特許第5688775号(P5688775)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5688775
(24)【登録日】2015年2月6日
(45)【発行日】2015年3月25日
(54)【発明の名称】グラフェン素材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 31/02 20060101AFI20150305BHJP
【FI】
   C01B31/02 101Z
【請求項の数】9
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2012-549828(P2012-549828)
(86)(22)【出願日】2011年12月20日
(86)【国際出願番号】JP2011079506
(87)【国際公開番号】WO2012086641
(87)【国際公開日】20120628
【審査請求日】2013年7月2日
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2011/063006
(32)【優先日】2011年6月7日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2010-284762(P2010-284762)
(32)【優先日】2010年12月21日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】599002043
【氏名又は名称】学校法人 名城大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】特許業務法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】成塚 重弥
(72)【発明者】
【氏名】丸山 隆浩
【審査官】 森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/043716(WO,A2)
【文献】 特開2009−174093(JP,A)
【文献】 特開2009−091174(JP,A)
【文献】 特開2009−200177(JP,A)
【文献】 特開2009−143799(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/119641(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 31/00 − 31/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)グラフェン化を促進する機能を有する所定形状の触媒金属層を基板本体上に形成する工程と、
(b)前記触媒金属層の表面に炭素源を供給してグラフェンを成長させる工程と、
(c)前記触媒金属層から前記グラフェンをグラフェン素材として取り出す工程と、
を含むグラフェン素材の製造方法であって、
前記工程(a)では、前記触媒金属層を、該触媒金属層の縁部分が盛り上がって土手になるように形成する、グラフェン素材の製造方法。
【請求項2】
前記工程(a)では、前記触媒金属層として一筆書きが可能な形状のものを形成する、請求項1に記載のグラフェン素材の製造方法。
【請求項3】
前記工程(a)では、前記一筆書きが可能な形状はジグザグ状、渦巻き状又は螺旋状である、請求項2に記載のグラフェン素材の製造方法。
【請求項4】
前記工程(c)では、前記触媒金属層からジグザグ状、渦巻き状又は螺旋状のグラフェンを取り出したあと両端を把持して伸ばすことにより線状のグラフェン素材を得る、請求項2又は3に記載のグラフェン素材の製造方法。
【請求項5】
前記工程(a)では、前記所定形状の触媒金属層は、該触媒金属層の一部が該触媒金属層の無い部分を介して該触媒金属層の他の部分と隣合うように形成される、請求項1〜4のいずれか1項に記載のグラフェン素材の製造方法。
【請求項6】
前記工程(a)では、前記触媒金属層を、屈曲している部分を有するものとし、該屈曲している部分の角度が鈍角となるように形成する、請求項1〜5のいずれか1項に記載のグラフェン素材の製造方法。
【請求項7】
前記工程(a)では、前記触媒金属層を、Uターン部分を有するものとし、該Uターン部分に所定方向から入射したベクトルが前記Uターン部分の縁で反射しながら前記所定方向とは反対向きのベクトルとなって該Uターン部分から出ていくように形成する、請求項1〜5のいずれか1項に記載のグラフェン素材の製造方法。
【請求項8】
前記工程(c)では、前記触媒金属層から前記グラフェン素材として取り出すにあたり、前記触媒金属層を溶かして前記グラフェン素材を取り出す、請求項1〜のいずれか1項に記載のグラフェン素材の製造方法。
【請求項9】
前記工程(c)では、前記触媒金属層から前記グラフェン素材として取り出すにあたり、前記触媒金属層から前記グラフェン素材を引き剥がす、請求項1〜のいずれか1項に記載のグラフェン素材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラフェン素材の製造方法及びグラフェン素材に関する。
【背景技術】
【0002】
グラフェンは、炭素原子の六員環が単層で連なって平面状になった二次元材料である。このグラフェンは、電子移動度がシリコンの100倍以上と言われている。近年、グラフェンをチャネル材料として利用したトランジスタが提案されている(特許文献1参照)。特許文献1では、絶縁基板上に、絶縁分離膜で分離された触媒膜パターンを形成し、その触媒膜パターン上にグラフェンシートを成長させたあと、そのグラフェンシートの両側にドレイン電極及びソース電極を形成すると共に、グラフェンシート上にゲート絶縁膜を解してゲート電極を形成している。ここで、触媒膜パターンは絶縁膜で分離されているが、グラフェンシートは触媒膜パターンの端では横方向に延びることから、絶縁分離膜の両側の触媒膜パターンからグラフェンシートが延びて絶縁分離膜上でつながった構造が得られると説明されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−164432号公報
【発明の開示】
【0004】
ところで、グラフェン素材を単離する方法については、これまであまり多く報告されていない。一例としては、グラファイトに粘着テープを付着させたあとそのテープを剥がすことにより、粘着テープの粘着面にグラファイトから分離したグラフェンシートを付着させるという方法が知られている。
【0005】
しかしながら、こうした方法では、グラファイトからきれいにグラフェンシートが分離しないことがあるため、所望形状のグラフェンシートを得ることが困難であった。
【0006】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、所望形状のグラフェン素材を容易に作製することを主目的とする。
【0007】
本発明のグラフェン素材の製造方法は、
(a)グラフェン化を促進する機能を有する所定形状の触媒金属層を基板本体上に形成する工程と、
(b)前記触媒金属層の表面に炭素源を供給してグラフェンを成長させる工程と、
(c)前記触媒金属層から前記グラフェンをグラフェン素材として取り出す工程と、
を含むものである。
【0008】
このグラフェン素材の製造方法によれば、グラフェン素材の形状は触媒金属層の形状をそのまま受け継ぐことになるため、触媒金属層を所望形状にパターニングしさえすれば、その所望形状のグラフェン素材を得ることができる。
【0009】
ここで、グラフェン素材とは、炭素原子の六員環が単層で連なったグラフェンを1層又は複数層有する素材をいう。また、グラフェン化を促進する機能とは、炭素源と接触してその炭素源に含まれる炭素成分が互いに結合してグラフェンになるのを促進する機能をいう。
【0010】
本発明のグラフェン素材の製造方法において、前記工程(c)では、前記触媒金属層を溶かして前記グラフェンをグラフェン素材として取り出してもよい。こうすれば、グラフェン素材を容易に取り出すことができる。
【0011】
本発明のグラフェン素材の製造方法において、前記工程(a)では、前記触媒金属層として一筆書きが可能な形状のものを形成してもよい。こうすれば、基板の面積が小さい場合であっても、得られるグラフェン素材の長さを長くすることができる。この場合、金属層と同形状のグラフェンが得られるが、その両端を把持して伸ばすことにより線状のグラフェン素材が得られる。こうした線状のグラフェン素材は、電気配線等に利用可能である。一筆書きが可能な形状は、例えば、ジグザグ状であってもよいし渦巻き状であってもよいし螺旋状であってもよい。具体的には、基板本体が平板状の場合には触媒金属層をジグザグ状又は渦巻き状に形成し、基板本体が円筒状の場合には触媒金属層を螺旋状に形成してもよい。
【0012】
本発明のグラフェン素材の製造方法において、前記工程(a)で、前記所定形状の触媒金属層は、該触媒金属層の一部が該触媒金属層の無い部分を介して該触媒金属層の他の部分と隣合うように形成されていてもよい。こうすれば、触媒金属層の一部と他の部分とが隣り合っているため、工程(b)でグラフェンを成長させる際、触媒金属層の一部と他の部分との成長条件(例えば、原料供給量、温度、キャリアガスの流量等)が同じとなる可能性が高い。こうして得られたグラフェン素材の両端を把持して伸ばして線材等の長尺ものを作製する場合、長手方向のどの部分でも同じ条件でグラフェンが成長するため、長手方向に均質なグラフェン素材を得ることができる。これに対して、一直線状の触媒金属層を用いて長尺ものを作製する場合には、長手方向の位置によって異なる条件でグラフェンが成長して長手方向に不均質なグラフェン素材となるおそれがあり、ひいては長尺もののグラフェン素材の性能がばらついたり品質が低下したりするおそれがある。
【0013】
本発明のグラフェン素材の製造方法において、前記工程(a)では、前記触媒金属層を、屈曲している部分を有するものとし、該屈曲している部分の角度が鈍角となるように形成してもよい。こうすれば、できあがったグラフェン素材のキャリアの伝導特性が良好になる。特にその角度を約120°(例えば110〜130°)に設定すれば、グラフェンの結晶構造を反映したキャリアの伝導特性が得られる。あるいは、前記工程(a)では、前記触媒金属層を、Uターン部分を有するものとし、該Uターン部分に所定方向から入射したベクトルが前記Uターン部分の縁で反射しながら前記所定方向とは反対向きのベクトルとなって該Uターン部分から出ていくように形成してもよい。こうすれば、できあがったグラフェン素材のキャリアの伝導方向を反射の原理によって効率よく変化させることができる。
【0014】
本発明のグラフェン素材の製造方法において、前記工程(a)では、前記触媒金属層を、該触媒金属層の縁部分が盛り上がって土手になるように形成してもよい。こうした触媒金属層の上に形成されるグラフェンは、触媒金属層の土手を反映した曲率を持つ。また、この土手の部分では触媒金属層が厚いので、グラフェン成長時により多くの炭素が溶け込み、より厚いグラフェンが成長する。こうしたことから、キャリアのポテンシャルは、土手の部分の上に成長したグラフェンと、土手以外の部分に成長したグラフェンとで異なる。したがって、このポテンシャルの影響により、グラフェンを流れる電流はグラフェンの縁ではなく縁に囲まれた中央部を流れる。これにより、グラフェンの電気伝導特性が改善される。なぜなら、グラフェンの縁部分(側部)の伝導特性は必ずしもよくないからである。
【0015】
工程(a)において、基板本体としては、特に限定するものではないが、例えばc面サファイア基板、a面サファイア基板、表面にSiO2層が形成されたSi基板、SiC基板、ZnO基板、GaN基板(テンプレート基板を含む)、W等の高融点金属基板、グラフェン化促進触媒能を有する金属の基板などが挙げられる。こうした基板本体は、単結晶基板の方が触媒金属層の結晶方位を揃えやすいため好ましい。但し、単結晶基板でなくても触媒金属層の方位は揃うことがあり得る。また、基板本体は、基本的には、グラフェンを成長させる工程(b)において劣化しないことが必要である。なお、基板本体として、表面にSiO2層が形成されたSi基板を用いる場合には、Siと触媒金属層との反応を抑制するために、基板と触媒金属層との間にTi,Pt,SiO2等の中間層を設けることが好ましい。中間層の厚さは、特に限定するものではないが、例えば1nm−10nm程度としてもよい。
【0016】
工程(a)において、触媒金属層の材質としては、Cu,Ni,Co,Ru,Fe,Pt,Au等が挙げられる。こうした金属のうち、表面に三角格子(三角形の頂点に金属原子が配置された構造)を持つものが好ましい。例えば、FCCの(111)面、BCCの(110)面、HCPの(0001)面が三角格子になる。触媒金属層の厚さは、特に限定するものではないが、例えば1−500nm程度としてもよい。但し、膜厚が薄すぎると、触媒金属が粒子化してしまうおそれがあるため、粒子化しない程度の厚さとするのが好ましい。
【0017】
工程(a)において、所定形状の触媒金属層を形成するには、例えば、周知のフォトリソグラフィ法によってパターニングしてもよい。その場合、まず基板の全面に触媒金属層を形成し、次に所定形状の触媒金属層が残るようにレジストパターンを形成したあとウェットエッチング又はドライエッチングを行ってもよい。ウェットエッチングは、触媒金属層の金属種に応じて適宜エッチング液を選定すればよい。ドライエッチングも、触媒金属層の金属種に応じて適宜使用するガスを選定すればよい。また、所定形状の触媒金属層を形成するには、所定形状以外の部分を被覆するシャドウマスクを用いて触媒金属を蒸着又はスパッタしてもよい。
【0018】
工程(b)において、炭素源としては、例えば、炭素数1〜6の炭化水素やアルコールなどが挙げられる。また、グラフェンを成長させる方法としては、例えば、アルコールCVD、熱CVD、プラズマCVD、ガスソースMBEなどが挙げられる。
【0019】
アルコールCVDは、例えば、成長温度を400−850℃とし、炭素源としてメタノールやエタノールなどのアルコールの飽和蒸気を供給する。アルコール飽和蒸気は、バブラにキャリアガスを流すことにより発生させてもよい。キャリアガスとしては、アルゴン、水素、窒素などを利用することができる。圧力は大気圧であってもよいし、減圧下であってもよい。
【0020】
熱CVDは、例えば、成長温度を800−1000℃とし、炭素源としてメタン、エチレン、アセチレン、ベンゼンなどを供給する。炭素源はアルゴンや水素などをキャリアガスとして供給し、炭素源の分圧は例えば0.002−5Pa程度とする。成長時間は例えば1−20分、圧力は加圧下(例えば1kPa)であってもよいし減圧下であってもよい。炭素源を分解するためにホットフィラメントを使用することが多い。
【0021】
プラズマCVDは、例えば、成長温度を950℃、圧力を1−1.1Pa、炭素源をメタン、メタン流量を5sccm、キャリアガスを水素、水素流量を20sccmとし、プラズマパワーを100W程度とする。
【0022】
ガスソースMBEは、例えば、炭素源としてエタノールを用い、エタノールで飽和した窒素ないしは水素ガスの流量を0.3−2sccmとし、真空中で炭素源分解のため2000℃に加熱したWフィラメントを使用する。基板温度は400−600℃程度である。
【0023】
工程(c)において、触媒金属層を溶かすには、例えば酸性溶液を用いる。どのような酸性溶液を用いるかは触媒金属層の金属種による。例えば、触媒金属層の材質がNiの場合には希硝酸を使用する。あるいは、触媒金属層からグラフェン素材を引き剥がすには、例えば触媒金属層の外周部分だけを酸性溶液でエッチングしてえぐり取り、エッチングされた箇所からグラフェン素材をめくるようにして機械的に引き剥がしてもよい。
【0024】
本発明のグラフェン素材は、一筆書きが可能な形状(例えばジグザグ状又は渦巻き状)の自立したグラフェン素材である。こうしたグラフェン素材は、上述したグラフェン素材の製造方法によって容易に得ることができる。なお、「自立した」とは、テープなどの支持体などを有さず独立しているという意味である。
【0025】
本明細書では、上述したグラフェン素材の製造方法及びグラフェン素材のほかに、以下の別発明1〜別発明7も併せて開示する。
【0026】
[別発明1]
基板本体上に少なくとも2つのグラフェンシート部が形成されたグラフェン形成基板であって、前記2つのグラフェンシート部は、グラフェンの結晶方位が異なる、グラフェン形成基板。
【0027】
別発明1によれば、電気伝導性の異なる2つのグラフェンシート部を備えたグラフェン形成基板を提供することができる。グラフェンの電気伝導性は六角格子の向きによって変化するため、グラフェンの結晶方位が異なる2つのグラフェンシート部は電気伝導性が互いに異なるものとなる。
【0028】
別発明1のグラフェン形成基板において、前記グラフェンシート部と前記基板本体との間には触媒金属層が介在し、前記2つのグラフェンシート部のうち一方に対応する触媒金属層と他方に対応する触媒金属層とは結晶方位が異なるようにしてもよい。このような基板本体を用いれば、一回の成長で上記の2つのグラフェンシート部を形成することが可能となり、作製プロセスの効率化、作製コストの削減に大きなメリットがある。
【0029】
[別発明2]
基板本体上にグラフェンシート部が形成されたグラフェン形成基板であって、前記グラフェンシート部は、表面が前記基板本体の表面と面一となるように露出した状態で前記基板本体に埋め込まれている、グラフェン形成基板。
【0030】
別発明2によれば、凹凸のない滑らかな表面を持ちながら、埋め込まれたグラフェンシート部を電気配線として利用することができる。また、グラフェンシート部を電気配線として利用しない場合であっても、グラフェンシート部によって基板本体の機械的強度が高くなる。
【0031】
別発明2のグラフェン形成基板において、前記基板本体は少なくとも表面がSiCであり、前記グラフェンシート部はSiCからSiを昇華させて形成したものとしてもよい。
【0032】
[別発明3]
基板本体上にグラフェンシート部が形成されたグラフェン形成基板であって、前記基板本体は、表面に原子ステップを有するSiC製のものであり、前記グラフェンシート部は、前記原子ステップの上段から下段にわたって形成されると共に、前記上段と前記下段との段差部分にSiCからなる変質部を有している、グラフェン形成基板。
【0033】
別発明3のグラフェン形成基板によれば、グラフェンシート部は原子レベルの線幅を持つ変質部によって仕切られているため、ナノオーダーの非常に狭い幅の帯状のグラフェンシート構造が提供される。なお、SiC表面に制御性良く、ステップ構造を作製することは、従来の研究で可能になっているため、その技術を利用すれば、このグラフェン形成基板を製造することができる。また、このグラフェン形成基板を用いれば、変質部によって仕切られた隣り合うグラフェンシート間でのキャリアのトンネル効果を精密に制御することが可能となる。このため、このグラフェン形成基板の構造はトンネル効果を利用した素子を作製する場合に適した構造となり、新たな原理により動作する素子を提供するための重要な手段となる。
【0034】
[別発明4]
基板本体上にグラフェンシート部が形成されたグラフェン形成基板であって、前記基板本体は、表面にミクロンオーダー又はサブミクロンオーダーの凸部を備え、前記グラフェンシート部は、前記基板本体の表面のうち前記凸部のない平坦部から前記凸部の片側の側面を経て前記凸部の頂面に至るように形成されているが、前記凸部のうち前記片側の側面以外の側面には形成されていない、グラフェン形成基板。
【0035】
別発明4のグラフェン形成基板によれば、凸部の側面にはグラフェンシート部が形成されておらず基板本体が露出した面つまり露出面が存在するため、この露出面を利用して種々の応用が可能となる。
【0036】
[別発明5]
基板本体上に少なくとも2つのグラフェンシート部が形成されたグラフェン形成基板であって、半導体部品が前記2つのグラフェンシート部を跨ぐように設けられている、グラフェン形成基板。
【0037】
別発明5のグラフェン形成基板によれば、半導体部品と基板本体との間に熱膨張係数差による熱膨張差が生じたとしても、グラフェンシート部は平面に沿った方向に滑ることができるため、その熱膨張差を吸収することができる。
【0038】
[別発明6]
基板本体上にグラフェンシート部が形成されたグラフェン形成基板を製造する方法であって、
(a)グラフェン化を促進する機能を有する所定形状の触媒金属層を基板本体上に形成する工程と、
(b)前記触媒金属層と前記基板本体との界面にグラフェンを成長させてグラフェンシート部とする工程と、
(c)前記触媒金属層を除去する工程と、
を含むグラフェン形成基板の製造方法。
【0039】
別発明6のグラフェン形成基板の製造方法によれば、触媒金属層のないグラフェン形成基板を容易に得ることができる。
【0040】
[別発明7]
基板本体上にグラフェンシート部が形成されたグラフェン形成基板を製造する方法であって、
(a)グラフェン化を促進する機能を持ち上方からみた形状が二股部分を有する形状の触媒金属層を基板本体上に形成する工程と、
(b)前記触媒金属層の表面及び前記触媒金属層のうち前記二股部分の間にグラフェンを成長させてグラフェンシート部とする工程と、
(c)前記触媒金属層のうち前記二股部分の分岐点を含む基部と該基部の上に形成されたグラフェンシート部とを除去する工程と、
を含むグラフェン形成基板の製造方法。
【0041】
別発明7のグラフェン形成基板の製造方法によれば、2分された触媒金属層をグラフェンシート部で架橋した構造のグラフェン形成基板を容易に製造することができる。
【0042】
[別発明8]
基板本体上にグラフェンシート部が形成されたグラフェン形成基板を製造する方法であって、
(a)パターニングされた炭化珪素膜を前記基板本体上に形成する工程と、
(b)前記パターニングされた炭化珪素膜をアニールすることによりグラフェンに変化させる工程と、
を含むグラフェン形成基板の製造方法。
【0043】
別発明8のグラフェン形成基板の製造方法によれば、グラフェン形成基板を比較的容易に得ることができる。すなわち、炭化珪素膜を基板本体上に形成したあと、その炭化珪素膜をアニールすることによりグラフェンに変化させ、該グラフェンをパターニングすることによりグラフェン形成基板を製造することも考えられるが、その場合には、グラフェンのパターニングを行う必要がある。グラフェンのパターニングは容易に進行しないことが知られており、厳しい条件が要求されるため基板本体などに悪影響が及ぶおそれがある。これに対して、別発明8では、こうしたグラフェンのパターニングを行う必要がないため、比較的容易にグラフェン形成基板を得ることができる。こうして得られたグラフェン基板は、回路基板として利用することもできるし、グラフェンを基板本体から剥がしてグラフェン線材として利用することもできる。
【0044】
別発明8において、工程(a)では、まず、炭化珪素膜を基板本体上の全面に形成し、次に、その炭化珪素膜をパターニングしてもよいし、あるいは、まず、最終的に得られるグラフェンのパターンと逆のパターン(ネガパターン)になるようにマスクを基板本体上に形成し、次に、その基板本体上に炭化珪素膜を形成し、その後、マスクを該マスクの上に形成された炭化珪素膜と共に除去することによりパターニングされた炭化珪素膜を得るようにしてもよい。後者では、マスクの厚みは、その後形成される炭化珪素被膜の厚みよりも厚くするのが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0045】
図1】グラフェン素材10を製造する手順を表す説明図(斜視図)である。
図2】渦巻き状の触媒金属層26が形成された基板本体12の平面図である。
図3】別の実施形態の一例を示す触媒金属層116の平面図である。
図4】グラフェンの結晶構造の説明図である。
図5】別の実施形態の一例を示す触媒金属層216の平面図である。
図6】ノマルスキー干渉顕微鏡でNi触媒表面を観察した像を表す写真である。
図7】Ni触媒の断面図である。
図8】グレインの顕微鏡写真を模式化した模式図である。
図9】グラフェン形成基板30の説明図である。
図10】グラフェン形成基板40の製造工程を表す説明図(断面図)である。
図11】グラフェン形成基板50の製造工程を表す説明図(断面図)である。
図12】グラフェン形成基板60の製造工程を表す説明図(断面図)である。
図13】グラフェン形成基板70の製造工程を表す説明図(断面図)である。
図14】グラフェン形成基板80の製造工程を表す説明図(断面図)である。
図15】グラフェン形成基板90の製造工程を表す説明図(斜視図)である。
図16】グラフェン形成基板100の製造工程を表す説明図(断面図)である。
図17】グラフェン形成基板100の製造工程を表す説明図(断面図)である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0046】
以下には、実施形態として、ジグザグ状の自立したグラフェン素材10を製造する場合を例に挙げて説明する。図1は、グラフェン素材10を製造する手順を表す説明図(斜視図)である。
【0047】
まず、四角形状のc面サファイアからなる基板本体12を用意し、その基板本体12の全面にNiを成膜して結晶層14とする(図1(a)参照)。この時、結晶層14はサファイア基板の結晶性を利用し、出来るだけ大きな単一結晶のグレインになるよう作製すると良い。続いて、リソグラフィ法により結晶層14を一筆書きが可能な形状、ここではジグザグ状にパターニングし、結晶層14を触媒金属層16とする(図1(b)参照)。具体的には、触媒金属層16は、一端から直線部分16aを経て屈曲部分16bにて折り返され、直線部分16cを経て屈曲部分16dにて折り返され、直線部分16eを経て屈曲部分16fにて折り返され、直線部分16gを経て屈曲部分16hにて折り返され、直線部分16iを経て屈曲部分16jにて折り返され、直線部分16kを経て他端に至るように形成されている。直線部分16aと直線部分16cとの間、直線部分16cと直線部分16eとの間、直線部分16eと直線部分16gとの間、直線部分16gと直線部分16iとの間、直線部分16iと直線部分16kとの間は、空隙となっており、触媒金属層16が存在していない。
【0048】
次に、触媒金属層16のNiに対して、温度600℃、圧力1kPaにてアセチレンとアルゴンとの混合ガスによりC原子を供給する。すると、Ni表面は(111)面に再配列される。Ni(111)面には、Ni原子を頂点とした三角格子が構成される。そして、供給されたC原子は、Ni原子から構成されるそれぞれの三角形の重心の真上に配置されることで、C原子を頂点とした六角形が形成され、この六角形が互いに結合していくことでグラフェンが成長していく(図1(c)参照)。グラフェンは触媒金属層16上に形成されるため、触媒金属層16と同じ形状つまりジグザグ状となる。なお、グラフェンが成長しすぎると、横方向に延びてジグザグを形成する溝を塞いでしまうため、そうなる前に成長を止める。
【0049】
次に、ジグザグ状のグラフェンの両末端に四角形の電極18,20を取り付ける(図1(d)参照)。その後、触媒金属層16を酸性溶液で溶かす。ここでは、触媒金属層16はNiであるため、希硝酸を用いる。そして、触媒金属層16が溶けたあと、グラフェンをグラフェン素材10として取り出す(図1(e)参照)。
【0050】
このようにして得られたグラフェン素材10は、ジグザグ状の自立した素材であるが、両末端の電極18,20を把持して伸ばすことにより線材にすることができる(図1(f)参照)。こうした線材は細くて大きな電流を流せる電気配線として利用可能である。また、グラフェンシートの特長を生かし、このように作製した電気配線の途中に、トランジスタ構造を作製し、電流の流れを制御することも可能である。
【0051】
以上説明した本実施形態のグラフェン素材10の製造方法によれば、グラフェン素材10の形状は触媒金属層16の形状をそのまま受け継ぐことになるため、触媒金属層16を所望形状にパターニングしさえすれば、その所望形状のグラフェン素材10を得ることができる。また、触媒金属層16は、一筆書きが可能なジグザグ状であるため、基板本体12の面積が小さい場合であっても、得られるグラフェン素材10の長さを長くすることができる。更に、触媒金属層16のうち、直線部分16aは触媒金属層16の無い部分を介して直線部分16cと隣り合わせとなっており、直線部分16cは触媒金属層16の無い部分を介して直線部分16eと隣り合わせとなっており、直線部分16eは触媒金属層16の無い部分を介して直線部分16gと隣り合わせとなっており、直線部分16gは触媒金属層16の無い部分を介して直線部分16iと隣り合わせとなっており、直線部分16iは触媒金属層16の無い部分を介して直線部分16kと隣り合わせとなっている。このため、触媒金属層16上にグラフェンを成長させる際、触媒金属層16各直線部分16a,16c,16e,16g,16i,16kの成長条件が同じとなる可能性が高い。こうして得られたグラフェン素材10の両端を把持して伸ばして線材等の長尺ものを作製する場合、長手方向のどの部分でも同じ条件でグラフェンが成長するため、長手方向に均質なグラフェン素材10を得ることができる。
【0052】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。基板本体は、線状、円筒状でも良く、このような形状の基板を用いることにより、より長い配線構造を容易に作製することが可能となる。
【0053】
例えば、上述した実施形態では、ジグザグ状の触媒金属層16を基板本体12上に形成したが、図2(平面図)に示すように渦巻き状の触媒金属層26を基板本体12上に形成してもよい。この場合も上述した実施形態と同様にして触媒金属層26上にグラフェンを成長させたあと、グラフェンの両末端に電極を取り付け、その後触媒金属層26を溶かせば、グラフェンを渦巻き状のグラフェン素材として取り出すことができる。また、渦巻き状のグラフェン素材の両末端を把持して伸ばせば線材にすることができる。あるいは、ジグザグ状や渦巻き状以外でも、一筆書き形状であれば上述した実施形態と同様にしてその形状のグラフェン素材を取り出すことができる。あるいは、一筆書き形状以外の形状、例えば三角形や四角形などの多角形、円形、楕円形、星形など任意の形状を採用してもよい。この場合には、任意の形状のグラフェン素材を取り出すことができる。
【0054】
上述した実施形態では、熱CVDによりグラフェンを成長させたが、熱CVD以外の方法、例えばアルコールCVD、プラズマCVD、ガスソースMBEなどによりグラフェンを成長させてもよい。
【0055】
上述した実施形態では、触媒金属層16の材質としてNiを採用したが、グラフェンの成長を促進する機能を有する金属であればどのような材質を採用してもよい。Ni以外には、例えばCu,Co,Ru,Fe,Pt,Auなどが挙げられる。
【0056】
上述した実施形態では、触媒金属層16からグラフェン素材10を取り出すにあたり、触媒金属層16をすべて溶かしたが、例えば電極18,20を作製した触媒金属層16の端部付近だけを酸性溶液でエッチングしてえぐり取り、エッチングされた箇所からグラフェンをめくるようにして機械的に引き剥がすことでグラフェン素材10を取り出してもよい。グラフェンは六角形状の炭素が2次的に結合してなる平面構造が積層したものであるため、グラフェンのうち1,2層程度は触媒金属層16上に残るものの、残りはきれいに剥がれる。なお、グラフェンのうち触媒金属層16上に残ったものは、触媒金属層16を再利用する場合、グラフェン成長のシード的な役割を果たすことも可能である。
【0057】
上述した実施形態では、基板本体12が板状の場合について説明したが、基板本体が円筒状であってもよい。その場合には、例えば基板本体にリボンを巻き付けるような感じで螺旋状に触媒金属層のパターニングを行い、その触媒金属層の表面にグラフェンを成長させることで、非常に長く滑らかな線状のグラフェン素材を簡単に得ることができる。このとき、基板本体は、中空(中が空)であってもよいし、中実(中が詰まっている)であってもよい。円筒状で中空の基板本体にグラフェンを成長させる場合には、基板本体の外面及び内面のいずれか一方に触媒金属層をパターニングし、その触媒金属層の表面にグラフェンを成長させてもよいし、あるいは、基板本体の外面及び内面の両方に触媒金属層をパターニングし、両触媒金属層の表面にグラフェンを成長させてもよい。また、円筒状の基板本体に触媒金属層を形成する方法としては、通常のフォトリソグラフィーに準じた手法を基板本体を回転させながら適用してもよいし、ナノインプリントの技術を用いて機械的にリソグラフィーパターンを転写してもよいし、細いけがき針を使用して機械的にパターニングしてもよい。触媒金属を成膜する方法は、蒸着を採用してもよいし、その金属を含む液状の原料を吹き付ける、もしくはその液中に基板を浸し、その後、熱処理を行い触媒金属の薄膜を形成する方法を採用してもよい。触媒金属層の表面にグラフェンを成長させるには、触媒金属層の表面に炭素源を供給するが、基板本体が円筒状で中空の場合には、基板本体を真空チャンバーと見立ててその中に炭素源となる原料ガスを流してグラフェンを成長させることができるため、真空チャンバーを用意する必要がなくなり、装置構成の大幅な簡略化、ひいては生産性の向上や生産コストの削減など多くの優れた効果を期待できる。
【0058】
円筒形状の基板本体を用いた場合、基板本体から他の支持材に転写することにより、また、基板本体から引きはがすことなくそのままの形状で使用することにより、優れたコイル特性が示される。一般的に、コイルから発生する磁界の大きさは、電磁気学が示すようにコイルの巻き数と流す電流の積で決まる。グラフェンシートを用いた場合は、通常の銅線を用いた場合より細い線形状が作製しやすく、なおかつより大きな電流を流すこともできるので、本発明によるコイルはより小さな形状で、より大きな磁界を発生することができる。すなわち、大きなコンダクタンスを示すことができる。例えば、20マイクロメータ幅のグラフェンシートを、隣同士のグラフェンシートの間隔5マイクロメータで、すなわち、周期25マイクロメータで作製しコイルを形成すれば、1cmの長さでコイルを400回巻くことができる。このように、本発明によれば、極めて簡便な作製方法により、すなわち、コイルを巻くことなしに、従来より大幅に小型化した高性能なコイルの生産が可能である。グラフェンシートに流せる電流も通常の銅線より大きいため、上記コイルから発生する磁力は、より大きくできる。このコイルは、単にインダクタンスとして使用するばかりでなく、二つのコイルを鉄心などによりカップリングし組み合わすことによりトランスとして、また、モーター等に使用する電磁石として使用できることはいうまでもない。さらに、コイル形状は円筒状ばかりでなく、モーター等の鉄心形状にあわせ楕円筒状、四角筒状などと必要によって基板形状を変化させれば、成長したそのままの形で機器にアセンブルすることもできる。トランスを作製する場合は、サイズを変えた基板本体を用い、鉄心の周りに同心的にこのコイルを重ねることで良い。また、円筒状の基板本体の外側、内側に形成したコイルに鉄心を装備し利用する。もしくは、鉄心を入れたグラフェンシートコイルを部分に分割し、それぞれを独立した巻き線として利用することで、トランスを構成することができる。以上のように、本発明によれば、各種磁性機器の性能向上、小型化、生産性向上が実現できる。
【0059】
一方、線状形状の基板本体として、銅などの金属線を用いた場合は、グラフェンシートの成長後、基板本体から分離せずにそのままの形状で使用することも可能である。この場合は、中心の金属部も伝導性に寄与し、周囲のグラフェンシートも同時に導電性に寄与するため、従来の金属線よりも優れた導電率ならびに耐電流特性が示される。本構造は配線材料に用いることができるほか、コイル形状に巻くことにより、モーター、トランス等の機器に応用することが可能である。以上のように、金属導体をグラフェンシートと融合した構造も、本発明によれば簡便に作製することができる。
【0060】
上述した実施形態では、触媒金属層16の屈曲している部分の角度を直角としたが、その角度を鈍角(例えば110〜130°)としてもよい。図3は、別の実施形態の一例を示す触媒金属層116の平面図であり、直線部分116aから屈曲部分116bを経て直線部分116cに至るようになっている。屈曲部分116bは、直線部分116aから鈍角(約120°)で屈曲したあと、屈曲部分116bの略中央で鈍角(約120°)で屈曲し、更に直線部分116cに繋がる手前で鈍角(約120°)で屈曲している。グラフェン中のキャリアの伝導特性は、図4に示すように、6回対称を持つグラフェンの結晶構造を反映しており、キャリアの有効質量がゼロとなる方向Dがグラフェンの六角形の辺Sと直交する。図3の直線部分116a、屈曲部分116b及び直線部分116cの上にグラフェンを形成した場合、いずれの部分においてもキャリアの進行方向dがキャリアの有効質量がゼロとなる方向Dと一致しているため、図1のように直角に屈曲している場合に比べて、キャリアの伝導特性が良好になる。以上の説明では、グラフェンの六角格子の方向は図4と同じ方向であると仮定した。
【0061】
図5は、更に別の実施形態の一例を示す触媒金属層216の平面図であり、直線部分216aから屈曲部分216bを経て直線部分216cに至るようになっている。屈曲部分216bの外縁は、直線部分216aから鈍角で屈曲したあと、更に2箇所において鈍角で屈曲し、更に直線部分216cに繋がる手前で鈍角で屈曲している。図5の直線部分216a、屈曲部分216b及び直線部分216cの上にグラフェンを形成した場合、直線部分216a上のグラフェンを伝導してきたキャリアが、その隣の直線部分216c上のグラフェンへ輸送される確率が向上する。このため、キャリアの伝導特性が改善される。これは、図5に点線矢印で示すように、グラフェンの縁でキャリアが反射し、キャリアのある伝導特性のよい方向から他の伝導特性のよい方向へ、キャリアを伝達することができる。グラフェンの縁でキャリアが反射する際には、入射角θと反射角θとが等しくなる。また、伝導特性のよい方向とは、図4の方向Dのいずれかのことをいう。このように、反射の原理を用いれば、効率よくグラフェン中のキャリアの伝導方向を変化させ、キャリアをUターンさせることができる。以上の説明では、グラフェンの六角格子の方向は図4と同じ方向であると仮定した。
【0062】
[実施例]
実施例として、触媒金属層を具体的に形成した例を説明する。まず、電子ビーム蒸着法を用い、厚さ260nmのNi触媒をサファイア基板上に蒸着した。その上に、レジストを塗布し、フォトリソグラフィーによりレジストをパターニングした。その後、希硝酸を用いて8分間エッチングし、Ni触媒パターンを形成した。得られたNi触媒パターンは、図1に示した触媒金属層16と同じ形状である。作製したNi触媒パターンを、水素雰囲気下において1000℃で20分アニールした後、1分間に1℃のレートで750℃まで降温し、1時間その温度で保持した後、室温まで急冷し炉から取り出した。
【0063】
ノマルスキー干渉顕微鏡でNi触媒表面を観察した像を図6に示す。また、Ni触媒の断面を図7に示す。図6の色の白い部分がアニール処理をおこなったNi触媒のストライプである。Ni触媒の両縁に2ミクロンくらい土手のように盛り上がった構造(土手構造)が形成されたことがわかる。これは、アニール処理時に、Ni触媒金属が縁の部分において凝集したことによる。
【0064】
この土手構造上に形成されるグラフェンは、図7に示すように、Ni触媒の盛り上がりを反映した曲率を持つ。また、この部分ではNi触媒が厚いので、グラフェンの成長時により多くの炭素が溶け込み、より厚いグラフェンが成長する。こうしたことから、この部分のキャリアのポテンシャルは、Ni触媒ストライプ中央部の平坦な部分と異なる。よって、このポテンシャルの影響により、グラフェンストライプを流れる電流は、主にストライプの中央部を流れる。このことは、グラフェンの電気伝導特性を改善する効果がある。なぜなら、グラフェンストライプの縁(側部)の伝導特性は必ずしも良くないからである。グラフェンストライプの縁には、グラフェンが終端した部分があり、この部分では、結合が切れ、ダングリングボンドが発生する。その結果、結晶の周期構造が乱れ、グラフェンの伝導特性が劣化する。また、土手部分では、Ni触媒の平坦性が悪く、成長するグラフェン層中に欠陥が生成し、結晶性が悪く、深い準位や再結合中心が存在する。これらも伝導特性を劣化させる要因となる。よって、上述したように、電気伝導がグラフェンストライプの中央部に集中する本実施例においては、伝導特性が改善する効果が得られる。
【0065】
得られたNi触媒パターンについて、顕微鏡写真を撮影し、グレイン構造を観察した。図8は、そのときの顕微鏡写真を模式化した模式図である。写真を観察したところ、Ni触媒のストライプ316の一方の縁316aからもう一方の縁316bまで広がったグレイン320が多く見られた。部分的には、両縁316a,316bからそれぞれ発生したグレインが中央で出会っている箇所322も見られた。しかし、Ni触媒のストライプ316の中央で発生したグレインはほとんど見られなかった。このことから、グレインはストライプ316の縁316a,316bから発生する確率が高いことがわかった。従って、ストライプ316の方向に沿って、それぞれのグレインの結晶方位が揃いやすい。図8に示した部分拡大図では、Ni触媒のストライプ316の一方の縁316aから成長したグラフェンを模式的に示した。部分拡大図において、実線で示した三角格子の頂点にはNi原子が存在しており、この三角格子の中央にグラフェンの炭素原子が存在している。このため、グラフェンは点線で示した六角格子として現れる。この部分拡大図では、Niの三角格子の結晶方位はストライプ316の縁316aに沿って揃っているため、その上に成長するグラフェンの六角格子の結晶方位も揃っている。
【0066】
大きなグレインの生成メカニズムとしては、ストライプの両縁からそれぞれ発生したあと、両者がアニール中に結合し、単一ドメイン化したというメカニズムが考えられる。この現象は、ある意味でオストワルドライプニングと同じメカニズムと考えられ、優勢なグレインが劣勢なグレインをくって大きくなったと考えられる。なお、ストライプの両縁からそれぞれ発生したグレインの結晶方位が揃っているので、問題なく結合して拡大したグレインが形成される。
【0067】
[別発明1の具体的形態]
図9は、グラフェン形成基板30の説明図である。グラフェン形成基板30は、基板本体32上に第1触媒金属層33と第2触媒金属層34とが形成され、第1触媒金属層33の上には第1グラフェンシート部35が形成され、第2触媒金属層34の上には第2グラフェンシート部36が形成されている。ここで、両触媒金属層33,34は、いずれもNi製であるが、図9の拡大図に示すように、両者は三角格子(頂点にNi原子が存在している)の配列が異なっている。また、第1触媒金属層33の上に成長したグラフェンの六角格子(頂点にC原子が存在している)の配列は、第1触媒金属層33の三角格子の配列に依存して決定され、第2触媒金属層34の上に成長したグラフェンの六角格子の配列は、第2触媒金属層34の三角格子の配列に依存して決定される。このため、第1グラフェンシート部35の結晶方位と第2グラフェンシート部36の結晶方位とは異なるものとなっている。なお、第1及び第2触媒金属層33,34の形成方法やグラフェン成長方法については、上述した実施形態と同様の方法を採用すればよい。
【0068】
この具体的形態によれば、一回の成長にて、同時に、結晶方位の異なるグラフェンシートを作製することが可能になり、その有用性は極めて高い。また、この具体的形態において、三角格子の配列の向きを制御するためには、触媒金属を形成する結晶基板の結晶方位をあらかじめ制御する方法もある。例えば、基板として、GaAs(111)B面を用い、基板表面上に部分的に回転双晶を生成させ、基板と回転双晶との結晶方位の違いを利用し、その上に形成する触媒金属の結晶方位を制御する方法や、GaN結晶基板にAlの位相反転層を部分的に形成することにより、逆位相領域を制御して形成する方法がある。このとき、基板と逆位相領域間での結晶方位の違いを、触媒の結晶方位を制御するために利用することが可能である。
【0069】
以上説明したグラフェン形成基板30によれば、グラフェンの電気伝導性は六角格子の向きによって変化するため、グラフェンの結晶方位が異なる第1及び第2グラフェンシート部35,36は電気伝導性が互いに異なるものとなる。
【0070】
[別発明2の具体的形態]
図10は、グラフェン形成基板40の製造工程を表す説明図(断面図)である。グラフェン形成基板40は、図10(c)に示すように、基板本体42上にグラフェンシート部44が形成されている。グラフェンシート部44は、その表面が基板本体42の表面と面一となるように露出した状態で基板本体42に埋め込まれている。
【0071】
こうしたグラフェン形成基板40は、例えば次のようにして製造される。まず、基板本体42としてSiC基板を用意する。次に、基板本体42のパターニングを行う。パターニングは、例えば、CF4ガスを用いた反応性イオンエッチング(RIE)により実施する。ここでは、2つの凸部42a,42bが形成されるようにパターニングを実施する(図10(a)参照)。次に、SiC表面のグラフェン化を行い、SiC表面の全面を覆うようにグラフェンを成長させる(図10(b)参照)。グラフェン化は、例えば、1×10-3Torrのジシラン中で1300℃で処理する方法や900mbarのアルゴン中又は真空中で1500℃で処理する方法、2Paの窒素中で1500℃で処理する方法などにより実施する。SiC表面をこのような高温でアニールすると、SiC表面からSi原子が昇華するためグラフェンが形成される。最後に、表面の研磨を行うことによりグラフェン形成基板40を得る。研磨は、図10(b)の一点鎖線を含む面(凸部42aと凸部42bとの間に形成されたグラフェンの表面と同一面かそれより僅かに低い面)まで実施する。
【0072】
以上説明したグラフェン形成基板40によれば、凹凸のない滑らかな表面を持ちながら、その表面に埋め込まれたグラフェンシート部44を電気配線として利用することができる。また、グラフェンシート部44を電気配線として利用しない場合であっても、グラフェンシート部44によって基板本体42の機械的強度が高くなる。
【0073】
なお、基板本体42としてSiC基板を用いる代わりに、Si基板の表面にSiC薄膜をCVDにより形成したものを用いてもよい。その場合のSiCのCVD条件は、例えば、H2流量8.0L/min,C38流量1.33sccm,SiH4流量0.8sccm,圧力10Torr,基板温度1150℃としてもよい。この条件であれば、3C−SiCが成長する。また、ガスソースMBEでも、Si基板の表面にSiC薄膜を形成することができる。その場合の条件は、モノメチルシラン圧力10-5−10-3Torr、温度1000−1200℃である。
【0074】
[別発明3の具体的形態]
図11は、グラフェン形成基板50の製造工程を表す説明図(断面図)である。グラフェン形成基板50は、図11(c)に示すように、基板本体52上にグラフェンシート部54が形成されている。基板本体52は、表面に原子ステップ52a,52bを有するSiC製のものである。また、グラフェンシート部54は、各原子ステップ52a,52bの上段から下段にわたって形成されると共に、各原子ステップ52a,52bの段差部分にSiCからなる変質部54a,54bを有している。
【0075】
こうしたグラフェン形成基板50は、例えば次のようにして製造される。まず、SiC基板を還元ガス(例えば水素ガス)雰囲気中に置き、1350℃で数分間加熱することで、表面に原子ステップ52a,52bが形成された基板本体52を得る(図11(a)参照)。この点は、特開2009−62247号公報の段落0009を参照されたい。次に、基板本体52のSiC表面のグラフェン化を行い、SiC表面の全面を覆うようにグラフェンを成長させる(図11(b)参照)。グラフェン化は、例えば、1×10-3Torrのジシラン中で1300℃で処理する方法や900mbarのアルゴン中で1500℃で処理する方法、2Paの窒素中で1500℃で処理する方法などにより実施する。SiC表面をこのような高温でアニールすると、SiC表面からSi原子が昇華するためグラフェンが形成される。最後に、原子ステップ52a,52bの段差部分のグラフェンをSiCに変化させる。具体的には、グラフェン化後の基板本体52をSi固体と共に10-8Torr、700−1200℃で処理することにより、選択的にグラフェンの段差部分がSiCに変化する。あるいは、H2流量8.9L/min、SiH4流量0.1sccm、圧力10Torr、基板温度800−1000℃としてCVD又は加熱処理によりグラフェンの段差部分を選択的にSiCに変化させてもよい。
【0076】
以上説明したグラフェン形成基板50によれば、幅が均一に揃ったステップ間隔を利用することで、その上に形成される1次元グラフェン構造の横幅を非常に精度性良く、簡便に揃えることができる。このため、このグラフェン形成基板50を利用すれば、1次元グラフェンテープの作製が容易になる。また、ステップ方位は基板の結晶方位を反映するため、ひいてはグラフェンシートの結晶方位を良く揃えることが可能である。更に、このグラフェン形成基板50によれば、フォトリソグラフィなどの作製手法を用いることなしに、1次元グラフェンシート構造を簡便に形成することができるため、プロセスの簡略化、低コスト化が可能となる。更にまた、グラフェンシート部54は原子レベルの線幅を持つ変質部によって仕切られているため、ナノオーダーの非常に狭い幅の帯状のグラフェンシート構造が提供される。そしてまた、このグラフェン形成基板50を用いれば、変質部によって仕切られた隣り合うグラフェンシート間でのキャリアのトンネル効果を精密に制御することが可能となる。このため、このグラフェン形成基板50の構造はトンネル効果を利用した素子を作成する場合に適した構造となり、新たな原理により動作する素子をを提供するための重要な手段となる。
【0077】
[別発明4の具体的形態]
図12は、グラフェン形成基板60の製造工程を表す説明図(断面図)である。グラフェン形成基板60は、図12(d)に示すように、基板本体62上に触媒金属層64及びグラフェンシート部66を備えると共に、基板凸部63の露出面(一側面)63cにシリコン層68を備えている。基板本体62は、上述した実施形態と同様の材質、ここではシリコンであり、基板凸部63は基板表面のエッチングによって形成されたミクロンオーダー又はサブミクロンオーダーの凸形状である。触媒金属層64は、Niからなり、凸部63のない平坦部から凸部63の片側の側面63aを経て凸部63の頂面63bに至るように形成されているが凸部63のうち片側の側面63a以外の側面つまり基板本体62が露出している露出面63cには形成されていない。グラフェンシート部66は、触媒金属層64の表面にグラフェンが成長したものであるため、触媒金属層64と同じ形状となっている。シリコン層68は、グラフェンシート部66の平坦部の上に形成され、基板本体62の凸部63の露出面63cに接している。ここで、基板本体62は、基本的にはSi基板であり、凸部63の頂面から約半分の高さまではイオン注入により導電性を持つように処理された導電部63dとなっているものとする。つまり、基板本体62は、導電部63dは導電性を有するが、それ以外は絶縁性である。シリコン層68は、露出面63cのうち導電部63dに接しているが、触媒金属層64及びグラフェンシート部66のうち凸部63のない平坦部に形成されている部分は、露出面63cのうち導電部63dではない部分に接している。
【0078】
こうしたグラフェン形成基板60は、例えば次のようにして製造される。まず、基板の表面にイオン注入を行うことにより導電部63dを形成し、その後化学エッチングすることにより凸部63を形成し、グラフェン成長用の基板本体62となる(図12(a)参照)。次に、図12(a)の右側上方から触媒金属であるTi中間層とNiを連続して供給し真空蒸着することにより基板本体62の表面に触媒金属層64を形成する(図12(b)参照)。この場合、ニッケルは凸部63の右側の側面63a及び頂面63bには蒸着するものの、陰になる凸部63の左側の側面には蒸着しないためこの側面は露出面63cとなる。次に、触媒金属層64の上にグラフェンを成長させる(図12(c)参照)。グラフェンの成長方法は、上述した実施形態と同様であるため、その説明を省略する。最後に、シリコン層68を形成する(図12(d)参照)。この場合、Siは電子ビーム蒸発源より供給する。Siの供給は触媒金属の供給とは逆方向となるように、つまり図12で左側から供給することにより、露出面63cから横方向にシリコン層68が成長する。具体的な条件は、例えば基板温度1000−1400℃、超高真空中で行う。なお、このほかに、SiH4を用いた熱CVD法でも、グラフェン上での選択成長が生じ、このような構造の形成が可能である。
【0079】
以上説明したグラフェン形成基板60によれば、露出面63cを利用して種々の応用が可能となる。例えば、基板本体62の表面に作製されたシリコン層68を用いれば、基板本体62の裏面からではなく、基板本体62の上面側から直接に導電部63dに電気的にアクセスすることが可能となる。このような構造を用いれば、グラフェンシート部66の上面部分に作製した電極と導電部63dの間のグラフェン層部分に上下に、電圧を印加したり、電気を流したりすることが可能となる。このため、集積回路を作製するうえで大きな利点となる。また、シリコン層68を形成する際、基板本体62の露出面63cが結晶成長のシードとなるため、単結晶の結晶成長が促進される。
【0080】
なお、基板本体62としてSi基板を用い、触媒金属層64を形成する代わりにSiC薄膜を触媒金属層64と同形状となるように形成し、その後、SiC薄膜からSi原子を昇華させることによりグラフェン化させてもよい。こうすれば、図12において触媒金属層64のないものを製造することができる。
【0081】
[別発明5の具体的形態]
図13は、グラフェン形成基板70の製造工程を表す説明図(断面図)である。グラフェン形成基板70は、図13(e)に示すように、基板本体71上に第1及び第2グラフェンシート部75,76を備え、その第1及び第2グラフェンシート部75,76を跨ぐように設けられたGaAsからなる半導体部品78を備えている。具体的には、基板本体71上にはGaAsバッファー層72が形成され、そのGaAsバッファー層72の上に第1及び第2触媒金属層73,74が形成され、更に第1及び第2触媒金属層73,74の上にそれぞれ第1及び第2グラフェンシート部75,76が形成されている。
【0082】
こうしたグラフェン形成基板70は、例えば次のようにして製造される。まず、Si(001)基板上に2段階成長によるGaAsバッファー層72を厚さ1−3μmとなるように成長する(図13(a)参照)。次に、鉄層を室温でMBEによりGaAsバッファー層72の上に厚さ10nmとなるように成長する(図13(b)参照)。次に、熱処理によりFeの結晶化を行い、その後フォトリソグラフィ法によりレジストパターンを形成し、酸(例えばヨウ化水素酸)で鉄をエッチングして所定形状の第1及び第2触媒金属層73,74とする(図13(c)参照)。次に、第1及び第2触媒金属層73,74の上にグラフェンを成長させる(図13(d)参照)。グラフェンの成長方法は、上述した実施形態と同様であるため、その説明を省略する。最後に、GaAsの横方向成長を行うことによりGaAsからなる半導体部品78を第1及び第2触媒金属層73,74を跨ぐように形成する(図13(e)参照)。GaAsの横方向成長は、液相成長であれば、580℃でGa溶液をソース基板であるGaAs基板に用いて2時間飽和させたあと、溶液をソース基板から分離し、2℃過飽和をつけた後、溶液を第1及び第2触媒金属層73,74の間に載置し、横方向成長を開始させる。0.3℃/minでの降温成長を約10時間行い、溶液を切り離すことにより横方向成長を停止させる。その後室温まで下げる。あるいは、低角入射マイクロチャンネルエピタキシー(LAIMCE)によりGaAsの横方向成長を行ってもよい。この場合、成長温度630℃で、基板への低角10°程度で隣り合うグラフェンシートの間に形成したストライプ状の開口に垂直な方向からGa分子線を入射し、同時に基板に対し40°程度の入射角で、また、同様に開口に垂直方向からAs分子線を入射し、超高真空中でのMBE成長を用いた横方向成長を行う。
【0083】
以上説明したグラフェン形成基板70によれば、半導体部品78と基板本体71との間に熱膨張係数差による熱膨張差が生じたとしても、第1及び第2グラフェンシート部75,76は平面に沿った方向に滑ることができるため、その熱膨張差を吸収することができる。
【0084】
[別発明6の具体的形態]
図14は、グラフェン形成基板80の製造工程を表す説明図(断面図)である。グラフェン形成基板80は、図14(d)に示すように、基板本体82上に所定形状のグラフェンシート部86が直に形成されたものである。
【0085】
こうしたグラフェン形成基板80は、例えば次のようにして製造される。まず、基板本体82として、c面サファイア基板又はSiO2が形成されたSi基板を用意し、その基板本体82の表面へ500nmのCo又はFeを室温で蒸着させる(図14(a)参照)。次に、熱処理によりCo又はFeの結晶化を行い、その後フォトリソグラフィ法によりレジストパターンを形成し、エッチング液でエッチングして所定形状の触媒金属層84を形成する(図10(b)参照)。次に、触媒金属層84の上下にグラフェンを成長させてグラフェンシート部86,88を形成する(図14(c)参照)。具体的には、超高真空中で600℃にてアルコール分子線を180分間供給し、その後、1℃/minの降温レートにて基板温度を400℃まで低下させる。その結果、触媒金属層84の表面のみならず裏面つまり基板本体82と触媒金属層84との界面にもグラフェンが成長する。そして、最後に、触媒金属層84を溶かし、上側のグラフェンシートをリフトオフし除去することにより、グラフェン形成基板80を得る(図14(d)参照)。
【0086】
以上説明した製造方法によれば、グラフェンシート部86が触媒金属層を介さず直に基板本体82上に形成されたグラフェン形成基板80を容易に得ることができる。
【0087】
[別発明7の具体的形態]
図15は、グラフェン形成基板90の製造工程を表す説明図(斜視図)である。グラフェン形成基板90は、図15(d)に示すように、基板本体92上に独立して形成された第1及び第2触媒金属層94a,94bと、両触媒金属層94a,94bの表面を覆うと共に両者を架橋するグラフェンシート部96aとを備えている。
【0088】
こうしたグラフェン形成基板90は、例えば次のようにして製造される。まず、基板本体92として、例えばc面サファイア基板を用意し、その基板本体92の表面へNiを蒸着させ、結晶化させる(図15(a)参照)。次に、フォトリソグラフィ法によりレジストパターンを形成し、エッチング液でエッチングして所定形状の触媒金属層94を形成する(図15(b)参照)。ここで、所定形状は、上方からみた形状が二股部分を有する形状、例えばV字状である。次に、触媒金属層94の表面にグラフェンを成長させたあと、更に触媒金属層94の二股部分の間を埋めるようにグラフェンを横方向に成長させる。具体的には、例えば特許文献1の段落0026に記載されているようにグラフェンを横方向に成長させればよい。最後に、触媒金属層94のうち二股部分の分岐点を含む基部(図15(c)で一点鎖線で囲んだ部分)とその基部に形成されたグラフェンシート部96を除去する。具体的には、触媒金属層94とグラフェンシート部96とを備えた基板本体92を、図15(c)の二点鎖線を含む垂直面で切断する。これにより、グラフェン形成基板90が得られる(図15(d)参照)。この手法によれば、従来困難であった、二つの触媒から伸びるグラフェンシートを良好に完全に結合させることが可能となる。
【0089】
以上説明した製造方法によれば、2分された第1及び第2触媒金属層94a,94bをグラフェンシート部96aで架橋した構造のグラフェン形成基板90を容易に製造することができる。なお、図15では二股部分を有する形状としてV字状を例示したが、そのほかにU字状、W字状、X字状、Y字状、Z字状などの中から選択してもよい。また、図15(b)において、V字状の触媒金属層94の表面が基板本体92の表面と面一になるように埋め込めば、グラフェンが横方向に成長するときに基板本体92上を這うように成長するため、触媒金属層94の二股部分の間を埋めるのに有利となる。
【0090】
更に、二股部分の一方と他方とを互いに異なる触媒により形成すれば、従来では難しかった二つの触媒から伸びたグラフェンシートを完全に制御性高く結合させることことが可能となる。また、二股部分の分岐点から両端に向かう途中より先が平行になった形状の二股構造の触媒を使用してグラフェンを成長させたあと、平行部分より先を切り出して用いれば、平行の触媒領域をグラフェンシートで架橋した構造をたやすく作製することができる。すなわち、架橋したグラフェンシートの形状は台形状のものから、長方形もしくは正方形に変えることが可能となる。
【0091】
[別発明8の具体的形態]
図16は、グラフェン形成基板100の製造工程を表す説明図(断面図)である。グラフェン形成基板100は、図16(e)に示すように、基板本体102上に所定パターンのグラフェンシート部108が直に形成されたものである。
【0092】
こうしたグラフェン形成基板100は、例えば次のようにして製造される。まず、基板本体102として、c面サファイア基板を用意し、その基板本体102の表面へSiC薄膜104を成膜する(図16(a)参照)。この成膜は、例えばCVD又はガスソースMBEにより行う。CVDの条件やガスソースMBEの条件は、[別発明2の具体的形態]において述べた通りである。
【0093】
次に、SiC薄膜104の上にレジスト膜を形成し、フォトリソグラフィ法によりレジストパターン106を形成する(図16(b)参照)。レジスト膜としてはTi,Cr,フォトレジスト材(ハードベークレジスト)などが挙げられる。レジスト膜の除去は、レジスト膜がTiの場合にはフッ化水素酸(フッ酸)や塩酸を用いたエッチングを行い、Crの場合には希塩酸や希硫酸を用いたエッチングを行い、ハードベークレジストの場合には酸素を用いたアッシングを行う。なお、ハードベークレジストとは、通常のフォトリソグラフィ用レジストを少し高温(例えば150〜200℃)でベークしたものをいう。
【0094】
次に、SiC薄膜104の露出部分、つまりレジストパターン106で覆われていない部分をエッチングにより除去することにより、パターニングされたSiC薄膜105を得る(図16(c)参照)。具体的には、CF4とO2との混合ガスを用いたRIEエッチングやSF6とO2との混合ガスを用いたECRプラズマエッチングのほか、化学エッチングなどが挙げられる。化学エッチングは、例えば、HF:HNO3(体積比で1:1)を用い、クオーツランプで光照射することにより、SiCのSi面をエッチングする。
【0095】
次に、パターニングされたSiC薄膜105上のレジストパターン106を除去する(図16(d)参照)。レジストパターン106の除去は、前出のレジスト膜の除去と同様にして行う。
【0096】
最後に、パターニングされたSiC薄膜105のグラフェン化を行うことにより、グラフェンシート部108を備えたグラフェン形成基板100が得られる(図16(e)参照)。グラフェン化は、例えば、1×10-3Torrのジシラン中で1300℃で処理する方法や900mbarのアルゴン中又は真空中で1500℃で処理する方法、2Paの窒素中で1500℃で処理する方法などにより実施する。SiC薄膜105をこのような高温でアニールすると、SiC薄膜105の表面からSi原子が昇華するためグラフェンが形成される。なお、基板本体102は、サファイヤ基板として説明したが、Si基板であっても同様の手順によりグラフェン形成基板100を製造可能である。
【0097】
以上説明した製造方法によれば、グラフェン形成基板100を比較的容易に得ることができる。すなわち、基板本体102上のSiC薄膜105をアニールすることによりグラフェンに変化させ、そのグラフェンをパターニングすることによりグラフェン形成基板100を製造することも考えられるが、その場合には、グラフェンのパターニングを行う必要がある。グラフェンのパターニングは容易に進行しないことが知られており、厳しい条件が要求されるため基板本体102などに悪影響が及ぶおそれがある。これに対して、上述した製造方法では、こうしたグラフェンのパターニングを行う必要がないため、比較的容易にグラフェン形成基板100を得ることができる。こうして得られたグラフェン形成基板100は、そのまま回路基板として利用することもできるし、グラフェンシート部108を基板本体102から剥がしてグラフェン線材として利用することもできる。後者において、グラフェンシート部108は層状構造のため、基板本体102からめくるようにして機械的に引き剥がすことができる。
【0098】
グラフェン形成基板100は、図16に示した製造手順以外に、図17に示した製造手順によっても製造することもできる。まず、基板本体102の表面へタングステン薄膜112を蒸着により成膜する(図17(a)参照)。次に、タングステン薄膜112を、最終的に得られるグラフェンシート部108のパターンと逆のパターン(ネガパターン)になるようにする(図17(b)参照)。具体的には、タングステン薄膜112の上にフォトリソグラフィ法によりレジストパターンを形成し、過酸化水素水でエッチングしてネガパターンのタングステンマスク114が残るようにする。なお、このタングステンマスク114の膜厚が後で形成するSiC薄膜の厚みよりも厚くなるように、最初の工程でタングステン薄膜112を蒸着する。次に、基板本体102の上にSiC薄膜105,115をCVD又はガスソースMBEにより形成する(図17(c)参照)。CVDの条件やガスソースMBEの条件は、[別発明2の具体的形態]において述べた通りである。なお、SiC薄膜105は基板本体102に付着したものであり、SiC薄膜115はタングステンマスク114の上面に付着したものである。次に、タングステンマスク114を過酸化水素水で処理することにより、SiC薄膜115と共に除去する(図17(d)参照)。その結果、基板本体102上にはパターニングされたSiC薄膜105が形成される。最後に、パターニングされたSiC薄膜105のグラフェン化を行うことにより、グラフェンシート部108を備えたグラフェン形成基板100が得られる(図17(e)参照)。この工程は、既に述べたとおりである。
【0099】
[その他の具体的形態]
図9のグラフェン形成基板30において、第1触媒金属層33を第1金属種からなるものとし、第2触媒金属層34を第2金属種(第1金属種とは異なる金属)からなるものとし、両者の上にグラフェンを成長させたあと更に横方向に成長させることにより両方からのグラフェンが繋がるようにしてもよい。つまり、図9では第1グラフェンシート部35と第2グラフェンシート部36とが独立して形成されているが、両グラフェンシート部35,36が第1触媒金属層33と第2触媒金属層34との間を架橋するように繋がる。こうすれば、異種の触媒金属層からの異種のグラフェン(例えば層数の異なるグラフェン、結晶方位の異なるグラフェンなど)が結合することになるため、これまでに知られていない電気特性が期待される。こうした構造は、別発明7を用いることで実現できる。
【0100】
また、Si基板の表面にSiC薄膜をCVDにより所定形状にパターン形成したものを基板本体とし、その所定形状ののSiC薄膜のグラフェン化を行うようにしてもよい。なお、SiC薄膜のCVDによる形成方法やSiC薄膜のグラフェン化の条件は既に述べたとおりである。こうすれば、所定形状のグラフェンシート部を有するSi基板を容易に作製することができる。
【0101】
更に、上述した実施形態で使用した基板本体(c面サファイア基板など)の表面に厚さの異なる2つの触媒金属層を形成し、その触媒金属層の上にグラフェンを成長させてもよい。グラフェン層の厚さは、触媒金属層の厚さに依存して決まる。このため、得られるグラフェン形成基板は、表面に厚さの異なるグラフェンシート部を有するものとなる。すなわち、グラフェン成長を1回行うだけでこのような厚さの異なるグラフェンシート部を有するグラフェン形成基板を作製することができる。
【0102】
本出願は、2010年12月21日に出願された日本国特許出願第2010−284762号及び2011年6月7日に出願された国際出願PCT/JP2011/63006を優先権主張の基礎としており、引用によりその内容の全てが本明細書に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明のグラフェン素材は、微細な電気配線などに利用可能である。
図1
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