特許第5689098号(P5689098)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5689098
(24)【登録日】2015年2月6日
(45)【発行日】2015年3月25日
(54)【発明の名称】車両用制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 29/02 20060101AFI20150305BHJP
   B60W 30/09 20120101ALI20150305BHJP
   B60W 40/076 20120101ALI20150305BHJP
【FI】
   F02D29/02 K
   F02D29/02 301D
   B60W30/09
   B60W40/076
【請求項の数】1
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-188409(P2012-188409)
(22)【出願日】2012年8月29日
(65)【公開番号】特開2014-47626(P2014-47626A)
(43)【公開日】2014年3月17日
【審査請求日】2013年9月25日
【審判番号】不服2014-8820(P2014-8820/J1)
【審判請求日】2014年5月13日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105980
【弁理士】
【氏名又は名称】梁瀬 右司
(72)【発明者】
【氏名】浅野 宏一
【合議体】
【審判長】 伊藤 元人
【審判官】 佐々木 訓
【審判官】 藤原 直欣
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−132316(JP,A)
【文献】 特開2011−173586(JP,A)
【文献】 特開2012− 91714(JP,A)
【文献】 特開2007−127155(JP,A)
【文献】 特開2002−371876(JP,A)
【文献】 特開2000−204994(JP,A)
【文献】 特開2012−126232(JP,A)
【文献】 特開2012− 30783(JP,A)
【文献】 特開2007−285712(JP,A)
【文献】 特開2005−106676(JP,A)
【文献】 特開2002−337600(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 26/00 - 28/00
B60B 30/00 - 30/20
F02D 29/02
B60R 21/00
G08G 1/16
B60K 6/20 - 6/547
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクセル操作量に応じて駆動トルクを出力する駆動源と、自車両の進行方向の物体との衝突可能性を検出する衝突可能性検出手段と、前記衝突可能性検出手段の検出結果に基づいて前記アクセル操作量に対する前記駆動トルクの出力を抑制する抑制手段とを備えた車両用制御装置であって、
前記自車両の加速度センサの出力値に基づいて、前記自車両の走行道路の勾配を算出する勾配算出手段と、
自車両の傾きを検出してヘッドライトの光軸の傾きを自動調整する自動光軸調整機構と、
前記勾配算出手段により算出された前記勾配を前記自動光軸調整機構により検出される自車両の傾きに応じて補正する補正手段と、
前記補正手段による前記補正勾配が所定値以上の場合に前記抑制手段による前記駆動トルクの出力の抑制を禁止する禁止手段とを備え、
前記禁止手段は、前記自車両が停車した状態およびブレーキ操作が行われている状態の少なくともいずれかが、予め定められた所定時間継続したときの前記補正勾配が前記所定値以上である場合に、前記抑制手段による前記駆動トルクの出力の抑制を禁止する
ことを特徴とする車両用制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自車両進行方向の障害物と衝突可能性がある場合に、アクセル操作に応じて出力される自車両の駆動トルクを抑制制御する車両用制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ドライバの運転を支援する装置の一つとして、従来より、自車両と該自車両の進行方向の障害物との間で衝突の可能性がある場合に、アクセル操作に応じて出力される自車両の駆動トルクを通常時よりも小さくなるように補正して、障害物との衝突を回避する車両用制御装置が知られている(特許文献1参照)。
【0003】
この車両用制御装置は、レーダ等で自車両進行方向の障害物と自車両との距離を検出することにより、障害物との衝突可能性を検出し、この衝突可能性が高いほど、ドライバによるアクセルペダルの踏込み量に対する駆動トルクの発生量を通常時よりも少なくする補正を行うものである。このように構成することで、自車両進行方向に障害物がある状態でドライバがアクセルペダルを誤操作した場合であっても、自車両の急速発進を防止することができるため、障害物との衝突を回避することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−76724号(段落0037〜0040、図11図12等参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ドライバは、登坂路のように道路勾配が大きい状態で、自車両進行方向に衝突可能性がある障害物等を検知した場合、当該障害物と衝突しないようにしつつ、自車両が後方に移動(いわゆる、ずり下がり)しないようにアクセル操作を行うことが一般的である。しかしながら、上記した従来の車両用制御装置では、自車両進行方向に衝突可能性がある障害物を検出したときには、道路勾配が大きい場合であってもドライバのアクセル操作に応じた駆動トルクを、通常時よりも小さくする補正を行うため、駆動トルクが不足して、自車両がずり下がり、例えば、後方にある障害物と衝突するなどといった不具合が生じるおそれがある。また、ドライバにとっても、必要な駆動トルクを得るためにアクセル操作を行ったにもかかわらず、所望の駆動トルクが得られない場合があり、違和感を感じるおそれもある。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、ドライバのアクセルの誤操作による自車両と障害物との衝突を防止することができるとともに、道路勾配が大きい場合に、駆動トルクの不足により自車両がずり下がるのを防止することができる車両用制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した目的を達成するために、本発明の車両用制御装置では、アクセル操作量に応じて駆動トルクを出力する駆動源と、自車両の進行方向の物体との衝突可能性を検出する衝突可能性検出手段と、前記衝突可能性検出手段の検出結果に基づいて前記アクセル操作量に対する前記駆動トルクの出力を抑制する抑制手段とを備えた車両用制御装置であって、前記自車両の加速度センサの出力値に基づいて、前記自車両の走行道路の勾配を算出する勾配算出手段と、自車両の傾きを検出してヘッドライトの光軸の傾きを自動調整する自動光軸調整機構と、前記勾配算出手段により算出された前記勾配を前記自動光軸調整機構により検出される自車両の傾きに応じて補正する補正手段と、前記補正手段による前記補正勾配が所定値以上の場合に前記抑制手段による前記駆動トルクの出力の抑制を禁止する禁止手段とを備え、前記禁止手段は、前記自車両が停車した状態およびブレーキ操作が行われている状態の少なくともいずれかが、予め定められた所定時間継続したときの前記補正勾配が前記所定値以上である場合に、前記抑制手段による前記駆動トルクの出力の抑制を禁止することを特徴としている(請求項1)。
【発明の効果】
【0010】
請求項1にかかる発明によれば、衝突可能性検出手段による自車両の進行方向の物体との衝突可能性に関する検出結果に基づいて、アクセル操作量に対する駆動トルクの出力を抑制手段により抑制する。したがって、物体との衝突可能性がある状態でドライバがアクセルを誤操作した場合であっても、抑制手段が駆動トルクの出力を抑制するため、自車両の急速発進を防止することができ、これにより、自車両が物体と衝突するのを防止することができる。
【0011】
一方、勾配算出手段により算出された自車両の走行道路の勾配が所定値以上である場合には、禁止手段により駆動トルクの出力の抑制が禁止されるため、例えば、急勾配の上り坂において、ドライバがアクセル操作を行えば、その操作量に応じた駆動トルクが得られる。そのため、駆動トルクの不足により自車両がずり下がるのを防止することができるため、自車両が後方の物体と接触するのを防止することができる。また、アクセル操作量に応じた駆動トルクが得られるため、所定の操作量(踏込み量)でアクセル操作を行ったのにも関わらず、所望の駆動トルクが得られないといった違和感をドライバが感じることがない。
【0012】
ところで、加速度センサで走行道路の勾配を算出する場合、加速度センサの出力値は、当該走行道路の勾配から得られる出力値と、自車両の停車直前などの走行中の動きによる車体姿勢変動に伴う出力値とが重畳したものとなるため、実際の走行道路の勾配を正確に算出することが困難である。しかしながら、本発明によれば、勾配算出手段は、自車両が停車した状態で走行道路の勾配を算出し、禁止手段が当該算出された勾配に基づき、駆動トルクの出力抑制を禁止するか否かを判断するため、禁止手段は、車両姿勢変動に伴う加速度センサの出力値の影響を受けずに正確に算出された走行道路の勾配をもとに、駆動トルクの抑制を禁止するか否かを判断することができる。そのため、実際の走行道路の勾配に合った正確な制御を行うことができる。
【0013】
さらに、自車両の走行道路の勾配を、通常、自車両が備える加速度センサを利用して算出するため、車両用制御装置の製造コストの低減を図ることができる。
【0015】
また、禁止手段は、自車両が停車した状態およびブレーキ操作が行われている状態の少なくともいずれかが、予め定められた所定時間継続したときの走行道路の補正手段による補正勾配が所定値以上である場合に抑制手段による駆動トルクの出力の抑制を禁止するため、例えば、自車両が停車直後で車両姿勢変動が生じているときに、禁止手段により、駆動トルクの出力の抑制を禁止するか否かの判断が行われるのを防止することができる。したがって、補正手段により自車両の走行道路の勾配をより正確に算出でき、禁止手段による駆動トルクの出力の抑制を禁止するか否かの判断の正確性がより一層向上し、実際の走行道路の勾配に合った制御を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態にかかる車両用制御装置のブロック図である。
図2図1の車両用制御装置の動作説明図である。
図3図1の車両用制御装置の動作説明図である。
図4図1の車両用制御装置の動作説明用のフローチャートである。
図5図1の車両用制御装置の動作説明用のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の一実施形態にかかる車両用制御装置について、図1ないし図3を参照して説明する。なお、図1は本発明の一実施形態の車両用制御装置のブロック図、図2は自車両の走行道路の勾配の算出方法を説明するための図であり、図3(a)は、自車両が平坦な道路を走行中にブレーキ操作を行ったときの、加速度センサの出力値と時間との関係を示し、(b)はその場合の自車両の車速の変化を示す図である。
【0018】
本発明にかかる一実施形態の車両用制御装置2は、自車両1内に設けられた装置であり、自車両1の車速を検出する車速センサ3と、ブレーキのON/OFFを検出するブレーキセンサ4と、自車両1の加速度を検出する加速度センサ5と、アクセル操作量に応じて駆動トルクを出力するエンジン(本発明における駆動源に相当)のスロットル開閉度の電子制御を行う電子スロットル6と、ドライバのアクセル操作量(アクセル開度)を検出するアクセルセンサ7と、走行道路の勾配θを算出するVSCECU8(Vehicle Stability Control ECU)と、進行方向の物体(障害物)と自車両1との衝突可能性を検出するとともに、エンジンによる駆動トルクの出力の抑制を禁止するか否かの判断を行うレーダセンサECU9と、レーダセンサECU9による自車両1の進行方向の障害物との衝突可能性に関する検出結果に基づいて、アクセル操作に対するエンジンの駆動トルクの出力を抑制するEFIECU10(Electrical Fuel Injection ECU)とを備える。
【0019】
そして、この実施形態における車両用制御装置2は、自車両1と該自車両1の進行方向の障害物との衝突可能性がある状態で、ドライバがアクセル操作を行ったときに、本来、アクセル操作量に応じて出力されるエンジンの駆動トルクを通常時よりも小さく抑制するとともに、自車両1の走行道路の勾配が大きい場合には、この駆動トルクの抑制を禁止することができるように構成されている。
【0020】
車速センサ3は、自車両1の各車輪それぞれに設置された複数の車輪速センサで構成され、各車輪の回転速度を検出することにより、自車両1の車速を検出するものであり、検出した車速を周期的にVSCECU8に出力する。
【0021】
ブレーキセンサ4は、ドライバのブレーキペダルの操作に基づいて、ブレーキのON/OFFを検出するものであり、当該ON/OFFの状態を周期的にVSCECU8に出力する。
【0022】
加速度センサ5は、静電型、圧電体型、半導体ひずみゲージ型等の周知の種々のタイプのいずれかの構成であり、自車両1の前後方向(進行方向)の加速度(m/s)を検出し、当該検出加速度Gs(m/s)を出力値として、VSCECU8に周期的に出力する。
【0023】
電子スロットル6は、EFIECU10から出力される信号に基づいて、エンジンのスロットル開閉量の調整するものであり、これにより、エンジンから出力される駆動トルクが調整される。
【0024】
アクセルセンサ7は、ドライバのアクセルペダルの操作量(踏込み量)に基づき、アクセル開度を検出するものであり、検出したアクセル開度をEFIECU10に出力する。
【0025】
VSCECU8(本発明における勾配算出手段に相当)は、マイクロコンピュータや不揮発性のメモリ等を備え、加速度センサ5から出力される検出加速度Gsおよび車速センサ3により検出された自車両1の車速に基づいて、図2に示す自車両1の走行道路の勾配θを算出する。
【0026】
具体的には、図2に示すように、加速度センサ5により検出される検出加速度Gsは、実加速度である車輪速加速度WG(m/s)の成分と、重力加速度Gg(m/s)の成分とを含む自車両1の進行方向(前後方向)の加速度である。
【0027】
また、車輪速加速度WGは、車輪速センサにより検出された車輪速度の時間変化から算出された自車両1の進行方向の加速度であって、重力加速度Ggの成分は含まない。また、検出加速度Gsの重力加速度Ggに対応する成分は、図2のGg×sinθであって、検出加速度Gs=WG+Gg×sinθである。このように、加速度センサ5が検出する検出加速度Gsは、重力加速度Ggに対応する成分Gg×sinθと、車輪速加速度WGの成分とが重畳した値となるため、VSCECU8は、通常、次の(1)式の演算式から自車両1の走行道路の勾配を周期的に算出している。
【0028】
【数1】
【0029】
しかしながら、上記した勾配θの算出方法では、車輪速加速度WGの検出誤差が算出勾配θの算出誤差に影響するため、自車両1の走行道路の勾配θを正確に算出することが困難である。そこで、この実施形態では、後述するレーダセンサECU9およびEFIECU10による、エンジンにより出力される駆動トルクの抑制制御が、自車両1が停車中に作動するように構成されていることを利用して、自車両1の車速が0、つまり、車輪速加速度WGが0の状態で走行道路の勾配θを算出することにより、車輪速加速度WGの検出誤差の影響を受けずに、正確に走行道路の勾配θを算出することができるように構成されている。すなわち、VSCECU8は、次の(2)式の演算式から自車両1の走行道路の勾配θを算出する。この場合、VSCECU8は、加速度センサ5から出力された出力値(検出加速度Gs)等をメモリに記憶した上で、マクロコンピュータによる演算処理を行って勾配θを算出する。
【0030】
【数2】
【0031】
ところで、VSCECU8は、上記した(2)式の演算式に基づいて自車両1の走行道路の勾配θを算出するが、図3に示すように、自車両1が停車する時刻t1(車速0)の直前および直後では、自車両1が振動しているため、加速度センサ5が出力する出力値(検出加速度Gs)が安定しない。そこで、この実施形態では、より正確な勾配θを算出することができるように、自車両1が停車した状態、すなわち、車速センサ3により検出された車速が0である状態が、予め定められた一定時間Ta(例えば、5秒)継続するか、あるいは、車速が0であって、ブレーキセンサ4により検出されたブレーキの状態が「ON」状態である時間が、予め定められた所定時間Tb(例えば、5秒)継続するかのいずれかの条件が成立した時(例えば、図3における時刻t2)の加速度センサ5の出力値(検出加速度Gs)に基づいて、VSCECU8が勾配θを算出するように構成されている。なお、時間Ta,Tbは、適宜、変更可能である。
【0032】
なお、上記したVSCECU8による勾配θの算出タイミングは、一例であり、例えば、自車両1が停車した時点(図3における時刻t1)の加速度センサ3の出力値(検出加速度Gs)に基づいて勾配θを算出してもよいし、自車両1が停車した状態、かつ、ブレーキ操作が行われた状態(ブレーキセンサ4により検出されたブレーキの状態が「ON」状態)である時点の加速度センサ3の出力値(検出加速度Gs)に基づいて勾配θを算出してもよい。このようなタイミングで勾配θを算出したとしても、車輪速加速度WGの検出誤差の影響を受けずに勾配θを算出することができるため、自車両1の走行道路の勾配θを正確に算出することができる。
【0033】
レーダセンサECU9は、レーダセンサと、マイクロコンピュータと、不揮発性のメモリ等を備え、自車両1と該自車両1の進行方向の障害物との衝突可能性を検出するとともに、この検出結果が「衝突可能性あり」である場合は、後述するEFIECU10に、アクセル操作量に対するエンジンの駆動トルクの出力を抑制する旨の信号を出力する。また、VSCECU8により算出された自車両1の走行道路の勾配θが所定値以上である場合は、上記した駆動トルクの出力を抑制するのを禁止する旨の信号をEFIECU10に出力する。
【0034】
レーダセンサは、レーザレーダ、ミリ波レーダなどで構成され、レーザレーダの場合、周知のように、レーザ光を出射する発光部と、その反射光を受光する受光部とを備え、発光部のレーザ光の出射から受光部における受光までの時間差に基づいて、自車両1から該自車両1の進行方向の障害物までの距離を周期的に検出する(本発明における衝突可能性検出手段に相当)。なお、自車両1と該自車両1の進行方向の障害物との距離を検出するものは、上記したレーダセンサに限らず、例えば、超音波センサやステレオカメラ等、距離を検出することができるものであれば、いずれを使用してもかまわない。
【0035】
具体的には、レーダセンサECU9は、レーダセンサにより検出された自車両1と該自車両1の進行方向の障害物との距離が所定値(例えば、2m)以下である場合であって、VSCECU8から出力された自車両1の車速が0である場合は、アクセル操作量に対するエンジンの駆動トルクの出力の抑制を許可する旨の信号をEFIECU10に出力する。
【0036】
その一方で、レーダセンサECU9は、VSCECU8が算出した自車両1の走行道路の勾配θが所定値(例えば、18°)以上である場合には、上記したような駆動トルクの出力の抑制を許可する条件が成立していたときであっても、駆動トルクの出力の抑制を禁止する旨の信号をEFIECU10に出力する(本発明における禁止手段に相当)。なお、各ECU8,9,10は、CAN等の通信バスを介して互いに情報のやり取りが行えるように構成されている。
【0037】
EFIECU10は、マイクロコンピュータ等を備え、アクセルセンサ7により検出されたアクセル操作量(アクセル開度)に応じた駆動トルクを出力するために、エンジンのスロットルの開閉度を電子スロットル6を介して制御するものである。なお、この実施形態において、EFIECU10は、レーダセンサECU9から出力された駆動トルクの出力の抑制を許可する旨の信号が入力された場合、アクセル操作量に対するエンジンの駆動トルクの出力を通常時より抑制する制御を行うとともに(本発明における抑制手段に相当)、駆動トルクの出力の抑制を禁止する旨の信号が入力された場合、駆動トルクの出力の抑制制御を行わず、アクセル操作量に応じた駆動トルクが出力されるように、スロットルの開閉度を制御することも行う。
【0038】
なお、駆動トルクの出力の抑制量は、適宜、設定できるものであり、例えば、レーダセンサECU9が備えるレーダセンサが検出した自車両1と該自車両1の進行方向の障害物との距離が短くなればなる程、抑制量を大きくするように構成してもよい。
【0039】
(動作)
次に、この実施形態にかかる車両用制御装置2のトルク抑制制御処理について、図4および図5を参照して説明する。なお、図4はトルク抑制制御処理の説明用のフローチャートであり、図5図4に続くフォローチャートである。
【0040】
まず、レーダセンサECU9のレーダセンサにより、自車両1と該自車両1の進行方向の障害物との距離を検出する(ステップS1)。次に、VSCECU8において、CAN等の通信バスを介して入力された当該検出距離が、予め定められた所定距離(例えば、2m)以下であるか否かを判断する(ステップS2)。そして、ステップS2がYESである場合、VSCECU8は、車速センサ3から出力された自車両1の車速が0であるか否かを判断する(ステップS3)。
【0041】
次に、ステップS3がYESである場合(車速=0)、VSCECU8は、ブレーキセンサ4から出力されたブレーキの状態が「ON」状態であるか否かを判断する(ステップS4)。
【0042】
なお、ステップS2がNOである場合は、ステップS1に戻ってレーダセンサECU9で障害物との距離の検出を継続する。また、ステップS3がNOである場合(車速≠0)も、障害物との距離の検出を継続する。車速が0でない場合にステップS1に戻るのは、トルク抑制制御処理が、自車両1が停車した状態で作動するように構成されているためである。
【0043】
次に、ステップS4がYESである場合(ブレーキの状態が「ON」状態である場合)、VSCECU8は、この「ON」状態が予め定められた所定時間Tb(例えば、5s)を経過しているか否かを判断し(ステップS5)、ステップS5がYESである場合、VSCECU8は、その時の加速度センサ5から出力された出力値(検出加速度Gs)を読み込んでメモリに記憶する(ステップS7)。また、ステップS5がNOである場合は、ブレーキの「ON」状態が所定時間Tbを経過するまで、ステップS1〜ステップS4の処理を繰り返す。
【0044】
また、ステップS4がNOである場合(ブレーキの状態が「OFF」状態である場合)、VSCECU8は、車速0の状態が予め定められた一定時間Ta(例えば、5s)を経過しているか否かを判断し(ステップS6)、ステップS6がYESである場合は、その時の加速度センサ5から出力された出力値(検出加速度Gs)を読み込んでメモリに記憶する(ステップS7)。また、ステップS6がNOである場合は、車速が0である状態が一定時間Taを経過するまで、ステップS1〜ステップS4の処理を繰り返す。
【0045】
次に、VSCECU8は、メモリに記憶した加速度センサ5から出力された出力値(検出加速度Gs)を用いて、上記した(2)式の演算式により、自車両1の走行道路の勾配θを算出し(ステップS8)、CAN等の通信バスを介して算出した勾配θをレーダセンサECU9に出力する。
【0046】
次に、レーダセンサECU9は、当該入力された勾配θが所定値(例えば、18°)以上であるか否かを判断し(ステップS9)、ステップS9がYESである場合は、自車両1の走行道路の勾配が急勾配であると判断し、自車両1のずり下がりを防止するために、エンジンの駆動トルクの出力の抑制を禁止する旨の信号をEFIECU10に出力して(ステップS10)、トルク抑制制御処理を終了する。
【0047】
また、ステップS9がNOである場合、レーダセンサECU9は、自車両1の勾配θが急勾配ではないと判断し、エンジンの駆動トルクの出力の抑制を許可する旨の信号をEFIECU10に出力し(ステップS11)、トルク抑制制御処理を終了する。
【0048】
なお、EFIECU10は、レーダセンサECU9により出力された信号が駆動トルクの出力の抑制を許可する旨の信号である場合、アクセル操作量に対する駆動トルクの出力を通常時よりも小さくするように抑制する。また、レーダセンサECU9により出力された信号が駆動トルクの出力の抑制を禁止する旨の信号である場合、通常時と同様にアクセル操作量に応じた駆動トルクを出力するように制御を行う。
【0049】
したがって、上記した実施形態によれば、車両用制御装置2は、自車両1の車速が0の状態で、レーダセンサECU9のレーダセンサにより検出された自車両1の進行方向の障害物との距離が、所定値(例えば、2m)以下である場合、EFIECU10により、アクセル操作量に対するエンジンの駆動トルクの出力を抑制するため、自車両1の急速発進を防止することができ、これにより、自車両1が障害物と衝突するのを防止することができる。
【0050】
一方、VSCECU8により算出された自車両1の走行道路の勾配θが所定値(例えば、18°)以上である場合には、レーダセンサECU9がエンジンの駆動トルクの出力の抑制を禁止するようにEFIECU10を制御するため、例えば、急勾配の上り坂において、ドライバがアクセル操作を行えば、その操作量に応じた駆動トルクが得られる。そのため、駆動トルクの不足により自車両1がずり下がることを防止でき、これにより、自車両1が後方の障害物と衝突するのを防止することができる。また、アクセル操作量に応じた駆動トルクが得られるため、所定の操作量(踏込み量)でアクセル操作を行ったのにも関わらず、所望の駆動トルクが得られないといった違和感をドライバが感じることがない。
【0051】
また、加速度センサ5で走行道路の勾配θを算出する場合、加速度センサ5の出力値は、当該走行道路の勾配θから得られる出力値(検出加速度Gs)と、自車両1の停車直前などの走行中の動きによる車体姿勢変動に伴う出力値(例えば、車輪速加速度WG)とが重畳したものとなるため、実際の走行道路の勾配θを正確に算出することが困難である。
【0052】
しかしながら、本発明によれば、レーダセンサECU9は、自車両1が停車した状態(車速=0)でVSCECU8が算出した走行道路の勾配θに基づき、駆動トルクの出力抑制を禁止するか否かを判断することにより、車両姿勢変動に伴う加速度センサ5の出力値(例えば、車輪速加速度の検出誤差)の影響を受けずに正確に算出された走行道路の勾配θをもとに、駆動トルクの抑制を禁止するか否かを判断することができるため、実際の走行道路の勾配θに合った正確な制御を行うことができる。
【0053】
さらに、VSCECU8による自車両1の走行道路の勾配θの算出は、自車両1が停車した状態(車速=0)が一定時間Ta継続したとき、あるいは、自車両1が停車した状態、かつ、その状態でブレーキが「ON」状態である時間が所定時間Tb継続したときのいずれかが成立したときに行われる。したがって、自車両1が停車した直前、直後とは異なり、加速度センサ5の出力値(検出加速度Gs)が安定した状態で勾配θを算出できるため、より正確な自車両1の走行道路の勾配θを算出することができる。
【0054】
また、自車両1の走行道路の勾配θを、通常、自車両1が備える加速度センサ5を利用して算出するため、車両用制御装置2の製造コストの低減を図ることができる。
【0055】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能である。
【0056】
例えば、ドライバのブレーキペダルの操作により自車両1が急停車した場合、自車両1が前傾姿勢の状態で保持されることになるため、VSCECU8による算出勾配θは、この前傾姿勢の分の誤差を含むことになる。そこで、より正確に自車両1の走行道路の勾配θを算出するために、例えば、VSCECU8による自車両1の走行道路の勾配θの算出が終わったあと、ドライバがパーキングブレーキ(パーキングブレーキが「ON」状態)を操作して、ブレーキペダルを離した場合(ブレーキ(フットブレーキ)が「OFF」状態)は、VSCECU8により、再度、自車両1の走行道路の勾配θを算出し、当該再度算出された勾配θに基づいて、レーダセンサECU9が、EFIECU10によるエンジンの駆動トルクの出力の抑制を禁止するか否かを判断するようにしてもよい。
【0057】
このように構成することにより、上記した自車両1の前傾姿勢が解除された状態で勾配θを算出することができるため、レーダセンサECU9による判断の正確性がより一層向上し、実際の走行道路の勾配θに合った制御を行うことができる。
【0058】
また、乗員や荷物等の重さにより自車両1が傾く場合があるが、このような場合も、VSCECU8による算出勾配θは、この傾きの分の誤差を含むことになる。そこで、自車両1が通常備えるヘッドライトの自動光軸調整機構(いわゆる、オートレベリングセンサ)を利用して、上記した乗員や荷物等の重さによる自車両1の傾きを検出し、当該検出した傾きの分、VSCECU8が算出した勾配θを補正するようにしてもよい。このように構成することにより、さらに正確に自車両1の走行道路の勾配θを算出することがでる。
【符号の説明】
【0059】
2… 車両用制御装置
3… 車速センサ
4… ブレーキセンサ
5… 加速度センサ
7… アクセルセンサ
8… VSCECU(勾配算出手段)
9… レーダセンサECU(衝突可能性検出手段、禁止手段)
10… EFIECU(抑制手段)
図1
図2
図3
図4
図5