特許第5690027号(P5690027)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5690027塩素化塩化ビニル系樹脂の製造方法及び製造装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5690027
(24)【登録日】2015年2月6日
(45)【発行日】2015年3月25日
(54)【発明の名称】塩素化塩化ビニル系樹脂の製造方法及び製造装置
(51)【国際特許分類】
   C08F 8/22 20060101AFI20150305BHJP
   C08F 14/00 20060101ALI20150305BHJP
【FI】
   C08F8/22
   C08F14/00 510
【請求項の数】14
【全頁数】30
(21)【出願番号】特願2014-540679(P2014-540679)
(86)(22)【出願日】2014年3月26日
(86)【国際出願番号】JP2014058560
【審査請求日】2014年8月20日
(31)【優先権主張番号】特願2013-74470(P2013-74470)
(32)【優先日】2013年3月29日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】小原 大知
(72)【発明者】
【氏名】田所 正
(72)【発明者】
【氏名】稲岡 哲男
(72)【発明者】
【氏名】堀内 清史
【審査官】 藤本 保
(56)【参考文献】
【文献】 特公昭52−015638(JP,B1)
【文献】 特開昭63−145305(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F8/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の槽において、塩化ビニル系樹脂の懸濁液に塩素を導入する工程と、
前記塩素が導入された懸濁液を第1の槽から第2の槽へ移送し、当該第2の槽において、前記懸濁液に対して紫外線を照射する工程と、を有することを特徴とする塩素化塩化ビニル系樹脂の製造方法。
【請求項2】
前記第1の槽内は、加圧されていることを特徴とする請求項1に記載の塩素化塩化ビニル系樹脂の製造方法。
【請求項3】
前記第1の槽内の圧力は、0.02〜2MPaであることを特徴とする請求項2に記載の塩素化塩化ビニル系樹脂の製造方法。
【請求項4】
前記第2の槽において紫外線照射された懸濁液を、前記第1の槽へ循環させることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の塩素化塩化ビニル系樹脂の製造方法。
【請求項5】
さらに、前記第2の槽から取り出された懸濁液に塩素を導入する工程を含むことを特徴とする請求項4に記載の塩素化塩化ビニル系樹脂の製造方法。
【請求項6】
前記第2の槽から第1の槽へ循環させるとき、前記懸濁液を、前記第1の槽の気相部又は気液界面近傍へ導入することを特徴とする請求項4又は5に記載の塩素化塩化ビニル系樹脂の製造方法。
【請求項7】
前記懸濁液に対して紫外線を照射する工程は、紫外線LED、有機EL、無機EL及び紫外線レーザーからなる群より選択される少なくとも1種の光源を用いて行われることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の塩素化塩化ビニル系樹脂の製造方法。
【請求項8】
塩化ビニル系樹脂の懸濁液に塩素を導入するための第1の槽と、
前記第1の槽から懸濁液を導入し、塩素化するための第2の槽と、を備え、
前記第2の槽は、前記懸濁液に対して紫外線を照射するための光源を備えることを特徴とする塩素化塩化ビニル系樹脂の製造装置。
【請求項9】
前記第1の槽を加圧するための加圧手段を備えることを特徴とする請求項8に記載の塩素化塩化ビニル系樹脂の製造装置。
【請求項10】
前記第1の槽内の圧力は、0.02〜2MPaに設定されていることを特徴とする請求項9に記載の塩素化塩化ビニル系樹脂の製造装置。
【請求項11】
前記第2の槽において紫外線照射された懸濁液を、前記第1の槽へ循環させる循環手段を備えることを特徴とする請求項8〜10のいずれか1項に記載の塩素化塩化ビニル系樹脂の製造装置。
【請求項12】
前記第2の槽から取り出された懸濁液に塩素を導入する第2の塩素導入手段を備えることを特徴とする請求項11に記載の塩素化塩化ビニル系樹脂の製造装置。
【請求項13】
前記循環手段は、前記懸濁液を前記第1の槽の気相部又は気液界面近傍へ導入するものであることを特徴とする請求項11又は12に記載の塩素化塩化ビニル系樹脂の製造装置。
【請求項14】
前記光源は、紫外線LED、有機EL、無機EL及び紫外線レーザーからなる群より選択される少なくとも1種の光源であることを特徴とする請求項8〜13のいずれか1項に記載の塩素化塩化ビニル系樹脂の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩素化塩化ビニル系樹脂の製造方法及び製造装置に関し、より詳細には、光塩素化法を用いた塩素化塩化ビニル系樹脂の製造方法及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
塩素化塩化ビニル系樹脂の耐熱温度は、塩素化によって塩化ビニル系樹脂の耐熱温度よりも高くなる。そのため、塩素化塩化ビニル系樹脂は、耐熱パイプ、耐熱工業板、耐熱フィルム及び耐熱シートなどの種々の分野で使用されている。
【0003】
塩素化塩化ビニル系樹脂は、塩化ビニル系樹脂粒子を水性媒体中に懸濁させて得られた水性懸濁液に、塩素を供給しつつ、塩化ビニル系樹脂を塩素化することによって製造されることが一般的である。通常、塩素化を光塩素化法で行う場合、塩素ラジカルを生成させるために、水銀灯による紫外線照射が行われている(特許文献1)。
【0004】
また、ポリオレフィン粉粒体の水性懸濁液に、ラジカルが発生しない条件で塩素を溶解させる工程により、塩素を粉粒体内部に浸透させ、次いで加熱又は/及び光照射により塩素化する。この二つの工程を交互に繰り返し行うことにより、同一反応槽内において、塩素化ポリオレフィン粉粒体を得る方法が報告されている(特許文献2)。
【0005】
上記製造方法では、図7に示すように、塩化ビニル系樹脂の水性懸濁液105中にガラス管101で保護した水銀灯102を挿入することにより塩素化反応を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】日本国公開特許公報「特開平10−279627号公報」
【特許文献2】日本国公開特許公報「特開平6−100618号公報」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した塩素化塩化ビニル系樹脂の製造方法では、塩化ビニル系樹脂を分散させた懸濁液へ塩素を供給するに際して、当該懸濁液中への塩素溶解量を向上させるために、反応器中を加圧することが一般的である。このとき、反応器中の内部圧力を高くし過ぎると、水銀灯を覆うガラス管が破損してしまうという課題がある。一方、ガラス管を厚くすれば耐圧性能は向上するが、ガラス管の厚みが増すと水銀灯から照射される紫外線がガラスに吸収され、反応効率が低下するという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明者らは鋭意検討した結果、塩素を導入する塩素導入槽と紫外線照射による光塩素化反応を行うための槽とを分離したうえで、塩素導入槽の内圧を高くすることにより、懸濁液中への塩素溶解量を増加させることができ、その結果、塩素化塩化ビニル系樹脂の製造効率等を向上させ得ることを見出し、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明は、以下の発明を包含する。
【0009】
第1の槽において、塩化ビニル系樹脂の懸濁液に塩素を導入する工程と、前記塩素が導入された懸濁液を第1の槽から第2の槽へ移送し、当該第2の槽において、前記懸濁液に対して紫外線を照射する工程と、を有する塩素化塩化ビニル系樹脂の製造方法。
【0010】
塩化ビニル系樹脂の懸濁液に塩素を導入するための第1の槽と、前記第1の槽から懸濁液を導入し、塩素化するための第2の槽と、を備え、前記第2の槽は、前記懸濁液に対して、紫外線を照射するための光源を備える塩素化塩化ビニル系樹脂の製造装置。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る塩素化塩化ビニル系樹脂の製造方法又は塩素化塩化ビニル系樹脂の製造装置によれば、塩化ビニル系樹脂の懸濁液中への塩素溶解量が向上し、例えば、塩素化塩素系ビニル系樹脂を製造する際の反応効率が向上するという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態に係る塩素化塩化ビニル系樹脂の製造装置を模式的に示す図である。
図2】本発明の他の一実施形態に係る塩素化塩化ビニル系樹脂の製造装置を模式的に示す図である。
図3】本発明の一実施形態に係る塩素化塩化ビニル系樹脂の製造装置における循環方式を模式的に示す図である。
図4】本発明の一実施形態に係る塩素化塩化ビニル系樹脂の製造装置における紫外線照射のための第2の槽の一例を模式的に示す図である。
図5】本発明の一実施形態に係る塩素化塩化ビニル系樹脂の製造装置における紫外線照射のための第2の槽の他の一例を模式的に示す図である。
図6】本発明の一実施形態に係る塩素化塩化ビニル系樹脂の製造装置における紫外線照射のための第2の槽の他の一例を模式的に示す図である。
図7】従来の塩素化塩化ビニル系樹脂の製造装置を模式的に示す図である。
図8】参考例1で用いた紫外線LED光源装置及び反応器を含む塩素化塩化ビニル系樹脂の製造装置の模式的側断面図である。
図9】参考例で用いる一例の紫外線LEDの発光スペクトルを示す図である。
図10】参考例2で用いた紫外線LED光源装置の模式的側断面図である。
図11】参考例2で用いた紫外線LED光源装置及び反応器を含む塩素化塩化ビニル系樹脂の製造装置の模式的側断面図である。
図12】参考例2で用いた紫外線LED光源装置及び反応器を含む塩素化塩化ビニル系樹脂の製造装置の模式的上面図である。
図13】参考例3で用いた紫外線LED光源装置の模式的側断面図である。
図14】参考例3で用いた紫外線LED光源装置及び反応器を含む塩素化塩化ビニル系樹脂の製造装置の模式的側断面図である。
図15】参考例で用いた一例の紫外線LEDの発光スペクトルを示す図である。
図16】参考例5で用いた紫外線LED光源装置及び反応器を含む塩素化塩化ビニル系樹脂の製造装置の模式的側断面図である。
図17】実施例で用いた紫外線LED光源装置及び反応器を含む塩素化塩化ビニル系樹脂の製造装置を模式的に示す図である。
図18図17の装置の一部分を拡大した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施の一形態について、以下に詳細に説明する。なお、本明細書中に記載された学術文献及び特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。なお、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A〜B」は、「A以上(Aを含みかつAより大きい)B以下(Bを含みかつBより小さい)」を、「%」は「質量%」を、「部」は「質量部」を、それぞれ意味する。
【0014】
本発明に係る塩素化塩化ビニル系樹脂の製造方法(以下、単に本発明に係る製造方法と称する。)は、(i)第1の槽において、塩化ビニル系樹脂の懸濁液に塩素を導入する工程と、(ii)前記塩素が導入された懸濁液を第1の槽から第2の槽へ移送し、当該第2の槽において、前記懸濁液に対して紫外線を照射する工程と、を有するものであればよく、その他の具体的な工程、条件、材料、設備等は特に限定されない。
【0015】
すなわち、本発明に係る製造方法は、塩化ビニル系樹脂の懸濁液に塩素を供給する槽と、塩素を含有する塩化ビニル系樹脂の懸濁液に対して紫外線を照射して光塩素化反応を行う槽とを分離したことに特徴がある。前記構成により、塩素を導入するための第1の槽の内圧を上げることができる。このため、塩化ビニル系樹脂の懸濁液中への塩素溶解量が向上し、例えば、塩素化塩素系ビニル系樹脂を製造する際の反応効率が向上する。
【0016】
さらに、光塩素化反応の際に熱が発生することから、塩素導入と光照射を同時に実施していた従来の製造法では槽を除熱する必要があった。しかし、本発明に係る製造方法では、塩素導入のための第1の槽と光塩素化反応のための第2の槽とが分離されている構成であるため、塩素導入のための第1の槽を除熱する必要がなくなり、除熱に関する設備費を低減させることができる。例えば、第1の槽を除熱する以外の懸濁液の除熱方法としては、配管で除熱又は冷却を行う方法を挙げることができる。配管での除熱又は冷却方法についても特に限定されないが、例えば、冷却ジャケットを備える配管を用いる方法、あるいは配管の「放冷」にて実施できる。
【0017】
また、紫外線を照射するための光源としては、紫外線光源が使用でき、特に限定されないが、特に、単一波長の紫外線を照射できるものであることが好ましい。例えば、水銀灯、紫外線LED、有機EL、無機EL及び紫外線レーザーからなる群より選択される少なくとも1種の光源を用いることが好ましい。より好ましくは、紫外線LED、有機EL、無機EL及び紫外線レーザーからなる群より選択される少なくとも1種の光源を用いることが好ましい。
【0018】
また、本発明には、塩化ビニル系樹脂の懸濁液に塩素を導入するための第1の槽と、前記第1の槽から懸濁液を導入し、塩素化するための第2の槽と、を備え、前記第2の槽は、前記懸濁液に対して、紫外線を照射するための紫外線LED、有機EL、無機EL及び紫外線レーザーからなる群より選択される少なくとも1種の光源を備える塩素化塩化ビニル系樹脂の製造装置も含まれる(以下、単に本発明に係る製造装置と称する。)。本発明に係る製造装置によれば、本発明に係る製造方法を実施できる。なお、以下の実施形態では、光源として紫外線LEDを用いたものを一例として挙げるが、光源はこれに限定されないことは上述の通りである。
【0019】
以下、図面に基づき、本発明に係る製造方法及び製造装置について詳説する。図1に示すように、本発明に係る製造方法に利用可能な塩素化塩化ビニル系樹脂の製造装置11は、塩素ガスを導入するための塩素導入部1、塩化ビニル系樹脂の懸濁液12に塩素を導入するための第1の槽2、塩素が導入された懸濁液を第1の槽2から第2の槽6へ移送するためのスラリー抜出部3、第1の槽2から取り出された懸濁液の圧力を減圧するための減圧弁4、懸濁液に対して紫外線を照射し光塩素化反応を行うための第2の槽6、第2の槽6から第1の槽2へ懸濁液を循環させるためのスラリー循環ライン7、第2の槽6から取り出された懸濁液に対して塩素ガスを導入するための塩素導入部8、懸濁液を第2の槽6から第1の槽2へ移送するためのスラリー循環ポンプ5、第1の槽2において懸濁液12を撹拌するための撹拌部9を備えるものである。
【0020】
第1の槽2は、密閉可能な耐圧容器であればよく、特に制限なく種々の反応容器を利用でき、具体的な構成については限定されない。例えば、公知の塩素化塩化ビニル系樹脂を製造するための槽を好適に利用できる。第1の槽2には、塩化ビニル系樹脂を分散させた懸濁液12が入れられており、第1の槽2内に配置された撹拌部9によって撹拌される。撹拌されている懸濁液12には、塩素導入部1から塩素ガスが供給される。第1の槽2に配置された撹拌部9は、特に制限されず、撹拌翼等を利用できる。例えば、撹拌翼としては、プロペラ翼などの軸流型であってもよいし、パドル翼、タービン翼などの幅流型であってもよい。
【0021】
さらに、本製造装置11は、第1の槽2を加圧するための加圧部(加圧手段)を備えることが好ましい。これにより、第1の槽2内を加圧することができる。本製造装置11では、塩素導入部1が加圧部として機能する。つまり、塩素導入部1が塩素ガスを第1の槽2へ導入することにより、第1の槽2内部の圧力が高まる。
【0022】
加圧により、懸濁液12中への塩素溶解量が向上し、例えば、塩素化塩素系ビニル系樹脂を製造する際の反応効率を向上させ得る。第1の槽2における圧力は、特に限定されないが、例えば、0.02〜2.00MPaを挙げることができる。また、0.04〜2.00MPaであることが好ましく、0.05〜2.00MPaであることが好ましく、0.06〜1.50MPaであることがより好ましく、0.08〜1.20MPaであることがさらに好ましい。加えて0.10〜1.00MPaであることがより好ましく、0.12〜0.50MPaであることが特に好ましい。前記の範囲内であれば、塩素化の反応効率を向上させ得る。
【0023】
塩素が供給された懸濁液12は、第1の槽2の槽底部に設けられたスラリー抜出部3より取り出され、懸濁液12の圧力を減圧するための減圧弁4を経由して、第2の槽6へ移送される。減圧弁4は、種々の一般的な減圧弁を用いることができ、特に限定されない。
【0024】
第2の槽6へ導入された懸濁液12は、紫外線が照射され光塩素化反応により塩素化される。その後、第2の槽6から導出された懸濁液12は、スラリー循環ライン7、スラリー循環ポンプ5を経由して、第1の槽2へ戻される。このとき、第2の槽6では、光塩素化反応により懸濁液中の塩素が消費されている。このため、第2の槽6から取り出された懸濁液に対して、塩素導入部8(第2の塩素導入手段)から塩素ガスを供給することが好ましい。塩素導入部8は、第2の槽6から取り出された懸濁液が第1の槽2へ戻される前に、当該懸濁液に対して塩素ガスを導入するものであることが好ましい。また、塩素導入部8は、第2の槽6から取り出された懸濁液に対して、スラリー循環ライン7内が負圧とならないように、換言すれば、スラリー循環ライン7内が負圧以上となるように、塩素ガスを供給するものであることが好ましい。
【0025】
このように、本製造装置11は、第2の槽6において紫外線照射された懸濁液を、第1の槽2へ循環させる循環部(循環手段)を備えることが好ましく、本発明に係る製造方法でいえば、第2の槽6において紫外線照射された懸濁液を、第1の槽2へ循環させることが好ましい。なお、本実施形態では、循環部(循環手段)として、スラリー循環ポンプ5、スラリー循環ライン7等を挙げることができる。本構成により、塩素の供給と紫外線照射による塩素化とを繰り返し行うことができるため、容易に生産できる。
【0026】
スラリー循環ポンプ5は、安定した一定量の懸濁液を第1の槽2へ循環させることができるものであればよく、特に限定されないが、例えば、ギアポンプ又はスネークポンプであることが好ましい。ポンプ材質としては、例えば、セラミック、チタンパラジウム等を用いることができる。なお、ポンプ材質は、対湿潤塩素、対塩化水素を満たす材質であることが好ましい。
【0027】
また、図2に示すように、本製造装置11において、第1の槽2を覆うジャケット部10を備える構成であってもよい。第1の槽2を覆うジャケット部10は、第1の槽2の内温を制御する機能を有するものである。例えば、反応器の内温を冷却するためのジャケットを例示できる。冷却用ジャケットにより、除熱量と発熱量とのバランスを取ることで、第1の槽2の内温をコントロールできる。
【0028】
また、第2の槽6は、図1では1つのみ図示しているが、設置数は特に限定されず、複数の第2の槽6を設けてもよい。第2の槽6を複数設ける場合、直列に設置してもよく、又は並列して設置してもよいが、反応効率を考慮すると、並列に設置することが好ましい。
【0029】
第2の槽6から第1の槽2へ循環させるとき、懸濁液12を、第1の槽2内部で効率よく混合させるように、循環させることが好ましい。例えば、第2の槽6から第1の槽2へ循環させるとき、懸濁液12を、第1の槽2の気相部又は液面近傍へ導入する方法を挙げることができる。換言すれば、循環部は、懸濁液12を第1の槽2の気相部又は気液界面近傍へ導入するものであることが好ましい。この構成の一例について図3を用いて説明する。なお、以下の例示に限定されるものではなく、第2の槽6から第1の槽2へ循環させるとき、懸濁液12を、第1の槽内部で効率よく混合させることが目的であり、当該目的の範囲内であれば、どのような箇所に懸濁液12を循環させてもよいことを念のため付言しておく。
【0030】
図3に示すように、第2の槽6から第1の槽2へ懸濁液12を戻す流路として、(1)第1の槽2の槽底部に戻すルート71、(2)第1の槽2の槽中央部に戻すルート72、(3)第1の槽2の気液界面13近傍に戻すルート73、及び(4)第1の槽2の気相部14に戻すルート74、の大きく4つの流路が考えられる。これら4つの流路のうち、懸濁液12を気相部14に戻す場合、第2の槽6から循環した懸濁液12が、第1の槽2内において最もよく混合されることになることから特に好ましく、次いで気液界面13近傍に懸濁液12を戻すことが好ましい。塩素が供給された懸濁液12を第2の槽6へ再度移送するとき、第1の槽2の槽底部に設けられたスラリー抜出部3より取り出される構造上、第2の槽6から循環する懸濁液12を、第1の槽2の気相部14又は気液界面13近傍へ導入することにより、塩化ビニル系樹脂の内部へ十分に塩素を供給することができる。
【0031】
第2の槽6は、懸濁液12を流通させる透明配管と、当該透明配管に対して紫外線を照射する光源と、を備えるものであることが好ましい。透明配管は1本であっても、複数であってよく、本数については特に限定されない。また、径の大きさや形状等についても種々の透明配管を用いることができる。透明配管の材料についても、紫外線を透過させ、塩素化塩化ビニル系樹脂の製造条件(耐塩素性、耐酸性等)に耐え得るものであればよく、種々の透明配管を用いることができ、特に限定されないが、例えばガラス配管が好ましい。
【0032】
前記光源は、透明配管内を流通する塩化ビニル系樹脂の懸濁液に対して紫外線を照射可能に配置されていればよく、具体的な構成や設置位置については特に限定されない。例えば、透明配管の上部、下部、側方部、又はこれらを組み合わせた位置に光源を配置することにより、透明配管内を流通する塩化ビニル系樹脂の懸濁液に紫外線を照射して塩素化を行うことができる。
【0033】
図4に基づき、さらに第2の槽6の具体的な構成の一例を説明する。第2の槽6は、紫外線LED素子21を複数備える紫外線照射パネル20、塩化ビニル系樹脂の懸濁液12を流通させる透明配管22、を備えるものである。ここで、図4中、紫外線照射パネル20を1つのみ図示しているが、透明配管22を挟むように、もう1つの紫外線照射パネル20を対向させて設置させることが好ましい。図4では、説明の便宜のため、手前側の紫外線照射パネル20の記載を省略している(図5図6も同様である)。
【0034】
透明配管22は、より長時間の紫外線照射を達成するために、2つの屈曲部を備えたS字形状である。懸濁液12は、透明配管22のスラリー入口23から流入し、透明配管内22を流通する間、紫外線照射パネル20から紫外線を照射される。その後、スラリー出口24を介して第2の槽6より出る。
【0035】
第2の槽6が備える透明配管の他の実施形態の一例として、配管内部にスタティックミキサーを備えるものを挙げることができる。透明配管内部にスタティックミキサーを設けることにより、配管内部を流通する塩化ビニル系樹脂の懸濁液を混合しながら、紫外線を照射し塩素化を行うことができるため、より反応効率を高めることができる。スタティックミキサーの具体的な構成については特に限定されず、種々の配管に設置されるものを利用できる。
【0036】
かかる実施態様の第2の槽の一例について、図5に基づき具体的に説明する。第2の槽6’は、紫外線LED素子21を複数備える紫外線照射パネル20、塩化ビニル系樹脂の懸濁液を流通させる透明配管25、を備えるものである。透明配管25は内部にスタティックミキサーを備えるものである。図5に示すように、スタティックミキサーを備える透明配管25によれば、スラリー入口23から流入した懸濁液12を撹拌しながら紫外線を照射できることから、塩素化反応を効率よく行うことができる。なお、上述したように、図5中、透明配管25を挟むように、もう1つの紫外線照射パネル20を対向させて設置させる構成であってもよい。
【0037】
また、第2の槽の他の一例として、塩化ビニル系樹脂の懸濁液を流通させる金属配管であってさらに透明窓を有する金属配管と、当該透明窓に対して紫外線を照射する光源と、を備えるものであってもよい。金属配管は1本であっても、複数であってよく、本数については特に限定されない。また、材質、径の大きさや形状等についても種々の金属配管を用いることができる。透明窓の大きさや形状についても特に限定されず、紫外線を照射し得るものであればよい。透明窓の材料についても限定されないが、紫外線を透過させ、塩素化塩化ビニル系樹脂の製造条件(耐塩素性、耐酸性等)に耐え得るものであればよく、種々の透明窓を用いることができ、特に限定されないが、例えばガラスで形成されるものが好ましい。
【0038】
また、前記光源は、金属配管内を流通する塩化ビニル系樹脂の懸濁液に対して、透明窓を介して紫外線を照射可能に配置されていればよく、具体的な構成については特に限定されない。例えば、透明窓の上部、下部、側方部、又はこれらを組み合わせた位置に光源を配置することにより、金属配管内を流通する塩化ビニル系樹脂の懸濁液に、透明窓を介して紫外線を照射して塩素化を行うことができる。
【0039】
図6に基づき、かかる態様の第2の槽6”の構成の一例を説明する。第2の槽6”は、紫外線LED素子21を複数備える紫外線照射パネル20、塩化ビニル系樹脂の懸濁液を流通させる金属配管26、を備えるものである。金属配管26は、紫外線照射用の透明窓27を備えるものである。図6に示すように、透明窓27を備える金属配管26によれば、スラリー入口23から流入した懸濁液12に対して、透明窓27を介して紫外線を照射することができるため、塩素化反応を行うことができる。なお、図6中、金属配管26の透明窓27と紫外線照射パネル20とは対向していないが、これは説明の便宜のためであり、実際は、金属配管26の透明窓27と、紫外線照射パネル20とは、対向して設置されている。また、透明窓27に対して効果的に紫外線を照射できるように、複数の紫外線照射パネル20を設置してもよい。
【0040】
また、金属配管26の内部に、スタティックミキサーを設けてもよい。この場合、金属配管26内の懸濁液を撹拌しながら紫外線を照射することができることから、塩素化反応を効率よく行うことができる。
【0041】
前記の構成のように、第2の槽において、紫外線を照射するための光源を(槽外に)外部設置することによって、例えば、光源として紫外線LEDを用いる場合、当該紫外線LEDの冷却が容易となる。さらに、紫外線LEDの保守点検等のメンテナンスも行い易く、設備の長期間の使用が可能となる。
【0042】
光源については、紫外線を照射可能なものであれば特に限定されないが、本発明者らは、紫外線LED、有機EL、無機EL及び紫外線レーザーからなる群から選ばれる少なくとも1種の光源を用いて、好ましくは紫外線LEDを用いて塩化ビニル系樹脂と塩素に紫外線を照射し、塩化ビニル系樹脂を塩素化することによって、得られた塩素化塩化ビニル系樹脂の加熱成形時の初期着色の抑制及び/又は熱安定性の向上が達成されることを見出し、本発明の好ましい一実施形態を完成させるに至った。また、反応器内の撹拌性や、光源から塩化ビニル系樹脂への照射範囲が同様であれば、紫外線LED、有機EL、無機EL及び紫外線レーザーからなる群から選ばれる少なくとも1種の光源を用いて、紫外線照射を行うことで、塩化ビニル系樹脂を塩素化する工程における総消費電力量が小さくなり、生産コストが低減するため、好ましい。あるいは、紫外線LED、有機EL、無機EL及び紫外線レーザーからなる群から選ばれる少なくとも1種の光源は、特に紫外線LEDは、水銀灯に比べて、長期使用による光度の低下が抑制されるため、光源の更新回数が少なくなり、塩素化塩化ビニル系樹脂の生産性が向上するため、好ましい。あるいは、紫外線LED、有機EL、無機EL及び紫外線レーザーからなる群から選ばれる少なくとも1種の光源は、総消費電力量が同様の場合、水銀灯に比べて、反応時間が短くなるため、好ましい。本発明において、総消費電力量は、光源の電流値をI(A)とし、光源の電圧値をV(V)とし、塩素化反応時間をt(h)とした場合、下記数式1によって算出する。
【0043】
総消費電力量(W・h)=I×V×t×(光源の個数) (1)
紫外線LEDとしては、紫外線を照射することができるLEDであればよく、特に限定されない。例えば、紫外線LEDには、AlN、AlGaN、AlInGaNなどの窒化物半導体材料を発光層に用いた半導体発光素子、又は、ダイヤモンド薄膜を発光層に用いた半導体発光素子などが用いられる。好ましくは、ピーク波長が1つの紫外線LEDを用いる。また、紫外線LEDの照射する紫外線のピーク波長は、発光層の各組成の割合により調整することができる。例えば、紫外線LEDの発光層に窒化物半導体材料が用いられる場合、Alの含有量が増えるにしたがって、紫外線のピーク波長が短くなる。紫外線の照射には、紫外線LEDの他に、紫外線を照射できる有機EL、無機EL、紫外線レーザーなどの光源を用いることができる。中でも、光源としては、紫外線LEDを用いることが好ましい。有機EL、無機EL、紫外線レーザーなどの光源も、紫外線LEDが照射する紫外線と同様のピーク波長及び/又は波長範囲の紫外線を照射することが好ましい。紫外線LEDが照射する紫外線のピーク波長や波長範囲については、後述のとおりである。
【0044】
紫外線LEDの照射する紫外線のピーク波長は、加熱成形時の初期着色の抑制及び熱安定性の向上の観点から、290nm〜400nmであることが好ましい。
【0045】
紫外線LEDの照射する紫外線の波長範囲は、260nm〜430nmであることが好ましい。
【0046】
また、熱安定性の観点から、波長範囲が300nm〜430nmであり、ピーク波長が350nm〜400nmである紫外線を照射する紫外線LEDを用いることが好ましい。
【0047】
本発明において、塩素化反応効率は、同様の組成の塩化ビニル系樹脂を用いて同様の塩素含有量の塩素化塩化ビニル系樹脂を製造する際には、必要な総光量及び/又は反応時間で評価することができる。必要な総光量が少ないほど、塩素化反応効率が高いことになる。また、反応時間が短いほど、塩素化反応効率が高いことになる。本発明において、「総光量」は、以下のように測定・算出するものである。光量測定器(TOPCON社製、品番「UVR−2」)にセンサー(TOPCON社製、品番「UD−36」)を装着し、塩素化反応を行う際に反応器内に存在する塩化ビニル系樹脂と光源の距離が最も近くなる位置で、光源から照射される紫外線の単位面積あたりの光量を測定する。また、塩素化反応を行う際に反応器内に存在する塩化ビニル系樹脂と光源の距離が最も近くなる位置で、光源から照射される紫外線が塩素化ビニル系樹脂にあたる照射面積を測定する。上記の測定で得られる照射面積の値に単位面積あたりの光量の値を乗じた値を総光量とする。例えば、塩素化塩化ビニル系樹脂の製造に図4図6に示す第2の槽6を用いる場合、透明配管22、透明配管25、又は金属配管26(透明窓)における任意の内壁の位置で単位面積あたりの光量及び照射面積を測定すればよい。あるいは、透明配管22、透明配管25、又は金属配管26(透明窓)において、紫外線LEDにより紫外線を照射する任意の外壁の位置で単位面積あたりの光量及び照射面積を測定してもよい。なお、前記において、単位面積あたりの光量と照射面積の測定は、空気雰囲気下、かつ透明配管又は金属配管が空の状態で行うこととする。
【0048】
塩化ビニル系樹脂の塩素化に用いられる紫外線LEDの個数は、単数でもよいし、複数でもよい。複数の紫外線LEDが用いられる場合、照射する紫外線のピーク波長が同じである紫外線LEDがそれぞれ組み合わされて用いられてもよいし、照射する紫外線のピーク波長が異なる紫外線LEDがそれぞれ組み合わされて用いられてもよい。ここで、「紫外線LED」は、紫外線LED素子、複数の紫外線LED素子を有する紫外線LED光源装置の両方を指す。
【0049】
本発明において、塩化ビニル系樹脂の懸濁液は、塩化ビニル系樹脂を水性媒体に懸濁させて得ることができる。例えば、水性媒体として水を用い、塩化ビニル系樹脂と水を混合して塩化ビニル系樹脂の水性懸濁液を得ることができる。
【0050】
塩素化塩化ビニル系樹脂の原料として使用される塩化ビニル系樹脂は、塩化ビニル単量体の単独重合体、又は、塩化ビニル単量体と他の共重合可能な単量体との共重合体を用いることができる。他の共重合可能な単量体としては、特に限定されないが、例えば、エチレン、プロピレン、酢酸ビニル、塩化アリル、アリルグリシジルエーテル、アクリル酸エステル、ビニルエーテルなどが挙げられる。
【0051】
塩化ビニル単量体の単独重合、又は、塩化ビニル単量体と他の共重合可能な単量体の共重合の際には、分散剤及び油溶性重合開始剤などが用いられる。なお、上記重合には、重合調整剤、連鎖移動剤、pH調整剤、帯電防止剤、架橋剤、安定剤、充填剤、酸化防止剤、スケ−ル防止剤などがさらに用いられてもよい。
【0052】
分散剤には、例えば、部分ケン化ポリ酢酸ビニル、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースなどが用いられる。油溶性重合開始剤には、例えば、ラウロイルパーオキサイド、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシネオデカノエート、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、α,α’−アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリルなどが用いられる。
【0053】
塩化ビニル系樹脂は、特に限定されないが、平均粒子径が0.1〜350μmであることが好ましく、より好ましくは80〜200μmである。本発明において、塩化ビニル系樹脂の平均粒子径はJIS K0069に従って測定する。
【0054】
本発明において、第2の槽が備える光源によって紫外線が照射される、この紫外線照射の開始によって、塩化ビニル系樹脂の塩素化反応が開始する。
【0055】
水性懸濁液中の塩化ビニル系樹脂は所望の塩素含有量になるまで塩素化される。塩素化反応は、紫外線の照射を終了することによって停止する。塩素化反応が停止した後、窒素などによって塩素化塩化ビニル系樹脂中の未反応塩素を追い出し、塩素化塩化ビニル系樹脂のTg(ガラス転移温度)以下の温度の温水を用いて、塩素化塩化ビニル系樹脂中の残存塩酸を除去する。その後、脱水、乾燥工程を経て、塩素化塩化ビニル系樹脂が得られる。
【0056】
生産性、水性懸濁液の粘度安定性及び撹拌時の均一混合性の観点から、水性懸濁液中の塩化ビニル系樹脂の濃度は、10重量%〜40重量%であることが好ましく、20重量%〜35重量%であることがさらに好ましい。
【0057】
第1の槽に塩素を供給する場合、塩素は、気体状及び液体状のどちらであっても良いが、取扱いの容易さの観点から、気体状であることが好ましい。塩素供給方法は、水性懸濁液中に、塩素を供給できる方法であればよく、特に限定されない。例えば、塩素供給方法には、塩素化反応開始前に初期一括で塩素を仕込む方法、塩素化反応中に断続的に塩素を供給する方法、塩素化反応中に連続で塩素を供給する方法などがある。上述したとおり、本発明において、塩素化反応は、紫外線照射を開始することで開始され、紫外線照射を終了することで終了する。
【0058】
塩素化反応時の最高反応温度は、特に限定されることはないが、90℃以下であることが好ましく、88℃以下であることがより好ましく、86℃以下であることがさらに好ましい。最高反応温度が90℃以下のとき、塩化ビニル系樹脂の劣化が抑制されるとともに、得られる塩素化塩化ビニル系樹脂の着色が抑制される。塩素化反応時の最低反応温度は、水性懸濁液の撹拌翼による流動を容易にする観点から、0℃を超えることが好ましい。また、最低反応温度は、反応時間を短縮する観点から、30℃以上であることが好ましく、50℃以上であることがより好ましい。
【0059】
前記のように、塩素が導入された塩化ビニル系樹脂の懸濁液を、第2の槽内において、紫外線LED、有機EL、無機EL及び紫外線レーザーからなる群から選ばれる少なくとも1種の光源を用いて紫外線を照射し、塩化ビニル系樹脂を塩素化させて得られた塩素化塩化ビニル系樹脂は、加熱成形時の初期着色の抑制及び熱安定性の向上の少なくとも一方が達成される。好ましくは、上記塩素化塩化ビニル系樹脂は、加熱成形時の初期着色が抑制され、かつ熱安定性も向上している。
【0060】
本発明において、塩素化塩化ビニル系樹脂の加熱成形時の初期着色は、塩素化塩化ビニル系樹脂を加熱成形して作製したサンプルを用い、JIS K7373に準拠してイエローインデックスを測定することで評価する。イエローインデックスの値が低いほど加熱成形時の初期着色が抑制されていること、すなわち加熱成形時の初期着色性が良好であることを意味する。また、塩素化塩化ビニル系樹脂の熱安定性は、塩素化塩化ビニル系樹脂を用いて作製したサンプル(シート)を用い、200℃のオーブンにて加熱し、シートが黒化する、すなわちシートのL値(明度)が20以下になるまでの時間を測定することで評価する。黒化するまでの時間が長いほど熱安定性が高いことを意味する。また、塩素化塩化ビニル系樹脂の耐熱性は、JIS K7206に従って、B50法にて、ビカット軟化点を測定することで評価する。ビカット軟化点の値が高いほど耐熱性が高いことを意味する。
【0061】
また、本発明は、以下の発明を包含する。
【0062】
(1)第1の槽において、塩化ビニル系樹脂の懸濁液に塩素を導入する工程と、前記塩素が導入された懸濁液を第1の槽から第2の槽へ移送し、当該第2の槽において、前記懸濁液に対して紫外線を照射する工程と、を有する塩素化塩化ビニル系樹脂の製造方法。
【0063】
(2)前記第1の槽内は、加圧されている(1)に記載の塩素化塩化ビニル系樹脂の製造方法。
【0064】
(3)前記第1の槽内の圧力は、0.02〜2MPaである(2)に記載の塩素化塩化ビニル系樹脂の製造方法。
【0065】
(4)前記第2の槽において紫外線照射された懸濁液を、前記第1の槽へ循環させる(1)〜(3)のいずれかに記載の塩素化塩化ビニル系樹脂の製造方法。
【0066】
(5)さらに、前記第2の槽から取り出された懸濁液に塩素を導入する工程を含む(4)に記載の塩素化塩化ビニル系樹脂の製造方法。
【0067】
(6)前記第2の槽から第1の槽へ循環させるとき、前記懸濁液を、前記第1の槽の気相部又は気液界面近傍へ導入する(4)又は(5)に記載の塩素化塩化ビニル系樹脂の製造方法。
【0068】
(7)前記懸濁液に対して紫外線を照射する工程は、紫外線LED、有機EL、無機EL及び紫外線レーザーからなる群より選択される少なくとも1種の光源を用いて行われる(1)〜(6)のいずれかに記載の塩素化塩化ビニル系樹脂の製造方法。
【0069】
(8)塩化ビニル系樹脂の懸濁液に塩素を導入するための第1の槽と、前記第1の槽から懸濁液を導入し、塩素化するための第2の槽と、を備え、前記第2の槽は、前記懸濁液に対して紫外線を照射するための光源を備える塩素化塩化ビニル系樹脂の製造装置。
【0070】
(9)前記第1の槽を加圧するための加圧手段を備える(8)に記載の塩素化塩化ビニル系樹脂の製造装置。
【0071】
(10)前記第1の槽内の圧力は、0.05〜2MPaに設定されている(9)に記載の塩素化塩化ビニル系樹脂の製造装置。
【0072】
(11)前記第2の槽において紫外線照射された懸濁液を、前記第1の槽へ循環させる循環手段を備える(8)〜(10)のいずれかに記載の塩素化塩化ビニル系樹脂の製造装置。
【0073】
(12)前記第2の槽から取り出された懸濁液に塩素を導入する第2の塩素導入手段を備える(11)に記載の塩素化塩化ビニル系樹脂の製造装置。
【0074】
(13)前記循環手段は、前記懸濁液を前記第1の槽の気相部又は気液界面近傍へ導入するものである(11)又は(12)に記載の塩素化塩化ビニル系樹脂の製造装置。
【0075】
(14)前記光源は、紫外線LED、有機EL、無機EL及び紫外線レーザーからなる群より選択される少なくとも1種の光源である(8)〜(13)のいずれかに記載の塩素化塩化ビニル系樹脂の製造装置。
【0076】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。以下、参考例及び実施例を示し、本発明について更に詳細に説明するが、本発明はかかる参考例及び実施例のみに限定されるものではない。
【実施例】
【0077】
〔参考例〕
ここで、水銀灯(水銀ランプ)を光源として用いる替わりに、紫外線LED、有機EL、無機EL及び紫外線レーザーからなる群より選択される少なくとも1種の光源、具体的には紫外線LEDを光源として用いた場合の効果、即ち、光源として紫外線LEDを用いた場合の効果を、参考例として示す。下記参考例及び比較例において、「部」及び「%」は、特に断りが無い限り、重量基準である。
【0078】
(参考例1)
<塩素化塩化ビニル系樹脂の作製>
図8に示すように、紫外線LED光源装置100として、UV−LED光源ユニット(株式会社センテック製、型番「OX223」)を準備した。紫外線LED光源装置100は、ピーク波長が365nmである紫外線LED素子110(日亜化学工業株式会社製、品番「NC4U133」、順電流500mA、順電圧14.9V)を3個有している。
【0079】
参考例1で用いた紫外線LED素子の発光スペクトルは、図9に示す通りである。図9に示すように、紫外線LED素子110が照射する紫外線は、波長範囲が350nmから392nmであり、ピークが一つであり、ピーク波長が365nmであった。ここで、波長範囲は、上述した通り、発光スペクトルにおいて、ピーク波長の相対発光強度に対して2%以上の相対発光強度を有する波長の範囲を意味する。
【0080】
紫外線LED光源装置100を、縦20mm、横20mm、高さ300mmのアルミニウム製の支持体200に配置した後、内径75mm、高さ400mm、厚さ2.5mmの透明なガラス製の円筒状容器300(PYREX(登録商標))中に挿入した。
【0081】
60℃の温水400が入ったウォーターバス500中に、円筒状容器300に入れられた紫外線LED光源装置100と、厚さ3.6mmの透明なガラス製の容器である反応器600(容量3L、PYREX(登録商標))とを配置した。具体的には、ウォーターバス500に配置された紫外線LED光源装置100は、反応器600と対向し、3個の紫外線LED素子110が15mmの等間隔で高さ方向に1列に並べられた状態で配置されている。このとき、反応器600と紫外線LED素子110との距離Aは80mmとした。尚、ウォーターバス500には、温水400を所定の温度に維持するための熱源(図示せず)を設けた。
【0082】
次に、反応器600に、純水1.8kgと、K値が66.7、平均粒子径が170μm、見かけ密度が0.568g/mlである塩化ビニル系樹脂(株式会社カネカ製)0.2kgとを投入し、蓋620で反応器600内を密閉した。尚、塩化ビニル系樹脂のK値はJIS−K7367−2に準拠して求めた値であり、平均粒子径はJIS−K0069に従って求めた値であり、見かけ密度はJIS−K7365に従って求めた値である(以下の値についても同様)。そして、純水と塩化ビニル系樹脂との混合液である塩化ビニル系樹脂の水性懸濁液700を、反応器600のタービン翼610を用いて、回転数340rpmで攪拌した。
【0083】
反応器600内を真空脱気及び窒素置換した。その後、塩素ガスを塩化ビニル系樹脂の水性懸濁液700中に吹き込んだ。同時に、塩化ビニル系樹脂の水性懸濁液700をタービン翼610で攪拌しつつ、紫外線LED素子110から紫外線を塩化ビニル系樹脂の水性懸濁液700に照射して、塩素化反応を開始させた。尚、塩素ガスを吹き込むときは、反応器600内が減圧しないように注意した。塩素化反応中は、ウォーターバス500中の温水400の温度を60℃に維持した。
【0084】
塩素化塩化ビニル系樹脂の塩素含有量が66.3%に達したとき、紫外線LED素子110による紫外線の照射を終了して、塩素化反応を終了させた。塩素化塩化ビニル系樹脂の塩素含有量は、塩素化反応で副生する塩酸の中和滴定値により算出した(以下の値についても同様)。塩素化塩化ビニル系樹脂の塩素含有量が66.3%に達するまでに要する時間である塩素化反応の反応時間、即ち、紫外線の照射開始から照射終了までの時間は、96分間であった。そして、窒素ガスにて塩素化塩化ビニル系樹脂中の未反応の塩素を追い出した後、残存する塩酸を水洗して除去してから塩素化塩化ビニル系樹脂を乾燥させた。これにより、塩素化塩化ビニル系樹脂を得た。
【0085】
(比較例1)
支持体200で支持された1台の紫外線LED光源装置100に替えて、100Wの高圧水銀灯(東芝ライテック株式会社製、電流値1.3A、電圧値100V)を1灯用いた以外は、参考例1と同様にして、塩素化塩化ビニル系樹脂を得た。
【0086】
比較例1において、塩素化塩化ビニル系樹脂の塩素含有量が66.3%に達するまでに要する時間である塩素化反応の反応時間、即ち、紫外線の照射開始から照射終了までの時間は、120分間であった。
【0087】
参考例1及び比較例1で得られた塩素化塩化ビニル系樹脂の加熱成形時の初期着色、熱安定性測定及び評価は、以下の通りに行った。また、以下の通りにビカット軟化点を測定及び評価することにより、耐熱性の測定及び評価を行った。
【0088】
<加熱成形時の初期着色>
塩素化塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、メチルメタクリレート・ブタジエン・スチレン(MBS)樹脂(株式会社カネカ製、品番「カネエース(登録商標)B31」)を10重量部、液状の錫系安定剤(日東化成株式会社製、品番「TVS#8831」)を1重量部、粉末状の錫系安定剤(日東化成株式会社製、品番「TVS#8813」)を1重量部、滑剤であるステアリン酸(花王株式会社製、品番「ルナック(登録商標)S−90V」)を1重量部、及びポリエチレンワックス(三井化学株式会社製、品番「Hiwax220MP」)を0.3重量部配合した後、8インチロールにて、195℃で5分間混練し、厚さ0.6mmのシートを作製した。
【0089】
得られたシートを15枚重ね合わせたものを、鋼板にクロームメッキを施して鏡面仕上げしたフェロ板間に挟んだ後、200℃の条件下、圧力を3MPa〜5MPaの範囲に調整して10分間プレスし、厚さ5mmの板を作製した。得られた板のイエローインデックス(以下、「YI」ともいう)を、色差計(日本電色工業株式会社製、品番「ZE−2000」)を使用し、JIS−K7373に準拠して測定した。
【0090】
<熱安定性>
塩素化塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、メチルメタクリレート・ブタジエン・スチレン(MBS)樹脂(株式会社カネカ製、品番「カネエース(登録商標)B31」)を10重量部、液状の錫系安定剤(日東化成株式会社製、品番「TVS#8831」)を1重量部、粉末状の錫系安定剤(日東化成株式会社製、品番「TVS#8813」)を1重量部、滑剤であるステアリン酸(花王株式会社製、品番「ルナック(登録商標)S−90V」)を1重量部、及びポリエチレンワックス(三井化学株式会社製、品番「Hiwax220MP」)を0.3重量部配合した後、8インチロールにて、195℃で5分間混練し、厚さ0.6mmのシートを作製した。
【0091】
得られたシートを縦3cm、横5cmに切り取り、200℃のオーブンにて加熱し、シートが黒化するまでの時間を測定した。黒化とは、シートのL値が20以下であることをいう。L値は色差計(日本電色工業株式会社製、品番「ZE−2000」)を使用して測定した。
【0092】
<ビカット軟化点>
塩素化塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、メチルメタクリレート・ブタジエン・スチレン(MBS)樹脂(株式会社カネカ製、品番「カネエース(登録商標)B31」)を10重量部、液状の錫系安定剤(日東化成株式会社製、品番「TVS#8831」)を1重量部、粉末状の錫系安定剤(日東化成株式会社製、品番「TVS#8813」)を1重量部、滑剤であるステアリン酸(花王株式会社製、品番「ルナック(登録商標)S−90V」)を1重量部、及びポリエチレンワックス(三井化学株式会社製、品番「Hiwax220MP」)を0.3重量部配合した後、8インチロールにて、195℃で5分間混練し、厚さ0.6mmのシートを作製した。
【0093】
得られたシートを15枚重ね合わせたものを、鋼板にクロームメッキを施して鏡面仕上げしたフェロ板間に挟んだ後、200℃の条件下、圧力を3MPa〜5MPaの範囲に調整して10分間プレスし、厚さ5mmの板を作製した。得られた板を用い、JIS−K7206に従って、塩素化塩化ビニル系樹脂のビカット軟化点(Vicat軟化点)の測定を行った。但し、荷重を5kgとし、昇温速度は50℃/h(B50法)とした。
【0094】
上記測定を行った結果、参考例1で得られた塩素化塩化ビニル系樹脂のYIは136であり、黒化に要した時間は40分間であり、ビカット軟化点は112.3℃であった。これに対して、比較例1で得られた塩素化塩化ビニル系樹脂のYIは142であり、黒化に要した時間は30分間であり、ビカット軟化点は111.6℃であった。これらの結果を下記表1にまとめて示した。
【0095】
【表1】
【0096】
上記表1のデータから分かるように、参考例1で得られた塩素化塩化ビニル系樹脂は、比較例1で得られた塩素化塩化ビニル系樹脂に比べて、YIが低いので加熱成形時の初期着色性が良好であり、黒化に要する時間が長いので熱安定性も良好であった。また、参考例1で得られた塩素化塩化ビニル系樹脂は、比較例1で得られた塩素化塩化ビニル系樹脂に比べて、ビカット軟化点が高いので耐熱性も良好であった。塩素含有量が同程度の塩素化塩化ビニル系樹脂を製造する場合に、紫外線LEDを用いて紫外線の照射を行った参考例1では、水銀灯を用いて紫外線の照射を行った比較例1よりも、塩素化反応に必要な総消費電力量が格段に少なく、省エネの効果があり、コストが低減された。
【0097】
(参考例2)
<塩素化塩化ビニル系樹脂の作製>
図10に示すように、紫外線LED光源装置100aとして、UV−LED光源ユニット(株式会社センテック製、型番「OX224」)を準備した。紫外線LED光源装置100aは、ピーク波長が365nmである紫外線を照射する紫外線LED素子110a(日亜化学工業株式会社製、品番「NC4U133」、順電流500mA、順電圧14.9V)を12個有している。尚、参考例2で用いた紫外線LED素子の発光スペクトルは、図9に示す通りである。
【0098】
図10に示すように、紫外線LED光源装置100aを、支持体200aに支持して配置した後、内径74mm、高さ600mm、厚さ7mmの透明なガラス製の円筒状容器300a(PYREX(登録商標))中に挿入した。
【0099】
図11図12に示すように、円筒状容器300aに入れられた紫外線LED光源装置100aをジャケット付き反応器600a(容量100L)中に1台配置した。具体的には、紫外線LED光源装置100aは、上面視において円筒状の反応器600aの中心と円筒状容器300aの中心との距離、即ち、図12において一点鎖線で表されるBの長さが210mmとなるように配置した。このとき、12個の紫外線LED素子110aは、15mmの等間隔で高さ方向に1列に並べられた状態である。また、最も低い位置に配置された紫外線LED素子110aは、反応器600aの底面からの距離が132mmの位置にあった。そして、紫外線LED素子110aを、紫外線の照射方向が攪拌の流れ方向(図12の矢印Cの方向)と対向する向きに配置した。
【0100】
次に、反応器600aに、純水45kgと、K値が57.1であり、平均粒子径が125μmであり、見かけ密度が0.496g/mlである塩化ビニル系樹脂(株式会社カネカ製)5kgとを投入し、蓋620aをして反応器600a内を密閉した。そして、純水と塩化ビニル系樹脂との混合液である塩化ビニル系樹脂の水性懸濁液700aを、反応器600aのタービン翼610a(直径180mm)を用いて、回転数590rpmで攪拌した。
【0101】
反応器600a内を真空脱気及び窒素置換した後、再度真空脱気した。次いで、塩素ガスを塩化ビニル系樹脂の水性懸濁液700a中に吹き込んだ。同時に、タービン翼610aで塩化ビニル系樹脂の水性懸濁液700aを攪拌しつつ、紫外線LED素子110aから紫外線を塩化ビニル系樹脂の水性懸濁液700aに照射させて塩素化反応を開始した。反応器600a内の温度は、窒素置換の開始後25分間で50℃まで昇温させ、塩素化反応開始(紫外線照射開始)から15分間で40℃まで冷却して、その後の塩素化反応中(紫外線照射中)は40℃に維持した。
【0102】
塩素化塩化ビニル系樹脂の塩素含有量が64.4%に達したとき、紫外線LED素子110aによる紫外線の照射を終了して、塩素化反応を終了させた。塩素化塩化ビニル系樹脂の塩素含有量が64.4%に達するまでに要した時間である塩素化反応の反応時間、即ち、紫外線の照射開始から照射終了までの時間は、147分間であった。そして、窒素ガスにて塩素化塩化ビニル系樹脂中の未反応の塩素を追い出した後、残存する塩酸を水洗にて除去して塩素化塩化ビニル系樹脂を乾燥させた。これにより、塩素化塩化ビニル系樹脂を得た。
【0103】
(比較例2)
支持体200aに支持された1台の紫外線LED光源装置100aに代えて、100Wの高圧水銀灯(サンエナジー株式会社製、品番「SEH1002J01」、順電流1.1±0.1A、順電圧110±10V)を1灯用いた以外は、参考例2と同様にして、塩素化塩化ビニル系樹脂を得た。
【0104】
比較例2において、塩素化塩化ビニル系樹脂の塩素含有量が64.4%に達するまでに要した時間である塩素化反応の反応時間、即ち、紫外線の照射開始から照射終了までの時間は、234分間であった。
【0105】
参考例2及び比較例2で得られた塩素化塩化ビニル系樹脂の加熱成形時の初期着色、熱安定性、耐熱性(ビカット軟化点)の測定及び評価は、以下の通りに行った。
【0106】
<加熱成形時の初期着色>
塩素化塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、メチルメタクリレート・ブタジエン・スチレン(MBS)樹脂(株式会社カネカ製、品番「カネエース(登録商標)B11A」)を5重量部、液状の錫系安定剤(日東化成株式会社製、品番「N2000C」)を3重量部、PMMA樹脂(株式会社カネカ製、品番「カネエース(登録商標)PA−20」)を1重量部、複合滑剤(川研ファインケミカル株式会社製、品番「VLTN―4」)を1重量部配合して、8インチロールにて、180℃で3分間混練し、厚さ0.6mmのシートを作製した。
【0107】
得られたシートを15枚重ね合わせたものを、鋼板にクロームメッキを施して鏡面仕上げされたフェロ板間に挟んだ後、190℃の条件で、圧力を3MPa〜5MPaの範囲に調整して10分間プレスし、厚さ5mmの板を作製した。得られた板を、色差計(日本電色工業株式会社製、品番「ZE−2000」)を使用し、JIS−K7373に準拠して、YIを測定した。
【0108】
<熱安定性>
塩素化塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、メチルメタクリレート・ブタジエン・スチレン(MBS)樹脂(株式会社カネカ製、品番「カネエース(登録商標)B11A」)を5重量部、液状の錫系安定剤(日東化成株式会社製、品番「N2000C」)を3重量部、PMMA樹脂(株式会社カネカ製、品番「カネエース(登録商標)PA−20」)を1重量部、複合滑剤(川研ファインケミカル株式会社製、品番「VLTN―4」)を1重量部配合して、8インチロールにて、180℃で3分間混練し、厚さ0.6mmのシートを作製した。得られたシートを縦3cm、横3.5cmに切り取り、200℃のオーブンにて加熱し、シートが黒化するまでの時間を測定した。黒化とは、シートのL値が20以下であることをいう。L値は色差計(日本電色工業株式会社製、品番「ZE−2000」)を使用して測定した。
【0109】
<ビカット軟化点>
塩素化塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、メチルメタクリレート・ブタジエン・スチレン(MBS)樹脂(株式会社カネカ製、品番「カネエース(登録商標)B11A」)を5重量部、液状の錫系安定剤(日東化成株式会社製、品番「N2000C」)を3重量部、PMMA樹脂(株式会社カネカ製、品番「カネエース(登録商標)PA−20」)を1重量部、複合滑剤(川研ファインケミカル株式会社製、品番「VLTN―4」)を1重量部配合して、8インチロールにて、180℃で3分間混練し、厚さ0.6mmのシートを作製した。得られたシートを15枚重ね合わせたものを、鋼板にクロームメッキを施して鏡面仕上げされたフェロ板間に挟んだ後、200℃の条件で、圧力を3MPa〜5MPaの範囲に調整して10分間プレスし、厚さ5mmの板を作製した。得られた板を用い、JIS−K7206に従って、塩素化塩化ビニル系樹脂のビカット軟化点の測定を行った。但し、荷重を5kgとし、昇温速度は50℃/h(B50法)とした。
【0110】
上記の測定を行った結果、参考例2で得られた塩素化塩化ビニル系樹脂のYIは77.6であり、黒化に要した時間は80分間であり、ビカット軟化点は98.6℃であった。比較例2で得られた塩素化塩化ビニル系樹脂のYIは87.1であり、黒化に要した時間は70分間であり、ビカット軟化点は97.2℃であった。これらの結果を下記表2にまとめて示した。
【0111】
【表2】
【0112】
上記表2のデータから分かるように、参考例2で得られた塩素化塩化ビニル系樹脂は、比較例2で得られた塩素化塩化ビニル系樹脂に比べ、YIが低いので加熱成形時の初期着色性が良好であり、黒化に要した時間が長いので熱安定性も良好であった。また、参考例2で得られた塩素化塩化ビニル系樹脂は、比較例2で得られた塩素化塩化ビニル系樹脂に比べ、ビカット軟化点が高いので耐熱性も良好であった。塩素含有量が同程度の塩素化塩化ビニル系樹脂を製造するに際し、紫外線LEDを用いて紫外線照射を行った参考例2では、水銀灯を用いて紫外線照射を行った比較例2よりも塩素化反応に必要な総消費電力量が格段に少なく、省エネの効果があり、コストが低減された。
【0113】
(参考例3)
<塩素化塩化ビニル系樹脂の作製>
図13に示すように、紫外線LED光源装置100bとして、UV−LED光源ユニット(株式会社センテック製、型番「OX558」)を準備した。紫外線LED光源装置100bは、ピーク波長が365nmである紫外線LED素子110b(日亜化学工業株式会社製、品番「NC4U133A」、順電流500mA、順電圧14.9V)を3個有している。
【0114】
参考例3で用いた紫外線LED素子の発光スペクトルは、図9に示す通りである。図9に示すように、紫外線LED素子110bが照射する紫外線は、波長範囲が350nmから392nmであり、ピークが一つであり、ピーク波長が365nmであった。
【0115】
紫外線LED光源装置100bを内径25mm、高さ360mm、厚さ2.5mmの透明なガラス製の円筒状容器300b(PYREX(登録商標))中に挿入した。
【0116】
図14に示すように、25℃の温水400aが入ったウォーターバス500a中に、透明なガラス製の容器である反応器600b(容量10L、PYREX(登録商標))を配置し、円筒状容器300bに入れられた紫外線LED光源装置100bを反応器600b中に一台配置した。このとき、3個の紫外線LED素子110bは、15mmの等間隔で高さ方向に1列に並べられた状態であった。また、最も低い位置に配置された紫外線LED素子110bは、反応器600bの底面から90mmの位置にあった。そして、紫外線LED素子110bを、紫外線の照射方向が攪拌の流れ方向と対向する向きに配置した。尚、ウォーターバス500aには、温水400aを所定の温度に維持するための熱源(図示せず)を設けた。
【0117】
次に、反応器600bに、純水5.4kgと、K値が66.7、平均粒子径が170μm、見かけ密度が0.568g/mlである塩化ビニル系樹脂(株式会社カネカ製)0.6kgとを投入し、蓋620bをして反応器600b内を密閉した。そして、純水と塩化ビニル系樹脂との混合液である塩化ビニル系樹脂の水性懸濁液700bを、反応器600bのタービン翼610を用いて、回転数800rpmで攪拌した。
【0118】
反応器600b内を真空脱気及び窒素置換した後、塩素ガスを塩化ビニル系樹脂の水性懸濁液700b中に吹き込んだ。同時に、塩化ビニル系樹脂の水性懸濁液700bをタービン翼610で攪拌しつつ、紫外線LED素子110bから紫外線を水性懸濁液700bに照射させて、塩素化反応を開始した。尚、塩素ガスを吹き込むときは、反応器600b内が減圧にならないように注意した。塩素化反応中は、ウォーターバス500a中の温水400aを70℃に維持した。
【0119】
塩素化塩化ビニル系樹脂の塩素含有量が67.1%に達したとき、紫外線LED素子110bによる紫外線の照射を終了して、塩素化反応を終了させた。塩素化塩化ビニル系樹脂の塩素含有量が67.1%に達するまでに要した時間である塩素化反応の反応時間、即ち、紫外線の照射開始から照射終了までの時間は、120分間であった。そして、窒素ガスにて塩素化塩化ビニル系樹脂中の未反応の塩素を追い出した後、残存する塩酸を水洗にて除去してから塩素化塩化ビニル系樹脂を乾燥させた。これにより、塩素化塩化ビニル系樹脂を得た。
【0120】
(参考例4)
紫外線LED光源装置100bに代えて、紫外線LED光源装置としてUV−LED光源ユニット(株式会社センテック製、型番「OX559」)を1灯用いた以外は、参考例3と同様にして、塩素化塩化ビニル系樹脂を得た。紫外線LED光源装置は、ピーク波長が385nmである紫外線LED素子(日亜化学工業株式会社製、品番「NC4U134A」、順電流500mA、順電圧14.8V)を3個有している。
【0121】
参考例4で用いた紫外線LEDの発光スペクトルは、図15に示す通りである。図15に示すように、紫外線LED素子が照射する紫外線は、波長範囲が355nmから415nmであり、ピークが一つであり、ピーク波長が385nmであった。ここで、波長範囲は、上述した通り、発光スペクトルにおいて、ピーク波長の相対発光強度に対して2%以上の相対発光強度を有する波長の範囲を意味する。
【0122】
参考例4において、塩素化塩化ビニル系樹脂の塩素含有量が67.2%に達するまでに要した時間である塩素化反応の反応時間、即ち、紫外線の照射開始から照射終了までの時間は、135分間であった。
【0123】
(比較例3)
紫外線LED光源装置100bに代えて、100Wの高圧水銀灯(東芝ライテック株式会社製、順電流1.3A、順電圧100V)を1灯用いた以外は、参考例3と同様にして、塩素化塩化ビニル系樹脂を得た。
【0124】
比較例3において、塩素化塩化ビニル系樹脂の塩素含有量が67.1%に達するまでに要した時間である塩素化反応の反応時間、即ち、紫外線の照射開始から照射終了までの時間は、93分間であった。
【0125】
参考例3、参考例4及び比較例3で得られた塩素化塩化ビニル系樹脂について、参考例1と同様にして、塩素化塩化ビニル系樹脂の加熱成形時の初期着色、熱安定性、ビカット軟化点の測定及び評価を行った。
【0126】
その結果、参考例3で得られた塩素化塩化ビニル系樹脂のYIは91.1であり、黒化に要した時間は60分間であり、ビカット軟化点は117.8℃であった。参考例4で得られた塩素化塩化ビニル系樹脂のYIは93.3であり、黒化に要した時間は50分間であり、ビカット軟化点は115.2℃であった。比較例3で得られた塩素化塩化ビニル系樹脂のYIは132.3であり、黒化に要した時間は20分間であり、ビカット軟化点は114.3℃であった。これらの結果を下記表3にまとめて示した。
【0127】
また、参考例3、参考例4及び比較例3における総光量を、以下のように測定・算出した。光量測定器(TOPCON社製、品番「UVR−2」)にセンサー(TOPCON社製、品番「UD−36」)を装着し、塩素化反応を行うときに反応器内に存在する塩化ビニル系樹脂と光源との距離が最も近くなる位置で、光源から照射された紫外線の単位面積当たりの光量を測定した。また、塩素化反応を行うときに反応器内に存在する塩化ビニル系樹脂と光源との距離が最も近くなる位置で、光源から照射された紫外線が塩素化ビニル系樹脂に当たる照射面積を測定した。上記測定で得られる照射面積の値に単位面積当たりの光量の値を乗じた値を総光量とした。尚、上記測定において、単位面積当たりの光量と照射面積の測定は、空気雰囲気下、かつ反応器内が空の状態で行った。その結果を下記表3に示した。
【0128】
【表3】
【0129】
上記表3のデータから分かるように、参考例3、参考例4で得られた塩素化塩化ビニル系樹脂は、比較例3で得られた塩素化塩化ビニル系樹脂に比べ、YI値が低いので加熱成形時の初期着色性が良好であり、黒化に要した時間が長いので熱安定性も良好であった。また、参考例3、参考例4で得られた塩素化塩化ビニル系樹脂は、比較例3で得られた塩素化塩化ビニル系樹脂に比べ、ビカット軟化点が高いので耐熱性も良好であった。塩素含有量が同程度の塩素化塩化ビニル系樹脂を製造するに際し、紫外線LEDを用いて紫外線照射を行った参考例3、参考例4では、水銀灯を用いて紫外線照射を行った比較例3よりも塩素化反応に必要な総消費電力量が格段に少なく、省エネの効果があり、コストが低減された。
【0130】
表3のデータから分かるように、ピーク波長が385nmの紫外線を照射する紫外線LEDを用いた参考例4に対し、ピーク波長が365nmの紫外線を照射する紫外線LEDを用いた参考例3の方が、加熱成形時の初期着色性及び熱安定性がより向上した塩素化塩化ビニル系樹脂が得られた。また、塩素含有量が同程度の塩素化塩化ビニル系樹脂を製造する際に、ピーク波長が385nmの紫外線を照射する紫外線LEDを用いた参考例4に対し、ピーク波長が365nmの紫外線を照射する紫外線LEDを用いた参考例3の方が、必要な総光量が少ない上、反応時間も短く、反応効率が高いことが分かった。
【0131】
(参考例5)
<塩素化塩化ビニル系樹脂の作製>
参考例3と同様に、紫外線LED光源装置100bを用いた。
【0132】
図16に示すように、紫外線LED光源装置100bを内径75mm、高さ400mm、厚さ2.5mmの透明なガラス製の円筒状容器300(PYREX(登録商標))中に挿入した。図示しないが、集光を目的としてLED光源装置100bの周りをアルミホイルで囲み、紫外線LED素子110bの正面を縦50mm、横50mmに切り抜き、その部分以外からは光が漏れないようにした。
【0133】
図16に示すように、25℃の温水400aが入ったウォーターバス500a中に、円筒状容器300に入れられた紫外線LED光源装置100bと、透明なガラス製の容器である反応器600b(容量10L、PYREX(登録商標))とを配置した。具体的に、ウォーターバス500aに配置された紫外線LED光源装置100bは、反応器600bと対向し、3個の紫外線LED素子110bが15mmの等間隔で高さ方向に1列に並べられた状態で配置された。このとき、反応器600bと紫外線LED素子110bとの距離Aは60mmとした。尚、ウォーターバス500aには、温水400aを所定の温度に維持するための熱源(図示せず)を設けた。
【0134】
次に、反応器600bに、純水5.4kgと、K値が66.7、平均粒子径が170μm、見かけ密度が0.568g/mlである塩化ビニル系樹脂(株式会社カネカ製)0.6kgとを投入し、蓋620bをして反応器600b内を密閉した。そして、純水と塩化ビニル系樹脂との混合液である塩化ビニル系樹脂の水性懸濁液700bを、反応器600bのタービン翼610を用いて、回転数800rpmで攪拌した。
【0135】
反応器600b内を真空脱気及び窒素置換した後、塩素ガスを塩化ビニル系樹脂の水性懸濁液700b中に吹き込んだ。同時に、塩化ビニル系樹脂の水性懸濁液700bをタービン翼610で攪拌しつつ、紫外線LED素子110bから紫外線を水性懸濁液700bに照射して、塩素化反応を開始した。尚、塩素ガスを吹き込むときは、反応器600b内が減圧にならないように注意した。塩素化反応中は、ウォーターバス500a中の温水400aを70℃に維持した。
【0136】
塩素化塩化ビニル系樹脂の塩素含有量が67.2%に達したとき、紫外線LED素子110bによる紫外線の照射を終了して、塩素化反応を終了させた。塩素化塩化ビニル系樹脂の塩素含有量が67.2%に達するまでに要した時間である塩素化反応の反応時間、即ち、紫外線の照射開始から照射終了までの時間は、309分間であった。そして、窒素ガスにて塩素化塩化ビニル系樹脂中の未反応の塩素を追い出した後、残存する塩酸を水洗にて除去してから塩素化塩化ビニル系樹脂を乾燥させた。これにより、塩素化塩化ビニル系樹脂を得た。
【0137】
(参考例6)
紫外線LED光源装置として、参考例4と同様の紫外線LED光源装置を1灯用いた以外は、参考例5と同様にして、塩素化塩化ビニル系樹脂を得た。
【0138】
参考例6において、塩素化塩化ビニル系樹脂の塩素含有量が67.2%に達するまでに要した時間である塩素化反応の反応時間、即ち、紫外線の照射開始から照射終了までの時間は、300分間であった。
【0139】
参考例5及び参考例6で得られた塩素化塩化ビニル系樹脂について、参考例1と同様にして、塩素化塩化ビニル系樹脂の加熱成形時の初期着色、熱安定性、ビカット軟化点の測定及び評価を行った。
【0140】
その結果、参考例5で得られた塩素化塩化ビニル系樹脂のYIは91.9であり、黒化に要した時間は90分間であり、ビカット軟化点は117.1℃であった。参考例6で得られた塩素化塩化ビニル系樹脂のYIは93.8であり、黒化に要した時間は90分間であり、ビカット軟化点は117.1℃であった。これらの結果を下記表4にまとめて示した。
【0141】
また、参考例3と同様にして、参考例5及び参考例6における総光量を測定・算出した。その結果を下記表4に示した。
【0142】
【表4】
【0143】
表4のデータから分かるように、ピーク波長が385nmの紫外線を照射する紫外線LEDを用いた参考例6に対し、ピーク波長が365nmの紫外線を照射する紫外線LEDを用いた参考例5の方が、加熱成形時の初期着色性がより良好な塩素化塩化ビニル系樹脂が得られた。また、塩素含有量が同程度の塩素化塩化ビニル系樹脂を製造する際に、ピーク波長が385nmの紫外線を照射する紫外線LEDを用いた参考例6に対し、ピーク波長が365nmの紫外線を照射する紫外線LEDを用いた参考例5の方が、反応時間はほぼ同様であるが、必要な総光量がほぼ半分であり、反応効率が高いことが分かった。総消費電力量では参考例5と参考例6とに差異はなかった。
<塩素化塩化ビニル系樹脂の作製>
(実施例1)
図17に示すように、ジャケット付き反応器600cの底部に設けた水性懸濁液出口に水性懸濁液循環用PVC製配管800aを接続し、800aの先には透明ガラス管810を配置した。また、透明ガラス管810の前には、減圧弁4が設けられており、透明ガラス管810に入る前に、スラリーが減圧される。さらにその先には水性懸濁液循環用PVC製配管800b、水性懸濁液循環用ポンプ900、さらに水性懸濁液循環用PVC製配管800cの順で接続し、水性懸濁液循環用PVC製配管800cの出口部分を、ジャケット付き反応器600c気相部へ接続した。なお、ジャケット付き反応器600cには、蓋620cが設けられている。
【0144】
図18に、図17の装置のうち、透明ガラス管810及び紫外線を照射するための光源の部分を拡大した図を示す。図18に示すように、透明ガラス管810の表面から15mmの位置に、紫外線を照射するための光源としてUV−LED光源ユニット(株式会社センテック製)100cを配置した(以下、「紫外線LED光源装置100c」と称する)。紫外線LED光源装置100cは、ピーク波長が365nmである紫外線LED素子110c(日亜化学工業株式会社製、品番「NC4U133A」、順電流500mA、順電圧14.9V)を縦方向に15mm間隔で12個備えており、図18に示すように、紫外光が透明ガラス配管810中を流れる水性懸濁液に対して照射されるよう配置した。なお、図18中、紫外線LED光源装置100cの紫外線LED素子110cは、スペースの関係上、3つのみ記載した。
【0145】
実施例1で用いた紫外線LED素子110cの発光スペクトルは、図9に示す通りである。図9に示すように、紫外線LED素子110cが照射する紫外線は、波長範囲が350nmから392nmであり、ピークが一つであり、ピーク波長が365nmであった。ここで、波長範囲は、上述した通り、発光スペクトルにおいて、ピーク波長の相対発光強度に対して2%以上の相対発光強度を有する波長の範囲を意味する。
【0146】
次に、ジャケット付き反応器600cに、純水35kgと、K値が66.4であり、平均粒子径が200μmであり、見かけ密度が0.557g/mlである塩化ビニル系樹脂(株式会社カネカ製)15kgとを投入した後、蓋620cを設置して、ジャケット付き反応器600c内を密閉した。純水と塩化ビニル系樹脂との混合液である塩化ビニル系樹脂の水性懸濁液700cを、反応器600cのタービン翼610c(直径180mm)を用いて、回転数590rpmで攪拌した。同時に水性懸濁液循環用ポンプ900を用いて、水性懸濁液700cを装置内に循環させた。
【0147】
ジャケット付き反応器600c内を真空脱気及び窒素置換した後、再度真空脱気した。次いで、不図示の塩素導入部により、塩素ガスを塩化ビニル系樹脂の水性懸濁液700c中に吹き込んだ。同時に、タービン翼610cで塩化ビニル系樹脂の水性懸濁液700cを攪拌しつつ、紫外線LED素子110cから紫外線を照射した。紫外線は、透明ガラス配管810越しに塩化ビニル系樹脂の水性懸濁液700cに照射され、塩素化反応が開始される。塩素化反応開始(紫外線照射開始)からジャケット付き反応器600c内部を塩素ガスの導入によって0.02MPaまで加圧し、その後、塩素化反応中(紫外線照射中)は0.06MPaに維持した。反応器600c内の温度は、窒素置換の開始後25分間で50℃まで昇温させ、塩素化反応開始(紫外線照射開始)から100分間で85℃まで加温して、その後の塩素化反応中(紫外線照射中)は85℃に維持した。
【0148】
塩素化塩化ビニル系樹脂の塩素含有量が67.1%に達したとき、紫外線LED素子110cによる紫外線の照射を終了して、塩素化反応を終了させた。塩素化塩化ビニル系樹脂の塩素含有量が67.1%に達するまでに要した時間を塩素化反応の反応時間とした。この時間は、すなわち紫外線の照射開始から照射終了までの時間であり、137分間であった。そして、窒素ガスにて塩素化塩化ビニル系樹脂中の未反応の塩素を追い出した後、残存する塩酸を水洗にて除去して塩素化塩化ビニル系樹脂を乾燥させた。これにより、塩素化塩化ビニル系樹脂を得た。
【0149】
(実施例2)
塩素化反応中のジャケット付き反応器600c内部の圧力を0.1MPaとした以外は、実施例1と同様にして、塩素化塩化ビニル系樹脂を得た。本実施例において、塩素化塩化ビニル系樹脂の塩素含有量が67.1%に達するまでに要した時間(塩素化反応の反応時間、すなわち紫外線の照射開始から照射終了までの時間、以下同じ。)は、128分間であった。
【0150】
(実施例3)
塩素化反応中のジャケット付き反応器600c内部の圧力を0.12MPaとした以外は、実施例1と同様にして、塩素化塩化ビニル系樹脂を得た。本実施例において、塩素化塩化ビニル系樹脂の塩素含有量が67.1%に達するまでに要した時間は、123分間であった。
【0151】
(実施例4)
塩素化反応中のジャケット付き反応器600c内部の圧力を0.14MPaとした以外は、実施例1と同様にして、塩素化塩化ビニル系樹脂を得た。本実施例において、塩素化塩化ビニル系樹脂の塩素含有量が67.1%に達するまでに要した時間は、125分間であった。
【0152】
(実施例5)
塩素化反応中のジャケット付き反応器600c内部の圧力を0.02MPaとした以外は、実施例1と同様にして、塩素化塩化ビニル系樹脂を得た。本実施例において、塩素化塩化ビニル系樹脂の塩素含有量が67.1%に達するまでに要した時間は、144分間であった。
【0153】
(比較例4)
比較例として、ガラス製の円筒状容器をジャケット付き反応器中に1台配置し、塩素化塩化ビニル系樹脂の製造を試みた。ガラス製の円筒状容器内には、紫外線LED光源装置100cと同様の紫外線光源を設けた。この反応器へ実施例1と同様に水、塩化ビニル系樹脂を仕込み、蓋をして反応器内を密閉した。そして、純水と塩化ビニル系樹脂との混合液である塩化ビニル系樹脂の水性懸濁液を、反応器のタービン翼(直径180mm)を用いて、回転数590rpmで攪拌した。
【0154】
反応器内を塩素にて0.02MPaまで加圧したところ円筒状容器が破損したため、塩素化塩化ビニル系樹脂の製造を行うことができなかった。
【0155】
(比較例5)
塩素化反応中のジャケット付き反応器600c内部の圧力を0.01MPaとした以外は、比較例4と同様にして、塩素化塩化ビニル系樹脂を得た。本比較例において、塩素化塩化ビニル系樹脂の塩素含有量が67.1%に達するまでに要した時間は、155分間であった。
【0156】
【表5】
【0157】
実施例1〜5に示すように、反応器内部の圧力を高くする(0.02MPa〜0.14MPa)ことにより、塩素化の反応時間が短くなる効果が確認できた。
【0158】
また、比較例4に示すように、紫外線LED光源装置をガラス製の円筒状容器に入れ、反応器に挿入した場合は、光源の円筒状容器が反応器内部の加圧に耐えられず、破損してしまった。また、比較例5に示すように、光源の円筒状容器が耐えられる反応器内部の圧力(0.01MPa)とした場合、塩素化の反応時間が長かった。
【0159】
(実施例6)
用いた原料塩化ビニル系樹脂をK値が58.4であり、平均粒子径が150μmであり、見かけ密度が0.574g/mlである塩化ビニル系樹脂(株式会社カネカ製)に変更したこと、及び塩素化反応中のジャケット付き反応器600c内部の圧力を0.04MPaとしたこと以外は、実施例1と同様にして、塩素化塩化ビニル系樹脂を得た。本実施例において、塩素化塩化ビニル系樹脂の塩素含有量が67.1%に達するまでに要した時間は、140分間であった。
【0160】
(実施例7)
塩素化反応中のジャケット付き反応器600c内部の圧力を0.06MPaとした以外は、実施例6と同様にして、塩素化塩化ビニル系樹脂を得た。本実施例において、塩素化塩化ビニル系樹脂の塩素含有量が67.1%に達するまでに要した時間は、135分間であった。
【0161】
(実施例8)
塩素化反応中のジャケット付き反応器600c内部の圧力を0.08MPaとした以外は、実施例6と同様にして、塩素化塩化ビニル系樹脂を得た。本実施例において、塩素化塩化ビニル系樹脂の塩素含有量が67.1%に達するまでに要した時間は、128分間であった。
【0162】
(実施例9)
塩素化反応中のジャケット付き反応器600c内部の圧力を0.02MPaとした以外は、実施例6と同様にして、塩素化塩化ビニル系樹脂を得た。本実施例において、塩素化塩化ビニル系樹脂の塩素含有量が67.1%に達するまでに要した時間は、153分間であった。
【0163】
【表6】
【0164】
実施例6〜9に示すように、K値が異なる塩化ビニル系樹脂を用いた場合でも同様に、反応器内部の圧力を高くする(0.02MPa〜0.08MPa)ことにより、塩素化の反応時間が短くなる効果が確認できた。
【0165】
なお、参考例の反応時間と本願実施例の反応時間とは、使用した材料の塩化ビニル系樹脂が異なり、加えて塩素化含有量の到達度が異なる(参考例では塩素含有量の到達度が低い)ため、一概には比較できない。このため、本願発明の効果は、材料及び塩素化含有量の到達度といった条件をそろえた実施例1〜5と比較例4,5とを比較することにより理解できることを念のため付言する。
【産業上の利用可能性】
【0166】
本発明により得られる塩素化塩化ビニル系樹脂は、塩化ビニル系樹脂の高い機械的強度、耐候性、耐薬品性などの優れた特徴を有するうえ、さらに塩化ビニル系樹脂より耐熱性に優れることから、種々の産業分野で利用可能である。
【符号の説明】
【0167】
1:塩素導入部(加圧部)
2:第1の槽
6,6’,6”:第2の槽
7:スラリー循環ライン7
11:塩素化塩化ビニル系樹脂の製造装置
12:塩化ビニル系樹脂の懸濁液
20:紫外線照射パネル
21:紫外線LED素子
22:透明配管
25:スタティックミキサーを備える透明配管
26:金属配管
27:透明窓
【要約】
第1の槽において、塩化ビニル系樹脂の懸濁液に塩素を導入する工程と、前記塩素が導入された懸濁液を第1の槽から第2の槽へ移送し、当該第2の槽において、前記懸濁液に対して紫外線を照射する工程と、を有する塩素化塩化ビニル系樹脂の製造方法によれば、塩化ビニル系樹脂の懸濁液中への塩素溶解量が向上し、塩素化塩素系ビニル系樹脂の製造効率が向上する。
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