【実施例1】
【0008】
(1) 紙幣搬送装置の概要
図1はこの発明の一実施形態であるATMに内部構成される紙幣搬送装置を示す。この紙幣搬送装置において、1は計数した紙幣を一時的に集積する一時保留部、2は紙幣の金種、真偽、向き、損傷の程度を識別する識別部(紙葉類識別装置40)、3a〜3dは紙幣を種類別に集積する収納部、4は識別部2によってリジェクトされた紙幣を収納する回収部、5は入金口20、識別部2、一時保留部1、シャッタ付き出金口21、返却口22をループして紙幣を搬送する上部搬送路、6は上部搬送路5から収納部3a〜3dおよび回収部4の上を経由して再び上部搬送路5へと紙幣を搬送する下部搬送路、7は入金口20から上部搬送路5へと紙幣を搬送する入金口搬送路、8は上部搬送路5からシャッタ付き出金口21へと紙幣を搬送する出金口搬送路、9は上部搬送路5から返却口22へと紙幣を搬送する返却口搬送路、10は上部搬送路5から一時保留部1へと紙幣を搬送する一時保留部収納搬送路、11は一時保留部1から上部搬送路5へと紙幣を搬送する一時保留部繰出搬送路、12a〜12dは下部搬送路6から収納部3a〜3dへと紙幣を搬送する収納部収納搬送路、13a〜13dは収納部3a〜3dから下部搬送路6へと紙幣を搬送する収納部繰出搬送路、14は下部搬送路6から回収部4へと紙幣を搬送する回収部搬送路、15は紙幣が通過するのを検知する通過センサ、16は紙幣を搬送する方向を切り替えるゲート、17は入金口20に紙幣があるか否かを検知する入金口紙幣検知センサ、18はシャッタ付き出金口21に紙幣があるか否かを検知する出金口紙幣検知センサ、19は返却口22に紙幣があるか否かを検知する返却口紙幣検知センサである。
【0009】
(2) 紙葉類識別装置40の構成
図2は紙葉類識別装置の主要な構成を説明する構成図である。
図2において、紙葉類識別装置40は、搬送路5〜14を通って搬送された紙幣Pを識別する機構であり、紙幣を搬送する紙幣搬送機構110と、支持機構120と、センサ群150とを備えている。紙幣搬送機構110は、搬送路5〜14の一部を構成する識別内搬送路111Pの幅方向(水平方向)に、支持機構120によって、回転可能に支持されかつ対向した搬送ローラ111,112を備えている。搬送ローラ111,112は、図示しない搬送モータからの回転駆動力を受け、紙幣を上下から挟持して1枚ずつ搬送する。なお、搬送ローラ111,112は、折れた紙幣や切れた紙幣などの損傷した紙幣に対してもスムーズに搬送できるように、その表面をゴムなどの弾性部材で形成することにより、搬送許容性の高い構成を有している。支持機構120は、上述した搬送ローラ111,112を回転可能に支持するとともに、センサ群150を装着し、さらに、紙幣が識別内搬送路111Pに詰まった場合などに、外部から取り出すなどの保守作業ができる機構であり、支持基材122と、第1支持機構130と、第2支持機構140とを備えている。
【0010】
図3は紙葉類識別装置40を分解した斜視図である。支持基材122は、識別内搬送路111Pに沿って配置された支持面123aを有する基台123と、基台123の端部にそれぞれ立設された第1支持部124および第2支持部126とを備えている。第1支持部124には、搬送ローラ111,112が回転可能に支持されている。
【0011】
第1支持機構130は、センサ群150の一部を支持するための機構であり、第1支持部材132と、アーム部材134と、軸体136とを備えている。第1支持部材132は、搬送方向に掛け渡された部材であり、搬送方向と交差する方向に配置されかつ第1支持部124の支持穴124aを貫通した軸体136により第1支持部124に回転可能に軸支されている。アーム部材134は、連結固定ピン134aを介して第1支持部材132に支持され、図示しないスプリングにより、図示の位置に戻るように回動方向に付勢されている。アーム部材134の先端部には、係合凹所134bが形成されている。この係合凹所134bは、支持基材122の側面に突設された固定ピン127aに係合することにより、第1支持機構130が支持基材122に対して開くのを規制している。第1支持部124および軸体136は、第1支持部材132を支持基材122に対して回動可能に支持している第1軸支機構137を構成している。また、アーム部材134および固定ピン127aにより第1ロック機構138を構成している。
【0012】
第2支持機構140は、第1支持機構130とほぼ同様に、センサ群150の複数のセンサを支持するための機構であるが、識別内搬送路111Pに沿って第1支持機構130と向かい合うように配置されている構成およびセンサ群150の配置が第1支持機構130と異なっている。すなわち、第2支持機構140は、第2支持部材142と、アーム部材144と、軸体136と平行に配置された軸体146とを備え、第2支持部126の支持穴126aを貫通した軸体146により第1支持部124に回転可能に軸支されている。アーム部材144は、連結固定ピン144aを介して第2支持部材142に支持され、図示しないスプリングにより、図示の位置に戻るように回動方向に付勢されている。アーム部材144の先端部の係合凹所144bは、支持基材122の側面に突設された固定ピン127bに係合することにより、第2支持機構140が支持基材122に対して開くのを規制している。アーム部材134および軸体146は、第2支持部材142を支持基材122に対して回動可能に支持している第2軸支機構147を構成している。また、アーム部材144および固定ピン127bにより第2ロック機構148を構成している。なお、第1支持機構130と第2支持機構140との関係については、後述する。
【0013】
図2において、センサ群150は、紙幣の特徴を読み取るための第1センサ151、第2センサ152および第3センサ153を備えている。第1ないし第3センサ151,152,153は、識別内搬送路111Pを隔てて、支持基材122と、第1支持機構130および第2支持機構140とに、送信部と受信部とに分けてそれぞれ配置されている。すなわち、センサ群150は、第1ないし第3センサ151,152,153のそれぞれにつき、支持基材122および第1支持部材132および第2支持部材142に、識別内搬送路111PのギャップGpを隔てて配置されている。例えば、第1ないし第3センサ151,152,153は、受信部151a,152a,153aを支持基材122の基台123の上面に配置し、一方、送信部151bを第1支持機構130の第1支持部材132に配置し、送信部152b,153bを第2支持機構140の第2支持部材142にそれぞれ配置している。なお、上述したセンサの受信部および送信部は、支持基材122および第1支持機構130および第2支持機構140のいずれに配置してもよく、また、受信部または送信部を兼用して一方だけに配置した構成であってもよい。
【0014】
センサ群150のセンサの例として、紙幣をスキャンして得られる画像データ、紙幣の表面の凹凸形状、磁気特性、紫外線などに対する光学特性など種々の情報を利用するものを適用することができる。こうしたセンサの具体的な構成として、送信部および受信部として、LED投光素子およびフォトダイオード受光素子を用いて、紙葉類に光線を照射し、紙葉類を透過して得られる光学的な出力を読み取るセンサや、磁場を形成するための励磁コイル、磁場を検出するための検出コイルとその制御部を配置することにより、紙幣に含まれる磁気成分を検出するセンサなどを用いることができる。すなわち、センサとして、上述した構成に限らず、搬送路を通る紙葉類の特徴や状態を検出するための、何らかの検出信号を出力する装置を適用できる。
【0015】
また、紙葉類識別装置40は、図示しないエンコーダや、制御部160を備えている。エンコーダは、紙幣搬送機構110による搬送駆動に基づく紙幣の搬送距離に同期してクロック信号を出力する装置である。制御部160は、センサ群150から出力される検知信号を処理して、制御ユニット80(
図1)にて、金種、枚数、真偽を判定できる信号を出力する装置である。センサやエンコーダは、第1支持機構130や第2支持機構140の開度動作に対しても、接続信頼性を高めるために、フレキシブルケーブルなどの折れに強い部材で形成されている。こうした構成により、紙葉類識別装置40は、識別内搬送路111Pで搬送された紙幣がどの金種であるかを識別し、さらに真券であるか偽券であるかを識別し、さらに1枚か2枚かもしくは3枚以上の紙幣であるかを識別して、取引および使用される紙幣を管理する信号を出力している。なお、紙葉類識別装置40は、紙幣搬送機構110で搬送される紙幣が、いずれの方向から搬送されても、その特徴を識別できるように構成されている。
【0016】
図4は紙葉類識別装置40の開閉動作を説明する説明図である。第1支持機構130の第1支持部材132を、支持基材122に対して開くには、以下の作業を行なう。
図2の状態から、第1ロック機構138のアーム部材134を回動させて係合凹所134bを固定ピン127aから外し、第1支持部材132の自由端側を持ち上げる。これにより、第1支持部材132は、第1軸支機構137の軸体136を中心に回動して、識別内搬送路111Pを外部に露出させることができる。これにより、識別内搬送路111Pに詰まっている紙幣などを除いたり、識別内搬送路111Pに面しているセンサなどの清掃などの保守作業を行なうことができる。同様に、第2支持機構140の第2支持部材142を支持基材122に対して開くには、第2ロック機構148のアーム部材144を回動させて係合凹所144bを固定ピン127aから外し、第2支持部材142の自由端側を持ち上げる。これにより、第2支持部材142は、第2軸支機構147の軸体146を中心に回動して、識別内搬送路111Pを外部に露出させることができる。
【0017】
次に、本実施例にかかる紙葉類識別装置40の作用および効果について、従来の技術で説明した構成と比較して説明する。
図5および
図6は従来の技術に相当する比較例にかかる紙葉類識別装置200を説明する説明図であり、
図5は通常の紙葉類識別装置200の使用状態を示し、
図6は紙葉類識別装置200の開き状態を示す。紙葉類識別装置200は、支持基材222と、支持部材230と、支持部材230を支持基材222に対してロックするロック機構240と、識別内搬送路211Pを隔てた支持基材222および支持部材230とにそれぞれ配置された複数のセンサ群250とを備え、支持部材230が支持基材222に装着された軸体232を介して回動可能に支持されている。すなわち、センサ群250のセンサ251,252,253のそれぞれの一方の検出部または受信部は、支持基材222の搬送方向の全長にわたって設けられた1つの支持部材230に装着されている。紙葉類識別装置200のセンサなどの保守作業にあたっては、
図6に示すように、1つの支持部材230を軸体232を中心に回動して、識別内搬送路211Pを外部に露出させることにより行なう。
【0018】
ここで、軸体232からロック機構240のロック位置までの距離をr1とし、軸体232から各々のセンサ251,252,253までの距離をd1,d2,d3とする。
図5に示す状態、つまり支持部材230が支持基材222に対してロック機構240によりロックされた状態において、識別内搬送路211Pのギャップgpが定まる。ギャップgpは、支持部材230、ロック機構240などの寸法精度に依存し、支持部材230が水平方向に配置された支持基材122に対してなす角度として、θerの取付誤差を生じていると仮定する。このときの各々のセンサの位置におけるギャップgp1,gp2,gp3は、gp1=d1sinθer、gp2=d2sinθer、gp3=d3sinθerの関係にあるから、d1,d2,d3が大きくなるにつれて、gp1>gp2>gp3となる。つまり、センサの位置が軸体232から離れているほど、ギャップのバラツキgpが大きくなる。また、同様に取付誤差θerに対する搬送方向のズレについて述べる。各々のセンサ251,252,253が支持基材222および支持部材230の上下に分かれて装着されているものとする。センサ251のうち支持基材222に装着された側は、軸体232から距離d1に位置する。一方、センサ251のうち、支持部材230に装着された部分は、取付誤差θerにより、軸体232から距離d1が、d1=cosθerに位置し、センサ251は上下のセンサの中心がΔd1=d1(1−cosθer)だけ中心位置が離れる。センサ252、253についても同様であり、d1,d2,d3が大きくなるにつれて、上下のセンサ中心位置のズレΔd1、Δd2、Δd3が大きくなる。こうしたギャップgpのバラツキと搬送方向のセンサ中心位置のズレΔdを小さくするために、本実施例にかかる紙葉類識別装置200は、上述した構成をとることにより、以下に述べる作用効果を奏する。
【0019】
図7および
図8は紙葉類識別装置40の作用を説明する説明図であり、
図7は通常の紙葉類識別装置40の使用状態を示し、
図8は紙葉類識別装置40の開き状態を示す。第1支持機構130の軸体136から第1支持部材132の自由端までの距離をK1とし、第2支持機構140の軸体146から第2支持部材142の自由端までの距離をK2とする。また、軸体136から第1センサ151までの距離をD1とし、軸体146から第2センサ152および第3センサ153までの距離をそれぞれD2,D3とする。さらに、軸体136から第1ロック機構138のロック位置までの距離をR1とし、軸体146から第2ロック機構のロック位置までの距離をR2とする。
図7に示す状態、つまり第1および第2支持機構130,140が支持基材122に対してロックされた状態において、識別内搬送路111PのギャップGpおよび各々のセンサの上下の中心位置のズレΔdが定まる。ギャップGpおよびズレΔdは、第1および第2支持機構130,140や第1および第2ロック機構230,240などの寸法精度に依存するが、第1および第2支持部材132,142が支持基材122に対してなす角度として、取付誤差θerを生じていると仮定する。このとき、各々のセンサの位置におけるギャップGp1,Gp2,Gp3は、Gp1=D1sinθer、Gp2=D2sinθer、Gp3=D3sinθerの関係となる。また、ズレΔd1、Δd2、Δd3は、Δd1=D1(1−cosθer)、Δd2=D2(1−cosθer)、Δd3=D3(1−cosθer)の関係にある。取付誤差θerが一定と仮定しているから、D1,D2,D3の大きさに依存することになる。
【0020】
本実施例にかかる紙葉類識別装置40は、
図5の装置より、D1,D2,D3の最大距離を小さくすることにより、同一の取付誤差θerであっても、ギャップGp1,Gp2,Gp3および搬送方向のセンサ位置ズレΔd1、Δd2、Δd3のバラツキを低減する構成をとっている。すなわち、紙葉類識別装置40のセンサ群150を装着する部材を、1つの部材ではなく、第1および第2支持部材132,142に短く分けて、しかも各々の支持部材に第1および第2軸支機構137,147をそれぞれ設けて回動可能としている。これにより、支持部材の先端部にセンサを配置しても、軸支機構からセンサまでの距離を短くでき、センサの付近における識別内搬送路111Pのギャップおよび搬送方向のセンサ位置ズレのバラツキを低減させることができる。
【0021】
このようなギャップおよび搬送方向のセンサ位置ズレのバラツキの低減により、センサから出力される信号のレベルを所定範囲内に収めることが容易になり、センサの調整や、メンテナンスが容易になる。例えば、センサの出力レベルが、取付位置に対応して、小、中、大の3段階で扱っていた識別処理を、2段階以下で処理できることになり、信号処理を簡略化できる。また、センサの出力レベルのバラツキ吸収のためのセンサ配置の検討も簡略化できる。これにより、生産バラツキを改善することによる歩留まりの向上や、センサの信号レベルに基づいた、アルゴリズムの閾値を厳しくすることで紙葉類の真贋判定の誤りを低減することができる。
【0022】
また、ギャップおよび搬送方向のセンサ位置ズレを所定範囲内に収めるための、紙葉類識別装置40の機械部品の許容公差寸法も大きくでき、例えば、支持基材122や、第1および第2ロック機構230,240の許容公差寸法を大きくとることができ、製造が容易になる。
【0023】
第1および第2支持部材132,142は、それぞれ軸支機構を中心に回転させて開き動作させることで、識別内搬送路111Pを外部へ露出させることができる。このとき、第1および第2支持部材132,142の自由端が向き合うように配置され、その間にスペースが形成されるから、識別内搬送路111Pへアクセスできる広い作業空間を確保でき、紙幣や異物などの残留物を容易に除去することができる。この場合において、人間の手あるいは指が入ることを考え、少なくとも50mm程度、可能であれば100mm程度の作業空間が確保されていることが望ましい。
【実施例5】
【0028】
図12は本発明の第5実施例にかかる紙葉類識別装置40Eを示す説明図である。本実施例は、第4実施例の変形例である。紙葉類識別装置40Eは、支持部材132Eおよび142Eの軸体を支持部材122Eaに1つ設けることにより、搬送方向の支持部材同士を隙間無く構成している。これにより、搬送中の紙幣が支持部材間の隙間に詰まるなどしてジャムする危険を生じない構造としている。また、実施例4と同様にギャップGpおよび搬送方向のセンサ位置ズレΔdを小さくでき、よって、センサの信号レベルの管理が容易である。また、共通の軸体を設けることにより第4実施例よりも軸点の数が少ないため、装置の小型化を図ることができる。
【0029】
なお、本発明は前記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、前記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0030】
以上、本発明のいくつかの実施の形態について説明したが、本発明はこのような実施の形態になんら限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内において種々なる態様での実施が可能である。例えば、以下のような変形が可能である。
【0031】
変形例1:前記実施例では、センサの種類として、受信部と送信部とを用いた1組のセンサを用いたが、これに限らず、紙幣を搬送する1組のローラであって、一方のローラの変位を測定することにより、紙幣の厚さを測定するセンサなど各種のセンサを用いることができる。
【0032】
変形例2:前記実施例では、ロック機構として、支持部材の先端にアーム部材を装着して、アームを支持基材に対して固定する構成としたが、これに限らず、支持部材の根元の軸支機構の箇所で、所定位置に固定できる構成であってもよく、センサを装着した支持部材を通常の使用状態にロックできる機構であればよい。
【0033】
変形例3:前記実施例では、紙幣に適用した紙幣取扱装置について説明したが、これに限らず、有価証券など種々の紙葉類にも適用可能である。
【0034】
変形例4:前記実施例において、センサを配置した支持部材を支持基材に対して2つ設けた構成について説明したが、これに限らず、保守作業に支障がない限り、3つ以上設けてもよく、また、支持部材に装着したセンサについても、その数が特に限定されるものではなく、また、支持基材側に固定したセンサの数についても特に限定されない。