(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
回動するアーム(21)を備えた装置本体(2a)が戸体(11)あるいは戸枠(12)に設けられており、上記アーム(21)が係合できる一時固定手段(25)が戸枠(12)あるいは戸体(11)に設けられており、戸枠(12)に対して開閉自在に配位された戸体(11)を、戸体(11)が半開状態から、閉鎖状態あるいは全開状態となるまでの間を自動的に移動可能とされた戸体移動装置において、
上記の装置本体(2a)には、戸体(11)の上記自動移動動作が開始する前における半開状態に対応する待機位置(W)と、戸体(11)の閉鎖状態あるいは全開状態に対応する停止位置(S)との間の範囲内において、回動軸(21a)を中心として回動可能なアーム(21)と、
上記の待機位置(W)から停止位置(S)へアーム(21)が回動するように、アーム(21)を付勢するための付勢手段(23)と、
アーム(21)が待機位置(W)から停止位置(S)へと回動する際において、このアーム(21)の回動動作を減速させるための緩衝手段(24)とが設けられ、
上記アーム(21)にはリンク部材(26)が取り付けられており、
上記リンク部材(26)は、上記付勢手段(23)か緩衝手段(24)の少なくともいずれかと上記アーム(21)との間を、このアーム(21)の上記回動に応じた力を伝達するように接続するものであり、
上記の一時固定手段(25)は、装置本体(2a)から遠い側に位置する第1当接部(25a)と、装置本体(2a)から近い側に位置する第2当接部(25b)とを備え、
上記第1当接部(25a)は、戸体(11)の閉鎖あるいは開放動作に伴いアーム(21)の一部である固定部(21b)が衝突することにより、アーム(21)の待機位置(W)から停止位置(S)への回動を開始させるための部分であり、
上記第2当接部(25b)は、上記アーム(21)の待機位置(W)から停止位置(S)への回動の際に、上記付勢手段(23)に付勢されたアーム(21)の固定部(21b)が当接し、これにより装置本体(2a)か一時固定手段(25)のいずれか一方を他方に接近するように移動させるための部分であり、
上記の第1当接部(25a)と第2当接部(25b)との間には、アーム(21)の固定部(21b)を配位可能な空間を有するアーム固定溝(25c)を備え、
戸体(11)の上記自動移動動作が行われる際においては、一時固定手段(25)の上記アーム固定溝(25c)に上記の固定部(21b)が保持され、その状態で付勢手段(23)の付勢を受けてアーム(21)が回動し、これにより戸体(11)が移動するものであり、
上記緩衝手段(24)は、その可動棒(24a)が緩衝手段本体(24b)に対して直線状に出没する構造とされており、
上記リンク部材(26)は、一端が上記アーム(21)における回動軸(21a)と上記固定部(21b)との間の位置に取り付けられており、他端が上記緩衝手段(24)の可動棒(24a)に取り付けられたことを特徴とする戸体移動装置。
上記規制手段(24c)が、上記可動棒(24a)の先端に設けられ、上記装置本体(2a)におけるケーシング(20)の内面に沿って走行するローラー(24c1)を備えたことを特徴とする、請求項2に記載の戸体移動装置。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図面に基づき本願発明の一実施例をとりあげて説明する。
図1、
図2は本例の戸体移動装置の使用状態の概略を示す斜視図である。
図3〜
図5は本例の戸体移動装置の構造を示す図である。
図6は本例の戸体移動装置のうち、アーム周りを示す図である。
図7は他の実施例に係る戸体移動装置の構造を示す図である。
【0022】
[第1の実施例]
まず、戸枠12に戸体11がヒンジ支持された、つまり、ヒンジを中心として戸体11が戸枠12に対して回動可能とされた開き戸であって、この開き戸における戸枠12に囲まれた内側に配位された戸体11が、半開状態から閉鎖状態へと自動的に移動するように戸体移動装置が設けられた場合について説明する。ここで「閉鎖状態」とは戸体11が完全に閉鎖された状態を示し、「全開状態」とは戸体11が完全に開放された状態を示し、「半開状態」とは戸体11が開放された状態であって、かつ、戸体移動装置が作動していない状態(ただし、作動開始の瞬間も含む)を示す。
【0023】
また、以下の説明における方向の表現は、基本的には
図1及び
図3〜
図5に示した状態における位置関係に基づくものである。具体的には、上下方向及び水平方向に関しては、
図1に示す状態におけるものとする。そして、
図3〜
図5に示した状態において、戸枠12を基準とした戸体11寄りの方向を「前方」、その逆の方向を「後方」とする。ただし、上下左右については、各図の図示方向によって説明する場合もあって、その際にはその旨を特記している。なお本説明における方向の表現は、理解を容易にするためのものであり、この表現を根拠に、本願発明が制限して理解されるものではない。
【0024】
本例の戸体移動装置2は、
図3に示すような構造であり、アーム21、付勢手段23、ダンパー24、一時固定手段25、リンク部材26を有する。そのうち、アーム21、付勢手段23、ダンパー24の各々は、ケーシング20にまとめて設けられており、これらが装置本体2aを構成する。この装置本体2aは戸枠12に設けられる。そして、一時固定手段25は戸体11に設けられる。
【0025】
本例では戸枠12の一部として、戸体11の閉鎖時に戸体11の表面が当接する戸当たり部材12aが設けられており、装置本体2aはこの戸当たり部材12aの一部を構成するようにして設けられる。本例の戸当たり部材12aは、
図2に示すように戸枠12の表面に設けられた取付溝12bに一部がはめ込まれることにより戸枠12と一体とされる。装置本体2aを戸枠12に設けるに当たっては、戸枠12の内周側の少なくとも一部に設けられた戸当たり部材12aのうち、上部に配置された戸当たり部材12aが一定区間カットされており、このカットされた部分の取付溝12bに、カットされた戸当たり部材12aの代わりに装置本体2aがはめ込まれる。これにより、カットされていない戸当たり部材12aと上記はめ込まれた装置本体2aとを戸枠12において一体とできる。つまり、装置本体2aが戸当たり部材12aの一部を構成するように戸枠12に配置される。本例ではめ込まれた装置本体2aは、取付溝12bの底面に対し、ケーシング20の両端に設けられた取付代20aにてねじ止めされて固定される。
【0026】
上記のように装置本体2aをはめ込む構造としたことにより、あらかじめ戸当たり部材12aをカットしたものを用意しさえしておけば、戸枠12の現場加工をほとんどしなくて良いため、現場作業を簡略化することができるメリットがある。
【0027】
なお、上記のように戸当たり部材12aの一部を構成するようにして装置本体2aには、
図1に示すように、上記装置本体2aの少なくとも一部を覆い、表面が上記戸当たり部材12aの表面と略同一平面となるカバー12xが設けられている。これにより、アーム21の一部のみが戸当たり部材12aから突出するものとされている。本例では、装置本体2aに対し、下面、前面、後面を覆うものとされている。よって、このカバー12xにより装置本体2aの存在を目立たないものとできるため、意匠面において優れたものとできるメリットがある。
【0028】
装置本体2aの取り付けは上記のように戸当たり部材12aを一定区間カットしたものの他、戸当たり部材12aをくり抜き、このくり抜かれた空間に装置本体2aを埋め込んでも良い。また、上記取付溝12bの形成は本願発明において必須ではなく、戸枠12の平らな表面上に接着剤、釘、ねじなどによって戸当たり部材12aを取り付けても良い。この場合、装置本体2aも上記戸枠12の平らな表面上に取り付けられる。
【0029】
[ケーシング]
本例におけるケーシング20は縦長の筒状体である。このケーシング20は上記のように戸枠12への設置時において水平方向に配位される。これにより、装置本体2aを戸当たり部材12aからほとんど突出させることなく自然に埋め込むようにできる。また、このようなスリムな形状としたことにより、装置本体2aの取り付け対象についての幅方向寸法の制限を受けにくくなる。よって例えば、装置本体2aを戸体11の上端面に埋め込むこともできるし、引戸の戸枠あるいは戸体に埋め込むこともできるため、装置本体2aの取り付け対象の自由度を高めることができる。
【0030】
[アーム]
次にアーム21について説明する。本例のアーム21には一枚の略帯状である板状体が用いられており、その先端側(
図3における上端側)が
図1に示すようにケーシング20から突出するようにされている。一方、基端側(
図3における下端側)は
図3に示すように、回動軸21aを介してケーシング20に取り付けられている。
【0031】
本例では、装置本体2a及び一時固定手段25が「吊り元」に設けられているため、戸体11を自動閉鎖させるための戸枠12に対する角度に対応した、アーム21の待機位置Wから停止位置Sまでの移動距離を「戸先」に設けられた場合に比べて小さくできる。よって、本例のアーム21は比較的短い長さとされている。
【0032】
なお、上記の「吊り元」に設けられた状態とは、装置本体2aにおけるアーム21の回動軸21aが、戸体11の水平方向における中央よりもヒンジに近い位置にある状態を指す。そして、「戸先」に設けられた状態は、装置本体2aにおけるアーム21の回動軸21aが、戸体11の水平方向における中央よりもヒンジから遠い位置にある状態を指す。なお、
図7に示す実施例は、装置本体2a及び一時固定手段25が「戸先」に設けられたものである。
【0033】
このアーム21は、上記の回動軸21aを中心に所定範囲内において回動可能となっている。本例では、このアーム21の回動範囲の一端側寄りの位置が待機位置W(
図3に示した状態)、他端側寄りの位置が停止位置S(
図5に示した状態)となり、それぞれが戸体11の半開状態と閉鎖状態とに対応している。言い換えると、回動軸21aを基準として、アーム21の先端側が
図3上での上方にある場合(つまり、アーム21がケーシング20に対して前方に飛び出た状態)が待機位置W、
図5上での右方にある場合(つまり、アーム21がケーシング20に収納された状態)が停止位置Sとなる。アーム21は、少なくとも上記の範囲内で回動可能とされている。なお、本例とは逆に、戸体11を全開させるために戸体移動装置を用いる場合は、待機位置Wが戸体11の半開状態に対応し、停止位置Sが戸体11の全開状態に対応することになる。
【0034】
本例では、アーム21における基端部と先端部との間に段差21cが設けられている。この段差21cは板状体であるアーム21が、
図1及び
図2に示すように、途中で略Z字状に折り曲げられて形成されたものである。この段差21cはより具体的には、装置本体2aを戸枠12に設けた状態において、当該段差21cを挟んで基端側が上方に、先端側が下方に位置するように形成されている。これにより、
図1に示すように、カバー12xの下面に設けられたスリットからアーム21の先端寄りの部分だけが突出するようにでき、アーム21の存在が極力目立たず、意匠面において優れたものとできる。
【0035】
なお、アーム21の形状は本例のものに限定されず、例えば棒状のものとしたり、
図7に示す他の実施例のように湾曲した形状とするなど、戸体11に対する取り付け状況や、自動移動動作の範囲など、戸体移動装置の設計に応じた種々の形態での実施が可能である。
【0036】
次に、本例におけるアーム21の先端側には、
図1及び
図2に示すように、アーム21の表面から下方に突出するようにして円筒状の固定部21bが設けられている。この固定部21bが、
図4及び
図5に示すように、戸体11に設けられた一時固定手段25(より具体的には一時固定手段25に設けられたアーム固定溝25c)に保持されることによって、戸体11を付勢手段23の付勢力により引き寄せて自動的に閉鎖することができる。
【0037】
なお、本例の固定部21bは、軸部21b1と、この軸部21b1に対して回動可能とされたローラー部21b2とを有するものであって、
図4に示すように、固定部21bが一時固定手段25のアーム固定溝25cに配位された際において、上記ローラー部21b2が一時固定手段25の第1当接部25aや第2当接部25bに対して回動できるため、一時固定手段25に対して小さな抵抗で固定部21bを移動させることができる。なお、本例においてはアーム21の先端部に固定部21bが設けられているが、アーム21の中間など、先端部以外の箇所に固定部21bを形成することも可能である。
【0038】
[基端ブロック]
ここで、上記のように板状体であるアーム21の基端部には、アーム21の表裏方向に接するようにして基端ブロック22が取り付けられている。この基端ブロック22には付勢手段23の一端側23aを引掛けるための溝を有する付勢手段取付部22aが設けられている。本例では付勢手段23が2本設けられるため、付勢手段取付部22aも2箇所に設けられている。
【0039】
そして、この基端ブロック22には、上記付勢手段取付部22aと共に、下記のアーム位置保持手段27のための係合部22bが一体に設けられている。従来、これら二つの部分は別々に設けられていたが、本例では一つの部品にまとめることができたため、構成部品点数の削減ができる。この係合部22bは、
図6に示したようにアーム21の基端方向に突出した形状とされている。そしてこの係合部22bの突出した形状は、アーム位置保持手段27の湾曲部27aが当接可能な形状とされている。
【0040】
本例では、板状のアーム21とブロック状の基端ブロック22とが別々に形成されており、かしめにより一体とされているが、このアーム21を例えば鋳物や硬質樹脂などで製作する場合にあっては、アーム21と基端ブロック22とが元から一つの部品として形成されたものであっても良い。
【0041】
[付勢手段]
次に付勢手段23について説明する。この付勢手段23は、アーム21を回動軸21aを中心として待機位置Wから停止位置Sへ向かい回動させるように付勢するものである。本例においては、ケーシング20内に平行に設けられた2本のコイルばねとして実施されており、引張力による付勢がアーム21の基端部分にかかる。この付勢手段23の一端側23aはアーム21に取り付けられた基端ブロック22の付勢手段取付部22aに対して取り付けられており、他端側23bはケーシング20に取り付けられる。
【0042】
本願発明においては、上記の付勢手段23として、このように一般的なばねを用いることができる。つまり、付勢手段23とダンパー24とが別個に設けられたものとできるため、特許文献1に示すような、ダンパにばねが仕込まれたことにより付勢手段と緩衝手段とを兼ねた、構造が比較的複雑な専用品を用いる必要がない。そして、後述するダンパー24についても直動ダンパーの汎用品が利用できるため、これにより装置本体2aの構造を簡単にでき、装置の製造コスト低減に貢献できる。ただし、本願発明は特許文献1に示すような付勢手段と緩衝手段とを兼ねたものを用いることを完全に排除するものではなく、例えば装置本体2aの小型化の要求がある場合などには付勢手段と緩衝手段とを兼ねたものを用いても構わない。
【0043】
この付勢手段23として、本例では2本のコイルばねが用いられているが、装置本体2aの形状についての条件が許すのであればこれに限られず、例えば、1本や3本以上のコイルばねを用いたり、回動軸21aに取り付けて用いる渦巻ばねなどの他の種類のばねや、ゴムなどの弾性を有する樹脂を用いても良い。また、付勢手段23をアーム21及びケーシング20に対して取り付ける場所も限定されるものではない。また、本例とは逆にばねの伸びを利用してアーム21を付勢するものとしても良い。
【0044】
[位置調整手段]
本例では、付勢手段23の他端23bの側に位置調整手段28を設けることにより、付勢手段23の付勢力を調整できる。この位置調整手段28は、付勢手段23の一端23aの取付箇所からの距離を変更できるように、同他端23bの取付箇所が可変とされたものである。具体的には
図3に示すように、複数の分岐溝28cが枝状に分岐した係止溝28bをケーシング20に設ける。この分岐溝28cは各々がアーム21の付勢手段取付部22aからの距離が異なるように形成されている。この分岐溝28cにコイルばね23の他端23bが取り付けられた可動軸28aを配位する。これにより、コイルばね23の初期長さを変更可能とする。こうすることによってアーム21の移動速度を調整でき、これに応じて戸体11の閉鎖速度の緩急を調整することができる。
【0045】
なお、この位置調整手段28については、上記の構造に限定されるものではなく、
図7に示す他の実施例のように、ケーシング20内を長手方向に移動可能としたスライド部材28cを設けておき、調整ねじ28dによりこのスライド部材28cの位置を調整するようなものであっても良く、種々の構造で実施できる。また、場合によってはこの位置調整手段28を付勢手段23の一端23aの側に設けておいても良い。
【0046】
本例における付勢手段23の付勢力はアーム21に対し、アーム21を停止位置Sへと回動させる方向に常時かけられている。そしてアーム21は、装置本体2aに設けられたアーム位置保持手段27(本例においてはケーシング20に取り付けられた板ばね)の係合により待機位置Wに保たれている。この状態は、アーム21のローラー部21b2が一時固定手段25における第1当接部25aに衝突するまで保持される。そして前記衝突がなされると、上記アーム位置保持手段27とアーム21との係合が外れ、付勢手段23の付勢によってアーム21が停止位置Sへと回動を開始する。
【0047】
なお、本例とは異なり、特許文献2に記載された装置におけるアームを支持するための手段を用いても良い。この手段は、回動軸21aに対して付勢手段取付部22aが前方寄りにあるか後方寄りにあるかによって、付勢手段23の付勢力によりアーム21が待機位置Wで保持されるか(前方寄りの場合)、停止位置Sへと回動するか(前方寄りの場合)が決まるものである。この場合、回動軸21aに対して付勢手段取付部22aが前方寄りにある際には、アーム21が待機位置Wで保持される。そして、アーム21のローラー部21b2が一時固定手段25における第1当接部25aに衝突することによって、回動軸21aに対して付勢手段取付部22aが後方寄りに移動すると、それに伴い、付勢手段23の付勢力によりアーム21が自動的に回動を開始する。
【0048】
[ダンパー(緩衝手段)]
次にダンパー24について説明する。このダンパー24は、付勢手段23の付勢によりアーム21が待機位置Wから停止位置Sへ向かって回動する際に、アーム21の回動動作を減速させるための緩衝手段として作用する。本例においては、このダンパー24として直動式のダンパーが用いられている。つまり、可動棒24aが緩衝手段本体24bに対して直線状に出没する構造とされている。緩衝手段本体24bは縦長のケーシング20に対して平行に配置されている。そして、アーム21に接続されたリンク部材26(後述)の一端に、ダンパー24に設けられた可動棒24aの先端が接続されており、これによって、リンク部材26を介してアーム21からダンパー24へと力の伝達がなされる。上記の付勢手段23と同様、このダンパー24についても、緩衝能力をねじなどにより調整可能としておくことで、戸体11の閉鎖速度を調整可能としても良い。
【0049】
アーム21の固定部21bが、
図4及び
図5に示すように、戸枠12に設けられた一時固定手段25のアーム固定溝25cに保持された状態とされ、アーム21が付勢手段23に付勢されたことにより、アーム21が待機位置Wから停止位置Sへ向かい回動する。これに伴い、装置本体2aが取り付けられた戸体11が、戸枠12に引き寄せられるように移動して閉鎖される。そしてこの閉鎖動作中において、アーム21の待機位置W(
図3に示す上方)から停止位置S(同右方)へ至るまでの回動動作がリンク部材26を介し、ダンパー24の緩衝作用によって減速される。そのため戸体11の移動も減速され、戸体11の開口側端面11aが戸当たり部材12aに対して急に衝突してしまうこともなく、静かに、かつ確実に閉鎖動作を行うことができる。また、このダンパー24の存在により、アーム12が急激に移動することがないため、戸枠12に対して戸体11がバウンドしてしまうこともない。
【0050】
本例では、
図3などに示されるように、上記の付勢手段23とこのダンパー24とが略一直線上に設けられており、アーム21における回動軸21aが、付勢手段23のダンパー24から遠い方の端部と、ダンパー24の付勢手段23から遠い方の端部との間に設けられている。このように略一直線上に設けられたことで、両者を収納するケーシング20をスリムな形状にすることができ、装置本体2aの取り付け対象の自由度を高めることができる。具体的には、上記でも説明したように、戸当たり部材12aに装置本体2aをはめ込む構造とできる。そのため、戸枠12の現場加工を不要とでき、現場工数を低減できる。また、付勢力をアーム21に及ぼす付勢手段23と、その付勢力を吸収するダンパー24とがアーム21を挟むように配置することで、両者がアーム21に対して同方向に位置させる場合よりも、力学的な観点からの設計が比較的容易となる。
【0051】
[リンク部材]
次にリンク部材26について説明する。リンク部材26には一枚の略帯状である板状体が用いられており、その先端側(
図3における左上端側)がアーム21の回動
軸21aと固定部21bとの間の位置に回動可能に取り付けられている。本例ではアーム21の段差21cよりも基端側に取り付けられている。そして基端側(
図3における右下端側)はダンパー24における可動棒24aの先端に回動可能に取り付けられている。本例では可動棒24aの先端に取り付けられているが、これに限られず、別の位置に取り付けられていても良い。このリンク部材26についてもアーム21と同様に段差が設けられており、アーム21と可動棒24aの先端との上下位置のずれを、この段差によって調整している。上記のようにリンク部材26をアーム21の回動軸21aと固定部21bとの間に取り付けたことにより、アーム21の回動に伴う力を有効にダンパー24に伝達することができ、ダンパー24で緩衝できる。
【0052】
上記のように、本願発明においてはアーム21とダンパー24とは直接連結されておらず、このリンク部材26を介して連結されている。例えば特許文献2に記載された装置のように、従来のこの種の装置の構造では、ダンパーの先端をアームの回動に合わせて首振りするようにされていた。これに対して本願発明では、アーム21とダンパー24との間にリンク部材26を設けることにより、ダンパー24の首振りをさせることなく、アーム21からダンパー24に、アーム21の回動による力を伝達することができ、緩衝効果を発揮することができる。
【0053】
このように、本願発明におけるダンパー24は、ケーシング20に対して首振り運動せず、可動棒24aが緩衝手段本体24bに対して直線状に出没するのみである。よって、従来のように首振りの分を見越してケーシング20を設計する必要がないため、装置本体2aをコンパクト化できる。
【0054】
ダンパー24は、ケーシング20に対して固定しておけば良いのであるが、緩衝手段本体24bのみの固定では可動棒24aが撓んでしまう可能性があるため、可動棒24aの先端を、緩衝手段本体24bの延びる方向に対して平行に移動させるための規制手段24cが設けられている。
【0055】
この規制手段24cは本例では、ローラー24c1とローラー走行面24c2とから構成されている。ローラー24c1は可動棒24aの先端に回動可能に設けられている。ローラー走行面24c2はケーシング20の対向する内面の一部がそのまま用いられており、ローラー24c1はこのローラー走行面24c2に沿って走行する。これにより、ローラー24c1の設けられた可動棒24aはローラー走行面24c2に平行に移動する。上記のように、緩衝手段本体24bは縦長のケーシング20に対して平行に配置されているため、可動棒24aもケーシング20に対して平行に移動することとなる。本例ではローラー24c1を採用したことにより、摺動によって可動棒24aの移動を規制する構成に比べて移動の抵抗を小さくできるし、部品の磨耗も低減できるというメリットがある。
【0056】
この規制手段24cとしては本例のローラーに限定されるものではなく、例えば可動棒24aを挟む、あるいは可動棒24aの周囲を囲むような部材を設けておき、この部材によって、可動棒24aのぶれを規制するものとしても良く、種々の形態で実施することが可能である。
【0057】
なお本例では、アーム21とダンパー24との間にリンク部材26が設けられているが、付勢手段23についても首振り運動がされるため、アーム21と付勢手段23との間にリンク部材26を設けても良い。
【0058】
[アーム位置保持手段]
上記のようにアーム21を待機位置Wに保つために、ケーシング20にはアーム位置保持手段27が設けられている。このアーム位置保持手段27は、
図3に示すようにアーム21が待機位置Wにある時に、アーム位置保持手段27の一部である湾曲部27aがアーム21に取り付けられた基端ブロック22における係合部22bに係合し、アーム21の位置を待機位置Wのまま保持することができる。
【0059】
このアーム位置保持手段27として、本例では板ばねが用いられており、
図6に示す左端側である基端側27bがケーシング20に固定されている。この板ばね27は、アーム21に向かうように突出して形成された湾曲部27aを有する。本例における具体的なアーム位置保持手段27の形状は、
図3に示すようにアーム21が待機位置Wにある場合において、ケーシング20の図示左方に対して固定された部分から図示右方へと延び、その先端側において、上方に突出するようにして逆U字形に折り曲げられたものであり、この折り曲げられた部分が湾曲部27aとなる。そしてこの湾曲部27aは、上記基端ブロック22における係合部22bと係合可能とされている。
【0060】
上記の位置保持部26a及びアーム位置保持手段27の形態は、アーム21を待機位置Wに保持できるものであれば、本例のものに限定されるものではなく、種々に変更して実施し得る。例えば、、樹脂などからなる弾性部材を当接させるものとしたり、ケーシング20に対して回動可能に設けられた金具の先端に鈎爪を設けておき、この鈎爪でアーム21を保持するものとしたり、凹部と突部の嵌合によるもの、摩擦によるもの、磁石を用いたものなど、付勢力を用いないものであっても良い。
【0061】
また、付勢力を用いるものであっても、本例の板ばねのように、アーム21を押圧するものに限られず、コイルばねなどを用いることにより、アーム21を引っ張ってアーム21を待機位置Wに保持できるものであっても良い。
【0062】
[一時固定手段]
一時固定手段25は、本例においては戸体11の、戸当たり部材12aに向いた側の表面に取り付けられている。このように戸体11の表面に取り付けた構造とすることにより、戸体11への取り付けを簡単にでき、現場作業を簡略化することができる。ただし、一時固定手段25を戸体11に埋め込むようにしても良い。そうした場合は一時固定手段25を目立たなくできるため意匠的に優れたものとできる。
【0063】
また、この一時固定手段25は、戸体取付ブラケット25x(直接の図示はしていない)と、その戸体取付ブラケット25xに取り付けられる一時固定手段本体25yとからなっている。
図3に示すように、一時固定手段本体25yの底面には長孔25dが形成されており、この長孔25dを通して戸体取付ブラケット25xにねじ固定することによって、戸体11に対し、水平方向に一時固定手段25の取り付け位置を調整することが可能である。よって、装置本体2aに対する現場での位置調整を容易に行うことができ、位置の再調整のために戸体11に穴を開け直したりする必要もなく、現場工数の削減に貢献できる。
この一時固定手段25は、装置本体2aから遠い側に位置する第1当接部25aと、装置本体2aから近い側に位置する第2当接部25bとを備えている。
【0064】
第1当接部25aは、戸体11の閉鎖あるいは開放動作(本例では閉鎖動作)に伴いアーム21の固定部21bが衝突することにより、アーム21の待機位置Wから停止位置Sへの回動を開始させるための部分である。具体的には、上記衝突によって上記基端ブロック22における係合部22bとアーム位置保持手段27の湾曲部27aとの係合が解除され、上記のように常時付勢手段23の付勢力がかかったアーム21は停止位置Sへの回動を開始するようにされている。
【0065】
第2当接部25bは、本例においては、アーム21が待機位置Wから停止位置Sへと回動する際に、上記付勢手段23に付勢されたアーム21の固定部21bが当接し、これにより、一時固定手段25を装置本体2aに接近するように移動させるための部分である。なお、本例とは逆に装置本体2aを戸体11に取り付け、一時固定手段25を戸枠12に取り付けた場合にあっては、上記とは逆に装置本体2aを一時固定手段25に接近するように移動させることになる。
【0066】
上記の第1当接部25aと第2当接部25bとの間には、アーム21の固定部21bを配位可能な空間を有するアーム固定溝25cを備えている。このアーム固定溝25cは、本例では、上部が開放されており、入口が湾曲し、奥側では戸体11の表面と平行に形成された直線状の溝である。アーム21の固定部21bがアーム固定溝25c内を支障なく移動できるように、この溝の幅寸法(内寸)はローラー部21b2の径寸法よりもやや大きめに形成されている。
【0067】
戸体11の自動移動動作が行われる際においては、上記アーム固定溝25cにアーム21の固定部21bが保持され、その状態で付勢手段23の付勢を受けてアーム21が回動し、これにより戸体11が停止位置Sへと移動する。
【0068】
ここで、例えば本例の構成では、戸体11が開放された状態ではアーム21は待機位置Wにあるはずなのであるが、何らかの原因でアーム21がケーシング22に収納されてしまっていることがあり得る。このような場合、本例では手でアーム21を引き出さなければならないが、例えば、一時固定手段25の表面などにアーム21の一部を引掛けるための復帰部を設けておき、戸体11を一度閉鎖することで、アーム21の一部をこの復帰部に引掛け、戸体11を再度開くことに伴い、アーム25がケーシング22から引き出されるような構造としておいても良い。
【0069】
[第2の実施例]
次に
図7に示すような、上記の実施例とは異なる形態の実施例について説明する。なお、ここでは上記の実施例との相違点だけを説明する。
この実施例は、装置本体2a及び一時固定手段25が「戸先」、つまりヒンジから遠い方の位置に設けられたものである。そして、一時固定手段25が戸体11に埋め込まれている。
【0070】
本例では、アーム21が湾曲した形態とされている。また、「戸先」に設けられることから、戸体11を自動閉鎖させるための戸枠12に対する角度に対応した、アーム21の待機位置Wから停止位置Sまでの移動距離を、「吊り元」に設けられた場合に比べて大きく取る必要があるため、アーム21が上記の実施例に比べて長い。
【0071】
また、本例においては一時固定手段25のアーム固定溝25cの入口が広げられており、アーム21の先端を受け止めやすくしている。そしてこの一時固定手段25の表面には退避用凹部25zが設けられている。これは、上記の実施例でも説明したように、何らかの原因でアーム21がケーシング22に収納されてしまっている場合でも、アーム21の先端における固定部21bをこの退避用凹部25zに納めることで、戸体11を閉鎖することができるようにしている。ただしこの場合は自動閉鎖はなされない。
【0072】
また本例では、位置調整手段28による付勢手段23の初期長さの調整がねじによりなされる。具体的には
図6に示すように、ケーシング20の内部を移動可能としたスライド部材28cを設けておき、調整ねじ28dによりこのスライド部材28cの位置を調整するようなものとされている。
【0073】
[その他の例]
本願発明は、上記に示した2種の形態に限られず、種々に変更して実施が可能である。
まず、戸体11の閉鎖状態あるいは開放状態については、場合により種々に変更して設定が可能である。例えば、換気のためや、犬猫などのペットを通過可能とするため、閉鎖時においても全閉状態となるようにせず、所定の隙間を保ったまま閉鎖されるように設定しても良い。
【0074】
また、1枚の戸体11に2つの戸体移動装置が用いられたものとしても良い。この場合、一方の戸体移動装置は、戸体11が閉鎖しようとする際に作動するものとし、他方の戸体移動装置は、上記一方の戸体移動装置と同一の構造を有するものであって、戸体11が所定の開放状態から全開状態となるまでの間を自動開放可能とできる。つまりこの場合には、戸体11の一方側の表面から、閉鎖動作を担当するためのアーム21が突出し、他方側の表面から、開放動作を担当するためのアーム21が突出したものとなる。そして、一時固定手段25のうち閉鎖動作を担当するものは戸枠12に取り付けられ、開放動作を担当するものは、戸体11の全開状態において対応する位置にある建具に取り付けられる。
また上記においては、装置本体2aの長手方向を水平方向に配位した場合を示したが、装置本体2aの長手方向を垂直方向に配位しても良い。
【0075】
上記においては、戸体移動装置を開き戸に適用した例について説明したが、本願発明はこれに限定されたものではなく、戸枠12に対して戸体11が水平方向(左右方向)にスライドするタイプである引戸に適用しても良い。上記に説明したように、本願発明に係る戸体移動装置は、装置本体2aがスリム化されたものであるため、引戸に適用した場合であっても、戸体11及び戸枠12への取り付けが従来の同種の装置よりも容易にできるという利点を有する。また、戸体移動装置を折戸に適用しても良い。