【実施例】
【0091】
本発明の支承装置の実施例について添付図面を参照しながら以下に説明する。先ず、本発明の支承装置の第一実施例を
図1を参照しながら説明する。
図1に示す支承装置1は、例えば橋梁において、橋桁(図示省略)と橋脚(図示省略)或いは橋台(図示省略)との間に装着して水平荷重や鉛直荷重、回転荷重等の各種の荷重を支えると共に、地震や風、動的或いは静的交通荷重等による揺動や振動、応力を吸収、分散しつつ、支承する橋梁用支承装置である。尚、
図1(a)が平面図、(b)が
図1(a)のA−A’断面図である。
【0092】
支承装置1は、下沓2と、上沓3と、側抱体4と、ゴム層5とを備えており、ゴム層5を挟んで配置される下沓2と上沓3とが相対変位可能とされている。下沓2は、下部構造物として例えば橋脚を、二点鎖線で示す下部プレート7を介して下面に固定している。上沓3は、上部構造物として例えば橋桁を、二点鎖線で示す上部プレート6を介して上面に固定している。勿論、ここでいう上部プレートや下部プレートは、必須ではなく、上沓と上部プレートを一体的に構成したり、下沓と下部プレートを一体的に構成したりして、上沓や下沓にそれぞれに対応する構成を持たせてもよい。尚、
図1(a)において、上部プレート6及び下部プレート7についてはその図示を省略している。
【0093】
下沓2は、略円形の板状部材から成り、
図1(b)に示すように単一の仮想球体Kの一部を水平な2つの平面によって切断することによって得られる分割体の形状(以下、球体輪切り形状と称する)に形状設定されている。これによって、下沓2の外周面2aが、仮想球体Kの表面の一部から成っている。
【0094】
尚、本実施例の支承装置1では、上述した仮想球体Kを切断する2つの平面のうち、上方の平面が仮想球体Kの中心O上方に位置し、下方の平面が仮想球体Kの中心Oの下方に位置している。この結果、下沓2の外周面2aには、下側に向く領域が設けられることとなる。
【0095】
上沓3は、下沓2よりも一回り大きな略円板形状を有しており、その縁部に側抱体4が一体的に設けられている。そして、上沓3は、下沓2に対して、ゴム層5を介挿可能な距離だけ離間して配置されている。
【0096】
側抱体4は、上沓3の縁部から下方に突出して設けられると共に下沓2を側方から囲うように環状に形状設定されており、下沓2の外周面2aに沿うと共に当該外周面2aを摺擦面とする内周面4aを有している。そして、側抱体4の内周面4aと下沓2の外周面2aとが摺擦面となることにより、上沓3と下沓2とが相対変位、特に相対的な回転変位が可能となっている。
【0097】
また、側抱体4の内周面4aに囲まれた開口空間の最小内形は、下沓2の最大外形よりも小さく設定されている。これによって、下沓2が側抱体4によって囲まれた空間に収容され、下沓2は、外周面2aが下方から側抱体4に当接されることによって当該側抱体4に下方から支持されている。
【0098】
尚、側抱体4に囲まれた空間に下沓2を収容可能とするために、本実施例において側抱体4は、支承方向に2つに分割可能に構成されている。より詳細には、
図1(b)に示すように、2つの分割体4b,4cがフランジ部4dを介して互いに当接すると共にボルト/ナット8によって締結されることによって側抱体4が形成される構成となっている。尚、本実施例においてボルト/ナット8は、支承装置1に対して大きな荷重が作用した場合に、最も先に損壊する部位であり、外側から視認可能な箇所に配置されている。
【0099】
本実施例においては、下沓2の上面、上沓3の下面、及び側抱体4の内周面に囲まれることによって密閉空間が形成されており、ゴム層5は、当該密閉空間に隙間無く充満して設けられている。つまり、ゴム層5は、上沓3と下沓2と側抱体4によって囲繞されて配設されている。
【0100】
ゴム層5は、下沓2に連続し、当該下沓2よりも上方の仮想球体Kの領域を球体輪切り形状に切り出すことによって形成される形状を有しており、中心Oよりも上方にて仮想球体Kを切り出した形状に形状設定されている。このため、ゴム層5の外周面は、下沓2の外周面2aと連続されており、また僅かに上沓3側に向いている。
【0101】
尚、上沓2、下沓3、側抱体4の材質は、適宜の公知の材質を採用することが出来、例えば公知の鋼板等の金属板、セラミックス、強化プラスチックを含むプラスチック等で形成することが出来る。同様に、ゴム層4も天然ゴム等の公知の素材を採用することが出来る。
【0102】
このような本実施例の支承装置1では、下沓2を側方から囲う側抱体4が上沓3に対向し、更に当該側抱体4が上沓3と一体的に配設されている。このため、下沓2の側方への移動を、側抱体4の存在によって抑制することが出来る。つまり、本実施例では下沓2の側方方向が水平方向であるため、側抱体4によって下沓2の水平方向への移動を規制し、また側抱体4によって水平荷重を支持することが出来る。このように本実施例の支承装置1によれば、側抱体4によって水平荷重を支持することが出来るため、下沓2、上沓3及び側抱体4によって囲繞された空間(即ち、ゴム層5が配設される空間)に剪断変形を拘束する芯状の突起を設ける必要がなく、当該芯状の突起によってゴム層5の回転追従が阻害されることがない。
【0103】
更に、本実施例の支承装置1においては、下沓2の外周面2aが単一の仮想球体Kの表面の一部から成り、側抱体4の内周面4aが下沓2の外周面2aに沿っている。このため、下沓2或いは上沓3が鉛直面内において回転運動した場合に、下沓2と側抱体4とが干渉することを防ぎ、ゴム層5の回転追従が阻害されることがない。
【0104】
このように本実施例の支承装置1においては、ゴム層5の回転追従が阻害されることがないため、被支承体の鉛直面内における回転運動に対して十分に回転追従することが可能となる。また、本実施例の支承装置1は、大きくは下沓2と上沓3とゴム層5とによって構成される単純な構成を有しているため設計性が良い。また、このような単純な構成によりコンパクトにすることが出来、施工性や交換性が良好なものとなる。
【0105】
また、下沓2の最大外形が側抱体4の内周面4aによって形成される開口の最小内形よりも大きく設定されている。このため、下沓2と上沓3とが離間する方向に移動しようとした際に、側抱体4によって下沓2が押さえられることになり、下沓2と上沓3とが乖離することが防止される。従って、側抱体4によって、下沓2に対して上沓3が相対的に上揚することを抑止することが出来る。
【0106】
また、本実施例の支承装置1においては、下沓2の外周面2aと側抱体4の内周面4aとが摺擦面とされて下沓2と上沓3と側抱体4とによって形成される密閉空間を有し、ゴム層5が当該密閉空間に隙間無く充満されている。このため、ゴム層5の密閉力が高く、高荷重支持特性を向上させることが出来る。また、下沓2と上沓3との間に雨水等の水分が浸入することを抑制し、下沓2、上沓3及び側抱体4が当該水分によって劣化することを抑制することが出来、耐環境性を向上させることが出来る。
【0107】
また、本実施例の支承装置1においては、ゴム層5が仮想球体Kの中心より上部を切り出した球体輪切り形状を有しているため、ゴム層5の周面が上沓3に向いて配置される。このため、上沓3側から作用する荷重をゴム層5の周面にて受けることが出来、支承方向における荷重支持特性を向上させることが出来る。
【0108】
また、本実施例の支承装置1は、下沓2が前記上沓3から離間する方向、即ち支承方向やこの支承方向に直行する方向に所定以上の力を受けた場合に側抱体4より先に損壊すると共に、損壊による変化が外側に現れる脆弱部としてボルト/ナット8を備えている。このため、外部から視認出来ない側抱体4の内部が損壊することを防止することが出来、損壊の程度を外部から容易に視認することが可能となる。また、側抱体4によって支えられた部材が側抱体4の損壊によって脱落することを防止することが出来る。
【0109】
尚、本実施例において、下沓2に対する側抱体4の引っ掛かり量ΔRは、仮想球体Kの半径をR、側抱体4と当接する領域における下沓2の最大外形位置Pと最小外形位置P’との高低差をΔTとすると、下式(1)によって示される。
【0110】
【数1】
【0111】
例えば、2R=230、即ち曲率半径R=115、高低差厚ΔT=40 とすると、上式より、引っ掛かり量ΔR≒7.2となる。この引っ掛かりが、剪断厚さt=ΔTで2πR分だけ剪断抗力に寄与すると考えられ、すると剪断抗力に寄与する剪断面積Sは、t×2πR=2πRΔTよりS≒28903となり、一方、直径2πr=24のボルトを30本使用して締結したと仮定してもボルトの総断面積はπr
2×30≒13572であって、ボルト/ナット8よりも圧倒的に大きく、上述のように、上揚力に対する損壊部位は側抱体4ではなく、脆弱点であるボルト/ナット8による締結部位となる。従って、メンテナンス時などに外部からの視認性が得られる。
【0112】
尚、本発明による支承装置は、上述の実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の変更が可能である。以下の変形例について図面を参照して説明する。尚、本発明における支承装置では、以下に説明する変形例が備える特徴を組み合わせて備える構成を採用することも可能である。
【0113】
上記実施例においては、下沓2、上沓3及び側抱体4に囲まれた密閉空間にゴム層5を充満して配置する構成であったが、
図2に示すように、当該密閉空間に積極的にゴム層5を配置しない空間10を設ける構成を採用することも出来る。そして、この空間10を充填空間として、当該充填空間に充填材を充填する構成を採用することも出来る。例えば、充填材として、加圧空気を充填する場合には、加圧空気の充填量によってゴム層5のバネ定数を調整出来る。
【0114】
尚、上述のように充填材としては、加圧空気に限られるものではなく、気体、液体、ゲル状体から選択される一つ以上の流体、非圧縮性の流体、高粘性の流体、ゴム層4と異種又は同種の弾性体を用いることができ他、エチレングリコール等の不凍性を有する流体を用いることも可能である。
【0115】
また、空間10内に空気等の気体や充填材等の流体を充填させる場合、空間10を密閉状態に封止しておくことが好ましい。
【0116】
また、上記実施例においては、側抱体4が分割可能とされた構成について説明したが、例えば
図3に示す下沓2が分割可能とされた構成や、
図4に示す上沓3が分割可能とされた構成を採用することも可能である。尚、下沓2或いは上沓3を分割可能とする場合には、上部プレート6や下部プレート7との接合を考慮し、
図3及び
図4に示すように水平方向に分割可能な構成を採用することが好ましい。また、これらの構成を採用する場合には、各分割部位同士を締結するボルト/ナット8a,8bが脆弱部として機能することとなる。更に、下沓2を
図3に示すように分割構造とした場合には、フランジ部の形成領域において側抱体4を設置することが出来ないため、当該領域を避けて側抱体4を形成する。
【0117】
また、上記実施例においては、ボルト/ナット8が脆弱部として機能する構成について説明したが、本発明はこれに限られるものではなく、例えば、
図5に示すように、側抱体4に肉薄部11を設け、当該肉薄部11が最も先に損壊する脆弱部として機能するように構成しても良い。尚、
図6に示すように肉薄部11を下沓2に設けても良いし、
図7に示すように肉薄部11を上沓3に設けても良い。尚、このように側抱体4、下沓2及び上沓3に対して肉薄部11を設ける場合には、これらの肉薄部11が外部から目視可能なように、肉薄部11を側抱体4、下沓2及び上沓3の側面まで到達するように設けることが好ましい。
【0118】
更に、
図8に示すように、第一の実施例の支承装置1において、上沓3の上面にすべり板12を摺滑手段として固設することが可能であり、この場合、元々固定支承であった支承装置1を可動支承として利用することが可能となる。すべり板12は、例えばPTFE製とされる。
【0119】
また、
図9に示すように、第一の実施例の支承装置1において、下沓2の下面にすべり板12を備える構成を採用することもできる。勿論、すべり板12の設定は第一の実施例の支承装置1に限らず、本発明の主旨を逸脱しない構成の支承装置に対して設定することが可能である。
【0120】
また、
図10に示すように、下沓2の外周面と側抱体4の内周面との間に、間隙を設け、この間隙に弾性体によって構成される弾性層13を設けてもよい。この場合、
図10に示すように、当該弾性層13と、上沓3と下沓2との間に介挿されるゴム層4とを、一連のものとすることも可能である。この弾性層13の厚みは、支承装置1の回転追従時などに損傷する恐れがなくなる程度に設定されている。
図10に示す支承装置1によれば、金属部品同士(下沓2と上沓3)の摺接が無くなり発錆を防ぐことが出来る。
【0121】
尚、上述の説明では、本発明の支承装置として橋梁用支承装置について説明したが、本発明は橋梁用支承装置に限定されることはなく、各種の構造物の制震、免震用の支承装置として採用することが出来る。
【0122】
また、支承装置を上下反転し、下沓2を上沓として、上沓3を下沓として用いることも可能である。