【実施例】
【0035】
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に制限されるものではない。
【0036】
<試薬>
環状ジペプチドは神戸天然物化学社で合成したものを用いた。キサンチン、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩(CMC-Na)、チロシン(Tyr)、ギ酸(カラムクロマトグラフ用特製試薬)、メタノール(高速液体クロマトグラフ用)はナカライテスク社製;アロプリノール、オキソン酸カリウム塩は和光純薬社製;キサンチンオキシダーゼは東洋紡社製;キサンチンオキシダーゼアッセイキットはCayman Chemical Company社製;L-TyrosylglycineはSanta Cruz Biotechnology社製;Glycyl-L-tyrosineはSigma-Aldrich社製;組織タンパク抽出試薬(T-PER)、プロテアーゼ阻害剤カクテルキット、Pierce BCAタンパク定量キット、ポリスチレン製ブラック96ウェルプレートはThermo Scientific社製;ヘパリンナトリウム塩は持田製薬社製;プラバスタチンナトリウム塩はSIGMA社製;大豆ペプチド(ハイニュート AM)は不二製油社製をそれぞれ用いた。
【0037】
<統計解析>
以降の試験例において、データは平均値±標準誤差で表示した。統計学的検定は、試験例1ではStudent’s t-testを用い、他の試験例ではone-way ANOVAで分散分析を行った後、Dunnet’s testを用いて多重比較検定を実施した。結果における「*」はp<0.05、「♯」はp<0.1の有意差ありとした。なお、これらの解析は全てSPSS for Windows(登録商標) release 17.0(SPSS社製)を用いて実施した。
【0038】
試験例1(in vitro XO阻害作用の検討)
210種の環状ジペプチド、直鎖のジペプチドであるTyr-Gly、Gly-Tyr、及びアミノ酸Tyrについて、in vitroにおけるキサンチンオキシダーゼ(XO)阻害作用を検討した。
【0039】
具体的には、96ウェルプレートの各ウェルに、pH7.5のリン酸緩衝液(PBS)に溶解させた4U/Lのキサンチンオキシダーゼ(XO)を75μL入れ、XO最終濃度に対してペプチド又はアミノ酸が所定濃度となるようサンプル溶液を5μL添加し、5分間混合した(ペプチド又はアミノ酸の最終濃度は50〜500μM)。その後、PBSに溶解させた250μMのキサンチン溶液を20μL添加し、30分後における吸光度を分光光度計(Synegy HT、Bio Tek社製)を用いて測定した。各濃度におけるXO阻害率(%)は下記の計算式により算出し、XO阻害活性(IC
50値)を求めた。表1に12種類のTyr含有環状ジペプチドのキサンチンオキシダーゼ阻害活性(IC
50値)を、表2に8種類のTyr含有環状ジペプチドの100μMにおけるキサンチンオキシダーゼ阻害率(%)を、表3に20種類のPhe含有環状ジペプチドのキサンチンオキシダーゼ阻害活性(IC
50値)を示した。尚、ポジティブコントロールとして、公知の尿酸値低下剤であるアロプリノール(IC
50値:12.5μM)を利用した。
【0040】
【数1】
【0041】
【表1】
【0042】
【表2】
【0043】
【表3】
【0044】
表1、表2より、Tyr含有環状ジペプチドにXO阻害活性があること、表3よりTyrがPheに置き換わるとXO阻害活性が減弱することが分かる。
【0045】
また、Cyclo(Tyr-Gly)、直鎖ジペプチドのTyr-Gly、Gly-Tyr、アミノ酸Tyrについても、同様にXO阻害率(%)を測定した。結果を
図1に示す。
【0046】
図1より、環状化することでXO阻害活性が発現されることが分かり、環状ジペプチドであることが重要であることが示唆される。
【0047】
試験例2(高尿酸血症マウスに対する血清尿酸値低下作用の検討)
高尿酸血症モデル動物における、環状ジペプチドによる血清尿酸値の低下作用を検討した。
【0048】
使用動物は、雄性7週齢BALBcマウスを日本クレア社から購入し、1週間の馴化期間の後、実験に供した。動物は、空調設備のある飼育室(温度23.5±1.0℃、湿度55±10RH%、換気回数12〜15回/時間、照明7:00〜19:00/日)で飼育した。馴化期間中は、市販飼料(CE-2、日本クレア社製)及び蒸留水を自由に摂取させた。
【0049】
オキソン酸は尿酸の代謝酵素であるウリカーゼを阻害することによって、血中尿酸値を上昇させる物質である。そこで、オキソン酸カリウム塩(PO)を投与することによって、高尿酸血症モデル動物を作製した(Planta Med 2009; 75:302-306参照)。以下の6群にて検討を行った。1)正常群(Normal群、オキソン酸負荷なし)、2)PO投与群(PO群、オキソン酸負荷あり)、3)PO+アロプリノール1mg/kg投与群(PO+AL群)、4)PO+Cyclo(Tyr-Gly)10mg/kg投与群(PO+CTG 10群)、5)PO+Cyclo(Tyr-Gly)30mg/kg投与群(PO+CTG 30群)、6)PO+Cyclo(Tyr-Gly)100mg/kg投与群(PO+CTG 100群) (各群n=6〜8)。PO投与がある全ての群には0.5% CMC-Na水溶液に懸濁させたPOを250mg/kgで、Normal群には0.5% CMC-Na水溶液をそれぞれ腹腔内投与した。次いで1時間後に、PO+アロプリノール投与群には1mg/kgのアロプリノールを、PO+Cyclo(Tyr-Gly)投与群にはそれぞれ10、30、100mg/kgのCyclo(Tyr-Gly)を、Normal群には蒸留水を、それぞれ経口投与させた。PO投与から2時間後に麻酔下において腹部大静脈より採血を行い、脱血後に肝臓を採取した。採血した血液は室温で45分間静置した後に8000rpmで10分間遠心を行い、血清を回収した。なお、血清及び肝臓は測定を実施するまで-80℃で保存した。
【0050】
血清中尿酸値は7180臨床分析装置(日立テクノロジーズ社製)を用いて測定を行った。結果を
図2に示す。
【0051】
次に、マウスの肝臓を、氷冷したプロテアーゼ阻害剤カクテルと、EDTAを含む組織タンパク抽出試薬(T-PER)の混合物に加えてホモジナイズした後、15000rpm、4℃で15分間遠心し、回収した上清をキサンチンオキシダーゼ(XO)活性の測定に供した。肝臓及び血清中のXO活性はキサンチンオキシダーゼアッセイキット、ポリスチレン製ブラック96ウェルプレートを用いて測定した。具体的には、XO標準サンプル、肝臓サンプル、あるいは血清サンプルを50μL添加後に、アッセイ用バッファーとDetectorとHRPを98/1/1(質量比)で混合した分析用カクテルを50μL添加した。遮光下で37℃、45分間反応させた後に分光光度計(Synegy HT、Bio Tek社製)を用いて励起波長520-550nm、発光波長585-595nmにおける蛍光を測定した。血清中XO活性はmU/mL、肝臓中XO活性はPierce BCAタンパク定量キットを用いて測定したタンパク濃度の定量結果を用いてmU/mgと表示した。結果を
図3に示す。
【0052】
図2より、Cyclo(Tyr-Gly)は用量依存的に尿酸値低下作用を有するものであり、Cyclo(Tyr-Gly)30、100mg/kg投与群はアロプリノール投与群と同様にPO群に対して有意差のある効果を示すことが分かる。また、
図3より、Cyclo(Tyr-Gly)100mg/kg投与群ではアロプリノール1mg/kg投与群と同様に肝臓及び血清中のキサンチンオキシダーゼ活性を抑制することが分かる。
【0053】
試験例3(高尿酸血症マウスに対する大豆ペプチド熱処理物の血清尿酸値低下作用の検討)
試験例2と同様に、高尿酸血症モデル動物を用いて大豆ペプチド熱処理物の血清尿酸値の低下作用を検討した。具体的には、使用動物は、試験例2と同様にして準備し、以下の5群にて検討を行った。1)正常群(Normal群、オキソン酸負荷なし)、2)PO投与群(PO群、オキソン酸負荷あり)、3)PO+アロプリノール1mg/kg投与群(PO+AL群)、4)PO+大豆ペプチド熱処理物2g/kg投与群、5)PO+8種のTyr含有環状ジペプチド混合物11mg/kg投与群 (各群n=6〜7)。前記各群に対して、試験例2と同様にして、投与及び採血を行って血清中の尿酸値を測定した。結果を
図4に示す。なお、環状ジペプチド8種混合物は、Cyclo(Ser-Tyr)、Cyclo(Tyr-Gly)、Cyclo(Tyr-Tyr)、Cyclo(Phe-Tyr)、Cyclo(Leu-Tyr)、Cyclo(Val-Tyr)、Cyclo(Ile-Tyr)、及びCyclo(Asn-Tyr)の合成品を用いて大豆ペプチド熱処理物に含有される量となるよう調製したものを用いた。
【0054】
なお、大豆ペプチドの熱処理物は、大豆ペプチド(ハイニュート AM、不二製油社製)を蒸留水に200mg/mLの濃度で溶解し、132℃で3時間加熱後に凍結乾燥して得られたものを用いた。大豆ペプチド熱処理物の環状ジペプチド含有量をLC-MS/MSに供して下記の条件に従って測定した。ただし、Cyclo(Tyr-Cys)は標準品が水溶液中で不安定なため測定することが出来なかった。結果を表4に示す。
〔LC-MS/MS分析条件〕
LC装置 SHIMADZU UFLC XR
カラム Agilent technologies Zorbax SB−AQ 1.8μm 2.1×150mm
カラム温度 40℃
移動相 A:0.1% ギ酸、B:メタノール のグラジエント分析
流速 0.2mL/min
注入量 2μL
検出器 AB Sciex 4000 Q TRAP-Turbo Spray(ESI)-Scheduled MRM(multiple reaction monitoring)
【0055】
【表4】
【0056】
表4及び
図4より、大豆ペプチド熱処理物は本発明の環状ジペプチドを含有するものであり、血中尿酸値低下作用に優れるものであることが分かる。
【0057】
試験例4(高尿酸血症マウスに対する大豆ペプチド熱処理物の有効量の検討)
試験例3と同様に、高尿酸血症モデル動物を用いて大豆ペプチド熱処理物の用量による血清尿酸値の低下作用を検討した。具体的には、使用動物は、試験例2と同様にして準備し、以下の6群にて検討を行った。1)正常群(Normal群、オキソン酸負荷なし)、2)PO投与群(PO群、オキソン酸負荷あり)、3)PO+アロプリノール1mg/kg投与群(PO+AL群)、4)PO+大豆ペプチド熱処理物200mg/kg投与群、5)PO+大豆ペプチド熱処理物400mg/kg投与群、6)PO+大豆ペプチド熱処理物800mg/kg投与群(各群n=5〜6)。前記各群に対して、試験例2と同様にして、投与及び採血を行って血清中の尿酸値を測定した。結果を
図5に示す。
【0058】
図5より、大豆ペプチド熱処理物は800mg/kgで投与することにより、高尿酸血症モデルマウスの尿酸値に対して有意差が認められ、有効であることが分かる。
【0059】
本発明の環状ジペプチドは、食品由来の材料からでも調製可能なものであり、気楽に服用できる安心感の持てる物質である点で、副作用の心配のあるアロプリノールとは異なる利点がある。本発明の環状ジペプチドは、使用量によって作用の程度は異なるが、量によってはアロプリノールと同等もしくは、緩和な尿酸値低下作用が認められる。尿酸値の低下は、長期にわたって、食事療法と共に対処する必要があるため、日常的に服用する観点から、緩和な作用の方がむしろ好ましいともいえる。