からなる開始剤溶液を0.5時間にわたり反応容器に滴下した。滴下終了後、2時間同温度で熟成を行った。脱溶剤装置により、減圧下(70torr)110℃で溶剤を16.1部留去した後、脱イオン水204部およびジメチルアミノエタノール7.1部を加えて水溶性アクリル樹脂(B)を得た。得られた水溶性アクリル樹脂(B)の不揮発分は30%であり、固形分酸価40mgKOH/g、水酸基価50mgKOH/g、粘度は140Pa・s(E型粘度計1rpm/25℃)であった。
【0126】
製造例9 水溶性ポリエステル樹脂(C)の調製
攪拌機、コンデンサー、温度計を具備した反応容器にジメチルテレフタル酸372部、ジメチルイソフタル酸380部、2−メチル−1,3−プロパンジオール576部、1,5−ペンタンジオール222部、テトラブチルチタネート0.41部を仕込み、160℃から230℃まで昇温しつつ4時間かけてエステル交換反応を行った。次いで系内を徐々に減圧していき、20分かけて5mmHgまで減圧し、さらに0.3mmHg以下の真空下まで減圧して、260℃にて40分間重縮合反応を行った。窒素雰囲気下、220℃まで冷却し、無水トリメリット酸を23部投入し、220℃で30分間反応を行ってポリエステル樹脂を得た。このポリエステル樹脂100部に、ブチルセロソルブ40部、トリエチルアミン2.7部を投入した後、80℃で1時間攪拌を行って溶解させた。次いで、イオン交換水193部をゆるやかに添加し、不揮発分30%の水溶性ポリエステル樹脂(C)を得た。平均粒子径を測定するために、専用セルにイオン交換水だけを入れ、水溶性ポリエステル樹脂(C)を1滴添加しかき混ぜ、樹脂固形分濃度0.1質量%に調整して動的光散乱式粒径測定装置LB−500(堀場製作所社製)によって、20℃で測定したところ、35nmであった。
【0127】
製造例10 第2水性ベース塗料(1)の調製
アクリルエマルション樹脂(A)として、先の製造例6で得られた単層型アクリルエマルション樹脂(a)を50部(樹脂固形分25%)と製造例7で得られたコア・シェル型アクリルエマルション樹脂(b)を60部(樹脂固形分49.2%)とを混合し、さらに製造例8で得られた水溶性アクリル樹脂(B)79部(樹脂固形分30%)、製造例9で得られた水溶性ポリエステル樹脂(C)14部(樹脂固形分30%)、メラミン樹脂としてサイメル204(三井サイテック社製混合アルキル化型メラミン樹脂、固形分80%)を38部、プライムポールPX−1000(三洋化成工業社製2官能ポリエーテルポリオール)10部、光輝性顔料としてアルペーストMH8801(旭化成社製アルミニウム顔料)21部(固形分65%、PWC12%)、リン酸基含有アクリル樹脂5部、ラウリルアシッドフォスフェート0.3部を添加し、さらに、2−エチルヘキサノール30部、アデカノールUH−814N3.3部(ADEKA社製増粘剤、固形分30%)を均一分散することにより第2水性ベース塗料(1)を得た。
【0128】
製造例11 第2水性ベース塗料(2)〜(8)の調製
アクリルエマルション樹脂(A)、水溶性アクリル樹脂(B)、水溶性ポリエステル樹脂(C)およびその他の成分の配合割合を表2のとおりに変更する以外は、製造例10と同様に第2水性ベース塗料(2)〜(8)を作成した。
【0129】
【表2】
【0130】
実施例1
複層塗膜の形成
リン酸亜鉛処理したダル鋼板に、パワーニクス110(日本ペイント社製カチオン電着塗料)を、乾燥塗膜が20μmとなるように電着塗装し、160℃で30分間の加熱硬化後冷却して、硬化電着塗膜を形成した。
【0131】
硬化電着塗膜を形成した基板に、製造例4で得られた第1水性ベース塗料(1)を、室温で、エアースプレー塗装にて20μm塗布し、未硬化の第1水性ベース塗膜を得た。その後、プレヒートオーブンに入れることなく、製造例10で得られた第2水性ベース塗料(1)をエアースプレー塗装にて10μm塗布し、そして80℃で3分間プレヒートを行った。更に、その塗板にクリヤー塗料として、マックフロー O−1800W−2クリヤー(日本ペイント社製酸エポキシ硬化型クリヤー塗料)をエアースプレー塗装にて35μm塗布した後、140℃で30分間の加熱硬化を行い、複層塗膜を有する試験片を得た。
【0132】
なお、上記第1水性ベース塗料(1)、第2水性ベース塗料(1)およびクリヤー塗料は、下記条件で希釈し、塗布に用いた。
【0133】
・第1水性ベース塗料(1)
希釈溶媒:イオン交換水
40秒/NO.4フォードカップ/20℃
【0134】
・第2水性ベース塗料(2)
希釈溶媒:イオン交換水
45秒/NO.4フォードカップ/20℃
【0135】
・クリヤー塗料
希釈溶媒:EEP(エトキシエチルプロピオネート)/S−150(エクソン社製芳香族系炭化水素溶剤)=1/1(質量比)の混合溶剤
30秒/NO.4フォードカップ/20℃
【0136】
上記より得られた複層塗膜を有する試験片を用いて、下記評価を行った。評価結果を表3に示す。
【0137】
意匠性(フリップフロップ性)
得られた複層塗膜の意匠性(フリップフロップ性)について、X−Rite MA68II(エックスライト社製)を用いて、15°(正面)、110°(シェード)のL値を測定した。これらの数値は、数値が大きい程意匠性(フリップフロップ性)が良好である事を示す。
【0138】
平滑性(SW値およびLW値)
得られた複層塗膜の仕上がり外観について、ウエーブスキャン DOI(BYK Gardner社製)を用いて、LW(測定波長:1,300〜12,000μm)、SW(測定波長:300〜1,200μm)を測定することにより評価を行った。これらの数値は、数値が小さい程平滑性が良好である事を示す。
【0139】
タレ性
基板として、直径5mmの穴を開けた電着塗膜を有する塗板を用いたこと以外は上記複層塗膜の作成と同様にして試験板を作成し、加熱硬化後の穴下部タレ長さを測定した。これらの数値は、数値が小さい程タレ性が良好である事を示す。
【0140】
第2水性ベース塗料を塗布した後の第1水性ベース塗膜の粘度(Pa・s)の測定方法
基材の上に形成した硬化電着塗膜上に、第1水性ベース塗料を塗布した後、25℃で6分間セッティングし、第2水性ベース塗料を塗布した。その後同じく25℃で3分間セッティングした後、アルミ箔を第2水性ベース塗膜の上に載せて、それを剥がすことによって第2水性ベース塗膜のみをアルミ箔に移行させて取り除く。残った第1水性ベース塗膜をスパチュラでかき集めて、それをアントン・パール(Anton Paar)社製粘度計(MCR−301)にて剪断速度0.01/sで、20℃における粘度を測定した。
【0141】
実施例2〜7および比較例1〜5
実施例1において第1水性ベース塗料(1)および第2水性ベース塗料(2)の代わりに、表3に示すものを用いる以外は、実施例1と同様に複層塗膜を有する試験片を得た。工程(2)の際の未硬化の第1水性ベース塗膜の粘度(Pa・s)、タレ性、意匠性および平滑性も測定し、結果を表3に示す。
【0142】
【表3】
【0143】
実施例で用いた第1水性ベース塗料は親水会合型粘性剤を含んでいるので、塗布後にプレヒートを行うことなく第2水性ベース塗料を塗布しても、得られた複層塗膜は表面平滑性に優れており、かつ第1水性ベース塗膜と第2水性ベース塗膜とが混層することなく塗膜外観が良好であった。
【0144】
一方で、比較例1〜3は、疎水会合型粘性剤を使用する例であり、タレ性、意匠性および外観(平滑性、特にSW値)が良くない。疎水会合型粘性剤の場合は、第2水性ベース塗料を塗布した際、第2水性ベース塗料に含まれる水が第1水性ベース塗膜に移行して第1水性ベース塗膜の粘度が低下したため、上記評価において低下したと考えられる。比較例4および5は、第2水性ベース塗料において、アクリルエマルション樹脂(A)の含有量が多い例(比較例4)および少ない例(比較例5)に該当し、どちらもタレ性、意匠性および外観のいずれかが悪い。
【産業上の利用可能性】
【0145】
本発明では、第1水性ベース塗料および第2水性ベース塗料の組成を制御して、第1水性ベース塗料を塗布した後、プレヒートを行うことなくウェット・オン・ウェットで第2水性ベース塗料を塗布しても、意匠性や平滑性が高くそして塗膜外観が良好である複層塗膜を得ることができるという利点がある。そのため、第1水性ベース塗料の塗布後のプレヒート工程を行う必要がなく、塗装工程における省エネルギー化およびCO排出量削減を図ることができ、さらに塗装設備費用および塗装ラインスペース上における利点もある。