特許第5688664号(P5688664)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5688664膜厚方向に組成比が連続的に変化した薄膜の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5688664
(24)【登録日】2015年2月6日
(45)【発行日】2015年3月25日
(54)【発明の名称】膜厚方向に組成比が連続的に変化した薄膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/35 20060101AFI20150305BHJP
   C23C 14/34 20060101ALI20150305BHJP
   G02B 5/28 20060101ALI20150305BHJP
【FI】
   C23C14/35 B
   C23C14/34 D
   G02B5/28
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-87038(P2012-87038)
(22)【出願日】2012年4月6日
(65)【公開番号】特開2013-216933(P2013-216933A)
(43)【公開日】2013年10月24日
【審査請求日】2014年2月6日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】304020177
【氏名又は名称】国立大学法人山口大学
(74)【代理人】
【識別番号】100158702
【弁理士】
【氏名又は名称】岡野 卓也
(72)【発明者】
【氏名】諸橋 信一
【審査官】 村岡 一磨
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−154242(JP,A)
【文献】 特開2008−184625(JP,A)
【文献】 特開2005−179716(JP,A)
【文献】 特開平02−179871(JP,A)
【文献】 特開2002−004033(JP,A)
【文献】 特開2002−266071(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00〜14/58
G02B 5/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のターゲットホルダーが対向して設けられ、各ターゲットホルダーには、それぞれ異なる材料よりなるターゲットが配置され、各ターゲット上にはそれぞれ磁束線のループを形成可能であり、且つ両ターゲット間にも磁束線形成可能である磁束分布可変型対向スパッタ装置を用い、各対向するターゲット上に形成されるループ状の磁束線及び両ターゲット間に形成される磁束線の強度割合を連続的に変化させつつスパッタリングする、基板上において厚さ方向に組成が連続的に変化した傾斜型組成薄膜の製造方法であって、
ターゲットが配置されたターゲットホルダーの一対が、前記ターゲット同士が対向するように配置され、各々の前記ターゲットホルダーの前記ターゲットの配置とは反対の裏面側には、それぞれ隣り合う磁極要素同士の磁極方向が交互に異なるように、前記磁極要素として永久磁石又は電磁石のいずれかが複数配置され、あるいは永久磁石と電磁石が組合わされて複数配置された磁束分布可変型対向スパッタ装置を用い、前記各々のターゲットホルダーの前記裏面側に配置された前記永久磁石の一部を連続的に移動させ、または前記電磁石へ供給する電流量を任意の電磁石について連続的に変化させることにより、各対向するターゲット上に形成されるループ状の磁束線及び両ターゲット間に形成される磁束線の強度割合を連続的に変化させつつスパッタリングを行うことを特徴とする傾斜型組成薄膜の製造方法
【請求項2】
前記各々のターゲットホルダーの前記裏面側に配置された前記永久磁石の一部を非対称に連続的に移動させ、または前記電磁石へ供給する電流量を任意の電磁石について非対称に連続的に変化させることにより、各対向するターゲット上に形成されるループ状の磁束線強度割合を非対称に連続的に変化させながら、かつ両ターゲット間に形成される磁束線強度割合を連続的に変化させながらスパッタリングを行う請求項1記載の傾斜型組成薄膜の製造方法。
【請求項3】
各対向するターゲット上に形成されるループ状の磁束線及び両ターゲット間に形成される磁束線の強度割合の変化を複数回周期的に行うことを特徴とする請求項1又は2記載の傾斜型組成薄膜の製造方法。
【請求項4】
一対のターゲットのうち、一方がチタン又はチタン酸化物であり他方がシリコン又はシリコン酸化物である請求項1乃至3のいずれかに記載の傾斜型組成薄膜の製造方法。
【請求項5】
それぞれのターゲットホルダーに印加する電力を異なる割合で変化させることを合せ行うことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の傾斜型組成薄膜の製造方法。
【請求項6】
前記各ターゲットホルダーには、それぞれ独立して電源が設けられる請求項1乃至5のいずれかに記載の傾斜型組成薄膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパッタ法により、膜厚方向に連続的に組成比が変化した薄膜(これを傾斜型組成薄膜という)の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、膜厚方向に組成の異なる薄膜は波長分割多重通信用や光学フィルターとして用いられている。これらは光通信容量の飛躍的な増大に対応する波長分割多重通信の用途や、蛍光分析装置の光学フィルターとして遺伝子解析等に用いられている。
【0003】
従来、かかる目的で高屈析率層と低屈析率層の2種類の層を重ね合わせて構成するのが一般的であったが、誘電体多層フィルターは、波長多重数の増大を実現するために、より狭いバンド幅や温度変化に対する安定性などに難があった。また、光学フィルターとしても、阻止帯或以外で分光特性に不要な振動(リップル)が発生するので、これを低減するため、ローパスまたはハイパスフィルターを光学フィルターに重ねて用いる必要があった。特に、遺伝子解析等の重要な分析手段である蛍光分析装置の性能は、特定の波長の光のみを反射させ、それ以外の波長の光を透過させる光学フィルターの性能に依存し、これまでの光学フィルターでは遺伝子解析には不十分であった。
【0004】
これらの欠点を解消する方式として、傾斜型組成薄膜よりなるフィルター、すなわちルゲートフィルターが提案されている。ルゲートフィルターは、薄膜の膜厚方向に連続的に且つ周期的に組成を変化させることにより、屈析率や電気抵抗が連続的に変化した薄膜層よりなるフィルターで、従来型のフィルターでは得られなかった特性を有する光分波能を有する。
【0005】
ルゲートフィルターの製造方法としては、屈析率の異なる2種類の材料を連続的に組成を変化させながら、混合し薄膜状に基板等に堆積させることにより、両材料の中間の屈析率や電気抵抗が連続的に変化した薄膜とすることができる。
【0006】
かかるルゲートフィルターとしては従来型の薄膜製造技術を改良したCVD法やスパッタ法が提案されているが、いずれも設計値に従って屈析率を連続的に、且つ高精度で制御することが困難であり、且つ装置も複雑となり高価であった。
【0007】
たとえばスパッタ法において、スパッタリング中に2種の反応ガス例えば酸素と窒素などを用いて、その組成を変化させる方法(特許文献1)等は、ターゲットとなる金属成分は変えられず、ただ化合物が酸化物や窒化物となるに止まる。また、複数のターゲットを用いる方法もあり、基板を移動(回転)させて、それぞれの材料を所定時間堆積させる方法(特許文献2)は、材料の十分な混合が得られない。また、2種類の材料を同時に放電している2種類のスパッタリングターゲットへの投入パワーを変更し、混合比を変える方法(非特許文献1、非特許文献2)等では、低パワーとなるターゲットの放電維持が困難となる。また改良手段として両ターゲットに投入するパワーは一定に保って、各ターゲットに遮蔽マスクを設け、その開口部を変化させるという技術の提案もなされている(非特許文献2)。これらは、すでに述べた通り、制御に難性があるばかりでなく、マグネトロンスパッタを用いるためにγ電子や反跳アルゴンガス等により、薄膜がダメージを受け、層間の界面の乱れが大きくなり光学フィルターとしての性能が大きく損なわれる惧れがある。
【0008】
そこで、より安価で、しかもダメージなく容易に精度よく傾斜型組成薄膜を製造する手段が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−330571
【特許文献2】特開2004−250784
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】ULVAC TECHNICAL No.42(1995)26−30
【非特許文献2】光学36巻No.6(2007)339−344
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、極めて容易な手段で、低ダメージ性を保って精度よく傾斜型組成薄膜を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願の請求項1に記載の発明は、一対のターゲットホルダーが対向して設けられ、各ターゲットホルダーには、それぞれ異なる材料よりなるターゲットが配置され、各ターゲット上にはそれぞれ磁束線のループを形成可能であり、且つ両ターゲット間にも磁束線形成可能である磁束分布可変型対向スパッタ装置を用い、各ターゲット上の磁束線及び両ターゲット間の磁束線について、その強度割合を連続的に変化させつつスパッタリングする、基板上において厚さ方向に組成が連続的に変化した傾斜型組成薄膜の製造方法であって、
ターゲットが配置されたターゲットホルダーの一対が、前記ターゲット同士が対向するように配置され、各々の前記ターゲットホルダーの前記ターゲットの配置とは反対の裏面側には、それぞれ隣り合う磁極要素同士の磁極方向が交互に異なるように、前記磁極要素として永久磁石又は電磁石のいずれかが複数配置され、あるいは永久磁石と電磁石が組合わされて複数配置された磁束分布可変型対向スパッタ装置を用い、前記各々のターゲットホルダーの前記裏面側に配置された前記永久磁石の一部を連続的に移動させ、または前記電磁石へ供給する電流量を任意の電磁石について連続的に変化させることにより、各対向するターゲット上に形成されるループ状の磁束線及び両ターゲット間に形成される磁束線の強度割合を連続的に変化させつつスパッタリングを行うことを特徴とする傾斜型組成薄膜の製造方法である
【0013】
また、本願の請求項2に記載の発明は、前記各々のターゲットホルダーの前記裏面側に配置された前記永久磁石の一部を非対称に連続的に移動させ、または前記電磁石へ供給する電流量を任意の電磁石について非対称に連続的に変化させることにより、各対向するターゲット上に形成されるループ状の磁束線強度割合を非対称に連続的に変化させながら、かつ両ターゲット間に形成される磁束線強度割合を連続的に変化させながらスパッタリングを行う請求項1記載の傾斜型組成薄膜の製造方法である。
【0014】
また、本願の請求項3に記載の発明は、各対向するターゲット上に形成されるループ状の磁束線及び両ターゲット間の磁束線の強度割合の変化を複数回周期的に行うことを特徴とする請求項1又は2記載の傾斜型組成薄膜の製造方法である。
【0015】
更に、本願の請求項4に記載の発明は、一対のターゲットのうち、一方がチタン又はチタン酸化物であり他方がシリコン又はシリコン酸化物である請求項1乃至3のいずれかに記載の傾斜型組成薄膜の製造方法である。
【0016】
更にまた本願の請求項5に記載の発明は、それぞれのターゲットホルダーに印加する電力を異なる割合で変化させることを合せ行うことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の傾斜型組成薄膜の製造方法である。
本願の請求項6に記載の発明は、前記各ターゲットホルダーに、それぞれ独立して電源が設けられる請求項1乃至5のいずれかに記載の傾斜型組成薄膜の製造方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、対向する一対のターゲットに、それぞれ異なる材料を用いて、各ターゲット上にそれぞれループ状の磁束線を形成すると共に、両ターゲット間にも磁束線が形成されるスパッタ装置、すなわち2種類の磁束線パターンを同時に形成し得るスパッタ装置(以下、磁束分布可変型対向スパッタ装置と云う。)を用い、それぞれのターゲットを構成する材料を各対向するターゲット上に形成されるループ状の磁束線及び両ターゲット間に形成される磁束線の強度割合をそれぞれ別個に変化させることにより、それぞれのターゲットからスパッタされる量を変化させ、それらが堆積する基板上での堆積割合を変化させることにより、該堆積物の組成を連続的に変化させ、容易に傾斜型組成薄膜を形成することができる。
【0018】
更に、本発明の特徴は、各ターゲット上にそれぞれループ状の磁束線を形成しており、且つ両ターゲット間にも磁束線が形成しているため、磁束線はターゲット間の磁束線に拘束され対向空間外に発散することを相当に抑えることが可能となり、プラズマイオンの捕捉性が増し、薄膜形成における低ダメージ性が向上する効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明において棒状永久磁石を用いた場合の磁束分布可変型対向スパッタの複合磁束分布を説明するための略図である。
図2】本発明方法に用いる磁束分布可変型対向スパッタ装置の概念を説明する略図である。本図では対向するターゲットの左がチタンであり、右がシリコンとして示し、2つのターゲットに印加する電力は1つの電源で接続されて左右ターゲットは同じ印加電力でスパッタリングを行う。
図3】電源が左右ターゲット別々に設けられ独立に電力を印加する場合の、本発明方法に用いる磁束分布可変型対向スパッタ装置の概念を説明する略図である。図2と同じく対向するターゲットの左がチタンであり、右がシリコンとして示し、2つのターゲットに印加する電力は2つの電源で独立に接続されて左右ターゲットは独立に制御した印加電力でスパッタリングを行う。
図4】可動棒磁石を電磁石で置き換えた磁束分布可変型対向スパッタ装置の概念を説明する略図である。磁束の極性及び強度は電磁石に流す電流の正負及び大きさで制御する。
図5】1基の磁束分布可変型対向スパッタ装置を用いた場合の本発明の実施態様の一例であり、対向するターゲット前面にそれぞれ開閉可能なシャッターを設けてある。
図6】3基の磁束分布可変型対向スパッタ装置を用いた場合の本発明の実施態様の一例である。
図7】磁束分布可変機構が設置された回転型対向4元スパッタ装置を用いた場合の本発明の実施態様の一例である。
図8】磁束分布可変型対向スパッタ装置で表1に示した磁石配置タイプ(A)から(E)の対向ターゲット間の各点での磁束密度の大きさ(単位:mT)を示す。
図9】表1に示した本実施例で作製した傾斜型組成薄膜の屈折率のSi/Ti組成比依存性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、基板上に傾斜型組成薄膜を形成させる方法を提供するものであり、その原理は、ターゲット対向型のスパッタ装置において対向するターゲットに、それぞれ異なる材料、例えば一方のターゲットにチタン又はチタン酸化物を用い、他方のターゲットにシリコン又はシリコン酸化物を用いた磁束分布可変型対向型スパッタ装置を用い、各対向するターゲット上に形成されるループ状の磁束線及び両ターゲット間に形成される磁束線分布を連続的に変化させることにより、それぞれのターゲットから飛散し基板上へ堆積する各材料の堆積速度を変化させることにより、両ターゲットからの材料の堆積割合を連続的に変化させることにより、傾斜型組成薄膜が得られるのである。
【0021】
本発明の最大の特徴は、磁束分布可変型対向スパッタ装置を用い、スパッタリング中に磁束線強度を変化させること及び対向するターゲットは、それぞれ異なる材料である点にある。
【0022】
両ターゲットに用いられる材料は、所望とする傾斜型組成とする薄膜とする組成に応じて選択すればよい。例えば、分光フィルター等ではチタンとシリコンを用い、反応ガスとして酸素を供給するとか、ターゲットをチタン酸化物及びシリコン酸化物とする等である。
【0023】
またスパッタリング中に磁束強度を変化させる方法は、ターゲットホルダーの裏側の磁石を一部移動させ、ホルダーから遠ざけたり又は近づけたりする方法或いは両ターゲット裏面に設けた電磁石の電流量の割合を連続的に変化させることにより達成される。すなわち、本発明にあっては、対向する両ターゲットについてそれぞれ存在する磁束分布が連続的に変化するよう磁束線を変化させることが重要である。そのためには、両ターゲット間において一方のターゲットホルダーの裏側の磁石を一定速度で移動させるとか、電磁石であれば、電流を減少させるなどにより達成される。勿論対向するターゲットについて両方共磁束線を変化させることもできるが、その場合は両方の変化速度に差を付ける必要がある。かくしてターゲット上に形成される磁束線強度割合を変化させることができるのである。
【0024】
以下に図面を用いて詳細に説明する。
図1は、一対のターゲットホルダーの各裏面における磁石配置が固定円筒磁石と可動棒磁石からなる磁束分布可変型対向スパッタ装置を示す。該磁束分布可変型対向スパッタ装置においては、a)各ターゲットホルダーの裏面における固定円筒磁石と可動棒磁石極性が逆向き,b)対向する固定円筒磁石極性が逆向き、c)対向する可動棒磁石極性が逆向き、の磁石配置をとる。これにより、(1)対向する固定円筒磁石による対向状の磁束線分布、(2)対向する可動棒磁石による、固定円筒磁石とは逆向きの対向状の磁束線分布、(3)各ターゲットホルダー裏面の固定円筒磁石と可動棒磁石によるループ状の磁束線分布、からなる複合磁束線分布形成される。本発明では、この3つからなる複合磁束線分布の形成が重要な技術要素となる。
図2は、本発明方法に用いる磁束分布可変型対向スパッタ装置の概念を説明する略図である。本図では対向するターゲットにおいて左がチタンであり、右がシリコンである。前記2つのターゲットは1つの電源接続されており、それぞれが同じ印加電力でスパッタリングを行う。図2(a)で右のシリコンターゲット側の可動棒磁石はターゲットホルダーから離間し、左のチタンターゲット側の可動棒磁石はターゲットホルダーに当接している。図2(b)では右のシリコンターゲット側の可動棒磁石はターゲットホルダーに当接し、左のチタンターゲット側の可動棒磁石はターゲットホルダーから離間している。左右の可動棒磁石の位置を任意の位置に変えながらスパッタを行うことで、所望の組成比が変化した傾斜型組成薄膜の作製ができる。
図3、本発明の方法に用いる磁束分布可変型対向スパッタ装置の概念を説明する略図であって、電源が左右ターゲット別々に設けられ独立して電力を印加する場合の説明図である。図2と同じく対向するターゲットの左がチタンであり、右がシリコンである。前記2つのターゲットは2つの電源独立して接続されており、独立して制御される印加電力でスパッタリングを行う。図3(a)では右のシリコンターゲット側の可動棒磁石はターゲットホルダーから離間し、左のチタンターゲット側の可動棒磁石はターゲットホルダーに当接している。図3(b)では右のシリコンターゲット側の可動棒磁石はターゲットホルダーに当接し、左のチタンターゲット側の可動棒磁石はターゲットホルダーから離間している。左右の可動棒磁石の位置を任意の位置に変えることと併用して左右のターゲットに印可する電力を制御してスパッタを行うことで、所望の組成比が変化した傾斜型組成薄膜の作製ができる。
【0025】
図4では可動棒磁石を電磁石で置き換えた配置を示している。磁束の極性及び強度は電磁石に流す電流の正負及び大きさで制御する。この場合は磁石自身を移動させる必要はなく、任意の電磁石に供給する電流量を変化することで磁力を変化させることができ、ターゲット上に形成する磁束分布を変えることができる。勿論対向するターゲットホルダー裏の電磁石への供給電流量の割合を変化させつつ(一方のみの変化を含む)スパッタリングすることで、傾斜型組成薄膜を得ることができる。図4では、中央の棒磁石だけを電磁石として示したが、勿論全磁石を電磁石とすることもできる。
【0026】
図5は、本発明の実施態様の一例であり、対向するターゲット前面にそれぞれ開閉可能なシャッターを設け、まず、一方(例えばシリコン側)のシャッターを閉じてスパッタリングを行い、基板上に他方の材料(例えばチタン成分)のみを堆積し、所定の厚さになったとき、該シャッターを開き、本発明の両ターゲット間での磁束線強度割合の変化をつけて傾斜型組成膜を形成させ、最後に他方のターゲットのシャッターを閉じて他方の成分(例えばシリコン成分)のみを堆積させることもできる。
【0027】
図6は3基の磁束分布可変型対向スパッタ装置を用いた場合の例であり、図中左、右の2基は、それぞれ対向するターゲットに同じ材料を用いており、中央の1基に本発明の方法を用いるスパッタ装置を設置した例であり、まず基板上に均一な材料を所定の厚さに堆積させ、次いで基板を中央のスパッタ装置へ移動し、本発明の傾斜型組成薄膜を形成させ、次いで最初のスパッタ装置のターゲットとは異なる材料のターゲットを用いて、該材料による均一な薄膜と形成させる態様である。図3に示すように、電源が左右ターゲット別々に設けられ独立に電力を印加してもよい。
【0028】
図7は、磁束分布可変機構が設置された回転型対向4元スパッタによる傾斜肩組成薄膜作製方法である。本図では、まず例えばチタン成分同士でスパッタリングを行い、次いでターゲットホルダーを90度回転させ、例えば一方をチタン成分、他方をシリコン成分のターゲットを対向させ、磁束線強度割合を変化させつつスパッタリングを行い、傾斜型組成薄膜を形成させ、所定の厚さになったとき、再度ターゲットホルダーを90度回転させ、対向するターゲットの材料を同じ(例えばシリコン成分)としてスパッタリングを行う例である。この例では4元として示したが、勿論、複数元でよく、またターゲット材料も2種とは限られず、多種材料の堆積層を得ることもできる。
【0029】
なお、図2,3,5,6においてターゲットに印加する電力を直流として示したが、勿論、本発明は交流であってもまた直流と交流を重ねたものであってもよい。
【0030】
以下に実施例を示す。
【実施例】
【0031】
図2に示す如き、磁束分布可変型対向スパッタ装置を用い、対向する一対のターゲットには、一方がシリコン(Si)、他方がチタン(Ti)を用い、共に4Aの電流を印加した。左右のターゲットホルダー裏側の可動棒磁石の位置を変えてスパッタを行った。このときの磁石配置タイプを(A)から(E)として表1に示す。スパッタ圧力は、0.24 Pa、Arを16 sccm、Oを0.5 sccm流し、ターゲット中心から基板までの距離を10 cmとした。両ターゲットホルダー裏側の可動棒磁石の移動距離とそのときの磁石配置タイプ、形成した薄膜の堆積速度、EPMA分析で調べた組成比、エリプソメーターで求めた屈折率の値を表1に示す。尚、TiO2の屈折率は2.53、SiO2の屈折率は1.45である。
【0032】
【表1】
図8に,磁束分布可変型対向スパッタ装置で表1に示した磁石配置タイプ(A)から(E)の,対向ターゲット間の各点での磁束密度の大きさ(単位:mT)を示す。図中(AA)の図は磁束密度測定点の場所を示している。図1に示した(1)対向する固定円筒磁石による対向状の磁束線分布、(2)対向する可動棒磁石による、固定円筒磁石とは逆向きの対向状の磁束線分布、(3)各ターゲットホルダー直下の固定円筒磁石と可動棒磁石によるループ状の磁束線分布、の3つからなる複合磁束線分布の形成で、磁束密度の大きさが可動棒磁石位置によって変化している。
【0033】
図9に表1に示した本実施例で作製した傾斜型組成薄膜の屈折率のSi/Ti組成比依存性を示す。本実施例より、両ターゲットの可動棒磁石を非対称にL=0mmからL=99mmまで動かすことによって、他のスパッタ条件一定であるにも関わらず、Si/Tiの組成比を約90倍変化させ、所望の屈折率を得ることが出来る。
図9
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8