(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5688992
(24)【登録日】2015年2月6日
(45)【発行日】2015年3月25日
(54)【発明の名称】スライド式ハンガー
(51)【国際特許分類】
E03C 1/06 20060101AFI20150305BHJP
【FI】
E03C1/06
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2011-26931(P2011-26931)
(22)【出願日】2011年2月10日
(65)【公開番号】特開2012-167432(P2012-167432A)
(43)【公開日】2012年9月6日
【審査請求日】2013年9月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】302045705
【氏名又は名称】株式会社LIXIL
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 雅喜
【審査官】
油原 博
(56)【参考文献】
【文献】
特開平09−041443(JP,A)
【文献】
実開平01−137370(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E03C 1/00−1/10
A47K 3/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バーに沿って移動可能な本体部と、シャワーヘッドを保持する保持部と、本体部をバー
に沿って移動可能な状態とバー上の任意位置に停止した状態とに切り替える切替操作部と
を備え、
本体部に、バーの挿通孔と、本体部の外面から挿通孔に連通する操作部取付通路とが形
成され、
切替操作部は、本体部内に配置されて挿通孔に貫装したバーに対し進退可能な押圧具と
、本体部の操作部取付通路の内周面に形成した雌ねじ部に螺合する雄ねじ部が外周面に形
成された回動軸を有する回転操作具とから成り、
回転操作具を回転させて回動軸を操作部取付通路内でバーに対し前進させることにより
、押圧具を押し出してバーに圧接させ、本体部をバー上に停止させるようになされたスラ
イド式ハンガーにおいて、
押圧具の背面側に係合部を有する係合突起を形成し、
回転操作具の回動軸に、係合突起を挿入させると共に係合部と係止する係止部を備えた
挿入空間を形成し、
回転操作具を回転させて所定位置まで後退させると、押圧具の係合突起と回動軸の係止
部との係合状態を保持したまま回動軸が操作部取付通路との螺合状態を離脱して、回転操
作具を空転可能なように構成したことを特徴とするスライド式ハンガー。
【請求項2】
押圧具の係合突起における少なくとも係合部の形成部位を弾性変形可能とし、回転操作具を所定位置まで後退させて回動軸を操作部取付通路との螺合状態から離脱させたのち、さらに回転操作具を後退方向へ引っ張ることにより、押圧具の係合部が弾性変形して係合突起と回動軸の係止部との係合状態が解除され、回転操作具を本体部から分離できるように構成した請求項1に記載のスライド式ハンガー.
【請求項3】
回動軸の外周面における先端側の一部または操作部取付通路における外方側の一部に無螺子部を形成することにより、回転操作具を所定位置まで後退させると、回動軸が操作部取付通路との螺合状態を離脱するように構成した請求項1または2に記載のスライド式ハンガー。
【請求項4】
回転操作具の回動軸と押圧具との間に弾性部材を介装し、該弾性部材を介して、回動軸から押圧具に対し押圧力を付与するように構成した請求項1〜3のいずれかに記載のスライド式ハンガー。
【請求項5】
弾性部材が、押圧具の係合突起に外嵌されるリング状の形態であって、その内径を、係合突起に形成した係合部の外径より小さく設定した請求項4に記載のスライド式ハンガー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば浴室やシャワールームにおいて使用するシャワーヘッドを、壁面等に取り付けた棒状のバーに沿って昇降自在に保持し、且つバー上の任意位置に停止させ得るように構成したスライド式ハンガーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のスライド式ハンガーとして、特許文献1及び特許文献2に記載のものがある。特許文献1に記載のスライド式ハンガーは、シャワーフック1の本体部3の挿通孔3aに対して進退移動するプッシャー5と、ハンドル7との間に、連接ブッシュ6を本体部3に対して回転可能で且つストッパー4,4により本体部3から脱落しないように介装し、この連接ブッシュ6をプッシャー5とネジ嵌合により接続する。また、ハンドル7と連接ブッシュ6とをセレーション構造を用いて着脱可能に接続する。そして、ハンドル7の内面に設けた係止突起7bがストッパー4,4間の切欠部4a内でのみ移動可能にすることで、ハンドル7の回転可能角度を所定範囲内に規制している。かかる構成により、同文献1のスライド式ハンガーは、ハンドル操作で過度な締付力を作用させないという効果を発揮するとされている。
【0003】
他方、特許文献2に記載のスライド式ハンガーは、シャワーヘッド5を支持してバー(スライドバー3)に沿ってスライドする本体部材70と、スライドバー3に対して固定される固定部材30の各々に挿通孔12,42を設け、この挿通孔12,42にスライドバー3を挿通させることで、本体部材70と固定部材30とを一体化したものであり、これにより、各部材を別材質で形成した場合の強度不足を解消できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平6−18475号公報
【特許文献1】特開2001−11915号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のスライド式ハンガーは、ハンドル7の回動範囲が規制されているため、ハンドル7を回転し続けて本体部3から脱落させる問題は発生しない。しかるに、ハンドル7を連接ブッシュ6に対しビス9で取着する構造を採用している。このため、ハンドル7を取着する際、及び、メンテナンス等の必要時にハンドル7を取り外す際、ドライバー等の工具が必須であり、手間を要する。また、ハンドル7を分離した際、取り外したビス9を紛失し易いという問題が有る。
【0006】
特許文献2に記載のスライド式ハンガーは、ハンドル31を取り付ける手段として、ハンドル31の取付孔32の雌ねじを、固定部材の固定ボルト40の雄ねじに螺合させる構造を採用しており、ビスを用いていない。しかるに、ハンドル31の回転に対し特に制限は設けられていないため、必要以上にハンドル31を回転させ続けると、ハンドル31が容易に脱落する。そして、ハンドル31が脱落した際に、固定ボルト40のブッシュ取付孔46内に配置したスライドブッシュ37やパッキン38が落下して、これらを紛失するという問題を有している。
【0007】
そこで本発明は、ハンドル等の操作部をビス等を用いずに本体部へ取り付けることができ、操作部を後退方向へ回し続けても容易には脱落することのないスライド式ハンガーの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的達成のため、本発明が採用したスライド式ハンガーの特徴とするところは、バーに沿って移動可能な本体部と、シャワーヘッド等を保持する保持部と、本体部をバーに沿って移動可能な状態とバー上の任意位置に停止した状態とに切り替える切替操作部とを備え、本体部に、バーの挿通孔と、本体部の外面から挿通孔に連通する操作部取付通路とが形成され、切替操作部は、本体部内に配置されて挿通孔に貫装したバーに対し進退可能な押圧具と、本体部の操作部取付通路の内周面に形成した雌ねじ部に螺合する雄ねじ部が外周面に形成された回動軸を有する回転操作具とから成り、回転操作具を回転させて回動軸を操作部取付通路内でバーに対し前進させることにより、押圧具を押し出してバーに圧接させ、本体部をバー上に停止させるようになされたスライド式ハンガーにおいて、押圧具の背面側に係合部を有する係合突起を形成し、回転操作具の回動軸に、係合突起を挿入させると共に係合部と係止する係止部を備えた挿入空間を形成し、回転操作具を回転させて所定位置まで後退させると、押圧具の係合突起と回動軸の係止部との係合状態を保持したまま回動軸が操作部取付通路との螺合状態を離脱して、回転操作具を空転可能なように構成したことである。
【0009】
本発明に係るスライド式ハンガーの外観形状については特に制限はなく、従来公知の形態を採用することができる。本発明を、例えば浴室等に設置されるハンドシャワーのシャワーヘッドの保持に使用する場合、保持部を、特許文献1,2に記載されるような従来公知のシャワーフックの構造とすればよい。また、シャワーヘッドを着脱自在にフックで保持する形態ではなく、保持部にブラケットを設け、これに通常は取り外せないよう固定する構造も可能である。さらにシャワーヘッド以外に、鏡や棚などを昇降可能にブラケットで保持する形態も考えられる。
【0010】
前記スライド式ハンガーにおいて、押圧具に設ける係合突起における少なくとも係合部の形成部位を弾性変形可能とし、回転操作具を所定位置まで後退させて回動軸を操作部取付通路との螺合状態から離脱させたのち、さらに回転操作具を後退方向へ引っ張ることにより、押圧具の係合部が弾性変形して係合突起と回動軸の係止部との係合状態が解除され、回転操作具を本体部から分離できるように構成することができる。
係合部の形成部位を弾性変形可能とする構造としては、係合突起を合成樹脂や金属等の弾性を有する部材を用いて二股状に形成し、先端部に幅寸法の大きい係合部を形成することが考えられる。これにより、二股状の係合突起の先端部を弾性的に圧縮して、係合部の外幅寸法を、回動軸の挿入空間に形成した係止部の開口寸法よりも減少させることが可能となる。あるいは、係合部を合成樹脂やゴム等の弾性体で製作し、挿入空間への挿入時に圧縮方向に弾性変形させる態様や、さらに加えて、回動軸側の係止部を弾性体で製作する態様も考えられる。
【0011】
前記スライド式ハンガーにおいて、回動軸の外周面における先端側の一部または操作部取付通路における外方側の一部に無螺子部を形成することにより、回転操作具を所定位置まで後退させると、回動軸が操作部取付通路との螺合状態を離脱するように構成することができる。
この場合、無螺子部を形成した部分の直径(回動軸にあっては無螺子部の外径、操作部取付通路にあっては無螺子部の内径)を、螺子部における谷径とほぼ等しい寸法に形成するとよい。これにより、一方の螺子部の山が、他方の無螺子部表面に近接するから、回動軸の姿勢を安定に保つのが容易になる。
【0012】
前記スライド式ハンガーにおいて、回転操作具の回動軸と押圧具との間に弾性部材を介装し、該弾性部材を介して、回動軸から押圧具に対し押圧力を付与するように構成することができる。これにより、回動軸から押圧具に付与される押圧力が分散され、押圧具及び回動軸に局所的な力が働くのを防止できる。なお、弾性部材としては、合成樹脂やゴム等が考えられる。
【0013】
さらに弾性部材を、押圧具の係合突起に外嵌されるリング状の形態とし、その内径を、係合突起に形成した係合部の外径より小さく設定するとよい。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に係る本発明によれば、押圧具をバーに対し進退操作するための回転操作具を、本体部の操作部取付通路に螺合させて装着する構造としたので、ビス等が不要であり、ドライバー等の工具を使用せずに回転操作具の組み付けが可能である。
回転操作具を回転させて所定位置まで後退させると、回動軸と操作部取付通路との螺合状態が解除されて空転するようになるので、回転操作だけでは、回転操作具はそれ以上後退しない、しかも前記所定位置では、押圧具の係合突起と回動軸の係止部との係合状態が保持される構造なので、回転操作具が不用意に本体部から脱落することがなく、それ故、落下させて傷つけたり破損したりするおそれを無くせる。
【0015】
請求項2に係る本発明によれば、押圧具における少なくとも係合部の形成部位を弾性変形可能とし、回転操作具を所定位置からさらに後退方向へ引っ張ることで、本体部から分離できるように構成したので、メンテナンス等の必要時には、工具を用いることなく、回転操作具を取り外すことが可能である。
【0016】
請求項3に係る本発明によれば、回動軸または操作部取付通路に無螺子部を形成するという簡単な構成で、回転操作具を所定位置で空転させることが可能である。しかも、無螺子部分の直径(回動軸にあっては外径、操作部取付通路にあっては内径)を、螺子部の谷径にほぼ等しい寸法とすれば、空転時における回転操作具の姿勢を安定させることができる。
【0017】
請求項4に係る本発明によれば、弾性部材を介して回動軸から押圧具に対し押圧力を付与するように構成したので、バーに対し押圧具を圧接した際に作用する反力を分散させて、押圧具及び回動軸に局所的な力が作用するのを防止できる。
【0018】
請求項5に係る本発明によれば、リング状弾性部材の内径を、係合突起に形成した係合部の外径より小さく設定したので、回転操作具を本体部から取り外したときに、弾性部材が係止突起から脱落するのを阻止できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明に係るスライド式ハンガーの一実施形態に関するものであって、構成部材を分解して示す側面断面図である。
【
図2】本発明に係るスライド式ハンガーにおける本体部の要部を示すものであって、図(A)は平面図、図(B)は側面断面図である。
【
図3】本発明に係るスライド式ハンガーの押圧具を示すものであって、図(A)は側面図、図(B)は背面図、図(C)は側面断面図、図(D)は平面図である。
【
図4】本発明に係るスライド式ハンガーの連接軸部を示すものであって、図(A)は一部切欠側面図、図(B)は側面断面図である。
【
図5】本発明に係るスライド式ハンガーのハンドル部を示すものであって、図(A)は側面図、図(B)は側面断面図、図(C)は正面図である。
【
図6】本発明に係るスライド式ハンガーの使用状況を説明する図面であって、本体部をバー上に停止させている状態の側面断面図である。
【
図7】本発明に係るスライド式ハンガーの使用状況を説明する図面であって、本体部をバーに沿って移動可能にした状態の側面断面図である。
【
図8】本発明に係るスライド式ハンガーの使用状況を説明する図面であって、回転操作具を所定位置まで後退させて、本体部との螺合状態から離脱させた状態を示す側面断面図である。
【
図9】本発明に係るスライド式ハンガーの使用状況を説明する図面であって、押圧具の係止突起を弾性変形させて、回転操作具を本体部から分離する途中の状態を示す側面断面図である。
【
図10】本発明に係るスライド式ハンガーの使用状況を説明する図面であって、回転操作具を本体部から分離した状態を示す側面断面図である。
【
図11】本発明に係るスライド式ハンガーの異なる実施形態に関するものであって、図(A)は、無螺子部を操作部取付通路の先端側領域に形成した状態の要部を示す側面断面図、図(B)は、回転操作具を螺合状態から離脱する所定位置まで後退させた状況の要部を示す側面断面図である。
【
図12】本発明に係るスライド式ハンガーの異なる実施形態に関するものであって、弾性部材を回動軸の挿入空間内に配置した状態の要部を示す側面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[第1の実施形態]
図1に示すように、本例のスライド式ハンガーXは、バーに沿って移動可能な本体部10と、シャワーヘッド等を保持する保持部Hと、本体部10をバーに沿って移動可能な状態とバー上の任意位置に停止した状態とに切り替える切替操作部とを備える。本例における切替操作部は、本体部10内に配置されてバーに対し進退可能な押圧具20と、外周面に雄ねじ部31aが形成された回動軸31を有する連接軸部30と、この連接軸部30と一体になって回転操作を行うハンドル部40とから構成されている。なお保持部Hの構造については、従来公知の形態を使用できるので、ここでの説明は省略する。
【0021】
本体部10は、
図2に示すように、バーPの挿通孔11と、この挿通孔11の貫通方向に対し直交する方向の連接筒部12が設けられ、この連接筒部12に本体部10の外面から挿通孔11に連通する操作部取付通路13が設けられる。そして、操作部取付通路13の内周面に、雌ねじ部14が形成される。本体部10の表面には、適当な形状のリブ15が設けられ、このリブ15によって形成されるスリット16は、本体部10の外面に装着される挿通孔51を有するケーシング50の位置決め及び回り止めの機能を果たしている。
【0022】
押圧具20は、
図3に示すように、バーに当接する主部21と、その背面側に突設された係合突起22と、係合突起22の基部に外嵌されたリング状の弾性部材24とから成る。主部21の正面(バーに当接する面)は、バーの表面形状に沿うような凹曲面21aに形成するとよい。本例では、係合突起22を、その間隔を弾性的に拡縮できる二股状とし、それぞれの先端部にテーパー状の凸部から成る係合部23,23を設けた。係合突起22の基部に外嵌される弾性部材24は、その内径を、係合部23,23の幅寸法より小さくなるように設定される。これにより、弾性部材24を強制的に拡径するか、あるいは係合突起22,22に外力を加えて間隔を狭めない限り、弾性部材24が、係合突起22から脱落することがない。さらに同図(C)に示す如く、係合突起22の基部に溝を設け、この溝に弾性部材24の内周面を嵌合させて、容易には移動しないような装着構造を採用してもよい。
【0023】
本例では、押圧具20をバーに対し圧接させる操作を行う回転操作具を、本体部10の操作部取付通路13に形成した雌ねじ部14と螺合する回動軸31を備えた部分(連接軸部30)と、これを回転させる操作力を付与する部分(ハンドル部40)とをそれぞれ別体に製作し、両者を適当な嵌合構造で一体に組み付ける構成を採用した。
【0024】
連接軸部30は、
図4に示す如く、外周面に雄ねじ部31aを形成した回動軸31と、回動軸31の一端部に設けた同心筒状のフランジ部32と、回動軸31の末端に設けられて後述のハンドル部40と一体的に回転させるための接続部33とから成っている。
回動軸31の外周面には、基部側の領域に雄ねじ部31aが形成され、先端側の領域は無螺子部31bとなした。無螺子部31bの外径は、雄ねじ部31aにおける谷径とほぼ等しく設定される。雄ねじ部31aと無螺子部31bとの形成比率は、取付対象となる本体部10の寸法や形態に応じ適宜設定される。
回動軸31の中央部には、押圧具20の係合突起22を挿入させるための挿入空間34が形成される。挿入空間34の内周面における開口部付近に、断面をテーパー状とした係止部35が全周にわたり凸設される。係止部35の内径は、押圧具20の係合突起22における係合部23の外幅寸法より小さく、且つ、係合突起22における係合部23の形成箇所以外の部分の外幅寸法とほぼ等しく設定される。
【0025】
連接軸部30のフランジ部32は、ハンドル部40の収納凹部43に収まる外径寸法に形成される。また、フランジ部32の適所に複数のスリット32aを形成して、わずかに弾性的な縮径が可能になされている。
連接軸部30末端の接続部33は、ハンドル部40に対し一体回転できるよう装着される部位であって、セレーション等の適当な回り止め構造が設けられる。
【0026】
ハンドル部40は、
図5に示す如く、主部41の中央部に、連接軸部30を収納するための収納凹部43が設けられ、外表面の適所に、回転操作力を伝達し易くするための張出部42が形成される。収納凹部43における開口部の周縁には、収納した連接軸部30が脱落するのを防止する係止爪44が適数個設けられる。また、収納凹部43の奥側には、連接軸部30の接続部33を嵌合させる嵌合部45が設けられ、嵌合部45の内周面にセレーション45a等の凹凸構造が形成される。
【0027】
上記連接軸部30は、ハンドル部40の収納凹部43に嵌着して一体化され、回転操作具を構成する。連接軸部30を嵌着する際、フランジ部32は、スリット32a(
図4参照)を設けたことにより縮径して収納凹部43内に納められる。また、接続部33を嵌合部45にセレーション結合することで一体回転可能となる。さらに、係止爪44がフランジ部32の端面と係合することにより、連接軸部30がハンドル部40から脱落するのが防止される。
【0028】
本例では、回転操作具を連接軸部30とハンドル部40とを組み合わせて構成する態様としたので、連接軸部30にはメッキを施す必要がなく、外部から観察されるハンドル部40だけにメッキ仕上げを施せばよいから、メッキ作業が容易である。また、ハンドル部40には、回転操作時の応力が直接には作用しないから、メッキ層にクラックを発生させにくく、美観性を長期にわたり維持できる。
【0029】
前記の如く構成されたスライド式ハンガーXは、
図1に示す如く、押圧具20を本体部10の挿通孔11内に配置する。他方、ハンドル部40の収納凹部43に嵌着して一体化した連接軸部30の回転軸31の雄ねじ部31aを、本体部10の操作部取付通路13の雌ねじ部14に螺合させる。そして、押圧具20の係合突起22を、操作部取付通路13を介して、回転軸31の挿入空間34内へ差し入れる。このとき、係合突起22先端の係合部23がテーパー形状であると共に、挿入空間34の係止部35も断面をテーパー形状としたので、テーパー部分の表面どうしを擦り合わせることにより、係合部23が係止部35表面に案内され、二股状の係合突起22が弾性的に撓んで幅寸法を縮小させるので、係合部23を挿入空間34の係止部35を通過させて内部まで挿入することが容易にできる。係合部23が係止部35を通過すると、係合突起22の形状は弾性的に元に戻る。なお、係止部35を挿入空間34の全周にわたり形成したので、係合突起22の挿入位置は任意でよい。
【0030】
しかる後、
図6に示す如く、ハンドル部40を回転操作し、連接軸部30の回動軸31を操作部取付通路13内を螺進させ、その先端部で、弾性部材24を介し、押圧具20を押し出し、本体部10及びケーシング50の挿通孔11,51に挿通させたバーPの表面に圧接させる。これにより、スライド式ハンガーXの本体部10を、バーP上の所望位置に停止させることができる。このとき、回動軸31から押圧具20に及ぼされる加圧力は弾性部材24を介して伝えられるから、力が分散し、押圧具20及び回動軸31それぞれに力が局所的に集中するのを回避できる。また、押圧具20がバーPに対し作用させる押圧力を均一化できる。、
【0031】
スライド式ハンガーXの本体部10をバーPに沿って移動可能にするには、ハンドル部40を前記とは逆方向に回転操作する。すると、
図7に示す如く、連接軸部30の回動軸31が後退して押圧具20から離隔するので、押圧具20のバーPに対する押圧力が無くなり、本体部10が移動可能となる。
【0032】
ところで、ハンドル部40の後退方向への回転操作をさらに続けると、
図8に示すように、回動軸31の雄ねじ部31aが、本体部10の操作部取付通路13の雌ねじ部14との螺合状態から離脱し、回動軸31先端側の無螺子部31bが操作部取付通路13内に収納された状態となる。この状態になると、ハンドル部40と連接軸部30とは空転して、それ以上、後退しなくなる。しかも、このとき、押圧具10の係合突起22の係合部23と、回動軸31の挿入空間34の係止部35との係合状態は維持されるように設定されているので、空転するハンドル部40及び連接軸部30が、不用意に本体部10から脱落することがない。また、無螺子部31bの外径を雄ねじ部31aの谷径にほぼ等しく設定したので、無螺子部31bの表面が、操作部取付通路13の雌ねじ部14に当接し、回動軸31の姿勢を安定させる。
【0033】
メンテナンス等の必要に応じ、ハンドル部40及び連接軸部30を本体部10から取り外したいときは、
図9に示すように、空転可能となったハンドル部40を後退方向へさらに引っ張る。すると、押圧具20の係合突起22が弾性的に撓んで、係合部23の外幅寸法を、回動軸31の係止部35の内径以下にする。そして、さらにハンドル部40を後退方向へ引っ張ると、
図10に示すように、係合突起22の係合部23と、回動軸31の係合状態が解除され、ハンドル部40及び連接軸部30が、本体部10から分離される。この分離作業は、係合突起22先端の係合部23及び挿入空間34の係止部35双方のテーパー形状により案内されるため、比較的容易である。
【0034】
本発明に係るスライド式ハンガーXは、ハンドル部40と連接軸部30とから成る回転操作具を、ビス等を使用せずに、本体部10に対し着脱できる構造である。それ故、ドライバー等の工具を用いずに、組み付け作業及び分解作業が可能である。また、ハンドル部40の回転操作を続けると、ハンドル部40及び連接軸部30は空転するようになるが、本体部10から脱落しないので、意図せずに落下させて、破損させたり、部品を紛失したりするおそれが解消される。
【0035】
[第2の実施形態]
図11に示す如く、回動軸31における外周面のほぼ全長に雄ねじ部31aを形成し、操作部取付通路13の内周面における外方側領域に無螺子部14bを形成し、残りの領域に雌ねじ部14aを形成することも可能である。かかる構成によっても、同図(A)に示す如く、ハンドル部40を前進方向へ回転させれば、押圧具20をバーに圧接させて、本体部10をバー上に停止させることができる。そして、同図(B)に示す如く、ハンドル部40を後退方向へ回転させて、回動軸31が操作部取付通路13内の所定位置に達すれば、回動軸31が操作部取付通路13との螺合状態から離脱して、空転可能とすることができる。
【0036】
[第3の実施形態]
図12に示すように、押圧具20に押圧力を及ぼす弾性部材25を、連接軸部30の回動軸31における挿入空間34内に配設することも可能である。連接軸部30は、ハンドル部40の収納凹部43内に、容易には取り外せないように嵌着されているから、ハンドル部40及び連接軸部30を本体部10から分離したときに、上記弾性部材25が脱落することはない。
【符号の説明】
【0037】
X…スライド式ハンガー P…バー H…保持部 10…本体部 11…挿通孔 12…連接筒部 13…操作部取付通路 14…雌ねじ部 20…押圧具 21…主部 22…係合突起 23…係合部 24…弾性部材 25…弾性部材 30…連接軸部 31…回動軸 31a…雄ねじ部 31b…無螺子部 32…フランジ部 33…接続部 34…挿入空間 35…係止部 40…ハンドル部 41…主部 42…張出部 43…収納凹部 44…係止爪 45…嵌合部