【実施例】
【0047】
[シュリンクフィルムの試作]
試作例1ないし21のシュリンクフィルムについて、下記の表1ないし3に示した配合比率(重量部)に基づき、原料となる樹脂を溶融、混練して三層共押出Tダイフィルム成形機、テンター一軸延伸機により製膜した。各試作例のフィルムを製膜するに際し、下記表中の横方向延伸倍率(倍)、延伸時温度(℃)の条件とした。フィルム状に仕上がった試作例の全体の膜厚は50μm、このうち表面層の膜厚は5μmであった。
【0048】
[使用原料]
使用した原料樹脂は次のとおりである。表中に記載の樹脂の配合割合は重量部である。
プロピレン−αオレフィンランダム共重合体として以下の5種類を用いた。
・原料1:メタロセン系触媒により重合されたプロピレン−αオレフィンランダム共重合体(日本ポリプロ株式会社製:商品名「ウィンテックWFX6」,融点125℃)
・原料2:メタロセン系触媒により重合されたプロピレン−αオレフィンランダム共重合体(日本ポリプロ株式会社製:商品名「ウィンテックWFW4」,融点135℃)
・原料3:プロピレン−αオレフィンランダム共重合体(日本ポリプロ株式会社製:商品名「ノバテックFG4」,融点142℃)
・原料4:プロピレン−αオレフィンランダム共重合体(日本ポリプロ株式会社製:商品名「ノバテックEG8」,融点128℃)
・原料11:メタロセン系触媒により重合されたプロピレン−αオレフィンランダム共重合体(日本ポリプロ株式会社製:商品名「ウィンテックWFX4T」,融点127℃)
【0049】
脂環式炭化水素樹脂系の石油樹脂として次の1種類を用いた。
・原料5:脂環式炭化水素樹脂系の石油樹脂(荒川化学工業株式会社製:商品名「アルコンP−125」,軟化点125℃)
【0050】
エチレン−αオレフィン共重合体として次の5種類を用いた。
・原料6:メタロセン系触媒により重合されたエチレン−αオレフィン共重合体(住友化学株式会社製:商品名「エクセレンCX3007」,融点83℃)
・原料7:メタロセン系触媒により重合されたエチレン−αオレフィン共重合体(三井化学株式会社製:商品名「タフマーA4085S」,融点66℃)
・原料8:メタロセン系触媒により重合されたエチレン−αオレフィン共重合体(日本ポリエチレン株式会社製:商品名「カーネルKF360T」,融点90℃)
・原料9:メタロセン系触媒により重合されたエチレン−αオレフィン共重合体(日本ポリエチレン株式会社製:商品名「カーネルKF283」,融点108℃)
・原料10:メタロセン系触媒により重合されたエチレン−αオレフィン共重合体(日本ポリエチレン株式会社製:商品名「カーネルKS340T」,融点60℃)
【0051】
[延伸・製膜状況の評価]
各試作例の樹脂溶融物をテンター一軸延伸機により製膜した際、問題なくフィルムに製膜できたサンプルは“O”とした。延伸・製膜時に途中で破断、もしくは延伸にむらが生じたサンプルは“×”とした。これらは表中の製膜性の評価である。いずれの試作例のフィルムとも表面層には、原料11の樹脂を使用した。試作例12,13,18,19,21は製膜不良につき以降の測定を断念した。
【0052】
[熱水収縮率試験]
各試作例(製膜できなかった試作例を除く)のそれぞれフィルムについて、フィルムの巻き取り方向MD及びこれと直交する横方向TDを確認しながら、両方向を共に1辺10cmとする正方形に裁断した。裁断した試験用フィルムを95℃の熱湯浴中に静かに沈めて10秒間煮沸し、煮沸時間経過と共にすぐに試験用フィルムを熱湯浴から取り出した。その後、23℃、相対湿度50%の条件下で試験用フィルムを30分間以上静置した。
【0053】
各試作例の試験用フィルムについて煮沸後横方向長(Ta)を計測した。煮沸前横方向長(Tb)は裁断寸法である10cmである。前記の数式(i)のとおり、煮沸後横方向長(Ta)と煮沸前横方向長(Tb)の変化をもって、横方向の熱水収縮率Ts(%)を算出した。同様に各試作例の試験用フィルムについて煮沸後巻き取り方向長(Ma)も計測した。煮沸前巻き取り方向長(Mb)は裁断寸法である10cmである。前記の数式(ii)のとおり、煮沸後巻き取り方向長(Ma)と煮沸前巻き取り方向長(Mb)の変化をもって、巻き取り方向の熱水収縮率Ms(%)を算出した。
【0054】
[引張弾性率の測定]
各試作例(製膜できなかった試作例を除く)のそれぞれ試験用フィルムについて、「JIS K 7127(1999)プラスチック−引張特性の試験方法−第3部:フィルム及びシートの試験条件」の「試験片タイプ5による測定」に準拠して、試験片を作成し、引張弾性率を測定した。当該試験に際し、JIS K 7161(1994)の「4.6引張弾性率」により算出した。単位はGPaである。
【0055】
[総合評価]
各試作例(製膜できなかった試作例を除く)に関し、上記の延伸・製膜状況の評価、熱水収縮率試験、引張弾性率の試験により得られた結果をとりまとめ、実需要の観点から総合的に判断して次の5段階の総合評価を下した。
【0056】
・評価A:「全ての指標において特に安定して優れている良品である。」
・評価B:「全ての指標において安定して優れている良品である。」
・評価C:「引張弾性率または熱水収縮率Tsが不足、あるいは熱水収縮率Msが過多である。」
・評価D:「製膜可能であるものの熱水収縮、引張弾性率が不足している。」
・評価E:「製膜不能もしくは安定した製膜が困難であった。」
【0057】
【表1】
【0058】
【表2】
【0059】
【表3】
【0060】
[結果と考察]
製品として適する評価は“A”,“B”であり、他“C”ないし“E”は不十分もしくは不適格である。試作例1ないし7は比較的良好であり、特に、試作例1は安定して優れている。以下、対比して詳細を述べる。
【0061】
〈原料樹脂の選択〉
原料1,2はメタロセン系触媒により重合された融点120〜135℃のプロピレン−αオレフィンランダム共重合体であり、原料3,4は対比となる非メタロセン系の同種の共重合体である。原料6,7,8は融点65〜90℃のエチレン−αオレフィン共重合体であり、原料9,10は対比となる融点域のαオレフィン共重合体である。
【0062】
試作例10の原料樹脂の配合より明らかであるように、エチレン−αオレフィン共重合体を欠く場合、収縮率に悪化が見られる。そこで、良好な熱水収縮性能を勘案すると、原料1,2に代表される融点120〜135℃のプロピレン−αオレフィンランダム共重合体(R1)及び原料6,7,8に代表される融点65〜90℃のプロピレン−αオレフィン共重合体(R3)の両方が必要である。高融点側の共重合体(R1)はフィルムの構造維持に重要であり、低融点側の共重合体(R3)は熱水収縮に寄与することがわかる。これらの共重合体に関し、試作例1ないし7と、試作例8,9との比較から、メタロセン系触媒による重合樹脂を用いる方がより良好な結果を得ることができた。なお、表記してはいないが、原料2の石油樹脂(R2)を欠く配合も試行したものの、十分な熱水収縮性能及び包装適性に必要な引張弾性率を得ることができなかった。
【0063】
〈原料樹脂の配合割合〉
シュリンクフィルムの基材層に用いる3種類の原料樹脂の間に成立する配合割合は、樹脂同士で相互に影響を受ける。そこで、基材層の原料樹脂の配合割合の三角図(三角ダイアグラム)に示した(
図3参照)。下辺に共重合体(R1)、右辺に石油樹脂(R2)、左辺に共重合体(R3)を配置し、各成分の配合割合をプロットして原料樹脂の配合割合の三角図(三角ダイアグラム)を作成した(
図3参照)。図中、試作例は(n)と表記した。目盛りの数値は重量部である。例えば、試作例1は(1)となる。なお、製膜不能や樹脂成分が異なる比較例は除外して図示した。
【0064】
図3の三角図において、実施例と比較例の製品としての適否(総合評価A及びB、それ以外の評価)をもって、シュリンクフィルムの基材層に配合する3種類の原料樹脂が満たすべき割合を求めた。
【0065】
融点120〜135℃のプロピレン−αオレフィンランダム共重合体(R1)に関して、試作例12から明らかであるように、共重合体(R1)の配合割合が40重量部では製膜不良である。試作例11より共重合体(R1)の配合割合が60重量部を超える場合では熱水収縮性能不足となる。
【0066】
脂環式炭化水素樹脂系の石油樹脂(R2)に着目した結果、試作例10のとおり、石油樹脂(R2)の配合割合が25重量部では熱水収縮性能不足である。試作例12,13より、石油樹脂(R2)の配合割合が40重量部では製膜不良である。
【0067】
融点65〜90℃のプロピレン−αオレフィン共重合体(R3)に着目すると、無配合の試作例10では熱水収縮性能が多少劣った。また、試作例16,17より共重合体(R3)の配合割合が30重量部では熱水収縮性能の低下、引張弾性率の悪化が生じた。
【0068】
各試作例の配合割合を踏まえた結果、熱水収縮性能、引張弾性率、製膜性のいずれの指標において、シュリンクフィルムの基材層に配合される3種類の原料樹脂が満たすべき配合割合の調和点は次のとおりとなる。すなわち、シュリンクフィルムの基材層に配合される共重合体(R1)の配合割合は45重量部以上かつ60重量部以下、石油樹脂(R2)の配合割合は30重量部以上かつ35重量部以下、共重合体(R3)の配合割合は5重量部以上かつ20重量部以下(好ましくは10重量部以上かつ20重量部以下)の全てを同時に満たす配合割合の範囲内である。当該配合割合の範囲は、
図3の三角図において粗い破線同士の交差(共重合体(R3)については細かい破線の狭めた範囲を含む。)により出来上がる台形状の領域内である。
【0069】
〈横方向延伸倍率〉
横方向延伸倍率が5倍の試作例18及び同倍率が8倍の試作例19は、いずれも試作例1と同様の組成、配合割合である。しかしながら、両比較例は共に延伸時に破断が生じ、製膜不能であった。この結果、好適な製膜性を得るためのテンター内における横方向の一軸延伸を行う際、5倍よりも大きくかつ8倍未満、特に6倍以上かつ7倍以下の延伸倍率とすることが望ましい。
【0070】
〈延伸時の雰囲気温度〉
延伸時の雰囲気温度が70℃の試作例21及び同温度が115℃の試作例20も、いずれも試作例1と同様の組成、配合割合である。しかしながら、試作例21は製膜不能であり、試作例20は熱水収縮性能不足となった。これはテンター内における横方向の一軸延伸を行う際の温度制御が極めて重要な要素であることを示す。併せて、一軸延伸時に必要な雰囲気温度は75℃以上かつ80℃以下の温度帯であることも判明した。
【0071】
〈熱水収縮率:シュリンク性能〉
実施例及び比較例のシュリンクフィルムに関し、引張弾性率の測定結果を加味し判断すると、共通して成立する横方向の熱水収縮率Ts(%)は、60%以上、より好ましくは61%以上である。巻き取り方向の熱水収縮率Ms(%)については、実施例並びに比較例共に−10%〜+10%の範囲内であることから、−10%〜+10%の範囲、好適には−9%〜+9%、さらには−8%〜+8%を採用した。
【0072】
〈引張弾性率の測定:フィルムの強度〉
フィルムを安定的に生産することが可能なフィルムの強度を検討した結果、当該指標において、1.0GPa以上、より好ましくは1.2GPa以上となったサンプルを良品として抽出した。
【0073】
[結論]
試行したシュリンクフィルムの基材層に用いる原料樹脂の選択及び樹脂の配合割合、延伸の倍率及び雰囲気温度の設定を考慮し、熱水収縮率、強度の各指標を平均して満たすシュリンクフィルムとしては、総合評価において“B”以上の試作例1ないし7が適当である。さらに好適な性質を勘案すると総合評価“A”の試作例1が安定して優れている。