(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記パターン形成用薄膜は、透光性基板側とは反対側の表層に、遷移金属の含有量が4at%以下であり、かつ酸素含有量が30at%以上である酸化層を有することを特徴とする請求項3記載のマスクブランク。
前記パターン形成用薄膜は、下層と上層の積層構造を有し、前記上層における窒素および酸素の合計含有量が、前記下層の窒素および酸素の合計含有量に比べて多いことを特徴とする請求項3記載のマスクブランク。
前記上層は、前記下層側とは反対側の表層に、遷移金属の含有量が4at%以下であり、かつ酸素の含有量が30at%以上である酸化層を有することを特徴とする請求項5記載のマスクブランク。
前記パターン形成用薄膜とエッチングストッパ膜との積層構造を有し、ArF露光光に対する光学濃度が2.8以上であることを特徴とする請求項1から12のいずれかに記載のマスクブランク。
前記エッチングマスクパターンを除去する工程は、塩素系ガスと酸素ガスの混合ガスを用いたドライエッチングによって行われることを特徴とする請求項14記載の位相シフトマスクの製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
透光性基板上に遮光膜を形成したバイナリマスクブランクと同様の構造のマスクブランクを用いて基板掘り込みタイプのレベンソン型位相シフトマスクを作製する場合、基板掘り込み部(位相シフト部)と非掘り込み部との間での位相差制御(即ち、掘り込み部と非掘り込み部との間での基板厚さの差の制御)が重要になる。正確に位相差を制御するためには、上記の透光性基板を所定深さまで掘り込む工程の前工程、すなわち、マスクブランクの遮光膜に転写パターン(遮光パターン)を形成するドライエッチング工程の際に、基板の露出部分をドライエッチングによって掘り込まないようにすることが望ましい。
【0007】
特許文献1に記載されているように、遮光膜が遷移金属ケイ素化合物で形成されている場合、この遮光膜に転写パターンを形成するのにフッ素系ガスを用いたドライエッチングが適用されることが一般的である。しかし、透光性基板の表面に接して遮光膜が形成されている場合、遮光膜に転写パターンを形成するドライエッチングを行う際に、透光性基板の表面を掘り込むことを避けることは難しい。このため、特許文献1のマスクブランクでは、透光性基板と遮光膜の間にクロム系材料のエッチングストッパ膜が設けられている。これにより、遮光膜をフッ素系ガスによるドライエッチングでパターニングするときに、透光性基板の表面を掘り込むことを防止することができる。
【0008】
一方、従来のクロム系材料の遮光膜を備えたマスクブランクを用いて基板掘り込みタイプのレベンソン型位相シフトマスクを作製する場合、概ね以下の手順で行われる。最初に、遮光膜上に、遮光膜に形成すべき遮光パターンを有する第1レジストパターンを形成する。次に、第1レジストパターンをマスクとして用い、遮光膜をドライエッチングし、遮光パターンを形成する。第1レジストパターンを除去し、基板掘り込みパターンを有する第2レジストパターンを遮光膜上に形成する。第2レジストパターンをマスクとして用い、透光性基板を掘り込むドライエッチングを行い、基板掘り込み部を形成する。そして、第2レジストパターンを除去する。
【0009】
この第2レジストパターンを形成するプロセスでは、既に遮光パターンが形成されている遮光膜上にレジスト膜を塗布形成した後、電子線等でレジスト膜に基板掘り込み部のパターンを描画露光する。しかし、描画精度等の問題から、レジスト膜への基板掘り込みパターンの描画露光を、遮光パターンのパターンエッジに一致させることが実質的に困難である。このため、レジスト膜に描画露光される基板掘り込み部のパターンは、実際に透光性基板に形成される基板掘り込み部の幅よりも若干広めにすることが一般的である。よって、遮光膜のパターンエッジ近傍で、第2レジストパターンに覆われていない遮光膜の表面が露出する部分が生じることになる。しかし、クロム系材料の遮光膜は、透光性基板を掘り込むときに行われるフッ素系ガスによるドライエッチングに対して高い耐性を有するため、実用上、問題となることはなかった。
【0010】
これに対し、特許文献1に記載されたような遷移金属ケイ素化合物からなる遮光膜を有するマスクブランクを用いて基板掘り込みタイプのレベンソン型位相シフトマスクを作製する場合、遮光膜に接して第2レジストパターンが設けられた状態で、透光性基板を掘り込むドライエッチングを行ってしまうと、第2レジストパターンに覆われていない遮光膜のパターンエッジ近傍がエッチングされてしまう恐れがある。特に、適用される露光光がArFエキシマレーザーの場合、位相シフト効果を生じさせるためには、約173nmの深さで基板を掘り込む必要がある。これだけの深さを掘り込むにはエッチング時間がかかるため、遮光膜のパターンエッジ近傍がエッチングされてしまうことを避けることが難しい。このため、特許文献1のマスクブランクでは、遮光膜の上面に、クロム系材料のエッチングマスク膜を設けている。
【0011】
この特許文献1では、マスクブランクを用いて基板掘り込みタイプのレベンソン型位相シフトマスクを作製する場合、以下の手順で行われることが開示されている。最初に、エッチングマスク膜上に遮光膜に形成すべき遮光パターンを有する第1レジストパターンを形成する。次に、第1レジストパターンをマスクとして用い、エッチングマスク膜に対して塩素系ガスと酸素ガスの混合ガスによるドライエッチングを行い、遮光パターンを形成する。続いて、第1レジストパターンをマスクとして用い、遮光膜に対してフッ素系ガスによるドライエッチングを行い、遮光パターンを形成する。続いて、第1レジストパターンをマスクとして用い、エッチングストッパ膜に対して塩素系ガスと酸素ガスの混合ガスによるドライエッチングを行い、遮光パターンを形成する。続いて、第1レジストパターンを除去し、基板掘り込みパターンを有する第2レジストパターンをエッチングマスク膜上に形成する。続いて、第2レジストパターンをマスクとして用い、透光性基板を掘り込むドライエッチングを行い、基板掘り込み部を形成する。そして、第2レジストパターンを除去し、さらにエッチングマスク膜を、塩素系ガスと酸素ガスの混合ガスによるドライエッチングを行って除去する。
【0012】
この特許文献1に開示されているマスクブランクの構成の場合、エッチングストッパ膜に遮光パターンが形成されるまで、第1レジストパターンが残存していなければならない。クロム系材料からなるエッチングストッパ膜に遮光パターンを形成するときには、塩素系ガスと酸素ガスの混合ガスによるドライエッチングが行われる。このときに、第1レジストパターンが消失していると、その混合ガスによって、表面が露出したクロム系材料のエッチングマスク膜もエッチングされてしまう。この場合、その後のプロセスで形成される第2レジストパターンと遮光膜との間にエッチングマスク膜が存在しないため、遮光膜のパターンエッジ近傍が露出した状態になる。この状態で、第2レジストパターンをマスクとして用い、フッ素系ガスを用いたドライエッチングを行って透光性基板を掘り込むと、遮光膜のパターンエッジ近傍もエッチングされてしまい、エッチングマスク膜を設けた効果が得られなくなる。これらのことから、特許文献1に開示されている基板掘り込みタイプのレベンソン型位相シフトマスクの製造プロセスでは、第1レジストパターンの膜厚を250nmとしている。これにより、ドライエッチングによって、エッチングストッパ膜にパターンを形成し終えるまで、第1レジストパターンが十分に残存するようにしている。
【0013】
しかし、基板掘り込みタイプのレベンソン型位相シフトマスクにおいても、転写パターンの微細化が求められている。マスク上の転写パターンに50nm以下のパターンを設ける必要が生じている。このような転写パターンを形成するためには、レジスト膜の厚さが、最小パターン幅の3倍未満であることが必要である(すなわち、レジスト膜厚が150nm未満であることが必要である。)。レジストパターンの断面における線幅に対する膜厚の比率(断面アスペクト比)が高すぎると、パターンの倒壊や脱離などが発生し、エッチングマスク膜や遮光膜にドライエッチングによって高精度でパターンを形成することは困難である。このため、遮光膜にフッ素系ガスでドライエッチングが可能な材料を用いた基板掘り込みタイプのレベンソン型位相シフトマスクにおいても、50nm以下のパターンを精度よく形成することが可能であるマスクブランクが必要とされている。
【0014】
そこで本発明は、このような従来の種々の課題を解決し、フッ素系ガスでドライエッチングが可能な材料を用いた遮光パターンを有する基板掘り込みタイプの位相シフトマスクを作製するのに適したマスクブランクを提供することを目的とする。また、このようなマスクブランクを用いた基板掘り込みタイプの位相シフトマスクの製造方法についても提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意研究した結果、本発明を完成させた。すなわち、上記課題を解決するため、本発明は以下の構成を有する。
(構成1) 薄膜パターンおよび基板掘り込みパターンを有する位相シフトマスクを製造するために用いられるマスクブランクであって、透光性基板上に、エッチングストッパ膜、パターン形成用薄膜、およびエッチングマスク膜がこの順に積層した構造を有し、前記エッチングストッパ膜は、クロムと酸素を含有し、酸素の含有量が50at%を超える材料からなり、前記パターン形成用薄膜は、フッ素系ガスによるドライエッチングが可能な材料からなり、前記エッチングマスク膜は、クロムを含有し、クロムの含有量が45at%以上であり、かつ酸素の含有量が30at%以下である材料からなることを特徴とするマスクブランクである。
【0016】
(構成2) 前記エッチングストッパ膜は、酸素を含有しない塩素系ガスを用いるドライエッチングが可能な材料からなることを特徴とする構成1記載のマスクブランクである。
(構成3) 前記パターン形成用薄膜は、遷移金属とケイ素を含有する材料からなることを特徴とする構成1または2に記載のマスクブランクである。
【0017】
(構成4) 前記パターン形成用薄膜は、透光性基板側とは反対側の表層に、遷移金属の含有量が4at%以下であり、かつ酸素含有量が30at%以上である酸化層を有することを特徴とする構成3記載のマスクブランクである。
(構成5) 前記パターン形成用薄膜は、下層と上層の積層構造を有し、前記上層における窒素および酸素の合計含有量が、前記下層の窒素および酸素の合計含有量に比べて多いことを特徴とする構成3記載のマスクブランクである。
【0018】
(構成6) 前記上層は、前記下層側とは反対側の表層に、遷移金属の含有量が4at%以下であり、かつ酸素の含有量が30at%以上である酸化層を有することを特徴とする構成5記載のマスクブランクである。
(構成7) 前記パターン形成用薄膜は、タンタルを含有する材料からなることを特徴とする構成1または2に記載のマスクブランクである。
【0019】
(構成8) 前記パターン形成用薄膜は、透光性基板側とは反対側の表層に酸素含有量が60at%以上である高酸化層を有することを特徴とする構成7記載のマスクブランクである。
(構成9) 前記エッチングマスク膜上に、厚さが150nm未満のレジスト膜を備えることを特徴とする構成1から8のいずれかに記載のマスクブランクである。
【0020】
(構成10) 前記エッチングストッパ膜は、厚さが3nm以上10nm以下であることを特徴とする構成1から9のいずれかに記載のマスクブランクである。
(構成11) 前記エッチングマスク膜は、厚さが3nm以上15nm以下であることを特徴とする構成1から10のいずれかに記載のマスクブランクである。
【0021】
(構成12) 前記パターン形成用薄膜は、厚さが60nm以下であることを特徴とする構成1から11のいずれかに記載のマスクブランクである。
(構成13) 前記パターン形成用薄膜とエッチングストッパ膜との積層構造を有し、ArF露光光に対する光学濃度が2.8以上であることを特徴とする構成1から12のいずれかに記載のマスクブランクである。
【0022】
(構成14) 構成1から13のいずれかに記載のマスクブランクを用いて位相シフトマスクを製造する方法であって、前記エッチングマスク膜上に、第1のレジストパターンを形成する工程と、前記第1のレジストパターンをマスクとして用い、塩素系ガスと酸素ガスの混合ガスを用いて前記エッチングマスク膜をドライエッチングし、エッチングマスクパターンを形成する工程と、前記第1のレジストパターンを除去する工程と、前記エッチングマスクパターンをマスクとして用い、フッ素系ガスを用いて前記パターン形成用薄膜をドライエッチングし、薄膜パターンを形成する工程と、前記エッチングマスクパターンをマスクとして用い、酸素を含有しない塩素系ガスを用いて前記エッチングストッパ膜をドライエッチングし、エッチングストッパパターンを形成する工程と、前記エッチングマスクパターン上に、第2のレジストパターンを形成する工程と、前記第2のレジストパターンをマスクとして用い、フッ素系ガスを用いて透光性基板をドライエッチングし、基板掘り込みパターンを形成する工程と、前記第2のレジストパターンを除去する工程と、前記エッチングマスクパターンを除去する工程と、を備えることを特徴とする位相シフトマスクの製造方法である。
【0023】
(構成15) 前記エッチングマスクパターンを除去する工程は、塩素系ガスと酸素ガスの混合ガスを用いたドライエッチングによって行われることを特徴とする構成14記載の位相シフトマスクの製造方法である。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、透光性基板上に、エッチングストッパ膜、パターン形成用薄膜およびエッチングマスク膜が順に積層した構造を有し、パターン形成用薄膜がフッ素系ガスによってドライエッチング可能な材料からなるマスクブランクであって、このマスクブランクを用いて基板掘り込みタイプの位相シフトマスクを製造した場合においても、パターン形成用薄膜のパターン精度が高く、基板掘り込み部と非掘り込み部との間での位相差の精度を高くすることが可能なマスクブランクを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
本発明は、薄膜パターンおよび基板掘り込みパターンを有する位相シフトマスクを製造するために用いられるマスクブランクに関する。具体的には、本発明は、透光性基板上に、エッチングストッパ膜、パターン形成用薄膜、およびエッチングマスク膜がこの順に積層した構造を有し、前記エッチングストッパ膜は、クロムと酸素を含有し、酸素の含有量が50at%を超える材料からなり、前記パターン形成用薄膜は、フッ素系ガスによるドライエッチングが可能な材料からなり、前記エッチングマスク膜は、クロムを含有し、クロムの含有量が45at%以上であり、かつ酸素の含有量が30at%以下である材料からなることを特徴とするマスクブランクに関する。
【0027】
本発明者は、透光性基板上に、エッチングストッパ膜、パターン形成用薄膜、およびエッチングマスク膜が順に積層された構造を有するマスクブランクにおいて、(1)パターン形成用薄膜がフッ素系ガスによるドライエッチングでパターニングが可能な材料で形成されている、(2)パターン形成用薄膜に、例えば線幅50nm以下の微細パターンを形成することが可能である、(3)透光性基板に所定の掘り込み深さを有する掘り込みパターンを形成することが可能である、という3つの条件を全て満たすために必要な構成について、鋭意研究した。
【0028】
エッチングストッパ膜は、その直上のパターン形成用薄膜をフッ素系ガスによるドライエッチングでパターニングしたときに、エッチングされにくい特性を有する必要がある。また、その次のプロセスで、エッチングストッパ膜をパターニングする必要がある。そのときに、エッチングストッパ膜の直下にある透光性基板の表面を掘り込んでしまうことを避けなればならない。よって、フッ素系ガス以外のエッチングガスによって、エッチングストッパ膜をパターニングできなければならない。このような特性を有する材料は限られており、クロムを含有する材料は、上記の2つの必要条件を満たすことができる。
【0029】
一方、パターン形成用薄膜に、線幅50nm以下のような微細パターンを形成するためには、レジスト膜の膜厚は少なくとも150nm未満でなければならない。パターン形成用薄膜には、所定以上の遮光性能が求められるため、ある程度以上の膜厚が必要になる。これらのことから、パターン形成用薄膜とレジスト膜との間に、エッチングマスク膜を介在させる必要がある。このエッチングマスク膜は、その直下のパターン形成用薄膜をフッ素系ガスによるドライエッチングでパターニングしたときに、エッチングされにくい特性を有する必要がある。このような特性を有する材料は限られており、クロムを含有する材料は、この必要条件を満たすことができる。
【0030】
しかし、エッチングマスク膜とエッチングストッパ膜を形成する材料がともにクロムを含有する材料である場合、以下の問題が生じる。パターン形成用薄膜に形成すべき微細パターンを有するレジスト膜(レジストパターン)は、前記のとおり、膜厚に制約がある。このため、エッチングマスク膜をパターニングした後もレジストパターンを残した状態で、パターン形成用薄膜のパターニングとエッチングストッパ膜のパターニングを行ったとしても、エッチングストッパ膜のパターニング時にはレジストパターンは消失してしまっている恐れがある。従来のように、エッチングストッパ膜に対して塩素系ガスと酸素ガスの混合ガスによるドライエッチングでパターニングする場合、レジストパターンが消失していることから、表面が保護されていない状態となっているエッチングマスク膜もエッチングされてしまう。
【0031】
他方、このようにレジストパターンの膜厚が薄い場合、エッチングマスク膜をパターニングした後もレジストパターンを残した状態で、パターン形成用薄膜に対してフッ素系ガスによるドライエッチングを行うと、パターン形成用薄膜のエッチング中にレジストパターンが消失する恐れがある。ドライエッチングにおいては、有機系材料のレジストパターンが存在していると、そのレジストパターンがエッチングされるときに炭素や酸素が発生し、それらがパターン形成用薄膜をドライエッチングするときのエッチング環境に影響を与える。パターン形成用薄膜に対するドライエッチングの途中で、炭素や酸素を含有するレジストパターンが消失すると、途中でエッチング環境が変化してしまい、パターン精度(パターン側壁形状の精度や面内でのCD精度など)に悪影響を与える恐れがあり、好ましくない。
【0032】
また、エッチングマスク膜をドライエッチングするときのエッチングガスと、パターン形成用薄膜をドライエッチングするときのエッチングガスは異なるため、それらのエッチングは、別々のエッチングチャンバーで行われることが多い。レジストパターンに起因する炭素や酸素の発生は、ドライエッチング時に欠陥が発生する要因となり得る。このため、エッチングマスク膜へのパターニングがされた後、レジストパターンを剥離してから、パターン形成用薄膜をドライエッチングするエッチングチャンバー内にマスクブランクを導入することが好ましい。これらの場合においても、エッチングストッパ膜に対して塩素系ガスと酸素ガスの混合ガスによるドライエッチングでパターニングしたときに、レジストパターンが存在していないことから、エッチングマスク膜もエッチングされてしまう。
【0033】
基板掘り込みパターンを有するレジストパターンは、前記の理由から、薄膜パターンのパターンエッジ部分を保護できない。ドライエッチングによってエッチングマスク膜の膜厚が大幅に薄くなってしまった状態、あるいはエッチングマスク膜が消失してしまった状態で、基板掘り込みパターンを有するレジストパターンをマスクとして用い、透光性基板を掘り込むフッ素系ガスを用いたドライエッチングを行うと、薄膜パターンのパターンエッジ部分もエッチングされてしまう恐れがある。
【0034】
これらの問題を解決するために、本発明者は、酸素を含有しない塩素系ガスでエッチングストッパ膜をドライエッチングすることを考えた。そして、エッチングストッパ膜とエッチングマスク膜をともにクロム系材料で形成した場合でも、エッチングストッパ膜は酸素を含有しない塩素系ガスによるドライエッチングが可能であり、エッチングマスク膜は酸素を含有しない塩素系ガスによるドライエッチング、及び、フッ素系ガスによるドライエッチングがともに困難であるという特性を持たせることの可能性を検討した。まず、表1に示す8種類のクロム系材料のサンプル膜について、塩素系ガス(Cl
2)をエッチングガスとして用いたドライエッチングと、フッ素系ガス(CF
4)をエッチングガスとして用いたドライエッチングをそれぞれ行い、各サンプル膜のエッチングレートを確認する実験を行った。
図2に、各サンプル膜の塩素系ガス(Cl
2)に対するエッチングレートを示す。
図3に、各サンプル膜のフッ素系ガス(CF
4)に対するエッチングレートを示す。
【0036】
図2では、各サンプル膜の酸素の含有量と、塩素系ガスに対するエッチングレートとの関係が■のプロットで示されている。また、各サンプル膜のクロムの含有量と、塩素系ガスに対するエッチングレートとの関係が▲のプロットで示されている。なお、
図2中の■および▲の各プロットに付与されている記号は、サンプル膜の記号に対応している。この結果を見ると、膜中の酸素含有量と塩素系ガスに対するエッチングレートとの間には相関性が見られることがわかる。また、サンプル膜中に窒素や炭素を含有することの影響は低いこともわかる。他方、クロム含有量と、塩素系ガスに対するエッチングレートとの間の相関性も、低いことがわかる。
【0037】
図2の結果では、クロム系材料膜中の酸素の含有量が50at%よりも大きくなると、塩素系ガスに対するエッチングレートが12.0nm/min以上と大幅に高くなることがわかる。また、クロム系材料膜中の酸素含有量が60at%以上であると、塩素系ガスに対するエッチングレートが14.0nm/min以上とさらに高くなることがわかる。
図2の実験結果等を検討した結果、エッチングストッパ膜を形成するクロム系材料中の酸素の含有量は、50at%よりも大きくする必要があるという結論に至った。
【0038】
一方、クロム系材料膜中の酸素の含有量が30at%以下である場合、塩素系ガスに対するエッチングレートが6.0nm/min未満であり、酸素の含有量が50at%よりも多いクロム系材料膜における塩素系ガスに対するエッチングレートに比べて、その1/2よりも小さくなることがわかる。また、クロム系材料膜中の酸素含有量が15at%以下である場合、塩素系ガスに対するエッチングレートが4.0nm/min以下であり、酸素含有量が50at%よりも多いクロム系材料膜における塩素系ガスに対するエッチングレートに比べて、その1/3以下となることがわかる。
【0039】
一方、
図3では、各サンプル膜の酸素含有量と、フッ素系ガスに対するエッチングレートとの関係が、■のプロットで示されている。また、各サンプル膜のクロム含有量と、フッ素系ガスに対するエッチングレートとの関係が、▲のプロットで示されている。なお、
図3中の■および▲の各プロットに付与されている記号は、サンプル膜の記号に対応している。この結果を見ると、クロム含有量と、フッ素系ガスに対するエッチングレートとの間には、相関性が見られることがわかる。また、サンプル膜中に窒素や炭素を含有することの影響が低いこともわかる。他方、酸素含有量と、フッ素系ガスに対するエッチングレートとの間の相関性が、低いことがわかる。
【0040】
また、
図3の結果では、クロム系材料膜中のクロム含有量が45at%を下回る場合、フッ素系ガスに対するエッチングレートの上昇度合いが高くなることがわかる。フッ素系ガスのドライエッチングに対する耐性が低い場合、基板掘り込みパターンを有するレジスト膜をマスクにして、フッ素系ガスによるドライエッチングを行って透光性基板を掘り込む際、エッチングマスク膜の表面が露出している部分がエッチングされて消失し、パターン形成用薄膜のパターンエッジ部分が露出してしまい、さらにはそのパターンエッジ部分がエッチングされてしまう恐れがある。
図2および
図3の実験結果等を検討した結果、エッチングマスク膜を形成するクロム系材料のクロム含有量は45at%以上であり、かつ酸素含有量は30at%以下である必要があるという結論に至った。
【0041】
以上のような特徴を有するエッチングストッパ膜とエッチングマスク膜を選定することにより、エッチングストッパ膜は、酸素を含有しない塩素系ガスに対して十分に高いエッチングレートを確保でき、パターンを形成するときのエッチング時間を短くすることができる。さらに、エッチングマスク膜は、酸素を含有しない塩素系ガスに対するエッチングレートが、エッチングストッパ膜に比べて少なくともその1/2よりも小さいため、エッチングストッパ膜にパターンを形成した後においても、十分な膜厚を確保することができる。そして、エッチングマスク膜は、フッ素ガスに対するエッチングレートに対する耐性が十分に高い特性も兼ね備えているため、透光性基板を掘り込むフッ素系ガスによるドライエッチングが終わるまで、パターン形成用薄膜のパターンエッジ部分を保護することができる。すなわち、本発明において、エッチングストッパ膜に用いることができるクロム系材料と、エッチングマスク膜に用いることができるクロム系材料は、互いに特性が大きく異なるものであるため、エッチングストッパ膜とエッチングマスク膜のクロム系材料を入れ替えた場合、本発明の効果を得ることは困難である。
【0042】
図1は、本発明に係るマスクブランクの構造を示す断面図である。
図1に示す本発明のマスクブランク100は、透光性基板1上に、エッチングストッパ膜2、パターン形成用薄膜3、エッチングマスク膜4が順に積層された構造を有している。
【0043】
透光性基板1は、使用する露光波長に対して透明性を有するものであればよく、特に制限されない。本発明では、透光性基板1として、合成石英ガラス基板、その他各種のガラス基板(例えば、ソーダライムガラス、アルミノシリケートガラス等)を用いることができる。半導体装置のパターンを微細化するに当っては、位相シフトマスクに形成されるマスクパターンの微細化に加え、半導体装置製造の際のフォトリソグラフィーで使用される露光光源波長の短波長化が必要となる。半導体装置製造の際の露光光源としては、近年ではKrFエキシマレーザー(波長248nm)から、ArFエキシマレーザー(波長193nm)へと短波長化が進んでいる。各種ガラス基板の中でも特に合成石英ガラス基板は、ArFエキシマレーザー又はそれよりも短波長の領域で透明性が高いので、高精細の転写パターン形成に用いられる本発明のマスクブランクにおける透光性基板として好適である。
【0044】
エッチングストッパ膜2に適用される材料は、クロムと酸素を含有し、酸素含有量が50at%よりも大きい材料である。エッチングストッパ膜2に適用される材料は、この条件を満たすクロム系材料であればよく、エッチング特性が大きく変化しない限り、他の元素を含んでもよい。エッチングストッパ膜に用いる好ましい材料としては、例えば、クロム酸化物あるいは、クロムと酸素に、窒素、炭素、水素、ホウ素などの元素から選ばれる1種以上の元素を添加したクロム化合物などが挙げられる。なお、
図3の結果から、エッチングストッパ膜2に適用される材料におけるクロム含有量は、40at%以上であるとフッ素系ガスのドライエッチングに対する耐性がより向上するため好ましく、45at%以上であるとより好ましい。エッチングストッパ膜2の厚さは、上述の機能が十分に発揮されるようにする観点から、3nm以上10nm以下であることが好ましい。膜厚が3nm未満であると、パターン形成用薄膜3に対してフッ素系ガスによるドライエッチングでパターニングするときに、透光性基板1の表面がエッチングされることを防止する機能を十分に得ることが難しくなる。より好ましくは、エッチングストッパ膜2の厚さは、4nm以上である。他方、エッチングストッパ膜2の厚さが10nmよりも大きい場合、酸素を含有しない塩素系ガスによるドライエッチングでエッチングストッパ膜2をパターニングする際、エッチング時間が長くなり、エッチングマスク膜4の表面をエッチングする量が増大するため、好ましくない。より好ましくは、エッチングストッパ膜2の厚さは、7nm以下である。
【0045】
エッチングストッパ膜2の酸素を含有しない塩素系ガスに対するエッチングレートは、膜中の酸素含有量によって大きく影響されるが、クロム含有量によっても多少影響される。クロム系材料のドライエッチングは、低圧のチャンバー内において、沸点の低いクロムの塩化酸化物(塩酸化クロミル)を生成させ、透光性基板2上から揮発させることによって行われる。よって、エッチングストッパ膜2中のクロムの含有量が低いと、塩酸化クロミルを生成させるのに必要な酸素量も少なくなる。ただし、エッチングストッパ膜2中に含有されるその他の元素が酸素と結合することも考慮する必要があり、膜中のクロム含有量がエッチングレートに与える影響が大きいとまでは言い難い。これらのことから、エッチングストッパ膜2を形成する材料のクロム含有量が40at%以下と少ない場合、材料中の酸素含有量が45at%以上の範囲であれば、本発明の効果を得られるだけのエッチングレートを得ることは可能であるといえる。
【0046】
パターン形成用薄膜3は、フッ素系ガスによるドライエッチングで微細パターンを形成することが可能な材料が用いられる。このような特性を有する材料としては、ケイ素を含有する材料、遷移金属とケイ素を含有する材料や、タンタルを含有する材料が挙げられる。ケイ素を含有する材料として好ましいものとしては、ケイ素単体や、ケイ素に、酸素、窒素、炭素およびホウ素から選ばれる1種以上の元素を含有する化合物がある。遷移金属とケイ素を含有する材料として好ましいものとしては、遷移金属およびケイ素からなる材料や、遷移金属およびケイ素に、酸素、窒素、炭素およびホウ素から選ばれる1種以上の元素を含有する化合物がある。また、この場合に好適な遷移金属としては、モリブデン、タンタル、タングステン、チタン、クロム、ハフニウム、ニッケル、バナジウム、ジルコニウム、ルテニウム、ロジウム、ニオブ、パラジウム、鉄、銅、亜鉛、銀、白金および金から選ばれる1種以上の金属が挙げられる。
【0047】
タンタルを含有する材料として好ましいものとしては、タンタル金属単体や、タンタルに、酸素、窒素、炭素およびホウ素から選ばれる1種以上の元素を含有する化合物がある。また、タンタル、及び、ハフニウム、ジルコニウムおよびモリブデン等から選ばれる1種以上の金属を含有する合金、あるいは、この合金に酸素、窒素、ホウ素および炭素から選ばれる1種以上の元素を添加した化合物等も挙げられる。
【0048】
このマスクブランク100を用いて製造される位相シフトマスクのタイプによって、パターン形成用薄膜3に求められる光学的特性は異なる。基板掘り込みタイプのレベンソン型位相シフトマスクを製造するためのマスクブランクの場合、エッチングストッパ膜2とパターン形成用薄膜3の積層構造は、所定値以上の光学濃度(OD)を有する必要がある。この場合、パターン形成用薄膜3は遮光膜の一部として機能する。エッチングストッパ膜2とパターン形成用薄膜3の積層構造は、露光光の波長に対する光学濃度が少なくとも2.5以上である必要があり、2.8以上であることが好ましく、3.0以上であるとより好ましい。エッチングストッパ膜2は、酸素含有量が50at%を超えており、その厚さを薄くする必要があることから、遮光性能があまり高くない。このため、パターン形成用薄膜3のみで、エッチングストッパ膜2との積層構造に求められる前記所定値以上の光学濃度の大部分を確保することが好ましく、全てを確保できるとより好ましい。
【0049】
パターン形成用薄膜3は、単層構造、2層以上の積層構造のいずれの形態をとることもできる。このマスクブランク100から製造される位相シフトマスクにおいて、透光性基板上に形成されるパターンは、エッチングストッパ膜2とパターン形成用薄膜3の積層構造で形成される。このパターンの表面反射を低減することよりも、全体膜厚を薄くすることを優先する場合においては、パターン形成用薄膜3は単層構造であることが好ましい。一般に、光学濃度の高い材料は、露光光に対する反射率が高くなる傾向がある。薄膜パターンの表面反射率がある程度以下(例えば、ArF露光光に対する表面反射率が40%以下、より好ましくは30%以下)に抑制されていることが望ましい。このことを考慮する場合、パターン形成用薄膜3は、遮光性能の高い下層31の上に表面反射を低減する機能を有する上層32を積層した構造であることが好ましい。また、パターン形成用薄膜3は、膜厚が60nm以下であることが好ましく、55nm以下であるとより好ましい。
【0050】
パターン形成用薄膜3を、前記の遷移金属とケイ素を含有する材料を用いて単層構造で形成する場合、光学濃度を確保するために、膜中における遷移金属とケイ素以外の元素の含有量、特に光学濃度を低下させやすい酸素や窒素の含有量を極力少なくすることが好ましい。他方、このような材料は、耐薬性やArF露光光に対する耐光性が低い傾向がある。また、このような材料は、パターン形成用薄膜3の表面に積層しているエッチングマスク膜4を除去するときに用いられる塩素系ガスと酸素ガスの混合ガスによるドライエッチングに対して、耐性が十分に高いとはいえない。前記の耐薬性、ArF耐光性およびエッチング耐性は、膜中の遷移金属の含有量が多くなるにつれて低下する傾向がある。また、これらの耐性は、膜中の酸素の含有量が多くなるにつれて高くなる傾向もある。これらのことを考慮すると、パターン形成用薄膜3を、前記の遷移金属とケイ素を含有する材料を用いて単層構造で形成する場合、その表層に、遷移金属の含有量が4at%以下であり、かつ酸素含有量が30at%以上である酸化層を設けることが好ましい。
【0051】
パターン形成用薄膜3を、前記の遷移金属とケイ素を含有する材料を用い、下層31と上層32の積層構造で形成する場合、下層31は、光学濃度を確保するために、膜中における遷移金属とケイ素以外の元素の含有量、特に光学濃度を低下させやすい酸素や窒素の含有量を極力少なくすることが好ましい。また、上層32は、表面反射を低減させるために、酸素や窒素を含有させ、上層32中の屈折率を大きくし、消衰係数を小さくする必要がある。しかし、上層32で光学濃度を少しでも多く確保するには、消衰係数kを大幅に下げる酸素の含有量を少なくすることが好ましい。このため、下層31と上層32の積層構造のパターン形成用薄膜3の場合においても、上層32の耐薬性、ArF耐光性およびエッチング耐性が十分に高いとはいえない。よって、パターン形成用薄膜3が下層31と上層32の積層構造であり、各層ともに遷移金属とケイ素を含有する材料で形成されている場合においても、上層32の表層に、遷移金属の含有量が4at%以下であり、かつ酸素含有量が30at%以上である酸化層33を設けることが好ましい。
【0052】
単層構造のパターン形成用薄膜3や下層31を前記の遷移金属とケイ素を含有する材料を用いて形成する場合において、材料中の遷移金属(M)の含有量[at%]を、遷移金属(M)とケイ素(Si)の合計含有量[at%]で除して算出した百分率[%](以下、M/M+Si比率という。)が9%以上かつ35%以下であることが好ましく、11%以上かつ33%以下であるとより好ましい。遷移金属とケイ素を含有する材料がこれらのM/M+Si比率の範囲内であると、材料の光学濃度をより高くすることができる。単層構造のパターン形成用薄膜3や下層31を前記の遷移金属とケイ素を含有する材料を用いて形成する場合において、その材料中の窒素の含有量は、21at%以上であることが好ましい。パターン形成用薄膜3のパターニング後に発見される黒欠陥部分を、二フッ化キセノンガスを供給しつつ、電子線を照射して黒欠陥部分を修正する修正技術(EB欠陥修正)を適用する場合には、膜中の窒素含有量が21at%以上であると、電子線が照射されていない箇所が二フッ化キセノンガスでエッチングされてしまうことを抑制できる。
【0053】
パターン形成用薄膜3を、前記のタンタルを含有する材料を用いて単層構造で形成する場合、光学濃度を確保するために、膜中におけるタンタル以外の元素の含有量、特に光学濃度を低下させやすい酸素や窒素の含有量を極力少なくすることが好ましい。他方、このような材料は、耐薬性やArF露光光に対する耐光性が低い傾向がある。また、このような材料は、パターン形成用薄膜3の表面に積層しているエッチングマスク膜4を除去するときに用いられる塩素系ガスと酸素ガスの混合ガスによるドライエッチングに対して、耐性が十分に高いとはいえない。このため、パターン形成用薄膜3を、前記のタンタルを含有する材料を用いて単層構造で形成する場合、その表層に、酸素含有量が60at%以上の高酸化層が形成されていることが好ましい。
【0054】
マスクブランク100のパターン形成用薄膜3は、結晶構造が微結晶であることが好ましく、非晶質であることがより好ましい。この場合、薄膜内の結晶構造が単一構造になりにくく、複数の結晶構造が混在した状態になりやすい。よって、酸素含有量が60at%以上である高酸化層の場合、高酸化層は、TaO結合、Ta
2O
3結合、TaO
2結合、及びTa
2O
5結合が混在する状態になりやすい。高酸化層中のTa
2O
5結合の存在比率が高くなるにつれて、耐薬性、ArF耐光性、酸素と塩素の混合ガスによるドライエッチング耐性が向上する。
【0055】
高酸化層は、層中の酸素含有量が、60at%以上66.7at%未満であると、層中のタンタルと酸素の結合状態は、Ta
2O
3結合が主体になる傾向が高まると考えられ、一番不安定な結合であるTaO結合は、層中の酸素含有量が60at%未満の場合に比べて非常に少なくなると考えられる。
また、高酸化層は、層中の酸素含有量が、66.7at%以上であると、層中のタンタルと酸素の結合状態は、TaO
2結合が主体になる傾向が高まると考えられ、一番不安定な結合であるTaO結合やその次に不安定な結合であるTa
2O
3結合は、ともに非常に少なくなると考えられる。
【0056】
高酸化層は、層中の酸素含有量が、68at%以上であると、層中のタンタルと酸素の結合状態は、TaO
2結合が主体になるだけでなく、Ta
2O
5結合の比率も高くなると考えられる。このような酸素含有量になると、Ta
2O
3結合は稀に存在する程度になり、TaO結合は存在し得なくなってくる。さらに、高酸化層は、層中の酸素含有量が、71.4at%であると、層中のタンタルと酸素の結合状態は、実質的にTa
2O
5結合だけになると考えられる。このような状態は、耐薬性、ArF耐光性、及び酸素と塩素の混合ガスによるドライエッチング耐性が非常に高まるため、最も好ましい。
【0057】
タンタルを含有する材料からなるパターン形成用薄膜3の表層に高酸化層を形成する方法としては、例えば、透光性基板1上にパターン形成用薄膜3を形成した基板に対して、温水処理、オゾン含有水処理、酸素を含有する気体中での加熱処理、酸素を含有する気体中での紫外線照射処理、O
2プラズマ処理等のほか、自然酸化による方法等が挙げられる。これらの方法の中では、均一な膜厚の高酸化層を形成できること、及び、生産性の観点から、前記自然酸化による方法以外の各表面処理による方法が特に好適である。
【0058】
上記のような作用効果が十分に得られるようにするためには、高酸化層は、厚さが1.5nm以上4nm以下であることが好ましい。厚さが1.5nm未満では効果が十分に得られず、4nmを超えるとパターン形成用薄膜3の光学特性に与える影響が大きくなってしまう。パターン形成用薄膜3全体の光学濃度確保、耐薬性、ArF耐光性、酸素と塩素の混合ガスによるドライエッチング耐性の向上の各観点間のバランスを考慮すると、高酸化層の厚さは、1.5nm以上3nm以下であることがより好ましい。
【0059】
パターン形成用薄膜3を、前記のタンタルを含有する材料を用いて下層31と上層32の積層構造で形成する場合、下層31は、光学濃度を確保するために、膜中におけるタンタル以外の元素の含有量、特に光学濃度を低下させやすい酸素や窒素の含有量を極力少なくすることが好ましい。また、上層32は、表面反射を低減させるために、酸素や窒素を含有させ、上層32中の屈折率を大きくし、消衰係数を小さくする必要がある。しかし、上層32で光学濃度を少しでも多く確保するには、消衰係数kを大幅に下げてしまう酸素の含有量は、60at%未満であることが好ましい。このため、下層31と上層32の積層構造のパターン形成用薄膜3の場合においても、上層32の耐薬性、ArF耐光性およびエッチング耐性が十分に高いとはいえない。よって、パターン形成用薄膜3が下層31と上層32の積層構造であり、各層ともにタンタルを含有する材料で形成されている場合においても、上層32の表層に、酸素含有量が60原子%以上の高酸化層33が形成されていることが好ましい。その他の表層に形成される高酸化層33に関する事項については、前記のタンタルを含有する材料を用いた単層構造のパターン形成用薄膜に形成される高酸化層と同様である。
【0060】
単層構造の場合におけるパターン形成用薄膜3や、積層構造の場合におけるパターン形成用薄膜3の下層31は、タンタル及び窒素を含有する材料で形成されることが好ましい。これらの場合、窒素含有量を62at%未満(好ましくは51at%以下、より好ましくは30at%以下)にすると、表面粗さをRqで0.60nm以下に抑制することができる。
【0061】
エッチングマスク膜4に適用される材料は、クロムを含有し、クロムの含有量が45at%以上であり、かつ酸素の含有量が30at%以下である材料である。エッチングマスク膜4に適用される材料は、この条件を満たすクロム系材料であればよく、エッチング特性が大きく変化しない限り、他の元素を含んでもよい。エッチングマスク膜4に用いられる好ましい材料としては、例えば、クロム金属、あるいはクロムに、酸素、窒素、炭素、水素、ホウ素などの元素から選ばれる1種以上の元素を添加したクロム化合物などが挙げられる。エッチングマスク膜4中におけるクロムの含有量は、50at%以上であると好ましく、60at%以上であるとより好ましい。なお、エッチングマスク膜4は、酸素を積極的には含有させない成膜条件でパターン形成用薄膜3上に成膜した後、酸素を含有する気体中(大気中等)での加熱処理等を行うことで形成してもよい。これにより、膜中のクロムの含有量が45at%以上であり、かつ酸素の含有量が30at%以下のエッチングマスク膜4を形成することができる。
【0062】
線幅50nm以下のような微細パタ−ンが形成された、膜厚が150nm未満のレジストパターンをマスクとして用い、塩素系ガスと酸素ガスの混合ガスを用いたドライエッチングでエッチングマスク膜4にパターンを形成する場合、そのパターンを高精度にかつ微細に形成できる必要がある。エッチングマスク膜4におけるクロムの含有量が多くなるに従い、塩素系ガスと酸素ガスの混合ガスを用いたドライエッチングに対するエッチングレートが低下する傾向がある。この点を考慮すると、エッチングマスク膜4におけるクロムの含有量は、少なくとも90at%未満であることが好ましく、85at%以下であるとより好ましく、80at%以下であるとさらに好ましい。
【0063】
上記の場合、エッチングマスク膜4に窒素、炭素などを含有させることが好ましい。これらの元素はドライエッチング時に揮発しやすいためである。しかし、エッチングマスク膜4中の窒素および炭素の含有量が多くなりすぎると、フッ素系ガスによるドライエッチングへの耐性が低下する恐れがある。これらのことを考慮すると、エッチングマスク膜4中における窒素含有量の下限は、10at%であることが好ましく、15at%であるとより好ましい。また、エッチングマスク膜4中における窒素含有量の上限は、30at%であることが好ましく、20at%であるとより好ましい。同様に、エッチングマスク膜4中における炭素含有量の下限は、5at%であることが好ましく、10at%であるとより好ましい。また、エッチングマスク膜4中における炭素含有量の上限は、20at%であることが好ましく、15at%であるとより好ましい。
【0064】
エッチングマスク膜4の厚さは、上述の機能が十分に発揮されるようにする観点から、3nm以上15nm以下であることが好ましい。パターン形成用薄膜3や透光性基板1に対してフッ素系ガスによるドライエッチングを行っているときに、エッチングマスク膜4が徐々にエッチングされていくことは避けられない。エッチングマスク膜4の膜厚が3nm未満であると、パターン形成用薄膜3に対してフッ素系ガスによるドライエッチングで微細パターンを形成するときに、エッチングの途中で、エッチングマスク膜4に形成されている微細パターンの形状が維持できなくなる恐れがある。また、透光性基板1に対してフッ素系ガスによるドライエッチングで掘り込みパターンを形成するときに、エッチングの途中で、エッチングマスク膜4が消失してしまい、パターン形成用薄膜3のパターンエッジを保護できなくなる恐れがある。より好ましくは、エッチングマスク膜4の厚さは、4nm以上である。
【0065】
エッチングマスク膜4の厚さが15nmよりも大きいと、膜厚が150nm未満のレジストパターンをマスクとして用い、塩素系ガスと酸素ガスの混合ガスを用いたドライエッチングで、エッチングマスク膜4に微細パターンを形成している途中で、レジストパターンの形状が維持できなくなる恐れや、レジストパターンが消失してしまう恐れがあり、好ましくない。より好ましくは、エッチングマスク膜4の厚さは、10nm以下である。
【0066】
マスクブランク100を用いて製造される位相シフトマスクが、エンハンサ型位相シフトマスクの場合においては、レベンソン型位相シフトマスクの場合とは、パターン形成用薄膜3に求められる光学的特性が大きく異なる。エンハンサ型位相シフトマスクでは、レベンソン型位相シフトマスクの場合と同様、基板掘り込み部を透過する露光光と基板を掘り込んでいない透光部を透過する露光光との間で、位相シフト効果が得られるだけの所定の位相差を生じさせることが求められる。しかし、エンハンサ型位相シフトマスクでは、パターン形成用薄膜3は、露光光を所定の透過率で透過する半透過膜である必要があり、さらにパターン形成用薄膜(半透過膜)3を透過する露光光と基板を掘り込んでいない透光部を透過する露光光との間で位相差が小さいという特性も必要とされている。
【0067】
マスクブランク100がエンハンサ型位相シフトマスクを製造するために用いられるものである場合、パターン形成用薄膜3は、露光光に対する透過率が1〜20%の範囲であることと、パターン形成用薄膜3を透過する露光光とそのパターン形成用薄膜3の膜厚分だけ空気中を通過した露光光との間に生じる位相差が−30度〜+30度の範囲であることの両方の光学的特性を同時に満たすことが求められる。このような特性を得られやすい材料としては、前記のケイ素を含有する材料や、遷移金属とケイ素を含有する材料が挙げられる。特に、遷移金属とケイ素を含有する材料が好ましい。パターン形成用薄膜3を遷移金属とケイ素を含有する材料で形成し、前記の半透過膜に求められる光学特性を満たすためには、パターン形成用薄膜3は、下層31と上層32の積層構造であることが好ましい。
【0068】
前記の位相差を小さくするには、遷移金属とケイ素からなる材料が好ましい。しかし、この材料からなる単層膜は、露光光に対する透過率を前記の範囲内にすることが困難である。この問題を解決するため、下層31を、遷移金属とケイ素からなる材料か、または、位相差が大きくなる方向に働きやすい酸素や窒素の含有量が10at%以下である遷移金属とケイ素を含有する材料で形成する。さらに、上層32を、露光光に対する透過率が高い傾向があるが、前記の位相差が大きくなる傾向がある、遷移金属とケイ素を含有し、酸素や窒素を10at%よりも多く含有する材料で形成する。これにより、下層31と上層32の材料の光学特性(屈折率n,消衰係数k)や膜厚を調整して、パターン形成用薄膜3の透過率と位相差を前記の範囲内に調整することができる。
【0069】
上記透光性基板1上に、エッチングストッパ膜2、パターン形成用薄膜3、並びにエッチングマスク膜4を形成する方法の好ましい例としては、DCスパッタ法、RFスパッタ法、イオンビームスパッタ法等のスパッタ成膜法が挙げられる。しかし、本発明では、成膜方法をスパッタ成膜法に限定する必要はない。
【0070】
以上説明した本発明のマスクブランクは、線幅が50nm以下のような微細なパターンが設けられることがある、波長200nm以下の短波長の露光光(ArFエキシマレーザーなど)を露光光源とする露光装置に用いられる転写用マスクであって、特に基板掘り込みタイプの位相シフトマスクを製造するのに適したマスクブランクである。基板掘り込みタイプの位相シフトマスクには、基板掘り込みタイプのレベンソン型位相シフトマスクや、エンハンサ型位相シフトマスク等がある。本発明のマスクブランクは、基板掘り込み部と、基板を掘り込まない透光部と、パターン形成用薄膜で形成される薄膜パターンを有する転写用マスクの製造に適している。
【0071】
本発明は、基板掘り込みタイプの位相シフトマスクの製造方法も提供する。
図4は、本発明に係る基板掘り込みタイプの位相シフトマスクの製造工程を示す断面図である。
図4に示す製造工程に従って、本発明に係る基板掘り込みタイプの位相シフトマスクの製造方法を説明する。本発明に使用するマスクブランク100の構成の詳細は、上述したとおりである。
【0072】
まず、マスクブランク100上に、レジスト膜5を形成する(
図4(a)参照)。レジスト膜5の膜厚は、150nm未満である必要があり、120nm以下であると好ましく、100nm以下であるとより好ましい。次に、このマスクブランク100上に形成したレジスト膜5に対して、パターン形成用薄膜3に形成すべき微細パターンの露光描画を行い、現像処理を行うことにより、レジストパターン5aを形成する。次いで、このレジストパターン5aをマスクとして用い、エッチングマスク膜4に対して塩素系ガスと酸素ガスの混合ガスを用いたドライエッチングを行い、エッチングマスクパターン4aを形成する(
図4(b)参照)。このドライエッチングに用いる塩素系ガスとしては、例えば、Cl
2、SiCl
4、CHCl
3、CH
2Cl
2、CCl
4、BCl
3などが挙げられる。続いて、残存するレジストパターン5aを除去する。
【0073】
次に、エッチングマスクパターン4aをマスクとして用い、パターン形成用薄膜3(上層32及び下層31。なお、上層32には、酸化層33(図示せず)が含まれる。)に対して、フッ素系ガスを用いたドライエッチングを行い、薄膜パターン3a(上層パターン32a、下層パターン31a)を形成する。このとき、エッチングストッパ膜2は、ほとんどエッチングはされないため、透光性基板1の表面を保護することができる。なぜなら、エッチングストッパ膜2は、フッ素系ガスに対してエッチング耐性を有するクロムと酸素を含有する材料によって形成されているためである。なお、このドライエッチングに用いるフッ素系ガスとしては、例えば、CHF
3、CF
4、C
2F
6、C
4F
8、SF
6などが挙げられる。(
図4(c)参照)。
【0074】
次に、エッチングマスクパターン4aをマスクとして用い、エッチングストッパ膜2に対して、酸素を含有しない塩素系ガスを用いたドライエッチングを行い、エッチングストッパパターン2aを形成する(
図4(d)参照)。このとき、塩素系ガスのみのドライエッチングでも、エッチングストッパ膜2に微細パターンをエッチングすることができ、十分なエッチングレートを得ることができる。なぜなら、エッチングストッパ膜2は、クロムと酸素を含有し、かつ酸素の含有量が50at%を超える材料によって形成されているためである。他方、エッチングマスクパターン4aは、エッチングストッパ膜2と同様に、クロムを含有する材料によって形成されているが、酸素含有量が30at%と低い。このため、塩素系ガスのみのドライエッチングにおけるエッチングレートが大幅に小さくなっており、エッチングストッパ膜2との間で十分なエッチング選択性が得られる。
【0075】
次に、エッチングマスクパターン4a、薄膜パターン3aおよびエッチングストッパパターン2aが形成されたマスクブランク上に、レジスト膜6を形成する。そして、このレジスト膜6に対して、基板掘り込み部(位相シフト部)を形成するための基板掘り込みパターン(位相シフトパターン)の露光描画を行い、現像処理を行うことにより、レジストパターン6aを形成する(
図4(e)参照)。前記のとおり、レジストパターン6aには、描画精度等の事情を考慮して、本来の基板掘り込み部の幅よりも若干のマージンを見込んで、広めのスペース部が形成される。これによって、エッチングマスクパターン4aのエッジ近傍の表面が露出した状態となる。
【0076】
次いで、このレジストパターン6aをマスクとして用い、透光性基板1に対してフッ素系ガスを用いたドライエッチングを行い、透光性基板1を所定深さまで掘り込む。これにより、透光性基板1に基板掘り込み部1aを形成する(
図4(f)参照)。このとき、エッチングマスクパターン4aは、クロムを含有し、クロムを45at%以上含有する材料によって形成されているため、フッ素系ガスのドライエッチングに対して十分に高い耐性を有する。このため、透光性基板1を掘り込むドライエッチングが終わったときにおいても、レジストパターン6aに保護されておらず、かつ露出しているエッチングマスクパターン4aのパターンエッジ近傍は、残存している。よって、薄膜パターン3aを、フッ素系ガスによるドライエッチングから保護することができる。
【0077】
次に、レジストパターン6aを除去する(
図4(g)参照)。続いて、エッチングマスクパターン4aを、例えば、塩素系ガスと酸素ガスの混合ガスを用いたドライエッチングで除去する。その後、所定の洗浄処理等を行うことにより、基板掘り込みタイプの位相シフトマスク200が得られる(
図4(h)参照)。
【0078】
一方、本発明の別の実施形態として、前記のマスクブランク100のエッチングストッパ膜2を、ハフニウム(Hf)およびジルコニウム(Zr)から選ばれる1以上の元素とタンタル(Ta)とを含有し、かつ酸素を実質的に含有しない材料で形成してもよい。これらの材料からなるエッチングストッパ膜2は、高いエッチングレートが得られるため、酸素を含有しない塩素系ガスによるドライエッチングで微細なパターンを形成することができる。また、これらの材料からなるエッチングストッパ膜2は、フッ素系ガスによるドライエッチングに対する耐性が高い。よって、パターン形成用薄膜3にパターンを形成するドライエッチングを行うときに、エッチングストッパ膜2はほとんどエッチングされず、透光性基板1の表面を保護することができる。
【0079】
前記のハフニウムおよびジルコニウムから選ばれる1以上の元素とタンタルとを含有し、かつ酸素を実質的に含有しない材料としては、タンタル−ハフニウム合金、タンタル−ジルコニウム合金、タンタル−ハフニウム−ジルコニウム合金、またはこれらの合金の酸素以外の元素を含有する化合物が挙げられる。この実施形態のエッチングストッパ膜2の材料には、窒素(N)、炭素(C)、水素(H)およびホウ素(B)等の元素が含まれてもよい。また、エッチングストッパ膜2の材料には、ヘリウム(He)、アルゴン(Ar)、クリプトン(Kr)およびキセノン(Xe)等の不活性ガスが含まれてもよい。なお、この実施形態のエッチングストッパ膜2の材料は、酸素を含有すると、酸素を含有しない塩素系ガスに対するエッチングレートが大幅に低下する。このため、この実施形態のエッチングストッパ膜2の材料における酸素含有量は、多くても成膜時のコンタミで混入する程度(5at%以下)までである必要があり、含有しないことが好ましい。
【実施例】
【0080】
以下、実施例により、本発明の実施の形態を更に具体的に説明する。
(実施例1) 主表面の寸法が約152mm×約152mmで、厚さが約6.25mの合成石英ガラスからなる透光性基板1を準備した。この透光性基板1は、端面及び主表面が所定の表面粗さとなるように研磨され、その後、所定の洗浄処理および乾燥処理が施されたものであった。
【0081】
次に、枚葉式DCスパッタ装置内に透光性基板1を設置し、クロム(Cr)ターゲットを用い、アルゴン(Ar)、酸素(O
2)およびヘリウム(He)の混合ガス雰囲気で反応性スパッタリング(DCスパッタリング)により、透光性基板1の表面に接して、クロムおよび酸素からなるエッチングストッパ膜2(CrO膜 Cr:45.5at%,O:54.5at%)を5nmの膜厚で形成した。なお、エッチングストッパ膜2の組成は、同様の手順でCrO膜を成膜したものに対し、オージェ電子分光分析(AES)を行って得られた結果である。
【0082】
次に、枚葉式DCスパッタ装置内に、エッチングストッパ膜2が表面に形成された透光性基板1を設置し、モリブデン(Mo)とケイ素(Si)との混合ターゲット(Mo:Si=13at%:87at%)を用い、アルゴン(Ar)と窒素(N
2)の混合ガス雰囲気で反応性スパッタリング(DCスパッタリング)により、エッチングストッパ膜2上に、モリブデン、ケイ素および窒素からなるパターン形成用薄膜3の下層31(MoSiN膜)を47nmの膜厚で形成した。続いて、同じモリブデン(Mo)とケイ素(Si)との混合ターゲット(Mo:Si=13at%:87at%)を用い、アルゴン(Ar)と窒素(N
2)の混合ガス雰囲気で反応性スパッタリング(DCスパッタリング)により、下層31上に、モリブデン、ケイ素および窒素からなるパターン形成用薄膜3の上層32(MoSiN膜)を4nmの膜厚で形成した。なお、エッチングストッパ膜2とパターン形成用薄膜3との積層構造は、ArFエキシマレーザーの波長(約193nm)における光学濃度が3.0以上という条件を十分に満たしている。
【0083】
次に、パターン形成用薄膜3を備えた透光性基板1に対して、350℃で30分間加熱処理(アニール処理)を行い、パターン形成用薄膜3の膜応力を低減させる処理を行った。なお、同様の手順でアニール処理を行ったパターン形成用薄膜3を備えた透光性基板1を製造し、X線光電子分光分析(ESCA)で分析(ただし、分析値にRBS補正を行っている。以下、他の分析でも同様。)した。その結果、この膜の組成は、下層31(Mo:9.2at%,Si:68.3at%,N:22.5at%)、下層31側の近傍の上層32(Mo:5.8at%,Si:64.4at%,N:27.7at%,O:2.1at%)であることが確認された。なお、上層32の表層(酸化層)33についてのX線光電子分光分析(ESCA)の結果は、モリブデンが3.4at%、ケイ素が43.9at%、窒素が14.6at%、酸素が38.1at%であった。
【0084】
次に、枚葉式DCスパッタ装置内に基板1を設置し、クロム(Cr)ターゲットを用い、アルゴン(Ar)と窒素(N
2)との混合ガス雰囲気で反応性スパッタリング(DCスパッタリング)により、パターン形成用薄膜3の上層32の表面に接して、クロムおよび窒素からなるエッチングマスク膜4(CrN膜 Cr:75at%,N:16at%,O:9at%)を10nmの膜厚で形成した。さらに、エッチングマスク膜4を前記パターン形成用薄膜3のアニール処理よりも低い温度でアニールすることにより、パターン形成用薄膜3の膜応力に影響を与えずにエッチングマスク膜4の応力を極力低く(好ましくは膜応力が実質ゼロに)なるように調整した。なお、前記のエッチングマスク膜4の組成は、同様の手順でCrN膜を成膜後、アニール処理を行ったものに対し、オージェ電子分光分析(AES)を行って得られた結果である。このため、成膜直後よりも表面酸化が進行している。以上の手順により、実施例1のマスクブランク100を得た。
【0085】
次に、このマスクブランク100を用いて、前記の
図4に示す工程に従って、基板掘り込みタイプのレベンソン型位相シフトマスク200を作製した。まず、マスクブランク100上に、レジスト膜として、電子線描画用化学増幅型ポジレジスト膜5(富士フィルムエレクトロニクスマテリアルズ社製 PRL009)を形成した(
図4(a)参照)。レジスト膜5は、スピンナー(回転塗布装置)を用いて、回転塗布によって形成した。上記レジスト膜5を塗布後、所定の加熱乾燥処理を行った。レジスト膜5の膜厚は、100nmである。
【0086】
次に上記マスクブランク100上に形成されたレジスト膜5に対し、電子線描画装置を用いて、線幅が50nmのSRAFパターンを含む転写パターン(パターン形成用薄膜3に形成すべきパターン)の描画を行った後、所定の現像液で現像してレジストパターン5aを形成した。次に、レジストパターン5aをマスクとして用い、エッチングマスク膜4に対し、Cl
2とO
2の混合ガス(流量比 Cl
2:O
2=4:1 以下、同様。)を用いたドライエッチングを行い、エッチングマスクパターン4aを形成した(
図4(b)参照)。次に、残存するレジストパターン5aを剥離した。
【0087】
次に、エッチングマスクパターン4aをマスクとして用い、パターン形成用薄膜3(上層32および下層31)に対し、SF
6とHeの混合ガスを用いたドライエッチングを行い、薄膜パターン3a(上層パターン32a、下層パターン31a)を形成した(
図4(c)参照)。続いて、エッチングマスクパターン4aをマスクとして用い、エッチングストッパ膜2に対し、Cl
2ガスを用いたドライエッチングを行い、エッチングストッパパターン2aを形成した(
図4(d)参照)。
【0088】
次に、エッチングマスクパターン4a、薄膜パターン3aおよびエッチングストッパパターン2aが形成されたマスクブランク上に、レジスト膜6を形成した。そして、このレジスト膜6に対して、基板掘り込み部(位相シフト部)を形成するための基板掘り込みパターン(位相シフトパターン)の露光描画を行い、現像処理を行うことにより、レジストパターン6aを形成した(
図4(e)参照)。レジストパターン6aには、描画精度等の事情を考慮して、本来の基板掘り込み部の幅よりも若干のマージンを見込んで広めのスペース部が形成されている。これによって、エッチングマスクパターン4aのエッジ近傍の表面が露出した状態となっていた。
【0089】
次いで、このレジストパターン6aをマスクとして用い、透光性基板1に対してフッ素系ガスを用いたドライエッチングを行い、透光性基板1を所定深さまで掘り込み、基板掘り込み部1aを形成した(
図4(f)参照)。このとき、基板の掘り込み深さが173nmになるように、エッチング時間を調整した。次に、レジストパターン6aを除去した(
図4(g)参照)。続いて、エッチングマスクパターン4aを、Cl
2とO
2の混合ガスを用いたドライエッチングを行って除去し、所定の洗浄処理等を行い、基板掘り込みタイプの位相シフトマスク200を得た(
図4(h)参照)。
【0090】
こうして得られた位相シフトマスク200は、エッチングストッパパターン2aと薄膜パターン3aの積層構造からなるパターンを有しており、いずれも良好なパターン精度で形成されていた。薄膜パターン3aのパターンエッジ部分に、エッチングダメージは特に認められなかった。また、透光性基板1に形成された基板掘り込み部(位相シフトパターン)1aの断面形状を確認するため、上記と全く同様に作製した評価用の位相シフトマスクを破断した。そして、透過型電子顕微鏡(TEM)によるパターン断面の観察を行ったところ、掘り込み部と非掘り込み部との間での基板厚さの差は所定値に正確に制御されており、パターンの深さも均一であることを確認した。
【0091】
次に、得られたレベンソン型位相シフトマスク200を用いて、転写対象物である半導体ウェハ上のレジスト膜に対して、転写パターンを露光転写する工程を行った。露光装置には、ArFエキシマレーザーを光源とし、輪帯照明(Annular Illumination)が用いられた液浸方式の装置を使用した。具体的には、露光装置のマスクステージに、この実施例1のレベンソン型位相シフトマスク200をセットし、半導体ウェハ上のArF液浸露光用のレジスト膜に対して、露光転写を行った。露光後のレジスト膜に対して、所定の現像処理を行い、レジストパターンを形成した。さらに、レジストパターンを用いて、半導体ウェハ上に回路パターンを形成した。得られた半導体ウェハ上の回路パターンを透過型電子顕微鏡(TEM)で確認したところ、形成された回路パターンは所定の仕様を十分に満たしていた。
【0092】
(比較例1) エッチングストッパ膜及びエッチングマスク膜を形成する材料に、CrOCN膜(Cr:48.9at%,O:26.4at%,C:10.6at%,N:14.1at%)を適用した以外は、実施例1と同じ手順で、比較例1のマスクブランクを製造した。さらに、この比較例1のマスクブランクを用い、実施例1と同じプロセスで、基板掘り込みタイプのレベンソン型位相シフトマスクの作製を試みた。しかし、エッチングマスクパターンをマスクとして用い、エッチングストッパ膜に対し、Cl
2ガスを用いたドライエッチングを行って、エッチングストッパパターン2aを形成することは何とかできたが、そのときにエッチングマスクパターンの膜厚が大幅に減少してしまった。これは、エッチングストッパ膜に対するCl
2ガスを用いたドライエッチングのエッチングレートが、実施例1のエッチングストッパ膜2に比べて大幅に小さいことに起因するものであった。
【0093】
エッチングマスクパターンの膜厚が大幅に減少してしまったため、その後に行われた透光性基板に基板掘り込み部を形成するためのフッ素系ガスによるドライエッチング時に、基板掘り込み部を形成する途中で、レジストパターンに保護されていないエッチングマスクパターンのパターンエッジ部分が消失してしまった。それに伴い、パターン形成用薄膜のパターンエッジ部分もエッチングされてしまった。このため、出来上がった比較例1の基板掘り込みタイプのレベンソン型位相シフトマスクは、薄膜パターンのエッジ部分の欠落が発生していた。
【0094】
この比較例1のレベンソン型位相シフトマスクを用いて、実施例1と同様に、転写対象物である半導体ウェハ上のレジスト膜に対して、転写パターンを露光転写する工程を行った。得られた半導体ウェハ上の回路パターンを透過型電子顕微鏡(TEM)で確認したところ、特に、L&Sパターン部分で短絡箇所や断線箇所が多発しており、形成された回路パターンは所定の仕様を満たしていなかった。