【実施例】
【0021】
(実験例1) ペプチドとして、ACTH(商品名:ACTH(Human, 1-24),ペプチド研究所製,型番:4109-v)とDynorphin A(商品名:Dynorphin A(Human, 1-13),ペプチド研究所製,型番: 4080-v)を使用した。ACTHの0.5 mgを超純水(10μL、25μL、30μL)にそれぞれ溶解したペプチド溶液1〜3と、Dynorphin Aの0.5 mgを超純水(10μL、25μL、30μL)にそれぞれ溶解したペプチド溶液4〜6を用意した。また、多孔体として、メソポーラスシリカ(TMPS‐4(4.2nm)、TMPS‐7(7.29nm);太陽化学社製)と、マイクロポーラスシリカ(TMPS‐1.5(1.8nm);太陽化学社製)使用した。
【0022】
各多孔体の乾燥粉体25 mgをそれぞれ1.5mL容エッペンチューブに入れ、そこにACTHのペプチド溶液またはDynorphin Aのペプチド溶液を添加し、ボルテックス(商品名:VORTEX-GENE2,サイエンスインダストリーズ社製,型番:G-560)にて攪拌し、ペプチドを多孔体に包接または吸着させた。なお、TMPS‐1.5についてはペプチド溶液1及び4を、TMPS‐4についてはペプチド溶液2及び5を、TMPS‐7についてはペプチド溶液3及び6をそれぞれ使用した。
【0023】
これに超純水1 mLを添加し、ボルテックスを用いて約30秒間攪拌した後に15,000 rpmで10分間遠心処理した。この洗浄操作を3回行い、上清と沈殿物(多孔体)をそれぞれ回収した。回収した上清(約900μL)の1/100量をSDSサンプルバッファー(商品名:Tricine Sample Buffer,バイオラッド社製,型番:161-0739)に溶解して45℃で1時間加熱処理し、電気泳動用サンプルとした(除去物)。
【0024】
回収した多孔体を遠心濃縮機(商品名:超小型遠心式濃縮機 スピンドライヤーミニ,タイテック社製,型番:VC-15S)にて乾固した後に超純水500μLを添加して50 mg/mLの懸濁液とした。シリカが0.26 mgとなるように0.5 mLチューブに懸濁液を分注した後に、遠心濃縮機にて乾固した。50 mMグリシン−塩酸緩衝液(pH 2.5)あるいは100mMリン酸カリウム緩衝液(pH 7)100μLを乾固した多孔体を含むチューブに分注し、ローテーター(商品名:小型回転培養機 ローテーター,タイテック社製,型番:RT-50)を用いて室温で1時間攪拌した。15,000 rpmで10分間遠心処理を行い、上清と沈殿物をそれぞれ回収した。回収した上清(約75μL)の1/4量を遠心乾燥機にて乾固して得た固形物をSDSサンプルバッファーに溶解し、45℃で1時間加熱処理して電気泳動用サンプルとした(剥離物)。
【0025】
また、回収した沈殿物を50 mMグリシン−塩酸緩衝液(pH 2.5)あるいは100 mMリン酸カリウム緩衝液(pH 7)1 mLで3回洗浄した後に50 %アセトニトリル,0.1 % TFA溶液1 mLを添加し、ローテーターを用いて室温で1時間攪拌して多孔体からペプチドを溶出させた。15,000 rpmで10分間遠心処理して溶出液を回収した。回収した溶出液(約900μL)の1/4量を遠心濃縮機にて乾固して得た固形物をSDSサンプルバッファーに溶解し、45℃で1時間加熱処理して電気泳動用サンプルとした(溶出物)。
得られた電気泳動用サンプルを、泳動・染色して、ペプチドを可視化した結果を
図3に示す。
【0026】
Dynorphin Aペプチドは、13アミノ酸残基(aa)長、およそ7 nm相当長のサイズのペプチドであり、
図3に示されるように、孔径が4.2 nmと7.29nmのメソ多孔体の場合(TMPS-4とTMPS-7)、Dynorphin Aペプチドは、期待どおり溶出物として回収された。一方、孔径が1.8 nmのマイクロ多孔体(TMPS-1.5)を用いた場合、Dynorphin Aペプチドのほとんどは剥離物として可視化され、溶出物としては検出されなかった。このことから1.8 nm孔径のマイクロ多孔体は、ペプチドを包接しないことがわかった。
また、24aa長のACTHペプチドにおいても同様の結果が得られた(
図3参照)。また、多孔体に吸着されたペプチドを剥離するためには、酸性緩衝液が有効であり、中性緩衝液では剥離効果が弱いことが確認された。
【0027】
(実験例2) まず、ヒト血清(健常者ドナー血清; Sunfco社)を50 mMグリシン−塩酸緩衝液(pH 2.5)で50倍希釈した。この希釈液に、ACTHを終濃度15 ng/μLになるように加え、血清−ペプチド混合液とした。孔径の異なる4種類の多孔体粉体(TMPS‐7(7.29 nm)、TMPS‐4(4.2 nm)、TMPS‐2.7(2.85 nm)、TMPS‐1.5(1.8 nm))をそれぞれ2 mg秤量してから、1.5 mL容エッペンチューブに入れた。そこへ、上記の血清−ペプチド混合液(100 μL)を添加した。ローテーターを用いて室温で1時間攪拌し、多孔体にペプチドを包接させた。15,000 rpmで10分間遠心処理を行い、上清と沈殿物をそれぞれ回収した。回収した上清(約75 μL)の1/5量を遠心乾燥機にて乾固して得た固形物をSDSサンプルバッファーに溶解し、45℃で1時間加熱処理して電気泳動用サンプルとした(剥離された吸着物)。
【0028】
また、回収した沈殿物を50 mMグリシン−塩酸緩衝液(pH 2.5)1 mLで3回洗浄した後に50 %アセトニトリル,0.1 % TFA溶液1 mLを添加し、ローテーターを用いて室温で1時間攪拌して多孔体に包接されたペプチドを溶出した。15,000 rpmで10分間遠心処理を行って溶出液を回収した。回収した溶出液(約900 μL)の1/5量を遠心濃縮機にて乾固して得た固形物をSDSサンプルバッファーに溶解して45℃で1時間加熱処理し、電気泳動用サンプルとした(保護・単離された溶出物)。
【0029】
これら電気泳動用サンプルを電気泳動と染色に供した後、ペプチドをバンドとして可視化した。それらのバンドの濃淡をデンシトメトリーによって定量化した。定量化には、画像解析ソフトウェア「Image J」を用いた。
【0030】
図4に定量化した結果を示す。
図4に示されるグラフにおいて、各多孔体の左側のバーは、多孔体の孔外に非特異的に吸着していたペプチド(剥離された吸着物)の量を示し、右側のバーは、多孔体の孔内部に包接されていたペプチド(溶出)の量を示す。右側のバーが左側のバーよりも高い場合、すなわち、包接が有意である場合はメソ多孔体を用いた場合であった。一方、1.8nmの孔径のマイクロ多孔体を用いた場合では、包接ではなく、アーティファクト(包接されずに残存したペプチドや多孔体の側壁面に吸着されたペプチドなど)の非特異吸着が支配的であり、ACTHの包接効果は認められなかった。
【0031】
(実験例3) 多様なペプチド種の動態を観察するため、まず、ペプチドの混合物を用意した。ペプチドセット(商品名:MOLECULAR WEIGHT MARKER FOR PEPTIDES,シグマアルドリッチ社製,型番:MW-SDS-17S)、ACTHおよびDynorphin Aをそれぞれ50ng/μL、15ng/μLおよび15ng/μLとなるように50 mMグリシン−塩酸緩衝液(pH 2.5)に溶解し、ペプチド混合液とした。また、対照として、50 mMグリシン−塩酸緩衝液(pH 2.5)を100 mMリン酸カリウム緩衝液(pH 7)に変更したこと以外は、上記と同様にして対照のペプチド混合液とした。
【0032】
この混合液(100 μL)を、下記のACTHキャッピング処理を施した多孔体粉体1または2を収容したチューブに添加した。ACTHキャッピング処理は以下の通りである。
ACTH 0.5 mgを超純水25 μLあるいは10 μLに溶解してACTH溶液1及び2を調製した。このACTH溶液1をメソ多孔体粉体(TMPS-4)25 mgを収容したチューブに添加し、ACTH溶液2をマイクロ多孔体粉体(TMPS-1.5)25 mgを収容したチューブに添加し、それぞれボルテックスにて攪拌して各溶液を各粉体に吸収させ、ペプチドを包接させた。これらに超純水1 mLを添加してボルテックスを用いて約30秒間攪拌した後に15,000 rpmで10分間遠心処理を行った。この洗浄操作を3回行い、沈殿物(ペプチド包接多孔体粉体)を回収した。回収したペプチド包接多孔体粉体を遠心濃縮機にて乾固した後に超純水500 μLを添加して50 mg/mLの懸濁液とした。ペプチド包接多孔体粉体が2.8 mgとなるように0.5 mLチューブに懸濁液を分注した後に、遠心濃縮機にて乾固して、ACTHキャッピング処理を施したメソ多孔体粉体1(TMPS-4)およびマイクロ多孔体粉体2(TMPS-1.5)を得た。
【0033】
ペプチド混合液を添加したキャッピング処理済みメソ多孔体粉体1またはマイクロ多孔体粉体2を収容したチューブを、ローテーターを用いて攪拌(室温で1時間)し、キャッピング処理済みメソ多孔体粉体1またはマイクロ多孔体粉体2の孔外部表面へのペプチドの非特異的な吸着を促進させた。15,000 rpmで10分間遠心処理を行い、多孔体粉体1または2を除去してから、その上清を電気泳動で分析した。その結果を
図5に示す。
【0034】
図5からメソ多孔体TMPS-4およびマイクロ多孔体TMPS-1.5の何れにおいても酸性溶液で洗浄することにより、非特異的に吸着した種々のペプチド群が剥離されたことが確認された。しかしながら、中性溶液で洗浄した場合には剥離が観察されなかった(ゲルの右側部)。このためペプチドを包接したメソ多孔体に非特異吸着したペプチドを剥離するためには酸性溶液で洗浄することが有効であることが確認された。
【0035】
(実験例4) ヒト血清に混和されたACTHペプチドが、メソ多孔体によって包接されることを確認するために、実験例2において、メソ多孔体TMPS‐7(7.29 nm)マイクロ多孔体TMPS‐1.5(1.8 nm)を用いて得られた電気泳動用サンプルを、電気泳動と染色に供した後、ペプチドをバンドとして可視化した結果を
図6に示す。
【0036】
包接効果がほとんど認められないマイクロ多孔体TMPS‐1.5(1.8 nm)を用いた場合は、ACTHのバンドがほとんど認められなかった。一方、メソ多孔体TMPS‐7(7.29 nm)を用いた場合は、ACTHのバンドがほとんど認められた。したがって、メソ多孔体への包接によって、ヒト血清からACTHが保護されていることが確認された。
【0037】
(実験例5) ヒト血清に添加されたACTHペプチドがメソ多孔体に包接されることによって、該ペプチドが長時間安定に保存されるかどうかを確認した。血清、ACTHおよびPBS溶液(pH 7.4)(商品名:Phosphate Buffered Saline 10×, ギブコ社製,型番:70011)を用いて、以下の2種類の血清−ペプチド混合液(A液およびB液)を調製した。A液(対照)は、2μLのヒト血清と8μLのPBSを混合して調製した。B液は、2μLの血清と1.5 μgのACTHと8μLのPBSを混合して調製した。メソ多孔体粉体(TMPS-7)10 mgを1.5 mLチューブにとり、A液またはB液を総計10μLとなるように添加して、ペプチドを包接させた。これらのチューブを37 ℃で、0時間、1時間、そして3時間恒温静置した。
【0038】
静置後に、超純水(1 mL)で洗浄して、沈殿物を回収した。その沈殿物を50 mMグリシン溶液(pH 2.5)1 mLで3回洗浄した後、50 %アセトニトリル,0.1 % TFA溶液1 mLを添加し、ローテーターを用いて室温で1時間攪拌してメソ多孔体に包接されたペプチドを溶出した。15,000 rpmで10分間遠心処理を行って溶出液を回収した。回収した溶出液(約900 μL)の1/5量を遠心濃縮機にて乾固して得た固形物をSDSサンプルバッファーに溶解して45℃で1時間加熱処理し、電気泳動用サンプルとした。さらに対照として、メソ多孔体粉体を加えないサンプルも合わせて調製した。さらに、ACTH単独(0.3 μg)をSDSサンプルバッファーに溶解して45℃で1時間加熱処理して電気泳動用外標を用意した。上記の実験例と同様に、電気泳動と染色、そして染色像のデンシトメトリーを行い、その結果を
図7に示した。
【0039】
図7において、レーン1〜3は、ACTHを含まない対照のA液に多孔体を添加した結果、レーン4〜6は、ACTH及び血清を含むB液にメソ多孔体を添加した結果、レーン7〜9は、ACTHを含まない対照のA液の結果(多孔体未添加)、レーン10〜12は、ACTH及び血清を含むB液の結果(メソ多孔体未添加)をそれぞれ示している。
【0040】
血清中には、ペプチドを分解したり、あるいは捕捉したりして、ペプチドを消失させる因子(例えばアルブミンタンパク質やプロテアーゼ)が大量に含まれている。従って、メソ多孔体がACTHペプチドを包接しない限り、血清に添加されたACTHは、時間の経過と共に減少する。
図7において、メソ多孔体が不在のとき、ACTHは恒温静置時間と共に徐々に減少していった(レーン10〜12の比較)。
一方、メソ多孔体によりACTHが包接されているとき、ACTHは恒温静置時間が経過してもあまり減少しないことが確認された(レーン4〜6の比較)。各レーンのバンドの濃淡を定量化してプロットした結果を
図8に示す。この結果から、ACTHの半減期を計算すると、メソ多孔体によるペプチドの保護効果は、半減期を3.5時間から11時間に延長させる程優れていることが判明した。
【0041】
(実験例6) メソ多孔体によるプロテアーゼに対するペプチドの保護効果を確認する加速実験を行った。ACTHをPBS溶液(pH 7.4)に溶解して0.25μg/μLとした。Proteinase K(商品名:Proteinase K(Fungal),インビトロジェン社製,型番:25530-015)をPBS溶液(pH 7.4)に溶解して0.1μg/μLとした。メソ多孔体粉体(TMPS-7)10 mgを1.5 mLチューブにとり、ACTH溶液12μLを添加、ボルテックスにて攪拌して該溶液を粉体に吸収させ、ペプチドを包接させた。ここにProteinase K溶液100μLを添加し、ボルテックスにて約30秒間攪拌した後に37℃で0時間、0.5時間、1時間、3時間および24時間インキュベートした。その後95℃で10分間加熱処理してProteinase Kを不活性化した。15,000 rpmで10分間遠心処理を行って沈殿物を回収し、沈殿物を50 mMグリシン−塩酸緩衝液(pH 2.5)1mLで3回洗浄した後、50 %アセトニトリル,0.1 % TFA溶液1 mLを添加し、ローテーターを用いて室温で1時間攪拌して多孔体に包接されたペプチドを溶出した。15,000 rpmで10分間遠心処理を行って溶出液を回収した。回収した溶出液(約900 μL)の1/5量を遠心濃縮機にて乾固して得た固形物をSDSサンプルバッファーに溶解して45℃で1時間加熱処理し、電気泳動用サンプルとした。
【0042】
ACTH 0.03 μg, Proteinase K 0.1 μg/μL溶液100 μLを、メソ多孔体粉体(MPS-7)非存在条件下で37℃にて0時間、0.5時間、1時間、3時間および24時間インキュベートした後に95℃で10分間加熱処理してProteinase Kを不活性化した。この反応液の1/5量を遠心濃縮機にて乾固して得た固形物をSDSサンプルバッファーに溶解して45℃で1時間加熱処理し、電気泳動用サンプルとした。得られた電気泳動用サンプルを電気泳動した後に染色を行い、電気泳動像を得た。その結果を
図9(a)に示す。また、ACTHのバンドの濃淡を定量化してプロットした結果を
図9(b)に示す。
【0043】
Proteinase Kによる激烈な分解条件下において、メソ多孔体の非存在下ではACTHペプチドはたった43分(0.03日相当)でほぼ消失した。一方、メソ多孔体にACTHペプチドを包接させた場合には、半減期は2.4日にまで延長した。このことからメソ多孔体による包接がProteinase Kに対して優れたペプチド保護効果を奏することが判明した。
【0044】
(実験例7) 実質包接効果がないマイクロ多孔体で夾雑タンパク質(長鎖ペプチド)を取り除き、そのあとで包接効果のあるメソ多孔体で目的とするペプチド(短鎖ペプチド)を単離する確認実験を行った。実験例1〜3で示したように、マイクロ多孔体とペプチドの間に生じる非特異吸着を利用して夾雑タンパク質(長鎖ペプチド)の除去を行った。
【0045】
血清0.5 μLをSDSサンプルバッファーに溶解して45℃で1時間加熱処理し、電気泳動用サンプルとした(ヒト血清)。
【0046】
血清100 μLを50 mMグリシン−塩酸緩衝液(pH 2.5)200 μLと混合した。この血清溶液300 μLに マイクロ多孔体粉体(TMPS-1.5)10 mgを添加して、ローテーターを用いて室温で1時間攪拌した。15,000 rpmで10分間遠心処理を行い、上清と沈殿物をそれぞれ回収した。
回収した沈殿物を50 mMグリシン−塩酸緩衝液(pH 2.5)1 mLで3回洗浄した後、50 %アセトニトリル,0.1 % TFA溶液1 mLを添加し、ローテーターを用いて室温で1時間攪拌してマイクロ多孔体に吸着されたペプチドを溶出した。15,000 rpmで10分間遠心処理を行って溶出液を回収した。回収した溶出液(約900 μL)の1/10量を遠心濃縮機にて乾固して得た固形物をSDSサンプルバッファーに溶解して45℃で1時間加熱処理し、電気泳動用サンプルとした(多孔質体の孔外に非特異的吸着した廃棄物)。
【0047】
回収した上清(約250 μL)の1/100量を遠心濃縮機にて乾固して得た固形物をSDSサンプルバッファーに溶解して45℃で1時間加熱処理し、電気泳動用サンプルとした(上清物)。残りの上清(約250 μL)にメソ多孔体粉体(TMPS-7)10 mgを添加して、ローテーターを用いて室温で1時間攪拌した。15,000 rpmで10分間遠心処理を行い、沈殿物を回収した。
回収した沈殿物を50 mMグリシン溶液(pH 2.5)1mLで3回洗浄した後、50 %アセトニトリル,0.1 % TFA溶液1 mLを添加し、ローテーターを用いて室温で1時間攪拌してメソ多孔体に包接されたペプチドを溶出した。15,000 rpmで10分間遠心処理を行って溶出液を回収した。回収した溶出液(約900 μL)の1/10量を遠心濃縮機にて乾固して得た固形物をSDSサンプルバッファーに溶解して45℃で1時間加熱処理し、電気泳動用サンプルとした(沈殿回収物)。
【0048】
得られた電気泳動用サンプルを電気泳動した後に染色を行い、電気泳動像を得た。結果を
図10に示す。
【0049】
前述のように、マイクロ多孔体はペプチド包接効果がなく、アーティファクトの非特異吸着が支配的である。しかし、この性質を利用することで、ヒト血清中の夾雑物(長鎖ペプチド)の一部が除去された。さらに、夾雑物除去処理を施した血清にペプチド包接効果を有するメソ多孔体を添加することにより、未処理のヒト血清の電気泳動上では認められなかった短鎖ペプチドが濃縮・回収された。これにより、マイクロ多孔体による夾雑物の除去処理を行うことにより、血清中の短鎖ペプチドを単離できる可能性があることが判明した。例えば、乳がんの指標の候補としては、長鎖ペプチドよりも短鎖ペプチドが優れていることが報告されており、そのような10aa長〜50aa長の短鎖ペプチドの探索のために、メソ多孔体を活用できる可能性があることが判った。
【0050】
(実験例8)〔無孔質シリカによるペプチド含有試料の前処理〕
包接効果がない無孔質シリカで夾雑タンパク質(長鎖ペプチド)を取り除いた後、包接効果のあるメソ多孔体を用いて、目的とするペプチド(短鎖ペプチド)を単離する確認実験を電気泳動により行った。
電気泳動用サンプルは、下記のようにして合計6サンプルを調製した。
【0051】
血清0.25μLをSDSサンプルバッファーに溶解して45℃で1時間加熱処理し、電気泳動用サンプルとした(血清サンプル)。
【0052】
血清50μLを50mMグリシン−塩酸緩衝液(pH 2.5)200μLと混合した。この血清溶液250 μLに 無孔質シリカ(商品名「サンスフェアNP−100」、粒径10μm、AGCエスアイテック株式会社製)10 mgを添加して、ローテーターを用いて室温で1時間攪拌した。15,000rpmで10分間遠心処理を行い、上清と沈殿物をそれぞれ回収した。
上清に再度、無孔質シリカ10 mg を添加して、ローテーターを用いて室温で1時間撹拌し、上清と沈殿物を回収した。
回収した上清を、さらに上記と同様の操作を3回繰り返すことにより、沈殿物を合計6回回収した。
【0053】
上記操作において1回目、3回目及び5回目に回収した沈殿物に対し、50mMグリシン−塩酸緩衝液(pH2.5)1mLで2回洗浄し、超純水 1 mLで洗浄後、50 %アセトニトリル,0.1 % TFA溶液1mLを添加し、ローテーターを用いて室温で1時間攪拌して無孔質シリカに吸着したペプチドを溶出した。15,000rpmで10分間遠心処理を行って溶出液を回収した。回収した溶出液(約900μL)の1/10量を遠心濃縮機にて乾固して得た固形物をSDSサンプルバッファーに溶解して45℃で1時間加熱処理し、電気泳動用サンプルとした(NSで排除した夾雑物1st、3rd、5thサンプル)。
【0054】
また、上記操作において最終的に得られた上清(約250μL)にメソ多孔体粉体(TMPS-7)10mgを添加して、ローテーターを用いて室温で1時間攪拌した。15,000rpmで10分間遠心処理を行い、沈殿物を回収した。回収した沈殿物を50mMグリシン緩衝液(pH2.5)1mLで2回洗浄した後、超純水1 mLで洗浄し、50 %アセトニトリル,0.1 % TFA溶液1mLを添加し、ローテーターを用いて室温で1時間攪拌してメソ多孔体に包接されたペプチドを溶出した。15,000rpmで10分間遠心処理を行って溶出液を回収した。回収した溶出液(約900μL)の1/10量を遠心濃縮機にて乾固して得た固形物をSDSサンプルバッファーに溶解して45℃で1時間加熱処理し、電気泳動用サンプルとした(NS-MPSサンプル)。
【0055】
ここで、無孔質シリカによる夾雑タンパク質の除去工程を行わなかったこと以外は、上記と同様の工程を行って得た溶出液を用いて調製された電気泳動サンプルも準備した。(MPSサンプル)。
【0056】
上記で得られた6つの電気泳動用サンプルを電気泳動した後に染色を行い、電気泳動像を得た。結果を
図11に示す。
無孔質シリカはペプチド包接効果がなく、該シリカの外表面へのアーティファクトの非特異吸着が支配的である。しかし、この性質を利用することにより、ヒト血清中でメソ多孔体の孔をふさぐ夾雑物(長鎖ペプチド、とりわけアルブミン)を除去することができた。さらに、夾雑物除去処理を施した血清にペプチド包接効果を有するメソ多孔体を添加することにより、メソ多孔体のメソポア中にペプチドがより濃縮され、未処理のヒト血清の電気泳動上ではみられなかった短鎖ペプチドが確認することが出来た。
これにより、無孔質シリカによる夾雑物の除去処理を行うことで血清中の短鎖ペプチドをより多く回収できることが判明した。
【0057】
(実験例9)〔プロテアーゼによる前処理〕
血清0.5 μLをSDSサンプルバッファーに溶解して45℃で1時間加熱処理し、電気泳動用サンプルとした(
図12のレーン1)
血清100 μLを50 mMグリシン−塩酸緩衝液(pH 2.5)200 μLと混合した。この血清溶液300 μLに マイクロ多孔体粉体(TMPS-1.5)10 mgを添加して、ローテーターを用いて室温で1時間攪拌した。15,000 rpmで10分間遠心処理を行い、上清を回収した。
【0058】
回収した上清(約250 μL)に、メソ多孔体粉体(TMPS-7)10 mgを添加して、ローテーターを用いて室温で1時間攪拌した。15,000 rpmで10分間遠心処理を行い、上清と沈殿物をそれぞれ回収した。
【0059】
回収した沈殿物を50 mMグリシン溶液(pH 2.5)1mLで3回洗浄した後、50 %アセトニトリル,0.1 % TFA溶液1 mLを添加し、ローテーターを用いて室温で1時間攪拌してメソ多孔体粉体に包接されたペプチドを溶出した。15,000 rpmで10分間遠心処理を行って溶出液を回収した。回収した溶出液(約900 μL)の1/10量を遠心濃縮機にて乾固して得た固形物をSDSサンプルバッファーに溶解して45℃で1時間加熱処理し、電気泳動用サンプルとした(
図12のレーン2)。
【0060】
メソ多孔体粉体(TMPS-7)(口径7.29 nm)10 mgを1.5 mLチューブにとり、血清1.5 μLを添加、ボルテックスにて約30秒間攪拌して血清を粉体に吸収させた後に8 M尿素,50 mMトリス−塩酸緩衝液(pH 7) 200 μLを添加して、室温で30分間インキュベートした。15,000 rpmで10分間遠心処理を行って沈殿物を回収した。これに1 mM塩化カルシウム, 50 mMトリス−塩酸緩衝液(pH 7) 500 μLおよびトリプシン(商品名:Sequencing Grade Modified Trypsin,プロメガ社製,型番:V5111)5 μgを添加して、ローテーターを用いて37℃で2.5時間攪拌,インキュベートした。15,000 rpmで10分間遠心処理を行って沈殿物を回収し、これを超純水1 mLで3回洗浄した後に、50 %アセトニトリル,0.1 % TFA溶液1 mLを添加し、ローテーターを用いて室温で1時間攪拌してメソ多孔体に包接されたペプチドを溶出した。15,000 rpmで10分間遠心処理を行って溶出液を回収した。回収した溶出液(約900 μL)の1/3量を遠心濃縮機にて乾固して得た固形物をSDSサンプルバッファーに溶解して45℃で1時間加熱処理し、電気泳動用サンプルとした(
図12のレーン3)。
【0061】
得られた電気泳動用サンプルを電気泳動した後に染色を行い、電気泳動像を得た。結果を
図12に示す。
このようにプロテアーゼとメソ多孔体とを併用した結果、未処理のヒト血清の電気泳動上では認められなかった短鎖ペプチドが回収された(
図12のレーン3)。したがって、本発明において、プロテアーゼとメソ多孔体の併用は、実験例7で示した方法と同様に、血清中の短鎖ペプチドの単離・探索に有効である可能性があることが判明した。
【0062】
(実験例10) ACTH 0.5 mgを超純水30μLに溶解してペプチド溶液を調製した。このペプチド溶液全量(30 μL)をメソ多孔体粉体(TMPS-7)25 mgに添加、ボルテックスにて攪拌して該溶液を粉体に吸収させ、ペプチドを包接させた。これに超純水1 mLを添加し、ボルテックスを用いて約30秒間攪拌した後に15,000 rpmで10分間遠心処理を行った。この洗浄操作を3回行い、沈殿物(ペプチド包接メソ多孔体粉体)を回収した。
【0063】
回収したペプチド包接メソ多孔体粉体を遠心濃縮機にて乾固して得た固形物に超純水500 μLを添加して50 mg/mLの懸濁液とした。ペプチド包接メソ多孔体粉体が2.8mgとなるように0.5 mLチューブに懸濁液を分注した後に、遠心濃縮機にて乾固した。
【0064】
50 mMグリシン−塩酸緩衝液(pH 2.5)100μLを、分注,乾固したペプチド包接メソ多孔体粉体に添加し、ローテーターを用いて室温で1時間攪拌した。15,000 rpmで10分間遠心処理を行い、沈殿物を回収した。回収した沈殿物を50 mMグリシン−塩酸緩衝液(pH 2.5)1 mLで3回洗浄した後に50 %アセトニトリル,0.1 % TFA溶液1 mLを添加し、ローテーターを用いて室温で1時間攪拌してメソ多孔体に包接されたペプチドを溶出した。15,000 rpmで10分間遠心処理を行って溶出液を回収した。回収した溶出液(約900 μL)の1/4量を遠心濃縮機にて乾固して得た固形物をSDSサンプルバッファーに溶解し、45℃で1時間加熱処理して電気泳動用サンプルとした(メソ多孔体からの溶出物)。これを、ACTH非添加条件下においても同様に行った(メソ多孔体TMPS-7のみ)。また、ACTH 10 μgおよび50 μg相当をSDSサンプルバッファーに溶解し、45℃で1時間加熱処理して電気泳動用サンプルとした(ACTH (10 μg) およびACTH (50 μg))。
【0065】
得られた電気泳動用サンプルを電気泳動した後に染色を行い、電気泳動像を得た。結果を
図13(a)に示す。
【0066】
ACTH 0.5 mgを超純水25 μLに溶解してペプチド溶液を調製した。このペプチド溶液全量(25 μL)をメソ多孔体粉体(TMPS-4)25 mgに添加、ボルテックスにて攪拌して該溶液を粉体に吸収させ、ペプチドを包接させた。これに超純水1 mLを添加し、ボルテックスを用いて約30秒間攪拌した後に15,000 rpmで10分間遠心処理を行った。この洗浄操作を3回行い、沈殿物(ペプチド包接メソ多孔体粉体)を回収した。
【0067】
回収したペプチド包接メソ多孔体粉体を遠心濃縮機にて乾固して得た固形物に超純水500 μLを添加して50 mg/mLの懸濁液とした。ペプチド包接メソ多孔体粉体が0 mg、0.14 mg、0.26 mg、1.0 mgおよび2.8 mgとなるように0.5 mLチューブに懸濁液を分注した後に、遠心濃縮機にて乾固した。
【0068】
50 mMグリシン−塩酸緩衝液(pH 2.5)あるいは100mMリン酸カリウム緩衝液(pH 7)100μLを、分注,乾固したペプチド包接メソ多孔体粉体に添加し、ローテーターを用いて室温で1時間攪拌した。15,000 rpmで10分間遠心処理を行い、沈殿物を回収した。回収した沈殿物を50 mMグリシン−塩酸緩衝液(pH 2.5)あるいは100mMリン酸カリウム緩衝液(pH 7)1 mLで3回洗浄した後に50 %アセトニトリル,0.1 % TFA溶液1 mLを添加し、ローテーターを用いて室温で1時間攪拌してメソ多孔体に包接されたペプチドを溶出した。15,000 rpmで10分間遠心処理を行って溶出液を回収した。回収した溶出液(約900 μL)の1/4量を遠心濃縮機にて乾固して得た固形物をSDSサンプルバッファーに溶解し、45℃で1時間加熱処理して電気泳動用サンプルとした。
得られた電気泳動用サンプルを電気泳動した後に染色を行い、電気泳動像を得た。結果を
図13(b)に示す。
【0069】
図13(a)および
図13(b)において、溶出されたペプチドの中に、その長さ(分子量)が倍数化しているものが観察された。すなわち、24aa長のACTHペプチドを使用したにもかかわらず、回収されたACTHとして、24aa長の分子種と72aa長程度の分子種の2種が観察された。処理の過程において、孔の内部で直列に配置されたACTHペプチド間にペプチド結合が生じたことが推測される。この結果より、メソ多孔体を用いてペプチド分子間の連結を行える可能性があることが判明した。
【0070】
(実験例11)〔クエン酸-リン酸バッファー存在下でのペプチド含有試料の前処理〕
ヒト血清(健常者ドナー血清; Sunfco社)を50 mMグリシン緩衝液(pH2.5, A液)で5倍希釈したものと、89 mMクエン酸- 21mMリン酸緩衝液(pH2.6, B液)で5倍希釈したものを準備した。各希釈物をローテーターにて室温で一晩撹拌した。A液処理血清サンプルをA液処理血清、B液処理血清サンプルをB液処理血清とする。
【0071】
多孔体粉体(TMPS‐7(7.29nm)をそれぞれ10mg秤量してから、1.5mL容エッペンチューブに入れた。そこへ、上記のA液処理血清サンプル及び、B液処理血清サンプル(250 μL)を添加した。
ローテーターを用いて、室温で一時間撹拌し、多孔体にペプチドを包接させた。 15,000 rpmで5分間遠心処理を行い、沈殿物を回収した。
【0072】
A液処理血清サンプルの沈殿物をA液 で1mL、B液処理血清サンプルの沈殿物をB液で 1mL 2回洗浄し、超純水 1 mLで洗浄後、50%アセトニトリル,0.1% TFA溶液1mLを添加し、ローテーターを用いて室温で1時間攪拌して多孔体に包接されたペプチドを溶出した。15,000rpmで10分間遠心処理を行って溶出液を回収した。回収した溶出液(約900μL)の1/10量を遠心濃縮機にて乾固して得た固形物をSDSサンプルバッファーに溶解して75℃で5分間加熱処理し、電気泳動用サンプルとした(+G〔A液処理〕サンプル、+C 〔B液処理〕サンプル〕)。
【0073】
なお、血清0.25μLをSDSサンプルバッファーに溶解して75℃で5分間加熱処理したものも電気泳動用サンプルとして準備した(血清サンプル)。
【0074】
これら電気泳動用サンプルを電気泳動と染色に供した後、ペプチドをバントとして可視化した。
【0075】
図14にバンドを可視化した結果を示す。
図14のメソ多孔体で回収したサンプルうち、クエン酸-リン酸緩衝液で処理をした方がグリシン緩衝液で処理をしたサンプルよりも、10 kDa付近のペプチドをより多く遊離することが確認された。
このため、血清ペプチドを遊離する効果は、グリシン緩衝液よりもクエン酸-リン酸緩衝液の方が、優れていることがわかった。
【0076】
(実験例12)〔メソ多孔体の形態の差による短鎖ペプチド回収効果の違い〕
乾燥状態のメソ多孔体粉体(乾式メソ多孔体試薬)をそのまま用いた場合と、メソ多孔体粉体を緩衝液に懸濁した懸濁液(湿式メソ多孔体試薬)を用いた場合とにおける、メソ多孔体に取り込まれるペプチドの量を比較した。
【0077】
測定に用いた試料として、ペプチドセット(商品名:MOLECULAR WEIGHT MARKER FOR PEPTIDES,シグマアルドリッチ社製,型番:MW-SDS-17S)、ACTHおよびDynorphin Aをそれぞれ50 ng/μL、15 ng/μLおよび15ng/μLとなるように50mMグリシン−塩酸緩衝液(pH 2.5)に溶解して調製したペプチド混合液を用いた。
【0078】
このペプチド混合液 11.5 μLと50 mMグリシン緩衝液68.5 μLとを混合した溶液を、水で懸濁したメソ多孔体粉体(TMPS-7)液(50 mg/mL)(湿式メソ多孔体試薬)20μLを収容した1.5mL容エッペンチューブに添加し、一晩、室温で撹拌した。これを湿式メソ多孔体−ペプチド混合液とした。
【0079】
また、別の1.5mL容エッペンチューブにおいて、水に懸濁させた50 mg/ml のメソ多孔体粉体(TMPS-7) 20 μLを遠心濃縮機によって乾固させて得た固形物(乾式メソ多孔体試薬)に、ペプチド溶液11.5μLと50 mMグリシン緩衝液68.5 μLとを混合した溶液を添加し、1時間、室温で撹拌した。これを乾式メソ多孔体粉体−ペプチド混合液とした。
【0080】
得られた湿式メソ多孔体−ペプチド混合液及び乾式メソ多孔体粉体−ペプチド混合液をそれぞれ15,000rpmで10分間遠心した後、50 mMグリシン緩衝液 1mLで洗浄を3回行い、それぞれの沈殿物を回収した。
【0081】
回収した各沈殿物に50 %アセトニトリル,0.1 % TFA溶液100 μLを添加し、ローテーターを用いて室温で1時間攪拌して、乾式及び湿式メソ多孔体に包接されたペプチドを溶出した。15,000 rpmで10分間遠心して各溶出液を回収した。回収した各溶出液(約100μL)の1/5量を遠心濃縮機にて乾固した後、得られた固形物をSDSサンプルバッファーに溶解して45℃で1時間加熱処理し、電気泳動用サンプルとした(乾式沈殿回収物および湿式沈殿回収物)。
【0082】
得られた電気泳動用サンプルを電気泳動した後に染色を行い、そして染色像のデンシトメトリーを行い、その結果を
図15に示した。
図15の可視化したゲル電気泳動写真から、54 アミノ酸残基から75 アミノ酸残基のいずれのペプチドにおいても、乾式沈殿回収物の方が湿式沈殿回収物よりも優位に回収することができた。
【0083】
さらに、乾式及び湿式の電気泳動像の各バンドの濃淡をデンシトメーターから定量化し、ペプチド総包接量に対する各ペプチドの包接量を
図16に示した。
図16の結果からも、短鎖ペプチドを湿式に比べ乾式の方が回収していることが明らかになった。湿式と比べ乾式の方が、メソ多孔体のメソポアに液体と共にペプチドを吸引する表面張力(メニスカス力、毛細管力)が働くことに起因し、短鎖ペプチドを包接出来たのではないかと考えられる。
【0084】
このことから、湿式メソ多孔体よりも乾式メソ多孔体を用いた方が、短鎖ペプチドをより多く回収できることがわかる。
【0085】
(実験例13)〔メソ多孔体の形態の差による短鎖ペプチド回収効果の違い〕
乾燥粉体状態のメソ多孔体粉体をそのまま用いた場合(乾式)と、メソ多孔体粉体を緩衝液に懸濁した懸濁液を用いた場合(湿式)とにおけるペプチド回収効率の差を調べるために、以下のように、微量のペプチドを定量可能な蛍光分光測定を実施した。
【0086】
まず、蛍光基の一種であるTMR(tetramethyl rhodamine)をあらかじめN末端部に導入した蛍光修飾ACTHを合成した(バイオロジカ社製)。つぎに、この蛍光修飾ACTHを水に溶解し、終濃度5 μMの溶液とした。
【0087】
ペプチドを回収する試薬として、TMPS-7(口径7.29nm)およびTMPS-1.5(口径1.8nm)のそれぞれについて、下記の4種類の試薬を準備した。
・25 mgのTMPS-7の粉体へ200 μLの水を添加して懸濁して得た試薬(以下、「TMPS-7湿式メソ多孔体試薬」という)、
・25 mgのTMPS-7の粉体へ200 μLの上記の蛍光修飾ACTH水溶液を添加して、この溶液の全量を吸収させて得た試薬(以下、「TMPS-7乾式メソ多孔体試薬」という)、
・25 mgのTMPS-1.5の粉体へ100 μLの水を添加して懸濁して得た試薬(以下、「TMPS-1.5湿式メソ多孔体試薬」という)および
・25 mgのTMPS-1.5の粉体へ100 μLの上記の蛍光修飾ACTH水溶液を添加してこの溶液を吸収させて得た試薬(「TMPS-1.5乾式メソ多孔体試薬」という)。
【0088】
つぎに、上記で調製した試薬を用いて、4つの測定試料を下記のように作製した。TMPS-7湿式メソ多孔体試薬とTMPS-1.5湿式メソ多孔体試薬には、400 μLの前記の蛍光修飾ACTH水溶液をそれぞれ添加して、ペプチドと多孔質体とを混和させた。
なお、このときペプチドの総添加量は、5μMと400μLとの積の値である。
【0089】
また、TMPS-7乾式メソ多孔体試薬とTMPS-1.5乾式メソ多孔体試薬には、200μLの水と200μLの前記の蛍光修飾ACTH水溶液をそれぞれ添加して、ペプチドと多孔質体とを混和させた。
なお、このときのペプチドの総添加量は、湿式メソ多孔体試薬の場合と同一の、5μMと400μL (200μLと200μLの和)との積の値である。
【0090】
このようにして作製された4つの試料を10分間、室温で攪拌した。
攪拌後、これら4つの試料を、15,000rpm、5分間の遠心分離に供し、上清と沈降した多孔質体とに分けた。多孔質体は、最初に50 mMグリシン緩衝液(900 μL)で3回洗浄され、TBST緩衝液(50 mMトリス-塩酸、500 mM NaCl、0.2% Tween 20含有、900 μL)で3回洗浄され、20% エタノール溶液(900 μL)で1回洗浄され、最後に30 %アセトニトリル溶液(0.1 % TFA含有、900 μL)で洗浄された。
洗浄された各多孔質体にそれぞれ100 %アセトニトリル(900 μL)を添加し、多孔質体に包接された蛍光修飾ACTHを溶出した。
【0091】
各試料から溶出された蛍光修飾ACTHを含むアセトニトリルからそれぞれ600 μLを蛍光光度計(日立社製、型番:F-7000)に供し、励起波長540 nmにおいて蛍光スペクトルを取得した。
得られた550 nmから600 nmまでスペクトルの蛍光波長のうち、アーティファクト由来の散乱などの測定に無関係な2次光を回避するため592 nmの蛍光波長を採用し、このときの光強度を測定することでペプチドの回収量とした。
【0092】
得られた値は各々次のとおりである。TMPS-7湿式メソ多孔体試薬で回収された回収量が0.037 au(arbitrary unit)、TMPS-7乾式メソ多孔体試薬で回収された回収量が0.075 au、 TMPS-1.5湿式メソ多孔体試薬で回収された回収量が0.0084 au、そしてTMPS-1.5湿式メソ多孔体試薬で回収された回収量が0.0097 auであった。これらの数値を、湿式試薬と乾式試薬との間のペプチドの回収量を比較するためにまとめたものが
図17である。
【0093】
図17は、湿式試薬でのペプチドの回収量を100(%)とした場合における、乾式試薬でのペプチドの回収量(%)を示す。
図17より、口径の小さい多孔質体であるTMPS-1.5を用いた場合は、乾式試薬であっても湿式試薬であっても、両者の間にペプチド回収量に差は認められない。
対照的に、口径の大きな多孔質体であるTMPS-7を用いた場合では、多孔に起因したメニスカスフォースがもっとも発生される乾式試薬において、湿式試薬に対して200%のペプチド回収量を認めた。
したがって、本発明において、メソ多孔体を乾燥状態で用いることは、ペプチドの回収に優れていることがわかる。
【0094】
本出願は、2009年11月20日に出願された日本国特許出願 特願2009−265044に関し、この特許請求の範囲、明細書および要約書の全ては本明細書中に参照として組み込まれる。