(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記イメージングスキャンにおいて磁気共鳴データを複数のセグメントに分割して収集するための各セグメントが前記安定期間内に設定されるように各セグメントを設定するセグメント条件算出手段をさらに備える請求項1記載の磁気共鳴イメージング装置。
前記遅延時間算出手段は、前記セグメントが前記安定期間の中央となるように前記安定期間に応じた遅延時間を算出するように構成される請求項2記載の磁気共鳴イメージング装置。
前記遅延時間算出手段は、前記安定期間の開始タイミングとデータ収集開始タイミングとの間にマージン期間が得られるように前記安定期間に応じた遅延時間を算出するように構成される請求項1記載の磁気共鳴イメージング装置。
前記遅延時間算出手段は、前記安定期間として心筋の拡張期間を検出し、前記拡張期間に応じた心電信号上の基準波からの遅延時間を算出するように構成される請求項1記載の磁気共鳴イメージング装置。
【背景技術】
【0002】
磁気共鳴イメージングは、静磁場中に置かれた被検体の原子核スピンをラーモア周波数のRF信号で磁気的に励起し、この励起に伴って発生するMR信号から画像を再構成する撮像法である。
【0003】
この磁気共鳴イメージングの分野において、血流像を得る手法としてMRAが知られている。MRAのうち、造影剤を使用しないものは非造影MRAと呼ばれる。非造影MRAでは、ECG(electro cardiogram)同期を行って心臓から拍出された速い流速の血流を捕捉することにより良好に血管を描出するFBI(Fresh Blood Imaging)法が考案されている。
【0004】
さらに、FBI法に併用される技術として、適切な心電同期の遅延時間を測定するためのECG-prepという技術が考案されている。ECG-prepは、イメージングスキャンに先立って、適切な心電同期の遅延時間を決定するための準備スキャンであるECG-prepスキャンを行い、ECG-prepスキャンによって決定したECG遅延時間でイメージングスキャンを実行するものである。ECG-prepスキャンは、ECG信号のR波からの遅延時間を徐々に変化させでデータ収集を行うことにより互いに時相が異なる複数のECG-prep画像を得るスキャンである。このECG-prepスキャンによって得られた複数のECG-prep画像から適切に血管が描出されたECG-prep画像を選択することにより、イメージングスキャンにおけるECG遅延時間を決定することができる。
【0005】
また、ECG-prepスキャンによって得られた複数のECG-prep画像に基づいて適切な遅延時間を決定するための支援情報を生成する技術も考案されている(例えば特許文献1参照)。
【0006】
この技術では、任意に設定された関心領域(ROI: region of interest)について、基準となるECG-prep画像と他の複数のECG-prep画像との差分画像に最大値投影(MIP: maximum intensity projection)処理を施すことにより、1枚のMIP画像が生成される。そうすると、MIP画像は、各位置において最も大きい血流変化を信号差分値として抽出した画像となる。
【0007】
次に、所望の閾値を用いてMIP画像を二値化することによって、閾値以上の信号強度を有する画素の画素値を1とし、他の画素の画素値を0とするマスク画像が生成される。さらに、各時相に対応するROI内におけるECG-prep画像とマスク画像とを乗算することによって各時相に対応する複数の被マスク画像が生成される。そうすると、被マスク画像は、ECG-prep画像に設定されたROI内から血管である可能性が高い部分を抽出した画像となる。
【0008】
次に、各被マスク画像内の全ての画素についての画素値の平均値が求められる。これにより、各時相に対応する画素値の代表値が求められる。そして、画素値の平均値が最小となる時相と最大となる時相に対応するECG-prep画像の遅延時間がイメージングスキャン用の遅延時間の候補として決定される。
【0009】
つまり、血管の特徴を時相毎の信号値の代表値で表し、代表値が最大値または最小値となるときのR波からの遅延時間をイメージングスキャン用の遅延時間の候補とすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に係る磁気共鳴イメージング装置の実施の形態について添付図面を参照して説明する。
【0019】
(構成および機能)
図1は本発明に係る磁気共鳴イメージング装置の実施の形態を示す構成図である。
【0020】
磁気共鳴イメージング装置20は、静磁場を形成する筒状の静磁場用磁石21、この静磁場用磁石21の内部に設けられたシムコイル22、傾斜磁場コイル23およびRFコイル24を備えている。
【0021】
また、磁気共鳴イメージング装置20には、制御系25が備えられる。制御系25は、静磁場電源26、傾斜磁場電源27、シムコイル電源28、送信器29、受信器30、シーケンスコントローラ31およびコンピュータ32を具備している。制御系25の傾斜磁場電源27は、X軸傾斜磁場電源27x、Y軸傾斜磁場電源27yおよびZ軸傾斜磁場電源27zで構成される。また、コンピュータ32には、入力装置33、表示装置34、演算装置35および記憶装置36が備えられる。
【0022】
静磁場用磁石21は静磁場電源26と接続され、静磁場電源26から供給された電流により撮像領域に静磁場を形成させる機能を有する。尚、静磁場用磁石21は超伝導コイルで構成される場合が多く、励磁の際に静磁場電源26と接続されて電流が供給されるが、一旦励磁された後は非接続状態とされるのが一般的である。また、静磁場用磁石21を永久磁石で構成し、静磁場電源26が設けられない場合もある。
【0023】
また、静磁場用磁石21の内側には、同軸上に筒状のシムコイル22が設けられる。シムコイル22はシムコイル電源28と接続され、シムコイル電源28からシムコイル22に電流が供給されて静磁場が均一化されるように構成される。
【0024】
傾斜磁場コイル23は、X軸傾斜磁場コイル23x、Y軸傾斜磁場コイル23yおよびZ軸傾斜磁場コイル23zで構成され、静磁場用磁石21の内部において筒状に形成される。傾斜磁場コイル23の内側には寝台37が設けられて撮像領域とされ、寝台37には被検体Pがセットされる。RFコイル24にはガントリに内蔵されたRF信号の送受信用の全身用コイル(WBC: whole body coil)や寝台37や被検体P近傍に設けられるRF信号の受信用の局所コイルなどがある。
【0025】
また、傾斜磁場コイル23は、傾斜磁場電源27と接続される。傾斜磁場コイル23のX軸傾斜磁場コイル23x、Y軸傾斜磁場コイル23yおよびZ軸傾斜磁場コイル23zはそれぞれ、傾斜磁場電源27のX軸傾斜磁場電源27x、Y軸傾斜磁場電源27yおよびZ軸傾斜磁場電源27zと接続される。
【0026】
そして、X軸傾斜磁場電源27x、Y軸傾斜磁場電源27yおよびZ軸傾斜磁場電源27zからそれぞれX軸傾斜磁場コイル23x、Y軸傾斜磁場コイル23yおよびZ軸傾斜磁場コイル23zに供給された電流により、撮像領域にそれぞれX軸方向の傾斜磁場Gx、Y軸方向の傾斜磁場Gy、Z軸方向の傾斜磁場Gzを形成することができるように構成される。
【0027】
RFコイル24は、送信器29および/または受信器30と接続される。送信用のRFコイル24は、送信器29からRF信号を受けて被検体Pに送信する機能を有し、受信用のRFコイル24は、被検体P内部の原子核スピンのRF信号による励起に伴って発生したNMR信号を受信して受信器30に与える機能を有する。
【0028】
一方、制御系25のシーケンスコントローラ31は、傾斜磁場電源27、送信器29および受信器30と接続される。シーケンスコントローラ31は傾斜磁場電源27、送信器29および受信器30を駆動させるために必要な制御情報、例えば傾斜磁場電源27に印加すべきパルス電流の強度や印加時間、印加タイミング等の動作制御情報を記述したシーケンス情報を記憶する機能と、記憶した所定のシーケンスに従って傾斜磁場電源27、送信器29および受信器30を駆動させることによりX軸傾斜磁場Gx、Y軸傾斜磁場Gy,Z軸傾斜磁場GzおよびRF信号を発生させる機能を有する。
【0029】
また、シーケンスコントローラ31は、受信器30におけるNMR信号の検波およびA/D (analog to digital)変換により得られた複素データである生データ(raw data)を受けてコンピュータ32に与えるように構成される。
【0030】
このため、送信器29には、シーケンスコントローラ31から受けた制御情報に基づいてRF信号をRFコイル24に与える機能が備えられる一方、受信器30には、RFコイル24から受けたNMR信号を検波して所要の信号処理を実行するとともにA/D変換することにより、デジタル化された複素データである生データを生成する機能と生成した生データをシーケンスコントローラ31に与える機能とが備えられる。
【0031】
さらに、磁気共鳴イメージング装置20には、被検体PのECG (electro cardiogram)信号を取得するECGユニット38が備えられる。ECGユニット38により取得されたECG信号はシーケンスコントローラ31を介してコンピュータ32に出力されるように構成される。
【0032】
尚、拍動を心拍情報として表すECG信号の代わりに拍動を脈波情報として表す脈波同期(PPG: peripheral pulse gating)信号を取得することもできる。PPG信号は、例えば指先の脈波を光信号として検出した信号である。PPG信号を取得する場合には、PPG信号検出ユニットが設けられる。以下、特段の説明がある場合を除き、ECG信号を取得する場合について述べる。
【0033】
また、コンピュータ32の記憶装置36に保存されたプログラムを演算装置35で実行することにより、コンピュータ32には各種機能が備えられる。ただし、プログラムによらず、各種機能を有する特定の回路を磁気共鳴イメージング装置20に設けてもよい。
【0034】
図2は、
図1に示すコンピュータ32の機能ブロック図である。
【0035】
コンピュータ32は、プログラムにより撮像条件設定部40、シーケンスコントローラ制御部41、k空間データベース42および血流像作成部43として機能する。撮像条件設定部40は、拡張期間算出部40A、セグメント数設定部40B、遅延時間設定部40Cを有する。
【0036】
撮像条件設定部40は、入力装置33からの指示情報に基づいてパルスシーケンスを含む撮像条件を設定し、設定した撮像条件をシーケンスコントローラ制御部41に与える機能を有する。特に、撮像条件設定部40は、ECG同期下において血流像を取得するための撮像条件を設定する機能を備えている。
【0037】
血流像を収集する撮像法としては、非造影で血流像データを収集するFBI法が知られている。FBI法は、R波等の被検体Pの心時相を表す基準波に同期したトリガ信号から所定時間遅延させて複数心拍毎にエコーデータを繰り返して収集する非造影MRAである。FBI法によれば、複数心拍の経過によって血液の横緩和(T2)成分の磁化が回復し、血液のT2磁化成分を強調した水(血液)強調画像を血管画像として得ることができる。さらに、FBI法では所定スライスエンコード量分のエコーデータ(ボリュームデータ)を収集する3次元スキャンが実行される。
【0038】
血流像を取得するための代表的なパルスシーケンスとしては、FASE (fast asymmetric spin echo又はfast advanced spin echo)シーケンスやSSFP (steady state free precession)シーケンスなどがある。また、心臓をイメージングする場合には、セグメントk-space法(segment k-space method)によるFFE (fast field echo)シーケンスを用いることができる。セグメントk-space法は、k空間をいくつかの領域に分割することによってセグメント化し、セグメントごとに順次k空間データを取り込んでいく方法である。
【0039】
さらに、撮像条件設定部40は、イメージングスキャンにおけるECG同期の遅延時間を決定するためのプレスキャンであるECG-prepスキャン用の撮像条件を設定する機能を備えている。ECG-prepスキャンは、ECG信号のR波等の基準波からデータ収集開始タイミングまでの遅延時間を変えて異なる心時相に対応する複数のECG-prep画像データを収集するスキャンである。ECG-prepスキャンは、スキャン時間短縮化の観点から2次元(2D: two dimensional)スキャンとし、他の撮像条件はイメージングスキャンと同等に設定することが望ましい。
【0040】
拡張期間算出部40Aは、ECG-prepスキャンによって収集された異なる遅延時間に対応するECG-prep画像データまたはNMR信号に基づいて心筋の拡張期として安定した期間を求める機能を有する。
【0041】
セグメント数設定部40Bは、拡張期間算出部40Aにより求められた拡張期間内に設定可能なデータ収集用のセグメント長およびセグメント数を計算し、計算結果に基づいて複数のセグメントをイメージングスキャン用の撮像条件として設定する機能を有する。
【0042】
遅延時間設定部40Cは、拡張期間算出部40Aにより求められた拡張期間および/またはセグメント数設定部40Bにより設定されたセグメントに応じた適切な遅延時間をイメージングスキャン用の撮像条件として設定する機能を有する。
【0043】
尚、脈波同期MRAを行う場合には、PPG信号上に設定されたトリガからの遅延時間を変えたPPG-prepスキャンを実行し、時相の異なる複数のPPG-prep画像に基づいて信号強度の時間変化が少ない安定した期間が求められる。
【0044】
シーケンスコントローラ制御部41は、入力装置33からのスキャン開始指示情報に基づいて、シーケンスコントローラ31にパルスシーケンスを含む撮像条件を与えることにより駆動制御させる機能を有する。また、シーケンスコントローラ制御部41は、シーケンスコントローラ31から生データを受けてk空間データベース42に形成されたk空間に配置する機能を有する。
【0045】
血流像作成部43は、k空間データベース42からk空間データを取り込んでフーリエ変換(FT: Fourier transform)を含む画像再構成処理を施すことにより画像データを再構成する機能と、再構成して得られた画像データに差分処理やMIP処理等の必要な画像処理を施すことにより血流像データを生成する機能を有する。また、血流像作成部43は、ECG-prepスキャンによって収集された心時相ごとの血流像データをECG-prep画像データとして撮像条件設定部40に与えるように構成される。
【0046】
(動作および作用)
次に磁気共鳴イメージング装置20の動作および作用について説明する。
【0047】
図3は、
図1に示す磁気共鳴イメージング装置20により被検体Pの血流像を撮像する際の流れを示すフローチャートである。
【0048】
まずステップS1において、ECG-prepスキャンが実行される。そのために、撮像条件設定部40において複数の遅延時間を含むECG-prepスキャン用の撮像条件が設定される。
【0049】
一方、予め寝台37に被検体Pがセットされ、静磁場電源26により励磁された静磁場用磁石21(超伝導磁石)の撮像領域に静磁場が形成される。また、シムコイル電源28からシムコイル22に電流が供給されて撮像領域に形成された静磁場が均一化される。
【0050】
そして、入力装置33からシーケンスコントローラ制御部41にスキャン開始指示が与えられると、シーケンスコントローラ制御部41は撮像条件設定部40から取得したパルスシーケンスを含む撮影条件をシーケンスコントローラ31に与える。シーケンスコントローラ31は、ECGユニット38からのECG信号による同期下においてシーケンスコントローラ制御部41から受けたパルスシーケンスに従って傾斜磁場電源27、送信器29および受信器30を駆動させることにより被検体Pがセットされた撮像領域に傾斜磁場を形成させるとともに、RFコイル24からRF信号を発生させる。
【0051】
このため、被検体Pの内部における核磁気共鳴により生じたNMR信号が、RFコイル24により受信されて受信器30に与えられる。受信器30は、RFコイル24からNMR信号を受けて、所要の信号処理を実行した後、A/D変換することにより、デジタルデータのNMR信号である生データを生成する。受信器30は、生成した生データをシーケンスコントローラ31に与える。シーケンスコントローラ31は、生データをシーケンスコントローラ制御部41に与え、シーケンスコントローラ制御部41はk空間データベース42に形成されたk空間に生データをk空間データとして配置する。
【0052】
血流像作成部43は、k空間データベース42からk空間データを取り込んで遅延時間ごとの血流像データを生成し、生成した血流像データをECG-prep画像データとして撮像条件設定部40に与える。
【0053】
次にステップS2において、拡張期間算出部40Aは、ECG-prepスキャンによって収集された異なる遅延時間に対応するECG-prep画像データまたはNMR信号に基づいて拡張期として安定した期間を求める。拡張期間は、ECG-prep画像データの画素値またはNMR信号の遅延時間(時相)ごとの強度変化を表す曲線から直線的に変化する区間を検出することによって求めることができる。
【0054】
ここでは、遅延時間ごとのECG-prep画像データの画素値に基づいて拡張期間を求める例について説明する。同様に、遅延時間ごとのNMR信号に基づいて拡張期間を求めることもできる。
【0055】
まず、各遅延時間におけるECG-prep画像データの画素値の代表値が求められる。代表値は、画素値の合計値、最大値、平均値等の任意の値とすることができる。代表値を算出するための領域も任意に決定することができる。例えば、ECG-prep画像データ全体を代表値の算出に用いてもよい。
【0056】
ただし、データ処理量の低減化の観点からは、ECG-prep画像データから着目する血管部分の画素値を抽出し、抽出した画素値を用いて代表値を算出することが望ましい。そこで、例えば着目する血管が含まれるように任意に設定されたROIについて、基準となるECG-prep画像データと他の複数のECG-prep画像データとの差分画像データがそれぞれ生成される。そうすると、差分画像データは、血流の変化量に応じた画素値を示す画像データとなる。
【0057】
次に、生成した複数の差分画像データにMIP処理を施すことにより、1枚のMIP画像データが生成される。そうすると、MIP画像データは、ROI内の各位置において最も大きい血流変化を画素差分値として抽出した画像データとなる。
【0058】
次に、所望の閾値を用いてMIP画像データを二値化することによって、閾値以上の画素値を有する画素の画素値を1とし、他の画素の画素値を0とするマスク画像データが生成される。そうすると、マスク画像データは、血管である可能性が高い位置における画素値が1であり、血管である可能性が低い位置における画素値が0の画像データとなる。
【0059】
次に、各遅延時間に対応するROI内におけるECG-prep画像データとマスク画像データとを乗算することによって各遅延時間に対応する複数の被マスク画像データが生成される。そうすると、被マスク画像データは、ECG-prep画像データに設定されたROI内から血管である可能性が高い部分を抽出した画像となる。
【0060】
次に、例えば各被マスク画像データ内の全ての画素についての画素値の平均値が求められる。これにより、各遅延時間に対応する画素値の代表値が求められる。すなわち、遅延時間tの変化に対する画素値の変化曲線F(t)が得られる。そうすると、変化曲線F(t)から直線とみなせる区間を任意の手法で検出することが可能となる。
【0061】
図4は、遅延時間ごとの画素値の相対強度を表す曲線から最小2乗近似によって直線とみなせる範囲を検出した例を示す図である。
【0062】
図4において、縦軸は、画素値の代表値の相対強度を示し、横軸は、心時相に対応するR波からの遅延時間を示す。
図4に示すような遅延時間-強度曲線Cecg上において、分散が最小となるような隣接する3点の遅延時間を起点として、近似の計算に加える点を増やしながら最小2乗近似による直線近似を順次行うことによって直線とみなせる区間を検出することができる。具体例として、以下のようなアルゴリズムに従って、直線的に変化する区間を検出することができる。
【0063】
まず、遅延時間t=Tsからt=Teの検索範囲において、強度F(t)が最大値Fmax(Tm)となるときの遅延時間Tmを検索する。次に、遅延時間Tm近傍における3点F(t-Δt), F(t), F(t+Δt)の分散が最小となる遅延時間Tdを検索する。つまり、最大画素値付近の安定した時相が検出される。
【0064】
次に、分散が最小となる3点F(Td-Δt), F(Td), F(Td+Δt)について最小2乗法により直線の近似式を求める。次に、分散が最小となる3点F(Td-Δt), F(Td), F(Td+Δt)に負方向に隣接する点F(Td-2Δt)を追加して4点について最小2乗法により直線の近似式を求める。次に、分散が最小となる3点F(Td-Δt), F(Td), F(Td+Δt)に正方向に隣接する点F(Td+2Δt)を追加して4点について最小2乗法により直線の近似式を求める。次に、3点F(Td-Δt), F(Td), F(Td+Δt)に正負の双方の方向に隣接する2点F(Td-2Δt), F(Td+2Δt)を追加して5点について最小2乗法により直線の近似式を求める。さらに同様に正負の方向に順次点を加えながら直線近似を行う。
【0065】
そして、直線の傾きが閾値を超えた場合または検定により直線近似の度合が低下した場合に探索を終了する。例えば直線の傾きが0.1を超えた場合や直線近似の度合を示す指標となる相関係数が0.9未満となった場合に直線近似処理を終了させることができる。
【0066】
このようにして近似直線の傾きが閾値以下であり、かつ、近似の度合いを表す相関係数が閾値以上の範囲において最大となる直線区間を抽出することができる。すなわち、相対画素値の変化曲線F(t)を、直線的に変化する安定した拡張期間とその他の期間とに分離することができる。
【0067】
図5は、近似計算の対象となる遅延時間の数と近似曲線の傾きおよび近時の度合いを表す標本標準偏差の値の関係を示す表である。
【0068】
図5に示すように、遅延時間を例えば600, 700, 800の3点として直線近似を行うと近似直線の傾きが0.06となり標本の標準偏差は4.38となる。次に、遅延時間500および遅延時間900の一方および双方を追加した4点および5点の直線近似を行うと、近時直線の傾きおよび標準偏差はいずれも閾値内となる。そして、遅延時間400および遅延時間1000を加えると標準偏差がそれぞれ46.25および22.30となり閾値外となる。このため、遅延時間500-900の範囲を拡張期間として抽出することができる。
【0069】
また、同様に脈波同期イメージングの場合においても、遅延時間ごとのPPG-prep画像データの代表画素値の変化を表す曲線に対する直線近似によって安定した期間を検出することができる。
【0070】
図6は、遅延時間ごとのPPG-prep画像データの代表画素値の相対強度を表す曲線の一例を示す図であり、
図7は、
図6に示す相対画素強度曲線上の3点から点を順次追加して直線近似を行った例を示す図である。
【0071】
図6及び
図7の縦軸は、PPG-prep画像データの代表画素値の相対強度を示し、横軸はPPGトリガからの遅延時間を示す。
図6に示すような遅延時間-強度曲線Cppgに対して
図7に示すような直線近似を行うことによって安定した脈波信号の期間を検出することができる。
【0072】
次に心臓のイメージングのようにk空間データをセグメントごとに収集する場合には、ステップS3において、拡張期間算出部40Aにより求められた拡張期間内に設定可能なデータ収集用のセグメント長およびセグメント数がセグメント数設定部40Bにより計算される。すなわち、セグメント数設定部40Bは、拡張期間の長さを上限として設定可能なセグメント長を自動計算する。これにより、1つのセグメント内のデータ数およびセグメント数(shot数)を撮像条件として設定することができる。
【0073】
次にステップS4において、遅延時間設定部40Cによりイメージングスキャン用の遅延時間が設定される。
【0074】
図8は、遅延時間ごとのECG-prep画像データの代表画素値の相対強度を表す曲線から検出された拡張期間に基づいて遅延時間を設定した例を示す図である。
【0075】
図8(A)において縦軸は、ECG-prep画像データの代表画素値の相対強度を示し、横軸はECG信号のR波トリガからの遅延時間を示す。
図8(A)に示すように、遅延時間-強度曲線Cecg上において拡張期間が検出されると、拡張期間に応じた適切な遅延時間を設定することが可能となる。
【0076】
図8(B)は、セグメントに分けてデータ収集を行う場合におけるR波トリガからデータ収集セグメントまでの遅延時間の設定例を示す。
図8(B)に示すように、例えばセグメント数設定部40Bにおいて設定された長さのセグメントの中心位置が拡張期間の中央となるように遅延時間設定部40Cにおいて遅延時間を自動設定することができる。或いは、拡張期間の開始タイミングからデータ収集の開始タイミングまでのマージン期間が所望の期間となるように遅延時間を自動設定することもできる。マージン期間は、経験的または試験によって予め決定しておくことができる。
【0077】
一方、
図8(C)に示すようにデータ収集期間が拡張期間よりも長くなる場合には、データ収集タイミングが拡張期間の開始タイミングとなるようにR波トリガからの遅延時間を自動設定することもできる。
【0078】
遅延時間設定部40Cにおいて設定された遅延時間は、そのままイメージングスキャン用の撮像条件として用いることができる。一方、遅延時間設定部40Cにおいて設定された遅延時間を候補として表示装置34に表示させ、入力装置33の操作によって遅延時間を調整できるようにしてもよい。このため、オペレータは、遅延時間をより簡易かつ的確に設定することが可能となる。また、セグメント数設定部40Bにいて設定されたセグメント長およびセグメント数についても同様である。
【0079】
次にステップS5において、設定された遅延時間を撮像条件としてイメージングスキャンが実行される。すなわち、撮像条件設定部40においてイメージングスキャン用の撮像条件が設定され、ECG-prepスキャンと同様な流れで3次元スキャンが実行される。
【0080】
次にステップS6において、イメージングスキャンによって収集されたデータに基づいて血流像データが生成される。すなわち、血流像作成部43は、イメージングスキャンによって収集されたk空間データをk空間データベース42から取り込んで血流像データを生成する。そして、生成された血流像データは、表示装置34に表示される。これによりオペレータは、適切な心時相において収集された血流像を観察することができる。
【0081】
つまり以上のような磁気共鳴イメージング装置20は、ECG信号やPPG信号等の拍動を表す信号に同期して実行されるMRAにおいて、トリガ信号からデータ収集開始タイミングまでの遅延時間をより的確かつ簡易に設定できるように遅延時間の変化に対して信号強度または画素強度の変化が小さく安定した期間を検出するようにしたものである。そして、検出した拡張期等の安定期間においてデータが収集されるように遅延時間を自動設定するようにしたものである。
【0082】
(効果)
このため、磁気共鳴イメージング装置20によれば、データ収集開始タイミングとして最適な時相に対応する遅延時間をより的確かつ簡易に決定することができる。また、遅延時間や遅延時間に応じたデータ収集のセグメント数をより適切かつ自動的に設定することができる。