特許第5688575号(P5688575)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5688575
(24)【登録日】2015年2月6日
(45)【発行日】2015年3月25日
(54)【発明の名称】インプラント、アバットメント体
(51)【国際特許分類】
   A61C 8/00 20060101AFI20150305BHJP
【FI】
   A61C8/00 Z
【請求項の数】10
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2010-264206(P2010-264206)
(22)【出願日】2010年11月26日
(65)【公開番号】特開2012-110601(P2012-110601A)
(43)【公開日】2012年6月14日
【審査請求日】2013年10月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】505403061
【氏名又は名称】株式会社ナントー
(74)【代理人】
【識別番号】100122312
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 正優
(72)【発明者】
【氏名】石渡 暉夫
【審査官】 川島 徹
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−196548(JP,A)
【文献】 特開2003−052720(JP,A)
【文献】 特表2008−528219(JP,A)
【文献】 特開2010−046153(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第01021996(EP,A1)
【文献】 欧州特許出願公開第01702581(EP,A1)
【文献】 米国特許第05733122(US,A)
【文献】 米国特許第05782918(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 8/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心穴の一部に内径が奥行き方向にかけて縮小するテーパー形の嵌合穴部が形成されたインプラント体と、
前記嵌合穴部に嵌合するテーパー形の嵌合軸部を有するアバットメントと、
前記アバットメントの軸方向に沿って形成された貫通孔に挿通されると共に、前記インプラント体の前記中心穴に形成された連れ回り規制穴部に係合して軸周りの回転が規制される連れ回り規制軸部を有するクランパピンと、
前記アバットメントの前記貫通孔の一部に形成された内ネジに螺合する外ネジ及び前記クランパピンの一部に形成された外ネジに螺合する内ネジを有し、前記クランパピンと前記アバットメントを相対移動させるロックナットと、
前記クランパピンと前記インプラント体の前記中心穴の間に介在し、前記クランパピンと前記アバットメントの相対移動に伴って前記クランパピンの抜け止め軸部と前記インプラント体の抜け止め穴部に係合して、前記クランパピンと前記インプラント体の相対移動を規制するクランパと、
を備えることを特徴とするインプラント。
【請求項2】
前記嵌合穴部及び前記嵌合軸部からなる耐圧機構に、前記インプラント体に対する前記アバットメントの回転を防止する回転防止機構が一体的に形成されることを特徴とする請求項1に記載のインプラント。
【請求項3】
前記耐圧機構の長さは、前記インプラント体の全長の1/3以上の長さに形成されることを特徴とする請求項1又は2に記載のインプラント。
【請求項4】
前記回転防止機構は、
前記嵌合穴部の内周面に前記奥行き方向に沿って形成された複数の突出部と、
前記嵌合軸部の外周面に前記軸方向に沿って形成されて前記複数の突出部がそれぞれ差し込まれる複数の溝部と、
からなることを特徴とする請求項1から3のうちいずれか一項に記載のインプラント。
【請求項5】
前記複数の突出部の前記奥行き方向に直交する断面形状及び前記複数の溝部の前記軸方向に直交する断面形状は、それぞれ円弧形に形成されることを特徴とする請求項に記載のインプラント。
【請求項6】
前記インプラント体及び前記アバットメントが、セラミックスで形成されていることを特徴とする請求項1から5のうちいずれか一項に記載のインプラント。
【請求項7】
前記インプラント体及び前記アバットメントが、ジルコニアで形成されていることを特徴とする請求項6に記載のインプラント。
【請求項8】
前記クランパピン、前記クランパ及び前記ロックナットが、チタンまたはチタン合金で形成されていることを特徴とする請求項1から7のうちいずれか一項に記載のインプラント。
【請求項9】
インプラント体の中心穴に嵌合するアバットメント体において、
外径が軸方向にかけて縮小するテーパー形の嵌合軸部が形成されたアバットメントと、
前記アバットメントの前記軸方向に沿って形成された貫通孔に挿通されると共に、前記インプラント体の前記中心穴に形成された連れ回り規制穴部に係合して軸周りの回転が規制される連れ回り規制軸部を有するクランパピンと、
前記アバットメントの前記貫通孔の一部に形成された内ネジに螺合する外ネジ及び前記クランパピンの一部に形成された外ネジに螺合する内ネジを有し、前記クランパピンと前記アバットメントを相対移動させるロックナットと、
前記クランパピンと前記インプラント体の前記中心穴の間に介在し、前記クランパピンと前記アバットメントの相対移動に伴って前記クランパピンの抜け止め軸部と前記インプラント体の抜け止め穴部に係合して、前記クランパピンと前記インプラント体の相対移動を規制するクランパと、
を備えることを特徴とするアバットメント体。
【請求項10】
前記嵌合軸部は、外周面に前記軸方向に沿う複数の溝部が形成されることを特徴とする請求項9に記載のアバットメント体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインプラントおよびその着脱方法に関するものであり、例えば永久歯の歯根欠損等の際に顎の骨に埋め込まれる歯科用インプラントおよびその着脱方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
体内に埋め込まれるインプラントとして、特に歯科用インプラントが注目されている。
歯科用インプラントは、一般に、虫歯や破損により永久歯の歯根が失われた場合、歯槽骨に設けた穴にインプラント体を挿入して固定するものである。この歯科用インプラントは、従来、歯槽骨に固定されるインプラント体と、インプラント体に螺着され人工歯冠を装着可能なアバットメントと、で構成されている。
【0003】
特許文献1に記載されるように、インプラント体は、その上端面に開口する穴部を有している。この穴部には、六角形穴部とテーパー穴部が形成される。
また、インプラント体には、上記六角形穴部に挿入される六角形軸部と、上記テーパー穴部に接触するテーパー軸部が形成される。
【0004】
六角形穴部及び六角形部は、回転防止部として機能する。すなわち、咬合圧に対して垂直方向の回転を防止するものであり、インプラント体に対するアバットメントの回転を防止する。
また、テーパー穴部及びテーパー軸部は、咬合圧を受けるために設けられており、回転防止部(六角形穴部及び六角形部)に隣接して形成される。
【0005】
そして、インプラント体の穴部にアバットメントを差し込むことで、テーパー穴部にテーパー軸部が楔状に食い込むようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−113718号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記従来の技術には、以下の課題が残されている。すなわち、特許文献1に記載の技術では、咬合圧を受けるために設けられたテーパー部(テーパー穴部にテーパー軸部)に咬合圧が集中するため、インプラント体のテーパー穴部の近傍等に亀裂が発生し、最悪の場合にはインプラント体が割れてしまうという問題がある。
【0008】
また、六角形形状の回転防止部は、繰り返し咬合圧を受けると、六角形形状の頂点部分が磨耗して、徐々にガタが発生するという問題がある。
【0009】
また、従来、アバットメントの材料としては、純チタンが多く採用されているが、黒色のチタン色が人工骨表面に映ると共に、術後に歯茎が下がった場合、アバットメントが露出してチタン色が目立ってしまい、審美性に劣るという不都合もあった。
このため、アバットメントを、審美性に優れた白色のセラミックスで形成することが検討されているが、アバットメント自体にネジ構造を設けた従来の固定方法では、非常に高硬度なジルコニア等のセラミックスでネジ締結を行うと、ネジが破損してしまうおそれがあった。
【0010】
そこで、本発明は、高い咬合圧を受けても亀裂等が発生しづらい構造を備えつつ、インプラント体に対するアバットメントの回転を長期間に亘って安定して防止することができるインプラント、アバットメント体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明は、以下の手段を採用した。
本発明に係るインプラントは、中心穴の一部に内径が奥行き方向にかけて縮小するテーパー形の嵌合穴部が形成されたインプラント体と、前記嵌合穴部に嵌合するテーパー形の嵌合軸部を有するアバットメントと、前記アバットメントの軸方向に沿って形成された貫通孔に挿通されると共に、前記インプラント体の前記中心穴に形成された連れ回り規制穴部に係合して軸周りの回転が規制される連れ回り規制軸部を有するクランパピンと、前記アバットメントの前記貫通孔の一部に形成された内ネジに螺合する外ネジ及び前記クランパピンの一部に形成された外ネジに螺合する内ネジを有し、前記クランパピンと前記アバットメントを相対移動させるロックナットと、前記クランパピンと前記インプラント体の前記中心穴の間に介在し、前記クランパピンと前記アバットメントの相対移動に伴って前記クランパピンの抜け止め軸部と前記インプラント体の抜け止め穴部に係合して、前記クランパピンと前記インプラント体の相対移動を規制するクランパと、を備えることを特徴とする。
前記嵌合穴部及び前記嵌合軸部からなる耐圧機構に、前記インプラント体に対する前記アバットメントの回転を防止する回転防止機構が一体的に形成されることを特徴とする。
【0012】
前記耐圧機構の長さは、前記インプラント体の全長の1/3以上の長さに形成されることを特徴とする。
【0013】
前記回転防止機構は、前記嵌合穴部の内周面に前記奥行き方向に沿って形成された複数の突出部と、前記嵌合軸部の外周面に軸方向に沿って形成されて前記複数の突出部がそれぞれ差し込まれる複数の溝部と、からなることを特徴とする。
【0014】
前記複数の突出部の前記奥行き方向に直交する断面形状及び前記複数の溝部の前記軸方向に直交する断面形状は、それぞれ円弧形に形成されることを特徴とする。
【0016】
前記インプラント体及び前記アバットメントが、セラミックスで形成されていることを特徴とする。
【0017】
前記インプラント体及び前記アバットメントが、ジルコニアで形成されていることを特徴とする。
【0018】
前記クランパピン、前記クランパ及び前記ロックナットが、チタンまたはチタン合金で形成されていることを特徴とする。
【0020】
本発明に係るアバットメント体は、インプラント体の中心穴に嵌合するアバットメント体において、外径が軸方向にかけて縮小するテーパー形の嵌合軸部が形成されたアバットメントと、前記アバットメントの前記軸方向に沿って形成された貫通孔に挿通されると共に、前記インプラント体の前記中心穴に形成された連れ回り規制穴部に係合して軸周りの回転が規制される連れ回り規制軸部を有するクランパピンと、前記アバットメントの前記貫通孔の一部に形成された内ネジに螺合する外ネジ及び前記クランパピンの一部に形成された外ネジに螺合する内ネジを有し、前記クランパピンと前記アバットメントを相対移動させるロックナットと、前記クランパピンと前記インプラント体の前記中心穴の間に介在し、前記クランパピンと前記アバットメントの相対移動に伴って前記クランパピンの抜け止め軸部と前記インプラント体の抜け止め穴部に係合して、前記クランパピンと前記インプラント体の相対移動を規制するクランパと、を備えることを特徴とする。
【0021】
前記嵌合軸部は、外周面に前記軸方向に沿う複数の溝部が形成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、咬合圧を受けても亀裂が発生しづらい構造を備えるインプラントを提供することができる。また、インプラント体に対するアバットメントの回転を長期間に亘って安定して防止することができるインプラント、アバットメント体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】インプラントの歯科分野における使用例の説明図である。
図2】実施形態に係るインプラントの分解斜視図である。
図3】インプラントの側面図である。
図4】インプラントの縦断面図である。
図5】インプラントの横断面図である。
図6】インプラント体を示す図である。
図7】アバットメントを示す図である。
図8】クランパピンを示す図である。
図9】クランパを示す図である。
図10】ロックナットを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態につき図面を参照して説明する。なお、下記説明において示す各種寸法等は一例である。
(デンタルインプラント)
図1は、インプラント5の歯科分野における使用例の説明図である。
インプラント5は、歯槽骨2に固定されるインプラント体10と、インプラント体10に対して着脱可能とされ、人工歯冠6が装着されるアバットメント体8と、を備えている。
【0025】
インプラント体10の外周面には雄ネジ12が形成され、この雄ネジ12を歯槽骨2に形成した穴に螺合することで、インプラント体10が歯槽骨2に固定される。
また、アバットメント体8の外周面に接着剤等を用いて人工歯冠6が装着される。インプラント体10とアバットメント体8との当接部Sは、歯茎4または歯槽骨2によって覆われることになる。
なお、両者の当接部Sの当接面は精度良く仕上げられ、当接面が相互に密着して異物の侵入を防止している。
【0026】
図2は、本実施形態のインプラント5の分解斜視図である。図3は、インプラント5の側面図である。図4は、インプラント5の縦断面図である。図5は、インプラント5の横断面図である。
上述したように、本実施形態のインプラント5は、インプラント体10とアバットメント体8とを備えている。
アバットメント体8は、アバットメント20、クランパピン30、クランパ40及びロックナット50を組み立てたものである。
すなわち、アバットメント体8は、人工歯冠6が装着される軸形部材のアバットメント20、アバットメント20の貫通孔24に挿通すると共にインプラント5に係合する軸状のクランパピン30、クランパピン30に嵌め合わされるリング状のクランパ40及びアバットメント20とクランパピン30に螺合するロックナット50を備えている。
以下の説明では、クランパピン30の中心軸をZ軸(Z方向、奥行き方向、軸方向)とし、インプラント体10側を+Z側(+Z方向)とし、アバットメント20側を−Z側(−Z方向)とする。
【0027】
図6は、インプラント体10を示す図である。
インプラント体10は、ジルコニア等のセラミックス材料で形成された軸形部材であり、フィクスチャーとも呼ばれる。インプラント体10は、円柱状に形成され、その外周面には雄ネジ12が形成されている。
インプラント体10の−Z側端面の中心には、中心穴13が開口する。
中心穴13は、−Z側端面から+Z側に向かって内径が徐々に縮小(縮径)するテーパー穴部14、内径が徐々に拡大(拡径)する逆テーパー穴部15、平行かつ対向する二つの内側面からなる平行二面16Aが形成された係合穴部16が連続している。
【0028】
テーパー穴部14のテーパー角は、例えば8°である。テーパー穴部14の平均直径は、例えば2mmである。そして、テーパー穴部14の長さ(深さ)は、インプラント体10の全長(例えば10mm)の1/3以上の長さ(例えば4〜5mm)に形成される。
テーパー穴部14の内周側面には、Z方向に沿う複数の突起17(突出部)が形成される。複数の突起17(突出部)は、中心穴13の周方向において、等間隔(等角度)に配置される。本実施形態では、突起17は5本である。
また、突起17のZ軸に直交する断面の形状は蒲鉾形、すなわち頂部側が円弧形になっている。
【0029】
逆テーパー穴部15の最小内径は、テーパー穴部14の最小内径よりも小さい。したがって、テーパー穴部14と逆テーパー穴部15の接続部分には、中心穴13の内周側に突出する突出部位(抜け止め穴部)15Aが形成される。
逆テーパー穴部15のテーパー角は、例えば10°である。逆テーパー穴部15の長さ(深さ)は、例えば2.5mmである。
【0030】
係合穴部16は、対向する二つの円弧形内周側面と平行かつ対向する二つの内側面(平行二面(連れ回り規制穴部)16A)からなる。係合穴部16の長さ(深さ)は、例えば1.2mmである。二つの平行二面16Aの幅(二面幅)は、約1.1mmである。
【0031】
図7は、アバットメント20を示す図である。
アバットメント20は、人工歯冠6が装着される本体部21と、本体部21の一端側(+Z側)から延設してインプラント体10の中心穴13に内挿されるテーパー軸部22と、からなる。
アバットメント20は、審美性に優れた白色のセラミックス材料で一体的に形成されている。セラミックス材料として、本実施形態ではジルコニアが採用されている。
【0032】
テーパー軸部22のテーパー角は、例えば8°である。つまり、インプラント体10の中心穴13のテーパー穴部14の角度と同一である。
テーパー軸部22の平均内径は、例えば2mmである。テーパー軸部22の長さは、テーパー穴部14と同一又は長く形成される。例えば、6mmである。
テーパー軸部22の外周側面には、Z方向に沿って、複数の溝部23が形成される。複数の溝部23は、テーパー軸部22の周方向において、等間隔(等角度)に配置される。本実施形態では、溝部23は5本である。つまり、テーパー穴部14の内周側面に形成される突起17と同数である。
また、溝部23のZ軸に直交する断面の形状は蒲鉾形、すなわち頂部側が円弧形になっている。つまり、テーパー穴部14の内周側面に形成される突起17と同形状である。
【0033】
すなわち、インプラント体10の中心穴13にアバットメント20を挿入すると、アバットメント20のテーパー軸部22がインプラント体10の中心穴13のテーパー穴部14に嵌合する。この際、テーパー軸部22に形成された5本の溝部23は、テーパー穴部14に形成された5本の突起17に差し込まれる。
【0034】
アバットメント20の中心には、Z方向に貫通する貫通孔24が形成される。
貫通孔24のうち、本体部21に対応する部位は、内径が約2.5mmに形成され、その一部にM2.5の内ネジ25が設けられる。内ネジ25のネジ寸法などは、貫通孔24の内径等に応じて、適宜変更可能である。
また、貫通孔24のうち、テーパー軸部22に対応する部位は、内径が約1mmに形成され、クランパピン30がほぼ隙間なく挿通される。
【0035】
図8は、クランパピン30を示す図である。
クランパピン30は細長い軸形部材であり、チタンまたはチタン合金により形成される。クランパピン30の直径は、約1mmである。
クランパピン30の一端側(+Z側)には、インプラント体10の中心穴13の最深部に形成された係合穴部16に嵌め込まれる係合部31が設けられる。
係合部31は、+Z側に向けて外径が徐々に拡大(拡径)するテーパー部位31Aと、その外側面に、平行かつ背向する二つ面からなる平行二面31Bとが形成されたものである。
テーパー部位(抜け止め軸部)31Aの角度は、約30°である。また、平行二面(連れ回り規制軸部)31Bの幅(二面幅)は、約1.1mmである。
【0036】
一方、クランパピン30の他端側(−Z側)には、M1の外ネジ32が設けられる。外ネジ32のネジ寸法などは、クランパピン30の直径等に応じて、適宜変更可能である。
クランパピン30の長さは、インプラント5を組み立てた際に、外ネジ32がアバットメント20の貫通孔24の端部(−Z側)に設けられた内ネジ25と、Z方向においてほぼ同一位置となるような長さとなっている。
【0037】
図9は、クランパ40を示す図である。
クランパ40は、リング形部材であり、チタンまたはチタン合金により形成される。クランパ40の外径は、約1.5mmであり、インプラント体10の中心穴13の逆テーパー穴部15の最小内径より僅かに小径である。なお、クランパ40の外径を逆テーパー穴部15の最小内径より僅かに大径として、逆テーパー穴部15にこじ入れてもよい。
クランパ40の内径は、約1mmであり、クランパピン30に外嵌して用いられる。そして、クランパピン30の係合部31に引っ掛かる位置に配置される。
そして、クランパ40は、インプラント5を組み立てた際に、インプラント体10の中心穴13の逆テーパー穴部15に収容されるように配置される。
【0038】
クランパ40は、一端側(+Z側)に、3本の櫛歯41が形成される。この櫛歯41は、クランパ40がクランパピン30の係合部31の乗り上がった際に、外周側に向けて弾性変形して広がる部位である。つまり、クランパ40の櫛歯41は、いわゆるコレットチャックと同様な動作をする。
そして、クランパ40の櫛歯41が外周側に向けて広がると、テーパー穴部14の最小内径よりも大径となる。したがって、クランパ40は、インプラント体10の中心穴13の逆テーパー穴部15の上端において内周側に突出する突出部位15Aに引っ掛かる(介在する)ので、クランパ40及びクランパ40が外嵌されたクランパピン30の−Z側への移動が規制される。
【0039】
図10は、ロックナット50を示す図である。
ロックナット50は、外周面にM2.5の外ネジ51、内周面にM1の内ネジ52を有する、リング形の部材であり、チタンまたはチタン合金により形成される。外ネジ51、内ネジ52のネジ寸法などは、内ネジ25、外ネジ32に対応して、適宜変更可能である。
ロックナット50の−Z側の端面には、背向かつ平行な二面を有する一対のレンチ溝53が設けられる。このレンチ溝53の平行二面に、不図示のジグ(レンチ)を係合して、ロックナット50を回転させることが可能となっている。
そして、外ネジ51は、アバットメント20の貫通孔24の一部に形成された内ネジ25に螺合する。内ネジ52は、クランパピン30の他端側(−Z側)に形成された外ネジ32に螺合する。したがって、インプラント5を組み立てた状態で、ロックナット50を右回転させると、アバットメント20に対してクランパピン30を−Z側に移動させることができる。
【0040】
インプラント5の組み立ては、以下の手順に従って行われる(インプラント治療の二回法)。
まず、予めインプラント体10を患者の歯槽骨2に埋入した後、歯茎4を縫い合わせる。そして、歯槽骨2とインプラント体10を、個人差もあるが、3〜6ヶ月程度かけて骨密着させる。
【0041】
インプラント体10とは別に、アバットメント20側を組み立てる。すなわち、アバットメント20、クランパピン30、クランパ40及びロックナット50により、アバットメント体8を組み立てる。なお、アバットメント体8は、組み立てた形態で販売(譲渡)され、流通する。
【0042】
まず、クランパ40をクランパピン30に外嵌する。
次に、アバットメント20に対してロックナット50を取り付ける。すなわち、アバットメント20の貫通孔24の一部に形成された内ネジ25に、ロックナット50の外ネジ51を螺合する。
【0043】
次いで、クランパピン30をアバットメント20の貫通孔24の+Z側から挿入する。そして、クランパピン30の他端側(−Z側)が、アバットメント20に取り付けたロックナット50に当接したら、クランパピン30を右回転させて、クランパピン30の外ネジ32をロックナット50の内ネジ52に螺合する。そして、クランパピン30に外嵌したクランパ40の他端側(−Z側)が、アバットメント20の−Z側の端部に当接する直前まで、クランパピン30を右回転させる。
これにより、アバットメント体8の組み立てが完了する。
【0044】
そして、患者の歯槽骨2に埋入したインプラント体10の中心穴13にアバットメント体8を挿入する。これにより、アバットメント20のテーパー軸部22は、インプラント体10の中心穴13のテーパー穴部14に楔状に嵌め込まれる。
また、クランパピン30の一端側(Z側)の係合部31がインプラント体10の中心穴13の最底部(+Z側)の係合穴部16に差し込まれる。つまり、クランパピン30の係合部31の平行二面31Bとインプラント体10の係合穴部16の平行二面16Aが密着(嵌合)する。
【0045】
次に、不図示のジグをロックナット50のレンチ溝53に嵌めて右回転させる。これにより、ロックナット50は、+Z方向に回転しながら移動する。これと同時に、クランパピン30が−Z方向に移動する。
この際、ロックナット50の外ネジ51と内ネジ52のピッチに差があるので(M2.5:0.35P、M1:0.2P)、ロックナット50の+Z方向への移動量に比べて、クランパピン30の−Z方向への移動量が大きくなる。
また、クランパピン30の係合部31がインプラント体10の係合穴部16に差し込まれ、係合部31の平行二面31Bと係合穴部16の平行二面16Aが密着(嵌合)しているので、クランパピン30の回転は規制される。このため、クランパピン30は、ロックナット50と共に連れ回ることがなく、−Z方向に移動する。
【0046】
そして、クランパピン30を−Z方向に移動させると、クランパピン30に外嵌したクランパ40の他端側(−Z側)がアバットメント20の+Z側の端部に当接して、クランパ40の+Z方向への移動が規制される。
さらにクランパピン30を+Z方向に移動させると、クランパ40の内周側にクランパピン30の係合部31のテーパー部位31Aに差し込まれる(クランパ40がテーパー部位31Aに乗り上がる)。これにより、クランパ40の+Z側の3本の櫛歯41が外周側に向けて弾性変形して広がる。
したがって、クランパ40がインプラント体10の中心穴13の逆テーパー穴部15の上端において内周側に突出する突出部位15Aに引っ掛かり、クランパ40及びクランパピン30の−Z側への移動が規制される。
【0047】
そして、クランパ40及びクランパピン30の−Z側への移動が規制された状態で、ロックナット50を更に右回転させる。これにより、アバットメント20が+Z方向に移動する。つまり、アバットメント20がインプラント体10に向けてさらに移動して、アバットメント20のテーパー軸部22がインプラント体10の中心穴13のテーパー穴部14に更に楔状に食い込む。
【0048】
このようにして、インプラント5がガタツキなく強靭に組み立てられる。
その後に、インプラント5のアバットメント20の−Z側の外周面に接着剤等を用いて人工歯冠6を装着する。
【0049】
上述したように、インプラント5では、テーパー軸部22とテーパー穴部14を嵌合する(差し込む)ことで、アバットメント20に作用する外力、すなわち咬合圧Fを受け止める耐圧機構60として機能させることができる(図1参照)。
特に、耐圧機構60は、テーパー軸部22とテーパー穴部14のZ方向の長さが従来よりも十分に長いので、咬合圧Fを受け止める面積が大きくなり、高い耐圧性能を備える。したがって、アバットメント20に対して、Z軸方向に対して交差する方向から咬合圧Fを受ける場合(インプラント5を前歯に使用する場合)においても、咬合圧Fを確実に受け止めるので、アバットメント20やインプラント体10に亀裂が発生したり、欠けたりすることがない。
【0050】
また、アバットメント20をインプラント体10の中心穴13に挿入する際に、インプラント体10の中心穴13のテーパー穴部14の内周側面に形成された5本の突起17が、アバットメント20のテーパー軸部22の外周側面に形成された5本の溝部23に差し込まれる。
このように、テーパー穴部14の内周側面の突起17とテーパー軸部22の外周側面の溝部23が噛合うので、インプラント体10に対するアバットメント20の回転が規制される。つまり、テーパー穴部14の突起17とテーパー軸部22の溝部23が回転防止機構70として機能する。
【0051】
言い換えれば、インプラント5では、咬合圧Fを受け止める耐圧機構60(テーパー軸部22とテーパー穴部14)と回転防止機構70(突起17と溝部23)を一体的に形成しているので、従来よりも咬合圧Fを受け止める耐圧機構60を長く(深く)形成することができる。具体的には、耐圧機構60(テーパー軸部22とテーパー穴部14)の長さを、インプラント体10の全長の1/3以上の長さにすることができる。
したがって、インプラント5は、アバットメント20やインプラント体10に亀裂や欠けが発生することなく、強い咬合圧Fを確実に受け止めることができる。
【0052】
なお、本発明の技術範囲は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上述した実施形態に種々の変更を加えたものを含む。すなわち、実施形態で挙げた具体的な材料や層構成などはほんの一例に過ぎず、適宜変更が可能である。
【0053】
例えば、実施形態では、インプラント体10、アバットメント20を構成する生体適合性セラミックス材料としてジルコニア(酸化ジルコニウム)を採用したが、アルミナ(酸化アルミニウム)や酸化イットリウム、酸化ハフニウム、酸化シリコーン、酸化マグネシウム、酸化セリウム等を採用してもよい。
なお、インプラント体10、アバットメント20は、チタンやチタン合金等の金属材料で形成してもよい。
【0054】
また、実施形態では、クランパ40を構成する金属材料として生体親和性に優れたチタンを採用したが、チタン合金を採用してもよい。チタン合金として、例えばチタンとアルミニウムとの合金を採用することができる。また、クランパ40を、樹脂(ゴム)などの弾性体材料で形成してもよい。
また、クランパの櫛歯41の本数は3本の場合に限らない。2本の場合や4本以上でもよい。
【0055】
インプラント体10の係合穴部16とクランパピン30の係合部31にそれぞれ平行二面16A,31Bを形成して嵌合する場合について説明したが、平行二面16A,31Bに代えて、多角形穴部と多角形軸部にしてもよい。
【0056】
また、本発明のインプラント5は、歯科治療に用いる場合に限らない。インプラント5を使用した骨折治療方法や、インプラント5を人工関節に使用してもよい。
【符号の説明】
【0057】
5…インプラント、 8…アバットメント体、 10…インプラント体、 12…雄ネジ、 13…中心穴、 14…テーパー穴部(嵌合穴部)、 15…逆テーパー穴部、 15A…突出部位(抜け止め穴部)、 16…係合穴部、 16A…平行二面(連れ回り規制穴部)、 17…突起(突出部)、 20…アバットメント、 21…本体部、 22…テーパー軸部(嵌合軸部)、 23…溝部、 24…貫通孔、 25…内ネジ、 30…クランパピン、 31…係合部、 31A…テーパー部位(抜け止め軸部)、 31B…平行二面(連れ回り規制軸部)、 32…外ネジ、 40…クランパ、 41…櫛歯、 50…ロックナット、 51…外ネジ、 52…内ネジ、 53…レンチ溝、 60(14,22)…耐圧機構、 70(17,23)…回転防止機構、 F…咬合圧
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10