特許第5688669号(P5688669)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ グラフェンプラットフォーム株式会社の特許一覧

特許5688669グラフェン前駆体として用いられる黒鉛系炭素素材、これを含有するグラフェン分散液及びグラフェン複合体並びにこれを製造する方法
<>
  • 特許5688669-グラフェン前駆体として用いられる黒鉛系炭素素材、これを含有するグラフェン分散液及びグラフェン複合体並びにこれを製造する方法 図000005
  • 特許5688669-グラフェン前駆体として用いられる黒鉛系炭素素材、これを含有するグラフェン分散液及びグラフェン複合体並びにこれを製造する方法 図000006
  • 特許5688669-グラフェン前駆体として用いられる黒鉛系炭素素材、これを含有するグラフェン分散液及びグラフェン複合体並びにこれを製造する方法 図000007
  • 特許5688669-グラフェン前駆体として用いられる黒鉛系炭素素材、これを含有するグラフェン分散液及びグラフェン複合体並びにこれを製造する方法 図000008
  • 特許5688669-グラフェン前駆体として用いられる黒鉛系炭素素材、これを含有するグラフェン分散液及びグラフェン複合体並びにこれを製造する方法 図000009
  • 特許5688669-グラフェン前駆体として用いられる黒鉛系炭素素材、これを含有するグラフェン分散液及びグラフェン複合体並びにこれを製造する方法 図000010
  • 特許5688669-グラフェン前駆体として用いられる黒鉛系炭素素材、これを含有するグラフェン分散液及びグラフェン複合体並びにこれを製造する方法 図000011
  • 特許5688669-グラフェン前駆体として用いられる黒鉛系炭素素材、これを含有するグラフェン分散液及びグラフェン複合体並びにこれを製造する方法 図000012
  • 特許5688669-グラフェン前駆体として用いられる黒鉛系炭素素材、これを含有するグラフェン分散液及びグラフェン複合体並びにこれを製造する方法 図000013
  • 特許5688669-グラフェン前駆体として用いられる黒鉛系炭素素材、これを含有するグラフェン分散液及びグラフェン複合体並びにこれを製造する方法 図000014
  • 特許5688669-グラフェン前駆体として用いられる黒鉛系炭素素材、これを含有するグラフェン分散液及びグラフェン複合体並びにこれを製造する方法 図000015
  • 特許5688669-グラフェン前駆体として用いられる黒鉛系炭素素材、これを含有するグラフェン分散液及びグラフェン複合体並びにこれを製造する方法 図000016
  • 特許5688669-グラフェン前駆体として用いられる黒鉛系炭素素材、これを含有するグラフェン分散液及びグラフェン複合体並びにこれを製造する方法 図000017
  • 特許5688669-グラフェン前駆体として用いられる黒鉛系炭素素材、これを含有するグラフェン分散液及びグラフェン複合体並びにこれを製造する方法 図000018
  • 特許5688669-グラフェン前駆体として用いられる黒鉛系炭素素材、これを含有するグラフェン分散液及びグラフェン複合体並びにこれを製造する方法 図000019
  • 特許5688669-グラフェン前駆体として用いられる黒鉛系炭素素材、これを含有するグラフェン分散液及びグラフェン複合体並びにこれを製造する方法 図000020
  • 特許5688669-グラフェン前駆体として用いられる黒鉛系炭素素材、これを含有するグラフェン分散液及びグラフェン複合体並びにこれを製造する方法 図000021
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5688669
(24)【登録日】2015年2月6日
(45)【発行日】2015年3月25日
(54)【発明の名称】グラフェン前駆体として用いられる黒鉛系炭素素材、これを含有するグラフェン分散液及びグラフェン複合体並びにこれを製造する方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 31/02 20060101AFI20150305BHJP
   C01B 31/04 20060101ALI20150305BHJP
【FI】
   C01B31/02 101Z
   C01B31/04 101B
【請求項の数】6
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2014-550587(P2014-550587)
(86)(22)【出願日】2014年9月9日
(86)【国際出願番号】JP2014073838
【審査請求日】2014年10月17日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】502116221
【氏名又は名称】グラフェンプラットフォーム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098729
【弁理士】
【氏名又は名称】重信 和男
(74)【代理人】
【識別番号】100163212
【弁理士】
【氏名又は名称】溝渕 良一
(74)【代理人】
【識別番号】100148161
【弁理士】
【氏名又は名称】秋庭 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100156535
【弁理士】
【氏名又は名称】堅田 多恵子
(74)【代理人】
【識別番号】100195833
【弁理士】
【氏名又は名称】林 道広
(74)【代理人】
【識別番号】100116757
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 英雄
(74)【代理人】
【識別番号】100123216
【弁理士】
【氏名又は名称】高木 祐一
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 正治
(72)【発明者】
【氏名】神谷 渚
【審査官】 植前 充司
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/064432(WO,A1)
【文献】 特表2013−536141(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/087992(WO,A1)
【文献】 特開2013−233790(JP,A)
【文献】 特開2012−250883(JP,A)
【文献】 特開2000−348727(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 31/00 − C01B 31/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
菱面晶系黒鉛層(3R)と六方晶系黒鉛層(2H)とを有し、前記菱面晶系黒鉛層(3R)と前記六方晶系黒鉛層(2H)とのX線回折法による次の(式1)により定義される割合Rate(3R)が40%以上であることを特徴とするグラフェン前駆体として用いられる黒鉛系炭素素材。
Rate(3R)=P3/(P3+P4)×100・・・・(式1)
ここで、
P3は菱面晶系黒鉛層(3R)のX線回折法による(101)面のピーク強度
P4は六方晶系黒鉛層(2H)のX線回折法による(101)面のピーク強度
である。
【請求項2】
前記割合Rate(3R)が50%以上であることを特徴とする請求項1に記載のグラフェン前駆体として用いられる黒鉛系炭素素材。
【請求項3】
前記六方晶系黒鉛層(2H)のX線回折法による強度比P1/P2が0.01以上であることを特徴とする請求項1に記載のグラフェン前駆体として用いられる黒鉛系炭素素材。
P1は六方晶系黒鉛層(2H)のX線回折法による(100)面のピーク強度
P2は六方晶系黒鉛層(2H)のX線回折法による(002)面のピーク強度
【請求項4】
請求項1に記載されたグラフェン前駆体として用いられる黒鉛系炭素素材は、電波的力による処理と物理的力による処理とが真空または気中において施されて生成されたことを特徴とするグラフェン前駆体として用いられる黒鉛系炭素素材
【請求項5】
請求項1に記載されたグラフェン前駆体として用いられる黒鉛系炭素素材を製造する方法であって、天然黒鉛材料に対して、電波的力による処理と物理的力による処理とを真空または気中において施すことを特徴とするグラフェン前駆体として用いる黒鉛系炭素素材の製造方法。
【請求項6】
請求項に記載された前記天然黒鉛材料は、少なくとも六方晶系黒鉛層(2H)を有し、前記六方晶系黒鉛層(2H)のX線回折法による強度比P1/P2が0.01未満であることを特徴とするグラフェン前駆体として用いる黒鉛系炭素素材の製造方法。
ここで、
P1は六方晶系黒鉛層(2H)のX線回折法による(100)面のピーク強度
P2は六方晶系黒鉛層(2H)のX線回折法による(002)面のピーク強度
である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、簡便な方法によりグラフェンを得ることができるグラフェン前駆体として用いられる黒鉛系炭素素材、これを含有するグラフェン分散液及びグラフェン複合体並びにこれを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、様々な分野で小型軽量化などを目的として、様々なナノマテリアルの添加が研究されている。特に、環境や資源の問題で、非金属のナノマテリアルとして、グラフェン、CNT(カーボンナノチューブ)、フラーレン等の炭素素材に注目が集まっている。
例えばリチウムイオン電池などの導電助剤としてカーボンブラックが使用されてきたが、近年ではさらに導電性を担保するため、昭和電工株式会社製のカーボンナノファイバーVGCF(登録商標)などが検討されている(特許文献1)。
その中でもグラフェンは、性能的にはもちろん、量産性、ハンドリング性などの面からも他の炭素素材より優れており、様々な分野で期待されている。
【0003】
グラファイトの層数の少ない等の高品質なグラフェンを得るために、天然黒鉛を溶媒(NMP)中で弱い超音波を長時間(7〜10時間)与えた後、底に沈殿した大きな塊を取り除き、その後、上澄みを遠心分離して濃縮することにより、単層のフレークが20%以上、2層又は3層のフレークが40%以上、10層以上のフレークが40%未満の黒鉛材料が0.5g/L程度分散したグラフェン分散液を得る方法が検討されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−77475公報(段落0023)
【特許文献2】国際公開第2014/064432号(第19ページ第4行−第9行)
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】黒鉛の研磨に伴う構造変化;著:稲垣道夫、麦島久枝、細川健次;1973年2月1日(受理)
【非特許文献2】炭素加熱処理に伴う確率P1,PABA,PABCの変化;著:野田稲吉、岩附正明、稲垣道夫;1966年9月16日(受理)
【非特許文献3】Spectroscopic and X-ray diffraction studies on fluid deposited rhombohedral graphite from the Eastern Ghats Mobile Belt, India; G.Parthasarathy, Current Science, Vol.90, No.7, 10 April 2006
【非特許文献4】固体炭素材料の分類と各々の構造的特徴;名古屋工業大学 川崎晋司
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2に開示される方法で得られた黒鉛材料(単層のフレークが20%以上、2層又は3層のフレークが40%以上、10層以上のフレークが40%未満)を溶媒に混ぜても、溶媒に分散するグラフェンの分散量が少なく、希薄なグラフェン分散液しか得られなかった。また、上澄みを集めて濃縮することも考えられるが上澄みを集めて濃縮する工程を繰り返すことは処理に時間がかかり、グラフェン分散液の生産効率が悪いという問題がある。特許文献2に開示されるように、天然黒鉛を長時間、超音波処理しても表面の弱い部分のみが剥離し、他の大部分は剥離に寄与しておらず、剥離されるグラフェン量が少ないことが問題であると考えられる。
【0007】
本発明は、このような問題点に着目してなされたもので、天然黒鉛に所定の処理を施すことでグラフェンが剥離しやすく、グラフェンを高濃度又は高分散させることができる黒鉛系炭素素材をグラフェン前駆体と呼び、このグラフェン前駆体として用いられる黒鉛系炭素素材、これを含有するグラフェン分散液及びグラフェン複合体並びにこれを製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明のグラフェン前駆体として用いられる黒鉛系炭素素材は、
菱面晶系黒鉛層(3R)と六方晶系黒鉛層(2H)とを有し、前記菱面晶系黒鉛層(3R)と前記六方晶系黒鉛層(2H)とのX線回折法による次の(式1)により定義される割合Rate(3R)が40%以上であることを特徴としている。
Rate(3R)=P3/(P3+P4)×100・・・・(式1)
ここで、
P3は菱面晶系黒鉛層(3R)のX線回折法による(101)面のピーク強度
P4は六方晶系黒鉛層(2H)のX線回折法による(101)面のピーク強度
である。
この特徴によれば、層が剥がれ易い菱面晶系黒鉛層(3R)が多く含まれるため、前駆体として用いたときにグラフェンが剥離しやすく、グラフェンを高濃度または高分散させることができるグラフェン前駆体として用いられる黒鉛系炭素素材が得られる。
【0009】
本発明のグラフェン前駆体として用いられる黒鉛系炭素素材は、
前記割合Rate(3R)が50%以上であることを特徴としている。
この特徴によれば、割合Rate(3R)が50%以上であれば、40%以上50%未満のときよりもグラフェンが剥離しやすいグラフェン前駆体として用いられる黒鉛系炭素素材を簡単に得ることができる。
【0010】
本発明のグラフェン前駆体として用いられる黒鉛系炭素素材は、
前記六方晶系黒鉛層(2H)のX線回折法による強度比P1/P2が0.01以上であることを特徴としている。
P1は六方晶系黒鉛層(2H)のX線回折法による(100)面のピーク強度
P2は六方晶系黒鉛層(2H)のX線回折法による(002)面のピーク強度
この特徴によれば、六方晶系黒鉛層(2H)の強度比P1/P2を0.01以上にすれば、炭素材料の結晶構造のの乱雑性が高く、さらにグラフェンが剥離しやすく、より有効に前駆体として機能させることができる。
【0011】
上述に記載されたグラフェン前駆体として用いられる黒鉛系炭素素材は、電波的力による処理と物理的力による処理とが真空または気中において施されて生成されたことを特徴としている。
この特徴によれば、真空または気中において天然黒鉛材料にマイクロ波、ミリ波、プラズマ、電磁誘導加熱(IH)、磁場などの電波的力による処理とボールミル、ジェットミル、遠心力、超臨界などの物理的力による処理とを併用することで、菱面晶系黒鉛層(3R)がより多く含まれる黒鉛系炭素素材が得られる。また、真空または気中において処理しているから後処理が簡単である。
【0012】
この発明のグラフェン分散液は、上述に記載されたグラフェン前駆体として用いられる黒鉛系炭素素材を、液中で、電波的力による処理と物理的力による処理とを施すことにより得られることを特徴とする。
この特徴によれば、溶媒等の液中で黒鉛系炭素素材に液中で、マイクロ波、ミリ波、プラズマ、電磁誘導加熱(IH)、磁場などの電波的力により熱が作用されかつ超音波、ボールミル、ジェットミル、遠心力、超臨界などの物理的力が作用されることとなり、電波的力による処理と物理的力による処理とを併用することで、短時間で大量のグラフェンに剥離されやすく、溶媒等の液中にグラフェンに剥離されずに残留する黒鉛系炭素素材が少なく、グラフェンが高分散するため、溶媒等の液中にグラフェンを多く分散させることができ、濃度の濃いグラフェン分散液が得られる。
【0013】
この発明のグラフェン分散液は、グラフェンを少なくとも0.01重量部以上含有することを特徴とする。
この特徴によれば、グラフェンが少なくとも0.01重量部以上あれば、当該グラフェンは高分散性を有することからグラフェン分散させたことによる機能が十分に発揮される。
【0014】
この発明のグラフェン複合体は、上述に記載されたグラフェン前駆体として用いられる黒鉛系炭素素材、または上述に記載されたグラフェン分散溶液を、複合体母材に混ぜ、せん断力を付与しながら混錬して得られたことを特徴としている。
この特徴によれば、せん断力を付与しながら混錬しており、グラフェンに剥離されやすく、剥離されたグラフェンが高分散するため、モノマー、ポリマー、他の炭素素材、セラミックス、木材、セメント、金属等の複合体母材中にグラフェンを多く分散させることができるグラフェン複合体が得られる。
【0015】
この発明のグラフェン複合体は、
前記母材に混練する際に相溶化剤を用いることを特徴としている。
この特徴によれば、相溶化剤の作用により、よりグラフェンに剥離しやすい。
【0016】
この発明のグラフェン前駆体として用いられる黒鉛系炭素素材を製造する方法であって、天然黒鉛材料に対して、電波的力による処理と物理的力による処理とを真空または気中において施すことを特徴としている。
この特徴によれば、天然黒鉛材料にマイクロ波、ミリ波、プラズマ、電磁誘導加熱(IH)、磁場などの電波的力による処理と、ボールミル、ジェットミル、遠心力、超臨界などの物理的力による処理とを併用させることで、いずれか一方で処理するよりもグラフェンに分離しやすいグラフェン前駆体として用いられる黒鉛系炭素材を短時間で得ることができる。
【0017】
この発明のグラフェン前駆体として用いられる黒鉛系炭素素材を製造する方法は、
上述に記載された前記天然黒鉛材料は、少なくとも六方晶系黒鉛層(2H)を有し、前記六方晶系黒鉛層(2H)のX線回折法による強度比P1/P2が0.01未満であることを特徴としている。
ここで、
P1は六方晶系黒鉛層(2H)のX線回折法による(100)面のピーク強度
P2は六方晶系黒鉛層(2H)のX線回折法による(002)面のピーク強度
である。
この特徴によれば、炭素材料の結晶構造の配向性の乱雑性が低い一般的な入手し易い天然黒鉛から該黒鉛系炭素素材を製造することができる。
【0018】
この発明のグラフェン分散液は、
上述に記載されたグラフェン前駆体として用いられる黒鉛系炭素素材0.1重部と、をN−メチルピロリドン(NMP)に混ぜ、出力100Wかつ周波数20kHzの周波数の超音波を3時間付与して、グラフェンを分散させた際に、層数が10層以下であるグラフェンの個数が全グラフェン及びグラフェン前駆体の総個数に対して50%以上表出するものであることを特徴としている。
この特徴によれば、本発明におけるグラフェン前駆体として用いられる黒鉛系炭素素材0.1重部に対して、上記した処理を施すだけで、全グラフェン及びグラフェン前駆体である全グラファイトの個数に対する層数が10層以下であるグラフェンの個数が50%以上あるような、グラフェンを高濃度または高分散させたグラフェン分散液を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】黒鉛の結晶構造を示す図であり、(a)は六方晶、(b)は菱面体晶の結晶構造である。
図2】一般的な天然黒鉛のX線回折プロファイルを示す図である。
図3】実施例1のジェットミルとプラズマとを用いた製造装置Aを説明する図である。
図4】実施例1のボールミルとマグネトロンとを用いた製造装置Bを説明する図であり、(a)は粉砕する状態を説明する図、(b)は黒鉛系炭素素材(前駆体を)収集する状態を説明する図である。
図5】実施例1の製造装置Bにより製造された試料5の黒鉛系炭素素材のX線回折プロファイルを示す図である。
図6】実施例1の製造装置Aにより製造された試料6の黒鉛系炭素素材のX線回折プロファイルを示す図である。
図7】比較例を示す試料1の黒鉛系炭素素材のX線回折プロファイルを示す図である。
図8】黒鉛系炭素素材を前駆体として用いて分散液を作成する分散液作成装置を示す図である。
図9】比較例を示す試料1と実施例1の製造装置Bにより製造された試料5の黒鉛系炭素素材を用いて作成した分散液の分散状態を示す図である。
図10】分散液に分散された黒鉛系炭素素材(グラフェン)のTEM撮像図である。
図11】試料5の黒鉛系炭素素材(前駆体)を用いて作成した分散液に分散された黒鉛系炭素素材の分布状態を示す図であり、(a)は平均サイズの分布、(b)は層数の分布を示す図である。
図12】比較例を示す試料1の黒鉛系炭素素材を用いて作成した分散液に分散された黒鉛系炭素素材の分布状態を示す図であり、(a)は平均サイズの分布、(b)は層数の分布を示す図である。
図13】試料1−7を前駆体として用いて作成した分散液に分散された黒鉛系炭素素材の層数の分布を示す図である。
図14】分散液に分散された菱面体晶の含有率に対する10層以下のグラフェンの割合を示す図である。
図15】実施例2の試料5の黒鉛系炭素素材(前駆体)を用いて分散液を作成する条件を変えた場合の黒鉛の分布状態を示す図であり、(a)は超音波処理とマイクロ波処理を併用した場合の分布、(b)は超音波処理をした場合の層数の分布を示す図である。
図16】実施例3の黒鉛系炭素素材を導電性インクに分散させたときの抵抗値を示す図である。
図17】実施例4の黒鉛系炭素素材を樹脂に混練したときの引張強さを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、黒鉛の結晶構造に着目したものであり、この結晶構造に関連する事項を先ず説明する。天然黒鉛は層の重なり方よって六方晶、菱面体晶及び無秩序の3種類の結晶構造に区別されることが知られている。図1に示されるように、六方晶は、層がABABAB・・の順に積層された結晶構造であり、菱面体晶は層がABCABCABC・・の順に積層された結晶構造である。
【0021】
天然黒鉛は、発掘された段階では菱面体晶が殆ど存在しないが、精製段階で破砕など行われるため、一般的な天然黒鉛系炭素素材中には、菱面体晶が14%程度存在する。また、精製時における破砕を長時間行っても、菱面体晶の比率は30%程度で収束することが知られている(非特許文献1、2)。
また、破砕などの物理的力以外でも加熱によって黒鉛を膨張させて薄片化する方法も知られているが、黒鉛に1600K(摂氏約1300度)の熱をかけて処理を行っても菱面体晶の比率は25%程度である。(非特許文献3)。更に超高温の摂氏3000度の熱をかけても30%程度までとなっている(非特許文献2)。
このように、天然黒鉛を物理的力や熱によって処理することで、菱面体晶の比率を増加させることが可能であるがその上限は30%程度である。
【0022】
天然黒鉛に多く含まれる、六方晶(2H)は非常に安定的で、そのグラフェン同士の層間のファンデルワールス力は、(式3)で示される(特許文献2)。この力を超えるエネルギーを与えることでグラフェンが剥離する。剥離に必要なエネルギーは厚さの3乗に反比例するため、層が無数に重なった厚い状態では非常に微弱で超音波などの弱い物理的な力でグラフェンは剥離するが、ある程度薄い黒鉛から剥離する場合には非常に大きなエネルギーが必要となる。つまり、黒鉛を長時間処理しても、表面の弱い部分のみが剥離し、大部分は剥離されないままになる。
【0023】
Fvdw=H・A/(6π・t) ・・・・(式3)
Fvdw:ファンデルワールス力、
H :Hamaker定数
A :黒鉛又はグラフェンの表面積
t :黒鉛又はグラフェンの厚み
【0024】
本願の発明者らは、天然黒鉛に下記に示すような所定の処理を施すことで、粉砕や超高温に加熱する処理では30%程度までしか増えない菱面体晶(3R)の割合を、40%以上まで増加させることに成功した。黒鉛系炭素材料の菱面体晶(3R)の含有率がより多くなると、特に40%以上の含有率であると、この黒鉛系炭素素材を前駆体として用いることで、グラフェンに剥離しやすくなる傾向があり、簡単に高濃度、高分散度されたグラフェン溶液などが得られることが実験・研究の結果として知見として得られた。これは、菱面体晶(3R)にせん断などの力が加わった際に、層間に歪みが生じ、つまり黒鉛の構造全体の歪みが大きくなり、ファンデルワールス力に依存せずに、剥離しやすくなるためであると考えられる。このため、本発明においては、天然黒鉛に所定の処理を施すことでグラフェンが剥離しやすく、グラフェンを高濃度又は高分散させることができる黒鉛系炭素素材をグラフェン前駆体と呼び、以下、後述の実施例において、所定の処理を示すグラフェン前駆体の製造方法、グラフェン前駆体の結晶構造、グラフェン前駆体を用いたグラフェン分散液の順に説明する。
【0025】
ここで、本明細書においてグラフェンは、平均サイズが100nm以上の結晶であって平均サイズが数nm〜数十nmの微結晶ではなく、かつ層数が10層以下の薄片状又はシート状のグラフェンをいう
なお、グラフェンは平均サイズが100nm以上の結晶であるため、天然黒鉛以外の非晶質(微結晶)炭素素材である、人造黒鉛、カーボンブラックは、これらを処理してもグラフェンは得られない(非特許文献4)。
また、本明細書において、グラフェン複合体は、本発明に係るグラフェン前駆体として用いられる黒鉛系炭素素材、すなわちRate(3R)が40%以上の黒鉛系炭素材料(例えば後述する実施例1の試料4−7)を用いて作成した複合体を意味する。
【0026】
以下、本発明に係るグラフェン前駆体として用いられる黒鉛系炭素素材、これを含有するグラフェン分散液及びグラフェン複合体並びにこれを製造する方法を実施するための実施例を説明する。
【実施例1】
【0027】
<グラフェン前駆体として用いられる黒鉛系炭素素材の製造について>
図3に示されるジェットミルとプラズマとを用いた製造装置Aにより、グラフェン前駆体として用いられる黒鉛系炭素素材を得る方法について説明する。製造装置Aは、電波的力による処理としてプラズマを施し、また、物理的力による処理としてジェットミルを用いた場合を例にしている。
【0028】
図3において、符号1は5mm以下の粒子の天然黒鉛材料(日本黒鉛工業製 鱗片状黒鉛ACB-50)、2は天然黒鉛材料1を収容するホッパー、3はホッパー2から天然黒鉛材料1を噴射するベンチュリーノズル、4はコンプレッサ5から8箇所に分けて圧送された空気を噴射させて天然黒鉛材料をジェット噴流によりチャンバ内に衝突させるジェットミル、7はタンク6から酸素、アルゴン、窒素、水素などのガス9をノズル8から噴射させるとともに、ノズル8の外周に巻回されたコイル11に高圧電源10から電圧を付与し、ジェットミル4のチャンバ内でプラズマを発生させるプラズマ発生装置であり、チャンバ内に4カ所に設けてある。13はジェットミル4と集塵器14とを接続する配管、14は集塵器、15は収集容器、16は黒鉛系炭素素材(グラフェン前駆体)、17はブロアである。
【0029】
次に製造方法について説明する。ジェットミル及びプラズマの条件は次のとおりである。
ジェットミルの条件は次のとおりである。
圧力 : 0.5MPa
風量 : 2.8m3/min
ノズル内直径 :12mm
流速 : 約410m/s
プラズマの条件は次のとおりである。
出力 : 15W
電圧 : 8kV
ガス種 : Ar(純度99.999Vol%)
ガス流量:5L/min
【0030】
ベンチュリーノズル3よりジェットミル4のチャンバ内に投入された天然黒鉛材料1は、チャンバ内で音速以上に加速され、天然黒鉛材料1同士や壁にぶつかる衝撃で粉砕されると同時に、プラズマ12が天然黒鉛材料1に対して放電や励起することで、原子(電子)に直接作用し、結晶の歪みを増し粉砕を促すと考えられる。天然黒鉛材料1はある程度の粒径(1〜10μm程度)まで微粉になると、質量が減り、遠心力が弱まることで、チャンバの中心に接続された配管13から吸い出される。
【0031】
配管13から集塵器14のチャンバの円筒容器に流入された黒鉛系炭素素材(グラフェン前駆体)が混在した気体は旋回流となって、容器内壁に衝突した黒鉛系炭素素材16を下方の収集容器15に落下させるとともに、チャンバの下方のテーパ容器部によってチャンバの中心に上昇気流が発生し気体はブロワ17から排気される(所謂サイクロン作用)。本実施例における製造装置Aによれば、原料となる1kgの天然黒鉛材料1から約800gのグラフェン前駆体として用いられる 黒鉛系炭素素材(グラフェン前駆体)16を得た(回収効率:8割程度)。
【0032】
次に、図4に示されるボールミルとマイクロ波とを用いた製造装置Bにより、グラフェン前駆体として用いられる黒鉛系炭素素材を得る方法について説明する。製造装置Bは、電波的力による処理としてマイクロ波を施し、また、物理的力による処理としてボールミルを用いた場合を例にしている。
【0033】
図4(a)及び(b)において、符号20はボールミル、21はマイクロ波発生装置(マグネトロン)、22は導波管、23はマイクロ波流入口、24はメディア、25は5mm以下の粒子の天然黒鉛材料(日本黒鉛工業製 鱗片状黒鉛 ACB-50)、26は収集容器、27はフィルタ、28は黒鉛系炭素素材(グラフェン前駆体)である。
【0034】
次に製造方法について説明する。ボールミル及びマイクロ波の条件は次のとおりである。
ボールミルの条件は次のとおりである。
回転数 : 30rpm
メディアサイズ: φ5mm
メディア種 : ジルコニアボール
粉砕時間 :3時間
マイクロ波発生装置(マグネトロン)の条件は次のとおりである。
出力 : 300W
周波数 : 2.45GHz
照射方法 :断続的
【0035】
ボールミル20のチャンバ内に1kgの天然黒鉛系炭素原料25と、800gのメディア24を投入し、チャンバを閉じ30rpmの回転数で3時間処理する。この処理中にチャンバにマイクロ波を断続的(10分おきに20秒)に照射する。このマイクロ波の照射により、原料の原子(電子)に直接作用し、結晶の歪みを増やすと考えられる。処理後、フィルタ27でメディア24を取り除くことで、10μm程度の粉体の黒鉛系炭素素材(前駆体)28を収集容器26に収集することができる。
【0036】
<黒鉛系炭素素材(前駆体)のX線回折プロファイルについて>
図5図7を参照して、製造装置A、Bにより製造された黒鉛系天然材料(試料6、試料5)及び製造装置Bのボールミルのみを用いて得た10μm程度の粉体の黒鉛系天然材料(試料1:比較例)のX線回折プロファイルと結晶構造について説明する。各試料は、X線回折法(リガク社製試料水平型多目的X線回折装置 Ultima IV)によれば、それぞれ六方晶2Hの面(100)、面(002)、面(101)、及び菱面体晶3Rの面(101)にピーク強度P1,P2,P3,P4を示すことからこれらについて説明する。
【0037】
ボールミルによる処理とマイクロ波処理を施す製造装置Bにより製造された試料5は、図5及び表1に示されるように、ピーク強度P3やピーク強度P1の強度の割合が高く、P3のP3とP4の和に対する割合を示す(式1)で定義されるRate(3R)が46%であった。また、強度比P1/P2は0.012であった。
Rate(3R)=P3/(P3+P4)×100・・・・(式1)
ここで、
P1は六方晶系黒鉛層(2H)のX線回折法による(100)面のピーク強度
P2は六方晶系黒鉛層(2H)のX線回折法による(002)面のピーク強度
P3は菱面晶系黒鉛層(3R)のX線回折法による(101)面のピーク強度
P4は六方晶系黒鉛層(2H)のX線回折法による(101)面のピーク強度
である。
【0038】
【表1】
【0039】
同様に、ジェットミルによる処理とプラズマによる処理を施す製造装置Aにより製造された試料6は、図6及び表2に示されるように、ピーク強度P3やピーク強度P1の強度の割合が高く、Rate(3R)が51%であった。また、強度比P1/P2は0.014であった。
【0040】
【表2】
【0041】
また、ボールミルのみにより製造された比較例を示す試料1は、図7及び表3に示されるように、ピーク強度P3は試料5、6に比較してその割合が小さく、Rate(3R)は23%であった。また、強度比P1/P2は0.008であった。
【0042】
【表3】
【0043】
このように、実施例1の製造装置Bにより製造された試料5、実施例1の製造装置Aにより製造された試料6では、Rate(3R)が、46%、51%となり、図2に示す天然黒鉛や、比較例を示す試料1に比較して、40%以上または50%以上となることが示された。
次に、上述で製造されたグラフェン前駆体を用いて、グラフェン分散液を作成し、グラフェンの剥離し易さを比較した。
【0044】
<グラフェン分散液について>
グラフェン分散液の作成方法について図8を参照して説明する。図8においては、グラフェン分散液の作成する際に、液中にて超音波処理とマイクロ波処理とを併用する場合を例にしている。
(1)ビーカー40にグラフェン前駆体として用いられる黒鉛系炭素素材0.2gと分散液であるN−メチルピロリドン(NMP)200mlを入れる。
(2)ビーカー40をマイクロ波発生装置43のチャンバ42に入れ、上方から超音波ホーン44の超音波の振動子44Aを分散液41に挿入する。
(3)超音波ホーン44を作動させ20kHz(100W)の超音波を連続的に3時間付与する。
(4)上記超音波ホーン44を作動させている間に、マイクロ波発生装置43を作動させマイクロ波2.45GHz(300W)を断続的(5分おきに10秒照射)に付与する。
【0045】
図9は上述のようにして作成されたグラフェン分散液が24時間経過した様子である。
製造装置Bにより製造された試料5を用いたグラフェン分散液30は一部沈殿しているものの全体が黒色を呈するものが確認された。これは、グラフェン前駆体として用いた黒鉛系炭素素材の多くがグラフェンに剥離した状態で分散していると考えられる。
比較例を示す試料1を用いた分散液31は黒鉛系炭素素材のほとんどが沈殿しており、一部が上澄み液として浮いていることが確認された。このことから、ごく一部がグラフェンに剥離し、上澄みとして浮いていると考えられる。
【0046】
また、上述のようにして作成されたグラフェン分散液を資料台(TEMグリッド)の上に観察可能な濃度に希釈・塗布し、乾燥させて、透過型電子顕微鏡(TEM)の図10に示すような撮像画からグラフェンのサイズと層数を観察した。なお、試料1については上澄みを希釈・塗布したものを用いた。例えば、図10の場合、図10(a)からサイズはフレーク33の最大の長さLであり約600nm、図10(b)から層数はフレーク33の端面を観察しグラフェン層の重なりをカウントし6層(符号34が指す領域。)として求めた。このように各フレーク(フレーク数をNとする)のサイズと層数を測定して、図11図12に示すグラフェン層数と大きさを求めた。
【0047】
図11(a)を参照し、実施例1の製造装置Bにより製造された試料5(Rate(R3)が46%)のグラフェン分散液に含まれた薄片状のフレークの粒度分布(サイズの分布)は、0.5μmをピークとする分布であった。また、図11(b)において、層数は、3層をピークとし、10層以下のグラフェンが68%となる分布であった。
図12を参照して、比較例の試料1(Rate(R3)が23%)の分散液に含まれた薄片状のフレークの粒度分布(サイズの分布)は、0.9μmをピークとする分布であった。また、層数は、30層以上のものが大部分を占め、10層以下のグラフェンが10%となる分布であった。
この結果から、製造装置Bにより製造された試料5のものは、グラフェン前駆体として用いた場合に、10層以下のグラフェンが多く、グラフェンの分散性に優れ、かつ、高濃度のグフェン分散液を得られることが分った。
【0048】
次に、図13を参照して、グラフェン前駆体の割合Rate(3R)とグラフェン分散液における層数の関係について説明する。図13における、試料1、5、6は上述したものである。試料2、3、4は、ボールミルによる処理とマイクロ波処理とを施す製造装置Bで製造したものであり、試料5よりもマイクロ波の照射時間を短くして製造したグラフェン前駆体を用いてグフェン分散液を作成したものである。また、試料7はジェットミルによる処理とプラズマ処理とを施す製造装置Aで製造したものであり、試料6よりも高出力のプラズマを与えて製造したグラフェン前駆体を用いてグフェン分散液を作成したものである。
【0049】
図13から、Rate(3R)が40%以上の試料4−7は、層数の分布の形状が数層(薄いグラフェン)の部分にピークを有する所謂対数正規分布の形状である。一方、Rate(3R)が40%未満の試料1−3は、層数が30層以上の部分にピークを有する形状(試料1を用いた分散液)や正規分布に近い形状(試料2、3を用いた分散液)である。すなわち、Rate(3R)が40%以上となると、層数の分布の形状が40%未満とは明らかに異なる傾向となることが分かる。また、10層以下のグラフェンの割合は、試料3を用いた分散液のRate(3R)が38%であるのに対し、試料4を用いた分散液のRate(3R)が62%であり、Rate(3R)が40%以上となると、10層以下のグラフェンの割合が急増していることが分かる。
【0050】
これらのことから、Rate(3R)が40%以上の場合に10層以下のグラフェンに剥離しやすくなり、さらにRate(3R)が50%、60%と多くなるにつれ、10層以下のグラフェンにさらに剥離し易くなり、逆に40%未満では10層以下のグラフェンに剥離しにくいと考えられる。また、強度比P1/P2について着目すると、試料2−試料7は、比較的狭い0.012〜0.016の範囲内の値となっており、結晶構造にゆがみが生じグラフェンに剥離しやすいと考えられる0.01を超えるからいずれも好ましい。
【0051】
さらにRate(3R)と10層以下のグラフェンが含まれる割合との対比を行った結果を図14に示す。図14を参照すると、Rate(3R)は、25%以上となると10層以下のグラフェンが増加し始め(右肩上がりの傾きとなり)、また40%前後において、10層以下のグラフェンが急増し(10層以下のグラフェンの割合は、試料3を用いた分散液のRate(3R)が38%であるのに対し、試料4を用いた分散液のRate(3R)が62%であり、Rate(3R)が4%増えることにより10層以下のグラフェンの割合は24%増えるように急増し)かつ全体に占める10層以下のグラフェンが50%以上となることが判明した。なお、図14中の黒四角の点は各々異なる試料であり、上述した試料1−7と、それ以外の他の試料も含まれている。
【0052】
このことから、Rate(3R)が40%以上の試料をグラフェン前駆体として用いてグラフェン分散液を作成すると、10層以下のグラフェンが50%以上生成される。すなわち、グラフェンが高濃度かつ高分散のグラフェン分散液を得ることができる。また、上述したように、この分散液に含まれる黒鉛系炭素素材(前駆体)はほとんど沈殿しないから、簡単に濃いグラフェン分散液を得ることができる。この方法により、濃縮することなしに、グラフェンの濃度が10%を超えるグラフェン分散液を作成することもできた。なお、10層以下のグラフェンが分散する割合は50%未満と少ないものの、Rate(3R)が25%以上40%未満のものは、10層以下のグラフェンが分散される割合が増えるという観点から好ましい。
【0053】
また、Rate(3R)の上限は40%以上で特に規定する必要はないと考えるが、強度比R1/R2が0.01以上を同時に満たすようにすることが、分散液等を作成する場合にグラフェンに分離しやすいことから好ましい。なお、製造装置A、Bを用いた製造方法の場合には、グラフェン前駆体を製造がし易いという観点からは、上限は70%程度である。また、製造装置Aのジェットミルによる処理とプラズマ処理とを併用する方法の方が、Rate(3R)が高いものを容易に得ることからより好ましい。なお、物理的力による処理と電波的力による処理を併用して、Rate(3R)が40%以上となっていればよい
【実施例2】
【0054】
実施例1では、グラフェン分散液を得る際に、超音波処理とマイクロ波処理とを併用する場合について説明したが、実施例2では、超音波処理のみを行いマイクロ波処理は行っておらず、その他の条件は実施例1と同様である。
図15(b)は、製造装置Bで製造した試料5(Rate(3R)=46%)のグラフェン前駆体を用い超音波処理を施して得られたグラフェン分散液の層数の分布を示す。なお、図15(a)は実施例1の製造装置Bにより製造された試料5の図11(b)に示される分布と同じである。
その結果、層数の分布の傾向は概ね同様であるが、10層以下のグラフェンの割合は64%であり、実施例1の68%に比較し、少し低下している。このことから、グラフェン分散液を作成する際は物理的力と電波的力の処理を2つ同時に行った方がより効果があることが判明した。
【実施例3】
【0055】
実施例3では導電インクに用いる例について説明する。
実施例1の試料1(Rate(3R)=23%)、試料3(Rate(3R)=38%)、試料5(Rate(3R)=46%)、試料6(Rate(3R)=51%)をグラフェン前駆体として、水と導電性付与剤たる炭素数3以下のアルコールとの混合溶液に導電性インクに使用する濃度にしたINK1,INK3,INK5,INK6を作成し、それぞれの抵抗値を比較した。この結果から、Rate(3R)が高くなるにつれ、抵抗値は低いという結果となった。
【実施例4】
【0056】
実施例4では樹脂に混練する例について説明する。
グラフェンを分散した樹脂シートを作成する際に、ガラス繊維を添加したものの引張強度が非常に良好であったためその要因を調べたところ、ガラス繊維と同時に添加する相溶化剤が、前駆体がグラフェン化することに寄与していることが知見として得られた。そこで、分散剤と相溶化剤とを樹脂に混ぜたものについて検討した。
実施例1の試料5(Rate(3R)=46%)を前駆体としてLLDPE(ポリエチレン)に1wt%直接添加し、ニーダーや2軸混練機(エクストルーダー)等でシェア(せん段力)をかけながら混練した。
樹脂中で黒鉛系炭素素材がグラフェン化し、高分散すると、引張強度が増加することは公知であることから、樹脂の引張強度を測定することによりグラフェン化と分散の度合いを相対的に推察することができる。引張強度は、島津製作所社製の卓上型精密万能試験機( AUTOGRAPH AGS−J)で試験速度500mm/minの条件で測定した。
【0057】
また、添加剤の有無による、グラフェン化と分散性を比較するため、下記(a),(b),(c)3種類の比較を行った。
(a)添加剤無
(b)一般的分散剤(ステアリン酸亜鉛)
(c)相溶化剤 (グラフト変性ポリマー)
【0058】
測定結果を示す図17を参照して結果について説明する。なお、図17中、丸印は比較例の試料1を用いた樹脂材料、四角印は実施例1の試料5を用いた樹脂材料である。
(a)の添加剤を加えない場合は、引っ張り強さの差は小さかった。
(b)の分散剤を添加した場合は、試料5のグラフェン前駆体はグラフェン化がある程度促進されることがわかる。
(c)の相溶化剤を添加した場合は、試料5のグラフェン前駆体はグラフェン化がかなり促進されることがわかる。これは、相溶化剤は、グラフェン分散させる効果の他に、グラフェン層結合体と樹脂を結合させ、その状態でシェアを加えると、グラフェン層結合体を引きはがすように作用すると考えられるからである。
【0059】
分散剤としてステアリン酸亜鉛を例に説明したが、化合物に合った性質のものを選択するとよい。例えば、分散剤としては、陰イオン(アニオン)界面活性剤、陽イオン(カチオン)界面活性剤、両性イオン界面活性剤、非イオン(ノニオン)界面活性剤が挙げられる。特にグラフェンに対しては、陰イオン界面活性剤と非イオン界面活性剤が好ましい。より好ましくは、非イオン界面活性剤である。非イオン界面活性剤は、オキシエチレン基や水酸基、グルコシドなどの糖鎖など、イオンには解離せず、水との水素結合によって親水性を呈する界面活性剤であるため、イオン性界面活性剤ほどの親水性の強さは無いが、非極性溶媒中での使用が可能であるメリットがある。そして、その親水基鎖長を変化させることで、その性質を親油性から親水性まで自由に変化させることができるからである。陰イオン界面活性剤としては、X酸塩(X酸は例えばコール酸、デオキシコール酸)、例えばSDC:デオキシコール酸ナトリウム、リン酸エステルなどが好ましい。また、非イオン界面活性剤としては、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、脂肪アルコールエトキシレート、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、アルキルグリコシドなどが好ましい。
【0060】
上述した実施例1−4では、グラフェン前駆体を製造する製造装置として、ジェットミルとプラズマを用いる製造装置Aと、ボールミルとマイクロ波を用いる製造装置Bについて説明したが、マイクロ波、ミリ波、プラズマ、電磁誘導加熱(IH)、磁場などの電波的力による処理と、ボールミル、ジェットミル、遠心力、超臨界などの物理的力による処理とを併用すると、割合Rate(R3)が高い前駆体を得ることができるから好ましい。なお、物理的力による処理と電波的力による処理を併用して、物理的力による処理と電波的力による処理の個別の処理の種類は問わない。特に、製造装置A及びBのように、電波的力と物理的力とによる作用を同時に作用させることが好ましいが、電波的力と物理的力とを交互に所定間隔毎に作用させるようにしてもよい。さらに、電波的力について、例えば、マイクロ波とプラズマとによる処理など、異なる電波的力を、交互に施し、それと並行して1または2以上の物理的力による処理を施してもよい。また、物理的力についても、例えば、ジェットミルと超臨界による処理など、異なる物理的力を、交互に施し、それと並行して1または2以上の電波的力による処理を施してもよい。
【0061】
また、上述した実施例では、前駆体を用いてグラフェン分散液を得る作成装置として、マイクロ波と超音波を用いる作成装置について説明したが、マイクロ波、ミリ波、プラズマ、電磁誘導加熱(IH)、磁場などの電波的力による処理と超音波、ボールミル、ジェットミル、遠心力、超臨界などの物理的力による処理とを併用すると、グラフェンの濃度の高いグラフェン分散液が得られるから好ましい。特に、作成装置のように、電波的力と物理的力とによる作用が同時に作用させることが好ましいが、電波的力と物理的力とを交互に所定間隔毎に作用させるようにしてもよい。
【0062】
また、上述した実施例では、前駆体を用いた用途として、グラフェン分散液、導電インク及び樹脂成形品について説明したが、母材として、モノマー、ポリマー、他の炭素素材、セラミックス、木材、セメント、金属等の複合体母材中に前駆体を混ぜることによりグラフェン複合体を得るものであってもよい。すなわち、本明細書において、グフェン複合体は、上述したグラフェン分散液、導電インク及び樹脂成形品を包含するものを意味する。また、グラフェン分散液は粘度が高いペースト状のもの包含する。
【0063】
例えば、前駆体を分散させる液体や母材としては次のものが挙げられる。
樹脂として、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ABS樹脂(ABS)、アクリル樹脂(PMMA)、ポリアミド/ナイロン(PA)、ポリアセタール(POM)、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンテレフタラート(PET)、環状ポリオレフィン(COP)、ポリフェニレンスルファイド(PPS)、ポリテトラフロロエチレン(PTFE)、ポリサルフォン(PSF)、ポリアミドイミド(PAI)、熱可塑性ポリイミド(PI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、液晶ポリマー(LCP)が挙げられる。また、合成樹脂のうち熱硬化性樹脂として、エポキシ樹脂(EP)、フェノール樹脂(PF)、メラミン樹脂(MF)、ポリウレタン(PUR)、不飽和ポリエステル樹脂(UP)などの熱可塑性樹脂、繊維状のナイロン、ポリエステル、アクリル、ビニロン、ポリオレフィン、ポリウレタン、レーヨンなどの繊維、エラストマーとしてイソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、クロロプレンゴム(CR)、ニトリルゴム(NBR)、ポリイソブチレンゴム/ブチルゴム(IIR)、エチレンプロピレンゴム(EPM/EPDM)、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)、アクリルゴム(ACM)、エピクロルヒドリンゴム(CO/ECO)など、熱硬化性樹脂系エラストマーとして、一部のウレタンゴム(U)、シリコーンゴム(Q)、フッ素ゴム(FKM)など、熱可塑性エラストマーとしてスチレン系、オレフィン系、塩ビ系、ウレタン系、アミド系のエラストマーが挙げられる。
【0064】
また、鉱油として、潤滑油、グリース、またゴム用配合油として、パラフィン系鉱油、ナフテン系鉱油、芳香族系鉱油などが挙げられる。
さらにとして、無極性のもととして、ヘキサン、ベンゼン、トルエン、クロロホルム、酢酸エチルなど、極性非プロトン性のもとして、アセトン、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N−メチルピロリドン(NMP)、アセトニトリルなど、極性プロトン性のもとして、酢酸、エタノール、メタノール、水、1−ブタノール、2−プロパノール、ギ酸などが挙げられる。
【0065】
また、グラフェン前駆体として用いられる黒鉛系炭素素材を、製造するための天然黒鉛として、5mm以下の粒子の天然黒鉛材料(日本黒鉛工業製 鱗片状黒鉛 ACB−50)を例に説明したが、天然黒鉛は、鱗片状黒鉛であって、5mm以下に粉砕されているもので、Rate(3R)が25%未満かつ強度比P1/P2が0.01未満のものが入手しやすいという観点から好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0066】
対象物に前駆体を添加してグラフェンによる機能化を図るものとして次のものが挙げられる。
・ 樹脂、ゴム、塗料などのポリマー素材に対する添加剤
・ 放熱シート、導電シート、放熱テープ、導電テープに対する添加剤
・ 金属粉末に添加して焼結した焼結冶金
・ 酸化リチウムやナノクレイなどのセラミックスに対する添加剤
・ コンクリートなどの非金属、非ポリマー材に対する添加剤
【0067】
グラフェン分散液を用いたものとして次のものが挙げられる。
・ リチウムイオン電池の電極剤、導電補助剤、放電容量向上剤、充放電効率向上剤
・ キャパシタ製品の電極、電解液
・ 導電性インクの導電剤
【符号の説明】
【0068】
1 天然黒鉛材料
4 ジェットミル
7 プラズマ発生装置
16 グラフェン前駆体として用いられる黒鉛系炭素素材
20 ボールミル
21 マイクロ波発生器
24 メディア
25 天然黒鉛材料
28 グラフェン前駆体として用いられる黒鉛系炭素素材
30 資料5を用いたグラフェン分散液
31 資料1を用いたグラフェン分散液
33 フレーク
40 ビーカー
41 グラフェン分散液
43 マイクロ波発生装置
44 超音波発生装置
【要約】
前駆体として用いたときにグラフェンに剥離しやすく、また、高濃度なグラフェン分散溶液を簡単に得られる、グラフェン前駆体として用いられる黒鉛系炭素素材を提供する。
X線回折法による次の(式1)により定義される割合Rate(3R)が40%以上であるグラフェン前駆体として用いられる黒鉛系炭素素材。
Rate(3R)=P3/(P3+P4)×100・・・・(式1)
ここで、
P3は菱面晶系黒鉛層(3R)のX線回折法による(101)面のピーク強度
P4は六方晶系黒鉛層(2H)のX線回折法による(101)面のピーク強度
である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図9
図10