特許第5688894号(P5688894)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5688894熱電式加熱および冷却デバイスをモニタリングするためのシステムおよび方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5688894
(24)【登録日】2015年2月6日
(45)【発行日】2015年3月25日
(54)【発明の名称】熱電式加熱および冷却デバイスをモニタリングするためのシステムおよび方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 35/28 20060101AFI20150305BHJP
【FI】
   H01L35/28 C
【請求項の数】9
【外国語出願】
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2009-284036(P2009-284036)
(22)【出願日】2009年12月15日
(65)【公開番号】特開2010-147473(P2010-147473A)
(43)【公開日】2010年7月1日
【審査請求日】2012年7月18日
(31)【優先権主張番号】08171856.1
(32)【優先日】2008年12月16日
(33)【優先権主張国】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】591003013
【氏名又は名称】エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
(74)【代理人】
【識別番号】100095832
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 芳徳
(72)【発明者】
【氏名】ダニール ボマー
(72)【発明者】
【氏名】パウル フェデラー
(72)【発明者】
【氏名】ギドー グリューター
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン ヨーブ
(72)【発明者】
【氏名】トーマス シュラウビッツ
【審査官】 小川 将之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−091442(JP,A)
【文献】 特開平07−151764(JP,A)
【文献】 特開2003−332641(JP,A)
【文献】 特開2000−353830(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 35/00−35/34
H01L 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電流(I)および電圧(U)から選択される第1の量を熱電式加熱冷却デバイス(103、203)に印加し、温である第2の量を測定し、第1の試験値を得る工程;
選択された第1の量を、少なくとも別の熱電式加熱冷却デバイス(104、204)に印加し、第2の量を測定して第2の試験値を得る工程;
前記第1の試験値と第2の試験値の比較に基づいてモニタリング値を決定する工程;ならびに
前記モニタリング値を、前記モニタリング値に対する少なくとも1つの所定の閾値と比較し、熱電式加熱冷却デバイス(103、203)の故障の可能性を示すモニタリング結果を得る工程
を含む、一連の温度偏位によって臨床試料由来の液体反応混合物をサイクルさせるためのシステム(100、200)の熱電式加熱冷却デバイス(103、203)をモニタリングするための方法。
【請求項2】
前記モニタリング値の絶対値が前記所定の閾値と比較されて、前記モニタリング結果が得られる、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記モニタリング値の有符号値が前記所定の閾値と比較されて、前記モニタリング結果が得られる、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記モニタリング結果が、前記モニタリング結果に従って光学的および/または音響的シグナルを送るためのシグナル送信デバイス(101、201、301)に対する出力である、請求項1〜いずれか記載の方法。
【請求項5】
前記モニタリング結果が定期的に測定される、請求項1〜いずれか記載の方法。
【請求項6】
前記モニタリング結果が、一連の温度偏位によって液体反応混合物をサイクルさせるためのシステムのスイッチがオンになるたびに測定される、請求項1〜いずれか記載の方法。
【請求項7】
以下の工程:
選択された第1の量を、複数の第2の熱電式加熱冷却デバイスに印加し、第2の量を測定して複数の第2の試験値を得る工程;および
前記第1の試験値と前記複数の第2の試験値の比較に基づいてモニタリング値を決定する工程
を含む、請求項1〜6いずれか記載の方法。
【請求項8】
臨床試料由来の液体反応混合物をサイクルさせるための、少なくとも2つの熱電式加熱冷却デバイス(103、104;203、204);
前記熱電式加熱冷却デバイスに接続され、前記熱電式加熱冷却デバイスに電流(I)および電圧(U)から選択される第1の量を供給するように適合された、電源(105、205);
前記熱電式加熱冷却デバイスに接続され、前記第1の量が前記熱電式加熱冷却デバイスに印加されたとき、温である第2の量を測定するように適合された、少なくとも1つの測定デバイス(107、207);ならびに
制御器(106、206)、ここで、該制御器は、
電流(I)および電圧(U)から選択される第1の量を第1の熱電式加熱冷却デバイス(103、203)に印加し、温である第2の量を測定し、第1の試験値を得ること;
選択された第1の量を少なくとも第2の熱電式加熱冷却デバイス(104、204)に印加し、第2の量を測定して第2の試験値を得ること;
前記第1の試験値と第2の試験値の比較に基づいてモニタリング値を決定すること;および
前記モニタリング値を前記モニタリング値についての所定の閾値と比較し、熱電式加熱冷却デバイスの故障の可能性を示すモニタリング結果を得ること、
を制御するように構成されている、
を含む、一連の温度偏位によって臨床試料由来の液体反応混合物をサイクルさせるためのシステム(100、200)。
【請求項9】
前記モニタリング結果に従って光学的および/または音響的シグナルを送るためのシグナル送信デバイスをさらに含む、請求項記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱電式加熱および冷却デバイスを使用して、一連の温度偏位を通じて液体反応混合物をサイクルさせる自動化システムの分野のものであり、より具体的には、熱電式加熱および冷却デバイスをモニタリングするためのシステムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
核酸(DNA=デオキシリボ核酸、RNA=リボ核酸)は、典型的に大量の核酸投入量を必要とする医学および薬学的研究、臨床的診断および遺伝的フィンガープリンティングにおける種々の分析およびアッセイのための開始物質として頻繁に使用される。日常業務の問題として、充分な量の核酸は、例えばポリメラーゼ連鎖反応(PCR)に基づいて、インビトロ増幅技術により容易に得られ得る。
【0003】
PCRに基づく核酸の増幅は、特許文献、例えば特許文献1、特許文献2、特許文献3および特許文献4において広範囲に記載されている。基本的に、PCRは、核酸の増幅のための複数回反復される一連の工程を含み、それぞれの工程において、
-核酸が融解(変性)されて変性ポリヌクレオチド鎖が得られ、
-プライマーを変性ポリヌクレオチド鎖にアニーリングして、
-プライマーが伸張されて、変性した鎖に沿って新しいポリヌクレオチド鎖を合成し、それにより二本鎖核酸の新しいコピーが得られる。
【0004】
PCR反応の反応速度は温度により変わるという事実によって、試料は、選択された時間間隔で特定の温度が一定に維持される予め規定された温度プロフィールを通じてサイクルされる。試料の温度は典型的に、核酸の融解のために約90℃まで上がり、プライマーアニーリングおよび変性ポリヌクレオチド鎖に沿ったプライマー伸長のためにおよそ40℃〜70℃まで低下する。
【0005】
日常業務において、自動化装置(サーマルサイクラー)が温度偏位を通じて反応混合物をサイクルさせるために使用されており、これは、典型的に核酸を含む試料を加熱または冷却するために使用される温度制御ブロックを含む。例えば、特許文献5に記載されるように、ブロックの温度制御は典型的に、ペルティエ効果を利用した熱電式加熱および冷却デバイス(「ペルティエデバイス」)の使用を伴う。DC電源に接続されたそれぞれのペルティエデバイスは、熱を生成または吸収して、それにより、印加された電流の方向に依存して試料を加熱または冷却し得るヒートポンプとして機能する。したがって、試料の温度はペルティエデバイスに種々の電流を印加するユーザーによって特定される、所定のサイクルプロトコールにしたがって変化し得る。
【0006】
従来のペルティエデバイスは通常、故障(failure)が生じ易くなるまで、数万回サイクルさせることができる。上記の米国特許出願に詳細に示されるように、ペルティエデバイスは、通常それぞれのペルティエデバイスに備わっている個々のペレットを電気的に接続するはんだ接合部の疲労を受けてペルティエデバイスの電気抵抗の増加が生じ、それにより疲労が悪化して早い故障が生じ得る。
【0007】
現代のサーマルサイクラーにおいて、ペルティエデバイスの故障は、試料の増幅を実行するのに通常必要とされる電流の流れを停止させる回避されるべきエラーである。しかしながら、核酸を含有する試料は、特定の科学捜査での適用などのように、再度入手することがほとんどまたは全くできないという意味において唯一のものであるので、ペルティエデバイスの故障のための不側の停止は回避しなければならない。そのために、故障が生じ易くなる前に、適切な時期にペルティエデバイスを取り替える必要がある。
【0008】
従来では、ペルティエデバイスは、熱サイクルが所定の回数実行された後に取り替えられる。ペルティエデバイスは、故障のないサイクル回数にかなりの変動性があることが経験的にわかっているので、一方では非常に早くにペルティエデバイスを取り替えることでコストが増加し、もう一方では少なくともいくらかのペルティエデバイスの故障が予防され得ないためにサーマルサイクラーの信頼性が低下するという、予想される寿命と故障のリスクの間の都合のよい折り合いが見出されなければならない。
【0009】
この課題を解決するために、上記の米国特許出願には、最初にサーマルサイクラーの電源を入れるたびにペルティエデバイスのAC抵抗を測定し、その故障し易さを検出する方法が開示されている。より具体的には、それぞれのペルティエデバイスのAC抵抗時間履歴の保存に基づいて、その時点で測定された個々のペルティエデバイスの抵抗値を、前回測定された同一のペルティエデバイスの抵抗値と比較し、ペルティエデバイスのAC抵抗が前回の記録に対して5%増加する場合、ペルティエデバイスはまもなく故障すると推定され、取り替えるための指標となる。
【0010】
実際のところ、ペルティエデバイスのAC抵抗値は周囲の温度などの外部の影響に大きく依存し、複雑な補正アルゴリズムを使用して、このような影響を補正する必要がある。そのために、かかる方法は、かなり複雑な計算を伴うので実行が困難となり、結果の信頼性が選択された補正アルゴリズムに依存するという事実によって、該方法は意味あるものではあり得ない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許第4683303号
【特許文献2】米国特許第4683195号
【特許文献3】米国特許第4800159号
【特許文献4】米国特許第4965188号
【特許文献5】米国特許出願2005/0145273 A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は上記の課題に鑑みて達成された。ペルティエデバイスを適当な時期に選択的に取り替えることができるような、まもなく故障する可能性のあるペルティエデバイスの同定において、実行が容易であり、使用の信頼性が高く、コストの節約を補助する、サーマルサイクラーにおけるペルティエデバイスの改良されたモニタリング方法を提供することが本発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
即ち、本発明の要旨は、
〔1〕電流(I)および電圧(U)から選択される第1の量を熱電式加熱冷却デバイス(103、203)に印加し、選択されなかった第1の量および温度から選択される第2の量を測定し、第1の試験値を得る工程;
選択された第1の量を、少なくとも別の熱電式加熱冷却デバイス(104、204)に印加し、第2の量を測定して第2の試験値を得る工程;
前記第1の試験値と第2の試験値の比較に基づいてモニタリング値を決定する工程;ならびに
前記モニタリング値を、前記モニタリング値に対する少なくとも1つの所定の閾値と比較し、熱電式加熱冷却デバイス(103、203)の故障の可能性を示すモニタリング結果を得る工程
を含む、一連の温度偏位によって臨床試料由来の液体反応混合物をサイクルさせるためのシステム(100、200)の熱電式加熱冷却デバイス(103、203)をモニタリングするための方法、
〔2〕電流(I)および電圧(U)から選択される第1の量を熱電式加熱冷却デバイス(303)の一部分(314)に印加し、選択されなかった第1の量および温度から選択される第2の量を測定し、第1の試験値を得る工程;
選択された第1の量を、前記熱電式加熱冷却デバイス(303)の少なくとも別の部分(315)に印加し、第2の量を測定して第2の試験値を得る工程;
前記第1の試験値と第2の試験値の比較に基づいてモニタリング値を決定する工程;ならびに
前記モニタリング値を、前記モニタリング値に対する少なくとも1つの所定の閾値と比較し、熱電式加熱冷却デバイス(303)の故障の可能性を示すモニタリング結果を得る工程
を含む、一連の温度偏位によって臨床試料由来の液体反応混合物をサイクルさせるためのシステム(300)の熱電式加熱冷却デバイス(303)をモニタリングするための方法、
〔3〕前記第2の量が温度である、〔1〕または〔2〕記載の方法、
〕前記モニタリング値の絶対値が前記所定の閾値と比較されて前記モニタリング結果が得られる、〔1〕いずれか記載の方法、
〕前記モニタリング値の有符号値が前記所定の閾値と比較されて前記モニタリング結果が得られる、〔1〕いずれか記載の方法、
〕前記モニタリング結果が、前記モニタリング結果による光学的および/または音響的シグナルを送るためのシグナル送信デバイス(101、201、301)に対する出力である、〔1〕〜〔〕いずれか記載の方法、
〕前記モニタリング結果が定期的に測定される、〔1〕〜〔〕いずれか記載の方法、
〕前記モニタリング結果が、一連の温度偏位によって液体反応混合物をサイクルさせるためのシステムのスイッチがオンになるたびに測定される、〔1〕〜〔〕いずれか記載の方法、
〕以下の工程:
選択された第1の量を、複数の第2熱電式加熱冷却デバイスに印加し、第2の量を測定して複数の第2の試験値を得る工程;および
前記第1の試験値と前記複数の第2の試験値の比較に基づいてモニタリング値を決定する工程
を含む、〔1〕および〔3〕〜〔〕いずれか1項記載の方法、
10〕以下の工程:
選択された第1の量を、前記熱電式加熱冷却デバイス(303)の複数の第2部分に印加し、第2の量を測定して複数の第2の試験値を得る工程;および
前記第1の試験値と前記複数の第2の試験値の比較に基づいてモニタリング値を決定する工程
を含む、〔2〕〜〔〕いずれか記載の方法、
11臨床試料由来の液体反応混合物をサイクルさせるための、少なくとも2つの熱電式加熱冷却デバイス(103、104;203、204);
前記熱電式加熱冷却デバイスに接続され、前記熱電式加熱冷却デバイスに電流(I)および電圧(U)から選択される第1の量を供給するように適合された、電源(105、205);
前記熱電式加熱冷却デバイスに接続され、前記第1の量が前記熱電式加熱冷却デバイスに印加されたとき、選択されなかった第1の量および温度から選択される第2の量を測定するように適合された、少なくとも1つの測定デバイス(107、207);ならびに
制御器(106、206)、ここで、該制御器は、
電流(I)および電圧(U)から選択される第1の量を第1熱電式加熱冷却デバイス(103、203)に印加し、選択されなかった第1の量および温度から選択される第2の量を測定し、第1の試験値を得ること;
選択された第1の量を少なくとも第2熱電式加熱冷却デバイス(104、204)に印加し、第2の量を測定して第2の試験値を得ること;
前記第1の試験値と第2の試験値の比較に基づいてモニタリング値を決定すること;および
前記モニタリング値を前記モニタリング値についての所定の閾値と比較し、熱電式加熱冷却デバイスの故障の可能性を示すモニタリング結果を得ること
制御するように構成されている、
含む、一連の温度偏位によって臨床試料由来の液体反応混合物をサイクルさせるためのシステム(100、200)、
12臨床試料由来の液体反応混合物をサイクルさせるための、少なくとも1つの熱電式加熱冷却デバイス(303);
前記熱電式加熱冷却デバイスに接続され、前記熱電式加熱冷却デバイスに電流(I)および電圧(U)から選択される第1の量を供給するように適合された、電源(305);
前記熱電式加熱冷却デバイスに接続され、前記第1の量が前記熱電式加熱冷却デバイスに印加されたとき、選択されなかった第1の量および温度から選択される第2の量を測定するように適合された、少なくとも1つの測定デバイス(307);ならびに
制御器(106、206)、ここで、該制御器は、
電流(I)および電圧(U)から選択される第1の量を前記熱電式加熱冷却デバイス(303)の第1部分(314)に印加し、選択されなかった第1の量および温度から選択される第2の量を測定し、第1の試験値を得ること;
選択された第1の量を、前記熱電式加熱冷却デバイス(304)の少なくとも第2部分(315)に印加し、第2の量を測定して第2の試験値を得ること;
前記第1の試験値と第2の試験値の比較に基づいてモニタリング値を決定すること;および
前記モニタリング値を前記モニタリング値についての所定の閾値と比較し、熱電式加熱冷却デバイスの故障の可能性を示すモニタリング結果を得ること
制御するように構成されている、
含む、一連の温度偏位によって臨床試料由来の液体反応混合物をサイクルさせるためのシステム(301)、
〔13〕前記第2の量が温度である、〔11〕または〔12〕記載のシステム、
14〕前記モニタリング結果に従って光学的および/または音響的シグナルをるためのシグナル送信デバイスをさらに含む、〔1113いずれか記載のシステム
に関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ペルティエデバイスを適当な時期に選択的に取り替えることができるような、まもなく故障する可能性のあるペルティエデバイスの同定において、実行が容易であり、使用の信頼性が高く、コストの節約を補助する、サーマルサイクラーにおけるペルティエデバイスの改良されたモニタリング方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
本発明の他のならびにさらなる目的、特徴および利点は以下の説明により完全に明らかになる。本明細書に援用されその一部を構成する添付の図面は、上述の一般記載、および本発明の原理を説明するためにある下記の詳細な説明とともに本発明の好ましい態様を示す。
【0016】
図1図1は、本発明のシステムの例示的な第1の態様の概略正面図である。
図2図2は、図1のシステムのペルティエデバイスの電気抵抗の発生を図示する概略図である。
図3図3は、本発明のシステムの例示的な第2の態様の概略正面図である。
図4図4は、図3のシステムのペルティエデバイスの電気抵抗の発生を図示する概略図である。
図5図5は、本発明のシステムの例示的な第3の態様の概略正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(発明の概要)
第一の局面によれば、本発明は、一連の温度偏位を通じて、液体反応混合物をサイクルさせるためのシステムの、熱電式加熱および冷却デバイスをモニタリングするための新規の方法を提案する。
【0018】
したがって、以下「ペルティエデバイス」と称する熱電式加熱および冷却デバイスをモニタリング(故障の可能性を試験)する方法が提供される。該方法は、以下の工程を含む。
【0019】
電流(I)および電圧(U)から選択される第1の量をペルティエデバイスに印加して、選択されなかった第1の量およびペルティエデバイスの温度から選択される第2の量を測定し、第1の試験値を得る。第1の試験値は、試験値を測定値から得るための予め規定された公式にしたがって測定値から得られ得る。例えば、ペルティエデバイスに一定電流を印加し、ペルティエデバイスにかかる降下している電圧を測定する場合、ペルティエデバイスの電気抵抗は測定された電圧降下から得られ得る。そうでなければ、第1の試験値は測定値と同じであるように選択され得る。
【0020】
上記選択された第1の量は、(例えば同時に)少なくとも別のペルティエデバイスに印加され、上記選択された第2の量を測定して第2の試験値を得る。第1の試験値と同様に、第2の試験値は、試験値を測定値から得るための予め規定された公式にしたがって測定値から得られ得る。そうでなければ、第2の試験値は測定値と同じであるように選択され得る。
【0021】
モニタリング値は、第1と第2の試験値の比較に基づいて決定される。この点で、例えば、第1と第2の抵抗値の差が計算され、それにより第1および/または第2の抵抗値に関する相対的な(百分率化された)抵抗値が得られる。
【0022】
モニタリング値と閾値の比較のための予め規定された公式に従うモニタリング値について、モニタリング値を少なくとも1つの予め規定された(選択可能な)閾値と比較して、それによりペルティエデバイスの故障の可能性を示すモニタリング結果を得る。この点で、例えば、モニタリング値が閾値未満である場合にペルティエデバイスの故障の第1の可能性(例えばペルティエデバイスはすぐには故障しない)を示す第1のモニタリング結果を得、モニタリング値が閾値と少なくとも同等である場合にペルティエデバイスの故障の第2の可能性(例えばペルティエデバイスはまもなく故障する)を示す第2のモニタリング結果を得る。あるいは、モニタリング結果を複数の閾値と比較して、ペルティエデバイスが故障する可能性を示す、段階的に評価されるモニタリング結果を得ることができる。典型的に、閾値は経験に基づき、例えば多くのペルティエデバイスの故障を試験して得られた経験的な値であり得る。
【0023】
従って、モニタリング結果は、考慮されるペルティエデバイスと同様に外部条件の影響を受けている別のペルティエデバイスを参照して得られるので、外部条件の変動による複雑な補正アルゴリズムの使用は有利に回避されて、該方法を実行することが容易になり、使用における信頼性が高くなり得る。
【0024】
該方法は、寿命に広くばらつきがあるためしばしば正しいはずである、試験結果の比較に使用されるペルティエデバイスが同時には故障しないという仮定に基づく。第2の量を測定する際に、第1の量は両方のペルティエデバイスに同時に印加され得る。あるいは、外部条件の変動がペルティエデバイスの第2の量の測定値に有意に影響しない限り、予め規定された時間の経過後に第1の量はペルティエデバイスに連続的に印加され得る。
【0025】
第2の局面にしたがって、本発明は、一連の温度偏位を通じて、液体反応混合物をサイクルするためのシステムのペルティエデバイスをモニタリングするための別の新規の方法を提案する。
【0026】
したがって、ペルティエデバイスをモニタリングする(故障の可能性を試験する)方法が提供される。該方法は以下の工程を含む。
【0027】
電流(I)および電圧(U)から選択される第1の量をペルティエデバイスの一部分に印加して、選択されなかった第1の量およびペルティエデバイスの温度から選択される第2の量を測定して、第1の試験値を得る。第1の試験値は、試験値を測定値から得るための予め規定された公式にしたがって測定値から得られ得るか、または測定値と同じであるように選択され得る。
【0028】
上記選択された第1の量は、(例えば同時に)ペルティエデバイスの少なくとも別の部分に印加され、上記選択された第2の量を測定して第2の試験値を得る。第1の試験値と同様に、第2の試験値は、試験値を測定値から得るための予め規定された公式にしたがって測定値から得られ得るか、または測定値と同じであるように選択され得る。
【0029】
モニタリング値は、本発明の第1の局面に関連して詳細に上述されたように、第1と第2の試験値の比較に基づいて決定される。
【0030】
モニタリング値と閾値を比較するための予め規定された公式に従うモニタリング値について、モニタリング値を少なくとも1つの予め規定された(選択可能な)閾値と比較し、それにより本発明の第1の局面に関連して詳細に上述したように、ペルティエデバイスの故障の可能性を示すモニタリング結果を得る。
【0031】
そのために、外部条件が変化することは通常、ペルティエデバイスの異なる部分に同程度影響するので、またモニタリング結果はペルティエデバイスの異なる部分に関して得られるという事実を考慮して、外部条件の変動による複雑な補正アルゴリズムの使用は有利に回避され、該方法を実行することが容易になり、使用における信頼性が高くなり得る。
【0032】
上述の方法は、ペルティエデバイスの異なる部分が同時には故障しないという仮定に基づく。第1の量はペルティエデバイスの両方の部分に同時に印加され得る。あるいは、外部条件の変動がペルティエデバイスの部分の第2の量の測定値に有意に影響しない限り、予め規定された時間の経過後に第1の量はペルティエデバイスの部分に連続して印加され得る。
【0033】
予め規定された閾値と比較されるモニタリング値の絶対値を決定することが好ましくあり得る。あるいは、閾値と比較されるモニタリング値の有符号値を決定することが好ましくあり得る。第1の場合において、本発明の第1の局面によれば、ペルティエデバイスのどの1つ、または本発明の第2の局面によれば、ペルティエデバイスのどの部分がまもなく故障する可能性があることは決定されず、その結果、それぞれ両ペルティエデバイスおよびペルティエデバイス全体を取り替える必要がある。かかる態様は、例えば、全体が取り替えられるように適合された同一のモジュール温度制御ブロック中に、ペルティエデバイスが収容される場合に有利であり得る。同様に、個々のペルティエデバイスは、全体が取り替えられるように適合されたモジュール構成要素であり得る。第2の場合において、本発明の第1の局面によれば、どのペルティエデバイス、または本発明の第2の局面によれば、ペルティエデバイスのどの部分がまもなく故障する可能性があることが決定され、その結果、まもなく故障すると同定されたペルティエデバイスおよびペルティエデバイスの部分のそれぞれは選択的に取り替えることができ、それによりコストが抑えられる。
【0034】
本発明の別の好ましい態様によれば、モニタリング結果は、モニタリング結果にしたがって光学的および/または音響的シグナルを伝達し、予想されるペルティエデバイスの故障がユーザーに伝達されることを可能にするためのシグナル伝達デバイス(ディスプレイおよび/またはスピーカーなど)に対する出力である。
【0035】
本発明の別の好ましい態様にしたがって、モニタリング結果は、自由裁量の様式で、例えばユーザーがペルティエデバイスの信頼性に関して懸念を有するたびに、モニタリング結果を得ることを可能にするマニュアル入力シグナルに基づいて決定される。
【0036】
本発明の別の好ましい態様によれば、モニタリング結果は定期的に、例えば予め規定された回数の熱サイクルまたは操作時間が実行されるたびに決定される。
【0037】
本発明の第1および第2の局面による別の好ましい態様によれば、試験結果は、一連の温度偏位を通じて液体反応混合物をサイクルさせるためのシステムが起動されるたびに決定される。
【0038】
本発明の第1の局面による別の好ましい態様において、以下の工程が実施される。
【0039】
電流(I)および電圧(U)から選択される第1の量をペルティエデバイスに印加し、選択されなかった第1の量および温度から選択される第2の量を測定して第1の試験値を得る。
【0040】
選択された第1の量を複数の他のペルティエデバイスに印加し、第2の量を測定して複数の第2の試験値を得る。
【0041】
モニタリング値は、第1および第2の試験値の比較に基づいて決定される。例えば、第2の試験値は、第1の試験値と比較される第2の試験値の相加平均を計算するために使用され得る。
【0042】
モニタリング値は、熱電式加熱および冷却デバイスの故障の可能性を示すモニタリング結果を得るために、モニタリング値に関して少なくとも1つの予め規定される閾値と比較される。
【0043】
そのために、かかる態様において、考慮されるペルティエデバイスは複数の他のペルティエデバイスと比較されて、ペルティエデバイスの共通の故障のリスク、および、例えば第1および第2の試験値の間の偶然の大きな差が有利に減少される。
【0044】
本発明の第2の局面による別の好ましい態様において、以下の工程が実施される。
【0045】
電流(I)および電圧(U)から選択される第1の量をペルティエデバイスの一部分に印加し、選択されなかった第1の量および温度から選択される第2の量を測定して第1の試験値を得る。
【0046】
選択された第1の量をペルティエデバイスの複数の他の部分に印加し、第2の量を測定して複数の第2の試験値を得る。
【0047】
モニタリング値は、第1および第2の試験値の比較に基づいて決定される。例えば、第2の試験値は、第1の試験値と比較される第2の試験値の相加平均を計算するために使用され得る。
【0048】
モニタリング値は、熱電式加熱および冷却デバイスの故障の可能性を示すモニタリング結果を得るために、モニタリング値に関して、少なくとも1つの予め規定された閾値と比較される。
【0049】
そのために、かかる態様において、考慮されるペルティエデバイスの一部分は、ペルティエデバイスの複数の他の部分と比較されて、ペルティエデバイスの部分の共通の故障のリスク、例えば第1および第2の試験値の間の偶然の大きな差が有利に減少される。
【0050】
第3の局面によれば、本発明は、一連の温度偏位を通じて、液体反応混合物をサイクルさせるための新規のシステムを提案する。
【0051】
したがって、
-液体反応混合物をサイクルさせるための少なくとも2つのペルティエデバイス;
-ペルティエデバイスにつながれ、電流(I)および電圧(U)から選択される第1の量をペルティエデバイスに供給するように適合された電源;
-ペルティエデバイスにつながれ、第1の量をペルティエデバイスに印加する際に選択されなかった第1の量および温度から選択される第2の量を測定するように適合された、少なくとも1つの測定デバイス;
-電流(I)および電圧(U)から選択される第1の量を第1の熱電式加熱および冷却デバイスに印加し、選択されなかった第1の量および温度から選択される第2の量を測定して第1の試験値を得る工程;選択された第1の量を少なくとも第2の熱電式加熱および冷却デバイスに印加し、第2の量を測定して第2の試験値を得る工程;第1および第2の試験値の比較に基づいてモニタリング値を決定する工程;ならびに、熱電式加熱および冷却デバイスの故障の可能性を示すモニタリング結果を得るために、モニタリング値について、モニタリング値を予め規定された閾値と比較する工程を制御するように設定された制御器
を含む、一連の温度偏位を通じて液体反応混合物をサイクルさせるためのシステムが開示される。
【0052】
第4の局面にしたがって、本発明は、一連の温度偏位を通じて液体反応混合物をサイクルさせるための新規のシステムを提案する。
【0053】
したがって、
-液体反応混合物をサイクルさせるための少なくとも1つのペルティエデバイス;
-ペルティエデバイスにつながれ、電流(I)および電圧(U)から選択される第1の量をペルティエデバイスに供給するように適合された電源;
-ペルティエデバイスにつながれ、第1の量をペルティエデバイスに印加する際に選択されなかった第1の量および温度から選択される第2の量を測定するように適合された、少なくとも1つの測定デバイス;
-電流(I)および電圧(U)から選択された第1の量をペルティエデバイスの第1の部分に印加し、選択されなかった第1の量および温度から選択される第2の量を測定して第1の試験値を得る工程;選択された第1の量をペルティエデバイスの少なくとも第2の部分に印加し、第2の量を測定して第2の試験値を得る工程;第1および第2の試験値の比較に基づいてモニタリング値を決定する工程;ならびに、モニタリング結果を得るために、モニタリング値について、モニタリング値を予め規定された閾値と比較する工程を制御するように設定された制御器
を含む、一連の温度偏位を通じて液体反応混合物をサイクルさせるためのシステムが開示される。
【0054】
本発明のそれぞれのシステムの好ましい態様によれば、該システムはさらに、モニタリング結果にしたがった光学的および/または音響的なシグナルを伝達するための、ディスプレイおよび/またはスピーカーなどのシグナル伝達デバイスを含む。
【0055】
好ましくは、本発明のシステムは、少なくとも1つのペルティエデバイスを使用して核酸を増幅するためのポリメラーゼ連鎖反応の実施に使用される。この点で、本発明のシステムは、自動化PCRベース機器(サーマルサイクラー)として具現化され得る。
【0056】
上述のように、それぞれのペルティエデバイスは、DC電源につながれた場合にヒートポンプとして機能するための異なる導電体として作動し得る、n型およびp型材料を生成するために適切にドープされた例えばテルル化ビスマス製の半導体ペレットなどの1つのペルティエ素子または複数の個々のペルティエ素子を含み得る。複数のペルティエ素子は、例えばはんだ接合部などの金属相互連結部の使用により、互いに直列に連結され得る。それぞれのペルティエデバイスは、熱の生成または吸収のために操作される構造的かつ機能的な実体である。それぞれのペルティエ素子は、熱の生成または吸収のために操作される機能的実体として具現化され得る。それぞれのペルティエ素子はまた、熱の生成または吸収のために操作される構造的実体として具現化され得る。
【0057】
(発明の詳細な説明)
本発明は、同じ符号が類似または同様の要素を示す添付の図面に関して、以下に詳細に記載される。
【0058】
ここで、図1および図2を参照して、本発明にしたがったシステムおよび方法の例示的な第1の態様を説明する。したがって、核酸を含む液体反応混合物を、ポリメラーゼ連鎖反応を実施するために一連の温度偏位を通じてサイクルさせるためのシステム100が示される。システム100は、核酸の増幅のための一連の工程を多数回反復するように適合されたサーマルサイクラーとして具現化され得、ここでそれぞれの工程において、核酸が融解されて変性ポリヌクレオチド鎖が得られ、プライマーを変性ポリヌクレオチド鎖にアニーリングして、プライマーが伸長されて変性ポリヌクレチド鎖に沿って新しいポリヌクレオチド鎖を合成し、それにより二本鎖核酸の新しいコピーが得られる。
【0059】
反応混合物を熱によりサイクルさせるために、システム100は、例えば金属材料製のブロックとして具現化され得る温度制御部材102を含む。温度制御部材102は、同様の型のモジュール第1ペルティエデバイス103およびモジュール第2ペルティエデバイス104により任意に加熱または冷却され得る。第1および第2ペルティエデバイス103、104のぞれぞれは、熱の生成および吸収のための機能的かつ構造的実体として同定され得る。
【0060】
図面には示されないが、温度制御部材102は、増幅のために熱サイクルされる核酸を含む反応混合物を受容し得る、二次元アレイの複数の空洞を形成する試料プレートを支持する。
【0061】
第1および第2ペルティエデバイス103、104は、第1および第2導電線114、115によってDC電源105に接続され、第3導電線116によって互いに関して直列に接続されている。具体的には、第1導電線114が、第1ペルティエデバイス103の第1端子108とDC電源105の第1ポール112を相互接続し、第2導電線115が、第2ペルティエデバイス104の第2端子111とDC電源105の第2ポール113を相互接続し、第3導電線116が、第1ペルティエデバイス103の第2端子109と第2ペルティエデバイス104の第1端子110を相互接続している。
【0062】
DC電源105は、マイクロプロセッサ系制御器106によって、例えば、定電流(I)が第1および第2ペルティエデバイス103、104に印加され、したがって、印加された電流の方向に応じて温度制御部材102が加熱または冷却され得るように制御される。測定デバイス107は、第1ペルティエデバイス103にかかる電圧の第1降下(U1)、および第2ペルティエデバイス104にかかる電圧の第2降下(U2)の測定のために、ペルティエデバイス103、104の第1および第2端子108〜111に接続される(図中にはさらなる詳細を示さない)。
【0063】
第1および第2ペルティエデバイス103、104は、それぞれ、例えば、はんだ接合によって互いに対して直列に接続された半導体ペレットなどの複数のペルティエ素子(図中にはさらなる詳細を示さない)を含む。各ペルティエ素子は、熱生成および熱吸収のための機能的および構造的実体と同定され得る。
【0064】
制御器106の制御下では、第1および第2ペルティエデバイス103、104を作動させ、それにより、試料プレート内に含まれる反応混合物を前もって規定した温度で前もって規定したインキュベーション間隔でインキュベートする種々の温度偏位(excursion)によって、温度制御部材102の温度がサイクルされ得る。試料の温度は、例えば、核酸の融解のために約90℃に上昇され得、プライマーアニーリングおよび変性ポリヌクレオチド鎖に沿ったプライマー伸長のため、およそ40℃〜70℃まで低下させ得る。
【0065】
次に、実施されたサイクル数(N)に依存して誘導されるその寿命の間の第1および第2ペルティエデバイス103、104の典型的な電気抵抗(R)の発生の概略図を示す図2に言及する。したがって、図2は、参照番号によって示すように、第1および第2ペルティエデバイス103、104の電気抵抗に関する2つの別々の曲線を示す。図示のように、各ペルティエデバイス103、104の電気抵抗は、特定のサイクル数が実施された後、急速に上昇し、これは、かかる増大が、数万サイクル後に典型的に起こるという事実を鑑みると、ペルティエデバイス103、104間で大きく異なる。第1ペルティエデバイス103は、例えば、ほぼ55000サイクル後に機能しなくなり、第2ペルティエデバイス104は、例えば、ほぼ70000サイクル後に機能しなくなり、したがって、およそ4分の1長い寿命を有する。
【0066】
第1および第2ペルティエデバイス103、104は類似した型であるため、図示されるように、電気抵抗が例えば約30000サイクルの実行に相当する第1サイクル数N1で疲労によって変化しないものとすると、定電流(I)の印加により、ペルティエデバイス103、104にかかる電圧の類似した降下(U1=U2)がもたらされる。
【0067】
例えば50000サイクルの第2サイクル数N2が行なわれると状況が変化し、このとき、第1ペルティエデバイス103の電気抵抗の急激な増大が起こる。定電流が第1および第2ペルティエデバイス103、104に印加された場合、第1ペルティエデバイス103にかかる電圧の降下の増大(U1>U2)が観察され得る。したがって、第1ペルティエデバイス103の電気抵抗の増大は、例えば、第1と第2の電圧の降下(U1、U2)の相対差を測定することにより確認され得、この差は、第1ペルティエデバイス103の電気抵抗の上昇とともに増大する。
【0068】
上記のことに基づき、第1および第2ペルティエデバイス103、104の例示的なモニタリング(故障の可能性の試験)方法は、以下の工程を含む。
【0069】
電源5によって定電流(I)を印加し、測定デバイス107によって、第1および第2ペルティエデバイス103、104にかかる電圧の第1および第2の降下(U1、U2)を測定する第1工程。
【0070】
第1と第2の電圧の降下(U1、U2)の有符号差分(ΔU=U1-U2)が制御器106によって計算され、それによりモニタリング値を得る第2工程。
【0071】
モニタリング値を、前もって規定した閾値(T1)と比較することにより、考慮中のペルティエデバイスの故障の可能性を示すモニタリング結果を得る第3工程、ここで、該閾値は、絶対値、または第1および第2ペルティエデバイス103、104の名目上の(nominal)電圧の降下に対する相対値であり得る。例えば、第1と第2の電圧の降下(U1、U2)の計算された差(ΔU)が、閾値T1と少なくとも等しい(ΔU≧T1)ならば、第1ペルティエデバイス103は、すぐに機能しなくなる可能性があり、交換すべきであると結論付けられ得る。あるいは、計算された差(ΔU)が閾値T1未満である(ΔU<T1)ならば、第1ペルティエデバイス103は、すぐに機能しなくなる大きなリスクなく作動し得ると結論付けられ得る。閾値(T1)は、例えば、それぞれ、第1および第2ペルティエデバイスにかかる名目上の電圧の降下の相対偏差に基づいて、例えば、計算された差(ΔU)の量が、第1および第2ペルティエデバイス103、104のそれぞれの名目上の電圧の降下の10%より大きい場合、ペルティエデバイスの故障が起こる可能性があるとみなされるように規定され得る。閾値(T1)は、経験に基づいたもの、例えば、多数の類似したペルティエデバイスの熱サイクリングにおいて得られたものであってもよい。
【0072】
電圧の降下(U1、U2)の有符号差分(ΔU)は制御器106によって計算されるため、どのペルティエデバイスが機能しなくなる可能性があるか(すなわち、その他のペルティエデバイスと比べて電圧の降下が増大したペルティエデバイス)を検出することが可能である。したがって、温度制御部材102全体を交換する代わりに、機能しなくなる可能性があるペルティエデバイスを選択的に交換することができる。代替的に、第1および第2ペルティエデバイス103、104にかかる電圧の降下(U1、U2)の差(ΔU)の絶対値が測定される場合、ペルティエデバイス103、104のうちの1つがすぐに機能しなくなる可能性があるということが観察され得るが、どれかわからないため温度制御部材102が交換され、これは、ある場合では適切であり得る。
【0073】
代替的に、第1および第2ペルティエデバイス103、104にかかる電圧の降下(U1、U2)の差(ΔU)を計算する代わりに、電圧の降下(U1、U2)から導かれ得る第1および第2ペルティエデバイス103、104の電気抵抗の差を、閾値と比較してモニタリング結果を得てもよい。
【0074】
また、代替的に、第1および第2ペルティエデバイス103、104にかかる電圧の降下(U1、U2)を測定する代わりに、それぞれ、第1および第2ペルティエデバイス103、104の第1温度および第2温度(θ1、θ2)を、測定デバイス107を用いて測定した後、制御器106 によって第1温度と第2温度(θ1、θ2) の有符号差分(Δθ=θ1-θ2)が計算され、それによりモニタリング値を得ることができ、この差(Δθ)を、次いで、絶対値、または第1および第2ペルティエデバイス103、104の名目上の温度に対する相対値であり得る前もって規定した閾値と比較することにより、ペルティエデバイス103、104の故障の可能性を示すモニタリング結果が得られる。かかる態様は、ペルティエデバイスの温度が、印加される電流に依存する自身の電気抵抗によって変化するという事実に基づく。
【0075】
ペルティエデバイス103、104のモニタリングは、反応混合物の熱サイクリングのためにシステム100のスイッチがオンになるたびに開始してもよい。代替的に、ペルティエデバイス103、104のモニタリングは、手動入力シグナルに基づいて開始してもよい。また、代替的に、ペルティエデバイス103、104のモニタリングは、前もって規定した熱サイクル数または作動時間が実行されるたびに開始してもよい。
【0076】
第1および第2ペルティエデバイス103、104にかかる電圧の降下(U1、U2)の差(ΔU)の増大の測定に基づき、ペルティエデバイスの故障が有利に回避され、適当な時期に交換され得る。1つのペルティエデバイスの電気抵抗の増大は、別のペルティエデバイスを参照して検出されるため、種々の周囲温度などの外部条件の変化の任意の影響が有利に回避され得、したがって、該方法は、実施が容易となり、使用時の信頼性が高くなる。
【0077】
測定されたモニタリング結果は、ディスプレイおよび/またはスピーカーなどのシグナル伝達デバイス101によってユーザーにシグナル伝達される。
【0078】
次に、図3および4に言及し、本発明によるシステムおよび方法の例示的な第2態様を説明する。不必要な繰り返しを回避するため、本発明の第1態様との違いだけを説明し、他のすべての点は、第1態様に関する上記の説明を参照のこと。
【0079】
したがって、ポリメラーゼ連鎖反応を行なうための一連の温度偏位による液体反応混合物のサイクリングのためのシステム200は、類似した型である第1ペルティエデバイス203および第2ペルティエデバイス204によって、それぞれ加熱および冷却され得る温度制御部材202を含む。
【0080】
第1および第2ペルティエデバイス203、204は、互いに対して並列の関係でDC電源205に接続されている。より詳しくは、第1導電線214は、第1ペルティエデバイス203の第1端子208とDC電源205の第1ポール212を相互接続し、第2導電線215は、第1導電線214と第2ペルティエデバイス204の第1端子210を相互接続し、第3導電線216は、第1ペルティエデバイス203の第2端子209 と第4導電線217を相互接続し、第4導電線217は、第2ペルティエデバイス204の第2端子211とDC電源205の第2ポール213を相互接続している。
【0081】
DC電源205は、マイクロプロセッサ系制御器206によって、例えば、定電圧(U)が第1および第2ペルティエデバイス203、204の両方に印加され、したがって、印加された電圧の極性に応じて温度制御部材202が加熱または冷却され得るように制御され得る。測定デバイス207は、第1ペルティエデバイス203の第1端子208 および第2ペルティエデバイス204の第2端子211に定電圧(U)を印加した場合、第1ペルティエデバイス203内を流れる第1電流(I1)および第2ペルティエデバイス204内を流れる第2電流(I2)を測定するための第1および第2ペルティエデバイス203、204の第1および第2端子208〜221に接続される。
【0082】
次に、図2と同様、その寿命中の第1および第2ペルティエデバイス203、204の典型的な電気抵抗の発生の概略図を示す図3に言及する。第1および第2ペルティエデバイス203、204は類似した型であるため、図示されるように、ペルティエデバイス203、204の電気抵抗が第1サイクル数N1で疲労によって変化しないものとすると、定電圧(U)の印加により、ペルティエデバイス203、204内を流れる同様の電流(I1、I2)がもたらされる(I1=I2)。疲労に基づく電気抵抗の増大が第1ペルティエデバイス203に生じた場合、定電圧(U)の印加により、第1ペルティエデバイス内を流れる電流(I1)の減少がもたらされる(I1<I2)。したがって、第1ペルティエデバイス203の抵抗の上昇に伴って増大する第1および第2電流I1、I2の相対差を測定することによって、第1ペルティエデバイス203の電気抵抗の増大が観察され得る。
【0083】
上記のことに基づき、第1および第2ペルティエデバイス203、204のモニタリング(故障の可能性の試験)方法は、
- 電源205によって定電圧(U)を印加し、第1および第2ペルティエデバイス203、204内を流れる第1および第2電流(I1、I2)を測定デバイス207によって測定する第1工程;
- 制御器206によって、第1および第2電流(I1、I2)の有符号差分(ΔI=I1-I2)が計算される第2工程;ならびに
- 第1および第2電流(I1、I2)の差(ΔI)を、前もって規定した閾値(T2)と比較することにより、ペルティエデバイスの故障の可能性を示すモニタリング結果を得る第3工程、ここで、該閾値は、絶対値、または第1および第2ペルティエデバイス203、204内を流れる名目上の電流に対する相対値であり得る、
を含む。例えば、第1および第2電流(I1、I2)の計算された差分(ΔI)が、閾値と少なくとも等しい(ΔI≧T2)ならば、第1ペルティエデバイス203は機能しなくなる可能性があると結論付けられ得る。
【0084】
測定されたモニタリング結果は、ディスプレイおよび/またはスピーカーなどのシグナル伝達デバイス201によってユーザーにシグナル伝達される。
【0085】
次に、図5を参照し、本発明によるシステムおよび方法の例示的な第3態様を説明する。不必要な繰り返しを回避するため、本発明の第1態様との違いだけを説明し、他のすべての点は、第1態様に関する上記の説明を参照のこと。
【0086】
したがって、ポリメラーゼ連鎖反応を行なうための一連の温度偏位による液体反応混合物のサイクリングのためのシステム300は、DC電源305と接続された(単一の)ペルティエデバイス303によって、それぞれ加熱および冷却され得る温度制御部材302を含む。
【0087】
より詳しくは、第1導電線310は、ペルティエデバイス303の第1端子308とDC電源305の第1ポール312を相互接続し、第2導電線311は、ペルティエデバイス303の第2端子309とDC電源305の第2ポール313を相互接続する。DC電源305は、マイクロプロセッサ系制御器306によって、例えば、定電流(I)がペルティエデバイス303の第1および第2端子308、309に印加され、印加された電流の方向に応じてブロック302が加熱または冷却され得るように制御され得る。
【0088】
測定デバイス307は、第1および第2端子308、309、ならびにペルティエデバイス303の第1部分314にかかる電圧の第1降下(U1)およびペルティエデバイス303の第2部分315にかかる電圧の第2降下(U2)を測定するための中央タップ304に接続されている。
【0089】
ペルティエデバイス303の第1および第2部分314、315は類似した寸法であるため、定電流(I)の印加により、該部分の電気抵抗が疲労によって変化しないものとすると、該部分314、315にかかる電圧の類似した降下(U1=U2)がもたらされる。他方、第1部分314の電気抵抗の急激な増大が起こった場合、第1および第2端子308、309への定電流(I)の印加により、ペルティエデバイス3の第1部分314にかかる電圧の降下の増大(U1>U2)が観察され得る。
【0090】
上記のことに基づき、ペルティエデバイス303の例示的なモニタリング(故障の可能性の試験)方法は、電源305によって定電流(I)を印加し、ペルティエデバイス303の第1および第2部分314、315にかかる電圧の第1および第2の降下(U1、U2)を、電気量測定デバイス307によって測定する工程を含む。次いで、制御器306で、第1と第2の電圧の降下(U1、U2)の有符号差分(ΔU=U1-U2)が計算され、次いで、前もって設定した閾値(T3)と比較され、したがってモニタリング結果が得られる。ここで、該閾値は、絶対値、またはペルティエデバイス303の第1および第2部分の名目上の電圧の降下に対する相対値であり得る。例えば、第1と第2の電圧の降下(U1、U2)の計算された差(ΔU)が閾値と少なくとも等しい(ΔU≧T3)ならば、ペルティエデバイス303は機能しなくなる可能性があり、交換すべきであると結論付けられ得る。あるいは、計算された差(ΔU)が閾値より小さい(ΔU<T3)ならば、ペルティエデバイス303が、故障の大きなリスクがなく作動し得ると結論付けられ得る。あるいは、電圧の降下の差の代わりに、電圧の降下から導かれ得るペルティエデバイス303の第1および第2部分314、315の電気抵抗の差を閾値と比較し、モニタリング結果を得てもよい。
【0091】
測定されたモニタリング結果は、ディスプレイおよび/またはスピーカーなどのシグナル伝達デバイス301によってユーザーにシグナル伝達される。
【0092】
上記の態様は、単一のペルティエデバイス303が温度制御部材302上に設けられているか、あるいは、試験のための使用に選択された場合であっても、ペルティエデバイスの故障の可能性の試験を有利に可能にする。
【0093】
上記の態様において、定電流および定電圧それぞれの印加に応答した電気量を測定するための測定デバイスが使用される。測定デバイスには、それぞれ定電流および定電圧の印加に応答したペルティエデバイスおよび/またはその一部分のそれぞれの温度を測定するための温度センサーが含まれ得る。制御器は、ペルティエデバイスのモニタリングに使用される具体的な方法が実施される様式で設定される。
【0094】
明らかに、上記の説明に鑑みると、本発明の多くの改変および変形が可能である。したがって、添付の特許請求の範囲内において、本発明が、具体的に考案されたものとは別の方法で実施され得ることが理解される。
【符号の説明】
【0095】
符号のリスト
100 システム
101 シグナル伝達デバイス
102 温度制御部材
103 第1ペルティエデバイス
104 第2ペルティエデバイス
105 DC電源
106 制御器
107 電気量測定デバイス
108 第1端子(第1ペルティエデバイス)
109 第2端子(第1ペルティエデバイス)
110 第1端子(第2ペルティエデバイス)
111 第2端子(第2ペルティエデバイス)
112 第1ポール
113 第2ポール
114 第1導電線
115 第2導電線
116 第3導電線
200 システム
201 シグナル伝達デバイス
202 ブロック
203 第1ペルティエデバイス
204 第2ペルティエデバイス
205 DC電源
206 制御器
207 測定デバイス
208 第1端子(第1ペルティエデバイス)
209 第2端子(第1ペルティエデバイス)
210 第1端子(第2ペルティエデバイス)
211 第2端子(第2ペルティエデバイス)
212 第1ポール
213 第2ポール
214 第1導電線
215 第2導電線
216 第3導電線
217 第4導電線
300 システム
301 シグナル伝達デバイス
302 ブロック
303 ペルティエデバイス
304 タップ
305 DC電源
306 制御器
307 測定デバイス
308 第1端子
309 第2端子
310 第1導電線
311 第2導電線
312 第1ポール
313 第2ポール
314 第1部分
315 第2部分
図1
図2
図3
図4
図5