(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
さらに、リン酸ジルコニウム、リン酸タングステン酸ジルコニウム、タングステン酸ジルコニウム、NZP型結晶およびこれらの固溶体から選択される少なくとも1種の低熱膨張性フィラー粉末を含むことを特徴とする請求項1に記載の半導体発光素子封止材料。
無機蛍光体粉末が、酸化物、窒化物、酸窒化物、塩化物、酸塩化物、硫化物、酸硫化物、ハロゲン化物、カルコゲン化物、アルミン酸塩、ハロリン酸塩化物から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の半導体発光素子封止材料。
請求項1〜5のいずれかに記載の半導体発光素子封止材料を半導体発光素子上に塗布する工程、溶媒の沸点以上で熱処理を行うことにより脱溶媒する工程、およびガラス粉末の軟化点以上で焼成することにより半導体発光素子上に封止物を形成する工程を含むことを特徴とする半導体発光素子デバイスの製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2に記載の封止材料を用いて作製された半導体発光素子デバイスは、耐熱性に優れるものの発光強度に劣るという問題があった。
【0008】
したがって、本発明は、ガラス粉末、無機蛍光体粉末および溶媒を含む半導体発光素子封止材料であって、発光強度に優れた半導体発光素子デバイスを作製することが可能な半導体発光素子封止材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は鋭意検討した結果、ガラス粉末、無機蛍光体粉末および溶媒を含む半導体発光素子封止材料において、特定の性状を有する溶媒を用いることにより、発光強度に優れた半導体発光素子デバイスを作製できることを見出し、本発明として提案するものである。
【0010】
すなわち、本発明は、ガラス粉末、無機蛍光体粉末および溶媒を含む半導体発光素子封止材料であって、溶媒が500mPa・s以上の粘度および250℃以下の沸点を有することを特徴とする半導体発光素子封止材料に関する。なお、本発明において溶媒の粘度は20℃における粘度をいう。
【0011】
本発明の半導体発光素子封止材料(以下、単に「封止材料」ともいう)では、500mPa・s以上と高い粘度を有する溶媒を用いているため、ディスペンス性や印刷性に優れ、塗布または印刷後の形状安定性も高い。したがって、一定量を高い寸法精度で半導体発光素子上に塗布または印刷することができる。また、粘度が高いため封止材料中におけるガラス粉末および無機蛍光体粉末の沈降を防ぎ、両者の分散状態を均一に保つことができる。したがって、半導体発光素子デバイスの発光強度を高めることができ、しかも発光色の色度ばらつきを抑制することもできる。
【0012】
なお、半導体発光素子封止材料には、通常、粘性を高めるために有機バインダー(例えば、ポリビニルアルコール、エチルセルロース、ニトロセルロース、メチルセルロース、ポリビニルブチラール、アクリル系樹脂等)が添加される。しかしながら、有機バインダーは焼成中にガラス粉末(特にSn成分)を酸化しやすく、後述するように、封止材料の半導体発光素子への固着性を低下させるおそれがある。本発明の半導体発光素子封止材料には、高粘度の有機溶媒を用いるため、有機バインダーを添加する不要がなく、焼成時におけるガラス粉末の酸化を防止することができる。
【0013】
また、溶媒の沸点が250℃以下と低いため、低温で脱溶媒でき、ガラス粉末と無機蛍光体粉末の焼結時に溶媒残渣による着色(黒化)が生じにくい。そのため、半導体発光素子デバイスの発光強度を高めることができる。
【0014】
第二に、本発明の半導体発光素子封止材料は、側鎖を有する炭素数5〜20の脂肪族炭化水素における複数個の水素が水酸基に置換されたアルコールであることを特徴とする。
【0015】
第三に、本発明の半導体発光素子封止材料は、溶媒が2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオールであることを特徴とする。
【0016】
第四に、本発明の半導体発光素子封止材料は、さらに、リン酸ジルコニウム、リン酸タングステン酸ジルコニウム、タングステン酸ジルコニウム、NZP型結晶およびこれらの固溶体から選択される少なくとも1種の低熱膨張性フィラー粉末を含むことを特徴とする。
【0017】
半導体発光素子(または半導体発光素子を含む基板やパッケージ)を封止材料により封止する際には、半導体発光素子と焼成後の封止物の熱膨張係数差が大きいと、封止物においてクラックや剥離が発生するおそれがある。特に、本発明の半導体発光素子封止材料には、低温封止を可能とするためなるべく低融点のガラス粉末を用いることが有利であるが、一般に低融点ガラス粉末は熱膨張係数が非常に大きい(例えば、SnO−P
2O
5系ガラス粉末の熱膨張係数は、概ね100〜150×10
−7/℃程度)。そこで、上記の低熱膨張フィラー粉末を添加することにより、封止材料の熱膨張係数を低減し、低融点特性と低熱膨張特性を両立させることが可能となる。それにより、被封止物である半導体発光素子の熱膨張係数に整合させることができ、封止物におけるクラックや剥離の発生を効果的に防止することができる。
【0018】
第五に、本発明の半導体発光素子封止材料は、ガラス粉末がSnO−P
2O
5−B
2O
3系ガラスからなることを特徴とする。
【0019】
一般に、SnO−P
2O
5系ガラスは低融点ガラスとして知られており、当該ガラスを半導体発光素子封止材料に用いると、低温封止が可能となり半導体発光素子や無機蛍光体粉末の熱劣化を抑制することができる。しかしながら、SnO−P
2O
5系ガラスは耐候性が低く、また無機蛍光体粉末と混合して焼成する際に無機蛍光体粉末と反応しやすく、得られる半導体発光素子デバイスの発光強度を低下させる傾向がある。そこで、SnO−P
2O
5系ガラスのなかでも、無機蛍光体粉末との反応を抑制するとともに耐候性を向上させる成分でもあるB
2O
3を含有するSnO−P
2O
5−B
2O
3系ガラスを用いることにより、発光強度に優れた半導体発光素子デバイスを作製することが可能となる。
【0020】
なお、本発明において「〜系ガラス」とは、該当する成分を必須成分として含有するガラスをいう。
【0021】
第六に、本発明の半導体発光素子封止材料は、SnO−P
2O
5−B
2O
3系ガラスが、組成としてモル%で、SnO 35〜80%、P
2O
5 5〜40%、B
2O
3 1〜30%を含有することを特徴とする。
【0022】
第七に、本発明の半導体発光素子封止材料は、無機蛍光体粉末が、酸化物、窒化物、酸窒化物、塩化物、酸塩化物、硫化物、酸硫化物、ハロゲン化物、カルコゲン化物、アルミン酸塩、ハロリン酸塩化物から選択される少なくとも1種であることを特徴とする。
【0023】
第八に、本発明は、ガラス粉末、無機蛍光体粉末および溶媒を含む半導体発光素子封止材料であって、溶媒が2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオールであることを特徴とする半導体発光素子封止材料に関する。
【0024】
第九に、本発明は、前記いずれかの半導体発光素子封止材料を半導体発光素子上に塗布する工程、溶媒の沸点以上で熱処理を行うことにより脱溶媒する工程、およびガラス粉末の軟化点以上で焼成することにより半導体発光素子上に封止物を形成する工程を含むことを特徴とする半導体発光素子デバイスの製造方法に関する。
【0025】
第十に、本発明は、前記製造方法によって作製されたことを特徴とする半導体発光素子デバイスに関する。
【0026】
第十一に、本発明の導体発光素子デバイスは、封止物の熱膨張係数が130×10
−7/℃以下であることを特徴とする。
【0027】
第十二に、本発明の導体発光素子デバイスは、封止物に含まれる無機蛍光体粉末が半導体発光素子からの励起光の一部を波長変換し、励起光と波長変換後の光の合成によって白色光を発することを特徴とする。
【0028】
第十三に、本発明の導体発光素子デバイスは、半導体発光素子が、波長300〜500nmの光を発する発光ダイオードまたはレーザーダイオードであることを特徴とする。
【0029】
第十四に、本発明は、半導体発光素子上に、ガラス粉末、無機蛍光体粉末および低熱膨張性フィラー粉末を含む混合粉末の焼結体からなる封止物が形成されてなる半導体発光素子デバイスに関する。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明の半導体発光素子封止材料は、ガラス粉末、無機蛍光体粉末および溶媒を含んでなるものである。
【0032】
本発明において用いられるガラス粉末は、軟化点が低く、無機蛍光体粉末と反応しにくく、優れた耐候性を有し、かつ内部透過率が高いものが好ましい。このような特性を満たすガラスとして、例えばSnO−P
2O
5−B
2O
3系ガラスが挙げられる。
【0033】
SnO−P
2O
5−B
2O
3系ガラスとしては、組成としてモル%で、SnO 35〜80%、P
2O
5 5〜40%、B
2O
3 1〜30%、Al
2O
3 0〜10%、SiO
2 0〜10%、Li
2O 0〜10%、Na
2O 0〜10%、K
2O 0〜10%、Li
2O+Na
2O+K
2O 0〜10%、MgO 0〜10%、CaO 0〜10%、SrO 0〜10%、BaO 0〜10%、MgO+CaO+SrO+BaO 0〜10%を含有するものであることが好ましい。ガラス組成を上記のように限定した理由を以下に説明する。なお、以下の説明で「%」は特に断りのない限り「モル%」を意味する。
【0034】
SnOはガラスの骨格を形成するとともに、軟化点を低下させる成分である。SnOの含有量は35〜80%、40〜70%、50〜70%、特に55〜65%であることが好ましい。SnOの含有量が35%より少なくなると、ガラスの軟化点が上昇する傾向にあり、封止温度が高くなって、半導体発光素子や無機蛍光体粉末が劣化しやすくなる。一方、SnOの含有量が多くなると、ガラス中にSnに起因する失透ブツが析出し、ガラスの透過率が低下する傾向にあり、結果として、高い発光強度を有する半導体発光素子デバイスが得られにくくなる。
【0035】
P
2O
5はガラスの骨格を形成する成分である。P
2O
5の含有量は5〜40%、10〜30%、特に15〜24%であることが好ましい。P
2O
5の含有量が少なくなると、ガラス化しにくくなる。一方、P
2O
5の含有量が多くなると、ガラスの軟化点が上昇する傾向にあり、封止温度が高くなって、半導体発光素子や無機蛍光体粉末が劣化しやすくなる。また、耐候性が著しく低下する傾向にある。
【0036】
なお、SnO/P
2O
5の値はモル比で0.9〜16、1.5〜16、1.5〜10、特に2〜5の範囲であることが好ましい。SnO/P
2O
5の値が0.9より小さくなると、ガラスの軟化点が上昇する傾向にあり、封止温度が高くなって、半導体発光素子や無機蛍光体粉末が劣化しやすくなる。また、耐候性が著しく低下する傾向にある。一方、SnO/P
2O
5の値が16より大きくなると、ガラス中にSnに起因する失透ブツが析出し、ガラスの透過率が低下する傾向にあり、結果として、高い発光強度を有する半導体発光素子デバイスが得られにくくなる。
【0037】
B
2O
3は無機蛍光体粉末との反応を抑えるとともに、耐候性を向上させる成分である。また、ガラスを安定化させる成分でもある。B
2O
3の含有量は1〜30%、2〜20%、特に4〜18%であることが好ましい。B
2O
3の含有量が少なくなると、上記効果が得られにくくなる。一方、B
2O
3の含有量が多くなると、逆に、無機蛍光体粉末と反応したり、耐候性が低下しやすくなる。また、ガラスの軟化点が上昇する傾向にあり、封止温度が高くなって、半導体発光素子や無機蛍光体粉末が劣化しやすくなる。
【0038】
本発明におけるガラス粉末は、上記成分以外にも下記の成分を含有することができる。
【0039】
Al
2O
3はガラスを安定化させる成分である。Al
2O
3の含有量は0〜10%、0〜7%、特に1〜5%であることが好ましい。Al
2O
3の含有量が多くなると、ガラスの軟化点が上昇する傾向にあり、封止温度が高くなって、半導体発光素子や無機蛍光体粉末が劣化しやすくなる。
【0040】
SiO
2はAl
2O
3と同様にガラスを安定化させる成分である。SiO
2の含有量は0〜10%、0〜7%、特に0.1〜5%であることが好ましい。SiO
2の含有量が多くなると、ガラスの軟化点が上昇する傾向にあり、封止温度が高くなって、半導体発光素子や無機蛍光体粉末が劣化しやすくなる。また、ガラスが分相しやすくなる。
【0041】
Li
2Oはガラスの軟化点を著しく低下させるとともに、無機蛍光体粉末の発光強度を大幅に向上させる成分である。Li
2Oの含有量は0〜10%、0〜7%、特に1〜5%であることが好ましい。Li
2Oの含有量が多くなると、ガラスが著しく不安定になりやすくガラス化しにくくなる。
【0042】
Na
2Oはガラスの軟化点を低下させるとともに、無機蛍光体粉末の発光強度を向上させる成分である。Na
2Oの含有量は0〜10%、0〜7%、特に0.1〜5%であることが好ましい。Na
2Oの含有量が多くなると、ガラスが不安定になりやすくガラス化しにくくなる。
【0043】
K
2Oはガラスの軟化点を低下させるとともに、無機蛍光体粉末の発光強度を向上させる成分である。K
2Oの含有量は0〜10%、0〜7%、特に1〜5%であることが好ましい。K
2Oの含有量が多くなると、ガラスが不安定になりやすくガラス化しにくくなる。
【0044】
なお、Li
2O、Na
2OおよびK
2Oの合量は0〜10%、0〜7%、特に1〜5%であることが好ましい。これら成分の合量が10%より多くなると、ガラスが不安定になりやすくガラス化しにくくなる。
【0045】
MgOはガラスを安定化させてガラス化しやすくするとともに、無機蛍光体粉末の発光強度を著しく向上させる成分である。MgOの含有量は0〜10%、0〜7%、特に1〜5%であることが好ましい。MgOの含有量が多くなると、ガラスが失透しやすく、ガラスの透過率が低下する傾向にあり、結果として、高い発光強度を有する半導体発光素子デバイスが得られにくくなる。
【0046】
CaOはガラスを安定化させてガラス化しやすくする成分である。CaOの含有量は0〜10%、0〜7%、特に0.1〜5%であることが好ましい。CaOの含有量が多くなると、ガラスが失透しやすく、ガラスの透過率が低下する傾向にあり、結果として、高い発光強度を有する半導体発光素子デバイスが得られにくくなる。
【0047】
SrOもガラスを安定化させてガラス化しやすくする成分である。SrOの含有量は0〜10%、0〜7%、特に0.1〜5%であることが好ましい。SrOの含有量が多くなると、ガラスが失透しやすく、ガラスの透過率が低下する傾向にあり、結果として、高い発光強度を有する半導体発光素子デバイスが得られにくくなる。
【0048】
BaOもガラスを安定化させてガラス化しやすくする成分である。BaOの含有量は0〜10%、0〜5%、0〜3%、特に0.1〜1%であることが好ましい。BaOの含有量が多くなると、ガラスが著しく失透しやすく、ガラスの透過率が低下する傾向にあり、結果として、高い発光強度を有する半導体発光素子デバイスが得られにくくなる。
【0049】
なお、MgO、CaO、SrOおよびBaOは合量で0〜10%、0〜7%、特に1〜5%であることが好ましい。これら成分の合量が10%より多くなると、ガラスが失透しやすく、ガラスの透過率が低下する傾向にあり、結果として、高い発光強度を有する半導体発光素子デバイスが得られにくくなる。
【0050】
また、上記成分以外にも、本発明の主旨を損なわない範囲で種々の成分を添加することができる。例えば、ガラスの耐候性を向上させるために、ZnO、Ta
2O
5、TiO
2、Nb
2O
5、Gd
2O
3、La
2O
3を合量で10%まで添加してもよい。
【0051】
ただし、Fe
2O
3、Cr
2O
3、CoO、CuO、NiO等の着色成分は、ガラスを着色させて、ガラスの内部透過率を低下させるため、これら成分は合量で0.02%以下に抑えることが好ましい。
【0052】
ガラス粉末の軟化点は400℃以下、特に380℃以下であることが好ましい。ガラス粉末の軟化点が400℃を超えると、耐熱性の低い無機蛍光体粉末を用いた場合、焼成時に劣化しやすくなる。また、半導体発光素子も熱劣化しやすくなる。そのため、得られる半導体発光素子デバイスの発光強度が低下しやすくなる。
【0053】
ガラス粉末の平均粒径D
50は、0.1〜100μm、特に1〜50μmであることが好ましい。ガラス粉末の平均粒径D
50が小さすぎると、焼成する際に気泡の発生量が多くなる。焼成後の封止物中に気泡が多く含まれると光散乱の原因となり発光強度が低下する傾向がある。好ましい気孔率は2%以下、特に1%以下である。一方、ガラス粉末の平均粒径D
50が大きすぎると、封止材料あるいは焼成後の封止物中に無機蛍光体粉末が均一に分散されにくくなり、結果として、半導体発光素子デバイスの発光強度が低下する傾向がある。
【0054】
本発明において用いられる無機蛍光体粉末は、可視域に発光ピークを有するものであれば特に限定されない。なお、本発明において可視域とは380〜780nmを示す。このような無機蛍光体粉末として、YAG系化合物等の酸化物、窒化物、酸窒化物、塩化物、酸塩化物、硫化物、酸硫化物、ハロゲン化物、カルコゲン化物、アルミン酸塩、ハロリン酸塩化物、などが挙げられる。なかでも窒化物、酸窒化物、塩化物、酸塩化物、硫化物、酸硫化物、ハロゲン化物、カルコゲン化物、アルミン酸塩、ハロリン酸塩化物の無機蛍光体粉末は、焼成時にガラス粉末と反応して発泡や変色を生じやすく、その程度は焼成温度が高温になるほど著しくなる。したがって、これらの無機蛍光体粉末を用いる場合は、軟化点の低い(例えば400℃以下)ガラス粉末を用いることが好ましい。
【0055】
半導体発光素子デバイスの発光強度は、半導体発光素子上に形成された封止物中に含まれる無機蛍光体粉末の種類や含有量および封止物の厚みなどによって変化する。無機蛍光体粉末の含有量と封止物の厚みは、発光強度や色度が最適になるように調整すればよい。ただし、無機蛍光体粉末が多くなりすぎると、焼結しにくくなったり、気孔率が大きくなって励起光が効率良く無機蛍光体粉末に照射されにくくなったり、封止物の機械的強度が低下するなどの問題が生じやすくなる。一方、無機蛍光体粉末が少なすぎると、十分な発光強度が得られにくくなる。したがって、封止材料において、固形成分中に占める無機蛍光体粉末の割合は、0.01〜30質量%、0.05〜20質量%、特に0.08〜15質量%の範囲であることが好ましい。
【0056】
本発明の封止材料には、溶媒が必須成分として含まれる。溶媒を添加せずにガラス粉末と無機蛍光体粉末の混合粉末を用いて半導体発光素子を封止した場合、半導体発光素子上に一定量かつ高い寸法精度で封止材料を塗布することは極めて困難であり、作業性も極端に低下してしまう。
【0057】
本発明において用いられる溶媒は、粘度が500mPa・s以上、1000mPa・s以上、特に1500mPa・s以上であることが好ましい。溶媒の粘度が500mPa・s未満であると、塗布または印刷後の形状安定性が低く、封止物の寸法精度に劣る傾向がある。また、溶媒中においてガラス粉末および無機蛍光体粉末が沈降しやすく、分散状態を均一に保つことが困難となり、結果として、半導体発光素子デバイスの発光強度が低下し、発光色にばらつきが生じる傾向がある。なお、溶媒の粘度の上限については特に限定されないが、高すぎる場合はディスペンスや印刷が困難になったり、溶媒中にガラス粉末および無機蛍光体粉末を均一に分散させることが難しくなる。したがって、溶媒の粘度は10000mPa・s以下、特に3000mPa・s以下であることが好ましい。
【0058】
また、溶媒の沸点は250℃以下、特に200℃以下であることが好ましい。溶媒の沸点が250℃よりも高いと、脱溶媒後も有機成分が残存しやすく、焼成後の封止物が着色して半導体発光素子デバイスの発光強度が低下する傾向がある。
【0059】
本発明において使用可能な溶媒は、500mPa・s以上の粘度および250℃以下の沸点を有するものであれば特に限定されない。このような溶媒として、側鎖を有する炭素数5〜20の脂肪族炭化水素における複数個の水素が水酸基に置換されたアルコールが挙げられる。炭素数が5よりも少ないと、粘度が1500mPa・sよりも低くなり、20よりも大きいと、沸点が250℃を超える傾向がある。
【0060】
なお、水酸基は炭素数の半数以下であると好ましい。水酸基が炭素数の半数よりも多いと固化しやすいため溶媒として使用できない。好ましい水酸基の数は2〜4である。また、脂肪族炭化水素は不飽和結合を有していても良いが、脂環式炭化水素や芳香族炭化水素は含まない方が好ましい。
【0061】
上記アルコールとしては、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオールが好適である。
【0062】
封止材料における溶媒の含有量はディスペンス性や印刷性を考慮して適宜調整すればよい。具体的には、溶媒の含有量はガラス粉末、無機蛍光体粉末等の固形成分100質量部に対し、10〜500質量部、特に30〜400質量部の範囲である。
【0063】
本発明の封止材料には、焼成後の封止物と半導体発光素子等の被封止物の熱膨張係数が整合するよう、低熱膨張性フィラー粉末を含有することが好ましい。それにより、被封止物の熱膨張係数が低い場合に、封止部位や被封止物に不当な応力が残留し、機械的衝撃によるクラックや剥離の発生を防止することができる。
【0064】
低熱膨張性フィラー粉末の含有量は、封止材料の固形成分中において1〜50質量%、1.5〜30質量%、2〜20質量%、特に5〜20質量%であることが好ましい。低熱膨張性フィラー粉末の含有量が1質量%より少ないと、上記効果が得られにくい。一方、低熱膨張性フィラー粉末の含有量が50質量%より多いと、焼成時に軟化流動するガラス粉末の含有量が相対的に少なくなるため、半導体発光素子に対する固着強度が低下しやすくなる。また、封止物においてガラスマトリクスと低熱膨張性フィラー粉末の界面における散乱損失が大きくなり発光強度が低下する傾向がある。
【0065】
本発明において用いられる低熱膨張性フィラー粉末の熱膨張係数は、30〜380℃の温度範囲で50×10
−7/℃以下、特に30×10
−7/℃以下であることが好ましい。低熱膨張性フィラー粉末の熱膨張係数が50×10
−7/℃より大きいと、焼成後の封止物の熱膨張係数を低下させる効果が得られにくい。なお、低熱膨張性フィラー粉末の熱膨張係数の下限については特に限定されないが、現実的には−100×10
−7/℃以上である。
【0066】
本発明の封着材料を用いた封止物の熱膨張係数は、被封止物である半導体発光素子(あるいは半導体発光素子を含む基板やパッケージ)の熱膨張係数に応じて適宜調整すればよく、例えば130×10
−7/℃以下、100×10
−7/℃以下、特に80×10
−7/℃以下であることが好ましい。
【0067】
本発明における低熱膨張性フィラー粉末の具体例としては、リン酸ジルコニウム、リン酸タングステン酸ジルコニウム、タングステン酸ジルコニウム、NZP型結晶およびこれらの固溶体が挙げられ、これらを単独または2種以上を混合して使用することができる。
【0068】
ここで、「NZP型結晶」とは、例えばNbZr(PO
4)
3や[AB
2(MO
4)
3]の基本構造をもつ結晶が含まれる。
A:Li、Na、K、Mg、Ca、Sr、Ba、Zn、Cu、Ni、Mn等
B:Zr、Ti、Sn、Nb、Al、Sc、Y等
M:P、Si、W、Mo等
【0069】
なお、低熱膨張性フィラー粉末はZr成分を含有するものを使用することが好ましい。Zr成分を含有する低熱膨張性フィラー粉末は、SnO−P
2O
5系ガラスと適合性が良好、つまりSnO−P
2O
5系ガラスとの反応性が低く、焼結時にガラスを失透させにくい性質を有している。
【0070】
低熱膨張性フィラー粉末の平均粒子径D
50は0.1〜50μm、特に3〜20μmであることが好ましい。低熱膨張性フィラー粉末の平均粒子径D
50が0.1μmより小さいと、熱膨張係数を低下させる効果に劣る傾向がある。あるいは、焼成時にガラスに溶け込み、フィラーとしての役割を果たさなくなるおそれがある。低熱膨張性フィラー粉末の平均粒子径D
50が50μmより大きいと、ガラスマトリックスと低熱膨張性フィラー粉末の境界にクラックが発生しやすくなる。
【0071】
なお、低熱膨張性フィラー粉末とガラス粉末の屈折率との差が小さいほど、両者の界面での散乱損失が小さくなり、発光強度が向上しやすくなる。具体的には、低熱膨張性フィラー粉末とガラス粉末の屈折率との差は0.2以下、特に0.1以下であることが好ましい。例えばSnO−P
2O
5系ガラスの屈折率ndは1.8程度であるため、低熱膨張性フィラーの屈折率は1.6〜2、特に1.7〜1.9であることが好ましい。
【0072】
次に、本発明の半導体発光素子封止材料を用いた半導体発光素子デバイスの製造方法について説明する。
【0073】
本発明の半導体発光素子デバイスの製造方法は、本発明の半導体発光素子封止材料を半導体発光素子上に塗布する工程、溶媒の沸点以上で熱処理を行うことにより脱溶媒する工程、およびガラス粉末の軟化点以上で焼成することにより半導体発光素子上に封止物を形成する工程を含むことを特徴とする。
【0074】
本発明の半導体発光素子封止材料を半導体発光素子上に塗布する方法は特に限定されず、例えば印刷法であってもよいし、ディスペンサーを用いて行ってもよい。
【0075】
次に、溶媒の沸点以上で熱処理を行うことにより脱溶媒する。熱処理温度が高すぎると、脱溶媒とともにガラス粉末の焼結も並行して進んでしまい緻密な焼結体が得られにくくなり、発光強度が低下しやすくなる。したがって、脱溶媒の際の熱処理温度は300℃以下、特に280℃以下であることが好ましい。なお、脱溶媒の雰囲気は特に限定されず、大気雰囲気中、減圧雰囲気中、還元雰囲気中等で行うことができる。
【0076】
脱溶媒後、焼成し半導体発光素子を含む被封止物を封止する。焼成温度としては、300〜450℃の範囲であることが好ましい。焼成温度が450℃よりも高くなると、半導体発光素子や無機蛍光体粉末が熱劣化したり、ガラス粉末と無機蛍光体粉末が反応して発光強度が低下する場合がある。焼成雰囲気としては、ガラス粉末中の酸化、特にSn成分の酸化を抑制するため減圧または真空中、あるいは窒素やアルゴンなどの不活性ガス雰囲気中が好ましい。ガラス粉末中のSn成分が酸化すると、ガラス粉末が焼結しにくくなり、半導体発光素子への固着が不十分になる傾向がある。
【0077】
なお、被封止物はサファイア基板を含む一般的なGaN系半導体発光素子が一例として挙げられる。また、半導体発光素子が設置された基板やパッケージであってもよい。半導体発光素子は、電極を上にした状態で設置されていても下向きで設置されていてもよい。基板やパッケージにはアルミナや金属系等、種々の材質を適用することができる。基板は多層基板であってもよい。また、基板やパッケージは半導体発光素子に電力を供給する配線等を含んでいてもよい。封止材料は半導体発光素子のみを封止してもよいし、半導体発光素子を含むパッケージを封止してもよい。
【0078】
図1に本発明の半導体発光素子デバイスの実施形態を示す。
【0079】
(a)の半導体発光素子デバイス1は、凹部を有するパッケージ4の底面に半導体発光素子3が形成されており、半導体発光素子3全体が封止物2により封止され、かつパッケージ4の凹部にも相当量の封止物2が満たされている。
【0080】
(b)の半導体発光素子デバイス1は、凹部を有するパッケージ4の底面に半導体発光素子3が形成されており、半導体発光素子3の露出表面のみが封止物2により封止されている。
【0081】
(c)の半導体発光素子デバイス1は、凹部を有するパッケージ4の底面に半導体発光素子3が形成されており、半導体発光素子3の上面のみが封止物2により封止されている。
【0082】
(d)の半導体発光素子デバイス1は、(c)と同様に半導体発光素子3の上面のみが封止物2により封止されており、封止物2がレンズ形状を有している。
【0083】
本発明の半導体発光素子としては、例えば波長300〜500nmの光を発する発光ダイオードやレーザーダイオードが挙げられる。
【0084】
本発明の半導体発光素子デバイスは、封止物に含まれる無機蛍光体粉末が半導体発光素子からの励起光の一部を波長変換し、励起光と波長変換後の光の合成によって白色光を発する白色LEDまたは白色LDとして使用することができる。
【実施例】
【0085】
以下、実施例に基づき本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0086】
表1は、本発明の実施例(No.1〜4)および比較例(No.5〜7)をそれぞれ示している。
【0087】
【表1】
【0088】
表中に示す各試料は、次のようにして作製した。
【0089】
まず、表1に示す組成となるように原料粉末を秤量し、電気炉内で1000℃、窒素雰囲気にて2時間溶融した。その後、ガラス融液をフィルム成形し、さらにらいかい機で粉砕しガラス粉末を得た。
【0090】
無機蛍光体粉末は、黄色発光を示す市販のシリケート系蛍光体(Intematix社製)を用い、すべての試料について封止材料中の固形成分において5質量%添加した。
【0091】
次に、ガラス粉末と無機蛍光体粉末に対し、表1に示す低熱膨張性フィラー粉末を添加し振動混合機で混合した。得られた混合粉末に対し、表1に示す溶媒を添加してペースト状の封止材料を得た。なお、表中「MARS(商品名)」とは、日本香料薬品株式会社製の2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオールからなる溶媒を示す。
【0092】
GaNあるいはサファイア等の各部材から形成される半導体発光素子、それを設置するアルミナパッケージを想定し、熱膨張係数が約70×10
−7/℃のアルミナ基板を被封止物として用いた。得られた封止材料をアルミナ基板上に直径5mm、厚さ1mmの形状となるように塗布し、その後ホットプレート上で熱処理することによって脱溶媒を行った。脱溶媒における熱処理は、実施例4以外は250℃で30分間、実施例4については300℃で30分間行った。
【0093】
その後、窒素雰囲気中にて430℃で5分間焼成することで封止物を作製した。
【0094】
封止性は、サンプルを50cmの高さからアルミナ基板上に落下させ、封止物にクラックや剥離が見られない場合は「○」、クラックのみ発生した場合は「△」、剥離が生じた場合は「×」として評価した。
【0095】
封止物の線熱膨張係数の測定は、バルク状の封止物を作製し、直径3mm、長さ20mmの円柱状に加工したものについて、Bruker AXS社製TD−5010を用いて行った。
【0096】
発光強度は、5mm角、厚さ0.5mmに加工した封止物を、波長460nmの青色LED上に設置して擬似的な半導体発光素子デバイスを作製して測定を行った。具体的には、封止物を校正された積分球内の青色LED上に設置して電流600mAで点灯させ、発光を光ファイバーを通して小型分光器(オーシャンオプティクス製USB−4000)に取り込み、制御PC上に発光スペクトル(エネルギー分布曲線)を得た。発光スペクトルから制御ソフト(オーシャンフォトニクス製 OP Wave)によって全光束値(lm)を算出した。
【0097】
実施例であるNo.1〜3においては、封止物にクラックや剥離は観察されず、また発光強度も9.9〜10.5lmと良好であった。実施例であるNo.4は、低熱膨張フィラー粉末の含有量が少なく、封止物の熱膨張係数が135×10
−7/℃と大きいため封止物にクラックが観察されたが、発光強度は10.0lmと良好であった。
【0098】
一方、比較例であるNo.5では溶媒に沸点が290℃と高いグリセリンを用いたため、焼成後の封止物はややくすんだ色をしており、発光強度も7.3lmと低かった。これは溶媒の沸点が250℃を超えているため、脱溶媒後も有機成分が封止材料中に残存しその後の焼成時に黒化したためと考えられる。No.6では、溶媒に粘度が24mPa・sと低いエチレングリコールを用いたため、ガラス粉末と無機蛍光体粉末および低熱膨張性フィラー粉末が塗布後に分離し、均質な封止材料を得ることができなかった。そのため、基板への固着が不十分となり、封止性に劣ったものになった。また、発光強度も7.6lmと低かった。No.7では溶媒を用いなかったため、基板への塗布が困難であり、基板への顧客が不十分となり、封止性に劣ったものになった。なお、封止物中に空隙が存在しており、発光強度の測定が不可能であった。