(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記サンプルガスが測定対象ガスを不活性ガスからなる希釈ガスで希釈してなるガスであり、このサンプルガスを摺動部分を有しないポンプによって減圧してサンプルガスの圧力を100〜500torrとし、かつサンプルガス中の測定対象ガスの分圧を50torr以下として測定することを特徴とする請求項1に記載のシラン系ガス中の水分濃度の測定方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明における課題は、モノシランなどのシラン系ガス中の微量の水分の濃度をCRDS法によって、正確に計測できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる課題を解決するため、
請求項1に係る発明は、シラン系ガスを測定対象ガスとし、この測定対象ガス中の水分の濃度をキャビティリングダウン分光法によって測定する方法であって、
キャビティリングダウン分光装置の測定セルに導入する
前記測定対象ガスを希釈ガスで希釈したサンプルガスの圧力を100〜500torrとし、かつサンプルガス中の測定対象ガスの分圧を50torr以下として測定することを特徴とするシラン系ガス中の水分濃度の測定方法である。
【0008】
請求項2に係る発明は、前記サンプルガスが測定対象ガスを不活性ガスからなる希釈ガスで希釈してなるガスであり、このサンプルガスを摺動部分を有しないポンプによって減圧してサンプルガスの圧力を100〜500torrとし、かつサンプルガス中の測定対象ガスの分圧を50torr以下として測定することを特徴とする
請求項1に記載のシラン系ガス中の水分濃度の測定方法である。
請求項3に係る発明は、希釈ガスによって、測定対象ガスをその濃度が1/2〜1/20になるように希釈することを特徴とする
請求項2に記載のシラン系ガス中の水分濃度の測定方法である。
【0009】
請求項4に係る発明は、シラン系ガスを測定対象ガスとし、この測定対象ガス中の水分の濃度をキャビティリングダウン分光法によって測定する装置であって、
キャビティリングダウン分光装置と、このキャビティリングダウン分光装置の測定セルに測定対象ガスと希釈ガスとからなるサンプルガスを導入するサンプルガスラインと、このサンプルガスラインに測定対象ガスを送る測定対象ガスラインと、前記サンプルガスラインに希釈ガスを送る希釈ガスラインと、測定セル内の圧力を100〜500torrと
し、かつ前記サンプルガス中の前記測定対象ガスの分圧を50torr以下とする摺動部分を有しないポンプと、前記測定対象ガスラインと希釈ガスラインとに流れるそれぞれのガスの流量を調整する流量調整装置を備えたシラン系ガス中の水分濃度の測定装置である。
請求項5に係る発明は、前記摺動部分を有しないポンプがベンチュリポンプである
請求項4に記載のシラン系ガス中の水分濃度の測定装置である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、測定セル内のシラン系ガスの分圧を50torr以下とすることで、シラン系ガス中の水分の濃度をCRDS法によってシラン系ガスの妨害を受けることなく正確に測定できる。
また、測定セル内のサンプルガスの圧力を100〜500torrとし、測定対象ガスの分圧を50torr以下とすることで、シラン系ガス中の水分の濃度をCRDS法によってシラン系ガスの妨害を受けることなく正確に測定できるとともにCRDS装置の光源であるDFBレーザ(分布帰還型レーザ)として発振波長の波長安定性のさほど高いものを用いなくとも、測定誤差を伴うことなく、水分濃度を求めることができる。
【0011】
本発明者の検討によれば、CRDS装置の測定セルに導入されるシラン系ガスの分圧を50torr以下とすると、シラン系ガスの妨害を受けることなく、シラン系ガスに含まれる1ppm以下の微量の水分の濃度を正確に測定できることが判明した。
【0012】
ところが、シラン系ガスの分圧が50torr以下とするには測定セル内を真空ポンプにより減圧する必要が生じる。真空ポンプに排気性能の高いダイヤフラムポンプなどのポンプを構成する部材と部材とがその動作にともなって摺動するタイプのポンプを用いた場合には、ポンプ内部にわずかの外気が侵入し、この空気中の酸素がシラン系ガスと反応して二酸化ケイ素の白色粉末が生成し、これが管路を詰まらせることになった。
【0013】
このため、ポンプとして摺動部材が存在せず、外気の侵入がないタイプのポンプ、例えばベンチュリポンプを用いることが考えられたが、ベンチュリポンプでは排気性能が低く、測定セル内のシラン系ガスの分圧を50torr以下にすることが不可能である。
したがって、シラン系ガスの分圧を50torr以下とするために、窒素などの不活性ガスからなる希釈ガスでシラン系ガスを希釈してやれば、排気性能の低いベンチュリポンプなどの摺動部材を有しないポンプを用いても、測定セル内でのシラン系ガスの分圧を50torr以下とすることができることになる。
かくして、シラン系ガス中の水分の濃度がシラン系ガスの妨害を受けることなく正確に測定できる。
【0014】
また、測定セル内のサンプルガスの圧力(全圧)を100〜500torrとすることで、水分に起因する吸収ピークの形状がさほど急峻にならないことがわかった。吸収ピークの形状が急峻となると、測定に供するレーザ光源の発振波長の安定性が高くないと、測定誤差が生じる可能性が高くなる。このため、サンプルガスの圧力をこの範囲にすることで、測定用レーザ光源として高い発振波長安定性を有するものを用いなくともよくなり、CRDS装置として安価なものを使用しても測定誤差を生じることがない。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は、本発明の水分濃度測定装置の一例を示すものである。
図1中、符号1は周知のCRDS装置を、符号2は測定対象ガスラインを、符号3は希釈ガスラインを、符号4は標準ガスラインを、符号5はサンプルガスラインを、符号6は排気ラインを示す。
CRDS装置1内には測定セル7が設けられ、この測定セル7の入口端にはサンプルガスライン5が接続され、サンプルガスライン5を通ってサンプルガスが導入されるようになっている。また、測定セル7の出口端には排気ライン6が接続され、測定セル7内のサンプルガスが排出されるようになっている。
排気ライン6には、弁23、ベンチュリポンプ24が設けられ、測定セル7内のガスを排気して測定セル7内の圧力を所定値にすることができるようになっている。
【0017】
測定対象ガスライン2には、シラン系ガスからなる測定対象ガスの供給源8が接続されており、この供給源8からの測定対象ガスが弁9、10を通り、第1マスフローコントローラ11を経て、その流量、圧力が調整されたうえ、サンプルガスライン5に流れるようになっている。
希釈ガスライン3には、図示しない水分を含まない高純度の窒素、アルゴンなどの不活性ガスからなる希釈ガスの供給源が接続されており、この供給源からの希釈ガスが弁12、第2マスフローコントローラ13、弁14を経て、その流量、圧力が調整されたうえ、サンプルガスライン5に流れるようになっており、サンプルガスライン5に測定対象ガスと希釈ガスの混合ガスが流れるようになっている。
【0018】
標準ガスライン4には、既知量の水分を含む高純度の窒素、アルゴンなどの不活性ガスからなる標準ガスの供給源15が接続され、この供給源15からの標準ガスが弁16、第3マスフローコントローラ17、弁18を経て、その流量、圧力が調整されたうえ、サンプルガスライン5に流れるようになっている。この標準ガスライン4は水分濃度測定装置の校正を行う際に用いられるものである。
また、測定対象ガスライン2にはバイパスライン19が設けられており、弁10を閉とすることで、測定対象ガスがバイパスライン19に流れ、弁20、水分除去器21、弁22を経て、測定対象ガスライン2に戻るようになっている。
測定対象ガスがバイパスライン19を流れる場合には、測定対象ガス中に含まれる水分が水分除去器21にて完全に除去されて測定対象ガスライン2に戻るようになっている。このバイパスライン19も水分濃度測定装置の校正の際に用いられるものである。
なお、
図1中、P1〜P6はいずれも圧力計を示し、P6は測定セル7内の圧力を計測するものである。
【0019】
次に、この測定装置を用いてシラン系ガスからなる測定対象ガス中の水分の濃度を測定する方法を説明する。
本発明において、測定対象ガスとなるシラン系ガスとしては、Si
XH
(2X+2)(X=1、2、3、4)で表されるシランガス、(CH
3)
XSiH
(4−X)(X=1、2、3)または(C
2H
5)
XSiH
(4−X)(X=1、2、3)で表される有機シランガスが挙げられ、これらの混合ガスであってもよい。
【0020】
まず、本測定装置の標準的な測定手順を説明する。
サンプルガスライン5の弁25を開としてサンプルガスライン5からのサンプルガスを測定セル7に導入する。この際、上述のように、測定セル7内に存在するサンプルガス中の測定対象ガスの分圧が50torr以下、好ましくは10〜40torrとする必要がある。
この条件を満たすために、ベンチュリポンプ24を作動させ、弁23を開として測定セル7内を減圧とするが、ベンチュリポンプ24の排気性能では測定セル7内のサンプルガスの圧力を100torr以下にまで減圧することはできない。このため、サンプルガスとして測定対象ガスを希釈ガスで希釈した混合ガスを用いる。これにより、測定セル7内での測定対象ガスの分圧50torr以下とすることができる。
例えば、ベンチュリポンプ24によって達成しうる圧力が200torrとすれば、測定対象ガスを希釈ガスで25%(体積比)以下に希釈すればよい。
そのためには、測定対象ガスライン2の第1マスフローコントローラ11と希釈ガスライン3の第2マスフローコントローラ13を調整して2種のガスの流量を調整し、測定対象ガスをその濃度が1/2〜1/20になるように希釈ガスで希釈する。
【0021】
一方、測定セル7内のサンプルガスの圧力(全圧)を100torr以上にしないと、測定値に誤差が生じる問題がある。
図2は、サンプルガスとして濃度1000ppbの水分を含む窒素ガスを対象として、測定セル7内の圧力を変化させた時の測定値の圧力依存性を示したグラフである。このグラフから、圧力を変化させても水分濃度はほとんど影響を受けたいことがわかる。しかし、圧力が低下するにつれて吸収ピークの形状がより急峻になることがわかる。
【0022】
一般的なCRDS装置に用いられている光源にはDFBレーザ(分布帰還型レーザ)が用いられており、その発振波長は温度制御によって制御されている。吸収ピークの形状が急峻になると、DFBレーザの発振波長の波長安定性を高くしないと測定誤差を生じる。このため、DFBレーザの温度制御を十分高いものとする必要があるが、実用的にはCDRS装置の製造コストなどの点から温度制御には限界がある。
したがって、吸収ピークの形状がさほど急峻にならない圧力で測定することが好ましく、測定セル7内のサンプルガスの圧力を100〜500torr、さらに好ましくは150〜300torrとすることが望ましい。
このような理由によって、測定対象ガスを希釈ガスで希釈してサンプルガス中の測定対象ガスの分圧を50torr以下とし、同時にサンプルガスの圧力(全圧)を100〜500torrとすることが必要である。
【0023】
このような測定条件にてCRDS法によりシラン系ガス中の1ppm以下の微量の水分の濃度を、シラン系ガスの妨害を受けることなく、測定誤差を伴うことなく、正確に測定することができる。
実際の測定対象ガス中の水分濃度を求める測定作業の前に、予め水分濃度測定装置の校正作業を行う。
標準ガス供給源15から水分量が既知の水分を含む高純度窒素ガスなどの標準ガスを標準ガスライン4からサンプルガスライン5に流す。これと同時に測定対象ガス源8から測定対象ガスとなる未知量の水分を含むシラン系ガスを測定対象ガスライン2に送り出し、弁10を閉とし、弁20を開としてこのガスをバイパスライン19に流す。水分除去器21を通過することによって水分が完全に除去された測定対象ガスは弁22、第1マスフローコントローラ11を経てサンプルガスライン5に流入する。
【0024】
この時、測定対象ガスおよび標準ガスのそれぞれの流量を第1マスフローコントローラ11および第3マスフローコントローラ17によってそれぞれ調整し、測定対象ガスを標準ガスによって希釈し、その濃度を1/2〜1/20となるようにする。このようにして得られたサンプルガスはサンプルガスライン5から測定セル7に導入される。ついで、ベンチュリポンプ24を作動させて、測定セル7内の圧力を100〜500torrとする。これにより、測定セル7内の測定対象ガスの分圧を50torr以下とし、測定セル7内のサンプルガスの圧力を100〜500torrとする。こののち、CRDS装置1によりサンプルガス中の水分濃度を示す減衰時間を測定する。標準ガスとして含有水分量が異なるガスを数種類用いることで検量線が得られる。
【0025】
ついで、標準ガスライン4からの標準ガスの供給を停止し、バイパスライン19を閉止する。そして、測定対象ガス源8から測定対象ガスを測定対象ガスライン2に流し、希釈ガス源からの希釈ガスを希釈ガスライン3に流し、これらをサンプルガスライン5で合流させる。
この時、測定対象ガスおよび希釈ガスのそれぞれの流量を第1マスフローコントローラ11および第2マスフローコントローラ13によってそれぞれ調整し、測定対象ガスを希釈ガスによって希釈し、その濃度を1/2〜1/20となるようにする。このようにして得られたサンプルガスはサンプルガスライン5から測定セル7に導入される。ついで、ベンチュリポンプ24を作動させて、測定セル7内の圧力を100〜500torrとする。これにより、測定セル7内の測定対象ガスの分圧を50torr以下とし、測定セル7内のサンプルガスの圧力を100〜500torrとする。こののち、CRDS装置1によりサンプルガス中の水分濃度を示す減衰時間を測定する。
【0026】
以下、具体例を示すが、本発明はこれらの具体例に限定されるものではない。
(実施例1)
図1に示した構成の水分濃度測定装置を使用し、以下の条件で測定対象ガスとしてモノシランガス中の水分濃度を測定した。
CRDS装置 Tiger Optics社製 MTO−1000−H2O
モノシランガス流量 100cc/min.
乾燥窒素流量 400cc/min.
モノシランガス濃度 20%
測定セル内圧力 190torr
使用ポンプ ベンチュリポンプ(日酸TANAKA製TE−140A)
【0027】
この例では、測定対象ガスライン2のバイパスライン19を使い、モノシランガスをバイパスライン19に流して、これに含まれる水分を完全に除去したうえサンプルガスライン5に流した。既知の濃度の水分を含む標準ガス3種を標準ガスライン4からサンプルガスライン5に流した。そのときのスペクトルを
図3に示す。
また、水分濃度の異なる標準ガスを30分毎に変えて測定対象ガスに添加したときの減衰時間変化を
図4に示す。濃度応答は30分以内であり、安定性も非常に良い。
このときの定量下限は2ppbとなった。よってモノシランガス中水分濃度の定量下限は10ppbと計算できる。
【0028】
(比較例1)
実施例1と同様の条件で
図1でのベンチュリポンプ24を除いた。このときの測定圧力は大気圧(760torr)である。
モノシランガス流量 100cc/min.
乾燥窒素流量 400cc/min.
モノシランガス濃度 20%
測定セル内圧力 760 torr
使用ポンプ なし
この場合、減衰時間が短くなりすぎ測定不能となった。
【0029】
(比較例2)
比較例1のようにベンチュリポンプ24を除いた装置として、実施例のモノシランガス、乾燥窒素の流量をそれぞれ25cc/min.、475cc/min.とした。この条件で実施例と同様の測定を実施した。
モノシランガス流量 25cc/min.
乾燥窒素流量 475cc/min.
モノシランガス濃度 5%
測定セル内圧力 760torr
このときの定量下限は実施例と同様2ppbとなった。よってモノシランガス中水分濃度の定量下限は40ppbと計算できる。
同様にモノシランガス、乾燥窒素の流量をそれぞれ50cc/min.,450cc/min.とし、モノシランガス濃度を10%としたときにも定量下限は実施例と同様2ppbとなった。
つまりモノシラン−窒素混合ガス中の水分濃度の測定において、モノシラン濃度が10%以下の領域では、その定量下限は測定する混合ガスの濃度に依存せずに測定が可能であったが、10%以上の濃度ではモノシランの影響により測定できなかった。
この場合、モノシラン中の水分濃度を最も高感度で測定できるのはモノシラン濃度を高濃度で導入できる10%の場合であり、その水分濃度の定量下限は20ppbであった。
【0030】
(比較例3)
実施例と同様の条件で
図1のベンチュリポンプに代えてダイヤフラムポンプを使用した。このときの測定圧力は50torrである。
モノシランガス流量 100cc/min.
乾燥窒素流量 400cc/min.
モノシランガス濃度 20%
測定セル内圧力 50torr
使用ポンプ ダイヤフラムポンプ(Edowrds製MD1C)
実施例1と同様に規定濃度添加したときの減衰時間変化を
図5に示す。濃度応答は30分以内であり、実施例1と同様に非常に速い応答を示すが安定性は実施例1と比較すると劣る。これは
図2から予想されることであり、測定圧力が低い場合には測定する水分のピークが急峻になるためピーク近傍での減衰時間の測定誤差が大きくなる為である。
従ってモノシランガス中の水分濃度を測定する場合、モノシランの影響を低減させる方法として測定圧力を低くすることは有効であるものの、圧力が低すぎる場合には測定値の安定性で劣る。筆者は種々の圧力条件で測定した結果、圧力が100torr以下であるとより測定値の不安定さが顕著になることを見出した。
【0031】
(比較例4)
比較例3から引き続き、測定セル7の出口端とダイヤフラムポンプの間にオリフィスを設置して圧力を190torrに保持して同様の測定を試みた。
モノシランガス流通後に圧力が若干上昇した。測定120分後の圧力は203torrとなった。真空ポンプの出口側の配管に白色固体が堆積していた。この配管を新しく取り替えると同様に圧力を190torrに保持できるようになったが、測定を続けると徐々に圧力は上昇を始めた。
【0032】
以上の具体例は、測定対象ガスとしてモノシランを用いた例であるが、これ以外のジシラン、トリシランについても同様の結果を得ることができた。