特許第5689303号(P5689303)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5689303-旋盤用チャック 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5689303
(24)【登録日】2015年2月6日
(45)【発行日】2015年3月25日
(54)【発明の名称】旋盤用チャック
(51)【国際特許分類】
   B23B 31/20 20060101AFI20150305BHJP
【FI】
   B23B31/20 H
   B23B31/20 E
【請求項の数】10
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2010-283448(P2010-283448)
(22)【出願日】2010年12月20日
(65)【公開番号】特開2012-130978(P2012-130978A)
(43)【公開日】2012年7月12日
【審査請求日】2013年9月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109911
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義仁
(74)【代理人】
【識別番号】100071168
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 久義
(74)【代理人】
【識別番号】100099885
【弁理士】
【氏名又は名称】高田 健市
(72)【発明者】
【氏名】鴇巣 裕樹
【審査官】 齊藤 彬
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−107037(JP,A)
【文献】 実開昭50−143185(JP,U)
【文献】 実開昭58−017906(JP,U)
【文献】 特開平05−228731(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 31/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有底筒状ワークを把持するために前記ワークの内周面を外向きに押圧する把持部が、頸部を介して、旋盤の主軸側に配置される基部に一体に形成された旋盤用チャックであって、
前記頸部は前記基部よりも径小であり且つ前記頸部の外周面が軸線と平行に形成されるとともに、
前記基部の前記頸部との隣接部の外周面が、前記主軸側に向かって漸次径大のテーパ状に形成され
前記把持部の先端面は、前記ワークを把持する際に該把持部の先端面に前記ワークの内側底面が押し当てられることで軸線方向におけるワークの位置決めを行うワーク位置決め部として構成されており、
前記把持部を拡開させるためのドローバーが、前記把持部の先端面の中心部から前記主軸側に向かって貫挿されており、
前記ドローバーの前記把持部側の端面が、前記ワークを把持する前の状態では軸線方向において前記把持部の先端面と同じ位置か先端面よりも前記基部側に配置されるとともに、前記把持部の先端面と前記把持部の外周面との間の角部が面取り加工されることにより、前記把持部の先端面が前記ワーク位置決め部として適するように構成されていることを特徴とする旋盤用チャック。
【請求項2】
前記頸部の外周面と前記隣接部の外周面とが連接している請求項1記載の旋盤用チャック。
【請求項3】
前記頸部の外周面と前記隣接部の外周面とが断面円弧状面を介して軸線方向に滑らかに連接している請求項2記載の旋盤用チャック。
【請求項4】
前記頸部は前記把持部よりも径小であり、
前記頸部の外周面と前記把持部の外周面との間の段差面が前記把持部の外周面に対してなす角度が、90°以下に設定されている請求項1〜のいずれかに記載の旋盤用チャック。
【請求項5】
主軸に取り付けられる請求項1〜のいずれかに記載の旋盤用チャックを備えていることを特徴とする旋盤。
【請求項6】
旋盤の主軸に取り付けられたチャックにより有底筒状ワークを把持した状態で、前記ワークを旋削加工する旋削加工品の製造方法であって、
前記チャックとして、有底筒状ワークを把持するために前記ワークの内周面を外向きに押圧する把持部が、頸部を介して、旋盤の主軸側に配置される基部に一体に形成された旋盤用チャックを用い、
前記頸部は前記基部よりも径小であり且つ前記頸部の外周面が軸線と平行に形成されるとともに、
前記基部の前記頸部との隣接部の外周面が、前記主軸側に向かって漸次径大のテーパ状に形成され、
前記把持部の先端面は、前記ワークを把持する際に該把持部の先端面に前記ワークの内側底面が押し当てられることで軸線方向におけるワークの位置決めを行うワーク位置決め部として構成されており、
該チャックにより前記ワークを把持する際に、前記チャックの把持部の先端面に前記ワークの内側底面を突き当てることで前記チャックの軸線方向におけるワークの位置決めを行うことを特徴とする旋削加工品の製造方法。
【請求項7】
前記旋盤用チャックにおいて、
前記把持部を拡開させるためのドローバーが、前記把持部の先端面の中心部から前記主軸側に向かって貫挿されており、
前記ドローバーの前記把持部側の端面が、前記ワークを把持する前の状態では軸線方向において前記把持部の先端面と同じ位置か先端面よりも前記基部側に配置されるとともに、前記把持部の先端面と前記把持部の外周面との間の角部が面取り加工されることにより、前記把持部の先端面が前記ワーク位置決め部として適するように構成されている請求項6記載の切削加工品の製造方法。
【請求項8】
前記旋盤用チャックにおいて、
前記頸部の外周面と前記隣接部の外周面とが連接している請求項6又は7記載の切削加工品の製造方法。
【請求項9】
前記旋盤用チャックにおいて、
前記頸部の外周面と前記隣接部の外周面とが断面円弧状面を介して軸線方向に滑らかに連接している請求項6〜8のいずれかに記載の切削加工品の製造方法。
【請求項10】
前記旋盤用チャックにおいて、
前記頸部は前記把持部よりも径小であり、
前記頸部の外周面と前記把持部の外周面との間の段差面が前記把持部の外周面に対してなす角度が、90°以下に設定されている請求項6〜9のいずれかに記載の切削加工品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筒状ワークを内掴み状態で把持する方式の旋盤用チャック、旋盤、及び旋削加工品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
筒状ワークの端面などを旋削加工する際に用いられる旋盤用チャックとして、特開平9−174301号公報(特許文献1)に開示されたコレットチャックが公知である。このチャックを図3に示す。
【0003】
同図に示すように、このチャック101は、ワーク120を内掴み状態で把持する方式のものであり、基部102に頸部103を介して把持部104が一体に形成されている。基部102は旋盤110の主軸111側に配置されて主軸111に取り付けられている。把持部104はワーク120内に配置されてワーク120の内周面121を外向きに押圧してワーク120を把持している。
【0004】
このチャック101によりワーク120を把持する場合は、ワーク120内に把持部104を配置するとともに、頸部103に直角に係合したストッパ130の側面131にワーク120の主軸側端面123を押圧することにより、チャック101の軸線方向におけるワーク120の位置決めを行う。そしてこの状態で、ドローバー109を主軸111側へ引っ張って把持部104を径方向外側へ拡開させることにより、把持部104をワーク120の内周面121に外向きに押圧し、これによりワーク120を把持する。次いで、ストッパ130を後退させる。次いで、ワーク120を回転させ、旋削工具113によってワーク120の所定部位を旋削加工する。
【0005】
このチャック101では、頸部103は基部102よりも径小に形成されるとともに、基部102の外周面102bと頸部103の外周面103aとの間の段差面107は、頸部103の外周面103aに対して直角をなして形成されている。したがって、基部102の頸部103との隣接部102aの外周面はチャック101の軸線と平行に形成されている。さらに、頸部103は把持部104よりも径小に形成されるとともに、頸部103の外周面103aと把持部104の外周面104aとの間の段差面106は、把持部104側に向かって漸次径大のテーパ状に形成されており、これにより、該段差面106が把持部104の外周面104aに対してなす角度θ1が、鈍角(即ちθ1>90°)になっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−174301号公報(図2
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
而して、上記従来のチャック101では、当該チャック101により把持したワーク120を旋削加工するときにびびり振動が生じるという問題があった。なお、びびり振動は、加工面精度の悪化、旋削工具(バイト)の刃先の破損等の原因となる。
【0008】
本発明は、上述した技術背景に鑑みてなされたもので、その目的は、筒状ワークの旋削加工時にびびり振動が発生するのを防止することができる旋盤用チャック、チャックを備えた旋盤、及び、チャックを用いた旋削加工品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は以下の手段を提供する。
【0010】
[1] 筒状ワークを把持するために前記ワークの内周面を外向きに押圧する把持部が、頸部を介して、旋盤の主軸側に配置される基部に一体に形成された旋盤用チャックであって、
前記頸部は前記基部よりも径小であり且つ前記頸部の外周面が軸線と平行に形成されるとともに、
前記基部の前記頸部との隣接部の外周面が、前記主軸側に向かって漸次径大のテーパ状に形成されていることを特徴とする旋盤用チャック。
【0011】
[2] 前記頸部の外周面と前記隣接部の外周面とが連接している前項1記載の旋盤用チャック。
【0012】
[3] 前記頸部の外周面と前記隣接部の外周面とが断面円弧状面を介して軸線方向に滑らかに連接している前項2記載の旋盤用チャック。
【0013】
[4] 前記ワークは有底筒状のものであり、
前記把持部の先端面が、前記ワークを把持する際に該把持部の先端面に前記ワークの内側底面が押し当てられることで軸線方向におけるワークの位置決めを行うワーク位置決め部として構成されている前項1〜3のいずれかに記載の旋盤用チャック。
【0014】
[5] 前記把持部を拡開させるためのドローバーが、前記把持部の先端面の中心部から前記主軸側に向かって貫挿されており、
前記ドローバーの前記把持部側の端面が、前記ワークを把持する前の状態では軸線方向において前記把持部の先端面と同じ位置か先端面よりも前記基部側に配置されるとともに、前記把持部の先端面と前記把持部の外周面との間の角部が面取り加工されることにより、前記把持部の先端面が前記ワーク位置決め部として適するように構成されている前項4記載の旋盤用チャック。
【0015】
[6] 前記頸部は前記把持部よりも径小であり、
前記頸部の外周面と前記把持部の外周面との間の段差面が前記把持部の外周面に対してなす角度が、90°以下に設定されている前項1〜5のいずれかに記載の旋盤用チャック。
【0016】
[7] 主軸に取り付けられる前項1〜6のいずれかに記載の旋盤用チャックを備えていることを特徴とする旋盤。
【0017】
[8] 旋盤の主軸に取り付けられたチャックにより筒状ワークを把持した状態で、前記ワークを旋削加工する旋削加工品の製造方法であって、
前記チャックとして、前項1〜6のいずれかに記載の旋盤用チャックを用いることを特徴とする旋削加工品の製造方法。
【0018】
[9] 前記ワークは有底筒状のものであり、
前記チャックとして、前項4又は5記載の旋盤用チャックを用い、
該チャックにより前記ワークを把持する際に、前記チャックの把持部の先端面に前記ワークの内側底面を突き当てることで前記チャックの軸線方向におけるワークの位置決めを行う前項8記載の旋削加工品の製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明は以下の効果を奏する。
【0020】
前項[1]の旋盤用チャックでは、頸部は基部よりも径小であり且つ頸部の外周面が軸線と平行に形成されるとともに、基部の頸部との隣接部の外周面が、主軸側に向かって漸次径大のテーパ状に形成されていることにより、ワークの旋削加工時にびびり振動が発生するのを防止することができる。
【0021】
前項[2]のチャックでは、頸部の外周面と隣接部の外周面とが連接していることにより、びびり振動の発生を確実に防止することができる。
【0022】
前項[3]のチャックでは、頸部の外周面と隣接部の外周面とが断面円弧状面を介してチャックの軸線方向に滑らかに連接していることにより、頸部の外周面と隣接部の外周面との間の位置に作用する応力集中を緩和することができ、これにより、びびり振動の発生を更に確実に防止することができる。
【0023】
前項[4]のチャックでは、有底筒状ワークをチャックする際に、把持部の先端面にワークの内側底面を押し当てることにより、チャックの軸線方向におけるワークの位置決めが行われる。そのため、ワークの位置決めを容易に行うことができる。
【0024】
前記[5]のチャックでは、ドローバーの把持部側の端面が、ワークを把持する前の状態ではチャックの軸線方向において把持部の先端面と同じ位置か先端面よりも基部側に配置されているので、把持部の先端面にワークの内側底面を押し当てる際にドローバーの把持部側の端面が干渉しない。さらに、把持部の先端面と把持部の外周面との間の角部が面取り加工されているので、把持部の先端面にワークの内側底面を押し当てる際に把持部の先端面と把持部の外周面との間の角部がワークの内周面と内側底面との間の隅部に干渉しない。これにより、ワークの先端面にワークの内側底面を確実に押し当てることができ、その結果、ワークの位置決めを確実に行うことができる。
【0025】
前項[6]のチャックでは、頸部は把持部よりも径小であり、頸部の外周面と把持部の外周面との間の段差面が把持部の外周面に対してなす角度が、90°以下に設定されている。これにより、チャックによって把持されたワークの主軸側端面の内周縁やその近傍の内周面を旋削加工する際に、これらの部位に旋削工具の刃先を容易に当てることができ、そのため、これらの部位を容易に旋削加工することができる。
【0026】
前項[7]の旋盤では、ワークの旋削加工時にびびり振動が発生するのを防止することができる。
【0027】
前項[8]の旋削加工品の製造方法では、ワークの旋削加工時にびびり振動が発生するのを防止することができる。
【0028】
前項[9]の旋削加工品の製造方法では、チャックの軸線方向におけるワークの位置決めを容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1図1は、本発明の一実施形態に係るチャックを、ワークを把持した状態で示す断面図である。
図2図2は、同チャックの把持部の、先端面側から見た正面図である。
図3図3は、従来(特開平9−174301号公報)のチャックを、ワークを把持した状態で示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
次に、本発明の一実施形態について図面を参照して以下に説明する。
【0031】
図1において、1は本発明の一実施形態に係る旋盤用チャック、10は旋盤である。20は円筒状ワークである。
【0032】
本実施形態のチャック1は、ワーク20を内掴み状態で把持する方式のものである。このチャック1は、詳述するとコレットチャックであって、円筒状のチャック本体1Aとドローバー9とを具備している。チャック本体1A及びドローバー9の材質は特に限定されるものではなく、例えばS45C(生材)等の鋼である。
【0033】
ワーク20は、詳述すると有底円筒状のものである。ワーク20の内周面21は、ワーク20の軸線と平行に形成されている。ワーク20の内側底面22は、ワーク20の軸線に対して垂直に形成されている。ワーク20の材質は特に限定されるものではなく、金属、木材、旋削加工可能なセラミック等である。
【0034】
ワーク20の内径は例えば15〜30mmの範囲内に設定されている。ワーク20の円筒状周壁部の肉厚は例えば2〜10mmの範囲内に設定されている。ワーク20の主軸側端面23から内側底面22までの長さは例えば10〜30mmの範囲内に設定されている。
【0035】
旋盤10は、櫛歯型NC旋盤であり、主軸線を中心に回転駆動可能な主軸11と、旋削工具(バイト)13が取り付けられる工具取付け部12とを具備している。なお本発明では、旋盤10は櫛歯型の他にタレット型などであっても良い。
【0036】
本実施形態のチャック1において、チャック本体1Aは、基部2と頸部3と把持部4とを有するとともに、把持部4が頸部3を介して基部2に一体に形成されたものである。
【0037】
把持部4は、円筒状であり、ワーク20を把持するためにワーク20の内周面21をワーク20の半径外向きに押圧するものである。ここで、チャック1はコレットチャックであることから、図2に示すように、把持部4は、その中心から放射状に複数個のスリット溝4eが形成されることで周方向に均等に複数個の把持部エレメント4fに分割されている。本実施形態では、スリット溝4eの数、即ち把持部4の分割数は4個である。
【0038】
基部2は、円筒状であり、旋盤10の主軸11側に配置されるものである。基部2の基端面の中心部には、主軸11との連結部として、主軸11側に突出したボルト部2cが一体に設けられている。旋盤10の主軸11の中心部にはねじ穴からなる主軸穴11aが設けられている。そして、ボルト部2cが主軸穴11aに螺合されることにより、チャック1(チャック本体1A)の軸線Pが主軸11の主軸線と一致するように基部2が主軸11に取外し可能に取り付けられている。
【0039】
頸部3は、円筒状であり、基部2及び把持部4よりも径小に形成されており、更に、ワーク20の内径よりも小径に形成されている。頸部3の外周面3aはチャック1の軸線Pと平行に形成されている。
【0040】
ドローバー9は、把持部4を径方向外側へ拡開させるためのものであり、把持部4の先端面4bの中心部からチャック1の軸線Pに沿って把持部4、頸部3及び基部2を順次通って主軸11側に貫挿されている。把持部4の先端面4bの中心部には、先端側に向かって漸次径大のテーパ穴4dが設けられている。ドローバー9の把持部4側の端部には、このテーパ穴4dに対応して膨出したテーパ状膨出部9aが形成されており、この膨出部9aが把持部4のテーパ穴4d内に配置されている。
【0041】
このドローバー9では、把持部4をワーク20内に配置した状態でドローバー9を主軸11側から引っ張ることにより、膨出部9aが把持部4を外向きに押圧して、把持部4が径方向外側へ少し拡開するように把持部4及び頸部3を弾性変形させる。このように把持部4が拡開することにより、把持部4がワーク20の内周面21を外向きに押圧してワーク20が把持される。一方、ドローバー9の引っ張りを解除することにより、把持部4及び頸部3の弾性復元力により把持部4が閉じられて把持部4のワーク内周面21への押圧が解除される。ワーク20を把持する際の把持部4の径方向外側への拡開量は0.1mm程度である。
【0042】
基部2において、基部2の頸部3との隣接部2aの外周面2bは、旋盤10の主軸11側に向かって漸次径大のテーパ状(即ちテーパ面)に形成されている。さらに、頸部3の外周面3aと隣接部2aの外周面2bとは連接しており、詳述すると、頸部3の外周面3aと隣接部2aの外周面2bとは断面円弧状面(いわゆるアール面)5を介してチャック1の軸線方向に滑らかに連接している。
【0043】
なお、把持部4を分割した各スリット溝4eは、把持部4の先端面4bから頸部3を通って隣接部2aまでチャック1の軸線Pと平行に延びて形成されている。
【0044】
把持部4の長さは、ワーク20の主軸側端面23から内側底面22までの長さよりも短く設定されている。把持部4の外径はワーク20の内径よりも僅かに小さく設定されている。把持部4の外周面4aは、ワーク20の内周面21を外向きに押圧した状態で(即ちワーク20を把持した状態で)チャック1の軸線Pと平行になるように形成されている。したがって、ワーク20の内周面21を押圧しないときでは(即ちワーク20を把持する前の状態では)、把持部4の外周面4aは先端面4b側に向かって僅かに漸次径小のテーパ状に形成されている。
【0045】
さらに、把持部4の先端面4bは、ワーク20を把持する際に該把持部4の先端面4bにワーク20の内側底面22が押し当てられることでチャック1の軸線方向におけるワーク20の位置決めを行うワーク位置決め部として構成されている。
【0046】
さらに、把持部4の先端面4bをワーク位置決め部として適するように構成させるため、把持部4の先端面4bはチャック1の軸線Pに対して垂直に形成されるとともに、把持部4の先端面4bと把持部4の外周面4aとの間の角部4cが全周に亘って面取り加工されている。さらに、ドローバー9の把持部4側の端面9b(即ちドローバー9の膨出部9a側の端面)は、ワーク20を把持する前の状態ではチャック1の軸線方向において把持部4の先端面4bと同じ位置か先端面4bよりも基部2側に配置されている。これにより、把持部4の先端面4bがワーク位置決め部として適するように構成されている。
【0047】
また、頸部3の外周面3aと把持部4の外周面4aとの間の段差面6が把持部4の外周面4aに対してなす角度θ1は、90°以下に設定されている。本実施形態では、この段差面6はチャック1の軸線Pに対して略垂直に形成されており、θ1は90°に設定されている。
【0048】
次に、本実施形態のチャック1を用いてワーク20を旋削加工する方法について以下に説明する。
【0049】
まず、旋盤10の主軸11の主軸穴11aにチャック1の基部2のボルト部2cを螺合させ、これにより、チャック1の軸線Pが主軸11の主軸線と一致するように基部2を主軸11に取り付ける。また、ドローバー9をチャック1(チャック本体1A)に把持部4の先端面4bの中央部から主軸11側へ貫挿配置する。
【0050】
次いで、ワーク20をチャック1により把持させるため、チャック1の把持部4をワーク20内に配置させるとともに、把持部4の先端面4bがその全周に亘ってワーク20の内側底面22に当接するように把持部4の先端面4bにワーク20の内側底面22を突き当てる。これにより、チャック1の軸線方向におけるワーク20の位置決めが行われる。この状態を維持したままでドローバー9を主軸11側から引っ張ることにより、把持部4をワーク20の内周面21に外向きに押圧する。これにより、ワーク20の軸線がチャック1の軸線Pと一致するようにワーク20がチャック1の把持部4で把持される。
【0051】
次いで、主軸11を回転駆動させることでチャック1及びワーク20をチャック1の軸線Pを中心に一体回転させる。そして、旋盤10の工具取付け部12に取り付けられた旋削工具13(バイト)によってワーク20の所定部位を旋削加工する。これにより、所望する有底円筒状の旋削加工品が得られる。
【0052】
旋削加工が終了したら、ドローバー9の引っ張りを解除することにより、チャック1による旋削加工品(ワーク20)の把持を解除する。そして、旋削加工品をチャック1から取り外す。
【0053】
本実施形態のチャック1は次の利点を有している。
【0054】
チャック1の頸部3は基部2よりも径小であり且つ頸部3の外周面3aがチャック1の軸線Pと平行に形成されるとともに、基部2の頸部3との隣接部2aの外周面2bが、主軸11側に向かって漸次径大のテーパ状に形成されていることにより、ワーク20の旋削加工時にびびり振動が発生するのを防止することができる。
【0055】
すなわち、本発明者は、形状を様々に変更した複数のチャックを用いてワーク20を旋削加工したところ、頸部3の外周面3aと、基部2の頸部3との隣接部2aの外周面2bとがそれぞれ上記のように形成されていれば、びびり振動の発生を防止できることを発見したのである。さらに本発明者は、チャック1の頸部3の外周面3aと隣接部2aの外周面2bとが連接していれば、びびり振動の発生を確実に防止できることを発見した。さらに発明者は、チャック1の頸部3の外周面3aと隣接部2aの外周面2bとが断面円弧状面5を介してチャック1の軸線方向に滑らかに連接していれば、頸部3の外周面3aと隣接部2aの外周面2bとの間の位置に作用する応力集中を緩和することができ、これにより、びびり振動の発生を更に確実に防止できることを発見した。このような効果を確実に奏するようにするため、断面円弧状面5の曲率半径は7〜25mmの範囲であることが特に望ましい。
【0056】
ここで、基部2の隣接部2aの外周面2bのテーパ半角(即ち、チャック1の軸線Pに対する隣接部2aの外周面2bの傾斜角)θ2は45°±20°の範囲であることが特に望ましく、更に、頸部3の長さは10〜35mmの範囲であることが特に望ましい。さらに、頸部3の外径は、基部2の外径に対して25〜50%に設定されるとともに、把持部4の外径に対して60〜80%に設定されることが特に望ましい。このように設定されることにより、びびり振動の発生をより一層確実に防止することができる。
【0057】
さらに、チャック1の把持部4の先端面4bは、ワーク20を把持する際に該把持部4の先端面4bにワーク20の内側底面22が押し当てられることでチャック1の軸線方向におけるワーク20の位置決めを行うワーク位置決め部として構成されている。そのため、チャック1の軸線方向におけるワーク20の位置決めを容易に行うことができる。
【0058】
さらに、ドローバー9の把持部4側の端面9bが、ワーク20を把持する前の状態ではチャック1の軸線方向において把持部4の先端面4bと同じ位置か先端面4bよりも基部2側に配置されているので、把持部4の先端面4bにワーク20の内側底面22を押し当てる際にドローバーの9把持部4側の端面9bが干渉しない。さらに、把持部4の先端面4bと把持部4の外周面4aとの間の角部4cが面取り加工されているので、もしワーク20の内周面21と内側底面22との間の隅部の断面形状が直角形状ではなく円弧状に形成されている場合でも、把持部4の先端面4bにワーク20の内側底面22を押し当てる際に把持部4の先端面4bと把持部4の外周面4aとの間の角部4cがこの隅部に干渉しない。これにより、把持部4の先端面4bにワーク20の内側底面22を確実に押し当てることができ、そのため、ワーク20の位置決めを確実に行うことができる。
【0059】
さらに、チャック1の頸部3は把持部4よりも径小であり、頸部3の外周面3aと把持部4の外周面4aとの間の段差面6が把持部4の外周面4aに対してなす角度θ1が、90°以下に設定されている。これにより、ワーク20をチャック1により把持した状態において、ワーク20の主軸側端面23の近傍の内周面21と頸部3の外周面3aとの間に比較的大きな空間Sが生じる。一方、図3に示した従来のチャック101では、頸部103の外周面103aと把持部104の外周面104aとの間の段差面106が把持部104の外周面104aに対してなす角度θ1が鈍角(即ちθ>90°)に設定されているので、ワーク120の主軸側端面123の近傍の内周面121と頸部103の外周面103aとの間に生じる空間S1は、本実施形態のチャック1における空間Sによりも小さい。したがって、本実施形態のチャック1によれば、ワーク20の主軸側端面23の内周縁23aやその近傍の内周面21を旋削加工する際に、従来のチャック101に比べて、これらの部位に旋削工具13の刃先13aを容易に当てることができる。そのため、これらの部位を容易に旋削加工することができる。
【0060】
以上で本発明の一実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に示したものであることに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において様々に変更可能であることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明は、筒状ワークを内掴み状態で把持する方式の旋盤用チャック、旋盤、及び旋削加工品の製造方法に利用可能である。
【符号の説明】
【0062】
1:チャック
2:基部
2a:隣接部
2b:隣接部の外周面
3:頸部
3a:頸部の外周面
4:把持部
4a:把持部の外周面
4b:把持部の先端面
5:断面円弧状面
9:ドローバー
10:旋盤
11:主軸
20:ワーク
21:ワークの内周面
22:ワークの内側底面
P:チャックの軸線
図1
図2
図3